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第三章【Snowpiercer part1-雪を貫く者part1-】

  1. 名前: 歯車の都香 2019/05/07(火) 20:13:14
    第三章【Snowpiercer part1-雪を貫く者part1-】


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    神はこの世にいない。
    誰も証人がいないし、証拠がないからだ。
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    : : :   :                   ,,∧
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    ニ';-'"~:::..:.:.`''ー-、__,,,、-‐- ..,,__         :::::::::.'ー.゙''\ ,! ..:;:.,..  ;  '  ,.::.:. "'-、
     .... ~""'''ー- ...,,___::.:...  :::..:.:.:::...~""''""´`'t       だが、あの山には悪魔がいる。
     .,,.::.. .::. ..:.   ;;,,   ̄ ̄~~""'' - 、..::;.:..:...  `:,、 .:.:;; 俺が証人で、この体が証拠だ。
    ニ″::::::   .::...   ;,,,,;;  ;;   ;;:.   ~"'-、 ::::::;;.::.:;..:.:.:.....  .:. ......:::;.::.:.... 
                    ――クラフト山脈登頂挑戦者、“三本指”のビリー・バリアフリード

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    August 15th AM07:30

    頭上には青空が広がり、眼下には切り立った崖と鬱蒼とした針葉樹林が広がっていた。
    転落すれば間違いなく死が待っていることを嫌でも認識させる高さからの眺めだが、それは絶景と言っても過言ではなかった。
    限られた場所でのみ見ることの許される景色。
    それが困難な場所であればあるだけ、人はそれに惹かれるのかもしれない。

    圧倒的な標高を誇るクラフト山脈からの眺めは、これまでに登山家達だけの物だったが、今はそうではない。
    純白の列車がレールに積もった雪を蹴散らし、通り過ぎた山肌の雪を吹き飛ばして疾走する。
    その車窓から眼下に見下ろす圧倒的な景色に、乗客たちは惚れ惚れとした様子で溜息を吐いた。
    彼らの乗る列車は平地に比べて非常にゆっくりとした速度でクラフト山脈の隣を走るが、その速さは安全性が約束される最高速度だった。

    世界最新の列車とはいえども、足元に敷かれたレールが唯一の命綱であり、これから先の道を保証する唯一の存在だ。
    そしてある意味不安定な未来を保証するそのレールの上を走るスノー・ピアサーは、右手側から登ってきた夏の太陽に照らされ、白く輝きを放っていた。
    列車の生み出した風によって作り出されるその輝きは極めて幻想的で、細かな光の羽衣を纏っているように見えた。
    すでに車輛はクラフト山脈を二割ほど進み、着実に目的地に向かって進んでいた。

    進んでいることを実感させる要素は風景だけだが、その風景の圧倒的な美しさに、乗客たちは映し出される景色に目を奪われ、時が経つのを忘れた。
    食堂車で朝食を獲る客たちは、淹れたてのコーヒーや紅茶を堪能しつつ、焼き立てのパンや夏の果物を口に運んで優雅な時間を楽しんでいる。
    控えめなクラシックがBGMとして流れる車内には食欲をそそる香りが立ち込め、人々が談笑しつつ、食事を堪能する和やかな空気が流れていた。

    ζ(゚ー゚*ζ「いただきます」

    デレシアはマグカップに入ったコーヒーを一口だけ飲んでから、バターをたっぷりと塗ったトーストを口にした。
    ざふりとした香ばしい表面とは違い、赤子の肌のように弾力のある内側からは甘い香りを孕んだ湯気が薄らと立っている。
    分厚く切られたトーストは上質なものであるとすぐに分かるほどで、バターもまた、その奥深い味わいから妥協のない一品だと分かった。
    濃厚なバターの甘味と塩味に満足そうな声を上げ、デレシアは思わず笑みを浮かべた。

    ζ(゚ー゚*ζ「あら、美味しい」

    ノパー゚)「こっちのオニオンスープも美味いな」

    最初の一口にスープを飲んでいたヒート・オロラ・レッドウィングは感想を述べ、すぐにまたスープを飲み始めた。
    彼女の飲んでいるオニオンスープには細かく刻まれた玉ねぎが浮かび、コンソメで味付けがされただけのシンプルな料理だが、コンソメに相当な旨味が凝縮されているようだ。
    香りの中に複雑な素材の香りが感じ取れ、ただならぬ旨味成分を予想させた。

    (∪*´ω`)「このパンもおいしいですお」

    ロールパンにソーセージと千切りのキャベツを炒めたものが挟まれたものを頬張りながら、ブーンも感想を口にした。
    子供用にケチャップだけの味付けにされているようだが、それでもブーンは満足している。
    ソーセージの焼き目はきつね色で、皮も破裂することなく皮を噛みきる快感の余地を残している。
    口の端にケチャップを付けたまま、ブーンは笑顔でミニホットドッグを食べ続けた。

    彼はすでに三つ目に手を付け、旺盛な食欲を見せている。
    コールスローサラダも合間に食べるよう、ヒートがアドバイスをするとブーンはすぐにそれに従った。
    列車の中で作られた食事ではあるが、食材の管理方法が非常によく、鮮度がまだ損なわれていない。
    後はシャルラに到着するまでの間に、どこまでこの質が落ちないかがこの列車の料理人の腕の見せ所だろう。

    デレシアもブーンと同じく、コールスローを口に運んだ。
    さっぱりとした味だが、その中に施された小さな一手間に笑みがこぼれる。
    みじん切りにされているために見た目には分かりにくいが、リンゴが入っていた。
    酸味と甘みの調和がとれたコールスローは、朝に食欲が湧かない人間にも食べやすいものだ。

    メインの食事を終えたブーンは、黄金色に輝くリンゴを食べ始めた。
    琥珀が埋め込まれたかのようなリンゴはその音だけでも歯ごたえがあり、甘味が相当あることがよく分かる。

    ζ(゚ー゚*ζ「美味しい?」

    訊かずとも、彼の食べる音が答えを語っている。
    それでも彼の幸せそうな笑顔を見ると、思わず訊かずにはいられなかった。

    (∪*´ω`)゛

    しかしこの瞬間。
    デレシアでさえも安心してブーンを眺めていたこの瞬間――

    (∪´ω`)「お?」

    ――ブーンだけが、世界の異変に気付いた。

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    Ammo→Re!!のようです
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                                                Ammo for Rerail!!編
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    突如食事を中断したブーンの変化に、デレシアとヒートはただならぬ何かを感じ取った。
    彼は人間よりも遥かに優れた五感を有し、二人には感知できない物を感知することが出来る。
    その彼が動きを止めたということは、彼が何かを感知したのだ。
    匂い、振動、音、あるいはそれら全てを総合した異変を。

    異質な何かを知覚し、その正体を探るためにブーンは視線を周囲に向け、首を傾げた。
    一瞬だけ見せた彼の鋭い動きは、さながら森の侵入者を察知した狼を彷彿とさせた。
    だがすぐに彼は子供らしい仕草で自分の咄嗟の行動を理解できない、という意を表した。

    (∪´ω`)「おー?」

    ζ(゚ー゚*ζ「どうしたの、ブーンちゃん?」

    (∪´ω`)「なんか、いやなおとがきこえませんでしたか?」

    音となると、デレシアとヒートにも聞き取れる限度がある。
    ブーンにしか聞き取れない音があったのであれば、それは聞いておくべきだ。
    銃声、爆音、もしくは音響兵器など可能性はいくらでもあるが、彼が嫌な音と表現したのが気になった。

    ノパ⊿゚)「嫌な音? どんな感じの音だ?」

    スノー・ピアサーの先頭車輛が、目前に現れたトンネルにその頭に差し込んだ。
    少しずつ淡い闇が車輛を覆っていく。
    世界が夜になるように、白い列車が黒に染められていく。

    (∪´ω`)「ぎゅぎゅ、っておとですお。
          やまのほうから……
    あ、ごーっておとが、おおきく――」

    ζ(゚-゚ζ

    彼女たちに“まだ”その音は聞こえない。
    聞こえないが、聞こえる人間がここにいる。
    そしてそれを逆算すれば、音の答えは自ずと出てくる。
    何一つ彼女たちが感じ取れることはなかったが、彼の言葉を聞いた直後にやるべきことは一つだった。

    ノハ;゚⊿゚)

    その言葉でブーンが何を聞き取ったのか、デレシアとヒートは同時に理解していた。
    反射的に山を仰ぎ見て、デレシアがブーンを抱きかかえてヒートと共に部屋に駆け戻る。
    目を白黒させるブーンをベッドの中に押し込み、二人はその上に空間を作って覆い被さった。
    そして、白い衝撃がスノー・ピアサーに訪れた――

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    Ammo→Re!!のようです
    Ammo for Rerail!!編


    『最も明確に破壊の意思を持った、最も無垢で美しい自然現象』

                                   ――山岳救助隊、ガック・マウントニア


    第三章【Snowpiercer part1-雪を貫く者part1-】
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    車体に搭載されている防御装置の始動は、一切のアナウンスなしに自動的に、そして機械的に最高のタイミングで行われた。
    それは人間の意志とは別に稼働するように設計された、自然災害に対応するための装置だった。
    緊急停車装置は乗客に対しての衝撃を最小限に抑える設計だったが、金属同士を擦り付ける甲高い音と急制動に伴う衝撃は殺しきれない。
    そして、列車最大の敵である横方向からの衝撃に対抗するための衝撃相殺装置は鐘の音に似た鈍い金属音を鳴らし、横殴りの衝撃を軽減した。

    突如として訪れた衝撃は短いものだったが、体験した人間達にとってその時間はあまりにも長すぎた。
    完全に停車した車内は一瞬黒に染まったが、すぐに明るく照らし出された。
    それが外部の映像ではなく、本来の内装であることは明白だった。
    沈黙はいつまでも続くかに思われたが、すぐに車掌の声がそれを打ち消した。

    『ご乗車の皆様にお知らせいたします。
    先ほど、クラフト山脈頂上付近で大規模な雪崩が発生いたしました。
    現在スノー・ピアサーはトンネル内に緊急停車しております。
    車輛の確認と周囲の確認を行い、運転再開の目安が分かり次第再びお知らせいたします。

    運転再開まで今しばらくお待ちください』

    普通なら恐怖とパニックのあまり、車内放送など出来ない状態に陥るが、車掌であるジャック・ジュノは己の役割を的確に果たした。
    賞賛する機会があればそうしたいところだが、今はそんな時間も余裕もない。
    デレシアとヒートはブーンの上からほぼ同時に起き上がり、ひとまずブーンに被害が及んでいないことを確認してから、安堵の息を吐いた。

    ノハ;゚⊿゚)「ふぅ…… タイミングが良かったな」

    ζ(゚ー゚*ζ「トンネルがなくてもどうにかできたでしょうけど、流石に棺桶を使っているだけはあるわね。
          普通の列車なら間違いなく脱線、転落してたわ」

    本来は戦闘用に開発された軍用第七世代強化外骨格――通称、棺桶――を列車に取り込んだだけはあり、雪崩の直撃を受けても列車が横転する気配はなかった。
    スノー・ピアサーは豪雪地帯での高速戦闘に特化して開発されただけあり、雪に関する様々な対抗手段を備えていた。
    その一つが、戦闘時とは異なる振動を発する高周波振動発生装置の存在だ。
    身に触れる雪と液体を全て振り払うことを目的とし、例え硬化した雪の壁を前にしても難なくその中を闊歩できる能力を有している。

    その装置を、列車全体を覆う風防に連動させることで、スノー・ピアサーは豪雪地帯であるシャルラ方面とクラフト山脈での運転を可能にしたのだろう。
    他にも多々ある装置を全て雪害対策に割り当てることで、雪崩に対する対抗装置としたのだ。
    設計者はさぞかし優秀な人間に違いないと、デレシアは一層関心を深めた。
    正直なところ、エライジャクレイグがここまで技術的に発展してくるとは思ってもみなかった。

    いい意味でこの街はデレシアの予想を裏切ってくれたことが分かり、嬉しいと思う反面、この状況をブーンの成長にどう繋げられるのか。
    そして、この列車に乗り合わせている怪しげな人間たちの動向も気になるところだ。

    ζ(゚、゚*ζ「とはいえ、トンネル内に閉じ込められたのは確かね」

    ノパ⊿゚)「どうすんだろうな、これからよ」

    ζ(゚、゚*ζ「まぁ、雪崩だろうが何だろうがこの列車は走れるけど、問題はレールね」

    ノパ⊿゚)「ってえと?」

    ヒートの出自やこれまでの経緯を考えると、雪崩の威力についての知識が少ないようだ。
    デレシアは彼女だけでなく、ブーンにも伝えるために簡単な単語を選んで説明をすることにした。

    ζ(゚、゚*ζ「スノー・ピアサーの外装は高周波振動で障害物や着氷を吹き飛ばせるの。
          走破性能は抜群なんだけど、多分、あの雪崩でレールがダメになったかもしれないわね。
          だからまず停車して、車両点検と合わせてレールの状態を確認するんだと思うわ」

    雪崩の持つ力はすさまじく、鋼鉄で作られたレールなど容易に破壊してしまう。
    列車の命は車輪とレールであり、そのどちらかが壊れた場合、走行は困難を極める。
    車輪はどうにか出来るとしても、替えの利かないレールはその土台も含めて厳重な管理と設計がされている。
    よほどのことがない限り破損はしないが、一度破損すれば、交換する以外の手立てがなくなる。

    事態の深刻さは、停車時間の長さに比例すると断言してもいい。
    時間が長引いて問題となるのは、スノー・ピアサーの動力だ。
    これだけの大型の列車を動かすだけでなく、暖房の使用にもそのエネルギーを使わなければならない。
    長期化すればそれだけエネルギーが失われ、シャルラに到着する前にここで詰むことになる。

    予備の動力源はあるだろうが、レールが駄目になっていれば、気休めにしかならない。
    静観するのも一つの選択肢だが、この列車の乗客がいつまでも大人しくしていられるかは分からない。
    中には短気で後先を考えない馬鹿もいるだろうから、それをどう抑え込めるのかが肝となる。

    ζ(゚ー゚*ζ「さて、不満を垂れ流しても生まれる意味は限られているし、面白くもないわ。
          有意義な時間にしましょう」

    ノパ⊿゚)「ま、それもそうだな。
        ……どうした? ブーン」

    (∪´ω`)「お…… さっきのしろいのは、なんだったんですかお?」

    ζ(゚ー゚*ζ「あれが雪崩よ。
          雪が一気に滑り落ちてくる災害ね。
          埋まってもダメ、当たってもダメ、目視してから逃げるのはとても難しいの」

    (∪´ω`)「なだれ……」

    ζ(゚ー゚*ζ「ブーンちゃんが音を聞いていてくれたから、とても助かったわ。
          正直、私もヒートも全然分からなかったもの」

    彼が雪崩の予兆、そして発生の音を聞き取ったからこそ、デレシアたちは最善の行動をとることが出来た。
    状況が状況であれば、彼は多くの命を救ったことだろう。
    ブーンの頭を撫でつつ、デレシアはヒートに目配せをした。
    負傷した腕でブーンの上に咄嗟に覆い被さるだけの行動力は見事なものだ。

    アドレナリンによって痛みが緩和されていただろうが、そろそろそれも切れる頃合いだ。
    デレシアの視線の意図に気づいたヒートはだがしかし、僅かに頭を振って答えた。
    何かを失う痛みに比べたら、体の痛みなど、取るに足らないものだと分かっている人間の目をしていた。

    ノパ⊿゚)「さて、何するかな」

    ヒートがそう呟いた時、車内放送がかかった。

    『大変長らくお待たせしております。
    現在、車両の確認を行いましたが、トンネルの一部が崩落していることが分かりました。
    また、その先のレールの状況について確認することが困難であるため、スノー・ピアサーは状況回復が完了するまで、この場に停車いたします。
    乗客の皆様は引き続きスノー・ピアサー内でお待ちいただき、連絡をお待ちください』

    その声は平静が保たれ、あまり深刻なことのように思わせない力があった。
    乗客がパニックに陥るとどうなるのか理解し、そしてそれを回避する術を知る人間の発言力だった。
    内心は違うだろうが、それをよく表に出さずにいられる。
    まったくもって、この列車には驚かされ続けている。

    このスノー・ピアサーに関係する人間たちは、エライジャクレイグ史上最も優れた世代であると言っても過言ではないかもしれない。

    ζ(゚、゚*ζ「あらら、残念」

    ノパ⊿゚)「今の話は本当っぽいな」

    ζ(゚ー゚*ζ「まぁ、この状況になって嘘を吐くことのリスクを考えたんでしょうね。
          ラウンジでお茶をもらってきて、ブーンちゃんのお勉強でもしましょうか」

    行き過ぎた情報の開示と隠匿は、どちらも人間の不信感を募らせる結果につながる。
    車掌の判断は素早く的確だ。
    スノー・ピアサーの車窓が全て映像であるという利点も生かし、外部からの情報は全て放送によってのみ伝えられる。
    また、運転席には一般客が入れないよう、その接合部に厳重なセキュリティがかかっているはずだ。

    こうなってしまえば乗客は放送を信じるしかなく、下手に騒ぎ立てても意味がないことを自ずと理解する。
    壊滅的に察しの悪い乗客についてはブルーハーツが対応するだろう。
    情報統制が事態悪化を防ぐ手段の一つであるというのは、いつの時代も変わらない事実だ。
    パニックに陥り、乗客が事態を悪化させて最悪の結果を招いた例はいくらでもある。

    ζ(゚、゚*ζ「……うーん」

    オアシズの時もそうだったが、閉鎖的な場所というのは良からぬ考えを持つ人間にとっては好都合な状況だ。
    そんな中、皆で行動するのもいいが、ここは面倒ごとを一点に集中させて処理したほうがいいだろう。

    ノパ⊿゚)「どうした?」

    ζ(゚、゚*ζ「二人はここで待っていてもらえるかしら?
          ラウンジには私一人で行くわ」

    (∪´ω`)「お?」

    ζ(゚ー゚*ζ「その間、ヒートと一緒にお勉強していてちょうだい。
          ヒート、ブーンちゃんに単語を教えてあげてもらえる?」

    ノパ⊿゚)「まぁ、いいけどよ。
        何かあったのか?」

    両脇のホルスターに収めたデザートイーグルの薬室を確認してから、フートクラフトで買った上着ではなく、草臥れた色のローブを着た。
    アメニティにあったゴムを使って後ろ髪をうなじの上で一つに結ぶ。

    ζ(゚ー゚*ζ「多分、そろそろ仕掛けてくる頃かなって」

    そう言って、デレシアは部屋を出た。
    廊下も全ての景色が消え、本来の姿である白い壁と天井になっていた。
    柔らかい色の明かりが足元と頭上を照らし、その淡い明るさは外の時間の感覚を狂わせる。
    外の明かりを取り込まない構造の目的は、やはり外部の情報を極力遮断するためだろう。

    断片的な情報が場を混乱させるのならば、いっそ全て遮断するという方法を取るのはある意味で合理的だ。
    廊下を進むと、特別寝台車の正面にあるラウンジ車輛から音が漏れ聞こえていることに気づいた。
    だがそれは狼狽する人間の声でも、物を破壊するような不愉快な音ではなく、フリージャズの音色だった。
    生演奏の音ではなく、紛れているノイズ音がその正体を物語っている。

    ラウンジ車輛に入ると、その音が車両全体に響いていることが分かった。
    天井のスピーカーから控えめな音量で流れるフリージャズに、人々は耳を傾け、平常心を取り戻しつつあった。
    それはスノー・ピアサーに対しての信頼と、従業員に対する信頼によるものなのだろう。
    空気を読まない行動で場を乱す輩はいなさそうであることが、ひとまず嬉しいニュースだった。

    カウンターに行き、そこにいた男にデレシアは声をかけた。

    ζ(゚ー゚*ζ「ハーブティーが欲しいのだけど、置いてあるかしら?」

    「はい、ございます。
    お好みのブレンドはございますか?」

    即答した男はいくつか茶葉を紹介し、デレシアはその中からいくつかの茶葉と素材を選び、ブレンドしてもらうことにした。
    その場でブレンドした茶葉を薄い布袋で包んだものと沸騰させた湯を使い、男は魔法瓶にハーブティーを注ぎ始めた。

    「お待たせいたしました。このまま後三分ほどで美味しいお茶が出来ます。
    袋はそのまま捨ててください、入れすぎると渋みが出てしまいますので」

    ζ(゚ー゚*ζ「ありがとう。
          ねぇ、この列車の動力源って何か知っているかしら?」

    「申し訳ありません、このスノー・ピアサーの機関に関しては、一部の上層部や整備士にしか情報が伝わっていないんです。
    末端の私には、そんな機密情報などとても」

    「あれ、お姉さんじゃないですかっぽ!!」

    その声は、デレシアの真後ろから唐突にかけられた。
    気配と視線を感じてはいたが、この状況で行動を起こすとは予期していなかった。

    (*‘ω‘ *)「いやぁ、ご迷惑をおかけしておりますっぽ!!
          怪我とかはしていませんかっぽ?」

    ティングル・ポーツマス・ポールスミスは歯を見せて笑いながら、デレシアに手が届く距離に立っている。
    跫音をほぼ完全に殺し、気配さえ僅かなものに抑え込む技術はブルーハーツには不似合いな物。
    むしろ、不要なものと言ってもいい。
    この女に対する警戒は怠ってはならないと、デレシアは直感的に確信した。

    絶好のタイミングを逃さず、デレシアへの接触を試みたということは、何か意図があるはずだ。

    ζ(゚ー゚*ζ「えぇ、大丈夫よ。
          貴女はこの列車の動力源を知っているかしら?」

    (*‘ω‘ *)「難しいことを抜き簡単に言えば、レールから供給される電力ですっぽ!!
          メインの動力がなくなっても、各車輌の下部にあるバッテリーに蓄電されているから心配はいらないですっぽ!!」

    レールから接触式で電力を得る方式は、エライジャクレイグがほぼ全ての車輛で採用しているものだ。
    だがそれを成立させるには近くに発電設備が必要であり、クラフト山脈には当然そのような施設はない。
    疑問を氷解させるには彼女の答えは十分だった。
    これだけの長さと重さがあるスノー・ピアサーを動かすとなれば、かなり大きな電力が必要だが、なるほど車輛に大型バッテリーを積んでいるのであればある程度はもつだろう。

    だがそれは別の疑問を抱かせた。
    電力の安定供給がない状況でこの列車はどこまで走ることが出来るのか、という点だ。

    ζ(゚ー゚*ζ「高周波振動はかなりバッテリーを食うはずだけど、それは平気なの?」

    (*‘ω‘ *)「……お姉さん、凄い詳しいですっぽね。
          でも、高周波振動は必要な時にだけ稼働させるから問題ないですっぽよ」

    ここで彼女が嘘を一つ吐いたことを、デレシアは聞き逃さなかった。
    スノー・ピアサーに搭載されている高周波振動発生装置は、雪害に対抗するためのもので、低出力で常時起動させているはずだ。
    雪は見た目には分からない部分に思いがけない影響を与えることがあるため、棺桶として開発された際に、高出力ではなく最低限の出力による長時間の稼働が重要視されていた。
    適切な出力が自動で行われるからこそ、本来のスノー・ピアサーは雪中での移動は勿論、雪上を滑るように高速で移動が出来たのである。

    進むにしても戻るにしても、高周波振動は必要不可欠な存在であり、それなくしては瓦礫で塞がったトンネルから出ることはできないはずだ。
    デレシアの予想がある程度正しければ、フートクラフトを出発してから電力供給はなかっただろう。
    となると、緊急時に作動したあれらのシステムが予定以上の電力を消費したのは明らかだ。
    それがどれだけの影響を及ぼしたのか、今の状況を見れば予想が出来る。

    バッテリーはシャルラまでどうにか到着できる程度しか残っておらず、余計なことに電力を使えるだけの余裕がないはずだ。
    しかしそれは、果たして何の意味があるのだろうか。
    彼女が乗客に心配をさせまいとして吐いた嘘であれば分かるが、中途半端な嘘を吐く意味が分からない。
    先ほどの男が動力を知らされていないにも関わらず、それを一般客に平然と教えるという姿勢は、どう考えても不自然だ。

    嘘の質が悪すぎる。
    質の悪い嘘はタチの悪い展開への入り口になりかねない。
    だが逆に、それがティムの正体につながる可能性も有りうる。
    この女がティンバーランド側の人間か否かによって、この列車が戦場と化すかどうかが決まる。

    考えられる最も高い可能性は、デレシアを試しているという可能性だ。
    何かを探られるのは気分のいい話ではない。
    これ以上この話に深く触れる前に話題を変えることにした。

    ζ(゚、゚*ζ「ふぅん。で、不正乗車の件はどうなったの?」

    (*‘ω‘ *)「フートクラフト出発前に見つけてボコボコして、村の自警団に任せたっぽ!!
          そんなことより、お姉さん、この後時間ありますかっぽ?」

    ζ(゚ー゚*ζ「ないわね」

    隙あらばデレシアとの接触を画策している人間の望みなど、聞く必要はない。
    そこにあるのは面倒以外、有り得ないのだ。

    (*‘ω‘ *)「残念ですっぽ!!
          この後、ラウンジA車輛でジャズの生演奏をすることになっていますっぽ!!
          良ければぜひお越しくださいっぽ!!」

    ζ(゚ー゚*ζ「暇があればそうするかもしれないわ。
          最後に一つ質問をしてもいいかしら?」

    本当であればここで会話を終わらせ、部屋に戻ることも出来るが、一つ知りたいことがあった。
    短い会話しかしていないが、彼女の出自についてデレシアは確信を持っていた。

    (*‘ω‘ *)「お答えできる範囲でならいいですっぽ!!」

    ζ(゚ー゚*ζ「貴女、ジュスティア出身でしょう?
          立ち振る舞いとアクセントがそうだもの」

    もっと言えば、この女は警察で訓練を積んでいたことがあるはずだった。
    言わずもがな、ジュスティア出身だからと言ってティンバーランドと無関係とも関係者とも言えない。
    しかし何かのきっかけにはなるはずだ。

    (*‘ω‘ *)「凄いですっぽね!!
          初めて私の出身地を言い当てられましたっぽ!!
          昔警察に勤めていて、その伝手でこの仕事を紹介してもらったっぽ!!」

    素で驚いているのか、ティムは大きな目を丸くしてデレシアを見た。
    下手に否定をしないのは自信の表れか、それともデレシア相手に嘘を吐くことの愚を理解したのか。
    もしくは、この女はデレシアにこれ以上言及されることを防ぐために、あえて肯定したのかもしれない。
    結果的にこの問答でデレシアが得られた情報は少なかったが、意味のある会話にはなった。

    これでティムはデレシアに対して一層の警戒心を抱き、これまでのような迂闊な言動は控えるようになるはずだ。

    ζ(゚ー゚*ζ「ふふっ、良かった、当たっていて。
          それじゃあ、お仕事よろしくね」

    ハーブティーの入ったポットを持って、デレシアはティムに背を向けた。
    部屋に戻るまでの間視線を感じていたが、声をかけられることはなかった。

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    クラフト山脈仮設トンネル内
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    クラフト山脈で発生した雪崩の規模は、麓にある森の一部が消えるほどの大きさで、スノー・ピアサーが無事だったのは奇跡に近かった。
    車掌であるジャック・ジュノは雪中活動用に用意された非武装のジョン・ドゥに身を包み、部下たちと共に被害の確認を行っていた。
    幸いにしてスノー・ピアサーへの被害はなかったが、レール状態報告システムが異常を示していた通り、トンネルの先が崩落し、その先の様子が見えなかった。
    この様子ではレールが崩れ落ちていないとも限らないが、それは見なければ分からないことだ。

    どれだけの量の瓦礫を取り除き、どれだけの時間がかかるのかはまだ分からない。
    トンネル内に記された数字が示すのは、少なくともこのトンネルが後百メートルは続くということであり、それはすなわち、それだけの長さの崩落が起きている可能性を示していた。
    強化外骨格で瓦礫を除去していたのでは間に合わない。
    やはり、スノー・ピアサーの高周波振動発生装置の出力を最大にして対応する他なさそうだ。

    〔Ⅲ゚[::|::]゚〕『各所、被害報告を』

    念のため、部下たちに最終的な報告をさせる。
    無線機から問題なし、という報告が続く。
    二十輌全てに問題がないことが改めて分かり、ジュノは決断に迫られていた。
    退路も進路もその道を雪と崩落によって潰され、命綱であるレールの状態について目視することはできない。

    どちらの道を進むにしても、レールの状態が分からないことには進みようがない。
    スノー・ピアサーの力を使えば前進も後退もできる。
    瓦礫など大した障害にも感じることなく進めるが、万が一、レールが破損していて脱線してしまえば待っているのは大惨事だ。
    そして何より、動力源の問題から選べる道は片方だけという点が、彼を悩ませていた。

    スノー・ピアサーはレールを経由して動力源を確保する設計になっているが、クラフト山脈沿いのこの道においてはまだ出来ない状態なのだ。
    そのため、車輛に積載されたバッテリーを使ってクラフト山脈を走破し、山から抜けたところで電力を再び得て動き出すようになっている。
    ただ走るだけならば問題のないバッテリーの容量なのだが、高周波振動を最大出力で使用すれば、かなりの電力を消費することになる。
    一度使えば、進路を変えるだけの電力は残されない。

    すでに緊急用のシステムを作動させたことで、電力状況は悪化している。
    暖房も何もかもが電力で賄われているスノー・ピアサーは、一刻も早く進むべき道を決め、走り出さなければならなかった。
    この場に留まることは得策ではない。
    この後、スノー・ピアサーはこの旅路最大の難所を突破する予定となっており、このようなところで疾走が止まるわけにはいかない。

    可能な限り電力を温存した状態でその難所に入らなければ、ここを走破しても意味がない。
    さもなければクラフト山脈の道中で立ち往生し、乗客全員の命が危険にさらされ、最後にはエライジャクレイグ始まって以来の大事件になる。

    〔Ⅲ゚[::|::]゚〕『……ティムを呼んでくれ。
          彼女に頼みがある』

    彼にとって今優先するべきなのは己の保身や社のプライドではなく、乗客の安全とその旅の継続だった。
    このような事態に備えて常駐しているブルーハーツの人間に手を貸してもらうのは、今できる中で最善の一手であり、賢明な手段だった。
    数分後、ティングル・ポーツマス・ポールスミスが重厚なコンテナを背負ってやってきた。

    (*‘ω‘ *)「お呼びですかっぽ?」

    彼女の快活な声がトンネルに響く。

    〔Ⅲ゚[::|::]゚〕『進路の瓦礫を除去して、その先のレールを見てきてもらいたい。
          バッテリー残量はどれくらいだ?』

    最後に充電、電力供給を受けたのはフートクラフトの駅だ。
    そこから十時間近く走り続けたとなれば、二割以上の消耗は覚悟しなければならない。
    山の厳しい天候に耐えながら走り切るためには、最低でも六割はバッテリーが残っていなければならない。

    (*‘ω‘ *)「残り七割ってところですっぽ。
          今、できる範囲内での節電をしていますが、この場所に留まるとしたら一日が限界ですっぽ。
          あの場所を通り抜けるのに必要な電力を保持して、の話ですっぽ」

    〔Ⅲ゚[::|::]゚〕『そうか。あの瓦礫、君ならどれぐらいで通り抜けられる?』

    (*‘ω‘ *)「五分もあれば外に出られるはずですっぽ。
          本当に私が使っていいですっぽね?」

    〔Ⅲ゚[::|::]゚〕『そのためにセキュリティを書き換えてもらったんだ。
          それに、ブルーハーツで一番の使い手は君だ。
          頼む、ティム』

    ティムは頷き、背負った棺桶の起動コードを静かに口にした。

    (*‘ω‘ *)『私は厳格な規律を守り、無秩序な混沌を忌む。
          定められた場所で、定められた者が、定められたことを成す。
          これ即ち、人間の理なり』

    これこそがスノー・ピアサーの核。
    車輛全体を覆う外装にその能力を分け与え、多くの不可能を可能にする存在。
    軍用第三世代強化外骨格、スノー・ピアサーである。

    [@]:: ┳>@]

    武骨な直線で構成された白い装甲。
    両肩に向けて背中から伸びている大型のエアインテーク。
    流線型のヘルメットの下に輝く四つのカメラは、使用者に肉眼以上に拡張された世界を見せる。
    上半身の装甲とは対照的に、その下半身の装甲は不揃いで、よく観察すれば取り付けられている装甲のほとんどが他の棺桶からの流用であることが分かる。

    両腕はトゥエンティー・フォーの物で、脚部はソルダット、胸部はジョン・ドゥのそれだ。
    残されているのは頭部と肩部、そして背負った大型の装置だけである。
    本来の装甲はそのほとんどを列車に使用し、このスノー・ピアサーは分散した部品を動かすための鍵として列車の機関部に取り付けられている。
    列車であるスノー・ピアサーはこの棺桶の能力を拡張するための装置としての役目を担っており、この列車自体が棺桶であると言い換えてもよかった。

    [@]:: ┳>@]『では、いきますっぽ』

    装着を終えたティムは、レールの上に両足を乗せて仁王立ちになった。

    〔Ⅲ゚[::|::]゚〕『やってくれ』

    部品の多くを失ってはいるものの、この状態のスノー・ピアサーにはいくつもの機能が残されている。
    背負っている大型の機材はその核であり、スノー・ピアサー全体を覆う外装への指示を行う最重要の部位だった。
    コンセプト・シリーズとして設計されたスノー・ピアサーの能力を発揮するための心臓部。
    今はそれを外部に出力し、己の身を守るための装甲がないだけで、保有する能力自体は消えてはいない。

    その内の一つが、高周波振動発生装置だ。
    装甲の凍結防止と高く積もった雪の中を移動するために用意されたそれは、通常は攻撃に転じさせるものではない。
    雪害に対抗するための備えだ。
    しかし出力を調整することで、それを応用して武器にすることもできる。

    両腕をまっすぐに伸ばし、胸の前で両手を合わせて拳を作る。
    それは祈りではなく、突き進むための決意の形。
    前に進むことだけを考えた、覚悟の表れ。
    自身が生み出す高周波振動を一か所に集中させ、諸刃の剣として使用する、緊急時にのみ許された攻撃の在り方。

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    [@]:: ┳>@]『せぁあああっ!!』

    腕の関節部を固定させ、ティムはそのままレールの上を一気に疾走した。
    背負った装置が外気を取り込み、驚異的な排気を行うことで瞬間的ではあるが爆発的な推進力をその機体にもたらした。
    本来は雪上を高速で移動するための装置だが、使い方を変えればこうして短時間の高速機動が可能になる。
    地面に比べて摩擦抵抗の少ないレールの上を滑るように加速し、破壊力を孕んだ速度へと昇華させる。

    目の前に立ち塞がる瓦礫に拳が触れた瞬間、高周波振動発生装置が最大出力で発動した。
    轟音を響かせ、瓦礫が砕け散る。
    やがてその姿が瓦礫の山の中に消え、少しして、強い冷気がトンネル内に入り込んできた。
    それが、彼女が外部に到達したのだという合図だった。

    〔Ⅲ゚[::|::]゚〕『状況はどうだ』

    僅かな空電の後、ティムの残念そうな声が聞こえてきた。

    [@]:: ┳>@]『レールを雪が覆っていますっぽ、被害の程度をこれから調べますっぽ』

    雪崩の威力は決して侮れるものではない。
    合金で作られたレールを根こそぎ押し流すことも、曲げることも出来てしまう。
    レール最大の欠点は、一度その規格が狂った場合に対する対抗策が、交換するということしかない点にある。
    一定間隔ごとに区切られたレールを交換するには、その道に適した形状のレールを運び、固定する必要がある。

    専用の機材と資材、そして人間がいなければそれらは成し得ることが出来ない。
    出来れば無事であってほしいという願いは、ティムからの無線通信が非常にも打ち砕いた。

    [@]:: ┳>@]『……ダメですっぽ。
           一部に落石があって、レールが完全に曲がっていますっぽ。
           このまま上を通過すれば脱線しますっぽ』

    〔Ⅲ゚[::|::]゚〕『手の打ちようはない、か……』

    誰もが諦めかけたが、ティムはすぐにそれを霧散させる言葉を発した。

    [@]:: ┳>@]『大丈夫ですっぽ。
           ただ、結構乱暴な方法なので、そこに目を瞑れるかどうかですっぽ』

    〔Ⅲ゚[::|::]゚〕『どんな手だ、言ってくれ』

    [@]:: ┳>@]『来た道にあるレールをこっちに移植するっぽ。
           高周波刀なら簡単に切り落とせますっぽ』

    〔Ⅲ゚[::|::]゚〕『レールを切るのか、我々がこの手で』

    [@]:: ┳>@]『その通りですっぽ。
           ついでに運んで溶接するっぽ。
           それなら最初に開けた穴から運べるし、私たちだけでもできますっぽ』

    エライジャクレイグの人間にとって、レールは生命線であり、彼らの故郷にも匹敵する存在だ。
    ただの鉄の塊ではなく、そこには誇りや強い思い入れがある。
    そう易々と切り落としていいものではない。
    しかしプライドでこの状況が打破できないのは明らかであり、今必要なのは、早急な決断だった。

    他に良い手段があればそちらを選択するべきだが、そのような考えが浮かぶほど、今は余裕がなかった。

    〔Ⅲ゚[::|::]゚〕『……私も切ろう。
          一度先頭機関室に戻り、必要な人員と作業工程を整えてから作業を開始する』

    車掌として、彼には多くの義務がある。
    乗客を時間通り、無事に、そして快適に送り届ける義務。
    そこにエライジャクレイグの人間のプライドが入る余地はない。
    彼は車掌としての義務を守るため、レールを切り落とさなければならないのだ。

    他の誰かにそれを任せて自分が別のことをすれば、彼は車掌である資格を失う。
    それだけは彼にとって、これまで生きてきたほぼ全てを否定するようなものだ。

    [@]:: ┳>@]『分かりましたっぽ』

    〔Ⅲ゚[::|::]゚〕『除雪作業も後で合わせて行おう。
           戻ってきてくれ』

    ジュノがこれから経験するのが人生で最も長い数時間であると、彼は確信をもって断言出来た。

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    スノー・ピアサー/特別寝台車
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    車外で行われていた会話は、デレシアたちの耳に断片的にではあるが入ってきていた。
    無論、彼女が何か機械を使ってその会話を盗み聞いたわけではない。
    そのようなものを用意せずとも、勉強の一環として外の会話を聞き取ることのできる人間がここにいるのだ。

    ζ(゚ー゚*ζ「ありがとね、ブーンちゃん」

    (∪´ω`)「おー」

    犬の耳を持つ彼にしてみれば、声のよく響くトンネル内での会話を聞き取ることなど難しいことではない。
    ただ、難しいのは使われている単語が彼の聞いたことのないものである場合、伝達が上手くいかないという問題もある。
    しかしそれはそう長く続く問題でもない。
    彼は日々新たな言葉を覚え、使おうと努力をしている。

    完ぺきに使える単語が増えれば増えるだけ、彼の世界は広がっていくことだろう。

    ζ(゚ー゚*ζ「レールが駄目になったとなると、動き出すのは今夜かしらね」

    どれだけの雪が崩れ落ちてきたのかは分からないが、レールが根こそぎ持っていかれなかっただけまだ幸いだったと言えるかもしれない。
    トンネル外で雪崩に巻き込まれ、そのまま走っていたら脱線は免れられなかった。
    彼らも分かっているだろうが、どれだけの長さのレールが交換を必要としているのかによって、今の作戦が破綻することも有りうる。
    そうなった場合、列車は来た道を引き返さなければならないが、退路のレールも歪んでいた場合、状況は最悪なものになる。

    新たな挑戦をした矢先、彼らが向かい合うことになったこの状況。
    これをどう克服するかによって、彼らの成長の幅が決まる。
    極めて楽しい時間になることは、まず間違いなかった。

    ノパ⊿゚)「いきなり自然災害とは、この列車もついてねぇな」

    ζ(゚ー゚*ζ「ま、気長に待ちましょうか」

    (∪´ω`)゛「はいですお」

    ζ(゚ー゚*ζ「じゃあ続きからね」

    この状況下で彼女たちに出来ることは特にない。
    何かを変えるのは彼女たちではなく、この列車を動かす人間たちなのだ。
    ここで余計な介入をすることは双方にとってメリットを生み出せないどころか、事態の悪化や複雑化に発展しかねない。
    ティムの正体もまだ分かっていないだけでなく、その目的も不明なままで手を貸すことは愚の骨頂だ。

    ブーンの勉強を再開し、デレシアはふと、ティムをどこかで見たような気がしてきた。
    彼女の化粧が落ちた時、きっと記憶のパズルが組み上がることだろう。

    (∪´ω`)「……ちいさい? おー、ちょっとちがうおー」

    ζ(゚ー゚*ζ「これはリドルって読むの。 謎、って意味ね」

    (∪´ω`)「ミステリーとはちがうんですかお?」

    ζ(゚ー゚*ζ「良く気付いたわね。
          えぇ、違うわ。 ミステリーは答えがないけど、リドルは答えがあるわ。
          なぞなぞ、って言ったほうが分かりやすいかしら」

    (∪´ω`)「なぞなぞ」

    ノパ⊿゚)「懐かしい響きだな、なぞなぞって。
        あたしも小さい頃によくやってたよ」

    (∪´ω`)「おー、なにかおしえてほしいですお」

    ノパー゚)「そうだな……
        ある山で事件が起きた時、七人の容疑者が浮上した。
        山小屋の管理人、訓練中の軍人、登山者、医者、探偵、教師、そして写真屋。
        誰が事件を起こしたか分かるか?」

    (∪;´ω`)「お…… むずかしいですお」

    ノパー゚)「ま、ゆっくり考えるといいさ。
        今は単語の勉強だ」

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    スノー・ピアサー/先頭機関室
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    機関室には乗務員全員が入れるだけの余裕があるが、実際に全員が召集されるのは列車の運転が始まる最初の瞬間だけだと誰もが思っていた。
    以降は無線連絡などにより、一堂に会することはまずもってない。
    それが意味するのは緊急事態であり、起きてはならないことであるからだ。
    ティングル・ポーツマス・ポールスミスは事態の深刻さを、改めて乗務員全員に伝えた。

    (*‘ω‘ *)「トンネルの先にあるレールが大きく歪んでるっぽ。
          被害規模は除雪しきってからでないと分からないっぽ。
          棺桶のスノー・ピアサーである程度進んだけど、雪がずっと先までレールを覆っているから分からないっぽ」

    川_ゝ川「除雪は問題がないとして、レール復旧は本当に可能なのですか?」

    同乗している機関士が深い息を吐いた。
    機関士として長い経歴を持つ彼の言葉は乱暴であったが、説得力があった。

    (-゚ぺ-)「五分五分ってところだ。
         問題はレールの接合とその強度だ。
         特にこのクラフト山脈沿いのレールは特殊合金を使ってるから、そう簡単にくっ付けられねぇ。
         しかも、この先のレールは足場の上に取り付けてるから下手すりゃ足場が崩れちまう」

    それを聞いて、ジャック・ジュノは確認の意味も含めて問いかけた。

    (^ム^)「君ならどうする?」

    エンジニアの男は口の端を釣り上げて不敵な笑みを浮かべ、鼻で笑った。
    その反応はジュノにとって、この上なく頼もしく、そして、期待していたものだった。

    (-゚ぺ-)「俺なら今すぐにでも取り掛かる。
         悩んでても時間が無駄になるからな。
         不幸中の幸いが、この山沿いのレールには電力が通ってないことだ。
         切っても問題はないし、繋いでも問題がない。

         問題があるとすれば、この列車のバッテリーだ。
         もう一度雪崩に巻き込まれたら、流石に次の供給場所まで持たない。
         陽が出てる間はまた雪崩が起きないとも限らないから、走り出すのは夜だ。
         それまでの間に作業を終わらせるしかない。

         それに、今いる場所から“あの場所”まではそんなに離れていないだろ。
         やるんなら今すぐに、だ」

    (^ム^)「あの場所までは後一キロ、といったところだ。
        そこから一気に加速して、そう、一心不乱に走り抜けるんだ。
        そうすれば定刻に間に合う。
        後は道具だが、ティム?」

    (*‘ω‘ *)「高周波刀は六本ありますっぽ。
          ジョン・ドゥも六機。
          ただ、使える人間がどれだけいるかが知りたいっぽ」

    鉄道警察の人間は訓練課程で使うことが出来るが、ここでティムが言っている使えるとは、レールを運搬して適切に接合できる作業までを含めている。
    つまり棺桶の操作方法もそうだが、鉄道設備についての知識と技術を持つ人間を探しているのである。
    ジュノは真っ先に手を挙げ、そして周囲を見た。

    (^ム^)「私以外にいないのか?」

    次に手を挙げたのはティムだった。

    (*‘ω‘ *)「私もできますっぽ。
          多分、他に両立できる人間はいないから、エンジニアと鉄道警察から二人出してチームを組ませた方がいいですっぽ。
          車掌と、私のチームに分けますっぽ」

    それが最も合理的な判断であることは間違いない。
    ティムは勤続年数がまだ少ないものの、流石はジュスティア出身だけあり、その冷静さはベテラン勢にも匹敵する。
    彼女を鉄道警察に採用した人事の判断は間違いではなかった。
    これほどまでに頼もしい存在がいてくれることに、ジュノは心から感謝した。

    一人でどうにもならないと思い込んでも、もう一人がいればどうにか策を練ることが出来る。

    (^ム^)「では、レールの切断と接合のメンバーはここに残ってくれ。
       除雪の手順等について話をしたい。
       他の人間は車内の対応を」

    指名された人間以外はすぐにその場を離れ、それぞれの担当場所に散った。
    先日起きた“オアシズの厄日”以来、従業員たちは有事の際に客を安心させるための訓練を受けてきた。
    訓練が惰性になるよりもずっと早い段階でそれを活かす瞬間が来たのは、幸いと言う他ない。
    残された六人は再び顔を見合わせ、話し合いを始めた。

    (^ム^)「まず除雪に全員で向かい、交換が必要なレールの長さを確認する。
        それから二手に分かれて作業を行う、という手筈でどうだろうか」

    誰も異議の声を上げなかった。
    代わりに、一刻も早い行動を待ち望んでいる焦りの色が目に浮かべている。

    (^ム^)「よし、では除雪に取り掛かろう」

    今は一秒でも惜しい気持ちが強く、六人は話が終わると同時に、棺桶を背負って車外に出た。

    『そして願わくは、朽ち果て潰えたこの名も無き躰が、国家の礎とならん事を』

    六人はほぼ同時に起動コードを入力し、コンテナの中でその体に機械仕掛けの鎧を纏う。
    ジョン・ドゥの内、四機は両腕に除雪用の火炎放射器を備えていた。
    これは有事の際、特にクラフト山脈での事故やシャルラ方面の永久凍土の大地で役立つという考えに基づくもので、それが正しかったことが証明された。
    四機が先陣を切って瓦礫の穴から外に出て行き、白銀の世界が彼らを迎えた。

    強烈な風が吹きすさぶ中、キラキラと輝きながら宙を舞う雪。
    そして目の前に続いているはずのレールを覆うのは、純白の雪。
    ティムが雪に開けた穴の先には黒い岩の影が見えており、その下にあるレールが歪んでいるのも機械の眼は見逃さなかった。

    〔Ⅲ゚[::|::]゚〕『よし、始めよう』

    四機のジョン・ドゥの内、二機が先行してその穴の中に入った。
    まもなくオレンジ色の明かりが雪を照らし、瞬く間に蒸発させた。
    火炎放射器は極めて高価な装備であるが、彼らが使用しているものは戦闘用の物とは違い、液化燃料ではなくガスによる火炎放射を行うものだ。
    ガスは化石燃料よりも安定して手に入る上に安価であるため、彼らも安心して大量に使用することが出来る。

    壁のように積もっていた雪が水になって溶け落ち、レールが徐々にその姿を現していく。
    問題の岩のところまで雪を溶かしたが、その先にもまだ雪が積もっていた。
    そして岩の高さは、彼らの優に三倍の大きさがあった。
    その下のレールはもはや修復が不可能なレベルに歪み、岩の重さと雪崩による衝撃がどれだけの物だったのかを雄弁に物語っている。

    あまりにも巨大なその岩を前に、ティムは静かに拳を握り固めた。

    〔Ⅲ゚[::|::]゚〕『ちょっと下に落とすっぽ!!』

    〔Ⅲ゚[::|::]゚〕『いくら何でもそれは無理じゃないか?』

    強化外骨格の補助があったとしても、拳一つでこの岩をどうにかできるものではない。
    六人がかりで持ち上げられるかは分からないが、そうして落とした方が――

    〔Ⅲ゚[::|::]゚〕『せっ!!』

    体重を乗せた強烈な左フック。
    その一撃で岩は冗談のように大きく傾き、自重によってそのまま落下していった。
    あまりにも非現実的な光景を前に五人が呆然としている中、ティムはいつもと変わらない声で、彼らの意識を前に向けさせた。

    〔Ⅲ゚[::|::]゚〕『ジョン・ドゥは使い方次第で、何とでもなりますっぽ!!
          さ、二人はここでレールの切断を!!
          もう二人はガスの交換後、合流して援護をお願いするっぽ!!
          残りの二人はこのまま道を作っていくっぽ!!』

    緊急時、人は多くのことを試される。
    自制心、対応力、洞察力。
    非常事態で尚かつ焦燥して然るべき事態において、ティムは間違いなく完ぺきな対応をしていた。
    リーダーとして十分に活躍できるだけの素質があり、彼女の経歴が嘘偽りのないものであると同時に、書面以上の能力を彼女が有していることを示していた。

    彼女の指示に従い、的確な行動が迅速に行われる。
    ジュノは高周波刀を使い、レールを切断し始めた。
    特殊合金製のレールは切るのにかなりの力を要したが、数分も経たない内に完全に切断された。
    後は、切断しなければならない箇所がどこまで続いているのかを調べなければならない。

    長さが足りなければ、そもそもこの作戦は破綻することになる。
    前に進むためにはレールがどうしても必要なのだ。

    〔Ⅲ゚[::|::]゚〕『……雪崩で積もった雪は全部溶かしましたっぽ』

    無線で聞こえてきたティムの声は不気味なまでに沈んで聞こえた。
    彼らの願いは――

    〔Ⅲ゚[::|::]゚〕『小規模だけど足場が崩落して、レールの一部が宙に浮いていますっぽ』

    ――最悪の形で打ち砕かれた。
    レールの破損は交換で済むが、足場の崩壊は変えがきかない。
    応急措置で済めばいいが、二十輌の列車が無事に通り切るためには強度が何よりも重要になる。
    このレールを敷く際にもそれは徹底して行われ、かなりの補強が施されていた。

    〔Ⅲ゚[::|::]゚〕『そんな……』

    無線を聞いていた人間の間に動揺が広がる。
    退路を選ぶだけの余力はもうない。

    〔Ⅲ゚[::|::]゚〕『手はありますっぽ。
          今はまず、曲がったレールを交換することを優先しますっぽ』

    〔Ⅲ゚[::|::]゚〕『手? ティム、まずこっちに戻ってきてその話を詳しく説明してくれ』

    絶望的なこの空気を変えようと適当なことを言っているとは思えないが、彼女の言葉には有無を言わせないほどの強い意志が感じ取れた。
    こうなることを予期し、答えを事前に用意していたかのような気配。
    ジュノの言葉に対してティムは同じように淡々と、そしてしっかりとした口調で冗談のような事を言い切った。

    〔Ⅲ゚[::|::]゚〕『私がレールを支えますっぽ。
          強化外骨格なら、ある程度は役に立ちますっぽ』

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    スノー・ピアサー/後方食堂車輛
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    デレシアたちは昼食をとるために食堂車輛に足を運んでいた。
    その日の昼食は魚料理が並び、新鮮でなくても魚の味が楽しめるように工夫のされた料理が多かった。
    ソテーやムニエルを堪能し、三人はデザートとしてアイスクリームを食べながらブーンの勉強を続けていた。
    無論、テキストを取り出しての勉強ではなく、車内にある様々な調度品の名称やその説明で使用する単語を説明し、反芻させた。

    まだ発音は完ぺきではないが、彼の語彙力は飛躍的に増えていた。
    そして今、ブーンはヒートが出したなぞなぞの答えを考えるために、その問題文を紙に書いて思考する作業を取っていた。
    答えを知るデレシアとヒートは、ブーンが悪戦苦闘する様子を微笑ましく思いながら眺めていた。
    自力で答えを知ろうとする姿勢がある限り、彼はますます成長していくことだろう。

    ラジオからは世間で人気のポップミュージックが流れ、そこから聞こえてくる単語を聞き取ったブーンが新たな言葉を尋ね、そして学んだ。
    二人の視線がブーンの姿に向けられていたその一瞬。
    デレシアが予期していた事態の一つが起きた。

    ( <●><●>)「ほほう、なぞなぞですか」

    跫音も気配も消してデレシアの背後から姿を現した男は、ブーンの手元にある文字を眺めてそう呟いた。
    手にはコーヒーカップを持ち、いかにも偶然を装っているが、これが意図的に仕組んだ遭遇であることは間違いない。
    雪崩後に相手が接触を図ってくることは想定しており、デレシアは慌てることなく、相手を観察することにした。
    いつでも銃が使えるよう、ローブの下で手の位置を動かす。

    (∪;´ω`)「お?」

    ( <●><●>)「あぁ、これはすみません。
            驚かせるつもりはなかったのですが、君が面白そうにしているのでつい」

    大きな瞳には敵意や殺意の類の光は窺えないが、その声や視線には何もなかった。
    まるで台本を読み上げる役者のような、事前に用意されていたセリフを並べているだけのような不気味さがあった。
    獲物を前に舌なめずりを押し隠し、隙を窺う肉食獣を思わせる。
    引き剥がすべきかを見極めつつ、ブーンのコミュニケーションの練習になると考えた。

    近づく人間全員が敵というわけではない。
    そして彼の成長の機会を得られるのであれば、それは利用するのが一番だ。

    (∪;´ω`)「お……」

    ( <●><●>)「どうですか、順調に解けそうですか?」

    (∪;´ω`)「い、いえ……」

    男はデレシアとヒートを一瞥し、その意図を汲み取ったのか、微笑を浮かべた。

    ( <●><●>)「なら、私からアドバイスを一つ。
           視野は広く持った方がいいですよ。
           様々な視点から物事を見ることで分かることも有ります」

    言っていることは実にまともなことだが、この男がまともかどうかとは別問題だ。
    狂人でも聖書を一言一句間違わずに暗唱できるのと同じように、この男の言葉には重みが感じられない。

    ζ(゚ー゚*ζ「アドバイスどうも」

    ( <●><●>)「いえいえ、お邪魔してしまいました。
           私はワカッテマス・ロンウルフ、以後お見知りおきを」

    ζ(゚ー゚*ζ「そうね、機会があればまたいつか」

    すでにこの男がこの車輛にいるということは、当然、もう一人もここにいるのだろう。
    そしてこの男の目的は、デレシアとあの殺し屋を邂逅させること。
    その意図は全く持って不明だが、もう、それは避けられないだろう。
    時間稼ぎが終わったことを告げるように、ワカッテマスの後ろからあの男が現れた。

    ( ゙゚_ゞ゚)「あ」

    ζ(゚ー゚*ζ

    血色は良いようだが、デレシアを見て敵意や殺意を向けてこないということから、この男が記憶を失ったのだと推測した。
    名前は知らないが、“葬儀屋”と呼ばれていたことは覚えている。

    ( ゙゚_ゞ゚)「あ、あの人っ……!!」

    男はまるで何かとんでもない物を見つけてしまったかのように動揺し、目を白黒させた。
    手に持ったコーヒーカップが揺れ、液体が零れて自分の服に付着したのにも気づいていない。
    デレシアはその様子をじっと眺め、男が落ち着くのを待った。
    すでにデレシアの指はローブの下でショットガンの銃把を包み、いつでも発砲できる用意が整っている。

    ( ゙゚_ゞ゚)「す、すみません。
        いきなりこんなことを言って、何を言っているのか分からないと思いますけどっ!
        僕のことを何か知っていらっしゃいますか?」

    ζ(゚、゚*ζ「ごめんなさい、知らないわ」

    やはり男は記憶を失っているらしい。
    だがそれはデレシアにとって、心底どうでもいい情報であり、関係のない話だった。
    今、デレシアの視線はワカッテマスに向けられていた。
    この男が何を狙い、このようなことを仕組んだのか、その意図が知りたい。

    ティムといい、ワカッテマスといい、どうにもデレシアを試そうとする人間がこの列車に複数いるようだ。
    ティンバーランドの人間とは考えにくいが、可能性は十分にあった。

    ( <●><●>)「サム、この女性なのですか?」

    ( ゙゚_ゞ゚)「そ、そうです……」

    ( <●><●>)「突然すみませんでした。
           彼は記憶喪失になっていまして、唯一、ある女性の姿だけを覚えていたんです。
           それが貴女というわけで、どうか非礼を許してやってはもらえませんか?」

    ζ(゚ー゚*ζ「別にいいわ、気にしていないし。
          世の中には似た人間が何人もいるから、勘違いしても仕方ないわ」

    記憶喪失なのであれば、いつ何かがきっかけとなってデレシアを思い出さないとも限らない。
    思い出した場合、彼はデレシアに対しての復讐心にかられ、行動することだろう。
    最善の手としては、この男との接触をこれ以上しないことだ。

    ( <●><●>)「もしよければお名前を窺っても?」

    ζ(゚ー゚*ζ「ごめんなさい、そういうお誘いは全部お断りしているの」

    これについては事実だった。
    見ず知らずの、しかもまったく信用のできない人間に対してデレシアは名乗る習慣を持っていない。

    ( <●><●>)「いえいえ、お気になさらず。
            サム、あまりご婦人をジロジロ見るのはよくないですよ」

    (;゙゚_ゞ゚)「ご、ごめんなさい。
        そういう、やましい気持ちで見ていたわけではないんです」

    ζ(゚ー゚*ζ「あまり気にしてないから、別にいいわ」

    ヒートはこちらに興味を示していない風を装いつつ、ブーンに危害が及ばないよう、彼に身を寄せた。
    彼女はこの場を立ち去ることで得られるメリットよりも、車輌の場所を把握されるデメリットの方を重要視していた。
    それはデレシアも同意見だった。
    逆にここで話しかけてきたのは接触することよりも、デレシアたちのいる車輌を見つけ出すことが目的だったのかもしれないのだ。

    接触するという目的が達成された今、これ以上の何かがあるとは思えない。
    となると、これ以上の情報を与えないのが利口だ。
    恐らくは先頭車輌の方から少しずつ可能性を潰し、ここまでやってきたのだろう。
    デレシアたちが進む方向だけでも、彼らは車両の特定が可能になる。

    動かず、相手の出方を窺うしかないこちらに対し、向こうは待つだけでいい。
    だが焦る必要はない。
    時間はまだあるのだから。

    【占|○】『放送の途中ですが、緊急ニュースをお伝えいたします!
         たった今――』

    ラジオから聞こえてきた声は、乗客たちの意識を一点に集中させた。
    それは、目の前にいる二人の男も、ヒートもブーンも、そしてデレシアでさえも例外ではなかった。

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    ティンカーベル沖/北
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    厳重な警備体制の敷かれた護送車の一団が島を出発したのは、午前十一時のことだった。
    ヘリコプターが上空に二機、護送車の前後には装輪装甲車が二台ずつ配備され、ジュスティア陸軍からは随伴歩兵がそれぞれ十名割り当てられた。
    装備は全て安全装置が解除され、いつでも発砲が出来るようになっている。
    無線機による細かな情報共有は沖合に停泊している海軍の軍艦に集約され、絶え間なく飛び込んでくる細かな情報は全て盤上に揃えられた。

    全体の指揮を執るツー・カレンスキーはその盤上を睨みつけながら、接近するあらゆる存在を排除するよう、再度命令を下した。
    子連れの旅行客が橋を渡りたいと申し出ても、それは断固拒否され、離れた場所に消えるまで銃口と砲口が彼らに向けられた。
    ティンカーベルからジュスティアに向かうための橋は護送車の一団が通過するまでの間、完全に封鎖された状態にあった。
    更には、円卓十二騎士が一団の前後、そして中央部に配置され、その様子はラジオを通じて世界中に伝えられていた。

    世間にほとんど姿を現してこなかったジュスティアが誇る最高戦力、円卓十二騎士。
    彼らは皆特殊車両に乗り、その素顔を見せてはいないが、圧倒的な存在感と威圧感を放っている。
    先行して装甲車が矢じり型の陣形を組んで走り、橋に地雷などが仕掛けられていないことを確かめ、その後を特殊車両、装輪装甲車、そして護送車が続いた。
    脱獄した凶悪な誘拐犯が一人、元警官が二人、現役軍人が一人。

    たったそれだけの人間のために集められた戦力は、並の街であれば即日攻め落とせるほどのものだ。
    超望遠レンズを装着したカメラで、対岸から大勢の新聞記者がその様子を写真に収めた。
    これが一種の軍事パレードであると見る専門家もいたが、ツーに言わせれば、これはそのようなぬるいものではなかった。
    これは示威行為ではなく、本気の護衛体制だった。

    考えうる限りの全力。
    脱獄不可能と言わしめたセカンドロックの名前に泥を塗った組織が相手になると考え、徹底的な準備をもって万が一に備えたのだ。
    市長から受けた命令を違わず遂行するため、彼女は今、盤上の駒と相手の思惑を考えていた。
    捕まえた人間をティンカーベルで処罰せず、ジュスティアに連れてくることは彼女の意見ではなかった。

    それは広報的な目的もあって、ベルベット・オールスターからの強い提案だった。
    世界に対してジュスティアの力を誇示する絶好の機会であると助言を受けた市長は、それを快諾し、このような形になった。
    ツー個人の考えで言えば、これほど馬鹿げた護送はない。
    護送対象者がここにいる、と知らしめているようなものだ。

    奪いに来る人間たちにとっては、この上なく好都合で笑いが止まらないことだろう。
    それでも彼女はやり切るしかない。
    奪いに来る者たちを排除し、この任務を果たすことで警察の名誉を挽回することにつながるのだから。

    (*゚∀゚)「さぁ、来い……!」

    ならば世間に知らしめるのだ。
    ジュスティアの有能さ、そして正義に対する徹底した姿勢を。
    今日、世界のバランスが崩れることになろうとも、果たすべき使命がある。
    ジュスティアに続く最後の橋に差し掛かった時、無線機から部下の声が聞こえてきた。

    『ケースBが発生。
    橋に不審な人物を確認、警告後反応がない場合、発砲を許可されたし』

    (*゚∀゚)「もちろんだ。女子供でも構わない、粉微塵にしろ」

    ツーは自分の顔が誰にも見られていないことを安堵した。
    今もし、誰かが自分の顔を見たらきっと酷いことになるだろう。
    ここまで歪んだ人間の顔など、決して他者に見せることはできない。

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    ニニニ:l   l l               ll     /    l ̄l ̄ ̄ ̄ .(ll     l l
    ニニニ:l  _ l l- 、            _ll     ┃    └‐┘ ┃    ll    l l  , - 、
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    ニニニ:l::::::::::」l <   l     l     /                l             \三三三
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           l   /                       │
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    ティンカーベル/橋上
    ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

    最前を走る装甲車のハンドルを握るのは、陸軍のススム・ゼリヤだった。
    ベテランとして多くの戦地に向かい、そこで兵士たちを乗せたトラックを走らせ続けてきた。
    彼が運転するトラックには加護がある、といつしか言われるぐらい、彼の運転技術は確かなもので、運搬中に一人の死者も出したことがなかった。
    彼の指示で全車が停車し、随伴歩兵が車両の前に出て銃を構えた。

    拡声器を使い、兵士の一人が警告を発する。

    『今すぐそこに腹ばいになれ!!』

    圧倒的な数の車両の前に現れたのは、一人の男だった。
    その男はスーツを着て、赤いネクタイを締め、両手をズボンのポケットに入れていた。
    どこに隠れ潜んでいたのか分からないが、このタイミングで姿を現すということは、間違いなく友好的な存在ではない。
    両者の距離は五百メートルほどあったが、十分に声は聞こえているはずだ。

    ( `ハ´)

    男は警告に対し、微動だにしなかった。
    そして予定通り、兵士たちが発砲するべく銃爪に指をかけた時、赤い光が海から伸びて両者の間を横切った。
    見間違いではないことを確信し、ススムは無線機に手を伸ばしてツーに報告した。

    「今何か、九時の方向から赤い光が横切りました」

    返事が返ってくるよりも前に、兵士たちが発砲を始めた。
    男はそれでもその場を動かなかった。
    銃弾は男に当たる様子がなく、ついに、装甲車の銃座にいた部下も発砲し始めた。
    重機関銃の重い銃声が響き、曳光弾が男に吸い込まれていく。

    だが当たらない。
    確かに曳光弾は男に向かっているが、まるで当たった様子がない。
    すり抜けているかのように弾は背後の地面を抉り、血飛沫も出ず、男の衣服が動く様子もなかった。
    その様を他の人間から逐一共有されているツーは、素早く命令を下した。

    (*゚∀゚)『エクスト、頼んだ』

    ツーに指名されたのは円卓十二騎士の一人、エクスト・プラズマンだった。
    彼は先頭集団に配置されており、有事の際に最初に動く騎士だった。
    命令が下された直後、既に彼は強化外骨格を身に纏った状態でススムの車両の前に姿を見せ、疾駆していた。
    その時、再び赤い光が海から見えた。

    それは横薙ぎに橋の下を走り抜け、直後、全員が振動と衝撃に襲われた。

    「は、橋がっ!!」

    彼の言葉を聞かずとも、全員が自分たちを襲った以上に気づいていた。
    橋が大きく傾き、海面がゆっくりと迫ってきているのだ。
    そしてそこに、ススムは赤い巨影を見つけた。
    まるで海面ギリギリに浮上してきたクジラのように、水面の下に巨大な影が見える。

    [,.゚゚::|::゚゚.,]

    その影の上に、人型の何かが立っているのを辛うじて見咎める。
    太陽の反射によってその詳細までは見えなかったが、直線が幾つもあったため、人工物を身に纏った人間だと推測した。

    (*゚∀゚)『プランFを発動する。備えろ』

    無線から聞こえてきたツーの無慈悲な声は、だがしかし、彼ら全員が覚悟の上で聞かされていたプランだった。
    上空に待機していたヘリコプターから、影が二つ。
    一つはスーツの男の前に。
    そしてもう一つは、海中の影に向かって落ちていった。

    「全員対ショック姿勢!! ボンベ装着!!
    プランF発動に備えろ!!」

    ススムの指示が出し終わり、数秒後、彼らは皆海に落ちることになった。
    衝撃で全身を強打するものの、意識は失わずに済んだのは不幸中の幸いだった。
    無線機からツーの声は聞こえなかったが、彼らがそうであるように、彼女も激怒していることだろ。
    襲撃者はもう間もなく後悔することだろう。

    敵に回したのは、世界の正義であるジュスティアなのだ。
    そしてこの護送にはその最高戦力が集まっているということを甘く見た代償を、これから払うのだ。

    「頼みました、騎士殿!!」

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                        /i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:ヘ     _, ‐'`丶
                    ,'i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:l _,、丶`      ヽ
                 _,,、、 ‐|i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i>/ /         ∨
          _,,、、 -‐ ''"_,,、 丶 |:i:i:i:i:i:i:i:i>ィッノ / /    _,,、丶  ̄〃
    .   /     / ',      乂i:>く::>''´ lzzl    /  />∥
    .  | ‐''"´ ̄ヽ  ',      _ く    ァi{//}!    / // ∥
       |   _.    ',  ',   / ̄   /\___」 〕―__/. </.  {{
    .   |. /∧     ',  ',  / ㍉  / _/_/  |〕__}___,、 ‐'^
       | ∨∧.    ',  ',__/   ></_>''´   ',  ̄   }l
    .    | ヽ >''¨¨''< >''´ >''´  >''´ zz    l     }l 同時刻
        |.  l == Y /  /    ∥          l.斗''"''< ティンカーベル/橋上
    .     |  |.    /.  /   _∥        /   /   >
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    ヘリから降下した強化外骨格を前に、スーツの男――シナー・クラークス――はその迫力と威圧感に気圧されそうになっていた。
    改めて目の前にすると、やはり戦力差は絶望的だ。
    相手はどう見積もってもCクラスのコンセプト・シリーズを用い、こちらが使用しているAクラス“トリック”は脅威にすら思っていないだろう。
    だが目的は達成され、彼の努力は無駄にはならない。

    次の人間たちがそれを繋ぎ、必ずや大樹の糧にしてくれるはずだ。
    先ほどの一撃で、護送車は全て海中に落とすことが出来た。
    脅威が出現したら全体が一度止まるという情報があってこその作戦が功を奏し、シナーは大人数を相手にしなくて済む。
    一分でも長く時間を稼ぎ、同志たちが救助される時間を確保しなければならない。

    円卓十二騎士は残り二人。
    一騎打ちで勝てる相手でないのは分かっているが、どこまでやれるかは、賭けだ。
    今日、ここで死ぬかもしれないということはシナーを恐怖させなかった。
    彼には理想とする世界があり、彼の行いは間違いなくその世界の実現に通じるのだから。

    せめて気高く、最後までやり通す。
    手負いの身ではあるが、組織から受け取った二機の棺桶がそれを補ってくれるはずだ。
    “トリック”が相手にばれていない間は、少なくともシナーの身は安全である。

    ( `ハ´)「捕まえるアルか?」

    [::]==◎=]

    眼前にいる単眼の強化外骨格は何も応えない。
    聞こえていて、聞こえていないふりをしている。
    問答無用という姿勢をしているのはシナーにとっては不都合だったが、こうなっては仕方がない。
    情報通りに対処するため、起動コードの入力を行う。

    まだ間に合う。
    焦らず、こちらが万全の状態で時間を稼ぐことを第一に考え、対処すればいい。
    短く息を吐いて、シナーは強化外骨格の起動コードを口にする。

    ( `ハ´)『人を――』

    ――コードの途中で、シナーは殺気を察知し、その場で深く屈んだ。
    直後に彼の“本当の”首があった位置を刃が通り過ぎ、背後に立ててあったコンテナに薄らと傷がついた。
    金属を削る耳障りな音よりも、シナーが意識を向けたのは当然、目の前にいる強化外骨格だ。
    頭部全面を覆う金属質の仮面。

    光沢のない砂漠用迷彩の塗装を施された滑らかな鎧は、まるで風が作り出した自然の創作物を思わせる流線形で形成されている。
    あまりにも滑らか。
    あまりにも美麗。
    そして振るわれたのがショーテルであると認知することが出来たのは、シナーの意識がその棺桶の造形に惹かれてしまったからだ。

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          \.    /.i\. /   / /ー 、.\     ヘ.   \
            . \_/二 |  Y、_.  辷{三三≧>\___.  ヘ_   `ヽ、
            ∧二三 `ヽ、 !i\__   ̄ _  <i;::;ヘ_  `ヽ     ヽ,
              ヘ二三三ニ;/ 厶  i´ : ヽ└t,: ;:;i.   ヘ    .|
        ___   ∧ニ三.;//|三ニ\i;  ヽ `、. fi;:∧_   ヘ   ヘ
            ̄ヘ、 `ヘ//三|三三≧ヘ,.  ゝ-ヘ. \;圦__  ヘ   ∨
                \  \.ニ三|三三三 |\/ヽ ,ハ;,. \i;:;`ヽ \   \
         ./⌒ヽ、 . \  \ニ|三三三i \.`ヽi!三|!  i||;:;:;:; ヘ_  \  ∧
           /^ヽ、 ヽ | _  \ニ斗ー-! ニニ}i ´ー′  {i;;;. ;:;:;:;. ヽ.  \. .ヘ.
        .  /    丶.| \ _ 弋 :´´ `ヽ、,!、О.   `ヘ_.; :;:. ;:\、 \ `i、
         /       } ,:-ー‐-、, ヘ `、.    .\辷__     `i;:;:;:; ;::.: :. 、. \ ヘ,.
        . ∨       / i|   (.:.:.:.ヘ 丶     ´.\ \,,__   ^i、_;:;:;:;:; :.: \. \!
        .  ∨     ./  |i    ∨.:.:..ヘ、丶      `、ニ 、 \  `ーi!; : ;:; :;::. \_ ,{
            __  ./ \ i|    マ.:.:.:.:.:. 、` 、    ヘ三\ \   `゙!liY'⌒ ー-‐
               ̄     弋     \.:.:.:.:.:.:\ 丶     ヘ三≧、. \,,  !|i丶
                \    \    \.:.:.:.:.:.:\ ヽ     ヘ三≧、. \ !}, `''-.、
                \    \    \.:.:.:.:.:.:\`     ∨三i|!   `~ \ヘ.)
    ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

    <::::_/''>

    先ほど現れたものとは別の棺桶だったことは、その後になって思考が追い付いた。

    (;`ハ´)「ちっ?!」

    相手は間違いなく“トリック”のことを理解している。
    シナーの仕掛けたささやかな抵抗がいつの間にか無効化され、こうして襲われているのが何よりの証拠。
    こちらが機能を使用している間、この場から動けないということも、そして位置を見つけ出す術も見抜かれていたのだ。
    “トリック”は本来自分がいる位置から十数メートル圏内に子機を設置し、そこに自身の鮮明な姿を映し出す棺桶だ。

    簡易的な光学迷彩処理を行う幕の裏に隠れていたシナーを即座に見つけ、殺す気で攻撃を仕掛けてきた。
    棺桶を背負わないことでその映像を映さないという小細工も意味をなさず、シナーの首を真っ先に狙った。
    首を狙えば当然、それを避けるために声は途切れる。
    起動コードを並べ終わる前に襲い掛かったその技量は、紛れもなく円卓十二騎士のそれ。

    だが彼の目算では二人だけ生き残り、一人は“トリック”の出力装置前に。
    もう一人は海に向かったはず。
    では、どの段階でシナーは見落としていたのだろうか。
    円卓十二騎士が皆海中に落ちたと、どの段階で錯覚していたのだろうか。

    こちらの計画が破綻したのか、シナーはそれを確認する術を持たない。
    シナーは冷や汗が噴き出すのを感じた。
    彼は今、円卓十二騎士を二人相手にしていることになる。
    その内の一人はすでに姿を見失い、気配さえ感じない。

    大型のCクラスのはずなのに、まるで気配がない。

    (;`ハ´)

    相手はトリックの仕組みを理解し、それを逆手に取るような人間だ。
    決して侮ることも驕ることもできない。
    一瞬の判断ミスが命を奪うと確信し、シナーは次の手を打つべく思考を巡らせた。
    突如吹いた風に乗り、砂埃がシナーの眼を襲う。

    瞬きをした刹那。
    鈍痛が腹部に走り、そこで意識が途切れた。

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                                      ,ィ
    ティンカーベル/橋下                  /〈⌒`'<{
                                   //‐=Vニニ`、
                                 _/‐=\‐=)_>‐ノ
                          _ ‐…ア⌒ヽ.:.:.\\‐\{
                        /.:.:.:.:/‐} ‐=ニ`、.:.: \〕iト 〉、
                            /.:.:.:.:.:./〕iトノ\‐=ニ〉⌒ヽ〉‐/ /
                        :.:.:.:.:.:./‐=ニ\‐\〈‐ニ〈∧/ /}
                           i.:.:.:.:./ ‐=ミiト ノ ‐/‐/‐=〉/八
                           |.:/V{\__‐=/{ =彡'⌒‐=/7<~`
                           |,'ニ/\/ア^.:√≧=‐ ‐彡イ=彡
                     / ̄´√ \ニ}゛.:.:. √≧=‐ ‐⌒^j{‐=彡
                   {.:.:.:.:.:. √\ /.:.:.:.:√ ̄}ニ彡'⌒ハ‐=彡
    ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

    クックル・タンカーブーツは改修されたばかりの棺桶、“エクスペンダブルズ2”の性能に酔いしれる前に、目の前に出現した脅威との対峙に全意識を集中した。
    海上という圧倒的不安定な地形の中で、彼が足場にしているのは潜水艦“オクトパシー”だ。
    優位性はこちらにあるが、彼を睨みつけている強化外骨格は今まさに沈もうとしている車を足場にしている。

    似`゚益゚似

    報告にあったダニー・エクストプラズマンの棺桶は全身が高周波振動発生装置であり、極めて危険な存在であることは分かっている。
    彼に冗談が通じないことも、そしてその技量が本物であることも、元イルトリア軍人であるクックルには分かっていた。
    四本の巨大な爪を開き、エクスペンダブルズはレーザーを発射できる態勢を整えた。
    前に使用していた機体との差異はこの腕だ。

    高出力のレーザーをより安定して使用できるよう、冷却装置が大型化し、爪が三本から四本に増えた。
    そしてその爪は射出が可能で、これにより近接戦闘での打てる手が増えた。
    しかし、問題は高周波振動発生装置だ。
    この棺桶はレーザー攻撃に特化したものであるため、防御については特に手段がない。

    接近され、触れられるだけでもこちらは力負けしてしまう。
    どうにか阻止しつつ、目的である同志救出を遂行しなければならない。

    [,.゚゚::|::゚゚.,]『来い、犬』

    一度手合わせしたかった。
    イルトリア軍人だった時から聞かされていた、円卓十二騎士。
    果たしてどこまでの技量なのか、正直なところ疑問視していた。
    軍の上官たちは口を揃えて、その力量を称賛していた。

    曰く、彼らには信念があり、彼らは恐れを知っていながらも、恐れずに戦う人間であると。
    だが所詮は騎士の名をありがたがる英雄狂。
    過酷な訓練と多くの実戦経験を積んだクックルが劣る要素などない。

    似`゚益゚似

    だが相手は動かなかった。
    視線をクックルから逸らさず、ただ静かに何かを待っている。
    海中での作業が露呈しなければ、ひとまずはそれでいいのだが、何か不気味な物を感じる。

    似`゚益゚似『……やっぱりそうか』

    [,.゚゚::|::゚゚.,]『ん?』

    似`゚益゚似『臆病者ほど口が肥えるというのは、どうやら本当らしいな』

    [,.゚゚::|::゚゚.,]『っ!!』

    咄嗟に、クックルは左手を構え、レーザーの一閃を放とうとしていた。
    だがギリギリで思いとどまることが出来たのは、彼の中に残されていた自制心が相手の挑発に対して疑念を抱いたからだ。
    円卓十二騎士がどうして挑発をするのか、その疑念が彼を引き留めたのだ。

    (’e’)『お楽しみ中失礼、クックル君。
       急いで撤退するから、衝撃に備えたまえ』

    イーディン・S・ジョーンズからの無線と同時に、彼が足場にしていたオクトパシーが高速で後退を始めた。
    彼の言葉通りオクトパシーは何度か揺れながら、ティンカーベル沖を南へと向かった。
    追手はなく、追撃もなかった。

    [,.゚゚::|::゚゚.,]『同志は皆回収できたのか?』

    (’e’)『残念だが、ショボン君だけだ。
       詳細はまた追って話すが、とにかく、今は引き上げるよ』

    [,.゚゚::|::゚゚.,]『シナーはどうした?』

    (’e’)『残念だけど、捕まったよ。
       潜航を始めるから、まずは中に戻ってくれ』

    彼らの作戦は完ぺきだったが、それが遂行できなかった原因は分かっている。
    こちらに提示された情報が間違っていたのだ。
    誤った情報のために作戦は失敗し、再度危険を冒さなければならなくなった。
    ビロード・コンバース、彼の連続した失態はもはや看過できない。

    オクトパシーの中に入り、棺桶をコンテナへと収容する。
    怒りと憤りの混じった溜息を吐いた時、薄暗がりの中からジョーンズの声がした。

    「ため息を吐いたら幸せが逃げると言われなかったかな、クックル君」

    (;゚∋゚)「……憤らないほうが難しい話だ」

    コーヒーの香りと共に、ジョーンズが現れた。
    紙コップに入ったアイスコーヒーを差し出され、クックルはそれを反射的に受け取った。

    (’e’)「まぁ確かにそうだね。
       さて、詳細についてだが、ショボン君以外の護送車を開けることが出来なかったんだ。
       海中で作業をしてもダメだったのはそういうわけだ」

    (;゚∋゚)「頑丈な素材だった、ということか」

    (’e’)「いやぁ、違うよ。
       扉を開けるための鍵が直前で変えられていたみたいで、ショボン君の以外開けられなかったんだ。
       結構それを期待していたからね、結果は御覧のありさまだよ」

    海中に落とした護送車から対象を救出し、潜水艦で逃亡するという計画は酷い結果に終わった。
    その原因は、そもそもの救出に必要な情報が古かったせいだ。
    悪戯に姿をさらしただけでなく、シナーを捕らわれてしまったのは痛手以外のなにものでもない。
    ショボンを取り戻しても、結局残りの同志たちを取り戻すために策を講じなければならない。

    即ち、一からやり直しということになる。

    (#゚∋゚)「くそっ!!
        それをもっと早く聞いていればっ!!」

    (’e’)「まぁ、後はキュート君がどうにかしてくれるよ。
       我々の計画は進んでいるし、歩みは止められないよ。
                         r e r a i l
       レールが狂ったのなら、もう一度敷き直せばいいだけの話だ。
       どれ、航海を楽しんで、まずはワインでも飲もうじゃないか」

    (#゚∋゚)「……彼女一人で大丈夫ですか?」

    (’e’)「そりゃあね。
       ジュスティアの深部に入り込めたんだ、後は上手くやってくれる。
       彼女はそういう人間だからね。
       とりあえず肩の力を抜いて、我々は次の歩みを進めないとね。

       “レッド・オクトーバー”の方も動いているし、これから忙しくなるよ」

    そして潜水艦“オクトパシー”は静かに海底深くに潜航し、その姿を暗い海の中に消した。
    彼らが向かうのはギルドの都、ラヴニカ。
    世界を変える歩みは続かなければならない。
    全ては――

    (’e’)「世界が大樹となる為に、ね」

    ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
    Ammo→Re!!のようです
    Ammo for Rerail!!編

    第三章【Snowpiercer part1-雪を貫く者part1-】 了
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ページのおしまいだよ。。と