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第六章【ancient rules -古の規則-】

  1. 名前: 歯車の都香 2019/09/09(月) 19:40:43
    第六章【ancient rules -古の規則-】

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    ラヴニカには二つの顔がある。
    職人たちが集まる、ギルドの都という顔。
    世界の市場を動かす、商人の都という顔。
    どちらが表で裏なのかは、訪れる人間によって異なる。

                             ――企業人向け雑誌『エゴノミー』1月号より抜粋

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    August 20th PM07:16

    事態は緊急を要するものだったが、すぐに対応したのは双子の妹、ジャック・ジュノだった。
    彼女はすぐに乗客名簿を確認し、ラヴニカで下車する客の人数を調べた。
    果たして何人に影響を与え、どれだけの時間を割くことになるのかを計算しなければならない。
    目的地で降りられない客を連れて次の街に向かうことも、ここで降りられるように居座って交渉することも出来ない。

    定刻通りに全てを進めるには、どうあってもこの街で対象者を降ろし、本来の出発予定時間である明日の朝七時までに全てを完了させなければならない。
    時間を捻出したとしても、精々五分程度だ。
    しかもそれは彼女の計算上の話であり、キサラギギルドが話を受け入れなければ一分たりとも引き延ばせないだろう。
    リストの人間を調べ終え、ジュノは米神に親指を押し当てた。

    豸゚ ヮ゚)「十四人も……」

    一人ごとに対して謝罪をしている時間はあるが、それでは説明をする際に時間を悪戯に消費してしまう。
    状況を打破する時間を稼ぐには、対象になる客を一か所に集め、説明と謝罪をする必要があった。
    すぐに内線用の受話器に手を伸ばした時、空電の直後に兄の声が聞こえた。

    (^ム^)『やぁ、ジュノ。
        対象者を集める場所だけど、こっちで指定してしまってもいいかな?
        後部機関室、つまりは君のいる車輌なんだが』

    双子故の思考の相似、もしくは伝播は稀に起こることだった。
    片方の考えていることがまるで自分のことのようであるかのように思い浮かび、例え連絡手段がなくても連携を取ることが出来る。
    何か確信めいたものがあるわけではないが、自分と最もよく似た存在だからこそある信頼がそれを可能にしているのだろう。
    故に、彼がこちらの思考を察知して提案をしてきても、彼女は驚くことはなかった。

    豸゚ ヮ゚)「それでいこう、ジュノ。
         三分後に私から説明をするけど、何か補足的なことは必要かい?」

    (^ム^)『いや、君に任せるよ。
        その代わりといっては何だけど、対象の乗客を誘導する人間を指定させてもらいたい。
        ティングル・ポーツマス・ポールスミス、彼女に一任したいんだ』

    豸゚ ヮ゚)「ティムに? 彼女、ボーナスでも出さないと流石に働きづめだな。
        勿論、彼女さえよければぜひ任せたい」

    (^ム^)『あぁ、それは私からも言っておくよ。
        その間に私は何か出来ることがないか、動いてみる』

    豸゚ ヮ゚)「頼んだ。 嗚呼、自分が原因でない事に対する謝罪と言うのはどうにも気が重い」

    (^ム^)『そうだな。 だが、謝罪と言うのはそういうものさ』

    通信を終え、ジュノは溜息の代わりに勢いよく立ち上がった。
    三分で十四人に対してこの場で謝罪が行われるのに相応しい空間にしておかなければならない。
    後部機関室は会議などで使われることが想定されて設計されており、彼女が普段いる管制室とは別に広い応接室がある。
    簡易的な机のついた椅子二十脚と、回転式のホワイトボードが一枚あり、最低限の応接と会議が可能だった。

    そこを執務室代わりに使ってもよいとされているが、彼女はその部屋を使おうとはしなかった。
    自分の空間を広げればそれだけ時間をかける作業が増え、効率が悪くなる。
    彼女の仕事場は常に整理整頓が心掛けられており、書類探しなどで無駄な時間を浪費することがないように気を遣っていた。
    人数分のカフェインレスコーヒーを淹れ、紙カップを用意した時丁度、扉がノックされた。

    豸゚ ヮ゚)「どうぞ」

    (*‘ω‘ *)『入りますっぽ!!』

    威勢のいい声を上げて扉を開いたのは、誘導係のティムだった。
    開いた状態で扉がロックされ、ティムが恭しく一礼する。
    その後、彼女が連れてきた客たちが応接室に入ってきた。
    並べられた椅子に腰かけ、十五脚用意した椅子が全て埋まった。

    それは奇妙なことだった。
    念のために用意された一脚は、十四という数字が間違っている、もしくは別の客がいる可能性があった。
    だがその疑問を顔に浮かべることなく、ジュノはまず深々と首を垂れた。

    豸゚ ヮ゚)「度重なるご迷惑、ご心配をここにお詫びいたします」

    彼女が謝罪の言葉を口にした時、最前列に座る恰幅のいい男が眼鏡を指で持ち上げ、大きな声を上げた。

    |/-O-O-ヽ|「ふざけるな!! あんたがたの失点がどこにあるんだ!!
           あれだけの災害でも定刻通りの運航ができたのに、あんたが謝る必要はないだろ!!」

    その声に対して、他の客たちも口々にエライジャクレイグ側に非がないことを述べた。
    これほど心強い展開になることを、彼女は想像もしていなかった。
    嬉しさのあまり目頭が熱くなるのを、どうにか堪える。

    d-lニHニl-b「それよりも、今はこの状況が知りたいですね。
           ラヴニカで起きている揉め事、誰か知っている人は?」

    先ほどの男の隣にいたもう一人の男が周囲に問いかけると、一人の男が静かに立ち上がった。
    身なりの整った男性は滑らかな口調で言葉を紡ぐ。

    ( <●><●>)「ギルドパクトに関する意見の相違、と私は聞いています。
           キサラギギルドから何か話はあったのですか?」

    豸゚ ヮ゚)「いえ、この駅に入った時にいきなり緊急停止命令の指示があって、後はあのような話が」

    当初の予想とは異なり、この場は謝罪の空間ではなく現状の打破をする場へと変化をしている。
    ジュノはこれを好機と捉え、乗客たちと共にこの状況をどのように切り抜けるのかを模索することにした。
    そのためには情報の出し惜しみはするべきではない。
    こちらの置かれている状況を正確に共有し、理解しなければ打破は望めない。

    ( <●><●>)「つまり、状況としては未然に防ぐことは勿論、予期することも不可能だったわけですね。
            となると、これは間違いなくキサラギギルドの独断行動で、他のギルドは関わっていないのですね」

    豸゚ ヮ゚)「はい、その通りです。
         ただ厄介なのが、交通を取り仕切っているのはキサラギギルドであるため、その決定を覆すのは外部の人間では出来ないという点です。
         ギルドパクトを確認してみましたが、ギルドで決められたことに関しては基本的に他のギルドは不介入とされています」

    ギルドとは即ち、同業の商人による組合。
    ギルド内での取り決めは、そのギルドに組している者たちにとっては絶対の掟だ。
    それを他業の人間達に変更など出来ようはずはない。
    ただし、街全体の利益を損なうような取り決めの場合は他のギルドマスター達の意見のもとに変更することが可能である。

    特例としての前例がいくつか記録に残されており、不可能ではないことはないが、時間がかかるのは間違いない。

    ( <●><●>)「ふぅむ……
           他のギルドの協力を得るしか手立てはない、そして今は時間もない、ということですね」

    分かってはいたことだが、改めて男性の言葉で全員がその現実を再認識し、沈黙が流れた。
    打破し得ない状況を前に、この場にいる人間は耐え忍び、そして目的を達成できないことを静観するしかないと納得せざるをえない。
    そう、誰もが思っていた。
    涼やかな鈴の音を彷彿とさせる女性の声で奏でられた、その言葉が聞こえるまでは。

    ζ(゚ー゚*ζ「なら、問題は何もないじゃない。
          交通以外の手段でラヴニカに行けばいいだけよ」

    金細工のような豪奢な金髪、そして蒼穹を思わせる澄み渡った碧眼。
    同性のジュノは一瞬、彼女の声と瞳に吸い込まれるような錯覚を抱く、我を忘れた。

    ζ(゚ー゚*ζ「輸出入に関して、そしてラヴニカ全体との取り決めにはキサラギは介入できないんでしょう?」

    豸゚ ヮ゚)「え、えぇ、仰る通りです」

    輸出入について大きな力を持っているのはバボンハウスギルドであり、キサラギギルドに対してそうであるように、他のギルドは介入が出来ない。
    街の決定事項を破るということは、この街の居場所を失うことを意味し、ギルドは勿論だがそれを扇動した店は街から追放される。

    ζ(゚ー゚*ζ「輸入品に紛れ込ませて降りる人を街に入れれば問題はないわ。
          補給に関しても、キサラギに禁止する権限はないはずよ」

    その女性の話に、先ほどの男性が立ったまま頷いた。

    ( <●><●>)「確かに、彼らは乗客を外に降ろさせないという目的がありますが、輸入品等については規制対象には指定できません。
           この列車の水や食料の補給、廃棄物の引き取りについても同様です。
           ですが、どうやって降ろすのですか?
           輸入品にもよりますが、大きなものがなければ偽装はまず無理ですよ」

    補足をするために、ジュノは一つの情報を口外することにした。
    これについては緊急事態であるため、輸送に関する契約書に書かれている範囲内に収まる。

    豸゚ ヮ゚)「輸入品はシャルラからの衣類が少量だけです。
         段ボールに入り切る程度なので、人が隠れるのは無理です。
         精々、子供一人です」

    その答えを予期していたかのように、女性がすぐに問いを投げかけた。

    ζ(゚ー゚*ζ「ねぇ、車掌さん。
          スノー・ピアサーに棺桶は何を何機積んであるのかしら?」

    豸゚ ヮ゚)「作業用のジョン・ドゥが六機ですが……」

    恐らく女性は、崩落したトンネルでこちらが強化外骨格を使用していることを知ったのだろう。
    そして作業となると、確実に一機以上の物があると予測したに違いない。
    果たしてただの予測なのか、それとも別の情報なのかはこの際些細な問題だった。

    ζ(゚ー゚*ζ「コンテナからジョン・ドゥを抜いて、そこに人を入れればいいじゃない。
          ジョン・ドゥ用のコンテナは別の街で仕入れれば済む話でしょう。
          ヌルポガに仕入れる予定の品がある、って言えば管轄はバボンハウスとヌルポガになるわ。
          流石にそれを止めたら、キサラギは他のギルドの商売に対して介入したことになって、すぐに大きな問題になるはずよ。

          今揉めているんなら、余計な火種は生みたくないと思うのが自然な反応だと思うんだけど、どうかしら」

    |/-O-O-ヽ|「一つのコンテナに入る人間の数を計算してみましたが、一つにつき大人二人。
           小柄の女性なら三人が限界ですね」

    d-lニHニl-b「つまり、最大でも十二から十三人。
            しかしこの場にいるには十五人。
            全員が行くのは不可能です」

    ζ(゚ー゚*ζ「私のグループは別の方法で行くから、そこは計算から外してちょうだい。
          十二人、丁度入り切るはずね」

    豸゚ ヮ゚)「別の方法、についてお聞きしてもいいですか?」

    コンテナに隠れて脱出するという方法は理にかなっているが、それ以上の方法がジュノには思い浮かばなかった。
    女性は笑顔のまま、あっさりととんでもないことを答えた。

    ζ(゚ー゚*ζ「万が一、キサラギが勘付かないとも限らないでしょう?
          だから、陽動をするわ」

    豸゚ ヮ゚)「お客様を危険にさらすことはできません。
         せっかくのご提案ですが――」

    言葉の途中で、男がそれを遮った。

    ( <●><●>)「陽動の方法にもよるのでは?」

    ζ(゚ー゚*ζ「それを話したら陽動にならないでしょう。
          あくまでも、私たちが勝手に動くだけよ」

    豸゚ ヮ゚)「私たち?」

    その時、ジュノは用意されていた席から二人、人がいなくなっていることに気が付いた。
    いつの間に消えたのか全く知覚できなかったが、その二人が彼女の発言にあった“グループ”ということなのだろう。

    ζ(゚ー゚*ζ「そう。 私たち三人はここで降りるわ。
          私の提案はあくまでも他の人たちが降りる時に使える手段。
          それをしようがしまいが、ここで私たちが降りることに変わりはないわ。
          ただ、私たちの降り方が陽動になるから教えてあげただけよ」

    決して力強い語気で言った言葉ではなかったが、女性のその言葉には有無を言わせない何かがあった。
    それは瞳の奥に浮かんだ揺るがぬ決意を、ジュノが見てしまったからなのかもしれない。

    (*‘ω‘ *)「……車掌、この提案が今は最適だと思いますっぽ。
          動くなら早めでないと、輸出入について不審がられる可能性があるっぽ」

    d-lニHニl-b「私は賛成だ」

    |/-O-O-ヽ|「私も」

    次々に賛同の声が挙がり、結局、その場にいた全員が女性の提案を支持したのだ。
    こうなってしまえば、後は動くしかない。
    ティムの言う通り、これは時間が経てばそれだけ怪しくなる。
    本当に輸出入に関しての問題が発生するのであれば、連絡はすぐさま行わなければならない。

    そして陽動による助力があれば、本命から相手の目をそらすことが出来る。
    悩んでいる時間はない。
    様々な観点で計画を練るだけの時間がない以上、今優先するべきことだけを念頭に置いた作戦を展開するしかない。
    念には念を入れ、この作戦に彼女なりの保険をかけることを心に決めた。

    瞼を降ろし、僅かに思考を巡らせる。
    不可能ではない。
    全ては可能の範囲内。

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    後は兄が賛成してくれるかどうかだが、彼女にはその確信があった。

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                   i!{  i!圭仞 キ|::ヽ                /: |{ {圭圭i! キi! ./
                 マ、 ` ¨ ´ リ                    キ ゞ≠゙′,リ /
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    August 20th PM07:28
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    豸゚ ヮ゚)「……関係各所に連絡をいたします。
         その間に皆様でコンテナに入ることのできるよう、ペアを決めておいていただいてもよろしいですか?
         もちろん、ラウンジ車輌での飲食費については、こちらが負担いたしますので。
         時計をお持ちの方は、現在時刻をご確認ください。

         開始時刻は、八時ちょうどにいたします。
         どうか、よろしくお願いいたします」

    ――残り三十分弱。
    やれるだけのことをやる。
    それが、今の彼女たちにとって一番の行動に違いなかった。

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    (し' .) | | | | | | | | | | |/| |  |//| | | | | | | | \/ニ=-' ̄|l  _ = ̄_ ‐' ̄ |   | |\\  | | |  //| |
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    Ammo for Rerail!!編
    第六章【ancient rules -古の規則-】

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    August 20th PM08:00

    その放送は突如として、そして、八時ちょうどに行われた。
    個人が持つ無線機に対してではなく、車輛に備わったスピーカーから駅構内に向けての放送。
    それは男の声をしており、状況的に、車掌のジャック・ジュノであると推察された。

    『キサラギギルドの代表者に通達いたします。
    ラヴニカとエライジャクレイグにおいて交わされた契約にある、補給措置の実施を速やかに行うことを要求いたします。
    この契約は街と街の間で交わされた物であり、貴ギルドの独断で変更、停止できるものではありません。
    一分以内に回答をいただけない場合、それは契約違反とみなし、罰則金及び外部団体による制裁を実施いたします』

    現場を訪れていたキサラギのギルドマスター、ハスミ・トロスターニ・ミームは逡巡し、答えを出した。
    一分と経たずに回答を出せたのは、好感度を下げないようにするための行動指針がすでに決まっていたからだ。
    彼もまた、拡声器を使って対応した。

    (^J^)「その要求は正当なものであり、我々が妨害することはない。
        補給の要望を規定通り伝達してもらえれば、すぐにでも対応する」

    『では伝達係を一人、先頭機関室に送っていただきたい。
    それと、輸出入の作業も同時に行ってもらいます』

    (^J^)「こちらでは今のところ、輸出品については預かっていない。
       そちらからの輸入品は何だ?」

    『ヌルポガへ強化外骨格、そしてバボンハウスへ衣類を段ボール一箱。
    これは先方の取引における信頼関係の問題に発展するため、早急な対応を求めます』

    (^J^)「その話は――」

    『企業間の取引について、貴ギルドは介入する権利を持たないはずです。
    対応できないようであれば、この件について各ギルドへの連絡を行い、対処を依頼します』

    ハスミは一瞬答えに迷った。
    現在、ラヴニカ内は火薬庫のような状況になっている。
    キサラギギルドが代表として小ギルドを率いて、ギルドパクトを変えようとしているのだ。
    他ギルドとの摩擦を今以上に強くするのは、まだ時期ではない。

    十分に熟したところで爆ぜなければ、彼らの努力が水泡に帰す。
    それに、ギルドパクトを変えた後に悪評が残ってしまえばそれは街全体の不利益につながり、後の大きな代償となってしまう。
    後援者との相談をする時間もない今、彼が下す最善の答えは一つだった。

    (^J^)「分かった、すぐに対応する。
       駅の外に運び出し、それからバボンハウスを経由して納品を行う。
       他に何か要望は?」

    『速やかにして適切な対応、それだけが要望です。
    全ての作業は八時半までに完了させていただきたい。
    ここでの下車が出来ないのであれば、補給後、ここから立ち去らせてもらいます』

    (^J^)「いいだろう、我々は外部の人間に危害や不利益を被らせるのは本意ではない。
       事態が収束したら、再度訪問されることを願う」

    直後、貨物車輌と思わしき車輌の白い外装が翼の様に上向きに開き、鋼鉄製コンテナの扉が姿を現した。
    輸送中の事故などから中を守る為に作られたというそのコンテナは、戦車砲の直撃にさえ耐え、中の貨物は無傷でいられるという。
    そのコンテナや外装も含め、スノー・ピアサーに用いられている多くの部品がラヴニカからの輸入品であることは、ギルドマスターであれば誰もが知っている。
    コンテナの扉が静かに横に開く。

    駅に待機させている部下や同業者たちが駆け付け、すぐに補給と輸入品の受け取りを行う。
    武装をしている部下たちは列車から離れ、作業を見守った。
    作業は迅速に行われ、棺桶はフォークリフトに積んで駅から運び出された。
    少しでも不満を溜めないよう、すかさずその報告を行う。

    (^J^)「棺桶七機と段ボール一箱は、たった今納品先に向かった。
       後は補給品だけだ」

    だが返答はなかった。
    立腹しているのか、それとも答える必要はないと判断したのか。
    いずれにしてもこちらは伝えるべきことを伝えたため、問題はない。
    残り五分になったところで、作業終了の報告があった。

    川_ゝ川「補給品、交換終了いたしました」

    スノー・ピアサーはその外装を元の状態に戻し始め、出発に向けて準備を進めている。

    (^J^)「よし。 後は――」

    その時だった。
    聞いたことのない、低い唸り声のようなものが聞こえた気がした。

    (^J^)「……何だ、今の音は」

    川_ゝ川「駆動音とかですかね」

    確かに、スノー・ピアサーから聞こえている音が大きくなり、今にも動き出しそうな状態になっている。
    駅中にその音が響き渡る中、ハスミはどうしても違和感を拭いきれなかった。
    汽笛が鳴らされ、スノー・ピアサーが前進を始める。

    (^J^)「気のせいか?」

    ところが、何の前触れもなしに、車輌の一つの扉が開いた。
    列車が動いている中で扉が開くのは、明らかな問題である。

    (;^J^)「おっ、おい!! 扉が開いているぞ!!」

    拡声器を使って伝えるが、スノー・ピアサーは止まる様子を見せない。
    そして次の瞬間、先ほど聞いた音の正体が目の眩む光と同時に姿を現した。

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    (;^J^)「ば、バイクだと?!」

    三眼のライトを輝かせる大型のバイクが扉から飛び出したかと思うと、光の尾を残して凄まじい速度で彼の横を通り過ぎた。
    それと同時にスノー・ピアサーの扉が閉まり、加速を始める。
    明らかに連携された動きだったが、理由を考えるよりも先に彼はこの事態の収束を急いだ。

    (;^J^)「いかん、ゲートを封鎖しろ!!」

    最後の一両が駅から消えた時に発された彼の判断は適切だった。
    飛び出してきたバイクとスノー・ピアサーの扉が開いたことには、因果関係がある。
    より動きの緩慢で人質にし得る人間の数が多い列車を止めて、その真意を問いたださなければならない。
    不正な侵入や犯罪者の逃亡を防ぐために、ラヴニカ市街の入り口には線路を封鎖するための特殊合金製の扉がある。

    その扉がある限り、スノー・ピアサーはラヴニカから出ることは出来ないのだ。
    しかし、彼の予想は部下の泣きそうな声によって裏切られた。

    川_ゝ川「ほ、報告です!!
         ゲートを突破されました!!」

    (;^J^)「なっ……そうか、高周波振動っ……!!」

    巨大な高周波振動発生装置を備えたあの列車は、速度が出ていなかったとしても、巨大な攻城兵器として運用できるレベルだ。
    こちらが用意した特殊合金の扉は、それへの対策を行っていない物であり、ましてやあれだけの質量と速度の物体が突撃してくることは想定していなかった。

    (;^J^)「バイクはどうした!!」

    答えが返ってくる前に、彼はその答えを知ってしまった。
    遠ざかるエンジン音が、何よりも雄弁に語っているのだ――

             Gatecrash
    川_ゝ川「し、侵入されました!!」

    (#^J^)「追えっ!! 追って捕まえろ!!
        殺してでも捕まえろ!!」

    ――その命令は、同盟関係にある地下ギルドの人間へと速やかに伝えられた。

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    August 20th PM08:30 / ラヴニカ市街
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    フォークリフトから貨物トラックに積み替えられた七つのコンテナは、街で定められた速度で順調に進んでいた。
    その後ろから、一台の青いセダンが急接近し、クラクションを鳴らしながらライトを瞬かせた。
    ドライバーは怪訝そうにミラーを見て、それが自分と同じキサラギギルドに所属する人間であることに気づいて速度を落とした。
    すぐにセダンはトラックの横に並び、窓を開けて運転席の男が大声で叫んだ。

    Ie゚U゚eI「停まって積み荷の確認をするんだ!!」

    訳も分からず、ドライバーは指示に従って路肩に停車させた。
    セダンは荷台の後ろに並んで停まり、助手席と運転席から短機関銃を持った男が二人降りる。
    ドライバーは途端に緊張し、荷台の扉の前で立ち止まった。

    (●ム●)「どうしたんだ?」

    ドライバーの問いに、先ほどの男が銃を構えながら答えた。

    Ie゚U゚eI「さっき、スノー・ピアサーの発車と同時にゲートクラッシュが発生した。
          なら、この荷物にも何かあるはずだって、上からの命令でな」

    (●ム●)「まぁ、ロクでもないことにならないといい――」

    ――爆発したような勢いで蝶番ごと吹き飛んだ扉が、銃を構えていた男を正面から直撃した。
    男はセダンのフロントガラスに背中から突っ込んでガラス片と共に車内に倒れ込み、扉はフロントグリルに突き刺さった。
    悲鳴はあったのかもしれないが、それは誰の耳にも届くことはなかった。
    その代わりに車のクラクションが鳴り続け、通行人たちの注意を引いた。

    〔 ゚[::|::]゚〕

    白い鎧に、真紅のマスク。
    異様な雰囲気の強化外骨格が蒸気を身に纏い、幽鬼めいた姿を現す。
    それはジェーン・ドゥのカスタム機のように見えたが、仔細を観察するだけの余裕はなかった。
    何故なら、次の瞬間にその棺桶は荷台を変形させるほどの踏み込みで目の前から消失し、もう一人の男の胸倉を掴んで人形を放るかのように軽々と投げ飛ばしてしまっていた。

    「あぁぁぁぁ……!!」

    悲鳴が遠くに消え、ややあって、ガラスが砕け散る音が聞こえてきた。
    強化外骨格の見せつける圧倒的な暴力を前に、ドライバーは逃げることさえ忘れてしまった。
    その強化外骨格はフロントグリルに突き刺さっていた扉を投げ捨て、それからセダンのエンジンを殴り壊し始めた。
    ボンネットは変形し、その下にあった複数のパーツで作り上げられたエンジンは二回目の拳で原型を完全に失い、三回目の拳によって大きく二つに分解された。

    エンジンから黒煙が昇ったところで破壊活動を停止し、強化外骨格のカメラがドライバーに向けられた。
    無機質なカメラの奥にある何かが、男の本能に明確なメッセージを伝える。

    〔 ゚[::|::]゚〕

    (●ム●)「あ……あぁっ……」

    殺されると本能が警告している。
    この兵器は拳一つで人の頭を潰すことが出来る上に、こちらの抵抗などまるで意味がない。
    無論、抵抗する気力は最初からなく、彼が生き残るためには使用者の慈悲が必要不可欠だった。
    しかし今は命乞いをするだけの余裕も、それに最適な言葉さえも思い浮かばないまま立ち竦むしか出来ない。

    悲鳴を聞いたからか、それとも騒音を聞いたからかは分からないが、ゲートウォッチのワゴン車がサイレンを鳴らしながら現れた。
    ワゴン車のスライドドアが開き、そこから素早く現れたのは二機の強化外骨格。
    その姿に、ドライバーは一瞬だけ安堵したが、依然として体は言うことを聞かない。

    ([∴-〓-]『動くな!!』

    ソルダット二機が構えるのは、ショットガンの弾を連射することが可能なSPAS12。
    装填されているのが散弾であればドライバーに危害が及ぶが、そういったことを考えて恐らくはスラッグ弾が使用されている可能性が高い。

    〔 ゚[::|::]゚〕『……』

    白い棺桶は無言のまま、そして、ゲートウォッチの警告を無視して彼らに向けて一歩を踏み出した。
    突風が吹いたかと思うと、ソルダットが構えていたはずのSPASを白い棺桶がその手に握り、懐に現れている。
    抱きかかえるように短く持ち、姿勢は低く構えられていた。

    ([∴-〓-]『ちっ!!』

    ソルダットの装甲は分厚く、例えスラッグ弾が装填されていても装甲の薄い部分を狙われない限り大したダメージにはならない。
    だがセミオートマチックの連射力と合わされば、それも絶対ではなくなる。
    銃声が連続して響き渡り、ソルダットが大きくのけぞる。
    バランスを崩したソルダットを情熱的に抱き寄せ、白い棺桶が瞬間的に力を込めた。

    ([∴-〓-]『がぁぁっ?!』

    鯖折り。
    その一撃は強化外骨格に包まれている人間に対して、そこまで大きなダメージにはならない。
    しかし、外部に露出しているバッテリーは別だ。
    例え装甲に守られていても、同じ強化外骨格による強烈な一撃は本体よりも薄い装甲を破壊し、バッテリーを損傷させるのには十分すぎる。

    バッテリーを破壊するための一撃は、だがしかし、多大な隙を生んだ。
    もう一機のソルダットが回し蹴りを放ち、逆に白い棺桶のバッテリーを破壊しようとした。
    その一撃は奇襲として、そして逆襲として理にかなったものだった。
    だが問題は、その白い棺桶にもう二本の腕があったことだ。

    脚を掴んだ二本の腕はソルダットの動きを止めたが、ソルダットの使用者は冷静だった。

    ([∴-〓-]『やるじゃないか……だがっ!!』

    その右手に握られたSPASの銃腔が白い棺桶のバッテリーに向けられ、間髪入れずに銃爪が引かれた。
    銃声は二回で途切れ、次に聞こえてきたのは金属同士が激しくぶつかる音。

    〔 ゚[::|::]゚〕『ふっ!!』

    四本の腕が鮮やかな動きでソルダットの手からSPASを奪い取り、折り曲げ、掌底を胸部に放った。
    それを受け、ソルダットの機体が僅かに宙に浮かぶ。

    ([∴-〓-]『ぬんっ!!』

    が、踏みとどまってすかさず反撃を試みる。
    四本の手を相手にすることが分かっていても、まるで怯む様子を見せなかった。
    構えを取ったソルダットだったが、白い棺桶はそこで追撃をせず、一歩後退して同じように構えた。
    同じ、二本の腕で。

    〔 ゚[::|::]゚〕『……』

    ([∴-〓-]『……はっ、面白い奴だ』

    そしてどちらともなく踏み出し、拳を繰り出し、迎撃するために拳を払い除け、再び拳を振るう。
    彼らが行っているのはただのボクシングではない。
    一撃が砲弾の直撃に相当する打撃であり、まともに頭部に受ければ如何に堅牢な装甲に守られていても、死は免れられない。
    決着は、ほんの数秒後に訪れた。

    ([∴-〓-]『ぬぐっおおっ?!』

    一瞬の隙を突いて放たれた腹部へのアッパーカットによってソルダットの巨体が持ち上がったかと思うと、背中から地面に叩きつけられた。
    背面にあるバッテリーケースが自重とアスファルトの衝突により破損し、爆発を起こした。
    衝撃で浮かぶも、その爆風はソルダットによってほとんど封じ込められた為に、白い棺桶は無傷のままだ。
    二機の強化外骨格が僅か二分で戦闘不能に陥り、白い棺桶は悠々とした足取りでトラックに歩み寄った。

    〔 ゚[::|::]゚〕

    圧倒的な暴力の化身である白い装甲が目の前に迫る。
    風圧が顔を撫で、心臓を鷲掴みにするようだ。
    指一本動かすことも出来ず掠れた声を口から漏らすドライバーの横を通り過ぎ、走り去っても彼はしばらくの間放心状態になっていた。
    遠くで銃声とクラクションが鳴り響いていることに気づく余裕は、微塵も残されていなかった。

    失禁していることに気づいたのは、彼がゲートウォッチに保護されてからのことであった。

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    August 20th PM08:30 / ラヴニカ市街
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    “定刻通り”、デレシア達はスノー・ピアサーからラヴニカへと無事に入ることが出来た。
    強化外骨格が入ったコンテナをサイドカーのように車体の左側に取り付けたアイディール――“ディ”――は久しぶりの疾走を喜ぶように夜風を切り、入り組んだ街の路地を走り抜ける。
    ハンドルを握るデレシアは、この街の地形についてよく知っており、目的地までの道のりを理解していた。
    フルフェイスのヘルメットを被った三人を乗せてもなおディのエンジンは力強く脈打ち、後方から迫ってくる五台のバイクを完全に凌駕した走りを見せている。

    段差の多い市街を走るため追手のバイクはモタードタイプだったが、ディは地形に合わせて車高やサスペンションを自動で調整する機能が備わっており、車種の違いは問題になっていなかった。
    建物の密度が高く、整備された道路ではあるが、車が交差するだけの幅しかなく、路上駐車されているバンやトラックがデレシアの行く手を阻んでいる。
    デレシアはそれをまるで意に介さずアクセルを捻り、速度を落とさずに走った。
    しかし追手はこの街に住んでいるだけあり、デレシアの速度と運転技術に後れを取るまいと、絶えず視界にディを収めていた。

    交差点で引き離そうと、デレシアは速度をほとんど落とさない状態でスライドし、左折した。
    数秒遅れてモタードが同じ道を選ぶが、その内一台は対向車線にはみ出してトラックに突っ込んだ。
    続けてデレシアは、裏路地に通じる細い道に向けて直角に侵入する。
    相手から見れば逃げ道を自ら狭めるような自爆行為だが、デレシアの狙いは相手が直線状に並んでくれることだった。

    車一台分の幅しかない路地を猛スピードで駆けつつ、ミラーを見て相手の出方をうかがう。
    狙った通りにバイクが現れ、ハイビームのライトがディを照らした。
    ヒート・オロラ・レッドウィングもまた、この時を待っていた。

    ノパ⊿゚)「ストライクだ」

    デレシアから借り受けた水平二連式ソウド・オフ・ショットガンの銃腔が火を噴き、二発の散弾がバイクと運転手を襲った。
    ヘルメットをしている人間を殺傷するには距離が開きすぎており、振動する中で正確な射撃は出来ない。
    ましてやヒートは利き手が満足に使えない状態であり、狙いすました一発は平常時でも困難だ。
    だが散弾であれば正確に狙う必要はなく、そうしなくても相手を足止めするだけの十分な制圧力がある。

    銃弾で彼らを殺す必要はなく、彼女たちは追手をまければそれでいいのだ。
    銃で撃たれれば、その威力を知る人間は反射的に身を守ろうと防御行動に出る。
    運転手であれば急ブレーキ、生身の人間であれば急所を覆い隠すのは生物的に正しい反応だ。
    そして、デレシアとヒートの読み通りに急ブレーキをかけたバイクに後続車が激突し、転倒した。

    それらを乗り越えて二台、距離を開けて現れる。
    ショットガンをデレシアの腰のホルスターに戻し、ヒートはデレシアの耳元に顔を寄せて大きな声を出した。

    ノパ⊿゚)「後二台来るぞ!!」

    ζ(゚ー゚*ζ「あらあら、それじゃあもう少し難易度を上げてもいいかしらね」

    せっかくのモタードなのだから、エンデューロ――不整地を走るバイクのレース――になってもいいだろう。
    列車旅で体があまり動かせなかったデレシアはディの中にある地図情報更新のついでに、体操がてら少しばかり寄り道をすることにした。

    ζ(^ー^*ζ「ちょっと寄り道するわね。
            二人とも、しっかり掴まっていてね」

    肩を負傷しているヒートが万が一にも落下しないよう、彼女の腰と右腕はデレシアの腰に器具を使って固定されている。
    そのため、乱暴な運転をしてもデレシアが踏ん張れば彼女が落ちる心配はなかった。
    アクセルを更に捻って速度を上げ、そして、分かれ道に差し掛かった瞬間に後輪をスライドさせて右に曲がった。
    そこは道路とは呼べない程狭く、車では通れないような道だった。

    デレシアは躊躇うことなくその道を進み、一棟の古びた四階建てのビルを通り過ぎた直後に滑るように急旋回をしてディの前輪を持ち上げた。

    ノハ;゚⊿゚)「うおぉっ?!」

    再びアクセルを捻り、速度を上げて走り出す。
    ビルの横にあった鉄製の非常階段をその体勢のまま登り始め、一気に最上階を目指した。
    段差を乗り越える衝撃は全てサスペンションによって吸収され、ディに備わった各種センサーが転倒を防ぐために総動員される。
    ちらりと下を見ると、一台がついてきているのが見えた。

    そうでなくては面白くない。
    ギルドパクトを破棄せんとするだけの気概があるのであれば、それなりの実力と覚悟がなければならない。
    ではその息のかかった者たちはどこまでの気持ちで動いているのか。
    果たしてどこまでの実力があって反旗を翻すような真似をしたのか、それが気になる。

    この街の歴史を変えるのであれば、この街が積み上げてきた歴史以上の、あるいはそれを覆しても余りあるメリットを提示できなければならない。
    ここは商人、そして多くの職人たちによって作り上げられた商の最古にして最先端の街。
    何の算段もなく動いている、もしくは踊らされている人間はすぐに波に飲まれて藻屑と消える。
    ならば追うべき相手をどこまでの覚悟で追い続けるのか、まずはそこから見定める。

    彼らの計画を台無しにするかもしれない人間が入り込んで何もしないようであれば、それは、彼らがいかに計画を甘く見ているかを表している。
    背後から迫ってくるはずだったバイクの音は聞こえなくなり、代わりに、階段を駆け上る音が聞こえていた。
    屋上に到達し、そして、ラヴニカの夜景を見下ろす。
    冷たい夜風が熱を持ったディのエンジンを冷やし、デレシア達の吐いた白い息を夜空へと舞い上げる。

    束の間、デレシアはその風を楽しんだ。

    ζ(゚ー゚*ζ「さぁ、行きましょう」

    後輪が白煙を上げて回転し、そして、ディは一気に加速した。
    屋上の淵を乗り越え、三人と一台は空を舞う。
    浮遊感は一秒にも満たない間に終わり、三人は隣のビルの非常階段の踊り場へと着地した。
    そこにあった扉を着地の衝撃で破壊し、建物の中へと入りこむ。

    打ちっぱなしのコンクリートの天井と床、そして部屋番号のついた扉が並ぶそこは集合住宅に違いなかった。
    流石にこの場所にまで追手が来ることはないだろうから、デレシアは悠々と、そして遠慮なしに加速させた。
    廊下の突き当りにある扉を再び前輪で破壊し、三人は再度ラヴニカの夜空を跳んだ。
    その先には新たなビルの窓があり、ディの前輪がそれを粉々に粉砕した。

    新たな廊下に着地するよりも早くブレーキを握り、デレシアは急制動をかけた。
    ガラス片と共に着地し、後輪のタイヤが床に黒い跡を残す。
    焦げたゴムの匂いが風に漂い、すぐに霧散した。

    (∪*´ω`)「おー!! すごいおー!!」

    デレシアとヒートに挟まれたブーンが、大きな声を上げて喜ぶ。
    デレシアの腰に回されたヒートの右手に力が込められる。
    二人の反応は非常によく似ていた。
    ブーンは浮遊感への高揚を、ヒートはそこに若干の恐怖を感じている。

    ノハ;゚⊿゚)「す、すげぇ…… なぁ、スタントマンの経験でもあったのかよ」

    ζ(゚ー゚*ζ「うふふ。
          良かった、二人とも怪我はないわね」

    もしも二人がデレシアの運転技術を称賛するのであれば、それは間違いだ。
    デレシアの運転技術に全く問題なくついてくるディこそ、称賛されて然るべき存在なのだ。
    世界最高にして最新の運転補助システムは彼女の運転の癖などを学習し、理解し、予測し、そしてそれ以上の補助をした。
    このアイディールという車種は初期設定時の段階で当時のライダーから膨大な運転データをインストールされ、更に経験から自己学習を行うことで常に最適な設定で走行することが出来る設計になっている。

    復元されるまでに、果たしてどれだけ多くの乗り手がこのハンドルを握ったことだろうか。
    “魔女”と呼ばれた軍人から稲妻の腕を持つと称された軍人へと譲られ、オアシズへと渡り、今に至るよりも前。
    時代の流れに奔流されたのは何も人だけではない。
    生み出された技術、培われた経験、育まれた知識と才能、そして誕生するかもしれなかった可能性。

    成長し続けるバイクとして世界に生まれ出たディは、今まさに、他のバイクを圧倒的に凌駕するだけの性能を発揮するに至った。
    これから先、このバイクが走り続ける限りその人工知能は成長を続けることだろう。

    (∪*´ω`)「ディって、何でもできるんですおね」

    二人に挟まれて座るブーンは、この状況を嬉々として受け入れていた。
    彼にとっての保護者であるこの二人が傍にいれば、それだけ安心するのだろう。

    ζ(^ー^*ζ「えぇ、この子は走った分だけ成長するの」

    ディのメーターが喜びを表す色を表示し、デレシアは思わず微笑んだ。
    ブーンによって個としての名を与えられたこのバイクは、彼の期待以上の働きを見せてくれることだろう。
    成長する人工知能の成長もまた、デレシアは楽しみの一つにしていた。

    ノパ⊿゚)「で、ここからどうやって目的地に行くんだ?」

    ζ(゚ー゚*ζ「相手の出方次第だけど、そうねぇ……」

    あまりサスペンションに負荷をかけすぎるのも問題だが、何よりディの横に固定しているコンテナが落下しないようにしなければならない。
    走行自体に問題は起きない上に横方向からの攻撃を防ぐ盾の役割を果たしているが、ディがその性能で補えるのは搭乗者だけだ。
    しかしこの大型バイクを専用の昇降機もなさそうなこの建物から降ろすには、階段では時間がかかりすぎる上に目立ってしまう。
    ウィリーをした状態であれば昇降機を使えば降りられるが、逃げ道がなくなる。

    ζ(゚ー゚*ζ「跳びましょう」

    (∪*´ω`)「やたー」

    ノハ;゚⊿゚)「平気なのか、ディは?」

    普通のバイクであれば無論不可能だが、ディはバイクの到達点に位置する存在だ。
    多少の無茶は許容範囲の内に収まっている。

    ζ(゚ー゚*ζ「勿論、ほどほどにね」

    ジャンプ台でもない限り、跳んだバイクは自重と重力によって同じ階、もしくは下の階層に進むしかない。
    ラヴニカの隣り合った建造物の距離が近いこともあり、デレシアは今のところ五階の高さを移動しており、ここからは一気に降りることはできない。
    適切な高さとして、二階まで降りたところで道路に戻ればいい。
    廊下の突き当りがエレベーター乗り場になっているのを見て、デレシアは来た道を引き返すことに決めた。

    その場で素早く方向を変え、非常階段へと向かう。
    金属製の階段を固定しているのはボルトと溶接であり、そこまで頑丈ではないことが分かった。
    スラッグ弾を装填したショットガンを腰から抜き、建物と繋がっているボルトを二か所破壊した。
    自重によって傾き、軋みが上がる。

    この状態でディの重量には耐えられないのは明らかだが、それが狙いだった。

    ζ(゚ー゚*ζ「ちょっと揺れるから、ちゃんと掴まっているのよ」

    ノパ⊿゚)「あぁ、喜んでそうさせてもらうよ」

    腰に回されたヒートの手に力がこもったのを確認してから、デレシアは前輪を持ち上げた状態でディを進めた。
    踊り場に後輪が乗った瞬間、足場が大きく傾いた。
    だがデレシアはその場でディをジャンプさせ、足場に対して更なる負荷をかけた。
    結果、足場は脆くも崩れ落ち、三人と一台は一階層分落下する。

    そしてその下にあった踊り場に足場ごと着地すると、衝撃に耐えかねて更に足場が崩れ落ちる。
    そのまま三人は二階の高さに到着すると、デレシアはギアを変えてその場から飛び立った。
    人通りのほとんどない道路に着地し、何事もなかったかのようにその場を走り去る。
    あれだけの物音が響いたこともあり、建物の前には人だかりが生まれ始めていたが、すでに彼女たちの姿は彼らには見えていないだろう。

    ヒートが苦笑いを浮かべながら呟いた。

    ノハ;゚ー゚)「……ちょっと、ねぇ」

    ζ(゚ー゚*ζ「えぇ、ちょっとよ」

    デレシアが冗談で返すと、ヒートがくすりと笑ったのが聞こえた。
    バックミラーに眩いライトが見えた瞬間、デレシアは急加速し、再び道路を疾走し始めた。

    ノハ;゚⊿゚)「っと!!」

    ζ(゚、゚*ζ「ごめんなさいね、お散歩はもう終わりにするわ」

    先ほどまでとは違い、相手がこちらを殺しに来ていることが分かった以上、遊ぶのは終わりにしなければならない。
    流石にウィンチェスターを構えていれば、捕獲ではなく殺害に指示が切り替わったことが分かる。
    交差点にスライドで侵入し、素早く曲がり切る。
    車のクラクションや歩道にいる通行人の悲鳴が後方に遠ざかる。

    ζ(゚、゚*ζ「……」

    三秒後、相手も同様にほぼ直角に曲がってきた。
    路上駐車している車の数が多く、対向車と衝突する可能性を考えると、デレシアはどこかであの追手を潰さなければならない。
    市街地で散弾を撃ってくるとは考えにくいが、狭くて人通りのない道を選んでいれば撃たれるのは現実的な展開になる。
    目的地は大通りを使うことはない上に、ラヴニカの大通りの広さもたかが知れている。

    決着をつけるべく、デレシアは今一度交差点を前にしてブレーキをかける。
    しかし今度は先ほどとは違い、曲がるためのブレーキではない。
    前輪と後輪を同時にロックさせ、車体を横向きにスライドさせる。
    バイクの真横を見せるということは急所を晒すようなものだが、デレシアが向けたのは左側。

    そこにあるのは対人用の銃弾であれば対物ライフルであろうとも防ぎ得るコンテナ。
    つまりこれは、迎え撃つためのブレーキであり、方向転換。
    散弾の弱点である距離を利用し、今まさに、デレシアは相手を迎え撃つ。
    背後から迫っていた追跡者は面食らったようにその様子を見たが、左手をウィンチェスターに伸ばす。

    ζ(゚ー゚*ζ

    デレシアは紫電めいた速さで懐から黒塗りのデザートイーグルを左手で抜き放ち、銃爪を引く。
    勝負はその一発で終わりを迎えた。
    エンジンを撃ち抜かれたバイクはバランスを崩し、追跡者はその場に投げ出され、バイクは路肩にある店のショウウィンドウに突っ込んだ。
    地面に転がる人間が僅かに身じろぎしたのを見て、デレシアはデザートイーグルをしまった。

    悲鳴とクラクション、そしてサイレンが鳴り響く中、デレシアは素早くその場を走り去ったのであった。

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    >、/    |   .|           `        ̄ ┴   |:| ̄丁¨¨''''T=ニニ二ニニ==zz
    August 20th PM09:44

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    ヌルポガギルドに所属するナヒリ銃火器店はラヴニカの中でも老舗で、店主のソリン・マルコフによる棺桶の復元技術を求めて世界中から注文が殺到する。
    川沿いにある広い工場には世界中から依頼された棺桶が並び、彼の弟子たちが昼夜を問わず復元に明け暮れている。
    ソリンが手掛けるのは主に技術と知識が要求される“名持ち”の棺桶の復元であり、その日は三機の復元を完了させたところだった。
    七十歳の峠を越えてもなお、ソリンは現役で仕事に従事しており、その技術はラヴニカで最高の物であると称賛されている。

    彼が得てきた棺桶に関する知識は世界でも五指に入るほど膨大で、そしてより実用的なものばかりだ。
    昔は艶のある磁器のような白い肌も傷が刻まれて浅黒くなり、黒かった髪は一本残らず白くなってしまっている。
    鋭い眼光と整った顔は昔から変わらずに残り、年々その魅力は熟成されている。
    色褪せて水色になっている紺色のツナギは、すでに十年以上愛用している立派な相棒だ。

    作業がひと段落したため、ソリンは工場内にある自動販売機でトマトジュースを買って、外に出ることにした。
    ラヴニカの夜は冷えるが、工場内の熱気で温まった体と頭を冷やすにはちょうどいいぐらいだ。
    夜風に当たる為に工場の外に出たところで、遠くからバイクのエンジン音がゆっくりと近づいてくるのが聞こえた。
    音の方に目をやると、そこには極めて珍しいバイクの姿が見えた。

    ( 0"ゞ0)「ありゃあ……アイディールじゃねぇか」

    世界で現存するのは僅か三十台。
    そして実際に動いているのを見るのは、これが初めてのことだった。
    果たしてどんな人物が運転しているのか、ソリンは珍しく他人に興味を持った。
    アイディールはゆっくりと彼の前で停車し、ヘルメットを被った人物が降りた。

    驚くべきことにバイクには三人乗っていた。
    しかも一人は背丈から察するに、小さな子供だ。
    ハンドルを握っていた人物がヘルメットを取ると、その下に隠れていた金髪が星空の下で輝いた。
    工場から漏れ出る光が女の瞳を照らし、ソリンは我が目を疑った。

    ( 0"ゞ0)「お、おまっ……!!」

    ζ(゚ー゚*ζ「お久しぶりね、ソリン。
          白髪が似合う顔になったじゃない」

    それは、デレシアだった。
    長らく会っていなくても、彼女の顔と名前を忘れるわけはない。

    ( 0"ゞ0)「うっそだろおい!! デレシアじゃねぇか!!
          し、信じられねぇ……」

    ζ(゚、゚*ζ「あら、失礼ね」

    ( 0"ゞ0)「その声も、服も、あんたほんとに変わってねぇな」

    ζ(゚ー゚*ζ「一応誉め言葉として受け取っておくわ。
          今日はお願いをしに来たんだけど、いいかしら?」

    ( 0"ゞ0)「悪いけど仕事で手いっぱいだ……って言いたいところだが、あんたのお願いってんなら聞かないわけにはいかねぇよ。
          俺に出来ることなら手を貸すぜ」

    ζ(゚ー゚*ζ「棺桶を一機、修理してほしいの」

    ( 0"ゞ0)「あんたが? 棺桶を使うのか?」

    彼は、デレシアが棺桶を使うところを想像できなかった。
    彼女であればそんなものは必要ないはずだ。
    出会った時の言葉などはもう遠い昔のことだが、彼女の見せつけた圧倒的な力は今でも鮮明に覚えている。

    ζ(゚ー゚*ζ「いいえ、私の友達のなの」

    デレシアの視線の先にあるコンテナを見て、ソリンは納得した。
    コンセプト・シリーズは今までに何百も相手にしてきたが、デレシアが持ってきた棺桶はその中でも更に特別な物。
    生きている間にそれを見られることに喜びを覚えさえする棺桶なのだ。
    設計段階から全てが規格外の棺桶。

    Bクラスの棺桶に迫る大きさでありながら、Aクラスの取り回し易さの範囲内に収め、その性能は大きさの不利を補って余りある。
    単一の目的をもって開発されたコンセプト・シリーズは、実際のところ、同じ目的で製造された異なる機体が存在している。
    しかし、レオンは唯一無二であると彼は師匠からよく言い聞かされていた。
    対強化外骨格用強化外骨格は、一機しかこの世に存在しないのだと。

    それは全ての強化外骨格の頂点に立つことを目的に作られた、ただ一機の強化外骨格。

    ( 0"ゞ0)「……レオンか」

    ζ(゚ー゚*ζ「どう?」

    ( 0"ゞ0)「具合にもよるから何とも言えねぇが、復元した奴の腕も関係してくる。
          おい、そこのデレシアのダチ。
          誰が復元したのか知ってるか?」

    フルフェイスヘルメットを取らず、バイクに乗ったままの女が応えた。

    (:::::::::::)「さぁ? オセアンにいた修理屋に頼んだから知らねぇな。
        白いひげの爺さんだったが、名前は知らねぇな。
        あたしはただ、スミスのじいさんって呼んでたよ」

    価値を知らない人間とはこれだから恐ろしい。
    偶然にもその人物が修理できたからよかったものの、最悪の場合は二度と使い物にならなくなっていたかもしれないのだ。
    溜息交じりにバイクの方に歩いて行き、コンテナをバイクから取り外す。
    そして把手を握った時、そこについていた傷に気づいた。

    ( 0"ゞ0)「おいおい、こいつは……
          デレシア、あんた、気づいていてこれをここに持ってきたな?」

    ζ(゚ー゚*ζ「ふふ、やってくれるかしら?」

    彼の記憶の中にいるのと相違ないデレシアの反応。
    久しぶりにソリンは胸がときめくのを覚え、少年の頃の気持ちが蘇ってきた。
    顔中を皺くちゃにさせて笑顔を浮かべ、ソリンは工場を顎で指した。

    ( 0"ゞ0)「詳しいことは中で話そう。
          街中のサイレン、大方あんたが原因だろうからな。
          泊まる場所はあるのか?
          いや、言い方が悪かった。

          うちの店に泊っていきな、そこいらのモーテルよりはよっぽど安全だ」

    ζ(゚ー゚*ζ「そうさせてもらうわ。
          ディ、付いてきて」

    二人を乗せたまま、運転手不在の中でアイディールが動き出す。
    ソリンとデレシアの後ろを、まるで馬のように従順について来る。
    工場の地下にある搬入口に案内し、シェルターを兼ねた貯蔵庫へと入る。
    電気を点けると、壁一面に取り付けられた鋼鉄製の棚に細かく仕分けられた非常食と水が並んでいるのが見え、天井付近の空間を有効活用するために張り巡らされたキャットウォークが独特の影を落とす。

    白いリノリウムで加工した床の下には住居スペースに加えて更に多くの備蓄品があり、この工場で働く人間が一か月生き延びられるだけの備えがあった。
    故に長期の潜伏場所としても十分な機能を有する場所であり、今のデレシア達には最適な場所でもあった。
    武器に関してはこの工場全体の至る所にあるため、心配はまるでない。
    アイディールから二人が降り、ヘルメットを脱いでシートの上に置いたのを見計らって、ソリンはデレシアに質問を投げかけた。

    ( 0"ゞ0)「まず、何があったんだ?」

    ζ(゚ー゚*ζ「キサラギギルドがスノー・ピアサーを止めたのは知っているかしら?
          とどまる気はないから、そこから降りてきたの。
          私たち以外の人たちはトラックに載せて、ギデオンのところに送ったわ。
          その後どうなったかは知らないけど、きっと大丈夫よ」

    頭痛の種が増えたことで、ソリンは溜息を吐かざるを得なかった。
    ただでさえ街全体を巻き込みかねない勢いで揉めているのに、ついに強硬手段に出たのだ。
    これは外交にまで関係してくる問題であり、キサラギは禁忌を犯したことになる。
    大論争で済めばいいが、内戦に発展しないことを願うばかりだ。

    ( 0"ゞ0)「マジか、あいつら……
          これは誓って言えるが、ギルドマスター達はそのことを聞いてねぇぞ。
          これでまた対立が深まっちまうな」

    ζ(゚ー゚*ζ「ギルドパクトへの反抗って聞いたけど、発端は何だったの?」

    ( 0"ゞ0)「まず、ギルドへに参加しない企業の参入を認めるように求めてきたんだ。
          この街の構造的に、それはできねぇって話になったんだが、あいつらは頑なにギルドパクトの大改訂を要求したのさ。
          次から次に要求が増えて、今じゃギルドパクトそのものをなくすべきだ、なんて言い始めてな」

    ζ(゚、゚*ζ「キサラギの他に賛同しているのは?」

    ( 0"ゞ0)「弱小ギルドの連中さ。
          公にはしてないが、あいつら地下ギルドとまで繋がりを持ってる。
          大した影響力はないが、暴れられると厄介だ」

    ζ(゚、゚*ζ「……誰かが裏で手を引いているでしょうね」

    やはり、デレシアも気づいているようだ。
    街の外にいる人間にまでそれを悟られるまでに、事態は深刻化しているのだ。

    ( 0"ゞ0)「証拠はないが、予想は出来てる。
          内藤財団だ」

    ζ(゚、゚*ζ「あら、根拠はあるのかしら」

    ( 0"ゞ0)「何回か打診があったんだ、内藤財団がこの街に店を構えることについて。
          で、ギルドパクトにのっとってギルドへの加入が必須だといったら引き下がってな。
          その後にもう一度来て言ったのが、内藤財団ギルドの参入の話だ。
          あいつらは子会社も孫会社も持っているから、一夜で大型のギルドになるだろ?

          しかも厄介なのが、業種が絞られていればいいものを、あいつらは武器から風俗まで何でもやる。
          そんなギルドが存在したら、そもそもギルドの意味がなくなるんだ。
          ギルドマスター達が反対する中で、キサラギだけが違った反応をしていたらしい。
          柔軟にしたほうがいいんじゃないか、ってな。

          音声議事録にも残っていたから、まず間違いない」

    世界最大の企業、内藤財団。
    その影響力は計り知れないところがあり、一度でも街で自由に動かれれば、街の崩壊は免れられないだろう。
    ギルドは同業他社が互いに潰し合わないようにするための抑止力でもあり、生き延びるための保険でもあるのだ。
    ラヴニカが発展しているのは、悪戯に企業間での価格競争などに走らないように調整が行われ、技術的な企業間競争を促進してきたからだ。

    同じヌルポガギルドに所属していても、それぞれが取り扱う武器の値段にはそこまで大きな差異はない。
    売られている武器の整備やアフターサービスにこそ大きな違いがあり、それぞれが工夫と努力、そして技術で生き延びている。
    世界中にある銃器メーカーの人間がこの街を訪れて新たな武器の製造、復元を依頼するのは確かな技術を持った職人が多く、安定した量産と開発が出来るからなのだ。
    閉鎖的な場所だからこそできる利点を、内藤財団の介入によって全て失うのは長い目で見ずともラヴニカの存亡にかかわってしまう。

    ζ(゚、゚*ζ「キサラギはご褒美とその後の地位でも約束されているのか、それとも何か弱みでも握られているんでしょうね」

    ( 0"ゞ0)「上の独断ってわけでもないらしいから、多分前者だな。
          ま、今回の一件で奴らは終わりだよ」

    ソリンは肩をすくめ、それから棺桶の持ち主に声をかけた。

    ( 0"ゞ0)「メンテナンスモードにしてくれ。
          方法は分かるか?」

    ノパ⊿゚)「あぁ、分かる」

    赤毛の女はソリンの足元にあるコンテナの前に立ち、起動コードを入力した。

    ノパ⊿゚)『あたしが欲しいのは愛か死か、それだけだ』

    コンテナのセンサーがメンテナンスモードに切り替わり、中に納まっていた棺桶が姿を現した。
    重厚な装甲のほとんどない、軽量化されつくした特異な棺桶。
    傷だらけの外装、巨大な杭打機、そして激しく損傷した左手。
    強力な酸で溶かされたようで、歯形まで付いてる。

    流石に装甲の厚い左腕とは言っても、酸で攻撃を受ければ変形してしまう。
    一歩間違えれば左腕を失っていたことだろう。

    ( 0"ゞ0)「ひでぇな、こりゃ」

    ノパ⊿゚)「で、直せそうか?」

    ( 0"ゞ0)「結論から言えば、直せる。
          この棺桶を復元したって奴だが、何か言ってたか?」

    ノパ⊿゚)「さぁ、仕事のこと以外は無口なじいさんだったからな。
         何も言ってなか……いや、言ってたな。
         これが最後だから、もう来るな、ってぐらいだ」

    ( 0"ゞ0)「……そうか。
          実はな、この棺桶を復元した人間を俺は知ってるんだ。
          先代ギルドマスターの爺さんで、俺の師匠だ」

    職人気質な彼の師匠、アーカム・ダグソンは自ら復元を手掛けた棺桶に印をつける癖があった。
    彼の弟子であるソリンはその印がどこにつけられるのかをよく知っていた。
    コンテナの把手を高性能なグリップに交換し、その付け根に三又の傷を彫るのだ。

    ( 0"ゞ0)「だからこいつの復元は完璧なもんだったって信頼できる。
          問題があるとしたら、俺が師匠の腕を越えられるかどうかがこいつの修理で分かるぐらいだ」

    ζ(゚ー゚*ζ「ふふっ、きっと大丈夫よ。
          それで、何日ぐらいかかりそう?」

    改めて損傷部分を確認し、デレシアの問いに答える。

    ( 0"ゞ0)「一週間以内、ってところだ。
          悪いが俺にも仕事があるし、何よりも時間を取るのは部品の選定だ。
          そっちの姉ちゃんに分かるように言うと、コンセプト・シリーズは一点物だから、一度損傷すれば同じ形にはならない。
          できる限り設計図通りの物を用意してそれに近づけるが、下手なものを選べば性能を殺すことになる。

          量産機の部品はたかが知れているから、復元が不可能な、例えば腕だけしか見つかっていないコンセプト・シリーズとかの部品を探すんだ。
          日によって集まってくる部品は変わってくるし、慎重にやらなきゃガラクタを買うことにもなる。
          基盤はやられてないから外装だけで済むが、レオンの売りは軽量さだから素材が限定されてくる。
          間違いなく直すから、しばらく待っていてもらうぞ」

    ノパ⊿゚)「あぁ、あたしは構わないよ。
        むしろ修理できるだけ感謝だ、助かるよ」

    そう言って、女はコンテナの中にあるスイッチを押した。
    これでコンテナは自動で閉じることなくメンテナンスに専念することが出来る。
    棺桶の使い方を理解していることから、デレシアと共に旅をしていると推測できるこの女は、素人の棺桶持ちではない。
    負傷しているにも関わらずまるで隙を見せようとしない佇まいは、歴戦の猛者が醸し出すそれだ。

    ( 0"ゞ0)「じゃあこいつは少しの間預かるぞ。
          ところで一つ個人的なことをいいか?」

    ノパ⊿゚)「……何だい?」

    ( 0"ゞ0)「師匠を越える機会はもうないと思っていたが、ありがとな。
          間違いなくこいつを完璧以上に修理してやる」

    その言葉に、女は口の端を僅かに上げて答えた。

    ノパー゚)「礼を言うのはあたしの方さ。
        よろしく頼むよ」

    決して気取らず、清々しさを感じる対応だった。
    彼女はまだ一度も名乗っていないが、ソリンはその正体について確信を持っていた。
    この強化外骨格は一点物で、更には強固なセキュリティシステムによって所有者の変更にはかなりの時間と技術が必要だ。
    そのため、使用者が死なない限りその持ち主が変わることはない。

    極めて貴重な棺桶である“レオン”を使う殺し屋の話は、数年前に彼の耳に届いていた。
    ヨルロッパ地方で猛威を振るい、多くのギャングやマフィアを恐怖の底に叩起き落とした殺し屋。
    “レオン”の通り名を持つ非情な殺し屋、それがこの女の正体だ。
    標的の家族を皆殺しにする冷血な殺し屋にしては、隣にいる少年に向けられる笑顔と視線はあまりにも慈愛に満ちている。

    少年との血の繋がりはないだろうが、まるで歳の離れた姉と弟のような親密な雰囲気がある。
    本当に殺し屋のレオンなのかと疑いたくもなるが、デレシアと共に旅をしている時点で、一般人である可能性はまずない。
    何が彼女を殺し屋へと変え、今に至るのか。
    ソリンは彼女の過去に若干の興味を抱き、その姿を改めて見た。

    ノパー゚)

    ζ(゚ー゚*ζ

    だが人の過去など、見た目では分からないものなのだとすぐに思い出し、レオンを持って工場へと戻ったのであった。

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    August 20th PM11:00 ラヴニカ / 港

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    ラヴニカの北部にある港は静まりかえり、人気はまるでなかった。
    停泊している漁船を波が揺らし、波が奏でる安定した音だけが星空の下で奏でられている。
    海面が盛り上がり、人工物による不自然な波が生まれた時でさえ、目撃している人間は一人としていなかった。
    水中から鯨のように原子力潜水艦“オクトパシー”が現れた時に反応をしたのは、港で眠っていた野良猫ぐらいだ。

    ハッチが開き、そこから冬用のコートを着込んだ男が顔を出した。

    (’e’)「寒っ!!
        いやぁ、やっぱり自然の空気はイイねぇ!!
        寒いけど!!」

    イーディン・S・ジョーンズは年甲斐もなくはしゃいだ声を上げ、周囲を見渡した。
    船体は絶妙な舵捌きで接岸の態勢に移行し、協力者の登場を待つだけとなった。
    船内から彼を含めた数人が甲板に移動する。
    白い息を吐きながら、しばらくぶりの空気を吸い込み、それを堪能した。

    ( ゚∋゚)「ふぅ……」

    (´・ω・`)「ひゅう……」

    (’e’)「おいおい、大の大人二人がそんな溜息吐いてどうしたんだい?
       もっと喜ばないかね、この状況を。
       ラヴニカだよ、君たちぃ」

    ニット帽を被ったショボン・パドローネは、にこりともせずに返した。

    (´・ω・`)「博士、どうしてラヴニカに?
          別に我々が来る必要はないはずですが」

    鈍痛による寝不足から、彼の目の下には隈が出来ており、眉間に寄せた皺は彼が今不機嫌であることを如実に物語っている。
    だがそれを知っていながら、ジョーンズは全く態度を改めることなく続けた。

    (’e’)「ん? だってほら、君たちはデレシアたちの動きに興味があるだろう?
       私はある、だから来たんだ」

    クックル・タンカーブーツは暗視装置付き双眼鏡を覗いたまま、独り言のように言葉を発した。

    ( ゚∋゚)「だったら、ラヴニカではなくスノー・ピアサーを追うべきでは?」

    (’e’)「はははっ、クックル君は面白いことを言うね。
       スノー・ピアサーを追ったところで、デレシア一行を見つける確率は極めて低い。
       どうだね、賭けてみるかい?
       私は来ている方に百ドル賭けるよ」

    二人の反応とはまるで逆の陽気な口調でジョーンズは提案し、それに対して帰ってきたのは、やはり冷め切った口調で紡がれた言葉だった。

    (´・ω・`)「じゃあ僕は来ていないほうに」

    ( ゚∋゚)「同じく」

    (’e’)「ひゅう、辛辣だなぁ。
        まぁいい、何にしても賭けは僕の勝ちだ。
        さっき通信があってね、スノー・ピアサーからラヴニカに侵入したバイクが確認されているんだ。
        最低でもローブを着た人間が二人乗っていた、ってね。

        となれば、事前にスノー・ピアサーにバイクを持ち込んだ人間を考えればいい。
        目撃情報を統合すれば、乗っていたバイクはアイディールだ。
        リッチー・マニーからデレシアが譲り受けたというバイクと同型だが、あれは世界に三十台しか現存していない上に、ほとんどがコレクション扱いだ。
        ここまで情報が揃えば流石に答えは分かるさ」

    その言葉を聞いて、ようやく二人が感情のこもった声と共にジョーンズを見た。

    (#゚∋゚)「なっ?!」

    (´・ω・`)「博士、それは賭けとして不成立です」

    (’e’)「何故だね?
       私は情報が来る前からここに彼女たちが来ることを予想して動いていた。
       フェア以外の何物でもない勝負だ。
       ははっ、二百ドルの臨時収入とは、やっぱり今日はいい日だ」

    賭けとはイチかバチかではなく、勝てる算段がある時にこそ行うものだ。
    少しでも賭けを提案したジョーンズを疑わなかったことが、彼らの敗因である。
    流石に彼らも大人であるため、この賭けのことについてはこれ以上言及しようとしなかった。
    溜息を吐いてショボンが口を開く。

    (´・ω・`)「何故ここに来ると?」

    (’e’)「レオンにかなりの損傷を与えたことは分かっていたからね。
       これまでの傾向から、別に急いでいる旅でもないことが予想できた。
       ならば、立ち寄れるところでレオンを確実に修理できる街となると、ラヴニカしかないわけだ。
       後は修理できる技量を持った職人のいる店を訪問すれば、あっという間に見つけられる」

    (´・ω・`)「……こちらの勝算は?」

    真面目な口調のショボンの言葉に対して、ジョーンズは思わず鼻で笑った。
    それから、理解の悪い学生に教えるように説明を始めた。

    (’e’)「勝算? そんなものはね、君ぃ、ただの慰めだよ。
        デレシアがいる以上、そう簡単には勝てるもんじゃあない。
        いい加減学習したまえよ。
        狙うのは棺桶だけで、後は放っておくんだ」

    ティンカーベルでの失敗は、ジョーンズに大きな教訓を与えた。
    彼らのトップが排除を切望しているデレシアが持つ力と対応力は、生半可な計画を立てたところで全く意味をなさない。
    戦闘においてはこちらが高性能な強化外骨格を使用していてもそれを上回り、一瞬で戦局を覆す。
    いっそのこと触れないでおくのが最適解だが、ティンバーランドに敵対する存在である以上、見過ごし続けることは出来ないとの判断だ。

    確かに、いつか必ず彼らの前に立ちはだかり、それまで積み重ねてきたものを台無しにすることだろう。
    そうなる前に殺さなければならないが、それは今ではない。
    少なくとも、こちらの主戦力が各地に分散している今は直接的に彼女を狙うのは自殺行為だと考えている。
    無論、彼女と一緒にいる二人を襲おうものなら、デレシアを襲うのと同じような意味を持つため、却下だ。

    ならば、彼女たちの意識の外にある物を狙って徐々に弱体化を図るのが良いのは明らかだ。
    当初より狙っていたレオンを奪取するか、それが出来なければ破壊する。
    四六時中棺桶と共にいるわけではないだろうから、修理中の時を狙って襲撃すれば何かしらの成果は得られるはずだ。

    (’e’)「この街にいる同志たちに手を借りれば、なぁに、何かしらの戦果は挙げられるさ」

    (´・ω・`)「できればもう少し頼りになる同志が欲しいところですが、スコッチグレイン兄弟はまだ戦線復帰は難しそうなのかな?」

    ( ゚∋゚)「弟はいいんだが、兄の怪我が酷い。
        右腕右足、睾丸が失われている上に、入院中に左足の健が切られた。
        戦線復帰するにはそれなりの強化外骨格が必要だ。
        当分は実家のミザリーで療養するように伝えてある」

    (´・ω・`)「まぁ、“魔女”を殺した分の代償と思うしかないか。
         それだけの結果を出したんだ、休んでいても文句は言えないな」

    (’e’)「この街にも案外使える連中がいるはずさ。
       何せここは世界で一番コンセプト・シリーズが集まる場所なんだ、私の知らないものが山のようにある。
       想像するだけで興奮するねぇ、未知と言うものは!!」

    それから十数分後、黒塗りのバンが三台連なって港に現れ、彼らは予定通りラヴニカの地を踏みしめた。
    キサラギギルドと繋がりのある人間たちの運転するバンが港を去り、辺りは再び静寂に包まれた。
    星明りの下、波の音が夜風と共に穏やかな音色を奏で、夜が更ける。

    (:::::::::::)「……」

    ――ジョーンズたちが終始監視されていたことを知るのは、港にいた野良猫たちだけだった。

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    二二二二二二二ニニ>';二ニニニニニニニニニニム
    ニニニニニニニニニニ> ´ ./x≦⌒ヽ}ニニニニニニニム
    /}ニ7|ニニ> ´   〃   x≧;、^}ニニニニニニニニ_
      }/ |>'"     {{ {   f〃^リ }ニニニニニニニニニ
                  乂乂_∨ノ/ニニニニニニニニニヲ
                ー─‐/ニニニニニニニxイ7
                  /ニニニ=‐^マニ/ '/
             、     /-‐      マ′ /′
    \     ヤ^         、 _     ∨ノ
    \\     ∨`≧x、      ー=ニ≧ュ___〉
      \\   乂⌒ー- ≧ 、   f⌒¨¨ ´
       \\      ̄ ̄⌒ヾア'^人
    August 21st AM00:11 ラヴニカ
    ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

    トラギコ・マウンテンライトは目を覚ました時、目の前に見知った男の顔があることに危うく声を出して驚きそうになった。
    喉のところまでせり上がってきた声を殺し、それから自分が揺られるうちに眠りに落ちていたことを思い出した。
    僅かの時間だったのか、それとも長い時間だったのかは感覚的なものでしか判断が出来ないが、恐らく数時間は眠っていただろう。
    腕時計の蓄光塗料が狭い空間の中で光っているが、顔を動かしてもその文字盤を見ることが出来ない。

    その僅かな明かりが照らし出すのは、彼が監視しているオサム・ブッテロの寝顔だった。

    (;=゚д゚)「……」

    ( ゙-_ゞ-)「……」

    体で感じている揺れは、まだ移動が続いている証拠であり、完全に安全な状態になっていないことを表している。
    随分と長い時間車を走らせているが、目的地にはまだ到着したないのだろうか。
    追跡から逃れるためにわざと遠回りをしているのだとしたら、今の状況が芳しくないことを何よりも物語っている。
    それから体感で十分後、ようやく車が動きを止め、エンジンが切れた。

    すこししてから車の扉が開かれ、事前に決めていた目的地到着の合図がされた。
    コンテナを内側から開き、外気を肺に取り入れる。
    冷たい空気に眠気が一気に体から消え失せた。
    他のコンテナも開き、予定通りの人数が無事にラヴニカ内に到着できたようだ。

    (=゚д゚)「随分時間がかかったラギね」

    運転手を買って出たワカッテマス・ロンウルフに向かって、トラギコは声をかけた。
    コンテナから出てくる人間に手を貸しているワカッテマスは、トラギコの方を見ずに声だけで答えた。

    ( <●><●>)「尾行車がいましてね、それを振り切るのに時間がかかってしまいました。
            さぁ、ここから後は皆さんの予定通りに動いてください。
            長旅お疲れさまでした。
            すぐそこの掲示板にラヴニカの地図が貼ってあるので、参考にしてください」

    予定の形とは異なる時間、方法でラヴニカに到着した人間達は不平を一言も口せず、代わりに礼を述べてそこから三々五々に散って行った。
    その場に残ったのは三人。
    いや、四人だ。

    (*‘ω‘ *)「お客さんたちはどうしますっぽ?」

    ティングル・ポーツマス・ポールスミス。
    彼女はジャック・ジュノが寄越した見送り用の護衛だった。
    コンテナを偽装して街に入るグループに危険が及ぶ可能性を危惧し、列車に乗り合わせているブルーハーツの中で一番優秀な人間が宛がわれたのである。

    ( ゙゚_ゞ゚)「と、とりあえず宿を探したいな、なんて……」

    オサム・ブッテロは若干怯えていたが、前向きな考えを持っていた。
    腕時計を見ると、日付を跨いで三十分近くが経過している。
    確かに、ラヴニカの夜を宿なしで過ごすのは様々な面から見ても利口ではない。
    痛み止めが切れ始めたらしく、トラギコは右足の太ももの痛みに眉を顰めた。

     _,
    (=゚д゚)「そうラギね。
        今は安全な宿を探すのが得策ラギ。
        俺は早く肉とワインが欲しいラギ」

    ( <●><●>)「なら、私がどちらもいい所を知っています。
            お姉さんはどうされますか?」

    (*‘ω‘ *)「せっかくだからお兄さんたちと一緒に行くっぽ!!
           列車に戻るまでは有休扱いだから、観光なんかしたいっぽね!!」

    (=゚д゚)「ちょっと待て、あんた――」

    トラギコの言葉を遮ったのは、ワカッテマスだった。
    ここは自分に任せろと目で圧され、トラギコは大人しく引き下がることにした。

    ( <●><●>)「一つ訊いてもいいでしょうか」

    真剣そのものの口調で尋ねたワカッテマスに対し、ティムもまた、真剣な表情で頷いた。

    ( <●><●>)「何故、私たちなのですか?
            他の方々でもよかったのではないでしょうか」

    沈黙が流れるかに思われたが、ティムは即答した。
    その時に浮かべた無邪気そうな笑顔は、トラギコの目には不気味な怪しさが滲み出ているように見えていた。

    (*‘ω‘ *)「お兄さんたちと一緒にいれば面白いことがあると思ったからっぽ!!
          乙女の勘は昔っからよく当たるっぽよ!!」

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                |:.i:.:.:.:./:.:.:.:/  // !:′      ト:.:.:.:.、:.:.:.{:.:.:.:.:.: !
                |:.l:.:.:/:.:.:.:/ \〃   |l       {:.:.\:ヽ:.:.:.:.:.:.:.:.:l|
                l∧/{:.:.:./ `トミ{'   |! --───',:.:.:.:.:\>:.:.:.:.:.:.:リ
                {! {! V/   {じ!   l! ____   ',:.:.:i:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:′
                     }l、≧=イ    ヽ.´ ̄{!じド=ァー}:.:.l:.:.:.:、:.:.:.:.:.:ヽ
                     イ{   ノ       戈zリ , ∧:.ト、:.:.:.\:.:.:.:.:.\
                  イ:.:.∧  丶       丶ー==彡./:.:/ヾ 7、:.:.:》:.:、:.:.:.:.\
               /:.:.:.ォ,イ:.:.:.、   、__ __        /:.:/{!  イ:.:.:\{:.:.:.`ト..:.:.:.\
            ./:.: /// !:.:.:.:.:.:.... `こ_ノ        /:.:.:爪イ:.:!:.:.:.:.:.:、:.:.∧ `:<:.:\
            イ:.:./ 〃 |!:.:.:.:.:.:.:.:\ ___ . -- イ:.:./ }:.}:.!:.:l:.:.:.:.:.:.:.ヽ:.:.:.:\  `:<\
           /:./   ./   :|i:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.イ廴_ /:.:.:.イ=:{:.{《:.:.:ゝ:.:.:.:.:.:.:.:\:.:.:.:\   ヾ:..、
    Ammo for Rerail!!編
    第六章【ancient rules -古の規則-】 了
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