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第六章【bringer-運び手-】

  1. 名前: 歯車の都香 2017/05/05(金) 10:20:00
    第六章【bringer-運び手-

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    嵐の中で孤立したのならば、流れに乗るのが上策だ。

    そうすれば、少なくとも嵐に刃向う心配はなくなる。

    だがもし、嵐に刃向うのであればその者は嵐の運び手となり得るだろう。

    そしてその運び手は、嵐を新たな場所へと誘う災厄となるのだ。

     

    ――シンディー・バートン:著 【嵐の中】へ、より抜粋。

     

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    避暑地として、また、手つかずの豊かな自然が多く残る街として有名なティンカーベルにはあまり知られていない観光名所があった。

    それは遺跡だ。

    だがそれは非文明的な人間達が暮らした時代の名残ではなく、現代に生きる人間よりも優れた技術を持つ時代に生きていた人間が残した未来の残滓。

    そこから発掘された多くの遺産が分析、修復されることで現代文明を驚異的な速度で発展させてきた。

     

    太古の遺産は最新の機材として世界に広まり、今やなくてはならない物となっていた。

    修復されたもの以外にも設計図を基に再現された物もあり、当時使われていた材料を代用することで大量生産が可能となった。

    発明品を生み出したと喜んでいた者も、設計図やその発明品の上位互換品が発掘されたことによって鼻を折られ、次第に発明家は姿を消していった。

    現代の人間が過去の人間の模倣をする時代ではあるが、それが彼ら人類にとって何か不都合かと問われれば、答えは否。

     

    考える時間が省略され、代わりに、人類が最も反映していたとされる時代を取り戻しているのだから、好都合極まりない話だ。

    方法や形態はどうあれ、進化は生物にとって都合のいいことなのだから。

    結果として行き過ぎた進歩が人類に終焉をもたらしたが、それを手痛い教訓として人々が覚えることはなかった。

    進化を止めることは誰にもできないのだ。

     

    終焉を迎える前に、人間は多くの娯楽を機械経由で得ていた。

    映像や文字、音楽などの情報は人間の手によって生み出され、そして機械を通じて人々へと送り届けられた時代。

    その時代の名残であるラジオは現代では高級品だが、多くの家庭が購入する家電であり、娯楽を家に届ける数少ない道具だった。

    ラジオが届けるのは娯楽だけではなかった。

     

    小さなラジオから流れてくるのは流行の音楽や、軽快な口調でリスナーから送られてきた手紙を読み上げる声だけではなく、集約された世界情勢も流れてくる。

    世界の情報もそうだが、ラジオの利点はそれだけではない。

    専用の周波数に合わせることで、その地域に限定した情報が流れてくるのだ。

    伝令よりも早く、警鐘よりも正確に情報の伝達が出来るラジオは、今や世界中どこの街にも必ず一台はある。

     

    だがそれはあくまでも娯楽方面の進化。

    人類が進化する上で産まれた、いわば副産物だ。

    人類史を語る上で最重要項目に挙げられる道具は別にある。

    それは兵器。

     

    戦争のために作られた道具であり、動物の中でも人間だけが幾度となく繰り返す愚行の象徴。

    兵器の進化こそが、人類の中でも重要な位置にあることは議論の余地もない。

    開発過程で産まれた多くの副産物が人の幸福につながるという皮肉な側面も踏まえて、正に、兵器は人類進化の何よりの証と言えるだろう。

    争いがなければ人の進化はなかったはずだ。

     

    人類が開発した兵器の中でも最高傑作と言われるのが軍用強化外骨格、通称“棺桶”だ。

    人間を殺し、兵器に対抗するための兵器。

    無人機が人間にとって代わると言われた時代もあったが、それは結局幻想のまま終わった。

    結局、手段はどうあっても人を殺すのは人だったのだ。

     

    無人機同士での破壊は所詮、互いの財政を圧迫するだけで大した効果は得られなかったのである。

    経済的な圧迫が戦争終結に結び付くこともあるが、憎しみが増大し、それまで市民だった人間がテロリストに転じる事が増えた。

    テロリストと化した人間は難民として世界中に散り、そして、神の偉大さやその他諸々の言葉を口にして凶行に走った。

    その時、無人機は全く意味を成さず、人々は命だけでなく他者に対する信頼までも失う結果となった。

     

    失った物はあまりにも大きすぎた。

    そして理解した。

    恐れるべきは無人機などではなく、やはり人間なのだと。

    無人機は生産するのに時間と金、手間と材料がかかるが人間は日に日に増え続け、更に機械では実行不可能な臨機応変な行動をすることが出来る。

     

    勿論、そんなことは無人機開発の段階で分かっていた。

    機械が人間を殺しても、人間は機械に対する信頼を失わない。

    人工知能を恐れて人が暴動を起こすこともないが、同じ人間が殺しをしたとなれば、それは信頼問題に発展する。

    移民の全てをテロリスト予備軍と恐れるようになった人間は暴動を起こすようになったが、国内に長らく潜伏していたテロリスト細胞の努力によってその暴動は内戦へと昇華された。

     

    無人機を作る事の出来ない貧困国では、子供をある程度の年齢まで育てたら爆弾の運び手として様々な場所に移動させることで、大国の無人機に対抗することに注力した。

    それが無人機戦争にとどめを刺した。

    どのような機械でも、人の心の中身、爆弾を将来的に抱いて死ぬ人間を見つけ出すことは不可能だ。

    子供たちはまるで無人機のように世界中に散らばり、死んでいった。

     

    近所に越してきた移民たちを住民達は恐れ、排除し、それを差別と声高に叫ぶ人間達との間に決して埋まることの無い亀裂が生まれた。

    やがて時が流れ、大きな時代の分水嶺が訪れ、無人機は無用の長物となった。

    戦争は一周し、人同士の殺し合いへと戻ってきた。

    こうして戦争の花形は無人機から人へ、そして、人が操る兵器へと移行していった。

     

    人間が自己判断で動ける上に、装甲を身に纏う事から安全性を確保し、更には個人携行が可能になった事は戦場に大きな変化をもたらした。

    それまで陸上最強だった戦車に対して、歩兵が正面から立ち向かう異様な構図が生まれたのだ。

    正に、これこそが強化外骨格の本質だった。

    新兵を猛者以上の存在へと変えるそれは、人と人との殺し合いをより激化させた。

     

    訓練はほぼ無用であり、必要なのは、俊敏さと応用力、そして無慈悲な決断力。

    強化外骨格、“棺桶”を身に付けられたならば、例えそれが十歳にも満たない少年であっても、兵士を素手で殺すことが出来る。

    必要なのは人間だけであり、経験は機械が補ってくれるのだ。

    世界が戦場と化し、戦場はやがて地獄と化し、そして焦土と化した。

     

    時は流れ、現代になってもその姿は維持され続け、強化外骨格は最高の殺し道具として存在している。

    常識で考えるならば、強化外骨格を身に纏っている人間と生身の人間では殺し合いに発展すらしない。

    一方的な殺し。

    それが一般的だ。

     

    棺桶を破壊する武器があっても、使う人間の技量と度量、そして経験値が無ければその武器は通常の武器と何ら変わりのない物でしかない。

    鎧の有無は殺し合いに於いてはかなり重要な意味を持ち、鎧を持たない人間は常に死と隣り合わせの状況を味合わなければならない。

    そのため、小型であるAクラスの棺桶は少しでも使用者が戦闘で生き残れるようにと、対棺桶戦闘に特化した設計をしている。

    設計者の考えと執念がよく表れているのがAクラスの特徴でもある。

     

    両者が強化外骨格を使用したならば、それは大規模戦闘にも匹敵する殺し合いになる。

    拳が砲弾並の威力を発揮する物も開発されており、それは、使用者の筋量を無視した殺し合いが可能であることを意味している。

    例えば。

    八月十一日のティンカーベルにある路地では、性別や体格差を無視した戦闘が行われていた。

     

    ''从「あれぇ? 皆向こうに行っちゃったけど、あんたは行かないのぉ?」

     

    棺桶は大きく三種類に分類される。

    最小のAクラス、中型のBクラス、そして大型のCクラス。

    ワタナベ・ビルケンシュトックが装着するのはAクラスの“エドワード・シザーハンズ”。

    軽量、そして必要最小限の力で棺桶を相手に出来るように設計された“コンセプト・シリーズ”の一つだ。

     

    両腕に筋力補助を兼ねた籠手、そして十指を彩るのは淑女の繊手めいた鉤爪。

    その十本全てが高周波発生装置を備えた棺桶殺しの武器。

    正に、機能美の集大成。

    実際、名匠として名高い設計者のT.バートンは自身が掲げた“決して優雅さを失わず、戦場に於いて洗練された姿を保つ”の目的を見事に達成した一作品を仕上げて見せた。

     

    ( ・曲・)『とは言っても、僕らは機動力補助が無いですからね。

          あちらはあちらに任せて、こちらはこちらで楽しみましょう』

     

    ワタナベの隣に立つキャソック姿の男は、聖職者じみた口調でそう言った。

    無知故の思い上がりか、それとも戦闘慣れした人間が持つ余裕なのか。

    男の口調、立ち振る舞いからは何も分からない。

    相対する者の分析を困難にしているのは、男の装備だ。

     

    使用できる棺桶は一人一つ、というわけではない。

    もしも装備できるのであれば、複数の棺桶を身に着けて戦う事は出来る。

    例えば補強部位の異なるAクラスの棺桶であれば、同時にその特性を我が物にすることが出来る。

    棺桶一つの金額が膨大であるが故に、ほとんどの人間がそうしないだけだ。

     

    キャソックの男が“マハトマ”と“ハンニバル”を装着していたとしても、潤沢な資金源と資材が背景にある事を考えれば不自然でも不思議でもない。

    だが棺桶を二つ装着しているから強いとは限らない。

    ただ物珍しいだけで、そんな人間との戦闘が一般的な人間にとっては稀なだけだ。

    そう、稀というのはつまり、未経験に近い物がある。

     

    未経験での戦闘行為の恐ろしさは、戦闘経験が多い人間であるほど分かっている。

    特に棺桶の戦闘では、相手の棺桶の正体を知らないだけで命取りになる。

    可能であれば戦闘行為を避けるべきだが、それは対峙する人間の事情による。

    男とワタナベに向けて殺意を放つ女が眼前の男を敵と見ているのか、それとも獲物として見ているのか。

     

    ヘッドマウントディスプレイに覆われた瞳からは、何も読み取れない。

     

    ノハ<:::|::,》『……で、あんたらはどうするんだ?』

     

    その場でただならぬ殺気を放つヒート・オロラ・レッドウィングは、奇妙な組み合わせの二人に向けてその言葉を送った。

    彼女の装着する棺桶、“レオン”はAクラスでありながら全身を覆い、尚且つ対強化外骨格用の強化外骨格と言う、兵器界の食物連鎖の頂点に位置する物。

    例え棺桶を装着した人間が二人相手でも、後れを取るような設計はされていない。

    右手の杭打機は装甲を貫き、そして悪魔じみた造形をした巨大な左手の五指は棺桶の動きを奪うための武装だ。

     

    ゼロ距離で放つことを前提とされた左手の電撃は豪雨の中でも威力を損なう事はなく、確実に対象のバッテリー、電子機器を破壊することで動きを奪う。

    それのみならず、高周波振動の武器に対する耐性も備えており、薄い装甲を守るほぼ唯一の楯としての機能も備えている。

    電撃で身動きが取れなくなったところを杭打機が貫き、操る人間――棺桶持ち――を屠り去るという、単純かつ明確な運用設計はコンセプト・シリーズにこそ相応しい。

    鎧を纏った二足歩行獣のような風貌のレオンに対して、洗練された車両の様な造形をした棺桶が豪雨の中身じろぎ一つせずに返答した。

     

    深紅の装甲は雨に濡れていながらも、溶鉱炉のような赤々とした輝きを放っていた。

    カバーに覆われたモノアイの光が雨粒に反射し、輝きがまるで火花のように散っている。

    イージーライダー2

    ::[ Y])『先ほども言った通り、私は私の目で正義を判断します。

        少なくとも今、私の目の前には悪が二人。 そして、どちらでもない貴女が一人。

        排除するに値するのは悪のみと、私は決めています』

     

    舗装路を高速で移動することに特化して設計されたコンセプト・シリーズの“イージー・ライダー”を駆るのは、ジュスティア警察に所属するライダル・ヅー。

    警察の最高責任者の傍らで静かに策謀を巡らせ、冷静沈着に行動する冷血な秘書。

    これまでの彼女は感情で動くという愚は犯さず、命令には絶対服従する機械の様な人間だった。

    鉄血の女秘書と陰で囁かれ、人間味を欠如したまま育った機械人形と恐れられた女。

     

    法律に従って死刑宣告を下し、一切の慈悲なく電気椅子のスイッチを入れ、自らの手で絞首刑を執行することもあった女。

    全ては定められたものに対しての絶対的な服従から来る行動であり、規律を重んじる組織からすれば理想的な人間だった。

    彼女と仕事を共にした人間は皆口を揃えて彼女の事を冷徹な機械だと評するだろうが、今や彼女の言動は従順な機械とは明らかに異なり、人間的な物となっていた。

    恐らくは彼女の人生で初めて、上官の命令に対して異議を唱えたのである。

     

    正義とは何かを判断するのは自分自身の目であり、誰かの命令ではない。

    そのため、判断は自分で下す、と。

    かつての彼女を知る人間が聞いたら間違いなくその正気を疑う言葉だった。

    衝撃的な言葉の直後、上空に現れた赤い信号弾に呼び寄せられるようにして敵が一人去り、彼女に命令を下した二人の上官はそれを追って消えた。

     

    円卓十二騎士と呼ばれるジュスティアの最高戦力に属するショーン・コネリとダニー・エクストプラズマンの目的は眼前にいる罪人ではなく、脱獄犯の逮捕もしくは処刑だった。

    信号弾が上がった理由についての説明を一切受けていなかったが、彼女からしたら命令違反で咎められる面倒が省ける幸運に恵まれた。

    そして残された彼女は文字通り、自分で下した判断を実行し、その後処理をすることにした。

    彼女に抱えられたままの男は不機嫌そうな視線を彼女に送り、そして次に皮肉めいた言葉を送った。

     

    (=゚д゚)「そうかい、それは良いんだが。

        俺を降ろすってことを忘れるなよ」

     

    トラギコ・マウンテンライトはそう言って、厚い装甲に覆われたヅーの胸を拳で叩いた。

    彼のぎらついた眼は豪雨の中でもはっきりと分かる程に殺意に満ちていた。

    その殺意は、茂みに隠れる飢えた虎から放たれるそれ。

    戦いの瞬間を待ち、いつでも襲い掛かる事の出来る状態だ。

     

    (=゚д゚)「そいつらは、お前の手に余るラギ」

     

    大きな水たまりの上にゆっくりと降ろされ、トラギコは鼻の頭についた水滴を鋼鉄の籠手で覆われた親指で拭った。

    降り注ぐ雨が再び彼の鼻を濡らしてしまうため、その行為自体に意味はない。

    全くの無意味極まりない行為だ。

    だがそれだけで、トラギコの顔つきが変わったのは事実。

     

    覚悟を決める動作など、ほんの些細な、それこそ無意味と思われるような物でいいのだ。

    優れたスポーツ選手が試合前にする動作と同じく、心を落ち着けるための一動作。

    吐き出した溜息には熱がこもっており、その心臓はエンジンの様に激しい鼓動を刻んでいる。

     

    (=゚д゚)「でも、手は貸してもらうラギよ」

     

    ::[ Y])『……背中ではなくてですか?』

     

    トラギコは如何にも驚いた風に眉を吊り上げ、意味ありげな笑みを浮かべた。

    あの分からず屋の石頭であるヅーが、トラギコの意図を理解していたとは驚きだったのだ。

    何も言わずとも最善の手を考えたとは、実にいい兆候だった。

    指示をする手間が省けて助かる。

     

    (=゚д゚)「分かってんじゃねぇか」

     

    ::[ ])『貴方の考えそうなことですから』

     

    より広角の映像を処理する為に頭部のレンズカバーを展開したヅーは肉食動物を思わせる四足歩行に切り替え、その背にトラギコが乗った。

    騎乗する旧世代の騎士を思わせる姿は、あまりにも不恰好。

    槍であれば格好も付いただろうが、彼が持つのは山刀に近い剣。

    騎馬戦ではまず使用されない武器だ。

     

    しかし彼が乗るのは機械仕掛けの獣。

    理性と知性、そして破壊力を備えた正義の信仰者。

    どの位置に相手がいようとも、確実にトラギコの刃を届かせる。

     

    (=゚д゚)「動きは手前に任せるラギ。

        さて……」

     

    高周波刀、“ブリッツ”を肩に乗せてトラギコはその視線をまっすぐ目の前の敵に向けた。

    そして彼は。

    まるで。

    虎のように――

     

    (=゚д゚)「やるぞ!!」

     

    ――吠えた。

     

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    Ammo for Reknit!!編 第六章【bringer-運び手-

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    August 11th PM13:01

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    イージー・ライダーは両手両足に備わった車輪によって、爆発的な加速力と機動力によって物資の運搬や追跡を目的に設計されたコンセプト・シリーズである。

    秀でた武器があるとしたら、舗装路に於けるその機動力だけ。

    それだけに特化したイージー・ライダーがその四肢を使って奔るという事は、攻撃性を捨てて安定性と速度を獲得した戦闘行為に備える事を意味する。

    無論、舗装路に於けるその速力は他の強化外骨格を遥かに凌ぐ。

     

    ただの人間であれば、その速度に翻弄されて詳細な姿を見る事さえ敵わないまま轢殺されるだろう。

    例えば、部分的に補強をするだけのAクラスの棺桶であれば、その速度に追いつくことは非常に難しい。

     

    ( ・曲・)『あーあ、面倒なことになってしまいましたね』

     

    神父と呼ばれていた男の呟きにはさほどの緊張感も感じられない。

    十指を擦り合わせて不気味な残響音を雨音に忍び込ませたワタナベもまた、緊張感を欠いた様子で男を見た。

     

    ''从「あらぁ? 強気な女は好きじゃないのぉ?」

     

    ( ・曲・)『大好きですよ、そりゃあねぇ。

         だけど、暴力的な人間と強気な人間は別物で――』

     

    (=゚д゚)「お喋りも結構だがな!!」

     

    男が瞬きを一度した隙をヅーは見逃さなかった。

    当然それはトラギコも狙っていた好機。

    豪雨と言う環境が誘発する瞬きは生物である以上、止められない。

    “マハトマ”を装着する男はその両腕を無造作に持ち上げた。

     

    マハトマはレリジョン・シリーズ――宗教関係の人間が設計、開発した棺桶の事――の代表格であり、非戦闘向きの棺桶の筆頭に挙げられる。

    あくまでも筋力補助を目的に設計されており、マハトマは戦闘には向かない。

    ただし、過酷な環境での使用が想定されているだけあってその頑強さは確かだが、今回は相手が悪かった。

    ただの無銘の刀であれば防げるだろうが、トラギコが持つのはブリッツ。

     

    緊急時に強化外骨格を切り捨てるため作られた、ただ一つの目的に特化したコンセプト・シリーズ。

    高周波振動の武器を防ぐには、同じ機構を持つ物が必要不可欠だ。

    マハトマの装甲など問題ではない。

     

    (=゚д゚)「マハトマなんぞが!!」

     

    速度を乗せたその一斬はマハトマを両断し得る威力が十二分にあったが、直前にそれを防いだエドワード・シザーハンズの五指までは切り落とせなかった。

    同じ高周波振動発生装置を備えた武器同士では、よほどの違いが無ければ互いを破壊することは出来ない。

    加速しての一撃だったが、ワタナベは指を揃えて一つの柔軟な刃を作り上げ、トラギコの攻撃を受け流したのである。

    人間の反射速度の成す技ではない。

     

    見てから行動したのでは間に合わない。

    つまり、見る前から動いていたのである。

    ワタナベは男の瞬きにトラギコが攻撃を合わせてくることを予期した上で、手を出したのだ。

    一瞬の攻防でその技量を理解したヅーは悪戯に追撃をせず、距離を空けて再びワタナベたちに向き合った。

     

    本格的な戦闘に慣れていないヅーに関しては、この女に対して臆病なぐらいがちょうどいい。

     

    ''从「ったく、マドラス・モララー。

         自分の事は自分でやってよぉ」

     

    ( ・曲・)『これはどうも。 いやはや、貴女が異常者でなければ惚れているところでしたよ。

          ところで何でフルネームを――』

     

    ノハ<:::|::,》『手前の相手はこっちだよ!!』

     

    ワタナベの後ろにいたモララーの顔を悪魔の手が捕えたかと思うと、黒い腕は彼をそのまま力任せに投げ飛ばした。

    コンクリートで作られた建物の壁面に頭から激突したが、両腕を使って防御していたのをその場にいた全員は見逃さなかった。

    へらへらしていても、戦闘経験はそこそこあるようだ。

    口元を覆う奇妙な棺桶がどのような能力を持つのか、ヒートはまだ知らなかった。

     

    量産されていないコンセプト・シリーズに対する最善の対抗策は、相手の能力を見極めることにある。

    何に特化し、何が苦手なのかが分かって初めて攻略の糸口が見えてくる。

    それまでは迂闊な攻撃を避けるべきだろうが、今は悠長なことを言っている時間はない。

    彼女はティンバーランドの人間から聞き出さなければならない情報があった。

     

    一度ならず二度までも、遠隔操作の棺桶を使ってヒートとの直接的な戦闘を避け続けている母親の情報。

    弟と父の敵であるクール・オロラ・レッドウィングは今、どこにいるのか。

    本当の仇を見つけた今、ヒートの目的は復讐を完遂させることだけだった。

    島の行く末などに興味はなく、ただ、純粋な殺戮衝動があった。

     

    こうしている間に隠れられたら見つけ出すのは至難の業だ。

    そうなる前に居場所を聞き出し、逃げられる前に殺さなければ次の機会がいつになるのか分からない。

    機会が失われる可能性すらあるのだから、焦るのも無理はない。

    一見してモララーに対しての攻撃はやりすぎに見えたかもしれないが、頭さえ残っていれば人は喋る事が出来る。

     

    彼女は経験上、どの程度痛めつければ人が死ぬのかは理解していた。

    それに、彼の顔は棺桶で護られているのだ。

    多少の無理をしても壊れることはそうないだろう。

    咄嗟の事にも拘らず防御を成功させたモララーだったが、体勢を整える前に電光石火その速度で現れたヒートに後頭部を再び掴まれ、タイルで覆われた壁に向けて投げ飛ばされた。

     

    壁にモララーの背中が触れるよりも早く、ヒートは飛び蹴りを放っていた。

     

    (;・曲・)『ちょっ!!』

     

    防御の姿勢を取ったモララーの素早さは称賛に値したが、その防御は大した意味をなさなかった。

    モララーを蹴り飛ばしただけでなく、ヒートの飛び蹴りは背後にあった壁を易々と破壊したのだ。

    二人の姿は壊れた壁の向こうに消え、そこから再び金属と金属をぶつけ合う音が響いてきた。

    一方で、一瞬の内に味方を目の前から失ったワタナベは涼しげな表情をしていた。

     

    ''从「じゃあねぇ」

     

    (=゚д゚)「よそ見してんじゃねぇぞ!!」

     

    首狙った一閃をワタナベは上半身を仰け反らせることで回避し、そのままバク転で距離を取った。

    高々と水飛沫を上げ、イージー・ライダーは建物に激突する前に急制動をかけ、素早く方向転換した。

    車輌には厳しい地形の狭い路地だが、四肢を自在に動かすことのできる四輪走行ならば問題はない。

    速度と装備の有利を持つトラギコ達の攻撃を捌くワタナベは、一体どれだけの死地を潜り抜けてきたのだろう。

     

    毒ガス散布をしてただ殺しを楽しんでいただけではないはずだ。

    どこかで高度な訓練を積み、棺桶との戦闘を嫌と言うほど経験したと見て間違いない。

     

    ''从「そうねぇ、刑事さんだけを見ていたいんだけどぉ。

         その女、邪魔なのよねぇ」

     

    体勢を立て直した直後からヅーは吹き荒れる風のようにワタナベの周囲を高速で動き、トラギコはそれに合わせて刃を振るう。

    鍔迫り合いにはなる物の、ワタナベは的確にその両腕を振るって攻撃を防いだ。

    速力があろうとも、当たらなければ意味がない。

    ワタナベの棺桶は斬撃を受け流すのに適した形をしており、一撃の重さこそないが、防戦の点ではトラギコを凌駕していた。

     

    こうして面と向かって刃を交わして分かる、ワタナベの実力。

    トラギコは歯噛みした。

    例え一対一で対峙したとしても、ワタナベの方が実力的には上に違いない。

     

    (=゚д゚)「だとさ!」

     

    ::[ ])『……不愉快な発言ですね』

     

    轢殺しようとしないのは、ヅーがその一手が悪手だと理解しているからだ。

    速度と質量による一撃は確かに強力だが、それを行うのは彼女の体。

    すれ違いざまにワタナベが高周波振動を続けるその指を掠めさせるだけで、高速で接近するヅーにとっては致命傷になってしまう。

    十本の高周波振動兵器は容易に攻略できそうにもない。

     

    ''从「あらぁ? 嫉妬かしらぁ?

         でも残念、付き合いは私の方が長いのよぉ」

     

    (=゚д゚)「何でもいいからさっさとくたばれってんだ」

     

    ::[ ])『逮捕はしないのですか?』

     

    (=゚д゚)「出来るならそうしたいが、こいつは殺した方が早いラギ。

        捕まえようとすれば殺されても文句は言えないラギよ」

     

    ''从「それは残念。

         手錠プレイ、してみたかったんだけどねぇ」

     

    ::[ ])『……どういったご関係で?』

     

    (=゚д゚)「刑事と犯罪者以外に何があるってんだよ」

     

    ''从「それで十分じゃない」

     

    殺し合いの最中、ワタナベは鉤爪を付けているにもかかわらずそれで己の身を抱きしめ、悶えるような仕草を取った。

    心なしか、その顔は少し上気しているように見えた。

    殺し合いで興奮する、本物の快楽殺人鬼。

    不気味なまでの妖艶さに、トラギコは背筋に冷たいものが走るのを感じた。

     

    まるで恋する十代の乙女。

    狂気を孕んだ恋する女程恐ろしい物はない。

     

    ''从「繋がりなんてぇ、それで十分よぉ」

     

    言葉の途中でヅーは動いた。

    折角の隙を見逃すまいと、優等生じみた一手を選んだのである。

    その唐突な動きに、トラギコは合わせるしかなかった。

     

    ::[ ])『この……変態が!!』

     

    ''从「女の嫉妬は見苦しいわよぉ」

     

    勢いを乗せた一撃。

    今度ばかりはいなせないよう、トラギコは上から振り下ろした。

    そのまま両断されるかと思われたが、ワタナベは人間にはおおよそ考えられない足さばきでそれを避けた。

    立ったままでの回避行動。

     

    ワタナベのそれは正しい判断だったが、ヅーはそこで生じたワタナベのミスを見逃さなかった。

    彼女が背中を向けたのだ。

    高速回転をする左拳のタイヤで思い切り薙ぎ払う。

    当たらないのならば、手数を増やせばいい。

     

    一つの刃で駄目なら、他の武器も使えばいいという発想。

    それも、防御の困難な下半身を狙っての一発。

    ヅーらしからぬ容赦のない一撃だったが、ワタナベはその一撃を見ても笑みを絶やさなかった。

    トラギコは嫌な予感がした。

     

    否、予感ではなく確信だ。

    殺し合いの中で起こり得る、刹那の判断と結果。

    ワタナベは振り返りもせず、後ろ腕でヅーのタイヤを掴み、高周波振動の一撃であっさりと引き裂いた。

    爆発音にも似た空気の炸裂音が響く。

     

    結果から言うと、この攻防はワタナベの勝ちだった。

    金属同士が激しく擦れ合う事で鮮やかな火花が散り、軸が完全に破壊される寸前でヅーは後退した。

     

    ''从「残念」

     

    ::[ ])『……ちっ!!』

     

    これで三輪。

    ワタナベから距離を置いたヅーは、左手を見て舌打ちをした。

    軽量化の施されたホイールがズタズタにされていた。

    軸が歪み、交換修理をしない限り再び回転することはないだろう。

     

    (=゚д゚)「熱くなるんじゃねぇラギ!!

        そいつはただの殺人狂じゃねぇ、理性のあるナイフだと思え!!」

     

    ''从「あははっ!! 注意されてるぅ!!」

     

    (=゚д゚)「手前は黙ってろ!!」

     

    トラギコには奥の手がある。

    今はこうして高周波刀に注目させておき、しかる後にベレッタM8000で撃つ。

    近接戦闘ばかりに注意させておけば、必ず隙が出来るはずだ。

    高性能レーダー並の警戒力を持つワタナベに通用するかは、運次第。

     

    ::[ ])『……この女、気に入りません』

     

    (=゚д゚)「そりゃそうだろ……」

     

    警官でワタナベを気に入る人間はまずいない。

    猛毒ガスを散布して一般市民を殺し、愉悦に浸り、性的快感を覚える極めつけの変態なのだ。

    世の中にいないほうがいい人間の、上位三人に入るだろう。

     

    ''从「さぁて、どうするぅ?

         まだ私とヤるぅ?」

     

    (=゚д゚)「ヤるに決まってんだろ!!」

     

    ''从「わぉ、情熱的ねぇ」

     

    ::[ ])『下品な……』

     

    ''从「あらぁ? 負け犬も言葉を話せるのねぇ、知らなかったわぁ」

     

    (;=゚д゚)「だから黙ってろ!!」

     

    ::[ ])『安心してください。 あのような安く、低俗な挑発に乗ることはありません』

     

    だが、その声色には先ほどよりも濃い殺意が込められていた。

    女同士の争いはこれだから面倒くさいのだ。

    意味の分からないプライドを持ち出し、意味の分からない意地を張る。

    そこに巻き込まれる人間の事を考慮しないのだから、男よりもたちが悪いと言われても仕方あるまい。

     

    (=゚д゚)「だったら、やることやるラギ!!」

     

    ::[ Y])『勿論です』

     

    レンズカバーを降ろし、ヅーは両脚のエンジン回転率を一気に上昇させる。

    掠めただけでも致命傷になる程の加速を見せつけようというのだろうが、トラギコが乗っていることを忘れないでもらいたいものだった。

     

    (=゚д゚)「……手前、やっぱり怒ってるだろ」

     

    ::[ Y])『何故ですか? 何故、この私が怒る必要があるのですか?

         今は戦闘行動の真っ最中ですよ、悪ふざけは止めてください』

     

    もう何も言うまい。

    一度こうなった人間は、もう人の話を聞かない。

    激しい感情に流された人間は利用するのが最善であり、それ以外は最悪の一手となる。

    トラギコはヅーにだけ聞こえる声量で話しかけた。

     

    (=゚д゚)「とりあえず、あいつは情報の塊ラギ。

        どうしても逮捕するっていうんなら反対はしないラギよ」

     

    ::[ Y])『あの狂人が情報を喋るという保証は?

         先ほど貴方が言ったように殺した方がいいでしょうに』

     

    それは誰しもが思う疑念だろう。

    狂人が真実を話すか、と問われれば事情を知らぬ者でも首を横に振るだろう。

    だが何事にも例外がある。

    このワタナベが、正にその例外だ。

     

    (=゚д゚)「殺した方がいいって言うのは間違いないラギ。

        だけどあいつ、もう一人の名前を何気なく喋ったラギ。

        フルネームでな」

     

    ::[ Y])『……』

     

    先ほど、何故か突然フルネームを口にしたワタナベ。

    それは気紛れだったのかも知れない。

    確かに言えるのは、そのフルネームが偽りでない確率が高いという事だった。

    これまでの言動がトラギコを陥れるための罠だとしても、どうしても、ワタナベの言葉が嘘には聞こえなかったことは言わずにおいた。

     

    何故か、トラギコはワタナベの事をある意味で信頼しつつあった。

     

    (=゚д゚)「理由は分からねぇが、あいつは何故か俺に情報を流すラギ。

        使えるんなら、使わない手はねぇだろ。

        だったら半殺しでもいいラギ」

     

    どちらかと言えば、ワタナベは相手の組織にとっての癌だ。

    勝手に行動し、勝手に情報を流し、勝手に攪乱を始める。

    味方に引き入れるとこれほどまでに迷惑な人間はいないだろう。

    予想外の行動は、どんな組織でも迷惑がられるのが道理だ。

     

    いつ切り捨てられても不思議ではない人間だけに、早い段階でこちら側に情報を流させたいのがトラギコの本音だ。

    しかし、ワタナベは不確定要素の塊。

    どう転んで味方にはならないだろう。

    この女は人を殺すことを止められない。

     

    そうである以上、トラギコにとっての敵だ。

     

    ::[ Y])『分かりました。 では、死なない程度に痛めつけます』

     

    (=゚д゚)「あぁ、そうしろ」

     

    何故だか、この殺人鬼に対してトラギコはこれまでに抱いたことの無い感情を抱いていた。

    あらゆる犯罪者、あらゆる容疑者、あらゆる被害者に対しても抱いたことのない感情。

    それを言葉にすれば自分がこれまでに積み重ねてきた何もかもを失いそうな気がして、トラギコはいたたまれなくなった。

    こ の 女 に は 、 何 か が あ る 。

     

    トラギコが知らない、何かが。

    勿論、他人の事であれば知らない事があるのは当然だ。

    それが普通。

    まして、相手は犯罪者の中でも最悪の部類に入る快楽殺人鬼。

     

    知っている事があるとしたらその異常性ぐらいで、それ以外は知りたくもないし、知る必要もない。

    それでも。

    ワタナベ・ビルケンシュトックという女の目が、トラギコに訴えかけてくるのだ。

    深淵の奥に隠れた物を見つけてみろ、と。

     

    見つけてくれと、言っているような気がしてならない。

     

    ::[ Y])『足、もらいます』

     

    ''从「あらぁ? 足だけでいいのぉ?」

     

    ::[ Y])『でないと、手錠がかけられないですから』

     

    いきなり殴りつけるような突風が顔を叩いたかと思った瞬間。

    それがイージー・ライダーの急加速によるものだと、トラギコは理解した。

    疾風を思わせる加速によって一瞬でワタナベとの距離を縮め、ヅーは攻撃を開始した。

    狙いは足ではなく胴体。

     

    当たりさえすればいいのだ。

    当たりさえすれば。

    逆を言えば、ワタナベは当たらないようにしなければならない。

    なのに、回避行動の予兆すら――

     

    (;=゚д゚)「……っ?!」

     

    ――ワタナベが何故こうも余裕なのか、その理由に気付いた時にはもう手遅れだった。

     

    ''从「ばーか」

     

    ワタナベの足元に転がる、筒状の物体。

    ピンの抜けた無数の音響閃光弾。

    トラギコは咄嗟に顔面を両腕で保護し、そしてヅーの背中から飛び退いた。

    もしもトラギコがそうしなければ、ヅーが振り落しただろう。

     

    炸裂して強烈な光と音を放つ音響閃光弾。

    相手の動きを防ぐ非殺傷の道具ではあるが、使い方次第では立派な武器となる。

    覚悟を決めていたトラギコは視界を覆っていたがそれでも漂白され、耳を聾する爆裂音によって雨音は完全に消え失せた。

    慣性の法則に従って放り出された体を衝撃が襲う。

     

    着地に失敗したのだろう。

    その後何がどうなったのか、トラギコには分からない。

    この一瞬の間で命を奪う主導権を所有するのはワタナベだ。

    対等に戦える装備を持つのはヅーだが、今は状況が悪すぎる。

     

    棺桶がどれだけ優れた物だとしても、音響閃光弾の全てを無力化できるわけではない。

    レンズカバーを覆っていたのは不幸中の幸いと言うべきか、それとも迂闊と言うべきか。

    カメラの映像は一瞬とはいえ白く染め上げられ、マイクは許容量を超える音を感知したために自動的に遮断された。

    こうして、イージー・ライダーはほんの一瞬だけ視界と音を奪われた。

     

    広角をカバーする状態だったとしたら、ワタナベが建物の壁を背にしていたことに気付けたかもしれない。

    回復したヅーの視界に映し出されたのは回避不可能な位置にまで迫っていた壁。

    猛烈な速度で走っていたヅーがその壁を回避することは叶わず、壁を破壊してようやく停止した。

    未だ聴力が戻らないトラギコは、白んだ視界から得られる情報でどうにか現状把握を試みる。

     

    最初に目に入ってきたのは、無傷のままトラギコを見下ろすワタナベだった。

     

    ''从「……」

     

    何かを喋っている。

    表情は相変わらずの薄ら笑いを張り付けたもので、勝ち誇ってすらいない。

    何を嗤っているのか、まるで分からない。

     

    ''从「……残念」

     

    (;=゚д゚)「何言ってんのか分かんねぇラギ」

     

    ようやく回復した耳が聞き届けたのは、ワタナベのそんな一言だった。

    命を奪える優位にありながら、そうしないのはトラギコを生かしておく必要があると考えているからだろう。

    それが組織の命令でないのは明らかだ。

     

    ::[ Y])『この……女っ!!』

     

    体に積もっていた瓦礫を吹き飛ばして、ヅーが立ち上がる。

    民家の壁はそこまで厚く作られていなかったため、見た目よりもダメージはないだろう。

     

    ''从「どうするぅ?」

     

    (=゚д゚)「手前がしぶといのはよく分かったラギ……」

     

    起き上がりつつ、左手を懐のベレッタに伸ばす。

    ここで使わなければ、恐らくワタナベを止めることはもう出来ないだろう。

    しかし、そこにあるはずのベレッタが無かった。

     

    ''从「こういう無粋な物は使っちゃダメよぉ」

     

    そう言って、ワタナベは鉤爪でトラギコのベレッタを弄んだ。

    長い爪が災いして普通に構えることはできないが、銃爪を引くことは出来る。

    それが証拠に、ベレッタの銃腔はトラギコを向いていた。

     

    ''从「刑事さん、どうするぅ?」

     

    (=゚д゚)「……あ゛?」

     

    人質など、ヅーには意味がない。

    この冷血女はそれこそ、水を得た魚のようにワタナベに襲い掛かる事だろう。

    ジュスティアの人間、特に警察官には異常なまでの正義感を持つ人間が多く所属している。

    正義に狂った人間の秘書であるヅーが人質で動揺すると思っているのなら、ワタナベの考え違いだ。

     

    この体勢でどのようにして銃弾を防ぐか、トラギコはそのことにだけ思考を割くことにした。

    ワタナベが隙を見せた瞬間に籠手で頭部を防ぎ、即死することを回避すればいいだろう。

    後は、ヅーが機転を利かせて隙を作ってくれれば――

     

    ::[ Y])『……』

     

    ――しかし、考え違いをしていたのはトラギコだった。

     

    ''从「あらぁ? 秘書さん、どうしたのかしらぁ?

        あぁ、そうかぁ。

        元々、刑事さんしか知らない情報を聞き出さないといけないから、殺 さ れ た ら 困 る の よ ね ぇ」

     

    ::[ Y])『……何故それを知っているのか、問う事は止めておきましょう。

        銃を捨て、大人しく逮捕されなさい』

     

    ''从「お願いする立場なのにぃ、何で強気なのぉ?」

     

    ::[ Y])『犯罪者に対して弱気でいる警官など聞いた事がありません』

     

    空気が凍った。

    僅かの静寂が、それを如実に物語る。

     

    ''从「……は?

         警官だから? だから犯罪者に対して強気?

         あんた、もういい。 白けた」

     

    突如としてワタナベは落胆を露わにし、深い溜息を吐いた。

    それは本当にヅーの反応に対して呆れ、あまつさえ立腹しているようだった。

    それまでの様子が嘘のようだ。

    正に、豹変。

     

    子猫が獰猛な豹へと変わり、敵意を剥き出しにした瞬間。

    ワタナベの殺意を察知したトラギコは、動物的本能に従って腕を眼前に掲げた。

    この特殊合金製の籠手であれば、高周波振動の武器でも数秒は耐えられるはずだ。

    だが、ワタナベの反応は予想外の物だった。

     

    ''从「刑事さん。 はい、これ返すわぁ。

         私帰るからぁ、あとはよろしくねぇ」

     

    鉤爪を器用に使い、銃把をトラギコに向けた。

    相変わらず、この女の行動が分からない。

    立ち上がり、M8000を受け取る。

     

    (=゚д゚)「……あいつはいいのか?」

     

    ''从「もういい。 その女のせいで気分が乗らないからぁ、私は知らなぁい」

     

    気分屋の人間だとしても、ここまでの行動が許されるものだろうか。

    仮にも同僚の前でこの行動は、言い訳のしようがない。

    同士討ちをしてくれるのならば勿論歓迎すべきことなのだが、ワタナベの場合、その行動の根幹が全く読み取れないために素直に受け入れられなかった。

     

    (;=゚д゚)「いいのかよ、一応同僚だろ?」

     

    世界からしたらワタナベのような人間が死ぬという事は、それは間違いなく有益なことだ。

    むしろ、今この瞬間にトラギコが銃爪を引けばワタナベを射殺できる。

    薬室には間違いなく銃弾が装填されているし、安全装置も解除されている。

    銃爪を引けば、トラギコの勝ちなのだ。

     

    それが分かっていながら、トラギコは銃爪が引けなかった。

    引こうという気持ちすら、湧き上がらなかった。

    本能がそれを押し留めていることに気付くのに、そう時間はかからなかった。

    ここで銃爪を引けば、自らが死ぬ。

     

    相対しているのは、頭のネジが外れた異常者。

    異常な心と異常な反射神経、そして勘を持つ制御不可能な殺人機械なのだ。

    今は気紛れで生かされているに過ぎない。

     

    ''从「いいのよぉ、別にぃ」

     

    ::[ Y])『何を勝手な事を!!』

     

    銃がトラギコの手に渡った事で、ヅーはこの機を逃すまいと一気に飛びかかる。

    会話中だから隙があると考えたに違いない。

    しかしながらそれは、早計極まりない愚かな判断だった。

    無理からぬ話だが、このワタナベが考えなしに行動している殺人鬼ではないと、まだ理解が追いついていないらしい。

     

    トラギコの本能が銃爪にかけた指に力を入れさせないのは、ワタナベが己の優位性を決して失っていないと確信している情報を察知しているからに他ならない。

    行動の裏に隠された殺意。

    その殺意を感じ取れているのはこの距離だからか、それともワタナベだからかは分からない。

     

    ''从「だぁかぁらぁー!!」

     

    全てがコマ送りのスローモーションで進んでいく。

    もしもこれが一年前、否、一か月前のトラギコであればヅーが目の前で殺される光景を眺めることになっただろう。

     

    (;=゚д゚)「馬鹿、止めろ!!」

     

    トラギコの警告が半瞬でも遅れていたら、ヅーは本日二度目の転倒を味わうと同時に、急所を破壊されていたはずだ。

    ワタナベの鉤爪は油断なくトラギコの手首を銃ごと掴み、いつでも投げられる準備が整っていた。

    強化外骨格の補助があったとしても、高周波振動発生装置が付いているワタナベの鉤爪に掴まれれば脱出は不可能。

    銃は発砲する前に切り裂かれ、投げ飛ばされたトラギコはヅーに轢殺されていたに違いない。

     

    ::[ Y])『この、卑怯者がっ……!!』

     

    警告が功を奏し、ヅーはタイヤ痕を地面に残して拳を振りかぶった姿勢のまま静止した。

     

    (;=゚д゚)「手前もいい加減にしろ!!

        こいつにはまだ手を出すんじゃねぇラギ!!」

     

    狙いはワタナベではない。

    脱獄犯二人だ。

    あの二人をどうにかすれば、ヅーの目的は達成され、後はトラギコをジュスティアに連行するだけになる。

    ここで無意味に殺されるくらいなら、大人しくジュスティアに連行されたほうがましだ。

     

    (=゚д゚)「こいつはそう簡単に殺せる奴でもないし、殺されるような奴でもねぇラギ。

        ……ワタナベ、手前、本当に引き上げる気ラギか?」

     

       I don't wanna kill you, but, I wanna do fuck with you.

    ''从「殺る気はないけどぉ、ヤル気はあるわよぉ?」

     

         Fuck you.

    (=゚д゚)「……糞が」

     

    その呟きは雨の中に溶けるようにして消えて行ったのであった。

     

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          ‘    /!、 :;; ;:,.:;,;:,:,.:;:;,;:,:,.:;;::;,;:,;: ; ’;:   ,へ、

    ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

     

    獰猛なまでの戦闘力を有する強化外骨格、“レオン”を身に纏うヒート・オロラ・レッドウィングは獣よりも恐るべき膂力を発揮し、マドラス・モララーへの攻撃を続けていた。

    ワタナベの相手を一方的にトラギコ達に任せ、ヒートは戦闘能力の低そうなモララーを狙った。

    戦いに不慣れな人間は痛みに弱い。

    痛みに弱い人間は意志が弱く、意志の弱い人間は、口を割りやすい。

     

    ヒートが知りたいのは、遠隔操作の棺桶を使ってどこからか己の手を汚さずにヒートを屠ろうとしている女の居場所だった。

    今すぐに殺すべき相手の名前はクール・オロラ・レッドウィング。

    ヒートの実母だった。

     

    ノハ<:::|::,》『あの女はどこだ!!』

     

    ワタナベよりも弱いという彼女の目算は当たっていたが、戦闘経験が皆無と言うわけではないらしかった。

    確実に攻撃を回避し、何かを狙うねっとりとした視線をヒートに送り続けているモララーは、この狭い1LDKの空間を素早いフットワークで動き回る。

    ボクサーがリング上で立ち回るような精密さはないが、低くした姿勢で攻撃を回避する姿は堂に入っていた。

     

    ( ・曲・)『さぁ、どこでしょうね!!』

     

    言葉とは逆に、彼の回避動作は決して余裕がある動きではない。

    辛うじて攻撃を回避し、どうにかヒートが隙を見せないかを窺うので精いっぱい。

    堂に入っているが、所詮はそこまでの話。

    ヒートには到底及ばない凡人のせめてもの抵抗。

     

    ヒートは家具を蹴り壊し、床を左手で引き裂き、壁を右腕で粉砕して隣部屋と繋げた。

    それでも、ヒートの攻撃は当たらない。

    常人以上に逃げ慣れていると気付いたのは、アパートに開けたトンネルから反対側の路地に出て来た時だった。

    如何なる理由なのか想像もつかないが、男は退路を常に探し、最善の退路を選んで行動している。

     

    どこかに誘い出すつもりだろうか。

     

    ( ・曲・)『さて、どうでしょう、この辺りで諦めていただくというのは』

     

    ノハ<:::|::,》『諦めることだったら、諦めてやるよ』

     

    かつて自分に何度も言い聞かせた言葉は、自然に口から出てきた。

    諦めることを諦めた人間は、例外なく厄介な存在と化す。

    ヒートが殺した人間の中にも何人もいた。

    死の淵で抗い、我が子を守ろうとした母親。

     

    復讐を誓ったヒートにとってその光景は心を痛めつけるには十分だったが、銃爪を引くことを躊躇う理由にはならなかった。

    それもまた、ヒートが諦めることを辞めた人間だったからこそ成せた技だった。

    この覚悟を持った相手に対して、脅しや威嚇行為は意味がない。

    にも関わらず、モララーの反応は相変わらずだった。

     

    娼婦を前にした男のように、自らの優位性を疑っていない。

     

    ( ・曲・)『はははっ、勇ましい事だ。

         どんな声で泣いてくれるのか、どんな顔に歪んでくれるのかが楽しみですよ』

     

    ノハ<:::|::,》『そうかい……』

     

    逃げることにだけ専念する相手ならばいいのだが、モララーはそうではない。

    教科書通りに反撃の隙を狙っているだけあり、こちらが迂闊に隙を見せようものならそこを狙ってくるのは間違いない。

    ヒートはこういう手合いが面倒なのをよく知っている。

    全てがマニュアル通りならばまだしも、一部がプロ級の能力値となると、予想できる動きとそうでない動きの見極めが難しい。

     

    特に厄介な要素がモララーの口部を覆う棺桶だ。

    防御特化、もしくは攻撃性に特化した物ではなさそうだが、その形状は明らかに噛み砕くための形状をしている。

    モララーが逃げている間、それを使う素振りを一度も見せなかったことから近、中距離での戦闘が前提だろう。

    それはヒートの持つレオンと同じ間合い。

     

    使う絶好のタイミングを相手が得るより前に決着をつけ、終わりにするしかない。

    地面が爆発したかのような衝撃と音が生じたかと思うと、ヒートの姿はモララーの正面に現れていた。

    狙いは無防備な胴体。

    重要な臓器の集う、生身の人間の持つ弱点の一つ。

     

    杭打機では殺しかねないため、左手の鉤爪で腸を抉ることにした。

    情報を聞き出すには生きてもらわなければならないのだ。

    少なくとも、情報を話せる間は――

     

    ( ・曲・)『ははっ!!』

     

    ノハ<:::|::,》『……っ!?』

     

    ――次の瞬間。

    両者の影に巨影が現れ、壁となってヒートの一撃を弾いた。

    予期していなかったのはヒートだけで、モララーは分かっていたようだった。

     

    ::‥:‥〕『甘い』

     

    二者の間に現れたのは、防御力に定評のある“トゥエンティー・フォー”。

    使用者の命をその名の通り二十四時間守り続けることを前提に作られた機体だが、レオンの前には砂岩にも等しい。

    だがヒートはその中にいる人間の声から正体を理解すると、己の感情に逆らって大きく一歩飛び退き、片膝を突いて着地した。

    突然の増援に対して臆したわけではない。

     

    警戒したのは奇襲の理由だった。

    奇襲を仕掛けるのであれば、ヒートの頭部を踏み潰すようにして現れればいい。

    そうしなかったのには理由がある。

    その理由が分からない以上、相手に近づいたままなのは利巧とは言えない。

     

    特に、クールと言う女が抜け目のない卑怯者である以上、無策で挑むつもりはなかった。

    激情の中にも冷静さを持ち続けることが重要だ。

    相手の装備を観察し、周囲の環境と装備から考えられる罠を考慮する。

    豪雨と暴風のせいで満足に状況の把握が出来ないが、恐らくは、問題ないはずだ。

     

    二人を相手にするのではなく、一人を相手にするのであれば十分なはず。

     

    ノハ<:::|::,》『やっと出てきやがったな!!』

     

    堅牢な装甲を一撃で撃ち抜く必殺の杭打機を起動させ、狙いをモララーからクールへと完全に移行させる。

    逃げられようが、追う必要はない。

    狙うべきはクールだけ。

    この女を殺さなければ、ヒートの復讐が本当の終わりを迎えることはない。

     

    終わったはずの復讐劇、即ち、悪夢の続き。

    夢はここで終わらせる。

    その感情がヒートの体に熱を宿らしめ、濡れた体にも関わらず体温は下がっていなかった。

     

    ::‥:‥〕『いちいち騒々しい奴。 獣みたいだな』

     

    堪忍袋の緒が、音を立てて切れた。

     

    ノハ<:::|::,》『ぶっ殺す!!』

     

    アスファルトの地面が文字通り爆ぜ、黒い颶風となってヒートが肉薄する。

    一瞬の内に接近したヒートは、振りかぶった杭打機をトゥエンティー・フォーの胸部に向けて放った。

    鋼鉄製の杭が高速で射出されて装甲を貫き、薬莢型のバッテリーが廃莢される。

    杭は胸を貫いたが、背中のバッテリーパックまでは貫ききれなかった。

     

    避けることを諦め、上半身を後退させて攻撃がバッテリーに届かないようにしたのだ。

    それでも中に人間がいれば、間違いなく死んでいる一撃。

    その一撃を受けても、棺桶からは苦痛など微塵も感じさせない女の声が聞こえた。

     

    ::‥:‥〕『単純な発想だな』

     

    やはり、遠隔操作。

    先ほど破壊した物とは別の物を使っているのだろう。

    勿論、二度も同じ手を使われていれば可能性として視野に入れていた。

    となれば、標的を変更する必要がある。

     

    それでもまずは、装甲の厚いこのトゥエンティー・フォーを破壊するのが先だ。

    モララーの楯にでもなられたら面倒だ。

     

    ノハ<:::|::,》『うるせぇ!!』

     

    杭を引き抜き、左手を構える。

    半ば無意識の内に取ったその行動が、ヒートを救った。

    戦闘中における使用者の生存率を高めるために設計された棺桶に対して、電撃による攻撃が無意味だと思い出した時。

    ニヤニヤ笑いを浮かべる男の顔が現れた。

     

    ( ・トェェェイ・)

     

    開かれたのは醜悪な歯の並ぶ口。

    それはあまりにも醜く、そしてあまりにも雄弁な形状をしていた。

    説明がなくても、それが何に特化しているのか、一瞬でヒートは理解した。

    噛み砕く。

     

    ただ、それだけ。

    ヒートの左手に噛み付いた瞬間、耳を聾する金属音が鳴り響いた。

    それは高周波振動装置が金属を切り裂かんとする音。

     

    ノハ<:::|::,》『くっ!!』

     

    高周波振動装置に耐性のある左腕に対して、その装置を使う事は無意味だが、力が勝れば噛み砕くことは出来る。

    手を噛んでいるモララーの目が、ぎょろりとヒートを見上げていた。

    純粋な愉悦に酔いしれる狂気の色。

    肉を喰らう獣の喜びの顔だった。

     

    ( ・トェェェイ・)

     

    ノハ<:::|::,》『このっ……!!』

     

    電流を放とうとしたその刹那、異臭がヒートの鼻に届いてそれを思いとどまった。

    白煙が左腕から上がっているのを見て、ヒートは戦慄に近い感情を覚え、驚愕した。

    モララーの噛んでいる個所が、徐々に溶けていたのだ。

     

    ノハ<:::|::,》『っ!!』

     

    装甲に穴が開いている状態で電流を放てば、最悪、ヒート自身が感電しかねない。

    咄嗟に杭打機で殴りつけ、モララーを腕から引き剥がす。

    引き剥がすには十分だったが、殺すには不十分な力だった。

     

    ( ・曲・)『はははっ、焦りましたね。

         さぁ、次は足をしゃぶらせてもらいましょう』

     

    装甲の一部が削れた左腕を一目見て、ヒートは舌打ちをした。

    爛れた様に装甲が溶けている。

    レオンの装甲を溶かした物の正体は、恐らくは強力な酸。

    もう少し長く噛まれていたら、液体が装甲内部に流れ込んでヒートの手が溶けていた可能性が高かった。

     

    そもそもレオンの装甲は軽量化を大前提とされているために必要最小限のもので、防御は視野に入れられていない。

    そして、手には多くの関節が集中していることもあり、設計の都合上装甲の隙間が多くなってしまう。

    にもかかわらずヒートの素手が無事だったのは幸運と言う他ない。

    腕が助かったものの、置かれた状況は幸運とはかけ離れている。

     

    モララーの棺桶に驚愕した時間は一秒にも満たない。

    殺し合いの中では、その一秒未満の隙が命取りになる。

    距離を取ることが出来なかったヒートの迂闊な隙を、クールは見逃さなかった。

    トゥエンティー・フォーの拳が、ヒートの右肩を捉えた。

     

    右肩から骨の折れる嫌な音を聞いたと思った時には、ヒートは建物の壁に背中から叩きつけられていた。

    目の前で火花が散り、全身に激痛が走る。

    まだ回復し切っていない躰に、新たな傷が増えた。

    深追いしすぎてしまったと己を責めつつも、その選択に後悔はなかった。

     

    ノハ<:::|::,》『ぐっ……ぉ……』

     

    ( ・曲・)『さ、立ち上がってください。

         気丈な態度で立ち向かってください。

         その方が興奮しますからね』

     

    言われずとも、ヒートは立ち上がっていた。

    だがそれでも精いっぱいだった。

    棺桶が補助してくれなければ、立ち上がる事すら出来ない程の衝撃。

    立っているだけで、ヒートはそれ以上動くことが出来なかった。

     

    戦う事は、とてもではないが無理だ。

    逃げる他ない。

     

    ( ・曲・)『さて、さっそく――』

     

    ――バイクのエンジン音が聞こえたのは、正にその時だった。

     

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    ディ、と名付けられた“Ideal――アイディール――”に跨る少年は自分の成すべきことだけを考えていた。

    ハンドルを握り、両足でタンクを挟みつつも、考えることはヒートの事だけだった。

    彼女のために役に立ちたい。

    耳付きの少年、ブーンは雨粒の向こうにいるヒートの事を思い続けた。

     

    彼の思いに呼応するように、ディは最短の距離を最速で駆け抜けた。

    バイクに感情があるなど、お伽噺の世界だ。

    勿論、ディに感情はない。

    ブーンの考えていることを人工知能が感じ取るなど、あり得ない話だ。

     

    長年の研究で多くの科学者が挑んだその命題は、世界が滅びるまで実現しなかった。

    夢の終わりかと思われたが、それは誰も予想しない形で今育まれていた。

    自己学習機能を備えた人工知能に対してブーンが接するうち、人工知能は設計者の予想をはるかに超えた速度で成長をしていた。

    自我に近い物がすでに生まれ、搭乗者の特徴や状況を把握し、外部入力される音声から自分に対して人間の様に接してくる少年の事を考えるようになっていた。

     

    ディは今、搭乗者の心拍数や呼吸音から精神的な状況を理解し、最速かつ安全な動きで路地を駆け抜けていた。

    もしも自分に声があれば、とディはありもしない可能性を基に想定した。

    落ち着くように声をかけ、抱きしめてあげればいいのだろうか。

    感じ取る体重、声変わりを迎えていない中性的な声、体の大きさから推定されるのは十歳以下の幼い子供。

     

    先ほど聞き取った銃声は少年が撃たれるような状況下にあり、それを守れるのは自分しかいない。

    となれば、ディがするべきことは乗り手の生命を危険から遠ざける事。

    そして、安心させることだった。

    乗り手の精神的な状況が運転に影響を及ぼし、運転ミスによる死亡率の上昇に関係していることをディは知っていた。

     

    (#;;-)

     

    だが声にはならない。

    彼女には声を発する機能もないし、その為に必要なソフトウェアが入っていないからだ。

    出来ることはただ一つ。

    要望に応じて目的地まで所有者を確実に連れて行く事。

     

    (∪;´ω`)

     

    雨に濡れ、風に凍え、それでもなお前を向き続ける少年。

    ディに名前を与えてくれたブーンは、一度も弱音を漏らすことなくディのハンドルを握っていた。

    体をタンクに預け、寒さに震えながら、銃弾に身を晒す危険を冒してでもまっすぐに生きる彼の目的はヒートの援護。

    孤軍奮闘する彼女のためにブーンはあらゆる困難、苦痛に耐えているのだ。

     

    これが人間。

    不可解極まりない存在。

    ついこの間まで、そのはずだった。

    乗り手を理解するように設計されているディの人工知能は、いつしか人間を理解しようと試みるようになっていた。

     

    詰まる所乗り手とは数多の人間の内の一人であり、乗り手が変われば人間性も変わる。

    人間性の変化は運転の変化にもつながっているため、人間を理解することはどのような種類の乗り手に対しても有効な設定を導き出すために必要な下準備であり、無駄ではない。

    一応は理に適っている。

    効率的とは言い難いが、ディは待機中にその作業を密かに実行していた。

     

    幾万、幾億もの計算をする中でディが参考にしたのはブーンのデータだった。

    彼は子供。

    子供はやがて大人になる礎であり、人格形成の基礎そのものだ。

    だが人間の数が星屑の数ほどあるように、子供から大人に成長する段階は幾億にも枝分かれしてしまい、まるで予想が出来ない。

     

    思いもよらぬ出来事に影響を受ける子供とは、どのような存在なのか。

    彼が周囲で起きている事から受ける影響や、それに対する反応をディは貴重なサンプルとして蓄積することにした。

    勿論、彼女が知覚できる範囲内での話だ。

    今、彼女が知っている限りの情報を並べて考える限り、ブーンという少年は――

     

    (∪;´ω`)「おっ」

     

    ――車体が大きく傾き、壁とぶつかる寸前でなんとかカーブを曲がり切った。

    そして、ようやく探し続けていた人物を目視することが出来た。

    雨の中で敵を前に独り立つ、ヒート・オロラ・レッドウィングの後ろ姿。

    それを見た途端ブーンは安堵したが、まだ何も終わっていない。

     

    やるべきことは一つ。

    それを実行するチャンスは一度。

    失敗すれば、それはブーンの死につながる。

    デレシアには何度も危険性を念押しされ、ブーンは何度も理解を示した。

     

    ブーンにとってのヒートは、デレシアと同様、失いたくない存在だった。

    無力なままでは何も変わらない。

    今はまだ無力だとしても、それを理由に何もしなければ何一つ変わらない。

    何度も助けられてばかりでは我慢できなかった。

     

    この世界は力が全てを変える。

    誰かを助けるために力が必要だった。

    ならば、変わるしかない。

    非力な子供ではなく、非力に抗う子供にならなければならない。

     

    変わりたいと願うブーンの気持ちを認めてくれたデレシアは、ディと共にヒート救出の作戦を託してくれた。

    ディは運転手がいなくとも自立できるよう設計されており、また、目的地を指定すればその場所に向けて自動走行をすることが出来る。

    そのため、ブーンはディに跨り、己の役割を果たすことにのみ専念すればよかった。

    ブーンは囮であり、そして、要であった。

     

    デレシアと同じローブを着て高速で逃げていれば、相手はブーンの事をデレシアと錯覚するだろう。

    速度と機動力、一度も後ろを振り返らない精神力が求められる役割だったが、ブーンはそれを見事に果たした。

    逃げているのがデレシアでないと分かった追手はすぐに狙いを変え、デレシアがいると思わしき方向に走り去った。

    ヒートを手助けするのはデレシアではなく、ブーンだというのに。

     

    こうしてブーンは無事に追手から逃げ延び、ヒートを救うために意識を切り替えていた。

    ここからが本番だった。

    デレシアが囮として戦っているのも、ブーンがこうしてディに乗っているのも。

    全てはこの一瞬の為。

     

    犯罪者たちをジュスティアの人間に任せ、その間にヒートを一時戦線から

    ヒートはブーンが来ることを知らない。

    打ち合わせなどない。

    僅かな期間で互いの間に生まれた信頼関係、そして対応力だけが物を言う。

     

    何としても成功させなければならない。

    これまで守られ続けてきた自分が出来る、数少ない反撃の機会。

    ヒートに対する恩返しの機会。

    自分が誰かを守るために力を振るう、絶好の契機。

     

    だから、叫ぶのだ。

    声がかすれる程の大声で。

    喉が潰れる程の大声で。

    助けたいその人の名前を叫ぶのだ。

     

    (∪;´ω`)「ヒートさん!!」

     

    ブーンは大声でヒートの名を叫んだ。

    まるで狼の遠吠え、獣の雄叫びのような大声量。

    その声は暴風雨の中でも、まっすぐにヒートに届いてくれただろうか。

    瞬く間に距離が縮まるが、ヒートは振り返らない。

     

    もしも彼女にこの声が届き、そして、ブーンがここに来た意味を察してくれたのであれば反応があるはず。

    あらゆるコミュニケーションの壁を越えた、反応が――

     

    ノハ<:::|::,

     

    (∪;´ω`)

     

    ――二人は視線を合わせることもなく、同時に手を伸ばした。

    例え数百回練習したところで、ここまで見事な形で実現することは不可能だろう。

    嵐と言う悪天候、そして戦闘中という環境に身を置きながらも、二人の呼吸は完全に一致していた。

    まるで生まれた時から互いをよく知る姉弟の様な、阿吽の呼吸。

     

    巨大な左手がブーンの右手を掴み、ほんのわずかに力が込められただけでその体は風に舞う木の葉のように軽々と持ち上がる。

    そして鮮やかな動きでブーンの後ろに座った瞬間、ディの電子制御サスペンションが効果を発揮した。

    自動で調整されるそのサスペンションは急な衝撃を緩和し、速度を落とすことなく疾走を継続させた。

    ヒートの体が力なくブーンの背中にもたれかかり、辛うじて左手が体に回されている。

     

    負傷しているヒートの為にも、急いで次の段階に移る必要があった。

    目的地は、この島で最も安全な場所。

    停泊中の船上都市、オアシズ。

    戦闘行為はジュスティアの人間に任せておけばいい。

     

    ( ・曲・)『ああ?!』

     

    狼狽する男の横を難なく通り抜けたブーンは、背後から迫る巨影に気付いた。

    バックミラーを見ると、そこには岩石の様な姿をした棺桶が立っている。

    一目で頑強な装甲を持ち、攻撃ではなく防御に特化した存在であることが分かる。

    やはり簡単にはいかないようだ。

     

    ::‥:‥〕『そう簡単に逃がすと思うか』

     

    速度ではこちらが勝っているが、その手が握っている瓦礫はよくない。

    砲弾を彷彿とさせる勢いで投げられた瓦礫をバックカメラで捉えたディはそれを回避したが、続く二投目、三投目の攻撃を避けられるかは分からない。

    目の前に鉄骨が落下し、ディは急制動と急ハンドルを駆使して激突を免れた。

    速度が落ちた一瞬を狙い、巨像が疾駆する。

     

    短距離であれば速度でディに勝ることが出来るようだ。

     

    ::‥:‥〕『死ね、駄犬……!!』

     

    淡々と、そして地の底から響く声がブーンの耳に届く。

    これがデレシアの話に出てきた、ヒートの母親。

    普段は冷静なヒートが激情に駆られる諸悪の根源。

    忌むべき相手であり、油断のならない女であることは聞いている。

     

    だがこの状況に陥っても、ブーンは焦らなかった。

    焦る必要がないと分かったからだ。

    ブーンには届いていた。

    風変わりな音を奏でる風切音、タイヤが地面を高速で蹴り飛ばす音、そして覚えのある呼吸音と体臭をブーンは感じ取っていたのだ。

     

    (∪;´ω`)「おねがいします!!」

     

    両者の間に割り込む形で現れたのは、以前にブーン達を追いかけてきた独眼の棺桶に跨るトラギコ・マウンテンライトだった。

     

    (=゚д゚)「一つ貸しだ、小僧!!」

     

    接近していた女の拳をトラギコの刀が捉え、弾く。

    勢いを殺された女はブーン達に追いつく術を失い、トラギコとの対決へと引きずり込まれた。

    忌々しげに女が吠えるも、その声はもう届かない。

    二人を乗せたディはその場を脱し、オアシズに向けて進路を変更する。

     

    追手はもういなかった。

    これで第一段階は完了したことになる。

    即ち、本来対処すべき人間がそれぞれの位置につき、然るべき対処をする状況。

    絡まった糸を解き、整える段階。

     

    オアシズに到着してからは、第二段階へと作戦は移行する。

     

    (∪´ω`)「ヒートさん、だいじょうぶ、ですか?」

     

    ノハ<:::|::,》『あぁ…… 悪いな、かっこ悪いところ見せちまって』

     

    (∪´ω`)「お? かっこわるく、ないですお」

     

    ノハ<:::|::,》『……悪ぃな』

     

    ブーンはヒート・オロラ・レッドウィングの過去に何があったのかを知らない。

    彼女が母親を憎んでいる事、その母親がヒートを殺し屋へと駆り立てた影法師である事ぐらいだ。

    難しいことは分からないが、それでもいい。

    ブーンにとってヒートとは大切な人であることに変わりがなく、その過去に何があろうとも、過去は過去でしかないのだ。

     

    ノハ<:::|::,》『デレシアは?』

     

    (∪´ω`)「ほかにやることがあるって、いってましたお」

     

    ノハ<:::|::,》『そうか。 しかし、すげぇな、ブーン。

          バイクの運転が出来るようになったのか』

     

    別れてから一日も経っていないのに、ブーンはヒートの事が恋しくて仕方がなかった。

    彼女がどこか遠くに行ってしまうのがたまらなく怖かった。

    だからこうして彼女の声が間近で聞こえ、その漂う香りを感じている今。

    ブーンは心底安心していた。

     

    それはデレシアと共にいる時と似ているが、少し異なる安心感だった。

    例えそれが傷ついた状態のヒートであっても、その存在そのものがブーンを安心させているらしい。

     

    (∪´ω`)「おー、ディ、じぶんではしれるから、ぼくはのっているだけですお」

     

    ブレーキレバーを握ることも踏むことも、ましてやクラッチを変えることもブーンには出来ない。

    全てはディの人工知能によって電子制御され、最適化されているに過ぎない。

    その機能が付いていたからこそブーンがヒートを助け出せたのだが、やはり、情けないという気持ちが生まれてしまう。

     

    ノハ<:::|::,》『自信を持ちなよ、ブーン。

          お前が乗っていたからディはここまで頑張ってくれたんだ』

     

    (∪´ω`)「お?」

     

    ノハ<:::|::,》『バイクは、人を選ぶ乗り物なんだ』

     

    そうなのだとしたら、ディはブーンを選んでくれたのだろうか。

    確かに、ディはブーンに合わせて車高などを変えてくれているが、それは機能を果たしているだけではないのだろうか。

    不安げにディのメータを見たブーンは、それまで何も表示がなかった個所がピンク色に光ったのを見た。

    そこには、思わずブーンの尻尾が動く文字が映っていた。

     

    “肯定”、とそこにはディの言葉が映されていたのだから。

     

    (∪*´ω`)「お!!」

     

    喜びも束の間。

    嵐が激しさを増し、風が鐘を不規則に揺らして不協和音を奏でる。

    その音はブーンの耳にとって不快極まりない音であり、ヘルメットをしていても届いてくる音に眉を顰める。

     

    ノハ<:::|::,》『この後どうするのか、デレシアから聞いてるか?』

     

    (∪´ω`)「おー、おあしずにいけば、あとはだいじょうぶっていってましたお」

     

    作戦の仔細は全てデレシアの頭の中に描かれているため、ブーンは作戦の全てを知っているわけではない。

    ブーンはオアシズに到達すれば、後は自ずと作戦の第二弾が始まるとだけ聞かされていた。

    絡まっていた糸が元に戻り、その次に起こることは想像に難くない。

     

    ノハ<:::|::,》『相変わらずだな、デレシアは』

     

    (∪´ω`)「おー」

     

    ヒートもそうだが、デレシアは分からないことだらけだ。

    謎が多く、共に旅をしていても知らないことは尽きない。

    だが謎の有無はブーン達の関係に於いて、なんら問題にもならない。

    誰もが過去を持っているように、誰もが知られていない何かを持っている。

     

    これは、デレシアからの受け売りだった。

    その通りだと思うし、実際、その言葉の通りだった。

    それでも、ブーンは己の好奇心を押さえきれるか自信があまりなかった。

    デレシア達と会うまでの人生では考えられない事だったが、ブーンは少しでも多くの事を知りたいという欲に駆られることが多くなっていた。

     

    文字も、言葉も、常識も、この世界に溢れる何もかもを知りたい。

    途方もない欲であり、途方もないわがままだ。

    勿論、この事はデレシアに話してある。

    そしてデレシアは、ブーンの頬に己の頬を当ててこう返したのであった。

     

    ζ(゚ー゚*ζ『女性にはいつだって秘密がつきものなのよ、ブーンちゃん』

     

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       云x           \.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.

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         }:ハ  fr云=≦⌒    `ヾ彳 :!:.i:.:./       August 11th PM13:39

       /'.  .゙   }:. `t込ア       }j ':.:!:.{:

      /. : : . .′  ゙           f__/ :.:::.:{:

     : : : : : :.レ              廴_:{ (: :

     : : : : : :ハー--             ゙. : :  /イ〈: : :

     : : : : : :ハ ー- _   _`ヽ     ′   _{ ): :

     : : : : : : : :} こー== ´    /. : _.r-:イ 才{{ :

     : : : : : : :八   ̄     . . : :r-く {{> ´: :

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    眼下で繰り広げられていた戦闘が終わってから、一人の男が感嘆の声を上げた。

     

    (e)「いやはや、すごいな……」

     

    男は臨時休業となった喫茶店で優雅にコーヒーを啜り、こめかみに人差し指を当てて考え事を始める。

    これは極めて興味深い物が現れた時にする男の癖だった。

    男の名前はイーディン・S・ジョーンズ。

    考古学の権威であり、そして棺桶研究の第一線で活躍する先駆者だ。

     

    ジョーンズが見ていたのは、デレシアの戦闘だった。

    彼は同僚のジョルジュ・マグナーニに言われ、デレシアの戦闘を観察する役割を担っていた。

    不慣れな戦闘から遠のくことが出来るのはありがたい話で、正直、最初は気が進まなかった。

    そのため彼は臨時休業の看板を出していた喫茶店に押し入り、ジョルジュにコーヒーを用意させることで、その役割を請け負った。

     

    想像以上の成果が得られた。

    人間が銃を持ったところで、棺桶との戦闘をあそこまで華麗にこなせるはずがない。

    現代でジョーンズ程棺桶を知っている人間はいないと彼は自負しているし、世間もそう評価している。

    その彼が、棺桶を誰よりも愛する彼が断言する。

     

    あれは、人間の動きではない、と。

    あまりにも人間離れしたデレシアの動きに、ジョーンズはすぐに興味を持った。

    人間が人間以上の動きをすることが可能かと問われれば、ジョーンズは迷わず首を縦に振り、その質問をしてきた愚か者に拳骨を進呈するだろう。

    恐らく、ジョーンズの知らない棺桶をデレシアが所有、使用している可能性があると結論付けた。

     

    薄型の棺桶は、実際に幾つも発見されている。

    その最たる例が、“アート・オブ・ウォー”だ。

    極めて薄く、まるで衣服のように着用することが出来るだけでなく、筋力補助によりBクラスの棺桶と格闘戦を行えるほどの高性能を誇る。

    デミタス・エドワードグリーンの持つ“インビジブル”から着想を得た棺桶の一機だ。

     

    その系統の一機をデレシアが使っていると考えれば、あの化物じみた動きにも説明がつく。

    一体、何を使っているのか。

    ジョーンズの興味はそれだけだった。

    女の正体などはどうでもいい。

     

    気になるのは、女の使う棺桶の正体だ。

    名前は。

    起動コードは。

    コンセプト・シリーズなのか、それとも別のシリーズなのか。

     

    考えれば考える程、興味深さが増していく。

    粗暴で短気な性格をしているが、人間を見る目や行動力のあるジョルジュが気にしているだけの価値はある。

    なるほど、確かに、気を付けなければならない女だ。

    あのショボン・パドローネがまるで子供扱いだ。

     

    (e)「しかし、恐ろしい女性だよ、本当」

     

    恐ろしいのは戦闘能力だけではない。

    気が付けば戦況は大きく変化し、当初描いていた計画は破綻させられている。

    ジュスティア警察、軍、円卓十二騎士の目はティンバーランドの人間へと向けられてしまい、その対処まで自然と引き継がれてしまった。

    ティンバーランドの人間がジュスティアに感知される前にデレシア達を排除するはずだったのに、これでは悪い方向へと話が流れてしまう。

     

    脱獄させた犯人たちもそうだが、揺るがぬ証拠として効力を発揮する写真まで残されたとなれば、大きな作戦変更が急務となる。

    デレシアとヒートが別れていた絶好のタイミングを失った側としては、次の機会を得られるとは思わない方がいい。

    早期撤収の後、方針を定めなければならない。

    このままデレシアを潰しにかかるか、それとも、このタイミングでは諦めるか。

     

    西川・ツンディエレ・ホライゾンは決して諦めないだろう。

    そもそも、この作戦自体がティンバーランドの目的を邪魔した人間を排除するための作戦であるため、このまま進むしかない。

    仮にジョーンズが指揮官ならばそうする。

    そうする以外の選択をするならば、最初から止めておけばよかったのだと一言釘を刺したうえで、こちらの独断で続行する。

     

    故に、次の一手が勝敗を決する。

    何に重きを置き、行動するかによっては組織の今後にも関わってくる。

    ショボンの作戦が失敗したのはこれで二度目。

    “あの”ショボンの作戦が立て続けに破られたとあれば、デレシア相手の作戦は彼に任せられない。

     

    何より、ジョーンズ自身が我慢できなかった。

    折角の謎をショボンやジョルジュだけが味わうなど、言語道断。

    組織内ではジョルジュが一番デレシアについて執着しているようだが、だからといって、その分だけ彼が優れているわけではない。

    今からでも追いつけばいい。

     

    実際に目にして分かる、その深淵さ。

    デレシアと言う女は実に、実に、実に。

    実に、興味深い。

    物知らぬ愚者はただの厄介者として認識し、思考を停止するだろうが、ジョーンズの目を誤魔化すことは不可能だ。

     

    あの女は、ただの厄介者にあらず。

    この世界に残された巨大な謎の一つだ。

    考古学を学ぶジョーンズは、その名前が持つ特別な意味を誰よりもよく知っている。

     

    (e)「どれ、知恵比べといこうか。

        歴代のデレシアとの差異、検証させてもらうよ」

     

    これは彼にとって、棺桶以外で唯一興味をそそられる事案だ。

    多くの街にその名を残すデレシア。

    それは時には悪名であり、それは時には神にも等しい名前として文献に残っている。

    街を救い、街を滅ぼし、街を復興させた者の名前。

     

    この事実はジョルジュも知っており、ジョーンズは彼の推測が理に適っていることに感心した。

    流石は元警察官。

    その推理力は大したものだが、その秘密を独り占めしようとするのは感心できない。

    美味いケーキは一人で食べるのではなく、分けて食べるべきだ。

     

    そしてジョーンズは、分けたケーキを全て一人で食べたいと思う性格をしている。

    ジョーンズはジョルジュに感謝した。

    世界に数多存在する大きな謎の一つを目にする機会を得ただけでなく、実験をする機会まで得られたのだ。

    この機会を使って、研究を進められる。

     

    文献に記されたデレシアの働きが誇張された物なのか、それとも事実なのか。

    試してみれば嫌でも分かるはずだ。

    勇猛果敢な女傑も、噂という分厚い鎧で護られたただの雌である可能性はゼロではない。

    学者冥利に尽きる素材の登場に、ジョーンズは引きつった笑いを浮かべる。

     

    (e)「ああ、楽しみだ。

       本当に、楽しみだよ、デレシア」

     

    そう呟いたジョーンズの股間は固くなっていたのであった。

     

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    AmmoRe!!のようです

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    Ammo for Reknit!!編 第六章【bringer-運び手-】 了

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