Ammo→Re!!のようです

まとめだよ

最新の記事

既刊紹介 (06/14)  第十章【Ammo for Reknit!!】 + Epilogue (12/05)  第九章【knitter-編む者-】 (10/01)  第八章【heroes-英雄-】 (07/19)  魔女の指先、硝子の銃爪 PV (06/29)  第七章【housebreaker-怪盗-】 (06/13)  第六章【bringer-運び手-】 (05/05)  第五章【lure-囮-】 (04/16)  第四章【monsters-化物-】 (04/16)  第三章【trigger-銃爪-】 (04/16)  第二章【departure-別れ-】 (04/16)  第一章【rider-騎手-】 (04/16)  序章【concentration-集結-】 (04/16)  第十章【Ammo for Tinker!!】 (04/16)  第九章【cameraman-カメラマン-】 (04/16)  第八章【brave-勇気-】 (04/16)  第七章【driver-ドライバー-】 (04/16)  第六章【reaction-反応-】 (04/16)  第五章【drive-ドライブ-】 (04/16)  第四章【preliminary-準備-】 (04/16)  第三章【preparedness-覚悟-】 (04/16)  第二章【集結- concentration -】 (04/16)  第一章【mover-発起人-】 (04/16)  序章【beater-勢子-】 (04/16)  Epilogue【Ammo for Reasoning!!】 (04/15)  第十章【Reasoning!!-推理-】 (04/15)  第九章【order-命令-】 (04/15)  第八章【intercept-迎撃-】 (04/15)  第七章【drifter -漂流者-】 (04/15)  第六章【resolution-決断-】 (04/15)  第五章【austerity-荘厳-】 (04/15)  第四章【murder -殺人-】 (04/15)  第三章【curse -禍-】 (04/15)  第二章【departure-出航-】 (04/15)  第一章【breeze-潮風-】 (04/15)  序章【fragrance-香り-】 (04/15)  Epilogue【Relieve!!-解放-】 (04/15)  第十章【answer-解答-】 (04/15)  第九章【rage-激情-】 (04/15)  第八章【mature-成長-】 (04/15)  第七章【predators-捕食者達-】 (04/15)  第六章【grope-手探り-】 (04/15)  第五章【starter-始動者-】 (04/15)  第四章【Teacher-先生-】 (04/15)  第三章【fire-炎-】 (04/15)  第二章【teacher~せんせい~】 (04/15)  第一章【strangers-余所者-】 (04/15)  Prologue-序章- 【Strategy-策-】 (04/15)  【???】 (04/14)  終章 (04/14) 

記事一覧はこちら

スポンサーサイト

  1. 名前: 歯車の都香 --/--/--(--) --:--:--
    上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
    新しい記事を書く事で広告が消せます。

    [スポンサー広告]

コメント

コメントの投稿(コメント本文以外は省略可能)





管理者にだけ表示を許可する

第三章【trigger-銃爪-】

  1. 名前: 歯車の都香 2017/04/16(日) 13:22:00
    第三章【trigger-銃爪-

    ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

     

    死体の中には老人の姿もあった。

    死体の中には妊婦の姿もあった。

    死体の中には少年の姿もあった。

    だが、凄惨な殺人現場のどこにも慈悲は見つからなかった。

     

    これが“レオン”と呼ばれる冷血な殺し屋の仕業であることは、疑いようもない。

     

                           ――ヨルロッパ地方で発刊された五年前の新聞記事

     

    ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

     

    ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

      ,:;;;:;ヾ ゞゞ'ヾ ゞ:;ヾ ゞゞ';':,;j:;, ;,i;:,i!:;,':.,",:'';`;;:y;';;;:ゞミ;''ソ:;;';:;;:゙、`;';:;";;;:;ヾ ゞゞ' ヾ ゞゞ'

     "'`',:'':;;:,'ミヾ:,;:'.;;:';;;:!; l .;,;::. :l.:;r"ソ;;:';;ゞミ:;.;;;:;,:;i''`;:;;:,:;ゞミ,:;:'':;:;:;;ゞゞ;;:'':;;:,'ミヾ:,;:

     .,.;;':;.;ヾ ゞ:.;;;:;':;;:;|;; | :;;;.;::.| ;|;;`;,':;,";", |; i :|!:.::.:.:.`;;:ソ:;:ミゝ,:;:'':;:;;.::;,':.,"'゙ソ:;,:;.;

     ,;";:ヾゞ ゞ';:;:;:'':;:;,'ヾゞ|;;:.;;;:.,;;l:;;l.:;|;:;;;,':;.,,:;:;'' :;|: l:  ;|:. :. :. l .:|;`::;,';r''ソ:;;゙、\ヘ;;::';'i:l;j;:

    .:;;;:;ヾ ゞゞ';::;;;;;:;;;|:';:.;;,;:.:;| ;;,:;|;:;;ゞゞ;,:;;:;|;;:|:. .::;|:. :. :.;| .;:|;;:;:;;::, ,;.,. ,.:;:;!:;j:i:;j:,j

    ;";;;:;ヾ ゞゞ':::;;:ゞミ;'';;.,;|;;:j ;;,;,: :;;.,;;:|゙、`:;,:;:'':;:;';:;"|:;.;. .:!: .: l ;l.;:i:|,:;:'';;:;";;::.ゞゞ';;:`;l;i;:l;j:j:;,j

    ;:;,;;ヾノソ;;;:;;:,ミゞ;|,;,:|.:;;;.::;;;::;;:|;;:'':;:;;';:;:;;|;: .;|:   ;| ;| ;|;;`,.;::;,':.,"::'';,::,`;;j:;:;j

     `';:;;ゞゞゞ;':j.ij;j,!;,:, |;;::|:;,;,::.,;;:|:;;;|;:;;,:;:'':;:;'";;;|; . ;rj: i :,  :| ,|;:;":;;;;:;;'':;,",;.:;|:,j:i:;j:;,l:

    .   ,.;;::,;"'`!;j;;j,j|;:;,|;: ;;:.,;:.::;;;.|:;;|`;:;;;:ヾゞ:;| i; {リ  l :|  :| :|::;;;;;:;";;:;ヾ ゞゞ' :,:;|;:;j;;l;,

    .;,;,;:;ヾ ゞゞ'|j.i:,j:,j|ミヾj::;;:|.,;;;:..:,;;.,;;:|;';i;r`;:;;:';:;| ; ;:  .;|:   : .;|:; ;ゞヘ;'i: ;.:;;:;:;;:";|;:ij;:l;

     ソゝゞ,:;;''`|,:j;;l;,:i|"`| l:; | ::;;;, ::. :;;| |i;li|;':;ヾゞ;;|;:  ::   .:|  :r :|;;::;;| '; ; ト、;::;';;:'|;l:j:;|

    ;ヾ゙;:;;:ミヾ:;|.:ij;:;,i|.  |;. .;;':;;, ::;;:|.:;;;| |lij;|,;';,:';, :|;.|: :;|:.  .: .:;|; ;|.,.;;''|:|; |:.;|"'`' ;:; .;, |;j:,i,l:

    j;i:;i:l;i⌒ゞ|:l:j;,l;:i;|.  |;; ,;| ;; ::;;;:| :; | |li|l|"'!;li゙'`|;:|: :,| ;.  :| .:l; .;|:'゙ ';:|,:i|:.|!,:;:':;;ミ ゞ|;j;,,

    .:|:;i:;,l;|:.   |;j;.i,;j.l;|:. |;,: ,;i ;; :;;;,:l ;;',|; .|i;|;:;;;|vl. |;.|:.  :;|:  :| .;i :| :|   . |;| .:| ;;;:;";;;;.|;.j

                                              August 10th AM10:07

    ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

     

    八月十日。

    肌寒い朝の空気が陽によって暖められ、グルーバー島の森には気持ちのいい風が吹いていた。

    だが長時間その風に身を晒せば、流石に寒気を覚えるだろう。

    その見返りとして、降り注ぐ光の柱が立ち上る蒸気を照らし出す幻想的な森の姿を見ることが出来る。

     

    小川のほとりに一張りのドームテントがあった。

    テントの上部に設けられた透明の天窓からは、緑色に輝く葉の隙間から青空が見えた。

    寝転んで空を見上げながらトラギコ・マウンテンライトは自ら下した決断について、今一度考えを巡らせていた。

    果たして、あの判断は正しかったのだろうか。

     

    追い続けてきた最重要参考人である旅人――デレシア――から提案されたのは、今このティンカーベルで起こっている騒動を鎮圧させるために協力し合うというものだった。

    それは魅力的な提案だった。

    警察の本部があるジュスティアから軍隊と警察が動員され、この島の歴史上最大の厳戒態勢にも関わらず爆破テロや放火、殺人が起こっている状態だ。

    そこにデレシアが手を貸してくれるというのであれば、この事態を収束させられるかもしれない。

     

    そう思ってしまう自分が嫌だった。

    警察の仕事は事件の解決と犯人の逮捕であり、他人にそれを委ねることではない。

    だがその感覚の正体が、かつて自分が捨てた矜持と呼ばれるものの残滓であることに気が付き、すぐに握り潰した。

    要は解決出来ればいいのだ。

     

    体裁など、犬にでも食わせればいい。

    こうして、トラギコはデレシアの提案を受け入れ、今後の動きについての説明を受けた。

    実行は明日であり、今日は準備の日になるとの事だった。

    今のトラギコに必要なのは、体力を回復させ、傷を負って鈍る動きをどうにか補う手段を見つける事だ。

     

    驚いたことに、デレシアはすでに計画を練り固め、トラギコはその計画に必要な駒として加算されていた。

    最初から彼女はトラギコが提案に乗る事を考えていたのか、それとも、即興でこの計画を作ったのか。

    崖から落ちた車からトラギコを助け出したのは、トラギコが提案に同意すると確信があったのだろう。

    ここまで頭の回転の速さと実力が伴っている人間は初めてだ。

     

    これまでにトラギコは多くの人間を見てきた。

    優れた頭脳を持ちながら、行動が伴わない人間。

    行動力はあるが、先を考えるだけの思慮が足りない人間。

    覚悟がないくせに人に覚悟を強要する人間。

     

    計画を手短に語ったデレシアは、非の打ち所がない人間だった。

    長い時間をかけて説明するような作戦では、誤解が生じて綻びになる危険性もある。

    手短に語れるという事は、それだけ要点がはっきりとしているという事だ。

    とてもではないが、馬鹿や凡人には出来ない。

     

    聞いたことがある。

    天才とは簡潔な言葉で相手に理解させる生き物であり、秀才は長く難解な言葉で相手を納得させるものだと。

    デレシアは紛れもなく前者だ。

    道理で苦労するわけだ。

     

    オアシズで起こした騒動の手がかりを残さず、いくつもの街で暗躍した彼女が凡人や俗物であるはずがない。

    なるほど、この女は先を見通す力が常人や天才と呼ばれる人種を遥かに凌駕しているのだ。

    当然、未来を知る人間を正攻法で出し抜くことは出来ない。

    付け焼刃で考え出した策略など、意味をなさないだろう。

     

    考え直しても、やはり彼女の手を借りた方が事件解決は円滑に行くはずだ。

    賽は投げられ、後は最善の結果を出すために尽力するだけである。

    しかしながら、まだ少しは考え直す余地はあるだろう。

    何も焦る必要はない。

     

    体力を回復させ、一刻も早く前線に戻って事件を解決させるためにも、今は暴れることなく状況に身を委ねるしかない。

     

    (=゚д゚)「……」

     

    (∪´ω`)φ"

     

    思案するトラギコと同じテントの隅に、一人の少年が腰を下ろしていた。

    ニット帽を被り、天窓から差し込む光を利用して本を照らし、そこに何かを書き込んでいる。

    時折分厚い本――恐らくは辞書――を見て、それからまた別の本へ書き込みをした。

    まるで受験を控えた学生だ。

     

    (=゚д゚)「おい」

     

    (∪´ω`)φ"

     

    少年は作業に夢中なようで、トラギコの声かけに気付いていない。

     

    (=゚д゚)「おい、ブーン」

     

    トラギコは少年の名前を呼んだ。

    ブーンという名を持つ少年には、垂れ下がった犬の耳と丸まった犬の尾がある。

    彼のような人間は耳付きと呼ばれ、世間では忌み嫌われる差別の対象だ。

    そのため、耳付きは総じて人間を恐れ、目を合わせようとはしない。

     

    目が合えば飛んでくるのは罵倒の言葉か暴力だけだ。

    だがブーンは、小首を傾げてトラギコの目を見た。

    その仕草は名前を呼ばれた仔犬の様だった。

    無視をしていたのではなく、あまりに熱中するあまりトラギコの声に気付けなかったのだろう。

     

    (∪´ω`)「お?」

     

    (=゚д゚)「何書いてるラギ?」

     

    (∪´ω`)「くろすわーど、です」

     

    クロスワード。

    ヒントを基に、文字数の制限と指定された文字を使ってマスに書き入れ、最後に浮かび上がる言葉を見つける文字遊びだ。

    ブーンの歳は見た目から推測するに、六歳程度だろう。

    六歳の子供がクロスワードとは、随分と渋い趣味をしている。

     

    (=゚д゚)「ふぅん……」

     

    (∪´ω`)「……あの、トラギコ、さん」

     

    クロスワードの本から目を上げて、今度はブーンがトラギコの名を呼んだ。

     

    (=゚д゚)「あ?」

     

    (∪;´ω`)「おっ……」

     

    トラギコの剣幕に、ブーンが怯えを見せた。

    怯えさせる気は毛頭なかったが、怪我をしているせいで気が立っており、結果的に子供を怯えさせてしまった。

     

    (=゚д゚)「あぁ、悪い。 で、何だ?」

     

    (∪;´ω`)「あの、ここなんですけど……」

     

    おずおずとクロスワードの本を持って近づき、ブーンがトラギコにそれを広げて見せた。

    トラギコは寝たままの状態で首を本に向け、そこに書かれている文字を読んだ。

    そして、思わず驚きを表情に出すという失態を犯した。

     

    (;=゚д゚)「……お前これ、随分と難しいのやってるラギね」

     

    恐らく、対象年齢は中学生から高校生だろう。

    並ぶ単語はどれも六歳の子供が使うには難しく、大人でも理解できないのがあるかもしれない。

    辞書の助けがなければまず六歳児には無理だ。

     

    (∪;´ω`)「この、jではじまる13もじのやつです……」

     

    (=゚д゚)「……己の正義を他に知らしめ容認させること、ねぇ」

     

    ヒントも難しく、言葉を知らない子供には難易度が高い。

    このヒントはジュスティアの人間ならば一度は目にしたことのある言い回しで、本の作成者は意図してそれを選んだのだろう。

    ジュスティアの学校で使用される道徳の教科書には必ずこの言い回しが使われ、子供たちは幼くして正義と悪の二つを覚えることになる。

     

    (∪;´ω`)「さいしょは、せいぎ、かなっておもったんですけど、ますがあまっちゃって……」

     

    子供なりに悩んだのはよく分かる。

    確かに、これは言葉を知らなければ埋められない。

    言葉を知らなければ辞書を引きようがなく、簡単には見つけられない。

    だが惜しい。

     

    ブーンの言っている言葉は、正解に限りなく近い。

    これが教師であれば褒めるのだろうが、トラギコはそんな器用な真似はできない。

     

    (=゚д゚)「正当化、ラギ」

     

    中学生になった時、トラギコはこの言葉を嫌と言うほどその体に叩きこまれた。

     

    教師の拳は正義であり、例え教師が誤った事でそれを振るおうとも、それは決して悪には転じなかった。

    逆もまた然り。

    全ては正義の物差しを誰が作ったのかが問題であることに気付けなった時の話だ。

     

    (∪´ω`)「せーとーか?」

     

    (=゚д゚)「手前が正しいってことにするってことラギ。

        それがどんなことだろうとも、だ」

     

    (∪´ω`)「おー?」

     

    ブーンは首を傾げる。

    どうやらよく分からないらしい。

     

    (=゚д゚)「例えばだ、俺が理由もなくお前を殴ったとしようか。

        それが正しい事、必要なことだったと周りに説明することを正当化っていうラギ」

     

    (∪´ω`)「お!」

     

    ようやく意味が分かったようで、顔を輝かせて紙に文字を書きだした。

    そして止まった。

     

    (∪;ω;)「すぺる、わからないですお……」

     

    綴りが分からなければ、クロスワードは進められない。

    読み方が分かっても綴りは分からない物だ。

    何だかんだと言っても、やはり、ブーンは六歳の少年なのだ。

     

    (;=゚д゚)「……何なんだよ、お前は。

        j u s t i f i c a t i o nだ、覚えておけ」

     

    (∪´ω`)「あ、ありがとうございますお……」

     

    (=゚д゚)「気にすんな。 じゃあ、俺は寝るラギ。

        静かにしてろよ」

     

    指さしたその先で、ブーンはしっかりと頷いた。

    物分りが良い子供で助かる。

    子供相手に気を遣わずに済むのはありがたかった。

    ブーンの相手をしているほど、今は暇ではない。

     

    今は眠り、体力を取り戻すのが重要だった。

    無駄に動くことも、起きる必要もない。

    食事については我慢すればいい。

    ただ今は、休まなければならなかった。

     

    瞼を降ろしたトラギコは、すぐに眠りに落ちた。

     

    ┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳

    ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

     

    AmmoRe!!のようです        _/~

                         /r' r 、 \

    Ammo for Reknit!!編   ‐<{三三{ \三三三〉

                       / {_ノノ \ \ l

                      /{ {  /ヽ  ヽ

                      ヽヽ__} /      /

                       {'   {    /

    第三章【trigger-銃爪-

     

    ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

    ┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻

     

    ブーンはクロスワードと辞書を交互に見ながら、マス目を着実に埋めていった。

    トラギコが言っていた正当化という言葉について辞書で調べたところ、ブーンは少し混乱していた。

    出来ればもう一度トラギコに質問したかったが、寝ている彼を起こすわけにはいかなかった。

    悩み所は、“正義”という言葉だった。

     

    正義という言葉の意味を調べても、ブーンには分からなかった。

    人として正しい事、とあった。

    はて、人として正しい事とは何だろうか。

    何が正しくて、何が正しくないかの基準がどこかにあるのだろうか。

     

    人が行動する時には、それが正しいと信じているから行動するものではないのだろうか。

    難しい問題だった。

    疑問に思った時に質問をしていればよかったと後悔するが、今はどうしようもない。

    次回にこの後悔を活かしさえすれば、無駄ではない。

     

    今度デレシアに訊けば答えを得られるだろう。

    空白にその言葉を書き留め、新たな問題に取り掛かる。

    鉛筆を動かしながら、ブーンは焦燥感に駆られていた。

    自分は果たして、こうしているだけでいいのかと。

     

    (∪´ω`)φ″

     

    ヒート・オロラ・レッドウィングの手助けをしたいと願い出たブーンに対してデレシアが告げたのは、トラギコの看病の依頼だった。

    正確にデレシアの言葉を引用するのであれば、“トラギコを看病することがヒートの手助けになるのよ”とのことだ。

    思えば、こうしてデレシアがブーン一人に何かを任せてくれたのは初めてなのかもしれない。

    オアシズでの立ち回りは、ブーン一人の働きではなく、あくまでも補佐程度だった。

     

    それを考えると、今の自分はデレシアに信頼されていることが誇らしかった。

    信頼して、大切な役割を委ねてくれた。

    何があっても、その信頼を裏切らないように努めなければならないと、ブーンは心を決めていた。

    十二時の鐘と同時に食事を作り、それをトラギコに食べさせるという大きな仕事がある。

     

    それまでの間は勉強とトラギコの看病がブーンの役割だった。

    勉強は好きだ。

    知らない事を知り、少しでも足りない部分を補うことが出来る。

    簡単に成長を実感できるため、ブーンは自分が確かに成長しているのだという自覚と共にデレシアとヒートの役に立てる日が近付いていると誇らしく思った。

     

    すぐに眠り始めたトラギコを見て、その眠りが深いことを寝息から悟った。

    暫くの間は起きないだろう。

    テントの中には二人の呼吸と鉛筆が紙上を走る音だけが流れている。

    静かな、そして有意義な時間の流れにブーンは表現し難い安心感を覚えていた。

     

    クロスワードの大部分が埋まって来た時、ブーンの耳が跫音を捉えた。

    近付いてくる二足歩行生物――人間――の跫音だった。

    女性で、何か金属の物を持っている。

    音の次に、匂いが届いた。

     

    それは甘く、糖蜜のような香りだった。

    その香りにブーンは覚えがあった。

    海上都市ニクラメンで嗅いだことのある香りだ。

    死の匂いを隠すための偽装か、それとも死の匂いそのものなのか。

     

    断言できるのは、この香りの持ち主は山の様な死体を生み出してきた人間だということ。

    友好的な人間性はなく、残虐非道な生活の持ち主であるという事だ。

    そしてブーンは思い出す。

    この匂いの持ち主を。

     

    (∪;´ω`)「……お?!」

     

    ――ワタナベ・ビルケンシュトック。

    間違いない。

    この匂いは、彼女の物だ。

    不運にも、眠っているトラギコはまだ彼女の接近に気付いていない。

     

    甘い死の匂いを漂わせる彼女の存在に気付けているのは、優れた嗅覚と聴覚を持つブーンだけ。

    この場を守れるのは、ブーンだけだ。

    どうすればいい。

    背筋が冷え、体が震えてその場に跪かせようとしてくるのを強引に拒み、考えた。

     

    守らなければならない。

    守るためには抗わなければならない。

    例え敵わない相手だとしても、抗う事を諦めてはならないのだ。

    抗うためには考え続けなければならない。

     

    思考を止めればそこで終わってしまう。

     

    (∪;´ω`)「……」

     

    トラギコをテントに残してブーンが囮になれば、せめてトラギコだけでも助けられるかもしれない。

    しかし、ブーンに興味を示さないかもしれない。

    ワタナベにとってブーンは脅威でも何でもない、ただの耳付きの子供。

    追う価値もないと判断され、囮であるブーンを無視してトラギコを一直線に狙われたらおしまいだ。

     

    多くを深くまで考えている時間はあまりない。

    自分一人で出来る事など限られている。

    ここは、トラギコの手を借りなければ状況を打破するのは無理だ。

    眠っているトラギコを起こして状況を説明し、テントを出てから注意をブーンにひきつければその間にどうにか逃げてもらえるだろう。

     

    ブーンに思いつく最善の案は、それしかなかった。

     

    (∪;´ω`)「トラギコ、さん」

     

    肩を揺らして、その名前を呼ぶ。

     

    (=゚д゚)「ん?」

     

    ただならぬ雰囲気を察したのか、トラギコはすぐに起きて半臥の状態になった。

     

    (∪;´ω`)「ワタナベさんが、きてますお」

     

    (=゚д゚)「……マジか」

     

    トラギコの顔が真顔になり、何かを探すように周囲を見渡した。

    恐らく武器になるような物を探しているのだろう。

    ブーンの知る限りガスの詰まったボンベとナイフぐらいだ。

    それだけであのワタナベに挑めるとは思えなかった。

     

    これでも、少しは戦いの場を見てきたつもりだ。

    得物による優劣の差ぐらいは理解出来たつもりだった。

    当然、自分が時間稼ぎを出来るような戦いが出来ない事も理解している。

    理解していても諦めることは出来なかった。

     

    (∪;´ω`)「だから、にげて、ください」

     

    その言葉を聞いた瞬間、トラギコはブーンの胸倉を掴んで引き寄せた。

    全く予想外の事態に、ブーンは目を白黒させる。

    何が彼の癇に障ったのか、全く分からない。

     

    (=゚д゚)「いいか、ガキが大人を気遣うな。

        俺が時間を稼いでやるラギ。 お前が逃げろ」

     

    (∪;´ω`)「でも、トラギコさん、けがしてて……」

     

    (=゚д゚)「あの女達は教えてくれなかったかもしれないが、いいか、覚えておけ。

        俺は一度だけしか言わねぇラギ。

        男には、絶対に譲れない意地ってものがあるんだよ。

        ガキに守られるってのはな、我慢できねぇんだよ、俺は」

     

    (∪;´ω`)「……あっ!」

     

    気付いた時には、ワタナベの匂いがより濃く、そして呼吸の音が聞こえるまでの距離に近づいていた。

    テントのすぐ外に人がいると分かり、ブーンがトラギコに警告するよりも早く、トラギコはブーンの体を己の背後に引き摺り倒した。

    ジッパー式の入り口が開き、現れたのは白いワンピースに身を包んだワタナベだった。

    垂れ下がった目尻には攻撃的な印象は一切ないが、それでも、瞳の奥に宿る狂気の色は健在だ。

     

    ''从「はぁい、刑事さんお元気ぃ?

         ……って、あらぁ?

         いつぞやの仔犬君じゃなぁい」

     

    (∪;´ω`)「……」

     

    甘ったるい声と香り、そして気だるげな表情。

    死を運ぶ大量殺戮者であるワタナベの佇まいは妖艶な娼婦の様だったが、その本質を知るブーンは決して気を許しはしなかった。

    トラギコがブーンを庇うようにしてゆっくりと立ち上がり、ワタナベにその鋭い視線を向けた。

    狭いテント内に、ただならぬ空気が満ちる。

     

    (=゚д゚)「久しぶりって程でもねぇが、何の用ラギ?」

     

    ''从「忘れ物、届けにきたのよぉ」

     

    そう言ってワタナベはアタッシュケースを掲げて見せた。

    それが誰のものなのか、ブーンは漂ってきた匂いで理解した。

    トラギコの物だ。

    長年使いこんだのだろうか、匂いが鉄の中にまで染みついている。

     

    (=゚д゚)「……ブリッツのコンテナか」

     

    ''从「そうよぉ、刑事さん忘れて行っちゃうんだものぉ。

         それと、車の中にも忘れ物があったから持って来てあげたのよぉ」

     

    見せつけるようにして、アタッシュケースに紐で括り付けられている一対の黒い籠手を掲げる。

    そして、空いていた手で黒い拳銃を構えた。

    オアシズで見たことがある。

    トラギコの愛銃、ベレッタM8000だ。

     

    その銃腔はワタナベを向き、撃鉄はトラギコを向いていた。

    デレシアから習った、人に銃を渡す時の形だった。

     

    ''从「これ、大切な銃でしょ?」

     

    その瞳に宿る怪しげな光の正体は分からない。

    何かを誘っているような、それでいて狙っているような、奇妙な光だ。

     

    (=゚д゚)「……ブーン、外に出てろ。

        大人同士の話し合いをするラギ」

     

    (∪;´ω`)「あ、えっ……ぉ……」

     

    罠の可能性は大いにある。

    それぐらい、トラギコにも分かっているだろう。

    分かっていて尚、トラギコは踏み出した。

     

    ''从「あらぁ? 大人の話し合いってことはぁ、ようやくその気になったのぉ?」

     

    (=゚д゚)「黙ってろ。 ほら、早く行くラギ。

        大丈夫ラギ。 こいつは、今は危害を加えてこないラギ」

     

    トラギコの声には有無を言わせぬ凄みがあった。

    手負いとはいっても、トラギコの戦闘力はブーンよりも高いだろう。

    一瞬の判断を迫られたブーンは、大人しく頷いた。

     

    (∪;´ω`)「わかり……ました……お」

     

    その言葉に従って、ブーンはテントを出た。

    果たしてその選択が正しかったのか、今はまだ、分からない。

     

    ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

    .            /: : : :/\ |: : : |: : : : : : : : : : : :|: : : : : :|: : : : : : : .

               /: : : :/! -、 i: : : :i \-::-: ::|: : : : : :|: : : : : : : :

    .           /::/ : : : i fぅミ ヽ:.:.:l   \: : :: : :|: : : : : :|: : : : : : : : : :

              /: :| :./: : ハ r'::j  \i  xzぇぅ≪丶j: : : : : :|: : : : : : : : : :\_

               /:}:/: : : : Vン      '^ r' ::::ト ノ: : : : : :|: : : : : : : : : : : : :`彡

              ノ'´  |:: : : j、、` /      弋こン /: : : : : :.: : : : : : : : : \二¨__

               八: :.: }        、、、¨´、 /:/: : : : /: : :: : : : : : : : : : : :

                                              August 10th AM10:31

    ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

     

    (=゚д゚)「で、どういう魂胆ラギ?」

     

    二人きりになったテントで、トラギコはワタナベの手から銃と棺桶――強化外骨格の通称――を受け取った。

    あまりにも呆気なく武器を渡されたことに対して、彼は驚きの表情を禁じ得なかった。

    渡すと見せかけて殺すことも出来たはずだ。

    この女ならば、手負いのトラギコを殺すことなど造作もない。

     

    何が狙いだ。

    情報か、それとも別の何かを狙っているのか。

    ブーンを逃がしても追おうとしないことから、狙いがトラギコにあるのは分かる。

     

    ''从「私はただお仕事をしているだけよぉ」

     

    (=゚д゚)「……仕事?」

     

    人殺しのする仕事など、一種類しかない。

    ボランティアでもなければ、慈善活動でもない。

    偽善にすらならない、ただ一つの行い。

    殺しだ。

     

    ''从「そうよぉ。 お仕事よぉ。

         “後片付け”をするお仕事ぉ」

     

    返されたばかりの拳銃を一瞬で構え、トラギコはその銃口をワタナベの頭に向けた。

    弾丸が弾倉に装填されていることは手に持った感覚で分かる。

    問題は、彼が車内に置き忘れたのと同じ状態、つまり弾が薬室に送り込まれているかどうかという事だった。

    薬室に弾が込められていなければ、銃爪を引いても弾は出ない。

     

    それどころか、致命的な隙を生むことになる。

    それでも、脅迫材料としては生きてくれることを願うばかりだ。

     

    (=゚д゚)「俺を片づけるのは一苦労するラギよ?」

     

    ''从「あらぁ? 私は、現場の後片付けをしただけよぉ。

         ほらぁ、道具を持ち主に返して片付けるってお仕事よぉ?」

     

    撃鉄を親指で倒し、銃爪に指をかける。

    数グラムの力を込めるだけで、ワタナベの頭は熟れたトマトのように爆ぜるだろう。

    ナイフを喉元に突きつけるのが最もいい手段だが、銃の威力を知っている人間にはこれも効果的だ。

    しかしながら、ワタナベは涼しげな顔をしたまま、何を考えているのか分からない笑みを浮かべている。

     

    こちらが撃たないとでも思っているのだろうか。

    こちらは情報さえ聞き出せれば、ワタナベを殺しても一向に構わないのだ。

     

    (=゚д゚)「いいか、手前が何でショボン達と組んでるのか、それについてはおいおい訊くが、手前の狙いは何だ?」

     

    ''从「私は私のやりたいように、気持ちのいいようにやっているだけよぉ」

     

    (=゚д゚)「ふざけてる……って訳ではないラギね」

     

    こういった手合い――殺しを楽しむ人間――は、己の美学に関する部分については嘘を吐かない。

    それだけが唯一の誇りであり、それを偽る事だけは決してしないのだ。

     

    ''从「そりゃあもちろんよぉ。 私はいつでも真面目よぉ」

     

    親指で撃鉄をゆっくりと戻し、銃を降ろす。

    この狂人は紛れもなく頭のネジが外れた人間だが、それでも、欺くなどと言う煩わしい真似はしない。

    騙すなら最初からトラギコを殺しているし、誰かの指示で隙を作ろうとしているのだとしても、それをここまで上手く出来るとは思えない。

    数多の犯罪者を見続けてきたトラギコの直観は、そう告げていた。

     

    この女は、真面目に狂っている。

     

    (=゚д゚)「まぁ、コンテナを持って来てくれたのは感謝するラギ。

        だけど、手前はいいのか?

        そろそろ組織の人間が黙っちゃいねぇだろ」

     

    いくら何でも、ワタナベの行動は組織としては見過ごせない物ばかりだ。

    作戦行動の逸脱、妨害

    味方からすればとんでもない邪魔者だ。

    彼らが大きなことを企てているのであれば、ワタナベを処分した方が有益と判断しても不思議はない。

     

    オアシズに仕掛けられていた爆弾解除に手を貸し、シュール・ディンケラッカーに殺されかけていたトラギコを助けたことが知られれば、組織に殺されるだろう。

    仮にトラギコがワタナベの組織にいたとしたら、決して生かしてはおかない。

     

    ''从「平気よぉ。

         私はあくまでも末端の末端でぇ、お上はいちいち気にしないわよぉ。

         それとも何ぃ? 心配してくれてるのぉ?」

     

    (=゚д゚)「ふざけんな。 手前に勝手に死なれたりすると迷惑ってだけラギ。

        いいか、訳の分からない手前の道楽で手前が気持ちよく死ねると思うなよ。

        手前は、この俺が殺すラギ」

     

    そうだ。

    このろくでもない快楽殺人者には、苦痛に満ちた死が相応しい。

    他の人間ではなく、トラギコが手ずから殺してやらなければ気が済まない。

    デレシア同様、他の誰にも渡したくない存在だ。

     

    彼の獲物。

    彼が決めた、彼が捕まえ、彼が殺すべき相手。

    己の牙が噛み砕くべき相手なのだ。

     

    ''从「……ふぅん。

         それは楽しみにしておくわねぇ。

         それじゃぁ、私は殺されない内に退散するわねぇ」

     

    (=゚д゚)「待てよ。 外にいるあのガキに手を出すんじゃねぇぞ」

     

    ''从「分かってるわよぉ。 だからぁ、私は単に現場の後片付けに来ただけなのぉ。

         それにぃ、こう見えて子供は好きなのよぉ?」

     

    殺人者が何を言うかと思えば、とんだ戯言だった。

    本当に子供好きなら、子供を持つ親を殺したりはしない。

    屍の山で悦に入る狂人の言葉など、耳を貸すに値しない。

    所詮は殺人鬼の気まぐれ。

     

    時々いるのだ。

    妙な矜持を持った殺人鬼が。

    女子供には手を出さない猟奇殺人者や、大人の女には手を出さない強姦魔。

    異教の神を信じる人間だけを殺してきたと胸を張る屑が。

     

    (=゚д゚)「よく言うラギ」

     

    ワタナベがテントから出て行ったのを見届けてから、トラギコは密かに安堵の溜息を吐いた。

    8000の遊底を引くと、薬室には弾が入っていた。

     

    (=゚д゚)「……あいつ、馬鹿か」

     

    ――或いは、トラギコが撃たないと確信していたのか。

     

    ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

                  レ′  {  .:.:{ ̄`  __         `ヾ::.:.:.:.:.:

                  { ∧ 、ゝ、.:__       ``ヽ、     ',:.:.:.:.:/.:

                  ∨.:.:} .::.:休㍉、    __     ヽ、   }:.:.:/.:.:.

                   {:.:.( .:.:.:.`f{`     辷≠ミ、 \  厶7.:.:./

                 / >:`:{:.:」  `¨゙        ト-升ヘ,  ∠Z仏∨.:

                 / /.:.:.:.:.:.:/ :{   /     弋外F癶  r┐Y.:.:}.:.:

                / / .:.:.:.:.:.:  .:ハ   __       `¨´   _,ノ ノ:..:.:.

               / /  .:.:.:.:.:./ ./.:.∧   `Y``ァ        r‐<:.:.:.:.:.`ヽ

                                              August 10th AM10:53

    ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

     

    思っていたよりもすぐにテントから現れたワタナベに、ブーンは少し驚いた。

    話していた内容は全て聞こえていたが、特に争うようなこともなく、大人の話し合いというものは案外あっさりしているのだと受け入れた。

     

    ''从「はぁい、仔犬君。

         もういいわよぉ」

     

    (∪;´ω`)「あ、え、はい……」

     

    ''从「いつも一緒のお姉さんたちはいないのかしらぁ?」

     

    (∪;´ω`)「お……」

     

    デレシア達の事は何があっても話してはならない。

    それは、デレシアに言いつけられなくても分かる事だ。

     

    ''从「ふふふ、冗談よぉ。

         話せるはずないわよねぇ。

         それにぃ、いたらもう出てきている頃だものねぇ。

         じゃあ、今ここで私が仔犬君をめちゃくちゃにしても大丈夫ってことねぇ」

     

    ちろり、と蛇のようにワタナベが舌を見せた。

    背中に刃を当てられたかのように、ブーンは寒気を覚えた。

    嗜虐的な笑みの奥に、純粋な殺意の姿が見えたのである。

     

    (∪;´ω`)「いや、ですお……」

     

    ''从「これも冗談よぉ。

         それじゃあ、またねぇ」

     

    ひらひらと手を振って、ワタナベは森の中に消えて行った。

    自分の身に何も起きなかったことに安堵し、ブーンはようやく安堵の息を吐くことが出来た。

    テントに戻ると、トラギコはアタッシュケースに籠手を戻しているところだった。

     

    (=゚д゚)「おぅ、悪いな」

     

    ワタナベがこの場所を探し当てたことに驚いた様子もなく、研ぎ澄まされた冷静さを保っている。

    ヒートやデレシアもそうだが、どうすればここまで冷静でいられるのだろうか。

     

    (∪;´ω`)「あ、いえ……」

     

    いつか、自分もそう在れるようになりたいと強く思う。

    そうすれば、デレシア達が困難に陥った時に、ブーンも力になれる。

     

    (=゚д゚)「じゃあ俺はまた寝るラギ。

        何かあれば起こせ」

     

    そう言ってトラギコは枕代わりにしている寝袋の傍にアタッシュケースを置いて、その上に拳銃を乗せた。

    先ほどまでの緊張状態などまるでなかったかのようにトラギコは横になり、すぐに浅い寝息をたてはじめる。

    肝が据わっている、とはこのことを言うのだろう。

    彼に見習い、ブーンも先ほどまでの作業に戻ることにした。

     

    ワタナベの匂いがまだ漂っていることが気になるが、大したことではない。

    本を開いて、再び文字と向き合う。

    やがて少し肌寒いと感じ、メッシュの窓を閉じる。

    だがトラギコにはまだ寒いようで、腕を組んで暖を取ろうとしていた。

     

    (∪´ω`)「お……」

     

    少し考え、ブーンは本を閉じた。

    そして、トラギコの傍に横たわり、体を丸めて身を寄せた。

    これで少し暖かくなればと思っての行動だったが、トラギコの本能がブーンの体温を感じ取り、ブーンを包むようにして抱いた。

    大きな腕にしっかりと抱かれ、ブーンは少しだけ戸惑いながらも、瞼を降ろして眠ることにした。

     

    トラギコの腕はとても力強く、そして優しげだった。

     

    ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

           (^)   ;;:;::: ヾ;:.,ヾヾヾ    ノ;;:;::: ヾ;:.,ヾヾヾ;:;:.;:;;:ヾノ;:;:.,ヾヾヾ;:;:.,

     ;;:;::: ヾ;:.,ヾヾヾ:::;:;:       ;;:;:φ:: ヾ;:.丿,ヾヾヾ;:(^);:.;:;:;::: ヾ    ;:.;:;:.,/

        ;;:;丿:: ヾμ;:.,ヾヾヾ (^)  ;;:;:   丿  ヾ;:;;:::;;;:;:: ノ:.,ヾヾ;ξ:;:.;: ヾ丿

    ;;:::;ヾノ      ;;:;::: ヾ;:.,ヾヾヾ 丿  ;:ρ;ヾヾ:;::ヾヾ ヾ;:ヽヾ;:;:;::ヾヾヾ;:ヾ)

       ;;!\\| |:;;:;: .r;. ::: ヾヾ:;::r:;;:;:;:;:.r;. ; . |.ヾヾ| |ヾヾヾ;;:;:::ヾ)     ,.,.   ,,

    ;;:;:::.__ |;:'' \  |''~~^||^~ | |;:;:;;;::;:| |;:;;;;/ヾヽ| |~~~.;;l~~゙゙| l丿ノ'^^^      ,.,;:;:、、,,:.,..

    ~~ ~~|;|^^  .| |   ||   | |^^...^.| | | |/~^~ .| |  . .∥  | /"         ,,;:;:;。;,;::;:::;,..

       ..|;|   | |   ||   | |   | | | |     | |   ∥  | |         ,.,:,,:;:;:;,.,,.,:,;:::

       ..|;|   | |   ||   | |   | | | |     | |  ,,_._,,r゙゙゙゙ヾ゙^゙ヽ  - - - - -''"''yi''-"''yi''

       ..|;|   | |   ||   | |   | |,,,r''''' .'゙゙゙ """   ゙^゙ヽ'"~' '"~' ′、   .,..ili  .,,,.il

    August 10th PM00:01

    ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

     

    次にブーンが目を覚ましたのは、正午を告げる澄んだ鐘の音が聞こえた時だった。

    昼食の時間だ。

    デレシアから教わった昼食は、コンソメスープを使ったパンリゾットだった。

    食料を購入する時間がなかったこともあり、具材は山菜しかないが、美味しくできるだろう。

     

    問題は、トラギコを起こさずに抱擁から逃れる方法だった。

    ゆっくりと体を動かし、腕を解こうとする。

    それがトラギコを眠りの世界から引き戻してしまった。

     

    (=-д゚)そ「……んぁ?

          あぁ?!」

     

    腕の中にいたブーンを見てトラギコは驚き、その腕を一瞬で解いた。

    思わずブーンも驚き、飛び退くようにして立ち上がる。

    耳付きを嫌う人間は、触れただけでブーンを死ぬほど殴ってくる。

    トラギコもそういう人間ではない可能性は否定しきれなかった。

     

    殴られると思い、両手が自然と顔を庇うようにして上がっていた。

     

    (;=゚д゚)「いつからそこにいたラギ……」

     

    (∪;´ω`)「ご、ごめんなさい……」

     

    (;=゚д゚)「いや、謝る必要はないラギ」

     

    トラギコの驚き様は、ブーンを抱いていたことに対しての物ではなく、ブーンの存在に気付けなかった自分を責めているようだった。

     

    (=゚д゚)「あぁ、別に殴りはしないラギよ」

     

    (∪;´ω`)「……けるんですか?」

     

    (=゚д゚)「蹴らねぇよ。

        気を遣ってくれたんだろ?

        すまねぇな」

     

    (∪;´ω`)「……お。

           いえ、その……はい……」

     

    (=゚д゚)「撃ちもしないし、切ったりもしねぇよ」

     

    (∪;´ω`)「はい……です、お……

           あの、お、おなか……へってますか?」

     

    顔を守っていた両手をおろし、ブーンは当初の目的を果たすことにした。

    昼食の提案に対してトラギコは、短く一度だけ頷いた。

    間違っても彼の機嫌を損ねないように、美味しい物を作らなければならない。

    テントの前室に移り、バーナーを使って調理を開始することにした。

     

    クッカーに川で汲んできた水を入れ、それが沸騰するまで待つ。

    沸騰した水にコンソメスープのブロックと一つまみの塩を入れ、黄金の色に染まるのを見つめる。

    小さく切った歯応えのある山菜――葉ワサビとデレシアは呼んでいた――を入れ、千切ったパンをスープ全体が隠れるぐらいまで詰めた。

    蓋を閉めて火を小さくし、少しの間だけ待つ。

     

    火を消してクッカーとフォークを持ってトラギコの元に戻る。

     

    (=゚д゚)「悪いな、手間かけさせて」

     

    (∪;´ω`)「い、いえ……」

     

    (=゚д゚)「コンソメのリゾットか……

        どれ、美味そうな匂いしてるラギ」

     

    ブーンから受け取り、蓋を取ってトラギコはすぐに食べ始めた。

    スープを吸ったパンは膨らみ、柔らかくなっている。

    体力がない人間でも食べられる食事だった。

    湯気の立つパンを口に運び、もぐもぐと美味そうにトラギコは咀嚼した。

     

    (=゚д゚)「薄味でいいな。

        お前の分は?」

     

    すっかりトラギコの昼食にだけ意識を捉われていたため、本来自分が食べるべきパンも一緒にクッカーに入れてしまったことに、今気付いた。

    気恥かしく、ブーンは首を横に振った。

     

    (∪´ω`)「だいじょうぶ、ですお」

     

    (=゚д゚)「……俺の言葉が分かってねぇようラギね。

        俺は、お前の分の飯はどこだって訊いたラギ。

        大丈夫、は答えになってねぇ」

     

    (∪;´ω`)「お…… ぱん、ぜんぶつかっちゃって……」

     

    (=゚д゚)「馬鹿か、手前は……

        だったらお前が食えばいいラギ」

     

    (∪;´ω`)「それは、だめです…… ぼく、トラギコさんのかんびょーしないと」

     

    (=゚д゚)「なぁ、飯が冷めるからその話は後でじっくり聞かせてもらうが、飯を半分に分けるラギ。

        そうすりゃ、俺もお前も飯を食えるだろ」

     

    (∪;´ω`)「トラギコさん、おなか、へっちゃいます」

     

    (=゚д゚)「うるせぇ。 何度も言わせるな。

        ほら、食うぞ」

     

    有無を言わせず、トラギコは蓋にリゾットを取り分け、それをブーンに差し出した。

     

    (=゚д゚)「スープを飲みたかったら言うラギ」

     

    (∪´ω`)「ありがとう、ございます……お」

     

    (=゚д゚)「いいんだよ、ほら、食うぞ」

     

    がつがつと一心不乱に食べ始めたトラギコを見て、それから手に持つリゾットを見た。

    冷めない内に食べた方が絶対に美味いのは、見れば分かる。

    その場に座って、両手を合わせていつもの挨拶をした。

     

    (∪´ω`)「いただき、ます」

     

    口の中のリゾットを飲み込み、トラギコは異物を飲み込んだかのような奇妙な顔をして食事の手を止めた。

     

    (=゚д゚)「……何ラギ、それは」

     

    (∪´ω`)「お? あいさつ、ですお」

     

    (=゚д゚)「何だ、宗教でもやってるラギ?」

     

    (∪´ω`)「しゅーきょー? ちがいますお。

          あいさつ、ですお」

     

    (=゚д゚)「……なぁ、お前、宗教って知ってるラギ?」

     

    ブーンはすっかり柔らかくなったパンをスプーンですくって口に運び、数度噛んでから飲み込んだ。

    そして、トラギコに問われたことを答えた。

     

    (∪´ω`)「おなじなにかをしんじるひとのあつまりですお」

     

    宗教についてはヒートに教えてもらったことがある。

    彼女の幼馴染がそれにのめり込み、それまで持っていた唯一の取り柄を失った原因であると。

    詳しく話を聞くと、どうにもそれは昔から人間の間に根付く考え方であるという事だった。

    それはまるで人の生き方と同じだと、ブーンは感じた。

     

    誰もが何かを正しいと信じて生きている。

    それは先ほどトラギコが言った正義という言葉そのものであり、正義というものの在り方の違いで人は争う。

    異なるものを受け入れられないのが人間だ。

    だからブーンは殴られ、蹴られ、嫌われ、虐げられてきたのだ。

     

    (=゚д゚)「まぁ、そんな感じラギ。

        ならその挨拶は何なんだ?」

     

    (∪´ω`)「おしえてもらったんですお」

     

    (=゚д゚)「デレシアにか?」

     

    (∪´ω`)゛

     

    (=゚д゚)「ふぅん」

     

    さほど興味もなさそう返事をして、食事に戻った。

    二人はそれから無言で昼食を続けた。

    無言だったが、トラギコがブーンの食事に満足した様子なのは、彼が最後に吐いた溜息が雄弁に物語っていた。

    トラギコは寝袋を叩いて枕にし、横になってぽつりとつぶやいた。

     

    (=゚д゚)「飯、美味かったラギ」

     

    (*´ω`)「お……!」

     

    空になったクッカーと蓋を持って、ブーンはそれを洗うためにテントの外に出た。

    頭上で陽が輝き、森に降り注ぐ光の量が増えていた。

    光の柱が雨のように地面を照らし、小さな川は光を反射してキラキラと輝いている。

    大きめのカップで水を汲んでクッカーを洗い、その水は川ではなく近くの地面に撒いた。

     

    妙な視線を感じたのは、洗い終えたクッカーをテントの外に干そうとした時だった。

     

    (∪´ω`)「……お?」

     

    重厚かつ強力な獣の視線。

    自然界に生きる、産まれたままの強者の視線だ。

    物騒な視線の出所に首を向けると、川を挟んだ向かい側に、それはいた。

     

     (())

     

    茶色の毛に包まれた、巨大な生物。

    それは、ブーンが生まれて初めて遭遇したグリズリー――別名:灰色熊――だった。

    あまりにも巨大なその生物を前に、ブーンの体は硬直した。

    野生の膂力の化身はその力を示さずとも、身に纏う雰囲気だけで周囲に己の力を誇示することが出来る。

     

    彼は知らなかったが、グリズリーは野生動物の中でも頂点と呼ばれる領域に位置する生物であり、武器を持たない人間では太刀打ち出来るようなものではない。

    比肩し得るのは同じ領域にいる生物だけ。

    ――以上の情報をブーンが知るはずもなかったが、それでも、彼の中にある生命本能は即座に警告を発した。

    関わってはならない、と。

     

    (∪;´ω`)

     

    どうするべきか、ブーンは考えた。

    “あれ”はおそらく川に水を飲みに来ただけなのだが、ブーンに気付いて動きを止めているのだ。

    こちらがどう動くかで、あれがどう動くのかが決まる。

    武器はない。

     

    トラギコも今はテントの中だ。

    野生生物はワタナベよりもある意味で恐ろしい。

    話が通じない上に、一切の慈悲を持たない。

    野生の掟に従って行動するため、戦略を立てる余裕がなければ実力で挑むしかない。

     

    武器を持つトラギコがいてくれれば、状況はまだこちらが有利だったに違いない。

    だがブーンが声を出せばあれは動くだろうし、その動いた先にいるのは勿論ブーンだろうし、そのままトラギコまで狙われかねない。

    あれが向ける視線の種類は、視線の先にいる生き物が餌か敵かを見極める類のそれだ。

    ブーンに出来るのは息を呑んで、あれがどう動くかを見守るしかない。

     

    そのはずだった。

     

    (∪;´ω`)「お?!」

     

    その瞬間、新たな視線の持ち主がブーンを取り囲むようにして現れた。

    音もなく、静かに。

    風に運ばれて鼻に届いた香りと雰囲気に、ブーンは安心感を覚えた。

     

    (∪´ω`)「ししょー?」

     

    それは師匠であるロウガ・ウォルフスキンの香りであり、雰囲気だった。

    静かに現れた狼の群れはそのまま静かにブーンの傍に寄り、三匹がブーンの前に立った。

    十匹の狼達が立つ位置は、明らかにブーンを守るための配置だ。

     

     /i/i

    ミ ゚()

     

    直立すれば人間の大人ほどもある全身を覆う灰色の毛はまるで銃身のように鈍く輝き、低い姿勢はいつでも高速で移動し、攻撃を加えられるように計算された構えをとっている。

    何故この狼達がブーンを守るのか、彼は知る由もなかった。

    だが理由はどうあれ、狼を前にした“あれ”は鼻を一度鳴らしただけで攻撃の意志を示さないまま、森の奥へと歩み去ったのは紛れもない事実だった。

    一気に緊張の意図がほぐれたブーンの周りに、狼達が集まってくる。

     

    一定の距離を保ったままそれ以上近付いてこようとはしないが、透き通った黄金色の瞳を向けて興味深そうにブーンを見ている。

    これもまたブーンの知らない事だったが、この森において狼はグリズリーと同じ領域に立つ生物だった。

    グリズリーが個の強さの化身であれば、狼は集団の強さの化身だ。

     

    (∪´ω`)「お」

     

    群れの長と一目で分かる一際大きな体の狼が、ブーンの前に歩み出た。

    四足で立っていてもブーンよりも大きく、後ろ足で立ち上がればいつか見た強化外骨格よりも大きいだろう。

     

     /i/i

    ミメ゚()

     

    特徴的だったのは、その顔に付いた傷だった。

    それが銃傷であることにブーンはすぐに気付いた。

    銃を使う生き物は人間だけ。

    つまり、この狼は人間に撃たれ、そして生き延びたのだ。

     

    何故助けられたのか、狼が人間の言葉を介して説明することはあり得ない。

    それでも、狼は紛れもなくブーンを助けた。

     

    (∪´ω`)「お」

     

     /i/i

    ミメ゚() ヲフ

     

    (∪´ω`)「おー」

     

     /i/i

    ミメ゚() ウォ

     

    (∪´ω`)゛「おっ」

     

    会話と呼べる会話ではなかったが、ブーンには動物の言葉が理解できるという特技があった。

    それは彼が耳付きとして生きていく中で、どうしても野良犬や野良猫と食糧を分かち合う必要があり、その際に身につけた能力だった。

    相手が狼でも、やることは変わらなかった。

    何を話しているのか、というよりも、何を言わんとしているのかを理解し合うコミュニケーションだ。

     

     /i/i

    ミメ゚() ……フ

     

    仔犬がいると思ったら、その仔犬から同族の匂いがしたことから助けた、という言葉にブーンは納得した。

    縄張りを荒らしに来たのではない事が分かると、狼はブーンに警告をした。

    “あの”生き物は非常に凶暴で強力であるため、出来れば関わらず、存在を察したら逃げた方がいいという事だった。

    だが、ブーンは留守を任されているため、そう簡単に逃げるわけにはいかないのだと説明すると、狼は飽きれた風に息を吐いた。

     

    狼が数歩近づき、ブーンの頬を軽く舐め、鋭い牙で優しく肩を甘噛みした。

    それはブーンを仲間とみなす行為だった。

    群れの長が認めた仲間は即ち、群れの仲間である。

    ブーンを取り囲んでいた狼達はブーンにそれぞれの形で情を示し、森の奥へと戻っていった。

     

    (∪´ω`)「おー」

     

    多くを語らずに多くを伝えてくれるその姿は確かに、ロウガの背中を思い起こさせたのであった。

     

    ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

    _ ,,..:::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::: : :.: {{:.:.ヾ ヽ.:

    `ヽ、::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::: :::::::::'::::::::::::::: : `丶、

    ::::. イ≧:::::::::::::::::::::::::::::::::,.  -''´:::::::::::::::::::::::::::::::::: : -_丶、

    '''´   `ヽ、_::::::::::: ,..'´  <´:::: : ___;:''´  ̄ `''ミゞ処ヾ ヘ.

    .. : :=ニ二:::::::::, -''"   _,,..'´ ̄          ` ¨´'' :

    : : : : : :.:`ヽ.''´    .. : : : :-‐=─―ァ           : : . . `ヽ、

    : : : : : :.:.:-‐ァ,,... . : : : : : : : : : : : : : :__,.'',.イ´r'´ ̄¨'- .: : : :..''‐r:

    : : : : : : : :.:/ー―: : -- = ..,,_: : : : : : : : : : : : : :‘ー‐--= ..,,''=‐‐--'

    : : : : : :.:-''´: : : : : : :.:.:.,..'´ ヽ、: : : : : : : : : : : : : : : : : : : :.:.''''´

    : : : : : : : :`ヽ`''_,,.. -=''´: : : : : : `ヽ、_,. -―――――‐-''´

    August 10th PM00:41

    ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

     

    ブーンが狼と別れた頃、グルーバー島にあるルルグベ教会に一人の訪問者があった。

    ピーター・ロドリゲス神父は久しぶりの来訪者が余所者であると同時に、同業者であると一目で分かった。

    黒いカソックを着た男は穏やかな笑みを浮かべ、首から提げた十字架を誇らしげに、だがつつましくピーターに見せた。

    分厚い扉の外に立つ男の姿を見たピーターは、閉ざしていた扉の閂を外して男を笑顔で招き入れた。

     

    ( ''づ)「ようこそ、ルルグベ教会へ」

     

    ( ・∀・)「どうも神父様、突然の訪問をご容赦ください」

     

    礼儀正しい男だった。

    無碍に扱う理由はない。

     

    ( ''づ)「いえ、お気になさらず。

        さぁ、今紅茶を淹れますのでどうぞこちらへ」

     

    扉を閉じ、神父を来客用の小部屋へと案内する。

    彼がどこの教会に所属しているのか分からない以上、下手なもてなしは出来ない。

    棚から高級な紅茶の缶を取り出し、茶菓子として信者から差し入れでもらったクッキーを出すことにした。

     

    ( ''づ)「お待たせいたしました、さ、どうぞ」

     

    ( ・∀・)「いやいや、申し訳ない。

         私、マドラス・モララーといいます。

         セントラスの教会で神父をしております」

     

    セントラス。

    それは十字教徒であれば誰もが知る聖地だ。

    十字教発祥の地であり、聖遺物に触れることの出来る街。

    宗教都市セントラスでの聖務は全ての聖職者にとっての憧れだった。

     

    高い紅茶を選んで正解だ。

    心象を損ねなければセントラスへの足掛かりとなるかもしれない。

     

    ( ''づ)「わざわざセントラスから。

         巡礼の旅ですか?」

     

    巡礼とは、各地に点在する教会を訪ね歩き、かつて世界を再生した聖者たちと同じ歩みを辿る神聖な行為。

    限られた人間にのみ、その聖務が与えられ、世界中の教会を繋ぎ続ける事が出来る。

    巡礼を終えた聖職者は教皇から祝福を受け、神に愛された存在として認められる。

    聖職者であれば、誰もが一度は夢見る行為だ。

     

    ( ・∀・)「いえ、完全な私用で来たのです。

         この教会には神父様おひとりですか?」

     

    ( ''づ)「シスターたちがいるのですが、ほら、今は島がこんな状態ですので皆宿舎にこもっております。

         紹介が遅れました。

         私、ピーターと言います」

     

    ( ・∀・)「よろしく、ピーター神父。

          そして、さようなら」

     

    その言葉と同時に吹いた風が、首筋を撫でた。

    首を傾げた記憶はなかったのだが、ピーターの視界がゆっくりと傾き、地面に向かって落ちて行った。

    疑問を抱く間もなく視界が黒く染まり、意識がなくなった。

    彼は幸運だった。

     

    最期まで首を切り落とされたことに気付くことがなく、邪悪な笑いを浮かべるモララーの顔を見ずに済んだのだから。

    幸運なまま絶命した神父の首が転がらないよう、一人の女がそれを乱暴に踏みつけた。

     

    ''从「あら、結構これいいわねぇ」

     

    神父の首を背後から切り落としたワタナベ・ビルケンシュトックは、ナイフの使い心地に満足していた。

    くの字に折れ曲がった特徴的なナイフは首を切り落とすのに都合のいい形をしており、骨ごと違和感なく切り落とせた。

    切れ味の良さもさることながら、適度な重みが手に馴染む。

    これはいいナイフだ。

     

    いいナイフはいい仕事に繋がる。

    支給されたナイフだが、このナイフを選んだ人間には見る目がある。

     

    ''从「どうせ殺すんならどうしてお茶なんて淹れさせるのぉ?」

     

    ( ・∀・)「相手の好意を拒むのはどうにも気が引けまして」

     

    ワタナベはどうにもこの男が理解できなかった。

    首を失った神父の体を前に、モララーは紅茶を啜り、のんきにクッキーに手を伸ばす。

    自らの手を汚さずに人の死を願うこの男は、ワタナベの価値観とは大いに異なった。

    殺しとは、それ自体を堪能することにこそ醍醐味がある。

     

    人が死ぬ姿を見るだけでいいのなら、病院に務めればいいのだ。

    そうすれば労せずに人の死を見続けることが出来る。

    だがこの男はそれすらもしない。

    誰かが殺すように指示を出して、自分は決して人を殺さない。

     

    実に不愉快な男だった。

    生を終わらせる刹那に感じ取ることの出来るあの快楽を何だと思っているのか。

    奪う事の快感を理解できない人間とは一生分かり合えない。

    いつの日かこの男を殺し、死の味の甘さを教えてやろうとワタナベは笑みの奥で決意した。

     

    ''从「それでぇ? シスターは私が殺していいのかしらぁ?」

     

    掌を見せて、モララーはそれを制した。

     

    ( ・∀・)「あ、それは少しだけ待ってもらってもいいですか?

         その前にやらないといけないことがあるので」

     

    ''从「何をするつもりなのぉ?」

     

    ( ・∀・)「シスターは処女なので、その前にせめて私が彼女達に男の味を教えてあげようと思いまして」

     

    この男はいつもそうだ。

    殺しの前に凌辱などと言う行為を挟もうとしてくる。

    性的な快楽よりも殺しで得られる快楽の方が、病みつきになり、決して後戻りできない事を知らないのだ。

    自慰しか知らない童貞と同じ、下卑た考えだ。

     

    人の命を冒涜しているとしか思えない。

    命を何だと思っているのだ。

     

    ''从「私は別にどうでもいいんだけどぉ、多分、ショボンとかが怒ると思うわよぉ」

     

    ( ・∀・)「ははは、黙っていればいいんですよ」

     

    ''从「ふぅん」

     

    ( ・∀・)「では、私は少し席を外しま――」

     

    その時、境界の扉が乱暴に開かれた音がした。

    音を気にすることなく来客室から出ようとしたモララーが扉を開くと、そこにいたのは老犬を思わせる佇まいのジョルジュ・マグナーニだった。

    特徴的な太い眉を吊り上げ、獲物を前にした獣の笑みを浮かべる。

      _

    ( ゚∀゚)「よぅ、何しに行くんだ?」

     

    ( ・∀・)「……いやちょっとお手洗いに」

      _

    ( ゚∀゚)「女を便所扱いする癖はいい加減に治せ」

     

    ( ・∀・)「ははは、お見通しか」

     

    ジョルジュの脇を通り抜けようとしたモララーだったが、それを塞いだのはシュール・ディンケラッカーだった。

    視線はワタナベに向けられたまま、その場に止まった体は部屋唯一の出入り口をジョルジュと並んで塞いでいた。

    彼女がワタナベに対して敵意を向けているのは明白だが、ワタナベは涼しげな表情で受け流す。

     

    ''从「あらぁ、ご立腹なのぉ?」

     

    lw´‐ _‐ノv「五月蠅い。 私の邪魔をして、何がしたいの」

     

    トラギコを殺そうとしていたシュールを、ワタナベは軽く阻止した。

    それに対して腹を立てているのだろう。

    だが元はと言えば、ワタナベのトラギコを奪おうとしたシュールに非がある。

    彼を殺すのは、ワタナベでしか有り得ないのだ。

     

    子宮を疼かせる彼との殺し合いを楽しむ権利は、ワタナベだけの物。

    断じて、この女にそれを譲る気はない。

      _

    ( ゚∀゚)「……邪魔をした? おいワタナベ、お前、何をした?」

     

    ''从「私の獲物を横取りしようとしたから、それを止めさせただけよぉ」

     

    その言葉を聞き、ジョルジュの手が腰に下がったリボルバーに伸びた。

    それに応じ、ワタナベもナイフの柄を軽く握りなおす。

      _

    ( ゚∀゚)「……お前がどうしてキュートに気に入られているのかは知らねぇが、この島で作戦に参加する以上は味方同士の妨害は止めろ。

        次に邪魔するっていうんなら、今度は俺が相手になるぞ」

     

    彼の提案は面白そうではあるが、ジョルジュはワタナベの好みではないため、今は遠慮しておきたい。

    何より、この男と殺し合いをしてもつまらない。

    殺し合いをするのであればやはり、トラギコが一番なのだ。

    世 界 中 ど こ を 探 し て も 、自 分 と 殺 し 合 い を す る の に 相 応 し い 相 手 は ト ラ ギ コ し か い な い 。

     

    キュート・ウルヴァリンが彼よりも上の人間であるため、そう簡単に手出しは出来ない。

    涼しげな表情を浮かべ、ワタナベはすっと目を細める。

     

    ''从「考えておくわぁ」

     

    その言葉を受けたジョルジュは鋭い眼光をワタナベに残し、モララーの襟首を掴んで部屋の中に押し戻した。

    肩を竦めて、ワタナベは入れ替わる形で部屋を出て行った。

    モララーが動けない今、女達を殺すのはワタナベの仕事だ。

    久しぶりの殺しに、胸が高鳴る。

     

    シスター達は教会と隣接する納屋のような建物にいる。

    まだ陽の高い今は、せいぜい昼食後の歓談をして恐怖を和らげようとしているに違いない。

    そんな健気な彼女達の前に現れ、命の終わる音を聞かせてもらえるかと思うと、自然と興奮した。

    命乞いをするのか、それとも神に祈りをささげて奇跡を願うのか。

     

    どのような形でその終わりを見せ、聞かせてくれるのだろうか。

    ナイフで切るのもいいが、首を絞めてもいい。

    指を切り落としてそれを口に突っ込むのもいいし、十字架を膣に突っ込んで破瓜の血を流させるのもありだ。

    恐怖で命を彩る方法を考えるだけで、股座が濡れてくる。

     

    殴殺は最後に取っておこう。

    綺麗な顔が崩れないよう、顔ではなく内臓を中心に攻撃し、最後は心臓を殴って止める。

    涙と鼻水、涎で汚れた顔はさぞや綺麗なことだろう。

    礼拝堂を通り抜け、裏庭を進んで宿舎へと向かう。

     

    二階建ての古めかしい建物の入り口は、質素な木で作られ、施錠はされていなかった。

    鐘の音を恐れるのであれば鍵ぐらいはかけておいた方がいいのだが、この島の人間にはそこまでの智恵はないのだろう。

    所詮は平和ボケした存在。

    ジュスティアに守られることに慣れ、己を守る手段が余所者を排除するだけでは、こうも脆弱な人間に仕上がっても仕方ないだろう。

     

    押し開いた扉の向こうもまた、木造りの空間が広がっていた。

    一階にある小さな食堂から話し声が聞こえてきたのを、ワタナベは決して聞き逃さなかった。

    神父の首を切り落としたナイフを手で弄び、跫音を消して食堂へと忍び寄る。

    半開きになった扉から漏れ聞こえる声の中に男のそれが一種類混じっており、女の声は三種類あった。

     

    最低でも合計四人。

    男は頭を縦に切り分け、女たちは寸刻みにして殺そう。

    まずは足の腱を切って、自由を奪おう。

    足の腱を切れば逃げる事を防ぐだけでなく、いい悲鳴を奏でてくれることをワタナベは知っていた。

     

    ''从「おこんにちはぁ」

     

    扉を押し開き、満面の笑みでワタナベは声をかける。

    突然の来訪者にも関わらず、聖職者たちは驚いた様子を見せず、何の疑いもなくワタナベに笑顔を返した。

    直後に彼女が背中に隠していた大ぶりのナイフで男の顔を両断するまでは、一切の警戒心も抱かなかったはずだ。

    縦に切り分けられた男は、だがしかし、切られたことに気付いていない表情のままその場に崩れ落ちた。

     

    女の絶叫がワタナベの鼓膜を震わせた時、その鋭利な刃は女達の足首をまるで鎌鼬のように優しく撫で、正確にアキレス腱を断っていた。

     

    ''从「ねぇねぇ、どんな風に遊びましょうかぁ?」

     

    ナイフを振って血を払い落とし、ぎらつくその表面を女たちに向ける。

    女の一人が、ようやく何が起きたのかを理解したような表情でワタナベを見て、無造作に両手を胸の前で組んだ。

    その行為が命乞いではないことにワタナベは気付き、激怒した。

    この女は駄目だ。

     

    この期に及んで神を信じ、それに縋ろうとしている。

    神が助けることはない。

    人がどれだけ祈りを捧げ、願おうとも、決して叶わない。

    そんなものはこの世界にいないのだ。

     

    神の不在を受け入れれば楽になるというのに、下手に抗おうとするから苦しむことになる。

    死を前に本能のままに恐怖し、無力のまま死ねばいい。

    命が消えるその直前までワタナベを楽しませれば尚良い。

     

    ''从「……ちっ」

     

    ワタナベの持つナイフが女の両手首から先を切断し、返す手で喉元を切り裂いた。

    これで祈りを捧げることも十字を切ることも出来ない。

    喉の出血を押さえることも出来ず、自らの血溜まりで女は顔を赤く汚していく。

     

    ''从「祈る暇があるなら悲鳴ぐらい聞かせなさいよぉ!」

     

    残った二人は恐怖で声も出せなくなり、その場にへたり込んで失禁した。

    あぁ、それでいい。

    命が手の中で失われていく様を堪能し、それを奪っていく優越感に浸る。

    これが殺しの醍醐味だ。

     

    「え……ぐ……がっ……」

     

    喉を切り裂かれた女は動かなくなり、細かく痙攣をして動かなくなった。

    折角の御馳走が半分になってしまったが、まだ楽しめる。

    舌なめずりをして、残りの女を切り刻み始めようとした、その時だった。

    二人の女の頭が一発の銃声と共に爆ぜた。

     

    否、ワタナベには一発にしか聞こえなかったが、実際に放たれた銃弾は二発。

    音がほぼ一つに聞こえる程の速度での連射は、あの男の特技だ。

    振り返ることなく、ワタナベはその男の名を呼んだ。

     

    ''从「あらぁ、ジョルジュ。

         無抵抗の人間は撃たない主義じゃないのぉ?」

      _

    ( ゚∀゚)「お前に殺されるぐらいなら俺が殺す。

        命を弄ぶな」

     

    鋭く睨みつける彼の懐に下がる皮製のホルスターには、黒いリボルバーが収まっている。

    S&W M29

    44口径の大型拳銃だ。

    決して装弾不良を起こさないという利点だけを残し、連射性や取り回しやすさについてはオートマチックに劣るリボルバーだが、それを取り扱う彼の腕は確かだ。

     

    今の時代にリボルバーをここまで使いこなせるのは、ジョルジュぐらいだろう。

    実際、ワタナベがこれまでに殺し合いをしてきた人間の中でリボルバーを使っていた者はいたが、結局は酔狂や趣味を理由に使っていたに過ぎない。

    皆、ワタナベとの殺し合いの中でその利点を生かすことなく死んでいった。

    いまどきのカウボーイでも、オートマチックを使う。

     

    だが、ジョルジュは別格だった。

    戯れに切りかかろうと試みようとも、撃鉄の起きたリボルバーが魔法のようにその手に出現していた。

    今こうしてナイフを持つワタナベと得物を持たないジョルジュはほぼ互角の立場、いや、場合によってはワタナベよりも優位な位置に立っているかもしれない。

    それほどに、ジョルジュの早撃ちは圧倒的な力があった。

      _

    ( ゚∀゚)「殺しを楽しむ屑が。

        なんなら、今ここで殺してやっても俺は構わねぇんだ」

     

    ''从「悪いけど、あんたと殺し合う趣味はないのぉ」

     

    だが興味はある。

    苦労してこの男を殺すことが出来れば、それはそれで面白いだろう。

    賢明に生きてきた人間の死に際もいいが、キャリアの長い人間の死に際も好きだ。

    健気なその一途さの終点が、無常の死だとは何とも泣けてくる話だ。

     

    好奇心は高まる一方だが、この状況でそれを試すにはあまりにもリスクが高すぎる。

    仮にここでワタナベが奇襲を仕掛けても、彼は難なく対応してしまう事だろう。

    それでは駄目だ。

    トラギコと殺し合うまでは、死ぬわけにはいかない。

     

    ――今はまだ、ジョルジュは殺さずにおこう。

      _

    ( ゚∀゚)「趣味の問題で言えば、汚い殺人狂と話し合う趣味も俺にはねぇ。

        ほら、やることが終わったら向こうに行くぞ」

     

    ジョルジュも己の力量を正しく理解しているからこそ、ナイフを持つワタナベとこの距離にいながらも落ち着いていられるのだ。

    確かに、いくら接近しようとも、こちらが攻撃を加える前に銃を抜いて撃てば距離と得物の関係は意味を持たない。

    今は、我慢の時。

    安酒を飲んで酔うのはいつでもできるが、何も熟成された酒の前に飲む必要はない。

     

    全てはトラギコとの殺し合いまでの前戯。

    本番までの暇潰しであり、それまでの演出でしかない。

    ティンバーランドの目的ですら、ワタナベにとっては取るに足らない存在だった。

    大局で考えればジョルジュとの確執など取るに足らない些事だ。

     

    ''从「ふぅん。 お優しい事ねぇ、警察のおじさん」

      _

    ( ゚∀゚)「……黙れよ、色狂い」

     

    トラギコの上司だった男でも、ショボン・パドローネとジョルジュではその性質がまるで異なる。

    どちらもかつては法の番人であり、正義の執行者だった。

    ショボンはその正義を完全に見失い、ジョルジュはそれを捨てきれないでいる。

    両者ともにジュスティア警察を抜け、彼らが対峙していた“悪”になってしまった。

     

    皮肉な物だ。

    彼らの後輩は正義で在り続けようとしているというのに、正義で在り続けられなかった彼らは一つの夢のためにその手を汚し続けている。

    こうして比較してみればみるほど、トラギコの魅力を思い知らされる。

    一途に正義を追い求め続け、人間から虎へと変貌した彼。

     

    変わらぬ姿勢は変わらぬ魅力。

    頑なに昔と同じ価値観で仕事を続けるトラギコは、ワタナベにとって魅力的な人間だ。

    やはり彼は最高だ。

    最高の男だ。

     

    彼と分かり合ったうえで本気で殺し合えば、間違いなくワタナベはこれまでで最高の性的な興奮を迎え、果てる事だろう。

    少女のように純粋な心で、ワタナベはその日が来ることを願った。

    一日でも早くトラギコがワタナベを理解し、殺し合いを望んでくれる日が来てほしいと祈りに近い形で願う事は、彼女にしては珍しい行動だった。

    しかしながら、それもいたしかたないだろう。

     

    偶然にもここは教会と言う、人間が願うにはおあつらえ向きの場所なのだから。

     

    ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

          |  //∧ ∨::.:.:.:-z     `丶、 \  \ ///   、

          |   // i ∨江ニ==--≧x    \   ヾ、 ∨/

          |      |  ;.:..:.:.:.:.:.:.:.:-===-  \ }}!  !  //  ゙

          |      |  i.:.:.:=======-;≫x    \}  i} //     !

          l     |  |-==-:.:.:.:.:.:.:.:./    -_ \_}//    :|

           ′     |  |.:.:.:.:.:.:=--〃      ::!  -={ト、//、  :|

          ,     |  |:.:.:.:.:..:.:.:.:.:.{      |__   ≧x  \::

                ⅱ :|-=.:=--=癶、     |  ー il}   li 、 :

       /         l| /!.:.:.:.:.:≫ァ=--く \   i     |:!   l|  \ :.

     イ        /;!/:|-=≦イ、    \ \ \   j」__j}、  \i

    _.: _\      / / :|.:.:}〃|ハ     \ ヽ Υ          \

    August 10th PM05:55

    ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

     

    もしも願いが叶うならば、奪われた家族を取り戻してほしい。

    ヒート・オロラ・レッドウィングは、かつて何度もそう思い、叶わない夢と知って心を痛めていた。

    歳の離れた弟を含んだ四人でヴィンスに旅行に行き、そこで爆破事件に巻き込まれた。

    それは六年前、ヒートが19歳の時に起こった事件だった。

     

    マフィア同士の抗争による爆破事件によって、ヒートは自分以外の家族を失った。

    そして、復讐鬼と化した。

    鬼となり、事件に関わった全ての人間を殺した。

    揺篭で寝ていた赤子も殺した。

     

    両手は血で染まり、最後に、爆破を指示したマフィアの首領とその家族を惨殺した。

    一つの組織を壊滅させ、ヒートの復讐は終わった。

    終わった、はずだった。

     

    川 ゚ -)「間違いない、ヒートだな」

     

    ヒートがプレゼントしたブレスレットに血を残し、木っ端みじんに吹き飛んだはずの母親、クール・オロラ・レッドウィングが現れるまでは。

    アパートの屋上から見下ろすその姿は、六年前に見たものと同じ。

    声も、風になびく黒髪も。

    疑いの余地もなく、母親だった。

     

    ノハ<:::|::,》「ど、どうして……」

     

    敵前だというのに、ヒートは動揺を抑えるという事を考えられなかった。

    血のように赤い夕焼け空を背に、クールは表情一つ変えずにヒートを見下ろしている。

     

    川 ゚ -)「どこから話したものか難しいが、私はこうして生きている。

         これは事実だ」

     

    ノハ<:::|::,》「一体、どうして……生きて……

          今まで黙って……」

     

    川 ゚ -)「あぁ、私がどうして生きているのか、という事を知りたいんだな。

         いいだろう、教えてやる。

         あれは私が仕組んだことだからだ」

     

    昔と同じく、表情一つ変えずに言い放った一言はヒートを恐怖させた。

    戦慄さえした。

    鐘の音が響く中、はっきりと聞き取った言葉は、撃ち込まれたどの銃弾よりも鋭くヒートの体を貫いた。

    否、抉り、腐食させた。

     

    ノハ<:::|::,》「ど、どうし……て……」

     

    指先から血の気が失せて行く。

    全てを否定するたった一言は冷酷無比な殺し屋、レオンをその場にくぎ付けにし、隙を作った。

    これが殺し合いの間で行われていれば、ヒートの命はこの瞬間に失われていた事だろう。

    だがそうはなっていない。

     

    母なりの慈悲なのか、それとも別の要因なのか、それを推測する余裕すらヒートにはない。

    頭上から浴びせられる言葉はヒートの前身に突き刺さる針となり、思考を麻痺させる。

     

    川 ゚ -)「全てとは言わんが、半分は私の責任でもある。

         お前の後に私の腹から出てきた糞の塊がいただろう?

         あの瞬間、私は絶望したよ。

         害虫を生み出す人間だった自分を知り、更に、その可能性を持つ男と結婚したことに。

     

         害虫をこの世から消滅させる最善の方法は母体を消し去る事だ。

         だがその前に、まずは生み出してしまった膿どもを拭きとらねばならん、だろ?

         世界中に散らばる害虫を消す前に、まずは足元の掃除からだ。

         出来るだけ楽に殺すために爆殺しようとしたのだが、詰めが甘かったのだな。

     

         いや、それとも同じ虫螻の血が混じっているからか?

         まぁどちらでもいい、今度こそ私がこの手で殺してやる。

         それが、母親としてしてやれるせめてもの慈悲だ」

     

    絶句したまま、ヒートは何一つ身動きできなかった。

    何を母に言われたのかは分かるが、理解が出来なかった。

    あの事件を仕組んだのが母親、などと今言われても理解できる方が稀だ。

    復讐を果たしたはずのヒートの行いは全て無駄であり、その黒幕である人間はこうして目の前に生きている。

     

    心を殺し、人を殺し続けてきた歳月。

    それら全てを頭上の女が否定し、嗤って、そして――

     

    [:::|::,]『さぁ、死ね』

     

    ――黒い異形が、頭上から襲い掛かってきた。

    思考とは別に、ヒートの体が動いた。

    何百、何千と死地を潜り抜けてきた彼女の体細胞は反射的に体を動かした。

    砲弾を彷彿とさせる蹴りを避け、反撃の回し蹴りが無意識の内に放たれていた。

     

    その一撃を腕で防いだクールの強化外骨格はアパートの壁に叩き付けられ、コンクリートの壁面に大きな亀裂を生じさせた。

     

    ノハ<:::|::,》「害虫……どういうことだ……」

     

    [:::|::,]『言葉通りの意味だ。

          獣の血を持つ人型の生物など、この世の中にいていいはずがない。

          お前にも私と同じく、害虫を産む可能性のある子宮があり、遺伝子がある。

          悍ましい、実に気色の悪い話だ』

     

    ヒートの弟は、耳付きと呼ばれる人種だった。

    獣の耳を持ち、獣の尾を持つ人間故に忌み嫌われる存在。

    それを害獣や害虫と呼ぶ人間は多くいる。

    ヒートと父親は彼を家族の一員として歓迎し、祝福していたが、クールは違ったということだ。

     

    耳付きが何故生まれるのか、何故生まれたのかについて、今のところ理由は分かっていない。

    もしも確実に耳付きと言う人種を滅ぼしたければ、それが産まれた家計を文字通り根絶やしにするしかない。

    それが悲しく、悔しく、どうしようもなく腹立たしかった。

     

    ノハ<:::|::,》「……そん……な」

     

    [:::|::,]『安心しろ。

          世界が黄金の大樹になった暁には、私も自ら命を絶つ』

     

    ノハ<:::|::,》「……」

     

    その一言でヒートの心が体とようやく結びついた。

    言葉の真偽は知らない。

    そんなものは、もう、どうでもいい。

    弟と父を殺し、ヒートの心と体に消えない傷を負わせた張本人がここにいる。

     

    断じて許してはならない仇が、目の前にいるのだ。

     

    [:::|::,]『死んでくれ、世界のために』

     

    ノハ<:::|::,》「ぶっ殺す!」

     

    左手の悪魔めいた鉤爪を大きく広げ、右腕の杭打機を起動させる。

    バッテリーはまだ残量がある。

    相手の棺桶の正体が分からなくても、こちらは対強化外骨格戦闘に特化した棺桶。

    後れを取ることはない。

     

    ノハ<:::|::,》「お前は、絶対、殺す!!」

     

    [:::|::,]『……』

     

    石畳の地面を踏み砕く勢いで、ヒートは一気に疾駆した。

    踵のローラーが加速を促し、黒い棺桶に肉薄する。

    恐らく、髪の毛のように後頭部から垂れたケーブルはあの棺桶の特徴とも言えるものだろう。

    そしてそれは、武器ではなく補助装置のような役割を果たしているはずだ。

     

    仮に武器であれば、初手で蹴りを放つ必要はなかった。

    ならば問題はない。

    左手の雷電を浴びせかければ、耐性の無い棺桶は一撃で機能を停止する。

    そこを杭で貫き殺せば終わりだ。

     

    ノハ<:::|::,》『うるぁっ!!』

     

    急接近したヒートは左手を袈裟懸けに振り下ろした。

    クールはそれを腕で防ぐ。

    これを狙っていた。

    左手が相手に触れる、その時を。

     

    [:::|::,]『……っ』

     

    青白い電流が放たれ、棺桶の機能を一時的に停止させる。

    過電流により、棺桶から黒い煙が立ち上った。

     

    ノハ<:::|::,》「あぁぁっ!!」

     

    ヒートは獣の叫び声をあげ、杭打機で棺桶の胸を貫いた。

    確かな手ごたえ。

    装甲を容易く貫通した杭は背中から突き出し、いくつもの機械部品と黒い液体を地面にまき散らした。

    膝を突いた棺桶は、だがしかし、その両手でヒートの杭打機を掴んだ。

     

    ノハ<:::|::,》『なっ!?』

     

    即死のはずだ。

    心臓を確かに穿ったのに、どうして動けるのか。

    執念が棺桶を動かすはずなどない。

    あくまでも運動の補助であり、戦闘の手助けをするだけであって使用者の心を読み取って動く鎧ではない。

     

    なのに、どうして。

     

    [:::|::,]「デミ……タス……今……だ」

     

    腕の先からノイズ交じりの声が聞こえてきた時、ヒートは理由に気付き、己の迂闊さを呪った。

    この棺桶に、クールは入っていない。

    これは――

     

    ノハ<:::|::,》『遠隔操作っ……!!』

     

    (´・_ゝ・`)「もう遅いんだよ、女」

     

    背後から声。

    いつの間にかそこに回り込んでいたデミタス・エドワードグリーンが大ぶりのナイフを手に、ヒートにそう言った。

     

    (´・_ゝ・`)「盗ませてもらうぞ、お前の命と棺桶を」

     

    ノハ<:::|::,》『やれるもんならやってみろ……男!』

     

    右腕に巨大な重りが付いているだけでなく、レオンの主兵装である杭打機が失われたのは致命的だ。

    機動力を生かしてデミタスを翻弄しようにも、この機械人形が邪魔になる。

    軽量と小型化に特化したAクラスの棺桶であることが仇となり、ヒートはその場からほぼ動けない状態だった。

     

    (´・_ゝ・`)「じゃあな」

     

    デミタスはゆっくりと歩み寄り、高周波振動ナイフを強化外骨格共通の弱点であるバッテリー部目掛けて投擲した。

    背中にあるバッテリーを守る術はない。

    バッテリーが破壊されれば、どんな強化外骨格も動くことの無い甲冑と成り果てる。

    そうすれば後は、毒ガスで殺すも水に沈めて殺すも、装甲の隙間に銃腔を突っ込んで撃ち殺すことも出来る。

     

    一瞬の間にヒートは最悪のシナリオを想像した。

    ――鳴り響いた銃声が、最悪のシナリオを打ち切りにした。

     

    ζ(゚ー゚*ζ「あらあら、珍しい棺桶が揃ってるわね。

           アバターに、インビジブルね。

           私も混ぜてもらっていいかしら?」

     

    何か別の言葉を誰かが発する間もなく、突如現れたデレシアの手の中で黒いデザートイーグルが火を噴いた。

    それは黒い棺桶の首を貫き、自重に耐えかねた頭部がその場に落ちた。

    二、三発目はヒートの腕を掴む腕の関節部を破壊した。

    四発目はデミタスの股座を掠めた。

     

    ジワリ、とそこから透明な液体が溢れ出してデミタスの足元に水溜りを作っていく。

     

    ζ(゚、゚*ζ「失せなさい、私、今虫の居所が悪いの。

          ほら、ゴキブリみたいに一目散に逃げなさいよ。

          それとも死にたいのなら、今ここで殺してあげるわよ?

          それが望みなら、屠殺してあげるわ」

     

    (;´・_ゝ・`)「くっ……!!」

     

    デミタスが何かをしたようだが、ヒートの目には何も変化がなかった。

    恐らく、不可視の技を使ったのだろう。

    背を向けて遁走するデミタスをデレシアは見向きもしなかった。

     

    ζ(゚、゚*ζ「……まったく、もう」

     

    溜息を吐きながら、デレシアがヒートの傍に歩み寄ってくる。

    何故かヒートはその姿に軽い畏怖を覚えた。

     

    ζ(゚、゚*ζ「一人で突っ走るのは結構。

          一人で仇討をするのも結構。

          でもね、無謀は駄目よ」

     

    子を叱る母のように。

    子を躾ける父のように。

    妹を窘める兄姉のように。

    教え子を諭す教師のように。

     

    デレシアはそう言って、ヒートの腕についていた黒い腕を引き剥がした。

     

    ζ(゚ー゚*ζ「さ、もう大丈夫よ」

     

    ノハ<:::|::,》『……ごめん』

     

    ζ(゚ー゚*ζ「いいのよ、ヒート」

     

    ヒートはレオンの装着を解除し、改めて謝罪の言葉を口にした。

     

    ノパ⊿゚)「ごめん……」

     

    ζ(゚ー゚*ζ「理由があったんでしょ?」

     

    ノパ⊿゚)「あぁ……」

     

    話すべきか、それとも黙っているべきか。

    ヒートは悩んだ。

    デレシアを前にすると、あらゆる悩みを告解してしまいたくなってしまう。

    恐るべき魅力、恐るべき包容力のなせる業だ。

     

    ノパ⊿゚)「……ちょっと、話をさせてもらえないか?」

     

    ζ(゚ー゚*ζ「勿論いいわよ」

     

    これもきっと、デレシアの予想の範疇なのだろう。

    だがそれでいい。

    誰かに今の胸の内を話さなければヒートは狂ってしまう。

    己が選び、歩んだ修羅の日々とそれを否定する存在の出現はとてもではないが彼女の心の許容量を超えた。

     

    ζ(゚ー゚*ζ「心はね、目には見えないの。

           目に見えない傷は、見せようとしない限り決して癒せないのだから」

     

    やはり彼女は全てを分かっているのだ。

    世界の全てを知っているような彼女であれば、ヒートの心境ぐらい容易く想像できるに違いない。

    ならばいっそ、全てを話してしまった方がいい。

     

    ノパ⊿゚)「ありがとう、本当に……」

     

    そして二人は、コーヒーショップに立ち寄って大きめのコーヒーを購入してから、ヒートが宿泊しているホテルに向かった。

    ヒートの泊まっているホテルは最低限の設備が整った物で、快適さとは程遠い。

    一つしかないベッドの上に並んで座り、二人はコーヒーを飲みながら時間が過ぎるのを待った。

    具体的に何から話したらいいのかを考え、ヒートはようやく口を開いた。

     

    ノパ⊿゚)「あたしは――」

     

    それからヒートは語り始めた。

    自分の家族について。

    耳付きとして生まれた弟について。

    弟の面影をブーンに見ていた事。

     

    九年間に及ぶ復讐の日々。

    それら一切合切を、デレシアに告白した。

    己の過去を一つ残らず吐き出し、己の復讐の全てを否定する出来事を話した。

    そして最後に、自分が何者であるかを告げた。

     

    ノパ⊿゚)「……あたしは、薄汚れた殺人鬼だよ」

     

    殺し屋ですらなく、ただ、無意味な殺しをしていただけの人間だったという結論。

    復讐に身を焦がした女の成れの果てがこれだ。

     

    ζ(゚ー゚*ζ「あら、それはどうかしら」

     

    ――嗚呼、と思う。

    たった一言で良い。

    己の好意が無意味でなかったと否定してくれる存在を、自分が未だに欲している事実があまりにも情けない。

     

    ζ(゚ー゚*ζ「その行いは決して無駄ではなかったわ。

           計画は別にしても、実行者は変わらないのだから。

           それに、私にとブーンちゃんにとって貴女が貴女を評価しているのとは全く別の人間よ。

           貴女は――」

     

    ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

    .     //  ,:i::i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i

    .      ,/  i::i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i,彳´\i:i:|i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i

    .       i{  八{ i{:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i, 'ィ丈ツ}!i:i:i:i:i:i:i:i:i:i{

                }∧マ´∨ }:i{ \:i:i:i|^ミ=='|:i:i:i:i:i:i:i:|ヾ、

                 / ∧    '/  /:l \|      |/ /:i::仆、{  :}ト、

    .           ,/  / ∧      /::::|          ∧i:i::|:{   }i

               i{   { / ∧     ヽ::| __,      / :}{`   }i

                i{  {/ /∧  、   ¨´      /  〉   }    }i

                     August 10th PM10:22

    ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

     

    トラギコ・マウンテンライトは空腹で目を覚ました。

    周囲はすっかり暗くなり、漂う空気もすっかり冷たいものになっている。

    どれだけ長い間眠っていたのか、腕時計に目を向ける。

    夜光塗料が示す時間は、夜の十時を過ぎていた。

     

    テントの中には人の気配がなく、どうやら、トラギコ一人だけが寝ている様だ。

    命があるという事は、ワタナベやその仲間が襲ってきたわけでもなさそうだった。

    オレンジ色の明かりがゆらゆらとテントの外で輝いているのを見て、誰かが焚火をしているのだと理解する。

    恐らくは、看病をしていたブーンだろう。

     

    バーナーではなく焚火に切り替えたのは、暖を取るためかもしれない。

    中々に気の利く子供だ。

    ティンカーベルの夜は冷える。

     

    (=゚д゚)「……腹減ったな」

     

    ふと漏らしたその一言の直後、テントの戸が開き、焚火の炎を背にデレシアが姿を見せた。

    唐突に現れた彼女の姿に思わず声が出そうになったのを抑え込めたのは、トラギコの胆力の賜物だった。

     

    (;=゚д゚)「お……」

     

    ζ(゚ー゚*ζ「じゃあご飯にしましょうか」

     

    デレシアがこうしているという事は、もう一人の赤毛の女も戻っているかもしれない。

    あの女はデレシアと似た匂いがしたが、別の匂いもした。

    暗く、湿った世界で生きてきた犯罪者の匂いだった。

    恐らくは殺しを長く行ってきた人間だろう。

     

    特長を覚え、警察本部にある犯罪者のリストと照合すればその正体が分かるかもしれなかった。

    しかし、この面倒な事態が収束してから調べても十分に間に合うし、デレシア以上の重要人物ではないはずだ。

     

    ζ(゚ー゚*ζ「もう体は動くでしょ?

          さ、外で食べましょう」

     

    (=゚д゚)「あ、あぁ……」

     

    この女は、トラギコを脅威とみなしていない。

    利害の一致が無ければすぐにでも切り捨てられる便利な駒程度に思われているのだろう。

    ジュスティア警察の有名人である“虎”など、この女にとっては道端にいる野良猫と同じなのだろう。

    決して馬鹿にしているわけではなく、本当にその程度の存在としてしか認識していないのだ。

     

    荒野に生きる肉食獣が小さな羽虫を見下していないのと同じ。

    多少の口惜しさと共に体の節々に痛みを感じつつ、トラギコは立ち上がる。

    眠っている間に包帯が新しい物になっていたことに、その時になって気が付いた。

     

    (=゚д゚)「ちっ……」

     

    子供とは言え、そこまで気を許してしまったとは。

    枕元にコンテナと拳銃が置かれたままになっているのを見て、デレシア達に本当に敵意がないことは分かる。

    本当に敵意があればわざわざ車からトラギコを助け出し、手当てをするはずがない。

    見方を変えれば、これを使ったところで大して意味がないと言いたいのかもしれない。

     

    両方の武器を手に取って、トラギコはテントを出た。

    焚火を前にブーンがクッカーを持って何か作業をし、デレシアはそれを傍で見守っている。

    赤毛の女はいなかった。

    テントの中にいた時にはそこまで強く感じなかったが、森の中はかなり冷え込んでいる。

     

    温かい酒でも飲みたい気分だ。

     

    (=゚д゚)「よぅ、お前が包帯を代えてくれたのか?」

     

    (∪´ω`)「お、そうですお……」

     

    ブーンの持つクッカーには、分厚いベーコンが乗っていた。

    香ばしく焼けたベーコンは三枚。

    ブーンはフォークを使ってその焼き色を見ながら、焚火にクッカーをかざす。

     

    (=゚д゚)「ありがとうな」

     

    (∪*´ω`)「お…… どういたしまして」

     

    ζ(゚ー゚*ζ「お酒は飲む?」

     

    (=゚д゚)「いや、止めておくラギ」

     

    長居をしすぎる訳にはいかない。

    ここで傷を治療してもらっただけでも大助かりだ。

    後はデレシアの魂胆を聞いてから、最初の提案を反故にして独自に動けば――

     

    ζ(゚ー゚*ζ「状況が少し変わったから、本題はご飯を食べてからにしましょうか」

     

    (=゚д゚)「……あぁ」

     

    デレシアはトラギコの考えを見抜いたのか、決して厳しい口調ではなかったが、有無を言わせぬ強い意志を感じ取らせる声でそう言った。

    反射的に頷いたトラギコはブーンの手前もあり、大人しくその言葉に従うことにした。

    どうにもデレシアという人間が分からない。

    一見すればただの女だが、その瞳の奥を覗き見てしまうと、彼女の言葉に対して反論や異見を言う気が途端に失せてしまう。

     

    少しでも彼女に関する情報が手に入ればと思うが、こうしていても分かるのは彼女の謎ばかり。

    数多の犯罪者を前にしても奥さなかったトラギコが、今こうして感じているのは恐怖にも似た感情。

    子供が親に対して抱く、絶対的な力を前にした人間の本能が呼び寄せるそれだ。

     

    (=゚д゚)「飯は何だ?」

     

    (∪´ω`)「お、べーこんと、ぱんと、まめのすーぷですお」

     

    相変わらずたどたどしい発音で、ブーンが夜の献立を言った。

    火にくべられている鍋からはトマトをベースにしたであろう、甘酸っぱい香りが漂ってきている。

    決して凝った料理ではないが、寒い夜には何よりの馳走だ。

     

    (=゚д゚)「ほぅ、そいつはいいな。

        何か手伝ってやろうか?」

     

    (∪´ω`)「だ、だいじょうぶですお」

     

    ζ(゚ー゚*ζ「ふふふ。 今ブーンちゃんは料理のお勉強中なの。

           ごめんなさいね、刑事さん」

     

    (=゚д゚)「……いや、気にするな」

     

    勉強。

    思えば最後にトラギコが自ら進んで勉強をしたのは、警察学校時代だった。

    正義の定義や警察官として必要な教養を学び、そして、結局はそれが何の役にも立たない知識の固まりだったと現場で痛感した。

    全てを変えたのは、“CAL21号事件”。

     

    それまで信じていた正義の何もかもを捨て、自分自身で正義を見出すきっかけになった事件が、トラギコの中で何度もその姿を現す。

    最近その頻度が増えたのは、おそらくは、ショボンがトラギコにその事件の名前を告げたからだろう。

    あの事件に関わった人間のほとんどが今では警察の上層部になり、同期だった人間は皆、トラギコとは違って多くの部下を持つ身となった。

    ショボンもトラギコがあの事件でどう変わったのかを知る人間で、少なくとも、トラギコの味方だったはずだ。

     

    警察を退職したショボンに対しても、トラギコはそれなりの信用を置いていた。

    彼ならば、あのホテルで起きた事件に対してもオアシズの事件に対しても、必ずや真実を追い求めてくれると。

    ところが、実際は真逆だった。

    ショボンこそが真実そのもので、事件の首謀者にして殺人鬼だった。

     

    たった一機の棺桶を奪取するために、海に浮かぶ街一つを舞台に大掛かりな殺人事件を演じて見せた。

    巻き込まれた人間に対して、ショボンが申し訳ないという気持ちを抱くことはないだろう。

    ショボンは犯人に対して武力を行使する際、決して後悔しなかった。

    そして、微塵も自らの正しさを疑わず、決めたことを必ず実行する頑固さを持っていた。

     

    おとり捜査で麻薬密売組織に潜入した際、ショボンは対抗組織の人間を拷問にかけ、文字通り寸刻みにして殺したことがある。

    いくら捜査のためとはいえ、そこまでするとはと非難を浴びたが、ショボンは全く気にも留めなかった。

    その犠牲で多くの人間が救われるのならば、犠牲に意味が生まれ、ショボンの行動が正しいことが証明されるという理屈だった。

    そう言った過去があるショボンであれば、かつての部下を騙すことなど何とも思わないだろう。

     

    真意に気付かぬままオアシズで奮闘するトラギコの姿は、さぞや滑稽に映ったに違いない。

    それに、より一層ショックだったのはジョルジュだ。

    ショボンと同じようにして堕落したことは流石にショックだった。

    どうして、愚直なまでに正しいことをし続けてきた人間が意味の分からない組織に所属することになったのか、全く分からない。

     

    トラギコに正義の在り方を教え、戦い方を教えた人間達が敵となるとは考えたくもなかった。

     

    (=゚д゚)「……」

     

    ζ(゚ー゚*ζ「あらあら、何か考え事かしら?」

     

    (=゚д゚)「うるせぇラギ。

        手前には関係ねぇ」

     

    デレシアが火にかけていたカップをトラギコに差し出した。

    湯気の立ち上るカップからは、蒸気だけでなく、香ばしい香りが漂ってきている。

    茶の類だろうか。

     

    (=゚д゚)「何だ、こりゃ」

     

    ζ(゚ー゚*ζ「ほうじ茶よ」

     

    聞いたことの無い茶の名前だった。

    何かを炒ったような甘さと香ばしさを兼ねた香りは、茶と言うよりも薬の匂いに近い。

    茶色の液体を啜ると、トラギコは一口でその味が気に入った。

    芳醇だが後味はすっきりとしていて、コーヒーや紅茶とは違った味わいがある。

     

    (=゚д゚)「……いいな、これ」

     

    すっかりデレシアのペースに乗せられていることに気付いていたが、それでもほうじ茶はトラギコの好みだった。

    いつか店で見かけた時には常備用に買いだめをしておこうと密かに決めつつも、己のペースを失わないように気を付ける。

     

    ζ(゚ー゚*ζ「カフェインが少ないから、病人には丁度いいのよ」

     

    無言でその言葉を聞き流し、トラギコは折り畳み式の椅子に腰かけてブーンの調理が終わるのを待つことにした。

    ゆらゆらと揺れる炎を眺め、トラギコはエラルテ記念病院で死んだカール・クリンプトンの事を思い出した。

    彼のためにこの事件を解決する。

    そのためならば、最初に考えた通り余計な矜持の全てを投げ出してもいい。

     

    矜持が事件解決に一ミリも役立たない事はよく理解している。

    デレシアの魂胆については、今は目を瞑ろう。

    どうあれ、まずは事件解決を最優先とし、デレシア一行についてはその後考えればいい。

    それにこちらがどれだけ考えたところで、この女にそれが通じるとは考えにくい。

     

    裏をかくならばもっと念入りに準備をしてからでなければ対抗は出来ない。

    一眠りして冷静になった思考が導き出した結論に、変更はない。

    気持ちが固まった時、調理をしていたブーンが振り返って言った。

     

    (∪´ω`)「できましたおー」

     

    鍋からスープを皿に取り分け、軽く炙ったパンとベーコンが別の皿に乗せてトラギコに手渡された。

    狐色の焦げ目の付いたベーコンの香りが食欲をそそる。

    よく見ればベーコンは厚みがあり、食べ応えがありそうだった。

     

    (=゚д゚)「どれ、じゃあ早速」

     

    フォークをベーコンに突き刺し、一口で食べる。

    塩味が食欲を喚起させ、パンを口に運び、その相性の良さに舌鼓を打つ。

    続けてスープを食器から直接飲むと、濃厚なトマトのスープの中にある酸味と甘みの虜になった。

    小さな豆が絶妙な食感となり、蕩けたトマトの残骸と合わさって官能的な旨みを演出した。

     

    (=゚д゚)「……うめぇ」

     

    (∪*´ω`)「お……!」

     

    食事の感想を述べ、それ以降、トラギコは無言でスープとパンを胃袋に収めた。

    皿をパンで拭い取り、そうして、デレシアを見た。

    トラギコの視線と意図に気づいたデレシアは、だがしかし、食事をするブーンを慈母のような眼差しで見つめていた。

     

    (=゚д゚)「よし、話を――」

     

    ζ(゚ー゚*ζ「今は食事中よ、刑事さん。

          ゆっくりしましょ」

     

    (=゚д゚)「……」

     

    手綱を握っているのはデレシアだ。

    トラギコはほうじ茶を飲みながら、その時が来るのを黙って待つことにした。

    食事を終えたのは、それから二十分後の事だった。

     

    ζ(゚ー゚*ζ「さ、お話をしましょうか」

     

    (=゚д゚)「あぁ、さっき状況が変わったとか言ってたが、何があったラギ?」

     

    ζ(゚ー゚*ζ「アサピー・ポストマンがオアシズに保護されたわ」

     

    (=゚д゚)「何でオアシズが?

        っていうか、あいつ何やってるラギ……」

     

    ζ(゚ー゚*ζ「ショボン・パドローネに狙われて、散々な目に合ったみたいね。

           で、彼も狙撃手の場所がグレート・ベルだってことに気付いたみたい。

           またこの島に戻ってきて、刑事さんと協力して事件を解決したいって言ってるわ。

           というか、もうこの島に来て刑事さんを探しているんだけどね」

     

    デレシアがオアシズに逃げ込んだアサピーの情報と彼の目的を知っていることに、トラギコは少しも混乱しなかった。

    彼女はオアシズの市長、リッチー・マニーと友好関係にあり、そこから情報が流れ出たのだろう。

    この女の人脈はどこにでもあると思っておけば、もう、驚くことはない。

    例えアサピーの行動を彼女が掌握していたとしても、だ。

     

    ζ(゚ー゚*ζ「刑事さんはどう思う?」

     

    (=゚д゚)「解決の方法によるラギね。

        どうせあの馬鹿、真正面からやろうとしてるんじゃねぇのか」

     

    ζ(゚ー゚*ζ「あら、その根拠は?」

     

    (=゚д゚)「俺がそうするように仕向けたからラギ。

        だが、止めさせた方がよさそうラギね」

     

    ζ(゚ー゚*ζ「えぇ、そうしてもらえると助かるわ。

           それと、刑事さんには悪いんだけど、この事件にはまだ手を出さないでもらいたいの」

     

    少しの沈黙を挟んで、トラギコはほうじ茶を口に含んだ。

    無言でデレシアに理由の説明を求める。

     

    ζ(゚ー゚*ζ「あの組織は一筋縄でいかないのよ。

           それに臆病者だから、あまり驚かせるとすぐに沈んじゃうのよ。

           そうしたらまた尻尾を掴むのは難しいし、下手したら、刑事さんの口が何かを話す前に開かなくなるわ」

     

    (=゚д゚)「……手前の警告はありがたいが、そろそろ話してもいいんじゃねぇのか?

        なんなんだ、その組織ってのは」

     

    思わせぶりな笑みを浮かべ、デレシアが続ける。

     

    ζ(゚ー゚*ζ「名前を知っていれば何かが変わるわけでもなし、だから、まぁ精々どんな規模かぐらいかは教えてあげるわ。

          ジュスティアやイルトリアでそれなりの地位にいた人間が関わってるし、持っている棺桶の種類はジュスティア並でしょうね。

          悪いけど、警察じゃどうしようもないわよ。

          そんな規模を相手にしても、今は対応できないわよね」

     

    (=゚д゚)「曖昧な話ラギね」

     

    ζ(゚ー゚*ζ「知りすぎているよりも、知らない方が貪欲に探れるでしょ?」

     

    (=゚д゚)「違いねぇ。

        で、俺は結局のところ、どう動けばいいラギ?」

     

    ζ(゚ー゚*ζ「私が動きやすくなるよう、戦局をかき回してほしいの。

          特に、狙撃手をどうにかしてもらえると助かるわ」

     

    要は陽動要員として、狙撃手の注意を惹きつける羊を演じろという事。

    狙撃手としてグレート・ベルに居座っているのは、ジュスティア軍最高の狙撃手、カラマロフ・ロングディスタンスだ。

    彼の腕については多くの逸話が残され、軍ではプロパガンダにも使われている。

    皮肉にもその狙撃の腕はトラギコが実際に撃たれたことで証明されている。

     

    (=゚д゚)「まぁいいだろう。

        そこまで言うからには、勝算があるんだろうな?」

     

    ζ(゚ー゚*ζ「あら、勝算を気にして生きても人生はつまらなくなるわよ」

     

    くつくつとデレシアが笑う。

    こうして笑う姿を見ると、年若い少女の様だが、その中身は碩学。

    武力と知力を兼ね備えた万物の支配者とでも言おうか。

     

    ζ(゚ー゚*ζ「大丈夫よ、もしも刑事さんがちゃんと意地を見せてくれたら、貴方の願いを聞いてあげるわ」

     

    (=゚д゚)「手前、俺を馬鹿にしてるラギか。

        俺の願いなんて――」

     

    ζ(゚ー゚*ζ「カール・クリンプトン、彼のためにもこの事件を解決したいんでしょう?」

     

    読まれている。

    誤魔化しは通用しない相手だが、トラギコは一つ反論してみることにした。

    その反論に対してデレシアが応じてくれれば、何故彼女が手を貸してくれるのかが分かる。

     

    (=゚д゚)「手前を連中が狙ってるって言ってたよな、だったら、別に俺は関係ねぇラギ」

     

    ζ(゚ー゚*ζ「あら、私は別にいいのよ?

          、 、 、 、

          あの程度の雑魚を撒いて、やりたいことをやるなんて訳ないわ」

     

    (=゚д゚)「あの程度、だと?」

     

    ワタナベも脅威だが、それ以外の人間も全員が脅威そのものだ。

    シュールの操る棺桶――レ・ミゼラブル――は敵意を抱いた者を戦闘不能にし、餃子屋だった男は火炎放射兵装の棺桶を持っている。

    ショボンはダイ・ハードを所有し、ジョルジュはダーティ・ハリーで武装している。

    彼らの棺桶は皆、名持ちの棺桶だ。

     

    名持ちの棺桶は厄介極まり、トラギコのブリッツでは対抗するのは難しい。

    ブリッツは緊急時の近接戦闘に特化しているのであって、中長距離には対応できない。

    量産機の棺桶を何十体並べたところで、相手にすらならない。

    対強化外骨格の装備があっても、果たして、それが効くかどうか。

     

    ζ(゚ー゚*ζ「えぇ、あの程度よ。

           私にとっては何てことの無い小石。

           ただね、ブーンちゃんのお勉強にちょうどいい機会だと思ってね」

     

    トラギコは、文字通り固まった。

    この女。

    デレシアは、今、何と言ったのか。

    勉強の丁度いい機会、と言ったのか。

     

    (=゚д゚)「……は?」

     

    ζ(゚ー゚*ζ「この子はまだまだ世界を知らないといけないし、生き方も知らないといけないのよ。

           そういった点で言えば、今回の件はいい機会でしょ?」

     

    (=゚д゚)「俺には手前の価値観が分からねぇラギ……」

     

    だが、例えこの女がどのような価値観を持ち合わせていても、その力を借りられるのならば矜持は捨てると決めていた。

    トラギコは諦めるようにして、深く息を吐いた。

     

    (=゚д゚)「だけど、意地の見せ所だけは、教えてやるラギ」

     

    ζ(゚ー゚*ζ「ありがとう、刑事さん。

           ブーンちゃん、それじゃあそろそろ寝ましょうか」

     

    (∪´ω`)゛「おー」

     

    大人しく話を聞いていたブーンは眠そうな声で返事をして、テントに戻っていく。

     

    (=゚д゚)「おい、ブーン」

     

    (∪´ω`)「お?」

     

    (=゚д゚)「飯、美味かったラギよ」

     

    (∪*´ω`)「……よかったですおー」

     

    嬉しそうにそう言って、ブーンはテントの中に入っていった。

    暫くの間、トラギコとデレシアは言葉を発さなかった。

    薪が爆ぜる音が静かに森に吸い込まれていく。

    火の粉が夜空に舞い上がり、冷たい風がそれを攫って行った。

     

    ζ(゚ー゚*ζ「……それじゃあ、明日の話をしましょう」

     

    (=゚д゚)「あぁ、頼むラギ」

     

    デレシアはほうじ茶をトラギコのカップに注いで、それから、ゆっくりと話を始めた。

    計画に必要な物、人間。

    今後トラギコ達がとるべき行動と、ショボン達がとるであろう行動。

    細かなタイミングに至るまで話を聞いたトラギコは、素直に感心していた。

     

    この女の素性は分からないが、味方になればこの上なく頼もしい存在となるのは間違いない。

    そうして話が続き、時間が流れていく。

    アクセントから出身地を探ろうと試みるも、彼女のアクセントは非常に綺麗な物でどこにも癖はなかった。

    滑らかに積み出される言葉はまるで歌の様にも聞こえた。

     

    話が終わり、腕時計を見ると夜の十一時を過ぎていた。

     

    (=゚д゚)「アサピーの馬鹿たれが俺を探してるって言ってたな。

        あの馬鹿を迎えに行ってくるラギ」

     

    立ち上がり、アタッシュケース型のコンテナを持ち上げる。

    気持ちは決まった。

    行動も決まった。

    後はトラギコが駒として動き、デレシアに手を貸すしかない。

     

    そのためにはあと二人、巻き込まなければならない。

    アサピーは簡単だが、もう一人。

    石頭のライダル・ヅーを説得して味方に引き込む必要がある。

     

    ζ(゚ー゚*ζ「そうね。多分だけど、この森に向かっていると思うわよ。

          貴方がここに落ちたの知ってるはずだから」

     

    (=゚д゚)「ありがとよ。 じゃあな」

     

    ζ(゚ー゚*ζ「えぇ、じゃあまた明日」

     

    トラギコは焚火を背に、その場から逃げるようにして早足で歩き去った。

    広大な森の中は暗く、足元も良く見えない。

    星空と月明りだけがトラギコを照らしている。

    今頃、この森のどこかでトラギコを探している新聞記者を探さなければならない。

     

    彼に少しでも考える脳味噌があれば、大声でトラギコを探すような真似はしないはずだ。

    夜の森を歩き、まずは舗装路を目指すことにした。

    そこを歩いていれば街まで戻ることが出来るし、運が良ければアサピーと会うことも出来るだろう。

    出来る限り早めに合流したいが、現実的には時間がかかるのは必至。

     

    慌てることなく確実にアサピーを見つけるため、トラギコは深く溜息を一つ吐いた。

    落ち着きを失ってはならない。

    全ては明日。

    時間が来るまでの間にどこまで積み上げ、どこまで備えられるかが肝心だ。

     

    勿論、トラギコにとってこの事件がどう終わるのかが最大の関心事だが、もう一つの関心事があった。

    それはデレシアの正体よりも気になることで、どうにも頭から離れない。

    果たして。

    数多の障害を乗り越えた末に、果たして、あの耳付きの少年。

     

    ――ブーンは、どのような人間になるのだろうか。

     

    ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

             /三三三三三二ニ=- /三二ニ=}=- /

            /三三三三三二ニ=- -= イ / ̄}= /{

    .       ̄ ̄Ⅵニ=-/ = |=- -=/≧、\ /=/i

    .            |三ニi i{ : }/ |/ ii{  f /三ニ=- }

    .           }二ニ∧ヽ         ヾ-=/{=

              /|/  ` ニi                 ∨

    .      /三ニニ==-  _|            、__'

                                AmmoRe!!のようです Ammo for Reknit!!

                                           第三章【trigger-銃爪-】 了

     

    ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

    スポンサーサイト

    コメントを書き込む コメントを読む(0) [Ammo for Reknit!!]

コメント

コメントの投稿(コメント本文以外は省略可能)





管理者にだけ表示を許可する

テンプレート: 2ちゃんねるスタイル Designed by FC2blog無料テンプレート素材 / 素材サイト: 無料テンプレート素材.com / インスパイヤ元:2ch.net

ページのおしまいだよ。。と
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。