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第三章【preparedness-覚悟-】

  1. 名前: 歯車の都香 2017/04/16(日) 13:07:00
    第三章【preparedness-覚悟-】

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    That time will come to everyone at least once.

    誰にも、一度は訪れる。

     

    The ability.

    己の器。

     

    The power.

    己の力。

     

    The moment to test their preparedness will come.

    己の覚悟を試す瞬間が。

     

    ――Jacob The FounderBean

       “発見者” ジェイコブ・ビーン

     

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    透き通る蒼穹は磨き上げられたガラスのように霞一つなく、高度が上がるにつれ、薄い青から濃い群青色へと移り変わる。

    そして、高高度に浮かぶ雲は風の流れによって千切れては生まれ、新たな形を生み出し続ける。

    空は飽きることなくその作業を繰り返している。

    見事なまでの夏の空模様だ。

     

    夏の日差しは強くて暑いが、潮の香りを含んだ風は冷たく、肌寒いほどだ。

    北部に近い位置に浮かぶ島街ティンカーベルは、避暑地として非常に優れている。

    あまり便利な街ではないが、豊かな自然とウィスキーを目当てにする観光客が毎年大勢訪れる人気の場所でもある。

    大小様々な島で形成されるティンカーベルには一日に約数百人の観光客が来るが、その多くは最も栄えているグルーバー島に足を運ぶ。

     

    グルーバー島に行くには、最寄りの街であるジュスティアから直接通じる橋を渡るか、定期便を利用する方法しかない。

    島に来るための交通の便は、お世辞にも良いとは言えない。

    東西に位置するバンブー島とオバドラ島に住む人間は橋を利用してグルーバー島を行き来し、最新の商品を買いに行くが、行かなくても生活には困らない。

    だが、住民がグルーバー島を訪れなければならない時がある。

     

    それは、大きな怪我や重い病を患った時だ。

    小さな病院ではどうしても医療機器や薬、最新の知識が足りない問題がある。

    その一方で、島最大の病院、“エラルテ記念病院”には世界でも最先端の医療器具や機器、名医と呼ばれる医者たちが揃っている。

    その規模の充実度は島民の数と収税を考えても、余りある設備だ。

     

    島の歴史を語る上で、ジュスティアとの繋がりは欠かせない。

    病院の名前にもなっているエラルテ・ニエバズとは、ティンカーベルの市長だった男で、ジュスティアとの繋がりを親密なものにしたことで知られている。

    彼がジュスティアとの取引の中でジェイル島を監獄として貸出し、犯罪者の減少に貢献したことはジュスティア史にも明記されている。

    話の発端者はエラルテではあったが、それをジュスティアに提案することは容易な話ではなかった。

     

    誰も住んでいない離島とはいえ、危険な犯罪者を島で引き受けるということに対して当時の島民たちは大反対した。

    過半数以上の島民が納得するまで市長は粘り強く話し合いを続け、ようやく合意が得られたのも束の間、すぐさまジュスティアとの間で交渉が行われた。

    ここまでに、三年の月日を要した。

    最終的にはジュスティア側からの多額の寄付金と最新設備の寄付、そして島の安全に対する全面的な支援を約束することで概ね合意した。

     

    そこから更に規定や原則を細部に渡って決め、ようやく現在の関係が築き上げられたのは交渉開始から三十年の時間が経ってからのことだ。

    いわば、ジュスティアとティンカーベルは兄弟のような関係なのである。

    エラルテ記念病院の緊急外来に一か月ぶりの連絡があったのは、八月九日の午前九時半のこと。

    やってきたのは救急車ではなく、黒塗りのSUVだった。

     

    異様な光景だったが、入り口で待機していた医者たちは動じることなく素早くストレッチャーを用意し、車から怪我人をそこに乗せ換えた。

    怪我人の男は鎮静剤によって眠らされており、右足は血まみれだった。

    脚の付け根を止血しているためにあまり派手な出血はしていないが、抉れた肉の色とその深さから軽傷とは言い難い。

    ストレッチャーを四人の看護師が押し、二人の医者が男の容体を確認しながら病室へと運んだ。

     

    それに続いて車から降りたスーツ姿の男達が院内に入り、そのまま緊急医療室の前で待機した。

    医療関係者は、誰も何も言わなかった。

    男が運び込まれる前にティンカーベルは全ての島で出入りが封鎖され、島同士、更にはジュスティアへの行き来も禁止されていたのである。

    運ばれた男がそれと関係しているのは、明らかだった。

     

    それは奇しくも、豪華客船オアシズが寄港する日の出来事であった。

     

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                        AmmoRe!!のようです

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    カール・クリンプトンはエラルテ記念病院に勤務する三十代半ばの男性で、筋骨隆々とした健康的な外科医だった。

    トレードマークのポニーテールは彼が“種馬”と陰で同僚から呼ばれる原因となっているが、本人は気にしていなかった。

    むしろ、それが同僚から認められている証だと解釈し、そして受け入れていた。

    この閉鎖的な街では、親しい人間には渾名を付ける習慣がある。

     

    ティンカーベルから西に位置する街、バルベニー出身の彼がこの島に来たのは、三年前のことだ。

    医者として志高く、そして心臓手術の腕が認められた彼は地元からジュスティアへと派遣され、そこからこの島へと移動になった。

    この島に集まる医者の多くは医療従事者として非常に優秀な人間ばかりで、ここに来たということは腕を認められたことを意味している。

    一年目は非常に辛い日々が続いた。

     

    観光客に対しては開けた島だが、そこから奥に入ろうとする余所者に対しては非常に閉鎖的な場所だったのである。

    覚悟はしていたが、自宅にまで島民が来て昼食に金を使いすぎているだの、女性患者を誘惑するだの難癖をつけて文句を言いに来たのは流石の彼も滅入ってしまった。

    それから少しずつ外堀を埋め、距離を縮めることに一年の時を要した。

    そして今、彼はようやく島から受け入れられ、もともと整った顔立ちということもあって多くの女性と関係を持つことになったが、長続きはしなかった。

     

    狭い土地だからこそ噂はすぐに流れ、彼が多くの女性と性交したこと、その内容についても瞬く間に広まった。

    その経緯が彼に対して種馬という渾名をつけるに至り、自らの行いが導いた結果だとして彼はそれを甘んじて受け入れた。

    世界最大の豪華客船オアシズが寄港するという話を聞いて、一目見ようと彼は屋上から船が停泊する様子を眺めていた。

    離れていても分かるその非現実的な大きさに、不思議と胸が痛んだ。

     

    ある種の恐怖感、そして感動が彼を襲った。

    白い船体は澄んだ海に対してよく映える。

    それだけではない。

    あれだけの船舶を人間が作り、そして操っているということに対する感動が、彼の体を自然と振るわせた。

     

    膝まである白衣を風に靡かせながら、カールは感嘆の声を口にした。

     

    ,,'゚ω'゚)「すげぇ……」

     

    十五階建ての病院の屋上には、朝の空いた時間を利用している者や夜通し行った手術明けの医者がコーヒーを片手に十人ほど集まっている。

    屋上の手摺から離れ、カールは手に持ったコーヒーを一啜りして、自らの目が錯覚を起こしていないことを確かめる。

    熱い液体が喉を下り、溜息が漏れる。

     

    ,,'゚ω'゚)=3「ふぅ、俺も乗りてぇなぁ……あんな船によぉ……」

     

    溜息と共に口から出た言葉に、それまでベンチでくつろいでいた同僚のカンイチ・ショコラが反応した。

    呼んだわけでもないのにカールの隣に来て、手摺に背を預けた。

     

    ( ''づ)「自慢じゃないがね、私は一度乗ったことがあるんだ。

        いい船だった」

     

    カンイチはこの病院に来てから初めて喋った人間で、ティンカーベルで出来たカールの数少ない友人だ。

    金持ちであることをたびたび鼻にかけることからあまり好かれていないが、友人が少ない者同士、彼とは何か通じるものがあった。

     

    ,,'゚ω'゚)「またエスプレッソの砂糖漬けか?」

     

    ( ''づ)「あぁ、仕事終わりにはこいつが一番だからね」

     

    ,,'゚ω'゚)「ふーん。 それで、あの船に乗ったんだって?」

     

    ( ''づ)「五年前にまとまった休暇が取れたんだ。

         せっかくだから予約して、一か月だけだがいい時間を過ごせたよ」

     

    職業柄、休暇はあまりとれるものではない。

    限られた時間の中で自分という存在を認識するために、カールは自らの肉体を鍛えることをしている。

    ボクシング、カラテ、射撃。

    一通りの護身術と格闘術を身につけ、いつ誰に襲われても対処できるようにしたが、その機会はいまだ訪れていない。

     

    長期休暇など、夢のまた夢だ。

    ある程度実績を残し、それなりの地位にいればまた違うのだが。

     

    ( ''づ)「お前も、そろそろ有給がたまってるんじゃないのか?」

     

    ,,'゚ω'゚)「使えりゃ苦労しないさ」

     

    カンイチは外科手術で名の知れた医者で、それなりの地位にいる。

    先ほど運び込まれた急患の手術を担当し、一時間足らずで終えてここで休憩をするほどの腕だ。

    親しく話してはいるが、どうしても地位から生まれる待遇の差は埋められない。

    誰もが通る道だと思えば苦ではない。

     

    院長の馬鹿息子、アベッコ・ラムネは例外だが。

     

    ,,'゚ω'゚)「そういえば、急患はどんな奴なんだ?」

     

    現在、院内の話題はオアシズの寄港と久しぶりの急患でもちきりだった。

    黒塗りの車、港で目撃された事件。

    そして、島全体の封鎖。

     

    ( ''づ)「さぁ、ジュスティアの関係者だって聞いているよ。

        黒服の怖い連中が病室にいるから、訊いてきたらどうだい?」

     

    ,,'゚ω'゚)「お断りだよ、そんなの」

     

    生憎と、カールはジュスティアと関わり合いになりたいと思う人間ではない。

    警察の本部があり、世界各地の治安と平和と正義を守る街だ。

    些細なことで目を点けられては、何かを楽しむ時間さえ奪われかねない。

    少しの間住んでいたから分かるが、あそこは息苦しい人間しかいない。

     

    ( ''づ)「ところが、だ。 術後の担当は君なんだ」

     

    ,,'゚ω'゚)「それまたどうして?

         看護師に任せればいいだろうに」

     

    外科手術の専門家が見るのが通常だ。

    心臓の弱い人間だったのなら、話は別だが。

     

    ( ''づ)「患者が暴れても黙らせられそうだから、だってさ」

     

    そう言いつつ、カンイチは黒いファイルを手渡してきた。

    それを受け取り、挟まれていたカルテに目を通す。

    この病院で作られるカルテは、他とは違って身長、体重の他にも職歴や犯罪歴が記載されているのが特徴だ。

    しかしこのカルテには、患者の名前と写真がついていない。

     

    かなり重要な人物ということだ。

    極稀に訪れる重要人物は、その身の安全保護の観点から素性を隠す場合がある。

    重要人物であることを念頭に入れて一つずつ項目を読んでいき、職歴のところで目が留まる。

     

    ,,'゚ω'゚)「……刑事かよ」

     

    二十六年間警察に努めて、階級は刑事。

    妙だ。

    普通、警察で長く在籍しているとそれだけで昇進の対象となるはずだ。

    だが、この人物は不自然なことに刑事で階級が止まっている。

     

    かなり癖のある人間でなければ、これはあり得ない話だ。

     

    ( ''づ)「それも、かなりのはみ出し者だって聞いた。

        何でも、犯人を平気で殺すとか……」

     

    案の定だ。

    警察は犯人を極力生かしたまま捕えることを心掛けている。

    殺してしまっては犯人に苦痛を与えることも、真実を聞くことも出来ないからだ。

     

    ,,'゚ω'゚)「これ、パスって出来ないのか?」

     

    ( ''づ)「ま、そう言わずに頼むよ。

         代わりといっちゃなんだけど、僕から上の方に休みが取りやすいように取り計らっておくからさ。

         何せ、院長からの指示でね……」

     

    断ることなど初めから許されないのだと、やっと分かった。

    面倒事は余所者に。

    例えどれだけ長く住もうとも、どれだけ人のために働こうとも。

    余所者であることには、決して変わりはない。

     

    それが、閉鎖的な地域における慣習なのだ。

     

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    AmmoRe!!のようです

         Ammo for Tinker!!

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          !              r'´ヽ `':,

          /              l !__i |   ',

         ノ               i   .i, ,  ヽ

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      <,. -─‐-- ,,   ,. --- ,/    !     i 第三章

                         【preparedness-覚悟-

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    出術を終えた男は隔離病棟に運ばれたと、担当した看護師からメモで伝えられた。

    今では慣れたものだが、組織としてこれはあまり好ましいものではない。

    もう少し交流があってもいいものではないかとも思うのだが、余所者であるカールが受け入れられるにはまだ長い時間が必要だ。

    メモで伝えられただけマシな方かもしれない。

     

    隔離病棟は患者自身に難がある場合に使われる病棟で、通常の病棟から完全に独立した形になっている。

    広い病院の敷地内の北の端に位置し、背の高い木々で覆われ、外部から視覚的にも隔離されていた。

    運ばれるのは主に精神疾患の酷い患者か、他者を以上に恐れる患者で、好んで訪れる人間は誰もいない病棟だ。

    出来れば行きたくないのは、場合によっては危害を加えられる可能性もある。

     

    女性の看護師は近づこうともせず、暗黙の了解として男だけがそこに常駐するようになっている。

    看護師長曰く、そう云うのは男の役目、だそうだ。

    そんな看護師長の口癖は、男女皆平等、だから笑えてくる。

     

    ,,'゚ω'゚)「マジかよ、ついてねぇなぁ……」

     

    以前に何度かこの病棟で夜勤をしたことがあったが、一度もいいことがなかった。

    むしろ、何かの呪いでもかかっているかのように悪いことしか起こらなかった。

    同僚の医師たちは一年に一度の割合で運の悪いことに巻き込まれると言っていたが、カールの場合は例外なく巻き込まれた。

    患者に糞を投げつけられるのはまだ可愛いもので、最悪の時には隠し持っていた拳銃で撃たれたことがある。

     

    危うく死ぬところだったが、胸にしまっていた聴診器のおかげで一命をとりとめた。

    それでも医者の仕事を辞めたいと思ったことはない。

    確かに辛いことも多いが、それ以上にやりがいのある仕事だ。

    病棟の受付に一言声をかけ、問題の患者の部屋番号を聞く。

     

    隔離病棟は二階建てで、患者が誤って窓から落ちても死なないように配慮がされている。

    男はその二階の角部屋に運ばれていた。

    角部屋に運ばれる人間にまともな人間はいない。

    刑事というが、事件のせいで心を著しく病んでしまったかも知れないと考えると、憂鬱な気分になる。

     

    一先ずロッカールームに入り、そこで新たな白衣に袖を通し、身なりを整える。

    鏡に映った自分の顔を見て、目の下の隈が完全に取れないことを悟る。

    患者にあまり弱みは見せないが方がいい。

    医者の不摂生とはよく言ったもので、その最初の兆候がこれだ。

     

    だいぶ慣れてきたと思っていたが、やはり慣れない島で周囲との距離を感じながらの生活ではストレスから体調を崩すことが多く、心休まる時があまりなかった。

    溜息は日に百回近く出るようになった。

    患者の前では笑顔を保ち、常に気を張る仕事。

    時には自分に向いていないのではないかと思ったが、辞めるという考えは不思議と浮かばなかった。

     

    同情的な視線すらもらえないまま受付の前を通って、男のいる西端の部屋に向かった。

    階段を上ったところに、二人の男がいた。

    黒いサングラスにスーツ。

    両手は体の前で組んではいるものの、右手が左手を押さえていた。

     

    戦う意思があるということだ。

    それを裏づけするように、男の左胸が不自然に膨らんでいる。

    スーツにはジュスティア軍を示す所属バッヂが付いていた。

    二人が守る扉には曇りガラスさえ付いておらず、中の様子を見ることも、中から外の様子を窺うことも出来ないよう設計されている。

     

    (●ム●)「要件は?」

     

    ずい、と男が前に出る。

    気圧されて一歩引きながらも、カールはIDカードを見せた。

     

    ,,'゚ω'゚)「担当になったカール・クリンプトンです。

         患者の容体を見に来ました」

     

    (■_>■)「ボディチェックをさせてもらいます」

     

    もう一人の男が、有無を言わせぬ速さでカールの全身を軽く叩きながら検査する。

    不審物が何も無い事が確認されると男は頷いて、短く謝罪した。

     

    (■_>■)「すみません、規則なので。 ではどうぞ、ドクター・カール」

     

    ,,'゚ω'゚)「あ、あぁ」

     

    横開き式の扉を開き、中に入る。

    鉄格子に覆われた窓から入り込む光が、白い布団で寝る男を淡く照らしていた。

    扉が閉まるのと同時に、部屋に二人きりになるという自覚が生まれる。

    幸いなことに男は静かに寝息を立てていた。

     

    麻酔が効いているらしい。

    一安心して、カールは男の傍らにある椅子に腰かけた。

    部屋全体は防音加工がされており、中の会話は外に漏れることはない。

    だが、常に防犯カメラが部屋を監視しており、異臭や温度の変化に対しては警報が鳴るようになっている。

     

    (=-д-)

     

    薄水色のガウン型患者着に身を包むのは、頬に大きな二本の傷を持つ男。

    歳は三十代後半か、それ以上だ。

    脈拍、呼吸共に安定している。

    脚に追った怪我は三カ月もすれば治るだろうと見込まれており、最低でも一か月は走ることは出来ない。

     

    あと数インチ銃弾がずれていたら、出血多量で死んでいただろう。

    運のいい男だ。

    予定ではもう少しで麻酔が切れるはずなのだが、目を覚ます様子がない。

    もうじき昼食の時間となる。

     

    それに備えて男の好みやアレルギーを訊こうと思ったのだが、これでは難しそうだ。

    適当な料理を持ってこさせようと、ベッドの傍の机に置かれた内線電話の受話器に手を伸ばした時だった。

     

    (=-д-)「そのまま動くな、ドクター」

     

    男の口から、小さいがはっきりとした言葉が出てきた。

     

    ,,'゚ω'゚)「お、起きて……」

     

    (=゚д゚)「寝てるとは言っていないラギ。 何をしようとしているラギ?」

     

    男の声には有無を言わせぬ威圧感が込められていた。

    だが、動くなと患者に言われて動かない医者は二流だ。

    一流は、まず理由を尋ねる。

     

    ,,'゚ω'゚)「昼食を持ってきてもらおうかと」

     

    (=゚д゚)「なら肉ラギ。 血の滴るステーキを食いたいラギ。

        それと酒だ、ドクター。

        料金は警察署につけておいてくれ」

     

    本当に怪我人なのかと思う要求だ。

    昔、聞いたことがある。

    肉とワインのみが傷を癒すと豪語する格闘技者の存在を。

     

    ,,'゚ω'゚)「肉はまだしも、酒は論外ですよ。

         待ってください、今外の人たちを――」

     

    (=゚д゚)「待て、手前、顔を見せるラギ。

        ほれ、こっち来るラギ」

     

    言われるままに顔を近づけると、男がカールの頬を摘まんで引っ張った。

    上下左右に動かしてから、男は納得した風に言った。

     

    (=゚д゚)「面倒事に巻き込まれたくなかったら、ステーキを二ポンドと酒の昼飯を持ってきて、大人しく俺にかかわるのを辞めるラギ。

        分かったラギか?」

     

    ,,'゚ω'゚)「私は医者ですから、そうもいかないんですよ。

         で、他に要望はありますか?」

     

    とりあえず、今は話に付き合うしかない。

    それが最善だ。

    受話器を置いて、腰を下ろして話を聞く。

     

    (=゚д゚)「ならドクター、教えてほしいことがあるラギ。

        ティンカーベルが外部との行き来が出来なくなったっていうのは、本当ラギか?」

     

    ,,'゚ω'゚)「えぇ、そのようですよ。

         困ったものです」

     

    (=゚д゚)「脱獄犯については?」

     

    ,,'゚ω'゚)「脱獄犯? それは知りません」

     

    平和的とは言い難い単語が出てきた時、一瞬だけ動揺が表に出てしまった。

    ティンカーベルで脱獄犯と言えば、セカンドロックが真っ先に思い浮かぶ。

    脱獄不可能と言わしめる刑務所に収監されているのは一人の例外もなく極悪非道な犯罪者で、ろくでなしの屑だ。

    それが逃げ出したならば、この街のどこかに隠れ潜んでいる可能性があるということだ。

     

    聞きかじった程度の知識だが、脱獄した人間が逃げ込むのは人目に付きにくく、そして衣食住が安定しているところだという。

    例えば、空き家となっている民家や、近隣との繋がりが薄い家主が絶好の標的となる。

    彼の言っていることが真実かどうかは分からない。

    島全体に警官が流れ込み、橋や港を封鎖し始めていることは事実として認識しているが、その理由は説明されていない。

     

    この厳戒態勢の理由として脱獄が挙げられたのならば、当然としか言えない動きだ。

     

    (=゚д゚)「それが分かれば、一先ずいいラギ。

        昼飯が終わるまでは、あいつらに何も言うなよ」

     

    男はそう言って、再び眠ろうと瞼を下ろそうとした。

    止めておけばいいものの、その時、カールはどうしてか声をかけていた。

     

    ,,'゚ω'゚)「あの、私からいいですか?」

     

    (=゚д゚)「あん?」

     

    不機嫌というよりかは、不思議そうな声で男は応じる。

    ネームプレートを見せて、カールは己の名前を口にした。

     

    ,,'゚ω'゚)「私はカール、ドクターではなく、カールです」

     

    だが、その友好の第一歩は男のそっけない名乗りで台無しになった。

     

    (=゚д゚)「……俺はなか、仰々しく接する奴には同じように接するラギ、ドクター。

        もう少し素を出してくれや、息苦しくていやラギ。

        俺はトラギコだ、よろしく、ドクター」

     

    そして今度こそ男――トラギコ――は瞼を下ろし、深い寝息を立て始めた。

    外で待機している軍人に彼が目覚めたことを伝えるべきか迷い、まずは内線を使ってステーキを二ポンド頼むことにした。

    受話器を持ち上げ、内線番号を押して食事担当につなぐ。

     

    ,,'゚ω'゚)「カールです、例の急患の昼食にはステーキを二ポンド、レアで。

         ……え? いや、リクエストというか、この体型と経験を見ての判断ですよ、えぇ。

         あとはグレープジュースを。

         よろしく」

     

    自分よりも年上の男だが、非常に腹立たしい点が多くある。

    この短い会話の中でそれを感じ取った。

    だが、憎めない男だった。

    このトラギコと名乗った男は、不思議な男だ。

     

    他人が自分をどう思おうと関係なく、素のままで振る舞っている。

    それが清々しく感じられ、同時に羨ましくも思う。

    何にも縛られず、己の好きに生きる。

    それは、誰もが憧れ、そして諦めていく夢の一つ。

     

    トラギコは、それを実現している。

    まったくもって、おかしな男だ。

    途端に、カールはトラギコに対して興味を持った。

    この男が何故撃たれ、隔離病棟に運ばれたのか。

     

    受話器を置いて、カールは部屋を出た。

     

    (■_>■)「ドクター、彼は起きましたか?」

     

    ,,'゚ω'゚)「いや、まだ起きていません。

         ですが、今昼食を頼みましたので、その匂いで起きるかもしれませんね」

     

    結局、カールはトラギコの提案に乗ることにした。

    自分を押し殺して繰り返す毎日。

    それを変えたいと思ったのだ。

    そのための第一歩はささやかな嘘。

     

    このたった一言を口にしただけで、カールはこれまでに味わったことのない感動を覚えた。

    快感と言い換えてもいいほどのその痛快な気分が、乾いた砂漠に大雨が降ったように心に沁み渡る。

    楽しいと、純粋に感じられた。

    久しく忘れていた感覚。

     

    これが、生きているという感覚だった。

     

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              / /  :l:{       / ,: =ァ  }  

    .         / /   十、     // 込ソノ   } l

         -=彡イ  / lr==ミ  l: : : : : : :}l  / } //

    .         l /   圦VソY⌒ゝ-: :'// 八{  

    .         |/八 ∨乂 :ノヽ: : : : : : :{ /l   PM 0015  エラルテ記念病院にて

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    昼食前の回診後、カールは再びトラギコの病室を訪れることにした。

    病室前には、見慣れぬ人物がいた。

    上下黒のスラックスを着たフレームレスの眼鏡がよく似合う女性で、礼儀正しい人物だった。

    鳶色の大きな瞳と、左右に分けてヘアピンで留めた焦げ茶色のショートヘア。

     

    笑みの形に固定された口元。

    上品さの漂う人物で、恐らくは高位の人間だろうと、カールは考えた。

    その女性はトラギコの部屋に入る際に、カールも一緒に入るようにと促した。

    訳も分からずに部屋に入ると、女性は名乗りもせずに用件のみを伝えた。

     

    瓜゚∀゚)「貴方が、この人の担当者ですね?」

     

    寝ているトラギコを配慮してか、カールにだけ聞こえる声量だった。

    その気遣いぶりを見て、トラギコが寝たふりをしているだけとはどうしても言い出せなかった。

     

    ,,'゚ω'゚)「え、えぇ。 手術は担当していませんが、術後の経過やその他の世話を担当します」

     

    何故か、カールは名乗る気になれなかった。

    礼儀は心得ている人物だし、物腰も高圧的ではない。

    思えばこれまでの人生で、初めての事だった。

    体裁や印象を気にすることなく、どこかの誰かの影響を受けた反応というのは。

     

    出会ってから数分と経たずに交わされた会話だけで受けた影響は、それほど大きかったのだ。

    その一つ目が、相手が気に入らないから名乗らない、という無礼。

    罪悪感が胸を締め付けるはずなのだが、逆に清々しく感じている。

     

    瓜゚∀゚)「この人が入院している間、情報を他に漏らすことを一切禁じます。

        いいですね? この人に何を言われても、それを真に受けないでください」

     

    ,,'゚ω'゚)「はぁ、分かりました」

     

    一度嘘を吐いてしまうと、後は嘘の連続だ。

    その嘘がいつかばれてしまうのではないかと危惧するのだが、その危惧すらも今は楽しい。

    無言で待つこと数分、トラギコの希望したステーキがカートに載せて運ばれてきた。

    音に気付いた彼が目を覚まして上体を起こした瞬間、カールは女性の顔に僅かな変化が生じたのに気付いた。

     

    安堵している。

    同情などの類ではなく、この女性はトラギコの目覚めを喜んでいる。

    まるで、恋人の目覚めを喜ぶような――

     

    瓜゚∀゚)

     

    (;=゚д゚)

     

    ――だが、トラギコは一瞬で顔色を悪くした。

    犬猿の仲に会うよりもなお悪い再会。

    覚めない悪夢の続きに気付いてしまったような、そんな顔だ。

     

    (;=゚д゚)「ドクター、俺は具合が悪いラギ。

        飯だけおいて、そこの女を摘まみ出してくれラギ」

     

    瓜゚∀゚)「そうはいきません、トラギコさん。

        貴方には色々と話をしてもらわなければなりませんので」

     

    先ほど垣間見えた安堵の表情が嘘のように、女性から感情が消えた。

    機械のように淡々と口にするのは、彼女の目的だけだ。

     

    (;=゚д゚)「だったら、手前以外の奴を寄越せラギ」

     

    瓜゚∀゚)「寄越せ? 手前?

        上司に向かって、その口の利き方は感心しませんね」

     

    (;=゚д゚)「こうるせぇ奴ラギね、ライダル・ヅー。

        それに、あんたは上司じゃねぇラギ」

     

    ライダル・ヅーの名を、カールは一度だけ聞いたことがある。

    ジュスティア警察長官の補佐を行う敏腕の秘書で、世界で五指に入る優秀な秘書と言われる存在だ。

    秘書とは無縁の生活を送るカールにとっては、ほど遠い存在。

    かなりの地位にいる人間で、そう滅多なことでは会えない人間だ。

     

    瓜゚∀゚)「いいですか? 警察に割り当てられる資金の調整は私がしているんです。

        間接的とはいえ、私がいなければ貴方は好き勝手出来ないんですよ」

     

    (=゚д゚)凸「頼んだ覚えはねぇラギ。

         いちいち言うことやること全部が恩着せがましいんだよ、手前は。

         市長のケツの穴でも舐めてやがれ」

     

    侮蔑を意味する中指を立てたトラギコを見ても、ヅーは怒りを見せない。

     

    瓜゚∀゚)「汚い言葉は尚感心しませんね。

        前々から気になっていたのですが、どうして私のことをそこまで毛嫌いするのでしょうか?」

     

    (=゚д゚)「別に手前に限らず、俺は人が嫌いラギ。

        特に正義正義ってうるせぇくせに、何もしないで綺麗ごとばっかり並べてる奴は大嫌いなんだよ」

     

    瓜゚∀゚)「……話になりませんね。

        まだあの事件のことを恨んでいるのですか?

        CAL21号事件のことを――」

     

    その瞬間、トラギコの顔に明らかな怒りの感情が浮かんだ。

    今にも掴みかからんばかりの勢いと目力でヅーを睨めつける。

    即座に手を出さないのは彼に理性があるからであって、もう少し理性が足りなければ確実に暴力沙汰に発展しただろう。

     

    (#=゚д゚)「黙って消え失せろ!!」

     

    低い怒声は肉食獣の唸り声にも似ており、トラギコが激情家の一面を持ち合わせていることを知った。

    だがヅーは動揺することなく、逆に同情的な視線をトラギコに向けた。

     

    瓜゚ー゚)「あの時の事を謝るつもりはありませんが、貴方の行いを私は評価しています」

     

    (#=゚д゚)「……ぶっ殺されてぇのか、糞アマ。

         それとも、殺されに来たのか?」

     

    一触即発の無言の間。

    呼吸さえ、忘れてしまった。

    これが本物の殺意なのだと、カールは本能で理解した。

    トラギコの言葉は嘘ではなく、真実だ。

     

    切っ掛けがあれば間違いなくヅーに掴みかかり、縊り殺す。

    自分が切っ掛けにならないように、カールは身じろぎ一つしない。

    正確に言えば、動くことが出来なかった。

    言葉とその威圧感だけで、カールの足はそこに縫い付けられたかのように動かなかったのである。

     

    人生で初めての体験だった。

    武器も脅しもなしに体の自由を奪われるのは。

     

    瓜゚∀゚)「……ドクター、彼はまだ錯乱状態にあるようですので、今しばらく休ませましょう。

        昼食を食べ終わり次第、連絡をください」

     

    ヅーは足早に部屋を出ていき、カールとトラギコが取り残される。

    表現し難い空気の中、ベッドに備え付けられた折り畳み式の机を開きながら、トラギコが口を開いた。

     

    (=゚д゚)「ドクター、腹減ったラギ。

        飯くれ、飯」

     

    半臥の状態で食事を要求するトラギコの声には、先ほどのような明確な殺意は微塵も残っていなかった。

    自分の傍に食事の乗ったカートがある事を思い出し、カールはそこに載っていたトレーを恐る恐る机に置いた。

    熱された鉄板の上で音を立てて湯気を立ち昇らせる二ポンドのステーキ。

    添えられたフライドポテトはジャガイモ一つを八等分した物で、かなり大きめだ。

     

    (=゚д゚)「ワインはどうしたラギ?」

     

    ,,'゚ω'゚)「駄目ですよ、酒は。 なので、ポートエレン産のグレープジュースを用意しました」

     

    普通、患者の食事のリクエストには応じることはない。

    ここはホテルではなく病院であり、入院費に応じた食事を出すしかない。

    しかし、トラギコの場合はジュスティア警察の上層部からの圧力か分からないが、ある程度の融通を利かせるようにと言われていた。

     

    (=゚д゚)「ちぇ、まぁいいか。

        そういえば、俺のことを連中に話さなかったみたいラギね。

        礼を言うラギ、ドクター」

     

    ,,'゚ω'゚)「ですから、ドクターは止めてください。

         カールです」

     

    (=゚д゚)「あぁ、ドクター・カール。

        立ち話もなんだし、そこに座ってるといいラギ」

     

    金属製のナイフとフォークで肉を切りながら、トラギコは壁に立てかけられている折り畳みの椅子を視線で指した。

     

    ,,'゚ω'゚)「いえ、これから別の患者さんのところに行かなければなりませんので。

         お気持ちだけ受け取っておきます」

     

    本棟に戻れば、十数名の患者が彼を待っている。

    幸いにして病状は皆軽いが、彼と話すのを楽しみにしてくれている。

    少なくとも大人は違うが、子供たちはそうだ。

    そうだと信じたい。

     

    (=゚д゚)「そりゃ残念ラギ。

        仕事頑張るラギよ、ドクター・カール。

        それと向こうに行く前に教えてほしいんだが、俺の荷物を知らないラギか?」

     

    ,,'゚ω'゚)「後で確認しておきますね、トラギコさん」

     

    カールはしずしずと退出し、そこで待っていたヅーに肩を掴まれた。

    眼鏡の奥の瞳は静かにヅーを睨み付け、肩に走る痛みに思わず顔を歪める。

    何という力だろうか。

    筋肉に覆われたカールの肩を握り潰さんばかりに込められた力は、女のそれとは思えない。

     

    相当に鍛え込んだ証拠だ。

    トラギコには劣るが、威圧感のある目をしている。

     

    瓜゚∀゚)「彼は何を言っていましたか?」

     

    口元は笑いの形だが、目は一切笑っていない。

     

    ,,'゚ω'゚)「あ、は、はい。 話は食事の後にする、と言っていました。

         後は、荷物はどこにあるのか、と……」

     

    瓜゚∀゚)「……荷物の場所については、くれぐれも教えないように」

     

    それを言って、ヅーはカールの肩から手を離した。

    彼女が離れてからも、その痛みだけがカールの肩に残された。

     

    ,,'゚ω'゚)「……何なんだ、ありゃあ」

     

    独り言ちたカールの疑問に答えたのは、意外にも扉の傍に立つ二人の男だった。

     

    (■_>■)「災難でしたね、ドクター。

          ヅーさんは根に持ちやすい人で、俺も何度か酷い目にあったことがあるんですよ」

     

    (●ム●)「そうそう。 我々の間じゃあ、粘着女、なんて呼ばれてましてね。

          予算削減はよくされますし、部署にもピンポイントでノルマを課せてくるしで、強烈な人なんですよ」

     

    どうにも、先ほどの光景が二人の共感を得たらしい。

    嫌な思いをしたとしてもそれを口に出すようでは、三流の人間だ。

     

    ,,'゚ω'゚)「はは、でも悪い人ではなさそうですね」

     

    当たり障りのない回答をして、カールは二階にあるナースステーションに向かった。

    十人は使える大きなテーブルに、十五脚の椅子。

    コーヒーメーカーはもちろん、ドリンクバー用の機材が置かれた医師たちの安らぎの場。

    仮眠用のベッドには誰もおらず、医師が二人コーヒーを飲んでラジオに耳を傾けながら談笑をしていた。

     

    特徴的な声をした女性のパーソナリティが人気の、最近流行している“極道ラジオFM893”だった。

     

    ,,'゚ω'゚)「やぁ、お疲れさん」

     

    (ΞιΞ)「おう」

     

    IeUeI「……あぁ。 どうだ? ジュスティアの客は?」

     

    ,,'゚ω'゚)「あれならすぐに回復するさ。

         起きてすぐに肉を二ポンドだぞ、二ポンド」

     

    IeUeI「そりゃすげぇ。 それで、島が封鎖された理由は聞いたか?」

     

    珍しく話しかけてくると思ったが、やはりそうだ。

    カールではなく、情報に興味があったのだ。

    内心で溜息を吐きながら、カールは答える。

     

    ,,'゚ω'゚)「……いいや、教えてくれなかったよ」

     

    実際、彼が言った言葉が真実である保証はない。

    それにここで正直に話したところで、おもしろくない。

    そう。

    面白くないと思ったのだ。

     

    物事の判断基準に面白い、面白くないと考えるのは初めての経験だった。

     

    IeUeI「あ、そう」

     

    案の定、興味を失くした風に男は談笑を再開した。

    パーソナリティであるQの声が、にわかに緊張みを帯びたものに変わったのはそんな時のこと。

     

    【占|○】『はぁーい、ちょっとしたぁ、臨時ニュースでぇーすぅ。

         ティンカーベルにぃ、凶悪犯が逃げ込んだとのことでぇ、現在島全体の行き来が出来なくなっていますぅ、って話でーすぅ。

         怖いですねぇ、本当にぃ。 皆さぁん、くれぐれも気を付けてくださいねぇ』

     

    IeUeI「き、凶悪犯?!」

     

    (ΞιΞ)「マジかよ、飯食ってる場合じゃねぇぞ!!」

     

    ,,'゚ω'゚)「……」

     

    恐らく、混乱を避けるために公表された事情がこれ。

    そして、真実はトラギコの言う通りの脱獄だ。

    どこから凶悪犯が逃げ込んだのか、そして凶悪犯の詳細が流されていないのが、その根拠だ。

    ティンカーベルの治安維持に加担しているジュスティアが意図的に情報を操作し、自分たちの失態を知られまいとしているのだ。

     

    そう考えると、この放送は一部だけ真実を織り交ぜている分効果が大きい。

    脱獄犯が出たなどと報道されれば、この島はたちまちパニックに陥る。

    それだけではない。

    長らく続いてきたジュスティアとの協力関係に大きな亀裂を生みかねない。

     

    であれば、情報封鎖と操作は当然の対応と言える。

    このタイミングで搬送されたトラギコがこの事件について知っているということは、彼がカールの思う以上に優れた刑事だということだ。

    何故だか、カールは誇らしい気持ちになっていた。

     

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       ,': . ゝ、ソ:.:.:.:.:.:.:.:.メィ:.:.:.:.-..."´r〃 :.:.:.r'PM 0020  エラルテ記念病院にて

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    表面はうっすらと焦げた茶色をしているが、中身は血を思わせる深紅色をしており、肉の味を存分に堪能できる焼き加減だった。

    一見すると肉塊としか思えない大きさだが、それに反してナイフの刃はスムーズに通った。

    塩胡椒だけで味付けされた肉を一口サイズに切り分け、口に運ぶ。

    奥歯で押し潰された肉から、凝縮された味が染みだす。

     

    溶けだした脂身の甘さ。

    肉汁本来の持つ旨み成分。

    塩気が程よく味を調え、顎の奥から唾液を絶えず分泌させる。

    付け合わせのクレソンも新鮮で申し分なく、舌に感じる辛みと歯応えのが心地いい。

     

    三十分をかけて肉厚で食べ応えのあるステーキを完食したトラギコ・マウンテンライトは、フォークを皿の上に置いた。

    歯応え、そして鮮度共に素晴らしく、美味い肉だった。

    そして美味いジュースだった。

    脚の肉を吹き飛ばされた鬱憤は晴れないが、腹は満たされた。

     

    扉の向こうに人の気配を感じ取り、トラギコは紙ナプキンで口元を拭った。

    唐突に開いた扉に驚くこともなく、トラギコはその向こうに現れたライダル・ヅーに敵意を込めた視線を向けた。

    この女はいつもそうだ。

    他人の都合は考えず、己の都合と正義に従って相手を動かそうとしてくる。

     

    だが、そう毎回好き放題されると思ったら大間違いだ。

     

    瓜゚∀゚)「食事が終わったら話をする、とのことでしたので」

     

    (=゚д゚)「……手前に話すことはねぇラギ、失せな」

     

    ヅーは部屋の鍵を後ろ手で閉め、懐からメモ帳とペンを取り出した。

    こちらの話を聞くつもりはないが、情報を聞き出すつもりなのがよく分かる。

    邪魔な人間が入ってこないように鍵までかけたのは、場合によっては手段を問わずに話を聞き出すためだ。

     

    瓜゚∀゚)「手短に済ませましょう。

         オセアンの事件と、その他の事件の進行状況についてお話を聞きに来ました。

         では、オアシズの話からにしましょうか」

     

    こちらが拒絶の姿勢を見せたところで、そう簡単に引き下がるようでは警察長官の秘書は務まらない。

    いくつかは情報を提供しなければ、解放はあり得ない。

    だがその前に、先に訊かなければならないことがある。

    トラギコは曖昧な情報しか聞いていないが、セカンドロックから二人の脱獄者が出たことが真実か否かを確認しなければならなかった。

     

    (=゚д゚)「その前にこっちが質問する。

        ジェイル島からの脱獄者は誰ラギ?」

     

    表情一つ変えず、ヅーは答える。

     

    瓜゚∀゚)「“ザ・サード”と“バンダースナッチ”です。

        公には凶悪犯が島に逃げ込んだということにしています。

        ところで、その情報は誰から?

        まだ公にされていない情報ですよ」

     

    思っていたよりもあっさりと、脱獄の事実を認めた。

    彼女の口から出た二人の渾名に、トラギコは聞き覚えがある。

    稀代の大泥棒、ザ・サードことデミタス・エドワードグリーン。

    子供専門の誘拐魔、バンダースナッチことシュール・ディンケラッカー。

     

    どちらもその犯罪歴の多さから死刑囚として収監され、生きていて誰かが喜ぶ存在とは言い難い。

    公にされれば、大勢の市民が不安になる。

    最悪の展開は、パニックに陥って捜査の邪魔になることだ。

    情報操作は妥当な選択だ。

     

    無言で考えていると、ヅーが再び同じ問いを投げかけた。

     

    瓜゚∀゚)「情報源は?」

     

    多大な恩があるため、情報源が船上都市の市長と言うわけにはいかない。

    かと言って、下手に誤魔化してもトラギコの入手できる情報源は限られているため、すぐにリッチー・マニーに辿り着いてしまう。

    それを避けるためには、もう一つの可能性の提示。

    即ち、無関係とは言い難く、情報を漏らさないとは言い切れない存在を代役に仕立てること。

     

    (=゚д゚)「手前の手下からラギ」

     

    瓜゚∀゚)「……そうですか」

     

    セカンドロックは堅牢な刑務所だ。

    ジェイル島一つを刑務所にしたその場所からの脱獄は、自力では絶対に無理だ。

    一度、トラギコも防犯の面から一週間だけ檻の中で生活したことがあったが、隙は一切なかった。

    外部的な助力がなければ、自力での脱獄は決して出来ない。

     

    鍵は錆を知らず、檻は疲労を持たない素材。

    二十四時間の監視下におかれ、余計な交流も外出もない。

    道具を持ち込むことも不可能。

    手立ては何もなく、その機会もない。

     

    (=゚д゚)「で、手口は?」

     

    ヅーは確かに嫌な女だが、救い難い馬鹿ではない。

    トラギコがこれまでに築き上げてきた事件解決の実績を認めており、何度か便宜を図ってくれたことがある。

    ここに直々に来たのも、何か事件解決の糸口を見出したいからに違いなかった。

    そうでなければ、セカンドロックの件を否定すればいいだけだ。

     

    余計な時間を割かずに済むが、それでも話を続行しているということは訊きたいことがあるということ。

    彼女がここに来た要件の一つだということが、自ずと導き出される。

     

    瓜゚∀゚)「協力してくれるのですか?」

     

    (=゚д゚)「そんなんじゃねぇラギ。

        ただ気になるだけラギよ」

     

    当分の間、トラギコはこのティンカーベルに滞在することになる。

    滞在中の捜査に使える情報を手に入れておけば、何かと役に立つ。

    勿論、こちらからも少しぐらいは情報を流さなければならない。

    ただし、本当に肝心な情報は教えるつもりはないが。

     

    瓜゚∀゚)「外部からの面会者を装った人間が手助けしました。

        非武装の状態の男が二人。

        格闘術に長けた男が騒ぎを起こし、その間に上空にヘリコプターが侵入、コンセプト・シリーズの強化外骨格が降下。

        囚人二名と降下した強化外骨格をヘリコプターで連れ出し、コンセプト・シリーズの運搬用コンテナを投下。

     

        投下された強化外骨格を使って、ユリシーズとガーディナのカスタム機が撃破され、脱獄されました。

        監視カメラの映像を解析し、使用された強化外骨格の種類を調べましたが、我々のデータベースにはない機体でした。

        おそらく、イルトリアに情報提供してもらわなければ分からないでしょう」

     

    思った以上に深刻な攻め方をされたようだ。

    名前の挙がった二機の強化外骨格はジュスティア人が珍重する物で、腕のある人間にのみ配給されていると聞く。

    それが負けたとなると、よほど腕の立つ人間が襲撃に関わったと考えられる。

    トラギコにとってそれは、驚くべきことではなかった。

     

    オアシズを襲った狂人たちも、同じだったからだ。

    目の細い男、狂った探偵、海賊に扮した部隊、そして殺人狂の女。

    トラギコの目算では、ジュスティア軍よりも優れた人材が揃っていた。

    少なくとも下っ端の部隊は海軍のゲイツを皆殺しにできるだけの実力があったのだ。

     

    ジェイル島に配備されている軍人はずば抜けて優秀な人間ではない。

    確かに優秀には違いないだろうが、飛び切りすぐれた戦闘能力を持っているわけではない。

    円卓十二騎士の一人がそこの責任者だが、その場に居合わせなければ意味はない。

     

    (=゚д゚)「後は?」

     

    ヅーの口調には不自然な点はないが、彼女の話に続きがある事は話の流れ的に考えると明らかだ。

    潤沢な装備、大胆な攻め方。

    オアシズとセカンドロックの事件を繋ぐには、ある男の名前が挙がるはず。

    そう。

     

    彼女が知りたいのは、その男の目的なのだ。

     

    瓜゚∀゚)「……共犯の一人に、ショボン・パドローネが確認されています」

     

    案の定、その名前が出てきた。

    オアシズの沈没を目論見、囚人の脱獄を補助した。

    その二つの行動が結びつく先。

    最終目的が分かれば、先手を打って彼を捕まえられると考えているのだろう。

     

    それが分かれば、苦労はしない。

    それが分からないからこそ、事件は起こるのだ。

    分かることがあるとすれば、オアシズから逃げてすぐにティンカーベルで事件を起こしたことぐらいだ。

    逃走後の予定として組んでいたのか、それとも行きがけの駄賃か。

     

    それもまた、分からない。

     

    瓜゚∀゚)「単刀直入に。

        あの男が何をしようとしているのか、知りませんか?」

     

    (=゚д゚)「悪いが知らねぇラギ。 これは本当ラギよ。

        だけど、何か大きな組織に属していると思うラギね」

     

    瓜゚∀゚)「えぇ、それは我々も可能性に入れて捜査しています。

        ヘリコプターとコンセプト・シリーズの強化外骨格を所有しているとなると、財力がある大きな組織と考えられますからね。

        そこで、オアシズでの概要を訊きたいのです。

        何かヒントになる物があるかもしれません」

     

    (=゚д゚)「何もねぇラギよ」

     

    それでもトラギコは、一応自分が手に入れた情報の一部を提供することにした。

    一時間かけて丁寧に話したのは、事件の始まり、そして事件解決までの流れとショボンの逃走とその後の船内の様子だけ。

    金髪碧眼の旅人も、殺人狂の女のことも口にはしなかったし、存在も語らなかった。

    それは、トラギコの獲物だからだ。

     

    横取りも邪魔も、絶対にさせない。

     

    瓜゚∀゚)「……なるほど。 気になったことが二つ。

        どうして、貴方がオアシズに?」

     

    (=゚д゚)「偶然ラギ」

     

    瓜゚∀゚)「偶然で乗るには、予算が足りないはずです。

        まぁ、貴方の事ですから非正規の方法で乗り込んだのでしょう。

        オセアンの事件を追ってそこに辿り着いた、ですか?」

     

    見破られている。

    誤魔化しきれるとは思っていなかったが、ここから先の受け答え次第では厄介なことになる。

     

    (=゚д゚)「……そうラギ。

        ポートエレンで発見された死体がきっかけラギ」

     

    瓜゚∀゚)「犯人の目星、もしくは手がかりがあったのですね?」

     

    (=゚д゚)「あぁ。 あの部屋から投身自殺、もしくは転落したと考えると、死体がきれいすぎたラギ。

        事件当時の風の強さを考えると、体は絶対に岩場にぶつからなければおかしいラギ。

        そうすると、打撲や深い切り傷が出来なければおかしいラギ。

        それがあの死体にはなかったラギよ」

     

    瓜゚∀゚)「流石です。 で、どうしてポートエレンがオセアンと結びついたのですか?」

     

    不味い。

    ヅーのペースだ。

    ここで情報交換は終了しなければならない。

     

    (=゚д゚)「一つ、言わなきゃいけないことがあるラギ。

        オアシズの事件で分かったことだが、ジュスティア内にも裏切者がいるラギ。

        それこそ、ショボンと同じ組織に所属している人間が入り込んでいるラギ」

     

    瓜゚∀゚)「この私を疑うのですか?」

     

    物分りのいい女は嫌いではない。

    後は、黙って消え失せてくれればもっと好きになれる。

     

    (=゚д゚)「随一の探偵が裏切ったんだ、それぐらいは用心するさ」

     

    トラギコの勘では、ショボンの属する組織の人間はジュスティアの上層部にも入り込んでいるはずだ。

    そうでなければ、軍の無線を使ってオアシズに暗号を送れるはずがないのだ。

    仮にヅーがその一人だとしたら、トラギコがある程度の情報を持っていると分かった段階で消しにかかるのが自然。

    それを避けるためには、情報を隠匿しておくのが一番だ。

     

    結局のところ、オセアンの事件はトラギコ一人で行動した方がいいのだ。

     

    瓜゚∀゚)「分かりました。 では、オアシズの件で最後に」

     

    (=゚д゚)「あん?」

     

    瓜゚∀゚)「デレシア、と名乗る人間が事件に関わっていると聞きました。

        それは事実なのですか?」

     

    ――デレシア。

    金髪碧眼の旅人にして、オセアンの最重要参考人。

    フォレスタの事件に関わり、ニクラメンの事件にも関わった。

    そして、オアシズの厄日を解決した張本人。

     

    同じ人間とは思えないほどの雰囲気を放つ、若い女性だ。

    その存在と名前を誰がどのようにしてジュスティアに伝えたのかは分からない。

    しかしながら、その情報を知っているか否かが今回の訪問の大きなカギとなりそうだ。

     

    (=゚д゚)「……さぁな、そんな奴いなかったはずラギよ」

     

    その名前は、今は胸の内に秘めておかなければならない。

    あの女は。

    あの旅人は、必ず何か大きな嵐を引き起こす存在だ。

    だから今は、捕まってもらうわけにはいかない。

     

    瓜゚∀゚)「……」

     

    (=゚д゚)「訊きたいことはもう十分ラギか?」

     

    瓜゚∀゚)「今日のところは」

     

    それはつまり、明日も来るということだ。

    まぁ、何度来ようがこれ以上話す情報は何もない。

    それで機嫌を損ねて情報が手に入れられなくなることを考え、トラギコは主導権を自分の手に戻すことにした。

     

    (=゚д゚)「なら今度は俺の番ラギ。

        俺の足をぶち抜いたのはカラマロスラギね?

        その指示を出したのはどこの誰ラギ?」

     

    足を撃ち抜いてでも捕えられる覚えはない。

    指示を出した人間は、間違いなくトラギコの事を嫌っている人間だ。

    ジュスティア内でトラギコを嫌っている人間は、五指に余りあるどころか同僚の一部を除いた全員と言ってもいい。

    嫌われ者なのは自覚しているし気にもしていないが、殺されかけたとなると話は変わってくる。

     

    瓜゚∀゚)「訊いてどうするおつもりですか?」

     

    (=゚д゚)「ぶちのめすラギ」

     

    瓜゚∀゚)「呆れた人ですね、貴方は」

     

    (=゚д゚)「それで結構ラギ。 俺の荷物を返してほしいんだが、どこにあるラギ?」

     

    拳銃はどこでも買えるが、コンセプト・シリーズの強化外骨格はそうもいかない。

    警察から支給されたそれは、今後も使うことになる。

    強化外骨格、通称“棺桶”に対抗するには、それなりの装備が必要だ。

    足を負傷しているからこそ、高い攻撃能力を持った武器を用意しなければならない。

     

    デレシアを追い、オセアンの真実を知るためには必要不可欠な要素。

    あわよくば、長年連れ添った拳銃も返してもらいたいところだ。

     

    瓜゚∀゚)「ここの職員に預けていますが、それ以上はお話しません。

        何せ、貴重なコンセプト・シリーズ。

        もしも貴方がジュスティアの裏切者だとしたら、それをみすみす手渡すわけにはいきませんので」

     

    先ほどトラギコが疑ったのと同じように、この女もトラギコを疑っている。

    見方によってはオアシズでわざとショボンを逃がしたとも考えられる。

    それでいい。

    常に人を疑い続けなければ、警察官は務まらない。

     

    出口に向かって踵を返したヅーに、トラギコは一つ気になっていたことを言うことにした。

    ある種の意趣返しを考えたのだ。

     

    (=゚д゚)「……分かったラギ。

        あぁそうだ、関係ないことだけど」

     

    瓜゚∀゚)「はい?」

     

    (=゚д゚)σ「その髪留め、似合ってるラギね」

     

    その言葉に憤慨したらしく、ヅーは乱暴に扉を開けて部屋を出て行った。

    いい気味だ。

     

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                     PM 0550  エラルテ記念病院にて

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    病棟の明かりが頼もしくなり始めた頃、カールは少し早めの夕食を食堂で済ませ、トラギコの容体を見に隔離病棟へと向かっていた。

    夕日が水平線に沈み、空は燃えるようなオレンジ色に染まり、雲は紫影を落として漂う。

    敷地内に敷き詰められたタイルと芝生の道は、入院患者にとっては絶好の散歩道となる。

    芝生に置かれた木製のベンチに腰を下ろせば、豊かな自然を一望できる。

     

    数人の同僚とすれ違い、隔離病棟に入ると受付の女性――確か、キッカー・コストという名前だったはず――が、手を挙げてカールを呼び止めた。

    せめて同僚であれば、声ぐらいかけても損はないと思うが。

     

    ,,'゚ω'゚)「はい?」

     

    _ゝ川「先生の担当している患者さんが至急お会いしたいと」

     

    ,,'゚ω'゚)「何かあったのか?」

     

    看護師は何も言わず、肩を竦めて見せた。

    どうやら、この看護師には嫌われているようだ。

    “種馬”という渾名のせいで、一部の女性からはまるでウィルスのように扱われているのだから、慣れたものだ。

    だが、職場でそれをされると心に来るものがある。

     

    軽く礼を言ってその場を立ち去り、トラギコの病室に急いだ。

    部屋の前に立つ二人の男の足元には、黒いコンテナが置かれていた。

    ――棺桶だ。

     

    ,,'゚ω'゚)「こんばんは。 何かあったのですか?

         そんな物騒な物出して」

     

    (●ム●)「念には念を、という話です。

         他の利用者の方を怖がらせてしまいましたか?」

     

    ,,'゚ω'゚)「いえ、そういうわけではないのですが。

         あまり見慣れない物で」

     

    (●ム●)「見慣れない方がいいですよ、ドクター。

          ドクターが死に慣れているのと同じで、我々はこれを見慣れているというだけの話です」

     

    ,,'゚ω'゚)「なるほど、確かにそうですね。

         ご苦労様です」

     

    笑顔で会釈を交わして、扉を開ける。

    ベッドの上で、トラギコは半臥の状態で本を読んでいた。

    本を布団の上に置いて、彼はカールに視線を向けた。

     

    (=゚д゚)「よう、ドクター・カール。

        待ってたラギ」

     

    ,,'゚ω'゚)「何か、私にご用件があると伺ったのですが」

     

    (=゚д゚)「あぁ。 ここの保管庫に、俺の荷物があるはずラギ。

        それとスーツがほしいラギ」

     

    確かに、荷物は預かっている。

    アタッシュケースと拳銃、後は財布ぐらいだ。

    スーツも預かっているが、銃弾で穴が開いているので使い物にならない。

    幸いなことに、カールのスーツがあるのでそれを渡せば要求は叶えられる。

     

    ,,'゚ω'゚)「はぁ、構いませんがどうするつもりなんですか?」

     

    (=゚д゚)「刑事ってのは、手前の足で情報を稼いで、手前の足で追いかけて、手前の足で追い詰めるものラギ。

        俺は今から退院するラギ」

     

    退院は個人の意向で出来るものではない。

    少なくとも、主治医が経過観察をして入院の必要がないと判断してからでなければ無理だ。

    主治医でなくとも足を負傷したトラギコが今から退院するなど、認められるものではない。

    縫合した傷口が開くと、また出血してしまう。

     

    そうなれば、また入院だ。

    しかし。

    トラギコの目は、冗談を言っているようには見えない。

    明確な意思を示し、断固としてそれを実行すると雄弁に語っている。

     

    ,,'゚ω'゚)「ですが、まだ手術が終わったばかりですよ、刑事さん。

         松葉杖、もしくは車椅子を使わないと歩けません。

         無理ですよ」

     

    (=゚д゚)「知ってるよ」

     

    一瞬の躊躇なく、トラギコは断言した。

    だからこそ解せない。

    無理をする意味が、解らない。

     

    ,,'゚ω'゚)「ではどうして無理をするのですか?」

     

    (=゚д゚)「……俺はな、そういう生き方しかできない男ラギ。

        犬が犬として生きるのと同じように、俺は俺として生きるラギ。

        だから、今ここで止まっているのは俺の生き方じゃねぇラギ。

        自分を押し殺して生きても、後悔しかないラギ」

     

    ,,'゚ω'゚)「しかし……」

     

    (=゚д゚)「ドクター・カール、頼むラギ」

     

    正直なところ、カールはトラギコに協力したかった。

    彼の生き方が羨ましいからだ。

    しかし。

    カールには仕事がある。

     

    仕事には責任があり、責任には意味がある。

    患者の要求に応えるのが医師なれど、それを拒むのも医師である。

     

    ,,'゚ω'゚)「駄目です、トラギコさん。

         スーツぐらいはお貸しできますが、お荷物を渡して退院させるわけにはいきません。

         医師としての命令です」

     

    (=゚д゚)「へぇ…… 命令、ねぇ」

     

    ,,'゚ω'゚)「えぇ、命令です。

         自分の体が完全でないのに動いたら、余計な時間がかかります。

         そうなれば、治る物も治らなくなりますよ」

     

    (=゚д゚)「そうラギか…… もういいラギ、悪かったな、無理言って」

     

    明らかに失望した風な口調で、トラギコは力なくそう言った。

    胸が痛んだが、仕方がない。

    これが医者だ。

    他人の生き方に干渉してはいけないのだ。

     

    (=゚д゚)「じゃあな、ドクター」

     

    その言葉は、カールの心に深く突き刺さった。

     

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        ;:;;: , .,., *.,::.. :..:. :` - ''"... .   .:::    PM 0721  エラルテ記念病院にて

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    陽が沈み、月が夜の世界を優しく照らす。

    静かな時間が流れるエラルテ記念病院の敷地内で、それは起こった。

    第一発見者であるティム・マーベリックはライトで茂みを照らし、隔離病棟の入院患者がなくしたと騒いでいるぬいぐるみを探していた。

    五十歳の女性患者は精神疾患を患っており、ぬいぐるみを我が子のように扱っていたという。

     

    ならばベッドに縛り付けておけばいいものをと、ティムは独り言を言いながら茂みの陰に何かないかどうか見て回っていた。

    隔離病棟の裏にある従業員専用の入り口に来た時、ティムは誰かがそこに立っているのを見つけた。

     

    ミ;^つ^ル「だ、誰でしょうか?」

     

    返答はない。

    影はただ、そこに立っているだけ。

    木を見間違えたか。

    いや、確かに人影だ。

     

    ミ;^つ^ル「あ、あの~」

     

    恐る恐るライトを向けると、そこに立っていたのは――

     

    ミ;゚つ゚ル「あなっ」

     

    ――白銀に輝く一閃を最後に、ティムの頭が地面に落ちた。

    頭のない死体は近くの大型のゴミ箱に入れられ、頭は彼の胸に置かれた。

    そして黒い影は、その死体に向けて眩い光を与えたのであった。

     

    ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

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              lll iii!:;: :: :: :: :::| ::::::: | |;;:::::::::::::|        __,, !!--' '''''"" ""''''' '''"

             ,,. ;:''':::::::::::.::::::::::::":::::-- ..,,,__ |__,,,.. --'''PM 0723  エラルテ記念病院にて

    ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

     

    異変に気付いたのは、一階の食堂で夜食を食べていた医師たちだった。

    最初の異変は、匂いだった。

     

    IeUeI「なぁ、何か焦げ臭くないか?」

     

    ,,'゚ω'゚)「そう言われれば、そうだな」

     

    (ΞιΞ)「お前の焼きナスじゃないのか」

     

    ,,'゚ω'゚)「いや、これそこまで焦げ臭くないぞ」

     

    次の異変は、報知器の作動だった。

    非常ベルがけたたましく鳴り響き、職員全員が反射的に席を立つ。

    マニュアルに従い、患者の誘導と移動を担当する女性看護師達が病室に散っていく。

     

    (;ΞιΞ)「おいおい、マジかよ!!」

     

    そして第三の異変は、炎の出現だった。

    食堂を飛び出した三人の目に飛び込んだのは、建物の外が赤々と燃え、黒煙が廊下に流れ込んでいる様子だった。

    おかしい。

    これだけ燃えるとなると、ある程度の時間がかかるはずだ。

     

    燃え広がる速度があまりにも速すぎる。

    放火の可能性が高い。

     

    ( 0"0)「火の回りが早い!! 消火活動はあきらめて、患者の救助を第一優先に!!」

     

    当直の男が、大声で叫ぶ。

    各担当者は病室に向かい、またある者は消防署に連絡をした。

    今自分がやるべきことは放火かそれとも事故かを考えるのではなく、患者を救うことだ。

    カールは二階に駆け上がった。

     

    廊下の窓から下を見ると、どうやら火元は東棟からのようだった。

    となると、東の部屋にいる患者から救助しなければならない。

    火は上に向かう性質がある。

    避難する際には危険を承知で下に向かった方が、生存率は高い。

     

    扉を開け、パニックになる患者を落ち着かせつつ、ベッドを移動させる。

    病院のベッドはいざとなればそのまま搬送できるようにキャスターがついており、このベッドの場合は更に段差の上り下りにかかる力を軽減してくれる設計になっていた。

    部屋からベッドごと患者を出して、階段を使って下に降りる。

    この作業が、最も時間と慎重さが必要なものだった。

     

    応援に駆け付けた三人の同僚と共に、ベッドを素早く降ろす。

    一階に着いたベッドは看護師たちが外に運び出し、カール達は再び二階に戻る。

    その時、視界の端に炎と猛烈な黒煙を捉えた。

    遂に、建物の内部に火がやってきたのだ。

     

    普段は涼しい夜なのに、炎のせいで病院内は真夏の日中以上の暑さになっている。

     

    (●ム●)「ドクター!! 我々も手伝います!!」

     

    それは、この上なく嬉しい提案だった。

    ジュスティアの軍人は、棺桶を持っている。

    本来の目的を発揮するのは、まさに今だ。

     

    ,,'゚ω'゚)「お願いします!! 東の方から患者を下に運んでください!!」

     

    (■_>■)『我らの一歩は友の道。我らの歩みは国の路!!』

     

    コンテナ内で強化外骨格を装着した軍人二人は、先陣を切って病室に向かった。

    これで、作業速度が上がる。

    部屋からベッドをもって出てきた軍人は、そのまま一人で一階に降りていった。

    残ったもう一人が、医師たちに指示を出す。

     

    〔 (0)ш(0)〕『もうそろそろ、ここも危なくなります!!

            この階の患者たちは私たちに任せて、ドクターたちは早く外へ!!』

     

    (;ΞιΞ)「た、頼みました!!」

     

    だが、カールはその提案を受け入れなかった。

    それは駄目なのだ。

    彼は医者であり、医者は患者の命に対して責任がある。

    自分らしく生きるのなら。

     

    自分らしくあり続けるのなら、ここで逃げてはいけない。

    ここが、自分の生き方を決める瞬間なのだ。

     

    ,,'゚ω'゚)「……いえ、自分はまだやります」

     

    一階は、おそらく非難が完了しているだろう。

    看護師たちが二階に上がってきたのを見ていない。

    彼らは、より逃げやすい一階の避難を優先したのだ。

    自分たちの命も含めて、より安全な道を選んだ。

     

    そう、マニュアルにも明記されている。

     

    〔 (0)ш(0)〕『ドクター、無理をしても意味がありません!!

            貴方にしか救えない命があるでしょう!!』

     

    その言葉の直後、大量の炎が黒煙を伴って一階の廊下に波のようにあふれ出した。

    意志ある生き物のように炎は壁と天井を走り、病棟を灼熱の地獄へと変える。

    今ならまだ、あの炎の中を走って逃げれば助かる。

    それは明らかだ。

     

    熱は気温での比較ができないレベルにまで上がり、滝のように汗が吹き出し、地面に落ちる。

    匂いと煙で視界が悪く、息をするのも苦しい。

    口元をハンカチで押さえて、煙に対処する。

     

    ,,'゚ω'゚)「それが今なんだよ!!」

     

    カールは走った。

    西端にある部屋。

    救助が最も遅くなるであろう部屋。

    そして、避難が困難な男がいる部屋に。

     

    扉を開くと、そこにはトラギコの姿があった。

    ただ、ベッドの上ではなく椅子の上に。

     

    (=゚д゚)「よぅ、ドクター。

        今日は我慢大会でもしているラギか?」

     

    この状況でも、彼は焦った様子を見せない。

    どういう神経をしているのだろうか。

    サウナか何かの中でくつろいでいるような、そんな姿。

    焦っているこちらが馬鹿なのかと、錯覚してしまいそうになる。

     

    ,,'゚ω'゚)「トラギコさん、逃げましょう!!

         ここはもう!!」

     

    (=゚д゚)「なぁ、ドクター。 荷物が保管されている場所を教えてくれラギ。

        取りに行くラギ」

     

    口調は冷静そのもの。

    目は静かに凪いだ海を思わせ、それが逆にカールを苛立たせた。

     

    ,,'゚ω'゚)「何を馬鹿なことを言っているんですか!!

         状況が分かっているんですか?!」

     

     (=゚д゚)「分かってるから言ってるラギ。

        これ、放火ラギ。 ガスなら爆発が起きているはずだが、それがねぇ。

        おまけにこの速さ、不自然すぎるラギ。

        調理で忙しい時間帯ならまだしも、ここは隔離病棟でおまけに夕食はとっくに終わっているラギ」

     

    ,,'゚ω'゚)「だったら!!」

     

    (=゚д゚)「俺を狙ってるラギ、間違いなく。

        だから、武器が必要ラギ」

     

    この炎を生み出したのがトラギコを追う何者かであれば、それから逃げるのが一番だ。

    足を負傷していて勝てる相手ならばいいが、そうは思わない。

     

    ,,'゚ω'゚)「そんなことをしていたら、焼け死んでしまいますよ!!」

     

    (=゚д゚)「ドクター、あんたがここに来たのと同じように、俺にもやるべきことがある。

        俺の場合は、他の連中に被害が出ないようにここに残って相手をすることラギ。

        それに、だ。 俺が逃げ出すことを想定しているだろうから、待ち伏せぐらいはあるラギ」

     

    ,,'゚ω'゚)「うっ……」

     

    (=゚д゚)「場所だけ教えてくれたら、後は自分でやるラギ。

        隣の部屋の奴らを助けてやってくれラギ」

     

    トラギコという男は。

    この男は。

    どうして、ここまで。

    どうしてここまで、意図も容易く貫けるのか。

     

    この極限状態の中。

    自分自身を貫き、流れに反して立ち向かえるのか。

    憧れてしまう。

    焦がれてしまう。

     

    その在り方に近づこうと。

    その生き方を模倣しようとしてしまう。

    従うばかりだった人生。

    流されるばかりだった人生。

     

    その人生を変える瞬間。

    それはきっと、この時の決断に委ねられているのだろう。

     

    ,,'゚ω'゚)「……分かりました。 教えます」

     

    (=゚д゚)「助かる。 で、どこラギ?」

     

    ,,'゚ω'゚)「私が一緒に行きます。

         その足ではこの炎の中歩いて行ったら、すぐにバーベキューになります」

     

    火事の中、何か物を取りに戻ることは非常識とされている。

    その通りだ。

    非常識どころか自殺行為だ。

    だが、それでも。

     

    それでも、カールは見届けたい。

    せめて、誰よりも間近でこの男の生き方を見ていたいと思ってしまうのだ。

    白衣を脱いでそれを洗面台でまんべんなく濡らし、トラギコに渡した。

    これを頭から着ていれば、炎から体を少しは守れるはずだ。

     

    (=゚д゚)「すまねぇ、ドクター・カール」

     

    カールの差し出した手をトラギコは強く握り返し、遠慮なくカールの背中を借りた。

    火事を知らせるグレート・ベルの鐘の音が、不気味に響き渡る。

     

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    炎の熱は驚くほど強く、そして速い速度で病棟を焼いていた。

    念のため、カールは病室を見て回った。

    だが、トラギコの部屋以外は誰もいなかった。

    ベッドだけが残されているのが多く、火の回りの速さからベッドを放棄しても問題のない患者を動かしたのだろう。

     

    精神的に難のある患者でも、強化外骨格に抱かれてしまえば抵抗は無意味だ。

    生身の人間には出来ない避難方法だった。

    状況的に、残っているのは二人だけだ。

    姿勢を低くし、尚且つハンカチで口元を覆う。

     

    両手が塞がっているカールに代わって、トラギコが二人分のハンカチを押さえていた。

     

    (;=゚д゚)「あっつぃ……!!」

     

    ,,'゚ω'゚)「急ぎましょう、荷物は一階にあります!!」

     

    カールはトラギコを背負い、階段を駆け下りた。

    紅蓮の炎は衰えを知らず、消防車の到着を待たずして病棟が焼失しかねない勢いだ。

     

    (;=゚д゚)「ドクター、無理しなくていいラギよ。

        これは流石にやばいラギ」

     

    ,,'゚ω'゚)「いえ、もうここまで来たんです。

         最後まで私も一緒に行きますよ」

     

    トラギコの荷物は、院長室の奥にある保管庫にある。

    最も厳重な保管場所だが、その解除方法をカールは知っていた。

    保管庫は熱に強い設計をしており、そこに逃げ込めば逃げ道はある。

    背負ったトラギコに炎の影響が及ばないように歩く中、あり得ない音が聞こえた気がした。

     

    (;=゚д゚)「……銃声?」

     

    ,,'゚ω'゚)「ほ、本当ですか?」

     

    その音は確かにカールも聞いたが、銃声と断定できるほど銃声を聞いたことはない。

    何か、木製の調度品が爆ぜる音の聞き違いではないのだろうか。

     

    (;=゚д゚)「悪いが急いでくれ!!」

     

    銃声が本物だとしたら、それが意味するのは二つ。

    一つは、逃げ遅れた人間が苦しみから逃れるために自らの脳幹を吹き飛ばした可能性。

    そしてもう一つは、戦闘を行っている可能性だ。

    火災現場で戦闘行為となると、放火犯と何者かが争っていることになる。

     

    可能性としては、棺桶を装着したジュスティアの軍人が放火犯と戦っているのだろう。

    棺桶なしでこの熱の中で戦闘、もしくは発砲をするなど自殺行為以外の何物でもない。

    廊下を進み、医院長室へと急ぐ。

    息苦しかった。

     

    酸素が燃焼し、空気が熱を持っている。

    医院長室内に飾られていた観葉植物は燃え、絵画は炭となって床に落ちていた。

    最悪の光景だった。

    地獄絵図だった。

     

    やっとの思いで保管庫の前に辿り着いた時、この世のものとは思えない悲鳴が聞こえてしまった。

     

    「あがあっあっ!! はっ……ひゅっ……」

     

    その悲鳴はすぐに消え、火が建物を燃やしていく音とトラギコの呼吸音だけが残った。

    嫌な声だった。

    断末魔の声の方が、まだいいだろうと思えてしまうような、そんな声。

     

    ,,'゚ω'゚)「い、今のは?!」

     

    (=゚д゚)「気にすると駄目ラギ、ドクター・カール。

        俺の荷物を持って、院長室の窓から逃げるラギよ!!」

     

    今は、トラギコの声だけに集中すべきだ。

    保管庫に入ると熱がかなり和らいだが、空気の薄さは変わらない。

    巨大な正方形の金庫が一つだけ鎮座する室内に来るのは、これで三度目だった。

    暗証番号式の金庫を開き、中に入る。

     

    金庫内は更に番号の割り振られた正方形のロッカーが積み重ねられていた。

    トラギコの荷物が保管されているロッカーを開く。

    そこには、黒塗りのアタッシュケースが一つと拳銃が一挺、そして折り畳まれたスーツがあった。

     

    (=゚д゚)「よし、それは俺が持つラギ。

        ドクター、さっさと――」

     

    ――次の瞬間、カールは壁を破壊される音を生涯で初めて聞いた。

    慌てて金庫の外に出ると、まずは熱風がカールの前髪を焦がした。

    目を細めて正面を見据えると、そこには黒い異形が仁王立ちになっていた。

     

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    (:::○山○)

     

    眼窩で輝く丸く赤い瞳と、骸骨を思わせるデザインの顔。

    騎士を思わせる上半身の装甲とは逆に、ほっそりとした脚部はナイフのような鋭利な形状をしている。

    周囲を覆うのは灼熱の炎だが、その異形はまるで炎を恐れる様子がない。

    それどころか、炎自身に意志があるかのように異形から遠ざかっているようにも見える。

     

    異形自身が炎を引き従え、眷属として扱っているようだった。

     

    (:::○山○)

     

    それを思い知らせるかのように、異形は両腕を広げ、そこから炎を噴射した。

    紅蓮の炎が防火加工のされた壁と天井、そして床を燃やす。

    この棺桶が火を放った張本人に間違いない。

    原初の恐怖が、カールからあらゆる意欲を奪い去った。

     

    (=゚д゚)「ドクター、俺が合図したら俺を置いて逃げろラギ。

        いいな?」

     

    そう言いつつ、トラギコはカールの背中から降り、ふらつく足で立つ。

    左手にアタッシュケース、右手に拳銃。

    この男は、戦うつもりだ。

    殺し合いの素人でも分かる。

     

    何故なら、トラギコの右手は異形に対してまっすぐに向けられているからだ。

    人間と棺桶が戦えば、当然人間が負ける。

    馬鹿でも分かる理屈だ。

    猫では獅子に勝てない。

     

    犬では狼には勝てないのだ。

     

    ,,'゚ω'゚)「か、勝てるわけない……勝てるわけないですよ……こんなの……!!」

     

    (=゚д゚)「いいか、勝てる勝てないの問題じゃねぇラギ。

        生きるか死ぬか、それだけラギよ」

     

    銃爪はいつ引かれてもおかしくない。

    おかしくはないが、それが引かれれば、トラギコは燃やされる。

    そして、遅かれ早かれカールも焼かれる。

     

    (=゚д゚)「覚悟ってのはな、行動が伴って初めて意味を成すラギ!!」

     

    銃声が連続した。

    その発砲音、そして閃光にカールの竦んでいた体が反応した。

    一歩が動いた。

    後は、走るだけだった。

     

    だが。

    走れなかった。

    否。

    走らなかったのだ。

     

    逃げなければ危ないということを理解していても、走って逃げ出すわけにはいかなかったのだ。

    その理由に気付いたカールは、己の職業病を理解した。

    そして、トラギコの気持ちの片鱗を理解できた気がした。

     

    ,,'゚ω'゚)「あ、あ……」

     

    (#=゚д゚)「何してやがる、この野郎!!」

     

    断続的に発砲し、怒鳴るトラギコ。

    異形は微動だにせず、攻撃しようともしない。

     

    ,,'゚ω'゚)「い、一緒に逃げて……」

     

    (#=゚д゚)「ふざけんな!! ドクター、あんたにはあんたの仕事があるだろうが!!

        あんたでなきゃ助けられない患者がいるんだろ!!

        単純計算で動け!!

        これは俺の仕事ラギ!!」

     

    拳銃の遊底が後退した状態で固定された。

    弾切れだ。

     

    (:::○山○)『……』

     

    棺桶が一歩踏み出す。

    火炎放射器を使うよりも殴殺した方が、出費を抑えられると判断したのだろう。

     

    (#=゚д゚)「言わんこっちゃねぇ!! せっかくのチャンスを台無しにしやがって!!」

     

    ,,'゚ω'゚)「医者が患者を置いて逃げられるわけないでしょ!!」

     

    それが、本音だった。

    結局のところ、カールは医者なのだ。

    今救える命をここで見捨てることは、どうしても出来ないのだ。

     

    (#=゚д゚)「だったらこの仕事を辞めろ!!

         まだ死にたくねぇだろ!!」

     

    ,,'゚ω'゚)「これが私の天職なんです!!」

     

    (#=゚д゚)「っ……!!」

     

    その時だった。

    新たな影が火の海から飛び出し、その場に現れたのは。

     

    <_プー゚)

     

    黒のスーツを着た男だった。

    短髪の黒髪、僅かに垂れた眉と眼光鋭い茶色の瞳。

    棺桶を背負い、二人を異形から庇うようにして立ちはだかる。

    それは騎士のように堂々としていて、英雄のように神々しかった。

     

    (:::○山○)『……』

     

    黒の棺桶は僅かだが怯んだ様子を見せた。

    近付くのを止め、両手をだらしなく垂らす。

     

    (;=゚д゚)「エクスト!! 来るのが遅いラギよ!!」

     

    <_プー゚)フ「……」

     

    突如として現れた男――エクストと呼ばれた――はトラギコを一瞥することなく、左手の親指を喉に当て、左から右に向けて走らせた。

    それは、相手を殺すという動作。

    相手を侮蔑するための仕草。

    敵意を示すための合図。

     

    そして――

     

    'ト―-イ、

    `゚益゚似『トラギコ、外へ』

     

    ――異形に立ち向かう異形への変貌の宣言。

    黒一色の鎧は丸みを帯び、人間の筋肉と似た形状をしている。

    両手両足にはサポーターらしきものが付いており、腰には尻尾のような太いコードが一本垂れ下がっている。

    頭部は鼻先が鋭く尖り、イヌ科の動物を思わせる形状をしていた。

     

    (;=゚д゚)「気を付けろよ、そいつは火を使うラギ!!」

     

    `゚益゚似『問題ない』

     

    人口声帯の声に従い、トラギコはカールを目で呼んだ。

    カールは黙って肩を貸して、炎の中に向かって走り出した。

     

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    トラギコたちが逃げたのを見届けることなく、ダニー・エクストプラズマンは目の前に立つ強化外骨格に意識を集中させた。

    見たことのない棺桶だった。

    火炎放射兵装を見ること自体は初めてではないが、それを主兵装として戦う棺桶は実戦では二度目。

    しかし、目の前にいるのは明らかに単一の目的で作られたコンセプト・シリーズのそれ。

     

    心してかからなければならない。

     

    `゚益゚似『悪いな、待ってもらって』

     

    (:::○山○)『あの医者は殺すには惜しい、そう思っただけアル』

     

    男の声だった。

    特徴的な発音で、癖のある言葉遣いだ。

    そして男は、炎を噴射してきた。

    両腕から放たれる業火を大きく飛び退くことで回避し、すぐさま両腕の兵装を起動させる。

     

    “ダニー・ザ・ドッグ”。

    格闘戦において比類なき破壊力を誇る高周波発生装置を各所に内蔵し、それを武器として戦うことに特化した強化外骨格だ。

    エクストは炎がいつまでも噴射できないと予想していた。

    燃焼系のガスか、それとも液体かは不明だが無限ということはない。

     

    病院一つを焼き尽くすために使用した燃料を考えると、残りはそうないはずだ。

    もしくは、もう残量がないのかもしれない。

    そうでなければ、エクストが棺桶を纏う前に焼き殺せたはずだ。

    肉弾戦による決着が好ましい。

     

    元より、この棺桶には中・遠距離の武器は備わっていない。

    炎にさえ気を付ければ、負ける要素はない。

    エクストは燃える地面を蹴って加速し、一瞬の内に肉薄した。

    両腕の高周波発生装置を起動させ、左のボディブローで機能停止を狙う。

     

    が、男は無駄を削ったバックステップで回避すると、両腕を交差させた。

    高周波振動を行っているこの両腕に触れれば、波の装甲など容易く砕け散る。

    それを察したのだとしたら、大した技量だ。

    ならば分かるはずだ。

     

    防御など無意味であると。

    しかし手遅れだ。

    着地と同時に加速。

    そして回し蹴りを放つ――

     

    `゚益゚似『っ?!』

     

    ――のを中断し、エクストは全身の高周波発生装置を起動させた。

    ダニー・ザ・ドッグの持つ切り札。

    全身を振動兵器と化すことで、あらゆる攻撃を粉砕する強力な楯となる応用技だ。

    大量の電力を消費するため、そう滅多なことでは使わないのだが、全身に走った悪寒に従うしかなかった。

     

    その判断は正しかった。

    直後、エクストの視界が紅蓮の炎に包まれたのだ。

    それは業火とも呼べる火力だった。

    炎が付着した場所が溶け、沸騰している。

     

    秘蔵の一撃。

    否。

    使わなかっただけだ。

    初めから、あの棺桶の各所には火炎放射器が備わっており、全身から炎を撒けるのだ。

     

    しかしながら体に付くはずだった燃料は高周波振動によって霧散し、効果を成さなかった。

    そして、炎の向こうにいたはずの影はもう消えていなくなっていた。

    つまりそれは戦いを放棄して、逃げ果せたということ。

    許しがたい無礼。

     

    エクストは激怒したが、一先ずはその場を退去することにした。

    もう、この建物内に生存者はいない。

    いたとしても、助けられない。

    助けても意味がない。

     

    瀕死の人間は、せめてその苦しみが無意味にならないように死ぬべきなのだ。

     

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    燃え盛る病棟を背に、トラギコとカールは敷地から外に出ようと裏口に向かっていた。

    撃たれた右足が酷く痛むが、カールが肩を貸してくれるおかげでどうにか歩けている。

    松葉杖をもらっておけば良かったと後悔するが、いまさらもう遅い。

    出来る限り茂み沿いに歩き、人目につかないように歩く。

     

    襲撃犯は一人だったが、内通者がいるのかもしれない。

    この島にいるショボン・パドローネの仲間たちの仕業としか考えられなかった。

    トラギコの口封じが目的だったと考えるが、一体何を闇に葬ろうとしているのか。

    少し考えれば分かる話だ。

     

    警察内でオセアン、フォレスタ、更にはニクラメンでの事件の概要を知っているのはトラギコだけ。

    そこに謎の組織が関わっており、そのメンバーの数名の顔を知っている。

    事件概要や人相などを警察に話されると困るのだろう。

    証拠隠滅や目撃者の排除に徹底的に力を入れるのは、街を一つ沈め、更にオアシズを爆破しようとしたことからも明らかである。

     

    犯人が入院場所を知っていたことから、警察か病院にも組織の種が紛れ込んでいるようだ。

    今後はあまり表だった捜査が出来ず、情報を警察に話すのも難しくなる。

    ティンカーベルが封鎖されている間は適当な宿に隠れ、そこを拠点に情報収集を行うしかなさそうだ。

     

    (=゚д゚)「助かったよ、ドクター・カール。

        トレードマークだったんだろ、この髪型。

        燃えちまったよ」

     

    一先ず、トラギコは忘れない内にカールに礼を言うことにした。

    ポニーテールは焼けてしまい、ただのロングヘアーと化していた。

     

    ,,'゚ω'゚)「髪ぐらい構いませんよ。

         それに、言ったでしょう? 私は医者で、貴方は患者なんですよ」

     

    (=゚д゚)「へへっ、悪かった。

        昔からどうにも医者ってのが苦手でな、だけど、あんたは嫌いじゃねぇ」

     

    ,,'゚ω'゚)「?」

     

    (=゚д゚)「仕事に殉じるって覚悟があるんだろ? 気に入ったラギ」

     

    ,,'゚ω'゚)「それは何よりです、トラギコさん」

     

    このカールという医者は、思ったよりも芯が太い。

    そして、自分に正直に生きようとしている。

    トラギコの生き方を理解して、それに追従しようとしているのがよく分かった。

    あの炎の中で天職だからと叫ばれては、気に入らないはずがない。

     

    同僚にもいないタイプの男だ。

    これからの捜査の手助けをしてくれるかもしれない。

    街灯一つない裏口の前に来た時、カールは急に立ち止った。

     

    (=゚д゚)「どうしたラギ?」

     

    ,,'゚ω'゚)「い、いえ……何でも……」

     

    歩くのを再開したが、先ほどよりも明らかに歩き方がおかしい。

     

    (=゚д゚)「疲れたんなら、もういいラギよ?」

     

    ,,'゚ω'゚)「すみま……せん……」

     

    カールの顔から、血の気が引いていた。

    恐怖が今になって甦ったのだろうか?

    精神病にならなければいいのだが。

     

    ,,'゚ω'゚)「あ……あぁ……」

     

    そして、カールは倒れた。

     

    (;=゚д゚)「おい、どうしたラギ?!」

     

    ,,'゚ω'゚)「さ……寒い……」

     

    カールは震えていた。

    馬鹿な。

    今は夏だ。

    確かに涼しいが、寒いと言って震えるほどの気温ではない。

     

    とにかく、今度はトラギコの番だ。

    彼の体を持ち上げようと肩に手を回した時、生暖かい液体が手に着いた。

     

    (;=゚д゚)「いつ怪我したラギ?!」

     

    ,,'゚ω'゚)「せ、背中に……何かが……さっき……当たって……

         あ、あぁ……」

     

    傷口を確認しようと、背中を見る。

    そこに、銃創があった。

    銃声はしなかったはずだ。

    少なくとも、病院から出て以降は絶対に聞いていない。

     

    サプレッサーを付けた銃による狙撃。

    誰が。

    誰が一体何のためにカールを撃ったというのか。

     

    (;=゚д゚)「おい、ドクター!! いいか、今人を呼んできてやる!!

        絶対に目を閉じるなよ!!」

     

    駄目だ。

    このままでは、カールが死んでしまう。

    銃弾は背中から入り、肺を撃ち抜いている。

    早急に手術を受けることが出来れば、助かる可能性がある。

     

    医者が必要だった。

    だが。

    トラギコの腕を、カールが力強く握り締めた。

     

    ,,'゚ω'゚)「だめ、駄目です……!!

         そんなことをすれば……トラギコさんがまた……また、襲われてしまいます……!!」

     

    (;=゚д゚)「遅かれ早かれ襲われるラギ、だったら!!」

     

    ,,'゚ω'゚)「トラギコさん……ぼ、ぼくは……ぼくは……貴方の生き方が羨ましいっ……!!」

     

    話していることが支離滅裂だ。

    出血多量による錯乱状態だろうか。

    傷口を直接押させて止血しても、失われた血液量を見るともう助からなそうだ。

     

    (;=゚д゚)「おい、しっかりしろ!!」

     

    ,,'゚ω'゚)「自分のルールにまっすぐで……他を気にしないで……

         気持ちいいほど……まっすぐな生き方が……ぼくはっ!!

         僕は、本当に……羨ましい……っ!!」

     

    カールの手を握りしめる。

    手は冷たかった。

    顔からは生気が失われつつあり、唇の色も変色している。

     

    (;=゚д゚)「カール、喋るな!! あんたはこれからも患者を助けるんだろ!!

        だったらここで死んだら駄目ラギ!!」

     

    その言葉を聞いたカールは死の淵にありながら、嬉しそうな笑顔を浮かべた。

     

    ,,'^ω'^)「やっと……カールって……呼んでくれました……ね……

         よか……っ……た……」

     

    そして、カールの手から力が失われ、笑顔のまま呼吸も止まった。

    消防車のサイレンの音が聞こえ始める。

    人々の叫び声が聞こえる。

    炎と大きな音に狼狽える動物たちの声が聞こえる。

     

    だが、カールの声は、もう二度と聞こえることはなかった。

     

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                        AmmoRe!!のようです

     

                 Ammo for Tinker!!編 第三章 【preparedness-覚悟-】 了

     

                          To be continued...!!

     

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ページのおしまいだよ。。と