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第五章【drive-ドライブ-】

  1. 名前: 歯車の都香 2017/04/16(日) 13:08:00
    第五章【drive-ドライブ-】

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    好奇心で猫が死ぬ?        ヽ、   l          ヽ ,

    Cat has nine lives?               `.,′        _, イト

                            ,'         ..;;;;;;;;ィ  ジョルジュ・マグナーニ

    まさか。                    /     ,ィ   ..,,;;;;'',.ィ仁   GeorgesMagnanni

    You're kidding me.             `ー--r‐、 ;;;;;:'' ,'.___

                                 _,メリl__,ィニィ'ノ‐ ´

                             ,ィイメ` `r}'´ , -

                            ,fリ′!_ ..| ト∠-

                              Ⅷ  ー‐' ノ `リli|;;;;;;;;;;;;;

                        その猫が弱かっただけだろうよ。

                     That cat was so weak that it can't be alive.

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    速度、信号、細かな道路規則を完璧に守るヴォルクスワーゲン社製の白いセダンは現代的で、そして厳めしい表情と堅牢な作りの洗練された美を有している。

    低電力のライトは僅かに青みがかり、明るすぎず、だが暗く感じることのない適度な明るさで地面を照らしていた。

    辺りには街灯が多く並び、仄かな白い光がアスファルトで舗装された道に光を落としている。

    日中の太陽光と波力、そして風力で作られた電力を使用して発電しているため、その明るさは日によって違うと言う。

     

    巨大な街が持つような発電施設はないが、自然の力を借りた発電施設は周囲の島々に散っており、この街には十分すぎるほどの電気が供給されている。

    大嵐が島を襲ったとしても停電の心配はないと言われており、余った電力で得た金は街の重要な収入源の一つだ。

    むしろ問題があるとすれば、建物の方だ。

    嵐の度に昔ながらの作りをした家屋が新しくなるのは、この島の伝統的な風景とも言える。

     

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    鏡のように磨かれたスモークガラスのセダンを運転するのは、フレームレスの眼鏡によって知的な印象を与える鳶色の瞳を持つ若い女性だった。

    美人に分類される顔の造形だが、彼女をよく知る人間からはそのような評価は一度たりとも下ったことがない。

    一目彼女を見た人間もまた、その眼光に射竦められて評価を覆す。

    もっとも、その女性は自分の容姿が異性に与える影響など眼中にはないのだが。

     

    世界における正義の使者とも言えるジュスティア警察の長官専属秘書、ライダル・ヅーはハンドルを左手で掴み、右手は常にシフトレバーに添えている。

    ギアを変える時に車が不自然に振動することもなく、車と搭乗者に負担をかけることのない運転を日頃から心掛けていることが分かる。

    速度に応じてギアが変わっているのに気付くには、僅かなエンジン音の変化に耳を傾け続けるしかない。

    時折ヅーの目は右側の助手席に座る男に向けられていたが、向けられた当の本人はそれに気付いていながらも無視を決め込んでいた。

     

    助手席に座るのは整った服装のヅーとは対照的に、皺だらけのスーツを着てワイシャツのボタンを二つ外し、白髪だらけの乱れた髪の男だ。

    右の頬にある大きな二本の傷は、人相の悪い彼をより一層悪人に思わせた。

    落ち着きなく車外に目を向け、通行人や対向車、建物の上を観察する様は正に不審者そのものだ。

    男の名前はトラギコ・マウンテンライト、ジュスティア警察のベテラン刑事である。

     

    車は人通りの多い道から、ウィンカーを出して細い道に左折した。

    すれ違う車は錆だらけ、もしくは土埃だらけの地元の人間が運転する車だけだった。

    ヅーの車はいわゆる高級車で、地元民のそれとは明らかにかけ離れた美しさを持っているために、明らかに目立っている。

    地味な見た目ながらも確かな質の品で彩られた車内に会話はなく、ラジオすら流れていない。

     

    トラギコは気まずいとは思わなかったが、心地よい沈黙とも思えなかった。

    目的地は本人の言葉が正しければ、ティンカーベルを代表する観光スポットであるグレート・ベル近辺のブライアンホテルだという。

    ブライアンホテルという名前のホテルが実在するかどうか、実のところトラギコは知らなかった。

    この島について、そこまで詳しくは知らないのだ。

     

    閉鎖的な土地が好きな人間はそういないだろうし、トラギコもそういった人間の内の一人であり、ティンカーベルと関わる仕事の記憶がほとんどないのが原因だ。

    何よりトラギコの記憶に強烈に焼き付いているのが島の雰囲気や地形よりも、捜査に非協力的な人間の多さだった。

    そう云った経験も含め、この島での聞き込みはあまり実りあるものにはならないだろうとトラギコは確信していた。

    だからこそ、自分の足を使って情報を手に入れて回るしかないのだ。

     

    しかし、それはこのまま無事にホテルについて行動が出来るようになってからの話だ。

    ヅーが大人しくトラギコの捜査の協力をするとは、どうしても考えられなかった。

    規則一筋だからこそ優秀であり、ジュスティア警察の最高権力者であるツー・カレンスキーの専属秘書になったのだ。

    世界で五指に入る優秀な秘書、とはよく言ったものだ。

     

    トラギコに言わせれば、世界で五指に入る融通の利かない糞女である。

    そのヅーが、己の独断で軍と警察の意向に反してトラギコを自由に行動させるなど、あまりにも非現実的すぎる話だった。

    見え透いた罠だ。

    彼女の目的はトラギコから情報を聞き出すことであり、保護することはその過程でしかない。

     

    結果として情報を聞き出せれば、トラギコが殺されようとも気にも留めないだろう。

    これまでに何度も彼女の行動を見てきたからこそ、彼女の言動の裏を考えざるを得ない。

    ある意味で信頼と言えるだろう。

    善意ある行動などなく、必ず裏に何かしらの目的を潜ませて動く女だという信頼。

     

    このドライブも裏があると考えれば、常に首筋に剃刀を当てられているようなものだ。

    脚の一本が使えなくてもヅーに力で勝つ自信はあるが、この女がトラギコとの体力的な差を考慮せずに拘束しようと画策しているとは考えられない。

    ある地点に部隊が控えてあるか、この車に罠を仕込んでいるかもしれない。

    テーザーガンで人をショック死させるような女なら、有り得る。

     

    さりげなくルームミラーを見ると、後部座席に男女の対格差を無意味にする代物が鎮座していた。

    強化外骨格――“棺桶”――だ。

    彼女の使う棺桶は逃亡者を追い詰めるのに最適な物で、徒歩の人間は絶対に逃げきることが出来ない。

    車内での争いは意味をなさないと考え、トラギコは再び視線を外に向けた。

     

    車は、見覚えのある通りへと戻ってきた。

    尾行車がいないか、それを見定めるための行動だ。

    ヅーは意図的に細い道を選んだり、カーブを曲がる際に速度を上げたりと教本通りの対応をしている。

    細かなハンドル操作と速度変化が多い中、ギアを変更する際、信号に従って車を止める際、どのような時もトラギコの体が前にのめり込むことはなかった。

     

    車内には、エンジンが上げる低く小さな音だけがBGMとして流れていた。

     

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    走り始めて一時間以上が経過したが、ホテルに到着する気配は一向になかった。

    尾行車を警戒しての行動だとしたら、いささか時間をかけすぎている。

    先ほどから後方を見てはいるが、それらしき車両を見かけてはいない。

    何かを考えているのだろう。

     

    トラギコをどこかに連れ込み、拷問をする算段でも立てているかもしれない。

    セダンは似た景色の道を繰り返し通りながらも、確実に島の奥へと向かっている。

    流石に我慢が出来なくなってきたトラギコは、運転席に仏頂面で座るヅーの方を向いた。

     

    瓜゚ー゚)「何ですか?」

     

    相変わらず、この顔が腹立たしい。

    何もかもを知っている人間だけが出来る、落ち着き払った表情。

    忌々しいこの女は常にその表情を顔に貼り付け、接してくる。

    自分が上位にいることを示すかのような表情は、己の知識と技量の裏返しだ。

     

    それだけ自分に自信があり、相手よりも勝っているという確信があるのだ。

    上司でなければ殴っているところだ。

     

    (=゚д゚)「どこに向かっているラギ?」

     

    視線を窓の外に戻し、トラギコは質問をした。

    思えば、このセダンに乗車してから初めての発言だった。

     

    瓜゚∀゚)「ホテルです、遠回りですが」

     

    返答したヅーもまた、視線を前に固定したままそれに応じた。、

    表情は微塵も変化がなかった。

     

    (=゚д゚)「あんまり時間をかけてほしくないラギ」

     

    瓜゚∀゚)「構いませんが、島の地図は頭にありますか?」

     

    成程、とトラギコはヅーの発言の意図を理解した。

    トラギコにこの事件を担当させるのであれば、当然、捜査を行うことになる。

    捜査に必要なのは根気と土地勘、情報、そして暴力だ。

    島の形を理解し、島にある街並みとその細かな道を覚え、どこにどのような店があるのかを覚えておく必要がある。

     

    特に、酒場は情報収集には最も適した場所だ。

    酒精を摂取した人間は多かれ少なかれ、必ず集中力が落ちる。

    その隙に付け入り、情報を手に入れるのは容易な話だ。

    現にトラギコは、この一時間で四件の酒場を記憶していた。

     

    やはり、抜け目のない女である。

     

    (=゚д゚)「……やっぱり、もう少しだけ付き合うラギ」

     

    街の案内をしながら送迎されているとは、思ってもみなかった。

    しかし、罠である可能性は微塵も減っていない。

    再び、無言のドライブが始まった。

     

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        _(,_,,..{》二二...,,,,_/.__,,.. ィ゙ <..,,___,,-‐\\にl}   第五章【drive-ドライブ-

      〃) ∨__リ____  {!に二¨¨:ア´ ̄ ̄ ̄``マニ==<....,,,,__

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      にニヽ. .....,,,,,,_ _ __ ___f'´-----‐\/ l{    }}ノ人      リ August 10th AM00:32

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    ブライアンホテルに着いたのは日付が変わってからだった。

    それまで徹底して口を利かないでいたトラギコは、この段階でもまだヅーを疑いの目で見ていた。

    八階建てのホテルはペンキが塗り替えられて間もなく、内装は小奇麗に整っていた。

    受付のあるラウンジも掃除が行き届いており、赤い絨毯は柔らかく足を負傷しているトラギコにとってはありがたく感じた。

     

    ホテルの入り口近くには飲食や談話の出来る小さな丸テーブルと一人掛けのソファが三つあり、ラウンジの奥にはカウンターバーもあった。

    ヅーは受付に立ち寄り、名前を告げてから鍵を受け取った。

    その動作が生んだ僅かな時間の中で、トラギコはラウンジに不審な人間や物がないことを確認していた。

    柱の陰や植木の陰にも目を向け、影や異常な動きがないかを見る。

     

    入り口が密かに施錠されていないこと、その扉の近くに何か罠のような物がないことを確認した。

    警察とジュスティア軍が好む手口は、標的が目的の建物に入った時に捕える方法だ。

    瞬間的な油断の数値で言えば最も高いからだそうで、真っ先に行うのが出入り口の封鎖なのである。

    別の手段で捕えに来るとしたら、部屋に入った瞬間か睡眠の際だろう。

     

    トラギコを一瞥したヅーは何も言わずに先にエレベータに向かって歩き出し、昇降機を呼んだ。

    それに続いてトラギコは松葉杖を突きながら、エレベータの前に立つ。

    昇降機の中に武装した部隊がいたとしたら、抵抗は考えずに大人しくしておいた方がいいだろう。

    だが予想とは裏腹に、開いた扉の中には誰もいなかった。

     

    十人ほどが乗れるやや小さめの昇降機に乗って二階に向かい、五秒もかからずに到着する。

    静まり返った廊下を進み、突き当りにある211号室の前で止まる。

    廊下の突き当りには小窓があり、柵は設置されていない。

    万が一の際にはここから飛び降りて逃げられることを確認した。

     

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    部屋の扉を開き、先にヅーが入る。

    一拍置いて安全を確認してから、トラギコも続いた。

     

    瓜゚∀゚)「これから少し話をしますので、適当にかけてください」

     

    そうは言っても、部屋には小さなベッドが一つと読書灯と電話、そしてメモ帳の載ったサイドテーブルが一つ。

    椅子は一脚もない。

    些細な家具の有無はどうでもよかったがどうしても見過ごせなかったのが、ユニットバスという点だった。

    トラギコはユニットバスがこの上なく嫌いだった。

     

    何が悲しくて糞を垂れる空間と、体を洗う風呂場を一緒にしなければならないのか。

    だが侵入者が隠れる場所がないのはいいことだ。

    とりあえず、トラギコはベッドの上に腰かけた。

    ヅーは玄関を背にして、トラギコを見下ろしている。

     

    窓から離れているのだ。

    警察が盗聴に使用している機器の中に、窓の振動を使って室内の会話を聞き取る物がある。

    本当に独断で動いているのかもしれないと、トラギコは今さらではあるがヅーの言葉に耳を傾ける気になった。

     

    瓜゚∀゚)「まず、現状についてお話しします。

        脱獄犯の二人は未だ発見されておらず、現地の署、軍と連携して引き続き捜索しています。

        なお、軍からは人狩り専門の精鋭部隊が派遣されています」

     

    (=゚д゚)「連中に人探しは無理ラギ。 跫音立てて狩りをするような連中ラギよ。

        狩りと捜査は全く別物ラギ」

     

    瓜゚∀゚)「分かっています。 なので、軍は主に封鎖と緊急時の対応に力を入れています。

        全ての連絡所に部隊が設置され、数人の精鋭だけが島内を探っている状態です」

     

    滅茶苦茶だ。

    川の中を歩きながら探し物をするようなものだ。

    泥が舞い上がり、足元が見えなくなることに憤りながら事態を悪化させ、更に憤慨して取り返しのつかない状況にするようなもの。

    探し物をする時には慎重さが必要になる。

     

    軍人にはそれが足りていない。

    特に、ジュスティアの軍人はそれが致命的なまでに訓練されていない。

    正義があれば何でもできると思い込んでいる狂信者。

     

    (=゚д゚)「そもそも指揮は誰ラギ?」

     

    瓜゚∀゚)「タカラ・クロガネ・トミーです。 元帥の」

     

    軍の最高責任者のタカラについては、トラギコもその活躍を耳にしている。

    そして、若さが仇となることを知らない人間であることも知っている。

    行動力だけは認めるが、それ以外についてはあまり評価できる部分がない。

    というのも、ジュスティア軍が他の地域に出向いて治安維持を行うようになったのは、彼が元帥になってからなのだ。

     

    一世紀以上も前の仇を討とうとフォレスタに密かに派兵して壊滅したのは、確か彼の進言だったと記憶している。

     

    (=゚д゚)「俺の足を撃ったのは、やっぱりカラマロスか?」

     

    瓜゚∀゚)「……えぇ。 予定では掠めさせて脅す程度だったのですが、風の影響があったそうです」

     

    嘘だと断言できる。

    強い潮風が吹く中、高速で走るバイクのタイヤの軸を正確に撃ち抜いた人間だ。

    確かに風の影響があったかもしれないが、カラマロス・ロングディスタンスはトラギコを殺すつもりで撃ってきた。

    大動脈を撃ち抜いて殺すつもりが、風の影響で狙いが逸れただけなのだ。

     

    どうやら、軍にかなり嫌われているらしい。

     

    (=゚д゚)「あの糞野郎についてはさておくラギ。

        で、続きは? どうして手前がこの件に絡んでいるラギ?

        長官の専属秘書がどうしてここに?」

     

    瓜゚∀゚)「……それについてはお教え出来かねます。

        私は別の指示があってここに来ているだけですから。

        話を戻しますが、ショボンが脱獄犯を逃した目的や彼の動き方を知っているのは貴方ぐらいしかいません。

        この状況でオアシズやオセアンの情報を貴方から聞き出すのは無理でしょうから、まずはこの事件を終わらせてほしいのです。

     

        リスク管理の問題です」

     

    ようやく理解できた。

    ヅーは、警察にかかる負担のほぼ全て。

    つまり、事件に関わる上で発声する面倒全てをトラギコに押し付けようというのだ。

    現実的に考えて、警察ではこの事件を解決出来ない。

     

    相手は警察で働いていた経験を持つ、狡猾極まりないショボン・パドローネ。

    トラギコを殺すために病棟を一つ燃やすような人間が、警察のやり方で見つけられるはずがない。

    この女は尤もらしい理由を付けて説明しているが、あくまでも過剰なまでに盛り付けた話であって、本質には一切触れようとしていない。

    そもそも、ヅーが独断で、という下り自体が明らかな嘘だし、正義を重んじるジュスティアがこれだけの大きな事件を一人に投げる訳がない。

     

    要は捨て駒。

    敵をおびき出すための駒として動き回らせ、あわよくば事件に関する情報を収集したいだけなのだ。

    何せ、平気でオアシズを沈めようとする組織が相手なのだ。

    こうして餌となるトラギコをこのホテルに泊まらせておけば、自ずと尻尾を表すことになる。

     

    成程。

    利口な餌になれという事なのだ。

    恩を売っているように見せておいて、その実は作戦を動かす部品の一つとして動かす腹積もりなのである。

    やはり、この女は好きにはなれない。

     

    だがしかし、好都合な面もある。

    アサピーのネタはこちらで隠したままだし、彼にある程度の話をしたことも秘匿したままだ。

    何よりほぼ自由に動けるのは大きな利点だ。

    互いに手の内は全て曝け出していない状態にある。

     

    先手を打てば、トラギコにとって有利な状況を作ることが出来る。

     

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    .          \   ヽ  ≫”ニ\   `二ニ´ /

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            ヽ       、\ iニニ= ` -=≦\ ヽ__

    .       }i         }i i| }三三三ニ=- /  }i }i

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    (=゚д゚)「話は終わりラギか?」

     

    瓜゚∀゚)「概ねは。 一つ、気になっていることがあります。

        貴方に答えてもらいたいことです」

     

    来た。

    恐らくこれが、ヅーがここにいる理由につながる質問のはずだ。

    答える答えないはさておいて、話を聞けば相手の考えが何か分かるかもしれない。

     

    瓜゚∀゚)「デレシア、という人物を知っていますか?」

     

    (=゚д゚)「さぁ? 昨日も答えたけど、聞いたこともねぇラギ」

     

    これで終わりだろうか。

    デレシアはこちらもその正体が分かっていない上に、誰にも渡したくない獲物である。

    何か知っていたとしても、教える気にはならない。

    あの女は、トラギコの獲物なのだ。

     

    瓜゚∀゚)「ニクラメン、そしてオアシズの事件に関与しているという話がありました。

        ですが、その人物の名前は偽名の可能性が非常に高く、その目的も不明です」

     

    確かに関与はしていた。

    それは間違いない。

    関与どころではなく、深い部分で繋がっていたとトラギコは推理している。

     

    (=゚д゚)「なら質問する先が間違ってるラギ。

        探偵に頼め」

     

    会話が終わると思われたが、続きがあった。

     

    瓜゚∀゚)「……問題なのが、その人物の名前がジュスティア史に出てくる人物の名前という事なのです」

     

    それは初耳だ。

    一応、ジュスティアにある大学を卒業したが、歴史の授業でその名前を耳にしたことはない。

    特徴的な名前というのもあるが、トラギコは記憶力に関しては少し自信がある。

    特に人命に関しての記憶力はよく、歴史上の人間の名前はある程度覚えていたはずだ。

     

    仮に忘れていたとしても、その名前に何か違和感を覚えたりするはずなのだ。

     

    (=゚д゚)「へぇ、単に歴史好きなだけじゃねぇのか?

        それとも歴史好きに悪い奴はいないとかって言うラギか?

        その名前、それほどすげぇのか?」

     

    挑発的な言葉を無視して、ヅーは続けた。

     

    瓜゚∀゚)「それはそうでしょう。 ジュスティアの中でもある程度の権威を持った人間だけが知り得る情報なのですから」

     

    (=゚д゚)「……ほぅ?」

     

    瓜゚∀゚)「詳しくはお話しできませんが、この名前を知っているという事は、ジュスティアにいたという事を意味します。

        そして、権威を持った人間であった、もしくはあるという可能性があります。

        そんな人間が件の事件を起こしたとなれば、これは非常に厄介な問題になります」

     

    限られた人間だけが知ることの出来る歴史。

    それはつまり、ジュスティアという街が出来上がるに際してかなり大きな影響を持つ情報という事だ。

    これまでの間秘匿され続けてきた歴史。

    是非とも知りたい。

     

    当然の事だが、ヅーは話さないだろう。

     

    (=゚д゚)「見つけたらどうするつもりラギ?」

     

    瓜゚∀゚)「当然、死刑です。 汚点を世に晒すわけにはいきませんから」

     

    これが、彼女の目的だ。

    いや、彼女たちの、と言い換えた方が正確だろう。

    真実の確認よりも先に消したい情報を持つ可能性のある人間、それがデレシアなのだ。

    彼女が旅をしていることを知らなければ、同伴者がいることも知らないのに、随分と大きく出たものだ。

     

    同時に複数の問題を解決しようとして――否、そうではない。

    彼らは、デレシアもショボンの組織も同一視しているのだ。

    とんだ勘違い、と言いたくもなるが実のところトラギコはデレシアの何も知らないことを再度自覚する。

    本名も年齢も、旅の目的も。

     

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        何も      /{:: : :i/: :: ||  |/ :j            /    /: : :/ ハ :  \

    .        /   /: :\ \ \ : : \\     〈| .       /   / : :  / } : | 、ヽ

      知らない   / : : : : \ \ \: :从⌒            ∠/  //: / ノ.: :リ 〉:

         /   人 : : :  -=ニ二 ̄}川 >、  `''ー 一    ∠斗匕/´ ̄ ̄ ̄`Y: :{: /

         {   { 厂      . : { /⌒\          .//: : : .____   人: :/

         ':   ∨} _: : : : 二二/ /   | \_   -=≦⌒\く_: : : : : : : : :_:: :: :

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    分かっているのはその姿が浮世離れした美しさを備え、風変わりな格好をしている事、耳朶に心地いい声をしているという事。

    そして、並外れた勘とただならぬ雰囲気を身に纏った若い女性だという事だけだ。

    捜査にはほとんど役に立たない情報だが、知らないよりかはいい。

    横取りをさせるわけにはいかないため、トラギコは一切の情報を流さないことを決め込んだ。

     

    (=゚д゚)「ま、好きにしてくれラギ」

     

    トラギコはここまでの段階で、ヅーが自分を疑っていることに気付いていた。

    デレシアという人物に関して何も情報を開示していないのがその証拠。

    あくまでも名前だけだ。

    例えば性別や容姿については不自然なほどに言及しておらず、万が一トラギコが口を滑らせようものならそこを突いてくるつもりだったのだろう。

     

    甘い。

    そのような罠をトラギコに仕掛けるなど愚の骨頂だ。

    ジュスティア警察ではよしとされていない手段だが、トラギコにとっては常套手段。

    常識的過ぎて逆に不自然なものにまでなっている手段なのである。

     

    瓜゚∀゚)「……そうします。 捜査は今日からですか?」

     

    (=゚д゚)「ま、その予定ラギ」

     

    瓜゚∀゚)「くれぐれも、捕まらないようしてください」

     

    捕まらないようにお膳立てをしてくれる、という意味に捉えておく。

     

    (=゚д゚)「なぁ、予算はくれないラギか?」

     

    瓜゚∀゚)「……五十ドルだけ、そこの机の引き出しに入れました。

        それでどうにかしてください」

     

    (;=゚д゚)「五十……ドル……? 一週間それで過ごせたら表彰ものラギ。

        バラエティーラジオの聞きすぎで脳味噌が退化したラギか?」

     

    どれだけ節制したとしても、三日でなくなってしまう。

    聞き込み、張り込みの基本は飲食店だ。

    身分を隠して店に長居するには商品を買わなければならない。

    喫茶店ならば一番安いコーヒー、酒場なら一番高い酒だ。

     

    それが、五十ドル。

    安い喫茶店でもコーヒー一杯五ドルだ。

    コーヒー一杯で喫茶店に滞在したとしても、最終的には食事が必要になる。

    三食摂るとして、一食当たり一ドル五十セントから二ドルの間でやりくりしても、日にかかるのは十ドル弱。

     

    更に一食一ドル五十セントとなると、せいぜい痩せ細ったフランクフルトしか買えないだろう。

    つまり、五日も持たない計算だ。

    予算から算出されたヅーがトラギコに与えた猶予は、今日を含めて四日。

    四日以内に脱獄犯を捕まえなければ、トラギコは捕えられて今度こそ逃げられないように監禁される。

     

    部屋を出て行ったヅーに向けて中指を立てることもなく、トラギコはさっそく地図作りに取り掛かることにした。

     

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          i                ノ、__

          !              r'´ヽ `':,

          /              l !__i |   ',

         ノ               i   .i, ,  ヽ         August 10th AM00:51

        /               ノ   i/    `',

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    瓜゚∀゚)「……」

     

    ライダル・ヅーはホテルから出てすぐに、純白のセダンに乗り込んで一息ついた。

    だがエンジンをかけただけで、ハンドルを握ることもギアを変えることもなかった。

    小型の携帯無線機をグローブボックスから取り出し、時間ごとに定期的に変えられる特殊な軍用の周波数に合わせ、通信状態を確認した。

     

    瓜゚∀゚)白「“虎”は檻に、繰り返す、“虎”は檻に」

     

    断続的にノイズが走り、通信は終わった。

    これでヅーから軍への報告が終わり、後は客に紛れた捜査官たちがトラギコの動向を探ることになる。

    すでにこのホテルの宿泊客は警察と軍関係者だけとなっており、ホテルの従業員もジュスティアの息のかかった人間達だ。

    つまり、トラギコはこのホテルに入った時点ですでに監視下に入っていたのだ。

     

    いくら警戒していたとしても、意味はない。

    ホテルのどこかに潜んでいるのではなく、ホテルそのものがトラギコを監視する施設。

    もはや、トラギコは好き勝手に動くことはない。

    そして、何者かに襲われて負傷することもないのだ。

     

    実際、トラギコに話したことに偽りはほとんどなかった。

    この作戦を立案したのはヅーだし、責任者もヅーだ。

    ショボンが組織に属しているのは分かったし、トラギコが狙われていることも十分に分かった。

    だからこそ、トラギコを自由に動かすわけにはいかない。

     

    傷つき、命が失われれば情報も失われる。

    それは避けなければならない。

    ジュスティアのみならず、世界に影響を及ぼしかねない。

    彼が持っている情報には、それだけの可能性があるのだ。

     

    かと言って、安全のために監禁されることを彼は嫌うだろう。

    束縛を好む獣はいない。

    せめて自由でいるという錯覚を味わってもらうために、このような運びにしたのだ。

    勿論、ショボンの組織の人間をおびき出すという目的も含んでいるのだが、何よりも最優先に考えていたのは、トラギコの安全確保だった。

     

    こればかりは、トラギコに言った通り、ヅーの独断による部分が大きかった。

    自分らしくない行動だが、全体的な利益を加味すればやはりトラギコの存在は重要だ。

    彼以外、餌として絶好な人材がいないのだ。

    それだけでなく、トラギコだけが敵の組織を知っており、彼だけが敵の興味を引き付けている。

     

    躊躇なく病院を燃やすような人間が単身でトラギコを狙うとは思えず、彼一人で対処出来るとも思えない。

    必ずその裏に繊細な計画を練る人間、それこそショボンのような人間が数人控えていることだろう。

    大規模な組織が関与しているのはトラギコの口から聞いた可能性の一つだが、おそらくはその見込みが正しいはずだ。

    可能性の段階であるため、本部にはまだ報告していないが証拠が見つかり次第捜査に移ることが出来る。

     

    今、警察本部が躍起になっているのがショボンと脱獄犯の行方、そして目的だ。

    警察が誇る優秀な捜査官でさえ、その手がかりを掴むことさえ出来ていない体たらくぶり。

    となると、秘密裏にでもトラギコを頼らざるを得ず、彼の機嫌を損ねるわけにも命を失うわけにもいかないのである。

    今最優先されるのは、ショボンたちを捕まえて新たな事件を起こさせないことだ。

     

    周囲のパニックを回避するために二人の脱獄犯の情報を偽ってアナウンスした中、エラルテ記念病院で起こってしまった放火事件。

    それは、警察が犯人の動きに対応できなかったことを意味している。

    故に、病院の火災はタバコの火の不始末による火災、として処理される。

    事件性がないことが分かれば、住民たちもパニックになることはない。

     

    ジュスティア警察と軍が島で警戒する中、不注意によって強化外骨格の不審者に放火されました、などとは口が裂けても言えない。

    そういった意味では、トラギコの担当医だった男――名前は忘れた――の死は実に迷惑な物だ。

    射殺された死体の始末と隠蔽は容易ではない。

    偶然現場に居合わせた軍関係者が死体を隠したからよかったものの、医療関係者に見つかれば大事になっていた。

     

    まだまだ手探りによる捜査が続きそうだが、どうにかするしかない。

    溜息を吐くことを我慢し、ヅーはシートベルトを締め、車を走らせた。

    ラジオを入れる代わりに窓を開け、風を車内に取り入れる。

    夏の夜の匂いと潮の香りがする風が、車内を勢いよく駆け回る。

     

    トラギコの匂いが、これでようやく消える。

    正直、トラギコの匂いは苦手だった。

    嗅いでいるとアルコールを摂取したような錯覚に陥り、思考が鈍ってしまうのだ。

    決して不快な匂いではないのだが、自分を保つためには邪魔な匂いだった。

     

    セダンは街を離れ、山奥に向かっていった。

    街全体を見下ろすことの出来る小高い山は、日中はハイキング客、そして夜には天体観測を楽しむ人間でささやかな賑わいを見せる。

    島全体が行き来を禁じられてからも、その客足は途絶えも衰えもしていない。

    だが、海岸沿いには検問所と警察犬が配置されており、絶えず監視が行われている。

     

    島から逃げるのは非常に難しいだろう。

    ギアをサードからフォースに入れ、アクセルを深く踏み込む。

    ジュスティアからの資金提供もあって、グルーバー島の車道はどこも綺麗に整備されている。

    五年に一回はアスファルトを敷き直しているため、セダンでも難なく山道を走ることが出来る。

     

    ライトをハイビームにして、ヅーは山沿いに一周してから街に戻ることにした。

    グルーバー島で最も標高のあるアルマニック山の周囲は速度制限がない代わりに、常に転落と落石に注意という道路標識が目に入るようになっている。

    ガードレールがあるとは言っても、速度が増せばそれを飛び越えて崖下に落下することもある。

    それはハンドリングとアクセル、そしてブレーキ操作を誤った愚か者のすることだ。

     

    ヅーは徐々にアクセルを深く踏み、一気に加速させた。

    強風が車内に吹き込み、あらゆる匂いを吹き飛ばし、一新させる。

    急カーブに差し掛かるとすかさずクラッチとブレーキを踏んで速度を落とし、ギアを落とす。

    カーブを曲がり切ってから、再びギアと速度を上げた。

     

    普段はルールに従っているが、速度制限がなければヅーは運転している車の限界速度まで走らせたいと考えていた。

    限界まで速度を上げることで感じられる高揚感とスリルは、何物にも代えがたい。

    勿論、日常生活でそれを満たそうなどとは考えていない。

    ルールは必ず守らなければならないからだ。

     

    これはあくまでも、仕事の一環として楽しむだけだ。

    崖沿いの道から森の中を通る道に進路を切り替え、ドライブを続ける。

    やがて、セダンが峠に続く細い道に差し掛かった頃、異変が起こった。

    暴風の音に混じって、バイクのエンジン音が森の中から聞こえてきたのである。

     

    それは森を横切って迫り、横合いからヅーの車を殴りつけようとしているようにも感じられた。

    音は森の中で木霊しており、どこから聞こえているのか、正確な方向が分からない。

    接近する音の位置を理解してタイミングをずらせば、激突は回避出来る。

    当然、方向をより確実に伝えてくれるライトの動きにも注意を配る。

     

    森の中を走破するには視界が有効でなければならない。

    ライトなしでバイクを運転しているのだとしたら、自殺行為だ。

    自殺志願者であればそのまま崖に向かい、鳥人間コンテストよろしく飛んで行くことだろう。

    問題となるのは、全てが杞憂であるか否かという事だ。

     

    今聞こえている音だけではオフロードレースに狂った人間か、それともショボンの仲間かは判別できない。

    ギア操作とブレーキで速度を急激に落とし、グローブボックスからベレッタM92Fと予備の弾倉一つを取り出す。

    一瞬だけハンドルから手を放して安全装置を解除し、遊底を引いて初弾を薬室に送り込む。

    銃を膝の上に置いて、バックミラーを見る。

     

    横に注意を逸らせて後方から襲撃してくる可能性を考えたのだが、それも違うようだ。

    果たして、この山奥で何をしているのだろうか。

    音が近付き、眩いライトが見えたことから、バイクのいる方向が右側であることが分かった。

    もう間もなく、右手側の森から出現するはずだ。

     

    ハンドブレーキに手を伸ばし、その時を待つ。

    速度を時速18マイルにまで落とす。

    殆ど徐行と言える速度だ。

    注意深く森に目を向けつつ、車を走らせる。

     

    このセダンはバイクにぶつけられても大破しない構造になっているし、潰れるのは助手席側だ。

    しかし、銃撃されたら大ごとになる。

    視界の端に森を捉え、木々の間を走り抜けながら接近してくるライトを確認する。

    低いエンジン音から、オフロードタイプのバイクとは違うことに気が付く。

     

    次の瞬間、ヅーが通り過ぎた森から全く別の存在が出現し、思わず振り返った。

    黒いオフロードタイプの車だ。

    そして僅かに遅れて、大型ツアラータイプのバイクが森から飛び出し、姿勢を崩すことなくセダンの前方に着地した。

    目の錯覚か分からないが、一瞬だけ、二人乗りをしているように見えた。

     

    バイクはテールランプの赤い尾を残してあっという間に走り去り、それに続いてオフロード車がセダンを右側から追い越した。

    全ては一瞬の事だった。

    瞬く間に二台はヅーの視界から遠ざかっていく。

     

    ;゚∀゚)「何……ですか、あれは……」

     

    警戒していた自分が馬鹿に思えた。

    が、すぐに思考を切り替えた。

    あれは、ただ事ではない。

    若者の遊びの延長線上にある一光景ではなく、追う者と追われる者の関係にある姿だ。

     

    ギアを変更し、オフロード車を追うことにした。

    この短時間で離れた距離は、すぐに取り戻せる。

    銃に安全装置をかけて助手席に置いて、ハンドルを握りしめる。

    久しぶりのカーチェイス、もしくはレースだと思えばいい。

     

    秘書として働く前は、短い間だが婦警として働いていたのだ。

    速度違反を取り締まる仕事ばかりだったが、その時に変な趣味が身についてしまったようだ。

    しかし同時に、コツと知識を身につけた。

    追う時は徹底的に、そして執拗に。

     

    アクセルはベタ踏み、狙いと注意は正確に。

    報告は後だ。

    一気に加速したセダンは、オフロード車との距離を順調に縮める。

    先を行くバイクの姿はすでに視界になく、オフロード車は必死に追っているようだ。

     

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       \ ヒュ└―‐┘  、--、   ├'-/7' ,:.:.:.:.:.:.:.:::::' ' ∧〉,:::::l _   --   ̄_::::::::l_フ、.!::!

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    その特徴的な後ろ姿から、車種を導き出す。

    ――TOYOTA社製、ランドクルーザーだ。

    頑丈かつ堅牢な作りをした四輪駆動車で、各地の武装勢力、ギャングにも人気の車種だ。

    速度はそこまで出せないが、山道や悪路を走破するのには十分な性能を有している。

     

    背後から迫るセダンは眼中にないのか、接近しても何の反応も示さない。

    真後ろにピタリとつき、動向を窺うことにした。

    相手から打って出てくれれば重畳だ。

    そのまま返り討ちにして、情報を聞き出せばいい。

     

    そうでなければどこか適当な場所で停車させ、情報を聞くだけである。

    抵抗したならば制圧し、反抗したならば処分する。

    いつものやり方でいい。

    最上の展開としては、追っているバイクの乗り手に追いつき、この騒ぎの全容を知ることだがそれは難しいだろう。

     

    峠を越え、下り道へと切り替わる。

    道の両端に聳える木々が高速で過ぎ去り、速度感覚を狂わせる。

    やがて山中から崖沿いの道へと抜け、起伏に富んだ一本道が待っていた。

    速度を上げる二台の車は跳ねるようにして走り、着地し、タイヤを軋ませた。

     

    左手に海を眺める開けた道に差し掛かったが、バイクの姿は見えない。

    上手く撒かれたらしい。

    ランドクルーザーが徐々に速度を落とし、待ち望んだ変化が起こった。

    観音開き式のリアゲートが右側だけ開き、覆面をした人間が姿を現したのである。

     

    その手にはストックを折りたたんだAK47突撃銃が握られており、発砲を予感したヅーは咄嗟にハンドルを横に切った。

    予期していた発砲こそなかったが、その行為は明らかな脅しだった。

    いや、親切な警告と言うべきだろう。

    目の前にいる集団を敵として認識したヅーは、追跡から力による情報収集へと作戦を切り替える。

     

    ランドクルーザーの右斜め後ろに素早く位置取り、ヅーは助手席からM92Fを手にして安全装置を解除。

    パワーウィンドウを自動で全開にし、左手を窓から出して銃爪を引いた。

    銃弾はリアバンパーに穴を空け、二発目の銃弾はカラシニコフの銃身に当たって火花を上げ、三発目で膝を撃ち抜いた。

    膝を押さえて倒れた敵を無視し、ヅーは続けて運転席に向けて弾倉の中身を全て発砲した。

     

    運転手に当たればと思ったのだが、最初の三発で警戒していたのか運転に大きな乱れはない。

    また、後部座席にも五発ほど浴びせたのだが不気味なほどに反応がない。

    撃ち尽くした弾倉を手首のスナップで落とし、再装填を素早く行って、ヅーは車の横に並ぼうとハンドルを切る。

    だが、そうはさせてくれない。

     

    ヅーの運転に合わせてそれを塞ぐ形で位置取り、後部座席から銃口がヅーを睨んだ。

    近付きすぎていることを察し、ヅーはハンドルを切りながらブレーキを踏んだ。

    数発がボンネットに当たって跳ね返り、フロントガラスに二発当たって残りは地面を穿った。

    フロントガラスに拳大の蜘蛛の巣状のひびが入ったが、運転に問題はない。

     

    すぐにアクセルを踏みながら、牽制射撃を行った。

    相手のペースに飲まれることなく、ヅーは教本通り十対一の割合で撃ち返す。

    こちらの装弾数は十七発と、あまり贅沢は出来ないのだ。

    蛇行運転を繰り返し、少しでも被弾を減らす。

     

    防弾ガラスも装甲も無敵ではない。

    同じ個所に集中的に撃ち込まれたら、一発ぐらいは貫通する。

    徹甲弾を撃たれたら一発でお終いだ。

    二つ目の弾倉を撃ち尽くし、ヅーは銃を助手席に潔く投げ捨てた。

     

    運転に集中し、フェイントをかけつつ横に並ぼうと一気に加速。

    それを受け、一度だけランドクルーザーが左に曲がり、振り上げた拳のようにヅーのセダンに体当たりを放った。

    が、これは予想通り。

    ハンドブレーキを用いて急静動をかけ、それを回避する。

     

    すぐさま速度を上げ、背後にピタリとつく。

    これが警察車両であればサイレンや拡声器が使えたのだが、と舌打ちをする。

    幸いなことに、峠を下りきった位置には検問所がある。

    このままそこまで誘導できれば、ヅーの勝ちだ。

     

    悶絶していた敵がカラシニコフを構えたのを見て、ヅーは咄嗟にアクセルを踏み込んでバンパーにぶつけた。

    衝撃で男の体が大きく揺れる。

    間隔を空けてもう一度ぶつけ、片方だけ閉じていたリアゲートが振動で開く。

    あと一押しだ。

     

    一際強く加速させて体当たりをすると、覆面の男が車外に転がり落ちた。

    間髪入れずにヅーのセダンがそれを踏み潰し、車が大きく弾んだ。

    この速度なら死んだだろう。

    バックミラーでその姿を確認して、視線を前に戻した。

     

    後部シートの間から銃口が見えた瞬間、ヅーは息を飲んだ。

    H&K社製HK21軽機関銃だと認識したのは一瞬。

    ハンドルを左に切ったのはその半瞬後。

    銃弾が道を抉ったのは、僅かにコンマ五秒後の事であった。

     

    思っていた通り、ただのチンピラではない。

    装備が充実しすぎている。

    海側に避けたヅーをガードレールに押し付けようと迫ってくることが予想されたため、ヅーは速度を上げすぎないように絶妙な位置につく。

     

    瓜゚∀゚)「ここまでとは……」

     

    思わず口を突いて出る独り言。

    目の前にいるのがショボンの組織に関する人間なのは疑いようのないことだが、その行動力は見上げたものであると再評価しよう。

    敵だと認識した瞬間に切り替える思考の速さは、是非とも見習いたいものだ。

    警告の後の攻撃、そして攻撃の激化までの的確なプロセス。

     

    一筋縄ではいかない。

    少しばかり慢心があったのかもしれないと反省し、ヅーは改めて方針を打ち出した。

    敵を一人だけでも捕え、尋問し、真実を吐かせる。

    それ以外は処分するしかない。

     

    次いで、現状の整理に移る。

    相手は荒れた道を走破することに特化した車で、こちらは舗装路を走破することを得意とする。

    車種による有利不利を言うのであれば、ヅーの方が有利だが大した意味はない。

    逆に大した意味を持つのが武装だ。

     

    拳銃と機関銃では、勝敗は明らかである。

    おまけにこの状況では再装填も出来なければ、銃としての意味はない。

    このままの状態で有利なのは相手だ。

    そして次に相手が何をしてくるのかを考え、ヅーは覚悟を決めた。

     

    ――次の瞬間、ランドクルーザーは半回転しながら急停車し、セダンはその横っ腹に突っ込んだ。

     

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                           August 10th AM01:16

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    トラギコは観光用の地図に書き込みを終えると、それを折り畳んでサイドテーブルに置いた。

    アサピー・ポストマンの写真が撮影された場所を考えると、このホテルに陣取るのは正解だ。

    問題は操作をするのに必要となる資金が不足していることだ。

    警察手帳を出せば足がつく。

     

    ヅーはそこまで計算に入れた上で、五十ドルというふざけた金額を用意したのだ。

    紛れもなく嫌がらせだ。

     

    (=゚д゚)「ふぅ……」

     

    ともあれ、ヅーはこちらをまんまと欺いたと思っているのだろうが、それは逆だ。

    こちらがしてやったのだ。

    アサピーを介して、昨晩の火事の全貌が公になる。

    そうなれば、捜査は大混乱となる。

     

    島中が警戒態勢となり、オアシズで行われたような作戦は展開し辛くなる。

    ショボンの思い描いている計画は、これだけで大打撃を受けるはずだ。

    昨夜の火事についてジュスティアが情報操作を行うことはおそらくショボンの計算の内にあることだが、その情報が表になるとは考えていないはず。

    そうでなければあれほど大胆なことをするはずがない。

     

    あれでショボンは慎重な人間だ。

    ジュスティアが揉み消すことを信頼し、それを前提に作戦を進めていなければトラギコを焼殺する必要がない。

    何か目的があって銃殺や毒殺を避け、あえて焼殺を選んだのだろう。

    つまり火事を装ってトラギコを殺す必要があったという事だ。

     

    しかし、それが崩されたのなら、どのような作戦であれ根底から練り直しが必要になる。

    これでまずはショボンとヅーの両者に一矢報いた、という所だろう。

    また、ヅーはトラギコがこのホテルに大人しく泊まると思っているのが傑作だ。

    大前提として、トラギコはヅーを信頼していない。

     

    もっと言えば、ジュスティアの人間で信頼しているのは一人としていない。

    正義を口にする者全てが、トラギコの敵なのだ。

    幾度となくトラギコに立ちはだかり、邪魔をし、そして罵ってきたのは正義。

    今回もまた、正義が邪魔をしてきた。

     

    銃と棺桶を持ち込めた時点で、トラギコはこのホテルからいつでも逃げることが出来る。

    暫くの間はそうしないだけで、近々そうするつもりだ。

    具体的に言えば、アサピーが放火の事を記事にして島中が大騒ぎになり、ヅーが憤慨してトラギコの下にやって来るまでだ。

    明日の朝刊が配達されるのは後三時間後。

     

    つまり、三時間以内にトラギコはここから逃げなければならない。

    五十ドルの餞別をどう使うかが、今後に関わってきそうだ。

    持ってきた銃の弾を確認し、懐のホルスターに戻す。

    最悪の展開を回避するためには、武器は必要だ。

     

    トラギコの考える最悪の展開とは、ヅーが用意周到にこのフロア全体に軍人を配備していることだ。

    警官ならばまだ話が通じるだろうが、軍人となると会話にならない。

    力で押し通るしかないのだ。

    それこそ、足でも撃って行かなければならない。

     

    トラギコはカラマロフ・ロングディスタンスに撃たれたのだから、お互い様だ。

    思う存分やり返す。

    まずは算段を立てなければならない。

    前提とするのは状況だ。

     

    どこにヅーの罠があり、どこに死角があるのか。

    それを考えれる必要がある。

    ホテルに入った段階、そしてこの部屋に来る段階で尾行者も監視者もいなかった。

    それは間違いない。

     

    しかし、しかし、だ。

    あのヅーが手放しでトラギコに捜査を任せるとは思えない。

    それは断言出来る。

    用意周到さ、そしてルールを守ることに関しては徹底している女だ。

     

    優しさなど、あの女には微塵も存在していないのだ。

     

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     v: : : ∧ l     { ゞ' /マフ

      ヽ: : : : ,      ` ' 〈              August10th AM01:17

       }: :/〈    ,    - ,

      ノイ   、    ⌒こイ

    /^ヽ    \     /´__

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    その時、三日後には誕生日を迎えるケイティ・グラハムは、人生で最も苛立っていた。

    彼はツーリング仲間と共にモーターサイクル・ギャングへと転身し、新たな人生を謳歌していた。

    妻と一人娘に恵まれ、街を転々として収入を得る生活に転機が訪れたのは、つい昨日の事。

    対象を襲ってくれと言われて渡された金貨七百ドルは、日々の不安定な生活と別れを告げられるには十分な金額だった。

     

    そのはずだった。

    楽な仕事だと請け負った狩りには失敗し、十年の歳月を経て得た仲間を失い、愛車を失い、おまけにその追撃を邪魔された。

    家族以外の全てを失った日とも言える。

    こんな日は、人生の中で一度たりとも起こったことのない最悪の日だった。

     

    胸を撃たれながらも咄嗟の判断で乱入者を食い止めた運転手のブブリア・ブロッコリーは意識を失い、助手席にいたオルゴン・バートレットは俯いたまま反応がない。

    彼の手首に指を当てると、オルゴンの脈は停止していた。

    後部座席で難を逃れたケイティは、一つだけ積んでおいた強化外骨格と軽機関銃を手に取って、車外に飛び降りた。

    軽い頭痛がしたが、問題はない。

     

    今は怒りのままに行動するだけなのだ。

     

    IeUeI『我らの一歩は友の道。我らの歩みは国の路』

     

    強化外骨格、キーボーイを起動し、身に纏う。

    こちらが警告しただけで、いきなり発砲してくる女だ。

    これぐらいの用心はしなければならない。

     

    〔 (0)ш(0)

     

    あれだけの激突があったにも拘らずほとんど損傷のない高級セダンを前に、ケイティは再び怒りを覚えた。

    金持ちが道楽でこちらの邪魔をしたのであれば、それは許しがたいことだし、何よりも高級車を乗り回していることが気に入らなった。

    腰だめに構えた軽機関銃を運転席に目掛けて撃つ。

    防弾ガラスがひびで白く汚れ、そして砕け散った。

     

    死体を確認するために運転席側に回り込み、ドアを引き剥がした。

    しかしそこには、人影も肉片もなかった。

    どこに行ったのか、という疑問は彼の人生で最大の衝撃が横から襲った瞬間に消え去った。

     

    〔 (0)ш(0)〕『もるぁ?!』

     

    もともと、キーボーイの装甲が薄いことは聞いていた。

    だが、それでも強化外骨格だ。

    人間の蹴りでダメージを受けることはもちろんだが、吹き飛ぶことなどまずありえない。

    アスファルトの上をゴミのように転がり、ガードレールにぶつかってからケイティはどうにか立ち上がった。

     

    持っていた軽機関銃が拉げているのを見て、それを投げ捨てた。

     

    〔 (0)ш(0)〕『くそっ、何だってんだ……!!』

     

    キーボーイのカメラが捉えたのは、奇妙な影だった。

    強化外骨格なのは間違いないが、見たこともない姿をしている。

    モーターサイクル・ギャングとして生計を立てているケイティは、若干ではあるが棺桶についての見識がある。

    しかし、目の前に現れたのはこれまでに見てきたそれとは明らかに異なる形状、異なる設計思想をしていた。

     

    全体的に装甲に厚みは感じられなく小柄で、全身を覆う深紅の装甲の量とその大きさからAクラスの棺桶だという事が辛うじて分かる。

    特筆すべきは、その両足だ。

    大小合わせて二輪のタイヤからなる脚部。

    内側にバイク用のそれよりも僅かに小さなタイヤ、その外側に小型のタイヤが並んでいる。

     

    全身を覆う深紅の装甲の形状も、心なしかバイクの設計に似ていなくもない。

    蕾が花開くようにして開いたフェイスカバーから覗き見えたのは、頭部のほとんどを占める巨大なモノアイカメラ。

    金色に発光した中央部は白く輝き、灼熱の溶鉱炉を思わせる。

    間違いない。

     

    ――コンセプト・シリーズだ。

     

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         |ニニニ|=|二ニ∨二ニニニニニニ∨二=lj‐′=|

         |ニニ=(_卜、ニマニ二二二二ニ/ニニ/〕!=ニニ|

    .    八ニニ=|=\\ニマニニニニニニ/二//=|ニ二八

           \__|ニニ\\マニニニニ/`//ニニ|__/   It's over.

             ゚,ニニ゚, \=ニニニ7 ./ニニニ/    You're under arrest.

    .          ∧ニニニ≧ュ。..__..r≦ニニニ∧

    .        /ニ\二ニニニ=| | |ニニニニニ/ニ\

              \二二\二ニニ| | |=ニニニ/ニ二/

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    ::[ Y])『捜査妨害により、あなたを逮捕します』

     

    フェイスカバーが閉ざされてから発せられた第一声は、あまりにも間抜けな女の言葉だった。

    警察気取りなのか、それとも警察なのかは分からないが馬鹿なのだけは確かだ。

    警官だろうが何だろうが、ケイティにはどうでもよかった。

    殺す対象の職業など知ったことではない。

     

    右の太腿に吊り下げていたUZI短機関銃を抜き放ち、発砲した。

     

    〔 (0)ш(0)〕『黙れぇ!!』

     

    装弾されているのは対強化外骨格用の強装弾。

    Aクラスレベルの装甲ならば、使用者を負傷させることが出来る。

    が、つい一秒前まで目の前にいた棺桶はタイヤが軋む音と金色の残像を残して姿を消し、銃弾を避けた。

    姿を見失ったケイティは、再度横合いから衝撃を受け、ランドクルーザーに肩から激突した。

     

    衝撃でフロントグリルがエンジンごと凹み、フロントガラスが砕け散った。

    装甲の薄いキーボーイではその衝撃を緩和し切ることは出来ず、目の前が白く染まる。

    一瞬だけ飛んだ意識の隙を、敵は見逃さなかった。

    再び聞こえたタイヤの音と衝撃は、同時に訪れた。

     

    左腕の骨が砕けたのが分かったかと思うと、次に右腕、そして両足が粉砕された。

    どの攻撃にも容赦はなく、ケイティは瞬く間に戦意を喪失した。

    殺されるかもしれないという恐怖が、彼の体を竦ませ、遂には落涙させるに至った。

    車に埋まった体は指先一つとして動かすことが出来ず、ケイティは死を覚悟した。

     

    しかし、月光を背にしたその棺桶持ちはとどめを刺そうとはせず、車内に残っている仲間たちを引き摺り下ろし始めた。

    脈が止まったオルゴンは頭を踏み潰されてから、念入りに磨り潰された。

    意識を失ったブリリアは心臓部に正拳突きを受けて胸部が陥没し、大量の血を吐き出した。

    鬼だと思った。

     

    同時に、この女が生粋のジュスティア人であることを理解した。

    圧倒的な武力。

    容赦の無さと、徹底的なまでの正義。

    それらは全てジュスティア人が持ち合わせているもので、加えてコンセプト・シリーズの棺桶持ちとなると、警官であることは否めない。

     

    むしろ、警官になるために産まれたような人間だ。

     

    〔 (0)ш(0)〕『くっ、こ……殺せっ……!!』

     

    逮捕されるぐらいなら、いっそ楽な内に死んだ方がいい。

    そう、ここで死んだ方がいいのだ。

    そんな懇願を無視して、女は機械じみた冷徹な声色でランダ警告の一文を読み上げる。

     

    ::[ Y])『あなたには黙秘する権利、己に不利となる供述をしない権利、弁護士を雇う権利、裁判を受ける権利がありました。

         ……が、警官に対しての殺人未遂の罪によってあなたは全ての人権が剥奪され、ジュスティアに対して全ての情報を提供する義務が生まれます。

         つまり、“証人刑”が適応されます』

     

    ――証人刑。

    数ある罰の中でも警察のみが持つ刑罰の一つで、通称“道具化”と呼ばれる処罰の事である。

    地域ごとにある法律に対して目を光らせるモーターサイクル・ギャングのケイティは、その罰についてよく知っていた。

    警察に身柄を拘束された後、四肢の腱を切断し、抜歯し、そして薬を用いてあらゆる過去の事を喋らされる。

     

    つまり、情報提供の道具と化す処罰の方法である。

    それを知っていたから、ケイティは死を望んだのだ。

    だがこの女はそれを許さない。

     

    ::[ Y])『あなた達が追っていたのは何者ですか?』

     

    〔 (0)ш(0)〕『し、知らねぇよ……』

     

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         |ニニニ|=|ニニマニ/二二二二ニマニ/=|=lニニニ|

         |ニニニ|=|::::::: __________::::::::::j‐′=|

         |ニニ=(_卜、:::::::{:{ γ⌒ヽ .}:}::::::::::/〕!=ニニ|     All right.

    .    八ニニ=|=\\ :从 乂___, _:: //=|ニ二八   Let's drive.

           \__|ニニ\\:`≧=-=≦´ //ニニ|__

             ゚,ニニ゚, \ :::::::::::: ,/ニニニ/

    .          ∧ニニ二\_}: 「| :{_=ニニニ∧

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    ::[ ])『……ふむ。 では、すぐそこの検問所までドライブしましょうか』

     

    フェイスカバーを開いた女は背中からワイヤーの付いたフックを取り出して、それをキーボーイの装甲に取り付けた。

    そして、ケイティは女の言葉の意味を理解した。

    バイクで人を引きずるのと同じ要領と目的だ。

     

    〔 (0)ш(0)〕『よ、よせ!!』

     

    一瞬にして、ケイティの声は彼方へと置き去りにされた。

    これまでに聞いたことのない猛烈なエンジン音が鼓膜を痛めつける。

    視界が回り、何を見ているのか、どう動いているのかも分からない。

    ガードレールが視界の全てを埋め尽くし、次の瞬間には衝撃。

     

    装甲が削れ、火花が散る。

    失われた装甲の代わりに、ケイティの血肉が散った。

    叫び声は自分でも聞こえなかった。

    本能がケイティの体を動かし、姿勢を整えさせようと足を動かした。

     

    それが事態を悪化させた。

    潰れていた足が根元から千切れ、崖の向こうに消えていった。

    体が浮き上がり、叩き付けられ、転がり、腕が背中側に向けて折れ曲がった。

    背中側の唯一の守りであったバッテリーが吹き飛んだ。

     

    再び体が浮かび上がった時、女は急停止した。

    慣性の法則に従ってケイティが飛翔しかけたところで、ワイヤーが外された。

    勢いよく地面に激突し、転がり、何かにぶつかってようやく止まった。

    もはや、ケイティは何も考えることが出来なくなっていた。

     

    辛うじて分かったのは、自分の顔が涎や鼻水、涙で汚れ、体は血と小便で汚れていることぐらいだ。

    息が出来る事の幸せを噛みしめ、ケイティは呪詛を吐いた。

    道具として生かされるぐらいなら、ここで舌を噛み切って自殺するべきだ、と。

    しかしそれが出来るだけの精神力があれば、彼はモーターサイクル・ギャングに身を落とすことはなかっただろう。

     

    女が二言三言何か言葉を発し、再び恐怖を呼び起こすエンジン音が遠退いて行くのを聞いて、ケイティは安堵したのであった。

     

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               。                         August 10th AM01:20

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    トラギコ・マウンテンライトはホテルの部屋に備え付けられたシャワーを頭から浴び、静かに物思いに耽っていた。

    四十五度の湯はトラギコの体の内側からも熱を生み出し、血の巡りが活発になったことによって足の傷が鼓動に合わせて痛んだ。

    まだ抜糸をしていない傷口に湯が触れる間、刺すような痛みがトラギコを襲う。

    痛みは、トラギコの思考を邪魔することはなかった。

     

    古傷だらけの体を伝って落ちる湯が排水溝に吸い込まれ、体と床から立ち上る湯気はトラギコの眼球を洗い流した。

    シャワーの音は雨音にも似ていた。

    俯いたまま、トラギコはただその音を聞き流し、このホテルから逃げ出す方法を考えていた。

    ライダル・ヅーの考えは分かった。

     

    なら、何故わざわざここにトラギコを連れてきたのか、という事を考えなければならない。

    協力するつもりならば、別にアサピーのアパートでそう告げればよかった。

    その方が手間を省ける。

    島の案内はドライブと称して連れまわし、最後にアパートに送ればそれで済む。

     

    つまり、このホテルにトラギコを連れてくることがヅーにとっては好都合だということだ。

    目的は一つに絞り込めたが、方法は二つに分かれた。

    囮としての役割から逃げないかどうか、そして事件を解決できるのかどうかを見定めるために、監視の出来る場所にトラギコを配置したのだ。

    そして、監視するためにホテル内、もしくは外に監視チームが結成されているかの二つだ。

     

    与えられた偽りの自由など必要ない。

    欲しいのは本物の自由だ。

    自由に動けなければ、この事件の解決はあり得ない。

    その辺りをヅーは理解していない。

     

    マニュアル通りでは何も変わらないのだ。

    最近妙に耳にするようになったCAL21号事件も、その内の一つだ。

    思い出すだけで腸の煮えくり返るような事件だったが、何よりもトラギコを憤慨させたのは正義を名乗るジュスティアの対応だった。

    故に、トラギコは己の手を使って事件を終わらせ、大顰蹙を買ったのである。

     

    このまま行けば今回もまた、あの時と似た結果になるだろう。

    違うのは、トラギコが手を下せないという事だけ。

    しこりの残ったまま事件は終わり、そして忘れ去られる。

    そうはさせない。

     

    カール・クリンプトンという恩人に報いるためにも、この事件の黒幕を暴き出す。

    その後で、デレシアを追う。

    ショボン・パドローネとデミタス・エドワードグリーンの手がかりは掴んだ。

    彼らはこのグルーバー島にいる。

     

    探し始めるのは二時間後。

    つまり、朝の四時からだ。

    それまでは大人しく寝て過ごし、様子を見た方がいい。

     

    (=-д-)「ふぅ……」

     

    シャワーを止め、並々と湯を張った湯船に肩まで浸かる。

    溢れた湯の生み出す音が、やっとトラギコに安堵の溜息を吐かせた。

    この瞬間に襲われたら、無防備なトラギコは為す術もなく殺されるだろう。

    せめてこの時ぐらいはゆっくりとしたいものだ。

     

    血管が広がり、指先まで血が流れていくのがよく分かる。

    勿論、足の痛みは先ほどの比ではない。

    しかし、痛みに耐えることは慣れている。

    これぐらいなら、全く問題はない。

     

    撃たれたことは何度もある。

    例えば、警察訓練学校時にトラギコとよく衝突していた先輩が殴り合いの喧嘩に負けたことに腹を立て、射撃訓練中にトラギコの脇腹を撃ったことがあった。

    危うく死ぬところだったが、死ぬことはなかった。

    そう、撃たれたことはあっても撃ち殺されたことだけは、一度もない。

     

    カールが受けた痛みを考えれば、この程度はかすり傷だ。

    怒りを心の内で再燃させ、トラギコは湯船から勢いよく上がった。

    体表の水気を手で払落し、洗面台の前に畳んでおかれた白いバスタオルを手に取る。

    クリーニングしたての匂いがした。

     

    体をバスタオルで拭き、髪を乱暴に乾かす。

    アメニティのバスローブを着て、ベッドルームに戻る。

    酒を一瓶飲んだこともあり、何か飲み物を口にしたかった。

    備え付けのマグカップにインスタントコーヒーの粉を落とし、スティックシュガーを三本分入れ、湯を注ぐ。

     

    安いコーヒーの匂いの中に、甘い香りがよく映える。

    火照った体に、熱いコーヒーを流し込む。

    薄く、おおよそ香りを楽しむようなものとは程遠いが、それでもトラギコに満足げな溜息を吐かせるだけの味がした。

    精神状態によっては、冷えた物よりも温かな飲み物が効果的な場合がある。

     

    今の状態では、この一杯のコーヒーが馳走にも思えた。

    トラギコにも、自分が無力なのだと考え、押し潰されそうになる一瞬がある。

    その一瞬は、これまでに受けたどんな傷や言葉よりも深くトラギコを傷つけた。

    誰かが無能と罵るのではなく、自分自身で無力さを感じ取ってしまうその現象は、決して避けようのないある種の病気だ。

     

    発作的に襲ってくるその瞬間を耐え続ける中で、トラギコが救いにしている物がある。

    事件を解決した際に被害者とその家族から向けられる感謝の言葉と笑顔だ。

    それを思い出すだけで、自分が無力ではないのだと持ち直すことが出来た。

    どうしてもカールの死について納得が出来ず、トラギコは自責の念に心を握りしめられる思いだった。

     

    気持ちを整理してからベッドの淵に腰かけ、書き込みを終えた地図を眺めながらコーヒーを一口啜る。

    ブライアンホテルからグレート・ベルまでは徒歩で約三分、ショボンたちが目撃された市場までは十五分といったところだ。

    漁港からグレート・ベルに続くなだらかな道――アイリーン・ストリート――沿いに並ぶ朝市は、大勢の地元住民と観光客で賑わうことが予想される。

    となると、朝市に再び姿を現す可能性も考え、市場の中にある喫茶店、もしくは定食屋に張り込んで観察するのが最も賢明だ。

     

    地図には一階、もしくは二階に席のある飲食店に印がつけられている。

    中でもトラギコが注目しているのは、かなり広いスペースを持つアイリーン・ストリートのほぼ真ん中に位置する噴水周辺の店だ。

    人々が円滑に行き来することを目的として作られた噴水周辺の道は太く、その道に沿って建物が並んでいる。

    更に重畳なのが、その建物のほとんどが何かの店という事だ。

     

    古着屋であったり雑貨屋であったりと、聞き込みをするのにも絶好の店ばかりが揃っている。

    取り分け好都合なのが、全世界一位の人気を誇るチェーン店の“スタードッグス・カフェ”という喫茶店だ。

    二階建てで客席数も多く、四人掛けのテラス席が五つもある。

    そこならば余裕をもって人を観察できるため、早朝から二階席の窓際で陣取ろうと考えていた。

     

    問題は、値段だった。

    スタードッグス・カフェのコーヒーは一番安くて十五ドル、サイドメニューにあるホットドッグはなんと十ドルもする。

    レシートがあれば二杯目は三ドルで飲めるのだが、予算を考えると非常に厳しい。

    朝食を最も安く済ませても二十五ドルを使うことになり、残りの予算は半分の二十五ドルとなってしまう。

     

    最近出来たばかりの街、カルディコルフィファームからコーヒー豆を従来よりも安く仕入れているのに値段は据え置きというのが、この店の恐ろしいところだ。

    その強気な経営から、世界二位の内藤財団が経営する“ド・ゴール”に客層を奪われ、そう遠くない将来には逆転するだろうと予想されていた。

    金の心配をしながら捜査をするのはいい気分がしないが、現実から目を逸らしてもいられない。

    端金で真実に近づく事が出来るのなら、金は支払うべきだ。

     

    店については後で改めて考えることにして、トラギコはコーヒーを一気に飲み干してカップをサイドテーブルに置いた。

    明かりを消して布団をかぶり、そのまま瞼を下ろした。

    眠気が体の奥、瞼の奥、脳の髄から沁み出すようにしてトラギコの体を包み込んだ。

    そのまま眠りに落ちたいのが本音だが、どうしても耳だけはそれを許してくれなかった。

     

    秒針が時を刻む音が聞こえる。

    意識が眠りに近づくにつれて、耳が音に敏感になって行く。

    廊下を歩く人の跫音、窓の外から聞こえる車の音、人の話し声。

    次第に意識が黒く染まり、音だけの世界にトラギコは立ち尽くしていた。

     

    無論、それはトラギコの脳が作り出したイメージだ。

    音を頼りに脳が物を配置し、動きを想像し、記憶を辿って建物を作り出し、やがては世界を作り出す。

    捜査が始まるまで、後二時間。

    物事を考える時間は、まだある。

     

    ――結局のところ、安眠などトラギコには許されないのだ。

     

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    朝市が始まる時間、まだ薄暗かったがパステルブルー水平線の果てが白み始め、市場で動く人影が彩を得て鮮明に浮かび上がって行く。

    漁から帰ってきた男たちは船から魚の詰まったコンテナを降ろし、それらが次々と競りにかけられ、店先に並ぶ。

    隣の島から野菜が運ばれ、賑わいを見せる。

    それが、いつもの光景のはずだった。

     

    しかし島が封鎖されている影響で漁に出る船はなく、島同士の行き来もない。

    市場からは活気が失われ、磯で釣った僅かな魚だけが店頭に並んでいた。

    辛うじて野菜は鮮度と種類を保っているが、オバドラ島やバンブー島でしか栽培していない野菜はない。

    最も大きな打撃を受けたのは、輸入品に頼っている店だった。

     

    小売店もそうだが、最も大きな影響を受けたのは喫茶店だった。

    全ての商品を輸入して店が成り立っているため、在庫が尽きればそれまでとなる。

    その店が商品のストックをよしとせず、週に一回の定期便で必要な量のコーヒー豆を輸入しているところとなると、店にとっては正に死活問題だ。

    豆の仕入れが途絶えたスタードッグス・カフェは、絶望的な状況下にあった。

     

    今後も店を運営していくためにも品薄を理由に値段をつり上げるわけにはいかず、店を閉める訳にもいかなかった。

    髪を降ろしたトラギコは最も安いコーヒーと最も安いホットドッグ、そして無料で手に入る水を三杯頼んで二階に上がり、階段に近い窓際の二人席に陣取っていた。

    鉄製の小さな机の上にはトレイに載ったプラスチックのタンブラーと、山のように積み重ねたスティックシュガーがあった。

    この店のいいところ探しをするとすれば、このタンブラーだとトラギコは考える。

     

    コーヒーの購入者に必ず渡されるタンブラーを使えば、以降の会計から三ドル割引される。

    しかし所詮は三ドル。

    十五ドルのコーヒーから三ドル引いたところで、トラギコの財布が受ける恩恵は微々たるものだ。

    朝食として買ったホットドッグは値段の割には小さく、あまりコストパフォーマンスがいいとは思えない。

     

    白い紙ナプキンの上に鎮座する作り立てのホットドッグは湯気を纏い、どこか気品さえ感じさせた。

    パンはどちらかと言えば小さな方で、挟んであるソーセージは割と太めだ。

    ソーセージの下にケチャップと粒マスタードが敷かれていて、彩は地味極まりない。

    彩があるからと言って美味いわけでもないのだが、面白みに欠けた。

     

    十ドルの価値がその姿からは見出せず、トラギコは少しだけ落胆した。

    店の前にあるパラソルの広げられたテラス席、その少し先に広がる市場を見下ろしながら、トラギコは無関心の状態でホットドッグにかぶりついた。

    最初に感じたのは意外にも強めの酸味で、トラギコは思わず目を見開いた。

    次いで、粒マスタードの甘みを伴った刺激と熱い肉汁が口の中に広がる。

     

    酸味の正体は濃厚なケチャップだ。

    見た目に反して歯応えのあるソーセージから溢れ出した肉汁は二種類のソースによって冷却され、瞬く間に口の中で一つの濃厚な味と成る。

    主体はトマトの酸味だが、マスタードとソーセージもそれぞれの味を主張していて複雑かつ大胆な味となっているが、他の味も感じられた。

    噛み砕く中、トラギコの嗅覚が別種の酸味を嗅ぎ分け、触感が予想を確信へと変え、味覚がその正体を導いた。

     

    酢の香りだ。

    もう一口食べると、その正体が分かった。

    ――みじん切りにしたピクルスだ。

    それも、キュウリと玉ねぎの二種類を程よく混ぜたものを、ケチャップとマスタードで覆い隠すという小技まで使っている。

     

    これが味の秘密。

    大雑把な味付けをそう感じさせないための工夫だ。

    肉の甘みを引き立て、かつケチャップの酸味を主張させすぎない存在。

    よく噛んでみれば、その瑞々しい歯応えがしっかりと感じ取れる。

     

    それらを包み込むのが、断面を軽くトーストした柔らかなパンだ。

    香ばしさの中に僅かな甘みを持つパンは、濃い味を調える重要な役割の担い手だ。

    想像以上に味わい深いホットドッグに、トラギコは密かに舌鼓を打った。

    値段は受け入れがたいが味は抜群だとして、トラギコはこのホットドッグの評価を改めた。

     

    市場に動きはない。

    大事にホットドッグを口に収めて、トラギコはタンブラーの蓋を外してそこから砂糖を入れた。

    嵩が増え、かつ味が調えられたコーヒーを息で冷ましつつ口の中に招き入れる。

    熱いが、甘くていい味をしていた。

     

    十五ドルの味である。

    こればかりは、美味くなければおかしい。

    時刻は四時七分。

    アイリーン・ストリートを歩く人の数は、明らかに少ない。

     

    ホットドッグで汚れた口元と指をナプキンで拭い、懐から光学照準器を取り出す。

    頬杖をつく動作と格好で照準器を構え、眼下の動きを観察する。

    歩行者の顔や動きを見て、何か怪しげなことはないか、不自然な点はないかを探す。

    ショボン・パドローネやデミタス・エドワードグリーン、もしくはシュール・ディンケラッカーがいれば十分。

     

    昨日の今日で出歩くとは思えないが、犯罪者は一度安全が確認された場所にもう一度足を運ぶ習性がある。

    あのショボンも、その習性を知っている。

    ならばこちらが知っていることを逆手にとって、あえて利用する可能性があった。

    裏の裏を読む、そうしなければ今のトラギコはショボンの考えに追いつけない。

     

    階段を早足で駆けてくる音が聞こえ、照準器を袖にしまいつつそちらを見た。

    ネルシャツにジーンズといった格好をした若い新聞記者、アサピー・ポストマンが額に汗を浮かべ、息を切らせてそこにいた。

    今朝、彼が務めるモーニング・スター新聞ティンカーベル支社に電話をした時よりも落ち着いているが、表情は興奮ににやけたままだ。

     

    ;-@@)「と、とら――」

     

    (#=゚д゚)

     

    この馬鹿は、緊張感がないのだろうか。

     

    ;-@@)「と、“トライダガー”さん、お待たせしました」

     

    (=゚д゚)「あぁ、待ったラギ。

        で、どうなった?」

     

    呼吸を整えながら、アサピーはトラギコの正面の椅子を引いて座る。

     

    ;-@@)「へへ、しっかりと一面を使いました。 本社にもその話をしたら大喜びでしたよ。

          これです」

     

    ジーンズに挟んだ新聞をトラギコに手渡すアサピーは、興奮冷めやらぬ様子だ。

    汗で湿った新聞を広げ、その一面に目を通す。

    見出し、内容、共に文句はない。

    トラギコが伝えた内容を実に的確に記事にし、読者の心を煽っているが、トラギコの名前は一切出ていない。

     

    代わりに、勇敢で優秀、そして献身的な医者であるカール・クリンプトンの名前が載っていた。

    嬉しいことに、彼のこれまでの遍歴や島における活躍まで書かれている。

    勿論、ジュスティア軍人が二人焼き殺されたことやコンセプト・シリーズの強化外骨格が使用されたことまであった。

    これをジュスティア警察が読めば、大激怒すること間違いなしだ。

     

    さて、後三十分もすればトラギコの読み通り警察が大慌てになる。

    この店に来るまでの間に感じた尾行者も、それどころではなくなるだろう。

    ホテルを出る際に誰もトラギコを止めなかったことを含めて考えると、警察はトラギコが昨晩の火事の情報を新聞社に流したとは知らないらしい。

    トラギコはヅーに対して、この上なく美しい方法を使って中指を立てることに成功したのだ。

     

    (=゚д゚)「よし、これでいいラギ。 それで、例の写真の件ラギ。

        あれはアイリーン・ストリートで撮ったラギね?」

     

    -@@)「その通りです、よく分かりましたね」

     

    (=゚д゚)「市場っつたら、ここぐらいラギ」

     

    -@@)「それで、電話の続きは?」

     

    アサピーに電話で話したのは、これから朝食を食べよう、という提案だった。

    勿論この男と朝食を楽しむのが本命ではない。

    それぐらい分かると見込んで、あえてそのような言い方をしたのだ。

    抜け目のないヅーならば、部屋の中に盗聴器を仕掛けてトラギコの発言から行動を予想し、そこに手を打つと予想したのである。

     

    見込んだ通り、アサピーはトラギコが自分を呼び出した理由を察していた。

     

    (=゚д゚)「お前が撮った人間を探すラギ。

        俺はここで粘るから、お前は市場周辺を探してきてほしいラギ」

     

    -@@)「……ちょっと待ってください、今メモしますから」

     

    懐から再生紙のメモ帳と万年筆を取り出したアサピーを睨み付け、トラギコは低い声で注意した。

     

    (=゚д゚)「駄目ラギ。 メモは残すな。

        覚えろ」

     

    メモは他人に見られる可能性がある。

    落とした時は最悪だ。

    それに人間は、メモをしたところで完全には覚えられない。

    それならば最初から頭の中にしまっておいた方がいい。

     

    ;-@@)「ちょっ、それは無茶ですってば!!」

     

    四つに折り畳んだアサピーの写真を広げて見せ、ショボンとデミタスを指で叩く。

     

    (=゚д゚)「なぁに、簡単ラギ。 この写真の、この二人。

        このどっちかを探してほしいラギ。 手がかりになるのは、こいつらはこの島では新参者ってことラギ」

     

    新聞記者は言葉を覚えるよりも、画像を覚える方が得意なはずだ。

    カメラのアングルに気を遣う人間ならば分かるが、過去の経験値から似たシチュエーションを検索し、その当時の撮影方法を活かした撮影をすることがある。

    記者の場合はそれに加えて、取材対象の人間の特徴をパーツで記憶することに長けている。

    この男も新聞記者の端くれならば、それぐらい出来て当然というわけだ。

     

    -@@)「はぁ、まぁ覚えましたけど…… 結局、この二人は一体何者なんです?」

     

    (=゚д゚)「それは事件が終わったら教えてやるラギ。

        あぁそれと」

     

    -@@)「はい?」

     

    (=゚д゚)「金、貸してくれラギ」

     

    アサピーを呼び出した理由の中でかなり大きな比重を占めているのが、資金の提供だ。

    朝食だけで予算の半分を消費していては、とてもではないが操作は続けられない。

    下心があったとは言っても、こちらはそれなりのリスクを背負っているのだ。

    暫くの間、警察官が血眼になって事件の情報を流した人間を探すことになる。

     

    第一容疑者は、勿論トラギコだ。

    逃げるには金が必要だった。

     

    ;-@@)「もうありませんよ!! 僕はあなたの財布じゃないんですよ!!」

     

    (=゚д゚)「そうか、分かった。 だから金を貸すラギ」

     

    有無を言わせぬ物言いで、トラギコはもう一度金銭を要求した。

    ブツブツと文句を言いながら、アサピーは財布から百ドル金貨を出した。

    金貨とアサピーを見比べて、トラギコは素直な感想を口にした。

     

    (=゚д゚)「は?」

     

    足りるはずがない。

    この男が手に入れたのは給料だけでなく、名声と信頼も同時に我が物としたのだ。

    それまでスクープとは無縁だった男に光が当たり始めるきっかけを作ったのは、他ならぬトラギコ。

    それに対する報酬が百ドルのはずがない。

     

    硬貨の角で机の上を叩いて威圧すると、アサピーは必死に弁明を始めた。

     

    ;-@@)「手持ちが今これしかないんですよ! 取材をするにしても何も買わずじゃ駄目なんですよ?

          報酬は後から追加で渡しますから、今はこれで勘弁してください」

     

    百ドルあれば二日は捜査が円滑に進められる。

    警察も無能ではない。

    新聞社に情報をリークした人間がトラギコであることに行きつき、そして捕まえるのと同じ時間だ。

     

    (=゚д゚)「ちっ、必ず払うラギよ。 あぁそれと、俺はしばらくどこかその辺りをほっつくラギ、配達用のバイク貸してくれ。

        お前がここに来るのに使った奴ラギ」

     

    新聞社で広く使われている配達用のバイクと言えば、傑作自動二輪のスーパーカブをおいて他にない。

    今の時代で使われているスーパーカブは発掘されたダット――デジタル・アーカイブ・トランスアクター――に残されていた設計図を基に、ラヴニカの職人たちが再現した物だ。

    発電・蓄電方法の優秀さも然ることながら、他と一線を画すのはその異常なまでの耐久力だ。

    悪路、悪天候、整備不良。

     

    ありとあらゆる最悪の状況下にあってもその運転性能に支障をきたすことがなく、常に運転手を目的地に運んでくれる頼もしいことこの上ない二輪車である。

    運転操作も容易で、クラッチ操作は左足で行う。

    価格が安価であるため、世界で最も使用されている自動二輪車の一つとして知れ渡っている。

     

    ;-@@)「どこまで横暴なんですか!!

          それにどうして、僕がバイクに乗ってきたって分かったので?」

     

    (=゚д゚)「うるせぇ奴ラギね。 んなもん、音に決まってるラギ。

        それよりお前、怪我人に歩けってか? おいおい、とんだ人でなしだぜ、えぇおい。

        ほれ、さっさとキーを貸すラギ」

     

    ;-@@)「くそっ……くそぅ……」

     

    アサピーはポケットからキーを出して、トラギコに渡した。

    多少無理矢理ではあったが、移動手段の確保に成功した。

    窓の外を注視しながらそんな話を済ませ、トラギコは照準器を袖から出して窓の外に向けた。

     

    (=゚д゚)「今後、連絡は俺から取る。 支社に電話するから、覚えておけよ。

        それと、何か昨日変わった事件とかはなかったラギか?」

     

    -@@)「いや、特には聞いていないですね。

          知っての通り、我々の新聞社はこの街では余所者ですから。

          トラさんの情報なんて、この支社始まって以来の快挙ですよ。

          ……いや、一つだけありましたね」

     

    (=゚д゚)「ほう?」

     

    -@@)「ここに来る途中、グレート・ベルの傍にある民宿が工事をしていました。

          何でも昨日の夜、客室に石を投げ込んだ人間がいたとのことで、窓ガラスを交換していました」

     

    心底どうでもいいニュースだった。

    大方、火事に乗じて暴れた若者の仕業だろう。

     

    (=゚д゚)「もう少し有益なのはねぇのかよ」

     

    -@@)「んなこと言っても、僕に入ってくる情報なんてそんなも――」

     

    アサピーの言葉が自動的に切断され、トラギコの意識は視界に移るありふれた光景の中に潜む、一点の異質に注がれた。

    黒い鞄が、テラス席に置かれている。

    ただそれだけだった。

    そう。

     

    ――誰も座っていない、テラス席に。

     

    (;=゚д゚)「……」

     

    記憶を辿る。

    いつから、あの不自然極まりない鞄があったのか。

    一体誰があの鞄を置いたのか。

    ホットドッグを食べている時にはなかった。

     

    そうすると、アサピーが来てからだ。

    アサピーとの会話中も、常に外の変化には目を光らせていた。

    流れるような動作で置かれでもしない限り、見逃すことはあり得なかった。

    発見するまでの僅かな時間で置かれた不審な荷物。

     

    (;=゚д゚)「おい、ちょっと窓から離れ――!!」

     

    そして――

     

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    ――爆音と共に発生した衝撃波で、店中の窓ガラスが大きく震えた。

    咄嗟にアサピーの頭を掴んで床に伏せたトラギコは、まず彼の安否を確認した。

    音に驚いて気絶していたが、特に目立った傷もない。

    倒れた松葉杖を掴んで立ち上がり、階段を飛ぶようにして降りた。

     

    すぐに店の外へと出て、被害状況を確認する。

    人の泣き声が聞こえる。

    人の悲鳴が聞こえる。

    耳に残る悲痛な声と騒然と化したテラス席。

     

    爆心地は大きく抉れ、石畳が無残な姿となっている。

    悲鳴を上げるだけの元気を持った軽症者はいるが、重症者が見当たらない。

    これもまた、不自然だ。

    普通、爆弾を仕掛ける人間は不特定多数を殺傷することを目的とする。

     

    人通りの少なくなっている早朝に爆弾を用いたテロ行為をするのは、あまりにも理に適わない。

    標的を殺傷することを目的とした戦略的な攻撃だ。

    誰も倒れていないのを見るに、その標的は逃げ果せたようだが。

     

    (=゚д゚)「……」

     

    何かヒントになる物がないかと、黒く焦げた爆心地に向かって近づく。

    負傷者に手を貸す程の被害ではないが、警察が駆けつけて現場を封鎖する前に、情報を手に入れなければならなかった。

    抉れた石畳の形が明らかに歪なことに、トラギコは気付いた。

    普通、爆発の衝撃は中心から円を描いて球体上に広がっていく物だが、その歪みは片側に大きく偏っていたのだ。

     

    指向性の爆弾が使用された証拠だ。

    対象は、鞄の北側に座っていた人間という事になる。

    しかし肉片も血痕もない。

     

    (=゚д゚)「……すげぇな、逃げたのか」

     

    あれだけの短時間の間に爆弾を仕掛ける人間も然ることながら、逃げ切る方もかなり優秀だ。

    トラギコでさえ、鞄の不審さに気付いた時には爆発していた。

    つまり、鞄が置かれる前から警戒していたという事になる。

    人並みならぬ警戒心と行動力だけが、この状況から生存するために必要な物だ。

     

    対象となる人物。

    可能性はいくらでも考えられる。

    円卓十二騎士のダニー・エクストプラズマン、ショーン・コネリも暗殺の対象と成り得るし、爆殺から逃れることも可能だ。

    それだけを把握し、トラギコは現場から離れることにした。

     

    焦って動いてはいけない。

    何事もなかったかのように静かに立ち去るのが鉄則。

    新聞社のスーパーカブがスタードッグス・カフェの前で倒れているのを見つけ、アサピーから借りたキーが入るかを確認してから車体を起こした。

    再び店内に戻ったトラギコは、気絶しているアサピーの顔を松葉杖で殴って起こした。

     

    ;-@@)「い、痛たぁ…… トラさん、さっきのは一体?」

     

    (=゚д゚)「暗殺未遂ラギ。 お前は目撃情報を集めてこい。

        今ならお前の手柄ラギ。

        ついでに人助けをしておくと、好感度が上がるラギよ」

     

    -@@)「や、やった!! こりゃあスクープをゲットせにゃかもだぜ!!」

     

    言語中枢に問題が生じてしまったらしい。

    トラギコが殴ったことが原因でないことを願うばかりだが、後は笑顔で階段を駆け下りていった彼が情報をまとめて手に入れてくれるだろう。

    今はここから離れ、グレート・ベルに向かわなければならない。

    そこを中心に建物の屋上を見て回り、カールを殺した狙撃手の位置を知り、今の爆殺騒ぎとの関連性を見つけることが出来れば大きな進展となる。

     

    後手に回り続けてきたが、捜査はここから始まる。

    追い詰めるのはこちらなのだ。

    飲みかけのコーヒーの入ったタンブラーを取り、トラギコは早足で店を出た。

    地面の焦げた匂い、無知な人間のどよめきがトラギコの頬を緩めた。

     

    嗚呼。

    最早。

    遠慮は不要。

    この事件、トラギコが食い千切るに値するものと認識せざるを得ない。

     

    これだから警察は好きなのだ。

    だから警官は楽しいのだ。

    常にトラギコを興奮させ、新たな発見をさせてくれる。

    この感覚こそが、警官人になった最大の喜びと言える。

     

    オアシズでは出し抜かれたが、もう、そうはさせない。

     

    (=゚д゚)「誰だか知らんが、俺を騎乗位でイカせようだなんてあめぇんだよ」

     

    感情が昂ぶるあまり、トラギコは独り言ちてしまう。

    主導権を握られ続けるのは性に合わない。

    ここから巻き返す。

    ここが逆転の始点。

     

    次なる目標を手に入れたトラギコはバイクに跨り、グレート・ベルを目指してアクセルを捻った。

     

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    .   Ⅵ::::::'⌒≧x、 \::z抖≦メ \:::\\

    ___ 个ミ、{ fiァ、≧ \{x√ゞ' jll f㍉从「 `      AmmoRe!!のようです

    /////人ヽハ  ヽ二彡   ::::::=='_, レ「ヽ__          Ammo for Tinker!!

    ///// / _,        ::: :::::::::::::;^i{ヽ\`⌒ゝ―

    //// / / / ∧ .::::::::::.   : _   :::} i⌒ゞ―― ト            第五章 了

    ///}. {/ ///// :::::   ヽ:::'´ ィア ./// .|  i i i } }

    // | ∨{ヽ  ∨ヽ ^=ニ三彡′/}:l i .}  |            To be continued...

    // |  ヽ  ヽ ∨ \ ー― ' , l:l/  ,

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ページのおしまいだよ。。と