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第七章【housebreaker-怪盗-】

  1. 名前: 歯車の都香 2017/06/13(火) 20:16:20
    第七章【housebreaker-怪盗-

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    彼に盗めぬものはない。

    その技は芸術。

    その姿は概念。

    そう、彼こそは世紀の大怪盗。

     

    アルセーヌ三世(アルセーヌ・ザ・サード)。

     

    ――ファンキー・モンキー・キック著:【アルセーヌ三世】冒頭部より。

     

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    船上都市オアシズの高級ラウンジには黒雲から降り注ぐ大粒の雨と大木を揺らす風を堪能する客が訪れ、嵐を肴に美酒を堪能する客が卓を囲んで話に花を咲かせていた。

    ラウンジ内にはジャズの演奏がほどよい音量で流れ、照明は自然の明かりを最大限取り入れることで、まるで白夜の様だった。

    客の間で交わされる話は主に、停泊中の島で起こっている騒動についてだった。

    島にある監獄から二人の囚人が脱獄し、島に逃げ込み、深刻な問題を起こした。

     

    そしてジュスティア警察、軍が介入したことによって状況が激変し、島はそれまで満ちていた平和を失い、今や戦場と化してしまっている。

    先日まで同じ状況に陥っていた客たちは同情半分、好奇心半分で事態が収束するのを期待していた。

    他人の不幸は蜜の味。

    己の安全さを痛感することに快感を覚えるのは彼らが金持ちだからか、それとも、人間が持つ欲望に魅せられてしまったからなのか。

     

    正常とは言い難い経験の後では彼らの思考が錯乱するのも無理はない。

    帰還兵の中にも平和に耐え兼ね、次の戦場を捜し歩く人間がいるぐらいだ。

    イルトリアの前市長、ロマネスク・O・スモークジャンパーはグレープフルーツジュースを一口飲んで、それからショートケーキを口に運んだ。

    威圧的な効果を与える黒いスーツと黒いワイシャツ、そして筋骨隆々とした肉体とその食事の組み合わせは、どこか奇妙だった。

     

    ( ФωФ)「ふむ」

     

    彼は甘いケーキを静かに味わいつつ、物思いに耽っていた。

    その目は静かに閉じられ、まるで、瞑想をしているかのようだ。

    瞼の上に負っている深い傷を見れば分かる通り、彼の視力は大分悪く、目を見開いたところでその黄金瞳が捉えるのは滲んだ景色だけ。

    だが見えないからこそ分かることもある。

     

    生物は失った器官を別の物で補う習性があり、視力に頼ることの減ったロマネスクが得たのは、より優れた聴力と嗅覚だった。

    物音や匂いで周囲の状況を判断する力は前から持っていたが、それが更に研ぎ澄まされた彼には、普通以上の情報が入ってくることとなる。

    時にそれは視覚以上の情報を彼にもたらした。

     

    ( ФωФ)「……そろそろか」

     

    最後のひとかけらとなっていたケーキを平らげ、ジュースを飲み干す。

    紙ナプキンで口元を拭い、ロマネスクはゆっくりと立ち上がった。

    ラウンジのざわめきを背に、彼は静かな足取りで自室へと向かう。

    その歩みは自信に満ち、迷うことなく通路を進んでゆく。

     

    すれ違う人々とぶつかりそうになることも無く、ロマネスクはただ、風のように静かに進む。

    彼が独り言のように口を開いて言葉を紡いだのは、果たして、何がきっかけだったのだろうか。

    鼻歌を歌うような気軽さで、ロマネスクは真後ろに控えていた人物に話しかけた。

     

    ( ФωФ)「吾輩に用か?

           変装までしてご丁寧なことだ」

     

    よほど観察力の優れた人間でなければ、彼が話しかけたかどうかさえ分からなかっただろう。

    あまりにも自然すぎるその動作に対して応じた男の反応もまた、自然極まりない物だった。

    故に、二人が会話をしていることに気付いた人間は皆無だった。

     

    ¥・八・¥「……お気づきでしたか」

     

    背後にいた髭の男、オアシズ市長リッチー・マニーはその姿のままロマネスクの横に並んで歩いた。

    オアシズを取り仕切るその男の立ち振る舞いは優雅さを決して失わず、それでいて自然体を保っている。

    ある意味では、マニーは優れた役者だった。

    己の心境を決して表に出さず、やるべきことにだけ目を向ける姿は、正に一つの役割を演じ切らんとする役者そのものだ。

     

    ( ФωФ)「何と言ってきた?」

     

    ¥・八・¥「“残火の処理を”、との事です」

     

    皺の刻まれたロマネスクの口元が、僅かに笑みを形作る。

    そしてほとんど見えていない黄金瞳をマニーへと向ける。

     

    ( ФωФ)「なるほど。

           お前は?」

     

    ¥・八・¥「予定通りに」

     

    ( ФωФ)「うむ」

     

    何事もなかったかのように、二人はそれぞれ別の道を選んで別れた。

    二人が会話をした時間は三秒程。

    その声量は絞られ、嵐の音と船内に流れる緩やかな音楽、そして人々の喧騒によって周囲には聞こえていない。

    そう、ただの人間には、決して聞き取ることが出来なかった。

     

    ( ФωФ)「……任せる」

     

    独り言のようにつぶやかれたロマネスクの言葉は、果たして誰の耳に届いたのだろうか。

    返答らしい返答はない。

    それでも、彼は意に介した様子もなく、静かに歩き続けるだけだった。

     

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           {    {  代辷ソッ/ /               j/ ヽ| | August 11th PM02:15

           八  !     /|            〈^ | |

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    オアシズは五つのブロックに分けて統治され、そのブロックごとに責任者が定められていた。

    責任者は誰もが優れた能力を有する者で、己の力を正しく判断していた。

    市長室に集めた得手不得手を知る五人のブロック長を前に、リッチー・マニーは最優先でやるべきことを告げた。

     

    ¥・∀・¥「医療室を確保、腕が確かで口の堅い船医を用意できるか」

     

    ('l')「私が請け負います。

        ドクター・クルウにも協力を依頼します

     

    市長が最初に発した命令に対し、第一ブロック長、ライトン・ブリックマンが真っ先に挙手した。

    マニーが頷き、ライトンへとその一件は一任される。

    誰も異議を唱える者はいなかった。

    一礼し、ライトンは足早にその場から移動した。

     

    残った四人に視線を戻して、マニーが話を続ける。

     

    ¥・∀・¥「アイディールの整備を担当していたのは?」

     

    マト#>Д<)メ「私のブロックにおります。

           腕も、口の堅さも保証できます」

     

    市長の求める状況を把握したその人物は、第五ブロック長マトリクス・マトリョーシカ。

    その目はまっすぐにマニーを見据え、ただ一言を待つ。

    期待に反せず、マニーはその言葉を放った。

     

    ¥・∀・¥「すぐに用意を」

     

    短く首肯し、彼女は走って部屋を後にした。

    遠ざかる跫音だけで彼女がどれだけ真剣に事態を受け止めているのか、マニーにはよく分かった。

     

    ¥・∀・¥「医療室、およびアイディールの整備を行う部屋を警護してもらいたい。

          ジュスティアの人間ではなく、先の騒動の際、我々のために戦ってくれた信頼の出来る人間に限る」

     

    誰よりも早く、第四ブロック長クサギコ・フォースカインドが手を挙げた。

    事前にその言葉が来ることを予期していなければ、ここまで素早くは動けなかっただろう。

     

    W,,゚Д゚W「お任せください」

     

    彼の言葉には力がこもっていた。

    絶対の信頼を置ける人間に心当たりがあることは何よりも強みとなる。

    クサギコの頭の中にはマニーの要望を満たすことのできる人間が複数人浮かんでおり、有事の際にはすぐに行動できるように常に密な連絡を取る仲だ。

    事態に合わせて彼は絶対の信頼を置く部下の名前を記憶しており、今回の様な護衛任務に適任とされる人間は特に強く印象に残っている。

     

    クサギコは駆け足で部屋を出て行き、残ったブロック長は二人。

     

    ¥・∀・¥「これから乗船する客が二人くる。

          その迎え入れ、および適所への誘導を」

     

    ノリパ .゚)「承ります」

     

    静かに、だが有無を言わせぬ口調で第三ブロック長ノリハ・サークルコンマが名乗りを上げた。

    マニーは無言で頷き、ノリハはすぐに無線の電源を入れて行動を開始した。

    情報がまるで蜘蛛の巣のように広がり、ノリハへと集約される。

    これにより、離れていたとしても情報が逐一共有されるため、ノリハは素早く的確な指示を出すことが出来る。

     

    ¥・∀・¥「ロミス、君には事後処理をお願いしたい。

          いくつ出るか分からないが、また死体が増える。

          それを秘密裏に処理できるか?」

     

    最後に残った男は、自分の役割を心得ていた。

     

    £°ゞ°)「船上での事故はよくあることですので、お任せください」

     

    仔細を聞かずとも、第二ブロック長オットー・リロースミスが市長の依頼を引き受けたのは、市長の決断に対して疑念を持っていないからである。

    彼らは皆、オアシズと言う船を守るためであればその手を汚すことも厭わない。

    “オアシズの厄日”と呼ばれる一連の事件を経てから、彼らの連帯感は強くなっていた。

    同一の目的を達するためにはそれぞれの役割を果たし、共通の敵を排除することが最優先だとようやく理解したのだ。

     

    全てのブロック長がそれぞれの能力を生かし、市長の指示に従う姿は軍隊を彷彿とさせる。

    市長の指示は即ち、彼らが選んだ代表者の意志。

    緊急時に下されるその決断に過ちはない。

     

    ¥・∀・¥「さぁ、ここからが忙しくなるぞ」

     

    ネクタイを締め直し、マニーは無線で入ってきた内藤財団のニュースを文字化した資料に目を通し始めた。

    この忙しい事態の中で発表されたのは、世界共通の単位。

    それはあまりにも魅力的な提案であり、画期的な発案だった。

    長さや重さに関する単位の煩わしさは彼も感じており、どうにか統一できない物かと考えたこともあった。

     

    世界最大の企業がその提案をするという事は、遅かれ早かれ他の企業もそれに追従することになる。

    しかもそれが浸透するためにラジオを無償配布するという方法も大企業だからこそ実現できるもので、利益を度外視した物だった。

    ラジオは新聞よりも早く、そして識字について考えなくて済む情報媒体。

    声と電波さえあればどこまでもほぼ同じタイミングで同じ情報を流せるだけでなく、会話まですることのできる太古の技術。

     

    ラジオによって発せられる広告は新聞やチラシよりも明確に人々に伝わり、そして伝播する。

    巨大な広告市場を自ら開拓し、大きな損をして大きな得を取る戦術に出たのは大胆な発想だが、効果的だ。

    オアシズにもラジオは当然あるが、それは客室で客たちが自由に聞くことのできる設備としてあるため、船内中に流してはいない。

    地上の喧騒を忘れるために穏やかな曲を流し、客に極上の船旅を楽しんでもらうのがオアシズの方針であり、よほど緊急性の高いニュース以外は放送されなかった。

     

    マニーが考えていたのは、この情報を流すかどうかだった。

    明日の朝刊には間違いなくこの発表が一面に載るだろう。

    だがこれは内藤財団独自の発表であり、客に知らせるのはマニーの責任でも仕事でもない。

    これをどうするべきか、マニーは悩んでいた。

     

    一つの問題にだけ頭を悩ませられればいいのだが、今は島の問題と船の問題、そしてこのニュースの問題があった。

    世界を大きく変える可能性のあるニュースは、客にとっては有益な情報だ。

    だが果たして、この情報は本当に客に伝えるべきなのだろうか。

    余計なことに意識を向けてもいいのだろうか。

     

    島で起きている問題を解決するためには、デレシアの力なくしては不可能だろうし、彼女のためならマニーはあらゆる協力を惜しまない。

    最優先事項はデレシアとの連携。

    そう考えれば、今、余計なことに意識を向けることはやはり愚行としか言えないだろう。

    もし彼女の予定が狂い、一時的にティンカーベルからオアシズへ戻ってくるとなれば、それに即応する必要がある。

     

    万が一の話であり、その可能性は極めて低いことをマニーは分かっていた。

    彼女は自分の力と知恵で最悪の状況を打破することに長けており、マニーの手を借りずともこの急場を脱することだろう。

    ジュスティアが介入したことによって島の状況は刻一刻と悪い方向へと流れている。

    だがこれはデレシアの予想の範疇。

     

    彼女はこうなる事を見越して、マニーに連絡を入れていた。

    アサピー・ポストマンの保護は予定外だったが、それでも、それはすぐに作戦に組み込まれた。

    そして今、事態を変えるための第一段階が終了したとの連絡があり、第二段階への移行が始まった。

    オアシズが助力できるのはここからだ。

     

    この島の中で唯一の安全な場所としての役割を果たす。

    言わば箱舟。

    その役割を果たすためには、今少しやるべきことがある。

    それは残念ながらオアシズの人間だけの力では解決できないため、イルトリアの前市長の力を借りることとなっている。

     

    勿論、その橋渡しをしてくれたのはデレシアだ。

    彼女のおかげで事態はまとまりつつあり、対応しやすくなってはいるが、マニーには今の状況でも正直厳しい。

    だが困難こそが人を成長させる最上の素材。

    マニーが今一歩、市長として必要な資質を身につけるためには越えなければならない壁なのだ。

     

    単位統一のニュースは一度棚に上げ、欲張らずに事態終息に助力することに決めた。

    今はデレシアの指示を全力で補助する。

    それからでもニュースを伝えるのは決して遅くはないだろうし、客同士の間で噂が広がってマニーが手を出す必要がなくなる可能性もある。

    書類入れに紙を放り入れ、マニーは己の迷いを恥じ入った。

     

    ――ほどなくして、オアシズを目指して疾走してくる一台のバイクが現れたのを、ノリハ一行は船外で目視した。

    追手が来ていたとしても迎撃できるよう、彼女達は全員が銃器と共に強化外骨格を装備していた。

     

    ノリパ .゚)「来ました、急ぎ確保……を……」

     

    指示を出すノリハの声が尻すぼみとなり、その目に映る光景を理解しかねていることが周囲に伝わる。

    周囲も同じ気持ちだった。

    バイクにまたがるのは二人。

    一人は強化外骨格に身を包んだ人物。

     

    そして、ハンドルを握るのは――

     

    <:: ´ω::>

     

    ――どう見ても、子供だった。

     

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    戦闘続行よりも戦略的に迅速な撤収を選択したのはイーディン・S・ジョーンズだった。

    ジョーンズの判断に従い、奇襲の優位性を完全に失っていたジョーンズの仲間達は皆、どうにか撤収することが出来た。

    それはあまりにもみじめな撤収だった。

    奇襲と言う有利な立場だったにも関わらず、必殺を誓った奇襲だったにも関わらず、彼らは失敗したのだ。

     

    結果論になるが、彼らの矜持が失われた代わりに彼らは命を失わずに済んだ。

    少しでも撤収の合図が遅れていたら、彼らの中に死者が出ていた可能性は極めて高かった。

    また、彼らの撤退は嵐という天候にも恵まれ、合図から十分以内に姿をくらますことは難しくはなかった。

    そういった意味では、かなりの幸運に恵まれていた。

     

    日は沈み、嵐は次第にその勢力を失い、ティンカーベルには静かな夜が訪れていた。

    ただし、主を失った教会に集まる人間の間に漂う空気は刻一刻と険悪なものになっていた。

     

    (e)「おいおい、そろそろこの空気をどうにか止めてくれないかな。

       まるで子供同士の喧嘩じゃないか」

     

    湯気の立つコーヒーを飲みつつ、ジョーンズは五度目となるその提案をした。

    一度目は一堂に黙殺され、二度目は数人から舌打ち、三度目はほぼ全員から溜息、そして四度目は誰かに机を蹴られた。

    人を殺せそうなほどの眼力で彼を睨みつけたのは、ショボン・パドローネだった。

     

    (´・ω・`)「博士、貴方の考えは大いに分かる。

         だが、ここで手を引いてしまえばあのデレシアを仕留めることは不可能になることも理解してもらいたい」

     

    ジョーンズが決定した撤退について、全ての人間が納得しているわけではない。

    彼らは自分達が有利な立場にありながらもそれを生かしきれず、あまつさえ、対象に逃げられるという失態を犯していた。

    その失態を一分一秒でも取り戻したいと考えるのは、それだけ彼らが真剣に取り組んでいる何よりの証明だ。

    全員の真剣さは理解しているつもりだけに、ジョーンズは嘆かわしそうに答えた。

     

    (e)「はぁ、そうは言うけど君ねぇ、あれは無理だよ。

        ジョルジュ君。 君からも言ってあげてくれたまえよ。

        デレシアをどうこうするのは、我々だけでは無理だと」

     

    話を振られたジョルジュ・マグナーニは缶ビールを一口飲んでから深い溜息を吐き、つまみのポテトチップスに手を伸ばした。

    もぐもぐとポテトチップスを食べ、それをビールで流し込んだジョルジュは小さくげっぷをし、短く答えた。

      _

    ( ゚∀゚)「あぁ、無理だな」

     

    そうしてまたビールで喉を潤す姿には、真剣さはまるで見えない。

    だがジョルジュはそう答えるしかなかった。

    それが事実なのだ。

    嵐に対抗するのが不可能なように、今はまだ、デレシアには対抗しようがない事を彼は良く知っていた。

     

    (´・ω・`)「なぁ同志ジョルジュ。 どうしてあの女の事を知っていたのに黙っていたんだ?

         情報があれば殺せていたかもしれないんだぞ!!」

     

    かつての同僚に、ショボンが憤りを露わにした。

    情報を意図的に隠していたジョルジュの行いは、作戦の成功を左右するだけのものだったに違いない。

    終わったことに対して文句を言うのはショボンの流儀ではないが、それでも、ジョルジュの行いは許しがたい物だったろう。

    今回の作戦指揮を執っていたのは他ならぬショボンだったのだから、無理もない。

     

    彼は作戦を成功させるために緻密な計画を練る性格をしており、些細な情報でも仕入れておきたかった。

    例えば、デレシアの行動パターン。

    この空間に集う人間で唯一、デレシアの行動を先読みして動いていたのはジョルジュだった。

    それが彼一人ではなく、ショボン達全員だったとしたら、デレシアに勝っていたかもしれなかったのだ。

     

    勝てなかったとしても、一矢報いるぐらいは出来たかもしれない。

      _

    ( ゚∀゚)「だから、話を聞けよ。

        いいか、デレシアを相手にして今生きていることを感謝するんならまだしも、文句を言われる筋合いはねぇよ。

        第一、先読みして全員で動いてみろ。

        これからパーティーをやるって相手に伝えてるようなものだぞ」

     

    デレシアの動きによってショボンの思い描いていた作戦は破綻し、ジュスティアにデレシア達こそが悪の元凶だと思わせる目的は達成できなかった。

    それだけではない。

    デレシアはショボン達の対処をジュスティアに自然な流れで引き継がせ、自分は早々にその場から姿をくらまし、今もどこかに消えたのだ。

    絡ませた糸が元に戻され、挙句、隠れ潜んでいたショボン達の存在が世界最大の正義信奉者に察知されてしまった。

     

    まだ存在を隠し通す術はあるが、手間を考えると大打撃だった。

    残ったのは面倒事と自分達の命だけだ。

    これならいっそ、デレシアに攻撃を仕掛けるべきではなかったとさえ思える。

     

    (#´・ω・`)「あぁ、糞!!」

     

    ''从「煩いハゲは嫌われるわよぉ」

     

    ソファに寝そべって赤ワインをボトルから直に飲み、ワタナベ・ビルケンシュトックはチーズを几帳面にクラッカーに乗せて口に運ぶ。

    教会に保管されていたその赤ワインは二十年近くも寝かされていた貴重な一本だったが、彼女は全くそれを気にする様子もなく、香りを楽しむ風もなかった。

    彼女にとってワインの良しあしなど関係なく、アルコールが体に沁み渡るか否かだけが重要なのだ。

     

    ''从「負けは負け、そうでしょ?」

     

    (#´・ω・`)「第一、お前もお前だ、同志ワタナベ!!

          もう少し真面目に任務を果たそうとは思わないのか!!

          同志キュートの推薦が無ければ、今すぐお前を殺しているところだ!!」

     

    ''从「はいはい、次はどうにかするからぁ」

     

    これまた貴重なチーズに外皮ごと直接齧り付き、ワタナベはそれを咀嚼した。

    再びワインを乱暴に飲み、チーズの欠片を胃袋へと落とした。

    ショボンには視線を向けさえしなかった。

     

    川 ゚ -)「なぁ、同志ワタナベ」

     

    紅茶を飲んでいたクール・オロラ・レッドウィングは冷ややかな視線をワタナベに向けたまま、氷の刃じみた声で言葉を紡いだ。

     

    川 ゚ -)「どうしてあの刑事に固執する?」

     

    ワインで最後のチーズを飲み下し、ワタナベは挑発的な視線をクールに向ける。

    口元は嘲笑するような三日月形に歪み、口の端についたワインがまるで血のように輝く。

     

    ''从「あらぁ、何の話かしらぁ?」

     

    ( ・∀・)「意図的にチャンスを与え、あまつさえ生き延びるように仕向けた理由を聞かせてもらいたいのですよ、我々は」

     

    カソックに身を包み、愁いを帯びた視線をワタナベに向けるのはマドラス・モララー。

    穏やかな声をしてはいるが、彼の心情が穏やかでないのは確かだ。

     

    ( ・∀・)「トラギコ・マウンテンライト、あの男に大分御熱心なようで」

     

    机の上で組んだモララーの掌に力がこもっていくが、ワタナベの瞳にも攻撃的な光が宿っていく。

     

    ''从「うふふ、よく分からないわねぇ」

     

    lw´‐ _‐ノv「前に私の邪魔をしたときも、その刑事が絡んでいた」

     

    シュール・ディンケラッカーが口を挟んだ。

    細められた目が訴えるのは、数々の愚行が産んだ結果に対する納得のいく言葉だった。

    謝罪だけでは足りない。

    この場に居合わせる人間でジョーンズ以外が、皆ワタナベの行動に対して不満を募らせていた。

     

    lw´‐ _‐ノv「もういっそ、あの刑事は別の人間が殺した方がいい」

     

    不信感を露わに、シュールは冷淡にそう言い放った。

    作戦失敗の影にちらつくワタナベの存在に業を煮やした者の心情を代弁するような言葉。

    対して、ワタナベは恐ろしいほど静かで、感情を感じさせない平坦な声で答えた。

     

    ''从「……やってみろよ。

         私に喧嘩を売って楽に死ねると思ってるんなら、今すぐここで全員に試してやろうか」

     

    ( `ハ´)「それは面白いアル。

         疫病の根源は火炙りにされる、これは決まり事アル」

     

    部屋の壁を背にしたシナー・クラークスは腕を組んだまま、細い目を僅かに開いてワタナベを睨めつける。

    オールバックにして後頭部で三つ編みにした黒髪はまるで黒いビロードの様。

    ゆったりとした服の下に見える肌には傷が無数に見え隠れし、彼が武器や兵器に頼りきる人間ではない事がうかがい知れる。

    生身であろうとも、彼の戦闘力は衰えない。

     

    ''从「じゃあ死ねよ」

     

    ワタナベがその言葉を言い終わる前に、ジョーンズを除くその場の全員が動いていた。

    最も早かったのは手刀を放つ体制を取ったシナーだった。

    次に拳銃を掴んだショボン、そしてシュール、モララーは共に手が拳銃の銃把に伸びている。

    ジョルジュは視線を向けつつも、その腕はいつでもスミス&ウェッソンが抜けるように脱力されていた。

     

    唯一、静かに立ち上がったデミタス・エドワードグリーンがいなければ、ワタナベの両手に煌くバリスティック・ナイフがこの部屋を血色に染め上げていた事だろう。

    その切っ先はシナーの手刀、そしてショボンを向いていた。

     

    (´・_ゝ・`)「……止めろよ。

          判断はどうあれ、結果として俺達は助かったんだ」

     

    無精髭の伸びた彼の顔は薄暗く影っていたが、落ちくぼんだ眼窩に埋もれた両の目は病的なまでにぎらつき、脂汗の浮かぶ顔には血の気が無かった。

    まるで幽鬼の様な彼の左足は、膝から先がなく、代わりに合金製の義足が付いている。

    手術を終えたばかりの体は弱り、立っているだけでも相当な負荷がかかっているはずだ。

    だが彼はそれを強じんな精神力で補い、力を失わない眼光を周囲に向けていた。

     

    (´・_ゝ・`)「なぁ、ジョーンズ博士。

          俺達が今、この島でデレシアに勝てる確率はあるのか?」

     

    (e)「ないね、皆無だと言っていい。 歴代のデレシアと遜色ないと言ってもいいだろうね。

        そうだろう、ジョルジュ君」

      _

    ( ゚∀゚)「あぁ」

     

    ジョルジュは短く返事をし、ショボンから向けられている強烈な眼光を意に介した様子を一向に見せない。

    まるでその視線をそよ風程度にしか思っていないのだろうか。

    流石に業を煮やしたショボンは、会話を中断させた。

     

    (#´・ω・`)「博士、貴方も情報を隠すのは止めていただきたい。

          あのデレシアに関して分かっている情報を、まずは我々に共有してください」

     

    面倒くさそうに髪を掻き毟り、ジョーンズはわざとらしく溜息を吐いた。

    その視線をジョルジュへと向け、眉を吊り上げて尋ねた。

     

    (e)「あー、そうだな。

        どこから話した物かね、ジョルジュ君」

      _

    ( ゚∀゚)「さてね、説明は俺の専門外だ。

        ほら、博士。

        仕事だぞ」

     

    (e)「と、言われてもねぇ。

        僕も不確かな情報は人に話すのは専門外でね、悪いね」

     

    話はこれで終わりとばかりに、ジョーンズは肩をすくめて見せる。

    そしてそんなジョーンズの性格を知っているショボンはやり場のない憤りを覚え、拳を握りしめて耐えた。

     

    (#´・ω・`)「……くっそ!!」

     

    (´・_ゝ・`)「落ち着けよ、ショボン。

          詳細はさておいて、俺達はデレシアに勝てないのは事実なんだ。

          なら、この島にいつまでもいる理由はない、そうだろう?」

     

    (#´・ω・`)「腹立たしいがその通りだ。

          それで、そんな分かり切った事を訊いてどうするつもりだ?」

     

    (´・_ゝ・`)「俺に考えがある。

          なぁ、手を貸してくれないか?」

     

    誰もが怪我人の妄言、ショック状態の人間が口にする戯言だと思った。

    しかし、それからデミタスが語り始めた提案は決してそうではないとすぐに分かった。

    それまでの殺伐とした、一触即発の空気が変わり、デミタスの提案を全体がどう受け止めるかを真剣に考える場となった。

     

    (´・ω・`)「それは本気で言っているのかな?」

     

    プロらしく憤りを抑え込んだショボンは、まずはデミタスの正気を確認した。

     

    (´・_ゝ・`)「本気だ。 だがそのためには協力が必要なんだ」

     

    ( `ハ´)「その考え自体には反対はないアルが、結果として我々にどう利益が出るのかを考えた方がいいアル」

     

    (e)「出てきた結果をどう利益につなげるか、を考えた方がいいね。

        ふぅむ……」

     

    珍しくジョーンズが考え込む様子を見せ、意見を求めるようにジョルジュを見た。

    その視線を無視しようとしたが、ジョーンズはそれを許さなかった。

     

    (e)「ジョルジュ君。 君の意見はどうかな?」

      _

    ( ゚∀゚)「何で俺なんだよ。 ジュスティア警察にいたのならショボンも同じだろ。

        それに、そいつの案件に俺は触れたこともねぇよ」

     

    (e)「上層部の反応に関しては君の方が詳しいだろう。

        本気にすると思うか?」

      _

    ( ゚∀゚)「そのままだと難しいだろうな。

        だが、そのための人間がいるだろう。

        そいつ次第だな」

     

    (´・ω・`)「同志ビロードはきっと上手くやってくれるだろうが、下準備が必要だ。

          片足が無いんじゃ、誤魔化しきれないぞ」

     

    ジョーンズは指を一本立てて、嬉々とした表情で話を始めた。

     

    (e)「それなら大丈夫。

       ここは棺桶の宝箱みたいなところでね、復元中の一機があるんだ。

       コンセプト・シリーズのCクラスだ」

     

    (´・ω・`)「でも、復元中でしょう?

          使えるんですか?」

     

    (e)「メインの機能は完全に復元できていないが、まぁ、補助装置としてなら使えるよ。

       先の大戦で大分破損したみたいだが、なぁに、動く程度には修理できる」

     

    コンセプト・シリーズの棺桶は何かしらの目的に特化して設計されているため、その目的を果たすための機能が使えないとなると、通常の棺桶よりも戦闘力は落ちてしまう。

    だが補助装置としての機能であれば、それは棺桶の最低限の目的として組み込まれているため使う事は出来る。

    長所を失った棺桶。

    それは、役に立つよりも文字通りの棺桶と化すことの方が確率としては高い存在だ。

     

    (e)「決行するとしたら、いつかな?」

     

    (´・_ゝ・`)「明日の夜だ。

          予告状は今日中に出す」

     

    八月十一日。

    その日は後に、脱獄した大怪盗“ザ・サード”がジュスティア警察に向けて予告状を送った日として記録されることになる。

    大胆不敵にも警察当てに送られた予告状。

    そこで盗むと予告されたのは――

     

    (´・_ゝ・`)「ライダル・ヅーの命は、必ず俺が盗んでみせる」

     

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    AmmoRe!!のようです Ammo for Reknit!!

             第七章【housebreaker-怪盗-

     

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    八月十一日、午後637分。

    予告状を送り付けられたライダル・ヅーは鼻でそれを笑い飛ばそうとしたが、出来なかった。

    その日、彼女を含むジュスティア警察・軍関係者は臨時の作戦室として徴収したエラルテ記念病院に集まり、今後の対策を話し合っていた。

    主な議題となっていたのはその日の午後に行われた大規模な戦闘と、犯罪者を全員取り逃がしてしまったことに対する会議だった。

     

    会議はジュスティア人らしく、淡々と進められた。

    議論は平行線だった。

    厄介だったのは彼らの目的が一致していながらも、その手段が全く別の方向を向いていることにあった。

    ヅーの考えでは、まずは相手を見定めることに専念すべきと言う意見があった。

     

    対して、ジュスティアから派遣された円卓十二騎士の二人は首を横に振り、脱獄犯を捕える必要があると一歩も譲らなかった。

    声帯を失っているダニー・エクストプラズマンに代わって、ショーン・コネリが理由を述べる。

     

    (´・_`)「それも重要だが、何より、脱獄犯を然るべき形で処さなければ示しがつかない。

         これが陽動だとしても、これを見逃せばジュスティアに対する信頼は地に落ちる」

     

    //-゚)「今は体裁よりも重んじることがあるはずですが」

     

    (´・_`)「……いいかい、秘書殿。

        オアシズで我々は海軍の優秀な兵隊を多数失っているんだ。

        そしてセカンドロックの脱獄に関わり、この島で暴れまわっている人間がオアシズで暗躍した下郎と同一人物、元ジュスティア警察の人間。

        そんな下種を放っておけと?」

     

    彼の言葉はまるで迷いというものがなく、自信に溢れている。

    確かにそれは正論だった。

    しかし、正論が常に正しいとは限らない。

    時にそれは本当に正しいことを見失わせ、人を盲目にさえしてしまう言葉となる。

     

    //-゚)「予告状はその下種を逃がすための目くらましであるとは考えないのですか」

     

    (´・_`)「無論、考えているさ。

        だが脱出の手段は極めて限られているし、逃がすつもりもない。

        何より、悪を前に引き下がる道理がない。

        二手に分かれて行動すれば問題はないだろう」

     

    //-゚)「ですから……!」

     

    ヅーが苛立ちを声に表した時、トラギコ・マウンテンライトが口を挟んだ。

    その声は冷静沈着であったが、どこか、相手を嗤うような含みがあった。

     

    (=゚д゚)「騎士が二人がかりで仕留められなかった人間がいたらしいが、その辺はどう考えているラギ?」

     

    (´・_`)「……何?」

     

    (=゚д゚)「ジョルジュ・マグナーニに足止めされてショボン・パドローネを逃がしたのはどこのどいつだって言えば分かるラギか?」

     

    今度はショーンが感情的になる番だった。

    机を拳で叩き、大きな音を立ててトラギコに対して威嚇をする。

    訓練を積んだ軍人でさえたじろぐその剣幕に対して、ヅーは表情を変えなかったが僅かに身を震わせた。

     

    (´・_`)「貴様っ!! いい加減にしろよ、たかが刑事の分際で!!」

     

    腹から出された怒声は部屋の窓を震わせるほどの大きさだった。

    トラギコはショーンを睨み、その威嚇行為に対する返答とした。

     

    (=゚д゚)「うるせぇ、いちいち怒鳴るなよ。

        天下の騎士殿が翻弄されて体裁が悪いのは分かっているラギ。

        だけどな、認めないといけない事があるラギよ。

        あいつらは、これまでにジュスティアが相手にしたどこの誰よりも厄介ラギ」

     

    (´・_`)「だからどうした。

        それがどうした。

        ジュスティア人は悪に屈しない、これは常識だ!!」

     

    (=゚д゚)「心意気はいいがな、プライドを捨てるぐらいの事をしたらどうラギ?

        片手間で相手に出来る連中じゃない事は分かっただろ。

        これはお前らも分かってる通りの餌ラギ。

        だけどな、俺達がどっちか片方しか選べないようにしてある餌なんだよ。

     

        両方を取ろうとすればやられる。

        選ぶなら片方だ。

        片方を全力で対処しないとどっちも取り逃すラギよ」

     

    彼の意見は決して消極的なものではなく、冷静に状況を判断しての物だった。

    デミタス・エドワードグリーンの輝かしい犯罪歴はジュスティア警察を翻弄し続け、その警備体制の不備を明らかにした歴史でもある。

    怪盗を名乗るだけあり、彼には秀でた才能があった。

    人の死角を盗む才能だ。

     

    (´・_`)「なら――」

     

    ( ><)「――なら、デミタスを逮捕することを優先してもらうんです」

     

    突如として口を挟んできたのはジュスティア警察の報道担当官、ベルベット・オールスター。

    ティンカーベルに派遣された警察の一人で、若くして情報統制をおこなうための全権を与えられた男だ。

    彼は情報を集約し、そして、それを体よく報じる力が見込まれて対マスコミ用の重要な人間として知られている。

    トラギコがこれまでに行ってきた暴力的な捜査が大きく報じられなかった背景には、彼の力が影響していた。

     

    その発言力は大きく、彼よりもキャリアのある警察高官でさえその言葉に従わざるを得ない。

    彼は情報を支配する力を持ち、その気になれば人一人の人生を終わらせることなど造作もないのだ。

     

    ( ><)「デミタスはマスコミ各社にも予告状を送っているんです。

          優先するのはデミタスの逮捕なんです。

          島での諸々の事件については別の犯人をでっちあげればいいんです」

     

    (´・_`)「ショボンはどうするつもりだ?」

     

    そんなことは分かっているとばかりに、ベルベットは肩をすくめた。

     

    ( ><)「放っておけばいいんです。

          今必要なのは島が平和になった、ということです。

          全ての原因であったデミタスは我々の手で捕まえ、それ以外の人間については射殺したとでもしておけばいいんです」

     

    (;=゚д゚)「そりゃいくらなんでも無茶苦茶ラギ。

        目撃者も山のようにいるんだぞ」

     

    ショーンの怒気を前にしてもたじろがなかったトラギコが、今度ばかりはそうもいかなかった。

    ベルベットの言っていることはあまりにも暴論だった。

    デミタスを捕まえる代わりにショボン達から目を背けておきながら、体裁上は見事任務を果たしたかのように振る舞う。

    対外的には良く見せるだけの、プライド先行型の方法だ。

     

    ( ><)「だから、それを納得させるためにもデミタスには踊ってもらうんです。

          あいつが大々的に動けば人の意識はそっちに行くんです。

          後は、そうですね……

          何やら金髪碧眼の不審者がいたらしいですから、その人間を代わりに指名手配すればいいんです」

     

    それがデレシアの事だと分かり、思わず声に出る。

     

    (;=゚д゚)「……何?」

     

    ( ><)「ジュスティア警察官だった男達はこの事件には一切関係していない、とするんです。

         それとも、関係していたと発表することで何か得られるメリットがあるんですか?」

     

    淡々と述べるベルベットの言う事は正論だった。

    だが、それはあくまでもジュスティアが正義として在り続けるための正論であり、実際に事件を解決するという点ではまるで意味がない。

    表面上の解決を演じるという彼の言葉の真意がトラギコには分からなかった。

    警官であれば事件解決を最優先にするはずだが、この男は別の物を見据えている気がしてならない。

     

    デレシアの素性を知らないで言っているのであれば、ベルベットは一般人を犯人に仕立て上げようとしている。

    それはジュスティア的ではない。

    正義を信仰しているはずの警官の行いとしては、不自然極まりない。

    それともこれがこの男の本性なのか。

     

    (´・_`)「ないな」

     

    //-゚)「ですが、それはあまりにも乱暴な話ではないでしょうか、ベルベット」

     

    このままでは話が固まると判断し、ヅーがベルベットに意見した。

    彼女は常に天秤の目盛りを気にする性格をしており、今回の事があまりにも極端であると判断しての発言だった。

     

    ( ><)「正義を遂行するためには幾ばくかの犠牲が必要なんです。

         まさかこの事件が無傷で解決できると思っているんですか?

         これは早急に終わらせてしまわなければならない、非常に重要度の高い事件なんですよ」

     

    (=゚д゚)「見せかけだけの解決に意味があるのかよ」

     

    ( ><)「見せかけではありません。

          今すぐに解決しないだけで、後ほど皆さんが解決するだけです。

          言っての通り、まずはデミタスを捕えてください」

     

    (´・_`)「さっきから捕えろと言っているが、奴は死刑囚だ。

        殺した方が早い」

     

    ショーンの言う通りだ。

    死刑の手間と捕獲する手間を省く分、その方が効率的だ。

    早急に終わればショボン達の追跡に時間を費やせる。

     

    ( ><)「ただ殺しても宣伝効果が薄いんです。

          捕えて晒して、それからです」

     

    (=゚д゚)「出来れば、の話で聞いておくラギ」

     

    ( ><)「それでは困るんです。

          これは命令です。

          それに、トラギコさんには出頭命令が出ていますね。

          部下を用意しているので、早急にジュスティアに行ってください。

     

          これは、貴方達以外の人間に関係のある話です」

     

    冷たい視線をトラギコに向け、これ以上会話にトラギコが参加するのを良しとしない空気を作り出す。

    だがそんな空気はトラギコには関係ない。

     

    (=゚д゚)「そんなのこれが終わってからでいいだろ」

     

    ( ><)「駄目なんです」

     

    (#=゚д゚)「人手が足りねぇんだろ?」

     

    ( ><)「それとこれとは別問題なんです」

     

    指を鳴らすと、扉の外に控えていた屈強な三人の男がトラギコをすぐに取り囲んだ。

    手錠とテーザー銃を持つ彼らは軍人、もしくは警官のどちらかだろうが、こういった仕事に慣れている様子だった。

    抵抗すれば撃たれるとよく分かる。

     

    (#=゚д゚)「……これが上の方針かよ」

     

    ( ><)「すぐに連れて行くんです」

     

    ( ''づ)「後ろで手を組んで」

     

    三対一では分が悪い。

    従う他ない。

     

    (#=゚д゚)「その前に、そこのベルベットに渡すものがあるラギ」

     

    ( ''づ)「妙な真似はしないでくださいよ」

     

    (#=゚д゚)「分かってるラギ」

     

    ジャケットの懐に手を入れ、トラギコは中指を立てた手を取り出してみせた。

     

    (#=゚д゚)凸「ほら、これラギ」

     

    ( ><)「……連れて行くんです」

     

    そしてトラギコは後ろで手を組み、そこに座る人間達に一瞥向けてから部屋を出て行った。

    部屋に静寂が訪れる。

    この場を支配する力を持つ人間が誰なのか、全員が分かった。

     

    ( ><)「さ、手順の話をするんです。

          天下の大怪盗だった男とどう劇的な対決をするか、考えましょう」

     

    (´・_`)「対決?」

     

    ( ><)「これは絶好の宣伝になります。

          ジュスティアに逆らう人間がどうなるのか、どれだけ努力したとしてもそれを我々の力でねじ伏せる姿を世界中に知らしめるんです」

     

    //-゚)「馬鹿なことを。

          エンタテインメントのつもりですか?

          事態がどれだけ厄介なことになっているのか、分かっていないようですね」

     

    ( ><)「ヅーさん、例え長官の秘書だとしても、現場の動きに口出しは控えてもらいたいんです。

          僕はジュスティアがどうすればこの状況で信頼を勝ち取る事が出来るか、それを考えているんです。

          貴女に恨みを持つ死刑囚がわざわざやってくるというのですから、これを利用しない手はないんです。

          ラジオでも報じられ始めていることを考えれば、今、世界中で最も注目されている事件とも言えるんです。

     

          それを劇的に終わらせ、非常事態宣言を解除すればこの事件は誰にとってもいい形で終わらせられるんです」

     

    //-゚)「劇的に終わらせる……

          まさかとは思いますが、わざわざ場所をあつらえるつもりですか、私を餌にして」

     

    拍手。

    ベルベットは、ヅーの発言に深く頷きながら拍手を送った。

     

    ( ><)「その通り!

          然るべき相手には然るべき場所を!

          報道関係者も呼んで出迎える予定ですので、結末はリアルタイムで世界に届けられるんです」

     

    (´・_`)「おい、さっきから大分勝手がすぎるぞ。

         本当に事態の深刻さを分かっているのか?」

     

    ( ><)「分かってますよ。

          ただ分からないのは、どうしてあなた方は僕の話に対して否定気味なのかと言う事なんです」

     

    (´・_`)「何?」

     

    ( ><)「失敗したのは誰ですか?

          それぞれが独立して動かず、連携していればこんなことにはならなかったのでは?」

     

    辛辣な言葉が並べられ、情報を操る人間にありがちな妄想――情報を操る人間の力は暴力に勝る――に捉われているのだと、ヅーは思わずにはいられなかった。

    確かに情報も力だ。

    この世の中は力が全てを変える。

    力には力を。

     

    情報の力と暴力が正面からぶつかれば勝るのは暴力だ。

    ここでヅーがベルベットを殴り、黙らせることで彼の立案した作戦をなかったことに出来る。

    最悪の場合、事故を装って二度と口をきけなくさせる事も出来た。

     

    //-゚)「随分と饒舌ですね。

          一応聞かせてもらいますが、どこを舞台にするつもりだというのですか?」

     

    ( ><)「それは勿論、この病院を――」

     

    //-゚)「却下です。

          味 方 の 狙 撃 手 に 撃 た れ た く は あ り ま せ ん か ら」

     

    ( ><)「……」

     

    (´・_`)「それはカラマロス・ロングディスタンスの事を言っているのか?

         彼は確かな家の出だ。

         腕も抜群なことは知っているだろう」

     

    同じ軍人のフォローが入ることは予想していた。

    確かに、“鷹の目”の腕はジュスティアで最高だ。

    最高の腕があったとしても、ヅーには彼を信頼できない理由があった。

     

    //-゚)「えぇ。 ですが、捕えるはずのトラギコさんが危うく殺されかけたことを忘れたとは言わせませんよ。

          彼の腕を完全に信じることは不可能です。

          どんな人間でもミスはするものです。

          ただ、それがミスの許されない場で、となると話は別問題です」

     

    予定ではトラギコの動きを封じるだけだったのだが、彼の放った銃弾はトラギコに重傷を負わせた。

    偶然か、それとも故意だったのかは分からない。

    カラマロスは単独行動が許可されており、今どこにいるのかは分かっていない。

    そして何より、トラギコは彼を信じていなかった。

     

    エラルテ記念病院でトラギコの代わりに撃たれたカール・クリンプトン殺害の犯人はカラマロスだと、トラギコは断言していた。

    その証拠を収める為にマスコミであるアサピー・ポストマンと協力し、その瞬間を撮影させた。

    ヅーもその現場を目撃していたため、後は証拠の写真を見れば疑いは確信へと変わり、すぐにでもカラマロスを敵と認識できる。

    今、写真を手に入れたアサピーはどこにいるのだろうか。

     

    ( ><)「じゃあ他にどの場所があるというんですか?

          この島で奴を万全の状態で待ちかまえられるところなんて……」

     

    //-゚)「あるじゃないですか。

          相手が来る方向が絞られて、尚且つ、犯罪者相手に相応しい場所が」

     

    最初に気付いたのは言葉を発することはないと思われていたエクストだった。

    人工声帯を喉に当て、掠れた電子の音に乗せて、答えを口にした。

     

    <_プー゚)フ『ジェイル島だな』

     

    ( ><)「ですが、あそこは突破されて……」

     

    //-゚)「だからこそ、ですよ。

          突破されたのは天井部、そして地上の部分ですよね。

          その修復が済み、すでに再開しているのも事実、そうですね」

     

    ( ><)「えぇ、そうですが」

     

    //-゚)「地下にまで侵入はされていない、という情報も合っていますか?」

     

    ベルベットの口が噤まれたままの状態で固まった。

    ジェイル島にあるセカンドロック刑務所は地上にばかり注目されているが、地下にも多くの独房や特殊な房がある。

    一切の光を遮断する独房はそこに収容された人間が発狂し、そして死に至る場所として知られている。

    その悪評を聞いたジュスティア市民たちの中から非人道的であるとの声が上がり、その地下独房は封鎖され、セメントによって塗り潰された。

     

    あくまでもそれは表向きの話であることぐらい、ヅーは知っていた。

    その計画に携わったのだから、知っていて当然だ。

     

    //-゚)「無言は肯定と捉えます。

         さて、私はセカンドロック刑務所の地下監獄でならこの挑戦を受けます」

     

    ( ><)「……それにはリスクが多すぎるんです。

          オアシズも選択肢の中に入れるべきでは?

          あそこなら侵入も困難だし、何より――」

     

    //-゚)「何より、大迷惑をかけるだけでなく事件解決後のオアシズに面倒事を持ち込んでジュスティアとの問題に発展させたいと?

         それでも報道担当官ですか?

         見せかけることは得意かもしれませんが、中身がありませんね。

         オアシズは世界を旅する巨大な街。

     

         ただの客船ではないのですよ」

     

    報道担当者として、ベルベットは確かに若輩ながら能力のある人間だ。

    だが人間性としてはまだ幼さが残り、ヅーのように感情を完全にコントロールすることはまだ出来ない。

    ヅーの言葉にベルベットは拳を握り固め、精いっぱいの笑みを浮かべた。

     

    ( ><)「これは申し訳ありません。

          まだ若輩故の過ちとしてご容赦を」

     

    //-゚)「いつまで若輩気取りなのかは知りませんが、話が分かったのならばすぐに動きます。

          ジェイル島に行き、準備をします。

          くれぐれもこの件は報道しないように。

          マスコミに邪魔をされたくないので。

     

          例え好意にしているマスコミ関係者だとしても、私はそれを発見次第射殺します」

     

    ( ><)「しかしそれではデミタスに居場所を伝えられないんです」

     

    //-゚)「要は、失敗させればいいのでしょう?

          ならマスコミたちには真逆の方向を伝えてください。

          そこに別働隊を用意して、やって来たデミタスを捕縛すれば終わりです。

          結果は変わらず、そして何よりこちらが失敗するリスクが低くて済みます」

     

    ( ><)「対決はしないと?」

     

    //-゚)「誰に見せる必要があるのですか?

          いちいち犯罪者の言葉に合わせて動いてやる必要はありません」

     

    彼女の言葉は正論であり、反論する余地もなかった。

    ただ、ジュスティア的ではないという一点を除けば。

    正義の都として知られるジュスティアの人間が相手を騙すような真似をするのは、半ばタブー視されている事だった。

    特に決闘や公の目がある場となると、その傾向はより強くなる。

     

    ( ><)「そう仰るのならば、その通りにするんです。

          警備は何人ほどお付けいたしましょうか?」

     

    //-゚)「円卓十二騎士の二人がいれば十分です。

          貴方が気にするのは二人の棺桶を充電することです」

     

    ( ><)「警官や兵士を随伴させないのですか?」

     

    //-゚)「えぇ、当たり前です。

          万が一デミタスが潜り込んでくるとしたら得意の変装を使うでしょう。

          ですので、その人数が増えるリスクを減らして尚且つ信頼に足る二人を選ぶのは当然です」

     

    音もなくヅーは立ち上がり、ベルベットを見下ろした。

    氷のように冷たい目線に、ベルベットの体が僅かに震える。

     

    //-゚)「大好きな宣伝はお任せしますが、くれぐれも、足を引っ張らないように」

     

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             八:::::::::::::iく斧;::::/⌒ ー   ´   V:::/: }! r‐く::::August 11th PM9:09

              ハ:::::::::::; /::イ           V::::::: .'  \___

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    陽が水平線の向こうに沈み、幸運の印とされる緑色の光を僅かに放った直後、紫色の夜が訪れる。

    燃えるような水平線が徐々に群青に飲み込まれ、そして、消えた。

    星が夜空に姿を現す頃には、巨大な月が世界をおぼろげな光で照らしている。

    月光に照らされた世界最大の豪華客船にして世界最大の船上都市オアシズの巨体は、まるで巨大な雪山のように海上に浮かんでいた。

     

    オアシズに潜伏していた五人の同盟者たちは、暗号を用いて密かに集まり、船の外で起きている事態について話し合いを行っていた。

    怪しまれないよう、人の集まるショッピングモールの中に設けられた喫茶店を利用し、ビジネスマンを装うためにスーツを着てメモを取りながら話を進めた。

    五人の中でもベテランのオーベン・ユーリカは溜息を吐くように、自然に話題を振った。

     

    ( 0"0)「内藤財団の発表についてだが――」

     

    そう言いつつ、紙上に走らせる文字はこれから先の計画についての意見を求める内容だった。

    彼らはオアシズの厄日の際、船に乗り込んだ賊の生き残りで、当初の予定通りにこの船に撒かれた種子の一部。

    本来はオアシズの厄日後、船の動きを監視するための役割を持っていたのだが、ここに来てそれが変更となった。

    彼らに与えられた新たな使命は、島で孤立してしまった同志達を招き入れるための下準備を整えることだった。

     

    ここから先、どのようにしてこの船に同志達を迎え入れるのかを考えなければならなかった。

    幸いなことに、ジュスティアの注目は別の人間が一身に受けることとなり、後は船内の警備体制の穴を見つけ出すだけでよかったのだが、それが問題だった。

    島で起きている事件に巻き込まれないよう、船から島に降りることも、島から船に乗り入ることも容易ではなくなっている。

    そのため、彼らはいくつもアイディアを募って明日の夜に警備の目を別の場所に向けさせる必要があった。

     

    口と手が別の事を形にするのは少しの訓練で可能になる。

    男達は皆、内藤財団がその日の昼に発表した単位統一に関する話をしつつ、いくつもの案を紙の上に書きだしていた。

    最も有効そうだったのは火災騒ぎを起こし、その隙に海から同志達を招き入れる作戦だった。

    後はどのようにしてそれを実行するかが問題だった。

     

    オアシズはブロックごとに分厚い隔壁を持ち、火災が起きてもそのブロックを遮断することで火災の被害を最小限に抑えることが出来る。

    それに、どうやって火災に気付かせるかも問題の一つだ。

    小さな火事を起こしても気付かれなければ陽動にはならない。

    民間人が多く集まる場所を利用し、そこで火を起こせばどうだろうか。

     

    火が燃え広がり、人々が恐怖する場所。

    ショッピングモールにある小型の移動用車輌のバッテリーに細工すれば、発火させることは可能だ。

    炎に対して過剰反応を示しやすい女子供であれば、煙だけでも簡単にパニックになる。

    細工をするのは簡単だ。

     

    利用者を装って車輌を手に入れ、細工し、戻すだけ。

    そうすればショッピングモールはパニックになり、船に散った警備担当者達はそれを鎮静化させるために一か所に集中するだろう。

    後は、手薄となった海中から船内へと同志を引き揚げ、客室に匿えば万事解決。

    男達は皆満足そうに頷き、用紙を丸めて灰皿の上に置き、ライターで燃やした。

     

    消炭と化した紙を煙草で押し潰し、証拠を抹消する。

    頼んでいた飲み物を飲み、別の話をして周囲に同化する。

    会話を終えた一行は、最後の確認をするために店を出てショッピングモールに向かうことにした。

    表向きは買い物をするためだが、当然、本当の目的は下見である。

     

    会計を済ませて店を後にし、極めて自然にブロックの移動を行う。

    モールに到着するまでは五分とかからなかった。

     

    从´_ゝ从「あれ?」

     

    最初に異変に気付いたのは、ポプリ・パマーゾだった。

    自分を含めて五人いたはずのメンバーが、四人に減っていたのだ。

    いなくなっていたのはオーベンだった。

    彼はリーダー格としての人格が出来ている人間であるため、無断でどこかに消えることはない。

     

    となると、仕方のない理由で離れてしまったのだろう。

    問題はなそうだと判断し、四人は駐車されている車輌を探した。

    買い物に利用している人間が多くおり、放置しているのか、それとも駐車しているだけなのか判断するのは難しい。

    そこで四人は貸し出しを行っている場所に行くことになり、再び三分ほどかけて移動をした。

     

    そして、そこでまたしても一人減っていることにポプリが気付いた。

     

    从´_ゝ从「ベッシは?」

     

    ベッシ・カローラは大食漢で温厚な性格をしており、自分勝手な行動をすることが時折あった。

    それでもその戦闘力は抜群で、格闘戦はこの五人の中でも最高の腕を持つ。

     

    -゚ぺ-)「トイレじゃないか?

         さっきコーヒーをしこたま飲んでたからな」

     

    陽気な性格のペリー・ボランが肩をすくめてそう言った。

    確かに、彼は先ほどの喫茶店でコーヒーを五杯は飲んでいた。

    誰も彼を見ていないのかと、もう一人のベネッセ・スィンケンにも目を向けた。

     

    ,,,_ア゚)「俺も見てねぇから、多分トイレだろうな」

     

    从´_ゝ从「そうか」

     

    合流場所さえ分かっていれば問題はない。

    三人で一台に乗り込み、ポプリがハンドルを握る。

    発車させて間もなく、タイヤがパンクしている嫌な音が聞こえてきた。

     

    从´_ゝ从「あぁ、くそ」

     

    車を路肩に停めて、タイヤを見る。

    釘でも踏んだのか、空気が抜けて後輪が無残にも潰れていた。

    車を変えてもらわなければならないと判断し、車内にいる二人に声をかけようとした。

     

    ;´_ゝ从「え?」

     

    車内には誰もいなかった。

    驚きの声を上げた彼は、すぐに周囲を見渡した。

    だがどこにもいない。

    ほんの数秒目を離した間に音もなく消えた仲間。

     

    ようやく事態の異常さに気付き、ポプリは焦りを覚えた。

    それが彼の最後の感情だった。

    首に走った激痛が彼の最後の感触だった。

    後は、視界が黒に染まって意識が消えるだけ。

     

    ――五つの黒いごみ袋を積んだ大きなカートを押し歩く清掃員姿の女性がその場を去ったが、当然、誰かの記憶に残っているはずもなかった。

     

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    .          乂y: : : :::::l/:/:://::: : /ィi',xr≠ミヾト!{ノ   ,ィノ }l/:l//}::::|

    .             ヽ}: : :::::/イ:/::::::::: :{:::ヾ、`"込ソ`゙ ¨´  ,ヒゾ'/:::::::::/イソ

               リ: : ::://::.{:::::::://::. !::::}ヽヽ         , `¨´/::::::::::/ィ´

              . イィ:/:.//:::::::::}:::/:::::: :∨ .))        August 12th PM08:30

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    日付が変わり、嵐から抜け出たティンカーベルはどこまでも突き抜けるような晴天に恵まれ、昨日起こった戦闘行動はあまり噂されていなかった。

    それよりも噂されているのが、ラジオで放送された内藤財団による大規模な革命の宣言だった。

    宣言はただちに実行に移された。

    予め契約を結んでいた家電製品の小売店の店主たちはラジオを街中に配置し、新聞社は号外を配って回った。

     

    これらの費用は全て内藤財団が負担する為、客の限られている地域でも在庫が瞬く間に消えて行った。

    そして島にラジオが溢れ、情報が満ちた。

    世界情勢が流れ込み、今夜予定されているジュスティアと大怪盗との対決に島中が注目していた。

    隣接するジュスティアが対決を受け、正面から戦うのだと返答の声明を発表したのは午前九時。

     

    それから異例のピッチで進められたエラルテ記念病院を取り囲む厳戒態勢は、ジュスティアが普段訓練を怠らずに行っている証となった。

    予告されたのは夜九時だったが、準備が終わったのは午前十一時の事。

    完全武装の警官、軍人が付近の道路を全て封鎖し、建物の屋上も制圧した。

    実包の装填されたライフルを携える軍人の姿に市民は怯えを見せたが、同時に、興奮もした。

     

    自分達に仇なす災厄と正義の味方が対決するのだ。

    見届けたくもなろう。

    彼らはジュスティア人。

    正義を武器にあらゆる巨悪と対決してきた、世界の天秤たらんとする存在なのだ。

     

    すっかり日も暮れ、夜空の月が昨夜同様の輝きを放つ夜八時半ともなると、空気はより一層重みを増した。

    その重々しい空気はラジオを通じて、世界中の人間の耳に届けられた。

     

    【占|○】『こちらぁ、極道ラジオFM893ですぅ。

         皆さぁん、先日脱獄したあの大怪盗ザ・サードがジュスティアに予告状を送ったのは知っていますよねぇ。

         予告されている時間は十時ですのでぇ、まだ余裕がありますけどぉ。

         本日はぁ、放送内容を少し変えてその様子を放送しちゃいますぅ――』

     

    世界的な人気を誇るラジオ番組では現地にいる協力者を使い、現地の様子をリアルタイムで放送していた。

    島にいた各新聞社の記者たちはこれを一世一代の出世のチャンスと考え、埃を被っていた機材を持ち出して現場へと急いだ。

    ある者は質に入れていたカメラを買戻し、またある者は借金をして高性能なカメラを購入した。

    狙うのは世紀の大怪盗が現れる瞬間と、決着がつくその時。

     

    封鎖されているだけに、その写真が持つ価値はかなり貴重な物だ。

    撮影できるのは一握りの人間。

    現れるのは義賊として一部の市民から絶大な支持を得ていたデミタス・エドワードグリーン。

     

    -゚ぺ-)「しかし、すごいな、この警備は」

     

    _ゝ川「あぁ、この島でこんな警備態勢、見たことねぇ」

     

    カメラを手にエラルテ記念病院を囲むマスコミ関係者の間からは、異口同音にその警備の厳重さを述べた。

     

    〔Ⅲ゚[::|::]゚〕

     

    近距離戦闘を想定しているのか、短機関銃MP45を装備したジョン・ドゥが敷地から離れた場所に立ち、その後ろに同じくM4カービンライフルを構えるジョン・ドゥがいた。

    更に、敷地内には追加装甲で全身を灰色にし、ミニガンをいつでも撃てるように待機するジョン・ドゥがいた。

    恐らくは屋内にも同様に棺桶持ち――強化外骨格を使用する人間の俗称――が待機していることだろう。

    軍人と警察の連携作戦はジュスティアの犯罪史でもかなり珍しいものだが、ここまでの警備体制は前代未聞かも知れない。

     

    サーチライトが夜空を照らし、緊急車両があらゆる路地を封鎖した。

    病院を中心に一マイル圏内は全てジュスティアの監視下に置かれた。

    こうしてカメラを持つ彼らの周囲は現職の警官、もしくは軍人によって囲まれているため、不審な動きは一切できない。

    厳重な警備の中に集まるマスコミ関係者の姿は、大物の取材会見さながらの様子だった。

     

    これまでにデミタスが盗んできた多くの芸術品は、どれも高価な物でそのほとんどが闇市場に流れ、二度と日の目を見ることはなくなってしまった。

    今回彼が出した予告状に書かれていたのは、これまでに彼が一度も予告をしなかった

    彼は泥棒であり、暗殺者ではないのだ。

    何もかもが異例の中、予告された時間が刻一刻と迫っている。

     

    ――予告まで残り、三十分。

     

    腕時計から目を離したライダル・ヅーは静かに息を吐いた。

    彼女は今、ジェイル島のセカンドロック刑務所の地下でその時が来るのを待っていた。

    島にいるのは僅かに三人。

    ヅーと円卓十二騎士の二人――ショーン・コネリとダニー・エクストプラズマン――だけのはずだった。

     

    それ以外の警備員も一切認めず、彼女は頑なにこの三人以外の人間が島に入る事を拒んだ。

    理由はいくつかあるが、最大の理由は変装の達人であるショボン・パドローネが入り込む機会を与えることを防ぐことだった。

    デミタスとショボンが協力関係にある以上、どちらかがヅーの命を狙ってきても不思議ではない。

    ショボンがデミタスの姿に変装してヅーを殺せば、それで予告は果たしたことになるのだ。

     

    そして次に、内部の裏切り者が特定できていないことによる予防策だ。

    元警察官が二人も敵にいるのであれば、現役の人間が裏切っている可能性は十分に考えられる。

    それは現場の警官かもしれないし、高官かもしれない。

    敵の正体が分からない以上、全てを疑ってかかるべきだとヅーは考えた。

     

    結果、円卓十二騎士の二名を残し、他の人間は全てエラルテ記念病院に配置することとなった。

    入院患者には悪いが、少しの間は我慢をしてもらわなければならない。

    嵐の日に対峙した強力な敵。

    トラギコ・マウンテンライトの言葉を信じるならば、その強大さは今のジュスティアでは対処しきれない。

     

    潤沢な資金と豊富な人材を持つ秘密結社。

    相手にとって不足はない。

    ジュスティア人が望んでやまない巨悪だ。

    昔は、そう思っていた。

     

    この島に来てから、ヅーの考えは少しずつ変わり始めていた。

    これまでに信仰してきた正義の在り方と、その実現を阻む者の存在。

    決してデータだけでは分からない多くの情報を得たヅーは、今一度、ジュスティアに戻り次第秘密裏の調査が必要だと考えた。

    また、ヅーは万が一に備えての保険もこの行動にかけていた。

     

    もしもデミタスがこの場に現れたら、裏切り者はあのメンバーの中にいたことになる。

    円卓十二騎士の二人、ベルベット・オールスター、そしてトラギコ。

    四人の内二人を手元に置いたのは、その戦闘力の高さと忠誠心の高さを知っているからだ。

    彼らがジュスティアを裏切るとは考えにくい。

     

    裏切るとしたら、ベルベットだ。

    若くて野心的な彼ならば、ジュスティアを欺いていたとしても不思議ではない。

    時計を確認し、長針がじわじわと予定の時間を示そうとしているのを見た。

    落ち着きが徐々になくなっていく感覚を精神力で抑え込み、ヅーは背負った棺桶の重みを確かめるようにして、それを背負いなおした。

     

    イージー・ライダーの改修は済み、屋内での戦闘に必要な改造が済ませてある。

    肉弾戦を早々に諦め、ドラムマガジンを装着したAA12ショットガンが二挺、コンテナ内に収納されていた。

    近接戦闘は騎士たちに任せ、ヅーは中距離から散弾を撃ち続けることで接近を防ぐ。

    他にもこの空間に多くの仕込みをしており、例え何かしらの方法で侵入されても対処できるようになっていた。

     

    だから怯える必要はない。

    命を狙われることは初めてではない。

    何度も狙われ、何度も襲われた。

    その度に撃退し、その度に生き延びた。

     

    悪に屈しない心がヅーの恐怖心を麻痺させ、今日まで命の危険を感じたことはなかった。

    感じていたとしても、それを自覚することはなかった。

    だが今、ヅーは初めて己の気持ちだけで悪と向き合うことになっていた。

    悪を自らの価値観で判断し、己の力で敵対する。

     

    それは秘書という肩書を得た彼女にとって、全く経験のない事だった。

    与えられた仕事をこなし、与えられた命令の通りに果たす。

    それだけの人生のはずだった。

    生まれてからこれまで、ずっとそうだった。

     

    英才教育を施され、警察官僚になるための勉強をし続けた。

    友人はいなかった。

    いたのは、ライバルだけだった。

    そのライバルですら、ヅーにとっては己を高めるための燃料程度にしか見ていなかった。

     

    歴代最優秀の秘書として採用された時、彼女が感じたのは無だった。

    こうなるために生きてきたのであり、こうなることは当然の結果だったからだ。

    レールの上を歩き続け、そのままジュスティアの街を統治する重役へとなり上がる。

    そう、思っていた。

     

    レールに石を置いたのはトラギコだった。

    彼は常にヅーの進路を妨害し続け、常に惑わせてきた。

    その生き方はやがて、ヅーの中に小さな憧れとなった。

    自ら定めた方針に従って生きるその自由さは、彼女にはないものだった。

     

    CAL21号事件の判決が下った際の彼の声は、今も耳に残って離れない。

    あれを慟哭と言うのだろう。

    人間が腹の底から吐き出す激怒の声だったのだろう。

    その姿を見た時、声を聞いた時、ヅーは羨望を覚えた。

     

    彼は自分で生きている。

    彼はレールを破壊して生きている。

    その自由奔放なまでの生き方に、正義を通している。

    正に、生きた獣の正義。

     

    トラギコはジュスティア警察の在り方について文句を言いはするが、警官であり続けているのは、正義を貫きたいからに他ならない。

    己の手で事件を解決したいからこそ昇進のチャンスを全て意図的に蹴り落とし、今の階級に甘んじている事をヅーは良く知っている。

    最前線で事件と戦い続けるトラギコの姿は、かつて一瞬だけヅーが憧れた正義の味方によく似ていた。

    唯一の違いは、ヅーの知る正義の味方には大勢の仲間がいる事だが、トラギコの仲間は極めて少ない点だ。

     

    腕時計から聞こえてくる秒針の音に、ヅーは意識を現実に向けなおした。

     

    //-゚)「……センサーに反応は?」

     

    (´・_`)「ない。 小動物の反応すらない」

     

    セカンドロック刑務所は今や、鉄壁の要塞と化していた。

    全ての出入り口、通気口や下水の入り口にモーションセンサー、熱感知機、果ては音響感知機を設置し、何か異変があればすぐに反応するようになっている。

    ボタン一つで異変のあった区画に毒ガスを流し込み、そこを死の空間に変えることも可能だ。

    そのスイッチを握るのはヅーだけ。

     

    デミタスを逮捕するなど、ヅーの頭にはなかった。

    ベルベットと本部の意向など知った事ではない。

    生け捕りにして得られるメリットなどたかが知れているし、この程度でジュスティアの信頼が回復するとはとても思えない。

    すでにいくつもの醜態をさらしている以上、たった一人の犯罪者を劇的に捕えたところで意味などないのだ。

     

    ――予告まで残り、七分。

     

    夜空に浮かぶ月を背に、黒い影がティンカーベル上空に現れたのは、予告された時間の七分前だった。

    それに気付いたのは、エラルテ記念病院の近くにあるアパートの屋上に陣取っていた報道陣だった。

    彼らの持つカメラのフラッシュが花火のように眩い光を放ち、歓声が夜の静寂を引き裂いた。

    ラジオで流れるレポーターの声は興奮し、周囲の熱気を電波に乗せて世界中に届けた。

     

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    【占|○】『現れました!! ザ・サードです!!

         世界最高の大怪盗が、今!! 月夜を背に現れました!!』

     

    デミタス出現の報告は島に散った全てのジュスティア人の持つ無線機に届き、銃を持つ人間の視線を一斉に空へと向けさせた。

    浮かぶ黒影。

    それは優雅ささえ感じさせるほどの速力で、夜空を飛行していた。

    まるで眼下に並ぶ大勢の人間をじらすようにして、円を描いて空を舞う。

     

    軍人も警官も、皆構えた銃の銃爪に指をかけはするものの、そこに力を込めはしなかった。

    彼らは命令を待っていた。

    デミタスから攻撃を仕掛けられ、それに対する反撃の許可を待っている。

    それまでは例え警告だとしても発砲は許可されていない。

     

    抗戦許可なくしては、誰も攻撃できない。

    その異様な光景は様々な構図で撮影され、銃腔の先に浮かぶデミタスがあたかも神聖な存在であるかのように思わせた。

    警官の中には、デミタスのせいで降格させられた者や自殺に追い込まれた同僚を持つ者がいた。

    脱獄犯を前にして何もできないことに、その全員が歯噛みしていた。

     

    誰でもいい。

    誰でもいいから、交戦規定を破ってあの男を撃ち落してほしい。

    第一射さえあれば、後は続くだけでいい。

    規律を破る人間が出現することを、警官たちは望んでいた。

     

    だがこの時、誰一人として規律に背いた行動をすることはなかった。

    彼らはジュスティア人。

    世界で最も規律を重んじることを誇りとする街の人間なのだ。

    そのような破天荒な人間は、この場には居合わせていない。

     

    ――予告まで残り、三分。

     

    デミタス出現の情報は、地下で待機するジュスティア人たちにも届いていた。

    誰一人、そのことに安堵する者はいなかった。

    むしろ、全員が棺桶をいつでも起動できる状態になっていた。

    否。

     

    一人はすでに起動コードの入力を行っていた。

     

    //-゚)『自由を求めるのだろうが、そんなものはどこにもない』

     

    その起動コードは正に、彼女の生き方そのものだった。

    彼女に自由は無く、あったのは定められた道だけ。

    その道に沿って生きてきた彼女にとって、これは道を外れた初めての一歩。

    意志に従い、この世界へとようやく踏み出すための一言。

     

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    ::[ Y]

     

    ――予告まで残り、二分。

     

    感情を持たない機械はセカンドロック刑務所に現れた来訪者に対して、何一つ疑問を抱くことはなかった。

    機械の感覚では感知できない存在は、いないのと同じなのだ。

    開かれた扉はダミーの電気信号を受け入れ、開いていない状態にあると錯覚をした。

    モーションセンサーはその足取りを無視するように命令され、熱探知機、音響感知器も同様に来訪者を無条件で受け入れた。

     

    その跫音は、地下にいる三人のジュスティア人に届くことはなかった。

    巨大な影が今、殺意を胸に地下を目指して移動を開始していた。

     

    ――予告まで残り、一分。

     

    遂に、頭上の影が病院を目指して降下を始めた。

    稲妻のようにフラッシュが焚かれ、急降下してくる影を、その顔を写真に収めようとする。

    ジュスティア海軍に所属する狙撃手達は、そのフラッシュが照らし出した影を高倍率の光学照準器で目視し、驚愕した。

    真相を目撃した人間が一斉に無線機に向け、報告をする。

     

    『あれはデミタスじゃない!!

    あれは人形だ!!』

     

    ――予告まで残り、0秒。

     

    _::゚゚[_|_]゚゚)

     

    何の前触れもなく開いた扉の向こうから現れたのは、身の丈六フィートほどの棺桶だった。

    墨色の装甲には傷が多数刻まれ、陥没している個所もあった。

    朽ち果てた銅像を思わせるその姿、大きさは、間違いなくCクラスの棺桶。

    だが青く光るその四つのカメラは少しの曇りもなく、間違いなくヅーを睨みつけていた。

     

    _::゚゚[_|_]゚゚)『盗みに来たぞ、その命』

     

    :: Y])『そうですか、さようなら』

     

    ヅーは問答の途中でショットガンの銃爪を引いた。

    散弾程度では目くらましにすらならないことは百も承知だった。

    必要だったのは、時間を稼ぐことだった。

    二人の騎士が棺桶を身に着けるまでに必要な時間は十秒弱。

     

    それだけ稼げれば、こちらの勝ちだ。

     

    (´・_`)『我らは巌。 我らは礎。 我らは第九の誓いを守護する者也!!』

     

    そして二人が棺桶の装着を始める。

    瞬く間にドラムマガジン二つ分の散弾を撃ち尽くしたヅーはショットガンを捨て、素性の分からないデミタスの棺桶から距離を取る。

    距離を取り、安全な場所へと逃げると思わせ、その実、ヅーは柱の裏に隠していた重機関銃を取りに動いていたのであった。

    対強化外骨格用の徹甲弾が装填された重機関銃であれば、散弾よりかは相手をけん制できる。

     

    Cクラス相手であれば効果は薄いだろうが、カメラを貫通させることぐらいは出来る。

     

    _::゚゚[_|_]゚゚)『逃げるか、正義が!』

     

    ::[ Y])『……』

     

    奇妙な話だ。

    何故、デミタスは攻撃を仕掛けてこない。

    本気でこちらを殺すつもりであれば、それなりの武器を所有してきていて然るべきだ。

    それは確信だった。

     

    この場所をどのようにしてデミタスが探り得たのか、それは後で考えればいい。

    ヅー以外の何者かが情報を流しただけの話だ。

    情報の流出が行われたと考えれば、当然、ヅーの装備も分かっているだろう。

    ならば、銃器があるはずなのだ。

     

    少なくとも、無手はあり得ない。

    三対一で武器なしなど、自殺願望があるにしても理に適っていない。

    理に適わないという事は、別の理由がある。

    氷上を滑るスケーターの様に素早く柱を楯にしつつ、その裏に隠していたHK121を掴みとり、即座に構えて発砲した。

     

    毎分700発以上という驚異的な発射速度で放たれた徹甲弾は光の尾を引いて、まっすぐにデミタスを目指した。

     

    _::゚゚[_|_]゚゚)『そんな弾が効くと思うか!!』

     

    両腕で顔を覆い隠し、デミタスが突進してくる。

    すでに装甲が弱っていたのか、銃弾を受けた装甲が歪み、剥離し、穴が開いた。

    銃弾が肘関節を貫き、汚れた潤滑油と赤黒い血液が噴出した。

    それでも彼の勢いは止まらない。

     

    狙いは特攻か。

    それも理に適っていない。

    では一体、何が目的なのか。

    命を懸けて、何をするつもりなのか。

     

    刹那の時間で彼の言葉に違和感を覚えた時、異変が起きた。

     

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    August 12th PM10:02

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    彼、デミタス・エドワードグリーンにとって正義とはもっとも理解しがたい存在だった。

    生まれてから何度もその意味について考えてきたが、分からないままだった。

    代わりに幼少期に惹かれたのは、正義を名乗る人間を翻弄する義賊の物語だった。

    大胆不敵に警察を翻弄し、金の亡者たちから金品を巻き上げ、貧しい人間に配って回る。

     

    生き残るためにパンを盗み、それを同じように飢えている子供に分け与えたのは、間違いなくその物語が影響していた。

    デミタスは幼くして両親に捨てられ、一時的に孤児院に入って幸せな日々を過ごしたが、長くは続かなかった。

    食事すら満足に出せないほどの経営難だった施設は遂に潰れ、デミタスは施設を出て行かざるを得なかった。

    同じような境遇の子供たちと共に生きる道を選ばざるを得なかったが、それは自然な流れだった。

     

    飢える者同士、十分な稼ぎを得られない子供であれば、共同体として集まり、助け合わなければ生きられない。

    彼の生まれた街では、そういった子供たちをストリートチルドレンと呼び、救済措置は一切行われなかった。

    代わりにあったのは、ストリートチルドレンを取締り、街の清浄化を図る事だった。

    警察はそのために雇われ、不法労働をする子供たちが次々に捕まり、施設に投獄された。

     

    施設は子供たちを救うための場所ではなく、商品としての選別を行う場所だと、子供たちの間では有名だった。

    実際、施設から逃げ出した多くの子供がそこで行われている選別作業を目の当たりにしていた。

    女は娼館や金持ちの家に売られ、男は炭鉱やごみ処理施設に送られ、それ以外は慰み者として施設で飼い殺しにされた。

    恐れるべきは捕まる事だと、子供たちはストリートチルドレンと化した時から教えられた。

     

    やがて理解したのは、警察は正義の味方ではないという事だった。

    正義はきっと、子供たちのところには現れないのだと諦めたのは割と早い段階でのこと。

    大人たちの間に正義はあり、子供であるが故に正義の恩恵が受けられないと考えるようになった。

    そして、正義の味方は金持ちの味方であることを知ったのは、彼が十歳になった時だった。

     

    いつもと同じ要領でパンを盗み、逃げていた時の事だった。

    運悪く鉢合わせた警官に捕まり、デミタスは死ぬほど殴られた。

    逮捕こそ見逃されたが、その日、デミタスはゴミ屑のように地面に横たわって体力の回復を待つしかなかった。

    夜が明け、下水道に作っていた彼らの家に戻ると、そこには誰もいなかった。

     

    代わりにあったのは、打ち壊された家の残骸だけだった。

    後に目撃していた人間から聞いた話では、深夜に警察の一斉捜査が行われ、下水道を住処にしていたストリートチルドレンが大勢施設に連れていかれたとの事だった。

    パンを盗みに行っていたデミタスは命拾いをしたのだ。

    だが、自分よりも幼い子供たちは逃げることなどできようはずもなく、投獄されてしまった。

     

    彼らに待っている結末を想像しただけで怖気が走ったが、どうすることも出来ない事をよく理解していた。

    彼には力がなかった。

    何かを変えるための力がなかったのだ。

    月日が流れ、デミタスは力をつけるようになった。

     

    ケチな盗みから強盗に仕事を変え、路上強盗や押し込み強盗にも手を出した。

    売春の斡旋にも手を染めたが、薬物には手を出さなかった。

    女が金を稼ぐ最も簡単な方法は売春で、それは年齢が若ければ若いほど高額になった。

    デミタスが行ったのは子供相手に性をぶつけたい変態を見つけ、未払いで逃げられることを防ぐために客の選別を行い、少年たちをボディーガードとして雇う事だった。

     

    取り分は女たちと決めた分だけもらい、後は体を売った彼女達に支払われた。

    十歳にも満たない女でも安全に体を売ることが出来る為、彼の商売は右肩上がりとなった。

    様々な会社の重役や高官が客として来ることも珍しくなく、それを弱みとして握り、警察に圧力をかけて子供たちに手出しをさせないようにした。

    だがまだ足りなかった。

     

    彼は子供たちに売春や危険な仕事などさせず、もっと多くの子供を救いたかった。

    そして、決意した。

    怪盗となり、盗んだ金品を売り払おうと。

    道具を揃え、少しずつ下積みをしていった。

     

    彼は十件目の盗みを終えた時に気付いた。

    自分には盗みの才能があると。

    盗みは芸術性を重視するようになり、より優雅に、より華麗に盗むことを目指すようになった。

    予告状を出し、警察を翻弄し、その無能さを世間に知らしめた。

     

    彼なりの復讐は、確かな効果があった。

    街の警官たちは以前までのように威張らなくなり、少しずつだがストリートチルドレンの数も減ってきた。

    彼は匿名で孤児院を設立し、それまでの劣悪な施設ではなく、その孤児院に子供たちが入るように尽力した。

    孤児院を出ていく頃には、子供たちは世の中で生きていくのに必要最低限の学を身に着け、危険ではない仕事に従事することが決まっていた。

     

    次にデミタスは美術品のついでに様々な書類も盗むようになった。

    子供たちを金で買い、ペットのように扱う変態を世間に知らしめようとしたのだ。

    それが大物たちの怒りを買い、多くの警官が導入された末にデミタスは捕えられることとなった。

    事情を説明しても警察はデミタスの話を聞かず、死刑にされても構わないから子供たちを助けてほしいと懇願しても、それは黙殺された。

     

    死刑が確定し、デミタスはセカンドロック刑務所に送られた。

    資金を得られなくなった孤児院は潰れ、子供たちは売られ、デミタスは親しい友人からの情報でその末路を独房内で知ることになった。

    誰が悪かったのか、それを考えるのは無駄だ。

    ただ、変えたかった正義があったのだろう。

     

    こうして、ようやく仇を討てる瞬間に巡り合えて、よく分かる。

    デミタスの夢。

    それは、悪になる事でも、子供たちを救う事でもなかった。

    もっとシンプルな、子供の様な夢。

     

    ――正義の味方に、なりたかったのだ。

     

    _::゚゚[_|_]゚゚)『死ね!!』

     

    ::[ Y])『?!』

     

    飛び蹴りを重機関銃で防いだが、ヅーの体はまるで放り投げられた人形のように宙を舞い、鉄格子に激突した。

    コンテナに入ったまま円卓十二騎士が出てこないことに、ヅーは気付いたことだろう。

     

    ::[ Y])『盗んだのですね、電源を……!!』

     

    流石は聡明な秘書だ。

    こちらの仕掛けたトリックに気付いたようだ。

    だがもう遅い。

     

    _::゚゚[_|_]゚゚)『あぁ、そうだ。

          充電されなければ、棺桶はただのコンテナ。

          充電ケーブルを繋げば充電されるなんて考えをする奴が馬鹿なんだ。

          そんな馬鹿に充電を頼んだ奴は、もっと馬鹿と言うわけだ』

     

    エラルテ記念病院を本部に、ヅー達が集う事は分かっていた。

    几帳面なジュスティア人であれば棺桶の充電を行うための部屋を用意すると考え、デミタスは充電を行う部屋の位置を割り出した。

    そして、その部屋の電源に細工をして充電ではなく放電をするようにしたのだ。

    電力を消耗した状態の棺桶を装着すれば、途中で必ずその力を失うことになる。

     

    円卓十二騎士を二人相手にすることなど、デミタスには出来ない。

    無力化するための手段として最も有効な手を使い、それは今、最高のタイミングで形となった。

    だが、ヅーは棺桶の充電を誰かに任せることをしなかったため、放電の難を逃れた。

    それだけが唯一、デミタスの用意した下準備での誤算だった。

     

    _::゚゚[_|_]゚゚)『今度こそ、殺す』

     

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    ::[ ])『嘗めないでもらいましょうか』

     

    有利なのはどちらでもない。

    どちらも戦闘は不慣れな人間だ。

     

    _::゚゚[_|_]゚゚)『……』

     

    ::[ ])『……』

     

    静かに。

    どちらともなく。

    次の一手に向けて、動き出した。

    デミタスが選んだ一手とヅーの選んだ一手は同じだった。

     

    それは偶然ではない。

    ヅーがこの空間に様々な武器を隠していることは知っていた。

    腕力や格闘で戦えない彼女は、必ず武器に頼る。

    武器の隠し場所さえ分かれば、デミタスは自ら武器を持参せずとも武器を手にすることが出来るのだ。

     

    互いに物陰から武器を手に現れ、銃撃戦が始まった。

    デミタスが手にしたのはフランキ・スパス12と呼ばれるオートマチック式のショットガンだった。

    対してヅーが手にしたのは、M4カービンライフル。

    デミタスはほくそ笑んだ。

     

    互いに装填されているのは対強化外骨格用の弾だろうが、口径が違う。

    口径が違えば威力が違う。

    勝つのはより口径の大きなこちらだ。

    高速で移動しつつ、ヅーはデミタスに正確に弾を当ててきた。

     

    肩の装甲が完全に剥がれ落ち、その下にある筋力補助装置のケーブルが切断された。

    ショットガンを使えなくてもいい。

    少しの間だけ、相手が可能性を忘れてくれればいいのだ。

     

    _::゚゚[_|_]゚゚)『うおおお!!』

     

    絶叫。

    咆哮。

    デミタスは声を上げ、ヅーを目指して駆け出した。

    カービンライフルの銃身下に装着されていたグレネードランチャーが火を噴き、榴弾がデミタスの顔を捉えた。

     

    (;´・_ゝ・`)「ぬっおおお!!」

     

    だが止まらない。

    ヘルメットが吹き飛び頭を深く傷つけたが、デミタスの頭部は健在。

    ライフルの弾が尽き、ヅーがそれを投げ捨てる。

    このまま逃げるか、それとも向かってくるか。

     

    もしも逃げられたら、デミタスが追いつくことは不可能だ。

    だが、この突撃をヅーが見逃すとは思えなかった。

    わざわざ人体最大の急所を晒しているのだから、これを好機と捉えない人間はいない。

     

    ::[ ])『しっ!!』

     

    急制動、急転回、そして高周波ナイフを鞘から抜き放つ。

    ヅーは覚悟を決め、ここでデミタスを切り伏せることを選んだ。

    それでいい。

    そう来なければ、ジュスティア人ではない。

     

    勝敗が決するまで、残り数秒。

    デミタスは抜き放たれた高周波ナイフの切っ先を凝視し、そして――

     

    (;´ _ゝ `)。゚ ・ ゚

     

    切っ先が、デミタスの肺を捉え――

     

    ::[ ])『?!』

     

    ――デミタスの両腕が、ヅーの体を掴んだ。

     

    (;´・_ゝ・`)「つ……か……まえ……」

     

    ::[ ])『しまっ……!!』

     

    ようやく狙いに気付いたのだろうが、もう遅い。

    デミタスは奥歯に隠したスイッチを噛み砕いた。

    その瞬間、膨大な量の情報がデミタスの脳裏に甦った。

    それはかつて彼が過ごしてきた孤児院の記憶であり、路地裏の記憶であり、怪盗の記憶だった。

     

    幾億もの声が響く中、人生の全てが一枚の写真のように連続する光景にデミタスは圧倒された。

    何と美しい光景なのだろう。

    何と醜い光景なのだろう。

    なんと優しい光景なのだろう。

     

    彼が助けたかった子供たちの笑い声が遠くから聞こえる。

    懐かしい声だった。

    もう二度と聞く事が出来ないと思った笑い声だった。

    嗚呼。

     

    (´・_ゝ・`)「……はは」

     

    これでいい。

    これがいい。

    もう誰も苦しむ姿を見ないで済む。

    永遠の平和が、永劫の平穏が待っている。

     

    世界が白く染まる。

    声だけが大きく聞こえる。

    自分を呼んでいる。

    懐かしい、あの声が。

     

    (´・_ゝ・`)「皆、俺は――」

     

    そして、彼の意識は体と共にこの世界から消え去った。

     

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    ヅーはその可能性を考慮しなかったわけではなかった。

    だが、理に適わない、という理由だけでその可能性を頭から消し去っていた。

    それこそが彼女の最大の過ちだった。

    人間は理に適わない生き物なのは、トラギコが生き様で語っていたというのに。

     

    時間稼ぎだと思っていた。

    場を混乱させ、自らは逃げるのだと思っていた。

    デミタスは違った。

    彼は、最初から死ぬつもりだったのだ。

     

    死ぬことが狙いの人間を殺そうとしていたのであれば、ヅーはとんだ愚か者だ。

    至近距離でさく裂した高性能プラスチック爆弾の閃光が、彼女の視界を白く染め上げた――

     

    ; )

     

    ――思えば、自分はいつもそうだった。

    大切な物に自分だけでは気付く事が出来ず、誰かの力や存在を経てようやく理解できる。

    器用な人間ではないのだ。

    器用を振る舞い、不器用に生きていただけ。

     

    誰かの期待に応えるために奮闘し、自分自身に期待することは一度もなかった。

    決められたレールの上で物事は動き、その物事を管理する内、見落とすことが増えて行った。

    それにさえ気付けなかった。

    例えば、自爆の道を選んだこの男もそうだ。

     

    デミタスは孤児たちのために美術品を売り払っていた。

    それは事実であり、彼が救った子供たちは多くいる。

    その資金供給を断ったのはヅーだった。

    それが規則だからだ。

     

    規則に従い、孤児院に流れる金の一切を遮断した。

    万が一、その孤児院が違法ビジネスに使われていたら取り返しがつかなくなると考えた警察の判断だった。

    彼女はそれに従った。

    結果、大勢の子供が路頭に迷い、体を売り、そして肉片と化した者もいた。

     

    心は痛まなかった。

    彼女には直接関係ない事だったし、それは、彼女の判断ではなかったからだ。

     

    ; )「ぐ……ぁ」

     

    気が付けば、ヅーは地面に倒れていた。

    爆音のせいで鼓膜は両方とも破れ、全身には無数の破片が突き刺さり、両目は硝子によって潰れていた。

    痛みは感じなかった。

    四肢の感覚は無くなっていた。

     

    赤黒い色以外、何も見えない。

    耳鳴り以外、何も聞こえない。

    寒さ以外、何も感じない。

    今、自分は生きているのだろうか。

     

    分からない。

    誰かに教えてもらわなければ、何も分からない。

    酸素が足りない。

    いくら息をしても、まるで、どこかに穴が開いているかのように抜けていく感じがした。

     

    寒い。

    痛い。

    苦しい。

    恐い。

     

    一気に多くの情報がヅーの頭に流れ込み、その苦痛にもがき苦しんだ。

    声を出しているのかもわからない中、ヅーは体をよじって痛みに苦しんだ。

     

    ; )「あああ゛あ゛っ!!」

     

    恥も外聞もなく、ヅーは悲鳴を上げながらとにかく痛みから逃げる事だけを考えた。

    誰か、助けて。

    そう、声に出したかった。

    出したい言葉は、彼女の口から出ることはなかった。

     

    意識が遠のく事だけが救いになるのだが、体に突き刺さった金属片がそれを許さない。

     

    :::::::::::)「……」

     

    何かが、ヅーの頬に優しく触れた。

    それは人の手だった。

    ごつごつとした、不器用そうな人間の手だった。

    誰が触れているのか、ヅーは見たかった。

     

    その手が触れている間、ヅーの痛覚は遮断され、全ての意識が不器用そうな手に注がれた。

     

    :::::::::::)「……」

     

    誰の手なのか。

    姿を見ようとしても、もう、彼女の目が何かを見つめることはない。

     

    :::::::::::)「……」

     

    声が聞きたい。

    声を聞こうにも、もう、彼女の耳は音を捉えられない。

     

    :::::::::::)「……」

     

    ; )「あ……あ゛……」

     

    伝えたい。

     

    :::::::::::)「……」

     

    何を?

     

    :::::::::::)「……」

     

    誰に?

     

    :::::::::::)「……」

     

    どうして?

     

    :::::::::::)「……」

     

    でも。

    もしもこの手が、彼の手だったならば。

    それは、とても幸せなのかもしれない。

    この地獄のような苦しみの中で差し込む希望。

     

    ジュスティアに向けて連行され、この場にいるはずのないトラギコがいてくれたならば。

    彼の手がどんなものなのか、調べておくべきだった。

    いや、調べていたらこうして願う事さえ出来ないだろう。

    知らない幸せも、世の中にはあるのだ。

     

    なら、この時はせめてその幸せに身を委ねてみよう。

     

    ; )「と……ら……ぎこ……」

     

    声は上手に出せているだろうか。

    みっともなくないだろうか。

     

    ; )「わた……し……じょ……うずに……」

     

    手が、ヅーの頭を撫でた。

    その意味は、言葉が無くても分かる。

    褒められているのだ。

    自分は今、褒められているのだ。

     

    こうして奮闘したことを認められた。

    認めてもらえたのだ。

    結果は悪いが、努力を認めてもらえた。

    生まれて初めての経験だった。

     

    ; )「あ゛……あぁ……」

     

    涙があふれ出した。

    激痛に際しても流れなかった涙が流れた。

    あまりにも嬉しかった。

    誰かにこうして認められるのが、たまらなく嬉しかった。

     

    こんな状況にありながら、ヅーは今、幸せを感じていた。

     

    ; )「あ……り……」

     

    感謝の言葉は、最後まで紡がれることはなかった。

    黒く染まった視界。

    全身から消え去る感覚。

    まるで、炎が消えるかのように。

     

    誰かの手の温もりも感じられなくなり、そして、ヅーの心臓はその活動を停止した。

     

    瓜 - )

     

    (=゚д゚)「……」

     

    息絶えたヅーの傍を離れたトラギコは、静かに歩き始めた。

    無表情のままだったが、強く握られた彼の両手の拳からは血が滴り落ちていた。

     

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                   }ヘ      ヽ、_ヽ 、

                  }             i

                  |           ,  }

                      ',}         /ノ¦

                      '|   ; ',      }!

                   | i  ; }  ',     i }

                        、 ', i {   ヽ_  /

                   ヽ- _,-- -/ ̄

    AmmoRe!!のようです

    Ammo for Reknit!!編 第七章【housebreaker-怪盗-】 了

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コメント

  1. 名前: 通りすがり……ではない人 ◆- 2017/06/17(土) 10:32:57 URL [ 編集 ]
    もう長いこと貴方の作品を楽しませて頂いていますが、はじめてコメント的なものを書き込みます。

    いつも楽しみにしています。
    件の通り、今回も楽しませていただきました。
    毎回のことではありますが、次回が非常に楽しみです。
    ありがとうございました。

    お身体に気を付けて。良ければまた、楽しませて頂ればと思います。
  2. 名前: 歯車の都香 ◆- 2017/06/18(日) 20:25:16 URL [ 編集 ]
    Re: タイトルなし
    ( ´ω`)
    初めまして、コメントいただきありがとうございます。
    そして長らくお付き合いいただいているという事で、そちらも合わせてお礼申し上げます。

    今回のお話をお楽しみいただけたようで何よりです。
    こうしてコメントを貰えるとそれだけで活力になります、本当に。
    今後もいい意味で期待を裏切り続けられるよう、作品を書き溜めてまいります。

    無理をし過ぎないよう、楽しみながらやっていく所存ですのでもうしばらくお付き合いいただければ幸いです。

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ページのおしまいだよ。。と