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第二章【sisters-お姉さん-】

  1. 名前: 歯車の都香 2017/04/14(金) 21:08:40
    第二章【sisters-お姉さん-】


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    優柔不断が罪になるのならば、間違いなく、〝自称〟平凡な青年フランク・チシットは満場一致で極刑に値する男だった。
    子供の頃から、彼は優柔不断で有名だった。
    何をするにも人に意見を尋ね、その答えを聞いても首を傾げ、たっぷりと十分は考え込み、最終的には別の意見に落ち着くのであった。
    やがてそれが常識として定着し、彼を知る者は彼の相談を真面目に聞く事を諦めた。

    彼に人生で最初の春が訪れた時、彼は自らの手でそのチャンスを潰した。

    同クラスの女子生徒に告白され、彼は真剣に悩んだ。
    悩み始めて三ヶ月後、彼は友人に相談した。
    呆れ果てた友人は、自分で決めろと一言だけアドバイスをした。
    フランクは最終的に告白を受けてから五ヶ月後に、付き合おうと返事をしたのだが、当然のことながら、その頃には女子生徒の気持ちは冷めきってしまっていた。

    その事に対し、フランクは自分が悪いのではなく、そんないい加減な気持ちで告白してきた女子生徒がいけないのだと憤慨した。
    話を聞いた友人一同は、呆れを通り越し、フランクの軸のぶれなさに尊敬の念を抱いたと云う。
    彼に何か物を頼む人間が激減した事は、言うまでもない。
    〝生まれながらの優柔不断野郎〟の渾名が与えられたのは、彼が十三歳の時だった。

    命名したのは、彼の幼馴染であるヒート・オロラ・レッドウィングだった。
    赤茶色の髪と碧眼を持つヒートは間違いなく美人に分類されるが、彼女の毒舌ぶりは精神を直接攻撃する兵器に分類された。
    後に彼女は、〝鬼〟の名で学校中から恐れられる事になる。
    フランクは不名誉な渾名を付けられた当初、激しく抗議した。

    自分は優柔不断なのではない。
    納得するまで考えるから決断が遅いだけなのだ、と。
    彼の主張は鼻で嗤われた。
    彼の事を優しいと評する女子生徒は、少数ながら存在した。

    彼女達はいつでもフランクの人柄を尊敬し、人の幸せの為なら自己犠牲を厭わない彼の行動を賛美した。
    昔からフランクの事を知る人間には、それが不思議でたまらなかったが、彼の事を褒め称える女子生徒が皆年下である事を知って、納得した。
    知らぬが仏、無知は罪なりと、彼の同級生は口を合わせて言った。
    フランクはそれが不愉快だったが、口には出さなかった。

    ヒートによって付けられたフランクの渾名は一ヵ月と経たずに彼の事を優しいと評していた女子生徒の間にまで定着し、彼女達は全員彼の元を離れる事となる。
    原因は、彼に訪れた二度目の春だった。
    相手は、言わずもがな彼の崇拝者だった。
    今回は答えを出す前に、まずは互いをよく知る為にデートをする事になった。

    前回を振り返ると、偉大なる進歩と言えよう。
    しかし、その提案は彼に告白をした女子生徒がしたもので、フランクは渋々と云った様子でそれに付き合っただけに過ぎなかった。
    本人曰く、断ると傷つくかもしれないから、だそうだ。
    場所は北の街にある遊園地。

    女子生徒のプランは完璧だった。
    ジェットコースターやお化け屋敷を巡り、最後は観覧車と云う、教科書にでも載っていそうな、模範的スケジュールだった。
    彼女の唯一の誤算は、フランクの優柔不断さを甘く見ていたことだ。
    腕を組んで観覧車に乗ろうとした時。


    ( T_フT)「これじゃあまるで、恋人みたいじゃないか。
          誤解をされると君も迷惑だろう」


    と言って、フランクは女子生徒を残して一人遊園地を去った。
    本人は自らの行動を正しかったが、非常に厳しい選択だったと振り返る。
    本人の解釈とは逆に、彼の事を知る人間からすればフランクは〝生まれながらの優柔不断野郎〟の渾名に相応しい働きをしただけであり、
    何一つ正しいと言える選択はしていなかった。


    当然の結果として、彼の伝説的優柔不断な行動は学校中に知れ渡り、噂はオセアン北部にある漁業が盛んな下町を越え、市街地にある私立の有名校にまで広まった。
    流石はフランクだ、と誰もが笑い話にした。
    それから五年の時が経っても、彼の渾名が消える事はなかった。
    苦労して就職先を探したが、既に下町中は彼の性格と伝説を知っていたので、まともな職は無かった。



    結局、フランクは親の伝手を使って奇跡的に、魚の切り身を加工する食品会社に就職する事が出来た。



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    その日の遅く、フランクは二週間ぶりに近所で人気の酒場、アホリに現れた。
    どこの職場も給料日後だったので、酒場はいつになく込み合っていた。
    フランクが入って来たのを見て、店中の知り合いがジョッキを掲げ、声を揃えて言った。


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    ΩΩΩ『生まれながらの優柔不断野郎に!』


    苦笑いを浮かべ、フランクは手を振ってそれに応えた。
    店中が笑いに包まれる。
    暫く伸ばしていた白髪の交ったライトブラウンの髪を掻きながら、空いている席を探すが、カウンター席以外は空いていなかった。
    後ろで何か内緒話をされそうで、フランクはカウンター席が嫌いだった。

    それに、空いている二つのカウンター席は三年前にこの下町にやって来たスティーブ・マウルの指定席で、運悪くマフィアの構成員である彼と鉢合わせでもしたら、彼の怒りを買う事になってしまう。
    キョロキョロとブラウンの瞳を動かして席を探していると、彼は幼馴染の懐かしい顔を見つけた。

    ( T_フT)「ヒート、ヒートじゃないか! 帰って来ていたのか! 心配したんだぞ!」

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    壁際の席にヒート・オロラ・レッドウィングと、彼女の友人らしき女性が座っていた。
    椅子は四つあったが、座っているのは二人だけだった。
    五年ぶりに再会したヒートは、糊の効いたダークスーツにスラックスと云う格好だったが、足には重々しい黒のロガーブーツを履いていた。
    黙ってビールを飲んでいた彼女は、フランクの声に面倒臭げに顔を上げた。

    ( T_フT)「なぁ、ヒート。
          隣に座ってもいいか?」

    ノパ⊿゚)「おや、誰かと思ったら優柔不断野郎じゃないか。
        別にあたしはいいけど、こっちに聞いてみてくれる?」

    そう言って、ヒートは目の前に座っている女性を指で指した。
    短く切った黒い髪と、ブラウンの瞳が可愛らしい、人形の様な女性だった。
    少女と大人の女性の間程の年齢だろうか、顔にはまだ幼さが残っているが、体つきは大人の女性その物だ。
    服装はモノクロ色調で地味だったが、そんな事は気にならなかった。

    フランクは、胸が高鳴っているのに気付いた。
    こんな事、産まれて初めてかもしれない。
    彼は、自分が恋に落ちたのだと即座に理解した。

    ( T_フT)「一緒に座ってもいいですか?」

    (*゚ー゚)「えぇ。どうぞ、フランクさん」

    ハチミツの様に甘い声は、フランクの頭を芯から痺れさせた。

    ( T_フT)「えっと、ヒート。
          彼女の名前は?」

    ノパ⊿゚)「あんた、口付いてるんでしょ」

    突き離す様にそう言ったヒートの眼は、この状況を楽しんでいた。

    無論、フランクはそれに気付けない程動揺していた。
    今から自分が彼女に名前を聞く。
    彼にとってこれは試練以外の何物でもなかった。
    五年前に密かに十字教に入信してから教会へは毎週欠かさず祈りを捧げに行っているし、罪を犯したこともない。

    そんな自分が何故、この様な試練を与えられなければならないのだろうか。
    いや、これは神が与えたステップアップの為の試練だ。
    これを越えれば、自分の中で何かが変わる。
    皆が自分を見る目が変わるかもしれない。

    勇気を出せ。
    勇気を出すんだ、フランク。
    千里の道も一歩から。
    彼は自分を鼓舞し、やや気取った口調で尋ねた。

    ( T_フT)「あの、お名前は?」

    (*゚ー゚)「メリーです」

    ( T_フT)「メリーさん、素敵なお名前だ。
          僕はフランク・チシット。
          どうか、〝フランクと気軽に〟呼んで下さい」

    横に居るヒートはビールを飲むふりをして、必死に笑いを噛み殺していた。
    笑いに耐えていたのはヒートだけではなく、その席周辺に居た客の殆どがそうだった。
    端の席では我慢が限界に達し、口を押さえて必死に笑い声を上げない様に努力していた。

    ( T_フT)「ところで、メリーさんのファミリーネームは――」

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    その時、新たな来店者があった。
    別にここは酒場だから、来店者が来る事は自然な事だ。
    だが、来店しただけで店内が水を打ったように静まり返る類の客は、そういない。
    扉を開けて入って来たのは、逞しい顎髭を生やした山賊の様な男でも、精神異常者でもなかった。

    来店者は耳付きの少年と、ブルージーンズのガウチョパンツ、そして八インチのデザートブーツを履き、
    更にはローブで身を包んだ如何にも怪しげな風体をした人間の、異質な二人組だったのだから。

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                 _」    :ハ,.ィ|     ;!
                   /rハ._    j,ノ! `!      !
                  { {`ー-¨ニ¨-‐| j    ノ
                  `|:       /、      }
                     }       / ヽ.    j
                 j      }  {ゝ .__,.イ}
            __,. -くj    /j   `ー-一'
         ,ィ´ ̄  ,ゞ-'"´ ` ヽ/ ハ
         {     ` ─- 、 /    }
         ` - ._ _ .. -ァ‐L__,ノ
              ̄ ¨¨  ̄
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    (<::、゚:::>三)

    (∪´ω`)

    大凡、予想した通りの反応だった。
    如何にもと云った風体の自分と、耳付きの少年の組み合わせはどこに行っても好奇の目で見られ、嫌悪の視線を向けられる。
    しかしデレシアはその様な些事は気にも留めず、空いているカウンター席にブーンを座らせ、自分もその隣に座った。
    その時、大きな音を立てて店の扉が開かれた。

    瓜゚ 」゚)「よぉ、ジル。
         何時になったらこの店を売りに出――」

    53 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/02/20(月) 21:44:17.56 ID:c6F/EPXp0
    乱暴に扉を開けて入って来たのは、金髪をオールバックにした中性的な顔立ちの若者だった。
    金色の刺繍の入ったスーツに小柄な身を包んだ男は、ブーンの姿を見て言葉を止めた。
    眉を顰め、威嚇するように肩をいからせ、ゆっくりとブーンに近付く。
    濁った青い瞳には、凶悪な色が浮かんでいる。

    デレシアはバーテンの後ろに並んだグラスに反射する男の姿から眼を離さず、万が一に備えて、店内の構造と客層を記憶する。

    瓜゚ 」゚)「……なぁ、ジル。説明してくれ。
        一体全体、こいつはどう云うことだ? どうして俺の指定席に、耳付きの糞ガキと浮浪者が座ってるんだ?」

    言葉はバーテンに掛けられていたが、男の意識は間違いなくブーンに注がれていた。
    その事を察知したブーンは恐怖に青ざめ、小刻みに震え始めた。

    ;;(;∪´ω`);;

    瓜#゚ 」゚)「どけよ!」


    (<::、゚:::>三)


    突然の攻撃に対して動いたのは、デレシアだった。
    ブーンを椅子から叩き落とそうと横合いから繰り出された、素早い左ジャブ。
    子供に対して打ち込むにしては力がこもり過ぎている。
    当たれば、ブーンの軽い体は宙を舞うこと請け合い。

    故に、デレシアは保護者として見過ごすわけにはいかなかった。
    その拳を正面から掴み、握り潰す為に力を入れる。
    骨が軋みを上げ、小さなひびが入ったのが指の感触で伝わった。
    直ぐに砕いてはつまらない。

    ブーンに手を出そうとした事を後悔させる為、デレシアはゆっくりと加圧する。
    ローブの下に隠れていたデレシアの瞳に浮かぶ、冷酷な光を見て、男は瞠目した。

    (<::、゚:::>三)「……」

    瓜#゚ 」゚)「……この!」

    痛みに顔を歪ませた男は怒りに身を任せて、懐に空いた手を突っ込む。
    応じて、デレシアは男の拳から手を離し、ローブの下にある銃把に指を伸ばし、触れる寸前――

    ノパ⊿゚)「――ちょっと待ちなよ」

    意外な事にその声は、二人の後ろから掛けられた。
    首を動かして声のした方を見ると、そこには男装の麗人が立っていた。
    肩まで伸びた赤茶色の髪は外側に向かって跳ね、目尻はやや吊り上がっている。
    大きな瞳は夜明け前の空の色をしていた。

    端正な目鼻立ちをしていて、彫りは深く、鼻は高かった。
    優艶としたなかにも凛とした印象が強く滲み出た、威風堂々とした立ち姿の女性だ。
    同性でさえも魅了する快活な雰囲気は、まるで野生の肉食動物が醸し出すそれに似ている。

    瓜#゚ 」゚)「女は引っ込んでろ」

    ノパ⊿゚)「出来ればあたしだって口を出したくないんだけどねぇ。
        面倒は嫌いなんだ。
        だけど、空気を読めない馬鹿を放っておけない性格でね。
        いや、本当なら男が動くべきなんだろうけど、豚よりも使えない男が世の中にはいるんだ。

        驚きだろ」

    (;T_フT)「……」

    (*゚ー゚)

    女性の視線の先には、悔しそうな表情で俯いている男性と、大人しそうな黒髪の女性がいた。
    十中八九、この女性が言っているのはその男性の事だ。
    デレシアは注意深く、赤茶色の髪を持つ女性とその男性を見比べた。
    妙齢の女性はブーンに対して嫌悪感をもっている様子は窺えない。

    珍しいタイプの女性だと、デレシアは感心した。
    その反面、瞳の奥には宝石の原石じみた光を内包し、挙動に表れているある種の癖が、女性の正体を示唆していた。
    恐らくそれに気付いているのは、デレシアだけだろう。
    その女性とは逆に、俯いている男性はブーンに対しては関心を持っている風には見えず、ただ、この〝展開〟に対して何か思うところが有る様だ。

    ノパ⊿゚)「……あの通り、助けに行くかどうかで迷っていてね。
        あのままだと、爺さんになっても考えてるんじゃないか? そうすると、嫌でもあたしが出ないといけないだろ」

    瓜#゚ 」゚)「手前には関係ねぇだろ」

    男は舌打ちをして暴力の対象を切り変え、蛇の様な油断ならない眼を女性に向ける。
    暴力の対象となった女性は怯むどころか、口元に冷ややかな笑みを浮かべ、挑発的な眼で男を見ただけだった。


    ノパ⊿゚)「いや、まぁそうだけどさ。
        どう考えてもあんたが引くべきところでしょ。
        その子は空いていた席に座っただけだ。
        それとも、そこにあんたの鼻糞みたいな字で名前でも書いてあるのか?

        あんたの仕事は子供相手に喧嘩を売って歩く事なのかい?」

    (;T_フT)「……やめろよ!」

    俯いていた男がいきなり大声を上げ、意を決した様に席を立つ。
    その足取りは頼りなく、無理をしている事が分かる。
    何をするつもりなのだろうか。
    デレシアは少しだけ、男の行動が気になった。

    どうやら男の行動を気にしているのは、デレシアだけでは無さそうだった。

    * * *
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            i   i   |     / ハ! /      i
            |! i   | | !   /j/  }j/イ / /  |
             N、 !≧x{!  /k=≦二 j/イrく /
              ヽハ'工) ∨   ⊥シ  レ⌒}'
                 `i    !        fj /
                 、 く __       /rク    
                 \  Y二)   / !′
    .                \   . く  ノi
                    i了    j/  \
                  __r┴辷ァ弋7    /\
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    もう誰にも、優柔不断野郎とは言わせない。

    フランク・チシットは厚く埃が積もっていた矜持を心の奥底から取り戻し、精一杯の勇気を振り絞って声を出した。
    店中が自分に注目しているのが分かる。
    メリーもヒートも、正体不明の女性も耳付きの少年も、自分の事を見ている、注目している。
    慣れない優越感に浸る余裕はなく、フランクは、体を支える二本の足が震えるのを抑えるのに必死だ。

    酒が恋しかった。
    酒があれば、もっと堂々と動ける。
    だから例え無様な姿を晒したとしても、それは酒が無かったことが原因なのだと、言い訳が出来る。
    ゆっくりとした足取りで、スティーブ・マウルの前に立つ。

    どうか声が震えないように、どうかスティーブが殴ってこないようにと、フランクは神に祈った。
    大丈夫、安心しなさいと云う神の声が聞こえた気がした。

    (;T_フT)「すみません、スティーブさん。
          こいつ酔っ払ってて……」

    暴力は暴力しか生まない。
    ならば、自分が暴力を止める楯になる。
    教会での教えを忠実に守る為、フランクはその場を丸く収める方法を選んだ。
    これならヒートも女性も傷つかない。

    誰も傷つかないのが一番の道だと、皆も分かってくれるはずだ。
    誰もが幸せになる選択を自分で選んだ事を、フランクは誇らしく思った。
    見えない力を背中で感じ、フランクは力がみなぎって来るような錯覚――それは本当に錯覚だったのだが、彼が知る由もない――を覚えた。

    ノハ#゚⊿゚)「あ? 誰が酔っ払ってるって?」

    瓜#゚ 」゚)「チキン野郎は引っ込んでろ!」

    スティーブならまだしも、ヒートにまで睨まれた。

    フランクは何を間違えたのか分からなかった。
    ここで臆して怯んではいけない。
    神はいつでも正しい者の味方なのだ。
    神の教えは正しく、それを皆に広める者は正義その物なのである。

    自信を持って、フランクは言った。

    ( T_フT)「争いは何も生みません! 暴力は止めましょう! それより、皆で酒を飲みましょう、僕が驕りますから」

    満面の笑みと共に提案した内容に対する答えは、スティーブの硬い拳とヒートの鋭い蹴りで返って来た。


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               i   i   |     / ハ! /      i
               |! i   | | !   /j/  }j/イ / /  |
               N_,rt7ヽ,.:-‐テ'ー、、≦二 j/イrく /
              _,,ノ´ V' ヽr''t 、、,) T;;;   レ⌒}'  ,   ,,・_
             f´ー- 、 ヽ_  ヽ)-‐く   し fj /   ・∵
             l    `ヾ.`r'7" ヽ )    /rク  ,∴、・∵
             l       l、fl  ,,:ィ´  / !′
             ヽ      ノ`r゙''" ヽ)く  ノi
            r''^''ー=、、 /) ゝ...ィ<)/  \
    :.:f ヽ;;;;:r''"^`ヽ、  ノハ ゝf´  ノ 7    /\
    /        \ ''" ヽ ノ ≧''"=- {   /  `丶.
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    (;T_フT)「げはっ?!」

    腹と顔に鈍い痛みが走る。
    無様にも仰向けに倒れ、後頭部を床に強打した。
    フランクは立ち上がる事が出来なかった。
    腹を蹴られたせいで、呼吸が上手く出来ない。

    折れ曲がった鼻から、大量の鼻血が流れ出す。


    ノハ#゚⊿゚)、「優柔不断にヘタレが加わったのかよ。
          呆れたよ、心底呆れたよ。
          散々黙って見ておいて、何が暴力は止めましょう、だ。
          何処の優等生だよ、お前は」


    瓜#゚ 」゚)「いきなり出て来て何様のつもりだ、手前は。
         綺麗事を抜かしたいんなら、チラシの裏にでも書いてろ!」

    決死の覚悟と誇りと使命感が一瞬で無駄になり、フランクはどうしようもない憤りと喪失感を覚えた。
    どうして、どうして誰も自分の話を聞いてくれないのだろうか。
    自分は何も間違っていない。
    間違っているのは、ヒートやスティーブなのだ。

    間違いは正さなければならない。
    何時だって正しい者は虐げられる運命にあるのだ。
    その運命を克服してこそ、信仰心が試される。
    自分を神話に出てくる英雄だと思い込み、フランクは今一度立ち上がる力を得た。

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    、ヽ、ヾ、:::| ,イ.::::::::::::::::::! ::`ー-.、_  |:::::::::::::::::::|、
    :::\::\:::ノ {:::::::::::::::::::、人,;:....。:::::::::::} l::::::::::`ー==!
    ヽ、:::ヽ:::! `ーュ::::::::゚::::^::::::´:::::::::::ノ  ヽ::::::::::::::::::::|
     /`ヽ__/  {.:::::::::::::::::::::::::::::::::::::j    i:::::::::::::::::::l
     ̄´ ̄ j    ` ̄ ̄¨´ ゚゜  ̄       |::::::::::,ィ'=弌!、
    ¨ ̄´                        ヽ_ノ !ノ tf==、
                            iニ`ヽ〃/  ̄`ヽ_
                               `ヽ、_゙ー‐‐'")
    ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

    産まれたばかりの小鹿の様に足を震わせながら、フランクは床に鼻血を垂らしつつ、どうにか立ち上がった。

    (;T_フT)「どう、どうして……!」

    店に居る誰もが呆れ顔で見ている事にも気付かず、自己陶酔した役者めいた口調で問い質した。


    (;T_フT)「どうして、争うんだよ!」


    必死な訴えは、短く、そして簡単なスティーブの言葉で一蹴された。

    瓜゚ 」゚)「手前には関係ない。
         兎に角、この女共には俺が礼儀ってもんを教えてやる。
         邪魔する奴もまとめて、俺が教育してやる。
         特に、俺は耳付きってやつが死ぬほど嫌いなんだ」

    聞く耳持たないとは正にこの事。
    フランクの決意が揺るぎ始める。
    思考が狂い始め、何を考え、何を言うべきかが分からない。
    ただ、暴力を使わなくても、人は言葉だけで分かり合える生き物なのだと、どうにか理解させなければならない事だけは分かる。

    それが自分の使命である事を、フランクは知っている。
    だが、相手が話を聞かなければ意味がない。
    どうにかして争いを止めさせたい。
    争いが不毛な事だと気付かせたい。

    その為なら、自分の体を犠牲にしても惜しくはない。
    しかし、方法が分からない。
    だから、フランクは動かない。
    一人葛藤するフランクを無視して、スティーブとヒートが睨み合う。

    ノパ⊿゚)「あたしが誰か、教えてやろうか?」

    ヒートは括れた腰に手を当てる。

    瓜゚ 」゚)「俺が誰か、分からせてやるよ」

    スティーブが懐に手を伸ばす。
    その手が掴むのは、殺しの道具。
    スティーブはこの下町を取り仕切るマフィアの構成員である為、銃の携帯は怠らず、使う事に躊躇しない。
    実際に何人も人を殺したからこそ、彼はこの酒場で好き勝手に振る舞う事が出来る。

    下手に刺激をして店が潰れたり殺されたりしては敵わないと、誰もが彼を野放しにしてきた。
    眼の上のこぶ、鼻つまみ者だ。
    フランクは何度も彼の横暴ぶりを直させようと考えたが、考えるだけに止まっていた。
    確実に成功すると云う確証が得られるまでは、結論を出すのは早い。

    ひょっとしたら、スティーブがある日突然心を入れ替える可能性だってあると、淡い期待を抱いていた為だ。

    Ω「おいおい、頼むから店の外でやってくれ!」

    慌てた様子で、バーテンは他の客の迷惑にならないよう、二人に出て行くよう指示を出す。
    その手はカウンターの下に伸ばされていた。
    誰がどう考えても、ヒートが不利だ。
    相手は男、それも、人殺しを厭わない男なのだ。

    男勝りのヒートだって、銃を持つスティーブには勝てない。
    スティーブは女を殺すのに、何の罪悪感も抱かない悪鬼の様な男。
    フランクの胸が痛んだ。
    ヒートは女だ。

    女が殺されるのを黙って見ている程、まだ自分は腐っていない。
    絞り粕の気力を使い、彼は腹に力を入れて言った。

    (;T_フT)「ヒート! 止めるんだ!」

    ノパ⊿゚)「何を?」

    今正に店外に向かおうとしているヒートが、面倒くさそうに立ち止って振り返る。

    (;T_フT)「女が戦うなんて間違ってる! 俺が代わりに――」

    ノパ⊿゚)「……なぁ、フランク」

    妙に優しげな声で、ヒートはフランクの名を呼びながら近付く。
    煉獄の炎をヒートの瞳の奥に見た時、フランクは自分が間違った行動をしたのだと初めて気付いた。

    ノパ⊿゚)「幼馴染のよしみで、二回目までは黙っててやるけどな……」

    優しい声色とは対照的に、その声は明白な殺意を孕んでいた。

    ノパ⊿゚)「次にあたしを不愉快にさせる事を言ったら、あたしはお前が似た様な事を口にできない様にしてやるよ。
        それと、一つ尋ねるけどな。
        お前が代わりに、何をするって言うんだ?」

    (;T_フT)「そ、それは……!」

    代わりに、何をすると云うのだろうか。
    フランクは、何も考えていなかった。
    ただ、勢いに任せてそう言っただけだったのだ。
    代わりに戦うと云う選択は、フランクには出来ない。

    宗教上の理由で、フランクは争い事を起せない。
    何があっても、人を傷つけない生き方をすると誓ったのだ。
    誓いは絶対だ。
    何よりも貴い神の教えを守ることが、人間として誇り高く生きると云うことであり、それを破るのは罪人だ。

    彼は罪人になりたくなかった。
    フランクはヒートに罪人になって欲しくないし、傷ついて欲しくもない。
    何年も会っていなかったが、フランクはヒートが優しい人間だと知っている。
    月日がそれを変える事はない。

    何故なら、それは正しい心なのだから。
    ヒートを守りたい気持ちは、嘘ではない。
    しかし、フランクは戦えない。
    ヒートの代わりに戦う事は絶対に出来ない。

    フランクに出来るのは、話し合う事か代わりに暴力を受ける事だけなのである。


    ノパ⊿゚)「戦うか? お前には無理だ。
        葬儀屋が喜ぶだけだよ。
        害虫駆除は誰かがやらなきゃならない。
        そうだろ? ゴキブリに出て行って下さい、お願いしますって言って頼むのが、お前の生き方なのか? 生憎、あたしは違う」


    フランクの心境を悟ったかのようなヒートの言葉は、あまりにも的確すぎた為、フランクは何も言い返せない。
    確かに、フランクが罪を受け入れて戦ったとしても、殺されるのがオチだ。
    無意味に死ぬ必要はないが、それでもヒートを守りたい。
    ヒートが傷つくのなら、自分が傷ついた方がいい。

    そう言おうとしたが、後もう一歩、踏み出す勇気が無い。
    結局フランクは、口を濁すしか出来なかった。

    (;T_フT)「でも、それでも……!」

    自分は懸命に止めようと試みた。
    自分の行動は何一つ間違っていない。
    間違っているのは、彼らなのだ。
    そうだ。

    例え高位の聖職者だって、フランク同様に悩む筈だ。
    苦悩する筈なのだ。
    神の教えを守る清く正しい心を持った人間しか、この苦悩を理解してくれない。
    思えば、昔からそうだった。

    自分がどれだけ皆の事を考えて行動しているのか、誰も理解してくれなかった。
    あまつさえ、皆は自分の事を優柔不断等と馬鹿にする始末だ。
    何故、何故自分がその様に虐げられなければならないのだろうか。
    曖昧な気持ちで決断する事の方が悪いのではないだろうか。

    自分の気持ちに正直に生きて、それで誰かを不幸にすることが正しいのだろうか。
    違うだろう。
    誰に対しても優しくするのが、人間と云う物だ。
    動物と人間の最大の違いは、思いやりの気持ちがあるかどうかであると、フランクは考えていた。

    他人の幸せを踏み躙って得る幸せなんて、あっていい筈がないのだ。
    フランクは人の不幸が許せなかった。
    皆の幸せを願って、何が悪い。
    そもそも、フランクが十字教に入信したのは、ヒートの無事を祈る為。

    自らの信仰心を確実な物にする為、フランクは武器を捨て、思いやりの気持ちと正義の心で武装する事にした。
    神の教えは彼の思想と合致していた。
    入信以来、フランクは取り憑かれたように教会を訪れ、祈りを捧げた。
    世界が平和でありますように、ヒートが無事でありますようにと。

    今彼は、誰でもいいから自分を理解し、助言をし、手を貸してほしい一心で祈っていた。
    酒場にはこれだけの人間がいるのだから、誰か一人ぐらい彼の理解者となってもいいだろう。
    ほんの一言、たったそれだけフランクは救われる。

    (*゚-゚)「あの……」

    その声は、壁際の席から聞こえた。
    ハチミツの様に甘かった声は、今や騎士の様に雄々しい物に変わっていた。

    (*゚-゚)「皆さんの迷惑になりますから、お止めになって下さいませんか?」

    フランクは歓喜した。
    メリーだ! メリーがフランクを助けてくれた! 彼女はきっと、神の御使、天使なのだ。
    今日この酒場で出逢ったのも、神の導き。
    運命は、神は、やはりフランクの味方だった。

    これも、自分が試練に挑んだからであると、フランクは感動した。

    瓜゚ 」゚)「んだと?」

    (*゚-゚)「私がお話を聞きます。
        それで、どうかご容赦ください」

    瓜゚ 」゚)「人生相談なんか誰が頼んだ」

    音も立てずに、メリーは立ち上がった。

    (*゚-゚)「私の事はどうしていただいても結構です。
        ですから、お願いします。
        この様な事、神がお許しになりません」

    その言葉に、スティーブは眉を僅かに動かした。
    上から下まで、品定めするようにメリーを見て、舌舐めずりをしながら頷く。

    瓜゚ 」゚)「……へぇ、どうしてもいいんだな?」

    (*゚ー゚)「構いません」

    瓜゚ 」゚)「だったら、外に出ろ」

    そのまま、メリーはスティーブに従って店の外に出て行ってしまった。
    店内がざわつくが、直ぐに収まった。
    呆気ない終息。
    フランクは立ち尽くし、メリーの言葉の意味を考えた。

    あれはつまり、メリーは文字通り自分の体を差し出して、スティーブの怒りを収めたと云う事。
    若い女が体を差し出して、スティーブの様な下衆な思考をした男が何をするのかは、容易に想像がついた。
    全身から、さぁっと血の気が失せた。
    急いで止めさせる為に、フランクは店の出口に向かって走りだした。

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                          |:;/;:;:;:;:;:;:;:;;:/   (
                             ヽ、;:;:;:;:;:/    ⌒ヽ
    ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

    だが、誰かに足をかけられて転倒してしまった。
    折れた鼻が地面にぶつかり、激痛が走る。
    赤黒く固まっていた鼻血の上に、新たな鼻血が塗り重ねられる。

    (;T_フT)「な、何を?!」

    フランクは鼻を押さえながら、片手を突いて上体を起こした。
    足をかけた張本人、ヒートは冷笑を浮かべながらフランクを見下ろしていた。

    ノパ⊿゚)「何をしようとしてるんだ? 是非ともあたしに教えて欲しいんだけど」

    (;T_フT)「決まってる! 止めさせるんだ!」

    ブーツの爪先が、鼻を押さえるフランクの手の上から顔を襲った。

    (;T_フT)「だぁッ?!」

    再び顔から床に倒れたフランクに、ヒートの冷たい言葉が浴びせかけられる。


    ノパ⊿゚)「何も出来ないくせに首を突っ込んで、一体何がしたいのかって聞いてるんだよ」


    (;T_フT)「だ、だか――」

    喋っている途中で後頭部を踏まれ、それ以上言葉は続かなかった。
    店に居る客は、誰も止めさせようとはしない。
    フランクから興味を失い、テーブルごとに雑談を再開していた。

    ノパ⊿゚)「なぁ、フランク。
        何も出来ないなら、何もするな。
        お前の行動は、見てて不愉快なんだよ。
        あの女が自分で面倒を買ったんだ、好きにさせておけ」

    (;T_フT)「で、でも! ヒートはこのままでいいのか! 彼女、このままじゃ――」

    ボールを蹴り飛ばす様に、ヒートは遠慮なしにフランクの顔を蹴った。
    前歯が口の中で折れたのが分かった。
    その一撃で不覚にも、フランクは泣き出してしまった。
    痛み、悔しさ、やるせなさが彼に涙を流させた。

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              ヽハ=・=∨  -=・=-  レ⌒}'
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                 (( .く __   ))   /rク
                 \  Y二) (( / !′
    .                \   . く  ノi
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    ノパ⊿゚)「あぁ、犯されるだろうな。
        だけど、それはあたしには関係ない。
        あたしとあの女は偶然合い席になっただけだ。
        自分の行動で何がどうなるか、お前と違ってそれぐらい分かってるだろ。

        仮に分かっていなくても、現実を知る丁度いい機会だ。
        多少痛いだろうが、自分の行動に責任を持つ事を覚える。
        お前みたいにその場その場の空気に流されて、結局何も出来ない蛆虫野郎よりかはマシだよ。
        お前は昔よりももっと酷くなったな。

        何があった?」

    最後のその台詞は、フランクがヒートに言いたかった。
    確かにヒートは昔から口の次には直ぐに手を出す性格だったが、ここまで暴力的ではなかった。
    フランクは、ヒートが自分に暴力を振るっているのが信じられなかった。
    信じたくなかった。

    心の中で、フランクはヒートを信じていた。
    心根の優しいヒートがこうなってしまったのは、何故なのか。
    鼻血と鼻水と涙で顔をぐしゃぐしゃにしながら、フランクは震える声で尋ねた。

    (;T_フT)「ひ、ヒート……どうして、どうしてそんなになっちまったんだよぉ……!」

    殆ど懇願する様な、命乞いにも似た言葉に続いて、本音が漏れた。

    ( ;_フ;)「本当は……こんな事、したくないんだろ……ヒートぉ……!」

    ノパ⊿゚)「あたしは昔からこうだよ。
        それに、あたしが進んでやりたくもない事をする様な馬鹿に見えるのか? 変わったのはお前だよ、フランク。
        まるで毎日毎日ホモの神に頭を下げて尻を舐めてる教会の屑みたいになっちまったな」

    (#T_フT)「か、神を愚弄するな!」

    フランクのその一言で、ヒートは沈黙した。
    その沈黙が作り出した威圧感は店全体を包み込み、雑談と談話を止めさせた。
    再び、店中の視線が二人に注がれた。
    女性と耳付きの少年が来店してきた時とは違い、その沈黙と視線は肌を刺すように痛い。

    ノパ⊿゚)「……次にあたしの邪魔をしたら、フランク。
        例え幼馴染だとしても、あたしは容赦しない。
        精々、楽に死ねるように神様の糞だらけのケツを舐めて綺麗にしておくんだ」

    言い返す事も、言葉をかける事もフランクには出来なかった。

    ヒートの変貌に心が打ちのめされ、頭の中が真っ白になって何をすべきか分からなかった。
    心は、例えようのない悲しさで埋め尽くされていた。
    ヒートの為に入信したのに。
    毎日毎日、この町からいなくなったヒートの無事を祈っていたのに。

    どうしてそれが分かってくれない。
    どうして、伝わらない。
    呆然とするフランクを無視して、ヒートはバーテンに金を支払い、店を後にしようとする。
    フランクは黙ってそれを見送るしかなかった。

    出て行こうとするヒートの足を止めたのは、耳付きの少年だった。

    * * *

    デレシアが背中を押すまでもなく、ブーンは自らの意志で口を開いた。

    (∪´ω`)「……ありがとう……ございました」

    恐ろしい思いをしながらも、その後に自発的に礼を言うのは非常に勇気がいる。
    最初に逢った時よりもブーンが成長している事に、デレシアは素直に喜びを覚えた。
    きっと、我が子の成長を喜ぶ親の心境と云うのはこう云う物なのだろう。
    心がむず痒かったが、気持ち良くもあった。

    年相応に仕草の一つ一つが可愛らしく、それが頻繁にデレシアの心の琴線に触れた。
    まだ自分にそう云った心が残っている事を驚く一方で、いつかブーンを手放す事を惜しんでいる自分に気付く。
    少しばかり、ブーンに甘いのかもしれない。
    昨日、ブーンを我が物としたデレシアはホテルにブーンを連れて行き、その体を念入りに洗い流し、新たな衣類と靴を与えた。

    生来の運動能力の高さを損なう事のない様、靴は高価だが頑丈な作りをしたワークブーツを買い与えた。
    ついでにブーンの尻尾と耳の手入れに使う櫛を買い、毛並みを整えた。
    寝食を共にして、それこそ、赤子を育てる様に愛情を注いだ甲斐もあり、今では自分に少しだけ心を開いてくれている。
    驚くべき成長ぶりだ。

    ブーンの勇気を振り絞った一言に、赤髪の女性が足を止め、切れ長の眼を向ける。
    敵意はない。
    やはり、とデレシアは改めて思う。

    ノパ⊿゚)「あぁ、気にしなくていいよ。
        だけどな――」

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    ブーンを怯えさせない様に接近し、女性はその手をそっと、ブーンの頭に乗せる。

    ノパー゚)「――礼なら、そっちの綺麗なお姉さんにも後でちゃんと言うんだぞ」

    この女性は、堅気の人間ではないが、耳付きを差別しない希少な性格の持ち主。
    デレシアがベッドの上で抱きしめながら、何度も何度も頭を撫でたおかげで、ブーンは人に触れられる事に耐性が出来ていた。
    嫌な顔一つ、怯える様子も見せない。

    (∪´ω`)「……はい」

    気持ちよさそうに眼を細めて、ブーンは小さく返答した。
    デレシアは礼節としてフードを取り、素顔を晒してしっかりと正面から女性を見据え、礼を述べた。

    ζ(゚ー゚*ζ「私からもお礼を言わせてもらうわ。
          わざわざありがとう」

    ノパー゚)「いやぁ、余計な事をしただけだよ」

    含みのある意味深な言葉と挑戦的な眼の輝きは、ローブで隠されたデレシアの挙動に気付いていた事を暗に示唆していた。
    あの一瞬、仮に観察眼が養われている人間がデレシアの動きを注視していたとしても、気付くのは容易ではなかった筈だ。
    この女性、明らかに相当な場数を踏んでいる。
    しかし、油断ならない人物ではあるが、デレシアに対して敵意や殺意の様な、殺伐とした感情を抱いてはいなさそうだった。

    仄かに漂う剣呑な雰囲気に、デレシアは彼女の素性にある予想を立てていた。

    ノパ⊿゚)「……あたしはヒートだ。
        ヒート・オロラ・レッドウィング」

    ヒートと名乗った女性は立ち上がり、ブーンの頭に乗せていた手をデレシアに差し出す。

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    ζ(゚ー゚*ζ「あたしはデレシアよ」


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    二人は握手を交わす。
    掌のしっとりとした感触。
    人差し指にある、一風変わった硬い皮膚。
    デレシアは自らの予想に確信を抱いた。

    ヒートはデレシアと似た種類、同じ考えを持った人間だ。
    向こうもデレシアの手から何かを感じ取ったのだろう。
    握手を交わす手に力が込められる。

    ζ(゚ー゚*ζ「……仲良くしましょう」

    ノパー゚)「……あぁ、そうした方がよさそうだ。
        ところで、二人共この後、空いてるか?」

    ζ(゚ー゚*ζ「まぁ、急いではいないわね」

    ノパ⊿゚)「なら、ウチに来なよ。 この店は居心地が悪い」

    周囲を気にして震えるブーンを見て、ヒートがそう提案した。
    確かに、ブーンの事を快く思わない人間に囲まれての食事は不味いだろうし、ヒートの足元で醜態を晒している男がいるだけで、空気は淀み腐ったような臭いがする。

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    ノパー゚)「っと、そうだ、君の名前は? お姉さんに教えてくれるか?」

    剣の様な切れ味を帯びたヒートの瞳を見つめ返し、ブーンは振り絞る様な声で答えた。


    (∪´ω`)「……ブーンです」


    ノパー゚)「よろしく、可愛らしいブーン」


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                             厶⌒ー'’ ̄´
                        rァ”´               ...  "´
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                         ′       `ー=f`ヽ)ノ ̄
                    /        ーミ__ヽノ
                  /           ソ_ノ
                  /        _..ィァ''′
                  ./    / ̄lノ ゝイ
                 ./    /
    .          /    /
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    そうして、二人も握手を交わしたのであった。


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    切り立った崖の上にあるその建物に、明かりは灯っていなかった。
    建物の周囲は木々に囲まれていて薄暗く、そして月明かりに照らされた建物からは不気味な雰囲気が漂っていた。
    石と煉瓦で造られた建物の屋根には、十字教の象徴たる十字架が取り付けられていた。
    建物の横には小さいながらも鐘塔が隣接していた。

    世界で最も多くの信者を持つ宗教の教会の典型例だ。
    信者からの布施で建てられたセント・ルイジ教会には、週末ともなれば、神に祈りを捧げる為に多くの信者が訪れ、布施をする。
    一週間に集まる布施の金額は、平均で二千ドル近くもあると言われている。
    集まった金の使用用途と金額が公開されていないことに対して、誰も何の疑問も抱かなかった。

    聖職者が過ちを犯す筈がないと信じているからだ。
    教会内部の空気は湿っぽく、そして埃っぽく淀んでいた。
    室内を舞う埃を、ステンドグラスから差し込む月明かりが容赦なく、そして優しく雪のように照らし出した。
    誰もいない教会は不気味の一言に尽きた。

    ステンドグラス以外、外部の光を取り入れる物が無く、室内は常に影っている。
    凝った装飾の施されたオブジェも多く置かれている為、至る所に濃い影が出来上がり、そこに何かが潜んでいるのではないかと疑ってしまう。
    人の持つ動物的本能が、闇を恐れるのだ。
    その日の夜、オセアン上空を流れる風は冷たく、そして強かった。

    黒い雲が流され、朧気に世界を照らしていた月が隠れる。
    地上は夜の闇にそっと抱かれた。
    しかしながら、教会の地下はそれを頑なに拒絶していた。
    教会の地下の存在は限られた人間にのみ知られていて、善良な教会関係者は知らなかった。

    知っているのは、一人の〝賢い〟関係者だけだった。
    自らを賢者と豪語するディーダン・ブランケットは、その関係者に命令を下す唯一の人間だった。
    毎日適当な説法をするだけで金が入る生活を始めてから、五十年以上の時が流れていた。
    ディーダンはどの聖職者よりも賢く、行動的だった。

    信者が馬鹿の様に毎日落とす金を使って、教会を修繕し、増改築した。
    そう。
    増改築と云う部分がポイントだった。
    昔の様に燃費が悪く力強い重機を使えない為、工事には長い時間がかかる。

    その忙しさに乗じて、工事の際、密かに地下室の建造を命じた。
    教会の修繕工事を巨大な張り子の虎として利用し、密かに地下室は作られていった。
    例え工事が数か月延びたとしても、誰も何も思わない。
    むしろ、信者が金をよく落とす様になった。

    これだから宗教は止められない。
    時折、ディーダンは孤児を引き取り、親を見つけてやると云う事をした。
    無論、善意は髪の毛ほどもない。
    ディーダンは重度の小児性愛者で、引き取った孤児に対して必要な儀式だと称し、己のどす黒い欲望をぶつけていた。

    特に気に入った児童は手元に残し、それ以外は人を介して売り払った。
    趣味と実益を兼ね備えた、素晴らしい副業だった。
    手元に残した不幸な児童は地下室に閉じ込め、飽きるまで弄んだ。
    飽きると、やはり奴隷として売り払った。

    地下室は最高の職場だった。
    教会の修繕工事の背景で増改築を繰り返し、今や面積は地上にある教会と比べて三倍以上も広くなっていた。
    その広さを利用して、ディーダンは新たな商売に着手したのであった。
    ディーダンが賢者を自称する所以は、何事も抜け目なく、安全に進める事を得意としている為だ。

    児童の売買を拡張する為に、この辺りを仕切るマフィア、シモノフ・ファミリーと貿易業で名の知れたロバート・サンジェルマンの双方と手を組んだ。
    商売拡張と安全確実な商売を実現する為には、必要な事だった。
    しかし、手の内を全て晒すと云う愚は犯さなかった。
    新たな商売の概要はこうだ。

    マフィアの協力を得てディーダンは外地から児童――孤児――の仕入れを行った。
    仕入れと販売には異なる種類のコネクションが必要となる為、これは必要な手順だった。
    選りすぐった児童はディーダンの前に連れて行くことも忘れず、それ以外は地下室の一箇所に閉じ込めた。
    自分が十分楽しんでから、ロバートに子供を売り、何処へなりとも売り飛ばさせた。

    マフィアとしては子供の仕入れは出来ても、販売は専門外だった。
    一方で、ロバートは名が知れ渡っている為に仕入れが出来ず、販売は密かに行いたがっていた。
    そこでディーダンの出番だった。
    鎹となって両者の間に入り、売買を密やかに成立させた。

    その為に地下増築の際、満潮時に使用出来る波止場を作らせ、そこを輸出入の拠点としたのだ。
    こうして、安全かつ確実、そしていらぬ怒りを買うことなく多くの子供を売り飛ばす事が出来た。
    今や、地下室がディーダンの職場となっていた。
    ロバートは世界的に有名な貿易会社の社長で、彼が仕入れた子供達は少年兵、慰安係として様々な地域に輸出される。

    見返りに、ディーダンは金と武器を受け取った。
    こうして仕入れた武器をマフィアに安く売り、見返りに適正価格で孤児の取引をする事を約束させ、同時に商売の認可を得た。
    惚れ惚れする程素晴らしい流れだった。
    ディーダンの立ち位置は、ロバートとマフィアの中間、中継点だ。

    そして、両者はディーダンと云う壁を挟んだ向こう側にいる相手を知らないでいた。
    それが愉快でたまらなかった。
    純粋で上質なウォッカをチビチビと飲みながら、ディーダンは悦に入っていた。
    焼ける様な熱い液体が喉を下って、胃に落ちる。

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                   ハ. i  |  i ̄ハ.リ、  ̄|丁)
                    /ハヽ. ヽ ヘ{´    ̄川j
                   ム、__>ヽ、\ Y ̄ ̄ ̄:.;′
                 ,′    ハ:| : ⌒YY⌒i |
               ,       , !|: : . . | |.:.:.:i |
                /     .′ ヒ三三三三}
    .           /      ′
             ,′       i
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    出来れば一瓶全てを飲みたいが、翌日の事を考えて日に一杯と決めていた。
    生ハムとチーズを乗せたクラッカーを食べ、また一口ウォッカを飲む。
    灰色の瞳が少し潤む。

    (::・,Θ・:)「ふぅ……」

    満足そうに溜息を吐き、真っ白になった髪を撫でつける。
    ディーダンは自らの権力の象徴とも言える地下室を眺めた。
    それは実に見事な出来栄えだった。
    防音加工を施したコンクリートの床と壁、そして徹甲弾も通さない鉄の扉。

    非常灯の頼り無い明かり。
    木製の棚に並んだ酒と本、そして大量のデータディスク。
    事実上の自室となっている部屋には、生活と快楽と娯楽に必要な全てが揃っていた。
    データディスクに保存されている動画ファイルは彼が主演、監督した秘蔵の映像だ。

    この場所に連れて来た彼好みの児童と共にその動画を鑑賞するのが、彼の儀式の決まりだった。
    映像を撮影する為に使われる小道具は、基本的には低反発素材で作られたマットレスを敷いたベッド一つで事足りた。
    この上でなら、どれだけ大声で叫ばれようが抵抗されようが、彼を一層興奮させるだけだ。
    こうして彼は、誰にも知られることなく欲望を思う存分発散する事が出来た。

    今後もこの地下室は、彼の恰幅と同じように巨大化してゆくのだろう。
    携帯電話が電子音を響かせたのは、ディーダンがウォッカの最後の一口を飲み干した時だった。
    画面を見ると、そこには唯一の関係者の名が表示されていた。

    ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
            | 「 ̄ ̄ ̄ ̄~| ||
            | |着信アリ  | ||
            | |       | ||
            | |       | ||
            | |  Ω    | ||
     .      . | |       | ||
            |  ̄ ̄ ̄ ̄  ...||
             (二二( (二二@).
            /  <=>   //
    ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

    『失礼します』

    (::・,Θ・:)「用件は何だ?」

    『不穏分子が二人、町に来ました』

    (::・,Θ・:)「不穏分子? 説明しろ」

    どの様な生活をしていても、その生活を揺るがす不穏分子の発生は後を絶えない。
    まるでゴキブリだ。
    幾ら潰しても、次から次へと湧いて来る。
    そう云った輩程金の匂いと謀には敏感で、厄介極まりない。

    不穏分子を始末するのには、無駄な時間と手間が掛かる。
    何より腹立たしいのは、駆除をする為には金を使わなければならないということだった。
    しかし、証拠隠滅に金を惜しむと必ず何処からか綻びが出る。
    そのリスクを考えれば、高額でも確実な方法を選ぶのが利巧と云う物だ。

    『ヒート・オロラ・レッドウィングと云う女です。
    元々はこの町の出身で、前に町を出て、今日帰ってきました。
    出て行った先で何をしていたのかまでは分かりませんでした』

    淡々とした口調で説明が終わると、ディーダンは補足説明を求めた。

    (::・,Θ・:)「そいつは腕が立つのか? 目的は?」

    相手が腕の立つ人間なら、彼の持つ私兵だけでは対処できない。
    マフィアに金を払い、人手を借りて処分する必要がある。
    無駄を嫌うこの者がわざわざ報告すると云う事は、無視できない存在なのだろう。
    一番の問題点は、相手の目的だ。

    ディーダンに危害を加える様な存在なら消すべきだが、彼の隣の家を吹き飛ばすつもりなら無視しても構わない。
    触らぬ神に祟りなし。
    静観が正解と云う事も有り得るのだ。

    『申し訳ありません。
    明日、もう一度接触を試みる予定です。
    何せ、今日は偶然あの場に居合わせただけなので』

    目的がはっきりせず、僅かでもディーダンを脅かす可能性があるのならば、どれだけ小さな芽でも摘み取り、潰すべきだと結論付けた。
    この街の出身の女なら、自力で収められるだろう。
    所詮は女。
    武器の前には無力なのだ。

    (::・,Θ・:)「速やかに消せ。
          火種は残すな。
          それで、もう一人は?」

    電話の向こうで咳払いをして、発信者は答えた。

    『耳付きの子供と、得体の知れない女です。
    今、その二人はヒートの家にいるはずです』

    満足そうに唸り、ディーダンは労いの言葉をかける前に、一応尋ねた。

    (::・,Θ・:)「……ヒートとやらの家の場所は分かっているのか?」

    こちらが指示を出さずとも、既に手を打っているとディーダンは確信していた。
    そうでなければ、わざわざ現在地まで知らせてくる筈がない。
    となれば、電話の真意は決まっている。

    『既に配置に付いております』

    (::-,Θ-:)「……祈りましょう。
          これから神の元に逝かれる者の為に」

    言葉だけを見れば立派な聖職者のそれだったが、声には逸れらしからぬ皮肉気な響きが込められていた。

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    肉に切れ込みを入れた様な醜悪な笑みを浮かべ、ディーダンは祈る。
    願わくは、使う銃弾は少なめに。
    結果は確実に。

    我等に神の祝福を、ヒート達には死の鉄槌を。


    * * *
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    (゚ム゚" )

    神と云う者がこの世に存在するなら、それは一体どのような容姿をしているのだろうか。
    牛の頭に人の体か、それともヤギの頭に人の体か。
    ひょっとすると、美男か美女かも知れない。
    正解が何であれ、頭を吹き飛ばされれば死ぬことは決まっている。

    少なくとも、神の代弁者を語り、神の寵愛を受けていると誇らしげに語る人間は心臓に一発鉛弾を撃ち込んだだけで死ぬ。
    何時か神を殺す時が来るのであれば、その時に使われる道具は決まっている。
    剣でも魔法でも、胡散臭い聖職者の汗が染み込んだ十字架でもない。
    正解は、銃だ。

    抜群の耐久性と高い威力に物を言わせ、世界で最も人殺した兵器、鉄と木で作られたアプトマット・カラシニコフ47こそが、神を殺すだろう。
    神と呼ばれる愚か者が全身を防弾素材で覆わない限り、神は弾丸の祝福を受け入れる事になる。
    白髪交じりの黒髪と薄く開かれた碧眼を持つニコライ・シモノフは、神を撃ち殺す時を想像して、祖父から譲り受けたAK-47を愛おしそうに撫でた。
    日頃から、彼は愛人の様にそのカラシニコフを大切にしてきた。

    139 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/02/20(月) 23:19:55.22 ID:c6F/EPXp0

    彼の嗜好はシモノフ・ファミリーでは周知の事実であり、彼がその銃で人を撃つ事に快感を覚えることも知られていた。
    その日の夜、ニコライは愛銃の手入れを終え、上機嫌だった。
    彼の部下達は部屋でポーカーに興じ、一喜一憂していた。
    シモノフ・ファミリーはオセアン北部を仕切るマフィアで、百人以上の構成員を抱える中型の組織だった。

    今でこそ根がしっかりとしているが、それは、スポンサーと呼ばれる人物の協力によって警察の介入を退け、非合法の商売に手を付ける事が出来ている為だった。
    その分、毎月多額の支払いが義務付けられているのだが。
    組織の拡大には、ディーダン・ブランケットの存在も欠かせなかった。
    醜い豚ではあるが、その姑息さと儲け話を嗅ぎつける鼻の良さは豚並みだ。

    見下してはいたが、侮ってはいなかった。
    性能の良い武器を安く売り捌く点は認めるが、子供の売買を嬉々として行う点は蔑んで然るべきだと、ニコライは思っている。
    しかし、それも終わりだ。
    彼が密やかにニコライとロバートの間に作ったパイプの存在が、とある情報筋から明るみになったのだ。

    中継点に在って甘い汁を吸うディーダンを排除し、そのパイプを遣ってニコライが直接ロバートと取引をすれば、より多くの利益を得る事が出来る。
    何にしても、ニコライはディーダンの性癖を嫌悪し、何時か必ず殺そうと心に固く誓っていた。
    銃器と武器はすでに十分な量が揃い、これ以上は買い揃える必要はない。
    つまり、不要になったのだ。

    カラシニコフでディーダンを殺す瞬間が、今から待ち遠しかった。
    そしてつい先ほど、情報提供者からディーダンがこの地域に訪れたばかりの人間を襲わせるとの情報を得たところで、ニコライはそれを絶好の契機と考えた。
    巣穴から身を出した迂闊さを見逃さずに、ここで刈り取る。
    聞けば、地元のチンピラを動かして仕留めるつもりだとか。

    いつの間にか、ディーダンはそう云ったシステムを形にしていたのだ。
    彼等の標的が仕留められる前にチンピラ達を捕まえ、半殺しにした後、それを持ってディーダンを訪問する予定となっていた。
    やはり、礼儀として突然の訪問には手土産が必要だ。
    報告が入り次第、ニコライもカラシニコフと愛用の棺桶を持って動く予定となっていた。

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    アパートの外見は粗末で、二階にあるその部屋の内装は簡素だった。
    玄関を上がって直ぐ左手にユニットバス、右手には流し台とガス台があり、五歩進んだ所に扉で仕切られた広めのリビングがあるだけだった。
    食事をする為に必要な道具一式と、それを食べる小さな丸テーブル。
    そして一人分のベッド。

    それ以外、家具は見当たらなかった。
    物が無いのだから部屋が荒れることもなかったが、長い間使われていなかった為、室内は全体的に埃っぽかった。
    到着してすぐにベランダとユニットバスの窓を開けて換気を始めると、多少はよくなった。
    風が、冷えた夜の匂いを運んでくる。

    聞こえてくる虫の声が、涼しげだった。
    三人が到着してから二十分近く経過すると、埃の匂いはなくなり、代わりに食欲を誘う何とも言えない香りが部屋中に充満した。
    家主が腕を振るって調理したのは、ペペロンチーノだった。
    オリーブオイルがアルデンテの麺によく絡み、熱を逃がさず、黄金色の輝きを放っている。


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       (´ ~彡ミ;;,':~,';:.~彡.`)
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    軽く狐色に焦げたニンニクの香ばしさと、唐辛子の辛み、そして塩味が混然一体となって旨味を際立たせ、香ばしくも上品な香りを漂わせていた。
    シンプルで濃い味付けの料理だったが、デレシア達を満足させるには十分過ぎた。
    その証拠に、ブーンは早くも二杯目を食べ終えようとしていた。
    満足そうにペペロンチーノを頬張るブーンを、部屋の持ち主であるヒート・オロラ・レッドウィングはデレシアと共に、靴を脱いで床に座して慈しみの眼で見ていた。

    強さと優しさを兼ね備えた澄んだ瞳は、両者に共通していた。
    ふと、ブーンはそれを恥ずかしく思ったのだろう。
    食べる手を止めて皿から目を上げたが、気にしなくていいと二人が声を揃えて言うと、食べるのを再開した。
    三杯目を食べてもいいかと上目遣いで遠慮気味にブーンが尋ねると、ヒートは勿論と言って頷いた。

    用意されたペペロンチーノを全て平らげ、ブーンは小さく、けふ、と可愛らしいゲップをした。
    しかしまだ人と話すのは億劫なのか、食べ終えた皿を流し台に持って行ってから、
    ずっと無言のまま、デレシアとヒートの眼を交互に見て微笑まれては、俯いていたのだった。
    食事が終わると、酒と軽い肴を交えた雑談が始まった。

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        ゝ才´,イ     _,..'"´_.-'"            /
    .      `ゝ-イ'‐‐''"´  ,.-'"                l
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    .         >-‐-==、   _,,..-‐''"´ `゙" '' ‐-=二=イ
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    ノパ⊿゚)「それで、どう云う経緯で?」

    ζ(゚ー゚*ζ「市場の方でね、ちょっと」

    ノパ⊿゚)「へぇ……市場と言えば、昨日、随分と派手な騒ぎがあったなぁ」

    ζ(゚ー゚*ζ「それはビックリ。 きっと、馬鹿が何かしたんでしょ」

    素知らぬ風を装うが、ヒートは既に勘付いている事をデレシアは留意した。
    だが口にするまでもない。
    向こうもこちらが真実を口に出すとは思ってもいないだろうし、このままでも十分にコミュニケーションは成立する。

    ζ(゚ー゚*ζ「酒場にいた男の人とはどういった関係?」

    ノパ⊿゚)「あぁ、フランクか。
        ただの幼馴染だよ。
        だけど、昔からあんな感じでねぇ……それどころか、悪化しててなぁ」

    ζ(゚ー゚*ζ「ヘタレは嫌ね」

    ノパ⊿゚)「そうなんだよ……全く、呆れたもんだよ。
        どうしてか知らないけど、あぁやって、中立を装って何もしないのが格好いいと思ってるんだよ、昔から」

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              }, ' /-;ー/'ヽ、.,. '.!
    .           _' ,.<.}==="´ ノ|
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              l::〈::::Y゙::ヽ'::゙::::::::l
    ―――――――l:::::ー:、::::゙:::::::::::::j―‐----- 、..,,_
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    嘆息を漏らし、ヒートは胡坐を組み直してコニャックを一口飲んで、今度は満足そうな溜息を吐く。
    ふわりと、果実の甘い香りが漂ってくる。
    高価な酒に違いなかった。
    デレシアも、グラスに入ったコニャックを一口飲む。

    滑らかな舌触りと豊かな味を秘めた琥珀色の液体の魅力は底知れず、芳醇な洋梨の香りが鼻から抜け、口中が幸福感に満たされる。
    マグロのカルパッチョと共に食べ、満足そうに嚥下した。
    興味深そうにそれを窺っていたブーンに、デレシアはグラスを渡した。

    ζ(゚ー゚*ζ「一口だけ、飲んでみる?」

    (∪´ω`)「……いいんですか?」

    ζ(゚ー゚*ζ「えぇ、勿論良いわよ」

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       _____ _.
       i :.¨ ̄  . ,., ̄¨:i
      l´ヽ:. .  /:ヘ\ :i
      l.  !..,..<´_`゙i、_´〉:i|、
      !./);:.~',``';、'~~~ii|,i
     / 人:'::'::;:::::::::':;::´i| l
    (  /⌒ )::::;::::;::::':;::::::i| f
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    舐める様に、ブーンは恐る恐るそのコニャックを飲み、直ぐに涙目になった。

    (∪;ω;)「……ぇぅ」

    ζ(゚ー゚*ζ「あら、美味しくなかった?」

    ノパ⊿゚)「美味いかどうかはさておいて、度数、結構あるからな。
        ブーンにはきついんじゃないか?」

    微笑みながら寛いでいたヒートは、フローリングの床に置いていたボトルを手にとってラベルを眺め、おっ、と声を上げて眼を見開く。

    ノパ⊿゚)「三〇度もあれば、子供にはきついだろ」

    ζ(゚ー゚*ζ「残念。
          ブーンちゃんがもう少し大人になるまでの我慢かし……ら?」

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    ヒートとデレシアは、ブーンがグラスの中身を全て飲み干したのを見て、口を開いたまま固まった。
    甘い味のコニャックだったことが功を奏したと云うか、何と云うべきか。
    子供でも飲みやすい果実の風味と甘い味付けは、ブーンの好みに合ったようで、グラスに残った最後の一滴まで、ブーンはしっかりと飲み干した。
    何はともあれ、グラスに残っていた量が少なく、急性アルコール中毒にならなかったのは、非常に幸運だった。

    (∪´ω`)「くぴ……」

    しかし、子供の体に、ましてや並みの人間の何倍も敏感な体を持っているブーンは酒精の艶美な誘惑に逆らう術を持たない。

    (∪-ω-)「……ふゅ……むぉ……」


    瞼が半ばまで落ち、そのまま、デレシアの膝の上に倒れるように頭を乗せて、寝息を立て始めた。
    慣れぬ生活で緊張していた所に入ったアルコールで、その張りつめていた糸が切れたのだろう。
    デレシアとヒートは、思わず頬を緩めた。


    ζ(゚ー゚*ζ「あらあら」


    ノパー゚)「ははっ、疲れてたのかな」


    ζ(゚ー゚*ζ「緊張してたのよ。
          この子、本当の意味で今まで独りだったんですもの」


    ノパ⊿゚)「……嫌な時代だよ、ほんと。
        子供が不幸になる時代って云うのを、あたしには好きになれねぇ。
        耳付きってだけで差別する連中は、もっと嫌いだ。
        ……で、二人の慣れ染めは聞かせてはくれないのかい?」


    ζ(゚ー゚*ζ「秘密は多いに越したことはない、そうでしょう? お互いにね」


    意味ありげな笑みを浮かべたデレシアのグラスに、ヒートがコニャックを注ぎ足す。


    ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
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    今夜は飲み明かそうと言う様だ。
    似た者同士、気が合いそうだ。


    ノパ⊿゚)「……おや?」


    ζ(゚、゚*ζ「……あら?」


    やおら二人は同時に声を上げ、動きと会話を止めた。
    それはまるで、異変に気付いた獣の様だった。
    視線は家の外に向けられ、ヒートが立ち上がった。
    先程までの陽気な表情は跡形もなく失われ、酒を飲んでいたことなど微塵も感じさせない立ち姿だった。

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                   /  ノ
                       巛/
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    しかしその気配は断じて荒々しい物ではなく、嵐の前の空模様に似ている。
    デレシアは部屋の隅に寄せておいたデザートブーツを履き、ヒートのロガーブーツを彼女の足元に置く。
    ブーンの足に靴を履かせ、靴紐をしっかりと結んだ。

    ノパ⊿゚)「デレシアの知り合いか?」

    靴を履きながら、ヒートは窓の向こうから目を離さないで尋ねる。
    デレシアは首を横に振りながら答えた。

    ζ(゚、゚*ζ「まさか」

    ノパー゚)「……まぁ、あたし達に用があるらしいから、それなりに持て成さないと、ねぇ?」

    ヒートの口が、嗜虐的な笑みを浮かべた。

    ノパー゚)「どれ、〝今回は〟そこでブーンと一緒に待っていていいよ。
        あたし一人で十分だ。
        ブーンが起きない様に頼むよ」

    デレシアはその言葉に甘え、ブーンを胸に抱きかかえて、部屋の隅にあるベッドの上に寝かせ、それから、食器類を乗せたまま音もなく卓を窓辺に向けて移動させた。
    自分自身もベッドの上に腰掛け、置いてあったタオルケット――三日前に洗濯済みの物――をブーンにかけ、薄紅色に染まった頬に手を添えて撫でた。
    タオルケットを抱き込み、ブーンは体を丸めた。
    まるで仔犬の様な仕草に、愛しさが募る。

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    靴を履き終えたヒートは電気を消して、廊下にあるキッチンへ向かう。
    間もなく、何かを漁り始めたのが、音で分かった。
    音は直ぐに止んだ。
    これから一体、何が起こるのか。

    デレシアの眼は闇に慣れていたが、ヒートの行動を全て見る事は叶わなかった。
    家の外に感じた視線と人間の存在が、近付いて来るのが分かった。
    耳を澄ませると、階段を上る跫音が聞こえる。
    虫の声と跫音、風の音、自分の呼吸音。

    しかし、ヒートの呼吸音は聞こえなかった。
    開かれた窓から入り込む風が湿気を孕み、冷気を帯びた。
    雨の兆しだ。
    おあつらえむきと云うやつである。

    暗闇の中、全身で感じるこの緊張感にデレシアは身震いした。
    爪先から全身に伝わる心地良い感覚。
    デレシアはこれから撃ち合いが始まる事を確信した。
    ブーンの胸は規則正しく上下し、深い眠りにある事が分かる。

    これだけ剣呑な空気が漂う中で寝られるのなら、将来は間違いなく、大物になるだろう。
    今からその時が楽しみだ。
    時間が一秒過ぎる毎に、緊張感が高まる。
    跫音と気配が、扉の前で止まった。


    最高潮に達した緊張の中、デレシアとヒートは満面の笑みを浮かべていたのであった。


    * * *
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    ヒートの部屋の電気が消える、その三分前。
    敬虔な十字教徒であるサム・マンデーは、雇い主からの合図を受け、突入の準備を始めていた。
    携帯電話に三秒間の電話があれば作戦は決行、五秒で中止と云う決まりで、今し方三秒の電話があったのである。
    サムの様な安月給の労働者が三人の子供と妻を養うには、副業でもしない限り難しかった。

    来週で八歳になる娘の誕生日プレゼントを買う為にも、金は必要だった。
    この副業は前払い制なので、仮にサムが死んだとしても、家族は金を受け取ることができる。
    無論妻にはこの仕事の事は秘密だったが、文句を言われた事は無い。
    帰りが遅くなろうが要は金さえもらえれば、結局のところ、何でもいいのだ。

    こんな時世なのだから、その考えも当然である。
    娘の学費や食費の足しになれば、その様な些事に拘るのは馬鹿だ。
    今までにサムは、十三人の標的を殺してきた。
    恨みはなかったが、恩もなかった。

    幸いな事に、知り合いや顔見知りを殺す機会はなかった。
    雇い主は常に正体を伏せ、手短に仕事の内容だけを手紙で伝えた。
    道具は必要に応じて受け取り、今回も道具は受け取っていた。
    教会にある椅子の一つに細工が施されており、彼等が仕事を引き受けると、空洞になった椅子の下に銃と弾、そして報酬が隠されているのだ。

    十三人を殺したモスバーグM500に、散弾を詰める。
    サムはこれまでに十二番ゲージの散弾で人が撃たれて吹き飛ぶ様を、特等席で何度も見て来た。
    最初は困惑して、二回目からは興奮が混じった。
    今では飽きる事のない、決して人には言えない楽しみになっていた。

    銃は撃たねば意味がない。
    狩人の心地で赤いプラスチックに包まれた弾を詰めてから、銃身下のポンプを引いて、一発を薬室に送り込む。
    今度の標的は、どんな顔で吹き飛ぶのだろうか。
    事前の情報では、標的は女と言う話だった。

    女を殺すのに躊躇っていた時代があったそうだが、サムは信じられなかった。
    恐らく、相当酷い時代だったのだろう。
    その時と比べると、今はイイ時代だ。
    最高の時代とも言える。

    ふと、サムは思い至った。

    (:゚:o:゚:)「なぁ、イイ女達だったら、殺す前に少し楽しんでみないか?」

    サム同様、黒い目出し帽を被った五人の仲間は苦笑しながらも、同意した。

    この仕事をしていると、時々幸運に恵まれる事がある。
    殺した標的の娘や恋人が偶然居合わせた時がそうだ。
    その幸運が目の前に転がってきた場合、彼等は神からの贈り物を思う存分痛めつけ、欲望のはけ口とした。
    悲しいことだがその際には、依頼されていない余計な死体が増える事になる。

    娼館でも出来ない事を、彼等は無料で気兼ねなく行使できた。
    今回の仕事内容は、耳付きの子供一人と女が二人。
    欠伸が出るほど余裕だった。
    それに何と言っても、役得だらけの仕事である事は明らかだ。

    これで楽しまない方がおかしい。
    例え耳付きでも、年端もいかない少年ならば楽しむ方法はある。
    耳を掴んで口を犯すか、尻尾を引っ張りながら尻を堪能するか、楽しみは広がるばかりだ。
    今日は最高に楽な仕事だった。

    少なくとも、サム達六人はそう思っていた。
    仕事の成功と得られる快楽を信じていた。
    彼等の持つモスバーグは、その象徴だったのだから。
    手信号で作戦開始を味方に告げ、いつもと同じ配置に着く。

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    サムを含めた三人が階段から接近し、残った三人が下から援護をする形だ。
    それなりに経験のある六人の動きは慣れており、形だけは様になっていた。
    三人は音を立てない様に階段を上り、扉の横の壁に背を付ける。
    地上の三人がタイミングを見計らい、H&K-M320榴弾発射機を使って室内に閃光弾を撃ち込んだ。

    室内に太陽が落ちた様な光が溢れ、その明かりは玄関の扉の隙間からも漏れるほど強烈だ。
    サム達はそれを合図に、モスバーグで扉の蝶番と錠前を撃ち壊し、思い切り蹴り破った。
    細かな木の破片と共に、扉が内側に向けて倒れる。
    サムを先頭に室内に押し入り、狭くて暗い廊下を進んだ。

    不気味なまでに、室内は静まり返っていた。
    痛みに身悶える声も恐怖に慄く声も、狼狽の声も聞こえない。
    ユニットバスの横を通り過ぎた時、銃声と共にサムの体が殴られたかの様に真横にふっと飛び、ガス台の上に倒れた。
    薄い扉を撃ち抜いたのは、散弾の群れだった。

    貪欲な散弾はサムの腹を乱暴に食い千切り、内臓を損傷させた。
    続けざまに放たれた散弾は、モスバーグを持つサムの腕を肉塊に変えた。
    夥しい量の血が、サムの体から失われる。

    (:゚:o:゚:)「ぐっ、ああああっ?!」

    仲間達が動く。
    散弾が飛んで来た扉に銃口を向け、一人が只管に撃ちまくる。
    扉は木片を撒き散らしながら砕け、マンホール程の大きさの穴がそこに開いた。
    撃ち尽くしたモスバーグに散弾を込めている間に、残ったもう一人が、その穴に向けて一発撃つ。

    そして、位置を変えて浴槽に銃口を向け、徹底的に撃った。
    相手が鼠だとしても、散弾のシャワーで仕留めた筈だ。

    (:゚:o:゚:)「やったか?」

    硝煙の上る銃口を下ろし、男が顔を入れて穴から奥を覗き込む。
    血痕は見当たらない。
    浴槽は跡形もなく砕け、充満する硝煙の匂いが鼻を突いた。

    (:゚:o:゚:)「どこに行きやがった……」

    「ここだよ」

    声は上から掛けられた。
    見上げる暇もなく頭頂部に硬い銃口が押し付けられ、その感触を最後に、西瓜が爆発したかのように男の頭は形を失った。
    悲鳴は上がったのかもしれない。
    しかし、銃声の前にはあまりにも小さすぎた。

    プラスチックの薬莢が地面を叩く音が聞こえ、次いで、仲間の頭が爆ぜた瞬間を直視してしまった男のヒステリックな悲鳴が響いた。

    (:゚:o:゚:)「うっ、ああああ!」

    装填を終えたモスバーグのポンプを引き、扉越しにユニットバスの天井に銃口を向け、銃爪を引き続けた。
    天井にあった蛍光灯が砕け、半壊状態にあった扉が奥に倒れる。
    遂に、天井が落ちた。
    それでも男は撃つのを止めない。

    悪夢を振り払おうとする子供の様に必死に、我武者羅に男は撃ち続ける。
    撃ち尽くす直前、空気を切り裂く何かが飛来し、音もなく男を襲った。

    (:゚:o:゚:)「ひぐっ?!」

    刃渡り五センチ近くもあるナイフは男の喉を貫き、男は銃を取り落とした。
    喉に刺さったナイフを引き抜こうと悶絶するが、深々と突き刺さったそれは抜けない。
    大量の血を失い、男は膝を突いてその場に倒れて動かなくなった。

    「遅いんだよ」

    ガス台の上で震えながら全てを見ていたサムの耳に、まるで説教をする様な女の声が届いた。
    壊れた扉の向こうから、一人の若い女が姿を現す。

    「素人がプロに勝てるはずないだろ」

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    女の右手には、歪な形の銃が握られていた。
    サムはその銃を知っていたが、形が若干異なった。
    ベレッタM93Rのトリガーガードの前に、あのような鋭利な刃物は付いていない。

    (:゚:o:゚:)「ま、まさかっ?!」

    痛みよりも、その銃を見た衝撃の方が勝った。
    酒場で耳にした事がある。
    折り畳み式のフォアグリップの代わりに銃身よりも長い銃剣を取り付けたM93Rを持つ、殺し屋の噂を。
    べらぼうに高い金の代わりに、引き受けた仕事は必ず果たす正体不明、素性不明の殺し屋。

    曰く、環境が作り上げた化物。
    曰く、冷血非道の精神異常者。
    正体に関する憶測と噂話は幾つもあるが、誰もが口を揃えてその名を呼ぶ。

    (:゚:o:゚:)「れ、〝レオン〟?!」

    ノパ⊿゚)「正解」

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                                             ̄ヾヽ  , 
                                             `ヾ、 ;
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                                         ヾ、` lllllll` ー -==':::::::::>` ー
                                          i`` ` ー - .. 、 _ `ー' ` ー
                                       /^ヾ`>ー - 、    ` ー - .. 、 _
    //^ ̄二三//⊂⊃、ヽ三ミヾゝ、      ___,,〃  ` ''''':::::;;;;; _ ` ー - ..、 _   〃 ̄ `
     /:::::::イLl‐,.///:::8:::::ヾヽ\,..-一'´ ̄ ̄フ/::::::::::〃          ` ー - 、 _ニニフ ̄ > ー
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    ;イLl-//:::::::::;:::::::::::/⌒7´:::::::::::::::::::::::/./:::::::::::::::i  !     、  、   ̄! ̄ノ  ̄`ー‐'
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    乾いた銃声を最後に、サムは二度と喋る事はなくなった。
    恐怖に青ざめた顔は血の気が失せ、眉間に空いた穴から血と脳漿が流れて行く。
    三人の男を殺した〝レオン〟こと、ヒート・オロラ・レッドウィングはリビングの扉を開いた。
    感心した風な眼で見つめるデレシアと、熟睡するブーンを見て、得意げに胸を反らす。

    そのまま開かれた窓辺に向かい、外に居た三人に向けて弾倉一つ分の銃弾を撃ち込んだ。

    ノパー゚)「ほら、あっという間だっただろう?」

    得意気にそう言って、ヒートは空になった弾倉を排出した。

    * * *
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    襲撃者の正体と目的が気になった為、デレシアは眠っているブーンを抱き上げて、ヒートと共にアパートを出た。
    ブーンがヒートの使っていたタオルケットを離そうとしなかった為、それに包まれる形でブーンは運ばれていた。
    血の帯を追うまでもなく、足を負傷した男は死体になった仲間の傍で蹲っていた。
    穴だらけになった死体が二つ、そして両足を撃ち抜かれて苦悶の声を漏らす男が一人。

    剥き出しの地面に広がる液体は、一秒毎にその量を増やしていた。
    銃弾の撃ち漏らしは二発だけだった。
    見事な腕前だ。
    ヒートは生存者の背中を踏みつけ、傷口に銃剣を突き刺して、質問した。

    殺し屋〝レオン〟。
    それが、ヒートの正体だった。
    なるほど道理で、マフィアと真っ向から対峙できる訳だ。
    所見からデレシアはヒートが人を平気で殺す類の、自分に近い存在である事を見抜いてはいたが、それを職業にしている事までは予期していなかった。

    お手並み拝見とばかりに、デレシアはヒートの仕事を見守る事にした。

    ノパ⊿゚)「誰に雇われた?」

    短く、そして有無を言わせぬ口調だった。
    しかし、男は頑なに答えようとはせず、悲鳴しかその口は漏らさなかった。
    必死に歯を食いしばっているが、歯の間からは苦しげな荒い息が漏れている。
    無表情で、ヒートは傷口に刺した銃剣を捻った。

    悲鳴が一層大きくなり、男はゼンマイを巻かれた玩具の様に手足を元気に動かした。
    もう、男は悲鳴を上げなかった。
    息を詰まらせて咳き込み、眼球が飛び出さんばかりに眼を大きく見開いて、酸素を求める魚のように口を開閉させる。

    ノパ⊿゚)「手間を掛けさせるなよ」

    空いている方の手で、ヒートは男の目出し帽を剥いだ。
    その下にあったのは、恐怖に青ざめ痛みに歪んだ三十代半ばの男の顔だった。

    ノパ⊿゚)「目的と雇い主の名前は?」

    銃剣を傷口から引き抜いて、今度はそれを男の喉元に押し当てる。
    短く悲鳴を上げ、男はヒートを見上げた。

    (;^‥^)「こ、殺せ……俺は何も喋らない」

    死ぬ覚悟を決めたのか、震える声で男はそう言った。
    その声には悲壮な決意が窺えるが、それは長続きしそうになかった。
    実際、ヒートが次に言い放った言葉によって、その決意は霧散した。


    ノパ⊿゚)「お友達や家族が酷い目に合うのが好きなら、あたしはそれでもいいんだけどね。
        いざとなれば、そっちの方から話を聞けばいい。
        それを教えた上で、もう一度同じ質問だ。
        目的と依頼主を喋れば、あたしは無駄な死人を作らなくて済むし、不幸になる人間が減るんだよ」


    言葉の意味を理解したのか、男の顔が一瞬で絶望の色に染まる。
    先程までの決然とした態度は何処へ消えたのだろうか。
    その反応だけで、男には大切に想っている人間がいる事が窺える。


    (;^‥^)「ま、待ってくれ!」


    ノパ⊿゚)「余計な事は聞きたくない。
        時間を一秒でも無駄にしたら、お前の家族か友人を一人殺す。
        喋る気になったのなら、まずは目的から前置きなしに喋るんだ。
        推測と考察は不要だ」

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    刃を耳の付け根に当て直し、一気に力を込めた。
    驚くほど呆気なく、男の耳が削ぎ落された。
    ヒートが本気である事をよく理解した男は、何もかもを喋り始めた。

    (;^‥^)「俺達が受けたのは、あんたの家にいる全員を殺す事だった!」

    ノパ⊿゚)「依頼人は?」

    (;^‥^)「〝マリア〟って女だ! 本名は知らねぇ!」

    ノパ⊿゚)「顔は?」

    残ったもう一方の耳に刃を当てながら問い質す苛立たしげなヒートの声に急かされ、男は捲し立てる様に喋り始めた。

    (;^‥^)「それも知らねぇんだ、ほ、本当だよ!
         サムの所に手紙が来て、それでサムが俺達に知らせに来るんだ! 本当だって!」

    一気に喋った男の耳から、ヒートは刃を離さなかった。
    呆れたように深く溜息を吐き、刃を深く食いこませる。
    デレシアにはその理由が分かっていた。
    男の話した事には一つ、辻褄の合わない事がある。

    つまり、まだ真実を喋ってはいないと云うことだ。

    ノパ⊿゚)「じゃあ何で、女だって分かるんだ? 言ったよな? 推測は不要だって」

    男が〝マリア〟なる人物と電話で話したり、もしくは会ったりしなければ、女だとは分からない。
    しかし先程、連絡は手紙で受けたと喋っている。
    矛盾があった。
    不確かな事を断言した背景には、何かがある。

    (;^‥^)「サムだよ、サムがそう言ってたんだよ! 本当だ!
          でも、サムはあんたらがもう殺しちまったんだろ! どうやって知ったかなんて、俺は知らねぇよ!」

    泣きながら、男は縋る様に必死に言った。
    男の言葉から類推するに、部屋に突入してきた男の内の誰か一人が、サムなのだろう。
    しかしながら、飛び散った血肉とクリーミーな脳味噌を集めるのは骨が折れる話しだし、そうして全て揃えた所でサムが蘇る訳でもない。
    嘆いても後悔しても遅い。

    得られた鍵は、マリア――確実に偽名――と云う名前だけだった。

    (;;‥;)「主よ……! お助け下さい、イエス・クライスト様……助けて……!」

    とうとう男は、十字教の神に祈り始めてしまった。
    神と言えば酒場にいたフランクだが、彼とは異なる聖書の解釈をしている事に、デレシアは嘲笑を禁じ得なかった。
    いつの時代も宗教は変わっていない。
    解釈が幾らでも在ると云うのに不毛な争いを続け、平和と正義の為に異なる存在を否定するのだ。

    そして、何の皮肉かは知らないが、彼等を嗾けた人間は彼等が信仰する聖母の名前を使っていた。
    恐らく、彼等の素性を知っていて、警戒心を解く為に用いたのだろう。
    芸が細かいことだ。
    ヒートは無言で刃を離し、銃口を向けたまま男から体を離す。

    それでようやく男も安心したらしく、鼻を啜って服の袖で鼻を拭った。

    ノパ⊿゚)「……つまり、あんたが知ってるのはこれで全部ってことか」

    (;^‥^)「あぁ、そうだよ、それより医者を呼んでくれよ!」

    怒鳴る様な口調で男は言ったが、ヒートは悪びれる様子もなく言い返した。

    ノパ⊿゚)「いや、医者は呼ばない。 だが神に会わせてやる」
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                        \__ノし//´
                 |  / ,, )/⌒ヽ(_
                 \__ノし// ̄)ヽ__ノ( ̄ ̄ ̄
               )/⌒ヽ(_ /⌒|「⌒\
              ̄ ̄)ヽ__ノ( ̄ ̄ ̄
             ´  /⌒|「⌒\
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    文句を口にする間もなく、男は頭と心臓を撃たれて死んだ。
    呆気のない死だった。

    ζ(゚ー゚*ζ「良い腕ね」

    ノパ⊿゚)「まぁな。
        聞いての通り、仕事でやってたからな」

    ベレッタの弾倉を交換する手付きは手慣れており、無駄が無い。
    これだけの銃声と悲鳴を耳にしていながら、ブーンはよく眠っていた。

    ノパ⊿゚)「本当に大変な人生だったんだな、ブーンは。
        それとも、大物の器なのか?」

    ζ(゚ー゚*ζ「大変な人生だったのでしょうけど、でも、この子は将来有望よ」

    ノパ⊿゚)「……あたしも、そう思うよ。
        それにしても、邪気のない子供って云うのはいいもんだな」

    ヒートは憂いの色を帯びた瞳でブーンを見るが、その眼は何処か遠くを見ている様であった。
    襲撃者を撃退しても尚、彼女が銃を懐に収めない理由をデレシアは直接的に尋ねた。

    ζ(゚、゚*ζ「で、ヒート。
        〝あれ〟は知り合いなの?」

    デレシアはヒートの背後を顎でしゃくり、そう言った。

    ノパ⊿゚)「……いんや、全く」

    ζ(゚、゚*ζ「お茶会のお誘いかしら?」

    ノパ⊿゚)「血生臭い茶会なら御免だね」


    闇からぬっと、銃を手に持った男達が現れる。
    いきなり撃ってくるような真似はしないが、しかし、銃口を向けて来るのを見ると、加勢や応援と云う訳ではなさそうだ。
    だが撃って来ないと云う事は問答の余地があると云う事で、少なくとも、今地面に転がっている死体達とは飼い主が違うらしい。
    用があるのだろうと考え、デレシアが問う。

    ζ(゚、゚*ζ「どちら様?」

    (-゚ぺ-)「シモノフ・ファミリーだ」

    シモノフ・ファミリーと言えば、オセアン北部に広がる漁業が盛んな地域を取りまとめる、三組織――昨日で二組織に減っていた――の一つだ。
    風の噂で聞いたことがある。
    カラシニコフに心酔している変わり者の首領は、他の多くとは違い、地域住民から搾取して利益を実らせる花を枯らさない、利己的な人間だと云う。
    ならば、話す価値はありそうだ。

    オセアンを土台にしたデレシアの楽しみがまた一つ、こうして面白味を増した。
    ヒートと云う、デレシアと似た感性を持つ高性能爆薬。
    そして、シモノフ・ファミリーと云う発火装置。
    この二つを上手に組み合わせて、オセアンの暗部を根こそぎ吹き飛ばし、デレシアの思惑通りに事を運ぼうと決めた。

    その為には、今ここでその貴重な発火装置を潰すわけにはいかない。
    適切な時と場所を見極め、その瞬間までは決して暴発させてはならない。
    好戦家であるヒートの行動を眼で制し、デレシアは有無を言わせぬ口調で告げた。


    ζ(゚ー゚*ζ「首領の所に連れて行きなさい」


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    空が唸る。
    黒雲が夜空を多い、時折、眩く空が光る。
    風が冷たい。
    匂いがする。

    そう、心が落ち着く匂い。
    それは雨の匂い。
    激しく降り注ぎ万物を濡らし、洗い流す豪雨の前兆。
    嵐が、来る。


    轟々と音を立てて滝の様に大粒の雨が空から落ち、それが大地を叩き始めた時、デレシア達の姿はその場には無く、ただ、物言わぬ死体が転がっているだけだった。

    * * *
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    \ 丶 ヾ 丶v \ ヽ \丶丶、 丶\ ヾ 丶丶\、 ヽ \ \. 丶
    ヾ丶\ 、\ヽ 、丶\ \ヽ丶丶 \ \ \ ヾ 丶 ヽ丶 丶 \ヾ
     ヽ 、ヾ 、ゞ ヾ丶 ゝ丶\ヽ ゝヽ丶丶\ \ 丶 \ 丶 ヾ丶\ \
     ヽ \ 丶\丶ヽ\ 丶 丶 ヽ ヾ ゞ 丶 丶丶 \丶 ヽ \ \丶\
    \ 丶 ヾ 丶v \ ヽ \\ \. 丶 丶丶 \丶 ヽ \ \丶. .、 ヽ
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     ヽ 、ヾ 、ゞ ヾ丶 ゝ丶\ ゝヽ丶ヽ ゝヽ 、ゞ ヾ丶 ゝ/,,,;;;/  册册
     ヽ \ 丶\丶ヽ\ 丶  ヽ ヾ ゞ\ヽ ゝヽ丶丶 、/___/  _,. 册册
    \ 丶 \ ヾ 丶丶\、 丶丶ヽ \  \丶 ヽ \/ /| _,.-r'| | 册册
    ヾ丶\ 丶 ヽ丶 丶 \ヾ \ヽ \  \丶 ヽ/ / ,..| | | | | | 册册
     ヽ 、ヾ \ 丶 ヾ丶\ \ \ ヽ\\丶ヽ/'~T.,./|川 j_l,.r-'¨ 卅卅i_,.
     ヽ \  \丶 ヽ \ \ヾ丶 丶丶丶   /,.T¨il i l l l川__,,... -‐ ¬¨
    \ 丶 \ ヾ 丶丶\、 ヽ \ \.    ,l:lj|川_'¨三.ノ____,,,,,.....................
    ,,,,,,,,,,,,,,,,,,,,;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;; \ l j|:il|‐/jlllllllllll/|\ \ ヾ  \
    __,,.. .-‐ '''""~" .;",:;".;..;.,:;".;.".;"=='-i,jl| jj| ロコ   | ロコヨ ∠二∠ 」
    .;.;".;.;";".;.;"..;.;";.;.,: ;.;". 三三 ' -f,  .i田l|     |目田|
    .;.;".;.;".;.;".;. ,:. ;;: ;.;".;.;".;.;".二二二' -|.,_.j|     |l.l.l l.l.|
    ".; ;".;.;" ".;..; .;".;..;".;.;". -------------' - .,_  j! ニ二|
    .;.;".;.;";".;.;",:.;.;".;.  ;.;".;.-------------------'' - .,_j|
    ".; ;".;.;".;.;".;..;".;.;".; ;".;.; _______________________________________¬
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    フランク・チシットは黒いレインコートを風に靡かせ、強い使命感を胸に全力で走っていた。
    少し寄り道をしていたせいで、行動が遅れてしまった事を神に懺悔した。
    寄り道は必要な事で、決して欠かす事の出来ない彼の義務だったのだ。
    きっと神は、自分の罪を許してくれるだろう。

    フランクは神の慈悲深さに涙した。
    今の彼には、神が付いている。
    神の助力があれば、百人力だ。
    諦める事は神を失望させる。

    神の期待に、神の助力に応える為にも走り続けるのだ。
    彼は酒場で勇気ある行動を取ったメリーの姿を探していた。
    スティーブ・マウルに連れて行かれてから大分経つが、彼女の姿が何処にも見当たらない。
    何処かに捨てられてしまったのだろうか。

    いや、神がその様な試練を彼女に課す訳が無いと、フランクは即座にその可能性を否定した。
    彼女の様に慈悲深く勇気のある女性を神が見放す事は、絶対にないのだ。
    雨風が強い。
    被っていたフードはとうに外れ、顔中が濡れていた。

    雨粒が傷口に染みる。
    心の中で、フランクは讃美歌を歌った。
    嘗てとある奴隷商人が、嵐の中で生き延びた経験からこの素晴らしい歌を作ったと云う。
    神は常に人の心に住んでいるのだと、その話を聞いた時は感動のあまり落涙した。

    例え、スティーブの様な極悪人であってもそうなのだ。
    しかしスティーブの事は今はどうでもいいと、フランクは思考を切り変え、周囲の暗闇を見渡した。
    人影は何処にも見当たらない。
    名前を呼ぶ。


    ( T_フT)「メリー!」



    返答はない。
    声は夜の闇に吸い込まれ、響く事もない。
    自分は無力だ。
    何て無力なんだと、自責した。

    いざと云う時に何も出来ず、幼馴染には蹴られ、呆れられ、捨てられた。
    酒場では笑い物にされ、町では道化師だった。
    本当は違うと云う事を知らしめたかった。
    見せつけてやりたかった。

    証明したかった。
    だが、その機会は訪れなかった。
    機会さえあれば、フランクは自分のこれまでの努力を英雄譚の様にして町中の人間に聞かせることができる。
    フランクの話を聞けば、誰もがフランクの事を誤解していたと認める筈だ。

    認めざるを得ないのだ。
    彼は正しいのだから。
    フランクは神に仕えてから、毎日祈りを捧げた。
    他ならぬ、ヒート・オロラ・レッドウィングの為に。

    悲惨な事件で家族を失い、町から姿を消した彼女の為に、フランクは一心不乱に祈っていた。
    最愛の幼馴染が無事である様に、祈りを欠かさなかった。
    その甲斐あってか、ヒートは無事にフランクの前に姿を現した。
    祈った甲斐があったと思ったが、ヒートはまるで別人のように変わっていた。

    フランクの知るヒートは、もういなかった。
    悪魔に魅入られてしまったのだ。
    何て可哀そうなヒートだろうか。
    優しいヒートを奪った悪魔を恨みたかったが、神は恨む事を認めていなかった。

    そんなヒートに変わって、フランクの前に現れた神の御使メリー。
    運命の出会いは、神の導きによって与えられたものだ。
    それを、ここで失う訳にはいかない。
    靴の中まで雨でずぶ濡れだった。


    眼を細めて、闇を見る。
    諦めるな、諦めるんじゃない、フランク。
    優柔不断でないところを見せてやれ、メリーの様に勇気のある人間である事を証明するんだ。
    せめて、ヒートは救えなかったが、メリーだけは救いたい。


    緩やかな坂道を上る途中、何かに躓いてフランクは顔から転んだが、直ぐに立ち上がって走り出した。
    転んでいる暇はない。
    時間が惜しい。
    擦り剥いて痛む足も、折れた鼻も構わない。


    メリーを助ける事が出来るのなら、どんな痛みでも耐えられる。
    その先に、深い愛があるのだ。
    愛を信じろ、神を信じろ。
    愛の為に、走るのだ。

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     .,Y、: へ,、'``" :": : 、,`'`: : : : : : `゙^'--、、---"'゙‐'"   : : : : 丶     `': :~゙"'ー
    、.ー'"′``゙ン 、丶、.,,; ,:'/,: ' / ' / / ,:'/,  :'/  /' ".:;.:'"゙:.:゙,:;、,"'.:.:;,`:;,':,:;.,:;.
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    追い風が吹いて、フランクの走る速さを一段階上げさせた。
    これも、神の助けに違いない。
    名前を呼びながら、走り続ける。
    段差に躓いて転んで、足首を捻った。

    もっとゆっくり探せと云う神の警告だと、フランクは解釈した。
    信じ難い前向き思考で捜索を続け、フランクは街外れにまで来てしまっていた。
    夜の嵐の中でも、西部に広がる市街地の明かりがよく見える。
    流石に、ここまで連れて来られていないだろう。

    スティーブの所属する組織は、あくまでもこの北部だ。
    東に広がる海岸沿いに連れて行かれたのだとしたら、メリーがどうなっているか、想像するのは容易い。
    嵐が海にもたらす影響を、フランクはよく知っている。
    港町に居る人間は、嵐の日には絶対に外に出ない。

    高波で海に引き摺りこまれたら、二度と酸素を吸う事が出来なくなる。
    この辺りの海はいきなり深くなる場所があり、毎年必ず死人が出ている。
    メリーが海に沈められたのだとしたら、助かる可能性は限りなく低い。

    無意識の内に、首から提げた十字架を握りしめた。
    入信した際にディーダンから貰った、大切な十字架。
    神の加護を約束され、神の僕として認めてもらった証。
    掌に食い込む程強く握りしめ、フランクは心の底に残った人間の強さを再発見した。

    彼がメリーの生存を信じなければ、誰が信じるというのだ。
    諦めない。
    決して、諦めない。
    神は信じる者を救う。


    ヒートは救えなかったが、メリーだけは救って見せる。


    ( T_フT)「メリー! 何処に居るんだ!」


    腹の底から、愛する人の名を叫ぶ。
    遥か遠く、天国にまで届く程の声量で叫んだメリーの名は、豪雨にも、強風の音にも負けなかった。
    彼を見下ろすビルや建物が、不気味に見えた。
    悪魔だ、悪魔が彼を嘲笑っているのだ。

    悪魔に屈すれば、ヒートの様になってしまう。
    堕落する事だけは、受け入れたくはない。 フランクは心を強く持った。
    荒れ狂う風と雨粒のせいで、最早、レインコートは意味を成していなかった。
    体中が雨で濡れ、熱く火照った体は徐々に冷却されつつあった。

    頬を叩きつける風が目を覚ませと囁く。 眼に入った水滴が現実を見ろと囁く。
    向かい風に変わった風が、これ以上進むなと囁く。 口に入る雨粒と風は、これ以上喋るなと囁く。
    絶望的な結末が頭を過る。 頭を振って、それを否定した。
    神がその様な事をするはずがない。

    受け入れてはならない。 これは、悪魔の所業ではなく神が与えた試練なのだ。
    試練を乗り越えて、自分はようやく認められる。
    考える事を辞め、フランクは神に祈った。
    一心不乱に祈った。

    探すのではなく、祈ることで活路を見出そうと試みた。
    心から祈れば、神はこの願いを、祈りを聞き届けるのだ。

    ( T_フT)「神よ……神よ……っ!」

    哀れな子羊の祈りは――

    (*゚-゚)「……フランク……さん?」

    ――聞き届けられた。

    * * *
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    ブーンは夢を見ていた。

    よく晴れた春の陽だまりの様に柔らかく温かな、心地の良い風が体を撫でながら通り抜ける感覚が、ブーンの体を満たしていた。
    瞼が縫い合わさった様に動かず、何時までも、この温もりの中に居たい。
    体中を流れる血液が洗浄され、濾過され、濁りを取り除かれた様な清々しい気持ち。
    鼻が嗅ぎ取る。二種類の、甘い香り。

    一つは身近に。
    太陽の温もりと春風の香り、そして樹齢数千年を越える大樹の安心感。
    一つは近くに。
    満月の穏やかさと嵐の香り、そして春の空に勝る陽気な安寧感。

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    その二つの香りが、ブーンは好きだった。
    瞼の裏に映るのは、何処までも澄み渡った真昼の青空と、そこに浮かぶ、掌では覆い隠せない白く朧な月。
    柔らかい青草の絨毯の上に寝転がるブーンの傍では、デレシアとヒートが微笑んでいた。
    出来れば、ブーンはこの状態のまま、目が覚めないでほしいと切に思った。

    目覚めれば夢が終わってしまうから。
    優しい夢は甘い猛毒。
    ブーンはそれに抗おうとはしなかった。
    手に感じる温もりを離したくないが為に、ブーンは手に力を入れてみた。

    掌に感じるのはぼろぼろの布の肌触り。
    布を通して感じる、人の温もり。
    鼻に届く香りは確かにそこにあり、幻想でも夢でもない事を教えた。
    熱い涙が、溢れた。

    枯れ果てたと思っていた涙。
    それは優しさに溶けた雪解け水の様に溢れる。
    心が痺れる。
    温もりを求めて、心は体を動かした。

    自発的と云うよりかは本能的に、ブーンは人の温もりを求め、手足に力を入れ、前面にある温もりを離すまい、近付こうとした。
    柔らかな二つの何かが顔に強く押し当たる。
    それは、酷くブーンを困惑させ、誘惑した。
    甘い香りが、そこから強く漂ってくるのだ。

    ブーンの耳はそこから、とくん、とくん、と云う音を捉え、それが心臓の音だと分かった。
    今、ブーンは誰かに抱かれているのだ。
    そして、この感触と音が、自分を初めて抱きしめてくれた人の物だと察した。
    これはデレシアの香りと温もり、そして鼓動だ。

    髪を優しく撫でられ、それだけで、ブーンの意識は夢の中に引き戻される。
    今はまだ。
    もう少しの間だけ、夢を見ていても良いだろうと、ブーンは思った。
    いつか失うのだから、せめて今だけは、この気持ちを甘受していたい。


    また何時か辛い日々が訪れた時に、この気持ちを思い出せるように。
    体がふわふわとして、思考がとろけ落ちる。
    大きな水の中で眠る様な、そんな感覚。






    そうして、ブーンの意識は夢の世界に落ちて行く。









    (*∪´ω`)

    ブーンの丸まった尻尾は、気持ちよさそうにゆっくりと左右に振れていたのであった。

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                                         To be continued.
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    第二章【sisters-お姉さん-】  了
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