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第二章【departure-別れ-】

  1. 名前: 歯車の都香 2017/04/16(日) 13:21:00
    第二章【departure-別れ-

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          The fuckers who deny my vendetta can't stop me, forever and never.

                   復讐を否定する奴に、あたしは止められない。

         ヽ/ ! l´,ヘ ', .,-、   ` ‐' -='´---,

          | | !   f'/,V ', ',^リ         _, '-..

          | | !   | イリ' V.', ','、     -:::::::::::::::::::::::

    .     -=| l. l /    l. ', l ∧ ヽ r-.、γ´::{:::::, ----

           ',. . __    ! l ト. ./:::::::::{:::::::::l:':::::::::::::::::::::   Heat Ororus Redwing

            ヾヘ. . ` _ j | ', l >ヽー-{::::::::::',::::::::;:::::::'l´ ――ヒート・オロラ・レッドウィング

             \ 'ーチl !| l | (.!|' ::::::::::',::::::::::',:::::::::::::::l

              ∨ l. . ':l |::_lj〉`:::::::::::}::::::::::}::::::::::::

     

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    月明りが世界を仄かにモノクロに染め上げる静かな夜。

    一台のバイクが、鬱蒼と茂る木々の間を猛烈な速度で走り抜けていた。

    巧みなハンドル捌きで運転する黄金色の髪を持つ女性は、ヘッドライトを切った状態にも関わらず、周囲の木の位置が分かっているかのように運転していた。

    曲芸じみた技術を目の当たりにし、驚きの表情を浮かべるのはタンデムシートに座る赤髪の女性。

     

    闇に目が慣れてきた彼女も、密生した木の輪郭を見つけることが出来るが、この速度を保ったままバイクを運転できるかと言えば、答えは否だった。

    路面が不安定であり、尚且つ高速移動中に視界が狭まる事を赤毛の女性は知っていた。

    そして、二人の間では一人の少年が小さく寝息を立てていた。

    犬の耳と尾を持つ少年は、運転する女性の服を辛うじて掴んではいるが、まるで起きる様子がない。

     

    三人を乗せた高性能なバイクは、世界中、あらゆる場所を走破できるように設計されており、落ち葉や腐葉土で柔らかく不安定なこの地面でも二つの車輪はしっかりとその役割を果たしている。

    二輪駆動によって実現する並外れた走破能力は、野生動物さながらである。

    四本の足を持つ動物がその足で大地の変化を察するように、そのバイクはタイヤ越しに大地を感知し、走りの性質を変えていく。

    それだけではなく、馬が主人と認めた者の走り方を覚えて気遣うのと同じように、このバイクは運転手に合わせて多くを学習し、それを形にしていく力があった。

     

    バイクの名は、アイディール。

    全てのバイクの理想形であり、作り手と乗り手の理想の結晶だった。

    アイディールには名が与えられていた。

    それは、アイディールが――彼女が――誕生してから、初めての事だった。

     

    (#;;-)

     

    カタログ上の名前ではなく、個として識別するための名前。

    他の誰のものでもない、自分だけの物。

    名前を与えられた彼女は、何度もその瞬間のことについて反芻し、自己学習を行った。

    間違いなくそれは人間の感情で“喜び”であり、“感謝”の気持ちが芽生えていることが分かった。

     

    自分で導いた答えに、彼女は疑問を持たない。

    彼女の中に疑問はないのだ。

    彼女は人工知能。

    声を発することの無い、寡黙な存在。

     

    乗り手が心地よく走るためだけに生み出された道具。

    道具が疑問を持つ必要はない。

    道具に必要なのは、ただ、乗り手に奉仕をするという気持ちだけなのだ。

    この瞬間、“ディ”と名付けられた人工知能は己の矛盾した考えに一瞬の内に気付いた。

     

    乗り手に奉仕をするだけであれば、喜びなどと言う感情は不要のはずだ。

    はずだ、という考えがディに更なる考えを促した。

    不要ならば最初からシステムに組み込まれないし、生まれることの無い考えだ。

    だがそれが生まれたという事は、必要な物だから生まれたのだ。

     

    ディは考えた。

    思考することで彼女の人工知能は成長し、よりよい物へと進化する。

    そう作られているのだ。

    自己学習機能を備える彼女は、全ての経験を糧として機械的に日々成長を重ねる。

     

    その過程で産まれた“感情”は、最初は形骸的な物だったと記憶している。

    喜怒哀楽。

    その四つだけだった。

    特に深い意味はなく、それがバイクにとって良い物か、それとも悪い物かでしか判断は出来なかった。

     

    やがてそれが経験と共に深みを持ち、複雑な感情が生まれたのだ。

    ある時は若い狙撃手の女性を乗せて、短い間ではあったが旅をした。

    彼女はディとあまり交流を深めようとするタイプではなかったが、その扱い方は常に気遣ってくれていた。

    かつてこの島の山と道を走ったのも、彼女とだった。

     

    彼女が今どうしているのか、ディは知らない。

    その次の乗り手は、若い男性だった。

    彼もまた狙撃手で、その前の乗り手の女性と一緒に乗る事が多かった。

    狙撃手の彼はマフラーの位置を変えて、より多くの路を走れるようにしてくれた。

     

    数十年、彼と世界を走り回った。

    だが彼も、ディの存在には気付いていないかのように走り、気を遣ってくれた。

    ただ、彼の気遣い方はまるで宝物を扱うようだった。

    そうして、彼が今どこにいるのか、ディが知る術はない。

     

    次の持ち主はディにほとんど跨ることなく、彼女を飾って眺め、時折エンジンを吹かして室内で走らせるだけだった。

    やがて過去の記録を振り返っては考えることで時が流れ、今の持ち主――恐らくは金髪の女性――が久しぶりにディの事を認知してくれた。

    彼女に認知され、そして、少年が認知した。

    本来、名前は意味のない情報という事で記録されないのだが、この二人の名前ともう一人の搭乗者の名前は非削除対象として記録された。

     

    金髪の女性はデレシア。

    耳付きの少年はブーン。

    赤髪の女性はヒート。

    この三人は、ディの記録媒体に初めて記録された搭乗者の名前だった。

     

    これまでの記録と照合しても、彼女達のような人間は初めてだ。

    ライトを消して夜の林道を猛スピードで駆け登る人間も、これだけ激しい運転の中、完全に安心しきって眠る少年も。

    ディにとっては、知らない人間だらけだった。

    彼女達との旅は、どれだけ続くのだろうか。

     

    当然、その答えを彼女が知るはずもない。

    乗り手が旅を止める時、彼女の旅も終わる。

    かつて、彼女が生まれたばかりの時代の乗り手達がそうであったように、別れは突然やって来るのだ。

    それを悲しむことなく、彼女は新しい乗り手のために尽くし続けるだけ。

     

    だがそれでも。

    ディは、機械らしからぬ感情を抱いていることに気付いていた。

    久しぶりの未知の存在は、彼女にどのような経験をさせてくれるのだろうか。

    彼女達はどのような旅をして、どのような道を見て行くのだろうか。

     

    自分は果たして、どこまでそれを見て行くことが出来るのだろうか。

    この三人が共に居続けるかどうかなど、ディには分からないのだ。

    彼女は何も喋らない。

    彼女に口はなく、何かを話す必要がないのだから。

     

    (#;;-)

     

    彼女は、無言で疑問を抱き続け、考え続け、成長し続ける。

    この先の旅が実りあるものである事を願いながら、ただ、走り続けるのだった。

     

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                             第二章【departure-別れ-

     

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    夜襲から時間が経過し、日付の変わった暗い時間。

    虫たちですら、その声を潜め始める真に暗い時間帯。

    三人の旅人を乗せた一台のバイクは、キャンプサイトに戻ってきていた。

    エンジンを切ったデレシアは、小さく溜息を吐き、冷えた空気を肺に送り込んだ。

     

    ζ(゚ー゚*ζ「ふぅ……」

     

    月が傾き、夜の闇も大分深まった深夜。

    彼女達が戻ってきたキャンプサイトには、生きている人間は一人も残っていなかった。

    テントの中で銃声を聞いた少数のキャンプ客は皆一目散に逃げ出し、後に遺されたのは無人のテントと死体だけだ。

    死体は皆、同じデザインの服を着ていた。

     

    モーターサイクル・ギャングと見て間違いないだろう彼らの傍らには、エンジンの切れた愛車が無残に横たわっている。

    後部席にいたヒート・オロラ・レッドウィングが降り、熟睡するブーンを担ぎ上げた。

    体を丸めて少しでも体温を保とうとする彼を赤子のように胸に抱くヒートは、ブーンの寝顔を見て感心した風に声を発した。

     

    ノパ⊿゚)「あれだけ暴れたっていうのに、よく寝られるな」

     

    銃撃戦然り、激しいカーチェイス然り。

    大人でも心臓の鼓動が激しくなることは必至の状況下で、ブーンは割と早い段階で眠りに落ちていた。

     

    ζ(゚ー゚*ζ「安心しきっているのよ。信頼の証として受け取りましょう」

     

    ノパー゚)「そうだな……」

     

    確かに、ブーンは二人を信頼していた。

    二人にとって、ブーンは家族の様な物だ。

    彼が困った時には手を差し伸べるし、彼が成長するのを誰よりも身近で見守る事が出来るのは彼女達にとって至上の喜びだ。

    眠る彼の頭からヘルメットを取り、乱れていた髪の毛をヒートが手櫛で直してやる。

     

    (∪*´ω`)「……お」

     

    ブーンは身じろぎし、ヒートの方に体を寄せた。

     

    ノパー゚)「……」

     

    眠るブーンの頬にそっと口付けし、ヒートは愛おしげにブーンを見つめている。

    その目は慈愛に満ち、強い母性が垣間見えた。

     

    ζ(゚ー゚*ζ「さ、少しだけ寝てから街で朝ごはんを食べに行きましょう」

     

    ノパ⊿゚)「だな。 早朝なら連中もそうそう動かねぇだろう」

     

    二段階の襲撃を振り払ったとしても、それで終わりになるわけではない。

    デレシア達を狙う人間は現地にいた人間を使い捨ての駒として使ってきただけで、直接的な被害は何一つ被っていないのだ。

    強いて言うなら、間抜けな狙撃手が銃弾を無駄にしたぐらいだろうか。

    こちらの反応を見たティンバーランドの人間は、もう間もなく本命の駒を動かしてくるはずだ。

     

    雑兵で得た情報を使い、動かしてくる駒はおそらくは二つ。

    盗みに長けた“ザ・サード”デミタス・エドワードグリーン。

    誘拐に長けた“バンダースナッチ”シュール・ディンケラッカー。

    この駒を動かし、デレシア達の命を奪う、もしくは別の何かを狙ってくるだろう。

     

    ζ(゚ー゚*ζ「むしろ逆かも知れないわね。

           なんにしても、私達が休まないようにしてくるでしょうね。

           だから今は少しでも休みましょう」

     

    テントにそのままにされていた寝袋を整え、ヒートがブーンをそこに寝かせた。

     

    ノパ⊿゚)「どうする? 順番に見張るか?」

     

    ζ(゚ー゚*ζ「私が見てるわ。

           だから、ブーンちゃんの傍にいてあげて」

     

    ノパ⊿゚)「分かった」

     

    ヒートはブーンの隣に寝そべり、瞼を降ろした。

    テントの入り口を閉めて、デレシアは星空を見上げた。

    見事な星空だ。

    かつて、世界が第三次世界大戦を迎える前には想像も出来なかったであろう圧倒的な星の輝き。

     

    星の海、という表現が最適だろう。

    葉擦れの音と潮騒の音が横殴りの雨のように周囲に満ちている。

    そして煌く星々の音さえも、そこに紛れていそうだった。

    静かなこの夜の時間は、昔から少しも変わっていない。

     

    全てが黒の輪郭へと変わり、本来の像を曖昧にする時間。

    デレシアは折り畳み式の椅子に座り、ステンレスのマグカップを直接バーナーの上に置いて湯を沸かした。

    沸いた湯にスティック状の袋に入ったインスタントコーヒーを溶かし、適温に冷めるのを待つ。

     

    ζ(゚ー゚*ζ「……」

     

    かつて。

    星はもっと遠くの存在だった。

    月は手の届かぬ存在であり、星は夢そのもの。

    何もかもを手に入れた人類が、決してその手にすることが叶わなかったこの満天。

     

    手に入らぬと理解した人類は汚れた夜空を見捨て、街の明かりに価値を見出した。

    人の営みの証である豊かな明かりを発する街は、宇宙から見ても都市の形がはっきりとわかる程煌々とし、人々の視線を空から地上に引き摺り下ろした。

    星を地上に再現した彼らがこの空を見たら、どう思うだろうか。

    気の遠くなるほど長い時間をかけて世界が取り戻した、この夜空を。

     

    この時代に生きる人間にとっては何ということの無い景色だが、肉眼で星の帯をここまではっきりと直視出来る事が、どれだけ素晴らしい事か。

    別の銀河が目に映るこの夜空の価値は、どれだけ希少な宝石にも勝る。

    そして、それを見上げながら飲むコーヒーの味は格別だ。

    挽きたてのコーヒーでなくとも、その水面に映る星の輝きだけで十分。

     

    コーヒーを飲み、そっと溜息を吐く。

    思い返すのは、ヒートとブーンの関係の進展具合だ。

    出会ってからまだ約十日。

    半月も経過していないが、二人の仲はかなり親しくなっている。

     

    初めてであった頃のブーンは人間全般に対して恐怖心を抱いている感じだったが、今ではその名残も薄れている。

    彼は出会いと別れの中で成長し、年相応に人に甘えることを覚えた。

    ようやく取り戻した彼の人生は、これから先、どう変化していくのか。

    すでにティンバーランドと関わりを持った以上、彼の人生は平穏無事に進むことはない。

     

    デレシアがかつて何度も潰してきた組織の芽が、彼女の目を掻い潜ってここまで成長していたとは予想外だった。

    “世界を黄金の大樹にする”、という彼らの理想はいつの時代も多くの信仰者を作ってきた。

    これまで鳴りを潜めていた彼らがこうして目立った行動をするという事は、ある程度の準備が整ってきたという事なのだろう。

    今さら潰しようがない、潰されようがないと慢心しての行動なのだろう。

     

    確かに、今回の相手は世界に根付く大企業、内藤財団が背後にいる。

    財力、影響力共に申し分ない。

    隠れ蓑として使うのにも十分だ。

    これまで通り旅を続けていても、再びデレシアの旅路を邪魔してくるに違いない。

     

    旅はまだ途中。

    果てしのない旅を足止めする者があるのならば、デレシアのすることはただ一つ。

    路傍の石ころと同じように処理するだけだ。

    蹴り飛ばすか、踏み潰すか。

     

    あまり二人には迷惑をかけたくないが、同じ旅をする以上、多少は手を貸してもらった方が助かる。

    恐らくだが、敵はデレシアを直接狙うのではなくその周囲から切り崩しにかかってくるだろう。

    直接的な対決ではデレシアに勝てないと知る者がいれば、間違いなくそうしてくる。

    そうなると真っ先に狙われるのはブーンだ。

     

    なるほど。

    相手の狙いは二つだ。

    一つはブーンの命、もしくはそれを利用してデレシアを動揺させる。

    そしてもう一つは、ヒートの持つ棺桶だ。

     

    ほぼ全ての強化外骨格の天敵である“レオン”は、ティンバーランドが是が非でも手に入れたいものだろう。

    実際、オセアンで狙われていたのは“ハート・ロッカー”と“レオン”だった。

    そのために街一つを犠牲にするような作戦を展開したが、まるで焦った様子も躊躇う様子もなかった。

    彼らが強化外骨格を手に入れるために文字通り手段を選ばないのは、オアシズでも証明されている。

     

    シュールがブーンを攫い、デミタスが棺桶を盗む。

    そしてこちらが混乱している隙を突いて、デレシアに攻撃を加えるつもりだろう。

    コーヒーを新たに口に含み、胃に収める。

    夜明け前まではまだ時間がある。

     

    それまでの間、デレシアは無言で星空を満喫することにした。

    星は何も語らない。

    数百年前の輝きを見るデレシアは、その輝きが生まれた時、地球がどうなっていたのかを想った。

    今の文明レベルに到達するまで、人類はとてつもなく長い時間を要した。

     

    スカイブルーと紫の帯を背景に散らばる星々の歴史を想像すると、あまりにも現実離れした規模の自然現象に圧倒されかける。

    その昔、デレシアは彗星が夜空に美しい光景を作り出したのを見たことがあった。

    美しい尾を引いて現れた彗星が、空中で無数の小さな隕石へと分裂し、夜空に百を超える流れ星を作り出したのだ。

    圧倒的な光景だった。

     

    主となる彗星に追随するようにして、数百の小さな星が赤い尾を引いて空を支配した。

    素晴らしく感動的な光景。

    忘れられるはずのないその夜空を、デレシアはよく覚えている。

    いつか、その空を二人にも見せたかった。

     

    コーヒーを飲みつつ、デレシアはテントの中の二人について考えた。

    ヒートは何故、あそこまでブーンに愛情を注いでいるのだろうか。

    確かに、この世の中には耳付きに嫌悪感を抱かない人間が少数だがいる。

    ヒートもその類の人間だろうが、愛情の注ぎ方が明らかに強い。

     

    出会った初日から、ヒートがブーンを見る目は明らかに異なっていた。

    ただの耳付きとして見ているのではなく、別の誰かを重ねて見ているようだった。

    誰を見ているのか。

    それは、彼女の過去に関係がありそうだった。

     

    彼女が語るまで、その過去には触れない方がよさそうのも間違いなさそうだ。

    時間と共に徐々に月が沈む。

    コーヒーの香りが森の香りと混ざり、得も言われえぬ芳香へと変わる。

    それを楽しみながら、デレシアは空の移り変わる様子を無言で眺めていた。

     

    やがてデレシアは飲み干したカップを地面に置いて、静かに立ち上がった。

    時刻は朝の三時半。

    水平線の向こうに小さな明かりが浮かび始めている。

    間もなく空に新たな色が付け加わり、夜明け前にだけ見られる見事な瑠璃色の空が姿を現すだろう。

     

    もうそろそろ良い時間だろう。

    テントに歩み寄り、抱き合って眠る二人にデレシアは優しく声をかけた。

     

    ζ(゚ー゚*ζ「おはよう、お二人さん」

     

    ノハ´⊿`)「……おう、おはよう」

     

    (∪´ω`)「……おはおーございまふお」

     

    まずはヒートが起き上がり、続いて、ブーンも起き上がる。

    ブーンは大きな欠伸を一つして、目を擦って四肢を伸ばした。

     

             o

    o(∪´ω`)  「んぎー……」

     

    ノパ⊿゚)「ブーン、顔を洗いに行くぞ」

     

    (∪´ω`)「お」

     

    ブーンの手を引いて二人が炊事場に向かう。

    二人が戻るまでの間にデレシアはタープとテントを畳んで、それをパニアに詰めた。

     

    ノパ⊿゚)「わりぃ、片付け全部やってもらっちまったな」

     

    ζ(゚ー゚*ζ「いいのよ、気にしないで」

     

    (∪´ω`)「おー、ごめんなさいですお」

     

    ζ(゚ー゚*ζ「もう、謝るのはもっと違うわよ。

          私が好きでやった事なんだから」

     

    ブーンの頭を撫でてやり、デレシアは二人にヘルメット手渡す。

     

    ζ(゚ー゚*ζ「かなり早いけど、朝食を食べに行きましょう」

     

    ノパ⊿゚)「なぁ、今度はあたしに運転させちゃくれねぇか?」

     

    ζ(゚ー゚*ζ「勿論いいわよ」

     

    背負っていた棺桶と引き換えにキーを受け取り、ヒートはディに跨ってエンジンを始動した。

    低く唸り声を上げ、マフラーから白い蒸気が吐き出された。

     

    ノパ⊿゚)「よろしく頼むぞ、ディ」

     

    タンクを撫で、ヒートが一声かける。

    エンジンが一瞬だけ、頷くようにアイドリングした。

    ヒートの後ろにブーン、そして棺桶を背負ったデレシアが乗る。

    しっかりとブーンの両手が腰に回されていることを確かめてからギアを一速に入れ、ヒートはアクセルを捻った。

     

    走り出すと、ディは車高を高く変更させ、素早く路面に対応させた。

     

    ノパ⊿゚)「おぉ、すげぇな!」

     

    乗車した時の車高はかなり低めに設定されていた。

    それはデレシアが設定した物ではなく、ディが自ら判断しての事だった。

    前夜に三人乗りをしたことを参考に、その中に子供が混じっていることを知ったディは乗りやすいように車高を変えて待機していたのだ。

    これが自己学習機能を搭載した人工知能のなせる業だ。

     

    無論、ディがそれを自慢することはない。

     

    ノハ*゚⊿゚)「ひょおおお!!

         こりゃあいい! すっごく良い!!」

     

    興奮するヒートは、更にアクセルを捻って速度を上げた。

    まだ暗い中、三人を乗せたバイクは林道を下る。

    段差のある場所を走れば必然、ライトは上下に揺れる。

    だがそれは、このディには当てはまらなかった。

     

    ライトは一点に向けられたままで、その進路をまっすぐに照らし出している。

    優れたサスペンションも然ることながら、電子制御されたサスペンションを地形変化に応じて即応させる機能がそれを可能にしていた。

    林道から車道に出たヒートは、素早くギアを変え、西回りで街を目指す進路を取った。

    すると、ディはその車体を低く変化させてそれに応じた。

     

    右手には海が広がり、空と同じ色をした水面が揺れていた。

    街までは二十分もあれば到着できるだろう。

    急な左カーブに差し掛かり、ヒートは車体を傾けた。

    色彩を徐々に取り戻しつつある世界を、彼女達を乗せたバイクが疾走する。

     

    鎧のようなカウルと楯のようなスクリーンで、彼女達に正面から吹き付ける風は殆ど無力化されている。

    黒主体の景色が、次第に、モノクロの姿へと変わる。

    白んでいく空。

    夜明けの世界。

     

    僅かだが街から伝わる活気を感じ取ったブーンは、ヒートの横から顔を出して下り坂の途中から見える街並みを眺めた。

    グレート・ベルの鐘が見えたと思った次の瞬間には、枝葉のトンネルに遮られる。

    昼間とは打って変わって、そのトンネルは夜の闇を守るようにして三人を迎え入れた。

    影よりも濃い黒。

     

    その景色は、思わず息を呑むほど幻想的であった。

    静かなモノクロの世界。

    デレシアは黒い空を見上げ、目を細めた。

    嗚呼、と思う。

     

    世界はいつだって、美しいのだ。

    醜い醜悪極まりない人間がいたとしても、世界は世界のまま。

    いつだって、世界は世界であり続けている。

    いつか、ブーンにもそれを知ってもらいたい。

     

    残酷な現実。

    悲惨な真実。

    それら全てを内包した世界の姿の美しさ。

    あてもなく旅を続けるデレシアが辿り着いた一つの答えに、いつか彼も到達するだろう。

     

    いつか、きっと、彼ならばこの世界を――

     

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    スタードッグス・カフェに到着したのは、朝の四時丁度だった。

    バイクは近くの駐輪場に停め、ヒートはキーをデレシアに放り渡した。

    駐輪場は当然だが空車だらけで、新聞会社のスーパーカブが停まっているだけだった。

    ヒートとデレシアは髪の乱れを直し、ブーンは毛糸の帽子を被って獣の耳をカモフラージュした。

     

    ζ(゚ー゚*ζ「どうだった?」

     

    ノパー゚)「あぁ、いいバイクだ。

         あたしが乗った中で最高の一台だよ」

     

    これまで、ヒートは数多くのバイクに跨ってきた。

    故にその癖や特徴が体に染みついて分かっているが、ディはそのどれとも違った。

    一切の癖がなく、意のままに操れるバイクだった。

    曲がりたいと思う時に曲がり、駆け抜けたいと思う時に駆け抜ける。

     

    正に人馬一体。

    バイク乗りの理想の体現と言うだけあり、何一つ不満点がなかった。

     

    ノパ⊿゚)「今日の朝食ぐらい、あたしが奢るよ」

     

    普段、旅の資金はデレシアが出していた。

    彼女はほぼ無尽蔵とも思えるほどの資金を持ち、金貨や銀貨を惜しげもなく使っているが、一向に底が見えてこない。

    とはいえ、ヒートとしては毎度彼女の世話になるわけにもいかない。

     

    ζ(゚ー゚*ζ「あら、それじゃあ御馳走になろうかしら。

          ブーンちゃん、こういう時は御馳走になります、って言うのよ」

     

    (∪´ω`)「ごちそーに、なります?」

     

    ζ(^^*ζ「その通り。

           簡単に言えば、食事を奢ってくれるって言った相手の好意に甘えるってことね」

     

    (∪´ω`)「おごる?」

     

    ζ(゚ー゚*ζ「何か物を買ってくれる、ってことね」

     

    (∪´ω`)「ぼく、いつもおごられてますお……」

     

    ζ(゚ー゚*ζ「うーん、それはちょっと違うわね。

          それについては今夜、またお勉強しましょうね」

     

    勉強、という言葉にブーンの尾が揺れた。

     

    (∪*´ω`)「おべんきょー! やたー!」

     

    そして、思い出したようにはしゃぐのを止め、ブーンはヒートをまっすぐに見上げた。

    青い瞳が、ゆらりと揺れて、ヒートの目を必死に捉える。

     

    (∪´ω`)「ごちそーに、なります」

     

    ノハ*^^)「あぁ、遠慮なく食べてくれよ、ブーン」

     

    ヒートはブーンの手を引いて、カフェのテラス席を選んで座った。

    席には大きな傘が付いており、日除けと雨除けの対策が施されていた。

    机に置かれたメニューを広げ、ヒートはそれをブーンに見せた。

    デレシアは背負ってた棺桶をヒートの傍に置き、自分自身もメニューを見た。

     

    コーヒー一杯の値段としては高価だが、喫茶店が空間を提供する店であることを考えれば、相応の値段と言えよう。

     

    ノパ⊿゚)「あたしはホットサンドセットにするよ」

     

    (∪´ω`)「ぼくもそれがいいですお!」

     

    すぐ隣の席に座りブーンが笑顔でそう言った。

    きっと、よく分かりもせずに頼んでいるのだろう。

    だがそれが可愛らしく、愛おしかった。

    ヒートは、失われた過去を埋め合わせるようにして、この時間を堪能することにした。

     

    ヴィンスでの記憶は、とうに過去の物。

    清算を済ませた過去なのだ。

    今はこの時を楽しむべきだ。

     

    ζ(゚ー゚*ζ「そうね、私もそうしようかしら。

          コーヒーをブラックでお願い。

          後、今朝の朝刊が欲しいわ」

     

    三人の注文が確定し、ヒートが手を挙げて店員を呼ぶ。

    髪を後ろで結った女の給仕が静かに近づいてきた。

     

    ノパ⊿゚)「ホットサンドセットを三つ。

        飲み物はコーヒーのブラックを二つと、甘めのロイヤルミルクティーを一つ頼む。

        後は今朝の朝刊を頼む」

     

    定員はそれを素早く書き留め、一礼してその場を去った。

    空の色が変わり始め、徐々に人の動きが活発になってきた。

    コーヒーを待つ間に給仕が今朝の新聞をデレシアに手渡し、デレシアは紙面に素早く目を走らせ、すぐに畳んだ。

     

    ζ(゚ー゚*ζ「ブーンちゃんはヒートの事大好きなのね」

     

    (∪´ω`)「だいすきですお!」

     

    ノパー゚)「こりゃ嬉しいことを言ってくれるね。

        あたしも大好きだよ、ブーン」

     

    (∪*´ω`)「おー」

     

    ブーンの境遇を考えれば、ヒートは彼の成長の速さに驚きを覚えていた。

    トラウマと人間不信に陥ってもおかしくない環境で生きてきて、一カ月も経たずに人を信じられるようになっている。

    その順応性と成長速度は、彼の持つ長所の一つに違いない。

    肩を抱いて胸元に寄せ、ヒートはブーンの頭を撫でた。

     

    注文した商品はすぐに届いた。

    早朝という事もあり客の入りもまだ少なかったが、急な客の増加に対応するのと同時に冷蔵庫内にある食材――痛みやすい物――を一気に消費するために作り置きがされているのだと分かった。

    ホットサンドを重ねて保管していた証に、重なったパンの片面が湿っている。

    幸いだったのは、まだ温かさが残っていることで、斜めに両断された断面からは蕩けたチーズが顔を出している。

     

    薄いハムが幾重にも重ねられ、レタスとの間にはマヨネーズが塗られていた。

    非常にシンプルなホットサンドは、一つを半分に切り分けた物が紙皿に乗っていた。

    量が少ない分、小さなチョコクロワッサンが添えられている。

    陶器のカップに注がれた飲み物からは湯気が立ち、香ばしい香りは挽きたてなのだと分かった。

     

    ζ(゚ー゚*ζ「それじゃ」

     

    ノパー゚)「いただきます」

     

    (∪´ω`)「いただきます」

     

    温いホットサンドに齧り付き、もぐもぐと咀嚼する。

    レタスはサラダで食べても美味いが、こうして火を通してもその美味さは損なわれない。

    この絶妙な歯応えがたまらないのだ。

    ブーンは大きな口を開けて早くも二口目に取り掛かっていた。

     

    見ていて気持ちのいい食べっぷりだ。

     

    ノハ;゚⊿゚)

     

    ――その胸の痛みは、何の前触れもなしに訪れた。

    フラッシュバックしたのは、眩しいばかりのかつての記憶。

    ヴィンスで見た、家族の記憶。

    幸せで終わることの無かった、家族最後の思い出。

     

    その瞬間に、彼女が今見ている光景は酷似している。

    ヒートはこの光景を夢見た。

    何度も夢見た。

    決して戻らない日々として、その胸に幸せの断片として刻み込んだ。

     

    それが重なって見え、ヒートの胸は痛んだのだろう。

    終わった事を今さら振り返る時期は終わったはずなのに。

    二度と味わいたくないその痛みが、前触れもなく今再びヒートを襲った。

    六年前に嫌と言うほど味わった感覚が全身に広がる。

     

    次に胸を襲うのは、克服したはずの虚無感、無力感。

    屈託のないブーンの笑顔が呼び起こしたのだろうか。

    寒気にも似た感覚が背筋を撫で、ヒートは周囲を見渡した。

    背中の火傷が疼く。

     

    その疼きは、彼女に何か警告をしているようだった。

    忘却を許さない、彼女の復讐の証。

    確かにこれまでに何度かあの日の事を思い出し、胸を痛めることはあった。

    だが、火傷の痕がじくじくと痛むことはなかった。

     

    何かがおかしい。

    周囲にいる客層、否。

    周囲の環境、否。

    自分達の状況、否。

     

    別の何かが、ヒートに警鐘を鳴らしている。

    平和そのものの光景のどこかに、ヒートの本能を反応させる何かがある。

    悪寒の正体は空気だとすぐに思い至った。

    漂う空気にこそ、彼女の記憶を呼び起こす物があった。

     

    平穏な空気の中に混じる、不穏な匂い。

    それは悪意、敵意、殺意と呼ばれる類の匂いだった。

    何者かが、この空気をこれから破壊しようとしている。

    視線を巡らせ、奇妙な物、不自然な物を探す。

     

    注文を取る給仕。

    朝市で買ったと思われる魚を運ぶ老人。

    コーヒーカップを置いて立ち上がる客。

    新たにやって来た客。

     

    不揃いな石畳。

    駐車された車。

    シャッターの下りた店。

    遠くから聞こえてくる潮騒と海鳥の鳴き声。

     

    そして、ヒートは遂に見つける。

    今まさに席を立った客の席の上に置き忘れられた、黒い鞄を。

    全身が総毛立ち、一瞬で神経が興奮状態に陥った。

    何か確定的な情報を手に入れるよりも早く、ヒートの体は反応していた。

     

    直後、その黒い鞄が爆発した。

     

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    誰よりも早く反応したのは、爆発よりも先に行動を起こしていたヒートだった。

    それは彼女の体に刻み込まれた悪夢が、後悔の念がそうさせた。

    何百回、何千回と見てきた悪夢。

    無力さを何度も自分自身になじられ続け、責められ続け、変わることの無い結末を見せつけられる悪夢。

     

    救う事も守ることも、何も出来なかった瞬間は記憶に刻まれ、彼女の体に消えない傷として今も残り、そして悪夢として苦しめ続けた。

    悪夢から解放されるには長い時間が必要だった。

    それと同時に、彼女の体と心は痛めつけられた。

    細胞の全てが悪夢を記憶し、復讐を誓った。

     

    苦痛の日々に彼女の体は悪夢を覚え、次なる瞬間に備えていた。

    次にもし、愛しい存在が同じような危機にさらされたとしたら。

    もしもあの瞬間に戻る事が出来るとしたら。

    家族を失ったあの日に戻ることが出来たならば、この体は決して彼女を裏切らない働きをすると誓いを立てた。

     

    細胞レベルにまで刷り込まれた、息をするような自然なその動きは、その場で最速の動きを実現させた。

    防御の道具としても使える運搬用コンテナを一瞬で背負い、ブーンを自分の胸に抱き寄せて押し倒し、鞄に背を向ける。

    次に動いたのはデレシアだった。

    料理の乗った机を鞄の方に向けて蹴り飛ばし、心もとないが爆炎と爆風を遮断するための楯を作り出した。

     

    全ては一瞬の内に起こり、終わった。

    爆発はまず、薄手のパラソルを吹き飛ばし、その骨を砕いた。

    続いてプラスチック製の机が熱で溶かされた挙句に破壊され、石畳を抉り、その破片によって粉々にされた。

    そして座っていた三人の旅人を爆風によって地面に押し倒した。

     

    耳鳴りが周囲の音の全てを消し、平衡感覚を狂わせる。

    徐々に音が戻ってきて最初に聞こえたのは、悲鳴だった。

    だが悲鳴などどうでもよかった。

    まずは目の前にいるブーンの息が聞こえるかどうか、それが重要だったが、彼は睫毛の数が数えられるほどの近距離から不安げにヒートを見上げていた。

     

    自分の四肢が残っている事を確認するよりも先に、ヒートはブーンの安否を気遣った。

     

    ノハ;゚⊿゚)「……大丈夫か!」

     

    (∪;´ω`)「だ、大丈夫ですお……」

     

    コンテナが爆発の威力を全て受け止め、ブーンには擦り傷すらなかった。

     

    ζ(゚-゚ ζ「すぐにここから退くわよ」

     

    服に付いた瓦礫を払落し、デレシアが二人に手を貸して立たせた。

    その顔からは余裕が窺えないが、立ち振る舞いは冷静そのものだった。

    爆破されたことに対しての怒りを完全にコントロール下に置き、状況を把握して的確な行動をとろうとしている。

    今のヒートは、少なくとも彼女よりも冷静に動ける自信がなかった。

     

    早朝の人が少ない時間帯という事もあり、三人は誰かに止められることなくディのところに向う事が出来た。

    だが。

     

    ノハ;゚⊿゚)「何で……」

     

    ヒートは徐々に冷静さを失いつつあった。

    心に渦巻く思いは、困惑。

    終わらせたはずの悪夢の再来、再現に彼女が戸惑うのも無理はなかった。

    先ほど巻き込まれた爆発の一連の動きは、かつて彼女が経験したものとほぼ同じだったのだから。

     

    ――“レオン”が生まれることになった、あの事件と。

     

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    ヒートの様子がおかしいことに、デレシアは気付いていた。

    ディに乗って現場から離れた場所にあるレストランに到着し、三人は今後の動きについて考えなければならなかった。

    だがヒートの意識は明らかに別の場所に向けられていた。

     

    ζ(゚、゚*ζ「ヒート、何かあったの?」

     

    気分転換のためのハーブティーを飲みながら、デレシアは向かいに座るヒートに声をかけた。

    彼女の隣に座るブーンも、不安そうにヒートの顔を見上げている。

     

    ノパ⊿゚)「……何でもねぇよ」

     

    (∪;´ω`)「お……」

     

    人の感情の変化に敏感なブーンは、その言葉が無くてもヒートが本当は怒りを押し隠していることに気付いていた。

    怒りの矛先は彼でないにしても、人の怒りはブーンにとってはいい思い出の無い感情だ。

    彼が怒りの匂いを嗅ぎ取った時、ほぼ間違いなくブーンは八つ当たりの対象として暴力を受け続けてきた過去がある。

     

    ζ(゚、゚*ζ「……探しに行くの?」

     

    観念したように、ヒートは肩を竦めた。

    その目は笑っていなかった。

    氷のように冷たく、憎悪と殺意にぎらついていた。

     

    ノパ⊿゚)「……やっぱり、あんたにゃかなわねぇな。

         あぁ、ちょっと訊きたいことがあるんでね」

     

    ζ(゚、゚*ζ「そう。 目星は?」

     

    爆弾を仕掛けた人間の人相が分からない事には、探しようがない。

    しかしながら、方法がないわけではない。

     

    ノパ⊿゚)「心配しなくても大丈夫さ。

        あいつらの跫音はでかい」

     

    それはかつて殺し屋として生きてきた人間の言葉として捉えれば、十分説得力のあるものだった。

    相手がプロであろうとも、彼女は探り出すだろう。

    それに、相手はヒートにも用がある可能性があり、自然と彼女の方に近づいてくるかもしれない。

    怪我はまだ完治していないように見えるが、ヒートがそう望むのであれば、止める権利はデレシアにはない。

     

    これは彼女の過去に起因するものだ。

     

    (∪;´ω`)「……ヒートさん、どうしたんですか?」

     

    流石に黙っていられなくなったのか、ブーンがヒートに声をかける。

    安心させるための笑顔を浮かべるだけの余裕もなかったが、声色を落ち着けたものにすることは辛うじて出来ていた。

     

    ノパ⊿゚)「ちょっと出かけてこようと思ってね」

     

    その言葉に嘘がある事にブーンは気付いた。

    そして、救いを求めるようにデレシアを見る。

     

    ζ(゚ー゚*ζ「大丈夫よ、ブーンちゃん。

           ヒートが強いことは知ってるでしょ?」

     

    (∪;´ω`)「でも……でも……」

     

    子供は空気に敏感であり、耳付きは更に一層空気に気を遣う。

    ヒートがもう帰ってこないかもしれないと、ブーンは彼女の言葉と放つ空気から察しているだろう。

    しかし彼女の覚悟を止める理由はない。

    それなりの理由があって、彼女は意を決したのだろう。

     

    ノパ⊿゚)「心配すんなって。

         な?」

     

    (∪;´ω`)「お……」

     

    理由は訊かなくてもいい。

    デレシアが己の過去を語たらないのと同じように、ヒートも過去を無理に曝け出す必要はないのだ。

    エスプレッソを一気に飲み、ヒートは席を立った。

     

    ノパ⊿゚)「なぁに、あたしの勘違いかも知れないし、案外すぐに終わるかもしれないからな。

        少しの間だけ、お別れだ」

     

    屈んで、ブーンの額にそっと口付けた。

     

    ノパー゚)「あたしがいなくても、いい子でいるんだぞ」

     

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                  `=ニ三彡: : : :l : : : l三ミ≧、 ̄ ̄,彡ィ.l : : l: : :ミニ=

                         /: : : /.l: : : :l::::::心     〃,ィ刈 l: : :l三彡´

                   ,ィ彡 : : : : l: : : :l辷歹ヾ    仆:: ,/: :

                 `=ニ三彡イ: : : : '; : : l       ,   ̄ /ノl: :,'三彡′August 10th AM05:31

                   ミ三彡イ : : : ', : :l、   ._  _  .ノヾ::l: ,

                       ノ彡イノ:'; : l \    ̄  .: : : :}:,

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    ――四時半を過ぎてから再び鳴り始めた鐘の音が、まだ響いている。

     

    店を出たヒートは、まず気持ちを落ち着ける事よりも先に情報を得ることにした。

    爆破事件で騒然とする現場に足を運び、遠目にその状況を見る。

    血と周囲の状況から、怪我人の数は少なそうだった。

    かつてヒートが経験したのと同じように、指向性の爆弾が使われたのだ。

     

    狙われた方向以外には被害はほとんどないが、その威力は石畳の地面にクレーターを作る程の物だった。

    デレシアが机を爆発方向に向けて蹴り飛ばし、棺桶のコンテナとローブが無ければ、ヒートの背中は新たな傷と火傷を負っていただろう。

    勿論、彼女の体が過去の悪夢に備えて最適な動きを何度もイメージし続けてきた事が被害を抑え、最小限に留められたのは言うまでもない。

    以前は病院のベッドで長い間過ごすことになったが、今は違う。

     

    情報が新鮮な内に動くことが出来る。

    ブーンが向けた悲壮な表情を思い出しても、彼女の心は麻酔を

    まだ封鎖が不十分な状態で、新聞記者と思わしき男がカメラを手に現場の調査をしていた。

     

    ;-@@)「おぉっ……!! スクープ、スクープ!!」

     

    現場の写真を撮影し、メモを取る男の顔は嬉々としている。

    他に記者は誰もいない。

    となると、この男が誰よりも新鮮かつ多くの情報を持っているという事だ。

    利用できる。

     

    建物の影に隠れ、ヒートは男が動くのを待った。

    一通りの取材を終えたのか、男は足早に移動を開始した。

    ヒートの尾行に気付いた様子はなく、素人だとすぐに分かった。

    偶然あの場に居合わせた記者がどのような情報を持っているのか、ヒートは大いに興味があった。

     

    上手くいけば、犯人の写真や人相を手に入れているかもしれない。

    記者を尾行するヒートの顔には“レオン”として人を殺していた頃の剣呑な表情が浮かび、あらゆる感情の一切が排除されたような顔をしていた。

    復讐することだけを生きる糧として、立ちはだかる全ての障害を排除してきたあの日々。

    殺戮に彩られた日々を思い出し、ヒートは気分が悪くなった。

     

    全員殺したはずだった。

    爆破の実行犯も、その組織の人間も。

    平凡な日々を永久に奪い去った人間に関わる全ての人間を殺したはずだった。

    乳飲み子を含めて家族全員を殺し、ペットも殺した。

     

    死体の山を生み出し、恐怖を振り撒き、ただひたすらに殺し続けた。

    それがまだ続くのかと思うといい気分はしない。

    出来る事ならばもう、“レオン”として戻ることはしたくなかった。

    だから故郷に帰り、静かに暮らそうとした。

     

    しかし、出会ってしまったのだ。

    奇妙な二人の旅人に。

    弟の生き写しの、ブーンに。

     

    ノパ⊿゚)「……」

     

    記者の男は、モーニング・スター新聞の建物に入っていった。

    これで、男がモーニング・スターの記者であることが分かった。

    今建物に入り込むのは賢い判断ではない。

    出てくるのを待ち、それから――

     

    「覗き見とは悪趣味な女だな」

     

    ――背後から、声がした。

    声がしたが、姿が見えない。

    その場から大きく飛び退いて、ヒートは左の脇からM93Rを抜いて声の方向に銃腔を向けた。

    まるで手品のように、二〇フィート離れた位置に一人の男が出現した。

     

    (´・_ゝ・`)「よぅ」

     

    薄手のジャケットとジーンズと言うラフな格好は、観光を楽しむ中年の男そのものだ。

    だが、男の現れ方はただの人間ではない。

    恐らくは、強化外骨格が成した奇術。

    量産型ではなく、“名持ち”の棺桶だろう。

     

    コンテナを背負っていない、という事はすでに身につけ、その大きさは小型のAクラス。

    服の下に隠れるタイプとなると、攻撃特化ではなく姿を消すことに力を注いだタイプに違いない。

     

    ノパ⊿゚)「誰だ、手前」

     

    (´・_ゝ・`)「お前が“レオン”だな?

         全く、あの爆発でも生きてるとはな……」

     

    その言葉を銃爪に、ヒートは目の前にいる男を嬲り殺すことに決めた。

    この男はあの爆破に関わっている。

    あの爆破に関わっているという事は、ヒートのかつての復讐の対象者である可能性があるという事。

    六年前とほぼ同じ条件下で行われた爆破は、決して偶然ではないはずだ。

     

    情報を引き出してから、腸を引き摺り出して殺す。

    それを察したのか、男はおどけたように両手を挙げた。

     

    (´・_ゝ・`)「おいおい、待てよ。

          何も殺し合いをしようってんじゃないんだ」

     

    ノパ⊿゚)「なら、何が目的なんだ?

         自殺したいってんなら、手を貸すぞ」

     

    ヒートを襲おうと思えば、簡単にできたはずだ。

    それをあえてしなかったのは、何故か。

     

    (´・_ゝ・`)「背負っている“レオン”を寄越してもらいたい」

     

    ノパ⊿゚)「断る」

     

    予想通りの答えに、ヒートは用意しておいた言葉を放つ。

    足を撃って動けなくしてから爆破の事について訊けばいい。

     

    (´・_ゝ・`)「はぁ…… 気乗りしないな、女を殺すのは」

     

    ノパ⊿゚)「誰が誰を殺すって、男?」

     

    (´・_ゝ・`)「……強情だな、女」

     

    両者の間に緊張が走る。

    どのような手を隠しているのか、ヒートには分からない。

    相手は姿を隠すことの出来る何かを持っている。

    今、ヒートの手の中にあるM93Rは中身の人間には有効だがそれ以上の装甲を持つ物が相手の場合は意味がない。

     

    引っかかるのは、ヒートの背後を取っておきながら攻撃をしなかった事だ。

    あれだけ優位な位置にいながら、何故。

    プロならば、絶好の機会を逃すなど、あり得ない。

    そこでヒートは、男の正体に目星をつけた。

     

    殺しに慣れていないのならば、この男は“ザ・サード”こと、デミタス・エドワードグリーンに違いない。

    盗みが得意ではあるのだろうが、人の命を盗むのには慣れていないはずだ。

    人違いであるリスクなどを考慮してあの位置から話しかけ、手を出さなかったのだろう。

    重畳である。

     

    ヒートが銃爪に力を込めかけた時、デミタスの姿が消えた。

    反射的に銃を戻し、ヒートは彼のいた方向に背を向けて起動コードを呟くように口にする。

     

    ノパ⊿゚)『あたしが欲しいのは愛か死か、それだけだ』

     

    コンテナに体が取り込まれ、全身を強化外骨格が包む。

     

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    ノハ<:::|::,》「……っ!!」

     

    視界に迫ってきた人影に対して、ヒートは回し蹴りで対応した。

    驚くほどあっさりとその攻撃を受けた人影は、だがしかし、ヒートの感じた手応えは人以上の強度があった。

    片腕を掲げて攻撃を防いだデミタスは、驚愕の色を顔に浮かべつつ、着地と同時に再び正面から接近してきた。

    意外性の欠片もない攻撃に対して、ヒートは当然の対応をした。

     

    ノハ<:::|::,》「せぁっ!!」

     

    悪魔じみた形状の左手で拳を作り、接近してくるデミタスの顔にそれをハンマーのように横殴りに放つ。

    またもや攻撃を受け、デミタスは吹き飛び、壁に背中をぶつけた。

    一体何がしたいのだろうか。

     

    (;´・_ゝ・`)「な、何で……?!」

     

    ノハ<:::|::,》「馬鹿か手前」

     

    左手を眼前で広げ、電流を流す。

    そして右手の杭打機を構え、ヒートはこのくだらない争いを終わらせることにした。

    体を強化外骨格で覆っていたとしても、この杭打機の前には無意味だ。

    この右腕はあらゆる装甲を貫き、串刺しにする。

     

    目の前にいるデミタスが素人だとしても、あそこまで計画性のない攻撃をしてくるとなると、得手不得手の問題でもない。

    自分が不死身の兵士になったと勘違いして地雷原を突っ走る狂信者と同じだ。

     

    (;´・_ゝ・`)「ちっ……!!」

     

    状況が今になって不利だと理解したのか、デミタスはゆっくりと後退って逃げようとする。

    まさか、とヒートは気付いた。

    先ほどまでデミタスが優位に立っていたのは、その姿が見えなかったからだ。

    だが今はその姿がはっきりと見えているため、ヒートが劣る要因はどこにもない。

     

    デミタスはそのことにまだ気付いていないのだ。

    未だ自分は不可視の存在だと信じているからあのような無謀な攻撃を仕掛け、今は音もなく逃げようとしている。

    狙うなら、今だ。

     

    ノハ<:::|::,》「逃がすと思うのかよ!」

     

    脚部のローラーを稼働させ、ヒートは加速してデミタスを追う。

    肉薄するヒートに、デミタスはようやく気付いたようで、建物の壁を伝ってヒートの追撃を躱し、屋根伝いに逃亡した。

    逃げ足の速さは流石と言える。

    これまでに幾度となく警察から逃げ続けてきた自称怪盗は、逃走経路の確保に関しては間違いなくプロだ。

     

    ノハ<:::|::,》「……くそっ」

     

    この場に現れたのは偶然ではなく、ヒートを狙っていたのか、それともあの新聞記者を狙っていたのか。

    何かしらの手がかりを残しておいてくれれば良かったのだが、何もなさそうだ。

    コンテナを拾い上げ、レオンをそこに戻す。

     

    ノパ⊿゚)「……ん?」

     

    物音が聞こえた様な気がして、新聞社の建物に目を向ける。

    誰かが何かを喋り、物が床に落ちる音がした。

    争っているにしては、随分とのんきな音だった。

    やがて音が止み、抵抗が終わったのだと分かる。

     

    ノパ⊿゚)「まさか……」

     

    その時、疾走する影が目に飛び込んできた。

    猛烈な速さで駆け抜ける男は、その背に棺桶を背負っていた。

    ネイビーブルーの迷彩服を身に纏った男が窓ガラスを砕いて新聞社に入ったのを見て、ヒートはただならぬ予感を覚えるのと同時に、事態が彼女にとって都合の悪い方向に動いている事を確信した。

    新聞記者を追うのは三つの勢力。

     

    ヒート、そして所属不明の二勢力。

    彼から情報を得ようとする者、情報を封じようとする者。

    それぞれの思惑がある中、全てが一度に衝突するのは避けたいところだ。

    少しして、巨大な銃声が連続して響いた。

     

    間違いなく、中で戦闘が始まっている。

    ヒートは引き続き建物の影に隠れ、事態が落ち着くのを待った。

    狩場で争いが起こった時、それが落ち着くのを待つのが一番だ。

    数分後、動きがあった。

     

    窓から眼鏡をかけた新聞記者の男が慌てた様子で身を乗り出し、一目散に駆け出したのだ。

    彼の首からはカメラが下がっていた。

    何かを撮影したのだ。

    どうやら彼は、ヒートが思う以上に重要な役割を担っているようだった。

     

    カメラの中に入っているフィルムにしろデータカードにしろ、それを奪い取ることが出来ればヒートはそれを復讐への足掛かりとすることが出来る。

    デミタスを追うよりもよほど効率よく情報収集が出来る。

    他の人間に奪われないよう、ヒートは男から目を離さないように決めた。

    見れば見る程無防備な男だが、馬鹿ではないようだ。

     

    その背中をそっと早歩きで追尾し、街の北に向けて逃げているのが分かった。

    賢い選択だ。

    大通りを目指せば、よほど良識のない人間でない限り、襲いはしない。

    問題は、その方法と相手の執着度合いによる。

     

    例えば、本気で殺そうと思えば例え人通りの多い大都会の大通りでも殺すことは出来る。

    使う道具も気を遣えば揃えられる。

    果たして彼に、そこまでの価値があるのかどうか、という事である。

    素人を殺すのであれば、何も凝った道具などを用意する必要はどこにもない。

     

    開けた通りに出た彼は周囲を見渡し、ヒートは路地裏に潜んでその様子を眺めた。

    直後、彼は腹を抑えてその場に倒れ込んだ。

    誰かが悲鳴を上げる。

     

    ノハ;゚⊿゚)「……狙撃か」

     

    銃声はしなかったが、間違いなく銃撃された反応だった。

    グレート・ベルには狙撃手がいることを知っているヒートは、不思議に思わなかった。

    今も鳴り響く鐘の音が、銃声を消してしまったのだろう。

    トリックさえ分かれば何一つ恐ろしくはないが、その銃口がいつヒートに向けられるのかを警戒しなければならない。

     

    直接鐘楼に攻め入れば解決するのかもしれないが、今はその時ではない。

    何の策もなく狙撃手がそこを陣取っているはずもなく、必ず何かの備えをしているはずだ。

    それを単独で破りに行くのはリスクが高すぎる。

    逆手にとって相手の動きを読むための材料として生かしておいた方がいいだろう。

     

    しかし常々警戒をしておかなければ、ヒートの気付かない間に頭を失っている可能性もある。

    だがしかし、もしも本当に狙撃手が己の腕に自信があれば今正に男がそうなっていたはずだ。

    男の頭はまだしっかりと付いている。

    つまり、まだ生かす価値がある、もしくは技量的な問題で当てられないと判断した可能性が高い。

     

    男の周りに血溜まりが広がり、危険な状態にある事が分かった。

    ここで男が死ねば、情報源が絶たれる。

    公衆電話を見つけ、すぐに救急車を呼び出す。

    入院先の病院に向かえば、あの男のカメラを手に入れることも出来るだろう。

     

    ほどなくして、サイレンを鳴らして救急車が到着した。

    ヒートはその救急車に書かれていた病院の名前を憶え、タクシーを使ってそこに向かうことにした。

     

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    August 10th AM09:00

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    例の記者の名前は、アサピー・ポストマンというらしかった。

    病院に運び込まれてから彼はすぐに警察の監視下に置かれ、厳重な警備の中で治療を終え、今は個室に移されて眠っている。

    どうやら彼の重要性についてはジュスティア警察も目を付けているようで、ティンバーランドとヒートを合わせて三つの勢力から狙われていた。

    警察が並々ならぬ警備態勢で病院を守っているため、ヒートはアサピーの持つカメラを手に入れる事が非常に困難なのだと理解した。

     

    ジュスティア警察は時として無能だが、規則に忠実な彼らが一度守りを固めるとなれば一筋縄ではいかない。

    どこまで彼らが本気でアサピーを守ろうとしているのか、それによってヒートは攻め方を変えなければならない。

    今考えられる中で有効なのは、様子を見つつ第三の勢力であるティンバーランドがアサピーを襲い、警察を翻弄する時を待てばいい。

    病院内にある喫茶店でカフェインレスのコーヒーを飲みつつ、事態が動くのを待つことにした。

     

    時折別れ際に見せたブーンの顔がちらつき、過去の一場面がフラッシュバックする。

    ブーンを悲しませるつもりはなかった。

    出来れば彼の傍にいてやりたい。

    だが今は無理だ。

     

    今の姿はとてもではないが見せられない。

    復讐に目をぎらつかせる獣と化したヒートは、とても醜い顔をしている。

    捨てたはずの殺し屋の顔、復讐鬼の顔。

    躊躇うことなく赤子も殺す畜生の顔だ。

     

    家族を一瞬で失った六年前。

    ヒートは復讐を果たすため、殺し屋になった。

    爆殺された家族の中には、歳の離れた弟もいた。

    弟は世界の穢れも、罪も、何もない無垢そのものの存在だった。

     

    殺される必要など、何もないはずだったのに。

    ヴィンスで起きたマフィア同士の抗争でヒートの家族は彼女を残し、皆死んだ。

    幼い弟も死に、ヒートは背中に消えない火傷を背負って生きることになった。

    一年のリハビリと訓練期間を経て、五年の歳月を費やして復讐は果たされたはずだった。

     

    何としても、今回の爆破の犯人には口を割らせなければならない。

    そして、今度こそ過去の清算をする。

    取りこぼしのないように、徹底的に。

    アサピーの様子を見に行くため、ヒートはカフェを後にした。

     

    階段を上ってアサピーの病室に行こうとした時、鈍い物音がした。

    そして病室の前にいた警官二人が病室に駆け込んだ。

    これは、思いもよらないタイミングに出くわしたようだ。

     

    「どうしました!?」

     

    「侵入者か!!」

     

    「不可視の棺桶使いです!!」

     

    棺桶使い、とは棺桶持ちと同じ意味の言葉だが、使う人間の教養の良さが違う。

    上品な教育を受けた人間は棺桶使いという言葉を使う。

    不可視の棺桶、と言えばデミタスだ。

     

    ノパ⊿゚)「おもしれぇ……」

     

    棺桶を背負い直し、ヒートはつぶやく。

     

    ノパ⊿゚)『あたしが欲しいのは愛か死か、それだけだ』

     

    次の瞬間、ヒートの体はコンテナ内に取り込まれ、三秒後には黒い鎧に包まれた姿で現れた。

    銃声と物が壁にぶつかる音が聞こえ、そしてすぐに止んだ。

    お決まりの言葉――ランダ条約の読み上げ――がない事から、デミタスがその場を制したのだと推測。

    邪魔な警察が無力化されたのであれば、それは重畳。

     

    扉を蹴り破り、ヒートは目の前で女の首を絞めているデミタスを見つけた。

     

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    ノハ<:::|::,》「よぅ」

     

    (;´・_ゝ・`)「おいくそっ、またか!」

     

    先手はヒート。

    逃がさないよう、肉食獣のように左の爪を掲げて跳躍。

    飛びかかるヒートの一撃を辛うじて避けたデミタスは、女を投げてよこしてきた。

    右手で乱暴に払いのけ、ヒートは勢いをそのままに鉤爪を振り下ろした。

     

    直前までデミタスのいた場所を鋭い爪が通過。

    皮一枚のところでデミタスは後退し、攻撃を回避した。

    回し蹴りによる反撃が来たが、ヒートはそれを難なく左手で防御する。

     

    ノハ<:::|::,》「手前には話してもらいたいことがあるんだよ」

     

    (´・_ゝ・`)「そっちにはあってもこっちにはないんでね!」

     

    いつの間にか手に持った小口径の拳銃がヒートに向けられ、連続して発砲された。

    対強化外骨格用の弾を使われていたらという危惧が、ヒートの足をその場に固定させた。

    左手を広げ、楯のようにして銃弾を防ぐ。

    その間にバックステップで下がり、デミタスは窓ガラスを突き破って逃走した。

     

    その体はワイヤーによって向かい側にある建物の屋上に繋がれており、そのままワイヤーを伝って屋上へと壁を駆けあがってデミタスは姿を消した。

    またもや逃げられたことにヒートは苛立ったが、見方を変えれば、ティンバーランドはアサピーを狙っている事がはっきりと分かった。

    彼が何かを見聞きしたために、命が狙われていることは間違いなさそうだ。

    この場に不釣り合いなカメラが床に転がっているのを見て、ヒートはそれを回収することにした。

     

    相手の狙いはおそらく、カメラとアサピーの命、その両方だ。

    再びアサピーが襲われることを考えに入れ、ヒートはそれまでの間にカメラをどうすべきか考えた。

    今一度、デレシア達と合流するべきだろうか。

    いや、それは難しいだろう。

     

    彼女達が今どこにいるのか、それはヒートにも分からないのだ。

     

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                         August 10th AM09:27

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    デレシアはブーンを連れて、ティンカーベルの島を軽く見て周ることにした。

    ディに乗ってデレシアが連れて行ったのは、グルーバー島の森だった。

    街の北部に位置するその森林地帯はほぼ人の手が入っておらず、未開拓の状態だった。

    森には狼や熊も多数生息しているが、それ故に美しい自然の様子を堪能できる場所でもある。

     

    当然の如く道と呼べるような立派な物はなく、鬱蒼と茂る木々の間に見える獣道を突き進む。

    ヘルメットの下でブーンは悲しげな表情を浮かべ、心ここにあらずといった様子だった。

    四時間ほど前に分かれたヒートの事を考えているのは間違いない。

    全ては彼女の過去に起因している。

     

    流石のデレシアも世界で起こった全ての出来事を知っているわけではない。

    だが“レオン”と呼ばれる殺し屋の事は知っている。

    ヴィンスを主な拠点として幅広く殺しを行い、女子供にも容赦がなかったという。

    その残忍さと徹底さが先行した噂となり、レオンは恐るべき殺し屋として知られていた。

     

    心優しい彼女が何故殺し屋にならざるを得なかったのか。

    殺し屋とはこの時代ではそこまで珍しい職業ではない。

    しかし、それを生業とする人間には必ず問題がある。

    人間的な問題を抱えているとは思えないヒートは、現に殺し屋家業から足を洗っている。

     

    つまり、殺し屋は手段としての選択だったのだろう。

    殺し屋を何の手段にするか、それは簡単に想像が出来る。

    彼女は復讐のために、もしくは、殺さなければならないと心に決めた誰かの命を奪うため、殺し屋と言う立場を利用したのだろう。

    ヒートが復讐をするつもりならば、それを邪魔することはしない。

     

    人には人の生き方がある。

    彼女が復讐を選ぶのならば、そうすればいい。

    復讐の意味を決めるのは本人なのだ。

     

    ζ(゚ー゚*ζ「そろそろね」

     

    木の間隔が広くなると同時に、聳える木の背も高くなる。

    正に天然の天井。

    ここはグルーバー島のほぼ中心に位置する森で、デイジー紛争の際に砲弾が着弾して生まれた空間だった。

    そのため、倒木や不自然に折れた木や穿たれた地面が目立っている。

     

    山から湧き出た水が作った小川の傍を進み、平らな場所を選んでディを停め、降り注ぐ光の柱を仰ぎ見た。

    ブーンの視線は相変わらず下を向いたままだった。

     

    ζ(゚ー゚*ζ「ブーンちゃん」

     

    (∪´ω`)「お?」

     

    ζ(゚ー゚*ζ「一緒にお茶でも飲みましょ」

     

    ブーンを抱き上げてディから降ろし、デレシアも降りる。

    パニアからバーナーとカップ、そしてスティックタイプのレモンティーを取り出す。

    戸惑うブーンの手を引いて、デレシアは適当な木の幹に腰かける。

    湯を沸かし、カップに粉と共に注ぐ。

     

    湯気の立ち上るそれをブーンに手渡す。

    水面とデレシアとを交互に見るブーンに、デレシアは微笑みを返した。

     

    ζ(゚ー゚*ζ「こっちにいらっしゃい」

     

    自らの膝を叩いて、両手でカップを持つブーンを自らの膝の上に誘う。

    言われた通りに近づくブーンを膝に乗せ、デレシアは彼を背後から抱いた。

    胸に感じるブーンの重みと体温は心地よく、何よりも愛おしさで胸が痛んだ。

     

    ζ(゚ー゚*ζ「ヒートがいなくて寂しいの?」

     

    (∪´ω`)「……はい」

     

    ζ(゚ー゚*ζ「そう……」

     

    デレシアが聞きたいのはその言葉ではない。

    彼の口から聞きたいのは、もっと別の言葉なのだ。

    暫くは彼に葛藤を味わってもらい、それから欲しい言葉を引き出せばいい。

    今は、ゆっくりと考えさせたかった。

     

    レモンティーを一口飲み、ほっと一息つく。

    ブーンもそれに倣って、一口飲み、二口飲んだ。

    甘くて温かい飲み物は人を落ち着かせる。

     

    (∪´ω`)「お……」

     

    ζ(゚ー゚*ζ「うん?」

     

    (∪´ω`)「ぼく、ヒートさんの……おてつだい、したいです」

     

    ζ(゚ー゚*ζ「ヒートが何をしようとしてるのか、分かってる?」

     

    (∪´ω`)「わかりませんお……でも、ぼく……

           なにもしないでいるのは、なんだか……いやで……」

     

    そう言って、ブーンはカップに口をつける。

    子供らしい純粋な言葉だった。

    及第点だが、合格だろう。

    出来ればもう一歩進んだ言葉が欲しい。

     

    ζ(゚ー゚*ζ「それはどうしてなのか、分かる?」

     

    (∪´ω`)「……うまくせつめいができないんですけど、ぼく、ヒートさんのことがたいせつで、それで」

     

    それで、の後に続くはずだった言葉は銃声によって遮られた。

    その銃声はあまりにも大きく、鈍く、そして暴力的だった。

     

    (∪;´ω`)「お?」

     

    ζ(゚、゚*ζ「……ダーティ・ハリーね」

     

    この馬鹿でかい銃声は、強化外骨格の“ダーティ・ハリー”が生み出す物に酷似している。

    持ち主であるジョルジュ・マグナーニがこの島にいることを知るデレシアは、銃声が聞こえたことに意外さを感じなかった。

    彼が歩く先々では銃声が響く。

    ただ、彼が何故銃を抜いたのかが問題だ。

     

    続けて銃声と大きな物音が聞こえ、銃声が連続した。

    車でも落ちたのだろう。

     

    ζ(゚、゚*ζ「……」

     

    いや、車は落とされたのだろう。

    誰かが乗る車をジョルジュが撃ち、落とし、追撃したのだ。

    すでに警察を辞めたジョルジュが今になって何を追っているのか、嫌な予感がした。

    かつてデレシアを追っていたジョルジュが今追っているのは、ひょっとしたら、理想なのかもしれない。

     

    ――黄金の大樹と言う、理想を。

     

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           /三三三ミ7////`ヽ

          /三三三三三{Y´ ̄´ヽ}

         ./三三三ミ//`\乂三ミノ三\

        /三三三ミ//  / 〉、三三三三\

         |三三三_// //`\三三三三\

        マ三,r==、ミ\/ 从;l;从 /、。;.:;从 \

    .     \{r、三`ヽミ\:.从:::;.:;,:,;、;l,;l> :;.:;人\

    .      \ヾ三ミ}三ミ ) ,.,;;;W_从 :;.:;/,∧\__

              \='三 三.,.,;:;.:,,l||;,:;,;;,, :;.;: %/三三`ヽ

               \三三;''。:。,,::从ゞ;;,;;;*:;:,,~`={ ̄`ヾ三.}

                           August 10th AM09:35

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    案の定、崖下に黒塗りのセダンが一台転落していた。

    スモークグラスは無残にも砕け、車体には大きな銃痕が複数開いていた。

    デレシアとブーンは車の中を覗き込み、そこに見知った顔の男を見つけた。

     

    ζ(゚、゚*ζ「あら、刑事さん」

     

    (∪´ω`)「トラギコさん?」

     

    ジュスティア警察のトラギコ・マウンテンライトだった。

    優秀な刑事として、デレシアはジョルジュの次にこの男を評価していた。

    それが今、虫の息となって倒れている。

    何があったのかは大雑把に予想が出来た。

     

    ジョルジュに撃たれてこの車ごと転落し、更に追い打ちとして数発の土産を貰ったのだ。

    同じ警官――ジョルジュの場合は元警官――が殺し合いをすることは考えにくく、このスモークグラスが問題だったのだろう。

    狙われた、というわけではなさそうだ。

    警官同士の絆は強く、引退後でもそれは強固のはず。

     

    ジュスティア人と言う根がある以上、それは変わらない。

    特にジョルジュは警官として多くの人間にその重要性を説き、地方に派遣されて自暴自棄になっていた多くの警官を奮い立たせた。

    彼は警察という仕事に対して、異常なまでに執着と情熱を持っていた。

    残念なのが、彼がティンバーランドに堕ちてしまったことだ。

     

    惜しい人材を失ってしまった。

    本当に、残念だ。

    その代わりにトラギコが出てきたと思えば帳尻は合うが、長年知っている人間だっただけに、デレシアは落胆を禁じ得なかった。

     

    (∪;´ω`)「けが……してます」

     

    ブーンが血塗れのトラギコを見て、そう言った。

    見ての通りの感想だ。

    先ほどの回答が得られなかった代わりに、デレシアはトラギコを利用することにした。

    聞きたいのは、彼が決断する言葉。

     

    先を読んで、決断するだけの覚悟。

    そして、自らが動くということを経験させたかった。

     

    ζ(゚、゚*ζ「そうね。 ブーンちゃんはどうしたいの?」

     

    (∪;´ω`)「お……」

     

    ζ(゚、゚*ζ「この人は、私達を追って今ここにいるようなものよ。

          ここで見殺しにすれば、旅は楽になるわ」

     

    デレシアが提示したのは、一つの側面だ。

    トラギコはこれから先、ジョルジュ並、もしくはそれ以上の刑事に育つ可能性がある。

    それはデレシアの旅路を邪魔することを意味すると同時に、デレシアが信頼する優秀な駒を一つ手に入れるという事でもあった。

    トラギコの生み出すデメリットだけに捉われれば、正しい判断は出来ない。

     

    さて、ブーンはどのような判断を下すのだろうか。

    ヒートの手助けをしたいと申し出たブーンは、どこまで考えていたのか、その答えを聞けなかった。

    だから今、トラギコの命を材料にしてその思慮の真意を探り出す。

     

    (∪;´ω`)「でも…… トラギコさん、けいさつのひとだから、ヒートさんのことなにかしってるかも……」

     

    ζ(゚、゚*ζ「知らないかもしれないわよ?」

     

    (∪;´ω`)「そ、それに…… トラギコさんにも、きょうりょく、してもらえるとおもいます」

     

    デレシアは笑みが込み上げてくるのを抑えられなかった。

    もう一歩。

    もう少し、限界までブーンの答えを聞きたい。

     

    (∪;´ω`)「うたれたってことは、りゆうがあるってことで…… その、だから……

           うたれるような、りゆうのあるひとなら……」

     

    ζ(゚ー゚*ζ「よく分かったわね、ブーンちゃん。

           その通りよ。

           トラギコは撃たれるだけの価値のある人間になっているのだから、私達に手を貸す方が彼にとってもメリットがある。

           ここで助けておいても損はないわ」

     

    転落の際にひびの入ったフロントガラスを引き剥がし、トラギコをそこから担ぎ出す。

    擦過傷や打ち身が目立つが、破傷風にならないように出血さえ処理すれば命に係わる様な傷はなさそうだった。

    しかし、転落の衝撃でしばらく全身が思うように動かないだろう。

    その間に包帯を変えたり、食事の世話をしたりと、彼の看病をする人間が必要だ。

     

    妙案が浮かんだデレシアは、視線を前に固定したまま、ブーンに声をかける。

     

    ζ(゚ー゚*ζ「ねぇ、ブーンちゃん」

     

    (∪´ω`)「お?」

     

    ζ(゚ー゚*ζ「看病、してみる?」

     

    (∪´ω`)「かんびょー?」

     

    ζ(゚ー゚*ζ「怪我の手当てとか、面倒を見る事よ」

     

    (∪´ω`)「トラギコさんのかんびょーですか?」

     

    ζ(゚ー゚*ζ「えぇ、そうよ。

           やり方は教えてあげるわ」

     

    思案する様子も見せず、ブーンは不安げな表情を浮かべつつ、頷いた。

     

    (∪´ω`)゛「やってみますお」

     

    小川までやってきた二人はまず、トラギコを出来るだけ平らな場所に寝かせ、傷口を洗った。

    消毒するための道具がないため、川の水で傷口に付着した泥や血を洗い落とす。

    これで破傷風は防げるはずだが、油断は禁物だ。

    特に大きな傷口には包帯を巻き、雑菌が入らないようにした。

     

    流石に傷口に水が触れた時にはトラギコが呻いたが、起きる気配はなかった。

    一連の作業をブーンに見せてやると、彼が興味深そうにトラギコの体を眺めているのに気付いた。

     

    ζ(゚ー゚*ζ「何かあったの?」

     

    (∪´ω`)「トラギコさん、きずだらけですお」

     

    ζ(゚ー゚*ζ「そうね、それだけ一生懸命なのよ」

     

    (∪´ω`)「おー」

     

    それから二人はテントを組み立て、そこにトラギコを運んだ。

    小さくまとめられた寝袋を枕代わりにしてトラギコをテント内に寝かせると、すぐに寝息が聞こえてきた。

    ランタンをテント内に吊るし、風通しを良くするために簡易的な窓を開け、入り口をメッシュにした。

    前室にパニアを置き、調理用のバーナーはローテーブルの上に置いた。

     

    これでブーン一人でも調理が出来る。

     

    ζ(゚ー゚*ζ「さて、と」

     

    準備を終えたデレシアは、トラギコの傍に座るブーンを見た。

     

    ζ(゚ー゚*ζ「少しの間留守にするけど、大丈夫そう?」

     

    (∪´ω`)゛「はいですお」

     

    ζ(゚ー゚*ζ「いざとなれば、トラギコが手を貸してくれるはずよ。

          ね? 刑事さん」

     

    デレシアが問いかけた瞬間、トラギコの寝息が止み、片目が開いてデレシアを睨んだ。

     

    (=-д゚)「……ちっ、気付いてたラギか」

     

    (∪;´ω`)「お?!」

     

    先ほどまで寝ていたと思い込んでいたブーンが驚きを露わに、僅かに仰け反る。

    流石は刑事、演技が上手い。

    相手を油断させて情報を引き出そうとする技術に長けている人間なのは分かっていたため、デレシアは驚かなかった。

    恐らくは、傷口を洗った時に意識を取り戻したのだろう。

     

    ζ(゚ー゚*ζ「私は少し出かけてくるけれど、その前に幾つか質問があるの」

     

    (=゚д゚)「……聞いてるラギ」

     

    手負いの獣の目をしている。

    トラギコという男は、やはり、デレシアの思った通り優秀な警官だ。

    牙を失わなければ、獣は何度でも獲物を襲う。

    これまで追っていた獲物を前にしても、冷静さを欠かすことなく重要さを素早く天秤にかけ、判断を下すことが出来る獣は紛れもなく優秀である。

     

    ζ(゚ー゚*ζ「ジョルジュに撃たれたんでしょ?

          何か、撃たれるような覚えは?」

     

    眉を顰め、トラギコはデレシアに向けた視線をより一層鋭くした。

     

    (=゚д゚)「手前、ジョルジュさ……ジョルジュを知ってるのか?」

     

    ζ(゚ー゚*ζ「えぇ、知っているわよ。

           貴方にそっくりな人で、昔からよく知っているわ。

           でも今はそんなどうでもいい昔話より、どうして彼が貴方を撃ったのかが知りたいの」

     

    (=゚д゚)「知らねぇよ。 俺がペラペラ喋るような人間に見えるラギか?」

     

    ζ(゚ー゚*ζ「今朝、カフェが爆破されたわね」

     

    (=゚д゚)「そうらしいな」

     

    ζ(゚ー゚*ζ「その前は、病院で放火があった」

     

    (=゚д゚)「……」

     

    トラギコの表情が、次第に険しくなった。

    そろそろ彼も分かってくるだろう。

    これは情報を用いた取引なのだと。

    新聞から得られた情報だけでは、反応が得られるはずはない。

     

    だからデレシアは、推理した情報をあたかも見知っているかのように語った。

     

    ζ(゚ー゚*ζ「聞いた話だと、病院で医者が一人撃ち殺されたらしいわね。

           仲が良かったんじゃないの?」

     

    (=゚д゚)「……だからどうしたラギ?」

     

    ζ(゚ー゚*ζ「どこから撃たれたか、見当はついた?」

     

    推測に基づくハッタリだった。

    新聞にあったのは、カール・クリンプトンという医者が銃撃戦に巻き込まれて死亡したという情報だった。

    デレシアはまず、この新聞の情報自体に疑問を抱いた。

    ジュスティアがこの情報が流れるのを黙認したり、ましてや、手を貸したりするはずがない。

     

    彼らは面子を重んじる。

    矜持の固まりとも言える彼らが、汚点を晒すはずがない。

    となると、誰かが情報を流したのだ。

    正にその場に居合わせ、情報を流すことで少しでも事態に変化をもたらそうとする男が。

     

    例えば、その病院に入院していたトラギコならば、その情報を流すだろう。

    更に言えば、カールという医者についてここまで新聞が短時間で調べるはずなどあり得ない。

    生前に仲が良かった人間が、彼を記事にさせたのだ。

    そこで再びトラギコが出てくる。

     

    記者に強引に書かせるだけの力と、それに見合った情報提供能力を持つ人間は一人しかいない。

    情報提供者は、間違いなくトラギコだ。

    それらを推測で導き出した後、デレシアは家事とほぼ同時に起こった狙撃を結び付けた。

    デレシア達を狙った狙撃手は自らの役割が失敗したと判断し、その狙いを別の場所、即ち火災現場に向けたはずだ。

     

    ただ鐘を鳴らすだけならば、何も火事を起こす必要はない。

    火事を起こすという事は、そこにいた人間を殺すつもりで火を放ったのだ。

    現に軍人が二名も死亡し、コンセプト・シリーズの棺桶が使用されたと記事にはあった。

    入院患者の中で最も命を狙われてもおかしくないのは、トラギコだ。

     

    彼を殺すために狙撃手はその銃口を病院に向けたが、思わぬ誤射があったのだろう。

    殺しても大して利益にならない医者が死に、トラギコは生き残った。

    想像でしかないが、その死んだ医者とトラギコはすぐ近くにいた可能性が高い。

    場所の特定が出来ない狙撃を目の当たりにした彼ならば、狙撃手の位置を知りたがるはずだ。

     

    (=゚д゚)「知ってるラギか?」

     

    食いついてきたのを確認してから、デレシアはトラギコの言葉を引用した。

     

    ζ(゚ー゚*ζ「私がペラペラ喋るような人間に見える?」

     

    (=゚д゚)「……ショボン・パドローネが脱獄犯を引き連れて、この島にいるのは知ってるラギね?」

     

    観念した風にトラギコが口を開き、情報を語り始めた。

    デレシアは頷き、二人の名を挙げた。

     

    ζ(゚ー゚*ζ「えぇ、デミタス・エドワードグリーンとシュール・ディンケラッカーでしょ?」

     

    (=゚д゚)「そいつらを見つけたラギ。

        ただ、色々と分からねぇことばかりラギ。

        俺に分かったのは、それ以外にもジョルジュ、イーディン・S・ジョーンズがショボンに絡んでいるってことぐらいラギ」

     

    トラギコが挙げた三人の名前。

    ジョルジュはいいとして、もう一人は割と有名人だった。

    イーディン・S・ジョーンズは歴史学者であり、棺桶研究の第一人者だ。

    棺桶狂いの研究者として多くの棺桶の復元に携わってきた男で、おそらくは、現代で最も多くの棺桶と触れ合ってきた人間かも知れない。

     

    どうやらティンバーランドは、今回はかなり念入りに準備をして組織を大きくしているようだ。

    そして、この島で確実にデレシア達を排除するつもりらしかった。

    更にトラギコは、この島に円卓十二騎士のショーン・コネリとダニー・エクストプラズマンが来ている事、ライダル・ヅーがトラギコを使って事態の収拾を図ろうとしていることを話した。

    彼が見た三種類のコンセプト・シリーズの話を聞いた時、デレシアはそれが“ファイヤー・ウィズ・ファイヤー”と“レ・ミゼラブル”、そして“エドワード・シザーハンズ”であることが分かった。

     

    ジョーンズが関わっているのであれば、コンセプト・シリーズを惜しげもなく配給していることも理解出来る。

     

    ζ(゚、゚*ζ「あらあら、それは物騒な話ね」

     

    (=゚д゚)「で、ショボンは何をしようとしてるんだ?」

     

    ζ(゚ー゚*ζ「そうねぇ、たぶんだけど私を殺したいんじゃないかしら?」

     

    (=゚д゚)「冗談はよせラギ。

        手前を殺すなんてのは、その気になれば今すぐにだって……」

     

    ζ(゚ー゚*ζ「私がそれをさせると、本気で思う?」

     

    笑顔で答えたデレシアの目を見て、トラギコは溜息交じりに舌打ちをした。

     

    (=゚д゚)「……ちっ。

        まぁいい、兎にも角にも俺は脱獄した二人とショボンの行方を追ってたら、シュールに会ってジョーンズに会って、そんでもってジョルジュに撃たれた。

        これでいいラギか?」

     

    半ばやけになったような口調だったのは、デレシアの実力を理解しての事。

    観念したトラギコは自分の持つ情報を全て話した気になっているが、まだ少し足りない。

     

    ζ(゚ー゚*ζ「まだ隠し事あるんでしょ?

          この島の記者に知り合いでもいるの?」

     

    (=゚д゚)「隠し事ってレベルじゃないが、協力者がいるぐらいラギ。

        アサピー・ポストマンって新聞記者ラギ」

     

    ζ(゚ー゚*ζ「その人は今どうしてるの?」

     

    トラギコは鼻を鳴らした。

     

    (=゚д゚)「さぁな。

        今頃、今朝の事件を調べているんじゃねぇか?」

     

    記者は今頃襲われているだろう。

    生き残るかどうかは、その記者の技量次第だ。

    もしもその記者が将来有望な人間であれば、生き延びた後に目指す場所は一か所だ。

    現在、この島に安全な場所はなく、あるのは海上の城。

     

    オアシズだけが、唯一真実を無事に外に運び出せる安寧の地だ。

     

    (=゚д゚)「今度は俺が質問する番ラギ。

        狙撃をした馬鹿はどこにいるラギ?」

     

    ζ(゚ー゚*ζ「グレート・ベルにいるわよ」

     

    (=゚д゚)「根拠は?」

     

    ζ(゚ー゚*ζ「デイジー紛争の時に前例があるのよ。

          この島に来て、あの場所を狙撃に使わない狙撃手はいないわ。

          それに、狙撃手の正体は多少心当たりがあるんじゃない?」

     

    (=゚д゚)「……まぁな。

        たぶん、カラマロス・ロングディスタンスラギ」

     

    トラギコが島に到着して早々に狙撃された時の状況を考えれば軍が島に送り込まれた時、狙撃手が配備されている事が確実なものとなった。

    ジュスティアが本気であればカラマロスを連れてくるはずだと考えていたが、それは当たっていたようだ。

    彼は今、ジュスティアで最も優れた狙撃手として広告塔の役割を担っている。

    腕のいい狙撃手が島の大部分を見下ろすことの出来る位置に陣取れば、逃亡犯を見つけてもすぐに対応できる。

     

    という事は、カラマロスもティンバーランドの人間という事だ。

    軍の深部にまで食い込むその根は、彼以外にもティンバーランドに所属する人間が軍にいることを示している。

    これは有益な情報だった。

    少しでも彼らの動きにつながる情報が得られれば、こちらはその分だけ先手を打つことが出来る。

     

    思いがけず良い情報が手に入り、デレシアはこれから後の動きについて考えた。

    ティンカーベルの問題には手を出さずとも、ジュスティアが相手をしてくれるだろう。

    円卓十二騎士は無能の集団ではない。

    多少手こずるかもしれないが、時間稼ぎにはなる。

     

    その間にニューソクを無力化することも可能だろうが、どうにもそれでは面白くない。

    ヒートが今何を追っているのか、彼女に手を貸す必要があれば、そうしたかった。

    ブーンの願いが彼女の手助けであり、それが彼の選択ならば、その結果がどのような物になるのかを見せてやりたい。

    例え結末がどのような物であろうとも、ブーンにはヒートの生き方と選択の果てを見届けさせたかった。

     

    (=゚д゚)「ところで、もう一人の女は?」

     

    ζ(゚ー゚*ζ「ちょっとお出かけ中。

           他に知りたいことは?」

     

    間違ってもヒートの名前は出さない。

    彼女は殺し屋として指名手配を受けた身だ。

    今でも彼女に組織を潰され、恨みを持つ人間は山といるだろう。

     

    (=゚д゚)「お前、ショボン達が所属してる組織に心当たりがあるラギか?」

     

    ζ(゚ー゚*ζ「えぇ、心当たりというか答えを知ってるわよ」

     

    (=゚д゚)「……教える気は?」

     

    ζ(゚ー゚*ζ「今は、ないわね」

     

    そう。

    今は、教えない方がいい。

    彼にはまだやってもらう事がある。

    ティンバーランドに関わるには、まだ力が不足している。

     、 、 、

    たかがジョルジュ如きに後れを取るようでは、とてもではないが話にならない。

    警察官としてやってもらいたいことならあるが、まだ彼はティンバーランドを知らない状況で動いてもらいたい。

    知っていれば、警察内にいる細胞にトラギコの動きが監視され、その内殺されてしまうだろう。

     

    (=゚д゚)「だろうな。

        それで、これからどうするつもりラギ?」

     

    ζ(゚ー゚*ζ「それについても、教える気はないわ。

           刑事さん、貴方はこの事件をどうしたいの?」

     

    訝しげな表情でトラギコがデレシアを見た。

     

    ζ(゚ー゚*ζ「解決したいの?

          それとも、ただ黙って結末を傍観したいの?」

     

    (=゚д゚)「取引を持ちかけるんだったら、いくらなんでも材料不足ラギね」

     

    ζ(゚ー゚*ζ「取引? ふふ、そんなことするつもりはないわよ。

          ただ私は訊いているだけよ、貴方がどうしたいのかを」

     

    (=゚д゚)「事件解決を望まない警察はいねぇラギ。

        何が望みだ?」

     

    ζ(゚ー゚*ζ「今はまだ秘密。

          それで、どうするの? トラギコ・マウンテンライトの答えは?」

     

    妖艶な笑みを浮かべたデレシアに対して、トラギコは大きな溜息を吐いたのだった。

     

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                               , 'ニ ̄ニヽ

                               ( 二ニ ニ)      August 10th PM05:50

                           /~\ ヽニ_ニノ  ,/⌒ヽ

    \     ~ 、      /⌒ヽ,,  /     \     /     ^ヽ、

      ヽ,,,/   \_ ,,,,,/     ''''        \,,,/         \   /

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    田 田 |:::..|  ___________       |.::::| 田 田    田 田

          |:::::|  |iiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiii|;;;;;|        |:::::|      日

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    黄昏時。

    鐘の音が鳴り響く、逢魔が時。

    ヒートはアサピーが複数の棺桶持ち――エーデルワイス――に警護されながら病院から出てくるのを見下ろし、その警備体制の厳重さに舌を巻いた。

    死角を補い合うように路地裏を移動し、こまめに状況の連絡を行っている様子は凶悪犯の輸送に似ている。

     

    減音器の取り付けられたカービン銃を構える四人の棺桶持ちに囲まれ、その中央にいるアサピーは周囲を見渡し、不安そうな様子だった。

    もしも彼らがアサピーを病院から別の場所に移すのであれば、夜になりきらないこの時間帯、そして路地裏を使う事は読めていた。

    彼女の読み通り現れた一行は、アパートの階段の踊り場に姿を隠すヒートには気付いていなかった。

    となると、おそらくはティンバーランドの人間もこの機会を狙っている可能性がある。

     

    そうして、集団が路地をしばらく進んだ時、一人が叫んだ。

     

    ::[/.])「……コンタクト!!」

     

    接敵。

    敵との接触は即ち、襲撃者の来訪を告げる吉報だ。

    見れば、集団の正面に髭を蓄えた男が一人。

    間違いなく、デミタス・エドワードグリーンだ。

     

    そしてデミタスはヒートが見ている目の前で、その姿を消した。

    高速移動による現象ではない。

    それにしては予備動作も舞い上がる砂塵もない。

    全身を不可視にする強化外骨格の成す業だ。

     

    だがヒートはその棺桶に対して、一切後れを取ることなく立ち回れた。

    早速一人がアサピーを抱きかかえて、建物の屋上へと続く退路を選んで跳躍した。

    教則通りの判断だ。

    狭い路地で不可視の人間を相手にするぐらいなら、退路が多々ある屋上を選んで保護対象者を逃がした方がいい。

     

    その間に残った人間で襲撃者を撃退すれば、無事に何もかもが終わる。

    だが教則通りという事は当然その対応をされている可能性もある、と思った次の瞬間、一人の首が地面に落ちた。

    場数を踏んだはずの人間が、デミタスの姿を捉えられていない。

    戦闘の素人であるデミタスに負けているという事は、その姿を目視出来ていないのだ。

     

    強化外骨格の目を持ってしても目視が出来ない。

    これは厄介そうだ。

    そう思っていると、アサピーを連れていた人間が倒れた。

    デミタスが移動したとは考えにくく、その倒れ方は、銃で撃たれた人間のそれによく似ていた。

     

    また、狙撃だ。

    鐘の音に合わせた狙撃は、その頻度と正確さを増している。

    早目に片付けなければ、次はヒートが撃たれる番だ。

    そして意外なことに、アサピーは自らの意志で屋上から路地裏へと落ちた。

     

    ノパ⊿゚)「……へぇ、やるじゃんか」

     

    棺桶を背負い直し、ヒートは称賛の言葉をつぶやく。

    狙撃されていることに気付いたらしく、撃たれにくい建物の影を選んだのはいい選択だ。

    デミタスに蹂躙されるエーデルワイスの一行を見下ろしていたヒートは、起動コードを口にした。

     

    ノパ⊿゚)『あたしが欲しいのは愛か死か、それだけだ』

     

    装着を終え、ヒートは踊り場から跳躍。

    姿が見えるようになったデミタスの前に、ヒートは着地した。

    その姿を見たデミタスは目を見開き、うんざりした様に大声を上げた。

     

    (#´・_ゝ・`)「……また邪魔するか、女!!」

     

    ノハ<:::|::,》「悪いけどな、またあたしなんだよ、男」

     

    右腕の杭打機を起動させ、ヒートは問答無用で疾駆した。

     

    (´・_ゝ・`)「そう何度も!!」

     

    デミタスは背負っていた小型のコンテナを掲げ、それを楯のようにした。

    ヒートはほくそ笑んだ。

    巨大な左手でコンテナを掴み、電流を放つ。

     

    (;´・_ゝ・`)「うおっ?!」

     

    デミタスは咄嗟にコンテナを手放し、その電撃をすんでのところで回避した。

    掴んだコンテナをヒートはデミタスに投げつけるも、驚くほど素早い身のこなしでそれを避け、一目散に逃走する。

    どうやら、このレオンに飛び道具がないのを知っているようだった。

    だとしても、捕まえさえすれば何のことはない、一撃で殺せる。

     

    (´・_ゝ・`)「しつこい女だ!」

     

    路地の向こう側から声が聞こえてくる。

    また屋上にでも逃げられたら面倒だが、同じ手は二度と喰わない。

     

    ノハ<:::|::,》「逃がすかってんだよ!」

     

    曲がり角を進むと、そこにデミタスの姿はなかった。

    その代わりに、見たことの無い人影がそこに佇んでいた。

     

    [:::|::,]「……」

     

    ほっそりとした体に黒い鎧を纏い、青白い輝きを目に湛えた強化外骨格。

    見たことの無い形の棺桶だった。

    主兵装と呼べそうなものは装備しておらず、体一つだけで戦う形のようだ。

    近接戦闘で強みを発揮するタイプかも知れない。

     

    だが奇妙だ。

    殺意、敵意と言った物がまるで感じられない。

    腰まである長い黒髪は風に揺らめきもしない。

    不気味ささえ感じた。

     

    ノハ<:::|::,》「おい手前! デミタスはどこだ!!」

     

    またもや逃げられ、ヒートは苛立ちを声に滲ませてその黒い棺桶持ちに問いかける。

    回答が得られるとは思っていないが、ヒントの一つでも得られれば行幸。

    デミタスを庇うという事は、彼の仲間という事なのだ。

    デミタスが捕まらないなら、その関係者を捕まえればいい。

     

    「……まさか、その声」

     

    声が聞こえた。

    懐かしい声が、聞こえたのだ。

    もう二度と聞けないはずの声が。

     

    ノハ<:::|::,》「嘘……だろ……」

     

    声のした方向を見上げる。

    二階建てのアパートの屋上に、その人物はいた。

    黒髪を風になびかせ、夕日を半身に浴び、懐かしい顔のその人物が。

     

    川 ゚ -)「ヒート、お前なのか?」

     

    それは――

     

    ノハ<:::|::,》「か、母さん……?」

     

    ――死んだはずの母親、クール・オロラ・レッドウィングだった。

     

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                                            August 10th PM05:55

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                    AmmoRe!!のようです Ammo for Reknit!!

                                       第二章【departure-別れ-】 了

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