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第七章【driver-ドライバー-】

  1. 名前: 歯車の都香 2017/04/16(日) 13:10:00
    第七章【driver-ドライバー-】

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    真を追う者は真に追われる覚悟を。

    力を求める者は力を要求される覚悟を。

    夢を見る者は夢を捨てる覚悟を。

    愛を得ようとする者は、それを失う瞬間を覚悟しなければならない。

     

                                               ――イルトリアの諺

     

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         '~´ ̄ニ=一_---__- -ー―--_ ''  ̄´  `v⌒    .::.'´ ヽ_

    ----__--_-二ニ_ー--- ̄ニ  二_一=ニ 込ィ1 :.:.:::.:.:.:.:.:...:..

      ,.-y'父ヽ         ̄ ―--―  ,、 ̄ニ一__- .,i1`′二_,.-‐‐-

    ^´/公 ヘ `ー、_,x,ュ三ニヽ‐- .__ ,ィヽ´ヽ\_,.-、一_ / 「l´ ヽ'´ ヽ\_へ ヾ

    -------‐‐--===ー----====ー---. |」 丶---ー‐一

                         August 10th AM08:12

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    アイリーン・ストリートは漁港から島の中心部にあるグレート・ベルに向けて伸びる道で、多様な店と市場が並んでいることから、観光客や生活用品を買い求める島民が多く利用する。

    商品を買い求める客足は夜明けから徐々に増え始め、朝の七時になる頃には牛歩の如き速度でしか移動できない場所も発生する。

    観光客は宿泊しているホテルではなく地元の食材と料理を振る舞う定食屋に寄って朝食を済ませ、ほとんどの店が開く十時手前に改めて買い物に出かけるのが最も一般的な動きだ。

    しかし、その日は朝の八時の段階で外出している観光客はいなかった。

     

    普段は客でにぎわう土産物店の中にも、早々にシャッターを下ろしている店まである始末だ。

    恐らく、十時を過ぎても観光客はホテルや宿から足を延ばして買い物に行くことはないだろう。

    そうなることを予想してシャッターを下ろした店の判断は正解だと言える。

    ではなぜ、店主は客足が途絶えることを予期できたのだろうか。

     

    主な理由は二つある。

    一つ目は、逃亡犯が島に逃げ込んだために行われた厳戒な封鎖。

    そして二つ目が、その緊迫した状況下にありながら起こった爆弾テロの騒ぎである。

    旅行先のどこかで起こった小さな犯罪程度ならまだしも、それが島の安全を根幹から脅かす大事件へと発展したのであれば外出を避け、宿泊施設に留まるのは当然だと考えられるからだ。

     

    現に、宿泊施設では観光を取りやめた客対応のために朝早くから多忙を極め、調理場は戦場と比喩される年末年始の宴会並に慌ただしかった。

    唐突に訪れた商機に経営者は大喜びであったが、この事態に慣れぬ従業員は人手不足と材料不足に怒った。

    特に、漁に出る船が軒並みで主な食糧である魚は防波堤から釣り糸を垂らす磯釣りでしか入手できない事が、何よりも手痛い。

    磯釣りで手に入る魚の量と種類は飲食店からしたら微々たるもので、長期間に渡る供給はとてもではないが不可能だ。

     

    飲食に関わる店で最も致命的となるのは、仕入れが出来なくなることだ。

    島街であるティンカーベルは多くの島で構成されているため、それぞれが分担して農作物・畜産を管理することで、小さな領土内でも食糧に困ることのないようにしている。

    収穫物は船や橋を渡って異なる島の市場へと定期的に出荷されるのだが、内外への移動が完全に禁止されてしまっているために、どうしても食材が不足してしまう。

    一日程度ならば備蓄していた分でどうにか維持できるのだが、その島内で生産していない食材を使う料理は早々に提供が停止する。

     

    分担生産による弊害は避けられなかったが、飲食店への打撃は経済学者が思うよりも小さく済んでいた。

    材料不足を心配するのは多種多様な料理をメニューに載せている宿泊施設ぐらいで、小さな飲食店などは状況が不利と判断してすぐに店を閉じ、メニューの変更を視野に入れて休業していた。

    提供できないのに店を開くのは愚かだし、それ以前に客が来なければ店を開いて準備をするだけ時間と材料と光熱費の無駄だと判断しての事だ。

    特に速い反応を示したのは、アイリーン・ストリート周辺の店だった。

     

    爆発が起こり、パニックが起こってから僅か一時間足らずの間に七割の店がシャッターを下ろし、二時間後には業突く張りな土産物屋以外全ての店が営業を停止した。

    アイリーン・ストリートの近辺にある店がいち早く反応したのは彼らが優れた感性を持っていただけではなく、事件そのものがアイリーン・ストリートで起こったからだった。

    朝市で市場が賑わい始めた午前四時頃にスタードッグス・カフェのテラス席に置かれた鞄が爆破し、市場を一瞬にして恐怖の坩堝へと変えた瞬間、店主たちは二つの決断に迫られた。

    店を閉めるか、店を開いて店を求める客を手に入れるか。

     

    緊急時における決断力の速さは商人としての優秀さを示し、結果的に大きな利益を生み出せるのであればそれは商人の鑑だ。

    だが、彼らは店を閉めて救護活動に手を貸すことを即決し、店の利益を放棄したのだ。

    人間らしさ、つまりは他者を助ける優しさが人一倍強い島民ならではの反応だったと言えよう。

    互いに助け合うという事の多い島という環境が彼らを突き動かし、結果的には店の損失を最小限に抑え、商人としても正しい成果を得たのである。

     

    幸いにして爆発による死傷者はおらず、音に驚いた拍子で転んで捻挫したり破片で擦過傷を負ったりした程度で済んでいた。

    爆発という非日常的な事態にも関わらず混乱が経度で済んだのは、通報よりも先に駆け付けた警察官たちの努力の賜物だった。

    偶然現場付近に居合わせたイブケ・ゼタニガ巡査は即座に一般人を現場から遠ざけ、更には民間人に協力を仰いで全体の混乱を回避させた。

    彼は人間の心理を操る術を心得ており、一方的に命令を下すよりも協力を要請することで全体が秩序を保った状態で動くことを知っていたのだ。

     

    斯くして事件現場の調査は迅速に執り行われ、負傷者の搬送と目撃者からの事情聴取などを終えた後、島全体に流す放送を通じて警察から島民への説明が行われることになった。

    時刻は朝の八時十二分。

    島民は誰もが目覚め、各々仕事に動き出す時間帯だった。

    純度の高い金属がぶつかり合い、巨大な音を生み出す。

     

    予告なしに鳴り響くグレート・ベルの鐘の音が、その音を聞く人間に静聴を求めた。

    静寂。

    市場が、港が、民家が、学校が。

    ティンカーベルにある全ての施設から雑音が消え、凪いだ海のように静かになる。

     

    ノイズが僅かに入り、それから続けて報道担当官と名乗る若い男の落ち着き払った声が島中に響き渡る。

     

    『警察報道担当官のベルベット・オールスターです。

    ティンカーベルの皆さんにお知らせいたします』

     

    それから続けて放送された内容は一連の事件を簡潔にまとめたもので、余計な装飾は一切なく、当然のことだが面白みもなかった。

    故に全ての情報はそれを聞いた人間に伝わり、その後の余計な質問の一切を封じた。

    パズルを組み立てるように順序だって並べられた話は、聞く者に余計な考えを生み出させないようにと計算されたものだったが、誰もそれに気付くことはなかった。

    自らの意志で情報を選別し、その結果自力で理解したのだと思えば、疑問に思うはずもない。

     

    犯人は精神的な疾患と妄執を抱いた人物であり、以前から警察が目をつけていた三十代前半の男――ジョン・ドゥベール――はすぐに逮捕・拘留された。

    同時に、その犯人が昨夜のエラルテ記念病院で起こった火事に関与し、目撃者であったカール・クリンプトン医師を殺害したことを供述したとも説明がされた。

    その情報を伏せてきたのは犯人を刺激して新たな事件を起こさせないようにするためだったのだが、

    モーニング・スター新聞が発行した今朝の朝刊の一面がその思惑を完膚なきまでに台無しにし、事件発生の動機の一つを担ってしまったと強い口調で報道担当官は付け加えて説明と発表を締めくくる。

     

    こうして、ジュスティアに向けられつつあった矛先は世界最大手の新聞社へと向けられ、逆にジュスティアは好印象を得ることとなった。

    放送直後に開かれた記者会見の場に現れた警察長官専属秘書、ライダル・ヅーは手短にコメントを言い放って異例の速さで会見を終了させた。

     

    瓜゚-゚)「二日以内に、円卓十二騎士を動員してこの島からあらゆる犯罪者を駆逐します」

     

    それだけで、島民はもちろんだが会見を聞いていた人間はこれから何が起こるのかを察した。

    正義の代弁者を自負するジュスティアが駆逐するというのならば、それは、犯罪者にとっては事実上の死刑宣告に値する。

    更に人々を動揺せしめたのは、彼女が口にした円卓十二騎士という存在の大きさだ。

    お伽噺として語り継がれ、伝説と化した騎士の階級を持つ十二人。

     

    表立った行動を避けてきた彼らが動くという事は、警察だけでなくジュスティアという街全体が事件解決に動くという事を意味している。

    記者会見に参加した多くの島民、そして記者たちは皆一様に同じ気持ちを抱いた。

    果たして、どのような愚か者がジュスティアを怒らせたのだろうか、と。

    そしてその答えは、すぐに分かる事となった。

     

    瓜゚-゚)「では、第一手」

     

    ――軍服姿の男達に連れ去られたモーニング・スター新聞社の人間は、その唐突さに喚く事さえできなかった。

     

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                        AmmoRe!!のようです

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    八時半を回ったあたりから、日差しは強さを増した。

    非常に高い場所に浮かぶ薄い雲を除けば、目立つ雲は水平線の向こうにしか見当たらない。

    波は穏やかで、海は澄んでいた。

    強い日差しは健在だが、穏やかに島中を駆け巡る風は涼しげだ。

     

    現場検証に立ち会うことになったボブ・ガガーリンは勤続十七年のベテラン警部で、これまでに十数件の事件の解決に助力してきた経験者だ。

    新聞やラジオで報道されたような難事件にも関わり、他の新人の警官に比べれば現場の捜査を行った経験が豊富だと自負していた。

    しかし、テロ行為の跡から犯人に結び付くような状況証拠を見つけ出す経験は一度もなかった。

    ブルーシートで完全に封鎖された現場は、注意深く見なければ瓦礫と小さな爆心地以外に何も見当たらない。

     

    爆心地となった場所には小さなテーブルとイスがあったのだが、木っ端微塵に砕け散って広範囲に散らばっている。

    テーブルは金属とプラスチックで作られ、椅子はプラスチック製だった。

    熱で溶けたプラスチック片が足元に落ちているのを見て、これが椅子の物なのか、テーブルの物なのか、それとも別の物なのかは分からない。

    離れた場所には歪に折れ曲がった金属の棒が転がっており、その曲がり方から爆弾の近くにあったパラソルだろうか。

     

    その他諸々の証拠品になり得るものを一人で収集し、分類してラベル貼りをするのかと思うと、非常に気が滅入る。

    いつもならば新入りの警官や鑑識に命令して集めて分析させるのだが、現状ではボブ以外に現場慣れした人間はいなかった。

    というよりも、この現場検証を担当する人間がボブ一人と、現場を封鎖するために必要な護衛が四人――平均年齢六十歳の駐在――だけだというのだから、自分でやる他選択肢はない。

    汗水たらしてボブが集めた証拠品はこれまで自分がそうしてきたのと同じように、より優れた人間が捜査の材料にすることになる。

     

    悔しいかどうかと尋ねられれば、ボブは迷わずに頷くだろう。

    事件を自らの手で解決することはこの上ない快感だし、正義のためにこの身を使っているのだと実感できる数少ない機会を他人に持っていかれるのだ。

    ジュスティアの人間なら、悔しくないはずがない。

    だが命令は命令だし、優れた人間が捜査を担当するのは当然のことで、下っ端がその補助をするのもまた当然である。

     

    白い手袋を指先までしっかりと嵌めて、ボブはそこで次に何をするべきかを考え始めた。

    現場の総指揮を執るライダル・ヅーの配慮によって、この事件は解決したことになっているが、実際は何も分かっていない。

    犯人像、犯人の目的、そして使用された爆発物の正体さえ分かっていない。

    現場検証に関して言えば、ボブは素人だった。

     

    持っている知識だけで現場から情報を収集し、何が起きたのかを分析するには荷が重かった。

    それでもやらなければならないのが、この仕事の辛いところだ。

    最大の証拠品となる爆弾はすでに運び出され、分析が進められている。

    残るのは文字通りの残骸。

     

    その骸から探すのは、あるのかどうかも分からない手がかり。

    途方もない宝探し。

    砂浜で漂流物探しをした方が、まだ正解を引き当てる確立が高い。

     

    ::J::)「ふぅ……」

     

    手始めに、粉々に砕けて飛散したテーブルと椅子の破片を集めることにした。

    元の色が何色だったのかも識別できない程に焼けた物もあれば、辛うじて白い表面を残している物もある。

    これらをパズルのように組み合わせれば元々の形状などが分かるそうだが、それが分かったところで事件解決の手がかりになるとは思えない。

    だが専門家に言わせれば、こうして得た情報を少しずつ形にしていく事が大事なのだそうだ。

     

    屈んで小さな破片を集め、それを積み上げていく。

    プラスチック片を探す中で、砕けたティーカップや先の折れたスプーンが見つかった。

    死人が出なかったのは奇跡としか言えない。

    通常、爆弾テロと言えば不特定多数の人間を殺傷するのが目的であり、ここまで被害の少ないテロは初耳だ。

     

    一つ一つの品を見ながら、ボブは物思いにふけった。

    いつしかその手は止まり、柄だけとなったスプーンを弄び始めた。

     

    瓜゚-゚)「……やる気がないのなら、最初からそう言ってください」

     

    剃刀のように冷たく鋭い声は、ボブの正面、頭上から落ちてきた。

    声に応じて顔を上げると、断頭台に乗せられた死刑囚の気持ちが分かった。

    長官の秘書、ライダル・ヅーだ。

    フレームレスの眼鏡の向こうにあるはずの鳶色の瞳は陰ってよく見えないが、その声から彼女の機嫌がこの上なく悪いことが分かる。

     

    跫音一つ、気配一つ感じ取れなかった事に対する脅威よりも、醜態を晒した自分に待ち受ける処遇の方が恐ろしい。

     

    ::J::)ゞ「お、おっお疲れ様です!!」

     

    文字通り飛び上がったボブは急いで敬礼をしたが、ヅーは無表情のままそれを無視した。

    警察官は法の体現者としての訓練を受け、それを肝に銘じて職務を遂行するが、ヅーは別格だ。

    彼女はジュスティアの規律そのものであり、執行人にして法の化身。

    迂闊にも一度怒らせれば綱の切れたギロチンのように無慈悲に決断を下し、障害となる一切合切を排除する女だ。

     

    一瞬とはいえ気を抜いていた姿を見られたボブは、彼女が寛容な人間であることを願うばかりだったが、そのような身勝手な願いは通じない。

    結果には結末を。

    銃爪を引いたら何が起こるのかを説明するが如く。

    鋼鉄を彷彿とさせる冷たい視線を向け、ヅーは強い口調で言い放つ。

     

    瓜゚-゚)「もう結構です、ボブ・ガガーリン警部。

        お守りがいなければ事件現場一つ捜査出来ないとは知りませんでした。

        現場は私が調べますので、一般人が入ってこないように警備していてください」

     

    ::J::)「し、しかし」

     

    瓜゚-゚)「意見や弁明を求めてなどいません。

        自分一人で出来ることを最大限行い、その結果を追い求める事も出来ない無能はこの現場に必要ないと言っているだけです」

     

    ヅーにはいくつもの渾名があるが、そのほとんどは身内によってつけられたものだ。

    歩く断頭台、鉄仮面、粘着女、ジュスティアのギロチン。

    全てに共通しているのは、彼女の人間性があまりにも温かみに欠けている事を表現していることだ。

    無論、本人もその渾名の数々は知っている。

     

    だからと言って、ただの一歩も譲歩しない姿勢はある意味で尊敬の対象に値する。

    ボブもその在り方には尊敬の念を抱いているのだが、いざ目の前で見せつけられるといい気はしない。

    不快感を通り越し、己の無力さに怒りを覚える。

    大人しくヅーの言葉に従い、ボブはブルーシートの向こうに消えた。

     

    残ったヅーは、さっそく現場検証を行うことにした。

    散った破片に法則性がある事は、一目で分かった。

    瓦礫が四方八方に散る中でも、爆心地の北に向けてそれが集中して散らばっている。

    これが意味するのは、指向性の爆弾が使われたという事だ。

     

    つまり、殺すべき対象がその方向に座っていたことを意味している。

    テロではなく殺害が目的だったのだ。

    殺害されかけた人物についての聞き込みを行わなければならないのだが、今は人手が足りない。

    情報収集をもっと早い段階で行えていれば、人々の記憶が新鮮な内に情報を手に入れられただろう。

     

    現場を封鎖した警察官は確かにいい判断をしたが、肝心の調査についてはほぼ手出しをしていないのが惜しまれる。

    命令がなければ捜査を始めないのは、警察の悪い習慣の一つだ。

    組織である以上命令に従うのは当然だが、状況を読んで独自の判断を下せなければ事件の早期解決は夢と化す。

    常に会議で槍玉にあげられるトラギコ・マウンテンライトは、その点で言えば一流だった。

     

    勤続年数と手柄に見合わない刑事という階級にも関わらず、彼は事件解決のプロフェッショナルだ。

    警部の立場にありながら、事件の直接解決に貢献したことのないボブ・ガガーリンなど比較対象にならない程の高次元に位置する人間だった。

    暴力による解決方法は容認しがたいものではあるが、それでも彼は事件を解決し続けてきた。

    解決力という一点においては、ヅーはトラギコの事を尊敬していた。

     

    尊敬の念を抱く一方で、束縛を嫌う自由主義に嫌気がさしているのもまた事実。

    集団行動や組織的な行動というものに協力的ではなく、警察という組織に属している以上はチームワークを重んじてほしいところである。

    現に、軍の追跡班を使ってトラギコの動向を調べたところ、爆発発生時にこの現場にいたとの目撃証言を手に入れている。

    その後姿を晦ましていることから彼はこの爆破事件を目撃し、何かしらの証拠を手に入れたのだと推測が出来たが、チームで動いていれば爆破を防げたかもしれない。

     

    いつまでもトラギコの身勝手な行動に頭を抱えている暇もなく、ヅーはもはや彼を追うことを諦めていた。

    諦めざるを得ないのだ。

    爆破事件の後に二つも新たに事件が発生し、そちらの隠蔽でヅーは手一杯だった。

    警察官二人と民間人一名の死者を出した発砲事件と、モーニング・スター新聞社で起こった大量殺人事件。

     

    前者の目撃情報はなく、後者に至っては円卓十二騎士のショーン・コネリがショボン・パドローネと戦闘を行っており、新聞社という最悪の現場であった。

    同僚の死を理由に記者たちが騒ぎ立てるのは必至であり、それを回避するためにヅーはモーニング・スター新聞の生存者たちを全員捕えたのだ。

    捕えたと言えば聞こえが悪いが、事実上彼らを保護したのだ。

    それでも、隠し通すのは無理だ。

     

    絶対にどこかで綻びが生じ、そこから表に流出してしまう。

    そのため、ヅーは二日以内という期限を設けた。

    この期限内に解決出来なければ、事件は全て公になる。

    隠し通せて二日。

     

    全力で隠蔽を図っても残り、二日。

    しかもそれは希望的な観測を含めての二日だ。

    トラギコのせいで火事の件が公になったのは、もはや些細な問題だった。

    それより何より、今は一刻も早く脱獄犯を捕まえなければならない。

     

    捜査の混乱は幸いにして起こっていないが、何かに着手しようとするたびに別の事件が起こる事が問題だ。

    そのせいで対応に追われ、どれ一つとして解決の糸口が見つかっていない。

    今はトラギコを捕えるよりも彼を自由にして事件を解決させた方が、いくらか賢い。

    こちらも事件解決に向けて動いているが、進展はない。

     

    標的となった人間の座っていたと思われる座席の付近に近づき、何か手がかりがないかどうかを探す。

    人物の特定につながるような物があればいいのだが、一見したところそのような物はない。

     

    瓜゚-゚)「くっ!」

     

    毒づいたところで、証拠品が見つかるわけではない。

    物がないのならば、とヅーは考えを変える。

    腹を撃たれて病院に搬送されたばかりだが、トラギコと接触して更にショボンに命を狙われた新聞記者がいたのだ。

    多少の怪我をしていても、口を使って情報を提供することは出来るだろう。

     

    記者の名は、アサピー・ポストマン。

    トラギコが情報収集の駒として彼を使っていたのは目撃証言からも明らかだし、爆発直後に現場で聴取していたのも彼だ。

    つまり、この新聞記者がもたらす情報は双方にとっての問題解決のカギとなる。

    遅かれ早かれ、トラギコもこの男を追ってくるだろう。

     

    病院で待ち伏せして合流し、改めて脱獄犯狩りに協力を要請するしかない。

    犯人を追っている軍は一向にその手がかりを掴めずにおり、何一つ期待が出来ない。

    そのため、捜査を行っている警察からは軍に対する不満が少しずつ噴出し始めていた。

    今朝の記者会見の直前にも、軍人と警官との間でひと悶着があったぐらいだ。

     

    軍の努力も分かるが、彼らは捜索にあまりにも不慣れだった。

    派遣されたのは人狩り専門の部隊でテロリストたちのアジトに対して強襲を仕掛けたり、街中で爆殺したりすることには長けているが、人探しは素人同然の能力だった。

    二人一組の厳めしい男がところ構わず家に押し入り、情報の提供を強要し、怪しげだと判断した建物には問答無用で突入するような神経をしているのだから、いつまで経っても人は見つからない。

    物事はスマートに行わなければならないのだが、軍人には無理な話だった。

     

    そもそも得意分野が違うのだから、戦闘は軍、捜査は警察という具合に分担して行うべきなのだ。

    ジュスティア軍元帥タカラ・クロガネ・トミーによってその提案が却下された段階で、ヅーはこうなることを予見していた。

     

    瓜゚-゚)「派閥争いを現場に持ち込むとは……」

     

    長官のツー・カレンスキーとタカラは縄張り意識が強く、互いに敵対心を持っていた。

    昔ながらの考えをしているタカラにとって、ジュスティアの代表とも言える警察の長官を女性が担当しているのが気に入らないのだろう。

    警察内部にも快く思っていない人間がいるぐらいだ。

    愚かしいことこの上ない。

     

    一通り現場を観察、調査したヅーはブルーシートを捲りあげて外に出た。

    病院なら、バケツと水と雑巾ぐらいはあるだろう。

    その三つの道具があれば、簡単な拷問が出来る。

    水責めはヅーの得意分野だ。

     

    ::J::)「お、お疲れ様です!!」

     

    瓜゚-゚)「誰も現場に入れないでください。 できますか?」

     

    ::J::)ゞ「はっ!!」

     

    ボブは上ずった声で返答し、ヅーはそれを聞き流しながら停めていた白いセダンに乗り込んだ。

    エンジンをかけ、アサピーが入院しているエラルテ記念病院に向かう。

    火事騒ぎは沈静化できたがその後の処理がまだ数多く残っており、方々に指示を出さなければならない。

    現場検証の指示や、情報収集の指示などやることは山のようにある。

     

    頭を痛めるのは何もその采配が面倒だとか苦痛に感じるからではなく、一つ一つの精度や質がおろそかになってしまうからだ。

    いくら効果的な捜査をさせても濃度の薄いスープを飲み続けるような物で、まるで意味がない。

    それというのも、人員が不足しているためだ。

    事件が起こるたびに人数を裂き、あちらこちらに警官が散ってしまうせいで主戦力が――

     

    ;゚-゚)「まさか、これが狙い?」

     

    だが警官を散らして何をするというのだろうか。

    頼りないことこの上ないが、一応軍人まで動いているのに何を狙っているのか。

    彼らは、ショボンたちは一体何を狙っているのだろうかと、改めてヅーは頭を回転させた。

    島で起こった全ての事件がショボンの犯行と考えると、彼らは何かを追っている事が分かる。

     

    追っていることを悟られないように、そして邪魔をされないように警官たちを散らしているのだとしたら。

    ショボンたちの次の手を読むために必要なのは、彼らが追っている人物を見つけることだ。

    見つけられずとも、誰を追っているのかが分かるだけでもかなりの進歩になる。

    これはトラギコとも共有しておいた方がいいだろう。

     

    アクセルを深く踏み込み、ヅーはギアをサードからフォースに切り替えた。

     

    瓜゚-゚)「……」

     

    ハンドルを握りしめながら、ヅーは昨晩のことを思い出していた。

    森の中から突如として現れたバイクとSUVはヅーの目の前でカーチェイスを繰り広げ、久しぶりに彼女を興奮させた。

    SUVに乗っていた一人は昨夜の内に捕えて護送させ、現在は軍の駐屯地で尋問の最中である。

    が、その後ヅーが追ったバイクの運転手が極めて曲者だった。

     

    ヅーの扱う強化外骨格、“イージー・ライダー”は舗装された路面を高速移動することに特化した物でその出力や機動性はバイクを遥かに凌ぐ物だ。

    単一の目的をもって設計された唯一の棺桶であるコンセプト・シリーズは、初見の相手に最も効果を発揮する。

    公の場で棺桶を使うことがないヅーにとって、イージー・ライダーは犯人追跡の切り札とも言えた。

    つまり、ヅーがイージー・ライダーを使うという事は、犯人を、そして目撃者を確実に捕らえるという事に他ならない。

     

    にも拘らず、運転手はイージー・ライダーの弱点である山道に素早く進路を変更し、まんまと逃げおおせたのだ。

    人相は愚か性別すら分からず、正確な人数も分からずじまいだった。

    ナンバープレートを目視しようとしたが、プレートは上向きに曲げられていて確認は出来なかった。

    それらに加えて、使われていたのはただのバイクではなく、大型ツアラータイプの物に改造を加えて爆発的な加速と機動性、そして荒地での対応力を両立させていたことが追跡を困難にさせた。

     

    ただし、どれだけ単車の性能が良くても運転手が使いこなせなければ意味がない。

    その点、ヅーを出し抜いた運転手は非の打ちどころのない完璧な人間だった。

    無駄な蛇行運転をすることもなく、迎撃をするわけでもない。

    直前までSUVに追われていたことなど微塵も感じさせない冷静さで、イージー・ライダーの姿が迫るや否やすぐに進路を変えて対応したのである。

     

    ある意味で、あの夜の出会いが思考を手助けしてくれたのだ。

    追う者と追われる者、この二者の構図はショボンと彼が追う標的に重なる部分があった。

    ヅーが追い、逃げられた人物がショボンの獲物だとしたら。

    捕まえた男がショボンの仲間だと分かれば、追っていた人間の正体なども分かるはずだ。

     

    そちらの方はタカラに任せてあるため、尋問はスムーズにいくだろう。

    報告は後で聞き、今は貴重な情報を持っているアサピーの方に向かい、彼から情報を吸い出すことだけを考える。

    一度命を狙われて生き延びた彼を、ショボンは絶対に逃がさないはずだ。

    到着してから彼の身辺を警護する手筈を整えておくことも念頭に置き、アクセルを踏む。

     

    ショボンがアサピーの存在を消す前に会わなければならないため、公道の制限速度を無視してセダンを加速させる。

    一般車の間を縫うように、そして無駄のない動きですり抜けて一直線に病院を目指した。

    その甲斐あって僅か三分で病院に到着したヅーは、セダンから降りるなり走ってアサピーの病室に向かう。

    三人の軍人を護衛に付けてあるため、ショボンといえども突破は容易ではないはず。

     

    病室の前でカービンライフルを構える軍人に一瞥をくれることもなく、ヅーはそのまま室内に入った。

     

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    AmmoRe!!のようです

     

                                           ノト     |

                                          彳ミ    ノi

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    Ammo for Tinker!!編   第七章 【driver-ドライバー-

     

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    右手に広がる森は鬱蒼と茂りながらも、丁寧に枝打ちされた木々の下に広がる豊かな土壌に太陽の光が程よく注がれ、朽木でさえ神秘的に見える。

    高速で道路を駆け抜けていれば気付かない自然の美しさに、トラギコ・マウンテンライトは少しだけだが荒れた心が癒される思いがしたが、それは気のせいだった。

    脚は痛み、二日酔いのような頭痛がまだ抜けきっていない。

    一本だけとなった松葉杖を突くその手には、黒い輝きを放つ鋼鉄の籠手が嵌められていた。

     

    その正体は、彼の持つ強化外骨格“ブリッツ”である。

    しかし今、身体能力の補助を目的として設計されたその籠手は、電源が切られた状態でまるで効果を発揮していなかった。

    それどころか防御用の手段ぐらいにしか使えず、その重量もあって今は邪魔だった。

    それでも彼はブリッツを捨てることはおろか、手放すという考えを一瞬たりとも思い浮かべなかった。

     

    強化外骨格は戦うための道具であり、彼にとっては命綱でもあったのだ。

     

    (;=゚д゚)「あー……くそっ……」

     

    命からがらシュール・ディンケラッカー達から逃げ延びたトラギコは、警察の目から逃れるために山道を経由して島の北西部を目指すことにした。

    街中を走って移動すれば必ず人目に付くため、原動機付自転車で山道を越えるプランを選んだのだが、どうにも速度が上がらなかった。

    坂道が多く続いたせいでバッテリーを激しく消費し、燃費がいいはずの車種にも関わらずバッテリーは恐ろしい勢いで減っていった。

    そして遂に上り坂の途中でバッテリーが底をつき、トラギコはそれを道端に乗り捨てることを選んだのであった。

     

    徒歩での移動に伴い積んでいた籠手を装着し、高周波刀はバイクのシートを切り裂いて作った鞘に納めて背負った。

     

    (;=゚д゚)「あちぃ…… いてぇ…… 殺してぇ……」

     

    そこから先は徒歩で移動を行い、引き続きカール・クリンプトン殺害に繋がる証言や証拠を集めることになる。

    移動手段として重宝する予定だったスーパー・カブが使えなくなった今、トラギコは己の両足を頼らざるを得ない。

    “鷹の眼”カラマロス・ロングディスタンスに脚を撃たれたのは正直なところ、不覚としか言えない。

    昨日から常に動き続けている影響か、痛みは一向に収まらない。

     

    ティンカーベルは避暑地として非常に優秀な土地だが、それでも夏の日差しを浴びながら山道を徒歩で上るのは非常に辛い。

    体力と水分を奪われ、最悪は身動きが取れなくなってしまう。

    加えて上り坂。

    泣き面に蜂とはこの事である。

     

    汗が徐々に額に浮かび、熱さが体の中心部から蓄積され始める。

    道中で車を見つけたら、ヒッチハイクをするしかないと考えていたその時。

    麓の方からタイヤが地面を踏みしめる音が聞こえ、思わず振り返る。

    黒塗りのセダンだ。

     

    高級車ではあったが、全体的に土埃で薄汚れているのが何とも言い難い。

    全面スモークガラスであることから、金持ちが運転している可能性が高かった。

    金持ちがヒッチハイカーを乗せるとは思えないが、トラギコには万人が喜んでハイカーを乗せる便利な術を知っていた。

    懐からベレッタM8000を抜いて地面に向けて発砲し、すぐにそれを運転席に向ける。

     

    セダンはゆっくりとトラギコの前で停車し、トラギコは銃口で車から降りるよう命じた。

    ドアが開き、まず現れたのは両手だった。

    次いで脂ぎった白髪交じりのブラウンヘアが現れ、いかにも学者といった風体の男が姿を現した。

    トラギコが五十代後半であろう男に対して学者、という印象を抱いたのには理由がある。

     

    一つ目は右手の指にペンダコが見られたこと。

    二つ目は非力極まりそうな体つきをしていながらも、妙に鋭い眼光を秘めた青い目。

    三つめは実用的な身なりの中にも品を感じさせ、胸ポケットにペンが二本刺さっていたこと。

    そして、知識を豊富に持った人間が放つ独特の雰囲気を漂わせていたことだ。

     

    (=゚д゚)「ヒッチハイクだ」

     

    (e)「それは構わないんだけどね、君。

       これから仕事に向かう途中でね、それでもいいかな?」

     

    銃口に怯える様子を見せない。

    御しやすいと言えばそうだし、扱いにくいと言えばそうだ。

    恐怖こそが人間を操る核心であり、それがなければ意のままに動かすことは難しい。

    掴みどころのない男だったが、今は移動手段を手に入れたことを喜ぶべきだ。

     

    (=゚д゚)「あぁ、構わねぇラギ」

     

    助手席側に回り込んで乗り込み、男も車に戻る。

    両手を降ろしていいかどうかと目で訴えられたので、トラギコは頷いた。

    銃を懐にしまい、シートベルトを締める。

    車内はエアコンがよく効いていて、涼しかった。

     

    が、それ以上に土と鉄の匂いが印象的だった。

     

    (e)「紹介が遅れたが、私はイーディン・セント・ジョーンズ。

       気軽にジョーンズと呼んで構わないよ」

     

    (=゚д゚)「よろしく、ジョーンズ博士」

     

    (e)「ほう、どうして私が博士だと?」

     

    (=゚д゚)「見りゃ分かるラギ。 研究は何を?」

     

    感心した風に唸るジョーンズは車を走らせながら、トラギコの質問に答える。

    暴れたり抵抗する様子がないのはありがたい。

     

    (e)「主に考古学を研究していてね。

       発掘もやるが、出土した品の復元なんかも手掛けている。

       先日まではフィリカに行っていてね、その帰り道にここに寄ったんだが、如何せんこれだろう?

       せっかくだから思う存分発掘しようと思ってね」

     

    (=゚д゚)「復元ってぇと、ダットとかラギか?」

     

                               Digital  Archive  Transactor

    現代における高性能な電子機器の代表、デジタル・アーカイブ・トランスアクター。

    太古の技術で作られた最新の情報機器で、高度な計算は勿論だが様々なデータの管理や作成に長けた物だ。

    それ一つあるだけで街の運営も十分に可能な品ではあるが、精密機械であることに加えて膨大な量の専門知識を要求されることから、発掘された状態からの復元は非常に難しい。

    知識と技術、そして貴金属などの希少な資材がなければ復元は不可能である。

     

    (e)「それもするんだが、私はもっぱら棺桶だ。

       棺桶っていうのは――」

     

    (=゚д゚)「軍用第三世代強化外骨格、だろ?」

     

    学者が好きそうな正式名称で即答したトラギコに対して、ジョーンズは得意げな笑顔を浮かべながら首を横に振った。

    まるで出来の悪い生徒に対して正答を教える教師の様だった。

     

    (e)「正しくは、軍用第七世代強化外骨格だ。

       詳しい事情はまだ分からないが、発見された資料には第七世代と明記されているんだよ」

     

    世代が何故異なるのか、そのようなことはトラギコの興味の範疇を遥かに超えていた。

    第三であろうが第七であろうが、棺桶は棺桶。

    軟弱な老人すらも兵士に仕立て上げる兵器に変わりはない。

     

    (=゚д゚)「心底どうでもいい話ラギね」

     

    (e)「正しい情報は常に正しいのだよ、君。

       ところで、君の名前は?」

     

    トラギコは一瞬、返答に迷った。

    己の名前を名乗れば後々面倒に巻き込まれるのは目に見えているが、信頼関係構築のために正直に話せば協力が得られるかもしれない。

    偽るか、それとも素直になるか。

    出した答えは、前者だった。

     

    これ以上余計な足跡を残せば、また襲われかねない。

    得られるメリットとデメリットを天秤にかければ、欲張らない方が賢明だ。

    ましてや、本名かどうかなどこの男が知るはずもないのだから。

     

    (=゚д゚)「トム・ブラントだ」

     

    (e)「よろしく、ブラント君。

       気になっていたんだが、君は何故その棺桶を付けているんだい?

       確かそれは“ブリッツ”だろう? アタッシュケース型のコンテナが付属しているはずだが」

     

    籠手の形をした強化外骨格は多くあるが、ジョーンズは一目見ただけで知っている人間の限られるコンセプト・シリーズの名前を言い当てた。

    “マハトマ”と見間違えることなく、ブリッツの名を出せたという事は見る目があり、知識があるという事。

    この男は、思った以上に棺桶に精通しているようだ。

    下手に嘘は吐かない方が賢明だと判断したトラギコだが、だからこそ理由を正直に言うわけにはいかない。

     

    (=゚д゚)「……ちょっといろいろあってな」

     

    (e)「充電が出来ないと不便だろうに。

       ちょうどいい、私の職場でコードを用意してあげよう」

     

    茶会への招待のように出てきた提案に、トラギコは目を丸くした。

    棺桶についての知識が豊富にあるにしては、随分とおかしな提案だったのだ。

     

    (=゚д゚)「だけどコンテナがないと充電出来ないんじゃねぇのか?」

     

    そう訊き返したトラギコを見て、ジョーンズは鼻で笑った。

    成程、いかにも一般人が持っている知識だとばかりに。

     

    (e)「おいおい、そんなわけないだろう。

       効率は落ちるが、充電なら道具があれば出来るさ。

       起動コードの入力が要求されることから分かる通り、コンテナは他人に使われないように安全に保管する目的の方が強いんだ。

       一度起動させてしまえばコンテナの守りは失われるから、後は外部からの侵入も変更も可能になるわけで、それ以外にコンテナは使わないだろう?

     

       コンテナがないと装着補助が失われてしまうのが難点なんだが、ブリッツの場合にはあまり気にならないはずだ。

       特に持ち運びが可能な小型のAクラスはそれが利点でもあるわけだしね。

       ケーブルはほとんどのAクラスで規格が統一されているから、それをデータ送受信口に直接繋げば大丈夫なはずさ」

     

    警察で学んだ強化外骨格の知識が誤っていたことに対して、トラギコは恥じると共に憤った。

    充電が出来ないというのは聞いていたが、実際に試したことはなかった。

    現場で働く学者の方が正確な情報を持っており、あの街で得た知識は時代遅れという事になる。

    一応、ジュスティアも独自に棺桶の研究を行っているはずなのだが、それが追いついていないのは問題だ。

     

    機会があれば、この男をジュスティアは特別講師として招いた方がいいかもしれない。

    あの街にはかなりの数のコンセプト・シリーズが配備されており、これが分かるだけでも仕事の効率が変わるだろう。

    しかし意外な場所でこれほどまでに有意義なことを学べたのは幸運と言える。

     

    (e)「まぁ、君のブリッツは特殊だから例外と言えば例外なんだけどね。

       棺桶はまだまだ不明な点が多いし、このことは公にはされていなかったから君が知らなかったのも無理はない。

       そう怒る必要はないよ」

     

    妙に上から目線の発言だが、ジョーンズは学者として優秀なため特に苛立ちはしない。

    むしろ警戒した方がよさそうだ。

    何故ならブリッツはこの世に一つしかない強化外骨格で、それを持っている人間は一人に限られる。

    つまり、トラギコが偽名を使っていることもその正体を知ることもこのジョーンズには可能だという事だ。

     

    (=゚д゚)「ん……イーディン・S・ジョーンズ?

       そういや俺の勘違いだったら悪いんだが、あんた教科書に載ってなかったか?」

     

    (e)「あぁ、歴史系の本に載っているよ。

       そんな下らないことよりも、もう少し棺桶について話をしないかい?」

     

    (=゚д゚)「つっても、俺は素人ラギよ」

     

    (e)「構わないよ。 学者はね、教えたがりで話したがりなんだ。

       それに、私の職場までは大分時間がかかるからね。

       この島の北側に発掘現場があるんだが、警察が通行規制をしている部分を避けないと辿り着けないんだ」

     

    銃で脅されたにしては、肝が据わっているのか間抜けなのか分からないぐらいに楽観的だ。

    自分が殺されないと思っているのだろう。

    これまでに何度かそういう場面に遭遇した経験があるのかもしれない。

     

    (=゚д゚)「発掘現場ってぇと、何かの遺跡が見つかったラギか?」

     

    (e)「あぁ、戦場跡が見つかったんだ。

       どうやらここは物資保管の拠点らしくて、未使用の銃器や保存状態のいい棺桶がたくさんあってね。

       発掘冥利に尽きるよ。

       コンセプト・シリーズも見つかっているし、楽しいことこの上ない」

     

    現代で使用されている銃器も、元を辿れば過去に使用されていた物を分解して構造を理解したうえで再製造しているもので、発掘は発明に匹敵するほど重要な行為だ。

    繊細さと根気強さが要求される作業だが、一獲千金の博打に似た要素が強く依存性が強い職業の一つである。

    特に戦場跡から発掘される物の中で喜ばれるのが棺桶だ。

    使用者はとうの昔に骨すら残らない程風化しているが、その遺体を包んでいる強化外骨格は劣化がほとんどない。

     

    多少のメンテナンスは必要だが、復元不能なダメージを受けていなければ改めて使うことが出来るのだ。

    地域によって多く出土する棺桶の種類は疎らだが、希に最も貴重とされるコンセプト・シリーズが発見されることがある。

    特化した性能を有している実用性と、世界に一機だけという希少性から非常に高額で取引される。

    乱暴に扱っているがトラギコのブリッツも、一般市民の生涯年収を遥かに超える値段のはずだ。

     

    (=゚д゚)「戦場ってことは、戦争がここであったのか」

     

    (e)「あぁ、偶然にも一世紀ちょっと前にも戦争があってね。

       これは史実として資料も残っているんだが、イルトリアとジュスティアの兵隊がここで大規模な戦闘を行ったんだ。

       あの“魔女”、ペニサス・ノースフェイスが参戦したやつさ」

     

    (=゚д゚)「デイジー紛争だっけか?」

     

    昔からジュスティアと軍事都市イルトリアは犬猿の仲で、今でこそ見られなくなったが以前は小競り合いが頻発していた。

    未だに互いの街に攻め入っていないのは先人が起こした過ちを繰り返さないためか、それとも無益だと知っているのかは分からない。

    デイジー紛争は密漁船がイルトリア海軍により沈められたことをきっかけに起こった紛争で、これがジュスティアとティンカーベルの関係を構築するための大きなきっかけになったと言われている。

    当時はイルトリアがティンカーベルの漁業を支援していた関係もあり、警備という名目で配置された海軍に対してジュスティアが陸軍を派兵し、泥沼の争いへと発展したという。

     

    紛争後、当時の市長エラルテ・ニエバズが三十三年の月日をかけてジュスティアと交渉を行い、セカンドロックをジュスティアと共有する話がつけられたというのが一応の史実だ。

    トラギコの学んだことが間違っていなければ、だが。

     

    (e)「そうそう、あの戦闘がきっかけで発見されたのが今回の遺跡なんだ。

       最近、軍事基地の一部が見つかって大忙しさ。

       セキュリティがまだ生きているんだから恐ろしいものだよ」

     

    (=゚д゚)「で、ここであった大昔の戦争は?」

     

    (e)「第三次世界大戦の一部だとは思うけど、詳しくはこれから調べる予定だよ。

       といっても、いつもと同じように分からないだろうけどね」

     

    栄華を極めた文明を崩壊させ、世界を終わらせたとされる第三次世界大戦は謎の多い戦争だ。

    判明していることはほとんどなく、当時の詳細な資料も発見されていない。

    強化外骨格という兵器の登場によって戦争が激化し、大国の支援を受けた発展途上国も参戦したことで戦争の火種が世界中に飛び火して終焉が加速したというのが歴史学者たちの考察だ。

     

    (=゚д゚)「じゃあそんな棺桶マニアのあんたに訊くが、音を操作する棺桶を知ってるラギか?

        トリコロールカラーの悪趣味な奴ラギ」

     

    上機嫌になっているジョーンズに、トラギコはダメもとで質問をした。

    もしも何かヒントになるような物があれば、と思ったのだ。

    青、赤、白、そして黒で彩られた忌々しい強化外骨格の情報が何か手に入れば、次に活かすことが出来る。

     

    (e)「勿論知っているよ。 現存する中でそんなカラーリングをしているのは、“レ・ミゼラブル”だけだ。

       暴徒鎮圧に特化した強化外骨格でね、敵意ある者に対して有効な音響攻撃が主兵装なんだよ。

       だから目立ちやすいカラーリングなのさ。 あの色なら敵は全員注視するし、意識を向けさせられる。

       つまり、敵対心を持つ人間には絶大な効果を持っているわけだ。

     

       しかし、ブラント君は珍しい棺桶を知っているんだね。

       あれはまだ復元したばかり――」

     

    次の瞬間、トラギコの右手は躊躇いなく銃を抜き放った。

    その速度は電光石火の早業で何一つ余計な動作がなく、安全装置を解除するのと撃鉄が起こされたのは同時。

    拳銃を用いた近接戦闘において絶対的優位性を確保できる中間軸再照準(※注釈: 胸の前に銃を構える方法の一つ)の構えを取り、

    指先に僅かでも力が込められれば、豊富な棺桶の知識が詰まった脳漿はパワーウィンドに飛び散ってグロテスクな装飾を施す準備を整えた。

     

    (=゚д゚)「ショボン・パドローネはどこラギ?」

     

    (e)「いきなりどうしたんだい?」

     

    (=゚д゚)「いいから言え」

     

    (e)「落ち着きたま――」

     

    ジョーンズの鼻先を銃弾が掠め、パワーウィンドが砕けた。

     

    (=゚д゚)「――言え」

     

    発掘したにしても、それがシュール・ディンケラッカーの手元に渡るためにはショボンを挟む必要がある。

    もしくは、ショボンの組織を介さなければそれを手に入れることは出来ない。

    シュールが脱獄したのは二日前の八月八日のことだ。

    短期間でコンセプト・シリーズの棺桶を一人で用意するのは不可能。

     

    詳しいことはこれから聞き出すが、ジョーンズは間違いなくショボン達に対して協力的な立場の人間なのである。

    ジョーンズの性格が幸いして、思わぬ拾い物をした。

     

    (e)「……まいったな。 もう少し紳士的に話し合いが出来ると思っていたんだが」

     

    (=゚д゚)「頭をぶち抜かれなかっただけ紳士的だと思え」

     

    ここで逃がす手はない。

    何が何でも情報を手に入れ、手掛かりとし、足掛かりとする。

     

    (e)「しかしね、それを答えたところで私には何もメリットがないんだ。

       君は私の情報が欲しいから、私を殺すわけにはいかない、そうだろう?

       もちろん私も死にたくはないし、君を怒らせて早死にしたくもない。

       今は私の職場に着くまで落ち着くのが互いにベストだと思うんだがね」

     

    (=゚д゚)「手前の職場に着いたところで、俺が無事だという保証がないラギ。

        で、奴はどこラギ?」

     

    発掘の指揮を執る人間がショボンの組織に属しているとしたら、その作業員たちも仲間である可能性が濃厚だ。

    素人のような恰好をしていても懐にあるのはペンではなく拳銃という事も、十分考えられる。

     

    (e)「第一ねぇ、そのショボンとかいう男を私は知らないんだ」

     

    これで言い逃れをしようとしているのならば信じがたい馬鹿だが、この男はトラギコの能力を試そうとしているようにも思えた。

    どこまでトラギコが本気なのか、それを見極めようとしているのかもしれない。

    だとしたら大きな間違いだ。

    初対面の人間に試されることで得られるのは怒りだけだ。

     

    (=゚д゚)「誰がいつ男だと言ったラギ? 博士、あんたは頭がいいが馬鹿ラギね。

        時間稼ぎが趣味か? 俺は膝を撃つのが趣味ラギ。

        車を停めろ」

     

    (e)「あぁ、よく言われるんだ。

       では訊くが、どうして彼を探しているんだい?

       彼は髪がないが善人で追われるような男ではないよ」

     

    (=゚д゚)「あれが善人なら刑務所は善人の展示場ラギ。

        まずは車を停めてからお前らの組織について話してもらおうか」

     

    (e)「ほぉ、君は警官か探偵かな?

       煙草、吸うかな?」

     

    トラギコが最初に要求したのは、停車だ。

    それを無視してシガーライターを取り出し、なおも話を続けようとするジョーンズだが、おそらくはトラギコが手を出さないと考えているのだろう。

    だが、それは大きな過ちだ。

    銃口を下に向け、トラギコはジョーンズの太腿を撃ち抜いた。

     

    肉が抉れて血が扉を汚したが、流石に大動脈を傷つけると後始末が大変なためわざと表面の肉を削るように撃っただけ優しいと言える。

    見た目は派手だが、そこまで深刻な傷ではない。

     

    (;e)「あばっ?! 馬鹿か君は!! 本当に当てる奴があるか!!」

     

    ようやく車を停めたジョーンズは傷口を押さえ、トラギコを罵倒する。

    三発目の銃弾が彼の頬を掠めた。

    これで本気であることが伝わるだろう。

     

    (=゚д゚)「あぁ、馬鹿だよ。 で、そんな馬鹿な俺にも分かりやすく説明してもらおうか、博士」

     

    (;e)「想像以上の馬鹿だよ、君は。

        とりあえず先に止血させてくれ」

     

    止血のために血で汚れた右手で後部座席を指すが、当然認めるはずがない。

    シートの下に何が仕込んであるか分からないし、余計な動きは禁物だ。

    万が一周囲にこの男の護衛が控えていたら、合図一つでトラギコを襲うよう指示することも出来る。

    シュールに棺桶を渡すよう手はずを整えられる人間ならば、それぐらいの用心はしていると想定しておくべきだ。

     

    (=゚д゚)「駄目ラギ。 棺桶については詳しいようだが、銃についてはどうかな。

        この九ミリを食らえばお前の脳味噌がどうなるか、知りたくないラギか?」

     

    (;e)「第一、話したら殺さないという保証がない。

        そんな話聞き入れるのは馬鹿だけだ」

     

    (=゚д゚)「義手の中でも、指ってのは割と大変らしいラギよ。

        それが五本、両手で十本になると発掘どころじゃなくなるよなぁ。

        話せ」

     

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           ミヌ彡|::.:|.|:.:|..:|  |    l    l亡フ|  |

            X |..:.|:|..:|:.:|  l    「  ̄l  Lz|  | August 10th AM09:12

        _,. -(__)__l/´「 ̄ ̄|`丶 侶占コ | ̄ ̄l   .|

       {二二フ ,. -ァニ二二二ニヾ、i .| ̄ ̄| |──l   .|

          |,. '´ ∠ ____ノ l_|    |_| r----{三ヽ

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    点滴のチューブが繋がれたアサピー・ポストマンは確かにベッドの上に寝かされ、薄いシーツの下で寝息を立てていた。

    彼は術後の麻酔から覚めておらず、乱暴に開け放たれたスライド式の扉から現れたライダル・ヅーに気付いた様子はない。

    それどころか、今まさに窓から侵入してきた男の存在にも気付いていなかった。

    立派に蓄えた黒いひげと長く伸ばした癖の強い黒髪、体にぴったりと張り付く特殊なスーツと背負った長方形の物体。

     

    不審者以外の何者でもないが、その顔を見たヅーは男の正体を見抜いた。

    ベッドを挟んで相対する二人の視線は、互いの動きを読むべく油断なく固定されている。

     

    ;゚ー゚)「……急いできて正解でしたね、デミタス・エドワードグリーン」

     

    “ザ・サード”の渾名で知られる今世紀最悪の盗人、デミタス。

    予告状を送り付け、警察をあざ笑い続けてきたその態度と反省のなさから死刑が宣告された男だ。

    先日、シュールと共に脱獄したのを機に足取りが掴めていなかったが、ようやくここで出会えた。

     

    (´・_ゝ・`)「名乗った覚えはないんだが」

     

    瓜゚-゚)「有名人ですからね、我々の間では」

     

    こうして会話をする間にも、ヅーは拳銃を抜き放つべく様子を窺うが隙が無い。

    流石は盗人。

    相手の隙を狙うことに関してはヅーよりも格上なのだ。

     

    (´・_ゝ・`)「それでも、予告状通り盗ませてもらうぞ」

     

    予告状の話など聞いていないと思ってしまった瞬間的な油断。

    生じた刹那の驚愕が、デミタスにとっての突破口だった。

    確かに眼前にあったデミタスの体が、消失した。

    地を舐めるような低姿勢になったわけでもなく、飛び上がったわけでもなく、文字通り消えたのだ。

     

    ;゚-゚)「くっ!!」

     

    僅かにベッドが軋む音が聞こえたヅーは、咄嗟に両手を眼前で交差させた。

    防御の構えに対して襲ってきたのは、腹部への猛烈な打撃。

     

    瓜゚-゚)「ぐ……」

     

    予感していた。

    だからこそ攻撃する場所を誘導することで、腹部に力を込めて対処することが出来ていた。

    胸部への攻撃であれば肋骨を奪えたが、この瞬間的な戦闘の合間にそれを考えるだけの能力は彼になかったようだ。

    が、明らかに人間離れした膂力にヅーの小柄な体が冗談のように宙を舞い、壁に叩き付けられた。

     

    ; )。゚ ・ ゚「……はっ!?」

     

    姿が見えない、それがもたらす心理的な重圧は極めて大きい。

    デミタスは強化外骨格を使っているに違いなかった。

    意識が混濁する中でヅーは追撃に備えて身を構えるが、恐れていた展開は訪れなかった。

    扉を蹴り破って入ってきた警備の者がライフルを構え、倒れたヅーを庇うように前に出る。

     

    彼はジュスティア軍から派遣された人間で、戦闘経験は豊富なはずだ。

     

    ( ''づ)「どうしました!?」

     

    从´_ゝ从「侵入者か!!」

     

    ;゚-゚)「不可視の棺桶使いです!!」

     

    要点は手短に、そして要件は正確に。

    デミタスであることを伝えるよりも大切なのは、見えない相手という事と棺桶使いであるという事だ。

    物理的に姿を消すとなると、現代の技術や戦闘技法では不可能である。

    馬鹿げた力とその能力を見れば、強化外骨格が成す業であることは明白だ。

     

    警告は僅かな時間稼ぎにしかならなかったが、その間にヅーは呼吸を整えることが出来た。

    秘書の肩書を持つとは言っても、彼女は警察官。

    優れた頭脳と対応能力こそが、彼女の武器だ。

    アサピーの枕を引き抜いてそれを放り投げ、懐から取り出したベレッタで穴だらけにした。

     

    粉雪のように飛び散る羽毛が不可視の棺桶の軌跡を露わにする。

    そして判明する。

    デミタスの目的が。

     

    ;゚-゚)「しまっ……!!」

     

    彼が狙っていたのは、アサピーのカメラ。

    その中に収められた写真を奪われると、多くの証拠が失われてしまう。

    ショボンの素顔や爆破テロの現場の写真など、想像するだけでその価値は計り知れない。

    現像しない限り、写真が持つ価値は無限大なのだ。

     

    あれを奪われると、ヅーたちの捜査に多大な影響が出る。

    最悪の場合は捜査が進まず、暗礁に乗り上げてしまう。

    照準を宙に浮くカメラの前に向け、銃爪を引く。

    銃弾は虚しく壁に穴を空け、命中した様子すら見せない。

     

    羽毛が急速に動き、デミタスが接近していることを知らせた。

    小うるさい羽虫を潰して作業に専念するつもりなのだ。

     

    从´_ゝ从「うわっ!?」

     

    ( ''づ)「うお?!」

     

    その接近に驚いた兵士たちだったが、カービンライフルの銃爪を引いて弾をフルオートで発砲することは出来た。

    弾は壁と床を砕き、窓ガラスを破壊したがこれも当たらない。

    二人の兵士が突如として浮かび上がったかと思うと、窓の外へと飛んで行った。

    不可視化の兵装は見聞していたが、実用レベルに達した物を見るのは初めてだった。

     

    ;゚-゚)「くうっ……」

     

    盗みに入るという事は、相手の死角や懐へ入り込む近接戦闘に長けているという事。

    起動コードの入力が聞こえなかったことから、デミタスが身につけていた趣味の悪い衣装は強化外骨格の外装であることが予想できる。

    なす術がない。

    体術の経験値で勝っていても、身体能力の補助があるとないとでは雲泥の差だ。

     

    構えていた拳銃が吹き飛び、顔に不気味な風が吹き付ける。

     

    「お前には、個人的に用がある」

     

    眼前の何もない空間から声が聞こえたかと思うと、ヅーの腹部に強烈な衝撃。

    衝撃を殺そうにも受け身を取ろうにも、背中にあるのは壁。

    壁と拳に挟まれた臓器は押し潰され、呼吸が止まる。

    空虚がせり上がる不快な感覚と口の中いっぱいに広がる酸味が、嘔吐を誘発した。

     

    胃液を吐き出し、危うく意識が飛びそうになる。

    寸前のところで痛みはヅーの意識を奪うことなく、呼吸困難と激痛によって四肢の動きを封じた。

    意識がある分、最悪だった。

    無力な自分を実感しながら相手の動きを見るしか出来ない。

     

    力なく崩折れたヅーの目の前に、忌々しいデミタスがその姿を現した。

    詳しく観察する余裕すら、今のヅーにはなかった。

     

    (´・_ゝ・`)「聞かせてほしいことが二つあるんだ」

     

    肩を蹴られ、仰向けに転がせられる。

    そして、踵が視界を埋め尽くした。

    鼻の骨が折れる感覚と激痛、そして意識の混濁が始まる。

    顔を濡らすのが涙か血なのか、分からない。

     

    (´・_ゝ・`)「一つは、お前には人の夢を奪う権利があるのかということだ」

     

    太腿を踏みつけられ、太い骨が折れたのが分かった。

    最早痛覚はその機能が焼き付く前に、回線の一切を遮断しようとしていた。

    すでに腹部の痛みは全身の激痛と合わさり、どこが痛んでいるのか分からない。

     

    (´・_ゝ・`)「俺には夢があった。 ささやかな夢だ。

          子供たちが幸せに育つ、ただそれだけの夢だ。

          孤児が生きるには金が必要だが、金を稼ぐことは出来ない。

          なら、どんなことをしてでも金を稼ぐ人間が必要になるだろう?

     

          金の仕送りが途絶えればどうなると思う?

          ……小さな体を売るしかないんだよ。

          この世界の汚れ、苦痛、屈辱を一身に受けるんだよ、その体で」

     

    ; )「……っ」

     

    記憶のフラッシュバックが始まった。

    デミタス・エドワードグリーン。

    判決は死刑。

    その最終決定を下したのは――

     

    (´・_ゝ・`)「エミリーもピピンもいい子たちだった……

          二人とも今は金持ちの愛玩道具になって、ビルボは真空パック詰めになった肝臓だけ見つかったよ。

          それが、お前が俺から奪った夢だ」

     

    ――他ならぬ、ヅー自身だ。

    ジュスティア警察を嘲笑うようにして予告し、その通りに盗んだ。

    彼は現場の警官たちのプライドを傷つけ、職を奪い、自殺者を出した。

    それは許されることではない。

     

    警官たちにも家族がいたのだ。

    彼の事情など、知った事ではない。

    ヅーが一日に十数名単位で死刑台に送り込んでいる事を、この男は知るはずもない。

    罰を受けるべき人間の事情や名前など、宣告の後はどうでもいいのだ。

     

    ; )「……っそ」

     

    (´・_ゝ・`)「そしてもう一つ。 俺が聞きたいのは謝罪の言葉でも命乞いの言葉でも強がりの言葉でもない」

     

    最早、意識は薄らいで痛覚は消え失せていた。

     

    (´・_ゝ・`)「お前の命が終わる音だよ」

     

    そして、ヅーは意識がブラックアウトしていくのをただ受け入れるしかなかった。

     

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    長い沈黙があった。

    十分なのか、それとも一時間なのか。

    時間の経過は心的な状況によって感じ方が大きく変わる。

     

    (e)「――くそくらえ、と言ったら?」

     

    (=゚д゚)「……手前ぇ」

     

    銃爪にかけた指に力を込めようとした、その瞬間。

    助手席側の扉が、軽くノックされた。

    スモークガラスで中が見えないのであれば問題はないが、銃声は大問題だ。

    誰がノックをしたのか、トラギコはジョーンズが抵抗しないように注意しながら、慎重にそちらを見た。

     

    万が一にでもカージャッカーだとしたら、迎撃しなければならない。

    果たしてそこにいたのは、トラギコの意表を突くには十分すぎる人物だった。

      _

    ( ゚∀゚)「おい、エンストか?」

     

    手入れのほとんどされていない茶髪は大部分が白に染まり、一インチほどに伸びた無精髭と垂れた鳶色の瞳。

    汗染みの出来たワイシャツに色褪せたジーンズ。

    それでもなお失わない軍用犬じみた雰囲気。

     

    (;=゚д゚)「じ、ジョルジュ……さん?!」

     

    ジョルジュ・マグナーニ。

    ジュスティア警察で先輩としてトラギコに多くを教えてくれた、数少ない尊敬の対象。

    一身上の都合で退職した彼が、どうしてここに、と考えてしまったのは懐かしさ故。

    常に喪失感と命の危機にさらされ、心がすり減るのを防ぐために鋼鉄で保護してきたトラギコにとっては正に不意打ちだった。

     

    同僚の登場は、固めてきたトラギコの心を内側から大きく揺さぶった。

    思うのは過去。

    振り返るのは良き思い出。

    奪ったのは数秒。

     

    (e)「では、失礼するよ」

     

    一瞬の隙をついてジョーンズは車外へと飛び出し、血の跡を残して坂を転がりながら移動していった。

    射殺しようにも、もう死角へと逃げ込んでいる。

      _

    ( ゚∀゚)「馬鹿な奴だ」

     

    誰が乗っているのか分かっていないのだろう。

    いや、ジョルジュには興味の対象外なのだ。

    ジョルジュが興味を持っているのは、如何に素早く犯罪者を仕留めるか、その一点のみ。

    ジョーンズの逃亡を見届けたジョルジュが取る次の行動は、誰よりもトラギコがよく知っていた。

     

    彼に直接教えを受け、彼の行動を真似してきたからこそ分かる。

     

    (;=゚д゚)「くっそ!! やべぇやべぇやべぇ!!」

     

    急いで運転席へと移り、頭を下げたままアクセルを踏んで車を発進させた。

    キーを抜いてエンジンを切られていなかったのは不幸中の幸いだが、無理な体勢のせいでギアを変えられず、速度を出せない。

    車が前に進むのと同時に助手席の窓ガラスが砕け散り、運転席のヘッドレストが吹き飛んだ。

    驚くことではない。

     

    ジョルジュが本気を出せばスミス&ウェッソンM29をホルスターから抜いて撃つ速度は、銃を構えた状態の人間と大差ない。

    ジュスティア人の中で最も早撃ちを得意とする、世界最速のガンマン。

    それが、ジョルジュだ。

    一発の銃声で二つの的に弾を命中させることも、宙に放り投げた三つのコインが地面に落ちる前に吹き飛ばすことなど造作もない。

     

    現場から離れるセダンの背後から、フルオート射撃に匹敵する速度の連射が車体を襲う。

    マグナム弾でも、運転手を殺さない限りはセダンを止められない。

     

    (;=゚д゚)「どうなってんだ!!」

     

    その答えは分かっていた。

    ジョーンズの仲間という事は、すなわちショボンの仲間へと身を堕としたことを意味する。

    何が起きて、どうして彼らは結託したのか。

    少なくともジュスティアの精神を持っている人間ならば、ショボンのような堕ち方はしない。

     

    ジョルジュは確かに不真面目な部分も多かったが、それでも彼は良き警官であろうとしていた。

    何故それが終わったのか。

    答えが分かるはずはない。

      _

    ( ゚∀゚)「……」

     

    バックミラーに映るジョルジュが、残忍な笑みを浮かべてアタッシュケースを構えた。

    その中身を、その力をトラギコは知っている。

    動いた口が紡ぐ言葉も、一言一句覚えている。

     

      _      Go ahead.          Make my day.

    ( ゚∀゚)『いいぜ、望むところだ。 この俺を楽しませてくれよ』

     

    起動したのは大口径対強化外骨格用リボルバーを使うAクラスのコンセプト・シリーズ、“ダーティー・ハリー”。

    アタッシュケースに収納されているのは、反動抑制と動作補助の役目を持つ籠手と一体となった拳銃だ。

    目的はただ一つ、重装甲の強化外骨格をも撃ち抜ける拳銃の携行と緊急時の使用である。

    トラギコの所有するブリッツと非常によく似た設計思想をしているが、大きく異なるのはその射程だ。

     

    ブリッツの主兵装である高周波刀は応用が効くが距離が短く、対するダーティー・ハリーは中距離を相手に十分戦える。

    六十口径のニトロ・エクスプレス弾を強化した弾丸がもたらす威力はCクラスの棺桶の装甲ですら貫通し、頑強で名を知られるトゥエンティー・フォーの装甲も貫くことが実証されている。

    ならば、セダンの装甲など紙同然。

    運転席側を狙って撃たれれば、トラギコの体は水風船のように爆ぜることだろう。

     

    蛇行運転で逃げようにも、相手が悪すぎる。

    警察きっての射撃の天才を前に、逃げ切ろうとするのが不可能だ。

    彼の実力を知っている人間だからこそ出来る戦い方をする他ない。

    座席の下へと潜り込むと、半分に千切れたシートが落ち、フロントガラスに大きな穴が開いてそこから風が流れ込んできた。

     

    (;=゚д゚)「くっそ、視界が……!!」

     

    蜘蛛の巣状のひびがフロントガラス全体に走り、何も見えない。

    続けてハンドルが破裂し、助手席のシートも半壊した。

    運転席に撃って効果がないと判断して、潜んでいる可能性のある助手席を撃ち抜く。

    かつて彼から教わった通りの順番だからこそ対応できたが、次に撃たれる場所も分かってしまう。

     

    次は動きを止めるために車軸を狙ってくるはずだと思った瞬間、予想に反してセダンが上下に大きく揺れた。

    明らかに、何かを乗り越えた感覚だ。

    覚えている限りで乗り越え得る障害物と言えば、ガードレールしかない。

    ガードレールにぶつかり、乗り越えたと考えるのが自然だ。

     

    不自然なのは速度をそこまで出ていなかったことだが、ジョルジュがガードレールの支柱を破壊したのであれば納得できる。

    運転手を撃ち殺すのが難しいと判断し、崖から落として確実に重傷を負わせる方針に固めたのだろう。

    それならば、速度を十分に高めずともセダンはガードレールを押し倒して乗り越えることが出来るのだ。

    短時間で打ち出された方策は完璧で、トラギコには思い至らなかった。

     

    完敗だったが、とにかく今は生き延びることを考える他ない。

    どうにか座席の下から這い上がろうとするが、嫌な浮遊感を覚えた時にはトラギコの視界は大きく上下に揺れ始めていた。

    猛烈な速度で滑落し始めているのだと認識したところで、どうしようもない。

    シートベルトを片手で手繰り寄せ、手首に巻きつけるようにして握りしめた。

     

    高低差や周囲の状況などを考える暇などないまま落ち続け、車体が大きく持ち上がると同時に横転した。

    平衡感覚を失い、背中をダッシュボードに何度もぶつける。

    車外に放り出されれば、待っているのは避けようのない死。

    限りなく現実的な死の実感を総身で受けながら、トラギコはそれを受け入れるしかできない。

     

    ――そして、訪れた衝撃と共にトラギコの意識は黒い世界へと溶けて消えた。

     

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    .,.=x''',!':::/l :゙、.  ,.=x''',!':::/l :゙、.  ,.=x''',!':::/l :゙、   ..:::August 10th PM05:47

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    目を覚ました時、アサピー・ポストマンの周囲には黒尽くめの男が五人立っていた。

    柔軟性のある素材で作られた上質な布地のダークスーツを着ているが、その上からでもはっきりと彼らの体に付いた筋肉の多さを見て取れる。

    両腕の筋肉と胸筋は特に発達しており、彼らの腕力が如何に優れているのかを如実に物語る。

    視線を読ませないためのサングラスと片耳に入ったインカムは、彼らが組織に属していることを示す。

     

    ;-@@)「え?」

     

    生きていたことを喜ぶ間もなく、枕元に立っていた彫りの深い男がインカムに呼びかける。

     

    (●ム●)「……保護対象が起きました」

     

    アサピーの無事を歓迎している風ではないし、何よりも威圧感がすさまじい。

    全員が懐を不自然に膨らませ、皮の厚そうな両手は傷だらけだ。

    それを聞いた他の四人が互いに向かい合い、話しを始める。

     

    _ゝ川「各位、対象の起床に伴いプランAを実行する」

     

    ,,●ω●)「プランA了解。 ルート確保後、戦術プランPPで行動を開始する」

     

    (●ι●)「戦術プラン、市街地における最重要人物の護衛任務、了解。 ルートの消毒作業を開始する」

     

    IUI「消毒作業了解。 チームB、作業に移れ。 十五秒後に移動を開始する」

     

    次の瞬間、男たちは足元から艶のないモスグリーンに塗られた大型のスーツケースを持ち上げ、それを背負った。

    そして背負うのと同時に、全員が同じ言葉を口にする。

     

    『我らは平和を願い、勝利を求める。 どうか名も無き我らに、気高き白の祝福があらんことを』

     

    小型にして強力、そして一際優れた携帯性と有用性の両立。

    キー・ボーイやジョン・ドゥと肩を並べるほどの名機ながら、その特殊さ故に実戦で使用されることのあまりない強化外骨格の起動コード。

    一部の軍やボディガードに幅広く浸透しているAクラスの強化外骨格、“エーデルワイス”。

    新聞社に勤める前にフリーランスのカメラマンとして働いていた際に担当した雑誌で、ジュスティア軍が運営する警備会社の特集が組まれたことがあった。

     

    アサピーが担当したのは警備会社の社員の姿を撮影するだけで、実際に使われた写真は小指の爪ほどの大きさだった。

    経営不振によりその雑誌社はすでに倒産しているが、初めて得た仕事が関係しているためにその記事の内容はよく覚えている。

    雪原地帯以外ではほぼ使う事のない白を基調とした迷彩柄の装甲は、装甲とは言い難いほどに頼りなかった。

    彼らの四肢を包んだのは、動作補助用の人工筋肉とフレームであり、生身の部分の露出の方が圧倒的に多い。

     

    頭部だけはカメラと一体化した歪なヘルメットで護られているが、口元は大きく開いており実質的に守られているのは頭蓋だけとなる。

    だが、この強化外骨格の優れた点はBクラス並みのパワーを発揮できながらもAクラスの中でもかなりの小型に納められている点だ。

    加えて、使用者が走りながら起動コードを入力してもかなりの正確さで装着を完了させる人工知能の性能も、この棺桶の特徴の一つである。

    コンテナ内に一度招かれて装着を済ませるタイプの棺桶と異なり、時間の短縮が出来る点で一線を画している。

     

    グレート・ベルの鐘が、澄み渡る金属の音色を響かせた。

     

    ::[/.])「作戦開始」

     

    その一言と共に、アサピーは枕元にいた男に抱きかかえられていた。

    思い出に浸る時間も瞬間も与えられないまま、説明さえもないまま病院の外へと連れ出される。

    地平線の彼方に沈みゆく夕日の赤々とした血を思わせる深紅色と、巨大な暗幕が下りるように広がる濃い群青色の夜闇、そして鳴り響く鐘の音が不気味だった。

    それはまるで――

     

    ――まるで、血に濡れた惨劇の舞台に幕を下ろすように見えて。

     

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    抵抗は最初から選択として頭に浮かぶことはなかったが、ただならぬ状況にあることを知りたい気持ちが湧き上がってきた。

    ただの新聞記者の端くれから大事の中心に近づける機会は、人生でも二度あるかというほど。

    この状況、興奮せずにはいられない。

    何者かに脇腹を撃たれたとしても、つい先ほどまで眠りの中にいたとしても、関係ない。

     

    今をただ生きて、真実を追い求めるだけだ。

     

    -@@)「取材を申し込んでも?」

     

    揺さぶられながら、路地裏へと連れられながらアサピーは取材を開始した。

    が、応じる者は当然いない。

    そこで思い出す。

    カメラがない。

     

    ;-@@)「あ、あの、僕のカメラはどこにあるので?」

     

    誰も答えない。

    商売道具であり、アサピーの努力の結晶が一眼レフカメラの中にある。

    それを回収しないことには、死にかけた意味がなくなってしまう。

    背筋がようやく冷えてきた。

     

    ;-@@)「ねぇちょっと、あれがないと困るんですよ。

          ショボン・パドローネとショーン・コネリのベストショットがあるんですってば」

     

    好ましい反応はない。

    どころか、無言の圧がアサピーを襲った。

    目的地がどこであれ、意図的に迂回を繰り返して尾行者に気を遣い、時には分散し、時には集結して移動する彼らは無駄な行動を起こす気配を見せない。

    されど放つ雰囲気、殺意、敵意、それら全てが物質的な何かを思わせながらアサピーの頬を舐めたのだ。

     

    これ以上語るのであれば、次にアサピーを待つのは無慈悲な咀嚼だ。

    骨まで到達する一撃を甘噛みと表現し、彼らは今度こそ物理的にアサピーを黙らせるだろう。

     

    ::[/.])「……コンタクト!!」

     

    ;-@@)「えっ?!」

     

    一喝。

    対象はアサピー以外の全員。

    目的は警戒、警告、そして戦闘開始の宣言。

     

    ::[/.])「対象、デミタス・エドワードグリーンを確認。 排撃する」

     

    ;-@@)「スクープ?!」

     

    (´・_ゝ・`)「今度こそ盗ませてもらうぞ、そいつの命。

          ――姿は見えずとも、殺意は見える」

     

    完全にアサピーを対象とした宣戦布告の言葉の後、一瞬でデミタスと呼ばれた男の姿が視界から消え失せた。

    減音器で申し訳なさ程度に抑えられた銃声が連続するが、地面を抉るだけ。

    この世界にいる人間は、こうも容易く銃弾を回避できるわけではない。

    その非現実極まりない事象を現実へと落とし込むためには、旧時代の技術が必要となる。

     

    強化外骨格が。

     

    ::[/.])「報告の通りだ、慌てるな。 ケースDが発生、プランDで対処」

     

    姿が見えないという圧倒的な不利にもありながら、男たちは落ち着き払った声と態度で動き始める。

    まず、アサピーを抱えた男が跳躍し、建物の壁を足場にして屋上へと昇る。

    その間に残った男たちがデミタスを探して仕留め――

     

    ::[/.])「馬鹿な、感無しっ――?!」

     

    ――首を刎ねられ、仕留められていた。

    詳しいことは分からないが、デミタスの狙いがアサピーであり、彼を守ろうとしている男たちが窮地に陥っているのは分かる。

    姿が見えない相手を前に、ジュスティア軍が翻弄されている。

    そして、思い出す。

     

    予告状を出したうえで警察を手玉に取り、目的の物を奪い取った男の事を。

    “ザ・サード”だ。

    命を狙われる原因は分からない。

    分からないことだらけの状況に慣れつつも、アサピーはその状態から一つの事を学んだ。

     

    混沌としているように見える中にも、中心点が必ずあるという事だ。

    例えばトラギコ・マウンテンライトが追っていた脱獄囚。

    例えばショボンとショーンの争いの発端であるアサピー自身。

    その中心点に向かうにつれて事態は激しさと混乱を加速させ、関係者を惑わせるのだ。

     

    今見極めるべきはその中心点。

    一介の記者であるアサピーが襲われる原因、殺されようとしているその理由こそが中心点に違いない。

    目撃情報、もしくは体験がその原因だろう。

     

    ::[/.])「状況Eが発生!! これよりルートRで保護対象をポイントCへ移送する!!

          支援プランDを――」

     

    アサピーを抱えて屋上を駆け回っていた男が、つんのめり、アサピーはその場に放り出された。

    辛うじて屋上の縁に体がぶつかって止まり、落下を免れたが強かに打ち付けてしまった全身が痛む。

    手術を終えたばかりの傷口が開き、熱と痛みが腹から広がる。

    何故男が倒れたのか、それは男の頭を見れば十分理解できた。

     

    頭頂部が半分抉れていたのだ。

     

    ;-@@)「流れ弾? ……いや、これは」

     

    予感というよりも直感でアサピーは自ら縁を乗り越えて、ゴミ捨て場の上に落ちた。

    それが、この島で起きつつある事件の核心の片鱗をアサピーに見せるとは、誰も思わなかっただろう。

    確かに目撃したのだ。

    彼方で光った、カメラのフラッシュにも似た輝き。

     

    マズルフラッシュと呼ばれるそれの場所を、アサピーは視認したのだ。

    全てを繋げ、これまでの不自然な何もかもを解き明かし得る情報だった。

    この情報をトラギコ・マウンテンライトに伝えれば、事態は急激な変化を起こすはずだ。

    そうなればスクープの中心に入り込める。

     

    幸いにして黒いビニール袋に入っていたのは可燃性のゴミばかりで、安いクッションの役割を果たした。

    痛む体を使い、アサピーはゴミ捨て場を脱した。

    決定的な瞬間を伝えるという任務、責務、責任の全てを一身で背負いながらアサピーは傷口を押さえながら歩き始める。

    この事件、想像以上に奥が深く闇が多い。

     

    指先に感じる血の感触の正体を確認するよりも、やるべきことがある。

     

    ;-@@)「……ご、護衛の皆さん? 誰か、誰かいませんかー?」

     

    ともあれ、アサピーは無力だ。

    武器も技術も武術もない。

    誰かに守られ、誰かの力を鉾として立ち向かわなければならない。

    エーデルワイスを身に纏っていた男たちはどこに消えたのか分からず、姿の見えないデミタスの位置も分からない。

     

    分かるのは殺されてはならないという事と、トラギコと会わなければならないという事。

    どこの路地裏にいるのか、皆目見当もつかない以上、アサピーが取るべき進路は音のする方向。

    即ち人通りの多い場所だ。

    だが、それは賭けだ。

     

    アサピーが見た光の位置は、このグルーバー島の中心部に聳え立つティンカーベルの象徴。

    つまりそれは――

     

    ――鐘の音を鳴り響かせる鐘楼、グレート・ベル。

     

    その場所こそが、狙撃の原点。

    調べれば必ず何かが見つけることの出来る聖域。

    是非ともトラギコにこそ、それを任せたい。

    彼ならば、真実を追求し答えへと辿り着くためには手段を択ばないあの男ならば、確実に実現できるはずなのだ。

     

    ;-@@)「おーい、誰かー。 メディーック!!」

     

    叫ぶがその声は虚しく響くだけ。

    逆に、アサピーの場所を他者に知らせてしまうだけだとは思いもしない。

    彼は素人。

    襲われる側の経験はなく、スクープを目指して追うのが彼の仕事故に知らないのは当然だろう。

     

    ;-@@)「誰か何とかしてくれー!!」

     

    彼が叫んだその瞬間。

    二つの勢力が。

    否。

    たった一つの強大な勢力に対して、唯一無二の存在が無慈悲極まりない牙を剥いていた事を、アサピーは知る由もなかった。

     

    「……また邪魔するか、女!!」

     

    「悪いけどな、またあたしなんだよ、男」

     

    この時。

    ジュスティアでも、ましてやティンカーベルでもない別の存在に自分が生かされたことなど、アサピーは知るはずもない。

    考えていたのは生き残る事と、これから向かうべき場所だった。

    選択次第ではすぐに新たな魔手に狙われ、今度こそ殺されてしまう。

     

    それを回避しつつも、安全に情報をトラギコへと発信できる場所。

    ただ一か所だけ、アサピーの脳裏にその場所が浮かんだ。

    斯くしてアサピーは、偶然その場にやってきたタクシーに飛び乗り、事なきを得た。

    彼が目指したのはグルーバー島にある警察の支部ではなく、ジュスティア軍の駐屯地でもなく、ましてやモーニング・スター新聞の支社でもなく。

     

    現段階で絶対にして唯一の安全圏。

    ショボンが事件を起こした発生源。

    島から隔絶され、隔離され、独立した海上の街。

    それ即ち、船上都市にして世界最大の客船。

     

    これより今、真実を巡る舞台はオアシズへと移るのであった。

     

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              AmmoRe!!のようです Ammo for Tinker!!編 第七章 了

     

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