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第十章【Ammo for Reknit!!】 + Epilogue

  1. 名前: 歯車の都香 2017/12/05(火) 19:48:23
    第十章【Ammo for Reknit!!】 + Epilogue

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    糸は針を見る。

    針は布を見る。

    布は人を見る。

     

    ――では、人は何を見る?

     

                               ――被服の町、クロジングに伝わる問いかけ。

     

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    ┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻

     

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    人は糸を見る。 己の道筋が正しいか、そして離れて行かないかを見るためだ。

                                 ――過程を重視する人間の答え

     

                    脚本・監督・総指揮・原案【ID:KrI9Lnn70

     

    August 12th  PM11:53

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    それは、第三次世界大戦以来初の出来事だった。

    ティンカーベルの大地が艦隊から砲撃を受け、その轟音で大勢の住民が目を覚ましたことを記憶している島民はいない。

    語り継がれることの無い大昔の話だ。

    かつてこの地が大規模な戦場と化したことは有名だが、その詳細までは残っていない。

     

    戦時中、この島で起きたことを推測するのは思いのほか難しい話ではない。

    今も発見され続ける多くの強化外骨格――通称、棺桶――が激戦と過酷な状況を物語る。

    最新型の棺桶が一度も使われることなくこの島で発掘されるという事は、この島で棺桶が作られ、そして、それが一度も使われることなく戦闘が終結したという事。

    即ち、恐るべき速さで戦闘を終わらせる何かが起きたということに他ならない。

     

    無論、それを知る者も語る者も、この島には誰一人として住んでいない。

    故に、砲声と爆発音の違いを理解できる者もおらず、きっとただの爆発だと考える者がほとんどだった。

    一部の人間は万が一の可能性を考えたが、実際にそれを目にしたわけではないため、誰も行動を起こそうとは考えなかった。

    民間人が考えているのは、もう数分でこの島で起きている問題が全て終わるという事だけ。

     

    爆発音も銃声も、争いを直接見ていない彼らにとってみれば、最後を締めくくる花火のようなもの。

    この爆発を機に全ての事件が終わると考えれば、全く苦にならないどころか、楽しみですらある。

    マスコミは報道開始のカウントダウンを始め、気の早い漁師は漁の準備を始めた。

    もう間もなく、悪夢の夜が終わるのだ。

     

    ――砲撃音を聞いて行動を起こしたのはその島で唯一、ジュスティア軍人達だった。

     

    ジュスティア海軍は軍艦を派遣しているが、決して砲撃をしないようにとの命令が下っていた。

    砲撃は民間人を巻き込みかねないという懸念と、それを使用することによるこれ以上のイメージダウンを避ける意味合いがあった。

    使用可能とされていた武装は機銃のみで、それでも対処できない場合にのみ許可を得て砲撃する手筈になっていた。

    だが、命令は完全に無視され、砲撃は実行されてしまった。

     

    確かに複数の銃声はあったが、その銃声が機銃のそれとは明らかに異なる物だと気付けなかった軍人は皆無だ。

    常日頃から聞いている友軍の銃声を聞き間違えるはずもなく、海軍の面々は即座に連携を取った行動を始めた。

    無論、そこに混乱はなかった。

    規律を重んじる軍人の中でも、海に関係する部隊はより強く規律を重んじる傾向にある。

     

    海上という状況を考えればそれは当然の流れだろう。

    ジュスティア海軍の行動はそういった軍隊の中でも指折りの練度を誇り、行動力を持っている。

    それが単なる誇張でない事が今正に証明された。

    まず艦隊は砲撃を行った友軍の船を数秒で割り出し、即座にその艦に連絡を入れた。

     

    暴走なのか、それとも窮しているのかはまだ分からないためだ。

    やむを得ない状況では砲撃も致し方ないが、その前に何かしらの報告があって然るべきである。

    専用の周波数を用いた無線通信に対する返答はなく、何か緊急事態が発生していると判断した指揮官は二隻の駆逐艦を現場に向かわせることにした。

    海軍大将、ゲイツ・ブームの右腕と呼ばれる人物が決断に要した時間は一秒にも満たなかった。

     

    到着までは約五分。

    その五分が勝負であることは、誰の目にも明らかだ。

    初期動作は完璧だったが、その次の動作が完璧となるかはまだ分からない。

    彼らの行動如何では水泡に帰すことも十分にあり得る。

     

    二隻の駆逐艦を束ねるのは、駆逐艦エイハブの艦長であり、海軍大将の右腕として知られるグルジア・“ストーム”・セプテンバー。

    ジュスティア海軍の中で彼を知らない船乗りはいない。

    グルジアは一隻の船で世界中の海を渡り歩き、海賊を数百人単位で捕まえ、海賊船や武装船を沈めてきた男だ。

    長い戦いを通じて培われた観察眼は伊達ではない。

     

    双眼鏡を覗き込む彼の両眼は、遠く離れた島で輝く炎の揺らめきに胸騒ぎを覚えていた。

    まるで嵐の中心を見るような心地がする。

    あれは彼がまだ新人だった頃、航海中の艦隊が大嵐に巻き込まれたことがあった。

    冬の嵐の事だった。

     

    凍えるような風と潮の中で、彼らは嵐の中心に入ってその巨大さに圧倒され、感動した物だ。

    それは恐怖とも感激とも言える感情で、今も鮮烈に彼の胸に刻まれている。

    砲弾が作り出した炎は間もなく消える事だろう。

    破壊が目的の弾頭で生み出される炎などたかが知れている。

     

    地上の、それも小さな埠頭の近くに向けて放つなど尋常なことではない。

    人間相手ではないだろう。

    となると、強化外骨格を相手にしていると考えるのが普通だ。

    直撃を受ければまずほとんどの棺桶を破壊できるだろうし、破壊を免れたとしても致命傷は避けられない。

     

    堅牢で知られるトゥエンティー・フォーでさえ、装甲が変形して本来の目的を達成できなくなる。

    艦砲は、それほどまでに強力なのだ。

    それを放った真意を推測しなければならないのだが、脱獄犯を見つけたとして、殺すのに果たして砲が必要だったのだろうか。

    その前に機銃による射撃があって然るべきではないだろうか。

     

    であれば、まずは見定めなければならない。

    相手が何者で、何が起きていて、自分はこれから何を相手にしなければならないのかを。

     

    ("゚公゚")「サーチライトを。

         それと、全員完全装備で配置につけ。

         警戒レベルは――」

     

    从´_ゝ从「――最高値、ですね」

     

    ("゚公゚")「頼むぞ」

     

    副艦長のドネル・モーゼスは彼の上司が次に何を言うのかを予期し、その手筈を完璧に進めていた。

    勿論、グルジアは己の右腕が行動していることを予期しており、今口に出したことはあくまでも確認のための一言でしかない。

    月光の下、二人は燻る炭のような赤黒い地点を注視している。

    そこに何が見える訳でもないが、目を逸らすことが出来ない。

     

    恐らく、そこには何かがある。

    予感は最早確信の域に迫っており、そこで目にする何かこそが、この事件の核心部と言ってもいいだろう。

     

    ("゚公゚")「さて、どんな鬼が出るかどうか、見せてもらおうじゃないか」

     

    懐に吊り下げて久しく使っていないベレッタM92が嫌に重く、頼もしげに感じられた。

     

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    人は針を見る。 結果はその後に形となってついてくるからだ。

                      ――手段を重視する人間の答え

     

         総合プロデューサー・アソシエイトプロデューサー・制作担当【ID:KrI9Lnn70

     

    August 12th  PM11:57

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    それは、日付が変わる寸前の二分間で起きた出来事。

    二人の騎士が罪人を前に立ちはだかり、罪人たちが正義を相手に立ち向かうことになったのは。

    一方は激怒を胸に。

    片や絶望を胸に。

     

    火ぶたを切るきっかけになった一言の通り、今、罪人は正義に立ち向かう事となっていた。

     

    ::-=-])『らぁっ!!』

     

    誰よりも先に覚悟を決め、攻撃を仕掛けたのはジュスティアで警官として働いていた経験を持つショボン・パドローネだった。

    本来であれば彼の使用する強化外骨格“ダイ・ハード”の脚部には特徴的な装甲があるのだが、今、それは地面に横たわっていた。

    しかし、彼の強化外骨格は単一の目的に特化した物であり、装甲の喪失など大した問題ではない。

    ダイ・ハードは足を使った戦闘に特化しており、装甲が無くとも、脚部の各箇所に仕込まれた高周波振動発生装置は健在だ。

     

    それが生き延びていれば大概の棺桶との戦闘に耐えられる。

    楯を失っても刃は失っていない。

    戦闘が避けられない状況下で、即時攻撃を選んだショボンの判断は実に的確だった。

    事実、地面を粉砕する程の強い蹴り込みから生み出された加速は人間の動体視力を遥かに凌ぎ、瞬きする間に眼前に迫る程の速度と化し必殺の域にあった。

     

    それでも。

    それでも、だ。

    所詮彼は元警官であり、ジュスティアの誇る最高戦力に匹敵するだけの鍛錬を積んだわけでも、場数を経験したわけでもない。

    余計な柵から解放された騎士相手に、その行動はあまりにも軽率であり、騎士を甘く見過ぎていたとしか言えない行動だった。

     

    仮にその行動が軽率だとしても、誰も彼を責められないだろう。

    彼は今、究極的な選択を迫られていた。

    宿敵と、それを庇う騎士二人が目前にいれば、攻撃する以外に手はない。

    そして彼は、逃亡以外の積極的手段として攻撃を選んだに過ぎず、むしろ勝率を微粒子レベルで上げるための努力をしたと言えるだけ良い。

     

    仮に相手が騎士でなければ、ショボンの選択は最良の結果を導き出せたかもしれない。

    世界の正義を名乗るジュスティアの円卓十二騎士が激怒し、その怨敵を目前にしていなければ、或いは状況は変わったかもしれない。

    だがそうはならなかった。

    そうなるはずがなかった。

     

    世界を大きく二つに分ける時、真っ先に名が挙げられる街の最高戦力が“相手を本気で殺す気”でいれば、元警官が相手になるはずもない。

    十二人の戦力に分散されているとは言え、実力は世界屈指。

    中空で蹴りを繰り出そうとするショボンに対し、怨敵を討つための第一障壁である“ダニー・ザ・ドッグ”は人間離れした反応速度で攻撃を放った。

    それが一手目であり、決定打となった。

     

    `゚益゚似『……っ』

     

    恐らく、ショボンの目にはすでに攻撃を放ち終えたダニー・ザ・ドッグの姿しか映らなかった事だろう。

    全身に高周波振動発生装置を仕込んだ彼の攻撃は、実にシンプルだった。

    左手の手刀によって蹴りをいなしつつ、握り固めた右の裏拳の一撃でダイ・ハードの弱点である装甲の薄いヘルメットを粉砕しただけ。

    表現すれば実に呆気の無い一撃だが、実際は幻を見ている心地の如く、違和感すら覚えることの無い見事な一撃だった。

     

    その衝撃によってショボンは呆気なく気絶し、まるで見えない壁にぶつかったかのように背中から転倒した。

    呪詛はおろか、呻き声さえ上げる余裕はなかったのである。

    残されたのはあまりにも哀れな女が一人。

    無抵抗な子供相手に誘拐を働き続けた、いわば、戦闘とは無縁の女だった。

     

    〔欒゚[::|::]゚〕『マジで……』

     

    <::[-::::,|,:::]

     

    そして、絶望によって呆然とする反射的な隙。

    戦闘に不慣れな人間にありがちな、絶望的な隙を見逃す程、第四騎士のショーン・コネリは優しくはなかった。

    抜刀と踏み込みはほぼ同時に行われ、シュール・ディンケラッカーの目にはまるで彼が瞬間移動をしたかのように映った事だろう。

    肉薄すると同時に閃いた白銀の一閃を最後に、シュールの意識は途絶えた。

     

    その一撃は芸術的なまでに完成され、狙い澄まされた攻撃だった。

    狙われたのはショボンと同じく頭部だった。

    だがジョン・ドゥの頭部の装甲は比較的頑丈で、ただの刀では切断することは敵わない。

    高周波振動を利用した一撃であれば、彼女を一撃で殺すことになる。

     

    無論、ショーンはそれを知っていた。

    知っていて狙ったのは、棺桶の持つ保護能力を超えた一撃。

    長大な刀の背中を使い、的確な角度と速度で最適な位置を殴打したのである。

    頭部への損傷を防ぐためのクッションやサスペンションを無効にするほどの一撃は、シュールの脳を激しく揺さぶり、その意識を遠い彼方へと連れ去った。

     

    ――そして、日付が切り替わった。

     

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    人は布を見る。 過去と現在が布の上で繋がり、そして作品を形にするからだ。

                                  ――今を重視する人間の答え

     

               編集・録音・テキストエフェクトデザイン【ID:KrI9Lnn70

     

    August 13th

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    日付が切り替わってから数十分後。

    静まり返った山の中を、一台のセダンがヘッドライトもつけずに走っていた。

    セダンを運転する男は月光のみを頼りに運転し、カーラジオすらかけず、開け放った窓から流れ込んでくる風の音と虫の声をBGMにしていた。

    男は物憂げであり、不満げだった。

     

    人気のない道を静かに走るセダンの後部座席にはもう一人、同乗者がいた。

    同乗者は拘束具によって自由を奪われた状態で気を失っていた。

    その拘束具はただの拘束具ではなく、ジュスティア警察が凶悪犯逮捕に使用するために“職人の都”に特注した一品だった。

    極めて頑丈かつ軽量で、伸縮性と柔軟性に富んだ素材で作られているため破壊は容易ではない。

     

    腕力に自信のある者でも自力で脱出することは不可能で、強度実験の段階でAクラスの棺桶を使っても突破出来なかった実例が報告されている。

    両腕を胸の前で組んだ状態で大きな布で腕全体を覆い、背中の後ろで固定するという単純な構造だが、効果は極めて高い。

    拘束具を嵌められて抵抗を試みた人間ならば、誰もが一時間以内にそれを理解する。

    そして、警官だった人間であれば誰よりもよく理解しているため、抵抗すらしない。

     

    ジョルジュ・マグナーニは抵抗する素振りすら見せず、申し訳なさ程度のクッション性を持った座席の上に静かに横たわっている。

    彼は拘束具に加えて口に猿轡をかまされ、言葉を発することの一切を禁止され、目隠しとヘッドフォンによって視覚と聴覚も奪われていた。

    猿轡は余計な言葉――罵詈雑言は勿論、強化外骨格の起動コードなど――を口にさせないため。

    目隠しは己の周囲にある物を見せず、時間の流れも悟らせないため。

     

    絶えず不協和音を奏でるヘッドフォンは周囲の状況の一切を知覚させず、思考を妨害するため。

    五感の内触覚と嗅覚以外を奪われた場合、人間は周囲の状況を推測することが極めて難しくなる。

    尤も、気絶している人間にそのような事を気にしても仕方がないが、相手が相手であるため油断は出来ない。

    ジョルジュと言えばジュスティアの暗部を知り尽くした人間であり、あまりにも多くを知りすぎている。

     

    ひょっとしたら、誰も知らないだけでこの拘束具の欠点を知っているかもしれないのだ。

    倫理観を無視した行動を平気でする人間である以上、悪質な手段を取られかねない。

    運転手は例えこの男が目を覚まして排泄を所望したとしても、それに応じるつもりは断じてなかった。

    車内で垂れ流しにして、屈辱を味わってもらうだけだ。

     

    ジョルジュの折れた肋骨では自力で脱獄など到底不可能だが、一切の油断も慈悲もない対応がされ、それが弱められる予定は何があろうとも一切ない。

    このまま彼を警察に引き渡せば、待っているのは暗い未来だけである。

    汚れ仕事を多く処理してきた彼の存在が公とならないように内々に処分し、闇に葬り去らなければならない。

    ただでさえ元警官が大きな犯罪に関わったというのに、また新たな警官が――それも公に出来ない仕事ばかりをしてきた――事件を起こしたとなると、大きな問題になってしまう。

     

    ジュスティア警察の考え方を考慮すれば、間違いなく、事故に見せかけた獄中死が待っている事だろう。

    だが彼を逮捕したトラギコ・マウンテンライトは、この先に待っている未来とは違った考え方を持っていた。

    ここで殺すのは極めて簡単な選択だ。

    そうすれば永久に闇に葬る事が出来るし、妻帯者でないジョルジュが死んだところで真相究明に誰かが動き出すこともない。

     

    しかしそこで話は終わってしまう。

    終わってしまえば、そこまでなのだ。

    話を終わらせるのであれば誰にでも出来る。

    それこそ、素人の屑人間でも、だ。

     

    世界を股にかける巨大な秘密結社の断片であり、手がかりとなる人間を殺すなど言語道断である。

    徹底的に尋問し、薬物を使用してでも情報を引き出さなければならない。

    多くの街の深部にまで入り込んでいる組織の情報が持つ価値は計り知れず、今後起こる事件を未然に防ぐために役立つかもしれない。

    その重要性にジュスティア警察は勿論、街の上層部がどこまで気付き、トラギコに協力するか。

     

    トラギコの言葉だけでは絶対に協力は得られないのは間違いない。

    これまでに彼が行ってきた命令違反、規定違反などを考えれば信用はないに等しい。

    それでも、完全に孤立無援と言うわけではなく、幸いなことにジュスティア内部に理解者がいた。

    社会的信用を持つ人間の理解があれば、トラギコの言葉も上層部の耳に届くはずだ。

     

    島に来ている二人の騎士。

    彼らは今、トラギコに協力的な姿勢を見せ、事件解決のために協力まで買って出たのだ。

    その発端は、セカンドロックでライダル・ヅーが殺された直後に遡る。

    激昂するショーン・コネリに対してトラギコは当たり前のことを告げ、単独で行動しようとしていた。

     

    (=゚д゚)「……なら、俺から一つアドバイスしてやるラギ。

        馬鹿なことは考えずに、この後に誰がどう動くのかをよく見ておくんだな。

        そうすりゃ、戦うべき相手が見えるはずラギ」

     

    トラギコの歩みを事前に引き留めたのは、ダニー・エクストプラズマンの人工声帯を通じて発せられた声だった。

     

    <_プー゚)フ『……戦うべき相手について知っているんだな?』

     

    (=゚д゚)「あ? あぁ、そりゃあな」

     

    意外な人物からの声かけに、トラギコは思わず足を止めていた。

    これがショーン・コネリであれば、黙殺したまま復讐を果たすために歩き続けていた事だろう。

    彼との問答で時間を使える程、今、トラギコには余裕がなかった。

     

    <_プー゚)フ『余計な問答をしている時間はない、という前提で話をする。

            単刀直入に言う、お前に手を貸す。

            だから、俺に手を貸せ』

     

    願ってもない協力の要請だった。

    正直、この状況下でこの申し出は非常にありがたい。

     

    (´・_`)「……悔しいが、俺達には情報が不足している。

        お前の力を借りる他ない。

        俺もエクストと同じだ」

     

    この申し出が事態好転のきっかけとなる事は間違いない。

    戦力としては心強い連中だが、事件を調べるにはいささか灰汁が強すぎる。

    しかしその強い灰汁も場合によっては強力な武器となる。

    使い方次第では、相手に一杯喰わせてやることが出来るだけでなく、トラギコの目的達成にも一役買える。

     

    (=゚д゚)「なら、デレシアを探せ。 そうすりゃ、何かがどうにかなる。

        俺は別で動くラギ」

     

    トラギコが事件解決のための鍵を知ると勘付き、協力を申し出た彼らに対してトラギコが告げたのはデレシアの捜索だった。

    嵐の全貌を見たければ嵐の中心を見ればいい。

    彼等もデレシアの面貌は知っており、その強さ、神秘性も経験済みという前提があるからこそ説得力を帯びる一言。

    その重要さには彼らも気づいていたようで、トラギコにその理由を訊こうとはしなかった。

     

    (´・_`)「……あの女、やはり只者ではないということか」

     

    (=゚д゚)「あぁ。 分かってるとは思うが、絶対にあの女に手を出すなよ。

        腕が食いちぎられるだけじゃ済まないラギ。

        それに、俺の獲物ラギ」

     

    デレシアはいわば自然災害のような物だ。

    下手に手を出せばこちらがやられる。

    落ち着いて機を窺い、然るべき時に捕まえるしかない。

     

    <_プー゚)フ『合流して援護すればいいのか?』

     

    (=゚д゚)「援護じゃねぇ。 そもそも、あの女に援護はいらねぇラギ。

        ただ、あの女を狙って出てくる輩か、あの女が狙ってる輩を横取りすればいいラギ」

     

    彼女の動くところに何かがある。

    今、この島で単独行動をしているであろう彼女を見つけ出せば、必ず有益な発見がある。

    それを奪い取れば、貴重な情報源をこちらの手中に収めることができる。

    これがこちらの手を離れて絡み合った糸を取り戻す最善の手であり、円卓十二騎士を有効活用できる唯一の手段だとトラギコは判断した。

     

    ジュスティア軍と警察が島から撤収を始める前に、集められる物を集めなければ今後一切チャンスを失っても不思議ではないのだ。

    協力してもらう以上、老婆心ながら、トラギコは最後に一つだけ彼らに忠告をすることにした。

     

    (=゚д゚)「それと、一つ忠告だけしておいてやるラギ。

        裏切り者を探そうとするなよ、今はまだな」

     

    今度こそ、トラギコはその場を立ち去ることにした。

    もう声がかけられることはなかったが、彼らならひどいことにはならないはずだ。

    繊細さを求めるような依頼でなければ、後は、彼らが持つ力と正義感を存分に発揮してもらえばいい。

    自分自身で動きたいのもやまやまだが、彼の持つ装備ではショボン達と戦う事は出来ても、勝つことは出来ない。

     

    ならば復讐に燃える騎士たちに任せておけば、全力で対処をしてくれるはず。

    特に、戦闘に関しては彼らの方がトラギコよりも優れている。

    事件解決には不慣れでも、戦う事だけ任せておけばどうにでもなる。

    そしてその狙いは見事に成功し、こうして、ジョルジュを捕えることに成功した。

     

    ――島の反対側から聞こえてきた砲撃音が何を意味しているのかは分からないが、十中八九デレシアが関係しているだろう。

    だが、彼等の行動力があれば今頃はデレシアと合流し、臨機応変な対応をしてくれるに違いない。

    そして首尾よく事態が動けば、予定通りショボン・パドローネとシュール・ディンケラッカーを捕まえている事だろう。

    いずれにしても悪い方向に転ぶとは考えにくい。

     

    トラギコは自分のやるべきことに専念し、そちらの方については結果が出てから考えることにした。

    考えるべきはジョルジュについてだった。

    僅かだが憧れを抱いたことのある男の堕落した姿に、トラギコは深く落胆していた。

    このようにして逮捕するとは、極めて残念な話だ。

     

    分かっていても、溜息が漏れ出る。

    警察の汚れ仕事を引き受けてでも彼の信じる正義を果たし続けていた男が、今では、混沌の根源と化してしまった。

    何が彼をそうさせたのか、断片ではあるが聞く事が出来たのがせめてもの慰めだ。

    恐らく彼は、トラギコと同じ物を追っていた。

     

    即ち、秘密のベールに覆われた旅人の正体。

    デレシアと名乗る旅人について、ジョルジュはその正体を知りたければ自分に協力しろと交渉してきた。

    それは、彼もまたデレシアについて調べている事を意味しており、それが警察を裏切る理由の一つになったと考える他なかった。

    優れた警官だった男と言う背景を考えれば、何故彼女について調べているのか、想像するのは難くない。

     

    ジョルジュも彼女の背景に興味を持ち、己の手で解決するべき事件であると判断したのだ。

    その為だけかは分からないが、少なくとも、昔からデレシアに執着しているのは間違いない。

    一体どれほど昔からデレシアについて調べているのか、それが気になるところだ。

    そしてその切掛けについて知る事が出来れば、トラギコは少しではあるがデレシアの素性に近づく事が出来る。

     

    こうして考えてみると、結局、多くの謎がデレシアへと帰結してしまう。

    まるで堂々巡りだ。

    彼女の周囲にある謎にかかわると、デレシアへと至り、そこで打ち止めになり、再び謎が生まれる。

    安易な気持ちで取り掛かるのではなく、これまでよりも慎重に調べて行かなければならない。

     

    今、トラギコは一本のか細い糸を握っていた。

    それは手を離れたとしても気付かない程細く、軽く、本当にあるのかさえ不安になる程だ。

    デレシアとトラギコを繋ぐのは、貸し借りと言う極めて不確かな糸。

    糸を手繰れば相手に繋がるかもしれないが、手繰れないかもしれない、そんな糸。

     

    貸し借りの大きさで言えば、間違いなくトラギコはデレシアへの借りの方が大きい。

    彼女に貸しを一つでも二つでも作っておけば何らかの繋がりになるという打算も込みで、騎士たちを彼女の元に向かわせた。

    これで少しはデレシアに貸しを返せたはずだ。

    彼女にとっては余計な助力かも知れないが、それでも、これが繋がりとなってくれることをトラギコは心のどこかで望んでいた。

     

    容疑者の力に頼ることになったのは極めて遺憾だが、それでも、プライドで事件が解決する程世の中は上手くできていない。

    力にはより強力な力を持って対処しなければならない時もある。

    彼女はこの世界の各地に強力なコネを持ち、比類なき戦闘力も有している。

    そんな彼女と数度のやり取りを持てば、繋がりのような物が生まれるのではないかという僅かな期待があった。

     

    それは恋する思春期のような気持ちであり、トラギコにとっては極めて不慣れな感情でもあった。

    しかし、これしか手段がないのだ。

    あの正体不明の女に繋がるためには、何だってやるしかない。

    きっとジョルジュもそんな考えで警察を捨てたのかもしれない。

     

    だがトラギコは違う。

    デレシアを追うあまり本質を見失うことはしない。

    本質はデレシアを逮捕することで、彼女の秘密を暴く事ではない。

    まずは彼女の周囲に現れる犯罪者を捕まえ、雑草を処理しつつ、その正体を知らなければならない。

     

    自分が相手にしようとしている人間は果たして、何者なのか。

    それが分かって初めて、逮捕するための算段が立つのだ。

    そこまで手間をかけなければならない犯罪者は、これまでに見たことも聞いたこともなかった。

    それだけに、今さらながら自分の勘が恐ろしくなりつつあった。

     

    直感のような物でトラギコはデレシアを生涯最後の獲物に相応しいと考えたが、どうやらそれは大いに的中し、同時に大いなる困難をトラギコにもたらしてくれた。

    オアシズで起きた一連の事件は、結局迷宮入りとして処理されたそうだが、トラギコはそれを皮切りにしてデレシアを追い詰めようとした。

    それがそもそもの始まりだった。

    今では世界中に影響力を持つと推測される秘密結社の存在を知り、巻き込まれることになった。

     

    ふと、背筋に冷たいものが走る。

    まさか、デレシアはここまで見越していたのだろうか。

    幾度も殺そうと思えば出来たはずだ。

    それをしなかったのは、トラギコをここまで引きずり込むためだったのか。

     

    時間を追うごとにデレシアに対する気持ちが膨らみ、トラギコは目の前に転がるジョルジュの甘言に乗らなかった自分に称賛を送った。

    一歩間違えれば自分がこうなっていたのかもしれないと思うと、ぞっとする。

    静かなドライブが続き、尾行車もないまま、二人を乗せたセダンは港の方へとやって来た。

    市街地でようやくライトを点けたトラギコは、エラルテ記念病院へと向かった。

     

    事態を今どのようにして収束させようとしているのか。

    そして、上層部に紛れ込んでいる裏切り者の目星をつけるための仕込みをするため、トラギコはあえてその場所を目指した。

    本来であればトラギコは今頃ジュスティアへと連行されていることになっており、ここにいてはならない存在だ。

    誰が指示したのか、下準備をしたのかまで明白ではあるが、それを知らない体で戻るのだから極めて危険な賭けでもある。

     

    恐らくは、ベルベット・オールスターは警察内に紛れ込んだ秘密結社の細胞だ。

    彼がトラギコの抹殺を企て、デミタスが円卓十二騎士の棺桶から電力を奪い取るための下地を整えた人間で間違いないだろう。

    全ての状況がそう言っているのだ。

    このままトラギコが死に、円卓十二騎士もデミタスによって殺されていたら、全ては闇の中に葬り去られていたはずだ。

     

    ヅーの奮闘とトラギコの抵抗が無かったら、否、デレシアとの出会いでトラギコが変わり、トラギコとの出会いでヅーが変わっていなければそうなっていた。

    これでも最悪の結果は回避できたことになる。

    後はこれからの動き次第でその結果が生きてくるはずだ。

    決して無駄には出来ない。

     

    (=゚д゚)「さて、いっちょやるか」

     

    車から降り、後部座席からジョルジュを担ぎ上げてトラギコは病院へと足を踏み入れた。

    懐のM8000は安全装置が解除されていた。

    待っているのは最低の待遇か、それとも、最高の待遇か。

    あまり期待することなく、いつでも拳銃を抜けるようにだけしてトラギコは重い足取りで病院の扉を開いた。

     

    ――待っていたのはある意味で最高の待遇だった。

     

    白い湯気の立つコーヒーが出され、冷めてはいたがアップルパイまで出された。

    勿論、トラギコはそれらを一口も口にはしなかった。

    何が盛られているか分かった物ではない。

    毒身をさせたとしても、毒を盛る位置に工夫がされていたら意味がない。

     

    ジョルジュは即座に仮設勾留所に運ばれ、患者用を拘束するためのベッドに拘束具ごと括り付けられた。

    そこから二部屋離れた場所に、トラギコの姿があった。

    そして、ベルベットの姿もあったが、歓迎している空気は一切なかった。

    病院でトラギコにベルベットが投げかけた質問が再度され、トラギコは同じ答えを返したのであった。

     

    (=゚д゚)「車が事故ってな、俺だけ放り出されたラギ」

     

    それが嘘であると立証が出来ない以上、ベルベットがいくらトラギコに圧力をかけても意味がない。

    まさか自分が送り込んだ暗殺チームが失敗に終わったとは、口が裂けても言えないはず。

    案の定、それ以上その話題についてベルベットが触れることはなかった。

     

    ( ><)「……では、トラギコさん、別の質問に答えてください」

     

    (=゚д゚)「あ?」

     

    本題が来た。

    トラギコの生存よりも相手にとって厄介な問題。

    今すぐにでも解決したいのは、こちらの方だ。

     

    ( ><)「我々は憶測で人を逮捕できません。

         ジョルジュさんが何の罪を犯したというのですか?」

     

    この島でジョルジュが行ったのは戦闘行為だが、それを正当防衛だと言い張れば罪にはならない。

    恐らく、ベルベットはその主張を受け入れて事を穏便に済ませるつもりなのだ。

    円卓十二騎士との戦闘も、緊張状態が産んだ誤解だと言い張る気に違いない。

     

    (=゚д゚)「誰も殺してないし、攻撃していないと?」

     

    ( ><)「目撃者も証拠もないんじゃ、裁判のしようもないんです!!」

     

    もし目撃者がいると言ったとしても、トラギコの息のかかった人間では意味がない、と言うだろう。

    流石は報道担当者だ。

    やることが実に狡い。

     

    ( ><)「被害者がいないんじゃ、事件とは呼べないんです。

         すぐに治療を受けさせて、それから釈放するんです」

     

    情報管理については得意なのだろうが、まだまだ青さが抜けきっていない。

    これがこの男の弱点だ。

    ジョルジュを追う段階以前に、トラギコは考え続けてきた事があった。

    世界中に根を張り巡らせながらもその全貌が分からない相手と戦うには、どうしたらいいのか。

     

    どこに根があるのかも分からない相手だが、それ故に、付け入る隙がある。

    だから策を練り、保険をかけておいた。

    真実を言葉ではない形で残せば、言い逃れは決して出来ない。

     

    (=゚д゚)「……誰が殺人やら暴行罪で逮捕したって言ったラギ?」

     

    ( ><)「……え?」

     

    (=゚д゚)「こいつは、野生動物を殺したラギ。

        しかも、狼を二匹だ」

     

    殺人、暴行が駄目なら別の罪で捕まえればいい。

    警察官であれば誰もが使う手だ。

    この男が現場経験をほとんど積んでいない事は明白だ。

    故にこの手に対して、彼は脊髄反射的な反論をしてしまう。

     

    それが罠だとは気付かないままに。

     

    ( ><)「証拠はあるんですか?

         それがないと、ただの言いがかりなんです!!」

     

    (=゚д゚)「証拠だぁ?

        あるに決まってるだろ」

     

    ( ><)「言っておきますけど、トラギコさんの目撃証言では意味がないんです!」

     

    発想が実に貧相だ。

    目撃証言だけで事件を立証することが難しいのは、五年以上現場にいる人間なら誰でも一度は経験する。

    温室でぬくぬくと育ってきた人間には決して分からないだろう。

    事件にならない事件を追う人間の口惜しさなど、一生分かるはずもない。

     

    (=゚д゚)「勿論、俺以外の人間で尚且つ絶対公平な証拠ラギ」

     

    そう言って、トラギコは動かぬ証拠をベルベットに見せつけた。

    それは――

     

    (;><)「フィ、フィルム……?!」

     

    (=゚д゚)「ここにばっちり写ってるラギ。

        ジョルジュが狼を撃ち殺してるところがよ」

     

    ――スクープと真実を追う、とある男の手柄だった。

     

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    人は己の指を見る。 針と布を持つ指が失われれば、布は不完全なものになるからだ。

                                  ――己の保身を重視する人間の答え

     

          撮影監督・美術監督・美術設定・ビジュアルコーディネート【ID:KrI9Lnn70

     

    August 13th

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    トラギコが切り札をベルベットに突きつけた時、アサピー・ポストマンは徒歩で道路を伝って山を下っている最中だった。

    脚は疲労感から動かすのも面倒になっていたが、歩かなければならない理由があった。

    本当であればトラギコの車に乗って街に戻れたはずだったのだ。

    だが現実は非情であり、アサピーは自力で戻るほかなかった。

     

    状況判断をすれば確かにこれが最善だが、トランクに入れて途中まで運んでもらえるだけでもいいのにとは言えなかった自分が憎い。

     

    ;-@@)「あー、寒い……」

     

    ――ジェイル島にトラギコが向かってから、アサピーは言われた通り徒歩で安全で尚且つトラギコと合流しやすそうな場所を探していた。

    そうしている内にアサピーは狼と遭遇し、追い立てられることとなった。

    唸り声と跫音から逃げている間、アサピーは死に物狂いで山を駆ける事となった。

    日ごろの運動不足が嘘のように足取りが軽く、息苦しさなど忘れてしまっていた。

     

    どうやらここ数日でトラギコにこき使われたことで体力が付いたのかもしれないと、内心で感謝することになったのは大分後の事である。

    追われている間生きた心地がしなかったが、いつまでも狼が襲い掛かってこないことに不信感を抱いたが、次第に自分がどこかに誘導されているのだとは気付かなかった。

    いつの間にか狼達が消えたことに安堵しつつ、アサピーはとにかく一分でも早く道路に出て街を目指すことにした。

    無意識の内にカメラを両手で構えながら山中を移動していると、一台のセダンが眼下の道路で停まるのを目撃した。

     

    この状況で走るセダンは極めて怪しく、スクープの匂いを彼の嗅覚が嗅ぎ付けた。

    本能に従ってアサピーが茂みに隠れて様子を見下ろしていると、男が一人車から降りて来た。

    フロントライトに照らし出された男の顔は、ジョルジュ・マグナーニに相違なかった。

    間違いなくスクープだと判断し、彼の一挙手一投足を見守ることにした。

     

    ライトが照らし出す倒木の前に立ち止まり、そして、行動を起こす。

    奇しくもジョルジュがライトを背にしているため、その顔は逆光で黒く影ってしまっている。

    だが焦りは感じなかった。

     

    Go ahead. Make my day

     

    棺桶の起動コードを耳にしたとき、アサピーの指はカメラの設定を変更して夜間撮影に最適な物に切り替え終えていた。

    逆光ではあるが、アサピーの予想では、フラッシュは不要だった。

    それを証明するかのように、爆発音に聞き間違うほどの銃声が四度鳴り響く。

    シャッターボタンは四度押された後だった。

     

    発砲炎が彼の顔を照らし出し、アサピーは銃声ではなくその光を事前に読み取ってシャッターを切ったのだ。

    望遠レンズの向こうに映る影の動きを見て、次にいつ銃爪を引くかを予想する。

    タイミングを逃せば光は失われ、暗闇だけがフィルムに写ることになる。

    興奮する気持ちを落ち着かせ、手ぶれの無いようにしっかりと両脇を締め上げる。

     

    ;-@@)「……っ」

     

    かつてジュスティア警察で活躍し、その破天荒な行動から多くの敵を産んだ警察のダーク・ヒーロー。

    彼が対応した事件の多くは彼抜きでは迷宮入りしたと言われ、実力の高さも相まって一時期は彼の信仰者のような警官が生まれ、犯罪者の射殺率が上昇したこともあった。

    その男が銃を構えている姿は、彼の事を詳しく知らない人間でも魅了されるぐらい美しかった。

    まるで無駄がなく、そうある事が自然であるかのような芸術的な姿。

     

    そんな彼を前にして胸が高鳴らないカメラマンはいない。

    多分に漏れず、アサピーも胸の高鳴りを押さえきれずにいた。

    歩けば問題が起き、動けば事件が解決するとさえ言われた男。

     

    ;-@@)「おっ……?!」

     

    思わず声を出しかけたのは、後部座席からするりと現れ、立ち去る女の姿を目視したからだ。

    その妖艶な姿と肉食獣を思わせる静かな歩き方を見紛うはずもない。

    快楽殺人鬼、ワタナベ・ビルケンシュトックだ。

    と言う事は、ジョルジュはワタナベと同じ組織の人間として今活動している。

     

    この状況は、正に千載一遇のチャンスだった。

    何が起きてもおかしくはないし、何かが起きなくてはおかしい状況。

    呼吸を意図的に浅くし、極限まで集中力を高める。

    それから間もなく怒号が山に響き、黒い影がジョルジュの周囲に現れた。

     

    あまりの速さにアサピーはその正体を視認することが出来なかったが、予測は簡単についた。

    あれは、狼だ。

    タイミング的に、アサピーを追い立てた狼と見て間違いない。

    円を描くようにして静かに移動をする狼達は今、ジョルジュを獲物と定めて狩りを始めようとしていた。

     

    ここで助けるのも一つの選択だが、アサピーはその選択を選ぶ気はなかった。

    助けてしまえば折角のスクープ写真が撮れない。

    やがて、ジョルジュが動いた。

    襲い来る狼に向けて銃を構え、そして――

     

    ――車が嘘のように吹き飛び、ジョルジュがそれに巻き込まれたのを目撃した時、アサピーは絶句した。

    何が起きたのか、第三者の視点から見ている彼でさえまるで分からなかった。

    いや、それ以前に狼の群れがどのようにして車を吹き飛ばしたのか。

    狼の群れを率いる何者かがいるということなのか。

     

    今から、あらゆる瞬間がシャッターチャンスとなり得る時間となる。

    先ほど以上に集中力を必要とし、瞬きさえ禁じなければならない程の緊張状態が生まれていた。

    フィルムの残り枚数は二十枚。

    シャッターチャンスは二十回であり、それ以上はないと考えなければならない。

     

    アングルを考慮し、移動するべきかと考えたが、それは一瞬の内に否定した。

    顔が見える角度で見下ろすというだけでもかなりの好立地なのだ。

    欲を張りすぎてはいけない。

    レンズを通して見える世界を切り取り、そこに全てを収めきるのだ。

     

    何も真実全てを収める必要はない。

    必要なのは、切り取られた真実であり、効果的かつインパクトのある真実なのだ。

    カメラマンの仕事とは真実を伝える事ではなく、真実から切り取られた真実を生み出すことなのだ。

    彼が狼に襲われて反撃している真実ではなく、彼が狼に食い殺されるか、狼を撃ち殺すという真実さえあればいい。

     

    それを記事にすれば、アサピーはスクープを手にすることになる。

    しかも、今この島を騒がせている人間達の一味だという事を考えれば、嫌がらせとしてその効果は極めて高いだろう。

    そして巣から出てくれれば、大きなスクープがアサピーに手柄となる。

    息を呑み、指に汗がにじむ。

     

    突如として訪れた静寂。

    その静寂は極めて短く、コンマ数秒の世界だった。

    だがそれで十分だった。

    アサピーはその静寂の意味を理解しており、彼の人差し指と親指は脳が信号を発するよりも早く動いていた。

     

    銃声とシャッターはほぼ同時。

    アサピーは夢中でシャッターを切り、巻き、そしてまた一枚とジョルジュの姿を写真に収める。

    狼が二匹撃ち殺された瞬間は一寸の狂いもなく撮影された。

    やがて、怒りが頂点に達したジョルジュによって車が殴り飛ばされて森の中へと消え去った。

      _

    (#゚∀゚)「耳付きが俺に喧嘩を売るっていうんなら、容赦はしねぇ!!」

     

    ジョルジュの怒号。

    耳付きの登場という予想外の展開に、アサピーは夢中でシャッターを切った。

    仁王立ちになり、両手に銃を構える姿が月光に照らされ、幻想的な姿を現す。

    月下のガンマン、という言葉が脳裏によぎった時にはシャッターが切られていた。

     

    風が吹き、不気味な静けさが辺りを包む。

    一瞬の間に十発の連射行われ、辺りが一瞬真昼の明るさに包まれた。

    アサピーは俯瞰した位置から全てを見ていたが、分かったのは、黒い影がジョルジュの銃撃を全て回避し、一撃で倒したことだけだった。

    そして、影と狼はその場から何事もなかったかのように消えた。

     

    狼の死体も消えていた。

    嵐が去った後でも、アサピーはその場から動かなかった。

    ジョルジュはまだ生きている。

    僅かに動く彼の体を見て、アサピーは迂闊に動かないで時間が過ぎるのを待った方が得策だと感じた。

     

    やがて、一台の車が近付いてくる音が聞こえてきた。

    ジョルジュの仲間だろうか。

    セダンがジョルジュの前に止まり、そこから降りて来た男の姿を見てアサピーはようやく安堵した。

    トラギコだ。

     

    何事かをジョルジュに話しかけ、そして、手錠をかけた。

    それを確認してから、アサピーはトラギコの元へと駆け寄った。

     

    ;-@@)「トラギコさん!!」

     

    (=゚д゚)「よう。 こんなとこで何してんだ?」

     

    気のせいか、トラギコの顔に疲労が窺えた。

    元から目つきが鋭いのもあるが、それがいつにも増して鋭くなっている。

    気が立っているのだろうか。

     

    ;-@@)「トラギコさんが徒歩で帰れって言ったんでしょ!!」

     

    (=゚д゚)「……忘れたラギ。 それより、お前写真撮ったラギ?」

     

    首から下がったカメラを指さされ、アサピーは頷いた。

     

    ;-@@)「ま、まぁ、スクープになりそうだったから撮りましたけど……」

     

    (=゚д゚)「どんなのを撮った?」

     

    -@@)「ジョルジュ・マグナーニが狼に襲われて、狼を撃ち殺したところです。

          あ、後はジョルジュを倒した人間との戦闘ぐらいですが、そっちは撮れてる自信がないです」

     

    (=゚д゚)「よし、フィルムを寄越せ」

     

    ;-@@)「ちょっ!! 何でですか!?」

     

    (=゚д゚)「お前が使うよりも俺が使った方が意味があるからだよ。

        代わりにスクープのネタを一つやるよ」

     

    -@@)「マジですか!!」

     

    その言葉を聞いて、アサピーは嬉々としてフィルムを手渡した。

    ケースに入れたフィルムを懐に入れ、トラギコは親指で山の向こう側を指し示した。

     

    (=゚д゚)「さっき砲撃音があっただろ?

        あそこに、ショボン達がいるはずラギ。

        逮捕されたら間違いなく街に連れて行くから、それを撮っておくといいラギ」

     

    つまり、秘密裏に逮捕された人間が運び出される瞬間を独占できるという事。

    情報を持たない他社に先んじることが出来る。

    さっさとセダンに乗ろうとしたアサピーの肩をトラギコが掴んだ。

     

    (=゚д゚)「駄目ラギ。 お前は徒歩ラギ」

     

    ;-@@)「え?! 何でですか?!」

     

    (=゚д゚)「俺はあっちこっちから狙われているラギ。

        知ってるだろ? そこにお前を巻き込みたくねぇんだ」

     

    ;-@@)「まぁ、そうですね……」

     

    こうしてジョルジュを捕まえたとなれば、更にその危険性は高くなる。

    戦闘能力のないアサピーがいたとことで、トラギコの足手まといになるだけだ。

     

    (=゚д゚)「だから、お前は徒歩だ」

     

    結局、アサピーは走り去るトラギコを見送り、肩を落として街へと歩き始めたのだった。

     

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    人が見るのは結果だけ。 過程など、見てはいないのだ。

                   ――結果を重視する人間の答え

     

         総作画監督・脳内キャラクターデザイン・グラフィックデザイン【ID:KrI9Lnn70

                撮影・演出・音響・衣装・演技指導・編集【ID:KrI9Lnn70

     

    August 13th AM07:05

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    八月十三日。

    キュート・ウルヴァリンは朝食としてカリカリに焼いたベーコンとスクランブルエッグ、分厚いトーストとサラダの朝食に舌鼓を打っていた。

    トーストにこれでもかと濃厚なバターを塗り、サラダにはシーザードレッシングを浸るぐらいかけた。

    朝食は一日の活動を左右する重要な要素だと彼女は考えていた。

     

    例え彼女達にとって事態がよくない方向に進んでいるとしても、それは変わらない。

    状況など知った事ではない。

    まずは食事。

    それから行動である。

     

    ジュスティア警察に与えられたホテルのスイートルームで彼女は事態の悪化を耳にしても焦る様子も見せず、食事を続けた。

    デザートのヨーグルトを平らげ、砂糖がたっぷりと入ったコーヒーで食事を締めくくる。

    紙ナプキンで口元を拭い、それを皿の隣に綺麗に折りたたんで置く。

     

    o*゚-゚)o「……さて」

     

    彼女はラジオの人気パーソナリティとしての肩書を持ち、その甲斐あって今回ジュスティア警察が立案した作戦に急きょ参加することが決まった。

    勿論、それは事前に用意されていた保険があったからこその展開であり、彼女が保険としてこの島に滞在していなければ事態の修復は不可能となっただろう。

    だがその人気故に彼女は副業に追われ、本業に力を入れることが難しい立場だった。

    彼女の部屋には本業と副業で使う原稿や資料が散乱しており、床に落ちている物に関しては全て暗記されていた。

     

    そうしなければどちらの仕事も回らなくなってしまうのが、彼女の立場だ。

    本業のあまりにも唐突な作戦の変更に、だがしかし、彼女は不満を感じることはなかった。

    往々にして臨機応変な対応が求められるのが実戦。

    予定通りに全てが進行している時にこそ疑い、備えるべきだということをよく理解していた。

     

    何より、保険として動くことを志願したのも、立案したのも彼女なのだ。

    何もかもが上手くいっていれば、デレシア一行とトラギコ・マウンテンライトはこの島に到着した日に死んでいたはずなのだが、それが失敗。

    続く追撃も交わされ、遂にはジュスティア警察の高官にティンバーランドの存在が察知される事態へと悪化した。

    作戦は変わらざるを得ず、警察の高官には速やかかつ自然な死が求められた。

     

    こうして、作戦が不測の事態に陥った際に発動する保険が動き出すこととなる。

    キュートが己に与えた役割は、“予定通りに死んだライダル・ヅー”の声を真似る事。

    普通に感がえれば一蹴されるような作戦だが、これは今の状況ではジュスティアにとって、極めて重要な役割だった。

    犯罪者に対して宣戦布告をした張本人が、宿敵に殺されたなどと、どうして公に出来ようか。

     

    斯くしてキュートはまだヅーが生存しているかのように思わせる為、その声を使って島中に声を届けることを任されることとなった。

    ここまでは予定通りであるが、問題は別にあった。

    島から脱出をする予定だった仲間達が全員、例外なく失敗し、ジョルジュ・マグナーニに至っては逮捕されるという始末。

    だが彼はこの島で、まだ何も逮捕されるようなことはしていない。

     

    仮に円卓十二騎士と対峙したことを咎めるのであれば、証拠不十分のためそれはどうとでも言い訳が出来る。

    トラギコの努力は無に帰すのだが、保釈金と身元引受人を用意しなければならないのが面倒だ。

    事態の悪化には何か、計画の計算に入っていない存在がいるに違いないと、キュートは思った。

    予想外の何かを持つ、予想外の誰かの介入。

     

    最近組織内でその名が頻繁に出てくるデレシアと言う人物による影響が予想以上の物だったと見て、まず間違いないだろう。

    一度は直接相手にしてみたいと思うが、今はその想いは抑えておかなければならない。

    他の者がその好奇心に従った結果、今の状況を引き起こしたのだと忘れてはならない。

    愚か者とは言え、彼らの残した判断材料は利用しなければ無駄な徒労であり、浪費として終わってしまう。

     

    キュートは溜息とも吐息とも判断しかねる息を吐き、三枚つづりの書類を読み始めた。

    それはデレシアに関する書類だった。

    ティンバーランドの上層部がその名を禁忌の様に扱う女。

    これまでに多くの作戦を台無しにした旅人。

     

    正直、キュートはそこまでデレシアの事を脅威に思っていなかった。

    強いとは言っても、所詮は人間。

    毒を使い、兵器を使い、弱みを狙えば訳のない相手だと思っていた。

    だが資料に目を通す内に、彼女の考え方は変わっていった。

     

    一か月以内の間で彼女が成した業績の数々。

    それは敵ながら天晴れと言わざるを得ない程、実に見事な物ばかりだ。

    ほぼ単身でここまでやれる人間は、確かに、生半可な存在ではない。

    危険極まりなく、不可解極まりなく、それでいて興味の尽きることの無い存在。

     

    o*゚ー゚)o「ふぅん……」

     

    数分後、キュートはその書類を暗記し終えていた。

    だが書類を地面に捨てることはせず、クリアファイルに入れてそのまま机に置いた。

    これは極めて興味深いもので、捨てるような物ではない。

    恐らくページ数はこれからも増えて行くだろう。

     

    このままでいけば、だが。

     

    o*゚ー゚)o「面白そうな相手じゃない」

     

    あのアメリア・ブルックリン・C・マートが殺されるはずだ。

    あのスコッチグレイ兄弟が深手を負う訳だ。

    あのワタナベ・ビルケンシュトックとツンディエレ・ホライゾンが仕損じる訳だ。

    あのシナー・クラークスとショボン・パドローネが苦戦するはずだ。

     

    あのジョルジュ・マグナーニが執心し、ティンバーランドのNo1も警戒するはずだ。

    現に、キュートもすっかり彼女に興味を持ってしまっていた。

    知的好奇心が抑えきれない感覚に陥ったのは、果たして、どれほど以来だろうか。

    きっと、ティンバーランドの存在を知った時以来だろう。

     

    o*゚ー゚)o「ふふ、一度相手をしてみたいものねぇ……」

     

    そう言ってキュートはコーヒーを一口飲み、気分を落ち着かせた。

    少しつまみ食い程度に相手をしたいという欲望を押さえるには、カフェインはまるで意味がなく、勿論、煙草も意味をなさない。

    今はただ堪えなければならない。

    最高の獲物を前にして、キュートは別の役割を果たさなければならない己の不幸と同志の不甲斐なさを呪った。

     

    本来の予定から大分ずれてはいるが、組織の目的自体は果たされている。

    少しずつ。

    着実に。

     

    o*゚ー゚)o「まずはこの舞台、どう降りるつもりなのか見せてもらおうかしら」

     

    チェス盤の上の駒を動かすような心地で、キュートはすでに手を打っていた。

    この島から逃げなければならないのは、何も、ティンバーランドの人間だけではないのだ。

     

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    AmmoRe!!のようです

    Ammo for Reknit!!

     

    第十章【Ammo for Reknit!!

     

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            ./  / ̄ ̄/ 三三=  彡 /

           /  /__/ 三三=  彡 /

         ./     August 13th AM08:45

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    その日の朝刊の一面を飾ったのは、デミタス・エドワードグリーンが爆死し、脱獄に加担した犯人が全員捕まったという記事だった。

    だが逮捕された犯人の姿を映した写真を載せる事の出来た新聞社は一社だけであり、モーニング・スター新聞はその日記録的な売り上げをものにした。

    島全体にライダル・ヅーの声で放送がされ、全ての事件は解決し、昨晩の砲撃は犯人たちの船を破壊するための行いとして小さく紹介された。

    事後処理が終わった島には活気が戻り、漁師たちは嬉々として漁に出かけ、観光客は“グレート・ベル”だけでなく戦闘のあった場所に足を運んだ。

     

    報道されたことは事実と偽りが混ざった物だった。

    第一に、脱獄に加担した人間は全員ではなく一部しか逮捕されていない。

    第二に、砲撃はたった一人の人間を殺すために行われた物である。

    そして第三に、ライダル・ヅーはすでにこの世にいない。

     

    警察の仮設本部も撤去され、犯人たちは護送車に乗せられていた。

    ショボン・パドローネ。

    シュール・ディンケラッカー。

    そして、ジョルジュ・マグナーニ。

     

    全員、拘束具を身につけ、目隠しと猿轡、そしてイヤーマフが付けられていた。

    互いに会話をすることも出来ない上に、周囲の状況も分からない状態にされてもまだトラギコは護衛を付けるべきだと抗議した。

    彼の抗議は却下された。

    彼は本来ジュスティアに戻らなければならない人間であり、その他の事に首を突っ込んでいい状況ではないのだ。

     

    代わりに上層部が現場に命じたのは、デレシアと言う旅人の捕獲だった。

    トラギコの帰還とデレシアの捕獲。

    二つの任務が現場に命じられ、動き始めていた。

     

    ( ><)「トラギコさん、部下に送らせるんです」

     

    機材も書類も撤収が終わったエラルテ記念病院の一室に、トラギコとベルベットの姿があった。

    薄手のスーツを着てネクタイを締め、マスコミ用の姿を作り上げたベルベットとは対照的に、トラギコはダメージジーンズにポロシャツと言うラフな格好だった。

    チーズバーガーを三つ食べ終え、食後のアイスコーヒーを飲みつつ、トラギコは新聞に目を通していた。

    くつろぐトラギコに対してベルベットが放った言葉に、トラギコは紙面の向こう側から答えた。

     

    (=゚д゚)「断るラギ。 また事故を起こされたら嫌だからな。

        円卓十二騎士にでも頼むラギ」

     

    ( ><)「駄目なんです。 あの二人は今からデレシア捜索と捕獲をしに行くんです」

     

    (=゚д゚)「なら一人で帰るラギ」

     

    新聞を畳み、コーヒーを一気に飲み干して、そのカップを握り潰してゴミ箱に放り捨てた。

    席を立とうとするトラギコの左肩に、ベルベットが左手を乗せた。

     

    ( ><)「……それは絶対に駄目なんです」

     

    (=゚д゚)「何でだよ? 俺が迷子になるとでも思うラギ?」

     

    僅かにベルベットの手に力がこもる。

    怒りか、それとも焦りからか。

     

    ( ><)「貴方が逃げる可能性がある以上、一人で行かせるわけにはいかないんです」

     

    (=゚д゚)「ならよ、お前が一緒に来いよ」

     

    目にも止まらぬ速度でトラギコの右手がベルベットの細腕を掴み、そのまま握り潰さんばかりに力が込められた。

    骨が軋む痛みにベルベットの眉が歪む。

    トラギコは容赦なく力を徐々に強くしていく。

     

    (=゚д゚)「お前の指名した部下は信用できねぇラギ。

        だからよ、お前が直接俺をジュスティアに送れよ。

        また不出来な部下を送ってよこしたら、俺は何をするか分からねぇラギ」

     

    (;><)「手を離して下さい!!」

     

    (=゚д゚)「お前が俺を殴る可能性がある以上、手は離せねぇラギ」

     

    先ほど言われた言葉を真似て返すと、ベルベットは苛立ちを表に出した。

     

    ( ><)「警官を続けたいのなら、僕にあまり刃向かわない方がいいんです」

     

    (=゚д゚)「生者でありたいんなら、俺にちょっかい出すな」

     

    一触即発の空気の中、一人の女が香水の匂いと共に現れた。

    櫛を通していないのだと一目で分かる程乱れた黄金色の髪と、海を思わせる深い青色の瞳。

    素顔を見抜くのも難しいほどの濃い化粧。

    目元に引かれた赤色のアイラインが妖艶かつ情熱的な印象を演出し、それを強調するかのような黒いワンピースは喪服の様ですらあった。

     

    (=゚д゚)「手前は?」

     

    o*゚ー゚)o「私、キュートと言います。 キュート・ウルヴァリン。

           極道ラジオFM893でメインパーソナリティーをやっています」

     

    確かに、その声を聞いた覚えがトラギコにもあった。

    “極道ラジオFM893”と言えば、かなりの人気番組だ。

    何故ラジオの人間が、と言いかけて次にキュートが見せた芸当に言葉をひっこめた。

     

    o*゚ー゚)o『私、声真似が得意なんです』

     

    それは、ライダル・ヅーの声だった。

    極めて精巧な声真似。

    この女がラジオ放送でヅーの代役を担った張本人。

    そして、恐らくは例の秘密結社の息がかかった人間。

     

    そうでなければ警察がこの女を引き込むはずがない。

    ジュスティア警察は世界一融通の利かない機関だとトラギコは考えている。

    それが、緊急時とは言え名の知れた人間を急遽引き入れて重要な役割を与えるなど、あまりにもおかしい。

    現場判断の領域を越えた判断だ。

     

    o*゚ー゚)o『どうです? 似てますか、トラギコさん?』

     

    ベルベットの手を解放し、トラギコの敵意はキュートに向けられた。

    否、敵意ではない。

    それは殺意だった。

    怒りから来る純粋な殺意だった。

     

    (=゚д゚)「……おう、女。 次に俺の前で相棒の猿真似をしてみろ。

        前歯をへし折って二度と真似できないようにしてやるラギ。

        あいつはお前みたいに糞の匂いがする下品な声をしてねぇラギ」

     

    o*゚ー゚)o「……あら、ごめんなさい」

     

    女の口は笑みを形作っているが、目は笑っていなかった。

    周りから持ち上げられることには慣れているだろうが、落とされることには慣れていないようだ。

    逆に、争う事が好きそうな印象を感じ取った。

     

    (=゚д゚)「それと、あいつは俺が街に連れ帰るラギ。

        それならどっかに俺が逃げる心配はねぇだろ?」

     

    ( ><)「……分かったんです。

          ヅーさんの遺体を運ぶというのであれば、いいんです」

     

    昨夜、ヅーの遺体はトラギコの一報によってセカンドロックから極めて慎重に運び出され、病院の遺体安置所に連れて来られていた。

    トラギコがジョルジュを逮捕して病院に戻ってまず行ったのは、ヅーの体を綺麗にすることだった。

    至近距離の爆発によって彼女の体は血塗れで、あちらこちらに鉄片や固まった血がこびりついていた。

    それらを全て手で洗い落とし、清め、整え、出来る限り生前に近い状態にまで一人で戻したのだった。

     

    医者たちがその手伝いをすると申し出たが、トラギコはそれを断固として拒否した。

    代わりに、肉片と化したデミタスの復元を任せ、ようやく数時間の仮眠を取り、周囲の物音で面倒くさげに起床して軽い食事を摂って今に至る。

     

    (=゚д゚)「言っておくが、余計な見送りは結構ラギ。

        目立ちたくないんなら、分かるよな?」

     

    意味もなく車列を形成すれば、必ずマスコミが嗅ぎ付けてくる。

    ヅーの死が公になればジュスティアは大恥をかくだけではなく、社会的な信用を失ってしまう。

    死を一度隠ぺいした以上、公にする時期を慎重に選ばなければならない。

     

    ( ><)「仕方ないんです。 ですが、もしも規定日時に到着しなかった場合、指名手配犯として処理するんです。

          これは上層部の許可も得てあるんです」

     

    指名手配犯となれば、世界中にいる警察官がトラギコを見た瞬間に襲い掛かってくる。

    それだけではなく、賞金を目当てにした人間にまで狙われる。

    そう言った人間と組んできたこともあるトラギコは、指名手配がどれだけ厄介な物かよく分かっていた。

     

    (=゚д゚)「へぇ。 随分と手際がいいラギね。

        なら、スモークガラスのワゴン車を用意するラギ」

     

    ( ><)「分かったんです」

     

    まるでこうなる事を予期していたかのような迅速な対応に、トラギコは思わず冷笑がこぼれそうになるのをこらえた。

    いくら何でも、ベルベットの行動は大げさすぎるのだ。

    恐らくはトラギコを殺す計画が頓挫した段階で動き出し、それらしい大義名分を掲げて上層部の許可を得たのだろう。

    ベルベットは間違いなく黒だ。

     

    そして、トラギコはもう一人の男がこの事件に関わっている証拠を持っていた。

    “鷹の目”の渾名を持つ、ジュスティア最高の狙撃手がカメラマンを撃つ瞬間を収めた写真を――

     

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      〈/_j{_|l^ゞ尖ー='赱ァ⌒ u :|l /} LVニニニニ

    ニニ「ニニニ|, }'^` `ヽ ̄´ ^''   |lィ´,’ハ}l7^ ァ'<ニ

      |ニニニニニ|l__、   、   j,' /: }l:.}/ /  /

    .  Vニニニ|∧´Vニニヘ} }  /|: :/s., /

    斗r'^Vニニニニ∧ {__,ノノ   /彡': : : :August 13th AM11:06

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    ――ジュスティア最高の狙撃手、カラマロス・ロングディスタンスは激昂していた。

    彼は作戦を任され、万事上手くいくはずだった。

    狙撃の腕はジュスティアでは当然だが、世界一だと自負する程の物。

    一キロ先の獲物でさえ仕損じはしない。

     

    その自負を、僅か数日の内に瓦解されていた。

    彼の誇りは傷つけられ、踏み躙られていた。

    かつて彼の祖父がこの地で勇敢に戦い、散ったと父から嫌と言うほど聞かされた身としては、この地での作戦失敗は最悪の展開だ。

    何としても成功させなければならない。

     

    この島で殺す予定だった人間はまだ生きている。

    それが彼には我慢ならなかった。

    是が非でも殺さなければならない人間を探し求め、カラマロスはモスグリーンのコンテナを背負って街を歩いていた。

    懐には支給されたベレッタM92Fが忍ばせてあり、万が一遭遇したとしてもすぐに戦闘できるように準備が整っている。

     

    (  ・ω・)「……」

     

    狙うのは二人。

    トラギコ・マウンテンライトとデレシアという女だ。

    あの日、エラルテ記念病院が燃えた日。

    その日に、トラギコはカラマロスの手によって死ぬはずだった。

     

    だが、あの無能な医者のせいでカラマロスは誤射してしまい、仕留めそこなった。

    あれは棺桶の使用が許可されていなかった事が原因であり、もしも最初の段階から許可されていれば、遠慮なく殺せたのだ。

    だが気を取り直し、何度か機会を窺ったが、それを悉くトラギコは回避した。

    悪運と野生動物じみた勘の良さが影響しているのは間違いなかった。

     

    動物を相手にすると考えれば、対処の方法にも種類が増えてくる。

    ただの動物ならばまだしも、トラギコは気性が荒く勘のいい獣だ。

    彼が何かに勘付く前に手を打たなければならない。

    遠距離からの攻撃や、毒による暗殺が最も有効だろう。

     

    しかし。

    それが成功する確率は極めて低い。

    トラギコはすでにカラマロスが狙撃犯であることを確信し、その証拠であるフィルムを所有している。

    つまり、カラマロスの行動については常にチェックをしているはずなのだ。

     

    例えばこうして彼が街を歩いていることも、その背中に背負った棺桶の存在も知っているのだろう。

    だからこの手は使えない。

    彼が直接手を下すことにだけは、トラギコが常に警戒している事なのだ。

    ではここで手詰まりか、と問われればカラマロスは首を横に振るだろう。

     

    まだ手段が無いわけではない。

    状況打破のために一計を講じてくれた人間は、実に狡猾だと思った。

    ヅーの死を公にするのと同時にトラギコを処分できる最善の方法。

    爆殺である。

     

    ヅーの遺体を収めた棺桶に仕込んだ高性能爆弾。

    遠隔操作によって起爆するように設定され、振動や火によって誤爆することは絶対にない。

    トラギコがヅーの死体をジュスティアに持ち帰りたがることは予想できたことであり、計画を考えた人間はそれを見越して爆弾を仕込んだのだ。

    同時に二つの厄介ごとが処理できるとあって、この計画は他の同志達からも賛同を得ていた。

     

    カラマロスの任務は、トラギコの抹殺ではない。

    この島に潜んでいる組織最大の敵を殺すことである。

    デレシアと名乗る旅人。

    その女が生きている限り、組織に害をなすことは最早明らかだ。

     

    単独行動は決して褒められたことではないが、デレシアを殺すためには今一度狩人として動かなければならない。

    他の誰かに頼まれたからではなく、自分の意志でデレシアを殺そうとカラマロスは考えていた。

    同志達があの女をどれだけ評価しようとも、カラマロスにとってみればただ腕の立つ女と言うだけだ。

    奇抜な格好や予想外の行動によって攪乱しているだけで、その実、ただの女なのだ。

     

    女が男に勝てる道理がない。

    ましてや、カラマロスは世界最高の狙撃手なのだ。

    軍人としても男としても、負ける姿をイメージすることは出来ない。

    例えあの女に彼の狙撃銃を破壊されたとしても、だ。

     

    あれはアサピー・ポストマンとトラギコを撃ち殺そうとしていた時であり、別の事に意識を集中させていたという状況が生み出した物だ。

    偶然の産物で勝った気になられるのは良い気がしない。

    いつまでも世界の天敵として調子に乗られているのは、彼のプライドが許さない。

    ここで一気に終わらせることが出来れば、組織の夢が成就するための時間を短縮することが出来る。

     

    (  ・ω・)「……どこだ、どこにいる」

     

    物陰。

    人混み。

    あらゆる場所に目を向け、狙撃手としての勘を総動員してデレシアの姿を探す。

    高所に陣取るのも一つの手段だが、グレート・ベルを再び使う事は無理だろう。

     

    そうなると、山以外に有効な高所はない。

    市街地での狙撃となれば、ホテルなどの建物を使う他ない。

    いずれにしてもデレシアの姿を確認してから場所を定めなければならず、カラマロスは忌々しい女の姿を探しているというわけだった。

    あの出で立ちであればすぐに見つけられそうなものだが、それ以外の服装をされていた場合、探し出すのは極めて難しい。

     

    こうしている間にも島から出て行ってしまっている可能性があるが、その先は行き止まりだ。

    ティンカーベルから陸路で外に出るためにはジュスティアを経由しなければならず、その検問を突破することは不可能。

    停泊しているオアシズに逃げ込まれたら手出しが難しいが、情報によると船には乗り込んでいないらしい。

    となると、まだこの島にいる可能性の方が高い。

     

    森に隠れられていたらと思うが、あの女に限ってそれはなさそうだ。

    あれだけの自信がある人間が、わざわざ森に隠れるなどあり得ない。

    絶対に己の力を過信して街中で過ごしているはず。

    狙撃手としての勘がそう告げるのだ。

     

    <::ー゚::::>三)

     

    (  ・ω・)「っ……?!」

     

    偶然の産物によって一瞬だけ開けた視界に突如として現れた女を見た瞬間、彼の手は懐の銃へと伸びていた――

     

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               ノ|  r‐‐ 、!  !   i|   リ/ ´又ヅ, |  |

                レ | ヽ \ 从 小 ,//    ¨¨ イ リ ! iト、

                {  /  { ̄ ̄ヽく爻 ヽ{ (i:     厶イ从 iト、ヽ }

               /  ∧  ̄ ̄ヽ             ハ/i}  , j}

    .          /  / ∧   ̄ ̄ヽ   ー‐一   ∠   / /  ト ))

             /  人/ ∧  ¨マ_}>   __  イ  `/ August 13th AM11:33

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    ――ようやく、獲物が罠にかかった。

    だがあえて構う事はせず、デレシアは近くにあった土産物屋に入って行った。

    しっかりと後を着いてきている事を確認しつつ、奥まった場所にある化粧室へと入る。

    人の気配が化粧室へと近づき、擦りガラスの向こうに明らかに男の姿が浮かんだ。

     

    デレシアの姿は死角にあり、向こうからは確認することはできない。

    少しでも考える力があり、慎重な人間であれば足を踏み入れることはしないが、デレシアは相手が必ずここに入ってくると確信していた。

    何故なら、デレシア相手にここまで接近し、隙を見せている時点で間違いなく状況判断に必要な勘が鈍い人間であるからだ。

    どこの誰だか知らないが、その迂闊さが命取りになる事を教えてやらなければならない。

     

    今、デレシアの機嫌はあまり良い物とは言い難かった。

    ティンバーランドの人間を三人逮捕させることは出来たが、残党が未だこの島に潜んでいる。

    彼等の性質上、残党は必ず仲間を見捨てることはせずに奪還を試みるはずだ。

    そうした後にこの島から逃げ出すのだろう。

     

    ならば奪還のために何をしているのかを聞き出し、余計な手間を省くのが賢い方法だ。

    本当は向こうからデレシアを狙って襲ってくることを期待したのだが、全く期待していない三下が現れたことによって幻滅した。

    戸が音もなく開けられ、基本に忠実にまず銃が入ってきた。

    それを見逃さず、デレシアは銃ごと腕を掴んで化粧室へとその人物を引きずり込んだ。

     

    あまりにも唐突な展開に、追跡者は踏鞴を踏んでバランスを崩す。

    男はジュスティア軍人のカラマロス・ロングディスタンスだった。

     

    ζ(゚ー゚*ζ「入るトイレを間違えた、なんて言い訳をする予定はあるのかしら?」

     

    銃を掴んだ時点でデレシアはすでに撃鉄と撃針の間に親指を挟み、発砲を阻止していた。

    虚しく銃爪を引こうとするカラマロスだったが、掴まれた右手の痛みの為か、人差し指は虚しく震えるだけだ。

    この状態であれば棺桶も使えない。

     

    (; ・ω・)「く、くそっ!! 放せ!!」

     

    銃を掴むデレシアの手に力が一瞬だけ込められ、親指を除くカラマロスの指の骨が折れた。

    悲鳴を上げそうになった彼の首を掴んで戸に叩き付け、銃を口に突っ込んで声を封殺する。

    脚を使った抵抗を防ぐためにデレシアは彼の股間を膝で思い切り蹴り上げ、睾丸を一つ潰した。

    股間とは言わば足の付け根であり、付け根が動かせなければまともな攻撃は生み出せない。

     

    折れた人差し指を無理やりに動かし、いつでも銃爪を引けるようにした。

     

    ζ(゚ー゚*ζ「貴方もティンバーランドの人間なのでしょう?

          一つ教えてもらいたいのだけど、返事はどう?」

     

    空いている方の手でカラマロスがデレシアに反撃を試みたが、それを見逃す程デレシアは耄碌していない。

    この期に及んで反撃をする神経については軽蔑するが、根性については祖父譲りだ。

    カラマロスの右手を拳銃ごと握り潰し、激痛によって攻撃を強制的に中断させた。

    更に喉も締めあげることで、悲鳴は蚊の鳴く様な小さなものしか生まれなかった。

     

    ζ(゚、゚*ζ「話しているのは私よ?

          勝手に遮らないでくれるかしら?」

     

    (; ・ω・)「かっ……ひゅ……!!」

     

    ζ(゚、゚*ζ「クール・オロラ・レッドウィングはどこ?」

     

    共に旅をするヒート・オロラ・レッドウィングの母であり、彼女が殺し屋になった原因を作った人物。

    父と弟を爆殺されたヒートにとって、その女の生存は断じて許せないものだ。

    そして女が逃げ遂せることによって、ヒートの苦痛は長引いてしまう。

    復讐は本人の手で決着を付けさせるのが何よりの特効薬であり、その機会まで奪うつもりはない。

     

    ただ、デレシアはその女を捕えてヒートの前に連れて行くだけだ。

    生殺与奪はヒートに任せ、もしも彼女が何らかの理由でクールを生かすのであれば、デレシアがクールを殺す。

    生かしたところでメリットは何一つなく、むしろ殺した方が有益に違いない。

    雑草とは小さなものの集まりであり、一つでも見逃すとたちまち増えてしまうものなのだ。

     

    ζ(゚、゚*ζ「あら、首を締めたら喋れないわよね」

     

    窒息死寸前のカラマロスを一時的に開放し、酸素を吸わせてやる。

    赤黒くなっていた顔に血の気が戻る。

     

    (; ・ω・)「だ、誰が……!!」

     

    再びデレシアの手が彼の喉を圧迫した。

    カラマロスは目玉が飛び出そうなほどに目を見開き、必死にジタバタとあがくが、その攻撃がデレシアに触れることはない。

     

    ζ(゚、゚*ζ「これが最後のチャンスよ。

          クール・オロラ・レッドウィングはどこ?」

     

    再び手を離し、カラマロスに酸素を吸わせてやる。

    せき込み、涙を流し、虚ろになった瞳でデレシアを見下ろして、カラマロスが口を開いた――

     

    ζ(゚、゚*ζ「……ちっ」

     

    ――次の瞬間、デレシアはカラマロスから手を離し、その場から大きく飛び退いた。

    直後、化粧室の扉がカラマロスごと爆ぜ、タイルの上に飛び散る。

    カラマロスは破片の下敷きとなっているものの、死んではいなかった。

    背中に棺桶を背負っていなければ、今頃彼の背骨は地面に転がる扉と同じ末路を辿った事だろう。

     

    [:::|::,]『……私に何か用か?』

     

    現れたのは、青白い光をヘルメットの奥に灯した小柄な黒い棺桶。

    一見して細身の人間が甲冑を着ているようにも見えるが、その実、それは遠隔操作に特化した棺桶、“アバター”だった。

    髪のように後頭部から垂れ下がる直径一インチの繊維は高性能なアンテナの役割を果たしており、電波の届きにくい地下などでも性能を発揮できる。

    有効範囲は約546ヤードと短めだが、実用的な遠隔操作型の棺桶としては世界で初の機体であり、先駆け的な存在だ。

     

    だが、その機体はヒートの駆る“レオン”によって破壊されていた。

    杭打機による一撃はバッテリーと共にアバターの中枢を破壊し、それ以降の登場はあり得ないと考えていた。

    だが、現にこうして現れたのを見ると、イーディン・S・ジョーンズの棺桶に対する熱情が桁外れに高いと認識を改めざるを得ない。

    破壊された装甲の痕が残っていることから、これが修理途中で投入されたことが分かる。

     

    不完全な状態での参戦は、相手が焦っていることの表れでもあった。

    今、クールはデレシアの周囲546ヤード以内にいる。

    そして、どうして今このタイミングで現れる事が出来たのかと言う事を組み合わせ、デレシアは一つの答えを出した。

    クールは、デレシアの攻撃が届かない安全極まりない場所にいる。

     

    ζ(゚、゚*ζ「人形には用はないわ。

          ヘリコプターの乗り心地はどうかしら?」

     

    セカンドロックを襲撃した際、彼らは小型のヘリコプターを使っていた。

    ならば、ヘリの中にコンテナを乗せておけば、安全かつ広範囲での移動が出来るはずだ。

    それだけの安全性が確保できていなければこうして姿を現すはずもないし、不完全な状態の棺桶でデレシアに戦闘を挑むはずがない。

    果たしてデレシアの予想は的中していた。

     

    [:::|::,]『お見通しか』

     

    ζ(゚、゚*ζ「臆病者の考えそうなことぐらい、誰にでも分かるわよ」

     

    問題は、ヘリコプターは非常に目立つ物であり、それをジュスティアが見過ごすとは思えない事だ。

    恐らく、ヘリコプターは目くらましが目的であり、本命は別にあるのだろう。

     

    [:::|::,]『雑菌の塊を愛でる趣味の人間に理解されるのは、極めて不愉快だな』

     

    ζ(゚、゚*ζ「雑菌の塊? あぁ、ティンバーランドのことね。

          貴女達を愛でたいと思ったことはただの一瞬たりともないわ。

          長い事付き合っているけど、ドブネズミの方がまだ愛嬌があるわよ」

     

    刹那、アバターが右手足を同時に前に出し、接近戦を仕掛けてきた。

    構えは堂に入っているが、動きは単調だ。

    拳を捌き、回し蹴りを回避し、デレシアは左手で腰のホルスターから抜いた水平二連式ショットガンを構えると同時に至近距離で発砲した。

    装填されているのは散弾であり、棺桶の装甲を撃ち抜くには威力が不足している。

     

    だが、アバターの動きを止めるのには都合のいい弾である。

    アバター最大の弱点は、遠隔操作の要であるアンテナを損傷することだ。

    近距離ではなく遠距離になればなるほど、その存在は重要となるため、必死に防御するはずだ。

    防御しなければ操作の精度は格段に下がり、最悪の場合は動かすことすらできなくなってしまう。

     

    散弾を至近距離で受け止めればアンテナはかなりの数を失うことになる。

    ましてやそれがケーブルの集合している頭部となると、根元から全てのアンテナを破壊されることになる。

    これだけ狭い空間と咄嗟の状況にも関わらず、クールの動きは素早かった。

    両腕で頭部を守り、散弾を一度に受け止めることに成功した。

     

    が、防御のために動きを止めた時、決着はついた。

    デレシアの右手には漆黒のデザートイーグルが魔法の様に出現しており、銃爪は一部の隙も無く引かれていた。

    一発目の銃弾は腕を貫通し、ヘルメットを強打。

    銃撃による衝撃で跳ね上がった腕の隙間を狙った二発目が頭部を破壊し、遠隔操作の要となる集積回路を粉砕した。

     

    倒れたアバターの頭部に更に三発の弾を浴びせ、OSを司る場所を粉々にし、修理不可能な状態にした。

    ジョーンズが知識だけのアマチュアではなく、強化外骨格に関するかなり高度な技術も習得している事を考えれば、徹底的な破壊は当然と言えよう。

    結局クールを捕まえることは敵わなかったが、これで相手の底が知れた。

    遠隔操作の棺桶を好んで使っていることからも分かる通り、あの女の本質は極めて臆病であり、極めて卑劣。

     

    そして、極めて慎重で計算高い人間だ。

    己が戦闘に参加する事が味方にとってそこまで大きなメリットを見出せない以上、攪乱することに徹した方が味方にとってはありがたい事だろう。

    今になってデレシアを襲撃したのは、味方が逃げる時間を稼ぐことと、単独でデレシアに襲い掛かった狙撃手を逃がすことが目的だったのだ。

     

    ζ(゚、゚*ζ「……」

     

    いつになく動きが機敏なことに、デレシアは違和感を覚えた。

    いつものティンバーランドではない。

    これまでとは異なる何者かが指揮を担当し、デレシアの力を測ろうとしている。

    頭の切れる誰かが急きょ参加し、陣頭指揮を執っているのだろう。

     

    ただでさえ面倒な状況に拍車をかける行為に、デレシアは苛立ちよりも先に感心した。

    相手もようやく進歩したようだ。

    やみくもになってデレシアを攻撃するのではなく、推し量ろうというのだ。

    実に面白い発想だが、その発想に付き合ってやる義理はない。

     

    銃声で騒然となった店内をデレシアは悠然と進み、店の外へと出た。

    そこで、相手が仕掛けた第二の手に思わず失笑した。

    今回の指揮者は実に狡く、そして他者を駒として使うことに長けている。

     

    ( ><)「……なるほど、タレこみの通りなんです」

     

    警官が十名以上、完全装備の状態でデレシアを店先で出迎えた。

    装備はショットガン、アサルトライフル、拳銃と非常にバリエーション豊かだ。

    これが本命だと、デレシアは確信した。

    本来追うべき相手を警察に戻したデレシアの行動を無に帰すための一手。

     

    世界中に点在する警察にデレシアを追わせれば自分達の手間が省けると考え、この手を考えたのだろう。

     

    ζ(゚ー゚*ζ「ふふ……」

     

    面白い。

    もしもカラマロスを逃がすだけで終わっていたならば、こうは思わなかった。

    ただの不快な輩、虫螻が一匹増えた程度にしか感じなかっただろう。

    だがしかし、新しい策士は一味違い、組み立て方を心得ている。

     

    これまでとは違い、歯応えがある。

    よほど大切に秘匿してきた駒なのだろう。

    心意気だけでなく実力を備えてきており、明らかに前回の時と比べて進化している。

    質の向上はデレシアにとっては嬉しくない予兆だが、成長し切った大木ほど倒しやすいのも事実だ。

     

    熟れた果実が地面に落ち、大木が倒れ、朽ち果てるのは自然の摂理。

    今しばらく経過を観察し、その成熟し切った姿を見るのは少し先になりそうだ。

    そう言った意味では楽しみであり、同時に、興味の対象として考えてもよさそうだ。

     

    ζ(゚ー゚*ζ「逮捕するつもりかしら?」

     

    ( ><)「勿論なんです。 抵抗は無意味です」

     

    ζ(゚ー゚*ζ「罪状は?」

     

    その目は逮捕だけが目的ではない事を雄弁に物語っていた。

    肉を前にした犬のように貪欲な光をその奥に輝かせ、涎を垂らしてその時が来るのを待っている状態だ。

    演技が下手な男だ。

    ジュスティア警察で生きて行くには、もう少し演技の勉強が必要になる。

     

    ( ><)「話す義務はないんです」

     

    ζ(゚ー゚*ζ「あら、ジュスティア人にしては乱暴ね。

          ランダ警告すらしないで逮捕なんて、フォックスが何て言うかしらね」

     

    実力で正義の都の市長に上り詰めたフォックス・ジャラン・スリウァヤは、些細な手違いでも決して妥協をしない女だ。

    仮にも、正義を信仰する正義の街に相応しい女の部下である人間がそれを破るのは乱暴と言う他ない。

    末端の人間ならばいざしらず、報道担当官となれば己の言動がジュスティア警察の意志と捉えられても仕方ないことは分かっているはず。

    それを無視してでもデレシアを捕まえようというのは、流石にフォックスの意志ではない。

     

    己の意志がそこに介入し、フォックスからの命令を都合よく変えているだけだ。

     

    ( ><)「さ。 来るんです」

     

    ζ(゚ー゚*ζ「お断りする、と言ったら?」

     

    ( ><)「力づくで捕まえるんです」

     

    迂闊な男だ。

    本当に、迂闊だ。

    捕えるという事は殺さないという事。

    殺さないという事は、警官たちに下された命令は戦闘ではなく捕縛。

     

    ならば、話は早い。

     

    ζ(゚ー゚*ζ「勇ましい事ね。

          なら、まずはこの状況を打破して見せなさい。

          英雄狂――ドン・キホーテ――らしく、動揺することなく勇敢にね」

     

    ( ><)「何を言って――」

     

    ――直後、大地が大きく揺れ、不意を突かれた人間は全員転倒し、地震対策を施していない棚からは食器などが溢れ出し、遂には棚まで倒れた。

    大地が揺れる寸前、もしくはほぼ同時に届いた爆発音は、あまりにも巨大すぎたために爆発音として認識されていなかった。

    地鳴りのように低く、そして圧倒的な音は聞いた者の体を麻痺させるだけの力があった。

    島民が未だかつて経験したことの無い巨大な地震。

     

    それとほぼ同時に、猛烈な突風が島中を駆け巡り、多くの物を宙に舞い上げた。

    誰もが地面ではなく、空を見上げる。

    まるで、そうしなければならないと命令されたかのように。

    地に伏せた状態のベルベットはまるで悪夢を見るかのように、空を仰いだ。

     

    空が。

    青々とした蒼穹が。

    彼を無表情に見下ろし、彼を嘲笑うような大空が。

    今は、たまらなく恐ろしいものに映っていることだろ。

     

    (;><)「な……」

     

    空に立ち上る巨大な雲。

    それはまっすぐに。

    大蛇が鎌首をもたげるようにゆっくりと上空に向けて成長し、大きな樹木や薔薇を思わせる姿を形作る。

    その雲の名前を知る者はほとんどいない。

     

    それはかつて世界を滅ぼした炎の代名詞として、大勢の人間の目に焼き付いたものだ。

    見下ろされることの恐怖。

    見上げることの恐怖。

    幻想的であると同時に、破壊的な何かが起きた時にだけ人が目にする雲。

     

    それは、きのこ雲、と呼ばれて恐れられ人間の遺伝子に刻み込まれていた。

    最古は火山噴火の際に。

    そして最新では核爆発の際に。

    島中の意識がきのこ雲と地震に向けられている隙を、デレシアは決して見逃さなかった。

     

    店の奥へと風のように移動し、小窓から難なく路地裏へと抜け出した。

    銃弾は遅れてデレシアの軌跡をなぞるように発砲され、店の商品を穴だらけにする。

    最初からデレシアを殺すつもりだったなら、一発ぐらいは掠ったかもしれないが、初めにその意図を口にした時点で弾が当たらない事は分かり切っていた。

    それに、核爆発を知らない人間達がその威力を目にした時に呆然とするのは無理もない。

     

    人知を超えた物を目の当たりにすれば、人間は固まってしまう生物なのだから。

    何にしても、デレシアがこの島に上陸した目的はこれで達成された。

    即ちニューソクの安全な無力化だ。

    ニューソク、それは小型で大出力の核発電装置であり、世界が栄華を極めた時代の遺産。

     

    デレシアがこの島に立ち寄ったのは、そもそもニューソクを無力化する為だった。

    その過程でショボン達がデレシアを嵌めるために余計な画策をし、島で騒動を起こし、それを鎮静化するトラギコに手を貸したに過ぎない。

    本当であれば無視してもいい事態だったが、ブーンの教育にトラギコが役立ってくれたこともあって力と知恵を貸したのだ。

    ようやく事態があるべき場所に収まるかと思われたが、警官たちの登場によって再びデレシアに警察の目が向けられた。

     

    だがすでにデレシアは手を打った後だった。

    グルーバー島から西に離れた場所にある島の地下へと向かい、デレシアは無効化するための処置と爆破装置の設置を一夜で終えた。

    必要なことを心得ていたデレシアはニューソクの爆破処理の場所として、ニューソクの補完されていた島の地下を選んだ。

    分厚い特殊壁によって守られた地下は、軍事施設の中心部として機能していた場所でもある。

     

    第三次世界大戦の際にこの島はかなり重要な拠点として役割を担い、多くの戦闘が行われた地だ。

    最後の防衛ラインである地中深くに設置されたニューソクの爆発は、地震にも似た揺れを引き起こし、キノコ雲を生み出したが、放射性物質は漏れ出なかった。

    津波や地震の被害によって放射性物質が流出した過去を生かし、度重なる開発研究の末に例え爆破されたとしても放射性物質を即時吸収、無効化する素材が作られた。

    そしてその素材は、ニューソクが設置される場所を覆うようにして幾重にも重ねられ、今回の爆発に於いてもその力を発揮した。

     

    島そのものが消し飛ぶことはなく、灼熱の炎が空を目指して上昇し、あのような雲を作るだけでとどまっている。

    だがその威力はあまりにも強力であったため、今頃、施設の直上は大変なことになっているだろう。

    土砂の中から埋もれていた強化外骨格が姿を現しているかもしれないし、逆に、土に埋もれたかもしれない。

     

    ζ(゚ー゚*ζ「……」

     

    先ほどの店から三ブロック程離れた通りを歩いていると、一台のワゴン車がデレシアの傍を通り過ぎたところで路肩に停まった。

    運転席の窓が開き、見覚えのある手が車に乗るように促す。

    後部席にあるスライドドアが自動で開き、デレシアはそこから車内に入った。

    車はすぐに発車した。

     

    ζ(゚ー゚*ζ「どういう心境の変化かしら?」

     

    運転席の男の顔を見ずに、デレシアは質問を投げかける。

    後ろには本物の棺桶が積まれていた。

    僅かに香る花の芳香は、棺桶の中に遺体と共に敷き詰められた色とりどりの花弁を連想させる。

    運転手の男はルームミラーを一瞥してから答えた。

     

    (=゚д゚)「貸し借りの問題ラギ。

        それに、ここは歩調を合わせた方がいいだろ?

        まずは何があったのか教えてもらうラギ」

     

    ζ(゚ー゚*ζ「お互いにその時間が必要そうね」

     

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          ::( ( .     |:  !     )  )

            ヾ、 ⌒~'"|   |'⌒~'"´ ノ

              ""'''-. :|--''""   AmmoRe!!のようです

                  :|   |        Ammo for Reknit!!編 Epilogue

                  j   i

                ノ ,. , :, i,- ,..

          _,,  ,. -:::::::::::::Λ:::::::

    ,,^,-''":::::::::::::::|i;;;;;;/::::;;;;August 13th AM11:58

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    天高く成長していくキノコ雲を見上げて、イーディン・S・ジョーンズは声を上げて笑っていた。

    これが嗤わずにいられる物か。

    世界を滅ぼしたとされる炎が、今こうして目の前に現れている。

    文献と写真でしか見たことの無い雲の出現に、ジョーンズは勃起していた。

     

    (e)「おいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおい」

     

    学者である彼の口からは、まともな言葉が出てこない。

    興奮が彼の頭脳を支配し、下着の中に射精したことにすら気づかなかった。

    眼前の雲は破壊の化身であり、滅びの象徴。

    こうして目の当たりにして興奮しない研究者はいない。

     

    未知は学者にとって最高の興奮材料になる。

    多くの学者はその未知に惹かれ、破滅の道を歩んだ。

    破滅の一歩手前に味わえる快楽は、その味を知る者だけにしか分かり得ない。

     

    (e)「いやはや、いやはや。

       まいったね、いや、本当に」

     

    その様子を、ワタナベ・ビルケンシュトックは冷めた目で見ていた。

     

    ''从「ただの雲じゃない」

     

    素直な感想が口を突いて出てきたが、ジョーンズは気にする様子も見せず、学者らしく饒舌に語り始めた。

    余計な地雷を踏んだと後悔してもすでに遅く、ジョーンズはニューソクに関する講義を始めていた。

    適当に相槌を打つこともしないワタナベだが、そもそもジョーンズが求めているのは相槌でも理解でもなく、胸に溜まった知識の発散である。

    故に、彼はただ知識を垂れ流し、悦に入るだけで十分満足しているのであった。

     

    奇妙な問答、と呼んでいいのか分からない事を続ける二人はバンブー島の喫茶店からその景色を目撃していた。

    バンブー島はグルーバー島の西に位置し、ジュスティアと繋がる橋のある唯一の島だ。

    多少の犠牲を払い、二人はいち早くこの島へと逃げ込むことに成功し、島からの脱出が完了するのは時間の問題だった。

    迎えはすでに海中に来ているが、肝心のメンバーが揃っていない。

     

    ヘリコプターを使って上空に留まっているクール・オロラ・レッドウィングとクックル・タンカーブーツ。

    この二人の帰還があって初めて潜水艦、“レッド・オクトーバー”は潜航を開始する。

    ショボン達は別の手段でそれぞれ逃げさせる他なく、潜水艦に同乗させることは出来ない。

    始めの頃の予定は今や原形を留めておらず、一人でも多く敗走することが最優先となっていた。

     

    陣頭指揮を執るのはキュート・ウルヴァリン。

    ワタナベをティンバーランドの作戦に加担させた張本人であり、クックルやビロード・コンバースよりもずっと上の立場にいる人物だ。

    彼女は狂気と知性を兼ね備えた悪魔のような性格をしている。

    こうすることが今は最善の手であり、欲を捨てなければならない事は明白だった。

     

    (e)「しかし、この島にまさかニューソクがあったとは、思いもよらなかったなぁ!!

       ははは、貴重な一基をまさかあんな風に使うとは!!」

     

    ジョーンズの興奮は冷めるどころが、むしろより一層過熱している。

     

    (e)「見たまえよ、君!!

       こんな光景、一生の間に一度見られるなんて極めて、実に幸運なことなのだよ!!」

     

    同じ喫茶店にいる客たちは皆ジョーンズの奇行よりも、巨大な雲と地震に対する恐怖の方が圧倒的に勝っている。

    あれこそが破滅の炎であり、天罰であると叫ぶ信心深い者もいたが、誰も聞く耳を持たない。

    考えているのは皆同じである。

    あれは一体、何なのだ。

     

    グルーバー島での騒動は終わったはずではないのか。

    まだ悪夢から覚めてはいないのか。

     

    (e)「いやぁ、いいなぁ!!

       あの炎!! あの雲!!」

     

    無邪気にはしゃぐジョーンズの傍らで、ワタナベは腕時計に目を向けた。

    果たして、後数時間で何がどう変化し、結末と言う一枚の布を織りあげるのか。

    雲よりもワタナベの関心はそちらの方にあった。

    ジュスティア、ティンバーランド、そしてデレシア。

     

    この三つ巴の状況下では、何が起きてもおかしくないのだ。

    それこそ、一生に一度見る事が出来るかどうかの物になるかもしれない。

     

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        ./ ./          ィ =/  ! l || l            .| ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄     |i|

      ./_|           ̄/.  !  `.-.'            .|.=============|i|

      |__|           /   .|            August 13th PM00:47

    ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

     

    (=゚д゚)「……」

     

    ζ(゚ー゚*ζ「……」

     

    車内は沈黙で満ちていた。

    状況説明は極めて手短に済ませられ、余計な詮索は一切行われなかった。

    両者はこの島で起きたこと、起きようとしていることを理解し、どのように動くべきなのかを共通認識した。

    互いに意見が一致したのは、この島を出ない事には事態の大きな変化は見込まれない事だった。

     

    トラギコ・マウンテンライトはライダル・ヅーの遺体をジュスティアに運び、デレシアは旅を続けるために島を出なければならない。

    オアシズに戻るのも一つの手だが、これ以上リッチー・マニーに迷惑をかけたくはない。

    ティンバーランドはデレシアを狙ってまた何かしてくるだろう。

    となれば、今度こそオアシズは沈められかねない。

     

    一方で、デレシアは安全にブーンとヒート・オロラ・レッドウィングの両名を連れて島から出るという極めて難しい状況下にあった。

    力で押し通ろうと思えば可能だが、それをすることでジュスティアを全面的に敵に回すことになる。

    世界中の街にいる派遣警察官に手配されれば、それこそ逃避行となってしまう。

    追手を含め、ジュスティア関係者を皆殺しにすればそれも済むが、それは面白い話ではないし、ブーンの教育上よくない。

     

    そんなデレシアの状況とは異なり、トラギコはただ車を運転してジュスティアに向かえばいいだけだった。

    勿論、そんな簡単にトラギコを見逃すはずがない。

    彼は多くを知りすぎている。

    特に、ティンバーランドに関する情報は現職の警官で最も多く得ているはずだ。

     

    (=゚д゚)「俺の提案は受け入れるのか、入れないのか?」

     

    ζ(゚ー゚*ζ「悪くない提案だけど、もうひと押ししましょうか」

     

    トラギコから受けた提案は、実に彼らしいものだった。

    彼はティンバーランドから命を狙われており、単独でジュスティアまで生きて到着するのは困難だと考えていた。

    そこで、デレシアをジュスティアに連れて行きそこで解放することを条件に、トラギコの護衛を頼んだのだ。

    男としてのプライドやその他諸々を捨てた提案に、デレシアはトラギコへの評価を更に上げることとなった。

     

    この男は矜持の捨て所を知っている。

    かつてジョルジュ・マグナーニが正義と言う光が生み出す影として生きてきた時でさえも、彼は矜持を捨てなかった。

    彼は警官で在り続けようと、その矜持だけは最後まで握っていた。

    握り続けていたからこそ、彼は警官でいられた。

     

    だがそれを捨てた今、ジョルジュはただの独善者の尖兵となってしまった。

    対してトラギコは、最初から捨てるタイミングを知っているだけに、矜持によって存在が保たれているわけではない。

    ある意味で産まれながらの警察官であり、生まれついての才能だ。

     

    (;=゚д゚)「もうひと押し? あのなぁ、状況は分かってるだろ?

        俺もお前も、欲を張って平気な立場じゃねぇラギ」

     

    ζ(゚ー゚*ζ「いいえ、大丈夫よ。

          そのためにまず、オアシズに行きましょう」

     

    (;=゚д゚)「あのなぁ、俺の動向は監視されてるラギ。

        あの小僧たちを乗せてる時間も、そんなスペースも、ましてや隠し通せるだけの余裕はねぇラギ」

     

    オアシズによるという行為に、トラギコが思いついたことは確かに含まれている。

    ブーンとヒートを連れてこの島を出なければ、まるで意味がない。

    しかし、逃げる際には人数が少ない方が絶対的に有利なのは確かだ。

    怪我人と子供を加えれば、トラギコが考えている方法でジュスティアに至るのは不可能だ。

     

    ζ(゚ー゚*ζ「貴方、ジュスティアに戻るよう言われているんでしょう?

          オアシズであった事件の証人として。

          だったら、オアシズに忘れ物をしたと言えばいいだけよ」

     

    (=゚д゚)「……何で知ってるかについては訊かねぇとして、だ。

        忘れ物ってのは?」

     

    ζ(゚ー゚*ζ「白いジョン・ドゥよ」

     

    白い装甲に木をあしらった金色のロゴ。

    その悪趣味な棺桶は、オアシズに保管されている。

    外装の変更だけならまだしも、起動コードの書き換えまで行われたそれは“ゲイツ”全滅に大きく関与する物だ。

    使用されている部品から内藤財団に行き着く可能性は大いにある。

     

    それがあればトラギコの説明にも説得力が出てくる上に、ジュスティアにティンバーランドの存在を認知させる材料になる。

     

    (=゚д゚)「それで、それを積んだらどうするラギ?」

     

    ζ(゚ー゚*ζ「マニーに言って、車を用意してもらいましょう。

          今乗っている車に貴方とヅーを。

          もう一台にジョン・ドゥと私達を。

          そうすれば全員でジュスティアに行けるわ」

     

    (;=゚д゚)「……」

     

    ζ(゚ー゚*ζ「そうそう。 あの記者さんも呼ばないと、たぶん、今日中に殺されるわよ」

     

    アサピー・ポストマンという男はトラギコと共にこの島で動き、多くの事件をその目に焼き付け、写真に収めた男だ。

    すでに極めて利用価値の高い二枚の写真を入手しており、これ以上生きていられればティンバーランドにとっては邪魔にしかならない。

    ならば、ジュスティアに連れて行きそこで保護させておけばまだいくらかは安全なはずだ。

    エラルテ記念病院の事を記事にするなど、ジュスティアからは良く思われていないだろうが、それ故に監視の目は強くなる。

     

    (=゚д゚)「だけど、今あいつがどこにいるのか俺は知らねぇラギ」

     

    ζ(゚ー゚*ζ「大丈夫よ。 今頃オアシズにいるから」

     

    トラギコは無言だったが、心中でアサピーの境遇に少しだけ同情を禁じ得なかった。

     

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             ヾ、i     ̄   ,.' /O ] /:::/!/ August 13th PM01:19

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    アサピー・ポストマンは仔犬のように震えていた。

    それでもカメラを手放さないのは、彼の体に染みついたカメラマンとしての本能故だろう。

    昨夜は幸運に見舞われ、ジョルジュの写真の撮影に成功し、今朝は逮捕されたショボン達の姿を撮ることが出来た。

    それを記事にして印刷し、外部委託によって世界中に配る算段が出来たところで気を失い、気が付けば窓のない部屋に寝かされていたのだ。

     

    自分の置かれた状況をまだ理解できていないアサピーは、とにかく、部屋の写真を撮ろうと考えた。

    だが彼のカメラに入っているはずのフィルムは抜き取られ、何も出来ない状態になっていた。

    分厚い鋼鉄の扉は固く閉ざされ、アサピーの細腕でどうにかなるものではなかった。

     

    ;-@@)「はぁ……」

     

    とりあえず部屋の隅に座り、何か変化が起きることを待ち続け、すでに三時間以上が経過していた。

    殺風景な部屋ではあったが、サンドイッチと紅茶の入った魔法瓶が用意されており、不自由はなかった。

    正午が過ぎ、次第に不安が大きくなってきた頃、扉がゆっくりと押し開かれた。

     

    (=゚д゚)「よう」

     

    現れたのはトラギコだった。

    アサピーは泣きだしたくなるほどに安堵し、彼の元へと駆け寄り、抱き付いた。

    その脳天をトラギコの拳が容赦なく襲い、たまらずその場にうずくまる。

     

    (;-@@)「いってぇぇぇ……!!」

     

    (=゚д゚)「男に抱き付かれる趣味はねぇラギ。

        それより、仕事ラギ」

     

    -@@)「へ?」

     

    (=゚д゚)「お前、車は運転できるだろ?」

     

    喜びもつかの間。

    アサピーは再び不安な気持ちを抱いたが、同時に、期待している気持ちもあった。

    トラギコがアサピーに何か物を頼む時、それは例外なく大きなスクープに直結している。

    すでに手に入れた記事のネタだけで、アサピーは新聞社内で即日英雄となることが出来るだろう。

     

    これ以上温存させるのもどうかと思うが、ネタはあればあるだけいい。

    フィルムはトラギコに渡しているため、記事にするには時間がかかってしまう。

    それを考えると、再び別のネタに関わることが出来れば出世の道が近付くことになる。

    今はとにかく走り続けるしかないことに、アサピーは気付いていた。

     

    -@@)「え、えぇ……」

     

    (=゚д゚)「よし、俺とドライブするラギ。

        いいとこに連れてってやるよ」

     

    -@@)「嫌な予感しかしないんですが……」

     

    (=゚д゚)「あ? 俺の言う事が怪しいってことラギ?」

     

    ;-@@)「いえいえ、めっそうもない!!」

     

    (=゚д゚)「なら素直に言う事をきけばいいラギよ。

        スクープの約束、ちゃんと守ってるだろ?」

     

    そう。

    確かにトラギコはスクープの現場にアサピーを遭遇させ、写真の撮影までさせている。

    その写真が全てトラギコの手元に渡っていることを除けば、約束は守られているのだ。

     

    ;-@@)「ぐぬ……

          分かったよ、分かりましたよ!!

          それで、どこに行けばいいんですか?」

     

    (=゚д゚)「ジュスティア」

     

    時間が停止した気分だった。

    今、トラギコが口にした街の名前を知らないわけではない。

    警察の総本山であり、今、この島で最も活発な活動をしている街の名前だ。

    ある意味、世界で一番安全な場所かもしれないが、アサピーのような人間にとっては極めて居心地の悪い場所だ。

     

    ジュスティアから恨まれている身で街に入ろうものなら、熱烈な歓迎を受けることは間違いない。

    最悪の場合新聞記者としての生命が断たれかねないのだ。

    それだけでなく、トラギコがジュスティアに戻ればどういう扱いを受けるのか、想像に難くない。

     

    ;-@@)「本気ですか?」

     

    (=゚д゚)「当たり前だろ」

     

    それでも街に向かうからには、何かしらの算段、勝算があるのだ。

     

    ;-@@)「じ、じゃあやりますよ……」

     

    (=゚д゚)「なら、今から行くラギよ」

     

    ;-@@)「えぇ?!」

     

    (=゚д゚)「善は急げって言うだろ?

        お前はただ俺の後について車を走らせればいいだけラギ」

     

    そう言ってさっさと部屋を出て行くトラギコの後ろについて行くと、アサピーは自分がいた場所がどこであるのかを理解した。

    ここは、オアシズだ。

    オアシズの船倉付近にある小さな部屋に、アサピーはいつの間にか連れ込まれていたのだ。

    船内を歩き、見たことのある景色にアサピーは安堵すると同時に疑問を抱いた。

     

    -@@)「そう言えば、僕をここに連れてきたのは誰なんで?」

     

    (=゚д゚)「さぁな。 気にしない方がいいラギ」

     

    そしてトラギコはスモークガラス仕様の白いワゴン車と白いSUVの前で立ち止まる。

    詳しい話の無いまま、トラギコはアサピーにSUVに乗るよう無言で指示をした。

    運転席に座り、エンジンをかける。

    静かにエンジンが始動し、車内に明かりが灯る。

     

    後部座席と運転席は分厚い板で仕切られており、こちらから後ろの様子を見ることは出来なかったが、バックモニターが装備されているおかげで駐車には困らなそう立った。

    一体アサピーは何故車を運転しなければならないのだろうか。

    そう思った時、聞き慣れた声が車内のスピーカーから聞こえてきた。

     

    (=゚д゚)『どうだ? 運転できそうか?』

     

    隣に停まるワゴン車の窓が降り、トラギコがそこから顔をのぞかせて耳を指さした。

     

    -@@)「トラギコさん!!

          すげぇ!! これ最新の遠距離無線通信機ですよね!!」

     

    (=゚д゚)『あぁ、盗聴防止のな』

     

    -@@)「すっげぇ!!」

     

    流石はオアシズ。

    惜し気もなく高級な装置を車に搭載し、それをこうして提供してくれるとは。

     

    (#=゚д゚)『うるせぇ馬鹿。

         いいか、俺の言った通りに運転するラギ』

     

    -@@)「あ、はい……」

     

    窓を戻して、トラギコが先に車を発進させる。

    その後ろにアサピーの乗るSUVが続く。

    オアシズから降車した二台を、オアシズの市長が複雑な表情で見送っていたことにアサピーは気付くことが出来なかった。

     

    ¥・∀・¥「……」

     

    勿論。

    それ以外の視線に気づくことなど、アサピーだけでなくトラギコも不可能だった。

     

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           `て. . . . . .l|{  人 . . . い二  ̄i′ノイj7. j. / ′

             ⌒ミ. . . . . 人\__, . . トミ        {_,ノィ´.,|(___

            __,. . . . ´{. .`ト _,、 ヽ.{         t .ノ 从.j,

            ‘⌒て. . . .弋 ト|   {        --- , /  ノ′

        { ̄ ̄`¨¨⌒ミー‐<`   .         ‐‐  /August 13th PM01:33

       人__       `丶  \ { \        /

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    観測者からトラギコが一度オアシズに立ち寄った事を聞き、ビロード・コンバースは思わぬ幸運に内心で歓喜した。

    一石二鳥とは正にこの事。

    忘れ物をしたと連絡があったらしいが、オアシズに立ち寄ったのはデレシアを回収するために違いない。

    どんな理由があったのかについては分からないが、あの二人が協力関係にあるのは紛れもない事実。

     

    二人まとめて殺すことが出来れば、ティンバーランドの脅威が二つ減ることになる。

    極めて僥倖と言わざるを得ない。

     

    ( ><)「……くくっ」

     

    ヅーの棺桶に仕込んだ高性能爆弾を使えば、車ごと全員粉々に吹き飛ばせる。

    デレシアと言うテロリストによる特攻によってトラギコとヅーが殺された、としておけば万が一デレシアが生き残ったとしても、指名手配によってどこまでも追う事が出来る。

    どう転んでもビロードにとって都合のいい結果にしかならない。

    仕掛けた爆弾は極めて性能が高く、小型で、そして専用の探知機が無ければ決して発見できない。

     

    発信機から指定された距離から離れた時に爆発する設定は、万が一にも爆殺が失敗しないための保険だ。

    遠隔操作での爆破も可能だが、やはり、タイミングが肝心となるため、ビロードとしては後者の装置による起爆が望ましかった。

    ジュスティアに行く前に、トラギコを乗せたワゴンは橋の付近、人気のない場所で爆発四散する。

    グルーバー島を出る頃には、木っ端みじんになっているだろう。

     

    思いがけない展開だ。

     

    o*゚ー゚)o「嬉しそうだな、同志ビロード。

           あぁ、ベルベット、と呼ばないといけないんだったな」

     

    ( ><)「人払いはしてあるから大丈夫なんです。

         トラギコがジュスティアに向かったんです、しかも、デレシアを乗せて!!」

     

    興奮を隠そうともせず、ビロードは転がり込んできた最高のニュースをキュート・ウルヴァリンに伝えた。

    さぞや喜んでくれるだろうと期待したのだが、キュートは眉を潜めた。

     

    o*゚-゚)o「……車は何台だ?」

     

    ( ><)「……? 二台なんです」

     

    o*゚-゚)o「どこかに立ち寄ったのか?」

     

    ( ><)「オアシズに……」

     

    直後、キュートの脚がビロードの膝を襲った。

    バランスを崩した彼の胸倉を掴んで引き寄せ、キュートは静かに告げる。

     

    o*゚-゚)o「やってくれたな、この馬鹿が。

           お前のせいでデレシア達はこの島から大手を振って逃げるだけじゃなく、余計なものまで連れ帰ることになった。

           私の計画はこれで終わりだ。

           頭の中に糞でも詰まってるのか、お前は」

     

    今にも噛み付きそうな距離で、今にも喉仏を握り潰されるほどの剣幕。

    ビロードは何が起き、何故、自分が今キュートに“本当に”殺されそうになっているのか理解できなかった。

     

    (;><)「え? え?」

     

    o*゚-゚)o「頼みの綱は円卓十二騎士だけだ。

           手遅れだと思うが、今、起爆させろ」

     

    言われるがまま、ビロードは言葉に従って起爆装置の電源を入れた。

    だが、その日ティンカーベルで爆発音が聞こえることは一度もなかった。

     

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                               ‐― 〇 ――

                       , ⌒⌒ヽ      / l \

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    ――ブーンは窓の外を流れて行く景色を見て、それから、ヒート・オロラ・レッドウィングの方を見た。

    ジュスティアまでは四時間ほどで到着するということで、ヒートは少しでも体力を回復するために睡眠をとっている。

    ブーンは彼女の傍に身を寄せ、自分も瞼を降ろして眠ることにした。

    ヒートの呼吸に合わせ、ブーンも呼吸をする。

     

    こうしているだけで、ブーンはこの上なく落ち着くことが出来た。

     

    ζ(゚ー゚*ζ「……」

     

    その様子を、デレシアは慈母の笑みを浮かべて眺めていた。

    リッチー・マニーに提供させたSUVの後部席は極めて性能のいいサスペンションの力で振動をほとんど感じることもなく、また、外部の雑音も聞こえてこない仕様になっていた。

    二人分の寝息だけが聞こえる、静かな車内。

    もう間もなく、車はバンブー島に通じる橋へと至るところだった。

     

    前方を走るワゴン車にはトラギコが乗っており、その後ろには極めて重要な証拠品が収められている。

    一つはライダル・ヅーの遺体。

    一つは白いジョン・ドゥの残骸。

    そしてもう一つは、デレシア達の移動手段である大型バイク“アイディール”である。

     

    大型バイクを積んだワゴン車には余計なスペースがなく、ジョン・ドゥの部品を全て載せることは出来なかった。

    それでも、かなりの収穫物になるはずだとデレシアは考えていた。

    ティンバーランドとしてはあまり表に出したくないだろうし、ジュスティアに知られたくないはずだ。

    最も彼らが嫌っているのは、トラギコが生きてジュスティアに戻る事だろう。

     

    オアシズで起こった事件の詳細を知っているだけでなく、グルーバー島で起きた事件にも深く関わり、ティンバーランドの事についても知ってしまった。

    恐れるべき厄介な生き証人。

    所有する証拠品も全てがティンバーランドに不利益を生み出す存在だが、厄介極まりない存在故に安易な方法で殺すことが出来ない。

    暗殺に複数失敗し、ついにここまで来てしまった。

     

    最後に選んだ手段に間違いはなかったが、そのタイミングが間違いだった。

    トラギコと合流した段階でデレシアは気付いていたが、何事もなくオアシズに到着し、アイディールをワゴン車に積む段階でブーンも気付いた。

     

    (∪´ω`)「……お?

          へんなおとが、します……」

     

    ワゴン車の前でアイディールが積み込まれるのを見ながら、ブーンは小首を傾げた。

     

    (=゚д゚)「あ? 俺の腹の音か?」

     

    トラギコがブーンの言葉に反応した。

    すでに面識のある二人の距離は心なしか近く、ブーンもトラギコに怯えた様子は見せていない。

     

    (∪;´ω`)「ち、ちがいます……

          なんか、じーって、へんなかんじのおとです……」

     

    ζ(゚ー゚*ζ「あら、やっぱり。

           刑事さん。 ヅーの棺桶、交換した方がいいわよ」

     

    アイディールの横に並ぶ黒い棺桶を指さし、デレシアが提言する。

    その言葉にトラギコは噛み付くこともせず、純粋な質問で返した。

     

    (=゚д゚)「……何かしてくるはずだと思って調べたんだが、見逃しがあったってことラギ?」

     

    彼ほどの警戒心があっても、知識が無ければあの棺桶はただの棺桶にしか見えない。

    正しい知識を持っている人間は専門家の中にも数えるほどしかいない事だろう。

    何より、専門の道具を用意しなければ発見は不可能なのだ。

     

    ζ(゚ー゚*ζ「そう簡単に気付けないだけよ。

          あの棺桶自体が爆弾なの」

     

    ブーンに視線で車に乗るよう促す。

    大人が困る姿は見せたくない。

    素直に頷き、ブーンはヒートが待つSUVに乗り込んだ。

     

    (;=゚д゚)「マジか……」

     

    オアシズでは爆弾解体の経験があると言っていたトラギコは、己の見逃しに頭を抱えた。

    彼の警戒は間違っていなかったし、手段も恐らくは正しかったはずだ。

    気にすることなど何もないだろうに、責任感の強さは流石警察官と言うべきか。

     

    ζ(゚ー゚*ζ「気に病む必要はないわ。

          それより、そろそろ出発するから運転手を連れて来てもらえるかしら?」

     

    (=゚д゚)「あぁ、分かったラギ。

        ……だけどその前に、もう一度確認するラギ。

        俺はお前らをジュスティアまで連れて行く。

        お前は俺が殺されないようにジュスティアまで付いてくる。

     

        到着するまでの間の関係ってことで良いラギね?」

     

    ζ(゚ー゚*ζ「ふふ、用心深いのね。

          貴方のお願いを叶えてあげたでしょ?

          その最後の仕上げは、刑事さん、貴方の手でしないとね」

     

    無表情のまま、トラギコは溜息を吐いた。

    この男は物事の優先順位を考え、的確に立ち回れる人間だ。

    デレシアを追っているという立場を忘れ、力を貸すことで得られる利益の大きさを理解している。

     

    (=゚д゚)「分かってるラギ。 言っただろ、確認だって」

     

    そう言い残し、トラギコはアサピーを迎えに行った。

    実に優秀な警官だが、いつかその優秀さが仇となって命を失わなければいいのだがと、デレシアは静かに思った。

     

    ζ(゚ー゚*ζ「……ロウガ、聞いていたわね?」

     

    物音ひとつさせずに、黒いジャケットを隙なく着込んだロウガ・ウォルフスキンが物陰から姿を現す。

    黒いつば広帽の下で、深紅の瞳が怪しげに輝く。

     

    i、゚ー ゚イ`!「はい」

     

    ζ(゚ー゚*ζ「棺桶の入れ替えをしておいて。

          それと、あれは手に入ったかしら?」

     

    首肯し、ロウガが懐から取り出した茶封筒を手渡す。

     

    i、゚ー ゚イ`!「こちらです」

     

    ζ(゚ー゚*ζ「ありがとう。

          イルトリアに戻ったら、皆によろしく言っておいて」

     

    i、゚ー ゚イ`!「かしこまりました。

           どうかご無事で」

     

    ζ(゚ー゚*ζ「えぇ」

     

    握手を交わし、二人は別れる。

    ロウガは静かに姿を消し、デレシアは車に乗る。

     

    ノパ⊿゚)「ジュスティアに行くんだってな。

        あたしらお尋ね者じゃねぇのか?」

     

    扉を閉めると、半臥の状態でくつろいでいるヒートが当然の疑問を口にした。

    街中に警察官のいるジュスティアに降り立てば、半日ともたない。

    トラギコがいない今なら、今後の動向を話しても大丈夫だと考えたデレシアは手短に伝えることにした。

     

    ζ(゚ー゚*ζ「ジュスティアはあくまでも経由する場所だから問題ないわ」

     

    ノパ⊿゚)「経由?」

     

    ζ(゚ー゚*ζ「貴女の“レオン”を直さないといけないでしょ?

           だから、ラヴニカに向かうわ」

     

    ――“ギルドの都”、ラヴニカ。

    それは、永久凍土の地に広がる街、シャルラを越えた先にある、無数のギルドによって構成された巨大な都市。

    世界中に流通している電子機器や棺桶の修復に深く関与しており、例えコンセプト・シリーズの棺桶であっても修理が出来る。

    ヒートのレオンは極めて重要な切り札であり、ここで失うのは惜しい。

     

    幸いなことにレオンの損傷は軽微であり、別の棺桶の部品を流用すれば修理は可能なはずだ。

     

    ζ(゚ー゚*ζ「ラヴニカには?」

     

    ノパ⊿゚)「いいや、行ったことねぇな。

        だけど、偏屈な人間が集まってる街なのは聞いたことがある」

     

    (∪´ω`)「へんくつ?」

     

    ζ(゚ー゚*ζ「変わっている、ってことよ」

     

    (∪´ω`)゛「おー」

     

    ノパ⊿゚)「でもよ、ジュスティアから出て行くんならもう一度スリーピースを越えないといけないだろ?

        トラギコ抜きで平気なのか?」

     

    街を覆う巨大な三枚の防壁は、世界で最も優れた検問所の役割も担っている。

    世界最高の検問を三度潜り抜けなければジュスティアに入ることも、出ることも出来ない。

    ジュスティアよりも北に位置するラヴニカに行くには、ジュスティアに入ってジュスティアから出て行かなければならないのだ。

     

    ζ(゚ー゚*ζ「大丈夫。 エライジャクレイグの新型車両がちょうど停まっているから、それに乗って行くわ」

     

    鉄道都市“エライジャクレイグ”。

    それは世界中に敷かれた線路を使用する全ての鉄道車両が停まる、終着の街。

    テ・ジヴェを保有するシーサイドシュトラーセ鉄道もエライジャクレイグの一部であり、ポートエレンからジュスティア、そしてその途中まで海岸沿いに走る列車を担当している。

    つまり、街の一部である鉄道が世界中を駆け巡っているという点で言えば、オアシズに極めて近い街なのである。

     

    鉄道の恩恵は世界的に巨大であるため、線路が敷かれている街でも列車だけは特別な扱いを受ける。

    スリーピースを通ってジュスティア内に入る列車は通常よりも手早い検問が求められるため、実際にスリーピースで受ける検問よりも簡易的になる。

    列車から降りるのであればスリーピースでの検問を受けるが、列車から降りない場合か街から列車に乗る場合に限ってはその検問が免除される。

    従って、スリーピースをもう一度突破する必要はないのだ。

     

    ノパ⊿゚)「チケットがいるだろ?

        結局、その発行に……

        ってことは分かってるだろうから、用意は済んでるわけか」

     

    ζ(^^*ζ

     

    デレシアは笑みで肯定を示したのであった。

     

    ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

     

      Q: 糸は針を見る。 針は布を見る。 布は人を見る。 では、人は何を見る?

     

      A:人は時を見る。

       これまでに己が縫い上げてきた物。 今縫い上げている物。

       そして、これから己が縫い上げる物。

       全て、時を見ているのだ。

     

                                             ――“魔女”の答え

     

    ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

     

    バンブー島を走り抜け、トラギコ達を乗せた車はジュスティアへと通じる橋の前にもう間もなく到着するところだった。

    大陸に通じる巨大な橋が見えてきた事で、トラギコはジュスティアに戻るのだと痛感した。

    オアシズに乗り込む前に寄った以来だが、随分昔の事のように感じる。

    この島であった“デイジー紛争”以来、ジュスティアとティンカーベルを繋ぐ橋の重要性は極めて高いものになっていた。

     

    いわば、ジュスティアとティンカーベルの友好の証のような物だ。

    これがなければティンカーベルはただの寂れた街でしかなく、観光での発展も安全な街もなかっただろう。

    橋の前に立つ二つの人影を見て、トラギコはゆっくりと速度を落とした。

     

    (´・_`)

     

    <_プー゚)

     

    円卓十二騎士の二人だ。

    トラギコがオアシズに寄っている間にここに来たのだろう。

    そして、彼らが受けている使命はデレシアの捕獲。

    今のトラギコとは相反する目的を有している。

     

    二人の前で停車させ、トラギコは窓を開けて身を乗り出した。

     

    (=゚д゚)「よう」

     

    車から降りずに、トラギコはそう声をかける。

    二人の騎士は強化外骨格のコンテナを背負い、鋭い眼光をトラギコに向けている。

     

    (´・_`)「ジュスティアに行くのか」

     

    ショーン・コネリの問いに、トラギコは皮肉たっぷりな笑顔を浮かべた。

     

    (=゚д゚)「まぁな。 呼ばれちまったからよ」

     

    (´・_`)「話によれば車は一台だけだが?」

     

    (=゚д゚)「予定は変わるものラギ」

     

    しばしの沈黙。

    海風がトラギコの顔を殴るように吹き付ける。

    ショーンが一歩踏み出し――

     

    (´・_`)「そうだな。

        それなら仕方ない」

     

    ――そして、トラギコに道を譲った。

     

    (=゚д゚)「……いいのかよ」

     

    (´・_`)「俺達が受けた指令は、デレシアを捕まえろ、だ。

        本部から帰還命令の出ている人間の足止めをしろ、ではない」

     

    (=゚д゚)「わりぃな」

     

    <_プー゚)フ『借りは、これで返したぞ』

     

    (=゚д゚)「へっ、律儀な奴ラギ」

     

    別れの言葉はそれで十分だった。

    彼らは彼らの仕事がある。

    トラギコはジュスティアに向かい、オアシズで起こった事件の真相を語る。

    騎士たちはジュスティアの街に巣食う寄生虫の動きを見張るため。

     

    二台の車が走り出す。

     

    (=゚д゚)「……」

     

    島が遠ざかる。

    一直線に続く橋の先に待つのは何か、今は、まるで予想が出来ない。

    トラギコは街につき次第、すぐに軍から尋問を受けることになるだろう。

    ティンバーランドという組織を認知するかどうかは、白いジョン・ドゥの残骸次第だ。

     

    助手席に置かれた小型無線機に手を伸ばし、その向こうに声をかける。

     

    (=゚д゚)「おい、カメラマン」

     

    無線を使い、後方を走るアサピーに連絡を入れる。

     

    -@@)『はい?』

     

    (=゚д゚)「ジュスティアに着いたら、フィルムはお前に渡す。

        後は任せるラギ」

     

    -@@)『え?! いいんですかい?!』

     

    (=゚д゚)「俺が持ってるってことになれば、連中は俺を狙うだろう。

        そうなった時に、保険としてお前が持っていてほしいラギ。

        到着して俺から連絡が三日以上取れなかったら、そのフィルムを世間に公表するラギ。

        いいな?」

     

    すでにジュスティア内にティンバーランドの細胞が紛れ込んでいることは確実だ。

    ベルベット・オールスター程の立場の人間であれば、街の中にいる人間を買収してトラギコを殺させることが出来るだろう。

    警察署内には出世を邪魔され、狙っていた事件の手柄を先に取られただけでトラギコを目の敵にしている人間が大勢いる。

    彼等なら飲食物に毒を盛ることも、トラギコを尋問の過程で殺すことも出来る。

     

    そうなってしまえば、せっかく手に入れた証拠も意味がなくなる。

    ならば、一度トラギコの手にあると見せた証拠品を別の人間の手に渡し、最悪の場合に備えておくのは当然のことと言えた。

     

    (=゚д゚)「面倒をかけるが、頼んだぞ」

     

    何かアサピーが言っていたが、トラギコは無線機の主電源を切った。

    当然のことだが、フィルムを全て渡すというのは嘘である。

    実際にアサピーに手渡すのは、狙撃の瞬間を捉えたフィルムとダミーのフィルムであり、ジョルジュが狼を撃ち殺す物については彼自身が管理する。

    これが無ければトラギコの行動はただの暴走となるが、そうでなければ、ジョルジュが犯罪者である証拠として残すことが出来る。

     

    嘘を吐いた理由は二つある。

    アサピーを欺くことで、万が一に備える事が出来るという点。

    そして、この車に盗聴器が仕掛けられている場合に備えてという点だ。

    この二点を考慮して、トラギコは半分の嘘を吐くことにした。

     

    これから先、事態がどのように変化していくのかは今しばらく静観が必要になる。

    準備を整え、次にまた同じような事態が起きたとしたら今度は自力で解決出来なければならない。

    デレシアは気まぐれでトラギコに手を貸しただけにすぎず、もしもその助力が無かったら今頃島は修復が出来ない程の混沌に包まれていた事だろう。

    混沌の中でいくつもの主導権が奪われ、いくつもの細菌がジュスティア内に潜り込んで、内部からジュスティアを崩壊させる原因に繋がったかもしれない。

     

    同時に、ティンバーランドという秘密結社の危険性がよく分かった一件でもあった。

    本当に今追うべきなのは、デレシアではなくティンバーランドなのかもしれない。

    オセアンからここまで追ってきて、デレシアは幾度となくその尻尾を見せたが、掴ませるまでには至らなかった。

    否、こちらが掴もうという気にならなかった、というべきだ。

     

    彼女がいたから解決した事件や状況を考えると、捕えるのはあまりにも意味がなかった。

    ひょっとしたら、オセアンで起きた事件もティンバーランドが関係しているのではないか。

    憶測でしかないがその可能性は極めて高く、フォレスタで捕まえた男が消えた理由も説明がつく。

    デレシアに関わり始めた時からすでに自分はレールの上に乗っていて、そのレールの続く先も分からないまま走り出していることに気が付いてしまう。

     

    ――果たして、自分がこの先向かうのは一体どこなのだろうかと、トラギコは思わざるを得なかった。

     

    ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

                                  ┓

    .                             |i

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                                    r幵゚-______/

                                  ____, |:Пイ12 .i August 13th ???

       r''ーーーーーーー──--------------┴┴---------┴────-----,,,,,_

       ヽ__,´ ̄`ーー……………………'´¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨`…………………──-、_,'

        `-_ニニニ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄二二二二二二二二' ̄ ̄ ̄`,二二二二ニイ*]

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    原子力潜水艦“レッド・オクトーバー”は海底を北に向けて航行していた。

    ただでさえ淀んだ空気の船内には、険悪な空気が漂っていた。

    険悪な空気を醸し出しているのは一人の女とそれに対峙する男だった。

     

    (#゚∋゚)「また、やらかしたようだな」

     

    ''从「馬鹿が勝手にやらかしただけでしょ」

     

    クックル・タンカーブーツの怒号にも似た声を受けても、ワタナベ・ビルケンシュトックは怯まなかった。

    怯えるどころか、真っ向から彼を見据えて嘲笑するような表情さえ浮かべている。

    体格差は圧倒的。

    腕力は言わずもがなだ。

     

    (#゚∋゚)「同志達を危険に晒し、あまつさえ対象を逃がすようなことをしでかしたのは貴様だ!!」

     

    ''从「煩い、怒鳴るなよ。

         あんたの声、頭に響いて不愉快なのよ」

     

    ワタナベは非常に細身の体をしているが、体に染みついた暗殺術の数々は単純な膂力を凌ぎ得るだけのものがある。

    人体の弱点を知り尽くし、必要最低限の力と動きで最速の死を与えてきたからこその自信となっている。

    彼女が道具を使わずに殺めてきた人の数は、クックルが道具を使って殺めてきた数に決して劣らないだろう。

    老若男女、必要とあれば容赦なく殺し続けてきた彼女にとって、体格の差など殺す上ではあまり関係はない。

     

    (#゚∋゚)「同志ショボンもジョルジュも、シュールさえ捕まったんだ!!

        しかも折角得た同志を一人失う始末……!!

        全て貴様のせいだろ!!」

     

    ''从「私の何がどうしてそんなことに繋がるのかしら?

          勝手に失敗した連中の責任まで私に擦り付けるの、止めてもらえる?」

     

    ワタナベは己の信念と欲望に従って動いただけである。

    それがたまたま組織の不利益につながっただけの事。

    気に病むことは何もない。

     

    (#゚∋゚)「情報を流して全体の妨害をしたのは誰だ?!

        同志シュールの邪魔をしてトラギコを逃がしたのは誰だ?!」

     

    言い終わるよりも早くクックルの握り拳がワタナベの顔に放たれ、ほぼ同時にワタナベは隠し持っていたナイフがクックルの心臓に向ける。

    互いに攻撃が触れるほんのわずかな位置で止め、互いにまっすぐ相手の目の奥を睨んでいた。

    瞬き一つせず、二人はその状態からゆっくりと元に戻る。

     

    ( ゚∋゚)「銃を降ろせ、同志クール」

     

    二人の成り行きを完全な傍観者として見ていたクール・オロラ・レッドウィングは両手に拳銃を構え、二人に向けていた。

    銃の安全装置は解除されており、撃鉄も起きている。

    本気で撃とうと思えば撃てる状態だ。

    刺激させるのは得策ではない。

     

    川 ゚ -)「殺し合いをする必要はないだろう」

     

    ''从「じゃれてただけよぉ」

     

    両手を挙げておどけて見せるワタナベ。

    その目は嗤っていない。

    折角のチャンスを奪われたことに対する激怒の炎すら、目の奥に浮かんでいる。

    しかし表情は笑みのままで、クールは銃爪から指を離す事が出来なかった。

     

    川 ゚ -)「どうだかな。 それより今は、同志ショボン達をどう助け出すかが問題だ」

     

    ''从「その辺は大丈夫でしょ。

         向こうにはキュートがいるんだしぃ。

         それに、こういう時のためのビロードとシナーでしょ?」

     

    キュート・ウルヴァリンとビロード・コンバースはジュスティアの人間として、島に滞在している。

    ショボン達を自由の身にするのは造作もない事だ。

    それに、シナー・クラークスもまだ島に残っている。

    彼が陽動を担当すれば、赤子の手をひねる要領でショボン達を解放することが出来る。

     

    川 ゚ -)「さっき連絡があって、デレシア達が島を出たそうだ。

         お前の愛しいトラギコの手引きでな」

     

    無事に島を出て行った先にあるのは、正義の都、ジュスティア。

    トラギコのホームグラウンドにして、ティンバーランドが少しずつ浸食を開始している街。

    警察の本拠地であり、世界の秩序を守らんとする世界最大の治安維持思想の集まり。

     

    ''从「……ふぅん。

         そっちは仕損じたんだぁ。

         残念ねぇ」

     

    一度でも戦いを見れば、あのデレシア達がそう簡単に仕留められるとは思えないはずだ。

    あれは、ワタナベがこれまでの人生で出会った女の中で最も恐ろしい人種だった。

    道具に頼って戦う人間とは違い、純粋な戦闘能力で他を圧倒する姿は、ワタナベにとってはある意味で理想の境地だ。

    最小限の道具で最大の殺戮を行う姿は、快楽殺人者にとっては究極の姿だ。

     

    絶対に勝てる状況でなければ、まずこちらの意図した通りには行かないだろう。

    それが分かっていない人間が組織にいることが、ワタナベにとって不満な点だった。

    無知は全体の危機につながる。

    組織が潰れたとしてもワタナベは何とも思わないが、自分が困るのだけは断じて看過できない。

     

    しかしながら、これから先、彼女達の旅がどうなっていくのか実に気になる。

    世界を変えようとする秘密結社と敵対する、五指にも満たない旅人たち。

    絡み合い、歪んだ作品は今新たな布へと仕上がった。

    デレシアはほぼ単独で編み直し――reknit――を成し遂げたというわけだ。

     

    ''从「楽しくなりそうねぇ」

     

    ワタナベの呟きを聞いて同意した人間は、その場に一人もいなかった――

     

    ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

     

                           AmmoRe!!のようです

                         Ammo for Reknit!!編 The End

                                   ・

                                   ・

                                   ・

                                   ・

                                   ・

                                   ・

     

    ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

     

    「ふーんふふふふふーん、ふーんふふふーん」

     

    背の高い男だった。

    肉付きがよく、引き締まった体は彫刻を思わせる美しささえあった。

    だが陰鬱気な気配を漂わせる顔と剣呑な表情は、まるで堅気の人間には見えない。

    しかし彼は堅気の人間だった。

     

    上機嫌に鼻歌を歌い、不器用な笑顔を浮かべてリラックスしていた。

    不審者そのものの姿だった。

     

    「ふーふふふふふふーん、ふふふーふふん?」

     

    時折途切れる鼻歌は、昔から伝えられる列車の歌だった。

    男は列車のチケットを手に、喫茶店の窓から見える大型の列車を見つめていた。

    白い巨体。

    まるで白い大蛇のような姿でありながら、禍々しさは一切感じられない。

     

    その列車の名前は“スノー・ピアサー”。

    男の手元に置かれているパンフレットによれば、世界で初めて強化外骨格を使用した列車との事だった。

    詳細はまだ非公開との事で、明日の始発式で公表されるらしい。

    字面を見ても男にはその列車の凄さが分からない。

     

    男には強化外骨格の意味は分かっていたが、その姿や実際の使われ方がよく想像できなかった。

    それだけではなく、彼には過去の記憶がまるで残っていないため、これから乗ろうとする列車の背景についてもまるで分かっていない。

    彼はオセアンと言う街で彼は大きな事件に巻き込まれ、生存が絶望的な状況下から意識を取り戻した人間だった。

    ビルの高所から落ちた彼は病院で目覚め、ほとんどの記憶を失っていた。

     

    彼の名前はサイレントマン。

    病院でもらった仮の名前だったが、彼はその名前が気に入っていた。

    退院の際に受け取ったのは何とかやりくりできる金額の金貨と最低限の衣類。

    多くを望まなければどこかの街で働き、住めるように配慮された結果だった。

     

    彼はこの街を去ることにしていた。

    ジュスティアは、彼にとって育ての親のような街だが、今、彼にはある衝動があった。

    意識を取り戻してからずっと脳内で蘇る女性に会い、自分の正体を尋ねたかった。

     

    ( ゙゚_ゞ゚)「らららー」

     

                   R e r a i l

    そして、人生のレールに乗りなおすのだ――

               ___________|

              [|[||  To Be Continued....!    >

                ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄|



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ページのおしまいだよ。。と