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第九章【knitter-編む者-】

  1. 名前: 歯車の都香 2017/10/01(日) 19:56:46
    第九章【knitter-編む者-】

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    |:  | _ノ/    て⌒)T`r{.}ュ
    |:  |. /ィ     ゝ彡'ィrュf}) _. 騎士が騎士たる所以は、その在り方にこそある。
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    August 12th PM10:30
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    秋の香りを孕んだ風の冷たい夜だった。
    嵐が過ぎ去り、夏の熱気がどこか遠くへと運び去られた八月の夜。
    ティンカーベル。
    バンブー島、グルーバー島、オバドラ島と小さな島々で構成された“鐘の音街”と呼ばれる小さな街。

    無数の島々で構成されたその街の象徴である大きな鐘、グレート・ベルが風に揺れて不気味な音を立てている。
    鐘は最近その役割を果たしたばかりであり、その音色は安堵と不安を人々に思い出させた。
    時の流れと風雨にさらされてきた鐘は最盛期の輝きを失っているが、街の明かりで僅かだが黄金の光を反射することが出来ていた。
    街を照らす無数の明かりの中で最も不吉な色を放つのは、警察関係車輌の放つ赤い回転灯の作り出すそれだ。

    回転灯が集中しているのは島の中で最も大きなエラルテ記念病院の周囲で、数十分前までそこは興奮した人々で溢れていた。
    マスコミ関係者のカメラが放つフラッシュも、今ではもう疎らとなり一人、また一人と病院を後にした。
    彼らが待ち望んだ犯罪者は別の場所に出現し、彼らが呆気にとられている間に事態は解決してしまったのだ。
    手持無沙汰となったマスコミの人間が出来る事と言えば、撮影した写真をどう使って記事を作り上げるのかを考えることぐらいだ。

    それでも久しぶりに手に入った仕事らしい仕事に、島に滞在する――厄介払いにあった――マスコミ関係者は嬉々として手を動かした。
    上手くいけばこの辺境の地から都市部への栄転もあり得る。
    全ては彼らの腕にかかっていた。
    出来るだけ早く、そして正確に、感動的な記事を一分一秒でも早く書くことを求め、記者たちは筆を進めた。

    気の早い記者は原稿を本社へと送り、承認を得る前に輪転機を動かして号外を刷る準備を整えていた。
    どこよりも最速の情報を流すため、ラジオ局では早急に原稿を作り、どのような形であれジュスティアの手によって犯罪者が全員捕えられるという結末に備えた。
    後はジュスティアからの発表を待ち、それと同時に情報を世界中に発信するだけだった。
    この島で起きている出来事は、今、内藤財団の発表の次に注目されていた。

    普段、この平穏な島でマスコミや警察が騒ぐことなどありえない話だが、ここ数日は例外だった。
    ティンカーベルにはジェイル島と言う監獄島があり、そこには隣街であるジュスティアから護送されてきた凶悪犯が収容されている。
    そのジェイル島が何者かによって襲撃され、二名の凶悪犯が脱獄――脱獄に成功した例はこれが初――した。
    盗みの天才“ザ・サード”デミタス・エドワードグリーンと、連続誘拐犯の“バンダースナッチ”シュール・ディンケラッカーである。

    脱獄犯は島へと逃げ込み、あちらこちらで戦闘行為に及んで一般市民を恐怖させた。
    銃声と爆音、そして硝煙が島に満ちたのは百二十七年前に起きたデイジー紛争以来の事だった。
    争いとは無縁だと思っていた多くの島民は自分達が住む世界を思い知らされ、認識を改めた。
    この時代は、力が世界を変えるのだ。

    八月八日から続いていた緊張状態は漁の規制に繋がり、観光客が皆ホテルの部屋に籠って外出を控えたことで飲食店や小売店が打撃を受け、島全体の産業から活気を奪っていた。
    だがそれを覆すための救済の声が、島内に設置されたスピーカーを通じて島中に向けて発信された。
    時刻は夜の十時半だったが、ノイズが僅かに混じったその声に、誰もが耳を傾けていた。
    老人も、大人も、そして子供も。

    次なる情報を、固唾を飲んで待った。
    救世主の言葉を。
    正義の味方の言葉を。

    『先ほど、この島に逃げ込んだデミタス・エドワードグリーンはジュスティア警察の手によって射殺されました。
    現在、脱獄を手引きした人間と最後の一人を追跡中です。
    皆さま、もう少しだけお待ちください。
    我々ジュスティアが、必ずや本日中に犯人一味を処理いたします』

    それは先日、事件の早期終結を島民に約束したライダル・ヅーの声だった。
    彼らが先日聞いた記者会見の言葉の通り、今日中に決着をつけるというブレの無い発言。
    島の人間達は長い夜の終わりを夢見て、時計の針が進むのを待つことにした。
    ラジオを持つ人間は放送に耳を傾けて時間の経過を待ち、持たない者は島の放送機器からの一斉放送を待った。

    グレース・ナターシャの経営する民宿は、連日の騒ぎのせいで宿泊客が一人も来ず、加えて一人も定着していなかった。
    これまでにいた客は皆、より堅牢な建物のホテルへと移ってしまったのだ。
    彼女の民宿は木造で、銃弾が当たれば貫通するほどの薄い壁であるため、客が流れ出て行くのは当然だった。
    可能であれば彼女も鉄筋コンクリートの屋内に逃げたかったが、いつ客が来てもいいように店を捨てる訳にもいかない。

    結局彼女は民宿の出入り口に鍵をかけ、日がな一日、ラジオを聞きながら読書をして過ごしていた。
    彼女は何食わぬ様子でラジオを聞いていたが、いつもと違ったのはその後の行動だった。
    埃を被り始めた客室の清掃を行い、食事の仕込みを始めたのだ。
    心なしか、食材を刻む手が軽快になっていた。

    明日からはいつも通りの日常が戻ってくる。
    民宿はホテルと違って豪華な食事や設備があるわけではない。
    その分、サービスで差別化を図らなければならない。
    行き届いた清掃と美味な地元料理を観光客に振る舞えばそれは口コミで広がり、彼女の得意料理である煮込みハンバーグを食べようと大勢がやってくる。

    早く明日が来ることを楽しみにしながら、彼女は鼻歌交じりに仕事を始めたのだった。

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    August 12th PM10:37
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    島内に流れた放送を注意して聞いていたのは、何も島にいる人間だけではなかった。
    ティンカーベルに寄港していた船上都市であるオアシズの市長、リッチー・マニーは傍受したラジオ放送の内容に違和感を覚えていた。

    ¥・∀・¥「……気のせいか?」

    彼は以前に聞いたヅーの言葉では、犯罪者を駆逐する、と言っていた。
    だがそれが今回は処理する、になっていた。
    僅かな言葉の変化だが、それはマニーからしたら奇妙な物だった。
    リアルタイムの放送とは一切の取り消しの効かない場であり、そこで放たれる言葉には全て意味がある。

    ほとんど同じ意味の単語でもその微妙なニュアンスの違いで反感を買ったりするため、細心の注意を払って原稿が用意され、放送される。
    あの日、ヅーが使用した駆逐という言葉はかなり強い言葉であり、絶対に犯罪者たちを逃さないという意志の表明でもあったはず。
    それが処理、に変わると意味合いは少し弱くなる。
    犯罪者たちの力を知っているはずなのに、それを格下にみるかのような処理と言う言葉の使用。

    台本を書いた人間が別になったとしても、その仕事はあまりにも雑すぎる。
    使用した言葉は出来る限り変えず、そのままであるべきだ。
    それに、あの宣言がされた段階ですでに終結宣言用の原稿はあったはずなのだ。
    常識で考えれば、一連の流れに於いて必要な台本は全て出来上がっていなければならない。

    それが変わったとなると、何かがあったとしか考えられない。
    言葉のわずかな変化が、マニーの中にしこりとして残されることとなった――

    リi、゚ー ゚イ`!「声が違うな」

    (∪´ω`)「おー、ちがいますおー」

    ――それに気付いた人間が、マニーとは違う部屋ではあるが、オアシズ内に二人いた。
    二人は獣の耳と尾を持つ耳付きと呼ばれる人種で、船内最高級の一室にあるトレーニングルームでそんな言葉を交わした。
    携帯用ラジオから聞こえてきたヅーの声が別人のものであると気付いた二人は、スパーリングの最中だった。
    ヘッドギアとグローブを着けているのは垂れた犬の耳と丸まった尾を持つ、柔らかく垂れた目尻が特徴的な少年。

    対して、狼の耳と尾を持つ女性はタンクトップとスパッツという出で立ちで、パンチングミットを左手にはめているだけだった。
    波打った黒髪と目尻のつり上がった鋭い眼光を放つ赤い瞳は、彼女の持つ野生的な魅力をより一層引き立てている。

    リi、゚ー ゚イ`!「人が変わったってことは、何かがあったってことだ。
          まぁいい。 ブーン、練習を続けるぞ。
          残り五分間、全力で打ち込んで来い」

    (∪´ω`)「はい、ししょー!」

    耳付きの少年はブーン、耳付きの女性はロウガ・ウォルフスキンと言う名前を持つ師弟関係の二人だった。
    ロウガの言葉を受け、ブーンは一歩踏み出すと同時に無数のジャブを放つ。
    その速度は大人から見ても中々のもので、手数の多さは同年齢の子供では太刀打ちできない程だ。
    今のブーンは長時間に及ぶ練習で疲労していたが、疲労し切った時こそがベストコンディションなのだと、ロウガはブーンに言った。

    戦いとは常に万全の状態で始まるものではない。
    そのため、疲れ切っていたり負傷している時に行う練習こそが、最も本番に活かされる。
    故に、今のブーンはベストコンディションだった。

    (∪;´ω`)「ふっ!」

    右ストレート。
    左フック。
    コンビネーションを見舞った直後、足元に向けて放つローキック。
    それをロウガはミットで払落し、短く評価を口にする。

    リi、゚ー ゚イ`!「あまい」

    パンチの間に挟んだキックに対して、ロウガはそれを咎めるようなことは言わなかった
    これはボクシングではなく、蹴りから噛み付きまで、あらゆる技の使用が容認されている実践的な稽古だ。
    全ての技が許可されているブーンに対して、ロウガは左手のミットだけの使用を宣言していた。
    ロウガの体に触れればブーンの勝ちというルールだったが、ブーンがロウガのミット以外に触れることは未だに敵っていない。

    彼女の動きは正確極まりなく、容赦なかった。
    子供相手だからと言って手を抜く様な人間ではない。
    彼女は武人の都イルトリアの出身であり、その実力は生身で強化外骨格との戦闘でも後れを取る事はない。
    前イルトリア市長の護衛を担当する唯一の人間であることから、その実力が如何に信頼されているのか推測するのは易い。

    もっとも、ブーンはそのような情報を知らないため、ロウガについては強い女性である、という認識しかないのだが。

    リi、゚ー ゚イ`!「……ふむふむ。 そうだ」

    一発ずつ攻撃を払落しては評価をするが、彼女の右手は腰の後ろに回したままだった。
    両手を使う必要すらないという絶対の自信に基づく構えだが、片手だけの使用でも手加減が一切ない事をブーンは良く知っている。
    ブーンの攻撃が一つもロウガの体に掠りもしないのが、そのいい証拠だ。
    今の自分の技だけでは太刀打ち出来ないと理解せざるを得なかった。

    戦術を変えて攻めるしかない。
    フットワークを使ってブーンが立ち位置を変えると、ロウガはいつの間にか相対する位置に立っており、まるで隙を見せなかった。
    いつの間に移動したのか、ブーンの目で追う事は敵わなかった。
    速度でもロウガに勝てるはずがなく、奇策は意味がない。

    ならば、策ではなく技で挑む。

    リi、゚ー ゚イ`!「キックを使う時の注意点は、攻撃後の隙だ」

    ブーンが背面回し蹴りを放つのと同時、いや、その直前にロウガはその言葉を口にしていた。
    攻撃が形になる前に読まれていたことに当初は驚いていたが、今ではもう慣れていた。
    恐らくは視線と体勢から攻撃を推測しているのだ。
    だからこそ攻撃の事如くが防がれる。

    多分に漏れず、今回の回し蹴りも難なく防がれてしまった。
    推測されない動きとは何か。
    ブーンは思考をめまぐるしく回転させ、最善の一手を考える。

    リi、゚ー ゚イ`!「ほら、考えすぎだ」

    ミットを装着した左手がブーンの側頭部を叩く。
    これが本気の一撃であれば脳震盪どころでは済まない。
    軽く小突かれたブーンは、反射的に一歩退く。
    退いた一歩分、ロウガが詰める。

    リi、゚ー ゚イ`!「後退する時の注意点は?」

    (∪;´ω`)「せなかになにがあるのか、りかいすることです」

    リi、゚ー ゚イ`!「そうだ。 では、今お前の背中には何がある?」

    当然、ここで振り返ろうものならロウガは先ほどよりも力を入れてミットで打撃を与えてくるはずだ。
    ブーンには優れた耳がある。
    使い方を誤らなければ、それは正確無比な索敵装置となる。

    (∪;´ω`)「ロープがありますお」

    リi、゚ー ゚イ`!「正解だ。 さ、続けるぞ」

    そして、嵐のようなロウガのラッシュが放たれた。
    たった左腕一本の攻撃なのに、その拳の数は秒間十数発以上を保ち続けている。
    それらを視認して防いでいては間に合わない。
    ブーンの本能が思考よりも先に動いた。

    選択は後退ではなく、前進だった。

    リi、゚ー ゚イ`!「ほぅ。 いいぞ、いい選択だ」

    どれだけ早くてもロウガの拳が届く範囲は限られている。
    左腕である以上、右側への攻撃にはかなりの負荷がかかる。
    もっとも、それがロウガと言う人間である前提で考えれば、その負荷などあまり意味がないことは言うまでもない。
    それでもリーチに影響が全くないかと言えば、そうではない。

    片腕のハンデを利用する為、ブーンは相手の懐へと入り込んだ。

    リi、゚ー ゚イ`!「これも良い判断だが、惜しいな。
           その手は常に私が警戒しているべき手だ」

    ロウガは片足を軸に、素早く立ち位置をブーンの背後へと変えた。
    一瞬の出来事だった。
    ブーンの動体視力を持ってしても、彼女が目の前から消えた様にしか見えなかった。
    声でようやくその存在を認識できたことを考えれば、仮にロウガが声を出さなければブーンは気付くことなく背後を取られていたことになる。

    圧倒的存在感を一瞬にして消失させる技術。
    これが彼女の実力。
    身体能力が常人以上とは言え、ブーンの攻撃を回避するのは赤子の手を捻る様な物だ。

    リi、゚ー ゚イ`!「さぁ、どう来る?」

    頭頂部を軽く叩かれ、ブーンは姿勢を変えつつその場から飛び退き、ロウガと対峙する形に戻った。

    (∪;´ω`)

    額に浮かんでいた汗が頬を伝って足元にしたたり落ちる。
    冷や汗なのか、それとも、運動による発汗なのかは今では区別がつかなくなっていた。
    果たして、区別を付ける必要があるのか。
    疲労によって思考の境界線が曖昧になり、節々から疲労感が消失した。

    姿勢を低く、ブーンはリングの面を踏み抜かんばかりの勢いで疾走する。
    それは無意識の行動だった。
    弾丸と化したブーンの体が選んだ攻撃は、右のボディブロー。

    リi、゚ー ゚イ`!「おぅ。 良い手だが、まだまだ速度が足りないな」

    ブーンの攻撃速度を亜音速と表現するのであれば、ロウガの防御は光速だった。
    圧倒的な速度差で決死の攻撃をパリングで防がれ、バランスを崩したブーンをロウガが片手で持ちあげて見せる。
    無造作なパリングであればブーンの肩は脱臼していただろうが、ロウガはそれを微調整するだけの余裕があった。
    完膚なきまでにブーンの負けだった。

    リi、゚ー ゚イ`!「よし、ここまでにしよう。
           風呂に入って飯を食って、ゆっくりと休むがいい」

    全身から一気に緊張が抜け落ちる。

    (∪;´ω`)「おー、ありがとうございました……」

    肩に担がれたブーンは抵抗する元気もないため、そのままロウガと共に浴室へと向かう。
    ロウガは器用にブーンの服を脱がせつつ、自らも脱衣を始めていた。

    リi、゚ー ゚イ`!「何故防がれたか分かるか?」

    (∪;´ω`)「ししょーがつよいからですかお?」

    その答えを聞いて、ロウガはくすりと小さく笑った。

    リi、゚ー ゚イ`!「ふむ、それもある。
           だが、一番の問題は、私の真似をしているからだ」

    (∪;´ω`)「お?」

    リi、゚ー ゚イ`!「ブーン、お前は真似が上手い。 吸収し、それを無意識の内に実践したがるのは長所だ。
          だがそれではいつか限界が来るし、相手の得意中の得意な動きを真似るのは得策ではない。
          自分のやり方を見つけるか、更に多くの人間の技を我が物にするか。
          ま、そのうち自分に合っている型が見つかるだろう」

    遂に服を全て脱がされ、ブーンは浴室の前で降ろされた。
    ロウガが身振りで先に風呂に入るよう促し、ブーンはそれに従った。
    浴室でシャワーを浴びていると、ロウガが遅れて入ってきた。

    リi、゚ー ゚イ`!「すぐに強くなることなど、誰にも出来んさ。
           お前はお前の速度で強くなればいい。
           何かを守りたいと思うのならばなおさら慎重にならなければな」

    内心を見透かされたのか、ロウガは優しくそう言った。
    今、ブーンは焦っていた。

    リi、゚ー ゚イ`!「ヒートはお前に無理をしてほしいと願ったのか?」

    (∪;´ω`)「いえ……」

    共に旅をするヒート・オロラ・レッドウィングは今、オアシズの医療室で治療を受け、眠りについている。
    彼女は単身で戦い、傷つき、そして今はベッドの上。
    もしもブーンが戦力としての実力を持っていれば、結果は違ったかもしれない。
    あの時の自分に出来ることは全てやったつもりだが、それでも、結果としてヒートが傷ついたことが悲しかった。

    少しでもいい。
    ヒートのために力をつけ、彼女達との旅で足手まといになりたくはなかった。
    その思いがブーンを動かし、ロウガは彼の気持ちを汲み取って夜遅くまで鍛錬に付き合った。

    リi、゚ー ゚イ`!「なら無理をするな。 男が無理をしていいのは、無 理 を し な け れ ば な ら な い 時 だけだ。
           覚えておけ、ブーン」

    (∪´ω`)゛「お」

    ロウガがシャンプーでブーンの髪を洗い始める。
    ブーンは目をつぶって、自分の臍を見るようにして体を丸めた。

    リi、゚ー ゚イ`!「いい返事だ。 それに、今のお前なら街のチンピラ程度は伸せるだろう。
           ただし、一対一に限定されるがな」

    (∪´ω`)「おー……」

    戦わなければならない相手は、決してチンピラ程度の人間ではない。
    相手が使うのは武器と兵器。
    チンピラなど最初からブーンの目標には入っていなかった。

    リi、゚ー ゚イ`!「いきなり私やヒート、ましてやデレシアさんのようになれるはずがない。
           生きている年月が違うんだ。
           今は先輩たちから学び、吸収し、そして己の物に磨き上げろ。
           それが今日のレッスンだ」

    シャワーで泡を洗い流してもらい、ブーンはボディスポンジを手渡された。

    リi、゚ー ゚イ`!「後は自分で洗えるだろう。
           それとも、手を貸してやろうか?」

    意地悪そうにロウガがそう言ったため、ブーンは思わず首を横に振った。
    首を縦に振ればロウガは本当にブーンが体を洗うのに手を貸すだろう。
    だがそれはロウガの力を借りて自立から少し遠ざかってしまうという事。
    せめてもの強がりとして、ブーンはその誘いを断ったのだった。

    リi、゚ー ゚イ`!「風呂の後はどうする?」

    (∪´ω`)「お…… ヒートさんのところに、いきたいですお」

    リi、゚ー ゚イ`!「ふむ……
          まぁ、お前がそう言うなら止めはしないがな。
          行ってどうする? あいつは今、麻酔が効いた状態で寝ているんだぞ」

    二人は体を洗いながら会話を交わす。
    浴室に響く二人の声。
    少しの思案を挟んで、ブーンはロウガの問いに答えた。

    (∪´ω`)「あの…… ぼく……」

    リi、゚ー ゚イ`!「ん?」

    (∪´ω`)「そばに、いたいです……お。
          りゆうとか、なんか、よくわからないです。
          でも、いっしょにいたほうがいいって、その…… ぼく…… おもって……」

    自分が辛かった時、ヒートやデレシアは傍にいてくれた。
    今は自分がその恩を返す番。
    何かが出来る訳ではないが、何もしないよりは、一緒にいた方がいいと思うのだ。

    リi、゚ー ゚イ`!「ならそうすればいい。
          添い寝でもしてやれ」

    (∪´ω`)「そいね?」

    体についた泡を洗い落とし、二人は湯船につかる。
    溢れ出すお湯の音と、体の芯からほぐす柔らかい湯にブーンは目を細めて満足げな吐息を漏らす。
    二人で入っても十分な広さのある湯船で、ブーンはロウガの目を見て己の質問の答えを待った。
    凛とした瞳が優しげに細まった。

    リi、゚ー ゚イ`!「一緒に寝るってことさ。
           究極の親密さの一つだ」

    (∪´ω`)「きゅーきょく?」

    リi、゚ー ゚イ`!「一番、ってことだ。
          寝ている時、人間は無防備だろ?
          その無防備な姿をさらしても構わないほど、信頼している相手というわけだ」

    ブーンはそれ以外にも多くの無防備な姿を見せてきた。
    それは同時に、ヒートも無防備な姿を見せてきた事でもあった。

    リi、゚ー ゚イ`!「今こうして、私達が風呂に入っているのもそれの仲間だ」

    (∪´ω`)「お!」

    それからブーンは翌日に疲労が残らないように湯船の中でストレッチを行い、ロウガがそれを手伝った。
    何度か水中に頭を沈める事となったが、それが楽しかった。
    海に放り捨てられて溺れた後でも、ブーンは水を少しも恐れなかった。
    水中での動き方を学びつつある今、かつて恐れた物でさえも、ブーンにとっては勉強道具の一つでしかない。

    そして。
    風呂上がりに腰に手を当てて飲むフルーツ牛乳の美味しさもまた、勉強の一つだった。

    リi、゚ー ゚イ`!「うんっ!! 美味いっ!!」

    (∪*´ω`)「ぷはーっ!!」

    二人は同時に瓶の中身を飲み干し、同時に満足げな息を思い切り吐いた。
    火照った体に沁み渡る冷たいフルーツ牛乳の味は格別だ。

    リi、゚ー ゚イ`!「いいか、腰に手を当てて飲むのは様式美という。
          理由などない。
          そうするべきだからそうするんだ。
          いいな?」

    (∪*´ω`)「おー!」

    こうしてまた、ブーンは新しい言葉を一つ覚えたのであった。

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     ___―===―___  Heat's dream ==  ̄ ̄ ̄  ――_―― ̄ ̄―
     ̄ ̄―‐―― ___ ̄ ̄―――  ___ =―   ̄ ̄___ ̄―===━__
     ――――    ==  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄  ―― __――_━ ̄ ̄  ――_―― ̄__
    August 12th PM11:01
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    ヒート・オロラ・レッドウィングは麻酔で深い眠りについていた。
    右肩を骨折し、多くの打撲傷と擦過傷を全身に負った彼女は、満身創痍の状態だった。
    夢は一切見なかった。
    あるのは苦痛だけだった。

    復讐のために人を殺めることを生業とし、両の手は血で汚れた。
    全ては復讐、報復のためだった。
    そこまで堕ちたのに、彼女は敵を討てなかった。
    本当に殺すべき相手を殺せず、負傷し、己の未熟さに憤った。

    殺す対象が肉親だったから油断したのか。
    それとも、敵を侮った代償なのか。
    いずれにしても、ヒートは失敗したのだ。
    心と人を殺し続けた日々は、報われなかった。

    今すぐに起き上がって殺しに向かいたいが、体は言う事を聞かない。
    それはそうだ。
    ここに運び込まれ、ヒートはすぐに手術を受けることになったのだ。
    オセアンの戦闘での傷も完全には癒えていない中、こうして再び傷を重ねれば、流石に体が休息を求めて無理な命令に従うはずもない。

    失ってきた物の多さが、今、ヒートを苛んだ。
    努力も犠牲も、無意味だったのだ。
    果たして今、自分は何の価値があるというのだろうか。
    ティンカーベルでの騒動への参戦はもう不可能だろうし、ブーンに無様な姿を見せてしまった。

    守るべきブーンに守られたことは誇らしくもあり、同時に、悲しくもあった。
    自分はブーンの成長のために役立てないのだ。
    あの子は、デレシア達がいれば十分なのだ。
    もう自分は必要ない。

    弟の生き写しであるブーンにそう思われることが、今のヒートには何よりも残酷な宣言だった。
    最初にブーンに興味を持ったのは彼が弟に似てるから、という点だった。
    だがすぐに、ヒートはブーンの持つ才能に惹かれ、彼の未来を見届けてみたいという想いに駆られるようになった。
    彼は才能の塊だ。

    良くも悪くも人を惹きつけ、人の力を海綿のように吸収する。
    それはつまり、出会った人の数、経験した物事の数と質だけ成長し得るという事。
    最終的に彼がどのような大人になっていくのか、本当に楽しみだった。
    それを間近で見届けることは、まるで、花が芽吹くのを心待ちにするのに酷似している。

    新しく見つけた生き甲斐。
    復讐を果たしたと思い込んでいたヒートにとって、ブーンは心の拠り所のような存在だった。
    無力さのために再び大切な物を失ってしまう事が、傷口の開いたヒートの心をじわりじわりと傷つける。
    それは全身に負った痛みよりも、臓器に負った損傷よりも、遥かに長く残り、癒えにくいものだ。

    デレシア達との旅から抜けるべきなのか、真剣に考えなければならないだろう。
    足手まといとなってブーンの成長を阻害するわけにはいかない。
    ここで手を引くという選択をするのも、きっと、ブーンのためになる。
    自分がいなくても、ブーンは大丈夫なのだから。

    ――左腕に温もりを感じたのは、そんな考えを巡らせていた時だった。

    寄り添う形で何かがヒートのベッドに入ってきたのだ。
    布団の上からでも感じる温もり、体温。
    それは人よりも体温の高い証拠。
    つまり、これはブーンの体温に相違なかった。

    何故ここにブーンがいるのかという気持ちが、ヒートの意識を麻酔の海から引き上げた。
    呂律の回らない状態で、ヒートは彼の名を呼ぶ。

    ノハ´⊿`)「ブーン……?」

    (∪;´ω`)「お……」

    ノハ´⊿`)「な……で……」

    麻酔の為か、口が上手く動かせない。
    目も見開けないが、その声は間違いなくブーンのそれだ。

    (∪;´ω`)「えっと…… ヒートさん、しんぱいで……
          そしたら、ししょーが、そいねしろ、って……」

    ブーンの言う師匠がロウガの事なのは知っている。
    狼の耳付きであり、その戦闘力は桁違いに高く、棺桶を使ったとしてもヒートが勝てるとは考えにくい猛者だ。
    彼女は縁あってブーンの命を助け、更には生き抜くための指導を買って出た。
    そんな彼女と酒を飲み交わしたヒートの印象は、極めて良好だった。

    人柄は掴み所がない印象だが実直な姿は正に狼といったところで、前イルトリア市長の警護を担当していることからも分かる通り、真面目な性格をしている。
    そうでなければ、あの“ビースト・マスター”が雇うはずがない。
    彼の武勇伝と伝説はいくつもあるが、そのどれもが彼の恐ろしさと情けの無さを物語るものであり、イルトリアの代表者としての資質を十分に発揮していた男。
    そんな男が雇い、手近に置くとなれば間違いなく一流の人間だ。

    ブーンはそんな男とも親しくなり、友と呼ばれる間柄となったのは本当に予想もしない展開だった。
    全くの偶然だが、彼等はデレシアの知り合いであり、彼女に一目置いていた。
    デレシアの人脈の広さについてはもう驚くまいと考えていたが、やはり驚かざるを得なかった。
    だがそれは、ある意味でこの上ない保証でもあった。

    デレシアの友人である彼女のアドバイスを受けたブーンは、ただそれを実行したに過ぎない。
    恐らくあの短い話の中で、ロウガはヒートがブーンに抱いている感情を察したのだろう。
    そしてブーンがヒートに対して向けている感情と合わせて考え、この案を出したはずだ。

    (∪;´ω`)「ヒートさん…… ぼく、いっしょにいてもいいですか?」

    ノハ´⊿`)「ん……」

    その返事がブーンにどの意味で理解されたのか、意識が再び遠のこうとしていたヒートには考えることも適わなかった。
    静かに眠りの波に身を流され、ヒートの意識は今度こそ深い海の底に沈んでいった。
    だが今度は、傍らに感じる温もりが共に海底へと進んでくれたため、何も不安な気持ちは浮かばなかった。
    何より、腕に感じる温もりがヒートの心の中に浮かんでくるあらゆる不安を消し去ってくれた。

    悪夢が浮かぶたび、思考が奈落に落ちそうになるたび、その温もりがヒートに思い出させる。
    何も恐れなくていいのだと。
    言葉や推測ではなく、この存在こそが物語るのだと。
    自分を頼り、慕ってくれる愛おしい存在こそ何よりの武器なのだ。

    ――ブーンはヒートの片腕に抱かれ、ヒートはブーンを抱いたまま、ゆっくりと眠りについた。

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                         Ammo→Re!!のようです
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       |   /   _,,..r-=77= ‐- = ≦ー=へ、_  Ammo for Reknit!!編
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       \ /::::::::::::::ハ  |::::::小.:::::::: __ ,.   ∠._,'  /     :::::::::::::::/
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                                            August 12th PM11:03

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    ジュスティアからの発表後の熱も冷めて寝静まった街を、静かに歩く一人の女性がいた。
    月光に照らし出されるのは柔らかな黄金、もしくは黄金と比喩されるほど見事に実った小麦を彷彿とさせる金髪を持つ、碧眼の女性。
    芸術的なまでに整った目鼻立ちと優しげな目元と口元は、見つめる者全てに安らぎを感じさせる。
    だが多くの女性がそうするのと違い、彼女は服装でその魅力を引き出そうとはしていなかった。

    身に纏うのはカーキ色をしたローブで、艶はまるでなく、使い古されてすっかり草臥れているが、見る者にとってそれは経年劣化した極上の皮を思わせる風情があった。
    マントの様にも見える程にゆったりとした作りのそれは、デザイン性よりも実用性を重視した物で、現存するどの布よりも高性能だった。
    そして足元を飾るのは無骨な形状をした、八インチのデザートブーツ。
    履きならされたそれは、彼女の足によく馴染んでいた。

    ローブに隠れているが、その両わきの下には大口径の自動拳銃が一挺ずつ、腰の後ろには水平二連式のソウド・オフ・ショットガンが二挺あった。
    細身の彼女はそれらを片手で難なく扱うだけでなく、驚くべき精度で標的に当て、速やかに死を与える実力を有している。
    即ち、それらの武器はただの護身用ではなく、この時代の人間が使用するのと同じく命を奪うための道具として十二分にその真価を発揮するという事。
    その実力は未知数であり、その上限を目撃した者は皆無だった。

    女性の名前はデレシア。
    旅人であり保護者であり、そしてこの島で起きている騒動の中心点であった。
    嵐の中心である彼女はラジオ放送を聞き、小さく嗤い、呟いた。

    ζ(゚ー゚*ζ「……ふふ、声が別人ね」

    声真似が出来る人間はこの世界に多く存在するが、この放送を担当している人間はかなりの手練だ。
    かつて、とある島国では声優の物真似をしていた人間が、その声優の死後本物になったという話がある。
    表沙汰にはなっていないが、そういった話は昔からよくあった。
    これはそれに近い部分があるが、次元が遥かに異なった。

    恐らく、音声認識をする機械を誤魔化すことぐらいは出来るだろう。
    非常に軽微な声色の違いは機械の誤差の範囲として処理され、音声認識システムならほとんどの物を突破出来るはずだ。
    聴力に自信がある人間でも、それを聞き分けるのは至難の業。
    耳付きにとっては容易だろうが、一般人には不可能だ。

    デレシアは相手の打ってきたこの一手に、称賛と落胆を半分ずつにして評価を下した。
    称賛すべき点は二つ。
    一つは、ライダル・ヅーが死ぬことを前提として作戦を進めていた抜け目のなさだ。
    そのために幾つもの罠を張り巡らせ、彼女の命を絡め取った手腕はこれまでの人間とは別系統の動きだった。

    単純な計画ではなく、複合的な視点を持った人間による計画の立て方だった。
    仮にそれが一人の人間の思考によるものだとしたら実に面白い。
    これまでにデレシアが潰していた“ティンバーランド”の中でも、今回は最高の仕上がりかも知れなかった。
    ようやくまともに動ける人間が出現したのだと感心する一方で、この程度に到達するまでの時間を考えれば落胆すべきなのだという感情が湧き上がってくる。

    だが。
    何より込み上げてくるのは怒りだった。
    それだけは変わりがない。
    デレシアの怒りを買うことに関しては、この連中は天才だと断言できる。

    称賛すべき二つ目の点は、正に、何度も彼女に刃向かってくるその学習能力の無さだ。
    芽吹いてくる度にデレシアに潰され、その度に立ち上がる姿は生ける屍を彷彿とさせる。
    もしくは害虫の類だ。
    生命力の高さは、最早彼らの特技として認識せざるを得ない。

    根絶やしにしたはずだが、それでも蘇るという事は、まだ根が残っていたという事だ。
    もっと徹底的に潰すために、今回はある程度泳がせなければならない。
    オアシズやニクラメンでその尻尾を見せ、今ではその爪先が見え始めている。
    これまでであれば、もうこの時点で見えているティンバーランドの人間は全員殺していただろう。

    そうせずに動きを傍観し続けることで見えてきたのは、ティンバーランドが内藤財団と言う世界最大の企業を隠れ蓑としている事実だった。
    島でデレシアが動いている間にラジオで発表された内容は、マニーからの連絡で明らかとなった。
    新単位の発表。
    無知な者はその価値に気付かないだろうが、聡い者はその重大さに気づいたはずだ。

    単位とは束ねるための物であり、効率化を図る物だ。
    一度単位が確立されれば、多くの産業が様々な意味で変化せざるを得なくなる。
    先んじて動いた者が初動で莫大な利益を得ることは間違いない。
    己の影響力を理解した上での行動はあまりにも計算的だった。

    だが利益を得ることが目的でない事は、同時に発表されたラジオの無償配布で明らかだ。
    単位の統一を宣言したのと同時にラジオを配布することで、彼らが次に何を目指すのかについて、想像に難くない。
    企業の統一、情報の統一、街の統一。
    段階を踏んでいき、そして、ティンバーランドの最終目的が達成されるという仕組みだろう。

    これまでと違って気になるのが、“大昔にあった単位をあたかも己の物として発表した”事だ。
    確かに単位の統一は便利ではあるが、彼らがラジオ放送で唯一吐いた嘘はこれを発明したと言ったことにある。
    それを偽る理由は何だ。
    ダット――デジタル・アーカイブ・トランスアクター――を使えば、単位の起源を調べることなど一瞬で終わるというのに。

    何か意図があっての事に違いない。
    と考えると、彼らの考えにはまだ別の側面があるのかもしれない。

    ζ(゚ー゚*ζ「……」

    その意図が何であれ、最終的にやるべきことは決まっている。
    そして今やるべきことは、目の前に残っているゴミの処理だ。
    デミタス・エドワードグリーンの見え透いた挑戦は島全体にいる警察の目を一か所に集め、それ以外の警備を軽微にすることにある。
    となれば、手薄となった警備を狙って残存勢力が脱出を試みるはず。

    デレシアは今、脱出しようと画策している人間達を追っていた。
    この状況下で島から逃げるには、爆音を響かせ撃墜される危険性のある空の道は現実的ではない。
    ジュスティアへと続く陸路もあり得ない。
    そう考えると、残った可能性は海路だけだ。

    現在、ジュスティアの船がいくつもティンカーベルの海上に停泊し、海からショボン・パドローネ達が逃げられないように見張っている。
    その中の一隻をティンバーランドが乗っ取ることなど造作もないだろうし、乗っ取らずとも協力者がいれば問題なく彼らを乗せられる。
    となれば、後はその船を割り出せば答え合わせは終わり、後は掃除の時間だ。
    勿論、デレシアはその船の目星をつけていた。

    ジュスティアの軍隊は優秀だ。
    一度下された命令であれば、それが例え理に反するような命令であっても必ず従う。
    理想的な軍隊図だ。
    そして海軍の所有する船とは、軍隊の中でも極めて連携力の重要視される集団の集まりであり、違反をするのであれば一斉に行う。

    ましてやそれがジュスティア軍の船であれば、間違っても独断で動く船などあるはずがない。
    つまり、不自然な動きをする船こそがティンバーランドの息のかかったそれということだ。
    だが行動が嫌でも目立つ船であるため、ひっそりとそれを行うための何かしらの言い訳、大義名分を用意しているだろう。
    そう言った工作をするためには、可能であれば民間人に目撃されない事が重要。

    時間が大分押しせまっている事を確認したが、デレシアは歩調をそのままに進んだ。
    目指すのはティンカーベルの北にある小さな岬だ。
    地元の漁船ぐらいしか使わないその岬は、実は水深がかなりあり、ある程度の大きさの船でも近づく事が出来る。
    何より、地形の関係から目撃される恐れが極めて少ない。

    陸地に近づいた船に小型艇で乗り移り、そのまま島から遠ざかれば逃亡は完了する。
    理由は後でいくらでも考えられる。
    ヅーとデミタスが死に、全体の気が緩んでいる今が絶好の好機と言うわけだ。

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    ,、,、,、wリ゙W゛jリwj从リj"W゙リwリ゙W゛j;yノw''" ノ'ノ,'ハハ,ゝ ハ 彡゙;:.'ハヾゞ';'ヽヘ;;ハバゝ;>.:,ハ';'ヽ、
     从;: `:、リ゙W゛jリw''、`'.、,:`:,,‐'゛' ~    彡;:'ヘ;;ハバ ノハヽ、,ツノノ;:'ハ;;:. ノハil;:ヽゝ ノハil;:ヽゝ
    `wリ゙W゛jリwj从リj`'.、-='´  _,ywj从リWv,ハヾゞ;;:. ゞノvノ;:,l'レゝ,ハ';'シハノシ;:,ヘ, ノノ ノ'ノ,'ハハゝ
    .wj从リj`'.、 ,:,-‐'゛,,vw-‐W゛w从 W:;,',:从シハノシ;:,';,ノノゝハハ,ゝヘ,::..ヘ.:;ilゞ ハ';'ヽ..::...,ヘ、ハ.:;>
     ̄~^ ̄^ ̄ ̄~`^゙'、,゛jリw :;.:".:;.:'"゙:.:゙,;`彡ハノ;|ililヾvフノ;:,'ハ';'ヽ;;ハバゝハ';' ハ';'ヽハil;:ヽハ,ハ';'ヽ、
    '' ゚   ;~ ,;    ww:,、v、从リjwv,:.:.、;..:...: ;:ノハil;:ヽノノハハl;:.'ilゞノハil;:ハil;:ヽハハl; ノハil;:ヽゝフ
    August 12th PM11:29
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    デレシアの予想は見事に当たっていた。
    岬に向かって走る一台の車。
    そのテールランプを見て、デレシアは躊躇いなく懐のデザートイーグルを抜いた。
    艶消しのされた黒い銃身が月光を受けて怪しげに鈍い光を反射する。

    弾倉を軽く抜き、遊底を引いて薬室に一発の銃弾を収めて弾倉を元に戻す。
    そして、星の光と見紛うほどの小さなテールランプに向けて発砲した。
    数秒後、爆発かと聞き間違うほど大きな音と共にテールランプは光を失った。
    最後に光の見えた場所に向けて、デレシアは静かに疾走した。

    一陣の颶風と化したデレシアは森を駆け抜け、山を下り、大木に激突して大破している乗用車の傍にやって来た。
    目を周囲の茂みへと向け、耳を澄ませて跫音を探る。
    跫音はまっすぐに海に向かっていた。
    数は三つ。

    そう簡単に逃げられるとは考えていないだろうから、必ず殿がいるはずだ。
    強化外骨格程度で止められると本気で思っているのなら、かなりおめでたい脳味噌の構造をしている。
    だがショボン・パドローネはそこまで馬鹿ではない。
    兎にも角にも逃げることを考え、この島に於ける作戦を放棄することを選んでいるはずだから、殿は追いつかれた時にだけ動くだろう。

    そうなった場合の最善の手を潰すために、デレシアはすでに手を打っていた。
    ドミノが倒れるように、後は、ゴールに向かって進むだけである。

    ζ(゚ー゚*ζ「……あなたが殿ね?」

    ――森から抜け出る一歩手前のところに、一人の男が立っていた。
    シナー・クラークス。
    オアシズではブーンの教育に役立ってくれたという背景もあるが、その本質は、デレシアにとっての敵でしかない。
    殺すのは惜しいが、仕方がない。

    一度目は殺さずにおいたが、そう何度も生かしておく必要はないかもしれない。

    ( `ハ´)「……これ以上は行かせないアル」

    ζ(゚ー゚*ζ「ふぅん。 私を止められると本気で思ってるの?」

    ( `ハ´)「止める? 違うアル。
         ここで殺すアル!!
         炎を恐れては、炎に勝ることはできない!!」

    そして、シナーは強化外骨格“ファイヤ・ウィズ・ファイヤ”の起動コードを入力した。
    一度デレシアに敗北してはいるが、その機能は健在。
    火炎放射兵装を使えば森一帯を焼き払い、この島に壊滅的な打撃を与えられるだろう。

    (:::○山○)

    ζ(゚ー゚*ζ「惜しいわね、本当に。
          覚悟もあるし、恐らくは実力もある。
          人間としての教養もあるのに、ティンバーランドに組するなんて」

    構えから伝わるのは、武器を正しく、そして効果的に使おうとする意気込みだ。
    挑んでくるのは至近距離。
    火炎を中距離で使うのではなく、近距離で使う事でより確実に相手を燃やす算段だろう。

    (:::○山○)『……』

    返答はない。
    少しでも時間稼ぎをしたい人間にとってみれば、デレシアがこうして話しかけてきているのは好都合のはずだ。
    故に攻撃もなく、じりじりと神経をすり減らしながらこちらを見つめている。
    今攻撃を仕掛けて返り討ちに合った時のことを考えれば、実に賢明な判断だ。

    ζ(゚ー゚*ζ「ブーンちゃん、きっと悲しむわよ」

    (:::○山○)『……知った事じゃないアル』

    ζ(゚ー゚*ζ「あら、そうなのね。
          そうやって言い切ってもらえると私も気兼ねなく殺せるわ」

    先手はシナーだった。
    両腕を交差させつつ、一気に駆ける。
    紅蓮の炎が両手に輝き、それが耐熱装甲を瞬時に覆った。
    炎に対して耐性のある装甲だからこそ出来る芸当であると同時に、触れるもの全てに炎の祝福を与える芸当。

    肉弾戦に対する特効薬的な効果を持つその戦い方は、だがしかし、長期戦には向いていない。
    長引けば長引くほど貴重な燃料が燃焼され、実際に燃やすべき対象に使用するまでに底を尽きる。
    ファイヤ・ウィズ・ファイヤの使用する高粘度の燃料は非常に貴重な物で、量産するには時間と金がかかる。
    恐らく、一度の戦闘で消費される燃料の金額は平均的な家庭の二か月分の収入に匹敵するだろう。

    骸骨のように不均衡な装甲が炎の中に浮かぶ姿は、聖書などで描写される煉獄の悪魔を連想させた。
    熱が届かないギリギリの距離を保ったまま後退し、銃身を短く切り詰めた水平二連式ショットガンに弾を込める。
    振り回す手足が木を砕き、木片が火の粉のように燃えて闇夜に散った。
    散弾の装填を終えたデレシアの両腕がローブの下から出現し、シナーの足に照準が向けられた。

    ファイヤ・ウィズ・ファイヤの脚は熱を出来る限り逃がすために細身の設計となっており、素早い移動や運動が苦手だ。
    特に足場の悪いところでの戦闘はあまりにも不向きであり、デレシアが山側に後退する速度に追いつけていない。
    足場を崩すために、デレシアは散弾を連続で放った。
    狙い通りに巨体が傾いだが、それは、彼にとってそこまで問題ではなかった。

    (:::○山○)『燃えろっ!!』

    両手を構え、倒れながらも燃料を撒き散らす。
    降り注ぐ火炎の雨。
    成程、実にいい判断だ。
    これが屋内や市街戦であれば死活問題に発展しかねない攻撃だっただろう。

    だがここは森。
    木々の生い茂る天然の城塞。
    いささか判断が早すぎたようだ。

    ζ(゚ー゚*ζ「残念ね」

    炎は網目状に生い茂った木にまんべんなく絡みつき、細い枝を瞬く間に燃やし尽くし、太い幹を炭化させた。
    デレシアにかかる炎は皆無。
    次弾を装填し終えたショットガンの銃腔が、シナーの顔面を捉えた。
    銃爪に指をかけた時、デレシアは思わず感嘆の声を上げそうになった。

    そこにはすでに装甲に覆われたシナーの顔はなく、彼の姿は散弾の射程外にあった。
    デレシアの意識がほんのコンマ数秒炎に向けられた隙を狙って、即座に後退を選んだのだ。
    本当に優秀な男だ。
    もしもこれがショボンであれば、この機を逃すまいと近接戦を開始していたかもしれない。

    そうなっていたとしたら、シナーの頭部は胴体と離れて転がっていた事だろう。
    良い判断だが、それだけだ。
    距離を開けたシナーは、その位置から火炎放射を放つ。
    炎が上に行く習性を利用し、周囲の木々ごとデレシアを焼き殺そうというのだろうが、その発想があまりにも安直だ。

    デレシアは木を楯にし、素早く移動。
    木の間から対強化外骨格用のスラッグ弾を放ち、装甲を確実に削っていく。
    四発の弾丸は正確にファイヤ・ウィズ・ファイヤの腕と背中を繋ぐケーブルを破壊し、そこから供給される燃料を断った。
    それだけでなく、周囲で発生した火の粉が燃料に引火し、シナーの足元が炎に包まれる。

    (:::○山○)『くっ!?』

    シナーは急いで棺桶を脱ぎ捨て、地面を転げる。
    直後、背中のタンクに引火し、バッテリーともども爆発した。
    命までは失わなかったものの、爆風と熱風でシナーはかなりの手傷を負うことになった。
    舗装路の上に転がるシナーの前に颯爽と降り立ち、デレシアは笑んだ。

    ζ(゚ー゚*ζ「……あの子のために役立ったから、この辺で許しておいてあげる。
          だけど、流石に次は殺すわよ」

    (;`ハ´)「……ぐっ、く」

    殺す代わりに、デレシアはシナーの腹部を蹴った。
    その一撃でシナーは白目をむいて意識を失い、起き上がることも指先を動かすこともなかった。
    我ながら甘いと思うが、ここですぐに殺しては惜しい存在だ。
    教材として生き長らえ、ブーンの成長のために死んでもらう。

    獅子の子供にとっての遊び道具のような物だ。
    壊しても問題ないが、脆すぎては問題のある物。
    少なくとも、そこいらにのさばっているチンピラや雑魚よりもずっと役に立つ。
    精々いい教材として成長してもらう事を願うばかりだ。

    シナーとの戦闘で失った時間は、ほんの数分だった。
    問題ないと言えば嘘になる時間の消費だが、間に合わなくなることはない。
    先ほどよりも速く走り、デレシアは岬へと急いだ。
    そして、岬が見えて来た時、巨大な黒影が海から近づいてきているのを見咎めた。

    ライトを消しているが、あれはジュスティア海軍の所有する駆逐艦だ。
    ビーコンの光さえない事から、間違いなく周囲に気取られないように動いている一隻。
    ティンバーランドの息のかかった船と見て間違いないだろう。

    ζ(゚、゚*ζ「……」

    ゴムボートが繋がれた岬に立つ人間は二人。
    ショボンと、シュール・ディンケラッカーだ。
    船で逃げてもデレシアに撃ち殺されると理解し、ここでデレシアを食い止めようというのだろう。
    確かに、それ以外の手に出れば生き残る確率は皆無。

    彼女に喧嘩を売った時点で賢いとは言えないが、何もしないよりかは遥かにましだ。
    さて、どこまで戦えるのか、今のティンバーランドの水準を測る意味も込めて見させてもらうとしよう。

    (#´・ω・`)「来たか、デレシア……!!」

    ζ(゚、゚*ζ「どうやって死にたいか、リクエストはあるかしら?」

    (#´・ω・`)「何度も僕たちの邪魔をして、そんなに楽しいか!!
          人の!! 夢を!! 踏み躙るのが!!」

    愚問だ。

    ζ(゚、゚*ζ「つまらないわよ、あなた達の夢なんて。
          いい加減その夢、諦めなさい」

    (#´・ω・`)『英雄の報酬は、銃弾を撃ち込まれることだ!!』

    ダイ・ハードの起動コードが入力され、ショボンが戦闘態勢に入る。
    コンテナから飛び出し、ショボンは即座に飛び蹴りを放つ。
    両脚に装着された楯が展開し、死神の鎌を思わせる一撃がデレシアの頭上を通過。
    姿勢を低くしたところを狙い、頭上から踵落としが彼女の頭部を叩き潰さんと迫る。

    一撃で熟れたトマトのように爆ぜる彼女の頭を幻視したショボンを、衝撃が現実へと引き戻した。

    (::[-=-])『ぐっ?!』

    衝撃の正体はデザートイーグルの一撃だった。
    それは正確に脚と楯とを繋ぐマニピュレーターを破壊し、高周波振動の楯を奪ったのだ。
    二枚の楯は重力に従って地面に落ち、唖然とするショボンの胸部に銃弾が連続で撃ち込まれる。
    偶然にもショボンが体勢を崩していなければ銃弾は装甲を貫通し、その下にある彼の心臓を破裂させていた事だろう。

    だが衝撃を緩和することは敵わず、彼は仰向けに倒れてしまった。
    そこにすかさず撃ち込まれる銃弾。
    ショボンはどうにか身をよじってそれらを回避するも、銃弾によって桟橋が無残にも砕かれ、ゴムボートは引き裂かれて沈んだ。

    lw´‐ _‐ノv『夢と希望が我らの糧。我ら、正義と平和の大樹也』

    そして、傍観していたシュールが動き出す。
    入力したのは、以前に聞いたことのあるジョン・ドゥの特殊な起動コードだ。
    案の定現れたのは、白い装甲に金色の大樹が描かれたジョン・ドゥ。
    コードを強引に書き換えただけの棺桶だが、その背景にはイーディン・S・ジョーンズがいる事を忘れてはならない。

    世界的な棺桶研究の権威がティンバーランドの一員であることは、極めて重要な情報だ。
    ティンバーランドは貴重な棺桶を大量に所有しているだけでなく、それを自由に改造が出来る立場にある。
    ダットを数台使ったとしても、一般人では棺桶の起動コードはそう簡単に書き換えが出来ないはずだ。
    恐らく、現代人でそんな芸当が出来る人間は彼だけだろう。

    戦闘能力が皆無の男ではあるが、可及的速やかに殺しておいた方が後々のためではある。
    だがあのような男は極めて慎重であり、臆病であり、賢い。
    一度隠れ潜めば発見は難しいだろう。
    彼は世界中に個人的なコネを持ち、そこに加えて内藤財団の強力な影響力があれば、一年は行方をくらませられるだろう。

    ひょっとしたら、このショボン達の逃亡は彼を隠すための行動かも知れない。
    彼らの行動の全てを睥睨したいところだが、今はそうする余裕があまりない。
    個人で旅をしていたら可能だが、今はブーンの成長、そしてヒートの生き方を見届けたいという細やかな願いがある。
    多少の問題は目を瞑らなければならないのが面倒なところだった。

    MP7短機関銃を両手に構えたシュールが、咆哮と共に弾丸の雨をデレシアに浴びせかける。
    万が一を考えて回避行動に移りつつ、反撃の銃弾を撃ち返す。
    二発の銃弾でシュールの持つ二挺の銃が砕け散り、続けて放たれた弾丸によって肩の装甲に穴が開いた。

    〔欒゚[::|::]゚〕『この女っ……!! 化け物かっ……』

    ζ(゚、゚*ζ「失礼な女ね」

    (::[-=-])『退け!! 敵う相手じゃない!!』

    距離を開け、シュールはショボンの傍で膝を突く。
    弾倉を交換し、デレシアは銃腔を二人に向ける。

    ζ(゚、゚*ζ「何を今さら……」

    (::[-=-])『僕 た ち で は ね !!』

    口調ががらりと変わり、勝利を確信したそれになった。
    その言葉が発せられるのとほぼ同時に、沖にいた駆逐艦にまばゆい光が灯り、そして――

    ζ(゚、゚*ζ「あら」

    ――巨大な砲弾が、デレシアの頭上に撃ち込まれた。

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    '´ ⌒``ヽ、:::::::::::::::::::::::::::::::::::: August 12th PM11:53:::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::
           ヽ::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::: : ノ`...:.:::::ヽ
       :::     ):::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::: r‐‐‐--、:::::::::::::::::::::::::::::: : r' .:     `ヽ
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           ヽ,::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::: : /           ``-、::::::::: : く.:.    .:.:.::::::  ⌒
            --、:::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::: : !,:´      ::::::::::::::.   ...::::::::::::::::::: ヽ  .:.:.:::::::.:. .:.:.::::::
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    ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

    巨大な爆発が起きた。
    少なくとも、生身の人間では耐えられるような爆風と熱風ではない。
    木々は力任せに薙ぎ倒され、まだ青々しい葉が次々と燃え、地面は風圧で抉れた。
    その衝撃は強化外骨格の装甲を纏っている二人の体をまるで小枝のように揺るがし、片膝を突いて転倒を免れた。

    (::[-=-])『はははっ!!
          残念だったな!! 僕の勝ちだ!!』

    デレシアの身に纏うローブが耐熱、防弾に優れた繊維であろうとも、砲弾の直撃を受けて生きていられる人間はいない。
    棺桶があったとしても、砲撃を受けて耐えられる種類などそうそうない。
    エイブラムスですら戦車砲に耐えられるぐらいで、それ以上となるとCクラス、それも“名持ち”でなければ有り得ない。
    そして、デレシアは棺桶を所有していない。

    その情報を基に、ショボンはこの忌々しい女を葬る方法を考えていた。
    自分達が逃げれば、間違いなくこの女は追ってくる。
    どのような方法を使うにせよ、それは断言出来た。
    案の定、デレシアは逃げようとするショボン達を追い、ここまでやって来た。

    おびき寄せることに成功した後は、艦砲射撃による一掃だ。
    タフな人間にせよ、動きが俊敏な人間にせよ、この一撃を生き延びられるはずがない。
    仮にデレシアが耳付きの類だとしても、だ。
    絶対に勝てる方法を導き出し、それにまんまと誘導されたデレシア。

    呆気の無い最期だが、これでいい。
    どれだけ剛の者でも最期は呆気の無いものなのだ。

    (::[-=-])『ははっ…… は……?』

    笑いが止まる。
    爆炎が薄れ、ショボンの目に三つの影が浮かび上がった。
    揺らめき、煌き、そこに立つ影。

    (::[-=-])『な……』

    一つは、夜風に揺れるローブを纏った影。
    炎が下から照らし、月光が頭上からその姿を明らかにする。

    (<::、゚:::>三)

    頭から被ったローブには焼けた跡すらない。
    それどころか、破れた跡や血の跡さえもなかった。
    全くの無傷。

    (::[-=-])『な……ぜ……』

    だが驚きはそんな事ではなかった。
    デレシアが生きているという可能性は、ショボンの中に常に最悪の可能性として残されていた。
    今はその最悪の可能性が具現化しただけだ。
    問題なのは、それがどうして具現化したのかだ。

    回避行動は間に合わなかった。
    迎撃もしようとしなかった。
    完全に不意を突いた一撃のはずだった。
    二度とないほどの好機を失った原因。

    ショボンの驚愕は、そこにこそあった。
    そしてその答えは明白だった。
    明白だったが、不可解だった。

    (::[-=-])『あり…… ありえ……』

    こんなこと、有り得ない。
    こんなことが有り得えるはずがない。
    こんな馬鹿げたことが有り得てはいけない。
    断じて有り得てはならない!!

    (:::::::::::)

    (:::::::::::)

    黒影は二つ。
    一つはデレシアの正面に立ちはだかり、もう一つはショボン達に向かって堂々と立っていた。
    炎が薄れ、その正体が肉眼でも分かる程くっきりと浮かび上がる。

    (::[-=-])『ありえ……ないっ……!!』

    それは、悪夢。
    それは、一パーセントも可能性の中に組み込まれていなかった展開だった。

    似`゚益゚似

    ショボンの前に立ちはだかるのは鋼鉄に覆われた猟犬、番犬。
    全身を覆う外骨格に仕込まれた高周波振動発生装置を最大の武器とする、コンセプト・シリーズ。
    “ダニー・ザ・ドッグ”。
    それを使う人間はたった一人。

    ジュスティアが世界に誇る円卓十二騎士の一人、“番犬”の渾名を持つ第七騎士、ダニー・エクストプラズマン。
    この男があの砲弾の爆風と爆炎、更には破片を粉々にしたのだ。
    全身の高周波振動発生装置を総動員することで、強力な楯としてエクストはデレシアを庇ったのである。

    <::[-::::,|,:::]

    デレシアの前に立ち、地面に突き刺した大振りの剣の上に両手を乗せ、機械の瞳をショボンに向ける男が一人。
    足元に落ちる巨大な薬莢が、この男のしたことを物語っていた。
    砲弾の直撃を受ければ、ダニー・ザ・ドッグと雖も破壊は免れない。
    だが、爆発が事前に起きたのであれば、楯としての効果は十二分に発揮できる。

    そう。
    世界に一機だけ残されたガバメント・シリーズ、“アーティクト・ナイン”の装備である大口径ライフルをもってすれば、砲弾でさえも撃ち落せる。
    そしてダニー・ザ・ドッグが打ち消せなかった炎や鉄片、衝撃波をこの機体が身を挺して受け止めた。
    吹き飛ばされないように剣を地面に突き刺してまで、デレシアを守ったのだ。

    これを駆るのは、“執行者”の名を持つ第四騎士、ショーン・コネリ。
    ショボン達が襲ったセカンドロック刑務所の所長。

    (::[-=-])『どうして……貴様たちがっ……!!』

    ようやくまともな言葉として、ショボンが叫び声をあげる。
    ジュスティアからこの二人には、デレシアを捕えるように指示があったはず。
    それを無視するなど、騎士がするはずがない。
    彼らは法の番人。

    ジュスティアと言う、正義の都の体現者なのだ。
    その彼らが指示を無視して犯罪者に加担するなど、あり得ない。
    ショボンの心からの疑問に答えたのは、デレシアの静かな声だった。

    (<::、゚:::>三)「騎士が誰かの窮地に駆けつけるなんて常識じゃない」

    それは皮肉たっぷりの言葉だったが、今のショボンには業腹な事実として突きつけられている。
    その紹介を受けた二人は答えることなく、己の視線を静かにショボン達に固定していた。
    何かがあったに違いない。
    デレシアとこの騎士たちの間に、何かが。

    だが、まだだ。
    まだ終わりではない。
    最後に全ての濡れ衣をデレシアに着せて脱出する目論見はまだ終わっていない。
    常に戦力は分散させ、然る後に合流させるのがショボンのやり方だ。

    ジョルジュ・マグナーニとワタナベ・ビルケンシュトックが残っている。
    後者は戦力として計算に入れていいものかどうか悩ましいが、前者は間違いなくデレシアに対抗するためのプロフェッショナルだ。
    仔細は知らないが、ジョルジュはデレシアの行動を熟知しており、正面から対抗できる数少ない同志。
    彼の力があれば、この状況を少しでも変えることは可能。

    ζ(゚、゚*ζ「援軍は来ないわよ、少なくともここにはね」

    フードを脱ぎ、デレシアが淡々と告げる。
    主兵装を失ったショボンは、その言葉を聞くしかなかった。

    ζ(゚、゚*ζ「さぁ、男の子らしく困難に立ち向かってみせなさい」

    (::[-=-])『何を、何を言っている!!』

    ζ(゚、゚*ζ「そのままの意味よ。
          期待している二人は、ここに来れないってことよ」

    その言葉の意味を理解したのは、遥か後方から響いて聞こえた巨大な銃声が彼の耳に届いた時だった。

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    ┃二二二| }|::::::::::::::::::::::::::::::|┌┬┬┐| ,ゝヽ,,,,| |,,,/ /  | { |二二二:::┃
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    August 12th PM11:51
    ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

    ショボンとデレシアが対峙するのとほぼ同時刻。
    ジョルジュ・マグナーニとワタナベ・ビルケンシュトックの姿は島の西側にあった。
    二人は小型のセダンに乗り、ジョルジュの運転でジュスティアを目指していた。
    まずはバンブー島へと辿り着き、そこから事前の仕込みを利用して目的を達成しようという流れだった。

    彼等の仲間であるベルベット・オールスター=ビロード・コンバースの計らいのおかげで、それは容易く達成できる予定だった。
    そのはずだった。
    全ては、彼らの眼前に突如として現れた倒木が台無しにしてしまった。
      _
    ( ゚∀゚)「……ちっ」

    舌打ちをして、ジョルジュは急停車させた。
    倒木を越えるには道幅が狭く、車輌は貧相だった。
    仕方なく、ジョルジュは車を降りた。
    恐らく、嵐の影響での倒木だろう。

    島の危機管理体制も然ることながら、道路工事に関してはあまりにも杜撰だ。
    ウィンチがあれば車で引っ張って撤去できたが、そのような道具は持ち合わせていない。
    そこで彼は、己の所有する強化外骨格を使用して、力で倒木を排除することにした。
      _
    ( ゚∀゚)『Go ahead. Make my day.』

    たちまち両腕に装着される手甲と、巨大な一挺の拳銃。
    その威力は強化外骨格の装甲をいとも簡単に貫通し、中の人間を一撃で死に至らしめる程強力だ。
    倒木を正確に狙い撃ち、太い幹を粉々にして車でも押し通れるようにする。
    全くの偶然だったが、海から響いた砲声とその銃声はほぼ同時。

    一発の砲声が意味するのはデレシアの登場とその死だ。
    だが果たして、あのデレシアがそう簡単に死ぬだろうかという疑問は決して拭えない。
    どうにかしてあの場を切り抜けるというのが、ジョルジュの見解だったが、それはショボン達に言わずにおいた。
    言葉よりも実体験を通じて学んでもらわなければ、デレシアという女の断片を見ることは敵わない。

    木が砕けたのを確認し、ジョルジュは車内に戻ろうとして、ドアに伸ばした手を止めた。
    何かがおかしい。
    何がおかしいとは断言できないが、何かがおかしいことだけは分かってしまう。
      _
    ( ゚∀゚)「……誰だ?」

    返答はない。
    あるのは暗闇と、不気味に揺れる木々の影と、潮騒に似たざわめき。
    そして、闇が動いた。
      _
    (;゚∀゚)「おっ?!」

    反射的に銃を顔の前に掲げたのは、彼のこれまでの経験の賜物だった。
    それがなければ、彼の首と胴体は間違いなく分かれて地面に転がっていただろう。
    鋭く鈍い一撃を受けたジョルジュは車の陰に隠れ、車内に残っているはずのワタナベに声をかけた。
    恐らく防いだのは鋭利な刃物だ。

    刃物ということは、至近距離にいたという事。
    接近を許してしまったという事だ。
    もしも刃物ではなく銃器であれば、ジョルジュは殺されていたはずだった。
    つまりは相手の自信の表れであり、実力の差を見せつける行為だった。

    単独では分が悪いかもしれない。
      _
    (;゚∀゚)「ワタナベ、手を貸せ!!」

    だが返答はない。
    車はスモークガラスの為、中を見ることが出来ない。
    拳でガラスを叩いて、ワタナベにどうにか接触を試みる。
      _
    (;゚∀゚)「おい!!」

    何者かの視線を感じてそちらを向くが、そこには何もなかった。
    それは音も姿もなく、ジョルジュの周囲を動いているようだ。
    どこの誰かは知らないが、喧嘩を売ってきたのならば後悔させてやるだけだ。
    ツェザリカから空薬莢を排出した、その刹那。

    (:::::::::::)

    時間にして一秒にも満たない瞬間。
    リボルバーを使う人間が無防備になるその時、影が動いた。
    風切音だけを伴ってジョルジュを押し倒し、とっさに構えた腕に噛み付いたのは巨大な狼だった。
      _
    (;゚∀゚)「糞っ!!」

    ティンカーベルには確かに野生の狼が生息しているのは聞いている。
    だが人間を襲うほど狼は愚かではない。
    ましてこちらは武器を所持し、先程、巨大な銃声を聞かせてやったばかりのはずだ。
    なのに襲ってくるということは、何かが起きているということ。

    狼を振り払い、装填作業を再開しようとした時、今度は背中から衝撃。
    豪腕を振って殴り殺そうとするも、狼は一撃浴びせただけで追撃をしようとせず、すでに闇の中に消えた後だった。
    人を知っている動きだ。
    人間の戦い方を知っているが故に、一撃離脱で少しずつこちらの集中力と体力を削る方法を選んでいる。

    どこかに統率者がいるはずだと考え、ジョルジュは別のS&Wのリボルバーを目にも止まらぬ速度で抜き、闇に向けて発泡した。
    その速度は、今まさに飛びかからんとしていた狼を撃ち落とし、発砲炎で照らし出された別の狼を撃ち殺した。
    ここから形勢逆転を狙うジョルジュであったが、まさか、楯にしていた車ごと吹き飛ばされるとは考えてもいなかった。
    不可避の一撃により、ジョルジュの体は呆気なく中を舞い、受け身をかろうじて取るのが精一杯だった。

    狼が車を動かせるはずもなく、人間が関与していることは明らか。
      _
    (#゚∀゚)「いい加減にしろってんだ!!」

    耐えかね、ジョルジュは声を荒げて激怒した。
    姿を見せずに攻撃をしてくることは、まぁいいだろう。
    狼をけしかけてくることも、まぁいいだろう。
    だが、その両方を同時にされるのは気に入らないし、我慢ならない。

    ようやくツェザリカの装填を終えたジョルジュは、車の向こうに向けて発泡。
    ドアを貫通し、その向こうにいるかもしれない人間を殺そうとしたのだ。
    当然、手応えはない。
    いるかどうかも分からない相手に撃ったところで、意味が得られるなど虫が良すぎる話だ。
      _
    (#゚∀゚)「無礼やがって……!!」

    姿の見えない襲撃者に、ジョルジュの堪忍袋の緒が切れた。
    腕に装着された強化外骨格の力を使い、車を殴り飛ばす。
    地面から少し浮き上がる程の一撃は、車を車道から押し出し、森の中へと転げ落とした。
    運が良ければ狼を数匹巻き添えに出来ただろう。

    そして、右手にツェザリカ、左手にS&Wを構えて仁王立ちになる。
    そもそも、ジョルジュは隠れて戦うことを好まない。
    奇襲をされるのも好かない。
    ならば、こうして正面から攻めてくるように仕向けて、こちらの得意な状況に持ち込むのが得策だ。

    唸り声一つ立てない狼の群れ。
    それを指揮する人間。
    考えられるその人種は、一つだけ。
    動物と意思疎通を図る事の出来る、人ならざる人間。
      _
    (#゚∀゚)「耳付きが俺に喧嘩を売るっていうんなら、容赦はしねぇ!!」

    そうでなくても容赦はしない。
    果たして、ジョルジュのその言葉に返答はなかった。
    風が吹き、木々がざわめき、月明かりが周囲をまばらに照らし出す。
    木漏れ日のような光の柱がジョルジュの目の前に黒い人影を見せた。

    黒い鍔広帽子。
    黒いマント。
    幽鬼のように立つ姿は、まるで滲み出た夜の化身。
    返答の代わりに、その人影は殺意を漂わせた。
      _
    (#゚∀゚)「……死ねよ」

    選んだ手段は速攻。
    両手の銃がその黒い人影に向けて火を吹き、一切の回避の余地を与えない。
    まさに一撃必殺、電光石火の一撃。
    ジュスティア最速の射撃は、複数の発砲にも拘らず銃声がほぼ一つにしか聞こえない程の早さだった。

    銃弾は微妙にその着弾点がずらされ、相手が前後左右どう避けても当たるようになっていた。
    音速を超えた銃弾を避ける人間は多くいる。
    だが音より速く動ける人間などいない。
    結局のところ、直前の動作を読んで動いているだけに過ぎない。

    ならば読ませなければいい。
    読むだけの時間を与えなければいい。
    あらゆる可能性を潰せばいい。
    実に簡単な理屈だ。

    ――合計十発の銃弾が一瞬の内に闇夜に消え、ジョルジュは言葉を失った。
    ただの一発も当たらなかった。
    それは彼の狙いが悪かったわけではない。
    事実、相手が前後左右、どちらかに動いても弾は当たるようになっていた。

    それは紛れもない事実だ。
    問題だったのは、ジョルジュが可能性の中に上下、という概念を入れていないことにあった。
    地面を這う程の姿勢で駆け抜け、一瞬でジョルジュの前にその影は現れていた。
    こうなってしまえば、もう、抗う術は一つしかない。

    頭突きを放とうとするも、影は風に吹かれる紙のようにするりとジョルジュの前から消え失せ、肋骨に固い一撃を見舞った。
    鍛えようのない骨を狙われ、彼の肋骨は悲鳴を上げた。
    音だけで折れたのが分かる。
    その一撃でジョルジュは意識を失い、地面に落下して意識を取り戻した。
      _
    (;゚∀゚)「ぐっ…… くそっ……」

    冗談のような強さだ。
    この強さは円卓十二騎士よりも遥か上。
    騎士を二人相手にして生き延びたジョルジュだからこそ、そう断言できる。
    影に潜んだこの襲撃者は、ジュスティアの最高戦力二人を合わせたものよりも強い。

    相手の正体は耳付きであり、そして、この超人的な戦闘能力。
    この二つを手にしてしまえば、答えを導き出すのにそう時間は必要なかった。
      _
    (;゚∀゚)「“イルトリアの獣”か……!!」

    前イルトリア市長の元には、三人の直属の部下がいた。
    全員が耳付きであり、全員が最高戦力という存在。
    三人の戦闘力は円卓十二騎士の総数よりも上とされ、ある種の伝説として語られてきたもの。
    それが、イルトリアの獣。

    その内の一人は狼の耳付きであり、近距離戦闘に非常に長けていたと聞く。
    “讐狼”、“ウルフ・オブ・ヴェンデッタ”、“アヴェンジャー”など、渾名は一つに収まらない。
    これがオアシズでショボンの画策を打ち破った人間の一人。
    その名は、ロウガ・ウォルフスキン。

    相手にとってこの上なく最悪の人間だ。
    元警察官が敵う相手ではない。
    容易に逃げ切れる相手でもない。
    どこまで抗えるか、試してみる他選択肢はなかった。

    木を背にし、吹き飛んでも手放さなかった二挺の銃を構え、最後の反撃を試みる。
    ジョルジュは覚悟を決めた。
    噛み殺されるにしろ、切り殺されるにしろ、最期は無抵抗で終わるつもりはなかった。
    だが、いくら待っても止めの一撃を刺しに来る気配がない。

    それどころか、周囲には気配すらなかった。
    殺さずに消えたというのか。
    敵として認識せず、殺す必要すらないと判断したのか。
    それとも、別の目的があったのかは分からずじまいとなった。

    上体を動かすと肺に痛みが走るため、木に寄りかかったまま時が過ぎるのを待つことにした。
    ややあって、一台の車が山道を進んでジョルジュの姿を照らし出した。
    その頃にはジョルジュの意識は朦朧としており、その車が味方なのか、それとも別なのかの判別は下せなかった。
    車から降りてきた人間によって銃が力づくで奪い取られたことから、少なくとも、味方ではないことは確かそうだ。

    そして、固定されているツェザリカも取り外され、ジョルジュの棺桶についての知識を持つ人間であることも分かった。
    もう抵抗をする体力はなかった。
    聞こえた声には間違いなく聞き覚えがあり、怒りが含まれていることも聞き取れた。

    (=゚д゚)「ジョルジュ・マグナーニ。 お前を逮捕するラギ」
      _
    ( -∀-)「……お前にそんなことを言われる日が来るとはな、トラギコ」

    トラギコ・マウンテンライト。
    どのようにしてこの場所を知ったのかは分からないが、見つけたのがこの男で良かったとジョルジュは思った。
    この男であれば、少なくとも、すぐに殺されることはない。
    明らかな犯罪者であれば別だが、トラギコは間違いなくジョルジュをジュスティに送るはず。

    ティンバーランドの生き証人として利用するつもりなのだろう。
    その考えの甘さは昔から変わっていない。
    ジョルジュがこうして変わったように、トラギコも変わるべきなのだ。

    (=゚д゚)「俺も、あんたにこんな事を言う日が来るなんて思ってなかったラギ。
        あんたをどうこうする前に、訊きたいことがあるラギ」
      _
    ( -∀-)「デレシアのことか?」

    (=゚д゚)「話が早くて助かるラギ。
        あの女、何者ラギ?」

    これはチャンスだと、ジョルジュは思った。
    意識が無くなる前に、トラギコをこちら側に引き込む種をまいておくべきだと判断した。
      _
    ( -∀-)「……知りたければ、俺に協力しろ。
         今のジュスティアであいつを知るのは不可能だ。
         俺を突き出すか、それとも、匿うか……
         選びな、トラギコ」

    トラギコもデレシアにある意味で惹かれているのだ。
    彼女の秘密を知ることは、恐らく、世界の何よりも面白いことを知ることに繋がる。
    その好奇心。
    その知的欲求。

    抗えるはずがない。
    トラギコはジョルジュと同じなのだ。
    同じであるが故に、デレシアに関する情報は喉から手が出るほど欲しい事だろう。
    彼ならば同意するはずだ。

    そして、ティンバーランドに参加し、デレシアを追うという目的のために世界を変える事にも加わる。
    手強い敵が味方になる事を考えると、非常に嬉しい展開だ。
    後は、同意の言葉さえ聞ければいい。
    ジョルジュと同じ道を進むという、その言葉を。

    ――か細い意識が黒に染まる直前、ジョルジュが聞いたのは手錠がつけられる無情な音だけだった。

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    August 13th AM00:03
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    ワタナベ・ビルケンシュトックの姿は、ジョルジュがいた場所から遥かに離れた場所にあった。
    倒木が罠だと素早く見破り、彼女は一人初めから定められていた合流地点に向かうことにしたのだ。
    合流場所は崖下。
    その下は自然が作り出した巨大な空洞となっており、海底まではかなりの深さがあった。

    厳重な警戒態勢にあるこの島を脱出するためには、陸路と空路は選択肢から消され、海路だけが残される。
    だが船を使って逃げたとしても、ジュスティアが気付いて砲撃をされたら元も子もない。
    姿が見えないように逃げることが重要であることを、ワタナベはよく理解している。
    背後で銃声が響いているのを我関せずと言った調子で聞き流し、合流場所へと足を進めた。

    今頃はトラギコとジョルジュが仲良くしている頃だろうと、彼女はほくそ笑んだ。
    開けた場所に到着し、時計で時間を確認する。
    予定の時間まで、後数分だ。
    ところが、背後から聞こえた跫音に、ワタナベは振り向いた。

    从'ー'从「……あらぁ、なんのつもりかしらぁ?」

    ( ><)「どういうつもりなんですか?」

    从'ー'从「何がぁ? 予定通りでしょぉ?
         それよりぃ、情報統制の方はどうなってるのぉ?
         こんなところで油売っていいのかしらぁ?」

    ビロード・コンバースは飄々とするワタナベに対し、明らかに怒りを込めた目を向けてきていた。
    これはあまり好ましくない状況だ。
    冗談は通じなさそうだ。

    ( ><)「一度ならず二度、三度……!!
          同志を売って、何がしたいんですか!!」

    从'ー'从「楽しみたいの、それだけよぉ」

    ( ><)「裏切るつもりですか……!!」

    从'ー'从「裏切る? 違うわよぉ。
         私は私のしたいようにしていいって言われているから、そうしているだけよぉ。
         なんなら、キュートにでも訊いてみたら?」

    ( ><)「……だからって、限度があるんです!!」

    これ以上会話を重ねたらビロードが激昂して襲ってきかねない。
    戦闘になれば彼を殺すことは造作もないが、そうしてしまえば、組織から追われる身となる。
    ワタナベは世界中で恨みを買っているため、これ以上余計な恨みを増やしたくはない。
    彼女の目的を邪魔しなければ、ある程度の事には目を瞑るつもりだった。

    仕方あるまい。
    ここは引きさがり、今一度計画を練り直す必要がある。
    折角一足先に逃げられるというのに、この男は空気が読めない程の実直さが欠点だ。

    从'ー'从「どうするのぉ? ジョルジュはトラギコが連れて行ったみたいだけどぉ、大丈夫なのぉ?」

    ワタナベは余計な戦闘を回避するため、話題を逸らすことにした。
    それについてはビロードも同じ気持ちだったらしく、渋々ながらそれに乗ってきた。

    ( ><)「……それは心配いらないんです」

    流石、ジュスティアの中心部に潜入しているだけの事はある。
    それに、今はキュート・ウルヴァリンもジュスティア警察の深部へと関わることに成功している。
    この島で起きた一連の事件はすでに当初の目的を破棄し、別の目的のために動き出していた。
    素早く機転を聞かせ、駒として使われている人間以外はもう少し先に予定されていた計画を踏み倒して行動していた。

    ――即ち、ジュスティア内部へティンバーランドの根を潜り込ませ、組織第二の拠点をジュスティア内に作るという事である。

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                     ,-┐ ∧ヾ V7 rァ
                  ,r-、」 k V ハ Y / //__ Ammo→Re!!のようです
                    ィx \マ ィ、 〈 | 、V rァ r‐┘
                 > `‐` l/,ィ V / 〉 〃 ,ニ孑Ammo for Reknit!!編
                f´tァ 厶フ ヽ! fj |/厶7厶-‐¬
                 │k_/`z_/> ,、    ,、 xへ戈!│第九章【knitter-編む者-】 了
                | l      ̄ | f^´  ̄    !│
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