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第四章【disintegration-崩壊-】

  1. 名前: 歯車の都香 2017/04/14(金) 21:40:35
    第四章【disintegration-崩壊-】

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    湾岸都市オセアンは激しい嵐に見舞われ、港に停泊していた船が荒れ狂う風浪に翻弄され、既に数隻が砕け沈み海の藻屑と化していた。
    晴れた日には鮮魚の取引が行われるかまぼこ型倉庫は海水に浸り、防波堤の向こう側に並ぶ白亜の建物を風雨が殴り、窓を揺らし、赤子を泣かせ、子を怯えさせた。
    海に面する東部と北部、そして南部に住むオセアンの住民達は一刻も早く嵐が過ぎ去る事を願いながら、
    気を紛らわせる為に、数少ない娯楽であるラジオと酒に浸っていた。


    裕福層が住む西部には高級嗜好品のテレビを持っている家庭が多少あるが、
    視聴可能な番組の種類と時間が極端に限られる上に、嵐の影響でまともに見る事が出来ない。
    その点、ラジオは優れている。
    オセアンにはラジオの放送局と立派な電波塔があり、例え暴風の中でも、鮮明な声と陽気な音楽がラジオを介して人々の下に届けられる。

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           /r' r 、 \
       ‐<{三三{ \三三三〉
         / {_ノノ \ \ l
        /{ {  /ヽ  ヽ
        ヽヽ__} /      /
         {ー'   {    /
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    テレビを買うのなら、ビデオデータを見る事の出来る最高級ラジオを買うべきだと云うのが、アグリー・ベティシアの持論だった。
    オセアン南部に住む彼女は、ハイスクールで出された歴史の宿題を解きながら、ラジオから流れる音楽とパーソナリティのトークを楽しんでいた。
    音漏れを両親に注意されない様、ヘッドフォンを繋げ、ペンを走らせる。
    内心、彼女は淡い期待を抱いていた。


    今現在流れている番組、『極道ラジオFM893』はオセアンで知らない人はいない程の人気を博しており、自分の手紙を読まれる事が、ベティシアのささやかな夢である。
    勿論、数を撃てば当たると云う訳でもなく、選りすぐりの便りだけが、パーソナリティに読まれるのだ。
    ベティシアも、今までに何度も手紙を送ってきたが、一度も読まれた事が無い。
    同じハイスクールに通うカリスマ女子生徒、現役モデルのジュノ・ミ・サクラでさえも、読まれた事が無いのだ。


    何せ、この番組に寄せられる便りは一回の放送で数万通に達するとさえ言われており、オセアンの外部からも手紙が送られてくる事も頻繁にある。
    競争率は非常に高く、それだけに、ステッカーを手に入れた人間はウィットに富んだ素敵な人物として羨望の眼差しで見つめられ、
    異性に告白される確率が上がるとまで噂されていた。
    無論、噂の域は出ないのだが。


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              ___
              l\ミミヽ、   ,ィ≦三彡'´ ̄「
              |   `ヾミヽイ彡'"      |
              j_    l≡l         !_
              { ヽ   |  !         _ とニヽ
              ヾー;ヘ   l  l       ヾー- !
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    歴史の教科書を一枚捲る。
    近代史を代表する数々の歴史的事実に、ベティシアは自らの境遇を嘆かざるを得なかった。
    携帯電話と共に発掘された、数万台のデジタル・アーカイブ・トランスアクター――略称〝ダット〟――が、その最たる理由の一つだった。
    ダットはあらゆる種類のデータディスクの閲覧、作成、高速演算が可能な機械で、主な使い方は高度な計算、精密な設計、データの操作、
    そして棺桶の登録者情報の変更など、学生はおろか一般人にも無縁のものだった。

    ベティシアはそれを使いこなす事は出来ないだろうが、手元に置いて弄り倒したかった。
    それが出来るのは、生まれながらの大富豪だけ。
    とてもではないが、一般人の手が届く代物ではない。
    携帯電話を家族で一台しか持っていない彼女の家庭にとっては、夢のまた夢だ。

    金持ちの証明、権力の証明。
    それは、ベティシアにはあまりにも縁のない物だった。
    ビデオデータを保存する為のデータディスクも、発掘された旧世代の物をダットを使用して修復、再利用しているので、
    それ一枚の単価は平均的なサラリーマンの二ヶ月分の給金に匹敵する。

    言わずもがな、ビデオデータを閲覧する為の機材も録画する為の機材もそれよりもずっと高価だ。
    それが一緒になったラジオとなると、最早ベティシアの両親が定年まで働き、
    更には高額な生命保険をかけた末に死んで残された金でも足りず、まず手に入れる事が出来ない。
    だが、テレビに比べれば遥かに人生の潤いになると、ベティシアは思う。

    それにしても、金が欲しい。
    金は力だ。
    力があれば何でも出来る。
    夢を叶え、自由気ままに生きることも出来る。


    その為には金が必要不可欠だ。
    現実的に考えて、武力ではなく権力と財力がこの世界を動かす最も簡単な方法だと、ベティシアは結論付けていた。
    こうして勉強しているのも、高給な会社に勤める為で、そう云った目的が無ければ知力は意味を持たない。
    生まれた時代が違えば、このように物欲に身を焦がさずに済んだのにと、彼女は常々我が身の生まれを憂いていた。


    近代史を見る度に、ベティシアは途轍もない物欲と戦わなければならなかった。
    発掘される様々な道具は、現代史を語る上では欠かす事の出来ない物で、それは正に夢の様な品々だった。
    まだ若いベティシアの想像力は際限なく掻き立てられ、暇さえあれば想いを馳せるようになった。
    何せ、悠久とも言える時間が過ぎても、修理すれば再び使う事の出来る品など、現代では作ることが出来ない。


    棺桶がその最たる例だ。
    毎年各地で発掘される棺桶の多くは、傷はあるが劣化の跡が殆ど見られない状態で、化石となった人骨と共に発見される。
    現代よりも過去の方が文明的に遥かに勝っており、発見される品々はそれが事実である事を証明していた。
    現代で作られる物の多くはそれらを模倣、または追随しているだけに過ぎないと、歴史学者のイーディン・S・ジョーンズ氏は著書――学校の指定図書――で断言している。


    それが正論だとすると、今は過去の軌跡をなぞって繰り返そうとしているだけの様にも思え、否が応でも途方も無い時代の流れと云う物を感じてしまう。
    自分の存在がちっぽけな物で、こうして勉強しているのが無意味な様に思える。
    ラジオの向こうで、人気パーソナリティ〝Q〟が鈴の転がる様な声で便りを読み始める。

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    ..    ┌┐| |
    .,.r=日=,┼┴'‐ヽ、
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    l| i゙゙゙∧゙| |.'、`゙'' ノ !
    l|└‐ー┘!.  ̄ │
    .|     |      |
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    【占|○】『はいぃ、それでは次のお便りぃ。
         おぅ、これはオセアンのお住まいの〝ハングリー・ベティさん〟からのお便りですねぇ。
         えぇっとぉ、先日〝ロリとおっさん〟の組み合わせについてQさんが熱く語っていましたがぁ、
         逆にぃ、お姉さんとショタの組み合わせについてはどう思われますかぁ、意見を聞かせてくださいぃ、と。

         ……ふぅむ、実はですねぇ、私は先日一時間半ぶっ通しでこのロリとおっさんの組み合わせについて語ってしまいましてねぇ、後で怒られたんですよぉ。
         そうそうぅ、それでこの質問なんですがぁ、私的にはナシだと思いますねぇ。
         だってぇ、気持ち悪いじゃないですかぁ。
         マザコンを言い訳にしているだけのぉ、変態の組み合わせですねぇ。

         その点、おっさんは何と組み合わせても無敵だし健全だとぉ、私は思いますねぇ。
         おっさん最高ぅ。
         あぁ、勿論三十路なんて半端な若造は駄目ですよぉ。
         前にも言った通りぃ、私は四十路辺りから出てくる加齢臭ぅ? が堪らなく好きなんですよぉ。

         あくまでもぉ、保守派の私の意見ですのでぇ、これが絶対正義だって訳じゃないですからぁ、あしからずぅ。
         あぁそうだぁ、話は変わりますけどぉ、私の友人がですねぇ、今度ニクラメンに旅行する事になったんですがぁ、
         何かお勧めの場所とか食べ物とかあればぁ、是非教えてくださいねぇ。
         それではぁ、ハングリー・ベティさんのリクエストでぇ――』

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    .      /    .人    /    ,.:′    ,′ i  l     ,′
         /         ̄.弋 _ ./:j     ,.j  弋_ 人   /
       ,:′           _`: : : 戈_ /:.八      `.く
      .人       ,, ´    ` : : : : . . : : : /:.、      l
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    ベティシアは、自分の便りが読まれた事に驚きと喜びのあまり奇声を発しそうになったが、そうする代わりに、拳を天に向けて席を立った。
    一枚一セントの葉書を送り続ける事、実に四年。
    ベティシアの執念は結実し、学園のカリスマであるジュノに勝ったのだ。
    内容はともあれ、Qが食いついてきそうな話題を書いたことがこの結果を導いたと言える。

    これで、後日郵送されるステッカーの到着を待つだけだ。
    リクエストした曲が流れ始め、ベティシアが勉強を再開しようとした、その時。

    【占|○】『あぁっとぉ、ここでちょっと警察からのお知らせですぅ。
         今ぁ、オセアン西部で大きな爆発がありましたぁ。
         ログーラン・ビルが爆発元だと思われるそうでぇ、近くに住んでいる皆はぁ、外出しない様にして下さいぃ、
         後ぉ、これに関する情報があればぁ、連絡をくださいだそうですぅ』

    ――爆発? それも、オセアンの市街地のど真ん中、成功者の代名詞であるロバート・サンジェルマンのオフィスビルで?
    思わず窓の外に眼をやる。
    空は黒く風は強く雨は激しく、そして、空気は重く不気味だった。
    遠くからサイレンの音が聞こえる。

    だが、ベティシアには関係のない話。
    Qに葉書を読まれた事の嬉しさが再燃し、ベティシアは直ぐに爆発に対する興味を失い、ラジオを聞きながら勉強を再開したのであった。

    * * *
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    ログーラン・ビル周辺は騒然としていた。
    爆破の知らせを聞いて三〇台の警察車両、二〇台の消防、救急関係の車が道路に群れを成して停まり、
    爆炎の上がるログーラン・ビル周囲を封鎖し、状況把握に躍起になっていた。
    ただ一人の目撃者の証言によれば、一台のSUVがビルに突っ込み、それから少し経過して、ビルが四階まで吹き飛んだのだと云う。

    今の所分かっている現状は、それだけだった。
    犯人像も、その目的も分かっていない。
    ビル内に立ち入ろうにも瓦礫がそれを阻害していて、更には爆発の影響で緊急用の防壁が誤作動を起こし、ビルの出入り口を全て封鎖していた。
    こうなってしまえば、内部から解除しない事には手出しが出来ない。

    そして、先程から電話を掛けているのだが、一向に反応が無い。
    警察関係者の顔は皆一様に青ざめていた。
    オセアンの影の支配者が失われた時、この街の秩序も同時に失われる。
    スポンサーと云う名を使ってマフィアを御していたロバートが死ねば、彼が築いた全てが崩れ去る。

    その事を知っているのは幸いにも一部の警察関係者だけだったが、ロバートの死後、この街がどうなるかは彼らにも分からない。
    彼の膝元で甘い汁を吸っていた警察にとって、それは無関係では済まされない。
    そこで、警察は執行部の動員を決断した。
    瓦礫を越え、未知の敵がいる中に突入する為には、棺桶の力が必要不可欠だ。

    警察内部でも選りすぐった棺桶持ちによって構成される執行部の到着まで現場付近の封鎖を徹底する事で、人命救助を急く消防関係者達と合意した。
    誰もがそれぞれの思惑を胸に、ビルを見上げていた。
    黒煙は夜空に昇り、雨風が炎の勢いを弱める。
    何かが焼け焦げる胸糞悪い臭いも、多少は弱まると云う物。

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         / /        l.   ',
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        ; /     ∠,,,,,.」 -‐、  !
         !;_,, -‐''"", .-‐'⌒ヽT  l
         ゞ-‐''"/   __ノ l   !
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    (,,゚,_ア゚)「警部、俺はどうも嫌な予感がするんですよ」

    二種類の煙草の煙と匂いが充満する車内で、熟練の刑事、ジョッシュ・トリスタンは、運転席に座るバリー・ケロック警部に慇懃無礼な態度で話しかけた。

    (::゚J゚::)「お前にしては珍しいな。
         爆発が不吉に感じるなんて」

    (,,゚,_ア゚)「俺は平和主義で、毎日神様に祈ってるんです。
         女房が優しくなりますようにとね。
         この前、真黒なサニーサイドエッグを出した上に、娘が嫌がるから自分の洗濯物は別に洗えと言われてね。
         危うく逮捕して監獄にブチ込むところでした」

    (::゚J゚::)「だったら、これ以上パトカーを壊すな。
         お前の始末書だけで立派な図書館が作れそうなんだ。
         それがなくなれば、お前の給料だって元に戻る」

    (,,゚,_ア゚)「善処する代わりに、図書館の名前はトリスタン図書館にして下さい。
         で、警部。話を戻しますが、この事件の犯人の目的は何なんでしょうかね?」

    (::゚J゚::)「私が知る訳ないだろ。
         メガホンを持って訊きに行くか?」

    (,,゚,_ア゚)「冗談よしてください。
         ロバートと連絡は取れましたか?」

    (::゚J゚::)「いいや、駄目だ。
         内線電話もあの爆発で通じなくなって、携帯電話も何故か通じない。
         お手上げだよ、執行部が来ない限りは」

    ちびた煙草を灰皿に押し付け、バリーは新たな煙草を取り出して火を点けた。

    (::゚J゚::)「だから、俺達は執行部が来るまでこうして待つしか出来ない」

    (,,゚,_ア゚)「そこなんですよ、警部。
         ロバートだって優秀な棺桶持ちを抱えているでしょうに、どうして、この様な事態になったのかが俺は分からないんです」

    言われてみれば確かにその通りだが、とバリーは紫煙を吸い込み、舐めるようにして口でそれを味わいながら答えた。

    (::゚J゚::)「だが、棺桶持ちだって無敵のヒーローじゃない。
         棺桶を使う前は生身の人間なんだ」

    棺桶は兵器だが、見方によっては武器だ。
    カラシニコフを持った所で、チンピラがマフィアの首領に成れるわけではない。

    (,,゚,_ア゚)「でも、SUV一台に乗れるのは精々七人。
         あのビルの警備員の十分の一以下ですよ」

    尚も食い下がるジョッシュに対し、バリーは投げやりに応えた。

    (::゚J゚::)「ビキニを着た美女の集団だったかも知れんぞ」

    (,,゚,_ア゚)「警部、真面目に聞いて下さい。
         相手が棺桶持ちの可能性だって――」

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                      \マ   、   、_、  ;  ,'  `丶   |   \
                ヤ7   ムマ  冫`丶、、;           ,,|l ;     _______
                `'    \マムマ丶\\     ..,,、、ヽ`   :;!  |三三二─___
                      >\ \マ 、冫 ,,,斗  \      冫|  |三三二==─
    _              > ´    \ \  ;:       、、丶ヾ`` |  \<\ ヽ丶
    /≧;,.      > ´.       _..:≦::::!\\ ;:、、、`冫゙``.          |          /7
    /////:> ´       ..:≦|::::::|:::::|::::;!  ` ``    _..:≦::::!      |  |≧._  ヽっ ´
    ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

    ――五、六階の窓から爆炎と共に何かが飛びだした。
    バリーの眼に映るそれは、人の形をしていたが、人ではなかった。
    棺桶だった。
    それは子供が放り投げた人形の様に無様な形で宙を舞い、そして、バリー達の乗るパトカーのボンネットに落下した。

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    '、"'-|、   / ,,- l._l゙        `ヽ  /    .l,
     \ `''-、  .i′ .l゙          |冖|  `'、  !
      ."\  .`'r'"   ゛           `v  .! . ̄二=─
     │`'''-  .{                    ゛ . l   |_
      .l   .、 .`'               r‐ _ユそ
      弋 ,/    く  .'             <,゙ .´
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    衝撃と棺桶の重量でフロントガラスが割れ、ボンネットが大破し、前輪はパンクしてパトカーは前のめりに傾いた。

    (;,,゚,_ア゚)「……ほらね」

    髪についたガラス片を取り払いながら、ジョッシュはそう言って苦笑した。

    (;::゚J゚::)「……お前と一緒のパトカーに乗るのは、もうごめんだ」

    (;,,゚,_ア゚)「……これは流石に、始末書を書かなくてもいいですよね?」

    (;::゚J゚::)「知るか……馬鹿……」

    別の窓から新たな棺桶が落ちて来ても、もう、ジョッシュもバリーも反応しなかった。
    これは悪夢だ。
    仕事のしすぎで疲れているだけなのだと言い聞かせ、それから二人は、この後泥酔するまで酒を飲む事を硬く心に決めたのであった。

    * * *
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        f^i_____,, - ――― 、r-、_` --‐" _ -‐ "  ̄ _ヽ、
      iニニ! .!――――― 、 ̄ ̄ ̄ ̄ `^ i iヽ-‐" ,, - "-‐ ^ ` `ヾ ヽ
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    明かりを消したログーラン・ビル十階のフロアには、一つの区切りとしての防衛拠点が築かれていた。
    これ以上の侵入を許してはならないと理解した警備員達が集まり、軽機関銃と榴弾発射機を持ち出して、エレベーターロビーにある階段に全神経を集中させていた。
    丁度、この階層で階段の位置が変わる為、これより上に階段で向かう人間は反対側にあるエレベーターフロアに移らざるを得なくなるのだ。
    その為、そこに通じる廊下全てに防衛拠点を築く事で進行を阻止できる。

    臨時の防衛拠点を築く為に上の階層――五〇階まで――を護っていた人間を導入し、完全な防御陣形が完成していた。
    エレベーターロビーの正面。
    ロビーを出てすぐにある廊下の側面。
    廊下の突き当たりに二つ。

    そして、最後に相手の目的地であるロビーの前に一つ、合計五つの要所、総勢五十五名の動員を以て完成とした。
    いつでも撃てるよう、全員の指は銃爪に掛かっている。
    下の階で爆発が続き、無線が途絶える。
    律儀に一階層ずつ制圧しながらやってくる敵の数は、僅かに一人。

    そして棺桶を使用せず、対戦車砲と拳銃で棺桶を次々と屠ると云うのだから、最早笑うしかない。
    映画の撮影だとしたらタチが悪く、現実だとしたら明日から精神科のカウンセリングに通う事となる。

    (::(・)::(・):)「さっさと来いってんだ……!!」

    九階からの連絡が途絶える。
    やって来る。
    奴が、破滅と破壊を齎しにやって来る。

    ――だが結局、その人物がやって来る事はなかった。

    * * *
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    未知の敵がある程度パターン化した行動を取った場合、次にまた同じ行動を取ると予測するのは、攻められる側の思考としては当然のことだった。
    逆を言えば、攻める側はそれを逆手に取った行動をすればいいだけなので、護る側よりも遥かに気が楽だった。
    昇降路内に吊り下がるワイヤーロープを伝って上に向かうデレシアは、あまりの愉快さに笑みを浮かべていた。
    エレベーターが使用不可能だと思いこみ、移動手段は階段だけだと勘違いした連中が滑稽で無くて、何だと言うのだろうか。


    (<::ー゚::::>三)


    危機管理が全くなっていない。
    攻められた経験の浅さと、実戦経験の乏しさが窺える。
    所詮は張り子の虎だ。
    一人に一つの棺桶があっても、遣い手がこれでは意味が無い。

    赤ん坊にショットガンを渡す様な物だ。
    ワイヤーを伝う手は休むことなくデレシアを上へ上へと向かわせ、確実にロバートに近付く。
    しかし、このままワイヤーを伝って向かうと云う事はしない。
    これはあくまでも安全かつ確実に十階を突破する為の方法であって、一時の凌ぎだ。

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            _ |:.:.:.:.|
          〈 rl:.:.:.:.,
          ,ヽ ヽ:.:.l、
          { }   \!ヽ
         /! ',     ヽ
        r乂ヽ      ',
        \        }
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    十五階に到着してから、デレシアは体を腕一本で支え、反動を付けて昇降機の出口に向けて飛び、スチールの扉を蹴破った。
    どうやらこのフロアの人間は皆出払っているようで、そこには棺桶の姿もデレシアを待ちうける人間の姿も見受けられない。
    上の階層を警備していた人間を動員して下の守りを堅牢にしたのだろう。
    後先考えずに行動するからこうなるのだと、どうして気付かないのかデレシアには不思議で仕方が無かった。


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    無人のフロアを駆け抜け、労せず反対側の階段へと辿り着き、デレシアは悠々と上の階を目指す。
    無能な部下を持ったロバートの不幸を口中で嗤う。
    同情はしない。
    管理しきれなかった、ロバートの責任なのだ。

    階段を軽快に昇っていると、下の方から、地鳴りかと違えそうな跫音が聞こえて来た。
    デレシアの思惑にようやく気付いた棺桶持ち達が、その機能を使って階段を一躍し、デレシアを追って来ているのだ。
    追いつかれるのは時間の問題だろう。
    最上階に達するまでには、間違いなく追いつかれる。

    となれば、やる事は一つ。

    迎え撃つ。
    圧倒的優位に在りながらも追われている人間が、健気にも死地に向かってくる大馬鹿共を迎え撃つのだ。
    優れた武器を持つ集団が、たった一人相手に翻弄される構図は滑稽極まりなかった。
    残忍な笑みを浮かべ、デレシアは鹵獲した大振りの鉈を手に取った。

    その刃は大人の男の腕程も太く、斧の様に重い。
    その大きさと重みから実用性としては期待できないが、関節部に刺して棺桶持ちを殺す分には困らなさそうだ。
    恐らくは棺桶が使う事を前提として設計された鉈で、人が使う事を想定して作られた物ではないのかもしれない。
    尤も、デレシアにとってはそれでも構わないのだが。

    歩調を早め、一段飛ばしで駆け上っていた階段を二段飛ばしにする。
    跳ぶ様に軽やかな足取りで上を目指すデレシアの後ろを、低く唸る跫音が続く。
    踊り場から視線を上げ、その先にある扉の上に四十三階の文字が彫られたプレートが見えた時、遂に、追いつかれた。
    踊り場一つを挟んだ真下の位置に、重々しい跫音と共に無骨な影が浮かぶ。

    〔Ⅲ゚[::|::]゚〕「見つけたぞ!!」

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              ,;三三三三三三三、    i i:         |
       : :     ;三三三三三三三三;_゙.   `| ̄|        |
      : :      ,ニニニニニニニニニニニニニニニ、゙   : |  |____|
      ::     ,ニニニニニニニニニニニ、゙ .  |  |        \
      :    ,─‐─────────‐‐、゙ : |  |______\
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        |                       | |  |ΞΞΞΞΞΞΞΞ三ヨュ
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    デレシア発見を大声で仲間に伝えた男は、両者を隔てる最後の踊り場まで一つ飛びで進み、そして、デレシアはそれに合わせてジョン・ドゥの肩に飛び乗った。

    (<::、゚:::>三)「はぁい。 ちょっと失礼」

    〔Ⅲ゚[::|::]゚〕「どけぇ!!」

    振り落とそうともがく男の頭からヘルメットを慣れた手つきで取り退き、逆手に構えた鉈の切っ先を頭頂部に突き刺した。

    ミ;゚つ゚ル「あっあ……」

    引き抜いて背後にある四十三階の扉の前に跳躍し、デレシアの着地と共にジョン・ドゥは膝を突いて動かなくなった。
    鉈についた脳漿と血を振り払い、次に現れたジェーン・ドゥに向け、壁を蹴って一直線に肉薄する。
    やはり逆手に構えた鉈を、即応できずにうろたえるジェーン・ドゥの首関節部目掛けて突き立て、薄い装甲を破壊して首を貫いた。

    〔Ⅱ゚[::|::]゚〕「ぴぷっご!?」

    刃を捻り、頸椎を切断する。
    骨と刃が砕ける音と共に、ジェーン・ドゥは力なく倒れた。
    デレシアは柄だけになった鉈を手放し、代わりにジェーン・ドゥの首根っこを掴んだ。
    後続の棺桶達が、手にした武器をデレシアに向けて放つ。

    デレシアは今し方殺したジェーン・ドゥを楯にしてミニミ軽機関銃が撒き散らす銃弾の雨を防ぎつつ、階段を後ろ向きに上って後退する。

    (<::、゚:::>三)

    〔Ⅱ゚[::|::]゚〕「野郎!!」

    デレシアよりも巨体のジェーン・ドゥは、絶好の楯としての役割を果たし、デレシアを上の階へと逃がすのを手伝った。
    階段を上り切ったデレシアは、四十三階に通じる扉の前に死体を放置して僅かな障害物へと変え、先に向かった。
    風の様にその場を去ったデレシアの後を追って二機のジョン・ドゥが仲間の死体を飛び越え、四十三階の踊り場に降り立った。
    そして、その二機はジェーン・ドゥの胸に焼夷手榴弾が置かれている事に気付いていなかった。

    仮に気付いた所で、それを回避する術は無かったのだが。
    煉獄を彷彿とさせる激しい炎が二機のジョン・ドゥとジェーン・ドゥに襲いかかり、棺桶に護られていた中身を焼き、人と鉄の焼ける異臭が立ち込めた。
    その匂いは生物の持つ記憶のない記憶、脳の最深部に刻み込まれた畏怖その物の感情を呼び起こし、そして頑丈な鎧に護られた柔らかな肉体を戦慄に震え上がらせる。
    それを間近で見ていた棺桶持ち達は、皆一様に怯え竦んでしまう。


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                             ト、 ’ 、.・
                            ノ (
                     、   ,    `Y   |   ∵”
                   ,ノ)        |   人
            ,      `Y´(    '     ,/    く、
             ヽ、    |  ) 、    /       }      丿)               、
    .        __,ノ ) ' / (_,ノ)  (::::::::::::::::::::::  \ノ!   / (     ノ!        ,ノ)
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    燃え上がる棺桶が積み上がり、デレシアの思惑通り絶好の肉の壁が出来上がった。
    燃えて異臭を放つ仲間の死体を前に警備員が戸惑っている間に、デレシアは階段を三段飛ばしで駆け、早くも四十七階に到着していた。
    だが相手も救い難い馬鹿ではないようで、上からも重低音の跫音が一つ、また一つと近付いて来る。
    接敵は間もなくだと、デレシアは冷静に分析し、四十七階で一旦進行を止め、別の道を作り出す事に決めた。


    決断は一秒の間に下され、実行はそれよりも速く、一瞬の内に移された。


    (<::、゚:::>三)「……あら」


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     └回┘      〈〉   riェェェiュ  .〈〉     └回┘
                  └回┘
    ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

    ロビーを出てすぐにある廊下と仕切り一枚を挟んで、三面ガラス張りの広大なフロアが広がっていた。
    干し草色の柔らかそうな絨毯が敷き詰められた会場を、天井から吊り下がるシャンデリアが暖色系の蛍光灯で照らし、
    ガラスの外には対極の色をした黒雲と嵐、そして頼りのない街の明かりが窺える。
    そこを絶好の狩り場と見定め、デレシアはフロアに足を踏み入れた。

    ただ、パーティー会場に相応しくない恰好をした――デレシアは人の事をとやかく言えないのだが――人物が仕切りで死角になった窓辺に立ち、デレシアを待ち受けていた。
    広鍔の帽子を被り、防弾チョッキとプロテクターで身を固めた、偉丈夫。
    一度路地裏でデレシアと交戦し、逃げ果せた名も知らぬBクラスの棺桶持ち。
    足元には長さ約一二〇インチにも及ぶ、モスグリーンに塗装された武器コンテナが置かれていた。

    デレシアは一瞥しただけで、その中身におおよその見当を付けた。
    この場にいる理由は不明だったが、デレシアにとっては取るに足らない些事。

    【+  】ゞ゚)「……逢えると確信していたぞ、デレシア!!」

    歓喜か、それとも怒気か。
    腹の底から吐き出された狂気に満ちた言葉に対して、デレシアの反応は、非情だった。


    (<::、゚:::>三)「気軽に人の名前を呼ばないでもらいたいわね、変態」


    【+  】ゞ゚)「つれない態度が堪らない……!!」

    デレシアが問答の途中でデザートイーグルを発砲したが、件の棺桶持ちは背負った棺桶を楯にして、ガバメント・シリーズ一号機、エイブラハムの音声コード入力に成功した。

    【+  】ゞ゚)『正義による正義の為の正義の行い!!』

    その身を包む巨岩を削り出して作った様な角張った装甲、そして、そこに一つだけ埋め込まれた単眼が八フィートの高みからデレシアに向き直った時、
    デレシアを血眼になって追っていた棺桶持ち達が会場になだれ込み、何も言わずに――雄叫び程度は上がったかもしれない――五ヤードの至近距離から銃火を浴びせた。
    一秒にも満たない時間の間で百発以上に達した銃弾の数を前にしては、然しもの強化ガラスも意味を成すことなく呆気なく砕け散り、ビルの下に向かって落ちる他なかった。
    だがしかしデレシアの姿は彼等の銃口の先にはなく、初弾が発砲されるよりも早い段階で、最初に突入してきた棺桶の足元に滑り込み、完全な死角に在った。

    棺桶の特性と云う物を全くもって理解していない棺桶持ちは、脅威に数えられない。
    ジョン・ドゥもジェーン・ドゥも、それが抱える弱点は同じ。
    首周りを覆う装甲によって、視が狭くなると云う点だ。
    一度足元に接近されたり、有効な視野角の外に立たれたりすれば、捕捉する事は難しくなる。

    優位性を保つ為にも、ジョン・ドゥ及びジェーン・ドゥは少数での運用が最も望ましく、
    本来なら味方の体で視界を塞ぐと云う愚は犯さず、移動し続ける事によって死角を固定しない様にするのが、この二機のあるべき姿なのだ。
    棺桶とは高性能な兵器で、遣い方一つで戦局を大きく変え得る力があるのだ。
    それがどうだ。

    便利な道具や武器として頼り切っている為に、大人数で閉鎖的な空間に押し寄せ、散開して視界を確保しつつ、死角を補うと云う事さえもしない。
    性能に頼って努力を怠った結果、その性能を殺す結果になるとも知らずに。
    最盛期の棺桶持ちと比較するのは酷と云う物だが、落胆と遣われる棺桶に同情を禁じえない。

    (<::、゚:::>三)「……はぁ」

    溜息と共に水平二連式ショットガンに得物を持ち替え、デレシアは先陣を切ってフロアに入って来た棺桶の膝関節に向け、至近距離から撃った。

    〔Ⅲ゚[::|::]゚〕「っ……この!!」

    バランスを崩す男。
    デレシアの予想外の行動に、警備員達は密集していた陣形を広げるのがほんの僅かだが遅れてしまい、結果的にそれが死に繋がった。
    爆音かと聞き紛う砲声が空気を振動させ、稲光の様な炎がフロアを一瞬だけ照らした。
    その正体は、エイブラハムの棺桶持ちが足元に置いていたコンテナの中身、デレシアの予想と違わず、棺桶専用の携帯式滑空砲だった。

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                _, ---、   __,ry─‐ ''' 7'' ""~ゞ<) ::!  ̄ ̄ ̄:l二二 l二二 l─┼┼_┤
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                         `ゝ─、‐_'_‐_゚─_─_─_‐_‐_''''_''''_"_""二- ‐…'''""
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    棺桶が戦車、戦闘機と互角に戦えたのは、固定して使用される筈の兵器を武器として取り扱えるからであり、
    例えば戦車相手なら堅牢な装甲を撃ち破れる滑空砲を、航空機相手なら対空砲や対空ミサイルをと云った具合に、状況に応じて武装の変更が可能だった。
    ただ、Aクラスの棺桶になると使用出来る物は限られるが、Bクラス以上の棺桶ならばほぼ全ての物が使える。
    棺桶相手に、例えそれがBクラスであったとしても、滑空砲をこれだけの距離でかまされれば、装甲は全く意味を成さない。

    デレシアに撃たれて姿勢を崩した棺桶の胸部――棺桶はこの部分が最も装甲が熱く設計されている――を砲弾が貫通し、
    その後ろにいた棺桶の右肩を吹き飛ばし、更にその後ろにいたジェーン・ドゥの頭部を消し飛ばし、エレベーターロビーに向かって消え、
    ビル全体を揺るがす轟音と共に爆発した。

    ≪i-◎-≫「ちぃっ!!」

    悔しげな声を漏らし、エイブラハムは中折れ式の砲から巨大な薬莢を排莢する。
    ある意味、デレシアよりもエイブラハムの方が警備員達にとって、遥かにタチが悪い。
    結果的に味方を殺した棺桶に向かい、ジェーン・ドゥの棺桶持ちが怒りの声を上げた。

    〔Ⅱ゚[::|::]゚〕「な、何しやがるこの野郎!!」

    その尤もな言葉に反応もなく手動で新たな砲弾を装填し、エイブラハムは両手で腰の位置にそれを構えた。
    射角を低めに合わせ、砲撃の体勢に入る。

    〔Ⅱ゚[::|::]゚〕「ば、馬鹿やめろ!?」

    流石にこの密度の中で砲撃されれば面倒が増えると判断したデレシアは、その会場で唯一、相応しい振る舞いを見せた。
    体重を感じさせない落花を想起させる可憐な足捌きと、木々の間を吹き抜ける風の様な身のこなしで棺桶達の間をすり抜け、その場を脱する。
    その直後、爆音と同時に生まれた爆風がデレシアの背を押し、棺桶達の群れから抜け出す事を手助けする。
    着弾点付近にいた棺桶は天井まで舞い上がり、細かな物体となって仲間達の上に落下した。

    〔Ⅲ゚[::|::]゚〕「こ、こいつ!!」

    ≪i-◎-≫「俺とデレシアの時間を邪魔するな!!」

    この瞬間、最早、エイブラハムはデレシアだけの敵とは言い難い存在になった。
    それ故に、一部の棺桶がデレシアの後を追い、残った棺桶はエイブラハムと対峙する展開に発展した。
    人数の比率は、エイブラハムの方に八、デレシアは二と云ったところだ。
    初弾が着弾した右端のエレベーターの扉は原形どころか存在が失われていて、その向こうには虚空が広がっている。

    デレシアは昇降機を呼び出すボタンを押して、迷わずそこに飛び込んだ。
    その後に続いて、棺桶達が続々と昇降路に向かって飛び降りる。

    〔Ⅲ゚[::|::]゚〕「待ちやがれ!! この糞尼ぁ!!」

    ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
           ヘ     ゝニ,'′ ....          / ̄‐ -l
            ヘ'    !               _ムユ 、  〕 :::::
             ヘ    i    .....        ..く- ∟..l/ ::;;::::
              ゝ、,, -
              / ̄‐ -l
             _ムユ 、  〕 ::;.:
            ..く- ∟..l/ ::;;;:
    ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


    〔Ⅲ゚[::|::]゚〕

    〔Ⅱ゚[::|::]゚〕

    その先で彼等を待ち受けていたのは、非情な現実だった。
    彼等が予想していた足場となる昇降機は、彼等が仕掛けた罠によって失われており、それが意味するのは、四十七階から地上一階までのコードレス・バンジージャンプ。
    無論、彼等が追うデレシアはそこにはいない。
    乗り場の下、丁度死角の位置にある変形したトーガードの縁に手をかけてその様子を見ていたデレシアは、
    まるでコメディ映画の一場面の様な間抜けな光景に、腹の底から込み上げる嗤いを堪えるのに必死だった。

    (<::ー゚:::>三)

    滑稽極まりない展開だった。
    彼等は警備員としては無能だが、一発芸を生業とするコメディアンならば有能だ。

    ――三発目の砲弾が放たれ、ロビーの近くに着弾した。

    衝撃で体が揺れるのを利用して、足を振って勢い乗せ、デレシアは再びロビーに舞い戻った。
    フードが外れ、デレシアの黄金色をした髪と美貌が露わになる。
    無残な姿と化したフロアの方では、銃声が響き渡っていたが、砲声は無かった。
    状況は大凡理解出来た。

    ζ(゚、゚*ζ

    味方殺しのエイブラハムに鉛弾をくれてやっているのだろうが、鳴り響く銃声が途絶えないことからも分かる通り、全く通用していないのだ。
    堅牢なエイブラハムの装甲を銃弾が突破する事は不可能な上に、進入角度によっては弾が逸れる場合も有り得る。
    自分の棺桶の特性を完全ではないにしろ心得ている点で言えば、エイブラハムの棺桶持ちは優秀――周囲と比較して――と言えるだろう。
    先程の砲撃の着弾点に眼を向け、デレシアは嘆息した。

    砲弾は上階へと続く階段を破壊し、瓦礫に埋もれさせていたのだ。
    思わず口を衝いて出る言葉は、銃声に紛れて消える。

    ζ(゚、゚*ζ「……面倒ねぇ」

    ロビーとフロアを隔てる薄壁から、デレシアはフロアの様子を窺う。
    ジョン・ドゥ達の背中が蠢き、銃声と銃弾が飛び交う音がクラシック音楽の代わりに満ちていた。
    頭一つ分背の高いエイブラハムは、ジョン・ドゥ達に銃弾を浴びせかけられながらも、慌てたり怒ったりすることなく、
    標準装備の自動ショットガンをフルオートで撒き散らして牽制している。

    装甲の薄いジェーン・ドゥは迂闊に近寄れず、ジョン・ドゥもまた、顔に散弾を受けない様に片手で庇いながらの銃撃戦となっていた。
    デレシアの戦線復帰に誰一人として気付いた様子を見せていないが、恐らく、エイブラハムの棺桶持ちはデレシアが逃亡したとは思っていないに違いない。
    そう考えると、デレシアが集団の間を抜けたタイミングで砲撃した事と、階段を崩したのは計算の上だったのだろう。
    だが、何を考えているのかと想像するだけ時間の無駄と云う物。

    大切なのは結果と今後だ。


    〔Ⅲ゚[::|::]゚〕「葬儀屋ぁぁぁぁ!!」


    数で押せばと判断したのか、名無しの棺桶達がエイブラハムに殺到した。
    取り押さえ、顔を護るヘルメットさえ外せば、撲殺、殴殺、射殺も出来る。


    ≪i-◎-≫「しゃらっさい!!」



    ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
            //(:(:: )  : (( (   (  )   ∨` .r )
           /   (  (( :::( )   ((    ))    ̄  )
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    砲身を振り回して接近してくる棺桶を振り払い、エイブラハムは手にした滑空砲を天井に向けて撃った。
    フロア全体が激しく揺れ、電灯が切れ、天井が崩落した。
    周囲に退路が無いのなら、上、もしくは下に作ればいいと云う発想。
    大胆な発想をするものだと感心しつつ、デレシアは労せず進路を見出した。

    目指す最上階まで、直線距離で後少しだ。
    粉塵と瓦礫で狼狽する棺桶の群れに向け、デレシアは焼夷手榴弾を放り投げた。
    突如として炎に襲われた人影が水を求めて走り、転げ、悶え、死に行く中、デレシアは床が陥没する程強く踏み込み、駆けた。
    四十七階の天井、目指す四十八階の床に空いた大穴までの高さは目測で五〇フィート。

    踏み台が無ければとてもではないが届かない。
    だが、踏み台なら山の様にある。
    デレシアの脚力で要領よく進めば、難なく到達できる高さだ。
    エイブラハムの姿は濛々と立ち込める煙と明滅する証明で視認できないが、確かに気配を感じる。


    黒焦げのジョン・ドゥの脇を通り抜け、一際高く積もった瓦礫の上に立つ機影を目指す。


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    ζ(゚、゚*ζ「よっ……と!!」

    〔Ⅲ゚[::|::]゚〕「なっ……!?」

    軽く、舞うような跳躍。
    髪は風を孕んで舞い上がり、ローブの端は羽の様に広がった。
    そして、機影――ジョン・ドゥ――の頭に飛び乗り、思い切り蹴り込んだ。
    強力な脚力を持つスプリンターがスタートダッシュの蹴り込みでスターターを破壊するように、デレシアの脚は男の頸椎を踏み砕き、その体を高く、高く飛躍させる。

    猫の様にしなやかな身のこなしで上階に降り立ち、すぐさま姿勢を整え、先客に向き直る。

    ζ(゚、゚*ζ「……」

    ≪i-◎-≫「……さぁ、もう邪魔者はいない。
          存分に愛し合えるぞ」

    その空間は下と同じ構造と姿をしていたが、テーブルクロスの掛けられた円卓と椅子が並べられていた。
    今すぐにでもパーティーが開けそうな、そんな場所。

    ζ(゚、゚*ζ「心の底からお断りするわ」

    前回と比べて、エイブラハムの棺桶持ちの動きには無駄な余裕が見受けられないが、殺し合いの場に於いて不純と断ぜられる物質が散見される。
    デレシアはエイブラハムに対する一切の興味関心、淡い期待を完全に捨てざるを得なかった。
    命のやり取りと云う、およそ考え得るこの世界で最も危険で最も魅惑的な美酒に酔い痴れ、殺し合いの本質を忘れきった軽率かつ軽薄な言動は、
    最早救い難い存在と化した事を如実に物語っている。

    エイブラハムの棺桶持ちは殺し屋としても、棺桶持ちとしても三流に成り下がった。
    オセアンではデレシアが楽しめる相手が少なかっただけに、貴重な存在として気を遣って直ぐには殺さなかったが、もう、ここまで腐り果てたのならば腐臭を放つ汚物と同義。
    デレシアは瞋恚の炎に身を焦がす思いだった。

    ≪i-◎-≫「くくっ……」

    得意げにデレシアと対峙するその手には、銃身下部に銃剣を備えた自動ショットガンが一挺。
    近接戦を想定してか、銃身は切り詰められ、命中精度を落としてでも携帯性、取り回しを優先している事が分かる。
    となれば、銃弾は広域に対して有効な散弾。
    その装備が最も力を発揮する近距離戦を仕掛けてくると、容易に想像できる。

    ≪i-◎-≫「前と同じと思うなよ……!!」

    巨躯が迫る。
    デレシアは瞬き一つすることなく氷の様な視線でそれを一瞥して、全てを見抜き、そして未来を予見し終わりを確信した。
    突き出された鋭い刺突を飛び越え、刺突とほぼ同時に発砲された散弾を嘲笑するかのように、デレシアはショットガンに飛び乗った。
    それは並はずれたバランス感覚と運動能力が成し得る芸当だが、デレシアにとっては瞬きをするのと同じ、他愛のない動作だった。

    ζ(゚、゚*ζ「……しょっ」

    ≪i-◎-≫「踏み台に?!」

    更に着地したショットガンを伝ってエイブラハムの腕に移り、単眼を爪先で蹴り壊すのは指を鳴らすのよりも簡単だった。

    ζ(゚、゚*ζ「っと」

    ≪i-◎-≫「ぬぁっ!?」

    衝撃に堪らず屈むエイブラハム。
    砕けたレンズの破片が涙の様に床に落ちる。
    腕に感じるデレシアの体重を頼りにショットガンを振り回すも、それがデレシアの姿はおろか、残像を捉える事は敵わない。
    もう、男に勝算と余計な時間を与えない。

    それが、デレシアの行動方針となっていた。
    自分を失望させた代償に絶望を与えると云う事もまた、方針の一つとなっている。
    今、エイブラハムに残されたデレシア捕捉の為の手段は、音を聞き取るか、頭部を保護するヘルメットを脱ぎ棄て、急所を晒す代わりに視界を得るかの二択になる。
    男の答えは、音によってデレシアの位置と行動を捉えることだった。

    凡そ考え得る限り最も愚かな選択。
    音だけの世界から情報を得るのが如何に不確かで、如何に恐ろしいかを知らないのだ。
    ならば、その命に教えてやるしかない。
    エイブラハムの腕から地面に降り立ち、デレシアはわざと跫音を立て、テーブルの間を素早く移動した。

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      iリ .|,!     .l.l   .、゙ヽ  '!t、         .,              ´     `゙'''ー ..,,、  
      /,!  ll 、 .!  ...l.l   ゙ミ、   ''、`.li、        ゙゙'-、,     ''-、,,               `''''
     /.l|  リ : |  .|   .!|i   !ミ、   .ヽ..゙'ミ-、        `゙=ii、.     `゙≒i,,、           ,_
    . l゙ .l゙ ."  !  .l..l.  ゙|    l\   \ ゙' !-            `'!V、、     `''!ハ;; 、、    
    ..! !    l.l  .|l .l       ヽヽ   \ ` !、           `'ニ;;-、     `''マ;;-..、
    ,! !    ,!.!  .!l  |,       ヽ ヽ    ゙'〟`ミi、              `'''ミヽ、、     `''‐ミ
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    その音に向け、男はショットガンをフルオートで浴びせる。
    デレシアの血肉の代わりに、テーブルと椅子が砕け散った。
    五〇連装のドラムマガジンを撃ち尽くし、男は新たな弾倉を腰から取り出した。
    その弾倉が、デザートイーグルの一声で男の手から撃ち落とされる。

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    男は片足を軸に円を描いて周囲を警戒しつつ、もう一つの弾倉を手に取り、再びそれは撃ち落とされた。


    ≪i-◎-≫「何を!! 何をするっ!!」


    返答はしない。
    これは殺し合い。
    殺す為の行動に躊躇も遠慮も配慮も必要ない。
    必要なのは、方針に沿った合理的な行動だけ。


    頑丈さが取り柄の敵から先んじて武器を奪うのは必然。
    武器が奪い終われば、後は強みを潰しにかかるだけだ。
    窓を背にして走るのを止め、デレシアは円卓を掴むと、それをフリスビーの様に投げた。
    優に八人が囲んで食事が出来る円卓は薄い座布団の様に軽々と宙を走り、エイブラハムの頭部に命中した。


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    ≪i-◎-≫「ぬぐぁっ!?」


    蹈鞴を踏んでそれに耐え、男は怒りを露わに吠えた。


    ≪i-◎-≫「愚弄するか!!」


    肯定の返事として、デレシアはもう一つ、円卓を投げた。


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    ≪i-◎-≫「……ふざっぺ?!」

    もう一つ、駄目押しに投げられた円卓を喋っている最中の顔に受け、男の手からショットガンが落ちた。
    今頃、あのヘルメットの下にある男の顔は怒りに歪み、蒼白になっていることだろう。
    デレシアは愚弄している訳でも、遊んでいる訳でもない。
    より絶望的に、より相応しい死を与える為にはこうして怒りの感情を煽る必要があるだけなのだ。


    ≪i-◎-≫「のるああああ!!」


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    手探りで円卓を掴むと、エイブラハムはデレシアに引けを取らない投擲術を見せた。
    円卓は荒々しく回転しながら、デレシアに襲いかかる。
    身を屈めてそれを避けたデレシアの後ろで、強化ガラスに大きな亀裂が走った。
    これで下準備は終わった。

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        ,..-'"´        \       `゙''ーr‐''/    . l       ヽ.!     ., '',゙_ -―― ̄
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    後は、一言付け加えるだけで終わりだ。


    ζ(゚、゚*ζ「何時まで立っているのかしら? 案山子の真似でもしているの?」


    ≪i-◎-≫「雄ウイェアああああ!!」

    エイブラハムは怒りの咆哮を上げ、デレシアの声に向かって拳を振り上げて接近する。
    その迫力と速度は我を忘れた猛牛にも似て、ただ、激情のままに疾駆する鋼鉄の塊。
    人間がそれに相対すれば脚が竦んで動けなくなるだろうが、デレシアは違う。
    音も無く、上品な足取りでその場を立ち退き、それだけで、エイブラハムとの勝負は決した。

    デレシアの背後を一直線に走り抜け、亀裂の入った強化ガラスに勢いよく突っ込み、エイブラハムの巨躯がオセアンの虚空に放り出され、浮遊感に悦びの声を上げた。


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                       l  K ,//, 「`Y}三./ _l_ソ_}ツヘ__{\八___|lliノヽ
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                     、i l  | ̄二ニ=r―‐く大^ニァ' }/7/〈{     ,| :
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        ̄ ̄  ――_――__―_____ ̄ ̄ ̄ ̄‐―jjY^ヽ/\.|;,
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    ≪i-◎-≫「ぬぇああああああああ!?」


    デレシアはエイブラハムの末路を確認することなく、会場を出て行く。

    ζ(゚、゚*ζ

    幸いなことに、上に向かう階段は崩落していなかったが、決して見過ごす事の出来ないヒビが走っていた。
    気に留めて、デレシアは軽々とそれらを飛び越え、上に向かう階段に着地した。
    結局、目指す最上階まで、警備員と遭遇する事はなかった。
    連続して建物が爆発で震えた事に怯えたのか、それとも、単にいないだけなのかは分からない。

    しかし、ロバートに通じる道が開けている事に変わりはなく、故に、デレシアは気にする事はなかった。
    最上階に繋がる扉は、やはり、これまでの物とは異なり、堅牢な素材に厳重な鍵が掛かっていた。
    だが、相手が悪かったとしか言えない。
    水平二連式ショットガンにスラッグ弾を込め、デレシアは錠前と蝶番を破壊し、扉を蹴り壊した。

    * * *
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    ロバート・サンジェルマンは、刻一刻と悪化する状況に幼少期以来、初めて得体の知れない恐怖に心臓を鷲掴みにされる思いをしていた。
    亡霊に背中を見られているのではと感じる、あれだ。
    有り得る筈がないと思っていた人物が、自分を殺しに来ていると分かっていても、それを止められない。
    警備員が、棺桶が、銃火器が意味を成していない。

    爆破に次ぐ爆破。
    オセアンでも未曾有の大事件であると、ロバートは断言できる。
    ディーダン・ブランケットを任せていたメリーからは、連絡も報告も一切ない。
    何もかもが不吉で不規則で不条理に進んでいる事に、ロバートは焦っていた。

    せめて相手の目的が分かれば、交渉の余地があるのかもしれない。
    いや、そもそも、どうして自分が狙われるのだろうか。
    マフィアが謀反を起こした? 確かに、可能性としては有り得るが、現実的ではない。
    ロバートの正体がマフィアを裏から支えるスポンサーだと知っているのは、警察ぐらいだ。

    では、その警察が裏切りを? 有り得ない。
    それこそ、有り得ない。
    警察とは良き関係を築いており、それにヒビが入る様な事はしていない。
    この関係が破綻する事は、今の段階では有り得ない。

    考えても無駄なのは理解しているが、不安から来る偏頭痛は増すばかりだ。
    襲撃者はデレシアただ一人。
    なのに、防げない。
    護れない。

    頼みの綱にしていた〝葬儀屋〟の生存も、最早絶望的だった。
    築き上げた富と権力。
    それはロバートの努力の証。
    そして、オセアンの発展を支えた栄光の歴史。

    それが、たった一人に蹂躙されていい筈がない。
    正義を気取っているのならば狂気の沙汰。
    何も理解していないで行っているのならば救い難く、理解して行っているのならば相手にしてはならない。
    しかし、デレシアがそのいずれにも該当しない事は明白だった。

    今なら解る。
    あれは、災厄の運び手ではない。
    災厄そのものだ。
    嵐や津波、地震や吹雪と同じ災害の一種なのだ。

    行動理念など有って無きが如く。
    考えるだけ、相手にするだけ無駄。


    (・L_・;)「冗談ではない……冗談では!!」


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            `ー―'`ヽ    `ヽ__ ヽ
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           `― '   /         ',‐‐、
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    書棚に並ぶ蔵書の一つを押して、ロバートは潔くこの場から逃げる事を選んだ。
    書棚が左右に開き、そこに、非常用電源で稼働する高速エレベーターが現れた。
    定員は一人だけ。
    これを使って地下に逃げ果せ、そこにあるロバートの棺桶を回収、そして、熱りが冷めるまで身を隠す事にした。


    ロバートが昇降気に乗り込み、扉が閉まった時。
    同フロアの離れた場所から大きな音が聞こえたが、もう遅い。


    (・L_・;)「ふっ、ふふっ……!! 鬼ごっこはここで終わり、勝ちは譲るが命は譲らんぞっ……!!」


    隠し扉が閉ざされ、ロバートの体は地下に向けて降りはじめた。


    * * *
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    ログーラン・ビル地下第四駐車場。
    そこは、地中深くに設けられた工事中の駐車場としてフェンスで封鎖されているが、一歩奥に進むと、採掘現場への入り口である事がガイドプレートに明記されている。
    ログーラン・ビルの中で最も価値がある物は、正に、この場所であると言い換えても過言ではない。
    閉ざされた駐車場の空気は冷えていて、そして、重々しい物があった。

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    二〇〇ヤード先に在るシャッターで塞がれた入口の前に立つ二人の警備員を見咎めたヒート・オロラ・レッドウィングは太い柱に身を隠し、
    人差し指を一つ立てて唇の前に押し当てた。


    ノパ⊿゚)d


    (∪´m`)


    同じようにしてヒートの背に身を隠したブーンはそれが意味する所を理解したようで、両手で口を押さえた。
    ヒートはフォーマルな格好をしていて、時と場所さえ違えば、その凛とした姿と相まって、モデルを生業としている人間と間違われただろう。
    実際の処、ヒートが生業としているのは人殺しであり、その業界でも〝レオン〟の渾名で恐れられる有名人だった。
    群青色の制服を着た警備員の様子を柱の影から窺うと、二人の背にはBクラスの棺桶があった。

    【+  】λ

    【+  】λ

    ヒートは脇に提げたホルスターからサプレッサーを取り出して、愛銃であるベレッタM93Rの銃口に取りつけた。
    棺桶持ちは基本的に、接敵してからか、接敵する直前に音声コードを入力して、それを身に纏う傾向にある。
    それは、棺桶がバッテリー駆動であるが故に、無駄な電気を使用しない様、要所で動きが取れなくなる事を避ける為の基本的な行動だった。
    棺桶さえ身に纏っていなければ、棺桶持ちも、ただの人間。

    撃てば死ぬし、刺せば痛がる。
    生身の人間が棺桶に挑むと云うのは可能ではあるが、決して現実的ではない。
    数少ない弱点である眼を狙って戦わざるを得ず、なお且つ、強力かつ頑丈な装甲との歴然たる力の差を補わなければならない。
    つまり、理論上は可能だが実践するのは不可能に近いと云う訳だ。

    ヒートの場合、別の弱点を狙う事で、棺桶持ちを殺す事を可能としている。
    理屈は単純。
    原理はもっと単純だ。

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    λ「ん」

    λ「な」

    二発。
    ホローポイント弾は二人の警備員の頭部を破壊し、即死させた。
    要は、纏わせなければいいのである。
    律儀にコード入力を待つ必要はない。

    最も脆い状態にある時を狙えば棺桶持ちは簡単に死に、棺桶と戦わなくても済む。
    誰かに気付かれた様子が無い事が分かると、ヒートはブーンを従えて柱から身を出した。
    血溜りが広がる前に、ヒートは死体を引き摺って柱の裏に隠した。
    死体の持ち物を探っていると、無線機を持っていないことが分かった。

    その事から、定時連絡はない物と考え、ヒートはシャッターを開く方法を考え始めた。
    近くに詰所はない。
    そして、死体は鍵を持っていない。
    施錠している鍵は解錠が難しいタイプの物で、専用の工具が無ければ開けられない。

    そして、殺しを生業としていたヒートは工具――殺し屋にとっては必需品――を持っていた。
    キーケースを懐から取り出し、鍵に適した物を選ぶ。
    それを鍵穴に刺し込み、上下に動かし、タイミングを見計らって時計回りに廻した。

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               _,. -=彡‐ '´ ̄´   ̄ ` ─
             /ニ´- ´  ___.
      r――――'゙´ー--‐=ニノ   \
     ゝ´,,,,,,,,,,,,,_;;__..、      ___  `丶..___
             (ゝ-──'   ‐'`)
              `ヽ‐----─ '´`)'"ノ    ,.--
               ゝ-r- ..___.,/,/─--‐'"
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    ノパー゚)「凄いだろ?」

    (∪´ω`)″「……」

    得意げな顔をしてそう問いかけたヒートの言葉に、驚いた表情のまま、ブーンは首肯した。
    キーケースを元に戻し、ヒートはシャッターを僅かに開いた。
    下に空いた隙間から向こう側を見ようとするが、ヒートの眼には暗闇しか見えない。
    と云うのも、この駐車場は蛍光灯が明かりを灯しており、それが闇を見ようとするヒートの邪魔をしているのだ。

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    ノパ⊿゚)「……まいったな」

    力で押し切ればどうと云う事はないが、ブーンが同伴している事がそれを可としない。
    しかし、この問題は思いもよらない形で解決する事となる。

    (∪´ω`)「……?」

    ヒートの真似をして地面に頬を付けて向こう側を覗いていたブーンが、今後の方針に頭を悩ませるヒートを何か言いたげな表情で見ていた。

    ノパ⊿゚)「ブーン……向こう、見えたか?」

    (∪´ω`)″「……」

    ブーンは遠慮気味に頷く。

    ノパ⊿゚)「人影はあったか?」

    (∪´ω`)、「……」

    首を横に振る。
    否定の反応だ。
    先程からブーンが無言であることに気付き、ヒートは諭すように告げた。

    ノパ⊿゚)「……今は喋ってもいいんだぞ?」


    (∪;ω;)「……ぁぅ」



    恥ずかしそうに俯き、ブーンが上目遣いでヒートを見た瞬間、ヒートは胸が締め付けられるような想いに駆られ、
    場と状況を弁えずに衝動的にブーンを抱きしめて頬ずりをして、愛情を示す口付けをしてしまいそうになった。
    寸前でどうにか思い留まり、気持ちを落ち着かせ、ブーンの言葉を信じて、シャッターを静かに這って通れるだけの高さに押し上げ、二人はその先に向かった。
    シャッターの向こうは、完全な暗闇だった。

    手を眼の前にかざしてもそれを確認する事が出来ない。
    そして、土の匂いが濃密に漂っていた。
    間違いなく、ここが採掘場に通じる通路だ。
    傾斜した足元の感触はコンクリートだが、壁や天井は分からない。

    ノパ⊿゚)「ブーン、今も見えるのか?」

    虫の跫音並みの声量で聞いたヒートに、傍らでヒートの脚にしがみ付くブーンは小さな声で答えた。

    (∪´ω`)「……はい」

    ノパ⊿゚)「人は、いないんだな?」

    (∪´ω`)「はい……みちも……みえます」

    驚くべきはその視力。
    時間を置かずに暗闇を見通す、人間離れした視力を耳付きであるブーンは生まれながらに持っているのだ。
    これならヒートが闇に眼を馴らし、なお且つメリー達を追う時間を短縮する事が出来る。

    ノパ⊿゚)「よし、ブーン。
         少しの間、あたしをガイドしてくれ。
         あの車の匂い、覚えてるか?」

    (∪´ω`)「はい」


    一旦立ち上がり、ヒートはブーンの目線に合わせて屈んだ。

    ノパ⊿゚)「よし、ならその匂いを追ってくれ」

    万が一の場合に備えて、報告するべき事柄をブーンに伝えた。
    指折りそれらを確認してから、ブーンはゆっくりとヒートの手を引いて暗闇の中を歩き始めた。
    次第にヒートの眼も暗闇に慣れ、周囲の状況が薄らと見えてくる。
    無機質なコンクリートの道が、ただ続いているだけで、それ以外にはめぼしい物が無い。

    左右の壁には黒い穴――恐らくは坑道――が蜂の巣の様に並んでおり、湿った空気がそこから流れ出している様だった。
    暗闇よりも尚暗い穴。
    隠れ潜み、待ち伏せするには絶好の場所だ。
    だが、ブーンの案内は必要不可欠だった。

    ブーンには、優れた嗅覚がある。
    SUVでこの場所に来たと云う事は、車が発する様々な種類の匂いが残っている可能性が高い。
    人間には知覚出来ないが、ブーンの鼻ならば可能だ。

    ノパ⊿゚)「臭うか?」

    (∪´ω`)「……? いいにおい……ですよ?」

    ノパ⊿゚)「良い匂い?」

    不思議そうに小首を傾げ、ブーンは言った。

    (∪´ω`)「ヒートさん……いいにおい……します……」

    ヒートは自分の顔が赤らんでゆくのが分かった。
    小さな子供の言葉に一々動揺しているのが如何に滑稽かは解っているが、それでも、
    ブーンのように愛くるしい少年にその様な事を言われては、胸の鼓動が高鳴ってしまう。

    ノハ;゚ー゚)「……ち、違う、違うぞ、ブーン。
        車だ、車の臭いだよ」

    (∪;ω;)「…………はぅ」

    ブーンの行動の何もかもが、ヒートの琴線に触れる。
    しかし、それでも尚、ヒートの心に巣食う怒りの炎が弱まる事はなく、フランク・チシットの仇であるメリーを殺す事を忘れはしなかった。
    ヒートの非凡性は己の感情を独立させ、思考、行動と切り離して隔離する事が出来ると云う点にあった。
    激情に駆られていても目的を忘れず、行動に一切の妥協を許さない。

    感情は常に人の行動に影響を及ぼしてきたが、ヒートはそれを完璧に制し、己の力として利用する事が出来た。
    気を取り直し、ヒートは闇を見据える。
    傾斜は果てなく続いている様にも見え、その先に何があるのか、ヒートは若干気になった。
    オセアンで棺桶が発見される事は知っていたが、ここまで地下深くにあるとは知らなかった。

    そして、市街地でも大量の棺桶が発掘できるとなると、ロバートが如何にして成功し、大量の武器をマフィア達に流していたのかに説明が付く。
    この事を、ロバートの一族は知っていたのだ。
    生まれ故郷であるオセアンに、実の所、ヒートはあまり愛着が無かった。
    だが、フランクと共に過ごした大切な場所である為、その裏で色々と画策されるのは気に入らなかった。

    改めて考えても、オセアンの秩序を守っている仕組みを土台から崩す事に、ヒートは何ら躊躇いの感情を抱く事はなかった。
    家族のいないオセアンなど、どうなっても構わないと云うのが、ヒートの出した答えだった。

    (∪´ω`)「……ヒート……さん」

    ノパ⊿゚)「ん?」


    (∪´ω`)「このさきから……すごく……」

    ブーンの言葉が尻すぼみになり、ヒートはその声から怯えの感情を聞き取った。
    何に対して怯えているのか、それが問題だった。

    (∪´ω`)「いやな……におい……します」

    車とも、人とも言わずに、ブーンは嫌な臭いと表現した。
    それはつまり――

    ノパ⊿゚)「ブーン、あたしの後ろから離れるな」

    ――何者かが、この先にいる。

    指示しなくとも、ヒートのジャケットの裾を掴むブーンは自然と跫音を消し、呼吸音を潜めた。
    暗闇の濃度は増すばかりだが、ヒートの眼が闇に慣れるのがそれに追いついた。
    傾斜が終わり、そこに、横広のトンネルが現れた。
    咄嗟に、ヒートはトンネルの端に身を寄せ、屈んでその先の様子を窺った。

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    非常灯の薄い緑色の明かりが不気味に輝いているだけで、人影や気配はなかった。
    腰を落としたまま、中腰でヒートは移動を開始した。
    トンネルを抜けると、三五〇フィート近くもある高い天井を持つ空間に出た。
    発掘に必要な道具が三〇フィート近くある金属の棚に並べて保管され、最上部の道具を取る為の可動式梯子までついている。

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    その金属の棚は一ヘクタール程の広々とした空間に迷路の様に建ち並び、静まり返った暗闇に浮かぶ影は不気味だった。
    非常灯はトンネルの出口の直線上にある、黒い扉の上部についていた。
    その横に巨大なシャッターが下りていることから、あの先は今もまだ発掘が行われている区画なのだろうと、容易に想像する事が出来た。
    SUVはシャッターの前に停められ、エンジンは切られていた。

    ノパ⊿゚)「……ブーン、あたしから離れて、そこに隠れて大人しくしてるんだ」

    ヒートの指示に従い、ブーンは段ボールが積まれている一角に身を隠した。
    大きめの段ボールに入り、ブーンはそこから顔を出して、ヒートの様子を窺った。
    周囲の闇を見渡すともなく見つめながら、ヒートは棺桶を背負い直し、辺りに漂う淀んだ空気の中から、敵意を探り出す。
    ブーンが嫌な臭いがすると言ったと云う事は、少なくとも、この空間に何者かが隠れ潜んでいる可能性が高い。

    棺桶持ちか、或いは全く別の存在か。
    いずれにしてもヒートの邪魔をするのであれば、容赦なく排除するだけだ。

    (:::::::::::)「私を追って、まさかここまで来るとは…… 見上げた物だな、ヒート・オロラ・レッドウィング」

    それは、ディーダン・ブランケットの声に相違なかった。
    辺りに反響して、声の発生源が分からない。
    ヒートは棚を背にしてその場から移動し、ディーダンの居場所を探る。

    (:::::::::::)「何が狙いだ。 何が望みだ?」

    答えないままに、ヒートは音の位置を探る。
    だが解らない。

    (:::::::::::)「交渉しよう。
         どうやら、互いに誤解があったようだ」

    相手はこちらの位置を捕捉していると考え、希望的観測を捨て去った。
    ディーダンが棺桶を所有している可能性は十分にあり得る。
    ここはオセアン全土に棺桶を広めるその中心点。
    棺桶を身に纏われる前にディーダンを発見して早々に殺さなければ、面倒になる。

    (:::::::::::)「私が君達を襲わせたのは、確かに事実だ。
         それは認めよう」

    メリーがこの場に現れないのも、ヒートは気になっていた。

    (:::::::::::)「だが、それには誤解があったのだ。
         君達が危険な存在だと吹聴され、それを鵜呑みにしてしまったのだ」

    隠れてヒートの背を狙っているか、それとも、あの発掘現場に逃げ込んでいるか。
    取り逃がすわけにはいかず、その為にはディーダンを排除するしかない。
    無視すれば、ブーンが危険に晒されてしまう。



    (:::::::::::)「全面的に私が悪かった事を認める。
         私に出来る贖罪を知りたいのだ。頼む、まずは話し合おう」


    明かりが無い事には、これだけ広い暗闇の中、ディーダンの姿を見つけ出すのは難しい。
    そこでヒートは、ディーダンを闇雲に探すのを止め、確実に位置を捕捉できる手を選んだ。
    来た道を戻り、段ボールの中でヒートを待つブーンの下に向かった。
    ブーンの耳に口寄せ、ヒートは尋ねた。


    ノパ⊿゚)「ブーン、あの声は何処から聞こえる?」


    ブーンの耳ならば、隠れ潜んだディーダンの位置が分かると考えたのだ。
    そして、その考えは正しかった。

    (∪´ω`)б「…………ぉ」

    小さな手が指さす先。
    それは薄暗がりになった天井に張り巡らされた、鉄の梁。
    高みの見物をしながら交渉をする人間はいない。
    隙を見てヒートを襲う算段を巡らせているのだと確信し、ヒートはブーンの傍を急いで離れた。

    (:::::::::::)「落ち着いてほしい。
         そうでなければ、互いに納得のいく交渉などとても……」

    ノパ⊿゚)「ぬぇい!!」

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    ヒートは棚を蹴り倒し、引き倒して遮蔽物を取り除き始めた。
    狭い空間に響き渡る金属音と破壊音は、人間の耳には喧しく、ブーンの耳には騒音に聞こえる。
    勿論、ディーダンの声は全く聞こえない。
    粗方倒し終えると、ヒートはようやく、ディーダンの問いに応えた。

    ノパ⊿゚)「メリーは何処だ?」

    (:::::::::::)「お、……おぉ、メリーか。
        メリーがどうかしたのか?」

    ノパ⊿゚)「交渉の席にはあの女を連れて来い」

    僅かな沈黙を挟み、ディーダンは訝しげな声でヒートに訊いた。

    (:::::::::::)「何故だ?」

    そう訊き返すと云う事は、今、この場にはいないと云う事を意味している。
    それが分かっただけで上出来。

    ノパ⊿゚)「それはなぁ……」

    遂に、ヒートはディーダンらしき影を見つけ出した。
    照星を合わせ、銃爪を引いた。
    低くくぐもった銃声と、弾丸が鉄に当たる甲高い音と重なって、不協和音を鳴り響かせる。

    (:::::::::::)「ぐっ!?」

    ノパ∀゚)「まとめて喰う為さ!!」

    銃撃を受け、梁から大きめの影が落ちる。
    地面に落下するまでの僅かな間に、ヒートはベレッタの弾倉を交換した。


    (:::::::::::)『名も無き私は知っている。人類最後の日まで、銃が世界から消えない事を!!』


    ソルダットの解除コードが空中で謳われ、間一髪のところで、それは不格好ながら着地に成功した。
    爆発した様な着地音と衝撃が響き渡り、ブーツの靴底を伝ってヒートの心臓をも振るわせた。
    だが、それは獲物を前にした獅子の動悸でもあった。
    メリーか、それともロバートか。

    どちらにしても、ディーダンは誰からか新たな棺桶を供給され、それを纏った。
    その一点で、十分だった。

    ([∴-〓-]

    ノパ⊿゚)「……おもしれぇ」

    ヒートはベレッタを懐にしまい、哄笑するような笑みを浮かべて、口にした。











              ノパー゚)『あたしが欲しいのは愛か死か、それだけだ』











    単一の目的達成の為に設計された世界で唯一の存在――〝コンセプト・シリーズ〟――であるヒートのAクラスの棺桶が、その姿を露わにした。
    顔を覆う透き通ったスカイブルーのシールドは、風防と防塵を兼ねたヘッド・マウント・ディスプレイ。
    頭部を守るのはダークグレーの軽量防弾素材で作られ、エアインテークが随所に付いた流線型のヘルメット。

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            /::::::::_,,.:::::\::::::, '゙ ,.イ-‐‐'''"´ ``ヽ、._   / \./ ,.イ          }}
            /-‐'''":::::;.、-'゙T'''" ̄  `'┬‐┬--、.,,,___ `''‐-'゙、._\\イ イ´\        〃
          /:::::_,.、-''" /´`゙'''‐-、   ``ヾ、 ゙、 `T゙T'i''''''‐‐‐゙ヽ、ノノノル 人      //
         /,..-,.'ニ-‐''''"ヾz、_/ヽ-‐'゙``<‐┬-゙ヽ、l   〉-ヽ、‐‐---<゙  ル人 レー… ´
        '"´ ̄       |/ \ _/!  〉 ./\/`ヾ、. _>‐--、.,__`ヽ、 =ニ´     /
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    両腕を被うのは、最低限の外装で保護された筋力補助装置。
    そして、左手腕部が纏う黒の腕甲の末端には、猛禽類の様に鋭く悪鬼のそれに似て無骨で、
    獅子の牙と言っても遜色ない鋭利さを秘めた、ブーンの腕並みの太さを持つ巨大で不均衡な爪が付いている。
    右腕には、ヒートの腕よりも長くそれよりも細い杭を打ち出す、電磁誘導式の杭打ち機が装着されていた。

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    胸部、腹部を守るのは防刃、防弾繊維の布一枚。
    両脚部の外側とブーツ全体を覆う黒い外装は、極限まで無駄を削ぎ落とした脚甲。
    踵にはローラーが仕込まれており、それが迅速な移動を補助する。
    騎士と言うには禍々しく、兵士と言うには厳めしく、人と言うには洗練されたその姿は、気品さえ漂わせている。


    対強化外骨格用強化外骨格〝レオン〟の装着に要した時間は、ソルダットよりも速い三秒弱。


    ノハ<、:::|::,》「疾っ!!」


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    丶.    '-''"´
     , ゝ
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    人間離れした素早さと身軽さで棚を飛び越え、身軽なソルダットの死角に素早く回り込み、ヒートは巨人の左手をその背に押し当てた。
    結果を見れば、この一撃でディーダンの敗北は決定していた。

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    ;;;;,,. シ";;;;;;;;;;;;;.,..- 、              、   、    ... "'\.   : ;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;:
    ヾ,i".;;;;;;;;;;;;; ;;>''''''ーニニ`-“'  / ,. , i .` ヽ  ゝ ...l    . ゝ ゙、;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;:
    ..---―;;;;./ ,.;;;;;;;;;;;;;;;;;.....;:   ./ .,《 .l .,! .j  : '、  .l .′  ;;;;;;;'、 ゙ゝ-'゙'-、iィ==ニ∴
    ,,,_._./ ´- 、.,,;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;.  .." .,i/ .i゙ .′";;;;.ゝ .l;;;;;;ヽ l ;:.;;;;;;;;;;;.\,,, / .;;;;;;;;;;;;;;;
       .''-、.;;;゙'-ミヽ........ -‐'フ’  l/ !;:;|  |:;;;;;; :、 l.;;;;;.ヽ ヽ .;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;,ン'゙
         `''ー、.,,゙゙''―-'''";;;./ . ,i}゙ .|;:;!  |;;;;;;;;; .l ヽ;;;;..\ `ー. 、;;;;;;_,、.. -ー'"
              ´゙'''-- ./  / ...l .|;;|  l;;;;;;;;;;;. ゙,  l:;:,_iii、\,  ゝ 、
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    瞬間的に放たれた高圧電流が、棺桶の持つ小型バッテリーをショートさせ、小規模な爆発を誘発した。
    緊急用の電源までも同時に失ったソルダットは石像の様に固まり、内部からディーダンの焦りの声が聞こえる。

    ([∴-〓-]「な、何だ?!」

    ノハ<、゚ |::,》「さて、メリーは何処だ?」

    右手をソルダットの背中に押し当て、生殺与奪権を掌握したヒートは高圧的に問い質す。
    一瞬で決した勝敗を理解できないのか、それとも納得できないのか。
    ディーダンは答えない。

    ([∴-〓-]「待て、待ってくれ!!」

    ノハ<、゚ |::,》「返答次第だ。
          さぁ答えろ。メリーは何処にいる」

    自らの命とメリーとを天秤に掛け、ディーダンは直ぐに答えを出した。

    ([∴-〓-]「そこの奥に行った!!」


    ノハ<、゚ |::,》「次の質問だ。
          どうして、お前がここに連れて来られたんだ?」

    ([∴-〓-]「は? いや、ロバートが私を保護してくれると言うから……」

    ノハ<、:::|::,》「保護?」

    ([∴-〓-]「メリーがロバートと連絡を付けていたのだ。
          だから、私はこうしてここに……」

    辻褄が合わない事に、ヒートは直ぐに気付いた。
    予想されるロバートの狙いは、ディーダンとシモノフ・ファミリーの処分。
    それなのに、ディーダンを保護すると云うのは矛盾以外の何物でもなく、つまり、有り得ないのだ。
    その原因は、メリーの行動に起因する。


    となれば、メリーはロバートの思惑とは別の考えの下に動いているのだろうか?


    ノハ<、:::|::,》「そうか。ならもう十分だ」

    ([∴-〓-]「ほっ……」

    安堵の溜息を吐いた、次の瞬間。


    ([∴-〓-]「がっ……?!」


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    鈍い音を立てて打ち込まれた杭が、ソルダットの堅牢な装甲を容易く突き破り、背中から胸を滑らかに貫いた。

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     `=、ヽ._     ヽ._ 、ィ'l_t|.みソ.、. .! _rィ´/
         `\.,、__ `ヽ=、キ=サf=イヾ`=ィy/_             _. __ _
             `ヽ.f´ソモtifr'=、メキッサメf-'      __─
              ___jiキモイ    }チif井♯[二 ̄   ̄
            _,. -='ニサヤハ.___ /ィf´<`'..-、
      ,.=-─'  ̄丁´≠攵辷ケモケモナ匕冫   \
      '     ,.ィ´メ´ヘ/メ/幵f|^´ヽ!、/\    \
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    ノハ<、:::|::,》「許すとは言ってない」

    立ち尽くしたまま、ディーダンはソルダットの鎧に包まれて絶命した。
    装甲の隙間から血が流れ出し、足元に影よりも濃い血溜が生まれる。
    ヒートはブーンの下に向かい、縋る様な目で見上げるブーンを左手で抱き上げ、段ボールの中から出した。

    ノハ<、゚ |::,》「行こう、ブーン」

    (∪´ω`)「……はい」

    ヒートの後にブーンが続き、非常灯の下にある扉の向こうに進んだ。

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    そこは、眩い空間だったが、冷たい空気の満ちる空間でもあった。
    掘削機とショベルカーが眼前に数台停車し、その傍らには土嚢が積まれていた。
    七〇〇フィートにも達しようかと云う天井に吊り下がった蛍光灯が、左手に聳え立つ巨大な土の山に穿たれた穴を照らすも、
    それは心細く、空間全体に不吉な空気が漂うのは道理だった。

    恐らくはここが最下層。
    行き止まり。

    ノハ<、゚ |::,》「……ブーン、どうだ?」

    山となった土の壁と重機以外、これと言ってめぼしい物はなく、だが、身を隠すのならば絶好の空間。
    隠れる場所が少ないということは、それだけ、人の思考力、即ち想像力が試される。
    ヒートの想像力がメリーに及ばなければ、見つけ出すことは不可能だろう。
    しかし、こう云った地形こそが、ブーンの嗅覚が最も能力を発揮するのだ。

    だがしかし、その必要はなくなった。


    (:::::::::::)「……探す必要はありません」

    蜂蜜の様に甘い声が、土山の頂上部に空いた穴から聞こえ、次いで、探し人が姿を現したのである。
    待ち望んだその姿に、ヒートは胸を高鳴らせた。
    逸る気持ちを抑え、ヒートはその名を呼ぶ。

    ノハ<、゚ |::,》「よぅ、会いたかったぜ。メリー」

    (*゚-゚)「……フランクさんの事を嫌っていると思ったのですが、勘違いだったのでしょうか」

    挑発する訳でも、同情する訳でもなく、メリーのそれは、ただ純粋な疑問をぶつける少女の様に悪気が無く、それが却ってヒートの業腹を誘った。

    ノハ<、゚ |::,》「いいや、正解だよ。あたしはフランクが嫌いだった。大嫌いだった。
          あいつの生き方も、声も、顔も、何もかもが嫌いだった」

    (*゚-゚)「と言う事は、私を追ってきた理由は、別にある訳ですか」

    ノハ<、゚ |::,》「ないね」

    即答したヒートの言葉に、メリーの言葉が訝しむ様な色を帯びた。

    (*゚-゚)「ならば、何故です?」

    ノハ<、゚ |::,》「手前には理解できないだろうな。
          世の中には死んで喜ばれる馬鹿と、死んで惜しまれる馬鹿がいるんだよ」

    (*゚-゚)「理解に苦しみますが、ですが、フランクさんを殺めてしまった事に私が心を痛めている事を考えると、案外そうなのかもしれませんね」

    ノハ<、゚ |::,》「ほぉ?」

    (*゚-゚)「致し方無かった、と言っても納得しないでしょうが、しかし、フランクさんの死は無駄には致しません」

    ノハ<、゚ |::,》「あの馬鹿でも何かの役に立つってことか? 臓器のドナーではないだろ。
          宗教上の理由ってやつでよ」

    (*゚ー゚)「フランクさんの死は、世界を変える為の一歩を支えたのです」

    正直、ヒートはメリーの言葉に耳を傾ける余裕が無かった。
    先程から己の傍らで体を振るわせ、ヒートの脚から離れようとしないブーンの怯え方は、ディーダンと対峙した時とは明らかに異なる。
    詭弁を弄して時間を稼ごうとするメリーよりも、ブーンのほうが重要だった。

    ノハ<、゚ |::,》「どうした?」

    :;(;∪´ω`);:「……ぼく……あのひとの……こえ……しって……」

    ヒートは、その言葉だけで、ブーンの言わんとすることを理解した。
    点が線となって繋がり、自ずと導き出される一つの答え。
    児童売買を補助していたメリーと、売られたブーン。
    それが繋がるのは必然と言えた。

    ノハ<、゚ |::,》「……成程な。おい売女」

    優しくブーンを自分の体から離し、無骨な左手で頭を撫で、メリーを睨む。

    (*゚-゚)「……」

    ノハ<、゚ |::,》「お前の特技は、あたしを怒らせる事と男に股を開くことらしいな」

    (*゚-゚)「私はその様な汚らしい事など――」

    誘いに乗り、油断した瞬間を、ヒートは見逃さなかった。
    下らぬ問答に悪戯に時間を費やしたのではない。
    この時を、会話に集中するその一瞬を待っていたのだ。

    ノハ<、:::|::,》「――手前が死んだ方が、よっぽど役に立つってんだぁよっ!! この糞女ぁ!!」

    ヒートはメリーに向かって一直線に駆ける。
    この距離、この位置、このタイミング。
    外す道理も、逃がす道理も無い。
    穴を背にして棒立ちになったメリーに、これを避ける術など、無に等しい。

    (*゚-゚)「……何と軽率な」

    しかし。
    だがしかし――












    (*゚-゚)『握り拳と握手は出来ない』









    ――穴とメリーの影に隠れていたAクラスの棺桶、〝マハトマ〟の剛腕がメリーの両手を覆った。
    相手もこの時を待って罠を巡らせていた事に気付いたヒートは、すぐさま左手の電圧を上げて対応する。
    棺桶相手なら、レオンの装備で対処すればいい。

    (*゚-゚)「それが軽率だと言っているのですよ、ヒートさん」

    マハトマの右手が、正面からヒートの左手を掴んだ。

    ノハ<、:::|::,》「物は試しだ!!」

    高圧電流が腕を介してバッテリーを破壊し、棺桶の機能を停止させる――

    ノハ<、:::|::,》「がっ?!」

    ――筈だった。
    腹部を襲った鈍痛と凄まじい衝撃に体を折り曲げ、ヒートの小柄な体が宙を舞う。
    頂上部から一気に落下したヒートは、着地の衝撃を分散する為、足で地面に円を描いてそれを受け流した。
    乱れる呼吸を正しながら、ヒートは肉食獣の眼遣いでメリーを見上げた。

    (*゚-゚)「不思議ですか? 電流が通じなかった事が」

    マハトマは非暴力を訴え、勝利を物にした偉人の思想を反映して設計された、レリジョン・シリーズの中でも極めて特異な棺桶だ。
    それ単体では驚異的な攻撃性を持たず、戦闘には向いていなかった。
    故にレリジョン・シリーズ最弱、の烙印が押され、〝アンドリュー〟同様、便利な義手としての役割が定着し、現在は地雷撤去や物資の運搬の補助に使われていた。
    その為、その腕には作業中の感電を防ぐ為の非常に優れた処理が施されており、レオンの電流は意味を成さなかったのも納得できる話だった。

    (*゚-゚)「それにしても、どうしてそれを貴女が持っているのですか?」

    ノハ<、:::|::,》「ってね!!」

    忌々しげな声で吠え、ヒートは再びメリーに向き直る。
    高所からヒートを見下ろし、メリーは嘆かわしげに言った。

    (*゚-゚)「それの為に、フランクさんを殺めざるを得なかったと言うのに……」

    ノハ<、:::|::,》「あぁ……?」

    (*゚-゚)「しかしこれで手間が一気に省けます」

    悠然と土の上を歩き、メリーはヒートに近付く。

    (*゚-゚)「その棺桶を渡してもらいます」

    ノハ<、:::|::,》「……ったく、こんな女みたいな軽いパンチで調子こいてんじゃぁ……!!」

    相手の棺桶が分かった以上、戦い方は自ずと決まってくる。
    初撃でヒートを殺さなかった事とヒートの技量を勘違いしている事を教える為、再び、ヒートはメリーに肉薄した。

    (*゚-゚)「効かないと……!!」

    苛立たしげな呟きと共に腕を掲げ、防御の体勢に入るメリー。

    ノハ<、:::|::,》「……ねぇっ!!」

    拳を握り固め、ヒートはそれでメリーの上腕を強打した。
    反撃を許さない右のコンビネーションブローが、続いてメリーの腹部に目掛けて放たれ、
    どうにかメリーはそれを防ぐが、続けて振り下ろされたヒートの左拳を避け損ね、側頭部を掠めた。
    それによって脳震盪を起こし、メリーの上体が大きく揺れた。

    ノハ<、゚ |::,》「あたしの拳はなぁ!!」

    右の鉤突きを柔らかな腹に打ち込み、衝撃でメリーの頭部が必然的に地面に向かう。
    顎の先端を、綺麗な弧を描いて放たれたヒートの左回し蹴りが捉え、メリーの体が後ろ回りに回転しながら吹き飛ぶ。

    ノハ<、゚ |::,》「フランクの頭より硬くて!!」

    錐揉みしながら落下するメリーに三歩で追いつき、ヒートは左のアッパーカットで更に高みに飛ばした。
    最早メリーは反撃も防御もままならず、されるままになっていた。

    ノハ<、゚ |::,》「手前の命よりも重いんだよ!!」

    落下点に向け、正確無比な一閃。
    体重と勢いを込めた右ストレートはメリーの鼻面を捉え、顔を醜く変形させた。
    メリーの体は冗談の様に水平に飛んで行き、積まれていた土嚢に激突した。

    ノハ<、゚ |::,》「この程度じゃないだろ!!」

    ヒートは拳の感触と、メリーの放つただならぬ空気を察しており、今の攻撃で終わる様な人間でない事を悟っていた。
    何よりも、顔を殴られた際に浮かべた般若の形相を、ヒートはハッキリと目撃している。

    (*゚-し,゚)「……素晴らしい。ヒートさん、貴女は逸材だ。
        棺桶だけではなく、貴女もまた、私たちに必要な存在だったのですね」

    土嚢を払い除け、メリーが上体を起こす。

    (*゚-し,゚)「ヒートさん。話を、話をしましょう」

    折れた鼻を元に戻し、夥しい量の鼻血を拭い取り、悟りを開いた様な穏やかな口調でメリーがそう話しかけた。

    (*゚-゚)「綺麗事と嗤われて、下らぬ冗談と一蹴され続け、しかし、決して消える事のない夢の話を」

    両足で地に立ち、メリーは誇らしげに胸を反らし、語りかける。

    ノハ<、゚ |::,》「説教も説得も説法も、聞く耳もたねぇよ」

    追撃の用意を整え、ヒートはメリーとの対話を拒む。
    しかし、その意を理解していないのか、メリーは話を始めた。

    (*゚-゚)「まずは、私が名を偽っていた事をお詫びします。
        私の名前は、アメリア・ブルックリン・C・マート。短くシィとお呼びいただければ幸いです」

    ノハ<、゚ |::,》「シット? 汚ぇ名前だが、お似合いだな」

    (*゚-゚)「単刀直入に、私の目的を言います。 この世界を正す為に、その棺桶が必要なのです。
        考えてもみて下さい、この無法と言い換えてもいい世界で、果たして平和な日常などあるのでしょうか?」

    ノハ<、゚ |::,》「全くこれっぽっちも興味ねぇや。
          手前が何人の男を咥えたのかって話のほうが、なんぼか面白れぇや!!」

    強く地面を踏み込んでヒートは一気に疾走し、無防備なシィに連撃を試みる。
    後ろ回し蹴りを切り口に、ヒートは次々と打撃技を繋げるが、シィはその攻撃を悉く捌き、会話を続行する。

    (*゚-゚)「私達の夢は、世界に平和をもたらす事。
        争いも無く、誰もが平等に幸せを味わい、笑顔に満ちた素晴らしい世界の為に、手を貸してはいただけませんか」

    ノハ<、゚ |::,》「お断りだって言ってんだろ!!」

    目にも留まらぬ速度で繰り出した四種の攻撃。
    ジャブ、アッパーカット、ローキック、そして跳び後ろ蹴り。
    それを二本の腕で防ぎ切ったシィは、ヒートの脚が伸びきった所を狙って両手で捕え、身動きを取れなくした。
    細腕に似合わず、シィは非常に秀でた格闘技の才能を持っていることにヒートは気付く。

    道理で、あれだけの拳の応酬を受けても平然としていられるはずだった。
    適切なタイミングで適切な脱力と受け身を組み合わせれば、軽傷とは言わないが、深手を負うことは避けられる。

    ノハ<、゚ |::,》「手前……!!」

    (*゚-゚)「その力を、どうか愛に溢れる世界創造の為に役立てて下さい。
        この様な無意味な争いではなく、平和の為に。
        そうする事が私の贖罪、引いてはフランクさんの――」

    ノハ<、:::|::,》「――捕まえた!!」

    歓喜に狂気のエッセンスを混ぜた笑みを浮かべ、ヒートは杭打ち機を自らの脚に乗せて固定し、
    その先端をシィの腕――即ち足を固定している両腕――に向け、放った。

    (*゚-゚)「くっ……!!」

    突然の事に一瞬だけ手を離すのが遅れ、マハトマの表面装甲が大きく削れた。

    ノハ<、゚ |::,》「恋に落ちずに愛を語るったぁ、嗤わせてくれる!!」

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    ヒートはすかさず、損傷したマハトマを左手で掴み、高圧電流を放った。
    それは、一瞬の事だった。
    青白い電流がマハトマ全体に走り、そして、小さな爆発音と共に固まった。

    (*;δ;)「いぐっ……!!」

    損傷部から流れ込んだ電気によって、マハトマは完全に機能を停止し、不格好な形――胸の前で両腕を交差させた状態――で動きを止めていた。
    無論、誰かの力を借りない限りそれを外す事は出来ず、一種の拘束具としてシィに行動の制限を課した。

    ノハ<、゚ |::,》「だったら手前の子宮に届けてやるよ!! 腹いっぱいの愛ってやつをなぁ!!」

    左手を抜き手の形に構え、それをシィの下腹部――子宮の真上――に向けて刺突する様にして突き出した。
    鈍い輝きを放つ鋭利な爪が軟肌を貫き、解剖学的な正確さで内臓を傷付けることなく子宮に到達した。
    激痛に瞠目するシィの口から漏れるのは、短い悲鳴。

    ( ;δ;)「ひ……ぎっ……?!」

    ノハ<、゚ |::,》「こいつが、フランクからの届け物だ!!」

    高圧電流が、体内から直接シィの体を駆け廻った。
    子宮は一瞬の内に焼け爛れ、筋肉は硬直と弛緩を意味も無く繰り返し、眼は大きく見開かれ、
    だらしなく開かれた口からは涎が垂れ、腹の底から溢れる悲鳴と絶叫を紡ぐ。
    体は限界まで弓なりに反り、足の付け根からはアンモニア臭のする液体が漏れ、脚は生まれたばかりの小鹿の様に震えた。

    ノハ<、゚ |::,》「愛だ? 平和だ? 馬鹿みたいにそれに心酔してたフランクを殺しておいて、よく言う!! 本質から逃げる詭弁が好みか、シィ!!」

    (*;Ж;)「あぎっ!!」

    爪を乱暴に引き抜くと、その先端には血に汚れ焼け爛れ、グロテスクな肉塊となった生殖器官が突き刺さっていた。

    ノハ<、゚ |::,》「ガキを売って愛で腹が膨れるんなら、こいつは不要だろ!!」

    子宮を振り棄て、ヒートはそれを念入りに踏み潰した。

    (*;Д;)「あかっ……かひっ……!!」

    目の前で奪われ失ったそれが信じられず、シィは哀願の色を眼に浮かべる。
    ヒートの右ストレートは、シィの頬骨を砕き、皮膚を突き破って骨が表に出た。
    倒れそうになる体を右手で掴み、左の爪で顔の肉を削ぎ落とす。

    ノハ<、゚ |::,》「殺すのは簡単だけどな、やっぱり、フランクの仇だ。
          となると、あいつの流儀で復讐するのが道理だろ。 ……こんな風になぁっ!!」

    そう言って、ヒートは左手をシィの腹部に空いた傷口に押し当て、再び電撃を見舞った。
    肉が焼け焦げる臭いとアンモニア臭が混ざり、異臭が漂う。

    (彡;:ё:;>「ああああがっ?!」

    ノハ<、゚ |::,》「どうした? 悦べよ!! これで手前は永遠の処女だ!!」

    傷口と膣が焼き潰される痛みに耐えかね、シィは眼窩から飛び出んばかりに目を大きく見開き、白目をむいて悶絶し、遂には気を失う。

    ノハ<、:::|::,》「……へっ」

    本心を言えば、ヒートはシィを嬲り殺したい思いだった。
    だが、今は自重しなければならない。
    一瞬で終わる死と、生きている限り続く苦しみ。
    この二つを天秤にかけると、後者の方に僅かだが傾く。

    女性としての誇りである美しい容姿を奪い、喜びである受胎及び生殖行為を不能にしただけでも、だいぶ気が紛れる。
    これで今後、シィが異性に好かれることはない。
    仮に好かれたとしても、その間に子を持つことはできない。
    これが、フランクの生き様を最大限尊重したヒートの復讐だった。

    気を失ったシィをつまらなそうに突き倒し、ヒートは復讐を果たした。
    ブーンには、殺す以外の方法で相手を苦しめ得ることを学んでもらいたい。
    ヒートと同じ道を歩ませるには、ブーンはまだ幼く、そして純粋だったからだ。
    重機の陰に身を隠していたブーンが小走りでヒートに駆け寄り、物言いたげな目で見上げた。

    ノハ<、゚ |::,》「どうした?」

    (∪´ω`)「あの……ヒートさん……えっと……その……ぁぅ……」

    ちらちらとヘッド・マウント・ディスプレイの奥にあるヒートの眼を見ては、ブーンは俯いてしまう。

    ノハ<、゚ |::,》「ん?」

    目線の高さを合わせると、ブーンは落ち着いたらしく、ようやく言った。

    (∪´ω`)「だいじょうぶ……ですか……?」

    ノハ<、゚ |::,》「あぁ、大丈夫だよ。ブーンが見ててくれたからな」

    厳めしく攻撃的な形状をした棺桶を纏う体で、ヒートはブーンを抱きしめ、無事であることを証明した。
    胃の奥に残る鈍痛など、ブーンを一度抱けばすぐに薄れてしまう。

    ノハ<、゚ |::,》「さて、さっさと帰ろ――」

    (∪´ω`)「――ヒートさん、あれは、なんのおとなんですか?」

    ブーンが、ヒートの胸の中でそう問いを投げかけた。

    ノハ<、゚ |::,》「音?」

    (∪´ω`)「ごーって……むこう……から……」

    一旦胸から解放すると、ブーンは先ほどディーダンと交戦した空間だった。
    あの空間に何か変化が訪れようとしている。

    ノハ<、:::|::,》「……行ってみるか」

    警戒心の中に好奇心が入り混じり、ヒートはブーンの二歩先を歩き、来た道を戻った。
    再び暗闇の空間に戻る前に、一先ずブーンを採掘場で待たせてから、一人で異音の正体を探る。
    その空間に足を踏み入れるが、ヒートの耳には何も聞こえない。

    ヘッド・マウント・ディスプレイが自動的に暗視モードに切り替わり、日の下と同じ景色をヒートの眼に見せる。

    ノハ<、:::|::,》「……ブーン、入ってきてくれ」

    ヒートの目と耳では、ここまでが限界。
    ブーンの力を借りなければ、事態の把握は出来ない。
    ブーンは一目散に駆け寄り、傍に立ってヒートを見上げた。

    ノハ<、゚ |::,》「なぁ、その音はどこから聞こえてきてる?」

    (∪´ω`)「……こっち……です」

    ヒートの手を引き、ブーンは崩れた棚を踏み越え、空間の奥詰った場所に導いた。
    あるのは鉄の壁。
    拳で軽く叩くと、奥に空間がある事が分かった。

    (∪´ω`)「この……おくから……」

    ノハ<、゚ |::,》「おっし」

    ブーンの指の先にある壁を押すと、それは驚くほど簡単に内側に向かって折れ曲がった。
    そして、その奥を目撃したヒートは、言葉を失った。

    ノハ<、゚ |::,》「……なっ……?!」

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    それは、造船場のようにも、格納庫のようにも見えた。
    ヒートは何度か、巨大な輸送船の肝とも言える船倉を見たことがある。
    そこには百フィートにも及ぶ高さを持ったコンテナが山と積まれていたのだが、その空間よりも、遥かに、遥かに広闊とした空間が眼下に広がっていたのである。
    金属に囲まれた異様な空間の壁にはキャットウォークが設けられ、随所に可動式梯子が掛けられていた。

    ヒート達が出てきたのは、その空間の上部。
    千フィートの高さから、ヒートはその空間を見下ろしていた。
    そして、何よりもヒートが驚愕したのは、その空間を埋め尽くすように聳え立つ、巨大な〝何か〟。

    ノハ<、゚ |::,》「……か、棺桶?」

    明らかに形状も大きさも異なるのに、ヒートはそれが棺桶であると直感した。
    高さ、天井に届きそうなほどの八〇〇フィート。
    原型はヒートがこれまでに見てきた度の棺桶とも異なり、どちらかと言うと、高層ビル建造に使用される重機に近い外見をしていた。
    両椀に当たる場所には円錐状の巨大な物体――ヒートの記憶が確かなら、ミニガンと同じ形状をしていた――がぶら下がり、
    その両肩には巨大な砲が片側二門、合計四門備わっていた。

    重厚な装甲に覆われた胸部にも幾つか銃口らしきものが窺える。
    キャットウォークの一部は巨体に向かって伸びており、頭部は半円形で、全体が黒い光沢を放ち、一本のアンテナのような物が立っていた。
    巨大な上半身を支えるのは、無限軌道の履帯。
    天井から垂れ下がった直径約4インチのケーブルは背骨に繋がっており、それが妙に生物味を感じさせた。

    ヒート達の視線の先で、キャットウォークの下にある小さな扉が開き、人影が飛び出した。

    (・L_・;)

    ノハ<、゚ |::,》「ロバート……!!」

    命の危険を感じているのだろう、その歩き方を見るだけで、とてつもない恐怖に慄いているのがわかった。
    巨大なそれに向かうロバートを見て、ヒートはそれを阻止すべく、手摺に足をかけ、ブーンに言った。

    ノハ<、゚ |::,》「ブーン、少し待ってな。これで終わらせるからよ」

    復讐劇の幕を降ろすべく、ヒートは高鳴る胸の鼓動を感じながら、躊躇なくそこから飛び降りた。
    着地の衝撃は棺桶が吸収したが、生じた爆発音にも似た物音に気付いたロバートがヒートを見て、叫んだ。

    (・L_・;)「……っ、それは……」

    両者の距離は約二〇〇ヤード。
    レオンの脚なら、十秒と掛からない。

    (・L_・;)「それは私のものだ!!」

    ロバートは腰だめにウジ・サブマシンガンを乱射し、弾幕を張りつつ、履帯の傍まで移動する。
    左手を扇のように広げて急所を庇いながら、ヒートは稲妻のような軌跡を描いて距離を縮める。

    (・L_・#)「お前らのせいで、お前らのせいでこの街はもう終わりだ!!」

    弾切れになったウジを捨て、狼狽と怒りに顔を歪めるロバートはグロック・オートマチックに持ち替える。
    単発でヒートを狙い撃つが、髪を掠めるにも至らない。

    (・L_・#)「何千人が不幸になると思う!! 貴様らの自分勝手な行動のせいで!!
         どれだけの人間の希望が失われ、悲しみに涙するか、考えたことはあるのか!!」

    ノハ<、:::|::,》「全く全然これっぽっちも、あたしの人生には関係ないね!!
          手前の脚で立って歩こうとしない奴が駄々こねて泣こうが死のうが喚こうが、あたしの心は痛まねぇ!!」

    後三〇ヤード。

    (・L_・#)「それを独り善がりと言うのだ!!」

    後二十五ヤード。
    権力者としての矜持、そして責任がこもったロバートの言葉を、ヒートは嘲笑う。
    グロックも弾が尽き、ロバートの運も尽きた。

    ノハ<、:::|::,》「人はいつだってそうなんだよ!!」

    後二〇ヤード。
    復讐は、もう間も無く終わる――

    (彡゚:ё:゚>「そこまでです」

    ――筈だった。
    怒りに燃え、痛みに掠れ、悲壮な決意に満ちた声が響き渡った。
    それは、見る影もなくボロボロになったシィの誇らしげな声。
    項の毛が総毛立つ不快且つ不吉な確信と共に、反射的に立ち止まって振り返り、ヒートは己の迂闊さを心の底から呪った。

    (彡゚:ё:゚>「あの程度で膝を折り諦めると思いましたか? 英雄たるこの私が、あの程度で退くはずがありません。
          さぁ、ヒートさん。この子供、大切なのでしょう? ならば動かず、抵抗するのをやめてください」

    ヒートの気持ちを察してか、醜悪に変形した顔をより醜く歪ませ、笑みのようなものを顔に浮かべた。
    シィの手にはコルト・ディフェンダーが握られ、その腕の中にはブーンの頭がある。
    マハトマの拘束から逃れるために肩を外したのだろうか、若干、腕が震えていた。

    ノハ<、゚ |::,》「手前!! ブーンは関係ねぇだろ!!」

    (彡゚:ё:゚>「全く全然これっぽっちも私には関係ありません」

    先ほどヒートが放った言葉を、そのままシィが口にした。
    ヒートの神経を逆撫でする事に関しては、もう、一流を名乗っても問題はないだろう。

    (・L_・;)「よくやった!!」

    救世主、もしくはそれに準じる何かを見出したかのように嬉々とした声を上げたロバートの足元が爆ぜた。
    冷え切った鉄の空間に木霊する一発の銃声。
    それは、決別、或いは離反の一声。

    (・L_・;)「な、何をするっ!!」

    (彡゚:ё:゚>「これ以上の争いは無意味なのですよ。
         ようやくここまで揃えた舞台と駒。払った代償と時間を無駄にするわけにはいきません。
         ロバートさん、貴方も動かないでください」

    (・L_・;)「何を、何を言っているんだ、お前は!!」

    ノハ<、゚ |::,》「ディーダンをここに連れてきておいて、時間の無駄とはよく言うな、おい」

    (・L_・;)「ディーダン? おい、メリー、どう言うことだ!! 私は殺せと言ったはずだ!!」

    ノハ<、゚ |::,》「メリー? そいつはシィじゃないのか?」

    ヒートとロバートは、それまで命を奪い合うという間柄に在ったにも関わらず、全く同一の気持ちを抱き、関心を一点に向けた。
    それは、彼らがメリー=シィに対して、全く誤った認識をしていたと云うこと。

    (・L_・;)「……貴様、まさかこの私を……!!」

    (彡゚:ё:゚>「……えぇ、そうです。
         欺いていましたよ、ディーダンと同様に」

    未だ硝煙の上る銃口を一ミリも動かさず、平然と裏切りを告白したその口は肉に切れ込みを入れたように醜く、その中で動く舌は腐肉に湧いた蛆のように蠢く。

    (彡゚:ё:゚>「だからどうしたというのですか? 悪を欺くことが、一体なんだと?」

    (・L_・;)「悪?! 貴様、よりにもよって私を裏切るだけでなく、悪と断じるか!!」

    (彡゚:ё:゚>「外道に与える真実など、私は持ち合わせていません」

    (・L_・#)「誰に吹き込まれたかは知らないが、ただで済むと思うな!!」

    (彡゚:ё:゚>「生きて再び同じ台詞を口に出来るのであれば、或いは、可能性があるのでしょうね」

    (・L_・;)「っ!!」

    ロバートは銃口を向けられていながらも、その空間を占有する巨大な物に走り出した。
    次々に撃ち出される銃弾は、だがしかし、ロバートを止められはしなかった。
    巨大構造物を盾にすることに成功したロバートは、無限軌道と胴体の繋ぎ目に上り、そこで姿を消した。

    ノハ<、゚ |::,》「……さっさとブーンを離せよ」

    ロバートから眼を離し、ヒートはシィを睨み上げる。

    (彡゚:ё:゚>「では、私達に協力していただけますか?」

    ノハ<、゚ |::,》「お断りだね」

    即答したヒートに、メリーは子供の疑問に答える教師の様な声で訊いた。

    (彡゚:ё:゚>「どうしてです? どうして、そこまで頑なに善行を拒むのです?
          正義の実在をこの世界に知らしめ、悪を滅し、この世界を変えることが不可能だと思っているのですか? いいえ、それは誤解です。
          大いなる間違いです。私達は実現できるところまで来ているのです。
          その一歩が、このオセアンから始まるのです」

    演説めいた口調の言葉はくぐもっていたが、ヒートの耳はそれを正確に聞き取り、その言葉に絶対の自信と誇りを持っているのだと分かる。

    ノハ<、゚ |::,》「……なぁ、聞かせてくれよ。 手前の言う悪って何だ?」

    (彡゚:ё:゚>「独善によって人の思いを踏み躙り、嘲笑い、それを悦ぶことです。
          そして正義とは、皆の幸せのために粉骨砕身働き、悪を許さず愛を――」

    言葉の途中で、ヒートは地獄の淵から響く地鳴りを彷彿とさせる声で、それを遮った。

    ノハ<、゚ |::,》「――だったら、あたしの愛を現在進行形で踏み躙ってる手前は何だ?」

    (彡゚:ё:゚>「どうやら、ヒートさんは勘違いをしているようです。
          愛とは人と人との間に交わされる崇高で神聖な物。人と耳付きの間に愛などありませんよ、ヒートさん。
          私は正義を愛し悪を滅ぼす者。犠牲を払う事に足を鈍らせては、一歩を踏み出すことはできません」

    ノハ<、゚ |::,》「気持ち悪い台詞をよくもまぁ……」

    (;∪´ω`)「…………っ」

    ブーンの耳が、小さく動く。
    そして、何かに気付いたかのように顎を上げ、首を動かして周囲を見渡そうともがくが、シィの腕がブーンの胸を押さえ付け、それを封じる。

    (彡゚:ё:゚>「ほら、動くんじゃないわよ」

    (;∪´ω`)

    ノハ<、゚ |::,》「……手前」

    怒りに身を任せて後先考えずに動かず、シィを刺激してブーンを傷つけさせない為に、ヒートは動かなかった。
    降りるのは簡単だが、今、シィのいる位置に一瞬で向かうのは不可能だ。

    (彡゚:ё:゚>「ヒートさん、下らない問答で戯れている余裕が御有りなのですか?」

    ノハ<、゚ |::,》「戯れてるつもりはねぇが、手前こそ、ロバートを放っておいていいのかよ」

    (;∪´ω`)

    手出しが出来ない中、ヒートは状況の変化を望んでいた。
    今この場でそれを成し得るのは、皮肉な事に、ロバートだけなのであった。

    (彡゚:ё:゚>「構いません。どうせ、何も出来ないのです。
          ……ヒートさん、それが何に見えますか?」

    (;∪´ω`)

    ノハ<、:::|::,》「ラジコンには見えねぇな」

    ヒートの声は冷静だった。
    声だけは。

    (彡゚:ё:゚>「それは棺桶なのです」

    (;∪´ω`)

    ノハ<、:::|::,》「これが? でかすぎだろ」

    (彡゚:ё:゚>「えぇ。世界で唯一の対都市攻略用強化外骨格〝ハート・ロッカー〟。
         それが、私達の一歩に必要な物なのです。
         想像できますか? 一機で都市を相手取って戦える棺桶を。
         これは大変な示威行為、即ち抑止力になるのです。

         そして、このハート・ロッカーを止められるとしたら、それは棺桶しか有り得ません。
         その棺桶を排除、淘汰、圧倒するのが……」

    ノハ<、:::|::,》「……あたしのレオン、ってことか」

    (∪´ω`)

    (彡゚:ё:゚>「そうです。この二機を正しく運用すれば、世界から争いを失くし、誰もが幸せな――」

    ――次の瞬間。
    ヒートは我が目を疑い、喜びに口端を緩ませた。


    * * *


    ロバートはハート・ロッカーの中で、額に浮かんだ脂汗を服の袖で拭いながら、コンソール類を操作し、
    どうにか起動コードの入力が可能な状態にまで移すことに成功していた。
    シィの裏切りは、ロバートの自信を喪失させるには十分な出来事だった。
    一体、どの時期から裏切っていたのか、もう、想像することも考えを巡らせて正答を導き出すこともできないほど、ロバートの気は動転していた。

    シィを手駒としたのは、彼女が六歳になるかどうかと云った時。
    その時から、このような大それた裏切りを考えていたとは到底思えなかった。
    ディーダンの元に潜り込ませていた間も、手綱はしっかりと握っていた。
    裏切りを思いつく間も機会も与えていなかった。

    しかし、それらは誤りだった。

    (・L_・;)「くそっ!!」

    何もかもが誤算だった。
    ディーダンを招き入れて何を望んでいたのかは知らないが、兎にも角にも、デレシアとヒートの介入、
    そしてシィの裏切りによってサンジェルマン一族が築いてきた何もかもを失うことになった。
    一刻も早くこの場から逃げなければ、ロバートの命も危うい。

    しかし、その前にやることがある。
    自分をここまで追い詰めた者たちに一矢報いなければ、死んでも死にきれない。
    早急な復讐を、ロバートは望んでいた。
    対都市用の棺桶を人間と建物相手に使うのは勿体ない気もするが、今はそれどころではない。

    損得勘定など無意味。
    破壊衝動に身を委ね、ロバートは起動コードを叫ぶが、だがしかし、起動することはなかった。
    代わりに、女性の声で告げられる、非情の言葉。

    『深刻なエラーを確認しました。登録されている音声データと一致しません』

    (・L_・;)「馬鹿な!!」

    発見時に、ロバートは真っ先に自分の音声情報を登録していた。
    それなのに、システムはそれを拒み、否定している。
    焦りで声が変っていたのかもしれないと思い、ロバートは落ち着き払った声と完璧な発音でコードを再入力した。
    先ほどとは異なる返答に、ロバートは血の気が失せる思いをした。

    『深刻なエラーを再度確認しました。登録されている音声データと一致しません。
    同じ音声によって二度入力され、エラーが発生しました。
    再度当該音声による入力を確認した場合、システムを凍結いたします』

    二度に及ぶ入力が失敗したことで、ようやく、ロバートはある可能性に思い至った。
    音声情報が書き換えられている。
    それを行えたのは、ただ一人。
    ダットを密かに持ち出し、情報を書き換えたのは――

    (・L_・;)「シィ……あの女ぁっ……!!」

    * * *

    耳付きと呼ばれる人種は、明らかに人間を凌駕する身体能力を有しており、優れた聴覚を与える動物の耳、人並み外れたバランス感覚を約束する尻尾。
    過酷な環境下でも生命を保護する耐久力、近代アスリートを嘲笑う運動能力など、例を挙げればきりがない。
    確実に言えるのは、一般的な人間の体と比べれば、劣っている部分がないという事だけだ。
    ブーンもまた、耳付きである以上、同年代の子供に比べて全ての身体能力が勝っていた。

    ヒートには聞こえなかった微かな物音を聞き取ったり、暗闇の中ヒートを導いたりと、ここに来るまでの間でそれは幾度も証明されてきた。

    (彡゚:ё:゚>「こっ、ぎっ……!!」

    (#∪´ω`)「……っ……ぅぅっ!!」

    低い唸り声を上げ、ブーンはシィの腕に牙を立てていた。
    子供の噛み技ではない。
    耳付きの少年の、渾身の噛み技だ。
    その威力は――

    (彡゚:ё:゚>「あぎっ!?」

    ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
          //\   .\                                  ∵ ∴‥
         .`´  .| `l.   \                               ∴;・
             ..|  l    \                              ;
             /  l      ヽ―――――――――=              ヽ ̄ ̄二ニ=
            /   l                    {               }
      .,------´    \               ‐- .、.,, '                ;
    ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


    ――腕の骨を噛み砕き、肉を噛み千切るほど。


    シィは突然の痛みと驚きに耐えかねブーンを突き飛ばし、たたらを踏んで後退する。
    ブーンの口から、肉と骨がこぼれ落ちた。
    夥しい量の血がシィの腕から流れ、タラップから滴り落ちる。

    (彡゚:ё:゚>「このっ!!」

    ノハ<、゚ |::,》「ブーン!!」

    シィは銃口を向け、ヒートは名を叫ぶ。
    この局面。
    ブーンは選択と決断に迫られていた。
    つまり、自らの意思で物事を決定する時。

    それはあまりにも唐突で、重要な瞬間。
    ヒートは臍を噛む思いだった。
    ブーンはまだ幼く、未熟だ。
    そんなブーンが求められた選択は、迷って死ぬか、本能のままに生きるか。

    それをこの一瞬で決するには、豊富な経験だけではなく、胆力も必須だった。
    極めて不利な状況だった。
    与えられた時間は、シィが狙いを定め、銃爪を引くまでの一秒未満。
    その中でブーンは、恐らくは人生で最も重要な決断を下さねばならない。

    それは、ブーンがどれだけ成長し、どのように学び、そしてどのように育ったかがここで試される。
    時の流れが速度を落とす。
    焦る思考だけが加速し、ヒートの体は意識するよりも疾く、その身に刻まれた経験に従って動く。

    ;(;∪´ω`);「~~ぅ~~っ!!」

    ノハ<、゚ |::,》「任せろ!!」

    ブーンの決断は、思わず涙腺が緩んで涙が出てしまうほどに誇らしかった。
    あの一瞬で、よくぞ生きる道を選んでくれた。
    よくぞ、この短期間で成長してくれた。
    ブーンのこの選択こそが、ブーンの人生を大きく変える一歩になる事は、間違いない。

    (彡゚:ё:゚>「ちぃっ!!」

    シィが銃口をヒートに向ける。
    ヒートの勧誘が不可能になったために、切り捨てて奪い取る道を選んだのだろう。
    銃声と共に装甲を銃弾が掠めるが、ヒートは銃弾如きで脚が止まるような生き方をしていなかった。
    何時だって、ヒートは前に進んできたのだから。

    ノハ<、゚ |::,》「よくやった、ブーン!!」

    (;∪´ω`)

    その左腕にブーンを抱き、滑り込んで急減速かけ、二人は、シィの真下の壁に激突する前に停止した。

    ノハ<、゚ |::,》「はははっ、偉いぞ、偉いぞ、ブーン!! よく選んだ!!」

    情熱的な頬擦りと抱擁の嵐で、ヒートはブーンを褒め称えた。
    あの状況下で生きる道を選んでくれたことが、ブーンの教育に携わった者として純粋に嬉しかった。

    (彡゚:ё:゚>「……ヒートさん、本当に手を貸してはくれないのですね?」


    ノハ<、:::|::,》「耳に汁でも流しこまれて膿んだかよ? 世界の平和なんて下らないものよりも、愛しいブーンの方が重要なんだよ!!
           万人の笑顔よりもブーンの笑顔の方が価値がある!!」

    (彡::ё::>「……した……私達の夢を……冒涜……よくも冒涜しましたね!!
         よりにもよって……耳付きなんて人ですらない劣等種と比べて!!
         あまつさえ、それよりも劣ると……よくも貶しましたねぇっ!!」

    ヒステリックな掠れ声に、ヒートは獅子の咆哮を思わせる声で応じる。

    ノハ<、:::|::,》「あぁ、冒涜するとも貶すとも!! 平和な世界だぁ? 正義だぁ?
           いらないね、そんなもんいらないね!! 奇麗事に縋って立ち止まる世界なんて、要るもんか!!」

    これ以上の長居は無用と判断したヒートは、ログーラン・ビルからの脱出路を模索した。
    分かっている道は二つだけ。
    ヒート達が使った道と、ロバートの使用したエレベーター。
    現状で使用できるのは、エレベーターだけだ。

    つまり、シィに背を見せる形になるのだが、棺桶は背面からの攻撃に強いという特性がある。
    ヒートのレオンもまた、Bクラスのそれには劣るが、拳銃弾ならば凌げる。
    ただ、動作の保証はない。

    ノハ<、゚ |::,》「よく聞け、シィ!! 手前の!! 夢は!!」

    視線を巡らせながら、ヒートは挑発的な口調で告げる。

    ノハ<、゚ |::,》「反吐よりも臭ぇ」

    その一言で沸点に達したシィが、悲鳴とも怒号ともつかない声を上げる。

    (彡"::Д:">「ヒイイイイイイィィトオオオオオオオオオオォォォォ!!」

    シィが激昂して視野が狭まっている隙に、ヒートはブーンを抱きかかえてエレベーターを目指して疾駆する。
    そして、シィは予想外の行動に出た。



    (彡゚:ё:゚>『そして、大好きだった物も忘れていく!! 私には一つだけ残っているぅっ!!』



    『音声コード入力を確認しました。遠隔操作モードで起動します』



    重低音と共に、沈黙していたハート・ロッカーが機械の産声を上げる。
    これにはヒートも驚きを隠せなかった。
    遠隔起動が可能な棺桶を、ヒートは知らない。
    棺桶は人が背負って使うことが前提とされているため、その必要がないからだ。

    だが、この巨体ならばその機能が搭載されていることも頷ける。
    女性の機械音声が淡々と状況を報告する。

    『不正な人物の搭乗を確認しました。
    指示を』

    (彡゚:ё:゚>「追い出せ!!」

    『命令を受諾しました』

    先ほどロバートが向かった腰と無限軌道の繋ぎ目から、人が文字通り垂直に飛び上がった。
    それは、紛れもなくロバートだった。


    (・L_・;)「ひょっ……?!」


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    宙を舞うロバートの体が巨大な銃声と共に四散したのは、間もなくのことだ。
    ハート・ロッカーの各所には、近接用の武器が仕込まれているのだと、そこで初めて分かる。
    レオンでは、どう足掻いても太刀打ちできない。
    しかし、この狭い空間であの巨体は好き勝手に動けず、性能を発揮できない。

    そこが唯一の突破点だ。

    (彡゚:ё:゚>「眼下の二人を嬲れ!!」

    『命令を受諾しました』

    低い唸りと共に、巨大な腕が動く。
    遥か見仰ぎ見る巨体が動くと云うのは、いざ目の当たりにすると冗談としか思えない光景だった。

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    ____三二ニニ=-‐へ .メ、   ./  /                     / \;;;;;;〉 {   ,:}  / /
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          ,.......::::::::: : : : :/\三二ニ==‐-  __ \ヽ--‐‐…‐‐ノ 乂从厂 ̄ ̄\._,
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    しかし、真横で発生した爆風が、ヒートの体を呆気なく吹き飛ばし、宙空高くに舞い上げ、壁に叩きつけた。
    ブーンを庇って背を強打したヒートの体は、ずるずると力なく壁に沿って落ちた。
    ヘッド・マウント・ディスプレイは砕け、その破片で切ったのか、頬から血が流れ落ちる。
    衝撃で体が痺れて動かず、意思に反して脚は力を失った。

    ノハ;゚⊿゚)「くっ……そっ……」

    (;∪;ω;)「ひ、ヒート……さん……!!」

    悲痛な声を上げ、今にも泣き出しそうな――薄らと涙が浮かんでいた――顔をしたブーンを腕から解放し、ヒートは一つの決断を下した。
    エレベーターまでの距離は、後十五ヤード。
    ヒートが時間を稼げば、ブーンだけでも逃がせる。

    ノハ;゚⊿゚)「ブーン、あそこの扉に――!!」

    (彡゚:ё:゚>「――エレベーターを完全に潰せ!!」

    『命令を受諾しました』

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    ヒートを吹き飛ばした腕の砲塔がエレベーターに向けられ、三連発。
    耳を弄する爆発音が響き渡り、濛々と立ち込める爆煙が晴れると、
    そこにあった筈のエレベーターとその扉は跡形もなく失われ、そこにはただ、黒焦げの金属と空洞があるだけとなった。

    ノハ;゚⊿゚)「あの野郎っ……!!」

    一撃の威力と殺傷範囲が尋常ではない。
    狭い空間で砲を使われると、立ち回りなど意味を持たない。
    足元に行く前に近接用の武器で迎撃されることは必至。
    手は残されていなかった。

    (;∪;ω;)「ヒートさん……!!」

    ブーンがヒートの手を引いて、その空洞に連れて行こうとする。

    (彡゚:ё:゚>「殺せ!!」

    『命令を受諾しました』

    機械音声は勝ち誇ることなく、慢心で気を緩めることなく、もったいぶることもせずに、命令通りに砲弾を機関銃のように撃ち出した。
    その数、十発。
    ヒートはブーンを抱えて砲弾に背を向け、自らの身を盾にした。
    無駄なことは分かっていた。

    あれだけの口径を持つ砲弾なら、体に受けただけでヒートの体は四散する。
    だが、それでも、ヒートの本能はブーンを護ることを選んだ。
    砲声の直後に発生した爆風と爆炎がヒートの背を襲い、凄まじい風圧を感じて――



    ――そして、ヒートの意識は一瞬にして闇に落ちていった。








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    * * *

    シィは赤々とした爆炎がヒート達の姿を被い尽したのを見届けて、安堵のあまりその場に膝を突いてしまった。
    失血量が思いのほか多くなってしまったことと、ヒートが死んだことで気が緩み、彼女に負わされた傷の数々を思い出し、力が抜けてしまったのだ。
    服を破り、それで傷口と二の腕を縛り、止血を行う。

    (彡゚:ё:゚>「ははっ……は…………糞っ……!!」

    意識が朦朧とする中、シィは夢の成就に一歩近づけたことが嬉しく、誇らしかった。
    予定していたレオンの入手に失敗したのは痛手だったが、ハート・ロッカーが在るだけでも上出来だ。
    何はともあれ、彼女は一点を除いて任務を完遂した。
    後は後任の〝同志〟が上手く取り計らうだろう。

    力が入らない足腰に鞭打って、シィはどうにか立ち上がる。
    黒煙が薄れ、煤で汚れた銀色の床が露わになる。
    ヒートと耳付きの少年が跡形もなくなっているのを確認してから、シィはハート・ロッカーを待機状態にすることにした。

    (彡゚:ё:゚>「待機状態に移行」

    『命令を受諾しました。待機状態に移行します』

    何事もなかったかのように、ハート・ロッカーは沈黙する。
    後は地上に逃げ延びれば、警察が保護してくれるだろう。
    全ての元凶は予定通り、ディーダンと云うことになる。
    傷を癒した後、シィは改めて、〝組織〟に迎え入れられることになる。

    思わず口から笑い声が漏れてしまう。
    待ち望んだ瞬間だった。
    ロバートに道具として扱われ、人形のような人生を送ることが決定付けられる直前に逢った、〝組織〟の人間が、彼女の人生を大きく変えた。
    組織の人間は定期的にシィと会い、彼女の悩みを聞き、いつか必ずその悩みも憂いも解消されることを約束し、それの実行にシィが必要だと言ってくれた。



    必要とされることで生を実感したシィは、組織の思想と同志の志に心酔した。
    世界を変える一歩がオセアンとなり、信頼の証としてシィはその大任を帯びる事になった。
    この場から希望と夢の溢れる世界に帰れると思うと、シィは痛みを忘れた。



    (彡゚:ё:゚>「早く、帰ろう……」





    ヒートが力でこじ開けた穴から出ようとして――



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    (<::ー゚::::>三)「あらあら、何処行く英雄狂。
            果たしてどうして背を向ける? 巨悪に背を向け何をする? 正義を果たさず何処へ行く?」



    ――春風のように耳朶を心地よく擽るその声は、教会に響き渡る聖歌のように神々しく涼やかで、雪解け水のようにシィの脳髄に浸透した。
    その声の主の名を、シィは振り返りつつ、忌々しげに口にする。

    (彡゚:ё:゚>「…………デレシアッ……!!」

    ζ(゚ー゚*ζ「はぁい、英雄狂。
          錆びた勇気は持った? 腐った性根は無事かしら? 臭い矜持と醜い正義を失う用意はいい? さぁ、夢は終わり。
          眼を覚ます時間よ」

    蕾のような口を動かし言葉を紡ぎ、刃のような冷ややかな視線を逸らさずに、思わず見惚れてしまう様な可憐な仕草でフードを外し、
    混沌と破滅の運び手であるデレシアが、シィの前にその姿を現した。

    * * *
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    ロバートが使用したエレベーターの昇降路を使って、この階層にロバートと共に訪れていたデレシアは、事の成り行きを昇降路に開けた穴から全て目撃していた。
    別に、デレシアは傍観していたわけではない。
    その気になれば、ブーンが捕えられる前にシィを殺すことも、ロバートがハート・ロッカーに搭乗する前に殺すことも可能だった。
    だが、そうはしなかった。

    代わりに、デレシアはこれをブーンの成長を確かめる絶好の時機と見定め、一つのテストをした。
    それは、ブーンがシィに捕えられ、ロバートが搭乗した時に行われていた。

    ζ(゚、゚*ζ『ブーンちゃん、今すぐに選びなさい』

    昇降路内からの呼びかけを、ブーンの耳は聞き取った。
    声の出所とデレシアの姿を探して首を動かす姿を見ながら、デレシアは続けた。

    ζ(゚、゚*ζ『何もしないで死ぬか、抗って生きるか』

    デレシアの出した究極的な選択に、果たして、ブーンが選んだのは生きる道だった。
    喜ばしい限りだった。
    正直、これはブーンの成長が勝るか、植えつけられた価値観が勝るかの賭けだった。
    腕の肉と骨を噛み千切るとは予想しておらず、ブーンの持つ思わぬ一面を見れるというお釣りまで来る結果となり、デレシアは満足していた。

    今の段階でこれ以上を望むのは強欲だった。
    この結果には、ヒートの存在が大きく貢献しているのは間違いない。

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    ζ(゚、゚*ζ「やっぱり、貴女が事態をややこしくしてたのね」

    道中、デレシアはシィの不可解な行動の意味を考えた。
    いくら考えても、ロバートがディーダンを庇うことに利を見出せなかった。
    つまり、シィは別の思惑で勝手に動いていると考えられた。
    私達、と言っていたことから、組織的な何かが関係している事が想像できた。

    ζ(゚、゚*ζ「貴女達の下らない夢、ここで潰させてもらうわよ」

    (彡゚:ё:゚>「これ以上の殺生はしたくないのですが……」

    ζ(゚、゚*ζ「あら、逃げるの? そうよね、その程度の夢ですものね。
          夢に命を懸けるなんて言葉は幾らでも喋れるけど、重みのない口先だけの夢なんていざ命に関わる状況になると霞むものね」

    (彡゚:ё:゚>『そして、大好きだった物も忘れていく。……私には一つだけ残っている』

    デレシアが観察している中で分かったのは、シィは夢を貶されると感情的になりやすいという事だった。
    その観察結果が正しい事を、シィはハート・ロッカーの起動コードを謳った事で証明した。

    『音声コード入力を確認しました。遠隔操作モードで起動します』

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    直後に大音響の銃声が十回以上に渡って轟き、ハート・ロッカーの頭部に付いていた棒が根元から折れた。
    それによって生じた結果に、シィは瞠目する事となる。

    『入力デバイスが損傷しました。遠隔操作モードを強制終了します』

    (彡゚:ё:゚>「なっ?!」

    デレシアが破壊した棒は一見してアンテナだが、その実は高性能な集音マイクだ。
    厄介な遠隔操作を封じるため、弱点を真っ先に狙い撃ちにするのは当然の行動と言えた。
    両手の大型自動拳銃の弾倉を余裕を持って交換し、続けてシィを挑発する。

    ζ(゚、゚*ζ「ほら、何をしているの? 棺桶持ちなら、自分の棺桶に入って戦いなさいな。
          それとも、自分で戦うのは御嫌い? やっぱり怖いわよね。
          覚悟なんてないわよね。
          絵本と違って痛いものね。あははっ」

    満身創痍の体で、シィはキャットウォークを走り、ハート・ロッカーの搭乗口に向かった。
    ハート・ロッカーには三つの搭乗口がある。
    ロバートの使用した物と、無限軌道の台座の下から入る物。
    そして、背面部から胸部深くに至る物だ。

    そこに潜り込めば、滑空砲の直撃を受けようが炎を浴びせられようが、爆薬を取りつけられようが、
    規格外の装甲と巨体の有利は揺るがず、最も厚い装甲に守られた場所にいるシィを傷つけることは敵わない。
    事実、デレシアの持つ武器の数々では傷一つつけられない。
    弱点である無限軌道も、そう易々とは破壊できない強度を持っている上に、現状では破壊したところで意味がない。

    ハート・ロッカーの両腕に付いた迫撃砲が重々しく動き、シィの声が空気を震わせる。

    (彡゚:曲:゚>「夢を嗤うなぁぁぁぁ!!」

    笑い声の代わりに、デレシアは失笑した。
    傷と失血量から、五分以内の決着がシィに課せられた勝利条件だが、終幕には一分も必要ない。

    ζ(゚、゚*ζ「力の伴わない大夢なんて、妄想と同じよ」

    力なら此処にあると言わんばかりに、シィはデレシアに狙いを定めた。
    デレシアは凪いだ海のように落ち着いた態度と、少女のような無邪気な笑み、そして歌うように軽やかな口調と優雅な仕草で、終わりを告げた。

    ζ(゚、゚*ζ「どうしてその種類の棺桶がそんなに作られなかったか、貴女、考えた事はある?」

    ハート・ロッカーは動かない。
    シィがデレシアの問いに真面目に考えている訳ではなく、それは、決着を意味していた。

    ζ(゚ー゚*ζ「せいぜい、足りない頭と時間で考えなさい」

    デレシアは天井から垂れ下がり、半分千切れたケーブルを見て、薄らと嗤い、両手の拳銃を懐に戻した。
    電源を上から供給する形で保存されていたおかげで、棒状の集音マイクの序にそれを撃ち抜くのは簡単だった。
    地下深くの格納庫で保管するためには、上階から電源を引いてくる必要があり、
    その為には野戦用の堅く柔軟性に欠ける物ではなく、整備用の柔らかい素材で覆われた物を使わざるを得なかった事が、明暗を分けたと言えよう。

    巨体故に使用する電力は尋常ではなく、搭載されているバッテリーは緊急脱出の際に搭乗者を逃がす分を補うので精一杯。
    その貴重なバッテリーを使って搭乗し、砲を動かした事によって、それは瞬く間に底をついたのである。
    第七世代の強化外骨格の開発当初から大型兵器の構想はあったが、生産は数機の内に終わっている。
    その理由が、電力の供給が有線に限られ、可動範囲が限られるという欠点に集約された。

    電源を断てば、後は大きく堅い鉄の塊となり、搭乗者をそこに閉じ込める事が出来る。
    この手を使わなくても勝つ算段はあったが、楽しんでいるような時間は残されていなかった。
    惜しい限りだったが、シィのような人間相手に本気になる必要はなく、手間と時間をかけずに引導を渡す道を選んだ。
    オセアンでデレシアと渡り合える人間はいなかったが、満足させる人間と出逢えただけでも、良しとするべきだろう。




    実りある二日――いや、三日であった。




    ζ(゚ー゚*ζ「よかったわね、それが棺桶で、ここが地下で」




    デレシアの言葉は一言一句余すことなくシィに届いていたが、死に行くシィの悲痛な命乞いの言葉と罵詈雑言はデレシアの耳に届くことはなかった。
    絞り出すような懇願の言葉をシィが呟いた時、デレシアの姿はそこになく、ハート・ロッカーはその名の意味の通り、鎮座しているのであった。





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    第四章 【disintegration-崩壊-】 了
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