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第九章【cameraman-カメラマン-】

  1. 名前: 歯車の都香 2017/04/16(日) 13:11:00
    第九章【cameraman-カメラマン-】

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    カメラを構える行為は、銃を構える行為と同じである。

                      どちらもその人差し指で人の人生を左右するのだ。

     

                                       戦場カメラマン ミズーリ・タケダ

     

                          August 10th PM08:43

    ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

    ┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻

     

    アサピー・ポストマンが隠れ潜んだコンテナの中は錆びた鉄の匂いや妙に酸味のある悪臭が漂い、加えて完全な暗闇だった。

    月光すら差し込むことなく、目が慣れるまでには長い時間がかかる事だろう。

    コンテナ内は絶えず振動し、耳を押さえていなければ軽い頭痛を覚えるほどの音が反響していた。

    クッションも何もないコンテナの片隅に膝を抱えて座り込み、アサピーはひたすらに振動と騒音に耐えた。

     

    不満はなかった。

    何も、黒塗りのリムジンやピンクのキャデラックに乗る必要はない。

    これに耐えるだけで、厳重体制にあるティンカーベルとオアシズとの行き来が可能になるのだから、破格の待遇と言える。

    島から外に出ることも、外から島に入ることもままならぬ現状を考えれば、悪臭と騒音で満ちたコンテナも箱舟にさえ思えよう。

     

    今、アサピーはオアシズから出た廃棄物を詰めたコンテナ内に潜み、それをトラックが島の奥に運んでくれるのを待っていた。

    オアシズはそれ単体で生活できるよう設計されているが、不燃ゴミの廃棄とその処理についてはまだ完全とは言い難い。

    可燃ゴミについては独自に焼却して発電に利用するのだが、大型の焼却炉と処理設備が必要となる不燃ゴミの場合は、流石のオアシズでも完全に処理をすることは出来ない。

    そこで考え出された方法が、寄港した街に不燃ゴミをコンテナ単位で買い取ってもらい、処分してもらう手段だった。

     

    これは非常に効率が良く、また、双方にとって利益になることから今では陸地繋がりの町同士でも積極的に行われている。

    ティンカーベルの完全封鎖という状況にありながらも、この部分については死角だった。

    片道切符のコンテナに人が入り込み、こうして島に舞い戻るなど想定の範囲外だったのだろう。

    内心でオアシズの市長であるリッチー・マニーに改めて感謝し、夜光液の淡い光を発する時計に目を向ける。

     

    時針が示す時刻は夜の九時十七分前。

    時間としてはまだまだ余裕がありそうだが、油断は一切できない。

    これから先何にどれだけ時間を使うか分からない。

    到着するまでは静かに待機し、体力を温存しておくのが一番だ。

     

    やがて、舗装路を走るノイズ音じみた音に変化が生まれ始めた。

    少しずつ砂利を踏みしめる音が増え、遂には砂利の音と入れ替わり、体が小刻みに振動する事となった。

    徐々に体が傾き、転がり落ちそうになるのを両手両足で耐える。

    砂利道の斜面を下り、コンテナを運送するトラックが停車した。

     

    停車してから数分の時間が経過したことから、予定通りの場所に到着したのだと推測した。

     

    -@@)「……おっ、と」

     

    直後に感じ取った浮遊感から、クレーンで吊り上げられるのが分かる。

    そして平らな金属の上にコンテナが積まれ、タイヤが土を踏みつける音が遠ざかって行った。

    時計に目を向けると、午後九時十四分前を示している。

    アサピーは静かに立ち上がり、胸にさしていたペンライトを点けて出口を目指す。

     

    内側から開けられるよう細工のされた扉を慎重に少しだけ押し開き、ライトを消す。

    人が近くにいないことを確認し、金属の軋む音を最小限に抑えつつ扉を完全に開いた。

    外の世界に満ちる夜の光は淡く、日中の強い日差しよりも柔らかく物の輪郭を照らし出す。

    影絵のような幻想的な世界を目の当たりにし、アサピーは一瞬だけその景色に目を奪われた。

     

    すぐに意識を切り替えたアサピーは降りるのに支障のない高さであること、そしてコンテナの周囲に人影がないことを確かめる。

    四方を背の高い木々に囲まれている事から、ここがティンカーベルの北西にある廃棄場だと理解した。

    山奥だが、街に戻れないほどの距離ではない。

    コンテナから身を投じ、着地すると同時に周囲に目を配る。

     

    姿は見えなかったが、着地で生じた比較的大きな跫音に気付いた警備の人間がいるかもしれない。

    しばらくそうして身構えていたが何も起きず、風が運んだ雲が月を覆った時、アサピーはようやくティンカーベルに再び戻ってきたことを強く実感することが出来た。

    しかし余韻に浸っている暇はない。

    これからアサピーが行わなければならないことは命がけのものであり、そして何より、手がかり一つない状況での人探しだ。

     

    大切な情報を伝えるという目的のため、アサピーは重い足取りで廃棄場の出口に向かって歩き出した。

    周囲に人の気配はまるでなく、代わりに野生の生物たちが息づく気配を感じられる。

    高く積み上げられたコンテナの林が作り出す影は濃く、何かが潜んでいるとしても見つけ出すことは敵わない。

    おぼろげな月明りを頼りに歩き、ひび割れたアスファルトの車道に出た。

     

    車道は街に通じる証明だ。

    しかし、車道上には身を隠す物が何もない上に、山奥の廃棄場付近には街灯すらない。

    万一暴漢にでも出くわしたら事だ。

    目が闇に慣れるまで、アサピーは意図的に車道から僅かに外れて歩くことにした。

     

    木の枝を踏み、よく分からない生物を踏み、顔に枝が当たってかすり傷を作りながらも、アサピーは一定の歩調を保ったまま進む。

    静かな夜だ。

    喧騒もなく、人工の音もない。

    聞こえるのは虫の合唱、木々のざわめき、そして己の跫音。

     

    暗闇の中でも不安に感じるどころか、母体にいるような安心感を覚える。

    やがて、まっすぐ続いていた車道の先に、新たな道が見えてきた。

    少し太めの道路とぶつかったので、アサピーは左に曲がった。

    目が慣れてきたので車道の中心を歩き、ティンカーベルの街を目指すことにした。

     

    このまま道なりに行けば山を越えて、やがては街の入り口にまで辿り着くことが出来るはずだ。

    そこからトラギコ・マウンテンライトの消息を探り、どこで彼が消息を絶ったのかを知らなければならない。

     

    -@@)「生きていてくださいよ、トラギコさん……」

     

    それは願いや祈りと言った神頼み的な行為というよりも、本人への切実な希望だった。

    全ての情報を上手に役立ててくれるのは、アサピーの中にはトラギコしかいない。

    荒っぽいが確実に事件を解決してくれる彼のような存在は、正直なところ万年休暇を取っている神よりも遥かに頼もしい。

    腹部に感じる熱と痛みをこらえて、確実に歩みを進める。

     

    雲が流れ、再び姿を現した月が夜の世界を撫でるようにして仄かにモノクロの世界を浮かび上がらせる。

    余計な装飾もなく、シンプルにして幻想的、そしてどこか懐かしく感じられる影絵の世界。

    白と黒の濃淡だけで描かれた世界を歩くアサピーは、心奪われる景色を前にしても決して思考を止めることはなかった。

    考えているのは二つの事だ。

     

    トラギコの行方と、自分が狙われる原因。

    前者は情報がなければ推測も何も出来ないが、後者に関してはいくつかの推測をすることが出来る。

    幾度も命を狙われてきたアサピーが見てしまった光景とは何か、それを考えるという行為は非常に有意義だ。

    いくつかの推測を立てられれば、それをトラギコに伝えて捜査の役に立つことが出来る。

     

    自分は主役になるような柄ではない。

    分かっていることだ。

    事件を率先して解決する人間には、才能があり、実力がある。

    アサピーにはそれがない。

     

    だから。

    だからこそ、アサピーはそれを持つ人間の傍に立たなければならない。

    そしてそれを世間に知らしめる役割こそが、アサピーのそれなのだ。

    斯くして英雄は作られ、真実が創られる。

     

    問題は、それがいつ、どのタイミングなのかということ。

    口約束とはいえ、アサピーはマニーの提示した事件が解決した後に真実を公表するという条件を飲み、今に至る。

    それを果たす義務はないが、その条件はマニーの持っていた信念と価値観を揺さぶった。

    確固たる信念と価値観だと思っていただけに、それは非常に衝撃的だった。

     

    自分の中で揺らいでいる間は無理に動かない方が利口だと考え、アサピーはひとまず、トラギコに託すことにした。

    委ねる、と言い換えた方が適切なのかもしれない。

    彼は正しく行動し、最終的に収まるべき場所に彼が導いてくれる。

    そんな風に考えている自分に、アサピーは嫌気ではなく清々しい気持ちになっていることに気が付いた。

     

    偶像崇拝に近しいかもしれないが、それでも彼は実在の人物であり実績もある人間だ。

    考えや判断を委ねることが楽なことは知っているし、それが依存の始まりであることはよく分かっている。

    だが断じて、アサピーはトラギコに依存をしているのではない。

    彼は、正義そのものだとアサピーは信じている。

     

    この世にはびこるあらゆる悪と対極の存在。

    決してぶれない軸と信念を持ち合わせ、絶対的にルールを順守する姿。

    アサピーにとって最も身近な正義の象徴はジュスティア警察でもなく、軍でもなく、トラギコの存在だった。

    故に、然るべきものを然るべき人間に託し、使ってもらいたいだけなのだ。

     

    現に感じているのは図書館の窓を開いて入ってきた新鮮な空気のような、そんな気持ち。

    ちょうどいい機会なのかもしれないとさえ思う。

    新聞記者として本当の意味で活躍するために、自分自身の立ち位置を今一度考えるためには、この上ない機会だ。

    これまでは理想で動いてきた節が否めず、真実の持つ多面的な情報を理解した上で世間に公表することなど、これまでに一度も考えたことがなかった。

     

    期せずして手に入れたビッグスクープに浮かれ、それが夢の実現のための最後の鍵であるかのように取り扱ってしまった。

    様々な側面を持つ真実に対して、ただの一度たりとも向き合っていなかったのである。

    それは確かだ。

    理解していたつもりになっていたが、実のところは断片ですら理解していなかった。

     

    トラギコから受けた指示という理由もあったが、それでも実行に移したのは自分自身の判断だ。

    断片的な真実の公開という選択は、結果的にトラギコの選択が間違いではなかった事を証明した。

    つまり誤ったのは、アサピー自身の覚悟の量だった。

    そしてそれが及ぼした影響は、痛みを伴ってアサピーを襲った。

     

    真実を追う覚悟はあったが、真実に追われる覚悟はなかった。

    誰も教えてはくれなかった。

    真実が牙を剥き、噛み付いてくるなど。

    繊細なのも重要なのも知っていた。

     

    それでも、真実は箱入り娘の令嬢のように従順だった。

    少なくとも、トラギコと会うまでは。

    ようやく本質に触れることが出来たという事を理解したアサピーは、今はただ、真実の行く末を見届けなければならないという義務を自覚していた。

    全てを見た上でそれを公表すればいい。

     

    途中経過も真実の一つに変わりはないが、不完全であることもまた事実。

    不完全をそのままにせず、パズルのピースが欠けている状態で表に出すことは一先ず止めておく。

    そして。

    欠けたピースの内、アサピーが狙われる理由が大きな割合を占めている事だけは断言できる。

     

    慎重な人間であるはずのショボン・パドローネが二度にわたって命を狙い、狙撃手には二度撃たれ、退院祝いにデミタス・エドワードグリーンに殺されかけた。

    異常としか言いようのない執着ぶりだ。

    逆にそれこそが、アサピーが真実に近づいているという証明にもなっている。

    考えの及ばない領域ではないと、アサピーは考えた。

     

    少なくとも自分が見聞きした情報の中に、彼らがどうしても消したいものがあるのだから、思い出せないはずはない。

    現時点でアサピーが見立てている最も高い可能性は、現場に残されていたスーツケースを目にしたことだ。

    黒のスーツケースに手がかりが残されている可能性は十分にあるのだが、警察がそれを回収したのかどうかが気になる。

    これで警察が回収していれば、アサピーの算段は外れたことになる。

     

    一つ目の可能性として視野に入れ、アサピーは新たな可能性を考え出すべく記憶を探り始めることにしたのであった――

     

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                                      AmmoRe!!のようです  

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         /   ヽ..._/二二二ト、 r‐ュ

        / r┴┴‐┼──‐弋三三マヽ            Ammo for Tinker!!

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      f'  7´ ´¨`ヽ`ヽヽ:::::::__|}} j|^:|Yl

     j  、l::;′   Y:::::l:::l::::{ ヾ!|!:.:.:l|:::V        第九章 【cameraman-カメラマン-

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     l  `ヽヽ __/.::/::/:::::/ヽ    ̄ヽr

      '  / マ=∠∠∠∠ -'"        ∨        August 10th PM 10:31

      '     ハ:::: -r

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    爆発が起きたのは、午前四時十四分。

    爆破現場となったスタードッグス・カフェは粉塵が舞い、悲鳴がいたるところから聞こえていた。

    カメラを携えて現場を見たアサピーが抱いた第一印象は、戦場だった。

    額から血を流す人や泣きわめく子供、そして漂う焼けた匂い。

     

    その瞬間をカメラに収め、次に爆発の中心部を撮影した。

    焦げ跡が不自然な形に歪んでおり、それも撮影した。

    片側が吹き飛んだスーツケースが遠くに転がっているのを見つけ、駆けよってシャッターを切る。

    再び現場に戻り、負傷者が出来るだけ大勢が入るようにして構図を整え、記事用の写真を撮った。

     

    一通り撮影を終えてから、アサピーはようやく負傷者の救助に当たることにした。

    幸いにして死者はおらず、軽傷者だけで済んだのは奇跡か、はたまた意図的なのか。

    それを記事にすればより人々の関心を得られると思ったが、今回はトラギコへの情報提供が主であるためにそれは一先ず置いておくことにした。

    彼に協力をすれば多くのスクープが自ずと舞い込んでくると信じたからだ。

     

    動揺して頭の回らない――つまり、口が緩くなっている状態――を逃すことなく、目撃者に情報を聞き込み、新鮮な内に仕入れを済ませた。

    それでも、すぐに警察官が現れて現場を封鎖し、以降は聞き込みによる情報収集だけしか行えなかった。

    警察官の名前を写真に収めるのと同時に記憶したのは、彼を英雄的な存在として記事にする時が来た場合に備えてだった。

    名前はイブケ・ゼタニガ、階級は巡査だ。

     

    写真を撮られたことに対してひどく憤慨し、フィルムを寄越せと怒鳴ってきたがアサピーは逃げた。

    彼の英雄的行動が多くの証拠を残し、被害者の拡大と混乱を回避できたのだから、何も恥ずかしがる必要はないのだ。

    ここまでが、アサピーが爆破事件で行った主な行動である。

    その中にアサピーを消してまで隠したい情報があるのか、それを考える。

     

    上り坂になり、アサピーは少し歩調を早めることにした。

    坂になれば速度が落ち、余計な時間がかかってしまうからだ。

    街でトラギコに関する情報を集め、新聞社に寄って配達用の原動機付自転車を使って彼の足取りを追わなければならない。

    事態は一刻を争う。

     

    あのトラギコの消息が途絶えるという事は、紛れもない緊急事態だ。

    星空を眺めながら、トラギコの安否を気遣う。

    巻き直したばかりの包帯に湿り気を感じ、指で触れてみる。

    僅かだが、濡れていた。

     

    傷口が少し開いている。

    しかし、それでも歩みは緩まない。

    思考もまた、止まる事を知らない。

    ただただ、動き続けた。

     

    ティンカーベルに到着してから優に一時間半以上が経過した頃、目の前にそれまでよりも急な斜面が現れ、速度が落ちた。

    流石に運動不足のアサピーにとって、山道を歩き続けるのは難しいことだった。

    何より、彼は前半で車道ではなく林を歩いた。

    それは足首への負担を減らしてくれたが、着実に体力を奪っていた。

     

    そこから更に三十分をかけて峠に到着し、足を止めて小休憩をする。

    遠くの眼下に見える街の明かりに胸を撫で下ろしつつも、地上の星明りを両断する陰に注意を払う。

    ティンカーベルを“鐘の音街”の名で有名にした街の名物、グレート・ベル。

    アサピーの見立てでは、そこに狙撃手が潜んでいるのだ。

     

    自分を二度も狙撃した人間とは、何者なのだろうか。

    今もまだあの場所から誰かを狙っているのだろうかと考えると、恐怖に身が固まる。

    発砲炎を目視してから避けられるのか、そもそもそこにいるのか、など考えが溢れ出して止まらない。

    休憩を終え、アサピーは車道を下り始めた。

     

    下り坂という事もあって、割と早いペースで歩くことが出来た。

    その足を止めたのは、不思議な光景を目にしたからだ。

    一部分だけ消え去ったガードレール。

    地面に残された根元はその先端が引き千切られた様になっており、アスファルトから僅かに浮き上がっている。

     

    強引に力が加わり、ガードレールが失われたのだろう。

    交通事故か何かだと考えるが、ガードレールは千切れない。

    どれだけ高速で車両が突っ込んできても、決して千切れはしない。

    それが千切れるという事は、不自然という事なのだ。

     

    よくよく観察してみると弾痕の様にも見える。

    かなりの大口径の銃で撃ち抜かなければこうはいかない。

    ガードレールがあった場所から見下ろすと崖のような急な斜面が森まで続いており、タイヤで削り取ったような跡が残されている。

    堅気でない者同士の争いがあったのだろうと推測し、一先ず写真を撮った。

     

    それから少し道なりに進んで、アサピーは足を止めた。

    車の部品が落ちていた。

    外装、そして金属製で作られた部品の一部。

    周囲にブレーキの跡がないことから、整備不良による事故か何かが起きた可能性が頭をよぎった。

     

    十五分後、アサピーの足は逆方向に向くことになる。

    電池切れで道の端に乗り捨てられたスーパーカブを見つけたのだ。

    紛れもなくアサピーがトラギコに貸した物であり、それがここにあるという事は、トラギコがここまで来たという事。

    後は簡単な計算だった。

     

    バイクの電力がなければ、ヒッチハイクしかない。

    ヒッチハイクをして間もなく、トラギコは何者かに襲われ、車ごとガードレールから落ちて行ったのだ。

    走って先ほどの場所に戻り、慎重に斜面を下ることにした。

    見た目以上に足場は悪く、滑りやすい土質だ。

     

    カメラケースを後ろにやり、両手両足を使って斜面を進む。

    暗がりの中にあって見えなかったが、二本の木に押し潰されたセダンが見えてきた。

    フロントグリルが変形し、見るも無残な姿と化しているが一目で高級車と分かる。

    車体のあちらこちらに銃創のような大きな穴が空き、全てのガラスは粉々に砕け散っている。

     

    死体が見つからないことを願いながらペンライトを取り出し、車内を窺う。

    誰も乗っていないのが分かると、車内を観察する余裕が生まれた。

    車内で争った形跡もなければ、物を荒らされた形跡もない。

    運転席に乾いた血を見つけ、その量が少量であることが気になった。

     

    撃ち合いではなく、このセダンの運転手が一方的に撃たれたようだ。

    助手席のヘッドレストが吹き飛び、倒木の枝に引っかかっている。

    天井にも大きな穴が空き、そこから月光が差し込んでシフトレバーを照らし、幻想的な光景に見えなくもない。

    しかし、どちらも明らかに撃ち込まれた銃弾が作った物で、追撃されたことを如実に語っている。

     

    セダンは何者かに襲われ、逃げ、崖下に転落し、更に大口径の銃弾によって駄目押しをされた。

    ますます運転手がトラギコである可能性が濃厚になった。

    一度、ライトを足元に向けるが、コケと落ち葉以外手がかりとなりそうなものは何も残されていない。

    薬莢の不気味な輝きがないことから、追撃者はここに降りてこなかったのだろうと考えられた。

     

    襲われた人間がトラギコであると決定づける証拠は依然として見当たらない。

    仮にこのセダンのドライバーがトラギコだったとしたら杖がどこかにあるはずだが、それらしき物はない。

    車内に死体や目立つ血痕がないという事は、運転手は車外にその体を出すことに成功したという事。

    つまり、地面に杖を突いた窪みを見つけることが出来れば、運転手がトラギコであり、無事に生き延びたという証拠になる。

     

    ライトを木の枝に括り付け、地面を高い位置からまんべんなく照らす。

    視線だけでなく体全体を地面に近づけ、不自然に抉れた場所がないかを探る。

    脚を引き摺った跡でも構わないのだが、事故を起こしてから時間が経っていることもあって何も見当たらない。

    一度視線を上げ、周囲に目を向ける。

     

    すると、車を押しつぶす木も銃弾によって倒されたことが分かった。

    乱暴にちぎられた断面にレンズを向け、シャッターを切る。

    今度は車内に何かめぼしい物はないかを探すことにした。

    サンバイザーの裏やグローブボックスの中を探すと、車検の書類が出てきた。

     

    持ち主はイーディン・S・ジョーンズとある。

    聞き覚えのある名前だった。

    写真を一枚撮り、そして思い出す。

    超が付いても余りある有名な考古学者だ。

     

    歴史的な発掘をいくつも手掛け、特に強化外骨格の研究には多くの貢献をしている人物として教科書にも名を載せる人物である。

    彼が研究に携わってから世の中に復元された太古の技術や道具は数知れず、彼抜きには現代の科学は語れないとまで言わしめる存在。

    若い頃は何故か鞭を持って遺跡の発掘を行い、特徴とも言えるカウボーイハットを被った姿はしばしば教科書に載っている。

    取り分け、ダット(※注釈:Digital Archive Transactor)の研究成果は高く評価され、多くの知識を世に広めることに貢献した。

     

    その人物の所有する車がここにこうしてあるのは、何かの偶然とは思えない。

    襲われたのはトラギコではなく、ジョーンズかもしれない。

    他にも手がかりになりそうな物を漁り、遂に見つけることが出来た。

    運転席の足元に落ちていたカブのキー。

     

    紛れもなく、モーニング・スター新聞社で使われていた物だ。

    トラギコはこの車に乗り合わせ、そして運転していたことはまず間違いない。

    そして、ここで何かに巻き込まれ、転落したのである。

    そこにジョーンズも同席していたかどうかまでは不明だが、トラギコがこの車に乗っていたことが分かれば十分だ。

     

    すでに彼らが死亡し、死体を処理されたと考えなかったのは、仮に処理するのであればこのように目立つ場所に車を残しておくはずがないからだ。

    仮にアサピーが追跡者であれば、車をもっと目立たない場所に動かしている。

    ついでに、所有者の身分の特定につながるような書類を車内残してはおかない。

    事故からどれだけの時間が経過したのかは不明だが、トラギコ達は逃げ果せたと考えられる。

     

    少なくとも事故直後の話であり、その先で殺された可能性も十二分にあるのだが。

    何にしても、トラギコならば路上駐車されていたジョーンズの車を偶然盗んだかもしれないため、追うのはトラギコだけにするべきだった。

    欲張って二兎を追っても得られるのは決まっている。

    最初と同じく目的は一つにするのが賢明だ。

     

    彼の行く先については、今の段階では一つの方角しかない。

    崖から落ちて来たのに崖を上る馬鹿はおらず、逃げるのであれば相手とは反対方向に進むという事だ。

    即ち森に逃げ込んだと考えるのが自然だが、これだけの事故を起こしたのだから、無傷で済んでいるはずがない。

    ましてや彼は足を負傷している身なのだから、この車から逃げたとしても、その跡を消すだけの余力はなかったはずだ。

     

    何者かがトラギコを連れ去った、もしくはトラギコの逃走に手を貸している可能性がある。

    どちらか分からないが、どちらにしてもアサピーは動かざるを得ない。

    夜の森は非常に危険であり、装備が不十分な状態で入るべきではない。

    一流のキャンパーでも夜になれば森の中を動き回ることはしない。

     

    方角を一瞬で見失う上に、目標物を視認することも困難。

    夜の森に生息する野生動物の事を考えれば、キャンプをして過ごすのが上策だ。

    森について多少の知識を持つ人間がアサピーの装備を見れば、間違いなく自殺志願者だと考えるだろう。

    大型のライト、もしくは強力な光源を持つライトならばまだしも、彼が持つのはペンライト。

     

    電池が切れた途端に視界は失われ、朝日が昇るまでの間の行動が制限される。

    改めて車内に使えそうな物はないかと探すと、非常用のライトが見つかった。

    試しにスイッチを入れると、強力な白光が迸った。

    運には見離されていないらしい。

     

    ペンライトを顔の位置に構え、ゆっくりと森の中に足を踏み入れる。

    鳥の声。

    虫の声。

    風の声。

     

    そして、どこまでも続く闇がアサピーを迎え入れるが、彼の足取りはしっかりとしたままだった。

     

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                        ,,...--'''"..:::;;;iiiiiiiilllllllllllliiiiiiiilllllllAugust 10th PM 11:48

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    捜査本部として選ばれた建物――島で一番の不人気ホテルとして名高い“カナリア・ホテル”――は、ティンカーベルが独自に持つどの軍事的な組織よりも厳戒な警備体制と緊張感に包まれていた。

    指揮を執るライダル・ヅーは顔の半分に包帯を巻き、衣服の下にいくつもの痣を隠しておきながらも顔色一つ変えずに狭い部屋で情報の整理を行っている。

    部屋には彼女以外に誰もおらず――誰も入室を許可されていないため――、時計の秒針が時を刻む音と万年筆が用紙の上を滑る音だけが行き来していた。

    沈黙の中、ヅーが書いているのは報告書だった。

     

    この事件の発端、そして犯人、目的、事件発生時刻、証拠品、目撃者の証言など事細かに並べられた言葉は自分が事件を振り返るための物でもある。

    こうして冷静に書き出すことで今一度事件全体を第三者的な視点で見下ろし、気付くことの出来なかった何かを見つけられる可能性があるからだ。

    新たな情報が入って来るたびに紙に書いては破り捨て、常に最新の状況を把握する。

    嫌でも見えてきたのは同郷の軍人と警察の無能さ、敵の用意周到さと狡猾さ。

     

    そして、ショボン・パドローネの属する組織が何者かを追い回す過程で多くの傷跡が出来たという事。

    ヅーの負った傷も、その内の一つだった。

    所詮は途中経過の副産物、風が吹いて木の葉が舞うような物だ。

    傷は痛むが、その悔しさの方が勝る。

     

    何としてもショボンの組織に対して一矢報いなければ気が済まなかった。

    目的は何であれ、その組織は悪だ。

    悪を滅ぼす。

    それがジュスティアであり、ジュスティア警察はその執行者である。

     

    先手を打ってショボンの行動を阻害することにしたヅーは、目撃証言を基に彼が追っている人物の特定を急いだ。

    だが。

    得られた証言はお世辞にも役立つとは言い難く、自分自身で目撃した情報の方がいくらかマシだ。

    とはいっても、偶発的に遭遇したカーチェイスで得た物なのだが。

     

    //-゚)「……やはり、ないか」

     

    大型のツアラーバイクを改造し、荒地での走行にも対応させた物は一般人が手に入れるには余りある代物だ。

    強化外骨格“イージー・ライダー”の追跡を逃れられるだけの機動性と速度、そして運転手の手腕。

    これの情報を使って運転手の割り出しを行えればと思ったのだが、そこから先が難航した。

    まずは車種の特定を行わなければならず、ここ数年の間に発表された車種のカタログと格闘したが、当てはまる物はなかった。

     

    そこで新たに十数年前の物から見返すことにしたのだが、該当する車種は存在しなかったのである。

    流石にそれ以上前の車種とは考えにくく、一から作り上げたバイクである可能性が高かった。

    カウルは黒、もしくは群青色の塗装が施されており、その形状は空気力学に基づいて設計されたのだと一目で分かる鋭角と直線で構成され、ツアラータイプの特徴とも言える大きなウィンドシールドが一枚。

    ヅーが見たのはバイクの側面を一瞬と、その後ろ姿を数十秒だけ。

     

    捜査チームを編成した際、ヅーはその車体をスケッチし、全員に配った。

    特徴的な性能を持っているバイクであるため、目撃情報はすぐに集まるだろうと思ったのだ。

    結論から言えば、駄目だった。

    遠くからツーリングに来ていた集団が唯一の証言者であったが、彼らが見たのは走り去る後ろ姿だけで運転手を見た者はいない。

     

    目撃された日時を考えても、ヅーの持つ情報の方が新しいぐらいだ。

    あの夜以降、誰もそのバイクを見ていない。

    まるで亡霊だ。

     

    //-゚)「カメラの情報も……なしか」

     

    もう一つ、ヅーが追っている物がある。

    エラルテ記念病院で醜態を晒し、殺されかけた時に誰が自分を救ったのか、という事だ。

    アサピー・ポストマンの入院していた部屋に現れたデミタス・エドワードグリーンに警備員が殺され、ヅーも深手を負った。

    そして、顔を潰されて殺される寸前、ヅーは意識を失った。

     

    再び目を覚ました時、ヅーは病室のベッドの上に寝かされていた。

    自分に対して十分すぎる殺意と動機を持つデミタスが見逃すはずもなく、痛む体に鞭打って現場に戻ると争った形跡が残されていた。

    目に見えて床に増えていた真鍮の薬莢はライフルのそれではなく、拳銃用の物だった。

    何者かが争い、デミタスからヅーを守ってくれたのだ。

     

    だが、残された薬莢は九ミリ口径の物で、軍が採用しているコルト・ガバメント――四十五口径――ではない。

    勿論、強化外骨格の補助を得ているデミタスが使用したとは考えにくい。

    礼を言うのもあるが、何よりデミタスをいかにして撃退せしめたのか、その技量にこそ興味があった。

    が、目撃者は愚か映像すら残されていない。

     

    また、ホテルで警官が奇妙な殺され方をした事件もある。

    目撃情報で得られたのは頬に二本の傷を負った男の目撃情報ぐらいで、それ以上に詳しい情報は得られなかった。

    その人物には心当たりがあったため、事実上有益な情報は得られなかったことになる。

    死体を鑑識に回して調べさせているが、何も見つからないだろうと諦めていた。

     

    今、二人の亡霊がヅーを悩ませていた。

    どうにか足跡を見つけたいところなのだが、どちらも手詰まりの状態である。

    情報整理をしていく中で見えてくるのは、ショボンたちは周りの被害や自分たちが生み出す物を全く意に介することなく対象を追っているという事実であり、その対象は只者ではないという結果のみ。

    特に情報に対して価値を見出す人間にとっては、分かり切った情報を突きつけられることほど腹立たしいことはない。

     

    //-゚)「さて、どうしましょうか」

     

    腹立ったとしても、それを思考に影響させないのがヅーの強みの一つだ。

    彼女は例え砲弾が降り注ぐ戦場でも策謀することの出来るだけの精神力と集中力を持ち合わせており、今はただ、己の手中に集まった情報が足りないだけだ。

    欲しいのは決定打ではなく、全てを線で繋ぐことの出来る核心だ。

    追う理由、追う相手、追う方法など、とにかくショボンたちが何を目的としているのかを今一度整理しなければ分からない。

     

    状況の悪化はもはや、誰が諸悪の根源とは言い難いほどに悪化している。

    絡んだテグスを解くようにして徐々に紐解き、そして見つけなければならない。

    単独での解決は不可能だ。

    複数の人間がそれを試みたせいで酷い有様――tinker――になってしまっており、今後はその悪化を防ぐことに注意しなければならない。

     

    引っ掻き回した人間の一人、トラギコ・マウンテンライトには監視をつけていたが、今日の昼前に消息不明となってしまった。

    本来であれば自らの手で探しに行きたいところだったが、そこまで暇がないため、苦肉の策としてアサピーを使った作戦を考え付いた。

    餌として動かし、結果としてまんまとショボンをおびき出すことに成功し、そして今ではトラギコ探索の要人として仕立て上げた。

    特例中の特例であるが、オアシズへの乗船とその後の降船まで手はずを整えたのだから、何かしらの成果を得ることを期待している。

     

    彼が犯した愚かな過ちの精算はこうして少しずつ行ってもらうのだ。

    気がかりな点は多々あるが、それでも片手が開くのは大きい。

    始点を脱獄として考えると何かが見えてくるかもしれないと考え、ヅーは改めて事件の初日から見直すことにした。

    書類の山から引っ張り出したのは、シュール・ディンケラッカーとデミタスの資料だった。

     

    この二人以外にも、極悪という意味ではエリートたちがセカンドロック刑務所には揃っていた。

    それでもあえてこの二人を選んだのには、理由がありそうだ。

    二人の共通点を探すのではなく、二人が他よりも優れている点を調べる。

    書類に記載されているのは児童誘拐と窃盗に長けた二人の犯罪歴で、その生い立ちから逮捕までの流れが簡単に載っている。

     

    他の囚人たちとは異なり、殺人や強盗、強姦や脅迫ではないのがポイントと言える。

    こうして改めて書類を見ると、二人が何かを盗むことに特化しているのが共通点として分かる。

    つまり、ショボンは何かを盗ませたかったのかもしれない。

    秘密裏に盗ませようとして失敗したと考えられる。

     

    では、何を盗もうとしたのか。

    盗みに失敗したとして、何故人を追い回す必要があるのか。

    その人物が何かを持っているから、としか考えられない。

    危険を冒してまで追うという事は、物である可能性が低い。

     

    手に取って盗めるような物ならばどこかに隠されればそれまでであり、追う必要があるとしたら移動を続ける人間ぐらいだろう。

    しばらく考え込み、どうして自分がもう一つのスタート地点に目を向けなかったのかと自責した。

    カーチェイスを繰り広げた今日の朝一時ごろ、バイクとSUVが現れたのは森の中からだった。

    わざわざ逃げる途中で山中に逃げ込んだのではなく、最初から山にいたのだ。

     

    その正確な場所を知るのはライダーを追いかけていたSUVの乗員、つまり現在尋問の真っただ中にあるケイティ・グラハムという男がそのカギを握っている。

    書類の山に埋もれていた無線機を取り、尋問室に繋ぐ。

    捜査本部として選ばれたこのカナリア・ホテルには内線電話があったが、盗聴を恐れてヅーは軍から暗号無線機を借りていた。

     

    //-゚)「ケイティを私の部屋に連れてきてください。 今すぐに」

     

    無線に応じた男は少し狼狽えたが、三分以内に連れてくると返答した。

    机上を整理しようとはせず、ヅーはケイティを待った。

    訊くべきことは二つ。

    何を依頼されたのか、そしてどこにいたのか、だ。

     

    規則正しいリズムでノックがあり、扉に向かってヅーは入るよう短く言葉を投げかけた。

    開いた扉から現れたのは、彼の生みの親でも判別がつかない程に顔が変わったケイティと手錠につながる縄を握った私服警官だった。

    包帯などの手当てがされていることから、恐らく話すことの出来る全ての情報を出したのだろう。

    もっと早い段階で話していれば暴力は使用せずに済んだというのに。

     

    //-゚)「……単刀直入に訊きます、いいですか」

     

    万年筆のキャンプを外し、メモ用紙の上で構える。

    これから男が話す全ての情報はヅーが書き記し、活用するという表明だ。

    それを見て、ケイティを連れてきた警官は縄を握ったまま、部屋の端に移動した。

     

    ::#:-:#::)「……ふぁい」

     

    見るも無残な姿には、初めの頃のような威勢の良さは微塵も残っていない。

    プライドを持つのであれば、それに相応しい実力が備わっていなければ意味がないことをよく理解できたことだろう。

    口の中に脱脂綿が詰められているような声の男に、ヅーは二つの質問をした。

     

    //-゚)「深夜にカーチェイスをしていた相手について、貴方はどのような命令を受けていましたか?

         そして、その相手がいた場所について正確な位置を話してください。

         そうすれば、貴方の家族には悪くない対応をします」

     

    ::#:-:#::)「相手は二人組の女で、耳付きの雄ガキが一匹……

          場所はスワンソングキャンプ場から北西に進んだところ……

          殺せと……殺せと言われて、俺たちは……」

     

    これだけ有益な情報が残されているのに、それは一つとしてヅーの下に資料として提出されていなかった。

    怒りはメモを走らせる万年筆の筆先から滲み出ることもなく、静かに積もった。

    意図的なのか、それとも偶発的なのか。

    積もらせた怒りの発散についてはそれからだ。

     

    //-゚)「結構。 人相や名前は?」

     

    ::#:-:#::)「顔は分からねぇ……名前は……確か……」

     

    一呼吸おいてから男が口にした言葉は、はっきりとした発音ではなかったが、聞き間違えることはなかった。

     

    ::#:-:#::)「デレシア、だ……」

     

    万年筆が、ヅーの手の中で折れた。

    インクが黒い血のように机の上に広がり、書類を染め上げる。

    ケイティは怯えて後退るが、ヅーの視線は射竦めるようにしてそれを逃さない。

     

    //-゚)「その名前、間違いありませんか?」

     

    ::#:-:#::)「あ、あぁ……本当だ……嘘じゃない」

     

    どうやら、事態はヅーが想像している以上に複雑なようだ。

    先のジュスティアで行われた会議で取り上げられた名前は、限られた人間だけが知るはずの名前。

    ジュスティアがその歴史の中で最も隠し通したい事件の中心人物であり、ジュスティアの天敵として記録されている女性。

    それがデレシアという存在なのだ。

     

    しかしそれは、歴史の影で語り継がれるジュスティアの汚点。

    経過した年月を考えれば、現代にデレシアなる人物が存在するはずはないのだ。

    デレシアを名乗る何者かをショボンが追っているだけか、適当な名前をでっち上げたのだろう。

     

    //-゚)「スワンソングキャンプ場への行き方は?」

     

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    --‐‐''''""゙ ̄  _,,-''"                l  |.:  ::.|  August 11th AM 00:49

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    重武装した兵士を乗せた多目的装輪車――ハンヴィー――が一両用意され、ヅーはその後部座席に乗り込んだ。

    彼女自身も強化外骨格――“棺桶”――を持ち出し、戦闘に備えて大口径のライフルと弾を用意していた。

    太腿の骨は折られ、ろっ骨にひびが入り、鼻の骨も折れているが、戦う意思は健在だった。

    棺桶があれば、折れた足でも走ることが出来る。

     

    それに、自分自身の目で現場を確認しなければ気が済まない。

    真実がどうであれ、証拠が数多く残されている確率が高い場所に足を運んでも損はない。

    書類仕事はもう十分だ。

    自ら設定したタイムリミットまで、後一日と二十三時間。

     

    役立つものは全て使い、どうにか進展を図らなければ解決は夢と散る。

    折れた足を気にするぐらいでは、捜査は進展しない。

    あのトラギコは足を撃たれても平気で捜査を強行し、良くも悪くも確実に事態を流動的な物にしている。

    敵味方問わずに予想外の行動に出る癖さえなければ、もっといい状況になっていただろう。

     

    今はそれに倣い、ヅーも自らの足を使って情報収集に向かう時だ。

    顔の半分を包帯に巻かれていても、その信念は揺るがない。

    指示を受けた運転手は、無駄なお喋りをすることなく車を走らせた。

    山道を難なく走る途中、ヅーは路肩に原動機付自転車が止まっているのを見かけたが、何も思わなかった。

     

    ほどなくして見えてきたキャンプ場入口と書かれた看板に従い、未舗装の脇道を進んで森の奥へと進んだ。

    砂利を車輪が掻き鳴らす音が続く。

    十数分が経過した頃、ようやくキャンプ場の入り口が見えてきた。

    同時に、ハイビームのライトが照らしたのは横転した小型のアメリカンバイクとその手前に落ちた赤黒い塊だった。

     

    一見すれば投棄されたのよう肉塊だが、よく観察すればそれが服を身に纏った人間の死体であることに気が付く。

    野生動物に食い荒らされた死体の手前で停車し、すぐに両脇のドアからライフルを構えた部下が安全確認を行う。

    周囲の茂みにフラッシュライトの白光を浴びせ、不審な物や脅威がないかを警戒する。

    その間に助手席から“赤の男爵”スズキ・レッドバロンが降車し、死体の状態を調べ始めた。

     

    彼は署内でもバイクに関して随一の知識を持っており、ヅーが目撃したツアラーバイクにつながる情報を手に入れられると思い、今回同伴させていた。

    勿論、知識だけではなく彼の戦闘能力も込みでの判断だ。

    厳しい訓練と試験を突破し、彼は対テロリストの特殊部隊において前線で戦い、多くの功績を上げた実力者である。

    四十代の風格にアクセントを添える特徴的な泥鰌髭を蓄える彼は髭をしごきつつ死体を観察し、ヘルメットを押さえながらヅーの元へと駆け寄り、報告した。

     

    (【゚八゚】「状態が酷いですが、これは射殺体です。

         死後半日以上経過している上に食い荒らされているので、詳しい時間までは分かりませんが」

     

    入り口の直前で射殺された死体とその経緯についても、後で聞けばいい。

     

    //-゚)「ケイティのモーターサイクル・ギャングでしょう。

         昨晩、ここで戦闘があったと考えれば自然です。

         先を急ぎます」

     

    木っ端の死体が出てきたところで、この場所ならば何かしらの成果が得られるだろうという自信が出てきた。

    周囲の警戒をしていた男たちは車両の警護へとその役割を変え、三人の男達が随伴としてハンヴィーと共に前進する。

    背の高い木々に囲まれた森は暗く、ライトがなければ木々の輪郭さえ認識するのは困難だ。

    月明りと宝石箱をぶちまけた様な夜空は辛うじて細い木の枝や葉を黒い影として見せてくれるが、それはあくまでも空と木が重なった時だけ。

     

    依然として続く道を進み、一行は開けた場所に到着した。

    人工的に切り開かれた森の先に広がる一ヘクタールはあろうかという平野。

    下草は綺麗に刈り取られ、平らに均された地面には小石が僅かに転がっているだけで、小高い丘に丸太で作られた階段が申し訳なさ程度に設置されている。

    丘の上には明滅を繰り返す薄暗い蛍光灯に照らされた屋根付きの炊事場があり、テントサイトには十数張りの小型ドームテントが設営されている。

     

    薄汚れた簡易トイレもよく見られる物で、何か特筆した物があるわけでもなく、山奥のフリーキャンプ場以上でも以下でもなかった。

    妙なのは人の話し声は何も聞こえず、気配すらなく不気味なまでに静まり返った空間が広がっている事だ。

    この時期ならツーリングに訪れた人間がいてもおかしくないが、射殺体が見つかった事を考えれば、皆逃げたのだと察しが付く。

    その割には通報がないのが妙だ。

     

    最悪の事態――観光客が皆殺しにされた可能性――を想定し、ヅーは車を止めさせた。

    再びレッドバロンたちが周囲の捜索を念入りに行う。

    テント一つ一つを見て周り、無線機から報告があった。

     

    (【゚八゚】『もぬけの殻です。 誰もいません。

         争った跡はありませんが、作りかけの食事があるので急いで飛び出していったような状態です』

     

    客は全員逃げた、という事だ。

    ではどのタイミングで先ほどの男は殺されたのだろうか。

    利用客が殺したのであれば確実に争いの跡は残るのだが、それは後で尋問してケイティに訊くのが一番早い。

    彼自身が言っていた通り、デレシアたちはここから北西に進んだ場所とのこと。

     

    無線機を使い、哨戒中の三人にそれを伝える。

    三人は一度ハンヴィーに戻り棺桶を背負い、口々に起動コードを入力した。

     

    『そして願わくは、朽ち果て潰えたこの名も無き躰が、国家の礎とならん事を』

     

    傑作量産機ジョン・ドゥ達は沈黙を保ち、森の奥へと足を進める。

    その後ろからハンヴィーが続き、林道が続くと流石に下車せざるを得なかった。

    車内で待つことも出来るが、ヅーは自らの目で見て判断する必要があると感じていたため、自らの棺桶を装着することで怪我の問題を解決することにした。

    扉に手を添えて体を支えながら、起動コードを口にする。

     

    //-゚)『自由を求めるのだろうが、そんなものはどこにもない』

     

    コンテナ内に取り込まれるとすぐに強化外骨格が全身を包み、そして解放される。

    脚を折ったとは思えない程軽快に動けるよう筋力補助装置が作動し、事実上、ヅーは片足だけで立って歩行することが可能となっていた。

    今回、ヅーの強化外骨格“イージー・ライダー”には回収を施してあった。

    舗装された道を走破することを前提に設計されたタイヤをオフロード仕様の物に交換し、プログラムを荒地に設定した。

     

    これで山道を高速で駆け抜けることが出来る。

     

    ::[ Y])『ここで待機していてください。 何かあれば無線機を使うように』

     

    ( ''づ)「了解です」

     

    脚部の車輪を使う事で足にかかる負荷を軽減させ、部下を先頭にすることで自分自身の負担を軽くしながらヅーは森の中に分け入った。

    周囲の光源の量を感知したカメラが自動で切り替わり、熱源を可視化する赤外線暗視モードになった。

    赤い映像として野生動物や高温の何かが青黒い森に浮かび上がる。

    暗い色をした木を避けつつ、バランサーの稼働状況が良好であることを確かめた。

     

    山道が危険と言われる所以は、その足元の不安定さにある。

    段差の有無だけでなく、その性質が場所によってまるで異なるためだ。

    湿った場所、乾いた場所、落ち葉の積もった場所、岩だらけの場所、水のたまった場所などその種類は千差万別。

    棺桶に内蔵された戦闘環境情報は非常に豊富だが、その入力と各部位の調節はアナログに頼る部分が大きい。

     

    戦闘中の環境変化に応じて全身の微調節を行うには、高性能な処理装置や強固な部品と対応したパーツが必要になる。

    無論、量産型の棺桶にそのような機能は備わっていない。

    激しい戦闘下での使用が大前提となる棺桶に求められている物を考えれば、開発段階でその機能が省かれた理由は想像に難くない。

    木を掴みながら斜面を下ると、最前列を歩く男がライフルに付いた赤外線ポインターを使って十数フィート先に広がる平らな地点を示した。

     

    そこにあったのは、キャンプの跡だった。

    わざわざ設備の整ったテントサイトから離れて森の中に設営するなど、明らかに普通ではない。

    そしてそれを裏付けるようにして、テントの周辺に転がる肉塊とオフロードバイクの残骸をセンサーが捉えた。

    人間の形をしていた肉の塊は動物に食われ、目玉を失い、内臓が引き摺り出されている。

     

    が、彼らは幸いだっただろう。

    それぞれ差はあるが彼らは別の攻撃によって命を奪われており、生きたまま食われるという恐ろしい経験をせずに済んだのだから。

    銃創、切創はいずれも急所に対して当てられている。

    また、地面に転がる真鍮製の薬莢の多さに思わず驚く。

     

    形を見ると拳銃のそれが僅か、ほとんどがライフルの物だった。

    これを全て拾って調べる気にもなれず、その必要性も感じなかった。

    死体を部下に任せ、ヅーはテント周辺に有益な情報を秘めた証拠品を探し始める。

    小さな焚火の跡、つい先ほどまで使っていたかのように整然と地面に並ぶ食器類。

     

    テントの中には銀マットとシュラフが広げられており、争いがあったとは思えない程に整っている。

    しかし死体と薬莢があればここが戦場と化したのは紛れもない事実であり、実行犯として濃厚なのがヅーの前に現れたバイクの乗り手だ。

    地面に残されていたタイヤの跡は風で消えてしまい、改めて追うのは不可能だろう。

    更に見つけたのが、四輪車が強引に走ったと思われる轍だった。

     

    草が倒れ、背の低い木が折れていることからそれは間違いない。

    現場は紛れもなくこの場所だ。

    デレシアに通じる情報を得れば、ショボンが追っている人物の正体が分かる。

    そうすれば、今後マークするべきはその人物という事になる。

     

    警察の捜査網を駆使すれば足取りを掴むことなど造作もない。

    アサピーよりも効果のある生餌を手に入れれば、後は先手を打ってショボンに対抗が出来るのだ。

    さりとて、証拠が見つからなければ生餌を獲得するどころではない。

    念入りに調べる必要があった。

     

    ::[ Y])『このキャンプに証拠がなければ撤収――』

     

    〔Ⅲ゚[::|::]゚〕『――ロックオンされた!!』

     

    レッドバロンの声とイージー・ライダーのセンサーがロックオン警報を鳴らすのは同時だった。

    ロックオン警報が示すのは紛れもない敵意と明確な殺意だ。

     

    〔Ⅲ゚[::|::]゚〕『エイムサポート、オン!!』

     

    自動で照準を合わせるためのシステムを起動した途端、銃口がキャンプサイトの方に向けられた。

    夜空を背にして現れたのは、白い装甲の強化外骨格五体だった。

    その形状はレッドバロンたちのそれと同じで、ジョン・ドゥだ。

    大きく異なるのはカラーリングだ。

     

    純白の装甲に描かれた金色の木のイラスト。

    悪趣味ここに極まれり、といったところだ。

    対戦車砲の砲口がこちらを向いている。

    防御が間に合えばその直撃にもある程度は耐えられるが、当たり所が悪ければジョン・ドゥと言っても無事では済まない。

     

    〔欒゚[::|::]゚〕『今すぐ棺桶を捨てろ!!

          お前らの仲間が死ぬぞ!!』

     

    見張りに残していた男の事を言っているのだろう。

    暴力に屈しない。

    これは警察のみならず、ジュスティア全体の認識だ。

    つまり、人質になった場合は救助を期待してはいけないのだ。

     

    レッドバロンはそれを知っているし、人質になっている部下も同様に心得ている。

    下す判断と決断に揺るぎはなく、直後にレッドバロンたちが起こした行動は正解だった。

    ライフルが火を噴き、銃弾が白いジョン・ドゥに吸い込まれていく。

    ジョン・ドゥは後退しつつ、対戦車砲を発射してきた。

     

    円錐形の発射物は吹き上げる風にあおられ、木に直撃した。

    ジョン・ドゥ本体がその力でロックオンすることは可能だが、武器に追尾機能が付いていなければほぼ意味がない。

    エイムサポートと大差のない機能で、自分が狙うべき敵を正確に捉えてそこに銃弾を撃ち込むための機能。

    使うと使わないとでは射撃性能に大きな差が出るが、そこには当然、使用者の腕も関わってくる。

     

    爆風に吹き飛ばされないようにしながら、ヅーは木の倒れる方向を確認して指示を出す。

    位置関係の有利さを捨てただけでなく、武器と兵器の特性を理解していない人間など、いちいち相手をしていられない。

    強化外骨格の回収だけで十分だ。

     

    ::[ Y])『レッドバロン、彼らを追ってください。 モーターサイクル・ギャングの残党なら、生け捕りの必要はありません。

        残り二人はそのサポートに。 私はここで捜査を続けています』

     

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    !ソ;j|W "" Vv,w,.vw,.v"ji,,Iw,,MW w,,Mv,w,.vw,.vW "" V"j    August 11th AM 01:15

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    自分がいる森がそう広くないことを、アサピー・ポストマンは理解していた。

    ひたすら南に向かって――海の香りのする方角に――歩いて行けば、自ずと街に出られる。

    つまり、遭難するという事はないのだ。

    が。

     

    人探しをしながらとなると、森は途端にその姿を変える。

    ハイキングに訪れる高山と宝探しに挑む高山とで異なるように、森は今、巨大な迷路と化していた。

    第一の障害として視界が制限され、第二に足元が悪い、第三に音が入り乱れ、第四に匂いも混ざっているというハンデがある。

    そして第五の障壁としてアサピーを苦しめているのが、見えないゴールの存在だった。

     

    トラギコ・マウンテンライトが逃げ込んだと推測される森の中で遭遇するには、確固たる証拠がなければならない。

    ゴールの位置が分からなければ、迷路は終わることがないのだ。

     

    ;-@@)「トラギコさーん、おーい」

     

    十分おきに声を出して自らを鼓舞しつつトラギコに呼びかけるのと同時に、夜行性の動物に対する威嚇を行っている。

    水も持たずに来たものだから喉が渇き始め、額に浮かぶ汗はその量を増していた。

    涼しげな風がせめてもの救いだが、最良の救いはトラギコとの合流に他ならない。

     

    ;-@@)「トラギコさーん、迎えに来ましたよー」

     

    別の意味の迎えにならなければいいのだが、と心中で皮肉を呟く。

    いくら叫んだところで、反応はない。

    その時、反響した破裂音と爆発音が聞こえた。

    花火ではない。

     

    散発的に続くその音は森と山に響き渡り、どこから聞こえているのか分からない。

    争いの音に驚いた理由は二つ。

    単純に争いが起こったという事実と、その対象が自分ではないという事。

    つまり、誰かがどこかで戦っているという事だ。

     

    トラギコの可能性もあり得る。

    緊張感に背を押されながら、アサピーは歩く速度を変えて街を目指すことにした。

    今ここで夜明けまで探すのも選択肢の一つだが、街を目指す手もある。

    街に出て乗り物を調達し、改めてこの森に戻るのだ。

     

    希望的観測よりも現実的な観測だ。

     

    ;-@@)「とーらーぎーこーさーん!!」

     

    声は虚しく響く。

    はずだった。

     

    「うるっせぇな」

     

    その声は背後から聞こえた。

    最早聞き慣れ、そして切望していた声だ。

    獣を思わせる低い声、剣呑さを含みつつも独自の信念がちらつく明瞭な声。

    顔だけを恐る恐る後ろに向けると、期待した通りの男がいた。

     

    雲から漏れた月明りが森に幻想的な光を与え、その木漏れ日に照らされるようにして現れたのは右の頬に二本の傷を持つ男。

    手持ちのライトで詳細に照らし出すまでもない。

     

    (=゚д゚)「ゆっくりオーバーナイト・ハイキングも出来やしねぇラギ」

     

    片足を引きずりながら現れたトラギコの姿を見たアサピーは喜びのあまり抱き付きそうになったが、変装したショボンの可能性を考えて一歩退いた。

    彼の変装技術を見破るのは容易ではない。

    前は放つ雰囲気で察することが出来たが、それを警戒して雰囲気まで真似されたら対処しようがない。

     

    ;-@@)「ほ、本物ですか?」

     

    (=゚д゚)「あぁ、本物だよ」

     

    偽物だとしても、同じことを言う。

    本物との判別をするには、何かの証拠が必要になる。

    喜びで盲目になって死ぬなど、まっぴらごめんだ。

     

    ;-@@)「証拠はどこにあるので?」

     

    (=゚д゚)「あ? うるせぇな。 俺を探しに来たんじゃねぇのかよ。

        第一、手前が本物だって証拠はあるのか?

        まぁいい、何か質問してみるといいラギ」

     

    この物言い、何か違和感を覚えてしまう。

    本質的に変化はないのだろうが、少しだけ棘がなくなったような、そんな気がする。

     

    ;-@@)「ぼ、ぼくが公の場でトラギコさんを呼ぶ時は何と呼べばいいのでしたか?」

     

    面倒くさそうに溜息を吐き、トラギコは答えた。

     

    (=゚д゚)「トライダガー、だ。

        で、わざわざ俺を探しに来たってことは何かあったのか?」

     

    少し警戒しつつ、アサピーはトラギコに近寄る。

    服は汚れ、真新しい擦り傷や切り傷、打撲の痕が痛々しい。

    ようやく警戒を解いたアサピーは二人で木の根に座り、これまでに自分が経験したこと、調べて分かったことを全て伝えた。

    話を聞く間、トラギコは一切メモを取らなかった。

     

    以前話していた通りだった。

    彼はメモを取らない。

    ショボンたちに狙われ、マニーの配慮でここに来ることが出来たと伝えても、トラギコは眉一つ動かさなかった。

    ここまで情報を提供した上で、アサピーは肝心要の話に移ることにした。

     

    -@@)「一つ、教えてほしいことがあります」

     

    無言でトラギコが続きを促す。

     

    -@@)「鐘の音に紛れさせて狙撃を行うという事は可能なのですか?」

     

    これまでに起こった事件。

    それとほぼ同時に起こっていた、狙撃。

    カール・クリンプトン、そしてアサピー自身が経験した狙撃は全て鐘の音が関係していた。

     

    (=゚д゚)「あぁ、可能ラギ。 俺が担当した事件じゃねぇが、そういう馬鹿たれがいたラギ。

        毎日決まった時間に教会の鐘が鳴るのに合わせて人殺しを楽しんだ奴ラギ。

        ……狙撃手の位置が分かったラギね?」

     

    -@@)「えぇ、その位置も銃火で目視しました。 狙撃手はグレート・ベルにいます。

          グレート・ベルにいれば鐘を鳴らせるし、街のほとんどが見下ろせますから」

     

    (=゚д゚)「いい読みだが、あと一歩ラギね。 狙撃に関わらず、事件を起こす時にはだいたい鐘の音が関わってるラギ。

        事件発生を悟られにくくする、いわば消臭みたいなものラギ」

     

    トラギコもトラギコで、アサピーと同じことに気付いていたようだ。

    ならば、ショボンの組織に属する人間がグレート・ベルに陣取っているのはほぼ確実だ。

    つい最近のトラギコならば、今すぐにでも乗り込んで――

     

    (=゚д゚)「分かってるなら話が早いラギ。 絶対にあそこに乗り込むな」

     

    ;-@@)「え」

     

    (=゚д゚)「え、じゃねぇ。 狙撃手を捕まえるなり殺そうと思っても、グレート・ベルに行くなって言ってるラギ」

     

    ;-@@)「そりゃまた、どうしたわけで?」

     

    トラギコの様子がおかしい。

    アサピーの知る限り、トラギコは目の前に転がる真実の断片でも貪欲に貪るはずだ。

    まさか、このトラギコは偽物なのだろうか。

     

    (=゚д゚)「勘違いするなよ、別に日和ったわけじゃねぇ。

        そこにいる奴の正体に見当が付いてるから言ってるラギ」

     

    ;-@@)「見当が付いてる……?!」

     

    (=゚д゚)「あぁ、だからこそだ。 ここで手を出しても美味くねぇ。

        今は寝かせておく。 そして喰う。 酒と同じラギ。

        そのためにも、お前に協力してもらうラギよ。 手を貸してくれるラギね?」

     

    狙撃手の正体やトラギコの言う寝かせる、の意味が分からないかった。

    だがしかし、情報を全て手に入れた上でトラギコが判断するのであればアサピーの返答は決まっている。

    トラギコの出した答えに従うだけだ。

    覚悟は済ませておいたはずだ。

     

    -@@)「勿論、協力しますよ。

          で、僕は何をすればよろしいので?」

     

    (=゚д゚)「望遠レンズは持ってるよな?」

     

    -@@)「自分のもありますが、新聞社にならすんごいのがありますよ。

          それこそ天体観測できそうなやつが」

     

    レンズは望遠の距離が長くなれば長くなるほど、更に性能が高くなるほどにその大きさと重量が増す。

    オメガ社のレンズもいいが、アサピーは長い間愛用しているニッコール社製のレンズが好みだった。

    無駄のないデザインと扱いやすさ、そして頑丈さは同社が生産しているカメラと同様に信頼性が高い。

    会社にあるのは一キロ先にいる人間を綺麗に映し出せる代物だ。

     

    (=゚д゚)「なら、今から会社に行くラギよ。 お前は狙撃手の顔を撮影しろ。

        ただし、気付かれないように遠距離からだ」

     

    ;-@@)「そんな無茶な!!」

     

    思わず声を荒げてしまったのは無理もない。

    遠距離から対象物を撮影する際には技術が要求される。

    最も大変な作業として挙げられるのが、対象物の行動速度だ。

    フォーカスを手動で合わせるのはいいとしても、対象が動いてしまえばそれだけでずれてしまう。

     

    何よりも恐ろしいのがカメラのブレだ。

    どこかに拠点を設け、三脚を設置するのであれば話は変わるが、そうでないのならばかなりの集中力と慣れが必要になる。

    シャッターを切るその瞬間に一切カメラをぶれさせず、かつ対象を捉え続ける技量。

    これらは全て、実践の場においてのみ習得することの出来る物だ。

     

    望遠レンズを使った撮影は野生動物や有名人の撮影にしか使われない。

    つまり、対象に悟られない距離からの撮影を前提にしている。

    今回は違う。

    狙撃手に悟られる可能性は非常に高く、悟られたら撃たれるのだ。

     

    絶対に悟られない距離。

    つまり射程外からの高解像度での撮影。

    それに使うためのレンズは一択。

    天体撮影用の超望遠レンズだ。

     

    ;-@@)「狙撃手の腕は知りませんが、これまでの経緯を考えると1.3マイル圏内は射程内ですよ!!

          それ以上の距離から悟られないようにするって言ったら――」

     

    (=゚д゚)3マイルは必要ラギ。 で、それがどうした?」

     

    これが日中ならばいい。

    しかし今は夜。

    街に着くのが遅れたとしても、撮影が始まるのは遅くても明け方の四時だ。

    まだ暗い時間帯である。

     

    となれば露光時間の問題が生まれる。

    足りない光源を補うと、更に手振れの問題が増加する。

    有線式のシャッタースイッチがなければ、これは非常に難しい撮影となる。

    天体は地球の自転に合わせてカメラを自動で動かすための装置があるため、そこまで難しくはない。

     

    生物は別だ。

    完全に別なのだ。

    予測の出来ない動き、予想の出来ない行動。

    それがあるからこそ、パパラッチは望遠レンズをある程度の距離に収めているのだ。

     

    超望遠レンズはその重量から三脚を使わなければならない。

    アサピーの手元にはない、二つの道具が必要になる。

    超望遠レンズと有線式シャッタースイッチだ。

     

    ;-@@)「……道具を手に入れなければ無理ですよ」

     

    (=゚д゚)「何が必要なんだ?」

     

    ;-@@)「レンズとリモコンです。

          それも、新聞社にないようなレンズです。

          天体を撮るようなレンズなんですが、値段が七万ドル以上するんです」

     

    七万ドルを一度に手に入れるとなると、それこそ金庫をこじ開けるしかない。

    丁度支社には誰もいないから不可能ではないだろう。

    流石に値段を聞いたトラギコも目を丸くして驚き、呆れたように訊き返した。

     

    (;=゚д゚)「お前、俺をおちょくってるラギか? たかがレンズに七万ドル?

        車が二台、下手すりゃ家が買えるラギ」

     

    ;-@@)「真面目ですよ!! この島に売っているのかどうかさえ怪しいレンズです。

          まず夜って時点でも厳しいんですよ!!

          これ以外の望遠レンズを使って顔を撮るなら、どうしたって射程圏内に行かないと」

     

    (=゚д゚)「じゃあそれで行くラギ」

     

    ;-@@)「はい?」

     

    (=゚д゚)「お前は耳が悪いのか? 射程圏内に入るってんだよ。 それで撮ればいい。

        七万ドルなんて大金揃えても物が売ってなけりゃ意味がねぇ、そうだろ?

        お前が頑張れば全て解決ラギ」

     

    簡単に言うが、アサピーは断じて戦場カメラマンではない。

    戦場カメラマンとパパラッチが異なるように、新聞記者と戦場カメラマンは全く性質が異なる。

    撮るべき写真の種類が違うのだ。

    戦場カメラマンが求められるのは衝撃的かつシンプルな写真であり、それ一枚が秘めた威力にこそ価値がある。

     

    銃弾飛び交う戦場で撮影された写真はピントが合う事の方が珍しく、それでもピントを合わせられた写真が傑作として世に知れ渡る。

    命がけの一枚。

    そのような写真の撮影の経験はないし、そこに付け加えられるのが鮮明な写真。

    狙撃手の顔を写真に捉えるという事は、狙撃手もアサピーを照準器に捉えられるという事だ。

     

    (=゚д゚)「俺も手伝ってやるからよ」

     

    ;-@@)「手伝うって、何を?」

     

    (=゚д゚)「そりゃお前、囮に決まってるだろ」

     

    ;-@@)「いやいやいや、それは駄目ですよ!!」

     

    (=゚д゚)「黙れよ。 いいか、俺が囮になれば奴は必ず撃ってくる。

        その瞬間を撮れ。 チャンスは一度、そして一瞬だ。

        言っておくが、殺されるつもりはねぇラギよ」

     

    事故の時に頭を打ったに違いないと、アサピーは確信した。

    これはトラギコであってトラギコでない。

    棘はなくなるし、妙に物わかりがいいかと思ったら恐ろしい提案をしてくる。

    どこかのネジが外れているに違いない。

     

    ;-@@)「そ、その前にトラギコさん」

     

    (=゚д゚)「あ?」

     

    ;-@@)「頭の病院、行きません?」

     

    直後、アサピーは星を見た。

    青白い星が目の前で花火のように散り、目の前の影や人の像が歪む。

    頭を押さえてアサピーはうずくまる。

     

    (#=゚д゚)「いきなり失礼な奴ラギね。

         その前に手前を病院送りにしてやろうか?!」

     

    ;-@@)「うごご……」

     

    (=゚д゚)「俺ぁな、この歯糞みてぇな事件を終わらせてさっさと次に行かなきゃならねぇんだよ。

        協力しろ、アサピー」

     

    ;-@@)「そりゃ、協力しますけど……」

     

    言いかけたアサピーの頬を掴んで自分に顔を向けさせたトラギコは、額がぶつかるほど近くに顔を寄せた。

    視線と視線を合わせ、声を潜めて断言する。

     

    (=゚д゚)「詳しくは教えてやれねぇけどな、いいことおせぇてやるよ。

        ……この事件、俺たちが思っている以上のヤバさだ。

        下手すりゃ世界がひっくり返るような大きさだ。

        どうだ、ワクワクするだろ? なら、四の五の言わずに手を貸せ」

     

    幾多の事件を解決してきたトラギコが言う、巨大な事件の一端を意味する言葉。

    不謹慎ではあるが、興奮しないはずがない。

    人は誰でも巨大な何かの正体を知りたがるものだ。

    巨獣の骨が見つかればその全身を、美女の指を見ればその全貌を。

     

    ましてや、それに関わることが出来るとなればこれは乗らない手はない。

    躊躇う必要はない。

    トラギコが自ら申し出てくれるのであれば、それに乗るだけだ。

    情報を提供した上で判断を委ね、それに従う。

     

    そう決めたのは自分だ。

    大事の前の小事には目をつむる。

     

    ;-@@)「えぇ、協力しますよ、勿論!!」

     

    (=゚д゚)「心変りが早くて嬉しいが、情緒不安定なのだけは勘弁しろよ。

        それと、分かってるとは思うがこの事件についてはまだ報道するな。

        余計なことを報道して相手に隠れられると困る。 それ故に誰にも教えるな。

        出来る限り生きた状態を保って、気付いていないふりをし続け、そして最後に噛み付く。 狩りと同じラギ。 その点も協力してくれよ?」

     

    返事は同じ。

    従うだけ。

    そう。

    この男は“虎”。

     

    彼となら、夜の森さえ恐怖するに足らないのである。

    それから二人は、街の明かりが見えるまで無言のまま森を突き進んだ。

    森の出口は街の外れにある工場地帯に続いていた。

    すでに炉の火は落とされ、稼働している工場は一つもない。

     

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    :::::::::::::::::::_jni─ェェ::::::::::::::::::::::::::::::::::::::: August 11th AM 03:23

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    ニニニニニニl小ニニニニニニニニニニニニニl ||i⌒「i i r , - -,--ii_   r‐┬‐┤:!TTE !

        r:‐、田  口 ニニ介 _r r ュ ュ |||  H i//_/_/_i__i ∞ r r rnr |..::::::::::::::::

     r二三二> ァ _ _ _ _ _ _ n  cno_!_n__rュ∞_n_n__  _ T_ |.qp......:::::::::::::i::::::

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    二人が出てきたのはそんな工場の内の一つで、ドラム缶があちらこちらに置かれている駐車場だった。

    古びて薄汚れたワゴン車が数台停まっている。

    スライドドアにロゴらしきものがプリントされているのを見るに、社用車だろう。

     

    (=゚д゚)「よっしゃ、車を借りるラギ」

     

    -@@)「お知り合いがいるので?」

     

    警察手帳一枚あれば高級ホテルのディナーの会計から、車の徴用まで幅広く行える。

    一度その威力を知った人間は以降、同じ人物に対しては手帳なしで協力するものだ。

    この小さな島の工場にもトラギコの影響が及んでいると考えると、少し感動してしまう。

     

    (=゚д゚)「いねーよ。 借りるって言ったろ?

        それに、こんな時間にどうやって貸してくれって言うんだよ」

     

    愚かなのはアサピーであるかのような言い草だ。

     

    ;-@@)「ちょっ、盗るつもりですか?! 警官でしょ!!」

     

    (=゚д゚)「“俺”が借りるなんて一度でも言ったラギか?」

     

    ;-@@)「でも、さすがに……それは……」

     

    どのような理由があれ、窃盗は犯罪だ。

    警察の息がかかった街でなくとも、窃盗を許容する街は世界でも一つしかない。

    盗賊ギルドの本拠地、“セフトート”だけである。

     

    (=゚д゚)「あぁ、警官が盗るのはまずいって言いたいんだろ?

        だから、お前がやれ」

     

    そう言って渡されたのは金属製の棒が二本。

    先端が曲がって鉤状になっているそれは、一目で目的の分かる物だった。

     

    ;-@@)「そんな道具使えませんよ!!」

     

    (=゚д゚)「そう怒鳴るなよ。 いいか、やり方なら教えてやるから」

     

    ;-@@)「ならトラギコさんがやってください、このことは言いませんから」

     

    (=゚д゚)「そうもいかねぇラギ。 ここでやり方覚えておかねぇと、後で必要な時に動けねぇだろ」

     

    確かに、ピッキングの方法が分かれば後々の生活――例え職と家を失ったとしても――に役立つだろう。

    トラギコが自分に求めているのは、優秀な相棒としての成長なのだろう。

    それに答えることが出来れば、自分のためにもなるが間違いなく人としての道を外れることになる。

     

    ;-@@)「やっぱり、犯罪は……」

     

    (=゚д゚)「今さら綺麗ごと言ってんじゃねぇラギ」

     

    ;-@@)「それに、僕が車を盗ったらそれをネタに酷いことするんじゃないですか?」

     

    (;=゚д゚)「変な本の読みすぎラギ。 ネタにしてゆするならもう少しまともな奴にするラギ。

        いいか、この事件が終わってからもお前には色々と動いてもらいたいラギ。

        そのためには今のままじゃ駄目ラギ。

        お前は真実とやらのためには割と何でも出来る奴だと思ってたんだが、見込み違いラギか?」

     

    トラギコの人心掌握術は最悪だ。

    人を褒めることもなければ煽てることもない。

    その代りにトラギコは全てに正直であり、真っ向から言葉を発する。

    それに惹かれた人間はそう簡単にトラギコから離れられない。

     

    アサピーもそんな人間の一人なのだと、強く実感した。

    巻き込まれることに対して嫌に感じることもあるが、それでも迷惑だとは思わない。

    逆に、もっとトラギコと共に行動したいと思わずにはいられないのだ。

     

    -@@)「分かりましたよ、やりますよ。

          で、どうすればいいんですか?」

     

    (=゚д゚)「車の錠ってのは案外簡単ラギ。 ピンシリンダータイプだからなおさらラギ。

        いいか、まずは……」

     

    それから五分間の講義を受け、アサピーは錠の仕組みを理解した。

    物事と同じく、あるべき場所にあるべき物が収まれば動かすことが出来る。

    渡された道具を使って鍵穴に差し込み、教えられたとおりに動かして回転させる。

    驚くほどあっけなく鍵が開き、アサピーは自分が一つとんでもない技術を身につけてしまったことに身を震わせた。

     

    何より、トラギコが知っているという事は、彼は実践したという事を意味している。

    細かいことを気にしていたら話が進まない上に自分の中にある倫理観が崩壊する気がしたため、アサピーは考えるのを止めた。

     

    -@@)「で、エンジンをどうやって始動するので?」

     

    (=゚д゚)「結局は電気系統の話ラギ、だから繋げてやれば言う事を聞く」

     

    先ほどの道具をイグニッションキーの代わりに差し込み、捻る。

    するとエンジンが目覚め、各種計器類が明るく輝きだした。

     

    (=゚д゚)「運転は任せるラギ。

        まずはレンズを手に入れるラギ」

     

    -@@)「では、僕のアパートに」

     

    (=゚д゚)「いいだろう。 それから少し休んで、今日の昼にやるラギ。

        ……暗いと、お前の都合が悪いんだろ?」

     

    何気ない気遣いに驚く。

    確かに昼の方が好条件だ。

    急いで明け方に撮影する必要はないという事なのだろうが、それは相手の狙撃を成功させやすくなるという事だ。

    最も都合が悪くなるのはトラギコなのだが、それでもかまわないのだろうか。

     

    -@@)「それは、そうですが……」

     

    (=゚д゚)「ならそれでいいじゃねぇか。 俺はお前がやりやすいようにしてやる。

        だけどな、ちゃんと結果を出せよ」

     

    打算なく信頼されている事が嬉しかった。

    これがトラギコの魅力なのだ。

     

    (=゚д゚)「ほら、行くラギ。

        あのタコ助がこっちを見つける前に行動しないと駄目ラギよ」

     

    目頭が熱くなったのはきっと、疲れているからだ。

    一日の間に起きる物事の密度と回数が多すぎるためだ。

    言葉を発することなく、アサピーはギアをバックに入れて静かにアクセルを踏んだ。

    ワゴン車はゆっくりと工場地帯を走り抜け、市街地へと近づいていく。

     

    徐々に浮かび上がってくる街の輪郭よりも目につくのは、当然――

     

    (=゚д゚)「グレート・ベル、か」

     

    -@@)「そういえば、鐘に合わせて人を撃ったっていう事件。

          聞かせてもらってもいいですか?」

     

    (=゚д゚)「面白くもねぇ話ラギ。 勉強のできる学生が人を殺すことに興味を持って、後は実験ラギ。

        鐘楼は“鳥の巣”って呼ばれるぐらい狙撃手にとっては好まれる場所ラギ。 見渡し良好、高さも立地も文句なし。

        犯行に及んだのは十九歳の男で、動機は人間が死ぬのが楽しいから、だったラギ。

        あまり知られていないのは、起こったのが“セントラス”だったからというのと、街の意向があったからラギ。

     

        死んだのは全部で二十一人。 逮捕されるまでの間、一か月間奴は撃ち続けた」

     

    宗教都市、セントラス。

    十字教の本拠地であり、聖地でもある。

    それほどの事件が公にならないのは、トラギコの言った通り、街の意向があったからこそだ。

    セントラスには新聞社が一社だけある。

     

    当然、宗教新聞だ。

    モーニング・スター新聞社は支店を設けるどころか、その記事を持ち込むことさえ禁じられている。

    閉ざされた街だが、もめごとやその解決は警察に任せている。

     

    -@@)「ですが、どうして銃声が鐘の音で聞こえなくなるのでしょうか?」

     

    (=゚д゚)「細かい理屈は知らねぇが、まぁ同じ音だからな。

        届くまでの時間は同じラギ。

        と言っても、法則性があったからな。 所詮は素人ラギ。

        それに目撃者もいたラギ」

     

    -@@)「なるほどですね。 そういえばトラギコさん、目星がついているって言ってましたよね。

          一体どんな人物なんですか?」

     

    (=゚д゚)「聳え立つ糞の固まりラギ」

     

    黄色で点滅を繰り返す信号機が、街の入り口を教えてくれた。

    静寂に包まれた夜明け前の街を訪れたワゴン車は細い道を通り、アサピーのアパート前に停車した。

    二人はすぐに降りてアサピーの部屋に上がり込んだ。

    特に何かを荒らされた形跡もなく、転がっていたはずの男達はすでに運び出された後だった。

     

    (=゚д゚)「部屋のカーテンを全て閉めるラギ。

        グレート・ベルからこの部屋は一応死角だが、万一があるラギ」

     

    -@@)「分かりました。 カメラを準備して、後は食事でも?」

     

    (=゚д゚)「気が利くじゃねぇか。 だが凝る必要はねぇラギ。

        インスタント麺で十分ラギ」

     

    買い置きのインスタント焼きそばが戸棚に入っていることを思い出したアサピーは、台所に向かった。

    まずカーテンを全て締め切り、窓の鍵も施錠した。

    やかんに水を入れ、ガスコンロに点火する。

    戸棚の奥に積んであったインスタント焼きそばの容器を手に取り、包みをはがす。

     

    “かやく”と呼ばれるキャベツを中心としたフリーズドライの具材を乾燥麺の上ではなく、下に敷く。

    こうすることで湯を捨てる時に流れ出る心配がなくなるのだ。

    その代り、湯は容器の縁から麺の下に注ぐようにしなければならない。

    ふいに視線を感じて振り返ると、そこにはトラギコがいた。

     

    (=゚д゚)「へぇ、焼きそばか。 一つしかねぇのか?」

     

    湯を注ぐアサピーの手元を見つつ、パッケージをしげしげと見る。

    銘柄についての文句が出ると思ったが、特に何も意見は出てこなかった。

     

    ;-@@)「え、えぇ。 あんまり家にいることがないもので。

          非常食が常食ですよ。

          一つじゃ足りないかもしれませんが、勘弁してください」

     

    (=゚д゚)「飯はちゃんとしたものを食えよ。 まぁいい。

        半分ずつ食えば十分ラギ」

     

    -@@)「半分ずつ? だって、トラギコさんが……」

     

    (;=゚д゚)「あのなぁ、俺一人だけ食ってたら味なんかしねぇラギ。

        せっかくあるんだったら、二人で食った方がいいラギ。

        とにかく、半分だ。 いいか、お前もちゃんと食うラギ。 お互いに怪我人なんだ、いいな?」

     

    -@@)「も、持ちのロンですよ!!」

     

    待つこと三分。

    湯きりを行い、粉末タイプのソースをまんべんなくふりかけ、よく混ぜる。

    液体タイプのソースと粉末タイプの最大の違いは、麺に絡みやすいか否かという点だ。

    前者の液体タイプは十分すぎるほどよく麺と絡まるが、若干多すぎる問題が生じてしまう。

     

    対して粉末のソースは絡みにくいが水分を吸い、麺と無駄なく合わさって味に均一性が生まれる。

    どちらも気をつけなければならないのが、麺にだけソースを和えるのではなく具材にも合わせてやることだ。

    こうして出来上がった麺の半分を紙皿に載せ、最後に刻まれた青のりをかけて完成である。

    二人はそれを立ったまま啜り、黙々と食事を始めた。

     

    甘辛いソースの味が食欲を沸立て、少量のキャベツを奥歯で大切に噛み締めると、甘みを含んだ水がしみ出した。

    それも僅かの量だが、ソース一色の味の中に新鮮な存在だった。

    麺を啜る音だけで、会話はなかった。

    美味いかどうか、それはトラギコの口からは出てこなかったが、無言で啜るその音が十分に感想の役割を果たしている。

     

    食事を手早く済ませ、アサピーはインスタントコーヒーを入れた。

    砂糖は大匙三杯入れ、二人は現像室に向かった。

    あの部屋は窓を閉め切り、外部の光が一切差し込まないようになっている。

    誰かに外から見られる心配は全くない。

     

    部屋のエアコンを入れ、室温を低くする。

     

    (=゚д゚)「じゃあ、計画を話すラギ。 この街の地図はあるラギか?」

     

    -@@)「パンフレットに使ったものでしたら……ここに」

     

    クリアファイルに入れてあった地図を取り出し、目の前の机の上に広げる。

    白黒の地図には蛍光ペンで様々な店がマークされている。

    アサピーがこの島に来て間もない頃に手掛けたパンフレット制作で使ったものだが、結局採用はされなかった。

     

    (=゚д゚)「グレート・ベルはここラギ。 おいカメラマン、どこからなら狙撃手を撮影できるラギ?

        言っておくが、野郎は絶対に縁からライフルの銃身や体を出さないラギ」

     

    -@@)「見下ろせる、もしくは同じ目線にまで行かないと撮影できないですね。

          顔を撮るとなると、同じ高さにいないといけません」

     

    (=゚д゚)「それが出来る場所はあるラギか?」

     

    -@@)「周辺には高さのある店はないので、どうしてもここになります」

     

    地図の一点を指で示す。

    グレート・ベルから西に進んだ場所にある医療施設。

    即ち――

     

    (=゚д゚)「――エラルテ記念病院か」

     

    -@@)「はい。 島のシンボル以上の高さの建物はないんですよ。

          ですが、この病院の屋上は260フィートあります。

          距離で高低差を埋められるので、この屋上から撮影するしかありません」

     

    グレート・ベルの高さは約270フィートある。

    島にあるどのホテルや宿泊施設もそれ以上の高さを越えないよう、また、景観を損なわないように厳しい制限がされている。

    だが、エラルテ記念病院だけは例外だった。

    歴史的に意味のある病院の建築に際して、グレート・ベルの次に高い建物であることが求められた。

     

    結果、十五階建てながらも260フィートという高さを持つに至り、ティンカーベルで二番目に高い建物として今日に至る。

     

    (=゚д゚)「他に手がないなら、それで行くラギ。

        必要な物はあるか?」

     

    -@@)「新聞社にある望遠レンズとリモコン、後は三脚ぐらいですね」

     

    日中とはいえ、望遠での撮影には手振れは依然として敵である。

    それを軽減するための道具として三脚、そしてリモコンが必須だ。

    この二つがなければ自分の体を使ってカメラを固定する他ない。

     

    (=゚д゚)「三脚は却下ラギ。 高く構えればそれだけ目立つラギ。

        奴ならレンズ越しにお前の頭を撃ち抜ける。

        絶対に見つかったら駄目ラギ」

     

    -@@)「分かりました。 で、動きとしては?」

     

    (=゚д゚)「お前はジュスティアに目をつけられているから、それに見つからないように病院に行くラギ。

        この後すぐにでも出発して屋上で待機するラギ。

        で、俺は昼の鐘に合わせて動くから、奴が顔を出したところを撮れ」

     

    ;-@@)「一緒に動かないんですか?」

     

    (=゚д゚)b「一緒に動けば怪しまれるし、目立つだろ。 当然、別行動ラギ。

         ただ、タイミングだけは一緒ラギよ」

     

    肩を叩いて親指を立てたトラギコは、話を続ける。

     

    (=゚д゚)「狙撃手の顔を撮ったらそのフィルムを――」

     

    こうして綿密な打ち合わせと共に時間が過ぎ、朝が近付く。

    午前四時半。

    お互いの動きと役割を確認し、トラギコは仮眠を、アサピーはエラルテ記念病院へと向かった。

    最早、お互いにかけるべき言葉は決まっていた。

     

    ――無言による、信頼の確認である。

     

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    水平線の彼方から浮かび上がる紅蓮の太陽が夜空から夏の青空を取り戻し、そして、街へ人へと光を浴びせる。

    新たな一日の始まり。

    ジュスティアが宣言した事件解決まで、一日と十九時間。

    島中に散らばった人間が追うの真実のほとんどが今、グルーバー島に集結し、行動を開始していた。

     

    例えば。

    例えば、不穏な感情を秘めた者たちもまた、例外ではない。

     

    (´・ω・`)「……さて、行こうか」

     

    ソファから立ち上がった、道化の如き男。

     

    (´・_ゝ・`)

     

    lw´‐ _‐ノv

     

    それに無言で付き従う、二人の罪人。

    いずれも眼光鋭く、されど放つ雰囲気は凪いだ海の如く。

    背負うは己が棺桶にして己が力の象徴。

     

    (e)「うむ、いい朝日だ。 さ、ジョルジュ君、コーヒーを。

       違いの分かる男のコーヒーだよ、間違えないように」

      _

    (#゚∀゚)「だから、俺は手前の召使いじゃねぇんだよ……」

     

    離れた場所に佇む男、二人。

    彼らの足元に埋まるのは、屍かそれとも夢の果てか。

     

    川 ゚ -)

     

    ''

     

    言葉を発することなく行動する女が二人。

    人の間を風のように抜け、静かに最深部へと歩みを進める。

    性別、動機、背景、思想はそれぞれだが共通しているのは所属する組織の目的達成という、大きな夢の実現のため。

    大樹が伸ばす枝葉のようにして、彼らは活動の領域を広げていく。

     

    グレート・ベルの鐘が朝日に輝き、黄金の輝きを放った。

     

    ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

             AmmoRe!!のようです Ammo for Tinker!!編 第九章 了

    ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

     

    ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

    優れた狙撃手は優れたカメラマンに、優れたカメラマンは優れた狙撃手に成り得る。

    故に。

    故に我々カメラマンは、意識しなければならない。

     

    最高の構図を。

    最高の成果を。

     

                                     戦場カメラマン ミズーリ・タケダ

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