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第十章【Ammo for Tinker!!】

  1. 名前: 歯車の都香 2017/04/16(日) 13:12:00
    第十章【Ammo for Tinker!!】

    夜明けの空気はひんやりとして、海の匂いを含んでいた。

    風は冷たいが日差しは強く熱く、白い雲は空の高いところを浮かんで速い動きで流れていく。

    上空の風が強い証拠だ。

    水平線の向こうには大きな入道雲が浮かび、黒雲を伴ったそれが徐々に大きさを増している。

     

    微風程度だった風が次第にその強さを増し、上空でよく冷やされた空気を地上に降ろし、やがて島中に届ける。

    ここは“鐘の音街”ティンカーベル。

    三つの大きな島と数多くの島からなる街は、漁から帰ってきた漁船や市場の賑わいもなく、静かに朝を迎えていた。

    複数の事件が引き起こした異様な光景だった。

     

    雪を被ったクラフト山脈が大地に聳え立つように海上に停泊するのは、世界最大の船上都市“オアシズ”。

    そして、島の事件を解決すべく集ったのは海を挟んで隣にある正義の都“ジュスティア”。

    今、三つの街の人間が一か所に集い、一つの目的のために死力を尽くしていた。

    全ては相互利益のため。

     

    互いの街がいかにして目的を達し、利益を得るのかだけのために協力し合う乾ききった関係。

    義理も人情もなく、かといって互いに足を引っ張ることもしない。

    ただ、共通した目的の達成だけが彼らを繋いでいた。

    情報の提供と捜査の実行、そして必要ならば指揮まで、それぞれが力を出し合っているにも関わらず。

     

    狙うのは最良の結末。

    使うのは最短にして最善と信じ切った悪路。

    楽な手段では決して事件が終わらないという事に気付かない彼らは、今もこうしている間に無駄な時間を費やしていた。

    その努力と呼ぶことすらできない行為が一生実らないとも知らず、自慰の様に生産性のない時間が過ぎてゆく。

     

    ――ほんの一握りの人間を除いて。

     

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                   ‥…━━ August 11th AM 05:21 ━━…‥

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    早朝、それも陽が昇ってからの新聞社は静かな物だ。

    その頃には配達員が刷り上がった朝刊を配達するために原動機付自転車を使って島中に散らばり、社には事務員と支社長ぐらいしか残らない。

    しかし、その日は少し事情が異なった。

    まず、朝刊は刷り上がるどころか原稿すらなく、印刷機は稼働を停止していた。

     

    そして事務員はおらず、代わりに彼女の席には赤黒い血が染みついていた。

    配達員のほぼ全員も同様に命の一部を床の染みに変え、その体は島の遺体安置所で火葬の時を待っている。

    人気のないモーニング・スター新聞社ティンカーベル支社には、一人だけ社員が残っていた。

    眼鏡をかけた浅黒い肌の若い男は、社で保管されている大型の望遠レンズを手に入れ、少し早目の朝食を一人で摂っていた。

     

    文字通り大したものではないが、山と積まれた缶コーヒーとチョコレート味のブロック型栄養補助食品の量は尋常ではなかった。

    味も種類も滅茶苦茶だが、共通していることは、それらの所有者はこの世にいないという事である。

    殺された同僚たちの非常食の在処を知っていた男は、それらを全て自らの机の上に並べ、吐きそうになりながらも全て平らげた。

    一種のまじないであり、自分自身に言い聞かせるための儀式だった。

     

    彼らの食事を体内に取り込むという行為は、彼自身に失敗を許させない覚悟を与えた。

    アサピー・ポストマンは膨れ上がった腹を撫でつつ、カメラのレンズを交換した。

    望遠レンズの重量は三キロもあり、本体よりも遥かに重い。

    両手で構えなければレンズが重さで傾き、逆にレンズを持てば本体が安定するほどである。

     

    振り向くようにして素早く別方向に構えるも、自重のせいでレンズが静止することなく狙った場所から僅かに流れてしまう。

    突発的な事態には対処できない。

    分かってはいたが、やはり予め撮影位置を定めて待機するのが妥当だろう。

    構えたままの状態でズームリングの固さと望遠性能の確認を行い、その圧倒的な望遠性能に舌を巻いた。

     

    この大きさになるとケースは意味を成すどころか役割を果たせず、ネックストラップや大きめの鞄を使う他に運搬の方法はない。

    そこで半ば仕方なしに選んだのは登山用のデイパックだった。

    カメラ本体を底にして詰め、空いた隙間に予備のフィルムを入れた。

    荷物の準備はすぐに終わったが、その後は時間とパズルの問題だった。

     

    エラルテ記念病院の屋上に行くためには病院内を移動し、パスカードによって開閉される屋上の扉を空けなければならない。

    患者が飛び降り自殺をしないための配慮であり、医者だけが青空喫煙所を使えるよう設計されているためだ。

    パスカードがなければ、屋上に出ることは出来ない。

    遊園地の年間パスカードとは違って簡単に入手できるものではないため、アサピーは屋上への侵入方法を考えなければならなかった。

     

    二度の襲撃によって厳戒態勢となった病院周辺だが、侵入手段は必ずある。

    要はパスカードさえ使えれば問題ないのだ。

    扉さえ開けば、何という事はない。

    医者を襲えば手に入れられるが、そのような方法は使いたくもないし使えない。

     

    策はあった。

    トラギコ・マウンテンライトから教えてもらったカール・クリンプトンという医師の存在だ。

    彼は亡くなっているが、その名前が重要だ。

    記者であることを最大限活かすため、彼の名前を使って取材を行い、どうにか屋上まで誘導すればいい。

     

    そのためには、カールと親しかった医者を探すことが重要となる。

    一つ危惧しているのが、取材に応じなかったり取材を申し込んだりした瞬間に捕まえられるという事だ。

    モーニング・スター新聞社の人間が捕獲されたことを含めると、ジュスティア警察が病院に待機していることは十分に考えられる。

    方針が定まったアサピーは荷物を改めて確認し、それを背負った。

     

    もうこの会社に戻ることはない。

    社を離れる前に、最後にもう一度無人の席を見た。

     

    -@@)「……っ」

     

    いないはずの同僚たちがアサピーに手を振っていた。

    いないはずの同僚たちの声が聞こえた。

    この支社に配属された時からの友が、同期が、上司が。

    皆がいつもと同じようにアサピーを見送った、そんな気がした。

     

    当然、それは現実の事ではない。

    自然、それは本人の勝手な想像でしかない。

    妄想と言い換えてもいい。

    それでも、アサピーの気持ちが幾分楽になったのは厳然たる事実である。

     

    ――予定時間まで残り、六時間半。

     

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                   ‥…━━ August 11th AM 05:36 ━━…‥

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    アサピー・ポストマンがティンカーベル支社を出た頃、トラギコ・マウンテンライトも仮眠を終え、すでに準備を整えていた。

    武器も道具も揃えた以上、残っている準備は予定地点への移動だけだ。

    移動してからは、病院の正面から出て狙撃手に狙わせなければならない。

    顔をこちらに向けさせた状態でなければ撮影は無駄になる。

     

    無論、自殺をするつもりはない。

    みすみす殺されてやるつもりもない。

    狙撃手を相手に正面に立つという事が愚行であることは百も承知だし、相手の腕も理解しているつもりだ。

    それらを考えに入れた上で、狙撃手と向かい合う。

     

    策はいたってシンプルだ。

    鐘の音と共に病院から姿を現し、撃たせる。

    そしてアサピーがその様子と共に相手の顔を写真に収め、切り札を手にするという寸法だ。

    互いの連携がなければ成功しないが、それ以前に信頼関係がなければ成立しない話でもある。

     

    アサピーが定位置についてカメラを構え、いつでも撮影が出来る状態にあるという事。

    トラギコが時間通りに姿を現すという事。

    狙撃手がトラギコを見つけ、狙いを定めるという事。

    アサピーはトラギコを、トラギコはアサピーを、そして二人は狙撃手を信頼している。

     

    そういった信頼の数々によってこの策は成り立っており、一つでもずれれば破綻につながる。

    それはあってはならない。

    それでは、トラギコのために死んだカール・クリンプトンが浮かばれない。

    愚直なまでの医者として生きた男の命を奪った人間には、死ぬまでに多くの苦しみを与えなければ気が済まない。

     

    あの夜。

    トラギコは何故自分が撃たれなかったのか、ずっと疑問だった。

    だが、答えは驚くほど簡単な物だった。

    狙撃手は単純にトラギコとカールを間違えて撃ったのだ。

     

    暗闇の中で人影を見つけるためには、暗視装置の存在が欠かせない。

    火災現場から逃げる二人を捉えた狙撃手は、どちらがトラギコであるかを判別できなかったのだ。

    では狙撃手がカールを撃った理由とは何か、と考えるとトラギコの服装が関係してくる。

    炎と煙から身を守るためにカールが貸してくれた白衣だ。

     

    スコープを通じて服装を見た時、狙撃手はトラギコを医者として勘違いし、もう一人をトラギコと認識したのだ。

    そして凶弾はカールを捉えた。

    つまるところ、トラギコはカールに助けられたのである。

    彼が白衣を脱がなければ、撃たれていたのはトラギコだ。

     

    彼は己の職務を果たした。

    今度は、トラギコがその職務を果たす順番である。

     

    (=゚д゚)「さぁて、行くか」

     

    ワイシャツのボタンを閉め、ジャケットに袖を通す。

    ホルスターに収めるのはベレッタM8000で、装填した弾種は人間に使うためのホローポイント弾だ。

    強化外骨格を相手にすることも想定して、予備の弾倉には強装弾が装填されている。

    もう一つの武器が入ったアタッシュケースを手にして、振り返ることなく家を出て行った。

     

    建物の間から見上げたスカイブルーの空には雲が浮かび、風に流されてその形を変えていく。

    風に夏の匂いを感じつつも、トラギコはそこに雨の気配を嗅ぎ分けた。

    一過性の雨によって天気が荒れる前兆だ。

    良い兆候とは言えない。

     

    トラギコにとってはいいが、アサピーにとって雨は天敵となる。

    狙撃銃とカメラはその作りが似ているが、根本的に使用目的が異なる。

    銃は火薬さえ湿らなければ雨の中でも使えるが、カメラにとっては天敵そのものだ。

    雨が降る前に決着が付けられればいいのだが。

     

    グレート・ベルの死角となる建物の影と路地裏を進みながら、病院に入る算段を立てる。

    普通に入ろうとしたのでは、その時点で狙撃されてしまう。

    チャンスは一度だけしか与えないし、それ以上は与えられる余裕がない。

    足を引きずりながら、トラギコは少しずつ人目に付かない場所を目指した。

     

    (=゚д゚)「……やりたかねぇが、やるしかねぇか」

     

    自分に言い聞かせるようにしてつぶやき、トラギコは人気のない路地の一角で立ち止まる。

    丁度良く両脇に背の高い建物が建っており、人通りが少ないことから目立ちにくい場所だ。

     

    (=゚д゚)『これが俺の天職だ』

     

    アタッシュケースに収納された棺桶の起動コードを入力し、両腕に機械の籠手を装着する。

    そして、足元のマンホールの蓋を力任せに持ち上げ、人一人が下りられるだけずらす。

    梯子を使って下水道に降り、蓋を閉めた。

    暗闇と悪臭の空間に降り立ったトラギコは、マンホールの小さな穴から漏れた外の明かりを頼りに病院を目指すことにした。

     

    下水道は完全な暗闇というわけではないため、少し経てば目が慣れるだろう。

    マンホールを開けるのに使った強化外骨格“ブリッツ”を解除し、ケースに戻す。

    壁に手をついて頭の中にある島の地図を参考にしながら、一歩ずつ進み始めた。

    脚の傷は痛みが引いてきてはいるが、完治まではまだまだ時間がかかるだろう。

     

    怪我をしてから酷使を続けてきたのだから当然の結果だ。

    そうしなければならない状況だったし、そうしなければ自分の気が済まなかった。

    座って情報を集めるのではなく、自らの足で情報を集めるのが自分の仕事だ。

    だからこそ、トラギコは後悔も反省もしていない。

     

    そのような物は全てが終わって、そして駄目だった時に別の誰かがすればいいことなのだから。

     

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                  ‥…━━ August 11th AM 07:07 ━━…‥

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    カナリア・ホテルの一室で監視係からの報告を得たライダル・ヅーは、トラギコの生存情報にほっと胸をなでおろした。

    同時に、アサピーと合流したという事も分かり、万事が上手く動いていることが確認できたのは重畳だ。

    朝食のトーストをコーヒーで胃に流し込み、ヅーも動き出すことにした。

    ショボン・パドローネ達が引き起こしたこの事件を解決する鍵は、間違いなくトラギコたちの動きにかかっている。

     

    彼らが何をするのかは分からないが、邪魔をする必要はない。

    こちらは彼らがおびき出した結果に対して手を打つだけでいい。

    いくつもの思惑が一つの獲物に対して飛び掛かれば、たちまち事故が起こる。

    陽動と追撃はトラギコに任せて、こちらはそのサポートに回る。

     

    そのために彼らの行動を逐一監視し、不利益のないように立ち回っているのだ。

    毒を制するためには毒を持って挑まなければならない。

    気を付けなければならないのは、彼らの行方と動向を把握し、常に援護が出来る状態にある事だ。

    トラギコとアサピーはアパートから別々の時間帯に異なる場所に移動したことが分かっており、トラギコの行方は再び不明となった。

     

    彼の事は心配しなくても大丈夫だろうが、アサピーの行方が気になるところだ。

    二人で一緒に行動する物だと考えていたのだが、二人は逆の行動をとった。

    互いに手負いの身でありながら、どうして危険な手を選んだのか。

    確かに、トラギコは愚直な男だが馬鹿ではない。

     

    あれほど冷静の事件を見据えて激情的に行動できる男が、単独行動のリスクを考えていないはずがない。

    勝算があるのだ。

    勝てるという見込みがあるからこそ、危険を天秤にかけても一人で動くことを選択したのだ。

    つまり、二人は事件の真実に辿り着いた、もしくはあと一歩のところまで来ているのだろう。

     

    慎重に見極めなければならない。

     

    //-゚)「レッドバロン、部隊を展開します」

     

    (【゚八゚】「了解いたしました。 どのように?」

     

    //-゚)「アサピー・ポストマンの監視係を引き揚げさせ、オアシズに通じる橋の前の検問所に回してください。

         残りはオバドラ島とバンブー島前の橋の警備へ。

         これから何かしらの大きな動きがあるはずです」

     

    まずは人員の分散によって、新たな事件発生の情報をより簡単に共有できるよう動かす。

    だがそれは表向きの理由だ。

    ヅー率いる捜査チームは警察官だけで構成されており、軍人は一人もいない。

    それというのも、あれだけの部隊を投入しておきながら何一つ事態を好転させない軍の動きがどうにも気になり、見張りをつけておきたかったのだ。

     

    クロガネ・タカラ・トミーは有能な男だと見込んでいたが、ショボンが関わった脱走に関する有益な情報は一つも手に入れていないどころか、その共有さえしない。

    強いて協力と言えばアサピーの護衛や検問所への人員配置ぐらいなもので、何一つ結果に結びついていない。

    バンブー島とオバドラ島に派遣された軍人が与えられた任務は、果たして本当に脱獄犯の捜索だけなのだろうか。

    何かを企んでいる。

     

    軍を動かし、何かを目論んでいる。

    この期に及んで軍の発言力を高めようと考えているのならば、そのような真似をさせてはならない。

    それがゆくゆくはトラギコの邪魔になるのだ。

    ならば、それを防ぐのが警察の仕事。

     

    警察は組織としてトラギコの援護に徹する。

    部下たちにはそのように言ってはいないが、これがヅーの意向だ。

    虎に委ねる他ない。

     

    //-゚)「私は別行動をします。 チームの指揮はレッドバロン、貴方に一時的に一任します。

         最優先は事件の解決と島民の安全確保、そしてジュスティアの汚名返上です」

     

    (【゚八゚】ゞ「イエス、マム」

     

    “赤の男爵”スズキ・レッドバロンは敬礼をしてから、部屋を出て行った。

    後は彼が上手く管理し、情報を収集してくれるだろう。

    別行動を取ると宣言したヅーの目的は、アサピーの監視だ。

    本当であればトラギコの監視につくつもりだったのだが、彼の行方が分からなくなってしまったため、アサピーを見張ることでトラギコの動きを理解するしかない。

     

    他の人間に任せてはおけばろくでもない結果になるのは目に見えており、何よりもヅーには責任がある。

    最も尊い血が最初に流れるという言葉が示す通り、ヅーは指揮官として前に立ち、全てを見なければならない。

    事件の影に潜む数多くの謎をこの目で確かめ、それから――

     

    //-゚)「……それから、か」

     

    それからのことなど、考えてもいなかった。

    ただ追いつめ、この手に掴み、そして正義の名のもとに断罪する。

    いつもならばそうしていただろう。

    普段ならば、これまでと変わらない自分ならば、一秒たりとも迷うことなく断言して実行していただろう。

     

    今は違う。

    自分自身と身の回りに起きた不可解な動きの意味と真実の行方を見定め、それから動くべきだと感じていた。

    この事件は根が深い。

    そうでなければ、これほどまでに翻弄されるはずがない。

     

    始まりはオアシズ。

    大勢の人間を恐怖に陥れ、海賊を船に招き入れた上に“ゲイツ”が蹂躙された。

    使用された武器の数々、そして用意した道具。

    ただのテロリストが用意するにはあまりにも高価な物ばかりだ。

     

    経緯はどうあれゲイツが壊滅状態に追いやられた事実は、十分に警戒するに値する。

    そしてセカンドロック刑務所を襲い、脱獄の補助をした。

    如何に強化外骨格を持っている人間でも、あの刑務所を突破できないはずだった。

    改造された棺桶が複数配備され、ジュスティア内でも腕っ節に自信のある人間が選ばれていた。

     

    三人。

    僅か三人に襲われ、脱獄は成された。

    技量が並外れていて用意した強化外骨格の力も桁外れだった証拠だ。

    ヘリコプターを所有している人間がわざわざどうして、ティンカーベルに逃げ込んだのか。

     

    島に逃げれば封鎖され、逃げ道を塞がれると予想できるはずだ。

    それに、バッテリーの問題が解決すれば夜闇にまぎれてヘリコプターで逃げればいいのに、それをしない。

    逆に島で誰かを追いかけ、殺そうとしている。

    これまでに遭遇した犯罪者とは価値観が大いに違う。

     

    大胆にして繊細、そして徹底していながらも柔軟な対応が出来る余裕は、組織力の大きさを物語っている。

    ショボンたちは警察を脅威とも感じていない。

    そのような相手に対して、正攻法で挑むのは得策ではない。

    相手の意識の死角から襲う以外、手立てはない。

     

    そこで気付くのが、自分の中からジュスティア警察らしい思考が欠如し始めている事だ。

    いつの間にかトラギコと同じ次元で事件に向かい合っている自分の姿に、ヅーは違和感を覚えなくなっていた。

    むしろ、事件を解決するために姿勢など気にしている方が愚かなのだとさえ思える。

    以前までは違っていた。

     

    正々堂々、正面から犯人を逮捕し、事件を解決することこそが美徳なのだと信じていた。

    物心ついた時からそう教えられ、育てられ、尽くしてきたのだ。

    正義を疑ったことはなかった。

    何故なら正しい物は常に正しくあり続け、それに近づく事は己が誰よりも正しい存在になる事と同義だったからだ。

     

    それが、この数日で一変してしまっている。

    正しく振る舞ったところで相手にはまるで相手にされないどころか、逆に手玉に取られる始末。

    あと一歩で殺されかけた時、正義は彼女を救わなかった。

    救ったのは、正体不明の誰かだった。

     

    あまりにも多くの謎がひしめく事件の中で見つけたのは、本来あるべき姿勢なのかもしれない。

    その果てにいたのは、トラギコだった。

    彼のやり方は乱暴極まりないが、それでも、“誰かの正義”のために全力で力を注いでいる。

    その成果として圧倒的な検挙率と事件の解決率であり、警察上層部の誰よりも現場で貢献している男として一部の人間から多大な支持を得ているのだ。

     

    今ならば分かる。

    真実に対して面と向かって喧嘩を売り、あらゆる手段で真実を日の下に引き摺り出す事こそが、警官としてあるべき姿なのだ。

    姿勢はさておいて、手段にまで正々堂々を用いるのは自己満足でしかない。

    自己満足が結果に結びつくのならばいいが、まず結びつくことはない。

     

    市長には悪いが、円卓十二騎士を動員したところで意味はないだろう。

    所詮は看板としての役割しか果たさない。

    残り時間までの間に事件を解決する手助けにはならなそうだ。

    何より、彼らの指揮権を握っているのは他ならぬタカラなのだから、ヅーの捜査には最初から役立ちはしない。

     

    部下が全員ホテルから移動したのを確認し、ヅーはカップの底に残ったコーヒーを啜った。

    最後に固まっていた砂糖が一気に口の中に流れ込んできたのを舌で受け止め、唇に付いた砂糖を舐めとった。

    意識は固めた。

    次はアサピーを追うために動き出す時だ。

     

    彼の動きと目的を考え、道具を揃えてから出発したいところであるが、それが分かれば苦労はしない。

    今はアサピーの近くで彼の動きを監視するのが最も効果が得られそうだ。

    フレームレスの眼鏡を外して、机の上に置く。

    もう、眼鏡は必要ない。

     

    元々視力は悪い方ではなく、眼鏡がなくとも生活に支障はない。

    射撃にも影響を及ぼさない程度の視力補正のために眼鏡をかけていたのではなく、全ては体面上の問題だった。

    女が警察上層部にいると、どうしても部下の男達からは軽く見られてしまう。

    ツー・カレンスキーほどの人間であればそうもならないのだろうが、秘書であるヅーは立場的にも軽んじられやすかった。

     

    全ては自分の努力で得た地位だというのに、それを認める男は少なかった。

    対等に話しているようでも下に見られていると感じ、自分自身を少しでも賢く見せるために眼鏡をかけることにした。

    効果は僅かだが得られた。

    だが、デミタス・エドワードグリーンとの戦闘で顔に負った傷が全てを無駄にした。

     

    男が顔に傷を負えばそれは勲章となるが、女の場合は逆。

    非力の表れとして周囲に認識されてしまう。

    払拭するためには仇を討ち、汚名を返上する他ない。

    これまで己の努力を形にしてきたように、これからもそうする。

     

    例えそれが険しい道であろうと、一向に構わない。

     

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      ト、   l!j  レ'   l!r--――――――-: : ::

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                  ‥…━━ August 11th AM08:19 ━━…‥

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    スポーツキャップを目深に被り、半袖のパーカーとダボ付いたカーゴパンツでどこにでもいる若者のような格好をしたアサピーは、目立たないよう街中を移動していた。

    このまま病院まで徒歩で移動し、どうにかして屋上に到着しなければならない。

    最も現実的で安全な手段として浮かんだのは救急車を呼び、怪我人として病院に直行することだ。

    しかし手術室から帰ってくるという保証もなく、ましてやエラルテ記念病院に運び込まれるとは限らない。

     

    運び込まれるためには重傷を負う必要があり、ただでさえ怪我をしている体に自ら傷をつける気にはなれなかった。

    別の手があるはずだった。

    取材を申し込み、屋上に誘導する計画があるのだが、誰に取材を申し込むか、それが問題となっている。

    普通、病院に対して取材を申し込むには会社から直接電話なり手紙で依頼が行き、それから返事がもらえる。

     

    個人が大きな施設、もしくは組織に対して取材を申し込んだところで受け入れられる可能性は限りなく引くい。

    だから自分を売り出すカメラマン、もしくはフリーのジャーナリストは個人に取材を申し込むのである。

    当然そうなると取材相手の名前や素性を知っているのが前提だが、アサピーはエラルテ記念病院で働く人間の名前は一人しか知らなかった。

    それも故人の名前であり、この状態を打破するには少し不安がある。

     

    カール・クリンプトンという医師がどのような人物だったのか、アサピーは人伝いにしか聞いていない。

    ごく一部の情報では彼の知り合いを名乗るには不十分だ。

    事前の情報収集がいかに大切なのかは知っていたが、この島は他者に対して非常に閉鎖的な風習がある。

    トラギコから聞いたカールの話は彼の人柄の話で、出生につながる物は何もない。

     

    つまり、何も知らないに等しい。

    その情報を使い、どれだけ膨らませられるかがアサピーに求められている。

    情報の誇張は新聞記者の得意分野だ。

    後は、それを効果的に使える対象の存在が必要だ。

     

    彼の友人でも見つけるしかない。

    しかし働いている医師、看護師の数は三桁にも及ぶ。

    その中からカールと親しかった人間を探し出すのは、僅か数時間では不可能だ。

    加えてそれを困難にするのが警備体制に関する情報がないことである。

     

    ジュスティア軍、警察がどれだけの規模で病院に待機しているのか。

    出入り口に検問はあるのか、それともないのか。

    部外者は完全に立ち入りが禁じられているのか否かなど、情報の欠如はアサピーの思考力を蝕んだ。

    病んだ思考は無限の可能性を導き出し、そして独りでに躓く。

     

    街の隅から隅を移動し、病院に少しずつ接近する。

    不思議と街中に警官は見当たらない。

    あれだけの事、そして昨日のヅーの事件解決のリミット宣言から考えると不自然だ。

    どこかに集中させているようだ。

     

    警察も何かの情報を掴んで動いていると考えたい。

    変化は何かの兆しでもある。

    悪い傾向ではない。

    願うのはそれがアサピーにとって不利にならない事ばかりだ。

     

    ようやく病院の姿を目の端に捉えたアサピーは、グレート・ベルの射線上に体が出ないように裏口に通じる道に回り込んだ。

    予想に反して病院に近づいても警官の姿を見ることはなく、道が封鎖されている雰囲気もない。

    人の通りにも滞りや不自然な物はなく、自然な形で時間が流れている。

    裏口の門を押し開き、院内へと足を踏み入れた。

     

    ここから先、決して鐘楼の視界の中に入ってはいけない。

    入ればそれは狙撃手に目に留まり、警戒心を与えてしまいかねない。

    そうすれば撮影する前に銃弾がレンズと本体、そしてフィルムとアサピーの眼底を粉砕するだろう。

    リスクは極力減らさなければならない。

     

    植え込みの傍を通り、焼け焦げた隔離病棟の裏を歩く。

    特に激しく燃えた壁は炭のように黒焦げになり、地面も同様に焼けていた。

    病棟の裏側を伝いながら本棟の非常口に向かう。

    途中、朝の散歩を楽しむ患者とすれ違いざまに軽く挨拶をかわしつつ、情報収集を行う。

     

    三人目の患者と挨拶を交わした時、それが思わぬ幸運をもたらした。

     

    -@@)「どうもおじいさん」

     

    (ΞιΞ)「あぁ、おはよう」

     

    ベンチに腰掛けた老人は少し寝ぼけた様子でアサピーを見上げ、ごく自然に挨拶を返した。

     

    -@@)「お医者さんたちがどこにいるかご存じで?」

     

    (ΞιΞ)「そりゃあ病院だから病院の中に決まっているさね」

     

    はっきりとした返答は老人がまだ健康である証だったが、彼の足が片方失われているのを見れば、入院している理由は明白だった。

    歩行が困難になった人間は徐々に意識に異常をきたし、やがては健康そのものに影響を及ぼす。

    老人が何者であれ、こうして入院しているのは賢明な判断だと言える。

     

    -@@)「ありがとうございます。 ところで、カール・クリンプトンというお医者さんをご存知ですか?」

     

    (ΞιΞ)「あぁ、彼はいい医者だったよ…… 例の火事で死んじまったけどなぁ」

     

    -@@)「患者を最後まで見捨てない立派な人だったのに、残念です」

     

    (ΞιΞ)「全くだよ。 あんた、カール先生の知り合いかい?」

     

    -@@)「そんなところです。 もしよければ、彼のお話を訊かせてもらってもよろしいですか?」

     

    (ΞιΞ)「彼は余所の人間なのに、とてもいい人だった。

          ……仲の良かったカンイチ先生も結構落ち込んでいてね」

     

    カンイチ、という名前が出てきた。

    掴み所が手に入った。

    少しの手がかりでいい。

    この手がかりは非常に大きい。

     

    -@@)「カンイチ先生?」

     

    (ΞιΞ)「確か、えーっと…… カンイチ・ショコラ先生だ。

          友達が少なそうな先生なんだが、カール先生とはとても仲が良くていつも一緒にいて話をしていたよ」

     

    -@@)「……今日、カンイチ先生はいらっしゃいますかね?」

     

    フルネームを手に入れることが出来た。

    後はカンイチという医師が今日院内にいれば取材の名目で会うことできる。

     

    (ΞιΞ)「あぁ、いるはずだよ。 あの人たちは休みがないからね。

          人の健康気遣うのもいいけど、自分のも気遣ってほしいよ」

     

    -@@)「なるほどですね。 では、私はこれで」

     

    軽い会釈をしてその場を立ち去り、アサピーは院内に入り込んだ。

    受付の横から入る形となったアサピーは帽子を深くかぶり直し、目の下に薄い隈を作った受付の看護師に話しかけた。

     

    -@@)「すみません、いいですか?」

     

    ノリパ .゚)「はい、何でしょうか?」

     

    女性看護師は疲れを顔に出してはいたが声色には出さなかった。

     

    -@@)「カンイチ・ショコラ先生は今いらっしゃいますか?」

     

    ノリパ .゚)「ご用件は?」

     

    そう来ることは分かっていた。

    事前にアポイントもない来客は、必ず用件を伝えなければならない。

     

    -@@)「以前大変お世話になった者で、少しお話をしたくて……」

     

    ノリパ .゚)「お名前をお伺いしても?」

     

    -@@)「アーノルド・ジョッシュです」

     

    ノリパ .゚)「ではこちらに記名を」

     

    簡単な記名帳にサインをして、待合場所のソファに腰かけてカンイチの到着を待つ。

    下手に動けば怪しまれるため、逆に堂々とすることが不審がられない秘訣と教えてくれたのは、トラギコだった。

    刑事がそういうのならば間違いないと従ったが、その通りだった。

    逆に気分が落ち着き、自分が何でもできるような気がするほどだ。

     

    だがしかし、それが過信となって自分を窮地に追い込むこともまた、トラギコが教えてくれた。

    図に乗らず、普段通りに過ごす。

    名乗った通り、説明した役柄に成りきるのだ。

     

    ( ''づ)「お待たせしました、アーノルドさん?」

     

    白衣を着た男がアサピーの偽名を口にする。

    ソファから立ち上がり、握手を求めて手を伸ばす。

    カンイチは一瞬ためらったが、すぐにその手を取ってくれた。

     

    -@@)「カンイチ先生、お世話になりました。

          ……カール・クリンプトン先生のことについて、お話があります」

     

    小声でそう囁くと、カンイチは握った手に力を込めてきた。

    情報で得た通り、彼はカールを知っているのだ。

     

    ( ''づ)「貴方は、僕の患者ではなかったのですか?」

     

    -@@)「すみません、こうでもしないとお話が出来ないと思ったので。

          できれば人気のない場所で」

     

    少し考えるそぶりを見せ、カンイチは笑顔を浮かべた。

     

    ( ''づ)「お断りすると言ったら?」

     

    -@@)「彼の死の真相について、と言ったら?」

     

    深い。

    深いため息が、カンイチの口から洩れた。

    同時に手に込められた力が抜けていく。

     

    ( ''づ)「……分かりました、少しだけですよ」

     

    -@@)「屋上あたりの方がいいかと」

     

    誘導に成功した。

    これで問題の一つは解決だ。

    カンイチが先導して屋上へと向かう。

    十五階までエレベーターで移動し、屋上へと続く階段にカンイチが進もうとする。

     

    -@@)「あ、コーヒーを買っても?」

     

    ( ''づ)「そうですね、では僕も」

     

    飲み物は話を長引かせるいい道具だ。

    自動販売機に銅貨を入れ、大きめの缶コーヒーを二本購入した。

    一本をカンイチに手渡す。

     

    -@@)「勿論、おごりますよ」

     

    ( ''づ)「これはどうも」

     

    金額の大小にかかわらず、金銭が絡むと多少は人間関係が円滑になる。

    これも取材の技の一つだ。

    コーヒーを片手に、二人は屋上へと出た。

    広い屋上にはベンチや灰皿が置かれて、屋上全体の空きスペースを利用してシーツが干されていた。

     

    姿を隠すにはちょうどいいが、こちらも相手の姿が見づらい。

    グレート・ベルを背に出来るベンチに腰掛け、さっそく話を始める。

     

    ( ''づ)「それで、カールについて教えてくれるんだろ?」

     

    -@@)「はい。 彼が撃たれたのはご存知で?」

     

    ( ''づ)「当たり前だろ。 僕が検死をしたんだ」

     

    その声には明らかな怒りが聞いて取れた。

    カールと彼が親密な関係にあった証である。

     

    -@@)「彼を殺した犯人を知りたいとは思いませんか?」

     

    ( ''づ)「……知ってるのか?」

     

    -@@)「それを暴くために協力をしてもらいたいんです。

          カンイチさん、カールさんが最期に助けた人物は刑事です。

          そして、私はその人物と協力関係にあります。 パズルを組み立てるには、貴方の協力が必要です」

     

    ( ''づ)「つまり、何も分かっていないのか」

     

    -@@)「いいえ、場所が分かっているんです。

          いいですか、犯人の場所は分かっているんですよ、カンイチさん。

          後はその犯人の決定的瞬間を撮影すれば、それは揺るがぬ証拠としてこの世界に残ります。

          それがあれば、カールさんを殺した犯人を牢屋にぶち込めるんです」

     

    ( ''づ)「君は記者かな? だとしたら覚えておくんだ、僕はスクープに興味はない。

         犯人が牢屋に入ろうが終身刑を食らおうが知った事じゃない。

         知りたいのは、真実なんだよ。 何故カールは殺されたのか、どうして死ななければならなかったのか、それだけだ」

     

    カンイチは自らの欲している物を口にした。

    これもまた、一つの取材の技術だった。

    相手の欲するものを聞き出し、後はそれを与えてやれば潤滑剤を塗った歯車のように口が動き出してくれる。

    かつてのアサピーと同様、カンイチが欲しているのは真実だった。

     

    -@@)「彼は、誤って撃たれたのです。 助けようとした患者と間違えて撃たれたんです」

     

    トラギコから事前に訊いていた情報は数少ないが、これは必ず役に立つと聞いていた情報だった。

    あくまでもトラギコの推理によるものだったが、アサピーもこの推理には同意した。

     

    ( ''づ)「勘違いで殺されたのか、カールは?」

     

    -@@)「言い方は悪いですが、その通りです」

     

    憤りがカンイチの顔に現れ、そして消えた。

     

    ( ''づ)「……彼は、いい奴だったんだよ。

         他所から来て、普通なら三か月で辞めるところを三年も続けてたんだ。

         君も知っているだろうけど、この島は余所者を受け入れることはまずない。

         それでも彼は諦めずに、受け入れられようと頑張ってたんだ……」

     

    -@@)「どうか、力を貸してください。

          僕が欲しいのはスクープではありません、貴方と同じ、真実です」

     

    ( ''づ)「だが僕に出来る事は少ないぞ?」

     

    -@@)「いえ、とても大切なことがあります。

          僕が真実をカメラに収めるのを手伝ってほしいのです」

     

    ようやく本題に入ることが出来る。

    目的が分かれば、後はそれに応じた成果の提供である。

    真実を欲している人間が最も欲するのは、真実以外に何もない。

    自分が加わり、安全な場所から見届けることの出来る真実こそが、最も喜ばれる。

     

    ( ''づ)「具体的には?」

     

    -@@)「この屋上に人が来るのを止められますか?」

     

    ( ''づ)「やろうと思えばね。 でもまたどうして?」

     

    -@@)「ここから犯人を撮影します」

     

    カンイチは信じられない物を見るような目つきをアサピーに向け、無言で説明を求めた。

    アサピーは自分が背負っているバッグを指さし、そして望み通りの説明を始めた。

     

    -@@)「犯人はグレート・ベルに潜んでいます。 僕はその犯人を撮影したいんです。

          そのためには他の人間がいない方が、あらゆる面で都合がいい」

     

    ( ''づ)「僕は別に特別な権限を持っているわけじゃないから、せいぜい立ち入り禁止の看板を置くぐらいしか出来ないが、それでもいいかい?」

     

    -@@)「えぇ、十分です。 ありがとうございます、ドクター」

     

    ( ''づ)「看板を持ってきた後、少しでいいから僕の話に付き合ってもらってもいいかな?」

     

    -@@)「勿論ですよ、ドクター」

     

    ( ''づ)「ありがとう…… 彼の事を話す相手が他にいなくてね」

     

    ――斯くして、アサピーは予定通りに配置につくことに成功した。

    後は時間が来るまでの間、こうしてカンイチの話に付き合い、静かに待つだけである。

     

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                    ‥…━━ August 11th AM09:36 ━━…‥

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    下水道を歩くのは初めてではない。

    地上にいる誰かに見つけられる心配がないことから、犯人の隠れ家に接近する時などによく用いた手段だ。

    悪臭を我慢すること、足元に気を付ける事、道を間違えずに進むこと。

    それら全ては経験済みであり、体にしっかりと染み付いている。

     

    足を引きずる音だけが静かで不快な空間に響く。

    呼吸を鼻でせず、口でするのが悪臭に耐えるコツだった。

    下手に匂いを嗅ごうものなら嘔吐勘に見舞われ、捜査どころではなくなってしまう。

    若い頃、一度味わった経験があるが、丸一日何を食べても悪臭しかしなかった。

     

    また、その経験から分かっているのは多くの下水道には人が歩けるように段差が設置され、管理用の備品が置かれた部屋と管理業者が出入りするための小屋に通じる梯子がある。

    そして大抵の場合、そのような部屋や梯子、階段の近くには足元を照らすための非常灯が備わっているのだ。

    全くの暗闇でもないため、トラギコの目は街灯のない路地裏のように下水道を見ることが出来ていた。

    記憶した下水道と街の地図を頼りにエラルテ記念病院を目指す中で、トラギコは自分に起きている変化について考えていた。

     

    アサピーが察した通り、トラギコは自分が以前までとは少し違っていることを自覚していた。

    それは考え方、価値観の変化ではなく、人間性の変化なのだという事も理解していた。

    一つの出会いが人間をここまで変えることは知っていたが、それが自分の身に起きるとは思ってもいなかった。

    崖から車ごと落ち、意識を失ってから起きた一連の出来事は、確実にトラギコの中にあった不要な棘を取り払っていた。

     

    自分でも知らず知らずの内に成長していた棘の消失は、トラギコに新しい視野を与えてくれるきっかけとなった。

    それが事件の静観という考えを生み出すに至り、そして負傷した体で下水道を進む理由にまで成長した。

    恐ろしいことだ。

    出会い如きに影響を受け、そして言動にまで現れてしまうとは。

     

    これから先、自分が行う事は命を賭けた博打だ。

    アサピーが先か、狙撃手が先か。

    トラギコの命を使い、狙撃手の正体を知るための大掛かりな賭場は、そもそも狙撃手が今もまだ鐘楼にいることとアサピーがしくじらないことが前提になっている。

    その前提が覆る可能性は十分すぎるほどあり、場合によってはトラギコの賭けは成立しないことも有り得るのである。

     

    特に賭けの要素が大きいのがアサピーだ。

    彼のカメラの腕は完全には分からないし、無事に病院の屋上に到着できるかどうかも怪しい。

    何せ、彼はショボンたちに命を狙われている身であり、その理由さえも分かっていないため、何も解決していないのだ。

    それでも、トラギコはアサピーを信頼していた。

     

    あの男は真実と向き合うだけの心を持っている。

    今はまだそれが未成熟なだけで、これから十分成長できる要素を秘めている。

    トラギコの知るどの新聞記者よりも使える男だ。

    真実に対して貪欲であれば、真実が一面ではなく多面で構成されている物だと分かるはずだ。

     

    それが分かれば、これから先、トラギコにとっていいパートナーに成長してくれるだろう。

     

    (=゚д゚)「……ここだな」

     

    やがて、トラギコは一つの梯子の前で立ち止まった。

    地図が正しければ、この上にあるのはエラルテ記念病院の裏にあるマンホールに通じている。

    マンホールから出た後はトイレあたりに身を隠し、時間まで安全に過ごす。

    贅沢を言えば今すぐにでもシャワーを浴びて匂いをどうにかしたいが、そのような幸運に恵まれることはないだろう。

     

    病院から逃げ出し、警察にまで追われているトラギコを匿ってくれる人間など、少なくとも入院患者の中には一人もいない。

    せいぜい誰かに見つからないよう、気を付けるしかない。

    再びブリッツを両腕に装着し、梯子を上ってマンホールをゆっくりとずらす。

    地上の光の眩しさに目を細めながら近くに誰もいないことを確認し、アタッシュケース型のコンテナを先に出してから自分自身も這い出た。

     

    静かにマンホールの蓋を元の位置に戻し、アタッシュケースを拾い上げる。

    背の高い植え込みの傍に出たこと、そして病院の裏手に出たことを確かめ、ゆっくりと立ち上がった。

    後は病院内に入り込み、時間まで待機すれば――

     

    //-゚)「……おや、これは予想外ですね」

     

    ――今まさに病院の影から現れたヅーさえいなければ、万事問題はなかった。

    理由は知らないが顔の半分に包帯を巻き、体のどこかを庇うようにして立っている。

    痛々しい姿だが、その鶯色の瞳が放つ眼光の鋭さは夏だというのに氷を思わせるほど冷やかである。

    生かして遊ばされていた上に行方をくらませたことに文句があるのは間違いないが、今はその小言に付き合うつもりはなかった。

     

    (=゚д゚)「お互いに病院嫌いみたいラギね」

     

    普通の秘書であれば、進んで争いごとの場に残ろうとは思わない。

    まして、大怪我を負わされたのであればその場から離れ、安全な場所で指揮を執るのが通常だ。

    タフな性格は見かけ倒しではないという事が分かり、彼女に対して抱いていたイメージが少し変わった。

     

    //-゚)「貴方ほどではありませんが、入院などしている場合ではありませんから。

         ここにいるという事は、何か情報を掴んだのですか?」

     

    教えていいものか迷うが、この際、ヅーを利用するのも一つの手だ。

    警察たちに邪魔立てされれば、非常に繊細なこの計画が破たんしてしまう。

    この場でヅーに対して嘘を吐いてもメリットは皆無だ。

    ならばいっそ、説明をして邪魔をしないよう頼んだ方がいくらかは生産的である。

     

    ヅーは頭が固いが、話が分からない人間ではないはずだ。

    少なくとも、ショボンの組織について疑い始めているのならば尚更である。

     

    (=゚д゚)「まぁそんなところラギ」

     

    //-゚)「訊いても?」

     

    (=゚д゚)「その前に質問があるラギ。 俺の脚を撃った糞馬鹿野郎の所在は?」

     

    //-゚)「……軍とは現在別行動中です。 彼の動きについては、クロガネ・タカラ・トミーが知っています」

     

    (=゚д゚)「共同捜査じゃなかったのか?」

     

    //-゚)「彼らにその気があればそうなったでしょうが」

         ..

    つまり、また仲たがいをしているという事だ。

    表面上はジュスティアが掲げる正義のために共同歩調をとっているように見えるが、その裏では、昔から根付いている考え方のためにしばしば衝突が起こっていた。

    どうしても軍と警察は男が主体の職場となり、必然的に上官もしくは上司は男であることが多くなる。

    そのため、警察の最高責任者が女であることが両者の間のみならず組織内部にも大きな不満を生んでいた。

     

    女が上司であることに苛立つ警官は勿論、指図を受けるだけで激昂する警官もいた。

    ジュスティアには昔から、男は正義のために外で働き、女は家庭の正義を守るという風習がある。

    現在の市長、フォックス・ジャラン・スリウァヤはその習わしを“古き悪習”と断じ、女性も積極的に軍務や警務に参加するよう促した。

    それが大きな変化の始まりでもあった。

     

    そして、対立の始まりでもあった。

    特に軍の持つ不満は非常に大きく、共同捜査や共同作戦になるとその不満を行動に表すようになった。

    結果、簡単に終わるはずの任務が難航したり失敗したりしたことが多々ある。

     

    (=゚д゚)「察したラギ。 じゃあ、初日に俺を撃ったのは間違いなくカラマロス・ロングディスタンスなんだな?」

     

    //-゚)「前にも答えましたが、その通りです。 オアシズで貴方が得た情報を手に入れるためには、多少手荒なことをしない限り無理ですからね。

          トラギコさん、貴方は何を知っているのですか?

          この事件といいオアシズの事件といい、腑に落ちないことだらけです」

     

    どうしてもオアシズの情報が欲しかったのは、以前にもホテルで聞いた。

    それを話すのは機会が来てからと考えていたが、どうやら、それは今のようだ。

    今ならば、ヅーを最も好ましい形で巻き込むことが出来そうだ。

    彼女は真実を欲し、そのためならばジュスティア人らしからぬ決断をしてくれるに違いない。

     

    話を円滑に進めるためにも、人が来ない場所に移った方がいい。

     

    (=゚д゚)「……場所を変えるラギ。

        病院内で安全な場所は?」

     

    //-゚)「なら、隔離病棟の医院長室です。

          誰も入り込むことはありません」

     

    話に乗ってきた。

    以前までのヅーであれば絶対に拒否するか、テーザーガンで抵抗力を奪ってからトラギコを連行したはずである。

    それがないのは、トラギコの読み通りだという事だろう。

     

    (=゚д゚)「グレート・ベルの死角になるよう移動してほしいラギ」

     

    //-゚)「? 分かりました」

     

    ヅーに先導され、トラギコは黒焦げになった隔離病棟へと安全に入ることが出来た。

    焼け焦げた匂いがまだ残る院内を歩き、黒い強化外骨格に襲われた院長室に到着した。

    燃えカスとなった机の前に立ち、ヅーは腕を組んでトラギコに向き直る。

     

    //-゚)「で、お話を」

     

    準備は整った。

    言葉を慎重に選ぶ必要はない。

    簡潔かつ直接的な物でいい。

     

    (=゚д゚)「これから俺とアサピー・ポストマンで事件に関わっている人間の一人を写真に収めるラギ。

       いいか、よく聞けよ。 事件を直接解決するのは無理ラギ。

       俺たちじゃあまりにも話がでかすぎる」

     

    直接解決が無理、という言葉を聞いたヅーは僅かに眉を顰める。

     

    //-゚)「話がでかい、の意味は?」

     

    (=゚д゚)「手に余るんだよ、今の状態だと。

        相手はただの犯罪組織じゃねぇ、それは断言できる。

        オアシズの事件と今回の事件は全て関連付いている上に、相手は逃げるついでにこの事件を起こしたラギ。

        分かるか? 通りがてら死刑囚を脱獄させて気まぐれに襲って、ジュスティアがこの有様ラギ。

     

        それぐらいの余裕があるってことは、それ相応の組織が相手だってことラギ。

        今の状態じゃあそれを崩せねぇ。 だがせめて、その大きさを知っておきたいんだ。

        ……この際だから言うが俺に手を貸せ、ヅー」

     

    トラギコの言葉にヅーは、憐れむような目ではなく、話の本質を真剣に理解しようとする眼差しを向けていた。

     

    (=゚д゚)「お前も気付いているだろ?

        ショボンの組織の大きさ、得体の知れなさを」

     

    //-゚)「……えぇ、手がかりすらありません。

         何か掴んだのですか?」

     

    ここでトラギコは、とっておきの情報をヅーに与えることにした。

    自分が想像していたよりも遥かに大きな組織の断片。

     

    (=゚д゚)「考古学者のイーディン・S・ジョーンズ、そしてジョルジュ・マグナーニがいたラギ」

     

    世界的な権威であるジョーンズが組織の一員であることは、紛れもない事実だ。

    ショボンと相対したシュール・ディンケラッカーの棺桶を発掘、復元してそれを提供したことは、彼の証言から分かっている。

     

    //-゚)「まさか……ジョーンズ博士がショボンの組織にいるとは考えにくいです。

         理由がまるで――」

     

    (=゚д゚)「理由はいいんだよ、納得がいけば。

        棺桶研究の権威がいれば俺たちの知らない棺桶を使っているのもそうだし、それを運用できているのにも納得がいく。

        でなきゃ、セカンドロックは破られなかったラギ。

        今のところお前に話すのはここまでラギ。

     

        ここから先の情報は、お前が協力するかどうか次第ラギ」

     

    決断の速さは美徳の一つであり、判断の遅さは悪癖の一つである。

    その点、ヅーの決断と判断力は一流だった。

     

    //-゚)「分かりました、協力します」

     

    判断の裏でヅーが嘘を吐いて情報だけを手に入れようとしているのだとは、とてもではないが考えられない。

    短い付き合いだが、彼女はそんなことで嘘を吐くような人間ではない。

    彼女もまたジュスティア人であり、警察官なのだ。

    大きな真実に対してはその欲求を押さえることは出来ず、小細工を弄する間もなく必ず食らいつく。

     

    勿論、それだけではここまで話はしない。

    彼女の実直さ、そして愚かなまでの真面目さを理解し、評価しているからこそ。

    今の状態は紛れもなく、彼女の人生にとっての分岐点。

    事件の本質を体験した直後は、それまでの価値観が大きく揺らぐ瞬間だからだ。

     

    それは即ち、人間の中にある最も純粋な部分が曝け出される貴重な一瞬という事。

     

    (=゚д゚)「……助かる」

     

    本心から礼を言う。

    それからトラギコは、これからの計画について話を始めた。

     

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    カンイチ・ショコラとの話は、アサピーの決意をより一層強固なものにするのに十分すぎる材料となった。

    彼とカール・クリンプトンの間にあった奇妙な友情と、そのすれ違い。

    もう少し時間があり、そのきっかけさえあれば二人は親友になれただろう。

     

    ( ''づ)「……すまないね、大分時間を使わせてしまったようだ」

     

    もしもアサピーに時間と機会があれば、この事を記事にして世界中に発信したいぐらいだ。

    だが、その力も時間も機会も、今はない。

    アサピーは新聞社の一員として働いているというよりも、今はトラギコと共に一つの真実を見るために動いている。

    カンイチには大変申し訳ないが、時間をかけて話してもらったカールの物語を後世に残すには、今しばらく時間がかかってしまう。

     

    -@@)「いえ、大変貴重なお話をありがとうございました。

          では、そろそろ準備に取り掛かります」

     

    ( ''づ)「詳しくは知らないが、カールの死が無駄にならないようお願いするよ」

     

    -@@)「勿論です。 忙しい中ありがとうございました、ドクター・カンイチ」

     

    カンイチはゆっくりとベンチから立ち上がり、何も言い残すことなくその場を去った。

    一人残されたアサピーの耳に届くのはシーツのはためく音と、潮風の音。

    そして、自らの心臓の音だけだ。

    覚悟を決めたつもりだった。

     

    それでは足りない。

    覚悟とは行動が伴わなければ意味をなさない。

    動くのだ。

    人生で初めて命を賭けた撮影のために、持ち得る全てを使う時が、今なのだ。

     

    閉じられた扉の向こうを見て、アサピーもベンチから腰を上げた。

    少し屈んでから巨大なレンズが付いたカメラをバックから取り出し、構える。

    鐘楼とは反対側の街並みに対してレンズを向け、精度と自らの手振れの程度を把握する。

    距離感覚を掴みつつ、力の入れ具合を体に覚え込ませる。

     

    フォーカスリングの固さを確かめ、体に染みついている距離感覚を頼りに焦点を合わせる練習を行う。

    オートフォーカス機能のついていないカメラを使用している理由は、対象が移動した際にフォーカスを手動で合わせた方が早い場合があるからだ。

    勿論、機械に任せた方が早い場合が多い。

    しかし、遠距離ともなれば手動で予め合わせておいて微調整をした方が確実な場合がある。

     

    特に今回は相手の位置が決まっているため、撮影の度に距離を測定するシステムは必要なくなる。

    フォーカスを固定する方法もあるが、万が一の際にはやはり手動の方が速度的には勝る。

    試しに一枚撮影し、その手応えを記憶する。

    焦点が合っているか否かは、感覚的に指先と目が覚えてくれている。

     

    十枚ほど試しにシャッターを切り、指先に感覚を覚え込ませる。

    自己評価としては、申し分はない。

    そして望遠性能については予想以上に鮮明に映り、グレート・ベルに最も近い距離の建築物に掲げられた看板の文字がはっきりと読み取れた。

    この性能ならば、人間の表情や輪郭も申し分ない程度に撮影出来る事だろう。

     

    風の強さが一層増し、頭上を通り過ぎる雲に灰色のそれが混ざりはじめた。

    天候が悪化するのは明らかだ。

    また、この雲の色と肌に感じるひんやりとした感覚は激しい通り雨を予感させる。

    悠長なことはしていられない。

     

    練習を終え、本番に備えてベンチの影からグレート・ベルに向き直る。

    そこで問題が発生した。

    シーツの数と位置、そしてグレート・ベルとの高低差が構図に大きな影響を与えていた。

    レンズ内に鐘の上部しか映らず、その下にいるはずの狙撃手が入り込まない事が分かった。

     

    今よりもわずかに高い場所に上がることが出来れば、とアサピーは焦った。

    そこまで深刻にならなかったのは、こうなることは予想の範疇にあったからだ。

    こうなった以上、使える手は一手しかない。

    脚立以上に目立たず、そして高さを確保できる手段。

     

    それは、屋上に通じる唯一の階段室だ。

    十分な高さを持つコンクリート製の階段室の高さを利用すれば、間違いなく今目の前にある問題は解決できる。

    それだけでいい。

    目の前の問題が全てなのだから。

     

    シーツを一枚掴み、それを頭から被って顎の下で結んだ。

    改めてカメラを構え、鐘楼との焦点を合わせておく。

    腕時計を見て、後一分弱で正午になる事を確認する。

    続いてカメラを腰に回し、痛む体に鞭打って階段室によじ登る。

     

    芋虫じみた動きで登りきると、アサピーはしばらくその場に静止し、安全を確かめた。

    伏せた状態では高所にいる被写体を撮影できない。

    そこで膝を立て、左腕でレンズの下部を抱くようにして固定して右手を添えた。

    呼吸に合わせてカメラが僅かに動く程度で、手振れは殆ど感じられない。

     

    グレート・ベルに向けたレンズを覗いて、今の態勢で生じる手振れの大きさを確認した。

    殆ど動いていないのにもかかわらず、中心点は大きく動いている。

    呼吸を止めてみると、少しだがそれが和らいだ。

    全身でカメラを固定させるようにして、ようやく手振れはなくなった。

     

    次にアサピーはフォーカスリングを動かし、金色の鐘に合わせた焦点を微調整し始めた。

    距離的に考えれば、狙撃手はあの鐘とほぼ同じ位置にいるはず。

    焦ってはいけない。

    今のアサピーは、布と一体となり、地面と一体となり、環境の一つとして溶け込まなければならないのだ。

     

    レンズの向こうには、読み通りに鐘が正面から浮かんでいた。

    他に見えるのは、木製の箱とその上に積まれたぼろ布だけだ。

    人影などありはしない。

    また、銃のシルエットもありはしない。

     

    狙撃手は一度使用した狙撃ポイントを二度使うことはない。

    だがアサピーとトラギコは、狙撃手が移動していないと確信していた。

    相手は己の技量に過信したからこそ、何度も同じ手段を使っている。

    こちらが気付いたと悟られない限り、その場所を変えることはないだろう。

     

    ズームリングを最大まで回し、揺れる像の中から狙撃手らしきものを探す。

    ちらりと見やった腕時計の秒針が、残り時間一分を切った事を告げる。

    分かっていても焦りが指先に伝わってしまう。

    深呼吸をして、精神を統一する。

     

    全ては、この糞を極めた混迷の状況――tinker――を打破するために。

     

    僅かな動きは、監視者が注意を底に向けるのに十分すぎる要因となる。

    アサピーは相手の性格上、鐘が鳴る時間の前に動いて標的を探し、鐘の音と同時に狙撃するのだと推測していた。

    あと少しすれば、相手は動くはずだ。

    狙撃手とカメラマン、忍耐の強さとそれが生み出す優位性はカメラマンの方が上である。

     

    そして。

    遂に。

    レンズの向こうに。

    鐘楼に潜む狙撃手を、捉えた。

     

    ;-@@)「見つけたっ……!!」

     

    同時に黒雲が太陽を隠し、ティンカーベル全体が薄暗く陰った。

    それでも、影の中に潜む陰を見失いはしない。

    手に汗が滲む。

    冷や汗が額に浮かぶ。

     

    ――いよいよ、真っ向勝負が始まる。

     

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    AmmoRe!!のようです Ammo for Tinker!!

     

                                           i

                                           |

                                           ∧

                                          ノ..λ

                                          /…λ

                                             ====、、

                                          |.|IIII|.|

                                          /∴∴ヾ、

                                             l,i,i,i,i,i,i,i,i,i,iili;,

                                        _|I I I I I I_|;}

                                                | |γ⌒ヽ| |ll|

                                                | |,.!,__,.| |ll|

                                                i''i;;:::;;:::;;:::;i'il|'

                                        =========

                                            | |'i'i'i'i'i'i'i'| |ll|

     

                       第十章【Ammo for Tinker!!

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    それはぼろ布などではなかった。

    高度に計算されて色付けされた迷彩であり、自らの姿とライフルを覆うための防護布であった。

    影の中に潜む狙撃手はアサピーの方を向いているが、その目はこちらを捉えられていない。

    風の動きに合わせて僅かに身じろぎして体の向きを変え、何かを探しているようだ。

     

    アサピーは焦っていた。

    対象が陰った場所にいることは分かっていたが、天候がここまでアサピーの敵となることは計算していなかった。

    明るさが圧倒的に足りない。

    露光量を調節してしまえばブレに大きな影響が出る。

     

    周囲に明かりが必要だ。

    フラッシュを焚いてもこの距離では大した意味はない。

    湿った生ぬるい風が雨の気配を知らせる。

    天候の更なる悪化の兆候に、ますますアサピーは焦る事となった。

     

    一眼レフのカメラは水に弱い。

    用途に合わせたレンズの交換という利点を得た代わりに失ったのは、防水性だった。

    霧雨の中でならまだいいが、豪雨となればカメラ本体だけでなくフィルムにまで影響が出てしまう。

    一刻を争う事態だ。

     

    残された時間まで、後一分もない。

    トラギコが病院から姿を現し、狙撃手が正面を向くその一瞬を狙わなければならないというのに。

    どうしても、光が足りない。

    顔にも施された暗色の迷彩ペイントが、アサピーをあざ笑うかのようだ。

     

    この段階で写真に収めることは出来ても、顔が分からなければ写真としての価値はほとんどない。

    どうすればいいのだろうか。

    強烈な明かり。

    輪郭すら浮かび上がらせる明かりを狙撃手に当てるにはどうすれば――

     

    ;-@@)「そうかっ……」

     

    ――たった一つだけ、考えが浮かんだ。

    狙撃手自身が生み出す明かり。

    つまり、発砲炎。

    トラギコが撃たれる一瞬にのみ生じる炎ならば、狙撃手の顔を照らしてくれるに違いない。

     

    だがそれは、トラギコを撃たせるという事だ。

    正面から喧嘩を売る形で相対するトラギコは急所を穿たれ、即死するだろう。

    絶対に被弾させてはならない。

    満身創痍である以上、銃弾を回避するような無理は出来ない。

     

    バッグからフラッシュを取り出し、カメラの上部に装着する。

    フラッシュはほとんど意味がないが、相手の注意を逸らすことは可能だ。

    あえてこちらに注意を向けさせれば、銃弾はトラギコを貫かない。

    それしかない。

     

    残り十秒となった時、アサピーは呼吸を徐々に浅くし始めた。

    そして三秒前で呼吸を止め、カメラを全身で固定する。

    フォーカスは完璧。

    後は、正面を向き、発砲してくれるだけでいい。

     

    ‥…━━ August 11th AM11:55 ━━…‥

     

    アサピーが位置に着く少し前。

    大雑把に説明を終えてヅーと分かれたトラギコは、彼女が予定通りに行動起こしてくれていることを願っていた。

    ヅーに依頼したのは、隔離病棟でトラギコが何か調べているのを発見した、という情報を全体で共有してほしいという事だった。

    勿論、それは警察だけでなく、協力体制にある軍の人間にも話をするという事だ。

     

    情報共有の速さが遅ければトラギコにとって不利になる。

    希望的な観測をしているわけではないが、彼女ならば大丈夫だろう。

    若くして警察の最高責任者の秘書の座に就き、多くを機械的にこなす彼女ならば。

    今回、トラギコとアサピーの作戦で欠かせないのはやはり狙撃手の注意がトラギコに注がれることだ。

     

    狙撃手は風に対して非常に神経質な性格をしており、常にそれを知ろうとする。

    風向きとその強さを知るためには観測手か道具が必要なのだが、臨機応変な対応が要求される現場ではあまり使われない。

    事前に相手のいる場所などが分かっていれば別だが、街中に出現する標的を狙撃する際には、やはり周囲の物から計算するのが一般的だ。

    このエラルテ記念病院で最も分かりやすく風向きとその強さを知るには、病院の屋上に干されている洗濯物が一番の手がかりとなる。

     

    だが屋上にばかり目が行ってしまうと、アサピーの姿が見つかる可能性が高まる。

    彼はこの作戦の要であるため、何が何でも失うわけにはいかない。

    そこで考え出したのが、狙撃手がトラギコの出現場所をあらかじめ知り、別の場所に目を向けさせることだった。

    病棟から出て行ったヅーに頼んだことは、もう一つあった。

     

    トラギコがいる事を知らせるという名目で、隔離病棟の格子に白い布を巻かせた。

    これで狙撃手は安心して風向きとその強さを知ることが出来る。

    相手にとって最高の環境を整えてやれば、後は自然と動き出してくれる。

    問題があるとしたら勿論トラギコの身の安全だけだ。

     

    撃たれないわけにはいかない。

    撃たせなければいけないのだ。

    当たらないようにするには、防具が必要になる。

    強いて防具になるとしたらブリッツとコンテナぐらいだ。

     

    防げるかどうかは運次第。

    時計を見ながら、準備運動を始める。

    走ることは出来ない。

    文字通りの相対しかない。

     

    (=゚д゚)「……ふぅ」

     

    久しぶりの感覚。

    初めて立てこもり事件を力で解決した日を思い出す。

    踏み出せば始まり、失敗すれば死が待っている。

    心臓の鼓動が生きている証となり、手に滲む汗が己の体の限界を教えてくれる。

     

    時間は正確でなければならない。

    鐘の音が銃声を隠すその時、トラギコは歩き出すしかないのだ。

    残り数分が一分、そして秒となる。

    アタッシュケース型のコンテナを手に、覚悟を決めた。

     

    (=゚д゚)「行くぞ、カメラマン」

     

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          /三ニニ==-  _|            、__'

         三≧==-         ̄≫  `¨、 _-‐‐ ‐ /

    .          \   ヽ  ≫”ニ\   `二ニ´ /

    .      \  ヽ     《 ヽニ=-\      /_

            ヽ       、\ iニニ= ` -=≦\ ヽ__

    .       }i         }i i| }三三三ニ=-‥…━━ August 11th PM00:00 ━━…‥

    ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

     

    鐘の音が鳴り響く。

    狙撃手が動く。

    腕がライフルを操作しているのが見える。

    トラギコを視認し、装填したのだろう。

     

    まだだ。

    銃爪を引くそのタイミングを読み、こちらもシャッターを切るのだ。

    ここから先は直感が物を言う。

    最高の一瞬は最高のチャンス。

     

    絶対に逃すわけにはいかない。

    狙撃手とカメラマン、共に狙うのは最高の瞬間。

    こちらはそれだけを追い続け、一切の妥協を許さない職業だ。

    相手にとって不足はない。

     

    銃爪の重さとシャッターの軽さ、その違いを教えてやらねばならない。

    相手の思考を読む。

    トラギコの動きを想像する。

    パパラッチが有名人の動きを推測するように、動物的な感覚を研ぎ澄ましてその全てを思い描く。

     

    聞いた話によれば、狙撃手は湿度や風に大きな影響を受けるために風がある程度落ち着いたところで銃爪を引き絞るという。

    だがカメラにはそのようなことは関係ない。

    風も湿度も地球の自転も、この距離では一切関係ないのだ。

    強く吹いていた風が弱まる気配を感じ取り、アサピーは人差し指に力を僅かに込めてシャッターを切った。

     

    瞬くフラッシュの白光。

    そのほんの数瞬後に生まれた発砲炎。

    銃声は鐘の音の中。

    これでアサピーの位置は狙撃手に伝わったはずだ。

     

    トラギコの安否を今は気にしていられない。

     

    -@@)「まだっ……!!」

     

    撮影を一枚だけで終わらせるわけにはいかない。

    数枚の中から選定された一枚でなければならない。

    ブレや翳りの無い一枚が撮れるまで、連射するのだ。

    そう、連射こそがこの勝敗を左右する鍵になる。

     

    ボルトアクションライフルとカメラが次の一手を打つとき、速度の違いが如実に生まれる。

    アサピーは人差し指でレバーを手前から奥に押してフィルムを巻き上げ、狙撃手は空けて引いて戻して閉じる作業が必要になる。

    つまり、アサピーの方に利がある。

    二枚目の写真を撮影し、すかさず三枚目の撮影に入る。

     

    そして狙撃手側の第二射目。

    これを待っていた。

    自分を向き、火を噴くライフルを向けてくれる瞬間。

    最高の構図、最高の一枚をカメラに収めた。

     

    シャッターを切った直後、アサピーの肩を銃弾が掠め取んだ。

    まだだ。

    まだ撮影できる。

    そう思った矢先、カメラが大きくアサピーの手から離れてしまった。

     

    三発目の銃弾は超望遠レンズを掠め、カメラ本体を吹き飛ばしたのだ。

    レンズが壊れてしまえば撮影は不可能。

    撤収するしかない。

    命拾いしたアサピーはカメラを掴んでその場から転がり落ち、非常階段を駆け下りた。

     

    フィルムだけを回収し、重荷となるカメラ本体は階段に捨てた。

    後はトラギコが無事であることを確かめ、予定通りに事を運ぶだけだ。

     

    ;-@@)「トラギコさん、頼みますよっ!!」

     

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              i{ /  〉  /   ∨ヾ三三三三‥…━━ August 11th PM00:00 ━━…‥

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    鐘の音が鳴り響く。

    トラギコは扉を押し開き、歩き始めた。

    怨敵がいる鐘楼が見える。

    あの場所からカールは撃たれたのだ。

     

    トラギコと間違えて撃たれ、優秀な医者が一人死んだ。

    許しがたい。

    何が何でもこの手で殺さなければ気が済まなかった。

    グレート・ベルを見上げると、黒雲が早い速度で流れているのが一緒に見えた。

     

    天候は間もなく崩れるだろう。

    光が瞬き、その瞬間が訪れた。

     

    (= д )「――ぐっ!!」

     

    予め想定できた銃弾が襲う場所は、人体にある急所のどこか。

    そう考えた時、トラギコは狙撃手の性格を考慮することにした。

    風で狙いが逸れても致命傷を与えることの出来る部位、即ち、心臓部だ。

    そこで胸部を守るために鉄板の入った防弾着を着こみ、備えていた。

     

    頭部を狙われていたら終わりだったが、それはあり得ないことを知っている。

    火事の中で狙撃手が撃ったのは頭部ではなく胴体だったからである。

    初弾は狙いが僅かに逸れ、ろっ骨の部分に当たった。

    衝撃で意識を失いかけて倒れるが、膝をついて耐える。

     

    その直後、颶風と化した“イージー・ライダー”がトラギコを掴み上げてその場から離脱した。

    二発目が飛んで来ないことが不思議だったが、何はともあれこれでいい。

    全ては計画通り。

    アサピーにもヅーにも話している通り、この事件の解決はトラギコの役割ではない。

     

    (=゚д゚)「……後は頼んだぞ」

     

    そう。

    この事件を解決するには、圧倒的な力が必要になる。

    それはティンカーベルの力でもなければ、ましてやジュスティアの力でもない。

    軍でも警察でも円卓十二騎士でもない、全く別の存在。

     

    このままではどうあってもトラギコ達で事件を終息に導くのは不可能。

    トラギコは利害の一致によって役割を与えられた駒に過ぎないのだ。

    より大きな事件に食らいつくために捨てたのは意味のない矜持と邪推。

    後は任せるしかない。

     

    ――本名も素性も分からない、あの旅人に。

     

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               「流石、男の子ね。 意地の張り所が分かっているじゃない」

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                      「……ふふ、やっぱり男の子はこうでなくっちゃ」

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                 「あの子の教育に役立ったし、その頼み、任されてあげる」

                    ‥…━━ August 11th ??? ━━…‥

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                         ζ(゚ー゚*ζ「さぁ、逆転の時間よ」

     

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                       全ては、ここから逆転する。

     

                     AmmoRe!!のようです Tinker!!

                                                       

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                              Tinker!!

     

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                               nker!!

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                       T i n k e r   →   R e k n i t

                    酷く絡み合った糸は今、編み直される

     

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    次回 AmmoRe!!のようです 新編

                             Ammo for Reknit!!

                                                To be continued...!!

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