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第一章【Train of mercy-慈悲の列車-】

  1. 名前: 歯車の都香 2019/02/04(月) 19:07:07
    第一章【Train of mercy-慈悲の列車-】

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    募金して数歩進んだら、別の人間に募金をせびられた。
    で、それを拒んだら何て言われたと思う?

    「どうしてあっちだけ助けるんだ、お前はろくでなしのくそ野郎だ」
                         .....-‐-.....、
                          /::::::::::::::::::::::ヽ
                       /:::::::::::::::::::::::::::::::::'.
                       '::::::::::::::::::::::::::::::::n:}
    これが、あの街の慈悲の正体さ。:::::::::::::::::::::::::::::、i!
                           !:::::::::::::::::::::::::::::::::::::\
                         /::::::::::::::::::::::::::::::::::::ノ´
                      /:::::::::::::::::::::::::::::::::::/
                  ,...-‐::′::::::::::::::::::::::::{`ー′
               ..ィ:´:::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::`:ー:-:...、
               ..イ:::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::――とある観光客の言葉

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    新型列車スノー・ピアサーの速度は安定し、目的地であるジャーゲンに向かって静かに線路をなぞるように走っている。
    線路の継ぎ目を通過しても音はまるで聞こえず、レールが枕木を踏みつける音が微かに聞こえるだけだ。
    寝台車輌の中でも最高級の車輛に至っては、振動は微塵も感じられなかった。
    スノー・ピアサーはその特殊な外装のために、車窓という考えを持っていない。

    従来の車輛には窓があるが、この世界最新の車輌は白い外装が覆っているため、窓が存在しない。
    その代わり、車内には外装が取り込んだ映像を遅延なしのリアルタイムで映し出す装置が天井、床、そして壁に内蔵され、どんな状況でも継ぎ目のない外の映像を見る事が出来た。
    まるで一枚の巨大なガラスで隔てられているように見えるが、スイッチを入れれば、すぐにただの壁に戻る。
    現在の世界にある技術を惜しみなく生かした車輌に、高額な乗車券を買った利用客は大喜びだった。

    サイレントマンという名の男は寝台車輛からラウンジへと移動し、移り変わる壮大な景色に思わず溜息を吐いていた。
    ラウンジは床を除いた全ての面に外の景色を映しており、それを眺めながら酒や茶を飲んで談話する人々で賑わっている。

    ( ゙゚_ゞ゚)「ほおー」

    記憶を失くしている彼にとって、果たしてこの光景は未知の物なのか、それとも既知の物なのかは分からない。
    分からないが、胸は躍った。
    流れていく景色を見れば、少なくとも今は記憶にないどこかに向かって進んでいるのだと実感できる。
    そんな中で飲む酒は、さぞかし美味いものだろう。

    折角なのでバーに寄り、ビールを一杯とつまみを買った。
    木製トレイにジョッキとつまみの袋を乗せ、空いている席を探す。
    景色の映像がよく見える席は全て埋まっていたため、適当な席に腰を落ち着ける。
    ビールを一口飲んで、程よい苦みと炭酸の刺激に、昼間から飲む酒の美味さを思い出した。

    喉を通るアルコールは彼の緊張を和らげ、深い溜息を満足げに吐かせた。
    バターで炒めたピーナッツを食べつつ、ビールを飲み、景色を眺める。
    実に贅沢な時間だと、サイレントマンは想いに耽る。
    ジュスティアの街では多くの人間が忙しそうに働き、楽をするために忙しさの中に身を投じていた。

    だがそんな事をしなくても、こうしてゆっくりと腰を落ち着けて酒を飲むことができる。
    背の高いビルの上層階に住まなくても、高級車を乗り回さなくても、こうして得られる安らぎこそが贅沢なのだと思う。
    彼らもそれに気づければ、きっと、すぐにでも有休を取ることだろう。
    人生は働くためにあるのではなく、楽しむためにあるのだ。

    しかし、この旅行が終われば、彼も仕事をしなければならない。
    金がなければこの世界では生きていけない。
    これは悲しいが事実だと、担当医から何度も言われた。
    果たしてどの街でどんな仕事が出来るのか、それを知るだけでも意味のある旅行になるだろう。

    それにしても、バターで炒めただけのピーナッツがどうしてこうも美味いのか。
    ビールの苦みと絶妙な塩加減のピーナッツの組み合わせが実に美味かった。

    「すみません、こちら座っても?」

    外の風景を眺めていたサイレントマンが、声の主に目を向ける。
    それはくっきりとした目を持つ、壮年の男だった。
    年は四十代後半か、その前後だろう。
    白髪の混じった短い茶髪とグリーンの瞳が特徴的で、声もはっきりとしており好印象を抱いた。

    顔に刻まれた皺は彼が笑みを絶やさない生き方を心掛けてきたことを物語り、その人間性を想像させた。
    スーツ姿でビールとピーナッツを手に持つ様は、どこか面白く見える。
    男は周囲に目を向け、肩を竦めてみせた。

    ( <●><●>)「ははっ、どこも埋まっていて」

    ネクタイのないスーツ姿の男からは高圧的なものは感じられず、むしろ、親しげな雰囲気さえ感じ取れた。
    初対面にも関わらず物腰の柔らかな印象は、自ずと好意へと結びつけられた。

    ( ゙゚_ゞ゚)「えぇ、勿論構いませんよ」

    ( <●><●>)「ありがとうございます。
           私、ワカッテマス・ロンウルフといいます」

    目の前の席に座り、ワカッテマスと名乗った男は握手を求めてきた。
    サイレントマンはピーナッツで汚れた手を布巾で拭い、握手に応じた。
    これも何かの縁だと考え、自分の素性を先に話しておくことにした。
    何か無礼があって相手に不快な思いをさせては、問題になってしまうからだ。

    ( ゙゚_ゞ゚)「僕は……サイレントマン、と呼ばれています。
        恥ずかしい話なのですが、記憶喪失になってしまいまして。
        本当の名前もそうですが、色々な事が分からなくて」

    だがワカッテマスはあまり驚いた風ではなく、世間話をするかのような気軽さで会話を続けた。

    ( <●><●>)「ほぅ、なら今は自分探しの旅の途中ということですか?」

    ( ゙゚_ゞ゚)「そう、そんな感じです。
        自分でも分かりませんが、ある女性を探そうと思いまして」

    そう言いながらサイレントマンは懐から紙を取り出し、広げて見せた。
    それは彼が記憶の中にある女性の姿を描いたものだった。
    絵心がある方ではないが、描いた女性像は自分の脳裏に焼き付いている女性とよく似ていた。
    黄金色の髪は僅かに波打ち、優しげに垂れた目尻と口元にたたえる微笑。

    鉛筆で描かれた女性の絵を見て、ワカッテマスは首を傾げる。

    ( <●><●>)「うーん、私は見た事ないですね。
            どんな女性だったのか、とかも覚えていませんか?」

    ( ゙゚_ゞ゚)「何も覚えていないんです。
        でも、意識を取り戻してからずっとこの人の事を考えているんです。
        きっとすごい恩人だったんだと思います」

    会話をして、自分が何者なのかを思い出させてもらいたい。
    記憶を持たないサイレントマンにとって、彼女こそが全て。
    名も知らぬ、その女性こそが彼の生きる目的そのものなのだ。
    それだけが今の彼にとってのあらゆる行動の中心にあった。

    ( <●><●>)「しかし、美しい女性ですね」

    ( ゙゚_ゞ゚)「えぇ、とても美しい人なんです。
        そう簡単に会えないとは思いますが、気長に探そうと思います」

    人の溢れるこの世界で、たった一人、しかも似顔絵しかない女性と出会うのは絶望的な確立に違いない。
    仮にすれ違ったとしても、彼の記憶と実物の姿がかけ離れていたら気付く事が出来ない。
    今の時代であれば、どこかで死んでいる可能性もあり得る。
    最悪、その人物がただの妄想上の産物であったとしたら、これは喜劇だ。

    いつか見た景色を探すよりも遥かに絶望的な目標だ。
    それでも、彼は自分を知るためにその女性を探し続ける。
    探すことこそが彼にとって唯一の救済なのだから。

    ( <●><●>)「素敵な話だ。
           見つかるといいですね」

    その時、ワカッテマスの視線が別の場所に一瞬だけ向けられたことにサイレントマンは気付かなかった。
    無論、ワカッテマスの正体について考える余裕などありはしなかった。

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                  \ 乂                 ,ノ  /  Ammo→Re!!のようです
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    ヒート・オロラ・レッドウィングはベッドの上でハンドグリッパーを握りながら、窓の外を眺めていた。
    継ぎ目のない映像が映し出す世界は新鮮な物だったが、いつまでも興味を惹きつけるものでもなかった。
    ブーンは景色に喜んではいるが、今は別の事に夢中だった。

    (∪´ω`)「おー、できましたお」

    ζ(゚ー゚*ζ「あら、早いわね。
          そうそう、スペルを大分覚えて来たわね」

    デレシアとブーンは備え付けの机を使い、勉強をしていた。
    ブーンの語学の勉強が終わり次第、デレシアはヒートにも教えなければならない事があるという。
    それまでは左手の筋力が衰えないよう、こうして鍛えているのが一番だ。
    昔、利き手ほどまでではないが、左手を使えるように練習していた事があり、今回はそれが活きそうだった。

    左手で銃を扱う事は出来るが、問題は筋力だった。
    右腕に比べて格段に筋力が少ない左手を戦闘でも使えるようにするためには、空いた時間を利用して鍛えるしかない。
    とは言え、ただ鍛えているだけでは退屈してしまう。
    ヒートの耳と目、そして意識がブーンの方に向けられるのは必然であった。

    (∪´ω`)゛「つづりはおぼえたんですけど、いみがよくわからないことばがあって……」

    ζ(゚ー゚*ζ「ふふ、どれかしら?」

    (∪´ω`)「この、ラプソディってたんごなんですけど」

    ノハ;゚⊿゚)「随分とマニアックな単語だなおい……」

    思わずヒートの口から感想が漏れ出る。
    一体何を使って勉強しているのか気になってきた。
    ラプソディという言葉は聞いたことがあるが、正確な意味は分かってはいなかった。
    音楽のジャンルであることは言えるが、それ以上は何も言えない。

    ζ(゚ー゚*ζ「狂詩曲ね。簡単に言うと、色々な音楽が集まっているようなものよ」

    (∪´ω`)「お…… おんがく、あんまりわからないですお」

    ζ(゚ー゚*ζ「そうね、それじゃあ折角だから音楽と語学の勉強を一緒にやりましょうか」

    そして、デレシアはヒートの聞いたことのない曲を歌い始めた。
    伴奏も何もない。
    彼女の歌声だけが、驚くほど美しい旋律と共に車内に響く。
    歌詞の意味が分からない部分が多々あるが、それでも、良い歌だった。

    即興で作った歌ではないだろう。
    いきなり曲調が変化し、意味不明な言葉がいくつも出てきた。
    歌が終わり、ブーンもヒートも自然と拍手をしていた。

    ノパ⊿゚)「すんげぇ変わった歌だな。
         なんて曲なんだ?」

    ζ(゚ー゚*ζ「ボヘミアン・ラプソディって曲よ。
          昔の歌ね」

    (∪´ω`)゛「これが、ラプソディ……」

    反芻するようにブーンは言葉を繰り返す。
    曲調がまるで大きく異なる物を繋ぎ合わせたもの、というのがヒートの印象だった。
    ハンドグリッパーをベッドの上に置いて立ち上がり、二人の傍に行く。

    ζ(゚ー゚*ζ「曲の中に幾つも知らない言葉や分からないスペルの物があったでしょ?
          それを学んでいきましょう」

    ノパ⊿゚)「あ、ちょっと質問いいか?」

    ζ(゚ー゚*ζ「勿論いいわよ。
          何かしら?」

    ノパ⊿゚)「ボヘミアン、ってなんだ?
        土地か街の名前が元みたいに聞こえたんだが」

    ヒートの知識量の問題かもしれないが、ボヘミアンという街は聞いたことが無い。
    昔の曲という事を考えると、今はない土地や街の名前なのかもしれない。

    ζ(゚ー゚*ζ「鋭いわね。そうよ、これは土地の名前よ。
          でもあまり細かいことは気にしなくていいわ、歌詞に意味はあまり問わなくていいのよ。
          感じた人が感じたまま、それぞれの解釈があるものですもの。
          それに、今は使わない言葉がたくさん入った歌詞だから気にし始めたらきりがないわ」

    確かに、歌詞について細かに言及し始めると存在そのものが危うくなる。
    歌とは旋律が主であり、歌詞は二の次なのだ。
    とはいえ、旋律だけで曲が成り立つわけでもない。
    デレシアの言う通り、細かい事は気にしないのがいいのだ。

    ノパー゚)「そうだな、あんたの言う通りだよ。
        いや、良い歌を聞いたよ、ありがと」

    それからデレシアによる講義が始まった。
    ゆっくりと歌い上げ、ブーンが聞き取れた単語を綴っていく。
    綴りの分からない単語については勘で書くように指示を受け、ブーンは曲調が変わる前に一度単語の確認を行い、意味を教えた後、綴りを修正する。
    音については聞き取れていたが、やはり、綴りの正確さは完璧ではなかった。

    それでも彼は、一度間違えたことのある単語は二度間違えることはなかった。

    (∪´ω`)「お、このママって、なんですかお?」

    その質問を聞いた時、ヒートの胸が痛んだ。
    彼は母親の事を知らないのだろう。
    そしてヒート自身は母親を知ってはいるが、その女は畜生にも劣る屑だった。

    ζ(゚ー゚*ζ「お母さん、って意味の言葉よ」

    (∪´ω`)「おかあさん……」

    ζ(゚ー゚*ζ「お母さんって言ってもね、色々いるの。
          産んだ人がお母さんって訳でもないし、お世話をしてくれている人でもないわ。
          その人にとってお母さん、と思える人がいない場合もあるから。
          そしてお母さんは何も、年上である必要はないの」

    (∪´ω`)「おー……
          むずかしいですお」

    確かに難しい話だ。
    以前までは普通の存在だったヒートの母親が、今ではその見方が変わったのと同じように、存在の価値観などすぐに変わってしまう。
    産んだ人間が自らを親だと思っていても、生み出された子供がそれを受け入れるかは別問題なのだ。
    生みの親と実際の親が異なる事は良くある話だ。

    児童養護施設にいる子供たちの親は施設の人間であり、産んだ人間ではない。
    彼らを産んだ人間はそこにはおらず、教育にも関わっていない。
    歌と同じように、深く考えればいくらでも解釈のある話だ。

    ζ(゚ー゚*ζ「そうね。でも一つ言えるのはね、貴方の事を愛している人ってことね」

    その言葉はブーンが老ペニサス・ノースフェイスから出された宿題であり、命題だった。
    愛の意味を知る、という漠然とした宿題。
    彼にとってそれは極めて難題だったが、ブーンはその言葉を素直に聞き入れ、今もその意味について考え続けている事だろう。
    デレシアの言葉に、だがしかし、ブーンは悩む様子を見せなかった。

    (∪´ω`)゛「わかりましたお。
           ……この、マンマミーアっていうのは?」

    ζ(゚ー゚*ζ「それはね、昔あった言葉で“なんてこった”って意味よ」

    ノパ⊿゚)「昔あった言葉? 今の言葉とは違うのがあったのか」

    言語が複数混在する世界など、あまりにも不便ではないだろうか。
    ヒートが学校で学んだ歴史によれば、今の文明が築き上げられた時には言葉は共通の物だったそうだ。
    多少の文法的な変化はあるが、基本的には同じ言葉が使い続けられていると思っていたが、違うのだろうか。

    ζ(゚ー゚*ζ「えぇ、今はもう誰も使っていない言葉よ」

    ノパ⊿゚)「よくそんなの知ってるな。
        学者か何かでもやってたのか?」

    ζ(゚ー゚*ζ「まさか。単なる教養よ」

    そしてデレシアはボヘミアン・ラプソディを再び歌い始めた。
    ブーンも書き取りを再開したため、これ以上詮索するつもりはなかった。
    やはりデレシアの素性には謎が多い。
    確実に今言えるのは、彼女の持つ知識量はヒートが想像している以上であり、彼女はブーンにとっての良き保護者であるという事だ。

    もしもブーンに母と呼べる人間がいるとしたら、それはデレシアの事だろう。

    (∪´ω`)「I see a little silhouette of a man♪」

    どうやらブーンは歌詞の一部と旋律を覚え、歌えるようになったようだ。
    そしてデレシアとブーンの斉唱が始まり、ヒートも自ずとそれに加わった。
    歌詞はブーンの書き取った物を参考にし、三人の歌声が一つになり、音楽を奏でる。
    一曲歌い終え、三人は拍手をして互いを労った。

    ブーンの尻尾は終始揺れ、楽しそうにしていた。

    ζ(゚ー゚*ζ「それじゃあ次は、ヒートも一緒にお勉強ね。
          単位の話よ」

    それから気持ちを新たに、デレシアによる単位の解説を受け、これまでに使っていた単位が使われなくなることを教わった。
    確かにこれまでの単位とは違い、数のキリが良いために計算が容易になる。

    ζ(゚、゚*ζ「ゆくゆくは世界の単位はこれに切り替わるわ。
          面白くもない話だけどね」

    ノパ⊿゚)「便利ならいいんじゃないのか?」

    ζ(゚、゚*ζ「そうね、確かに便利よ。
          でもこれはね、昔の人がすでに使っていたものなの。
          棺桶のほとんどがこの単位を使って設計されているぐらいだもの」

    ノパ⊿゚)「なるほどな。内藤財団にとっての利点がいまいち分からねぇんだが、教えてもらえるか?」

    ζ(゚、゚*ζ「正直、利点はあまりないわよ。
          強いて言うなら工場の生産速度が他の所よりも早い、ってぐらいかしらね。
          たぶんだけど、徐々に規格を変えて全部入れ替わったタイミングで発表したでしょうから」

    世界に向けて単位の統一を声高らかにするのであれば、必然、己の足元は盤石のはずということだ。
    統一された単位で設計・生産をしていれば、どこよりも早い段階で最新の規格を取り入れた製品が出回る。
    他の企業が規格を取り入れた製品を売り出す頃には、巷に広まっているのは内藤財団の商品であり、そこに他社の入り込む余裕などない。
    内藤財団が持つ市場支配力を最大級に高め、盤石にするための発表だったのだろうか。

    ζ(゚、゚*ζ「ラジオを撒き散らしたのもその一環ね。
          恐らくラジオを聞いた人間だけに対するサービスを取り入れて、経済と情報のコントロールを行う。
          ……はぁ、本当に懲りない連中ね」

    デレシアの頭の中ではヒートの想像以上の何かが渦巻いているようだが、訊くのは野暮であると考えた。

    ζ(゚ー゚*ζ「まぁいいわ。
          一つ面白い事を教えてあげる」

    ノパ⊿゚)「おっ、なんだ」

    ζ(゚ー゚*ζ「これから行くラヴニカでは、今お勉強した単位をずっと昔から使っているの。
          後はイルトリアもそうね」

    恐らくは、内藤財団が発表した単位が既存の物であったという声が上がる事だろう。
    そうなれば信頼が失墜しかねないが、そこまでのリスクを考えずに発表したとは考えにくい。
    何か対抗手段を用意しているはずだ。
    ラヴニカに行けば修理のついでに面白いものが見られそうだった。

    その時、ヒートの左手に、ブーンの手が添えられた。

    (∪´ω`)「おー、ジャーゲンって、どんなまちなんですか?」

    ノパ⊿゚)「すまん、あたしは行ったことが無いんだ。
         ただ、交易の拠点として使われてるってのは聞いてるんだけどな」

    ζ(゚ー゚*ζ「交易の中継地点で、子供の多い街よ。昔は色々あったけど、大分変わったの。
          CAL21号事件で内藤財団が介入して、それからね」

    ノハ;゚⊿゚)「また内藤財団かよ。大丈夫なのか、その街は」

    明らかにティンバーランドと深いかかわりを持つ内藤財団の息がかかっている街であれば、迂闊に足を踏み入れない方がいいのではないだろうか。
    歴史的な経緯は分からないが、警戒しておいた方が無難に思われる。
    その意図をくみ取ったデレシアはヒートを安心させるように笑みを浮かべ、優しく答えた。

    ζ(゚ー゚*ζ「まぁ本当の目的はどうあれ、あの街でやった事は間違いではなかったから、いいんじゃないかしら。
          折角だし、少し観光してみる?」

    (∪´ω`)「ちょっと、みてみたいです」

    ζ(゚ー゚*ζ「なら、お弁当を買いに行きましょうか。
          確か停車時間は一時間だから、その間に行きましょう」

    街を知っているデレシアがいれば案内は大丈夫だろう。
    後は、無事に列車に戻れることを考えればいい。

    ノパー゚)「なぁ、ジャーゲンは何が美味いんだ?」

    ζ(゚ー゚*ζ「そうねぇ……特にこれと言って名物料理がないのよ、あの街。
          でもね、美味しいサンドイッチとコーヒーを出すコーヒーショップがあるの。
          まだ潰れてないといいんだけどね」

    (∪*´ω`)そ「サンドイッチ!」

    ローブの下にあるブーンの尻尾が大きく揺れているのが分かった。
    育ちざかりのブーンにとって食事は重要だ。
    それを楽しみにしているという事は、彼がしっかりと成長しているという証拠であり、ヒートを安心させた。

    ζ(゚ー゚*ζ「ブーンちゃん、サンドイッチ好きかしら?」

    (∪*´ω`)゛「あ……ぅ……はい……」

    照れ臭そうにブーンの声が小さくなる。
    頬を赤らめるブーンの頭にデレシアの手が乗せられ、優しく髪を梳くように撫でた。

    ζ(゚ー゚*ζ「しっかりとしたパンだから、食べ応えがあるわよ」

    ノパー゚)「いいねぇ、食べ応えがあるサンドイッチは貴重だからな。
        ティンカーベルじゃあんまり食えなかったからな」

    怪我を早く治すには食事が重要であり、それが美味いのが一番だ。
    栄養バランスについては二の次でかまわない。
    まずは食べて、栄養を体に取り入れるところから始めればいい。

    ζ(^ー^*ζ「じゃあ、それまでの間はお勉強しましょうか」

    (∪*´ω`)「はいですお!」

    そして再び勉強が始まろうとした時、天井のスピーカーからホワイトノイズが聞こえてきた。

    『お待たせいたしました。まもなく、ジャーゲン。
    “慈悲の街”、ジャーゲンに到着いたします。
    到着後、一時間ほど停車いたしますので、お買い物の際にはお時間にお気を付けください』

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    Ammo for Rerail!!編:, /:;.:, :;.:, ̄`丶、: :
    ミh、 :;.:, :;.:, :;.:, \:;.:,/:;.:, :;.:, :;.:, ‐_ :;.:, ``" ̄\
    i:i:i:i:ミh、;';';';';';';';';';'\;';';';';';';';';';';';';'‐_-_-_ :;.:, :;.:, :;.\
    愀i:i:i:i:i:ミh、;';';';';';';';';';';';';';';';';';';';';';';';';';';';';';';';';';';';';';';'\:
    愀愀愀i:i:i:i:i:i:)h、п叩卩庁F=冂卩叩п叩ニニニニニニニニニニ
    寸愀愀愀愀i:i:i:i:i:i:)h、¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨´:
                    第一章【Train of mercy-慈悲の列車-】
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    スノー・ピアサーはゆっくりとジャーゲン駅に進入し、停車した。
    駅は埠頭の中に組み込まれており、貨物列車が複数並ぶことのできる大きな駅だった。
    見えているだけでも線路は十本以上敷かれている。
    ここ数年の間でかなりの成長を果たしたようだ。

    このジャーゲンを陸運・海運の中継点として多くの街から物資が運び込まれ、また、海を越えた街に物資が運ばれる。
    荷の積み替えがこの地の目的であるため、オセアンとは違い、ここには大きな市場はない。
    一つだけ大きな名物があるとしたら、それはコンテナ林と呼ばれる埠頭の存在だろう。
    駅と同じ敷地内にあるコンテナ林は、その名の通り、海や陸で運ばれてきたコンテナが高く積み上げられ、まるで林のような様相を呈している。

    大型のクレーンや重機がせわしなく動き回り、鋼鉄製のコンテナが常に動き続け、金属同士がぶつかる重厚な音が絶え間なく響いている。
    その様はまるで一つの生き物の体内の様だ。
    特徴的なのはその作業をしている人間の年齢層が低いことだ。
    若年者の雇用が盛んなのは、この街の特徴の一つでもある。

    特に、体力がある若者はこうした力仕事に従事することが多いが、その分給与もいい。
    昔は若者の仕事と言えば売春や薬物売買が主だったが、雇用先とその待遇が改善されたことによる結果だ。
    言わずもがな、その最大のきっかけはトラギコ・マウンテンライトが関わったCAL21号事件である。
    彼の行いは良くも悪くも、この街を大きく変えたのだった。

    ブーンにニット帽を被らせ、デレシアは彼と手をつないだ。
    小さな手がデレシアの指先をしっかりと握り、新たな街に足を踏み出す興奮が尻尾に表れている。
    他の客たちと共にプラットホームに降り立った三人は、鉄と海の香りに包まれた。

    ζ(゚ー゚*ζ「さて、時間があまりないから急ぎましょうか」

    (∪´ω`)「おー、ディはいっしょじゃないんですか?」

    ζ(゚ー゚*ζ「えぇ、ディにはお留守番をしてもらうの。
          だからお土産を買ってあげましょうね」

    ノパ⊿゚)「土産?」

    ζ(゚ー゚*ζ「えぇ、お土産。
          油と洗車道具を買ってあげようと思ってね」

    アイディールの全部品の表面には自己修復塗装が施されており、ほとんどの傷は時間経過で元通りになる。
    また、その塗装がもたらす恩恵として、大体の汚れは水で洗い流すだけで事足りるという点がある。
    しかし、それでは落ちない汚れもあるため、洗車は必須なのだ。
    そして当然ながら、機械で動くアイディールの各部に油やグリスを差すことは長く付き合うためには必要な行為だ。

    駅を出てから、デレシアはまっすぐに街を目指した。
    コンテナ林を抜け、閑散とした通りに出る。
    家屋は土地柄もあり、錆が目立つものが多い。
    人通りは少なく、活気も空を舞うカモメよりも少ない。

    それでも空は奇麗だった。

    (∪´ω`)「じひ、ってどういういみなんですかお?」

    その質問に答えたのはヒートだった。

    ノパ⊿゚)「相手のことをかわいそうに思う、って意味だよ。
        哀れみ、なんていう風にも言うな」

    ζ(゚ー゚*ζ「そうね。……後で街を見てみれば分かるかもね」

    CAL21号事件以前、この街は犯罪者に対しての慈悲が極めて強くあった。
    本来、その考え方と法律は犯罪者の更生に対しての取り組みと受け入れがあって成り立っていたが、ある時期を境に解釈が変化したのだ。
    万人に優しく、そして犯罪者に未来を与えるという法律に書き変わり、いつしか未成年犯罪者たちを庇う法律になってしまった。
    ジャーゲンが誕生するきっかけとなったのは、犯罪者達の流れ着く場所となっていた埠頭を所有していた人間が彼らを雇い入れたことから始まる。

    罪を犯したことで彼らの人生全てを終わりにするのではなく、贖罪の日々を過ごせる場所を提供するという理念があったのだ。
    すでにその理念は消滅し、慈悲という言葉だけが独り歩きをしてしまっている状態にある。
    内藤財団介入後、街は慈悲の意味を再解釈し、新たな取り組みで復興を遂げていた。
    それは人通りのある場所に行けば分かるだろう。

    (∪´ω`)「~♪」

    ブーンは鼻歌を歌いながら、空に浮かぶ雲と鳥を見ていた。
    目抜き通りに到着してすぐに、その光景が現れた。

    (,,゚,_ア゚)「ワドルドゥちゃんの手術に寄付をお願いいたします!」

    |゚レ_゚*州「シャルロット君の夢を叶えるために、募金をお願いします!」

    通りに並ぶのは、プラカードと募金箱を手にした人々。
    口々に寄付を呼びかけ、声高にその理由を叫んでいる。
    その姿を見てブーンとヒートは目を丸くして驚いていた。
    この時代、募金活動はそうなかなか見られるものではない。

    ノハ;゚⊿゚)「すげぇな、募金通りか何かかよここは」

    通りに並ぶのは十組以上の募金団体だ。
    それぞれ一定間隔で立ち、異なる理由を口にしては金を求めている。
    その数、五十人以上。

    ζ(゚ー゚*ζ「あら、正解よ。
          ここはね、募金をする人間が集まる場所なの」

    と言っても、勿論正規の場所ではない。
    単純に、人が多く集まる場所で呼び込みをすれば、金を手に入れやすいからという理由でここに立っているだけに過ぎない。

    (∪´ω`)「ぼきんって、どんなことをするんですか?」

    ζ(゚ー゚*ζ「お金をもらって、自分たちのやりたいことをやるのよ」

    (∪´ω`)「お? どうして、おかねをもらえるんですか?」

    この歳でもブーンは金の大切さを知っている。
    それを手に入れること、そしてそれを使うこと、使われること。
    奴隷として売られていた彼にとっては、金の持つ力は絶大だ。
    事実、彼の人生を左右したのは金の力なのだ。

    ζ(゚ー゚*ζ「それが、慈悲なの。
          よく言えば善意、悪く言えば同情ね」

    ノパ⊿゚)「しかし、すんげぇ量だな」

    十字教の本拠地、セントラスでもここまでの人間は集まらないだろう。
    募金活動を行う人間が一堂に会するのは、世界広しといえどもここぐらいだ。

    ζ(゚ー゚*ζ「世界中から来ているからね。
          いわば出稼ぎよ」

    (∪´ω`)「でかせぎ?」

    ζ(゚ー゚*ζ「お金を稼ぐために、自分たちのいる街ではないところに行くことよ。
          地元だと儲からないから、こうしてここに来るの」

    (∪´ω`)゛「おー。わかりましたお」

    ζ(゚ー゚*ζ「あれにかまってると時間が無くなるから、さっさと行きましょ」

    ブーン手を引いてデレシアは通りをまっすぐに進んだ。
    だがブーンの視線は時折聞こえてくる声につられ、動いてしまう。
    彼は人一倍耳がいいため、聞こえてくる言葉に興味が向けられてしまうのだ。
    特に今は勉強盛りの状態であるため、無理にこの場を去る必要はない。

    ζ(゚ー゚*ζ「話している内容が気になるの?」

    (∪´ω`)「お…… きになり……ます」

    ζ(゚ー゚*ζ「どんなことを言っているのかしら?」

    (∪´ω`)「えっと…… びょうきでこまってる、とか、おかねがひつようとか……です」

    ζ(゚ー゚*ζ「じゃあ、あの人たちの服を見てみましょうか。
          特に、靴をよく見てごらんなさい」

    (∪´ω`)゛「はいですお」

    あそこに立っているのは募金を生業としている人間たちであり、相手にする時間がもったいない。
    一日十時間以上もその活動を行うことがあるが、その時間を労働に使おうとは考えないのだ。

    ζ(゚ー゚*ζ「靴はね、その人の生き方を教えてくれるの。
          例えば、ヒートの靴と比べてみましょうか」

    ノパ⊿゚)「え?」

    ヒートの足元を飾るのは、武骨な黒のロガーブーツだ。
    よく使いこまれ、皺と傷まみれになっている黒革のブーツは、彼女が手入れを怠っていないことをよく表している。
    黒い皮はすっかりくたびれて柔らかくなっているが、ひび割れている部分はなく、上品な経年劣化を果たしていることが分かる。
    それはつまり、実用性を重視しつつも、道具への手入れを怠らないという人間性の表れだ。

    一度愛着心を持ったものに対しては信頼を寄せ、見捨てることは決してせず、共に歩んでいくという自立心が見える。
    靴墨をあまり使わず、光沢も気にしていない手入れの仕方からは外見については執着心がなく、内側に興味を持ちやすい性格なのかもしれない。
    彼女の靴からはそんな側面が垣間見えた。

    ζ(゚ー゚*ζ「いい靴はね、ちゃんとお手入れすれば一生ものにだってなるの。
           あの人たちの靴と比べて、何か分かることはあるかしら?」

    (∪´ω`)「……あのひとたちのくつ、ボロボロかピカピカですお」

    ζ(゚ー゚*ζ「そう。ボロボロっていうことは、お手入れをしていないってこと。
          そしてあの人たちのピカピカな靴は新品か、高級品だからよ」

    募金活動を生業にする人間には大きく分けて三種類いる。
    一つは、上品な身なりで上品な言葉を並べ、募金活動を行う人間。
    その人間は大体が募金で集めた金を自分のために使い、残った一部の金を募金対象者に渡す。
    募金対象者がグルの可能性は大いにある。

    靴に金をかける人間は、少なくとも経済的に余裕があると考えられる。
    金を求めているにもかかわらず自らの身銭を切ることはしないという点が、彼らの人間性をよく表している。
    同情を求めているように見えて、彼らは外見を気にしているだけに過ぎないのだ。
    他者に犠牲を要求し、己は何も失わないという本音が見えている。

    二つ目は、みすぼらしい身なりをして、感情的な言葉を並べる人間だ。
    あの服装があえてなのか、それとも自然なのかはあまり関係がない。
    いずれにしても言えるのは、彼らの言葉には実態がなく、感情ばかりが先行している点に尽きる。
    感情は判断力を鈍らせ、正確な姿を消してしまう力がある。

    意図的に感情的な言葉を並べ、同情を誘い、そして得た金をどう運用するのか。
    彼らは何も考えていないことがほとんどだ。
    とにかく金を集め、そして使う。
    そのことに生きがいを感じているため、己の身なりについて、関心を持たなくなる。

    その表れが、ボロボロの靴だ。
    靴の手入れをすれば長く使えるが、そうはしない。
    あえてみすぼらしい格好になることで自分たちの必死さを訴えようという、実に感情的で計算的な行動がある。
    服と違い、靴は壊れてしまえばその機能を失ってしまう。

    故に、その手入れを怠るということは、本質に対して目を向けようとしない思考の表れだ。
    これらはあくまでもデレシアが彼らの靴から読み取った人間性に関する推測であり、当然、異なることもあるだろう。
    だがこの二つの募金活動者に共通して言えるのは、“彼らは金を出してこの街に来た”ということだ。
    つまり、交通費や宿泊費を出してこの街に来て、金を求めているのである。

    すでに矛盾が生じている時点で、彼らの話に耳を貸す必要はない。
    最後の一つは、自ら募金活動をすることなく、目的を達成しようとする最も厄介な人間だ。
    彼らは頭を使い、自らの手を汚さず、労せずに金を得る。
    その見極めには服装ではなく、彼らの言葉が必要になる。

    一つぐらいはまともな募金団体があるだろうという人間の善意とは裏腹に、この街で募金活動する人間たちは総じて金儲けが狙いである。
    しかしここは慈悲の街。
    慈悲で街が成り立つには、それなりの仕組みがあるのだ。
    彼らが使用する募金箱は規格が定められており、その箱はジャーゲンにある幾つもの企業から買わなければならない。

    同時に、箱の購入者は街に募金の申請を行い、認められる必要がある。
    認可を得た団体は期間中に宿泊施設を格安で利用できる権利書が与えられ、街にある飲食店でも割引を受けることができる。
    購入した募金箱が満杯になる、もしくは期日が訪れた際にはその募金箱は街の役所に持ち込まれ、募金額の5%を支払う必要がある。
    募金税、と呼ばれる制度である。

    また、募金をした人間はその証明書を募金団体から受け取ることで、一定期間、飲食店などでサービスを受ける権利を得られる。
    募金額に応じたサービスを行う店もあるため、募金をした人間は決して損をするわけではないのがポイントだった。
    ジャーゲン全体を巻き込んだこの制度は、いつしか、募金団体の聖地として知れ渡るようになったのである。

    (∪´ω`)「……お。
          ヒートさん、きいてもいいですか?」

    ノパ⊿゚)「おう、何だ?」

    (∪´ω`)「ぼきんをするひとって、なんのためにぼきんするんですか?」

    ノパ⊿゚)「話を聞いて手助けしたい、って思ったからだろうな。
        中にはそうやって手助けすることが生甲斐になってるやつもいるんだ」

    (∪´ω`)゛「おー」

    ブーンは頷いたが、やはり、不思議そうな目で募金活動を続ける人間たちを見ている。
    彼の胸中で渦巻いているであろう考えは、概ね見当がつく。

    (∪´ω`)「デレシアさんがぼくをたすけてくれたのも、じひ、なんですか?」

    ζ(゚ー゚*ζ「私がそうしたかったからそうしたのよ。
          慈悲なんかじゃないわ」

    故に、デレシアは即答した。

    (∪´ω`)「お……」

    ζ(゚ー゚*ζ「人にはね、時には理屈とか常識とか、そういう煩わしいものに囚われたくない時があるの。
          いつかきっと、貴方にも分かるわ」

    そう。
    人には、感情の赴くままに動く時がある。
    彼を見つけた時、デレシアは久しぶりに胸が高鳴ったのだ。
    彼を助ける理由には、それだけで十分だった。

    (∪´ω`)゛「わかりましたお」

    通りを歩き、三人は募金通りから離れた。
    道中にバイク用品の専門店があったため、そこにヒートとブーンを立ち寄らせ、ディへの土産を買うように頼んだ。

    ζ(゚ー゚*ζ「ヒートが商品を見繕って、ブーンちゃんがお買い物をするのよ。
          いい、ヒートに物を持たせたらダメよ?」

    (∪´ω`)゛「はいですおー」

    ノパ⊿゚)「頼もしい限りだ。
        あたしらはここで待ってればいいか?」

    ζ(゚ー゚*ζ「えぇ、ここで待っていてちょうだい。
          そんなに時間はかからないから、二人で仲良くね」

    ノパー゚)「あぁ、任せな」

    二人を用品店に残し、デレシアはコーヒーショップに向かった。
    コーヒーショップは用品店から数分離れた場所にあり、健在だった。
    店の中に客はわずかだったが、廃れているわけではない。
    扉を押して入ると、小さな鈴の音がした。

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    イ´^っ^`カ「いらっしゃ……って、え?!」

    すっかり白髪だらけになった店主がカウンターから不愛想な声をかけ、その言葉が途中で途切れた。
    デレシアの姿を見て、まるで幽霊か何かを見ているような反応だ。

    ζ(゚ー゚*ζ「お久しぶり、元気だった?」

    イ´;^っ^`カ「そ、そりゃあ元気ですが、ええぇ……」

    ζ(゚、゚*ζ「あら、女性の顔を見てそんな声を出すのはマナー違反よ」

    イ´;^っ^`カ「す、すみません……」

    ζ(゚ー゚*ζ「いいわよ、許してあげるわ。
          その代わり、あのサンドイッチを三つ用意してもらってもいいかしら?」

    イ´;^っ^`カ「分かりました、ちょっと待ってくださいね」

    カウンターの裏で作業が行われる間、デレシアは店内に目を向けた。
    客は若い男女が一組、新聞を広げたまま目を瞑っている年配の男が一人、そして若い男の三人組。
    決して多い人数ではないが、昔と比べれば繁盛しているほうだろう。
    店内に漂うコーヒーの香りは昔と変わっていない。

    変化が求められる時代において、変化のないものは極めて貴重だ。
    この店の店主が健在である限り、それは続くだろう。

    ζ(゚ー゚*ζ「しばらく来ない間に、ここは警察のたまり場か何かになったの?」

    その発言で、店内の空気がわずかに変わった。

    イ´^っ^`カ「……どうしてですかい?」

    ζ(゚ー゚*ζ「客のほとんどが警官だからよ」

    店主がサンドイッチを紙に包む音が嫌に大きく聞こえる。
    どうやら図星だったようだが、表情を変えず、無駄なことも言わない。
    商売を心得ている人間のそれではあるが、デレシアの前で隠し事をするにはいささか度胸が足りないようだ。

    イ´^っ^`カ「サンドイッチ三つで七ドルです」

    ζ(゚ー゚*ζ「はい、お釣りはいらないわ」

    紙袋に入ったサンドイッチを手に、デレシアは店を出た。
    その直後、店の中から大声が聞こえてきた。

    「動くな!! 警察だ!!」

    振り向くと、デレシアに続いて店を出ようとした三人組の男達が店内で組み伏せられていた。
    デレシアの予想した通り、店の中にいた警官は三人。
    罪状は知らないが、あの男たちを逮捕するために張り込んでいたようだ。
    婦人警官と目が合ったが、デレシアは微笑みを浮かべて踵を返し、用品店に戻った。

    店の前には二人が並んで立ち、何かを話していた。

    ζ(゚ー゚*ζ「お待たせ」

    (∪´ω`)「おー」

    ノパ⊿゚)「本当にすぐだったな。
         ディ用の油と洗車道具だけど、こんなもんでいいか?」

    ブーンが手に持った買い物袋を広げて見せる。
    何一つ問題のない、無難な選択だった。

    ζ(゚ー゚*ζ「えぇ、これで大丈夫。
          さ、行きましょ」

    来た道を戻ると、先ほどの募金通りで何か揉め事が起きているようだった。
    そこに見たことのある顔があったが、デレシアは視線を彼に向けることなく、駅へと向かった。

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    : : : : : : /⌒ヽ: :/ u.  _ { |
    : : : : : /  ヽ V      ~"''..:::'/
    : : : : :.{   :::}     し      \
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    : /     :八      `ー ` /
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    サイレントマンは心底困っていた。
    善意が裏目に出て非難されるなど、彼の常識の中には存在しなかったのだ。
    事の発端は彼がある団体に5セント募金したことだった。
    募金を終え、街を見て回ろうと進んだところで、別の団体に寄付を求められ、それを断った。

    Ie゚U゚eI「ちょっと、何でこっちには募金してくれないのよ!」

    募金箱を抱えた中年の女性が怒りの表情を浮かべ、サイレントマンに詰め寄ってきた。

    ( ゙゚_ゞ゚)「え?」

    Ie゚U゚eI「不平等じゃない、酷い人ね」

    ( ゙゚_ゞ゚)「あ、あぁ、すみません」

    言われるがまま、彼は5セントの募金をした。
    面倒なことに巻き込まれないよう、その場から離れようとしたが、数歩歩いて再び呼び止められた。

    从´_ゝ从「おいおい、あっちに募金してこっちには募金しないのかよ!
         なぁ、どうして困ってる人間に手を貸さないんだ?
         それとも、ビーニー君が山を登りたいって夢を応援するのはバカみたいって思ってるのか?
         最低な偽善者め!」

    ( ゙゚_ゞ゚)「そ、そんな……」

    若い男の後ろには、生まれつき体の弱いビーニーという少年を山に登らせるための金を集めている旨の看板があった。
    ガイドや装備を用意するために必要な目標金額は八千ドル。
    果たして、少年一人を登山させるのにそこまでお膳立てをしなければならないのかと思ったが、少年は足に障害を抱えているらしかった。
    男は深いため息を大声で吐き、敵意に満ちた声と視線をサイレントマンに向けた。

    从´_ゝ从「はあ゛ぁっ!
         いるんだよな、自分はいい人アピールしたいからって、分かりやすいのに募金するやつがよ。
         だけど断言できるね。
         そういうやつは、糞野郎だってな」

    ( ゙゚_ゞ゚)「そ、そんなつもりじゃ」

    从´_ゝ从「なら最初から募金しろよ。
         何も言わずに募金してりゃあよかったんだ。
         いいよ、お前みたいな糞野郎の手垢にまみれた金なんか受け取りたくねぇよ」

    ぐい、と男が顔を近づけて威嚇をしてくる。
    何も言えず、何もできない。
    恐怖を感じ、背中に冷たい汗をかいた、まさにその時。

    ( <●><●>)「ずいぶんな言い草ですね、お兄さん。
            これ以上私の友人をいじめるのを止めてもらえますか?」

    ワカッテマス・ロンウルフが男を押し返し、サイレントマンと男との間に割って入った。
    彼の背中がまるで鋼鉄製の盾のように頼もしく見える。

    从´_ゝ从「んだよ、あんたに話なんかしてねぇよ!」

    ( <●><●>)「威勢がいいのは結構ですが、虚勢にしか見えないのが残念ですね。
           さ、我々に構わず早いところ募金を続けてください。
           時間がもったいないですよ」

    从´_ゝ从「うるせえ!
         引っ込んでろよ!」

    ( <●><●>)「ふぅむ、最近の若い人はどうにもダメですね。
            まぁ、私も若い部類ですが、貴方よりももう少し人間が出来ていると思います」

    ワカッテマスを押し飛ばそうと、男が手を伸ばした。
    その手は確かに彼の肩を掴んだが、彼はびくともしない。
    樹木に対して手をついている様な恰好となり、男は狼狽し、手を離した。

    从;´_ゝ从「なっ、何だよ!!」

    ワカッテマスはスーツの皺を払い、言った。

    ( <●><●>)「さっきから五月蠅いですね。
           お仕置きされたい年頃ですか?」

    从;´_ゝ从「あんたには関係ないだろ、いいから失せろよ!!」

    ( <●><●>)「いいえ、大いに関係あります。
           彼は私の友人で、私は彼の友人です。
           で、あれば助けるのは当然です。
           もしかして、友人がいないから分からないのですか?」

    ほぼ初対面にも関わらず、ワカッテマスがここまで手を貸してくれることに、サイレントマンは思わず胸が熱くなった。
    友人、何と素晴らしい響きだろうか。
    記憶を失い、何もかもを手探りで手に入れようとする男を友人と呼び、窮地を救ってくれる人間が目の前にいる。
    こんなにもありがたく、そして嬉しい事はない。

    从#´_ゝ从[「うるせぇってんだよ!!」

    遂に男が声を荒げ、ワカッテマスに殴り掛かった。

    ( <●><●>)「……はぁ」

    だが。
    彼は動じることなくその拳を掴み、無理矢理に握手をした。
    ワカッテマスの手はまるで万力のように男の腕を固定し、男はそれを振りほどこうと力を入れるが、微動だにしない。
    それは異様な光景だった。

    ( <●><●>)「暴力では解決しないこともあるんですよ。
           言葉の暴力も然り」

    柔らかな言葉だったが、それが最後通告であることは間違いなかった。
    サイレントマンは口の中が乾いていることに気づき、唾を飲み込んだ。
    そこでようやく落ち着きを取り戻し、周囲に意識を向けることができた。
    いつの間にか、周囲に人だかりができていた。

    从;´_ゝ从「わ、分かったよ、分かったから!!」

    ( <●><●>)「それは何よりです。
            さ、そろそろ列車に戻りましょう」

    手を放し、ワカッテマスは興味を失ったように男に背を向けた。
    ワカッテマスに促され、サイレントマンは来た道を引き返すことにした。

    从#´_ゝ从「……糞が」

    ( <●><●>)「ほぅ」

    それは一瞬の出来事だった。
    男の言葉を聞いたワカッテマスが小さく呟き、振り向きざまに何かが起きた。
    もしもサイレントマンの目がご認識を起こしていなければ、彼は男の顎に手の甲を素早く当てたように見えた。
    周囲の人間は誰もそれを見ていないのか、何も言わない。

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                          _  .rヘ
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                       V.:::|、|:::/
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                         、::ヽ::::.V从И
                        _〉.::::::::{、トi }
                       ,イ「{:::::::::::::::::比_ノ
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              く   /
                 ヽ  、
                  ヽ ヽ
                   ',  ヽ
                   _ノ   }
                  └‐ァ /
                 {_/
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    从゚_ゝ从「ぽ……」

    男は白目をむいて、足の筋肉が失われたかのようにその場に膝から崩れ落ちた。
    意識のない男の股に黒い染みが広がり、失禁しているのが臭いでも分かった。
    呆気ない最後を見届け、周囲の人々はその場からすぐにいなくなった。

    ( <●><●>)「どうやら声を張り上げすぎたみたいですね」

    ( ゙゚_ゞ゚)「あ、あぁ……」

    ( <●><●>)「どうしたんですか?」

    まだ呆然とし、立ち止まったままのサイレントマンにワカッテマスが心配そうに声をかけた。

    ( ゙゚_ゞ゚)「助けてくれてありがとうございました。
        ところで今のは、武術か何かですか?
        凄い早いパンチでした」

    ( <●><●>)「……見えたんですか?」

    ( ゙゚_ゞ゚)「少しだけですが」

    ( <●><●>)「みんなには内緒ですよ」

    ワカッテマスは人差し指を口に当て、悪戯っぽくそう言った。
    そして二人は駅に向かい、歩き始めた。
    無言の間が続き、サイレントマンは何か話をしなければと思うが、話題が何も思い浮かばない。

    ( <●><●>)「人助けというのは厄介なものでね」

    そんな彼の思惑を察したのか、ワカッテマスが話を始めた。

    ( <●><●>)「誰かを助ける間、誰かを見捨てなければならないことがあります。
            特に、助ける手段が有限の場合はそうです。
            例えば、血を流している子供と転倒した老婆が目の前にいたとします。
            子供を助ければ老婆が。 老婆を助ければ子供の親が不満を口にします。

            どうして向こうを、とね。
            重要なのは程度ではなく、己を優先しなかったことなんですよ」

    それは、先ほどサイレントマンが陥った状況そのものだった。
    彼の所持金には限りがある。
    旅を続けるために必要な金の一部を削って募金をしたがために、あのようなことに巻き込まれてしまった。

    ( <●><●>)「主張する意味は分かりますが、どうしようもないこともあるのです。
            助けるという行為は、それが偽善だろうが何だろうが、どこかで非難を受けるものなのですよ。
            万人を平等に扱うなんていうのは、人間には無理なんですよ」

    ( ゙゚_ゞ゚)「……それでも、誰かを助けたいと思ったときは、どうしたらいいんですか?」

    ( <●><●>)「助ければいいんですよ。
            別に、君は他者を不幸にしていない。
            それはつまり、悪行ではないんです。
            なら、好きにすればいいんですよ」

    ( ゙゚_ゞ゚)「なるほど……」

    ( <●><●>)「ま、これはあくまでも私の考えですけどね。
           確実に言えるのは、先ほどの募金で貴方が責められることは何一つなかったということです」

    誰かに己の言動を肯定してもらえれば、それだけで救われることもある。
    この時、ワカッテマスの言葉を聞いたサイレントマンは強くそう思ったのであった。

    ( ゙゚_ゞ゚)「そうだ、さっき僕のことを友人と仰ってくださってましたよね」
      _,
    ( <●><●>)「おや、ご迷惑でしたか?
            てっきり、私の中では友人だったのですが」

    ( ゙゚_ゞ゚)「いえ、逆です。
         ワカッテマスさんにそう言ってもらえて、僕、とても嬉しかったんです。
         こんな記憶も何もない僕を友人だと言ってくれる方なんて、いないと思っていましたから」

    ワカッテマスの手がサイレントマンの肩を軽く叩き、力強く揺さぶった。
    人を安心させる柔らかな笑顔を浮かべたまま、彼は有無を言わせぬ口調で断言した。

    ( <●><●>)「友人になるのに時間は必要ないんですよ。
            スノー・ピアサーに戻ったら昼食を食べながらチェスでもしましょう」

    ( ゙゚_ゞ゚)「チェスはその……ルールが分からなくて」

    ( <●><●>)「なぁに、一緒にやっていきましょう。
           時間はあるのですから、気長にいきましょう」

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        || ∨ : vハ: : :.| リ       |                | |   } }
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    スノー・ピアサーに戻ったデレシア一行は買った品物をローテーブルの上に並べ、一息ついた。
    デレシアは部屋に備え付けられていた湯沸かし器と茶葉を使い、紅茶を淹れた。

    ζ(゚ー゚*ζ「少しだけ待っていてね」

    流石高級列車の最高級車輛だけあり、茶葉もポットもしっかりとした上等な物だった。
    チケットを確保してくれたロマネスク・O・スモークジャンパーに感謝しなければならない。

    (∪´ω`)゛「おー」

    ノパー゚)「香りがすげぇな。
        湯を入れただけでここまで漂うもんなのか」

    ζ(゚ー゚*ζ「そうね、やっぱり茶葉が違うだけで味も香りも全然違うのよ。
          お茶が出来たらサンドイッチと一緒に飲みましょうね」

    三分ほどの待ち時間だが、その間にブーンは単語帳を開いて勉強を始めた。
    言葉の意味を知れば知るほど、彼の世界は広がっていく。
    どこまでその世界が広がるのか、デレシアは楽しみで仕方がなかった。
    長い目で彼の成長を見守り、見届けることは今一番の楽しみだ。

    『お待たせいたしました。
    これよりジャーゲンを出発いたします。
    次の停車駅は、フートクラフトです。
    防寒着は三両目の物販車輛にございますので、ご利用ください』

    (∪´ω`)「フートクラフト?
          ……あしクラフト?」

    ζ(゚ー゚*ζ「あら、よく分かったわね。
          フートはあし以外にも、麓って意味があるの。
          フートクラフトは、クラフト山脈の足元の町、って意味よ」

    フートクラフトはクラフト山脈から流れ込む雪解け水が有名な町だが、それ以外は何もない。
    水を輸出しても、その輸出コストの関係で儲けはほぼ相殺されてしまう。
    景観は抜群だが、如何せん、交通の便が悪すぎるのだ。

    ノパー゚)「凄いじゃねぇか、ブーン!」

    (∪*´ω`)「やたー!」

    ヒートはブーンを抱きしめ、無事な手でその頭を撫でまわした。
    ブーンもヒートを抱き、尻尾を振って喜びを露わにする。
    静かに列車が進み始め、外の景色が動き出す。

    ζ(゚ー゚*ζ「正解したブーンちゃんには、特別美味しい紅茶を淹れてあげるわね」

    ポットからカップに真紅の紅茶を注ぎ、紙に包まれたサンドイッチをそれぞれの前に置く。

    ζ(゚ー゚*ζ「はい、どうぞ」

    (∪*´ω`)「いただきます」

    ノパー゚)「いただきます」

    ブーンは包み紙をはぎ取り、自分の腕ほどの太さのあるバゲットサンドを取り出した。
    はみ出すほどに挟まれたレタス、トマト、チーズ、そして生ハム。
    具材に変更はなく、そして量も変更がない。
    漂う香りと色合いを見て、使われているドレッシングとマヨネーズにも変わりがないことが分かった。

    (∪´ω`)「んあー」

    大きな口を開け、ブーンは一口目を頬張った。
    頬を膨らませ、噛み応えのあるバゲットサンドを美味しそうに咀嚼している。
    この手の料理は上品に食べる必要はない。
    食べ方も味の一つであり、特に、このバゲットサンドはできる限り頬張った方が美味いのである。

    あの店の使うバゲットは適度な硬さと柔らかさのあるもので、その日の朝に焼き立てを仕入れて調理しており、朝に食べるのが最も美味いのだ。
    無論、時間が経てば硬くなるが、それでも美味さは衰えることがない。
    昔ながらの大味で気取らない味のサンドイッチ。
    毎日ではなく、ふとした時に食べたくなる味の一品だった。

    (∪*´ω`)゛「むー!」

    ζ(゚ー゚*ζ「ヒートのは一口サイズに切り分ける?」

    ノパー゚)「わりぃ、助かるよ」

    ナイフを使ってヒートのバゲットサンドを切り分ける間に、ブーンは二口目を嚥下していた。
    切り分けられたバゲットを掴んで、ヒートも負けじとそれを一口で口に収めた。

    ノパー゚)b「んっ!」

    ヒートは何も言わず、満足そうな笑みを浮かべて親指を上げた。
    好評だったようで何よりだ。
    デレシアもバゲットに齧り付き、変わらぬ味に満足の声を上げた。
    ビネガーを主としたドレッシングには細かく刻んだパプリカのピクルスとオリーブが入っており、食感と風味が嬉しい一手間だ。

    絶妙な酸味を引き立てるのはマヨネーズと生ハムの塩味。
    味の奥深さを演出するのはモッツアレラチーズとトマトで、ドレッシングに混ぜられたオリーブオイルが全ての食材を一つにまとめ上げている。
    手間のかかった料理ではないが、試行錯誤の末に導き出されたこの料理はある種の完成形と言えた。

    (∪*´ω`)「こうちゃも、おいしいですお」

    すでに半分食べ終えたブーンが、紅茶を一啜りしてそう言った。
    彼の口の横についたマヨネーズをデレシアが指で拭い、指を舐めた。

    ζ(゚ー゚*ζ「それは良かった。
          御飯が終わったら、ディちゃんのところに行きましょうね」

    (∪*´ω`)「おっ!」

    再びブーンは大きな口を開けて、バゲットサンドを食べ始めた。
    それから食事を続け、三人は食後の紅茶を飲んで一息ついた。

    ノパ⊿゚)「ふぅ、紅茶もサンドイッチも美味かったな。
        しかし、フートクラフトまで行けるんだな、この列車は」

    ζ(゚ー゚*ζ「確か、クラフト山脈を通って行くルートになっているはずよ。
          山脈伝いに行くよりも早く到着するから。
          フートクラフトの次がシャルラ近辺、それからラヴニカね」

    所要時間がどれだけ短縮されるのか、実に見物だった。
    クラフト山脈にレールを敷いた人間たちの精神力と覚悟は素直に尊敬する。
    誇張ではなく、あの山に登って作業をすることは文字通り命がけなのだ。
    登山家たちが毎年あの山で死んでいるのは周知の事実であり、その成功率の低さは紛れもなく世界一である。

    夏でもその雪は溶けずに残り、積もり固まった雪はコンクリートか何かのように固い。
    クラフト山脈にレールを敷こうという発想は、強い意志と実行力がなければ実現にまでこぎつけられない。
    それなりの報酬、そしてそれ以上の見返りがあったのだろう。

    ノパ⊿゚)「あたしはクラフト山脈の辺りはよく知らねぇんだが、防寒着は買わなくて平気か?」

    ζ(゚ー゚*ζ「そうね、外に出るならローブだけじゃ無理があるわね。
          後で買いに行きましょう」

    大抵の気候と地形に対応できるローブだが、クラフト山脈の冷気から体を守るには心もとない。
    標高が高くなればそれだけ気温が低くなり、風が強くなる。
    布の隙間から入り込んだ冷気が体温を奪えば、ローブは防風程度の効果しか発揮できない。
    せめてダウンの上着と防寒防風のズボンが必要だ。

    (∪´ω`)「デレシアさん、クラフトさんみゃくって、どういうばしょなんですか?」

    紅茶を飲み終えたブーンが小首を傾げ、尋ねてきた。
    彼はまだ雪と戯れたことがまだないのかもしれないと、デレシアは思った。

    ζ(゚ー゚*ζ「凄く背の高い山よ。
          寒いというよりも、冷たい場所ね。
          雪がたくさんあって強風が吹いて、人が生きるには厳しい場所だけど、景色がきれいな場所よ。
          ペニおばーちゃんの家からも見えてた、あの白くて大きい山よ」

    デレシアはブーンの背中を指さす。
    それにつられるようにして、ブーンは振り返り、声を上げた。

    (∪*´ω`)「おっ」

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    ハハ从'从∧::::∧::::::::::::::::::::::::::::,,;.;.'' ;;;;;''":::::::::::::::::::::::::::::::::::__/kkkkkkkkkノノヾ从ノノ;
    ノノゞゞ"ヾハ∧从∧:::::::::::::::::::::::''''""::::::::::::::::::::::::::::::::::::::/kkkkkkkkkk∧kk,',,彡ミ彡爻',
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    山脈が近づき、その険しい山々が巨大な壁のように地平線を覆っている。
    上空で強風が吹いている証拠に、山肌に積もった雪が白い帯となって漂っていた。
    その荘厳さ、圧倒的な巨大さはフォレスタの森から見たものとは次元が違う。
    眼前を覆いつくすほどの巨大な山肌は青白く、その頂は空の一部と化している。

    ζ(゚ー゚*ζ「あの頂上にたどり着くことができるのは、本当に一握りの人間だけで、そこから降りられるのはもっと少ないの。
           確かまだ五人もいないはずよ」

    麓から登ることはできるが、山頂部に到達するまでにはいくつもの難所を越えなければならないため、登りきることが極めて困難なのだ。
    現在開拓されているルートは二つだけで、どちらも死に至るまでの時間が長いか短いかの違いであるとさえ言われている。
    最大の敵は寒さと風、そして垂直に近い急斜面だ。
    一流の腕と装備を持っていたとしても、自然が生み出す予測不可能な天候は無慈悲に登山者を襲う。

    運よく登頂に成功したとしても、下山の段階で命を落とす危険性からは逃れられない。
    デレシアの知る限りでは、五指にも満たない人間だけが山頂からの景色を見て生還したはずだ。

    (∪´ω`)「どうしてのぼるんですか?」

    ζ(゚ー゚*ζ「それはね、登ってみないと分からないことよ。
          きっと皆、それを知りたくて山を登るんじゃないかしら」

    これは答えのない問いだ。
    人によって異なる答えを出し、そして、その答えは理解を得ないまま墓場に持ち込まれる。
    山に挑んだ人間のみが、その答えを知るのだ。
    登るのではなく、挑んだ人間だけが。

    (∪´ω`)「おー、ふしぎですおー」

    少しの間、ブーンはクラフト山脈を眺め、それからヒートを見た。

    ノパ⊿゚)「ん? どうした?」

    (∪´ω`)「おー」

    ノパー゚)「……大丈夫だよ、あたしはどこかに行ったりしないさ」

    ブーンとヒートはまるで姉弟のような関係を築き上げていた。
    怪我の功名、というわけではないが、ヒートが目に見えて重傷を負ったことで、ブーンの考えに変化が生じたのは想像に難くない。
    そしてそれが進展したのは、ヒートが単独行動に走ったからでもある。
    ブーンからすれば、再び何かの拍子にヒートがいなくなり、命を失ってしまうのではないかという危惧があるのだろう。

    子供らしい危惧だが、当然の危惧でもあった。
    ペニサス・ノースフェイスを目の前で失った彼にとって、これ以上誰かと死に別れるのは耐えられないのだ。
    それは心の成長であると喜ぶべきことだが、寿命で死んだのでなければ、喜ばしいことではない。

    ζ(゚ー゚*ζ「さ、ディを洗いに行きましょ」

    洗車道具を持って三人は車輛内にある荷物置き場に向かうことにした。

    ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
                    ..._,,.. --ー―ーイ.,
                 ,. -''⌒∨ :/  . . . . . . . .. ^ヽ、
           ,,.-/     ヤ: : : : : : : : : : : : : ... `ヽ.
          /    _ノイヽ、./: : : : : : : : : : : : : : : : :. ヽ.
         /⌒` ̄ ̄| |~7: : ' ' ' ' ' ' ' ' : : : : : : : : :. |
       /7,.- 、   .ゝヽ{'         ' : : : : : : /
      / /    ̄~^''''ゝこ|           ' : : : /
     /  i^ ~^''ヽ、     |\ノ=ニニニ=-、    ' :./
    ./   !     ^'''-  | /-ー-    \   ノ
    ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

    デレシアたちがディの洗車を行っている間、ジュスティアではトラギコ・マウンテンライトが十三杯目のコーヒーを飲み干し、深い溜息を吐いていた。
    目の前に座るツー・カレンスキーとジィ・ベルハウス、そしてゲイツ・ブームは沈黙し、トラギコの言葉を待っていた。
    トラギコからの報告と、それに対する質問が終わり、彼はツーからの情報に耳を傾ける番だった。
    そして、最初の情報に対してトラギコの反応は数秒間の沈黙と溜息だった。

    (=゚д゚)「何?」

    (*゚∀゚)「サイレントマンは退院した、と言ったんだ」

    その人物は、トラギコがデレシア一行を追うことになった事件の生き証人だった。
    強化外骨格の中でも、極めて価値の高いガバメント・シリーズの“エイブラハム”に身を包み、ログーランビルから落下した生存者。
    その存在は勿論、彼が退院したことも今初めて聞かされたのだ。
    デレシアの逮捕に踏み込むことのできる証人の存在もそうだが、それを野に解き放ったことが信じられなかった。

    (=゚д゚)「どう考えてもビルで戦ってた奴だろ、どうして逃がしたラギ?」

    ジュスティア上層部は時々想像を絶するほど愚かな選択をすることがある。
    今回もその一つなのだとしたら、トラギコの堪忍袋は流石に耐えられない自信があった。
    だがツーはトラギコの憤りを知ってか知らずか、落ち着いた様子だった。

    (*゚∀゚)「心配ない。サイレントマンが“葬儀屋”と呼ばれていた殺し屋だということも、その居場所も分かっている。
        ちなみに本名は、オサム・ブッテロ。
        知りたければ資料があるぞ」

    必要なのは男の情報ではなく、男が持っているデレシアの情報だ。
    デレシアに関する情報は値千金であり、喉から手が出るほど欲しい。
    仮に彼女を逮捕する段階で事件に関する証拠が揃っていたとして、それが意味を成すかは問題ではない。
    彼女の武力が底なしだとしても、トラギコは退くわけにはいかないのだ。

    己の生涯最後の事件になるとしても構わない。
    あの女は、必ずこの手で捕まえるのだ。

    (=゚д゚)「どこにいるんだよ、そいつは」

    (*゚∀゚)「今日運行が開始になったスノー・ピアサーだ。
        退院祝いの金を全部使って、ある女を探すとのことでな」

    懐から折りたたんだ紙を、トラギコの前で広げて見せた。
    そこに描かれていたのは、デレシアに酷似した女の絵だった。
    表情に動揺が現れていないことを願い、トラギコは知らない風を装った。

    (*゚∀゚)「さぁ、本題に入ろう。
        この女、知っているな?」

    (=゚д゚)「知らねぇな」

    ツーは分かっていて聞いてきている。
    この女は、トラギコがデレシアを知っていると確信した上で質問をしているのだ。
    恐らく、ティンカーベルにいるベルベット・オールスターが報告をしたのだろう。
    彼がジュスティア内にいる内通者であることについて、トラギコは報告をしていない。

    ティンバーランドという組織が世界規模で根を張っている以上、うかつな言動は寿命を縮め、トラギコを真実から遠ざけてしまう。
    この絵がデレシアであることはベルベットからの情報に違いない。
    一杯食わされた報復に彼がするとすれば、彼女をジュスティアにも追わせることぐらいだ。
    彼は今頃、相当立腹しているはずだ。

    トラギコたちを殺そうとした計画がとん挫し、デレシアや白いジョン・ドゥをジュスティアに持ち込まれたのだ。
    更にはトラギコの生還と証拠品、ジョルジュ・マグナーニ、ショボン・パドローネ、シュール・ディンケラッカー、カラマロス・ロングディスタンスの逮捕という展開は、計画者の顔に糞を塗りたくるようなものだった。
    これで怒らない計画者はいないだろう。
    逮捕された四人は円卓十二騎士の二人とともにジュスティアに来る予定になっているらしいが、道中、襲われないかが心配だ。

    恐らく、トラギコがデレシアと何度も行動を共にしていることも報告済みなのだろう。
    それがベルベットからなのか、それとも、別の人間の情報なのかは不明である。
    誰が報告したにせよ、明らかになるのは時間の問題だったため、そこまで痛手ではない。
    逆に、ジュスティア警察本部と上層部がここまで興味を示しているデレシアの情報が得られるチャンスでもある。

    再び、ツーが同じ問いをした。

    (*゚∀゚)「知っているな?」

    (=゚д゚)「知らねぇって言ってるラギ」

    爪#゚-゚)「しらばっくれるな!!」

    激昂したジィがトラギコの胸倉を掴んで立ち上がった。
    女ではあるが、流石に警察の上層部に居座るだけあり、膂力は並みの婦警よりもあった。
    だがトラギコの腕力には到底及ばない。
    手首を掴み、一気に力を入れる。

    骨が軋み、ジィは苦悶と怒りの表情を浮かべた。

    爪#゚-゚)「づっ! 離せ!」

    (=゚д゚)「うるせえ女は嫌われるラギよ。
       俺に喧嘩売るなら、もうちょっと賢くなってからにするラギね」

    (*゚∀゚)「ジィ、今のはお前が悪い。
        トラギコ、本当に知らないんだな?」

    ジィの手首を離し、トラギコはツーに声だけを向けた。

    (=゚д゚)「あぁ、知らねぇな」

    (*゚∀゚)「分かった。
        ジィ、ゲイツ、席を外してくれ。
        ここからは二人だけで話をする」

    |  ^o^ |「……」

    爪#゚-゚)「し、しかし……」

    (*゚∀゚)「私は席を外してくれ、そう言ったぞ」

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        ノ: :: : . : : : : ::::::;:;:;:;:;:ヽ
      ./'ー'^: : : :::: :::::、:::::;:;:;:;:;:;:;:'!
     ノ: .  . : :: :.:.:.::_;;ヽ:::;:;:;:;:;:;:;'l
      i、. . .___-、ー,='"ヽ|^!::;:;:;;::;:;:;| 「I said, "Leave here, please."」
      `'、ー、.ニ'_Zィ‐ァ. ' .ヽ:;:;ハ::;:;;|
       'ー>、'´`´    ハ::;:ハ:;:/ァ'
        l i !_ ,   _,.、  ハ:;/ i:ノ||!
       ,...|::;ヽ、=ニ...ノ / /リ j|||||},
     / |::;:/ ヽ、.....ノー'´_ソニ´!||;;;'、
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    その一言で、二人は無言のまま席を立ち、部屋を出て行った。
    氷のような冷ややかさと刃のような鋭い言葉は、彼女が積み上げてきた経歴と実力が作り出した彼女自身の武器だ。
    トラギコはソファに座り、相手の出方を待つことにした。
    気配が完全に消えてから、ツーは口を開いた。

    (*゚∀゚)「私は得られた情報からこの絵の人物がデレシアであると考えている。
        実はこの一件、市長から直々に極秘捜査をするように言われていてな。
        デレシアの調査のために、“モスカウ”が動くことになった」

    (=゚д゚)「……人の事件を横取りしようってのは、感心しないラギね」

    この女が勘付いている以上、あまり隠し立てしても意味がないだろう。
    報告を受けているのは間違いなくこの女だ。
    今、腹を割って話をしたがっていることはよく分かるが、まだ口を割るわけにはいかない。
    最大級の警戒をしなければ、あの組織は相手にできない。

    彼女の知り得ない情報を導き出し、反応をしつつ、情報を引き出すという極めて難しい対応をしなければならない。
    それよりも驚くべきなのは、市長がデレシアの調査を極めて重要なものとして考えていることだ。
    名前だけでモスカウを動かすなど、前代未聞の話だ。

    (*゚∀゚)「事件はお前の所有物ではない。
        それに、早期解決はお前の望むところだろう」

    (=゚д゚)「大人数で動けば相手に勘付かれる可能性が高くなるラギ。
        余計なことをするんじゃねぇよ」

    (*゚∀゚)「安心しろ。お前を捜査から外すことはしない。
        市長がお前を外すよう言ってきたが、私が断った。
        お前を外したところで、どうせ命令に従うことはないんだからな。
        だから、お前ともう一人だけでデレシアに関する捜査を進めてもらう」

    (=゚д゚)「待てよ……その一人って誰ラギ?」

    ジュスティア警察内で信頼のおける人間。
    そしてなおかつ、捜査能力の高い人間。
    心当たりは僅かしかいないが、果たして、それが誰なのかがトラギコにとっての懸念であり、不安だった。

    (*゚∀゚)「モスカウの統率者だ。
        彼なら、お前と違って監視と報告の責任を果たすからな」

    その名を聞いて、トラギコは目を大きく見開いた。

    (;=゚д゚)「“ロールシャッハ”を動かしたのか!?」

    モスカウの頂点に立つ統率者は、難事件解決の最前線を取りまとめる最優秀の人材。
    警察史上最高の難事件解決数を誇る男であり、情報収集のエキスパート。
    “ロールシャッハ”と呼ばれる統率者は変人、奇人であってもその捜査能力はジュスティア警察でも最高のものであると断言できる。
    トラギコでさえ彼の能力を高く評価し、近寄りたくないと思っているほどだ。

    事件の最前線において、表舞台で解決をするのがトラギコなら、ロールシャッハは裏で事件を解決する。
    言わば、トラギコとは対になる存在なのだ。

    (*゚∀゚)「あぁ、彼がいれば万全だ。
        彼からの情報では、デレシアと思わしき女はスノー・ピアサーに搭乗しているとのことだ」

    情報が届いてからの行動が早すぎるが、それがロールシャッハなのであれば納得がいく。

    (=゚д゚)「俺はいつ合流すればいいラギ?」

    一刻も早くロールシャッハと合流し、余計なことをされないよう、見張っておかなければならない。
    だがスノー・ピアサーにどうやって追いつけばいいのか、そしてどこで合流すればいいのか、考えが浮かばない。

    (*゚∀゚)「明日、シャルラに向かって船で出発してもらう。
        スノー・ピアサーが到着するのは今から五日後。
        そこで合流しろ」

    ツーは懐から封筒を取り出し、それをトラギコの前に置いた。

    (=゚д゚)「……考えておくラギ」

    受け取った封筒の中身を改めると、高速船の乗車券とスノー・ピアサーの乗車券だった。
    拒否したい気持ちもあるが、ここで拒否して得られる満足感などたかが知れている。
    デレシアたちに追いつくことと天秤にかければ、答えは決まっている。

    (=゚д゚)「聞いてもいいラギか」

    (*゚∀゚)「中身によるな」

    (=゚д゚)「アサピー・ポストマンはどうするつもりラギ?」

    (*゚∀゚)「……そのことだが、あいつはしばらくこの街で大人しくしてもらうことにした。
        写真の現像結果を見たが、あいつは多くを知りすぎた。
        そう簡単に野には放てない」

    ジョルジュが狼を射殺する写真と、カラマロス・ロングディスタンスが狙撃をしている姿を収めた写真はジュスティアとして、世間に公開したくないものだ。
    前者は元警官だが、後者は現役の軍人で、狙撃の名手として多くの人間に知られている。
    その二人が犯罪行為に手を染め、ティンカーベルでの事件に関わっていたと知られれば大事になる。
    いずれかの写真が世に出れば、ジュスティアの信頼はどん底に落ちるだろう。

    (=゚д゚)「そうしてくれ。
        後、島から送られてくる連中には警戒しておいたほうがいいラギよ。
        相手は一度、セカンドロックを破ってる相手ラギ」

    一か所にティンバーランドの人間が集まるということは、それをどうにかしようとする動きがあって然るべきだ。
    ジョルジュ、カラマロス、シュール、そしてショボン。
    あと一人取り逃がしたことが悔やまれるのと同時に、奪還ための動きがベルベットによって組まれていると考えられる。
    警戒は最大級しておくべきだ。

    (*゚∀゚)「……考えておこう」

    (=゚д゚)「軍の中にまで入り込めるぐらいでかい組織が相手ラギ。
        油断してたらあっという間ラギよ」

    トラギコの言葉は、同僚に対するせめてもの警告だった。
    島からやってくるのは逮捕した人間だけではないのだ。

    (=゚д゚)「ところで、デレシアを追う理由は何だ?」

    ツーの視線がトラギコの目を見据えた。
    その目は、次に彼女が口にする言葉よりも雄弁だった。

         Need not to know.
    (*゚∀゚)「知る必要のないことだ」

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                       Ammo→Re!!のようです
        Ammo for Rerail!!編 第一章【Train of mercy-慈悲の列車-】 了
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