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- 名前: 歯車の都香 2017/07/19(水) 21:18:27
- 第八章【heroes-英雄-】

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騎士道は 滅することと 見つけたり
――円卓十二騎士誓いの言葉より抜粋
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八月十一日。
怪盗、デミタス・エドワードグリーンからの挑戦状がジュスティア警察に送り付けられ、現場が大忙しで対応をしている頃。
一人の刑事が、黒塗りのセダンに乗せられてグルーバー島にあるホテルへと連行されていた。
車のガラスは全て防弾のスモークグラスとなっており、誰が乗せられているのか、誰が運転しているのかを外から確認する術はない。
運転手とその横に座る男は二人とも若々しさが残る三十代前半で、スーツを下から押し上げる程の筋肉の鎧は彼らが厳しい訓練、もしくは現場を潜り抜けてきた証だった。
懐の不自然な膨らみはそこに収められた拳銃の存在を物語り、鋭い眼光は場数の多さとその激しさを如実に表している。
時折バックミラーに向けられる視線は、周囲を見渡す時よりも一層鋭さを増した。
その視線の先にいる男は、“虎”と呼ばれる刑事だった。
エラルテ記念病院から連れ出された時、男は激怒して怒鳴り散らしていたが、今は嘘のように静まり返っている。
だがその目はこの状況を受け入れているようには思えない。
隙あらば襲い掛かり、噛み付き、殺そうとする獰猛な獣を彷彿とさせる目をしていた。
(=゚д゚)
人でありながらも獣を思わせる眼力を持つ男の名は、トラギコ・マウンテンライト。
正義の都として知られるジュスティアの人間であり、ベテランの警察官だった。
その性格は凶暴でありながらも抜け目なく、犯人の逮捕率と暴行による始末書の数は現役警官の中で最も多いと言われている。
それ故に警察署内には彼を警官として認めるべきではないとする人間と、犯罪に対する特効薬としての実力を認める人間がいた。
直接ではないが、ミラー越しに視線を向けていた男はハンドルを握る手が震えているのを悟られないよう、視線を前に向けなおした。
自分達に向けられる敵意の塊のような視線に耐えかねての行動だったが、それでも精いっぱいの行動だった。
手錠で動きは封じているはずなのに、何故か、トラギコの敵意は本物のナイフを突きつけているかのような感覚に陥らせる。
緊張のあまり、男達は二人揃って喉を鳴らして唾を飲み込んだ。
何も恐れる必要はない。
虎は捕えられ、こうして手錠を嵌めて後部座席で静かに座っている。
視線に気づいたのか、それとも空気の微細な変化を感知したのか。
沈黙を守っていたトラギコが地鳴りを思わせる声を発した。
(=゚д゚)「……どこに連れて行く気ラギ?」
答えない。
返答は許可されていないし、この男は少ない手がかりで何かの答えに辿り着く様な厄介者だ。
迂闊に答えて自分達の首を絞めるような真似は回避したい。
明日中にはトラギコをジュスティアに向けて移送するため、明朝にはこのグルーバー島の西に位置するバンブー島に移動しなければならない。
それまでの間にトラギコが何もしないとは思えない。
ならば、余計な行動に繋がることは断じて避けなければならなかった。
この男が真実に辿り着くとは思えないが、その真実を可能性の一つに入れて行動したとしたら、かなり手荒な手段を講じなければならなくなる。
計画が大きく変更されることも考えられる。
ここは、沈黙こそが正解だ。
(=゚д゚)「んだよ、無視か」
まずは、トラギコをホテルに連れて行き、そこで薬物などを使った下準備をしなければならない。
早急に計画を実行に移すのが彼らにとって得策なのだが、それは余計な疑念を生む可能性があり、決して焦ってはならないと計画者に念押しされていた。
彼らはトラギコをジュスティアに移送するように命令を受けているが、その実、その命令は実行されることはない。
別命を受けた彼らが実行するのはトラギコの殺害。
事件になる他殺ではなく、納得のいく自殺を偽装しなければならない。
そのためにトラギコの殺害は今日ではなく、一日明けた明日である必要があった。
それに、今夜は騒ぎを起こしてはならない。
今夜と明日の夜に起こる騒ぎはすでに決まっているため、ここで新たものを付け加えるのはそれ以外の予定の変更につながる。
デミタスの予告を阻止するためにジュスティア警察と軍には全力を注いでもらい、それ以外のことについては意識を向けさせてはならない。
最高の舞台を用意し、彼らにはそれだけを見てもらわなければならないのだ。
今夜中には各要所に警官や軍人が配備され、エラルテ記念病院周囲は要塞と化す予定となっている。
それが完了するまでは、少なくともトラギコには何一つ騒ぎを起こさせてはならない。
大人しくホテルに連行され、そして、薬物によって意識と体の自由を奪われるまでは油断禁物。
時間にすれば一時間にも満たない僅かな作業だが、重要度は極めて高かった。
何もかも万事順調に進行して明日になれば、各方面の同志達が一斉に動き始める。
それに合わせて、彼らもトラギコを連れてジュスティアに移動を開始し、その道中でトラギコを殺すことになっていた。
本来は何人たりとも島の行き来は禁じられていたが、彼らの車だけは特例として許可が出されていた。
騒ぎを隠すのならば、騒ぎの中、と言うわけだ。
(=゚д゚)「この方向だと……なるほど、ホテルか。
大方、どこかのホテルを貸し切ったんだろうな。
で、朝方に出かけるって感じラギね。
晩飯と朝飯ぐらい選ばせてくれるんだろうな」
この一言で、プランの変更が決定された。
方向感覚を狂わせるために街中を無意味に走っていたが、それは無意味だったようだ。
短期間の内にトラギコは街の様子を把握しており、彼らが試みた工作は失敗に終わった。
トラギコを明日の移送まで生かしておけば、必ず何か行動を起こす。
その前に殺さなければならない。
ホテルに行く前にトラギコを始末しなければ、必ずや災いをもたらすだろう。
( ''づ)「……」
(-゚ぺ-)「……」
二人は互いに目線を合わせ、小さく頷いた。
ホテルに向かっていた進路を変更し、車は山の奥へと向かい始めた。
街の明かりが遠ざかり、街灯すらない山中に停まった時にはすでに日付が変わっていた。
エンジンを切ると、車内の明かりが一斉に消えた。
柔らかな月光が照らし出す車内に、うめき声の様なトラギコの低い声が響いた。
(=゚д゚)「……シナリオは?」
流石は刑事だ。
これから何が起きるのか、自分の身に何が起ころうとしているのかを察している。
だがもう、遅い。
野生の虎ではなく、檻の中に閉じ込めた虎であれば殺すことは容易だ。
(-゚ぺ-)「これまでの失敗と屈辱に耐えかね、自殺。
そういう流れになっているので、抵抗はお止めください」
男は黒皮の手袋をはめ、ダッシュボードからベレッタM8000を取り出した。
それは間違いなく、トラギコの銃だった。
車に乗せる際にトラギコから没収し、そこに入れておいたものだ。
トラギコ自らに遊底を引かせ、薬室に入っていた弾も、弾倉の弾も取り出させており、その部品の全てに指紋が付いている。
当然、銃から検出されるのはトラギコの指紋だけ。
自殺に見せかけてトラギコを殺すことも、トラギコの仕業に見せかけて誰かを殺すことも可能だ。
(=゚д゚)「そんなこったろうと思ってたラギ。
お前ら、警官じゃねぇだろ」
妙に余裕のある言葉を聞きつつ、男は弾倉に弾を込めて、それを装填してから遊底を引いた。
狙いをトラギコの脚に定める、銃爪に指をかける。
一発で頭を撃ち抜いて自殺しては、あまりにもリアリティに欠けてしまう。
自殺しようとするトラギコを制止しようと試みたが、取り押さえようとする過程でトラギコが自らの足を撃ち抜き、最後は心臓を撃ち抜いて自殺したとするシナリオが用意されていた。
本来は混沌状態にあるトラギコに施す処置だったが、意識があろうがなかろうが、この状況からの逆転は不可能だ。
( ''づ)「……我々が警官でないと考えた理由を、今後の参考までに聞かせてもらえますか?」
(=゚д゚)「当たり前だろ。
理由は二つだ」
トラギコはもったいぶるようにして言った。
その言葉が力を持っているかのように、月に雲がかかって車内が薄暗くなる。
(=゚д゚)「一つは、俺をこうして捕まえたこと。
んでもってもう一つは、 尾 行 車 に 気 付 け て い な い っ て こ と ラ ギ 」
トラギコの言葉を裏付けるように、眩い閃光が車内を照らし出した。
それはカメラの生み出す閃光。
勘のいいマスコミの犬が尾行していたのか。
後続車はいなかったはずだから、先回りされたという事だ。
どれだけ疑問や仮定を思い浮かべても答えは出てこない。
逃げられる前にマスコミの人間を排除しなければならない。
車内で拳銃を構える男とトラギコの姿が世に出回れば、このシナリオは破たんする。
助手席の男は舌打ちをしつつ懐からコルトを抜いて遊底を引き、それからドアを開けようとした。
正にその時、起きてはならないことが起きてしまった。
(=゚д゚)「玩具は俺が預かるラギ」
一瞬の内にトラギコの手が後部座席から伸び、コルトを奪い取ったのだ。
彼の左手首には手錠がぶら下がり、右手とは繋がっていなかった。
コルトの銃腔はM8000を持つ男ではなく、ドアに手を伸ばしたままの姿で固まる男に向けられていた。
(-゚ぺ-)「いつの間に手錠を……!!」
トラギコの腕を拘束していたのは錠が無ければ決して開ける事の出来ない物で、その硬度はただの金属製の手錠よりも高い。
力で破壊することは無理だ。
ならば、別の手段で錠をこじ開けたのだろう。
しかし道具を手に入れるタイミングなどなかったはず。
(=゚д゚)「護送する人間に手錠をするんなら、ちゃんと体の前で手錠をかけるのは常識ラギ。
でねぇと、俺みたいに手癖の悪い人間に逃げられるラギよ」
その言葉で、助手席の男は手錠を抜けるための道具をトラギコがどのように入手したのかに気付いた。
( ''づ)「懐に手を入れた時か!!」
あの時。
ベルベット・オールスターに中指を立てるために懐に手を入れたのは演出で、実際は道具を手中に隠すための演技。
気付いた時にはもう遅く、こうしてトラギコに多くの情報を与えた上に銃を持たせてしまった。
捕えていたと思っていたのは彼らだけで、その実、虎は虎視眈々と機会を窺っていたのだ。
獲物が勝利を確信し、隙を見せるその刹那の瞬間を。
(=゚д゚)「お前ら、俺を知らな過ぎラギ。
本当に警官だったら、俺の両手両足を拘束してるはずだ。
雇い主はベルベットだな?」
これ以上はもう生かしておけない。
男は、一の犠牲で済むのであれば今はそうするべきだと独自の判断を下した。
トラギコの言葉に対して銃爪を引いて撃鉄が落ちる小さな音が鳴ったが、銃声は響かなかった。
ベレッタは銃弾を吐き出さぬまま、ただ、沈黙している。
間違った鍵で扉を開こうとしているかのように、何度銃爪を引いても意味はなかった。
(-゚ぺ-)「何っ?!」
思わず間の抜けた声が漏れ出た隙を、虎は決して見逃さない。
(=゚д゚)「馬鹿が」
今度は、トラギコの番だった。
罵倒の言葉と同時にコルトの銃爪が引かれ、狭い車内に銃声が響き渡り、まばゆい光が男達の目を覆った。
ドアに手をかけたまま、脳漿の一部を失った男の死体がギアボックスの上に倒れ込んだ。
普通の警官ならば警告の一つもあったのだろうが、この男はトラギコ。
犯罪者に対する警告など、頭の中から欠落した男なのだ。
(=゚д゚)「さぁ、話の続きをするラギ」
硝煙の立ち上る銃腔を男に向け、その手から抵抗する間も与えずM8000を奪い取る。
それは赤子の手から物を奪い取るように素早く、そして恐ろしく自然な動作だった。
発砲が出来ない以上無駄な道具であると誤った判断を下したと気付いた時には、もう手遅れだった。
恐らくはこの銃も、トラギコが何らかの細工を加えたために発砲が出来なかったのだろう。
細工をしたのがトラギコであれば、それを解除し得るのもトラギコ。
この銃は少なくとも、トラギコにとっては価値のある武器なのだ。
(-゚ぺ-)「喋ると思いますか?」
(=゚д゚)「知るかよ、そんなもん」
男の左手がシートの下に伸び、そこに隠されていたナイフに指先が触れる。
ナイフの刃には猛毒が塗ってあり、掠り傷でも十分に人を死に至らしめる事が出来る。
どれだけ鍛え上げた体を持つ大人でも五秒とかからずに心臓を停止させ、安らかな死を与えられる緊急用の武器だ。
今が使い時だ。
(-゚ぺ-)「役割を終えた葉は、ただ散るだけです」
(=゚д゚)「あ?」
男は自らの指先を刃に押し当て、その毒を自らの体内に取り込んだ。
すぐに毒が全身に回り、男の心臓は停止した。
死体と化した男を見下ろし、トラギコは溜息を吐いた。
(=゚д゚)「……糞」
そうぼやきながらも二つの死体を探り、身分証など何かの手がかりになりそうな物を探す。
見つかったのは精巧に偽造された警察手帳、封筒に入った通行許可証と、数枚の金貨だった。
それらの品を懐にしまい込み、M8000の撃針に施していた細工を取り除く。
車を出たトラギコの体を、冷たい風が撫でる。
(=゚д゚)「お前なら絶対に来ると思ってたラギ」
月光の下に浮かぶ人影に向け、トラギコが声をかける。
車の前で全ての成り行きを見守っていた男が、トラギコの言葉にニヤリと笑みを浮かべた。
この男ならば必ずエラルテ記念病院に向かい、そこでトラギコを見つけ出して追いかけてくると信じていた。
何故ならこの男は、優秀なカメラマン。
分かり易いスクープではなく、本物のスクープを追う男なのだ。
(-@∀@)「へへっ、ワンショット・ワンチャンスってね」
男の名前はアサピー・ポストマン。
ティンカーベルにいる全ての新聞記者の中で唯一、この事件の真相に近づいている人間である。
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‘ミ辷__Ammo for Reknit!!編 第八章【heroes-英雄-】
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八月十二日。
トラギコにとってやるべきことは山積みだったが、取り急ぎ解決すべきは、ショボン・パドローネ達の脱出を阻止することだった。
デミタスの予告状は間違いなく陽動であり、それに翻弄される警察官たちは本当の意味で事件を解決することは出来ない。
だが、自由に動くことのできるトラギコだけは別だ。
デミタスはライダル・ヅー達に任せ、自分はショボン達を追う事が出来る。
ただし、警戒しなければならないことがある。
終ぞ白状しなかったが、トラギコを殺そうと動いたのは報道担当官のベルベット・オールスターで間違いなさそうだった。
つまり、警察の中でもかなりの上層部にショボン達の細胞が潜り込んでいることになり、ここでトラギコが迂闊に生きている姿を晒そうものなら別の手段で命を狙われるだろう。
大々的にトラギコを殺すことは出来ないだろうから、事故に見せかけて殺そうとするだろう。
となれば、その働きをしそうな男の動きを封じなければならない。
狙撃手、カラマロス・ロングディスタンス。
実際にトラギコを殺そうとしてきた男であり、トラギコの友人を殺した男でもある。
この男が狙撃をする瞬間をアサピーは写真に収めており、それを使って糾弾するつもりだった。
その予定はしばらく棚上げにしなければならないだろう。
今写真をジュスティアに提供しても、上層部に潜り込んだ人間によってその存在を抹消されるのがオチだ。
致し方ないが、いつもより乱暴な手段に出るしかない。
まずはどこか落ち着いた場所に隠れ、それから策を練る必要がある。
車内から二つの死体を引きずり出し、森の中に捨てた。
トランクから強化外骨格“ブリッツ”の入ったコンテナを取り出し、乱暴に閉める。
(=゚д゚)「街はどうなってるか分かるラギか?」
車内から見つけたウェットティッシュをアサピーに投げてよこし、血と脳漿の飛び散った車内の清掃を任せた。
アサピーは流石に眉を顰めたが、トラギコに一睨みには逆らえなかった。
渋々掃除を始め、トラギコの質問に答えた。
(-@∀@)「エラルテ記念病院の周りが慌ただしいぐらいで、他は静かなもんですよ。
ま、あんなフェイクに引っかかるようじゃマスコミとしちゃ三流ですね」
(=゚д゚)「じゃあお前は二流ってところか」
(;-@∀@)「一流ですよ!!」
(=゚д゚)「自分で言う内は二流なんだよ」
それから二人を乗せたセダンは山奥にあるキャンプ場に向かった。
元々無人のキャンプ場であるため、これと言って道具の貸し出しを行っているわけではない。
あるのは開けた空間だけ。
騒ぎの最中ということもあり、利用客はほとんどいなかった。
駐車場に車を停め、トラギコはシートを倒した。
(=゚д゚)「ジェイル島に行く道ってのは、船だけなんだろ?」
ジェイル島は島そのものを監獄化した孤島だ。
海、もしくは空からの接近以外で島に上陸する手立てはない。
逆を言えば、それ以外の手段で外の世界に逃げ出すことも出来ない。
(-@∀@)「あぁ、まぁ、そうですね」
(=゚д゚)「他にあるのか?」
(-@∀@)「聞いたことがある程度なんですが、昔、磯釣りをしていた人は船を使わずにあの島に行ったらしいですよ」
(=゚д゚)「泳いだんじゃねぇのか?」
(-@∀@)「歩いて行ったらしいです。
でも、これは島のコラムを作る時に老人ホームの人に聞いたので分からないんですけどね」
アサピーもシートを倒して、寝入ろうとする。
が、トラギコはアサピーの発言を無視することは出来なかった。
思い当たる手段が一つだけある。
(=゚д゚)「……ぼけた老人ってのはな、話を誇張することはあっても手段を言い間違えることはまずねぇんだ。
それが昔話なら尚更ラギ。
歩いて行けるんだよ、あの島には」
(-@∀@)「はははっ、ご冗談を!!
海の上を歩くって言うんですか?」
そう。
歩くのだ。
だが正しくは海の上ではなく、海面に出た岩の上を飛び移って行くのである。
そして釣り人が動き始めるのは夜ではなく、朝方。
つまり、朝方になれば移動するための道が開け、夜になる頃にはその道が途絶えるという事。
途絶えたとしても、それは海面に出ていないだけであって、場所さえ分かっていればいつでも使えるはずだ。
問題は、その老人が使った道が今も使えるかという事だ。
(=゚д゚)「あぁ、そうだ。
そのためには写真がいるラギ。
おい、朝一で撮りに行くぞ」
(-@∀@)「と言っても、場所知らないですよ、僕」
(#=゚д゚)「探すんだよ、そんぐらい!!
お前の得意分野だろうが!!」
それから二人は血と硝煙の匂いが残る車内で眠りにつくことにした。
寝心地は最悪だったが、眠らなければならない。
今ジタバタしたところで得られるものは何もないだろう。
ほどなくして、トラギコは眠りについた。
――自然に目が覚めたのは、朝の四時だった。
(=゚д゚)「……」
眠りながらトラギコが考えていたのは、デミタスの侵入経路だった。
この島からジェイル島に行くためにはいくつもの困難がある。
言わずもがな、その立地があらゆる経路の前提条件としてある。
陸から離れた場所にあり、船で行こうとするのであれば岩礁の位置を把握していなければならない。
ゴムボートで行こうものなら、その船底を鋭い岩肌で切り裂かれて沈むことだろう。
仮にその条件を突破しても、そもそも島全体が封鎖されている今、どのようにしてジェイル島に向けて近づくのかを考えなければならない。
単独でこれらの条件をクリアすることは不可能だ。
必ず内通者がいる。
例えば、ベルベット。
彼が協力すれば、ヅーの施したあらゆる措置が白日の下にさらされ、その効果は決して発揮されない。
恐らく、デミタスとヅーの対決は実現してしまうだろう。
それは最早回避できない問題として考えるべきだ。
万が一、助力が必要な事態になった時を考慮し、トラギコも島に侵入するための手段を考えることにした。
デミタスの事で島中が騒ぎ出している今であれば、どうにか出来るかもしれない。
騒動の中で相手の目を盗んで動くことはトラギコも得意だ。
場所が島である以上、海から行くしかないだろうが、用心深いヅーは島の周辺に各種センサーを設置している事だろう。
人の目を騙して島に近づいても、センサーに感知されてしまえば意味がない。
時間が無い中で目立たないようにセンサーを仕掛けるとしたら、必ずや理論的に配置するはずだ。
アサピーの言う釣り場に至る道を使えば、或いは、センサーは仕掛けられていないかもしれない。
紛れもない賭けだが、理屈に対抗するには賭けが一番なのだ。
今の時間帯を利用して道を写真に収め、それを記憶しておかなければ万が一に備えられない。
写真を覚えるのは難しい話ではないが、必要な時に思い出せるようにするには反復練習が必要だ。
となると、善は急げ。
一刻も早く現場に向かうため、トラギコは車のエンジンをかけ、アクセルを一気に踏み込んだ。
タイヤが地面を抉る音と振動で目を覚ましたアサピーは、目の前に迫ってくる木々に悲鳴を上げた。
(;-@∀@)「きゃー!?」
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(=゚д゚)「うるせぇよ。
ほれ、シートベルト締めろ」
トラギコが言い終わるよりも早く、アサピーはシートベルトを締めていた。
キャンプ場を通り抜け、下り道へと差し掛かる。
木の根を乗り越え、跳ねた小石が車体にぶつかり、大きな岩を踏み越える度に二人の体は猛牛に跨る闘牛士のように上下した。
目指すのは川だった。
川沿いに下って行けば、自ずと海に出る。
海岸にいる警備の目を潜り抜ければ、写真を撮影するのは他愛のない話だ。
目的は場所の把握であり、それを記憶することなのである。
潮の関係もあるため、出来るだけ早く現場に辿り着きたかった。
しかし、車輌がセダンと言う事もあって、そう上手くいくとは考えていない。
川に到着できなくても、途中までの道をショートカットできればそれでいい。
度重なる衝撃に耐えかねた前輪が吹き飛び、トラギコは咄嗟に車体を木にぶつけて停車させた。
ほんの一瞬、トラギコの意識が飛ぶ。
意識が戻り、最初に聞こえたのは川のせせらぎだった。
自分の四肢が動くことを確認してから、車の状態を見る。
フロントガラスは失われ、エンジン部分から白煙が上がっている様子がよく見えた。
木にぶつけた後部座席は大きく凹み、板金屋でも修理は不可能だろう。
この車はもう使えないが、隠す手間が省けたのは間違いない。
(;=゚д゚)「……ふぅ。
生きてるか?」
(;-@∀@)「もうやだ……」
僅か二十分足らずで川の近くに来たと考えれば、危険を冒した甲斐もある。
割れたフロントガラスから這い出て、トラギコは水音のする方向に向けて歩き出した。
陽は昇り始めているだろうが、鬱蒼と生い茂る木々の間には朝日は十分に差し込まないため、薄暗かった。
足元に注意しながら駆け足で森を抜け、川に辿り着くまで五分もかからなかった。
遅れて到着したアサピーは肩で息をしながら、額に浮かんだ汗を拭いとった。
トラギコはそんなアサピーの肩に手を乗せ、川下を親指で指さした。
(=゚д゚)「さ、お前は写真を撮りに行ってくるラギ。
俺はここで二度寝してるから、さっさと行ってさっさと帰ってくるラギよ」
(;-@∀@)「はい?!
僕一人で行けと?!」
(=゚д゚)「ガキじゃねぇんだから、やれるだろ」
(;-@∀@)「えぇ…… 一緒に来てくれないんですかい?」
(=゚д゚)「俺は眠いラギ。
それに、今は間違っても警官に見られたくねぇんだ。
ほれ、行って来い」
アサピーは肩を落としてふらつきながらも走って海を目指し、その背を見送ってからトラギコは手ごろな岩の上に座って考えを巡らせることにした。
これはトラギコにとって、これはいわば保険だ。
決して使用されることの無い、そうであってほしい保険。
だから本腰を入れる必要はないのだが、どうにも胸騒ぎが収まらないのだ。
円卓十二騎士が二人いたとしても、決して拭いきれない不安。
その原因は、トラギコがこれまで多くの事件に関わってきたことによる経験則と、それに伴う勘だった。
デミタスの輝かしい犯罪歴は、彼の持つ才能の結晶だ。
あの男はこれまでに多くの美術品を盗んできたが、人の命を対象とした盗みはしなかったはずだ。
負傷しながらも不慣れなことに挑戦しようとしているということは、その命を捨ててでも成し遂げたいことなのだろう。
馬鹿な。
命がけの特攻を進んで買って出るなど、不自然でしかない。
不自然極まりなく、紛れもなく、本命は別にあると考える他ない動きだった。
命を賭すという事は、それに足る何かが必要な状況ということ。
生還は最初から予定にない人間の狙いなど、一つしかない。
その遺志を継ぐ人間へのバトンパスだ。
それがショボン達の時間稼ぎなのか、それとも、本当にヅーを殺したい一心なのかは分からない。
両方かも知れないし、どちらでもないかもしれない。
それでもトラギコが今追うべきはショボンであり、デミタスの様な小悪党にかまっている時でない事は断言できる。
それは間違いない。
何度も訪れることの無い分岐点で道を間違える訳にはいかない。
何故、トラギコがヅーのために目の前にある獲物を逃がさなければならないのか。
ようやく警察官らしい振る舞いの出来るようになったばかりの青二才を気遣う道理など、どこにもない。
私情を仕事に持ち込む時期は終わっている。
最悪、ヅーが襲われて重傷を負おうがトラギコの知った事ではない。
それよりも気にしなければならないのは、ショボン達が使用したとされるヘリコプターの存在だった。
彼らは空を飛んで逃げるという手段を持ちながら、まだこの土地に居座っている。
何かが原因で、彼らはその手段を使えないのか、あるいは使わないだろう。
やはり、デレシアが関係していると考えた方が賢明だ。
デレシアを殺さんがため、彼らは危険を冒して島に滞在しているのだ。
だがそれも、デミタスの行動から察するに変更されることになったのだろう。
折角手に入れた死刑囚を生贄にするという事がその証明だ。
ショボン達が当初の目的を捨て、島を脱出しようとするのは間違いなさそうだ。
問題はそのタイミング。
(=゚д゚)「結局、あの女に行き着くのか……」
鍵を握るのは正体不明の旅人、デレシア。
トラギコの命を救い、この島で起きていた事件をあるべき形に戻した女。
単独、そして生身で棺桶を相手取って立ち回り、圧倒するほどの力の持ち主。
円卓十二騎士が束になっても勝てるかどうか、トラギコには分かりかねた。
デレシアは約束を果たした。
たった一人の力で状況を変えてしまった女は今、どこで何をしているのだろうか。
あの女がいれば、ショボン達を一網打尽にすることも出来るだろうに。
この手でデレシアを逮捕できればという気持ちは、増々強くなる一方だ。
島の事件を終わらせ、早急に元の道に戻るためにも、今は休む必要がある。
瞼を降ろし、トラギコは少し仮眠をとることにした。
連日の騒ぎでろくに休めていない。
休息を怠ればより大きな代償を払うことになると知るトラギコは、静かに眠りにつこうとした。
心地よい眠りの波に体が持って行かれそうな感覚が訪れ、呼吸が落ち着き始める。
(;-@∀@)「へへっ、撮ってきました!!」
だが、瞼を降ろしてすぐにトラギコの眠りはアサピーの誇らしげな声によって妨げられた。
驚きと苛立ちを半分ずつ抱き、トラギコは起き上がった。
(=゚д゚)「早いな」
(;-@∀@)「すぐそこから望遠で撮影できたんですよ、ラッキーなことに。
で、結論から言うと十分渡れそうです。
後は現像してやらないと」
(=゚д゚)「じゃ、街に行くしかねぇな」
(;-@∀@)「えぇ、一緒に行きましょう」
(=゚д゚)「は? お前が行くに決まってるラギ。
俺が行ったら警察が捕まえに来るだろ」
一応、トラギコは輸送中ということになっているため、目立たないに越したことはない。
少しの間だけでもそれを隠し通せれば、トラギコはマークされずに済む。
そうすればショボンの裏をかけるかもしれない。
(=゚д゚)「飯と移動手段を手に入れてここに戻ってくるラギ。
金ならほら、たっぷりやるラギ」
死体から預かった金貨の内、二枚をアサピーに投げてよこす。
金貨二枚もあれば、中古車と十分な食料が手に入る。
お釣りで新しいカメラも買えるだろう。
(-@∀@)「……お釣りはもらっても?」
(=゚д゚)「やるよ、そんぐらい」
ここから街までは、徒歩で一時間以上かかる。
その間にトラギコが冒すことになる危険を考えれば安い物だ。
何より自分の金ではないため、トラギコは何一つ損をしない。
(-@∀@)「ご飯は何がいいですか?」
(=゚д゚)「肉ラギ。 後はお前に任せるが、合流はここに正午ラギ。
それさえ守れば後は自由にするラギ。
だけど、くれぐれも捕まったり尾行されたりするなよ」
(-@∀@)「へへっ、了解です。
その前にトラギコさん、これを渡しておきますね」
そう言ってアサピーは黒いケースに入ったフィルムを差し出した。
(=゚д゚)「例の写真が入ってるやつか?」
(-@∀@)「えぇ。 僕が途中で殺されてもそれがあれば大丈夫、ですよね?」
初めて、トラギコはアサピーの言動で感心した。
この男は分かっているのだ。
トラギコの天秤で重視されているのが己の命ではなく、このフィルムであることを。
(=゚д゚)「……そうだ。
分かってるじゃねぇか」
(-@∀@)「どんなカメラマンもそうですよ。
命よりも、命を懸けた物の方が大切なんです。
僕にとってはそのフィルムが正にそれなんです」
(=゚д゚)「お前、意外と根性座ってるラギね。
正直見直したラギ」
(;-@∀@)「これだけ巻き込まれたら、嫌でも根性尽きますよ!!
ま、この騒動が終わったら僕も有名人になれると思えば安い物です」
(=゚д゚)「世界一有名なカメラマンになれるラギよ、お前なら」
(-@∀@)「へへっ、そうなりますよ」
アサピーは気恥かしそうに笑みを浮かべて、それを誤魔化すようにして山道を戻って行った。
運が良ければヒッチハイクで安全に街まで戻れるだろう。
その間、トラギコはショボン達の動向を予想し、先手を打たなければならない。
街に逃げ込んでいることは間違いないだろうが、それ以外の手がかりはなく、こちらに有利な点もない。
何かしらの手がかりがあれば状況は変化するかもしれないが、今はそれも贅沢と言うもの。
時計を見れば、まだ五時間は余裕があった。
カラマロスの動きを阻害するのは放棄し、ショボンの動きに集中した方がいい。
(=゚д゚)「……寝るか」
だが今は動こうにも、こちらの装備が不足している。
情報の獲得のためとはいえ、足となるセダンは潰したのは手痛い。
今はただ、寝るしかない。
トラギコは岩の上に寝転がり、空を見上げた。
雲が流れていくのを眺めながら、トラギコは考えを巡らせた。
ショボン達が逃げるとしたら、デミタスが現れ、場が混乱している正にその時だろう。
そうなると、船で逃げるに違いない。
ふとそこで思い至ったのが、死体から奪った通行許可証だった。
(;=゚д゚)「待てよ……?」
ジュスティアは書類関係についてかなり細かな規定を持っており、このような緊急時における通行許可証の発行には必ず上層部の承認が必要になるはずだ。
上層部の承認が得られない時には現場の中で責任者が承認することになっており、その際には市長へ連絡した後に責任者が捺印することになっている。
ショボンの組織の人間がジュスティア内に紛れ込んでいるとしたら、そういった許可証を発行することは容易であるはずだ。
だが発行の偽造はかなり難しく、不可能と考えてもいい。
あの市長が、正義を頑なに信仰する石頭のフォックス・ジャラン・スリウァヤがショボンの一派であれば、とうの昔にジュスティアはその組織に組み込まれているはずだからだ。
ならば、責任者こそが内通者であると考えてるのが自然。
懐から書類の入った封筒を取り出し、開く。
(#=゚д゚)「……やっぱり、ベルベットだったか!!」
責任者の欄に直筆で記載されていたのは、ベルベット・オールスターの名前。
そして捺印も、彼の持つそれだった。
これを持っているという事は、トラギコを殺害しようとした男達はベルベットに依頼されたという事だ。
少なくとも無関係と言う事はあり得ない。
となると、ヅーの作戦は全て筒抜けになっているのは間違いない。
最大限の疑念だったものが、揺るがない確信となった。
彼女の棺桶についても、円卓十二騎士についても、デミタスは十分すぎる程の情報を手に入れることになる。
罠を仕掛けていたとしても、それが彼女の手によって直接仕掛けられたものでない限り知られるに違いない。
用意した道具の種類を教えることぐらいは出来るだろうし、その道具に統一された解除コードを仕込んでいれば装置はデミタスを一切関知しない。
報道担当官の持つ影響力は強く、仮にヅーが数人の部下達に銘じて罠を張ろうものなら、それはベルベットの耳に入るという事。
今夜、間違いなくデミタスはヅーの元に現れる。
それも、万全の状態で。
円卓十二騎士が手を貸せばあるいは撃退は可能かもしれないが、果たして、事がどう動くかは今の段階では分からない。
断言できるのは戦いの場が設けられ、ヅー達がデミタスと相対することだけ。
今、ベルベットを裏切り者と糾弾しても意味はないだろう。
はみ出し者の刑事と、優秀な報道担当官では発言力が違う。
ましてや、上層部はトラギコを嫌っている。
最終的にどちらの発言を聞き入れるかは明らかだった。
悔しい話だが、今は動いてはいけない。
感情に身を任せて動けば、以降全ての手がかりを失いかねない。
ベルベットやデミタスよりも、今はショボン達の動きを読んで先手を打つことが先決なのだと堪える。
怪盗一人と長官専属の秘書。
これを手放す代わりにショボン達の内誰かを生け捕りに出来るなら、トラギコは迷わずにショボン達を選ぶ。
それに、デミタスがどのような棺桶を使おうが、円卓十二騎士を二人相手にして勝てるとは思えない。
――トラギコはそう自らに言い聞かせ、アサピーの帰還を待つことにした。
アサピーの持ってきた小型自動車を使って島中を散策したが、結局、トラギコはショボン達に関して何も情報を得られなかった。
陽が落ち、予告時間まで残り三十分ほどとなった今も、その状況は変わらなかった。
ショボン達は相当慎重に姿を隠し、機会を窺っているのだろう。
無能なのか、或いは愚直な才能と言うべきなのかはこの際不明だが、ジュスティア警察はショボン達を無視してでもデミタスを追う事を決めた為、追加情報は期待できない。
黒幕を逃がして表に出た灰汁を掬い取る事で勝どきを上げ、偽りの終焉を描き出そうとする未来の為とはいえ、愚かな判断だ。
結局は病巣を取り逃し、再び別の形で病を発現するだろう。
それも、より厄介な形となって。
すでに逃げた可能性もあるが、それは限りなく有り得ないと断言出来た。
そう確信したのは、二人が山奥の駐車場でインスタントラーメンを啜っている時に現れた女の存在が何よりの証拠だったからだ。
跫音はしなかったが、ねっとりとした視線がトラギコの背中に注がれ、 そ ち ら の 方 を 向 か さ れ た。
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从'ー'从「はぁい、刑事さん。
あらぁ? 誰かと思えばぁ、有名人のカメラマンさんじゃなぁい。
元気ぃ?」
ワタナベ・ビルケンシュトック。
糖蜜のように甘い声を響かせ現れた彼女を前に、トラギコはアタッシュケースを左手に瞬時に立ちあがり、右手を懐にあるベレッタの銃把に伸ばしていた。
(#=゚д゚)「……また手前かよ。
今度は何の用ラギ?」
トラギコは指先が触れていたM8000を取り出し、ワタナベの心臓に銃腔を向けた。
度重ねてのトラギコへの接触。
その真意は常に不明であり、このタイミングで現れるという事は、また何かがある。
ろくでもない何かが。
从'ー'从「あらぁ、私はただここを通り抜けようとしただけよぉ。
パーティーに遅れちゃったら後が大変だからねぇ。
ただの、ショートカットよぉ」
(#=゚д゚)「パーティー?」
从'ー'从「うふふっ、これ以上は話せないわぁ。
だってぇ、私はただここを通り抜けるだけぇ。
お話をしに来たんじゃないわぁ」
この一瞬で、トラギコは強化外骨格“ブリッツ”の使用を決意した。
足を切り落とせば、嫌でも話すはず。
最悪、ショボンを捕えるのに失敗したとしてもワタナベを捕まえれば何かしらの情報を得られるだろう。
(#=゚д゚)「だったら話したくなるようにしてやるラギ!!
これが俺の天職だ!!」
だが。
だがしかし。
コンテナは、反応しなかった。
そして、アタッシュケース型のコンテナに赤いランプが点滅し、それがすぐに消えたのを目視した。
(;=゚д゚)「馬鹿な……!!」
从'ー'从「残念ねぇ、電池切れみたいねぇ。
それも、完全にぃ」
致命的なタイミングで棺桶の充電が切れていることに気付いたトラギコは、この一瞬で膨大な量の疑念を抱いた。
ブリッツは長時間の使用にも耐えられるだけのバッテリーを詰んでいるため、そう簡単に切れる事はない。
エラルテ記念病院でも充電をしておいたため、過充電を防ぐための装置を使って放電をされたとしか思えない。
だが、そのような装置を使った記憶もなければ、警察がわざわざ放電のための装置を要した上に誤用するなど、有り得ない。
(;=゚д゚)「……待てよ、おい」
(-@∀@)「へ?」
(;=゚д゚)「昨日の夜、マスコミに対して警察は何か検査をしてたラギか?」
(-@∀@)「一部民間人も交じっていたので、無理ですよ」
そして、トラギコは察した。
デミタスは予告状を出してから動いたのではない。
予告状と同時に動いていたのだ。
(;=゚д゚)「デミタスの野郎、盗みやがった……!!」
(-@∀@)「予告時間前ですよ?
盗むって何を……」
(;=゚д゚)「電力ラギ!! あの野郎、棺桶の電力を盗んだラギ!!」
棺桶がどれだけ強力な物だとしても、バッテリーが無ければ全く意味がない。
また、起動前にバッテリーが切れていればいいのだが、絶妙な量の電力が残されている場合は例外だ。
電力が不足している状態で使用者をコンテナに収め、装甲を装着する間に電力が空になり、文字通りの棺桶と化してしまう。
外部からの助力なしではこの状態から脱出することは構造上不可能であり、どれだけの猛者であっても、全身を装甲に包まれていれば動きようがない。
幸運なことに、トラギコの棺桶は単一の目的に特化して設計されたコンセプト・シリーズ。
彼の棺桶が“緊急時に於ける対強化外骨格戦闘”に特化されていなければ、トラギコの腕はただの錘と化した籠手に包まれていた事だろう。
从'ー'从「うふふぅ、どうするぅ?
私と遊ぶぅ?」
(#=゚д゚)「……また今度だ!!
アサピー、ジェイル島に行くラギ!!」
デミタスが仕掛けた騎士封じの一手。
これが成功すれば、デミタスは労せず目的を達成した挙句円卓十二騎士を二人殺すことが出来る。
情報は全てベルベットによって筒抜けとなっている事を考え、対抗手段は意味を持たない。
つまり、ヅーは確実に殺されてしまう。
カップ麺を放り出し、トラギコとアサピーは車に乗り込んだ。
そして、保険のはずだった道を使い、アサピーの運転でジェイル島を目指した。
島へと向かう道を最速で駆ける中、トラギコは車内のソケットを使ってブリッツの充電を始めた。
(;-@∀@)「ちょっ!! バッテリーなくなったら、街まで帰れなくなっちゃいますよ!!」
(#=゚д゚)「うるせえ!! 車は片道切符でいいんだよ!!
徒歩だ、徒歩!!」
五分だけでも使えることが出来れば、十分な時間稼ぎになる。
それをどのタイミングで使うのかが問題だが、デミタスをヅー達から遠ざけ、仕切り直しが出来ればそれでいい。
デミタスはデレシアに足を吹き飛ばされていることから、何かしらの棺桶を持ち出さなければ戦闘が出来ない事が確定している。
Aクラス相手であればM8000でも対処できるが、Bクラス以上になれば何も出来なくなってしまう。
足を失った人間を補助する棺桶はまずBクラス以上であると考えるべきだろう。
となれば、拳銃の弾は威嚇にもならない。
例え、対強化外骨格用の強装弾を装填していても、高速で戦闘行為をしてくる相手に対して適切な場所に当てなければ意味がない。
勝算で言えば薄いが、生き残る可能性を今は考えた方がいい。
一時撤退、もしくは別の手段を用いての迎撃が最善。
間違ってもデミタスを逮捕、もしくは殺害できるものと考えてはいけない。
そのための装備が欠落しているこちらとしては、生き延びられれば上出来なのだ。
どのような罵詈雑言が待っていたとしても、生きさえすればいい。
アスファルトの道にタイヤの跡を残し、二人を乗せた車は急停車した。
トラギコはアタッシュケースを片手に車を飛び出し、写真にあった足場へと走った。
暗闇の中でも、トラギコの目はしっかりと目の前の風景を認識していた。
大小様々な岩の転がる海岸は、一度誤った場所に落ちれば全身を強打することは避けられない。
(=゚д゚)「おい、お前は先に安全な場所に逃げてろ!!
後は俺が始末をつけるラギ!!」
振り返らずに、トラギコはアサピーに指示を出した。
(;-@∀@)「分かりましたけど、スクープの約束は忘れないでくださいね!!」
(=゚д゚)「わかってるラギ!!
さっさと行け!!」
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海面下にある足場を目視するのは不可能だった。
星明かりと月光下であっても、見えるのは黒い水面だけ。
記憶の中にある鋭い岩の位置を思い出し、トラギコは躊躇なく海へと跳躍した。
靴底が踏みしめる鋭利な突起。
踏み外せば肉を抉るであろうその存在に、だがしかし、トラギコは恐れを抱くことはなかった。
靴の中に入ってくる海水は、確実にトラギコの動きを鈍らせるが、それもまたトラギコの意志の外の話だ。
今は、ヅーと円卓十二騎士をデミタスに奪われることだけが恐ろしかった。
一度に三人もの重要人物を失えば、ジュスティアの信頼に大きな影響を及ぼす。
ベルベットの目的は恐らくはそれ。
デミタスとの死闘で三人を失い、そして、その全責任をデレシアに押し付ける。
実に狡猾なシナリオであり、世間受けするシナリオだった。
トラギコの見定めた、生涯最高の獲物を奪い取らんとするシナリオは断じて許容できない。
見えない岩から岩へと飛び移りつつ、腕時計で時間を確認する。
夜光液が映し出す時針が示すのは――
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: : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : :――予告時間まで、残り十一分。
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何度も海に転落しそうになりながらも、トラギコは何とかジェイル島へと辿り着く事が出来た。
下半身は水浸しで気持ちが悪かったが、彼は悪態を吐くこともなく、淡々と靴の中に入った海水を捨てた。
潮の香りで満たされた肺から息を吐き出し、再び酸素を取り込む。
目の前に浮かぶのは、断崖絶壁と言っても過言ではない切り立った崖。
登るにはあまりにも険しく、そして時間がなかった。
センサーを避ける必要も考え、この崖は道としては使えない。
トラギコは島の東側から別の進入路が無いかを探しつつ、回り込むことにした。
彼の頭の中にはジェイル島の地図が入っており、下水道の位置も忘れずに記憶されていた。
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_,., -―|: :.. ̄_.ノー- ‐ - ‐ !三三_ | |コ/=≡;/ \
,., '’: : : : : >'´ ̄- = ≡ = - ‐ ― - = ≡=/ ∨ .\
'’: : : : : >' ´≡ = -  ̄ ― = ≡――予告時間まで、残り四分。
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センサーの位置はまるで不明だったが、セカンドロック刑務所の下水管を見つけ出すことに成功したトラギコは、そのまま枠を外して内部へと侵入した。
ヅー達は刑務所の地下にいるため、地上からの単純な侵入では必ず限界が来てしまう。
ならば、下水道を伝って最短のルートで内部へと侵入し、エアダクトを通じて地下を目指せばいい。
脱獄不可能な監獄ではあるが、弱点さえ把握できれば侵入は可能なのだ。
特に、トラギコはジュスティア警察でも脱走の常習犯として悪名高く、懲罰房は言うに及ばず厳重な警備下にある本部の独房からの脱走にも成功している。
基礎から応用までの脱獄の知識は持っていると自負するだけあり、実際、セカンドロックの構造的な弱点を見抜いていた。
セカンドロックは孤島にあるため、海路を用いて様々な物資の供給なしでは成り立たない。
島から出る方法が海路であるならば、その進入路もまた海路にある。
孤島であるが故に下水処理施設を刑務所内に設置しなければならず、それを海に捨てる際にはほぼ真水と同様に処理が済まされなければならない。
絶対に塞ぐことのできない下水道の出口は格好の入り口となるため、厳重な処理がされていた。
太く、熱にも強い合金を用いた鉄格子は専用の道具を用意しても破壊は困難であり、何か知らの外的接触が感知されたら即座にセンサーが反応。
自然を利用した凹凸の多い路面は素足で逃げる者の足裏を容赦なく切り裂き、雑菌による化膿は避けられない。
それらの僅かな死角を補う高性能なセンサーの数々は、表立って見える弱点を弱点とは思わせないための工夫だった。
道具なしでそこを通過するのは不可能であり、仮に道具があったとしても突破は非常に困難な作りになっている。
内側からの脱出は不可能だが、外側からの侵入については不可能と言うわけではなかった。
鉄格子についてはブリッツの高周波刀で切り落とし、路面は今履いている靴で十分に対処できる。
当たり前の話だが、鉄格子のセンサーは生きているし、その一撃に反応したはずだ。
だがトラギコは一切の躊躇もなくその道を駆け抜けていたのには、明確な理由があった。
センサーが異変を感知したとしても、ジュスティアの性格上、すぐに爆発や毒物による処理をすることはない。
設定されている目標が生け捕りである以上、必ず正体を確認してからそのスイッチを押すはずなのだ。
そして、センサーの管理をする人間はおそらくヅーだ。
彼女であれば、トラギコがやって来たことに対して驚きこそするだろうが、攻撃はしないはず。
ある意味での期待と信頼を抱いて、トラギコは暗闇を進んだ。
湿度の高い下水道を進み、やがて、非常灯が薄暗い緑色に照らし出す空間に辿り着いた。
天井に開いた大きな排水管の穴と、どこまでも続く暗い下水道。
ここがトラギコの予想通りの場所であれば、正しい道は一つだけ。
天井にある排水管を登るのは自殺行為であり、そこに多くの罠が仕掛けられていることは調べがついている。
では、先に進むのが正解だろうか。
答えは否。
先に進んでもあるのは逃げ場のない天然の落とし穴だ。
長年の水の動きで突起を失った摩擦のほとんどない床に足を取られ、その先にある坩堝のような下水溜まりに落下し、死ぬまでそこに浮かび続けることになる。
時間が押しせまり、トラギコは道を選びそこなう余裕がない。
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嗚呼。
どうして、このような仕事ばかりなのだろうか。
平穏無事な世の中を望みながらも、どうして切望するのは困難ばかりなのだろうか。
つくづく思うのは、この仕事は――
(=゚д゚)『――これが俺の天職だ!!』
籠手を装着し、高周波刀のスイッチを入れて地面に突き立てた。
正確な場所に突き立てられた刀は、その下にある巧妙な偽装を施された人口の床を切り裂いた。
正しい道は下。
合金製の板であろうが、高周波振動の前にはただの金属でしかない。
――予告時間まで、残り二十三秒。
(#=゚д゚)「くっそ……!!」
円錐状にして地面を削り、切り崩した瓦礫を放り捨て、トラギコは地面を削り続けた。
ブリッツの残り電源次第では、この作戦自体が破綻し、トラギコの行動は全くの無意味と化す。
とにかく切り裂き、とにかく抉り、とにかく進んだ。
執念の宿った刃が床を崩落させたのは、直下から爆音と振動が届いたのとほぼ同時だった。
――予告時間、二分経過。
瓦礫と下水に交じってトラギコが落ちたのは、地下にある独房の中だった。
外から届く僅かな明かりが、扉の位置を示している。
(;=゚д゚)「おい!! ヅー!!
来てやったラギ!!」
扉に刃を突きたて、錠を破壊したところでブリッツの電源が切れた。
コンテナに籠手と高周波刀をしまって、トラギコは全力で駆けだした。
焦げ臭い香りの漂う方向へと急ぎ、そして、言葉を失った。
――予告時間、三分経過。
トラギコの目に映ったのは、爆心地と断言できるだけの大きなクレータの出来た地面と、その中心に残る黒い消炭のような跡。
そして、そこから離れた位置に転がる赤黒い肉塊。
視線を足元に移すと、そこには炭化した肉片があった。
これは、人間のどこの部位で、誰の肉片なのだろうか。
(;=゚д゚)「……」
心臓が鐘楼のように脈打ち、トラギコはコンテナを投げ捨てて肉塊へと駆け寄った。
それがデミタスであればと。
それがヅーではない事を切実に願いながら、トラギコは走った。
そして、聞いてしまった。
「あああ゛あ゛っ!!」
血と肉の塊から発せられた、悲痛な叫び声を。
痛みから逃げるための声だ。
救いを求める声だ。
これから消えゆく命の声だ。
それは、間違いなくライダル・ヅーの声だった。
(;=゚д゚)「……っ」
人間味を欠いたような女だったが、その声は、生きることにだけ向けられた命その物の声だった。
だがその声を発するのは、人間とは呼べないような姿をした肉の塊だ。
四肢は無く、肌は黒く焼けただれ、顔は血と傷で汚れて判別できない。
もごもごと動く肉の切れ目から出てくる蚊の羽音のようにか細い声だけが、トラギコの耳に届き、それがヅーであることを認識させる。
その傍に跪き、トラギコは言葉にならない言葉を発するヅーの頬に触れた。
感じたのは憐れみではなく、惜し気のない称賛だった。
この女は戦闘をまともに経験したこともないだろうに、それでも、文字通り死力を尽くした。
これを憐れむのはヅーに対する最大限の侮辱になる。
円卓十二騎士の助力なしに戦うことになったと分かった時、ヅーはどのような気持ちだったのだろうか。
恐かっただろう。
泣きたかっただろう。
逃げたかっただろう。
逃げ出しても良かったのだ。
戦闘慣れしていない人間が命を狙われていれば、そうするのが当たり前の判断だ。
犯罪者の言葉を受け止める必要もなく、広報担当の馬鹿の言葉に従わなくても良かったのだ。
(=゚д゚)「……よくやったラギ。
お前も、やれば出来るラギね」
声は聞こえていないだろう。
本来そこにあるはずの耳はなく、あるのは赤黒く変色した傷口にしか見えない穴。
目は見えていないだろう。
本来そこにあるはずのところからは血が流れ出し、砕けた鉄片が突き刺さっている。
(=゚д゚)「何だよ、お前の事見直したラギよ。
次からはペンじゃなくて、銃を持って一緒に仕事をしてみるラギか?
お前みたいな根性のある女、長官の秘書にしておくのは惜しいラギ」
聞こえていない事を承知で声をかける。
これは死にゆく同僚に向けての、手向けの言葉。
返答など期待していない、ただの独白だった。
「あ……あ゛……」
そのはずだったのに、ヅーの悲鳴が止み、何かを訴えかけるような声が聞こえてきた。
失われた腕を動かして、必死に何かを掴もうとしているが、何も掴むことはない。
彼女の手が何かを掴むことなど、もう二度と出来ない。
だが、掴むことが出来た物ならある。
(=゚д゚)「どうだ? 俺とお前が組めば、結構いいコンビになると思わねぇか?
俺が実働で、お前がその後処理。
なぁに、お前なら出来るラギ」
掴んだのは、トラギコの信頼だった。
これまで、トラギコは進んで誰か警官を相棒にすることはなかった。
警察官としての人生の中で、誰一人として、トラギコの信頼を勝ち取ることは出来なかったのだ。
どんな新人も、どんなベテランも。
結局は、トラギコを落胆させてしまうだけで終わるのだ。
「と……ら……ぎこ……」
だが。
この女は。
聴力も視力もない中で。
トラギコの名を呼んだ。
(=゚д゚)「おう、どうした?」
優しげな声で、トラギコは聞き返す。
ここに横たわるのは騎士よりも高潔な女。
(=゚д゚)「遠慮せずに言えよ」
「わた……し……じょ……うずに……」
その言葉に、トラギコは呆れそうになった。
この期に及んで、ヅーが求めたのは評価だった。
だがそれは、彼女の心の奥底に潜んだ本音なのだろう。
誰かに認めてもらいたいという承認欲求。
子供のようなその夢が、ヅーの根底にあった最後の望み。
(=゚д゚)「あぁ、上手にやれたぞ。
俺が言うんだ、間違いないラギ」
今際の際に望むことを拒む理由はどこにもない。
殆ど失われた毛髪が覆う彼女の頭に手を乗せ、いたわるように撫でた。
泣きじゃくる子供をあやすように、トラギコはヅーの頭を撫で続けた。
もう、余計な言葉はいらないだろう。
今のヅーには言葉ではなく、こうしてやることが一番通じるに違いない。
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厶"´
〃  ̄ ` ゛゙゙ ''''' 、
" ゝ、 ____________, ,,,
乂三三三三三三爻′
′`` ```````
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〃  ̄ ` ゛゙゙ ''''' 、
" ゝ、 ____________, ,,,
乂三三三三三三爻′ 「あ゛……あぁ……」
′`` ```````'ヽ,゛
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ヅーの目がある場所から、失われたと思われた水が溢れ出てきた。
彼女は泣いていた。
トラギコはこれ以上ヅーにかける言葉はなかった。
後は彼女が判断し、受け止めるだけだ。
掌に込めるのは、同僚に対する労いと尊敬の念。
(=゚д゚)「ゆっくり休め、ヅー。
後は俺がやっておくラギ」
その言葉が届いたのか。
それとも、感じ取ったのか。
ヅーは絞り出すようにして、最期の言葉を口にした。
「あ……り……」
そして。
もう、ヅーは二度と言葉を発することはなかった。
目の前で同僚が死ぬことは何度もあった。
その度に涙を流していては、トラギコの体内から水分は全て失われていたことだろう。
涙を流すことなく、トラギコはヅーの亡骸を見下ろしていた。
そして血が出る程の力を込めて拳を握り、立ち上がった。
(=゚д゚)「……」
トラギコは地面に転がる二つのコンテナへと歩み寄り、その側面にある緊急用のスイッチを蹴り飛ばした。
これは内部にいる人間を外部から強制的に排出させるための装置で、本来はコンテナ内の死体などを取り出すための物だった。
最初にコンテナから出てきたのは、ショーン・コネリだった。
その次にダニー・エクストプラズマンが立ち上がるや否や、視線を四方に向けた。
(;´・_・`)「くそっ、デミタスはどこだ!!」
<_プー゚)フ
二人はデミタスを探し、そして、ヅーを見つけた。
正確には、ヅーだった物を。
(#´・_・`)「……おい、トラギコ。
お前がどうしてここにいるのかはさておいて、何が起きたのか今すぐ説明しろ!!」
激昂するショーンの気持ちも分からないでもない。
だが怒ったところで事態が変わることもなく、真実も変わりはない。
故にトラギコは、己の知る真実を伝えた。
(=゚д゚)「デミタスもヅーも死んだ。
俺が知ってるのはそれだけラギ」
(;´・_・`)「そんなのは見れば分かる!!」
(=゚д゚)「へぇ、そりゃすごい。
後は間抜けな騎士二人が罠にかかって、棺桶の中に閉じ込められてたってことぐらいだろうな」
(#´・_・`)「言わせておけば!!」
無言のままだったエクストがトラギコに掴みかかる。
胸倉を掴まれたトラギコは、動揺することもせず、静かに彼の目を見つめた。
怒りに燃えるエクストは言葉を発さないが、言わんとすることは簡単に予想がつく。
(=゚д゚)「何だよ、怒ったところで事実は変わらねぇラギ」
エクストの手首を掴み、トラギコは骨を砕くつもりで力を込めた。
爪がエクストの皮膚を切り裂く直前に、彼はトラギコを解放した。
(=゚д゚)「この後はどうするつもりラギ?」
(#´・_・`)「決まっている、我々を嵌めた奴を見つけ出して、必ず滅ぼす!!」
溜息を吐き、トラギコはブリッツのコンテナに向かって歩き出した。
騎士道精神は結局のところ、自分の心の在り様であり、誰かに従えることではない。
彼らが抱いているのは正義。
幼少期から植えつけられてきた、ジュスティア人としての信念だ。
コンテナを拾い上げてから、二人の騎士にトラギコは言葉を送ることにした。
(=゚д゚)「……なら、俺から一つアドバイスしてやるラギ。
馬鹿なことは考えずに、この後に誰がどう動くのかをよく見ておくんだな。
そうすりゃ、戦うべき相手が見えるはずラギ」
――だが事態はトラギコの思う以上に急速に、そして予想通りの形で進行しつつあった。
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ライダル・ヅーの死を知らせる連絡をショーン・コネリから受けたベルベット・オールスターは、激しい憤りを抑え込みつつ、決して動揺を表に出さないように努めた。
一人、優秀な仲間を失ってしまったことは悲しむべきことだ。
デミタス・エドワードグリーンは実に勇敢な男で、良き同志だった。
脱獄に成功して自由を謳歌するでもなく、彼は大きな信念のためにその命を懸けた。
( ><)「くっ……!!」
良い男だった。
惜しい男だった。
世界が黄金の大樹となるためには、是非ともいてほしい男だった。
だが彼は己の願いを成就したのだから、それを祝わなければならない。
そのために最大限を出来たことを誇りに思うべきだ。
ヅーの用意した武装や、各種センサーの無力化に必要なキーコードなどを教えることはリスクが高かったが、それでも成果としては最高の物となった。
これで下地は出来上がった。
後は仕上げの段階。
ベルベットとしてではなく、ティンバーランドに所属するビロード・コンバースとしての仕事を執り行う時間だ。
( ><)「最悪の結果になったんです……!!」
拳を机に叩き付け、憤りをアピールする。
その場に居合わせるのはジュスティア警察と軍関係者、そして、民間人が一人。
ベルベットはその視線を民間人へと向け、悲痛な面持ちを浮かべて、予め用意していた言葉を予め用意していた声色で告げた。
( ><)「済まない、民間人の君にこんなことを頼むのは気が引けるんです……
だけど、君しかいないんです、千の声色を持つ君しか……!!」
この計画に於いて重要なのは、ヅーの死ではなく事態終息を偽ることにあった。
そのためにはどうしても欠かせない存在として、ヅーがいた。
彼女がこの島を厳重に封鎖し、そして、事態の収束を約束した張本人だからだ。
だがその本人がいなければ、誰も事態の終結を宣言できない。
デミタスの狙いを叶える為とはいえ、その存在を失ったことは果たして打撃だったのだろうか。
答えは否。
そのようなことを案じるぐらいであれば、最初からデミタスの要求は通らなかった。
逆に彼らにとってみればこれはチャンスだった。
ジュスティアに更なる根を下ろすための大きな足掛かりを得るチャンス。
鳥の巣のように乱れた金髪、そして灰色がかった碧眼を持つ小柄な女性。
その声色は千を越え、同性であればほぼ全ての声を真似ることが出来る、ラジオ界の女王。
o川*゚ー゚)o「私に出来る事であれば、任せてください!」
――秘密結社ティンバーランドのNo4、キュート・ウルヴァリンがジュスティアへ入り込むための切っ掛けとなるのだから。
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Ammo for Reknit!!編 第八章【heroes-英雄-】 了
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