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  1. 名前: 歯車の都香 --/--/--(--) --:--:--
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第五章【lure-囮-】

  1. 名前: 歯車の都香 2017/04/16(日) 13:24:00
    第五章【lure--

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    【 問 題 】

    あなたが狩りをしている途中、目の前に獲物が現れた。あなたならどうするか、答えなさい。

     

    【一般的な模範解答】

    周囲を警戒しつつ、追う。 / 獲物に察知されないよう遠距離から狙う。 等

     

    【ジュスティアの場合】 狩った後、仲間にそれを分け与える。

    【イルトリアの場合】 躊躇なく迅速かつ正確に殺す。

    【セントラスの場合】 神に祈る。

     

                           ――中学生を対象とした倫理観確認テストより抜粋。

                                              実施業者:内藤書籍

     

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    嵐がティンカーベルを襲うのは珍しいことではない。

    夏場ともなれば気まぐれに発達した入道雲が豪雨と暴風を伴い、島に潤いと新鮮な空気をもたらしてくれる。

    これがティンカーベルで栽培される野菜の力の源であり、豊かな自然を形成している秘訣でもあった。

    しかし、それはあくまでも自然界における嵐の話であり、気象の嵐である。

     

    人間が生み出す混沌を比喩した嵐が島にやって来たのは、一世紀以上前に起こったデイジー紛争以来の事だった。

    街の空気が変異していることに気付いた人間はごく僅かしかいなかったが、島民の中に本質を理解できている人間は一人もいなかった。

    一部の島民はこの街に何やら不穏な空気が流れ込んでいる事には気付けていたが、その正体には気付けていない。

    また、その嵐は二種類の勢力が対立して生まれたものではなく、三種類の勢力が関係して発生したことに気付いているのは、一人だけ。

     

    嵐の中心に位置する一人の旅人。

    変わっていく世界を旅し、多くを見てきた一人の旅人。

    黄金の髪と空色の瞳を持つ一人の旅人。

    心情を一切読ませない微笑みを湛え、島で起こっている騒動を見守る一人の旅人。

     

    ζ(゚ー゚*ζ「……」

     

    デレシア、ただ一人だけ。

    彼女の瞳が見通すのは破滅の未来か、それとも逆転の未来か。

    いや、或いは。

    或いは、彼女だけが見ている別の未来か。

     

    答えは、彼女しか知らない。

     

    ζ(゚ー゚*ζ「流石、男の子ね。

          意地の張り所が分かっているじゃない」

     

    満足そうなその声と優しげな表情は、その視線の先で奮闘した男に向けての物だった。

    世界の正義たらんとするジュスティア警察に所属する刑事、トラギコ・マウンテンライトは事前に話した全ての工程を見事に完了させた。

    後は、彼がデレシアの期待を裏切らない働きを見せてくれれば、事態は彼女の考えた通りの展開になる。

    尤も、彼に限ってデレシアの期待を裏切ることはないだろう。

     

    ζ(゚ー゚*ζ「……ふふ、やっぱり男の子はこうでなくっちゃ。

           あの子の教育に役立ったし、その頼み、任されてあげる」

     

    トラギコが望んだのは事件の解決。

    島全体を舞台にデレシアを追うティンバーランドの連中を黙らせ、撤退させ、あわよくば脱獄犯が逮捕されればトラギコの望みは果たされる。

    彼は根っからの警察官だ。

    彼の上司が望んでいる物とは若干形が異なるが、彼が望むのもまた正義。

     

    ルールを破る悪を打ち倒す存在たらんとしているのだ。

    きっと彼は認めないだろう。

    その昔、トラギコによく似た男がいた。

    デレシアが認めた数少ない警察官、ジョルジュ・マグナーニはティンバーランドに堕ち、昔持っていたぎらついた情熱は失われた。

     

    代わりと言うわけではないが、トラギコには今のままでいてもらいたいし、在り続けてもらいたい。

    彼は優秀な警察官であり、正義と呼ばれる信仰を彼なりの流儀で守っている。

    世界に一人ぐらいはそういう人間がいた方がいい。

    そうすれば、世界の均衡は保たれるのだ。

     

    少なくともそうすれば、善悪の区別が付けられる。

    だが度が過ぎれば、それは正義と言う大義名分を借りた暴力に成り下がる。

    かつて世界を滅ぼすことになったのは、その狂った考えそのものだった。

    狂った人間が正義の名のもとに振るう暴力は秩序も理性もなく、ただひたすらに醜い物だ。

     

    程よい正義という考えこそが、世界の均衡には必要不可欠な要素である。

    それがどのような信念に基づいた正義であれ、デレシアにとっては問題ではない。

    ならば、将来有望なトラギコの頼みを一つぐらい叶えてやるのは後のためになる。

    ブーンを教育する過程としてトラギコの望みが叶えられるのだから、ここで手を貸しても手間でも損でもない。

     

    ζ(゚ー゚*ζ「さぁ、逆転の時間よ」

     

    そう言って、デレシアは肩にかけていたライフルを滑らかに構え、呼吸をするように銃爪を引いた。

     

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    AmmoRe!!のようです

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                  _, .= - イミ、          ゙、:. . `ヽ:.

                ィ:7 イ壬ソィ=-ミ、_          ヾ:.: : .:}

                /i ! ゙弋辷彡ニ=ミ、`ヽ         `ヽ:、 :i:l:

                /ο{ 、..:::.煙乂大ヾ.:..          ヾ:. :..

           /゚    、:::::-:::7´  ヾ:.:.i:}Ammo for Reknit!!

          ,'f '!   ..:::"::::::::::::::ァ′    }:.! ゙ヾ:、           (( . ,':/

          !.i ゙、..::::::::::::::::::::::/      リハ  \、_...._      )::.i!

          ヽ;;:::::::::::::/       (( 丶:‐、`ヾ::ミ、___..._ノノ.:{:.:

            ` ::::゙ー/          `ヽ.、`⌒ヾ、`ヽミ_:.:.....:.::::::'第五章【lure--

             ` ̄              ` ̄⌒``ヽ入_>―イ

                                   ヾ:.、`ヾ=

                                    ) }

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    正午の鐘が鳴る数分前。

    鐘楼に陣取る狙撃手は獲物が現れるのを待っていた。

    時が満ちれば、後は狙いをつけて銃爪を引くだけだった。

    世界最高の腕前を自負する狙撃手は、狩人のように静かにチャンスを待っている。

     

    マイク付きのイヤーマフ、頭から被った布、構えているライフルに至るまで全て、同系色の迷彩が施されていた。

    よほど近い距離で見られなければ、ただの薄汚いゴミにしか見えないだろう。

    どれだけ激しい風雨にさらされようともこの狙撃手が音を上げることはない。

    忍耐力が無ければ狙撃手は務まらない。

     

    この狙撃手にとって狙撃とは、何よりも神聖な行為だった。

    死を運ぶ貴い行為はまるで神の御手の所業。

    それが敵にもたらす恐怖と、味方に与える戦意高揚。

    一発の銃弾で戦局を変える姿は味方にとって聖人の御業であり、敵にとっては悪魔の一撃に思える事だろう。

     

    己の祖父が名高い狙撃手であったことを何度も親から聞かされ、英雄譚として今も軍内部でその存在が語り継がれていることは狙撃手の誇りだった。

    奇しくもこのティンカーベルで祖父は凶弾に倒れ、短い生涯に幕を下ろした、非業の英雄。

    今、自分がその街に狙撃銃を担いで来ていることを知ったら、祖父は数奇な運命にさぞや驚いたことだろう。

    同じ戦場に立つことを、父は誇りに思ってくれるはずだ。

     

    狙撃手、カラマロス・ロングディスタンスは伏せ撃ちの姿勢でグレート・ベルの真下で腕時計に目を向けつつ、カフェインレスのコーヒーをタンブラーから飲んだ。

    その液体から旨みなど特に感じなかったが、暇潰しにはこれが丁度いい。

    連日ほぼ不眠不休で狙撃を行う人間は、標的を視界に捉えるまでは同じ場所で石のように動かずに待ち続けなければならない。

    狙撃手は何日でもそうして待ち続けるため、必然的に汚れることになる。

     

    実際、カラマロスの周囲には己の汚物や飲食物の残りなどが散乱している。

    だが彼は狙撃手。

    狙撃手は排泄も何もかもを、一か所で行う。

    時が訪れるのをひたすらに待ち続け、そして時が来た瞬間に銃爪を引く。

     

    それが狙撃手。

    それこそが、世界最高の狙撃手である“鷹の目”なのだ。

    汚れることなど、その後に訪れる栄光の前には何の恥でもない。

     

       〃∩ ∧_∧

       ⊂⌒(L ・ω・),,,___c-o____

              つl;:;:;:;r-ァー´ ̄ ̄

     

    配置につく前から狙撃対象は決められていた。

    軍人である彼は、ショボン・パドローネやシュール・ディンケラッカー、デミタス・エドワードグリーンが狙撃対象であるとして命令を受けていた。

    だがそれは、彼に与えられた命令であり、使命ではない。

    彼には命令よりも優先すべき使命があった。

     

    世界を黄金の大樹にするという使命。

    ジュスティアは確かに世界の正義であろうとしているが、そのためには努力が足りない。

    努力とは結果が伴って初めて理解され、協力が得られるもの。

    結果の伴っていないジュスティアの努力など、意味がない。

     

    悪の根絶を目指して努力するのではなく、世界のルールを変えるために努力しなければならないのだ。

    現にティンバーランドはいくつもの偉大な成果を挙げている。

    力で全てが左右される今の世界は間違っていると、カラマロスは強く思う。

    それはつまり非力な人間が虐げられ続け、常に強者だけが栄える狂った天秤が支配する不平等な世界。

     

    彼が幼少期に受けた多くの屈辱も、その後見てきた世界の現状も断じて受け入れられるものではなかった。

    世界には貧困が満ち溢れ、不平等が蔓延していた。

    人の姿をした人ならざる生き物が根絶されていないことも、我慢ならない。

    誰かが悲しむ世界は終わりにしなければならないのだ。

     

    彼の祖父は偉大な狙撃手だったが、彼の父は凡夫であり、狙撃の才能がない事が父のコンプレックスだった。

    偏執病と言っても過言ではない父のコンプレックスは、幼いカラマロスの教育に大きな影響を与えた。

    狙撃の才能とは即ち、環境把握能力と素早い計算能力に頼るところが大きい。

    天才的な勘でその複雑な計算を一瞬で終わらせ、環境による弾道変化を修正することが誰よりも早い事が、狙撃の才能だ。

     

    カラマロスの父はどうしてもそれが出来なかった。

    当たり前だ。

    距離だけでなく湿度、風、地球の自転、標的の動き、銃と銃弾の特性など、多くの要素を瞬時に計算することが出来れば、誰でも狙撃手になることができる。

    それが出来ないからこそ、父は自分を無能な人間だとして責め続けた。

     

    せめて我が子には同じ思いをさせたくない。

    そう思った父は、妻が身籠った時から行動を始めた。

    視力にいいとされるあらゆるサプリメントを妻に服用させ、その効果が少しでも子供に伝わるようにした。

    視力を徹底的に鍛え上げることは勿論、生まれてから銃の扱いも英才教育とも言える指導を受け続けた。

     

    それは自分にない物を知識で補おうと足掻いた男がもたらした、執念の賜物だった。

    執念は息子へと引き継がれ、見事にそれは開花した。

    カラマロスの持つ高い狙撃能力は、生まれ持った才能と努力の両方によって獲得したもので、ジュスティアには彼ほどの努力家は一人もいない。

    大概が才能を無駄にして日々を過ごしているか、努力をおこたる人間ばかり。

     

    狙撃の名家であるという重圧を背負いながら毎日を生きてきたカラマロスに比肩する狙撃手がいないのも、当然だろう。

    だが周囲が祖父を称えても、カラマロスはそれについて何か特別な感情を抱いたことはなかった。

    結局は父が血を引き継ぐ者の責務としてカラマロスに祖父を尊べと強要したのであって、ある種の常識として刷り込まれているだけに過ぎない。

    祖父に関する記憶はカラマロスには一つもなく、全て口頭や文献で伝えられたものだけ。

     

    偉大な狙撃手、“ジョニー・ビー・グッド”ことジョニー・ロングディスタンスは若くして殺され、一人残された祖母が女手一つで父を育てた。

    逸話は全て覚えている。

    空中に放り投げたコインを撃ち抜いたり、鹵獲した粗悪な銃で敵軍の大将を長距離狙撃したりと、実に猛々しい物ばかりだ。

    それが事実かどうかは分からないが、祖父が戦争で殺されたことだけは疑いようのない事実だ。

     

    しかし、戦争で人が死ぬのは当たり前の話で、いちいち仇が誰なのかを考えていては、きりがない。

    それでも、祖父を殺した人間だけは忘れることはない。

    イルトリア史上最高の狙撃手、“魔女”ペニサス・ノースフェイス。

    卑劣な手段を使って祖父を殺したその女に、カラマロスは何としても復讐を果たしたかった。

     

    それは決して、祖父のための復讐ではない。

    彼自身が手に入れるはずだった自由に対する復讐だった。

    もし祖父が健在で、父に対する教育が違っていたのならば、カラマロスはもっと別の道を歩んでいたかもしれない。

    彼には夢があった。

     

    冒険家としての夢。

    航海士としての夢。

    警察官としての夢。

    探偵としての夢。

     

    弁護士としての夢。

    検事としての夢。

    研究家としての夢。

    彼には、別 の 夢 が あ っ た か も し れ な か っ た の だ 。

     

    夢は親のエゴによって狙撃手へと塗り潰され、彼の人生は血で汚れる事となった。

    狙撃は嫌いではなかったが、彼は、もっと自分の意志で未来を築き上げたかったのだ。

    未来を奪われたそもそもの原因を作った魔女を、カラマロスは何としてでもこの手で殺したかった。

    そうすることでロングディスタンス家の因縁は終わり、彼の子孫は夢を自由に追う事が出来ると信じた。

     

    幼少期、彼が味わった屈辱は一生涯忘れることの無い物だ。

    彼の両親が与えた名前はカラマロスだが、その名前はジュスティアの童話を知っている人間ならば誰もが聞いたことのある名前だ。

    カラマロフ、カラマロスという双子の鼠が森で魔女と対峙し、正義の名のもとに罰するという童話。

    物語の最後は魔女の魔法によって二人が一人の人間となり、英雄として人の二倍の寿命を生き続けることで完結となる幼児向けの話だ。

     

    そして両親に与えられたこの名前が大人の誤解を招き、彼の人生に影響を与えることとなった。

    始めに間違えたのは彼の親戚だった。

    親戚はカラマロフ、と呼んだ。

    彼の名前はカラマロスだった。

     

    次に間違えたのは学校の教師だった。

    教師はカラマロフ、と呼んだ。

    彼の名前はカラマロスだった。

    子供たちはカラマロスをからかい、カラマロフと呼んだ。

     

    やがて時が流れ、彼は軍隊に入った。

    次に間違えたのは上官だった。

    間違いを指摘されたことに激怒した上官は、彼の書類を書き換えた。

    カラマロフ・カラマロス・ロングディスタンス、と。

     

    そして彼は、二つの名前を与えられることとなった。

    カラマロフ、そしてカラマロス。

    彼は自らのアイデンティティを奪われた。

    未来を奪われ、己自身をも奪われた男は魔女への復讐を誓ったが、それは叶わぬ夢となった。

     

    魔女は同じティンバーランドの同志の手によって殺された。

    それはつまり、仇を失ったという事。

    父親の悲願であった世界最高の狙撃手の称号が転がり込んできた時、カラマロスは酷い喪失感に襲われた。

    目標が無くなった人間は虚無感のあまり、廃人のようになると言うが、カラマロスは違った。

     

    確かに彼は夢を奪われ、そのことに対して怒りを覚えていたが、今は別の夢を追っている最中。

    老婆が別の誰かに殺されようが、実はどうでもいいということに気付いた。

    狂った世界を変え、正しい世界をもたらすという夢の前には、肉親の死でさえ些事でしかない。

    彼の私情で大義をないがしろにすることは許されない。

     

       〃∩ ∧_∧

       ⊂⌒(L ・ω・),,,___c-o____

              つl;:;:;:;r-ァー´ ̄ ̄

     

    この時代は力が全てを変える。

    ならば、今はその忌々しい流儀に従い、銃把を握る。

    そして銃によって世界を変え、二度と人々が銃把を握らなくてもいい日をもたらす。

    銃こそは世界を変える鍵だ。

     

    事前の情報に従い、銃腔の位置を下方に修正する。

    銃は相手を殺すための距離に余裕を持たせ、力の差を埋め合わせてくれる。

    狙うは警察の癌。

    荒くれ者の刑事。

     

    トラギコ・マウンテンライト。

    秘密結社たるティンバーランドを暴こうと試みる愚かな刑事を、この場で始末する。

    真実を手に入れるのは煉獄の炎にその身を焼かれている時だろう。

    だが彼の死は無駄にはならない。

     

    今後、彼の様な有害な人間が現れた時にどう対応するべきなのか、その前例を作ることになったのだ。

    貴重な前例を作ってくれると考えれば、トラギコは非常に優秀な人間として死ぬことになる。

    ここでの殺し方、作戦は後世に残されることになるため、油断は出来ない。

    見本となる殺し方をする責任がある。

     

    万が一トラギコが生き延びれば、彼を殺すチャンスは遠退き、次の機会がいつになるか分からなくなってしまう。

    ティンバーランドの存在を知った途端に殺されるようであれば、それはつまり、ティンバーランドの力と存在の大きさ、そして何よりティンバーランドが実在することを示す何よりの証拠になってしまう。

    このチャンスにトラギコを殺せなければ、本部の方針としてはトラギコを今後狙う事は控えなければならないとの答えが出ている。

    失敗は組織にとっての大きな損失となり得る。

     

    もしもティンバーランドが本気を出せば、この島にいる全ての人間を殺すことも出来る。

    それだけの力と兵力がある。

    しかしそうはしない。

    デレシアやトラギコを屠るために街を一つ吹き飛ばしたとなれば、その存在が公のものとなり、思い描いている形で世界を変えることが出来なくなってしまう。

     

    一度に世界を変えることはできない。

    力で変えた世界は長続きしない。

    徐々に変えていくことで、最終的に世界はその姿を正しい物に直すことが出来る。

    そのための歩み。

     

    一歩ずつ確実に世界を変えていく。

    大樹が急成長しないのと同じように、静かに根を張り巡らせ、成長してゆくのだ。

     

       〃∩ ∧_∧

       ⊂⌒(L ・ω・),,,___c-o____

              つl;:;:;:;r-ァー´ ̄ ̄

     

    ――鐘が鳴る。

    運命の分かれ道となる、鐘の音だ。

    エラルテ記念病院からトラギコが出てくるのを待っていると、遂に、扉が開いた。

    トラギコの姿が見えた瞬間、カラマロスは狙点を彼の胴体に向けて修正した。

     

    被弾面積の小さい頭部を狙うのはリスクが高い。

    確実に当てられる場所を狙う。

    疲労困憊と言った様子のトラギコの顔が、深呼吸をするようにゆっくりと空を向く。

    最期に空を見せてやった事を唯一の慈悲として、銃爪を引いた。

     

    その数瞬前、白い輝きがカラマロスの視界に入ってきた。

    それが狙撃の精度に僅かに影響を与えたが、結果は同じだった。

    トラギコの胴体に着弾し、彼は膝を突いたが倒れはしなかった。

    何より、血が出ていない。

     

    防弾着を着込んでいるのだと、すぐに理解した。

     

       〃∩ ∧_∧

       ⊂⌒(L ・ω・),,,___c-o____

              つl;:;:;:;r-ァー´ ̄ ̄

     

    一杯喰わされたと苛立ち、ボルトアクションで廃莢と装填を行う。

    第二射を浴びせかけるべき相手はトラギコだが、フラッシュを浴びせかけた忌々しい人間の位置と武器を確認する。

    光が発せられた方向へと銃腔を向け、そこにいた人間を確認する。

    そこにいたのはアサピー・ポストマン。

     

    武器ではなくカメラを持つマスコミの豚が、カラマロスの崇高なる目的を阻害したことが腹立たしかった。

    今は豚を殺すよりも虎を殺す必要がある。

    狙いを元の位置に戻した時、再びカラマロスは感情を揺さぶられた。

    ライダル・ヅーがトラギコを連れ去り、射線上から消え去ったのだ。

     

    まさかあのヅーがトラギコに加担するとは予想していなかった。

     

       〃∩ ∧_∧

       ⊂⌒(# ・ω・),,,___c-o____

              つl;:;:;:;r-ァー´ ̄ ̄

     

    アサピーへと狙いを変え、銃爪を引く。

    弾は風にあおられたのか、アサピーの頭ではなく肩を掠めた。

    落ち着いて廃莢、装填。

    発砲。

     

    第三射目もまた狙いが逸れ、アサピーのカメラを直撃した。

    望遠レンズが砕け、アサピーが動揺した表情のまま逃げ出そうと背を向ける。

    絶好の機会だったが、だがしかし、四発目を撃つことはなかった。

    どこからか飛来した銃弾が狙撃銃のスコープを破壊し、カラマロスの手からライフルを奪い取ったのだ。

     

    スコープを失ったため、相手の正確な位置が把握できないが、彼は“鷹の目”。

    狙撃手は一度発砲した場所からすぐに位置を変えることが鉄則とされており、今回カラマロスが喧嘩を売られた狙撃手もその鉄則を守るだろうと予想できた。

    嵐が来る前に探さなければ、絶対に見つけ出すことはできない。

    建物の中で籠城されたらそれまで。

     

    どうにかしておびき出さなければならない。

    スコープの失われたライフルを構え、カラマロスは目を細めて索敵を始めた。

    彼の視力は才能と努力の賜物。

    光学式のスコープが無くても、ある程度の距離であれば目視することが出来る。

     

    時間が刻一刻と過ぎていく。

    シナー・クラークスからの通信で、円卓十二騎士がヒート・オロラ・レッドウィングのところに現れたとの連絡が入る。

    焦るなと自分に言い聞かせる。

    涼しいぐらいの気温なのに、額から汗が流れ落ちる。

     

    もう、どこかに逃げてしまったのではないか。

    すでに姿をくらまし、ヒートの元に向かっているのではないか。

    あらゆる憶測が頭の中をよぎり、掌が汗で濡れた。

    冷や汗をかくなど、何年ぶりだろうか。

     

    失敗など、訓練生以来の経験だ。

    諦めてはならない。

    微細な可能性、兆しを見つけるのだ。

    そうすれば、必ずや残滓にも似た痕跡を見つけられる。

     

    ――その答えは視覚ではなく聴覚で得ることとなった。

    絶妙なタイミングでバイクのエンジン音が響き、それが遠ざかっていくのを聞いたのだ。

    音の方に目を向けると、カラマロスの優れた視力が蒼いバイクが走り去る姿を捉えた。

    それは、トラギコを逃しても余りある収穫だった。

     

    カーキ色のローブ。

    蒼いバイク。

    タイミング。

    必要なパズルのピースが揃っていた。

     

    特別な無線機に向かって、カラマロスは冷静さを欠かないように注意しながら言葉を投げかけていく。

     

       〃∩ ∧_∧

       ⊂⌒(# ・ω・)「“目”より連絡。 バイクで逃亡する人間を見つけた。

                 島の北に向かって逃げているぞ。

                 バイクの特徴は…… 話と完全に一致する」

     

    これが噂に聞く天敵の仕業。

    最重要目標。

    世界の大敵。

    狩人が獲物を前に興奮せずにいられるものか。

     

    彼は生粋の狩人。

    目の前に立ちはだかる全ての標的を撃ち抜く、必殺の狩人。

    世界に平等をもたらし、あるべき姿に戻すための大樹の一部。

    今こそ、大悪を屠るべく勇気を奮うのだ。

     

       〃∩ ∧_∧

       ⊂⌒(# ・ω・)「デ レ シ ア だ !!

                予 想 通 り の 場 所 に 奴 が 出 た ぞ!!」

     

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        ‥…━━ August 11th PM00:20 ━━…‥

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    その無線を聞いた時、ショボン・パドローネはすぐに行動を起こした。

    情報で得ていたバイクによる移動は、やはりこの場で使用された。

    未舗装の悪路だけでなく狭い路地も移動できるバイクは、この島では理にかなった乗り物だ。

    事実、デレシアはそれを使ってバイカー集団からの追撃を逃れ、姿をくらました。

     

    ならば、次にまた理にかなったその乗り物を使ってくるのは必然であり、むしろ使わない理由はどこにもない。

    そしてデレシアの怪物じみた勘の良さを考慮すれば、この島に狙撃手が配置されていることを察し、その位置にも見当をつけたことだろう。

    その上でヒートを襲えば、あの女はヒートを救うために必ず動く。

    こちらが把握している限り、今、ヒートを助けに動けるのはデレシアしかいない。

     

    デレシア自身が動き、ヒートの救援に駆けつける事だろう。

    ある意味での信頼をもって、ショボンは策を練った。

    だからこそヒートの襲撃に最善の駒を配置し、デレシアの迎撃にも最良の駒を配置した。

    伏兵も備えた。

     

    後は、答え合わせを待つばかりだった。

    ショボンの読みは当たった。

    最も厄介な狙撃手を無力化し、次に行うのは直接的な救援活動。

    追跡があることを承知で迎えに来ると考えているとすれば、陣取る場所、通る道は限られてくる。

     

    距離は使用するライフルによって変わるが、平均的な射程を考えて約半マイル。

    射角を確保するために標高の高い北にいるはず。

    その全てが正解した時、ショボンは己の正しさが証明されたことに対する喜びと、デレシアに読み合いで買ったことに優越感を覚えた。

    だがそれもすぐに大義を思い出し、霧散した。

     

    イグニッションを押し、赤いカウルを持つモタードタイプのバイクを始動させる。

    大型バイク独特の力強いアイドリング音が鼓動のように響く。

    まるで興奮状態にある大型の猛牛を思わせる独特の形状をした車体が、その力強いエンジン音によって一層動物的に見せた。

     

    (´・ω・`)「聞いたな!」

     

    オフロードヘルメットのバイザーを降ろし、ショボンが後ろに控えている二人に声をかけた。

    “バンダースナッチ”、シュール・ディンケラッカーは無言でバイザーを降ろし、デミタス・“ザ・サード”・エドワードグリーンはクラッチを切ったままアクセルを捻った。

    雄叫びにも似た音が、デミタスの意気の高さを代弁した。

     

    lw´‐ _‐ノv「……」

     

    (´・_ゝ・`)「……」

     

    内蔵されたインカムに向け、ショボンは士気をより上げるために檄を飛ばす。

     

    (´・ω・`)「よし! 棺桶は僕とデミタスが使う。

         シュール、君はシナーたちと合流するんだ。

         あの女は絶対に無策で動く様な人間じゃない。

         最終的にはヒートのところに来るはずだが、そうなった時、君がレ・ミゼラブルで動きを鈍らせれば簡単に潰せる。

     

         だがその前にデレシアと僕たちが戦うことになったら、こっちに来るんだ。

         予定通りに行くぞ」

     

    三台のバイクが走り出し、人気の失せた街を走り抜けてデレシアの乗るバイクを追い始める。

    落ちてきそうなほどに黒くなった空から、雨粒が一つ、そしてまた一つと降り始めた。

    温い風が三人の肌を撫でつける。

    途中で二方向に分かれ、ショボンはデミタスのバイクと並んで走った。

     

    ショボンは情報こそが戦局を変え得る鍵だと考えている。

    その中でも、特に駒を動かす上で必要な情報は駒の特性だ。

    駒の得意なこと、苦手なことを知ればそれを生かした戦術を練る事が出来る。

    戦術は戦局を変える。

     

    この戦術がどう効果を発揮するかは分からないが、彼なりにデレシアと言う人間を考え抜いた末に考え出した策は、きっと上手くいくはずだ。

    オアシズでデレシアが味方を誰一人として見捨てなかったことは、彼女の弱さを示している。

    何より、あの一行は基本的にデレシアの力で持っているような物で、デレシアも人間である以上分身することはできない。

    ならば、絶対に現れるよう仕向ければこちらの罠に足を突っ込んでくれるのは間違いない。

     

    前回のオアシズでは別の目的を達成する必要があったため、デレシアの排除は二の次となっていた。

    だが、この島を戦場に変えたのはデレシアを消すためだ。

    他の些事にはこだわらず、デレシアを殺すことにだけ集中すればいい。

    ヒートを殺せなくてもいい。

     

    黄 金 の 大 樹 に と っ て の 害 虫 を 駆 除 す る こ と が 、 何 よ り も 大 切 な の だ。

     

    (´・ω・`)「……くそっ、嵐か」

     

    インカムで三人の音声は常に他共有されていると知りながらも、ショボンは悪態を吐いた。

    バイクにとって嵐は天敵だ。

    路面が濡れている状態であれば、乾いている時に比べて転倒の恐れが高くなる。

    特に、カーブを曲がる際には細心の注意を払わなければならない。

     

    例えオフロードタイヤを履いていたとしても、転倒と無縁と言うわけではない。

    また、風にあおられれば思わぬ方向に流され、姿勢を整えようとする際に無駄な力が必要になる。

    どちらもバランスを奪うバイクの敵だ。

    特にカーブに於いての危険性の向上は看過できない。

     

    モタードタイプのバイクはその特性上車体が高く設計されており、風の影響を受けやすい。

    風防も有って無いような物。

    更にデレシアの乗っているバイクは速度を重視した設計の物で、このままでは逃げ切られてしまう。

    行く先は分かっているが、そこに追い込むのではなくバイクに乗っている間に殺す気持ちでいなければ勝てない。

     

    余裕は油断となり、油断は失敗へとつながる最短の悪手だ。

    どんなバイクにも得手不得手がある。

    スーパースポーツがオフロードを走れず、オフローダーが速度を出せないように、必ず苦手分野がある。

    モタードはオフローダーの走破性を獲得しつつも、最高速度をオフローダーよりも向上させている。

     

    地形が許せば、こちらの方が有利になる。

     

    (´・ω・`)「雨風が酷くなる前に決着をつける!」

     

    エンジンの寿命を縮める代わりに爆発的な加速力を約束する装置のスイッチを入れると、バイクの前輪が軽く浮いた。

    市街地を抜け、暗い空に映える蒼色のカウルを持つバイクのテールランプを目視した。

    エンジンが悲鳴を上げ、今にも壊れそうな音を奏でている。

    追跡に気付いたのか、デレシアは自らに有利な舗装路の続く道を選び、街の西側に広がる工場地帯を目指し始めた。

     

    直線での競り合いでは勝ち目はないが、目視さえしてしまえばこちらにも勝機はある。

    体ごと車体を傾け、カーブでの減速を最小限に押しとどめる。

    膝を擦る寸前まで車体を傾け、ようやくテールランプを視界に収める。

    現れてはすぐに視界から消えてしまう赤いそれは、まるで鬼火だ。

     

    (´・ω・`)「見つけたぞ、デミタス!」

     

    (´・_ゝ・`)「あぁ、だが疾いぞ!!」

     

    一瞬だけ目に入ったテールランプは尾を残して消え去り、二人はその残像を追うしかない。

    あれだけの速度でよくも走ることが出来ると、ショボンは感心した。

    転倒を恐れていないのか。

    遂に、大粒の雨が黒い空から降り注ぎ始めた。

     

    風に揺られて空気中で拡散し、視界をぼやけさせる。

    細かな粒子となって雨が街の景色を一変させ、視認性を悪くした。

    何か鋭利な物が地面に落ちていたとしても、気付くことは難しい。

    パンクでもしようものなら、速度を出すことは不可能になる。

     

    高速であればある程、滑らかな表面をしている舗装路はある危険性を帯びることになる。

    即ち、摩擦力の喪失によるコントロール不可能な状態。

    速度が出ている中、意図しないスリップは命に係わる事故に直結している。

    条件は双方同じ。

     

    (´・ω・`)「転倒させるんだ!!」

     

    相手をスリップさせるためには速度を出させ、無理な姿勢に持ち込ませることが重要だ。

    こちらも当然気を付けるが、タイヤと車体の差がここで現れ、相手よりも有利な立場に立つことが出来る。

    デミタスもショボンの意図を理解し、重心を切り詰めたウィンチェスターショットガンを左手で構えた。

    レバーアクションによる片手での操作性はバイクとの相性が非常によく、散弾による広範囲への攻撃は移動目標に対して有効だ。

     

    特に彼は逃走の際にバイクを頻繁に使っていた経験があることからその使用に長けており、片手でもバイクを操ることが出来る。

     

    (´・_ゝ・`)「俺がやる!

          ショボン、援護できるか!?」

     

    (´・ω・`)「任せろ!」

     

    装弾数の多いグロックを抜いて、ショボンは遠目に見えるテールランプ目掛けて銃爪を引いた。

    だが視界が最悪とも言える中でそう簡単に弾が当たるはずもなく、赤い光を残してテールランプが薄れていく。

    アクセルを捻り、速度を上げる。

    すでに豪雨は霧のように拡散し、数十フィート先の視界を奪いつつあった。

     

    横殴りの激しい雨が容赦なく降り注ぐ。

    二人のバイクは何度も風にあおられ、マンホールの蓋によって危うく転倒しかけているというのに、デレシアは全くその様子を見せない。

    それでも、デレシアを排除するのは不可能だとは思わなかった。

    当てられずとも転ばせられれば、無事には済まない。

     

    濡れた路面を転がり、壁にでもぶつかれば骨は砕け臓器は破裂することだろう。

    仮に受け身を取って一命をとりとめたとしても、そこを狙えばこちら側の方が有利だ。

    それを誘うには、相手を焦らせる必要がある。

    焦らせるには、常に相手の視界に入っていなければならない。

     

    姿勢を低くし、少しでも風の影響を受けないようにする。

    今は引き離されないようについていくのがやっとで、距離を縮めきる頃にはヒートとデレシアが合流してしまうだろう。

    そうなる前にどうにかしなければ、より厄介な状況になる。

    常に視界に入れ続け、弾丸をバイクに当てるだけでいい。

     

    タイヤに当たれば重畳だ。

     

    (´・ω・`)「どれだけ逃げても!!」

     

    カーブに差し掛かれば的が大きくなる。

    そこが狙い目だ。

     

    『前のバイク、停まりなさい!』

     

    唐突に背後から聞こえてきたのは、空気を読まない警告の言葉。

    ジュスティア警察だ。

    カーチェイスを目撃した警官が無駄に気を利かせて無駄な警告を発したのだろう。

    ここで争っても意味がないが、捕まっても意味がない。

     

    (´・ω・`)「ちっ……」

     

    (´・_ゝ・`)「どうする?」

     

    (´・ω・`)「無視だ。

         どうせ後でどうにでもなる。

         今はデレシアを追うぞ!」

     

    追われたところで顔を知られているわけでもないため、リスクはない。

    バイクも乗り捨てればいい。

    確かに車と比べれば安定感は向こうの方が圧倒的に高いが、カーブでの速度はこちらの方が優れている。

    すぐに追いつかれることはないが、いらぬプレッシャーをここで与えられても良い気がしない。

     

    それほどの脅威ではないが、邪魔なことに変わりはない。

     

    (´・ω・`)「……“目”、今僕らの後ろにいるパトカーが見えるか?!」

     

    『見える。 だがスコープを破壊されたせいで狙いが付けられない。

    あの女、俺のスコープを撃ち壊しやがったんだ』

     

    世界最高の狙撃手の隙を突き、狙撃銃の要を破壊するとは、やはり油断ならない女だ。

    他人の夢を踏み躙って己の目的を達成しようとするデレシアは、悪魔の様な性格をしている。

    スコープを壊すことが出来たなら、カラマロスの頭を吹き飛ばせたはずだ。

    わざと生かしたのだ。

     

    泳がせ、大きな魚を釣るために。

    狙撃手に生き恥をかかせるために。

    人の夢や希望、そういったものを何だと思っているのか。

    仮にデレシアの作戦が失敗し、仲間が死ぬことになろうとも、眉一つ動かすことなくそれを受け入れることだろう。

     

    しかしながら、ショボン達は違う。

    仲間を見捨てることはしない。

    彼らは同じ一つの大樹。

    仲間を失う事はその体の一部を失う事なのだ。

     

    (´・ω・`)「仕方ない、僕がやる。

         デミタス、デレシアを任せてもいいか?」

     

    デミタスは返事の代わりに更にアクセルを捻り、加速させた。

    この天候の中で速度を上げるのはかなり危険な状態だが、そうでもしなければ追いつけない。

    彼の勇気にショボンは内心で称賛を送ると同時に、彼を引き入れる事を提案した人間に感謝した。

    人選は正解だった。

     

    ショボンは背後から迫るパトカーに向け、グロック18をフルオートで発砲した。

    軽量の強化ポリマーを主な素材として作られたグロックは軽く、片手で持つことが出来る。

    ロングマガジンを使えば短機関銃と同じ装弾数を維持しつつも、フルオート射撃が可能だ。

    その分反動を受けやすいが、使い慣れたグロックであれば問題はない。

     

    当たり前の話だが、車は車幅がバイクよりも広い。

    つまり、被弾する面積が広いという事だ。

    二、三発刻みで発砲を続けるとパトカーは路肩に駐車していたトラックに突っ込み、クラクションが鳴り響く。

    そのまま追ってくることはなく、ショボンも速度を上げてデミタスを追った。

     

    すると、ショットガン独特の大きな銃声が二発連続して聞こえた。

    音の聞こえた方向に顔を向け、車体を傾けてカーブを曲がる。

    目抜き通りをまっすぐに走り、直線勝負。

    距離は明らかに縮んでおり、カーブでの加速が生きたことが証明された。

     

    それが分かっているからこそ、相手はこの直線路を選んだに違いない。

    直線路ではあるが、それでもこちらが有利なことに変わりはない。

    思い上がりではなく、状況がそれを示している。

    ショボンは弾倉を交換し、赤いテールランプに照準を合わせて銃爪を引く。

     

    途端にテールランプが左右に揺れ、速度が低下する。

    このまま無理やりにでも傾けさせて転倒させれば、無事では済まない。

    倒れたところを轢殺すれば、一件落着だ。

    遠回りをしたが、デレシアはまんまとヒートのいる場所に近づいているため、これ以上の接近は作戦が破綻する可能性が高まる。

     

    今は分散してるからこそ、デレシアを狙えているのだ。

    執念深く二人は弾丸を放ち続けるが、一発もバイクに当たらない。

    豪雨と防風と言う最悪の環境ではあるが、後ろに目でもついているかのようにバイクが左右に動き、弾丸を悉く避けてしまう。

    そして、曲がり角に差し掛かった時にそれは起きた。

     

    嵐の間にある、一瞬だけの静寂。

    凪ぎ、雨だけが降り注ぐ一瞬。

    その瞬間、ショボンはデレシアの姿に強烈な違和感を覚え、その違和感は確信へと変わり、確信は驚愕へ、驚愕は怒りへと変化した。

     

    (;´・ω・`)「嘘だろおい!?」

     

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    全てのバイクの理想形として設計された“アイディール”には、当時の技術の全てが組み込まれていた。

    バイクの開発の歴史は、鋼鉄の塊であるバイクが如何にして人馬一体となれるか、に挑む歴史でもあった。

    二輪と言う不安定な乗り物は人間の手を借りなければ自立できない存在で、馬とはかけ離れたものだった。

    それは構造上の問題であり、物理的な問題でもあった。

     

    しかしながら、長年の間仕方がない、で片付けられていた問題を打破した企業があった。

    その企業は二輪バイクの自立を可能にする技術を確立したが、別の企業が更にそれを進化させた。

    内蔵された高性能なジャイロセンサーがバイクの自立を可能にし、更に全方位の衝撃に対しても抵抗力を持つことに成功した。

    やがて、それを狂気じみた執念によって改修した企業が現れ、そのセンサーは完成した。

     

    完成に至らしめたその最大の要因は、開発者及び開発企業が利害の一致で行動したのではなく、目的の一致のために惜しみなく技術を提供し合ったことなのは間違いない。

    こうして完成したジャイロセンサーはバイクが急激に傾いても体勢を立て直し、急バンクでも転倒することの無い支援システムとしてアイディールに搭載された。

    開発者たちはそれでも満足はしなかった。

    求めたのは理想形。

     

    理想の形とは即ち鋼鉄の馬の再現。

    馬は自ら考え、自ら走る生き物だ。

    絆のある馬であれば、四肢を失った人間を乗せてもそれに合わせて走ることは証明されている。

    そこに到達することが開発者の夢であり、アイディール計画の始まりでもあった。

     

    乗り手を選ばないバイク。

    低身長の人間でも、足を失った人間でも乗りこなせるバイク。

    初心者でも、目が見えない人間でも乗りこなせるバイク。

    そこで開発者が目を付けたのが既存の技術、オートクルーズ機能だった。

     

    一定の速度で走り続けることのできる機能を進化させれば、自動で速度を変化させ、ギアを変化させられる。

    彼らはエンジンを一から設計し始めた。

    エンジン開発に着手してから三年後、自動可変機構を搭載したエンジンが出来上がり、操縦者に合わせた自動走行機能も実現した。

    それらを統括する人工知能は更に一層の進化を遂げ、乗り手を識別してその人に合わせた走行を記憶するようになっていた。

     

    それから多くの試行錯誤と改善と改良を経て、アイディールが世に生み出された。

    今、ティンカーベルの島を疾走する“ディ”と名付けられたアイディールが乗せているのは、決して、歴戦のバイク乗りではなかった。

    バイクの操縦などしたことの無い、一人の少年だった。

    少年には犬の耳と尻尾があったが、それは今、ヘルメットとローブによって完全に隠されていた。

     

    (∪;´ω`)「……っ」

     

    必至にハンドルを握るブーンは、自分に与えられた役目を果たすべくディから落ちないよう、両足でしっかりとタンクを挟んでいた。

    背後から迫ってくる人間の声がブーンの耳に届いた。

    ここに至るまで全く気付かず、ブーンをデレシアと勘違いして追ってきた間抜けの声だ。

     

    (#´・ω・`)「糞耳付きの糞肥溜め野郎がどうして糞運転出来ているんだ!!

          糞っ!!」

     

    流石に、気付かれたようだ。

    デレシアの作戦に従い、ブーンはディに乗って街中を走ることになっていた。

    撃たれる危険性は指摘されており、それを承知したうえで、ブーンは自らの意志でディに乗る事を志願した。

     

    (#´・ω・`)「デミタス!! はめられた!!

          デレシアは別の場所からヒートのところに行くつもりだ!!

          こいつは餌、囮、捨て駒だ!!」

     

    (;´・_ゝ・`)「ちっ!! そのガキはどうする?!」

     

    (#´・ω・`)「見るのも悍ましい!!

          放っておけ、駄犬を追う趣味はない!!」

     

    その時、嵐の空に小さいながらも強烈な光を放つ赤い物体が現れた。

    知っている。

    あれは信号弾と呼ばれる物で、自らの状況や位置を示すための道具だった。

    これもデレシアの話していた通り。

     

    悪天候の中無線機以外を用いた大多数に連絡を取るのならば、あれがかなり有効な道具だと教わった。

    嵐の中で信号弾を打ち上げても風にあおられるだろうが、無線で位置を伝えるよりも遥かに分かり易い。

    あの周囲に行けば、兎にも角にも目的の何かがいるのだから。

     

    (∪;´ω`)「……お」

     

    バックミラーに映っていたライトが反転し、遠ざかっていく。

    信号弾に呼ばれ、ブーンへの追跡を辞めたのだ。

     

    (∪;´ω`)「……ふゅー」

     

    一先ず、危機は去った。

    問題なのはあの信号弾が何を意味しているのか、と言う事だ。

    信号弾の色の持つ意味はそれを使う人間の仲間だけが知り得る情報。

    あくまでも場所を示すための道具であり、色が持つ意味は事前の打ち合わせが無ければ意味のない光点でしかない。

     

    光点の詳細な意味をブーンは知らないが、この状況下で放たれた信号弾がどのような事を意味するのかは分かる。

    デレシアの能力を考えれば、デレシアが敵に発見されたと考えるのが自然。

    予定通りだとは言っても、デレシアは大丈夫なのだろうかと心配する気持ちは捨てきれない。

    いくら先を読める人間だとは言っても、物事には限度がある。

     

    人間である以上、無敵ではない。

    弾が当たれば血も出るし、怪我もする。

    当たり所が悪ければ死ぬ。

    それが人間だ。

     

    人が死ぬのを目の当たりにするのには慣れている。

    飢えて死んだ人間も、殴られて死んだ人間も、撃たれて死んだ人間も見てきた。

    しかしそれは他人が死んだ場合の話で、ブーンに関わってきた人間が死ぬのを見たのは一度しかない。

    “魔女”と恐れられた過去を持つブーンの恩師、ペニサス・ノースフェイス。

     

    彼女は魔法のように狙撃を行う力を持っており、その佇まいは巨大な老木のように静かで威厳に満ちている物だった。

    呆気なく人が死ぬことを知っていたが、ペニサスが目の前で息を引き取り、遺体を土に埋めた時にブーンはようやく知ることになった。

    知人を失う悲しさを。

    唐突に訪れる別れを体験したブーンは、もう二度と、同じ気持ちを味わいたくはなかった。

     

    いつまでも無力ではいたくない。

    オアシズで海に投げ捨てられ、あのまま死んでいてもおかしくなかった自分を鍛えてくれたロウガ・ウォルフスキンに学び、ブーンは変わった。

    護られ続け、戦いを傍観するだけの存在ではなく、自分の事を大切に想ってくれる人のために戦える力を求め、常に努力をするようになった。

    その努力の答え合わせがされる時が、今だ。

     

    戦闘力はないが、デレシアやヒートの助けになることは出来るとデレシアは言ってくれた。

    これまでに見てきた人間の中でもデレシアの強さは圧倒的だ。

    彼女の言葉の持つ説得力も、その行動力と強さが裏打ちしている。

    それでも、デレシアが人間である以上、死なないという事はない。

     

    まだ見たことも想像することも出来ないが、デレシアにとっての天敵がこの世界にはいるはずだ。

    彼女にこれ以上負担がかからないようにするためにも、ブーンは目的を果たさなければならない。

    何より、自分がどこまで出来るのか、それを確かめたかった。

    覚悟を決め、ブーンはディのハンドルを強く握った。

     

    ブーンにはまだやるべきことがある。

    やらなければならないこと。

    やらなければ一生後悔すること。

    その瞬間までは気を抜くことはできない。

     

    ――ディは何も喋らなかった。

    彼女はバイクであり、喋るようには設計されていなかった。

    だがもし、彼女に言葉を発する機能が備わっていたならば、ブーンの決意に対して称賛を送っていた事だろう。

    だが彼女は喋ることはなかった。

     

    ブーンを乗せたディは、事前に入力された場所に向けて静かに、だが迅速に移動を続けた。

     

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    信号弾が打ち上げられたその真下には二人の人間がいた。

    二人がいるのは古びた商店街。

    勿論、この嵐と空気の中で店を広げている剛の者はいない。

    一人はカーキ色のローブを見に纏い、頭から被ったフードの下に豪奢な金髪と宝石のような空色の碧眼を持つ女性。

     

    この島で多くの人間を巻き込む嵐の中心。

    デレシアは豪雨の中でもはっきりと耳に届く澄み切った声で、対峙する男に言葉を送った。

     

    ζ(゚ー゚*ζ「貴方がいると聞いていたけど、流石ね。

          ジョルジュ・マグナーニ」

     

    フルネームで名前を呼ばれたジョルジュはと言えば、黒のポンチョを被り、その鳶色の瞳はギラギラと輝いている。

    馳走を前にした野犬のようだった。

      _

    ( ゚∀゚)「……久しぶりだな、えぇ、おい」

     

    その言葉は再会を喜ぶというには、あまりにも愛想が無く、残忍な響きに満ちていた。

    何より、ジョルジュの目がデレシアを視線だけで射殺さんばかりに鋭い輝きを放ち、言葉以上の殺意を向けていた。

    大の大人であっても射竦めるというその視線だが、デレシアにとっては蚊が刺す程のものにも感じることはない。

    涼しげにその声と視線を流し、あくまでも自分のペースで話を続ける。

     

    ζ(゚ー゚*ζ「そうね、えぇ、本当に久しぶりね。

          警察を辞めたそうね、貴方は」

     

    ジョルジュは警察官として、何度もデレシアの前に現れたことがあった。

    当時の彼は正義感に満ち溢れ、そして、その正義の執行の仕方が今のジュスティア警察とは対照的に暴力的な人物だった。

    彼なりの正義を果たし続けることで多くの汚れ仕事を引き受けることとなり、付いた渾名は“汚れ人”。

    しかし、彼が汚れなければ生き延びて多くの人間に危害を加えた犯罪者がいたのも事実であり、その存在は警察の中でも暗黙の内に受け入れられていた。

     

    誰かが汚れなければならないのならば、自分が喜んで汚れる。

    それが、口には出さないがジョルジュの信念だった。

    汚れることを恐れて何もしない警察官が横行している中、ジョルジュの姿勢は好ましい物だった。

    風の噂でジョルジュが警官を辞めたという事を耳に挟んだ時、デレシアは落胆した。

     

    彼の行動に対してではなく、彼を繋ぎ留めなかった警察に対しての落胆だった。

      _

    ( ゚∀゚)「あぁ、そうだ」

     

    当の本人は辞めたことに対して後悔の念はなさそうだ。

    本人の意志、才能、そして職が食い違う事は稀にあるが、ジョルジュの場合はそういった相性の問題で辞めたわけではないのだろう。

     

    ζ(゚ー゚*ζ「退職金は出たの?」

      _

    ( ゚∀゚)「まぁな、だが、手前も知ってるだろうが俺は一言多い人間なんでな。

        大分減っちまったよ」

     

    ζ(゚ー゚*ζ「貴方らしいわね。

          辞めたのは方向性の不一致?」

      _

    ( ゚∀゚)「へっ、知ってるだろうが。

        ……手前を追うためだよ」

     

    ζ(゚ー゚*ζ「……」

     

    知っている。

    ジョルジュは現役時代、デレシアを執拗に追ってきた。

    何度も追いかけ、何度も逮捕しようと試みた。

    その努力は認めるが、その努力が実った事は今日まで一度もない。

     

    二人が出会ったきっかけは些細なことだった。

    旅の途中でデレシアが撃ち殺した犯罪者が偶然にもジョルジュが狙っていた犯罪者であり、獲物を横取りされたジョルジュが事情を聴くためにデレシアを追ってきたのが始まりだ。

    無論、デレシアは旅を続ける人間であり、どこか一か所に長い間滞在することもせず、ましてや刑務所に行く趣味はなかった。

    故に、デレシアは半ば楽しみながらジョルジュの追跡を振り払い続けた。

     

    必死に追いかけてくるジョルジュは、次第に気づいてしまったことだろう。

    デレシアの名を追いかければ自ずと入ってくる情報と、それが生み出す多くの謎に。

      _

    ( ゚∀゚)「デレシアって名前は、ジュスティアの歴史では偉人にも匹敵する存在だ。

        同時に、イルトリアの歴史にも出てくる。

        それだけじゃねぇ。

        セントラス、オアシズ、ティンカーベル、エライジャクレグ、ヴィンス、ストーンウォール、恐らくは世界中の歴史のどこかに手前がいやがる。

     

        ま る で 手 前 が 一 人 じ ゃ ね ぇ み た い に な」

     

    ζ(゚ー゚*ζ「……それで?」

     

    そう。

    調べるだけならば誰にでも出来る。

    事実、ジュスティアにいる一部の人間はデレシアの名を文献で知っているし、オアシズの乗客名簿にも航行開始日から名前が残っている。

    だがそこまで。

     

    そこから先を知ることが出来るか否かが問題なのである。

      _

    ( ゚∀゚)「デレシア、俺は手前の正体を掴む。

        世界がどうなろうと俺の知ったこっちゃねぇ。

        俺が知りてぇのは手前の事だ。

        いや、手前等、かもしれねぇな」

     

    ζ(゚ー゚*ζ「あらあら、まるで三十路の若造がするような青臭い告白ね。

          警察を辞める必要がどこにあるのかしら?

          人を退職の理由に使わないでほしいわね。

          それに、私の事を知ったところで何もいいことはないわよ」

     

    正体については別に秘密にしているわけではないため、誰かに知られたところでデレシアとしては全く困ることはない。

    第一、秘密にするようなことではない。

    こんなつまらないことのためにジョルジュは魅力を捨てたというのだから、あまりにも馬鹿げた話だ。

    本当に、馬鹿げた話だ。

     

    デレシアの秘密と言う心底どうでもいい事象、それこそ、神の実在を証明するかのような愚行のためにティンバーランドに下ったのだ。

    無い物を追って、己がかつて憎んでいた悪に染まったのだ。

    汚れ人ではなく、汚れその物になったのだ。

    残念極まりない。

     

    知り合いがこうして堕落してしまうのは、何度見ても慣れない。

      _

    ( ゚∀゚)「手前の正体を知りてぇってのは、俺の知識欲の話だ。

         その目的を達するためには警察なんて組織、俺の肌には合わねぇんだ」

     

    ζ(゚ー゚*ζ「そうかしら?

          猪突猛進な貴方にはぴったりだと思うわよ。

          私、貴方の事結構高く評価していたのよ。

          なのに、ティンバーランドなんかに入るなんてね」

     

    これは本心だ。

    彼は優秀な警官だった。

    極めて優秀な警官だったのだ。

    権力ではなく、ルールを順守する全ての人間を守るための力として、彼は粉骨砕身の努力を続けてきたのだ。

      _

    ( ゚∀゚)「……黙れよ。

        手前が見てるのはもっと別の事だろ。

        俺はそれが知りてぇ。

        その為だったらティンバーランドだって利用してやるさ」

     

    もう、この問答を続けていることがデレシアは悲しかった。

    彼女の知るジョルジュが別の物へと変わってしまったことを実感してしまう。

    今すぐにその頭を吹き飛ばして殺すことも厭わないが、彼には最後まで踊ってもらいたいという気持ちが強かった。

    それが知り合いとしてかけてやれる、せめてもの慈悲だった。

     

    ζ(゚ー゚*ζ「気持ちは嬉しいんだけど、残念。

           私、今の貴方にはとてもじゃないけど興味を持てないの。

           理由や目的はさておいて、ティンバーランドなんかに墜ちた貴方は魅力に欠けるわ。

           本当に残念。 えぇ、本当に」

      _

    ( ゚∀゚)「残念に思われようが何だろうが、俺は俺のやりたいことをやるだけだ。

        俺の正義に殉じる、それが俺の生き方なんだよ」

     

    ζ(゚ー゚*ζ「同じ考えのトラギコの方が、まだ筋が通っているわね。

          あの子、まるで昔の貴方にそっくり。

          後輩を見習ったらどうかしら、“汚れ人”のジョルジュ・マグナーニ」

     

    若かりし頃のジョルジュを彷彿とさせる、トラギコ・マウンテンライト。

    彼は彼なりに正義を貫こうとしている。

    ティンバーランドに堕ちることなく、デレシアを追ってきている。

    自らの努力と実力でデレシアの正体を調べ、見つけ出せるかもしれない人間として、彼女はトラギコの行動を温かく見守ることにしていた。

     

    墜ちたジョルジュとは違う進み方を、デレシアは期待していた。

    少なくとも、今のジョルジュよりもよほど期待できる人間だった。

      _

    ( ゚∀゚)「はっ、知ったこっちゃねぇ。

        それに、汚れるのは俺の特技なんでな。

        お前の秘密、教えてもらうぞ、デレシア」

     

    ζ(゚ー゚*ζ「女の秘密を暴こうなんて、無粋な人ね」

     

    ローブの下ではすでに銃把に手が伸びていた。

    ジョルジュ相手に油断はできない。

    彼を評価していたのは何も、その信念と在り方だけではない。

      _

    ( ゚∀゚)「無粋も俺の特技の一つなんだよ。

        ……手足の12本は覚悟してもらうぞ」

     

    ζ(゚ー゚*ζ「魅力のなくなった貴方に、もう興味はないの。

           そこを退きなさい。

           それとも、力づくで退かされたいのかしら?」

     

    そして。

    ジョルジュは口にする。

    戦いの口上。

    必殺の決意を。

     

      _       Go ahead.       Make my day.

    ( ゚∀゚)『……お も し れ ぇ 、 や っ て み ろ』

     

    ポンチョの下で装着されるのは対強化外骨格用の拳銃を扱う、“ダーティ・ハリー”。

    トラギコの持つ“ブリッツ”とは対極にある棺桶だ。

    だがそれだけではない。

    ジョルジュが使うのはスミス&ウェッソンの44マグナム。

     

    装着を終え、コンテナがポンチョの中から地面に落ちる。

    ダーティ・ハリーの弾を生身の人間が受ければ血煙と化すだろう。

    強化外骨格に対して使用される銃弾の中でも抜群の破壊力を追求したその弾は、ただの人間相手に使うには過ぎた代物だ。

     

    ζ(゚ー゚*ζ「残念ね、本当に」

     

    次の瞬間。

    絶え間なく降り注ぐ雨の合間。

    暴風の吹き荒ぶ風の隙間。

    魔法の様な静寂の瞬間に、二人はほぼ同時に銃を抜き放ち、その銃腔を相手に向けていた。

     

    撃鉄はすでに起きていた。

    銃爪に指はかかり、そして、同時に銃爪を引いた。

    初弾、ジョルジュが放ったのは一発の銃声に対して三発の高速射撃。

    ダーティ・ハリー本体は使わず、スミス&ウェッソンを使って連射力を重視したのだ。

     

    デレシアの読み通りの動き。

    対するデレシアは両手のデザートイーグルから二発ずつ、合計四発の発砲。

    空中で三発の銃弾が正面からぶつかり、相殺し合う。

    威力で言えばデレシアの銃の方が上だったが、狙った場所に放たれた銃弾はあらぬ方向に逸れるか、地面に落ちて意味をなさなかった。

     

    また、ジョルジュが撃ち漏らした一発はすでにその場から横跳びに移動した彼のポンチョの裾に穴をあけるだけとなり、ダメージを与えられなかった。

    もしも相手が常人であれば、この撃ち合いで勝負は決し、新たな弾丸が放たれることはなかった事だろう。

    しかし。

    相手はジョルジュ。

     

    ――ジュスティア警察があらゆる汚れ仕事を請け負わせた影の英雄、ジョルジュ・マグナーニその人なのだ。

     

    この程度では終わらない。

    終わるはずがない。

    デレシアも素早くその場所から移動し、ジョルジュが身を潜めた商店のガラス戸に向けて銃弾を撃ち込む。

    ガラス戸は勿論の事、その奥にあった木製の棚は無残にも砕け散り、その合間にジョルジュが撃ち返してくる。

     

    それを避けつつ、デレシアも物陰に身を潜めた。

    弾倉を交換し、銃弾が飛んでくる場所に向けて発砲する。

    互いの弾は遮蔽物を破壊、貫通する威力を持っているため、商品棚では防御の役割を果たすことはない。

    二人の銃撃戦がこれ以上加熱すれば、流石に民間人にも実害が出かねない。

     

    あまり気乗りはしないが、ジョルジュに近接戦闘を仕掛けるのがいいだろう。

    そう思って身を乗り出しかけた時、バイクのエンジン音が近付いてくるのに気付いた。

     

    ζ(゚、゚*ζ「……来たわね」

     

    デレシアの声に合わせるかのようにして、二台のバイクが商店街に姿を現した。

    運転していた内の一人がバイクの上に立ち、もう一人は車体を寝かせて急制動をかける。

    急制動をかけたものの、濡れた路面の上をバイクは滑るようにスライドして止まることはない。

    派手な演出の中、デレシアの耳は二種類の言葉を聞き取っていた。

     

    (´・ω・`)『英雄の報酬は、銃弾を撃ち込まれることだ!』

     

    これはバイクの上に立った男、ショボン・パドローネの声。

    勇ましく口にしたのは“ダイ・ハード”の起動コード。

    高速機動戦闘に特化した棺桶で、その脚部に備わった高周波装置を内蔵した一対の可変式の楯は攻守を両立するための武器だ。

    同クラスの棺桶を蹴りで破壊することのできる数少ない棺桶だ。

     

    (´・_ゝ・`)『姿は見えないが殺意は見える!』

     

    そしてこれは、バイクをスライドさせて死角を作ろうとした男の声。

    カメラと肉眼の両方で透明人間となる事の出来る“インビジブル”の起動コードだ。

    本命はこの男、つまり、デミタス・エドワードグリーンだろう。

    視界を支配すればデレシアを討てると信じている、浅はかな馬鹿の考えそうなことだ。

     

    ::[-=-])『これで終わりだ、糞女!』

     

    バイクからショボンが飛び上がる。

    陽動目的なのがまる分かりである。

    その証拠に、デミタスは早くも光学迷彩を起動させて姿を風景に溶け込ませている。

    インビジブルが雨の日に弱いことも知らずに、実に健気なことだ。

     

    デレシアは突然現れた二人の増援に対して動揺を見せることもなく、最初の狙いを哀れなデミタスに定めた。

    だが、思わぬところから聞こえた銃声がその場を凍り付かせた。

    着地と同時に攻撃態勢に入ろうとしていたショボンの足元にジョルジュが発砲したのだ。

      _

    (#゚∀゚)「……手を出すなよ、ショボン」

     

    抜き放たれているのはスミス&ウェッソンではない。

    強化外骨格の堅牢な装甲を貫通可能な大口径拳銃。

    60口径の超大型回転式拳銃“オートマチック・ツェリザカ”。

    その威力は、分厚い装甲で24時間使用者を守り通すという設計をされた“トゥエンティー・フォー”の装甲を難なく貫通する。

     

    フルオート射撃にも対応し、装弾数は六発。

    必殺の弾がそれだけあれば、ダイ・ハードなどいともたやすく行動不能に陥らせることが出来る。

     

    ::[-=-])『……何かあると思ったら、やっぱりそうか。

         ジョルジュ、君はデレシアと面識があるんだな?』

      _

    (#゚∀゚)「うるせえ、すっこんでろ。

        禿野郎が」

     

    この性格は昔から変わっていない。

    ジョルジュは縄張り意識、獲物意識が非常に強い男だ。

    デレシアを追うきっかけになったのもその性格が原因であり、今こうしてデレシアの前に現れている原因でもある。

    この絶好の機会に仲間割れをするとは、流石ティンバーランド。

     

    ジョルジュの性格をよく分かっていれば、この場面で邪魔をすることはなかったはずだ。

    我先にと彼らの言う大義を果たさんとするために動くことを良しとしているため、こうなるのだ。

    そして、仲 間 割 れ を 即 興 で 演 じ る と い う や り 口 は 、 あ ま り に も 使 い ま わ さ れ た 手 だ っ た 。

     

    ζ(゚ー゚*ζ「はい、残念」

     

    デレシアは銃爪を引き、人影も何もない空間に発砲した。

    直後、それまで姿を消していたデミタスが膝を突いた姿で現れた。

     

    (;´・_ゝ・`)「……くそっ!! どうして!!」

     

    対人用の銃弾は膝頭を掠め、薄手の強化外骨格の装甲と肉を抉り取っていた。

    ベーコン・シリーズのインビジブルは装甲とは言い難い薄い素材で作られ、僅かばかりの戦闘補助、そして全身を不可視化する能力を得ている。

    全方位型のカメラで周囲の情景を取り込み、それを特殊な繊維に反映させることで光学迷彩としての機能を果たしているが、欠点もある。

    バッテリーが小型であることと映像処理に使用する装置の相性が悪く、不可視化するのは最大で三十秒。

     

    そして、武器を使用する際には武器は透過処理することができず、小型のポーチに収納できる武器しか携行が出来ない。

    そのため、使用する武器は基本的に高周波発生装置の備わったナイフか、小型の拳銃――四十五口径が好ましい――に限られる。

    何より、インビジブルに限った話ではないが、ベーコン・シリーズが抱えている問題があった。

    斬新な技術をいち早く実用化するが故に、細かな不具合がどうしてもついて回ってしまうのだ。

     

    先駆者の悩み。

    インビジブルについて言えば、跫音を減らすための工夫が靴底にされていないこと、そして付着した雨の投下処理の甘さが挙げられる。

    音に頼らずともデレシアはインビジブルの使用者の位置を正確に知る事が出来るが、デミタスはあまりにも無知過ぎるため、初歩的な部分が出来ていなかった。

     

    ζ(゚ー゚*ζ「自分の使う棺桶の弱点ぐらい調べておきなさい。

           でないと、それがそのまま本当の棺桶代わりになるわよ」

     

    (;´・_ゝ・`)「ちっ!!」

      _

    (#゚∀゚)「どいつもこいつも使えねぇ……

        いいか、その女は生け捕りにしろよ。

        お前らなんかが束になっても相手にならねぇんだよ、そいつは!!」

     

    ::[-=-])『殺すのが僕らの任務だろう。

         少しは利害を考えてくれ、ジョル――』

     

    刹那。

    ダイ・ハードの姿が掻き消えたかと思うと、デレシアの目の前にその巨大な脚部が現れていた。

     

    ::[-=-])『――ジュ!!』

     

    ζ(゚ー゚*ζ「……」

     

    飛び蹴りの一閃。

    デレシアの首を刈り取らんと放たれた横凪の一蹴を、僅かに腰を曲げて回避し、代わりに、鎌鼬のように洗練されたハイキックを見舞った。

    その一撃は中空で回避行動のとれないショボンを的確に捉え、膝を突いて休んでいたデミタスの上に叩き落とした。

     

    ::[-=-])『ぐぉっ?!』

     

    (;´・_ゝ・`)「ぬっ!?」

     

    デミタスは辛うじて両腕を眼前で交差させ、頭部がダイ・ハードの重量で潰されるのを防いだ。

    しかし、好きを窺っていたデミタスはダイ・ハードの下敷きとなった。

      _

    (#゚∀゚)「言わんこっちゃねぇ!!」

     

    ジョルジュの警告は的確だったが、味方が無知過ぎた。

    殺そうと迫ってくる相手であれば、その行動は手に取るように分かる。

    生け捕り、もしくは殺害の両方が選択肢にあれば行動の幅は広がってくる。

    その点、ジョルジュはデレシアとの戦い方を少しは分かっていた。

     

    ζ(゚ー゚*ζ「さ、どうする?

          三人がかりで来てもいいわよ、別に」

     

    ローブの下に隠したデザートイーグルの弾倉を対強化外骨格用の強装弾入りの物に交換し、準備を整える。

    攻撃をいなすのは容易だが、棺桶の中にいる人間を殺すのは少しだけ手間がかかる。

    デミタスとジョルジュは問題ないが、ダイ・ハードは脚部の装甲が楯としてデレシアの弾丸を防いでしまう。

    となると、いつでも殺せるようになったデミタスは放置して、面倒なショボンから始末するのが得策だろう。

     

    ::[-=-])『思い上がるなよ、糞女!』

      _

    (#゚∀゚)「……手前、禿野郎。 俺の話を聞いてねぇのか。

        その女はそんな簡単には潰せねぇんだよ」

     

    殺意と敵意を一身に向けられるデレシアの耳に、再びエンジン音が届いた。

    台数は一台。

    遅れてきた増援だろう。

     

    lw´‐ _‐ノv『この歌が聞こえるか? 怒れる者たちの歌が聞こえるか? これは二度と囚われぬ者たちの歌』

     

    シュール・ディンケラッカーの声で述べられた珍しい棺桶の起動コードが聞こえ、思わずデレシアは苦笑した。

    想像を絶するセンスによって想像を絶するカラーリングを施された、コンセプト・シリーズのコードだ。

    “レ・ミゼラブル”。

    音を武器として取り入れた珍しいタイプの物で、ベーコン・シリーズの“フットルース”から色濃く影響を受けた棺桶だ。

     

    フットルースが戦意高揚を行うのに対して、レ・ミゼラブルは戦意喪失を目的として作成され、暴徒の鎮圧などに使われる予定だった。

    だがカラーリングが奇抜すぎたことと、多数を相手にする実戦では短機関銃と比べて制圧力が低いことから配備が見送られた機体である。

    曲がり角から現れた時には、すでに装着が済んだ状態の姿だった。

     

    [:::|::]レ『……そいつが標的?』

     

    ::[-=-])『そうだ』

     

    直後、独特の音域で奏でる不協和音がデレシアに向けて流された。

    躊躇いの無さは決意の固さを表している。

    しかし、決意だけで世の中は回っていない。

     

    ζ(゚、゚*ζ「煩い、近所迷惑でしょ」

     

    [:::|::]レ『?!』

     

    銃声を二つ。

    二発の銃弾は正確にレ・ミゼラブルの両肩に装着されたスピーカーを破壊し、その機能を無効化した。

    これがレ・ミゼラブルの弱点。

    スピーカーを失えば、ただの目立つ的でしかなくなるのだ。

     

    前線に立つよりも後方の安全な場所から使うべき棺桶なのに、どうしてかこうして前に出てきた。

    トラギコ相手に優位に立ったことから調子に乗っているのだろう。

     

    ζ(゚ー゚*ζ「で、終わり?」

     

    いがみ合っていたはずのジョルジュとショボンが息を合わせて動いた。

    44マグナムでジョルジュが牽制射撃を加えながら、ショボンが再度近接戦闘を挑んでくる。

    デレシアは冷静に、かつ正確に狙いを定め、ダイ・ハードに50口径の弾丸を撃ち込みつつ、店の中に続くシャッターを後ろ蹴りで破壊し、退路を確保する。

    一撃で破壊されたシャッターはまるで暖簾のように頼りのない物となったが、目隠しの効果が期待できた。

     

    ::[-=-])『らぁっ!!』

     

    地を這うように低い疾走。

    そして薙ぎ払うような蹴りが放たれ、デレシアは攻撃が完全な物になる前にショボンの上半身に向けて発砲した。

    両脚の楯が瞬時に展開し、ショボンを凶弾から守る。

    その為、ショボンは銃弾を防ぐために一瞬だけ動きを止めざるを得なくなった。

     

    接近を防ぎつつ、デレシアはシャッターを背中で押して退けて店内に入った。

    店内に並ぶショーケースに展示されている商品を見ると、どうやら置物などの土産を取り扱っている店の様だ。

    武器になりそうな物が無いとみると、デレシアは両腕をローブの下に隠した。

     

    ::[-=-])『援護を!!』

     

    シャッターの向こうでショボンが叫ぶ。

    頼りなさげに風に揺れていたシャッターが外側に向けて引き千切られ、そこに楯を展開した状態のショボンが現れた。

     

    ::[-=-])『ここで死ね!!』

     

    ζ(゚ー゚*ζ「いやよ」

     

    電光石火の速度で構えたのは水平二連式ソード・オフ・ショットガン。

    装填されているのは対強化外骨格用の強装弾で、その大きさ故に衝撃と破壊力は抜群だ。

    ショボンが現れた瞬間、四つの銃腔が火を噴いた。

    先ほどと同じようにして楯を展開し、弾を防ごうとする。

     

    だが、高周波装置を起動しなかったのは失敗だ。

    先ほどもデザートイーグルの弾をそのままの状態で防いでいたことから、デレシアは次も同様に防ぐだろうと予想をしていた。

    結果は大当たり。

    予想以上の衝撃によって楯は弾かれ、過負荷のかかった関節が逆に曲がって折れた。

     

    ::[-=-])『なっ?!』

     

    ζ(゚ー゚*ζ「出し惜しみするような余裕があるのかしらね?」

     

    四枚ある楯の全てが無力化された今、ダイ・ハードは肉弾戦以外に戦う術を持たない。

    コンセプト・シリーズの持つジレンマ。

    特化している部分を取り除かれれば、残るのは絞り粕のような機体だけ。

    汎用型ではないため、残された能力だけで立ち向かわなければならない。

     

    今、デレシアは目の前に現れた三体のコンセプト・シリーズをほぼ無力化した。

    それは彼らが棺桶の能力に頼り切ったことが招いた失態であり、当然の結果だった。

    唯一、ジョルジュだけは別だ。

    彼は己の棺桶の性能を理解した上でデレシアとの戦いに挑んでいた。

     

    ζ(゚ー゚*ζ「さ、どうする?」

     

    四つの薬莢を廃莢し、目にもとまらぬ速さで再装填を行う。

    そして得物をデザートイーグルに持ち替え、弾種をINFIn the Name of Father)から対強化外骨格用の物に完全に入れ替えた。

    この間、一秒にも満たない早業だった。

     

    ::[-=-])『糞っ!!』

     

    ここで突撃してくる者があれば、それは底なしの無能であることを証明する何よりの振る舞いとなる。

    デレシアに対して策謀を巡らせるだけあって、ショボンは潔くその場を退いた。

    賢い選択だった。

    ショボンの撤退を援護するように、ジョルジュの射撃がシャッターを貫通してきた。

     

    相変わらず的確な対処だ。

    嗚呼。

    残念で仕方がない。

    ティンバーランドにはもったいない男だというのに、こんな形で堕ちてしまうとは。

     

    [:::|::]レ『……やって!!』

     

    (:::○山○)『燃やすアル!』

     

    新たな声。

    それは、オアシズにいた餃子屋の男の声だった。

    確か名前は、シナー・クラークス。

    ブーンの教育に役立ってくれた人間だ。

     

    とても残念な知らせばかりが続く。

    彼の宣言を証明するように、赤い焔がシャッターを染め上げた。

    その炎は瞬く間にシャッターを融かした。

     

    ζ(゚、゚*ζ「……“ファイヤ・ウィズ・ファイヤ”ね」

     

    炎には炎をもって戦わせよ、の名前を冠せられたコンセプト・シリーズだ。

    火炎放射兵装を備えた棺桶の中でもトップクラスの耐熱性、そして粘度の高い科学化合物の使用による安定した燃料の供給。

    全ての炎を制圧することに特化して作られた棺桶。

    耐熱に優れた装甲は自らの炎で焼かれることもなく、マグマの中でさえ問題なく活動することが出来る。

     

    ζ(゚ー゚*ζ「でもね……」

     

    熱に強くても、炎以外に対する特性があるわけではない。

    それこそがコンセプト・シリーズ。

    デザートイーグルの銃腔を炎の向こうに向け、銃弾の雨を降らせる。

    一発一発が必殺の弾丸。

     

    (:::○山○)『ぐっ!!』

     

    シャッターの向こうに見えていた黒影が飛び退く。

    その姿は間違いなく、ファイヤ・ウィズ・ファイヤだった。

    特徴的な細い脚、そして骸骨の様な顔。

    丸みを帯びた装甲を楯にして弾丸を弾き、難を凌いだ。

     

    ζ(゚ー゚*ζ「ほら、燃やして御覧なさい」

     

    燃え尽きたシャッターが地面に落ち、降り注ぐ雨で急速に冷却されて悲鳴にも似た音を上げた。

    弾倉を交換。

    続けて銃弾を放ち、店から距離を取らせる。

    閃光に照らされた道の上に、先ほどまで倒れていたデミタスの姿はなかった。

     

    デレシアは優雅に表に出て、そこに並ぶ敵を一睨した。

    上半身から湯気を立てるのはシナー。

    その傍でショボンは膝を突き、デミタスがその陰でショットガンを構えていた。

    ジョルジュの姿は無く、だが、物陰からデレシアを睨んでいることはよく分かった。

     

    ζ(゚ー゚*ζ「あら、その散弾でどうするつもりなの?」

     

    (;´・_ゝ・`)「殺してやる!!」

     

    宣言通りの発砲。

    それを掲げたローブで防ぎ、デレシアは容赦なくデミタスの膝頭を撃った。

    その銃弾はデミタスの左膝から先を分離させた。

     

    (;´・_ゝ・`)「ああっ?!」

     

    [:::|::]レ『この女っ!!』

     

    負傷したデミタスを素早くシュールが庇う。

    音響兵器を失ったレ・ミゼラブルに出来る事と言えば、それぐらいしかない。

     

    ζ(゚ー゚*ζ「それはマナー違反でしょう、デミタス。

          ジョルジュ、後でよく教育しておきなさい」

     

    雷鳴が轟く。

    風にあおられた鐘が、不気味な音色を奏でる。

    島中に響き渡るのは風の音と鐘の音。

    今、嵐の中心は間違いなくデレシアのいるこの場所にこそあった。

     

    ζ(゚ー゚*ζ「黄金の大樹を名乗る大馬鹿がこれだけ雁首を揃えて何も出来ないとは、情けない話ね」

     

    ::[-=-])『……見え透いた挑発をよくも言えたもんだ。

          お前が仕向けた囮は無駄だったというのに、勝った気になっているとはな』

     

    ζ(゚ー゚*ζ「囮?」

     

    その言葉に、笑いが漏れ出そうになるのをどうにか堪える。

     

    ::[-=-])『糞耳付きの糞ガキだよ。

          それとも、囮ですらなかったってことか?

          そりゃそうだろうな、耳付きのガキなんて――』

     

    流石に我慢の限界だった。

    利口ぶった馬鹿の姿は見ていて滑稽極まりない。

     

    ζ(゚ー゚*ζ「ふふ、馬鹿丸出しね。

           囮なら目の前にいるじゃない、ほら」

     

    ::[-=-])『……は?』

     

    ζ(゚ー゚*ζ「私が囮よ。

          残念ね、早とちりよ」

     

    そう。

    囮は最初から最後までデレシアなのだ。

    相手が求める存在が動いて初めて、囮は意味を成す。

    その点、デレシアはこの島にいる誰よりも適任だった。

     

    ティンバーランドの人間はデレシアを何としても探し出し、殺したいだろう。

    その望みをちらつかせれば食いついてくると思い、デレシアは一計を講じることにした。

    ブーンをディに乗せ、ヒートの迎えに寄越したのだ。

    彼を囮と勘違いしたショボン達はデレシアへと狙いを変え、こちらの思惑通りに動いてくれた。

     

    ::[-=-])『何を言っている、お前は』

      _

    (;゚∀゚)「……手前、やりやがったな!!」

     

    気付いたのはジョルジュだった。

    彼もまた、デレシアに利用された人間だった。

    声だけでも彼が焦り、苛立っているのがよく分かる。

      _

    (;゚∀゚)「信号弾は駄目押しか……」

     

    ::[-=-])『何?! ジョルジュ、あれは君が撃ったんじゃ!!』

     

    タイミングを見計らって放った信号弾は、デレシアからブーンへの合図。

    深い意味のない、ただの合図だった。

    それはデレシアが何らかの動きをすることを示す合図であり、作戦が順調に進んでいることを表す合図でもあった。

    そして、状況からその信号弾を都合のいいものに解釈した人間がやってくる、誘蛾灯のような物だ。

     

    狙い通りに誘われて来たというのに、自慢げに語るショボンの姿は実にみじめな物だった。

      _

    (;゚∀゚)「目的は最初から最後までヒートか……!!」

     

    ζ(゚ー゚*ζ「さぁ? ヒントはここまで。

          後はどうぞゆっくりと考えておいて」

     

    一つの合図が一つの意味しか持たない、とは限らない。

    同時に、囮の目的も一つとは限らないのだ。

      _

    (;゚∀゚)「っ?!」

     

    屋上から降り立った二人も、デレシアの答えの一つ。

    二つの影はデレシアを背にし、その視線をショボン達に向けた。

     

    ζ(゚ー゚*ζ「さ、後はどうぞお好きに」

     

    ショボン達と対峙する形で現れたのは、二人の騎士だった。

    円卓十二騎士のダニー・エクストプラズマンとショーン・コネリ。

    匿名の情報を信じ、思った通りに踊ってくれた優秀な駒。

     

    'ト―-イ、

    `゚益゚似『……ここまでシナリオ通りとはな』

     

    <::[-::::,|,:::]『癪だが、認めるしかあるまい』

     

    この二人が最優先で望んでいるのは島での騒動を治め、脱獄犯の始末をつけること。

    情報が無く、藁にも縋る思いになっていた彼らに向けて送ったデレシアのメッセージはかなりの効果があった。

    デレシアが行ったのはオアシズの市長、リッチー・マニーからジュスティアに情報を流すという行為。

    信頼の無い人間から伝えられる情報よりも、信頼できる人間からの情報であれば信じざるを得ない状況がデレシアにとっては好都合だった。

     

    <::[-::::,|,:::]『ここで悪を切り伏せる』

     

    “アーティクト・ナイン”を装着したショーンが対強化外骨格用に設計された高周波刀を抜刀する。

     

    'ト―-イ、

    `゚益゚似『……最終ラウンドだ』

     

    両腕の高周波発生装置を起動させ、エクストの腕は蒸気のように細かく飛び散った水によって白く染まった。

    損傷したコンセプト・シリーズでは太刀打ちできないだろう。

    こういった事態の訓練を積んでいれば話は別だが、急造チームの彼らにそれは無理な話だ。

    一人を除いて。

      _

    (#゚∀゚)「嘗めるなよ、おい」

     

    立ちはだかるのはジョルジュ・マグナーニ。

    物陰から姿を現し、ツェリザカを二人の騎士に向ける。

    一方で、スミス&ウェッソンの銃腔はデレシアに向けられていた。

     

    <::[-::::,|,:::]『……驚いた、ジョルジュ・マグナーニか。

           あの、ジョルジュ・“ダーティ”・マグナーニか!!』

      _

    ( ゚∀゚)「ショボン、そいつらを連れて引き揚げろ。

        時間稼ぎをしてやる。

        文句も質問も、その後だ」

     

    ショボン達は忌々しげにデレシア達を一瞥し、その場から駆け出した。

    逃げ去っていく背中を追うことなく、二人の騎士は同郷の裏切り者に殺意を向けていた。

    騎士が許せないのは不義、不正、そして傲慢な悪。

    ジョルジュはその全てに該当していた。

     

    <::[-::::,|,:::]『一人で我々を相手にすると?

          あまつさえ、時間を稼ぐと?』

      _

    ( ゚∀゚)「呆れたか?

        それとも、俺との勝負は怖くて出来ねぇか」

     

    <::[-::::,|,:::]『逆だ、ジョルジュ。

          その気概が無ければ、ただ切り倒しても意味がない。

          良いだろう、その勝負乗った』

      _

    ( ゚∀゚)「いいぞ、男の子。

        それと、勘違いが一つある。

        相手をするのは俺だけじゃねぇ」

     

    <::[-::::,|,:::]『何?』

      _

    ( ゚∀゚)「俺と、こいつらさ」

     

    両手の中にある銃の撃鉄をこれ見よがしに起こし、ジョルジュは皮肉気な笑顔を浮かべた。

    完全な、言い訳の余地もない挑発だった。

     

    <::[-::::,|,:::]『はははっ、ジョークが上手い――なっ!!』

     

    'ト―-イ、

    `゚益゚似『しっ!!』

     

    駆け抜けたのは騎士二人。

    ダーティ・ハリーの領域である中距離ではなく、二人の得意な距離である近距離を選択したことは自然なことだ。

    誰だってそうする。

    そう、 誰 で も そ う す る だ ろ う 。

      _

    ( ゚∀゚)「嘗めるなって言っただろ!!」

     

    急速に接近するためには、駆け出した瞬間に最も無防備な瞬間が生まれる。

    初動の起こりに合わせる事が出来れば、敵は攻撃を受けざるを得なくなる。

    しかしそれは目にも止まらぬ速度、反射神経で補うにはあまりにも速すぎる領域。

    凡人には捉えることのできない刹那の時間。

     

    ジョルジュはその刹那の時間に介入することのできる人間だった。

    二方向に分かれての移動に対して、ジョルジュはスミス&ウェッソンを手放してツェリザカを持つ右腕を閃めかせた。

    スミス&ウェッソンが地面に落ちるよりも前に、銃声が一つ。

    それは正に閃光の技だった。

     

    多くの悪党を前に独り立ち向かった男が身に付けた、ジュスティア最速の技。

    銃弾を弾こうとしたエクストはすぐにその失態に気付き、バク転で緊急回避を試みる。

    もしもそのまま拳で受け止めていれば、弾丸自体は粉砕できたかもしれないが、運動エネルギーによって関節が破壊されていた事だろう。

    高周波振動する装甲を掠める程の距離で銃弾を回避することに成功し、エクストは辛うじて体勢を立て直すも駆け出しの瞬間が持つ加速力は完全に失われた。

     

    ショーンは高周波刀を水平に振い、銃弾を切り裂いた。

    刀は衝撃で撓んだが、折れることはなかった。

    切りかかる勢いとタイミングがずらされたことにより、彼の狙っていた攻撃は霧散した。

    再度攻撃を仕掛ける方法を練り直さなければならない。

     

    こうして、それぞれの方法で二人とも銃弾を防いだ。

    一発目の銃弾は、だが。

    あの一閃の中で、ジョルジュは四発の銃弾を撃ち込んでいたのだ。

    よほど注意深く彼の銃声を聞いていても、それが四つに聞こえた人間は極めて稀だろう。

     

    追撃の銃弾は二人の騎士の得物、拳と刀を弾き飛ばした。

      _

    ( ゚∀゚)「どうしたよ、騎士様よ」

     

    そして一瞬でリロード。

    流石、ジョルジュだ。

    強化外骨格を相手にどう戦えばいいのかを心得ている。

    後は、騎士相手にどこまで粘れるのか。

     

    <::[-::::,|,:::]『……やるな』

     

    'ト―-イ、

    `゚益゚似『デミタスたちはどうする?』

     

    <::[-::::,|,:::]『あの傷だ。 行く場所は限られる。

          おまけにこの嵐ならヘリコプターは出せないだろう。

          こいつを倒す。

          ……久しぶりに倒し甲斐のある敵が出てきた!!』

     

    デレシアに彼らの勝負の結末を見届ける気はなく、静かにその場を立ち去ることにした。

    そんなデレシアに視線を向けはしなかったが、ジョルジュが決意を込めた低い声で言葉を投げかけた。

      _

    ( ゚∀゚)「……次に会った時は、必ず捕まえてやる。

        それまでは勝手に死ぬなよ」

     

    ζ(゚ー゚*ζ「……やっぱり貴方、警官の方が向いているわよ」

     

    そして、デレシアは豪雨の中に姿を消した。

    銃声が背後で鳴り響き、島の嵐はより一層激しさを増していた。

    この先、嵐の中で何がどう変わっていくのだろうか。

    デレシアは変化の果てに何が待つのかを想像し、心を躍らせた。

     

    ――この時、ティンカーベルの島民を含め、世界中の街に別の嵐が訪れていたことを、デレシアはまだ知らなかった。

     

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                           |[[[[[[[[[[[[[[ |llli ‥…━━ August 11th PM00:48 ━━…‥

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    嵐の中心地は、世界最大の企業内藤財団の本部ビルにあった。

    世界経済の中心地として名高い街、ニョルロック。

    ここでは世界中のあらゆる商品が取引され、あらゆる街の人間が集まる、正に経済都市だ。

    内藤財団が統べる街の中央に聳え立つビルの一室、会見用の部屋には鋭い眼光を放つ女性が複数のマイクと複数のカメラを前に、堂々とした姿で座っていた。

     

    スーツ姿の女性は社交辞令的な言葉を幾つか述べ、新商品である格安ラジオの発表を行った後、集めた記者たちに向けてゆっくりと、一言ずつ言葉を発した。

    それは記者に対して発せられたというよりも、その先にいる人間。

    報道を聞く、世界中の人間に対して向けられているような口調だった。

     

    ξ゚⊿゚)ξ「……さて、本日は内藤財団副社長、西川・ツンディエレ・ホライゾンが内藤財団を代表して、皆さまに発表があります。

         ご存じのように、我々内藤財団は今や世界中に広がる大企業となりました。

         その歴史は古く、我々の名前を知らない世代は今やこの時代にはいないでしょう。

         多くの街、町、村、集落に至るまで、我々の生み出した多くの製品が浸透しております。

     

         ラジオ、新聞、雑誌などの各種媒体に必要不可欠な製品の提供は勿論、医療機器にまで我々の製品が使用されています。

         そんな中、我々はあることに疑問を持っていました。

         現在、我々人類が使用している言語、貨幣単位は一種類です。

         それは世界を繋ぎとめるための重要な鍵であり、潤滑油のようなものです。

     

         つまり、我々の言葉は同一規格なのです。

         故にコミュニケーションに齟齬が出ることなく、今日までの発展がありました。

         しかし。

         同一規格でない物があります」

     

    記者の中には質問好きで知られる者も大勢紛れ込んでいたが、彼女の言葉の持つ魔力によってこの時ばかりは口を閉ざしたまま、一言一句聞き逃すまいと速記していた。

    十分に自分の言葉が周囲に伝わったことを確かめ、ツンディエレは力強く述べた。

     

    ξ゚⊿゚)ξ「それは、“単位”です。

          長さ、重さを示すヤード・ポンド法と呼ばれるこの規格は今でこそ常識ですが、その不便さはかねてから問題視されていました。

          より細かな数字を現す時、状況が異なる時には別の単位で表したり、計算が面倒になったりと実に厄介な物です。

          インチ、フィート、ヤード、チェーン、ハロン、マイル、オンス、ポンド、例を挙げればきりがありません。

     

          これはあまりにも非効率なのです。

          そう、非効率。

          非効率とは即ち進化の妨げであり、取り除かなければならない不具合なのです。

          皆さん、覚えはありませんか?

     

          何インチが一フィートで、何フィートが一ヤードなのか、と。

          瞬時に計算することはとても難しいでしょう。

          これが変われば、より円滑な計算が可能になるのではないか、と考えたことは?

          円滑な計算は経済を加速させ、経済の加速は文明の進化を促します。

     

          内藤財団では、この単位というものについて、長らく疑問を抱き続けてきました。

          更に効率のいいものがあるのではないか。

          より多くの世代の人間が、学習の深度に関わらずすぐに計算することが出来る単位があるのではないか、と。

          そして、ようやくその答えが出せる日が来ました。

     

          世界中に内藤財団の製品が広まった今日こそが、その日なのです。

          製品を発明し続けた我々ですが、次に発明した物、それは単位です。

          実は、内藤財団創設以来、内藤財団ではその単位を基に製品を製造し続けてきました。

          つまり、すぐにでも切り替えられるよう準備をさせていただいていたのです」

     

    彼女の言葉に、その場にいた記者全員が首を縦に振った。

    重さと長さを表す単位は遥か昔からヤード・ポンド法、と呼ばれる物を使ってきているが、計算が厄介であり、どうにか一つの物になればと誰もが思っていた。

    昔なじみの単位ではあるが、厄介な物だった。

    異なる単位に変換する際、計算間違いをしなかった人間はいないだろう。

     

    ξ゚⊿゚)ξ「我々が新たに発明した単位、その名は“メートル法”。

          これは十進法で長さ、重さなどを表すための単位です。

          長さはメートル、重さはグラム。

          これが基準となり、後は同じ基準でそれぞれ次の大きさの単位を使用することになります。

     

          そう、世界が単位を通じて一つになるのです。

          内藤財団は創設時から常に世界がよりよくなることを願い、その実現に貢献してきました。

          詳しい計算方法については明日、全ての地域に無料で配布する新聞をご覧ください。

          ラジオではただいまからコマーシャルの一部として告知が始まります。

     

          また、全ての企業、小売業の方。

          このメートル法に賛同し、導入してくださるのであれば、内藤財団の製品を通常の四割引きの価格でご提供させていただきます。

          全ての製品が対象となります。

          大型の重機、電子機器、食品に至るまで、一切の例外はありません。

     

          今日は記念すべき日。

          改めて、世界中の全ての皆様にお伝えいたします。

          世界を繋ぐ新たな絆、単位を 内 藤 財 団 が 発 明 、 発 表 い た し ま し た」

     

    単位の発明。

    これは世界を変え得る発明だった。

    物ではなく、概念の発明を行った企業は十数世紀の間一社もなかった。

    思いもよらぬ発表に、カメラのフラッシュが絶え間なくたかれ、写真が撮影される。

     

    同時にラジオでもこの中継が行われ、世界中の街に情報が流された。

     

    ξ゚ー゚)ξ「そしてもう一つ。

          この発表に伴い、内藤財団が先ほど発表した格安ラジオを全ての街に寄贈させていただきます。

          一つの例外なく、全ての街に設置できる公共ラジオとしてお使いいただけるよう、街の規模に応じて最大で一〇〇台のラジオを寄贈いたします」

     

    ラジオの値段を破壊するような商品の発表が行われた直後、それを寄贈すると発表した瞬間、記者たちの我慢がついに限界を超えた。

    一斉に質問の嵐が吹き荒れ、絶賛する言葉と共に、その真意を問いただす言葉も飛び交った。

    ツンディエレは眉一つ動かさず、ましてや驕るような様子も見せずに質問に答えていった。

    すでにニョルロックでは号外が配られ、街の人間は皆内藤財団の気風の良さに驚き、それを称賛した。

     

    ――今、世界が一歩大きな変化を遂げようとしていた。

     

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         /  /   /    /  /≠=ナメ、 {:{|    .} l   .l  iヽヽ,

        r  r'   |    |  /''゙゙゙゙゙゙゙゙', `|.   ,ノハ. |  l   l ト、ヽ、

        l  |  _ l ./   . | ./ヾ《::Q::〉 !  l|   ./=.i ト  }i | l `

         { /| /.| {   /|./ 〃=- '   | ./r'`l | .} l  l

        l| .{ {   { |.   | r'         / .{!:Q::) }}.l ! l| }  「そう。 我々は世界を――」

         _| ||| l   |            ヽ、`''=' l / .l

       ‐=ニ l ハ. !   |            .:::/    l. ./ }/

    AmmoRe!!のようです

    Ammo for Reknit!!編 第五章【lure--】 了

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