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第二章【集結- concentration -】

  1. 名前: 歯車の都香 2017/04/16(日) 13:07:00
    第二章【集結- concentration -】

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                         災厄と因縁は引力を持っている。

     

                                     ――経済学者   モンゴメリー・ポン

     

     

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    波は穏やかだった。

    潮騒に紛れてカモメが鳴く。

    水平線の向こうには白い雲が浮かぶ、穏やかな夏の朝。

    巨大な客船が、ゆっくりと海上を進んでいた。

     

    世界最大の豪華客船にして世界最大の船上都市、オアシズ。

    “オアシズの厄日”と呼ばれる連続殺人事件がもたらした混乱はその解決と同時に落ち着きを見せ、船は最初の目的地であるティンカーベルを目指して大海原を進んでいた。

    船内では従業員とボランティアの乗客が薬莢を拾い、血の跡を洗い流して争いの痕跡を少しずつ消し始めている。

    八月七日早朝、特別に割り当てられた一室に居座るその男は、事件終了から一睡も出来ないでいた。

     

    必要最低限の調度品と食糧、そして酒があれば十分な男にとって、その部屋は十分すぎる部屋だった。

    毛足の長い絨毯が敷かれた部屋にはシングルベッドとソファ、そしてウォークインクローゼットとキッチンが標準で付いている。

    洗面場の隣に作られた風呂には底の深い大きな風呂桶があり、当然のことながら、ジャグジーも備えられている。

    これでも船内で最低ランクの部屋だが、正規の値段は男の年収の半分に相当した。

     

    だが男は正規の乗客ではないため、その料金を請求されることはなかった。

    オアシズの厄日発生に伴い、ジュスティアから派遣された海軍と共に乗り合わせただけの刑事だ。

    事件解決の中で、彼はオアシズに仕掛けられた高性能爆薬を全て撤去し、船の沈没を防いでいた。

    賞賛の言葉も労いの言葉もなかったが、名誉を糞と言い換える刑事にとってそれは、別段不満を感じる要素ではなかった。

     

    刑事を不眠にさせている原因は、オアシズの厄日にはあまり関係がなかった。

    確かに心底疲れる事件ではあったし、苛立たしい結果になったのも事実だ。

    しかしそれと不眠とは、まるで別問題だった。

    例え女を抱くその寸前で破局したとしても、男は熟睡出来る太い神経を持っていた。

     

    その男でさえ、今では目の下に濃い隈を作り、半ばまで落ちた瞼のせいで人相はいつも以上に悪くなっている。

    それでも男は、眠るわけにはいかなかった。

    ここで眠ってしまえば、新たな事件が起こりかねない。

    不眠に通じる全ての原因は、目の前でふてぶてしく熟睡している女にあった。

     

    ショートカットの茶髪、ほのかに少女の名残を残す顔。

    穏やかな寝顔の下に隠した狂気。

    鳶色の瞳の奥に宿る底知れぬ悪意。

    快楽殺人鬼、ワタナベ・ビルケンシュトックだ。

     

    この糞忌々しい殺人狂の女と出会ったのは、海上都市ニクラメンが沈没した際の事だ。

    逃げ惑う人々の前に現れ、毒ガスを使用する強化外骨格で殺戮し、それに快感を覚えていた。

    偶然居合わせた男が対処したが、殺すには至らなかった。

    耳付きの子供に対して何故か配慮する一面を見せたが、殺人鬼である事実に揺るぎはない。

     

    だが、オアシズに仕掛けられた爆弾の在処を全て男に教えた人物でもあった。

    トラギコ・マウンテンライトはスコッチウィスキーを飲みながら、彼女が妙な動きをしないかどうかを見張るためにベッド傍のソファで夜を明かした。

    何度も殺人鬼らしからぬ行動をしてきたとはいえ、本質に変わりはないはずだ。

    万が一の際には、すぐに殺さなければならない。

     

    いつでも銃を構えられるようにと、左手にベレッタ、右手にグラスを持って六時間以上にもなる。

    流石に、銃を持つ手が痺れてきた。

    撃鉄は起こさずにいるため、生娘の肌のように敏感な銃爪に指が触れていても、今のところ問題はない。

    今のところは、だが。

     

    ワタナベは油断ならない女だ。

    笑顔で無抵抗な人間を殺し、更なる快楽を得るためにトラギコを殺しに来るような女は紛れもなく敵だ。

    仮にワタナベが今回限りの味方だったとしても、彼女が行った殺人の経歴がなくなるわけではない。

    よくいるのだ、妙な勘違いをする犯罪者が。

     

    笑顔で人を殺しておいて、心を入れ替えたのを機に人のために何かをしようとする輩はいつの時代も消えることはない。

    それで罪が消えると思っているのだ。

    愚かな話だが、トラギコは現実にそういう人間を何人も見てきた。

    そして殺してきた。

     

    警察としては彼らからもたらされる情報や技術に価値を見出していたが、トラギコには関係なかった。

    むしろ、警察に蓄積されているノウハウで役立ったことと言えば、警察の身分を表に出せば様々な面で金が不要になるということぐらいだ。

    現場で働いていれば、ある程度の知識は身につく。

    わざわざ犯罪者に頼るなど、愚かな話だ。

     

    犯罪者に対して、トラギコは常に独りで挑んできた。

    警察に入る前から、トラギコは常に独りだった。

    独りだからこそ、トラギコは強かった。

    独りだからこそ、トラギコは強くなれた。

     

    ジュスティアで生まれ育ったが、正義という言葉には反吐しか出ない。

    そんなもの、どうでもいいのだ。

    そんなもの、この世にはないのだ。

    確かに若い頃は正義を信じた頃もあったが、今では身悶えるほど恥ずかしい思い出だ。

     

    事件を解決することに情熱を注ぐトラギコの行動理念は、非常にシンプルだ。

    人間としてのルールを守る、それだけである。

    だから、例えワタナベが乗客たちの命を救ったという事実があったとしても、ニクラメンで猛毒ガスを散布して大量殺人を行った事実は消えない。

    人の命が消えるごとに快楽を感じるような女は、死んだ方がこの世界のためになる。

     

    殺すのは簡単だ。

    今ここで急所に銃を向けて銃爪を引けば、痛みを感じる間もなく殺せる。

    しかし、引けない。

    女だからという理由ではなく、この女があまりにも有益な情報を持ちすぎているからだ。

     

    様々な場所で蠢く陰謀の片棒を担ぐ女。

    オアシズ襲撃とほぼ共に現れ、設置された爆弾の位置を全て知り尽くし、それを解除させた意図。

    そして、トラギコが追う金髪碧眼の旅人に関する情報を持っている可能性。

    ここで殺せば、それら全てが消える。

     

    尋問したところで、この女は口を割らない。

    今出来るのは、逃げないように見張ることだけだ。

    つい最近、トラギコはある事件に関与した重要参考人に逃げられたばかりだった。

    自力での脱出が不可能なように足の腱を切ったのだが、何者かによって運び出されてしまったのだ。

     

    油断が招いた結果だ。

    次は同じ過ちを犯すまいと、トラギコは徹底して参考人を拘束することに決めた。

    事件が終わってからすぐに、市長であるリッチー・マニーに空き部屋を用意してもらい、そこにワタナベを連れ込んだ。

    ワタナベに睡眠薬入りのコーヒーを飲ませ、寝入ったところで手足を拘束し、部屋にある全ての脱出路を厳重に塞いだ。

     

    仮に何かしらの手段によってトラギコを殺したとしても、この部屋から逃げる手段はない。

    しばらくの間、二人きりで船旅を楽しむしかないのだ。

    無防備な寝顔を見て、トラギコはワタナベの行動が矛盾していることに納得がいかなかった。

    この女は、人を殺すことを快楽に変換する。

     

    ならば、沈没していくオアシズの中で逃げる人間を殺せばいいはずだった。

    快楽殺人鬼ならば、そうしているのが自然なはずだ。

    しかしながら、そうはならなかった。

    沈没させるために設置された爆弾の解除に手を貸したのだ。

     

    設置場所、解除方法。

    ワタナベはその全てを知っていた。

    そのことから、実行犯であるショボン・パドローネと何らかの関係があるのは間違いなかった。

    だが、ワタナベはそれを裏切った。

     

    目的が全く分からない。

    考えたところで分かるとは思えないが、考えなければそもそも始まらない。

    殺人狂の気持ちなど、分かるのだろうか。

    トラギコは最後の一口となっていたスコッチを飲み干し、すぐそばのテーブルに置いた。

     

    鼻から空気をゆっくりと出すと、鼻孔の奥から燻製された木の香りが排出され、得も言われえぬ高揚感に満たされた。

    スコッチはこれがいいのだ。

    他のウィスキーではこうはいかない。

    これだけ強烈な煙の香りを堪能出来る酒は、スコッチを置いて他にない。

     

    絨毯に置いていた深緑色のボトルを手に取り、ラベルを見る。

    予想通り、アードベッグだった。

    思考力がある一定の状態を保って動き続けるためには、薬物よりもスコッチに限る。

    栓を抜いてグラスの淵まで注ぎ、トラギコは深い溜息を吐いた。

     

    命の音。

    それは、人が生きてきた全てを示すものだ。

    ワタナベはそれを断ち切ることで、快感を得ていた。

    何かを終わらせるという行為は、何かを壊すという行為。

     

    それは言わば、圧倒的な優位性に酔い痴れるようなものだ。

    生殺与奪の一切を集中に収め、それを踏み躙る行為。

    抵抗できない子供たちに対して命令を下し、性奴隷としての人生を設計する人間の心情と似ている。

    このような行為の背景には、過去に人生を踏み躙られた、もしくは自分の意志で人生を作り上げられなかった場合が多い。

     

    恐らくはワタナベも、人生の歯車もどこかで狂わされたのかもしれない。

    何があったにせよ、同情はしない。

    トラギコがこれまでの人生で同情したのは、十五年前に担当したCAL21号事件の被害者だけだ。

    嫌な記憶を消すようにして、グラスを傾けて唇を湿らせるほどの量を飲む。

     

    一度に飲む酒量は若い頃に比べて大分増え、時間をかけて飲むようになった。

    幸いなことに異存はしておらず、普段は飲まなくても十分なぐらいだ。

    深く考え事をする際にのみ、酒の量が増える。

    これまでに一度も醜態を晒したことがないのが救いだった。

     

    透明のグラスに注がれた黄金色の液体。

    漂う香りは、強烈な煙のそれだ。

    舐めるようにグラスからそれを口に含み、空気と共に喉の奥に落とす。

    焼けるような熱さを伴った液体は、トラギコの胃袋に強い刺激を与える。

     

    酒に合う肴は多くある。

    ドライフルーツにチョコレート、鮭の燻製があればなおいい。

    だがトラギコは、肴を用意していなかった。

    空の胃袋に流し込む酒が健康的なはずもなく、トラギコは軽食を食べたい欲求と戦っていた。

     

    ゆっくりと時間をかけて鼻から空気を出して、燻された風味を堪能する。

    脳髄の奥からじわりと体全体に広がる感覚は、快楽に近い。

    空腹を誤魔化しきれないと悟ったトラギコは、拳銃を懐に収めて立ち上がった。

    ワタナベは目を覚ます気配を見せない。

     

    薬物に耐性があると厄介なことになるため、トラギコは大目に薬を盛っていた。

    彼女の横を通り過ぎ、トラギコはキッチンを物色し始める。

    物色しながらも、思考はオアシズの厄日の背景と今後の動きについて向けられていた。

    解決の鍵を握るのは、ワタナベの存在だ。

     

    一体どこから侵入してきたのか。

    どうして海賊の襲撃に合わせて虐殺を行わなかったのか。

    どうしてトラギコに大人しく捕まったのか。

    彼女の口から情報を聞ければ、必ず進展はある。

     

    硬い黒パンとハム、そしてプロセスチーズを見つけた。

    挟めば十分な料理になる。

    拳と同じ大きさのパンに切れ込みを入れ、そこにハムと薄く切ったチーズを挟み込む。

    皿など用意せずに、それを口に咥えて先ほどのソファに戻る。

     

    ワタナベはベッドの上で少女のような寝顔で眠っている。

    大きな口を開けてパンに噛り付き、力任せに食い千切る。

    単純かつ素朴な味だが、歯応えがあってトラギコの好みだった。

    口いっぱいのパンを噛みながら、トラギコは爆弾解体とその後に行った“大掃除”を振り返った。

     

    ――ワタナベはまだ、眠りの中にいた。

     

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                              【原作】

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    爆弾解体の経験は三度あった。

    アナログ時計と繋がったもの。

    二色の液体が混合することで爆発する時限式のもの。

    そして、高性能爆薬の仕掛けられたクマのぬいぐるみ。

     

    今回解体することになった爆弾の種類は、そのどれにも該当しなかった。

    マッチ箱ほどの黒い箱状のものがテープで固定されているだけだった。

    どのような仕組みで爆発し、どの程度の威力があるのかも分からない。

    テープをはがした時、近づいた時、音を感知した時、振動を感知した時、可能性は無限にあった。

     

    金髪碧眼の旅人と別れてから、トラギコは短時間で爆弾の種類を特定しなければならなかった。

    ツールナイフを取り出したはいいが、ここから先どうすればいいのか、トラギコには判断出来なかった。

    専門家の助言が必要だった。

    苛立ちと焦りから、トラギコは“ブリッツ”の主兵装である高周波等を床に突き刺した。

     

    (;=゚д゚)「くそっ」

     

    一か八かの賭けで船の命運を決めるには、トラギコには荷が重すぎる。

    爆弾を前に一人格闘したのは、わずかに十秒程度。

    カーゴパンツと赤いポロシャツ姿の女性がショットガンを手に現れたのは、トラギコが思案していた時のことだった。

     

    ''从「はぁい、刑事さん」

     

    (;=゚д゚)「ワタナベ……ビルケンシュトック!?」

     

    トラギコは咄嗟に死を覚悟した。

    武器を構えていないトラギコに対して、ショットガンを持つワタナベとの間にある戦力差は、運動能力や経験で埋めることの出来ない絶対的な物だった。

    出来る抵抗と言えばツールナイフを投げるぐらいだが、そうなる前にワタナベはトラギコを挽肉に出来るだろう。

    出方を待つというのが、今のトラギコにとって最善の手だった。

     

    現在装着している強化外骨格、ブリッツは近接戦特化のものであるため、全く役に立ちそうもない。

    急所に放たれる散弾を防げるかもしれないが、足を撃たれれば終わりだ。

    つまり、何をどうしたところでトラギコの負けは揺るがない。

     

    ''从「あらぁ、別に殺そうってわけじゃないわよぉ」

     

    (;=゚д゚)「どういう意味ラギ?」

     

    ''从「手を貸そうって言ってるのよぉ」

     

    意味が分からなかった。

    ワタナベと言えば、ニクラメンで大量殺人を犯した快楽殺人者だ。

    人を助けるような人間性をしているとは、到底思えなかった。

     

    (=゚д゚)「何が目的――」

     

    ''从「それはプラスチック爆弾。

         取り外す以外、解除は出来ないわよ」

     

    そう言って、ワタナベはショットガンを袈裟懸けにして、パイプに取り付けられていた爆弾を無造作に取り外した。

    爆発は起こらない。

    その自然な仕草に、トラギコは得たばかりのチャンスを失ったことを忘れていた。

    殺すのなら、今しかなかったのだ。

     

    ''从「起爆装置が押されるか、中にあるコードを切断したらアウト。

         それ以外では爆発しないわよ」

     

    (=゚д゚)「どうして手前がそれを知ってるラギ?

        ショボンと仲間ラギか?」

     

    ツールナイフを持つ手を下ろしながら、トラギコは解除よりも先に質問をした。

    事件の首謀者であるショボン・パドローネとつながりがあれば、この解除という行為も罠の一つの可能性がある。

    あの男はそういう男だ。

    だがワタナベは鼻で笑って、床板の下から新たな爆弾を取り外してみせた。

     

    ''从「仲間なんかじゃないわ。

         私は私。 向こうは向こう。

         私は雇われているだけで、あの人たちの目的だとか夢だとかなんて、興味ないもの。

         そして今は休暇中」

     

    (=゚д゚)「爆弾を解除する目的は何ラギ?」

     

    ワタナベは思わせぶりな笑顔を浮かべ、答えた。

     

    ''从「刑事さんへの個人的なお礼よ」

     

    (=゚д゚)「お礼?」

     

    お礼を言われるような間柄ではない。

    むしろ、互いに相手を殺そうと考えた仲だ。

    彼女の言う礼が、ジュスティアで再会した時のことだとしたら、とんだ勘違いだ。

    あれはあえて殺さなかっただけで、別に、食事を楽しんだわけではない。

     

    ''从「細かいことはいいじゃない、今は」

     

    ワタナベの言うことは正論だ。

    こうして問答をしている間に一つでも多く解除した方が利口だ。

    話すのを止め、トラギコは爆弾を探す作業を再開した。

    隠されている場所はワタナベがその都度指示し、トラギコはそれに従って外した。

     

    合計で二十七のプラスチック爆弾が発見され、トラギコはその量に背筋が凍る思いだった。

    少量の爆薬で大きな破壊をもたらすプラスチック爆弾がこれだけの量になると、船に穴が開くだけでなくこの区画を全て吹き飛ばす程の威力になる。

    一つでも見逃していれば間違いなく沈没するだろう。

     

    (=゚д゚)「これで全部ラギか?」

     

    ''从「えぇ、全部で二十七個。

         間違いないわぁ」

     

    トラギコは上着を脱いで、それで全ての爆弾を包んだ。

    一秒でも早く船から遠ざけさせなければ、オアシズに危害が及ぶ。

    ワタナベの真意は分からないが、今見つけられる分はこれが全てだ。

    彼女の言葉が嘘かどうかは、この際でもいい。

     

    爆弾を持ったまま、トラギコは機関部から急いで抜け出し、船の最後尾を目指した。

    脱出用の船に爆弾を積んで沖に走らせれば、オアシズに被害は出ない。

    意識の全てを爆弾にのみ集中させ、トラギコはワタナベをその場においていく勢いで駆け出す。

    階段を三段飛ばしで駆け上がり、死体を飛び越え、血溜まりを踏みつけた。

     

    船外にあるプールサイドを通り過ぎ、手摺の向こうに吊り下げられた小型船が見えてきた。

    だがそこには、瀕死の状態の海賊が一人手すりにもたれ掛かっていた。

    トラギコの姿を見て、男は頭を動かした。

    手にはサブマシンガンが握られており、銃を構えて銃爪を引くだけの力は残っていそうだった。

     

    最悪の展開だ。

    今ここでどうにかしなければ、トラギコが撃たれる。

    その海賊がトラギコを気にしなければいいのだが、相手は意地の悪い海賊。

    ただで死ぬぐらいなら、トラギコに発砲するぐらいの根性を見せるだろう。

     

    (;=゚д゚)「ちっ」

     

    男は最後の力を振り絞り、銃口をトラギコに向けた。

     

    ::0::0::)「ひ、ひひ」

     

    それは結局、背後から響いたショットガンの銃声によって杞憂に終わった。

    男の顔が覆面ごと吹き飛び、ザクロのような姿と化したのである。

    理由を問うよりも早く、男を殺したワタナベは次の展開をトラギコに思い出させた。

     

    ''从「ほらぁ、急がないとぉ」

     

    その言葉の意味は、音が教えてくれた。

    上空から響くローターの音。

    今やるべきことに集中するため、トラギコは船に爆弾を放り込み、自らも飛び乗った。

    操舵室は誰でも使えるように簡略化されており、自動操縦に切り替えるためのボタンはすぐに見つかった。

     

    自動操縦に切り替え、座標を船の百マイル後方に設定する。

    船から体を出すと、ワタナベが手を伸ばしてきた。

    気に入らなかったが、トラギコはその手を掴んで船に戻った。

    女にしては、かなり力が強かった。

     

    脱出艇を切り離すためスイッチを押すと、船は海の上に落ちてすぐに走り出した。

    白い泡の尾を残して遠ざかる船が水平線に消えようとした時、上空で爆発音が響き渡り、それに連鎖するようにして脱出艇も爆発した。

    衝撃波がトラギコの顔を殴りつけた。

    船内で爆発が起こった様子はない。

     

    ワタナベは、真実を言っていたのだ。

     

    (=゚д゚)「……どうして、協力したラギ?」

     

    ますます答えが分からなくなる。

    二人だけとなったプールサイドで、トラギコはワタナベに問う。

     

    (=゚д゚)「答えろよ」

     

    ワタナベは答えない。

     

    (=゚д゚)「あいつらの仲間なんだろ?

        どうして裏切ったラギ?」

     

    ワタナベは首を横に振るだけ。

     

    (=゚д゚)「裏切ってないなら、どうして爆弾の位置を全て教えたラギ?」

     

    笑顔のまま、ワタナベは答えを言おうとしない。

    気に入らない。

    この、善意で動いたと言わんばかりの態度が気に入らない。

     

    (=゚д゚)「おい、答えろよ、ワタナベ・ビルケンシュトック」

     

    ''从「……」

     

    それでもワタナベは、黙ったままだった。

    潮風がうるさい。

    懐に手を伸ばして、瞬時にベレッタを構えた。

    銃口はワタナベの心臓に向けられていたが、ワタナベは銃を構えようともしない。

     

    こちらが撃たないと思っているのだろう。

    悔しいが、正解である。

    今は撃てない。

    ワタナベは多くを知り、多くを隠している。

     

    それ故に、殺せない。

    殺させることさえも出来ない。

    この女は、それを知っているのだ。

     

    ''从「もういいかしらぁ、刑事さん?」

     

    (#=゚д゚)「この糞アマが!!」

     

    その挑発に乗るほど、トラギコは愚かではない。

    怒りに身を任せて銃爪を引けば、真実に繋がる道が一つ途絶える。

    ベレッタをホルスターに収めようとした時、ワタナベは船首を指さして言った。

     

    ''从「操舵室の人間、全員さっきのお仲間よぉ」

     

    (;=゚д゚)「何?!」

     

    ''从「早めに処理しておかないと、後が大変だと思うなぁ」

     

    つくづく腹の立つ女だ。

    必要な情報が手に入り次第、必ず殺そうとトラギコは決意した。

    今すぐに操舵室に駆け出したいところだが、ワタナベを放置しておけば逃げられる可能性がある。

    むしろ先ほどの段階で逃げられたのに、それをしなかったことが奇妙だ。

     

    だが今度は逃げるかもしれない。

    そう思ったトラギコは、迷わずに手錠を取り出した。

     

    (=゚д゚)「一緒に来るラギ」

     

    ''从「手錠なんかいらないわよぉ」

     

    (=゚д゚)「殺人狂の言うことなんて、信じられるわけねぇラギ」

     

    ''从「ふふふ、刑事さぁん。 すぐに分かる嘘はだめよぉ。

         今は私の言葉を信じるしかないものねぇ」

     

    その通りだ。

    完膚なきまでに、その通りだ。

    徹頭徹尾、一部の隙もなくその通りだった。

    ワタナベは船内にいる、唯一の情報源。

     

    それからもたらされる情報を信じる以外、今のトラギコにはなす術がない。

     

    (=゚д゚)「……手錠とそれとは別ラギ。

        俺が見てないところで手前が余計なことをしない保証はないラギ」

     

    相手は殺人狂。

    殺すことで快楽を得る、最悪の類の人種だ。

    間違いなく今ここで殺すことこそが、世界平和のために出来る最も手軽な手段だ。

     

    (=゚д゚)「だが情報源は逃がしたくない。

        だから、一緒に来るラギ」

     

    ''从「乱暴なのはいやだしぃ、手錠なんてもっといやだわぁ」

     

    (#=゚д゚)「図に乗るなよ、殺人狂。

         この糞事件がなければ、手前を刺身にしてやってるところラギ」

     

    ''从「ふふ、それは楽しそうねぇ。

         それより、ねぇ、時間は大丈夫?

         その気になれば、この船をどこかの岩礁にぶつけることも出来るのよぉ?」

     

    彼女の言う通り、時間がなかった。

    手錠を元に戻し、トラギコは操舵室に向けて走り出した。

    ワタナベ一人を殺すことよりも、まずはオアシズの乗客たちの安全を確保する方が重要である。

    非常に惜しいが、今は諦めるほかない。

     

    何から何までワタナベの思惑通りに動いている自分が、トラギコはこの上なく嫌だった。

    そして、操舵室に駆け込んだ時、トラギコはその異様な光景に我が目を疑った。

     

    (;=゚д゚)「あぁん?」

     

    ''从「あれれ~?」

     

    そこには、誰の姿もなかったのである。

     

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                      トv:::::::::::::::::::::::::::::::::::`ミヽ

                    〉:::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::

                      /:::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::

                 〈:::::::::::::::::::: 0::: |:::::::ヘ ハ

                    ヾ:::::::::::::::::::::::::::: |::ト、ソ

                    ヽ:::::::::::::::::::::::/ `|

                           Ammo for Tinker!!

                       第二章 【集結- concentration -

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    二口目のパンを口に含み、それをゆっくりと噛み締める。

    味はあまり感じられなかった。

    あの時、操舵室には誰もいなかった。

    徹底的に現場を調べたが、僅かな血痕すら見つけられなかった。

     

    埃が拭き取られた跡を見つけ、誰かが何かを隠したことが分かった。

    だが、誰が隠し、何を隠したのかは分からない。

    同伴していたワタナベは肩を竦めて、自分は知らないと主張した。

    ここまで来て無関係を装う意味はない。

     

    つまり、ワタナベはこの事態を本当に想定していなかったのだ。

    今頃、船内の警察たちが証拠を探している事だろう。

    ルミノール反応が一部の床から検出されたと報告があったが、死体が見つかっていない。

    どのタイミングで何が起きたのかが分からないが、船長とその他クルーが失踪していることから、全員殺されて海に捨てられたのだろうと推測された。

     

    ワタナベの証言が狂言だったとは思えない。

    この時点でトラギコは、ある推論を持っていた。

    確かに操舵室は海賊たちによって一時的に占拠されたが、何者かの活躍によって奪い返されたのだと。

    それが誰であるか、概ね見当はついている。

     

    金髪碧眼の旅人だ。

    トラギコと別れた直後、あの女が操舵室に直行していたと考えれば、被害が拡大しなかったのも頷ける。

    気に入らないのは、それ以降会えていないことだ。

    一時的に手を組んだ間柄ではあるが、トラギコはあの旅人のことを快く思っていない。

     

    沿岸都市オセアンで起こった大きな事件。

    その重要参考人として、トラギコはその旅人をマークしている。

    現場に残された大口径の拳銃弾の薬莢だけが、旅人と事件を結びつける唯一の手がかりだ。

    何度か取り逃がしたが、ようやく追いついた。

     

    このまま決定的な証拠を見せるまで、執念深く追跡を行えば何か一つぐらいは成果があるだろう。

    そのためにも、早い段階でこの殺人鬼から情報を絞り出して殺さなければならない。

    再びパンを齧り、咀嚼し、味わい、ウィスキーにて飲み込む。

    兎にも角にも、今は待つしかない。

     

    ――トラギコはグラスの中身を一気に飲み干し、深い溜息を吐いた。

     

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    それが夢だと分かるのに、そう時間は必要なかった。

    両の拳は赤く腫れ、皮が剥け、血が滲んでいる。

    焼けつくような頬の痛み。

    頬にできた深い切創から滴り落ちる血が足元を汚す。

     

    足元には顔が変形した男の死体が転がっていた。

    砕けた頬骨が皮を突き破り、歯は根元から折れて辺りにその破片が散っている。

    片目は抉れ、潰れた眼球が床に落ちていた。

    頭皮ごと引き剥がされた髪の毛は暖炉の中で燃え、異臭を漂わせている。

     

    肋骨、肺、内臓は外部からの強い衝撃によって砕け、潰れていた。

    取り分け損傷が酷かったのは、男の股間だ。

    そこにある性器は睾丸が両方とも捻り潰され、陰茎は力任せに引っ張られたために内部の血管や神経系の管が裂かれ、亀頭は乱暴に千切られ、性器は皮一枚の状態で根元と付いていた。

    全体的に念入りに何度も蹴り潰されたために鬱血しており、黒ずんだ色をしていた。

     

    絶命に至るまでに男が味わった苦痛は、筆舌に尽くしがたいものだっただろう。

    だが、この男がやってきた事を考えれば当然の報いだ。

    罰は確かに下された。

    法と正義が見過ごした畜生を、確かにこの手で殺めた。

     

    それがこの上なく嬉しく感じ、それが人生で最も虚しい喜びでもあると感じた。

    当時とは違い、今は虚しさに胸を痛めることもない。

    周囲からの罵倒に対して苛立ちを感じることもない。

    何故ならこれは夢。

     

    ただの、夢なのだ。

     

    これは全て夢なのだ。

    もう終わった事だ。

    十五年前に起こり、そして終わった話だ。

    何故このような夢を見たのか、理由は分かっている。

     

    CAL21号事件”

     

    ショボン・パドローネが口にした忌々しい事件。

    その結末が、この夢だ。

    刑事になって間もない頃に起きた、異常性癖者による女児暴行殺人事件。

    これは、終わった話だ。

     

    そして夢だ。

    夢を見ているということは、眠ってしまったということ。

    最悪の目覚めだが、トラギコはゆっくりと瞼を上げ、項垂れていた頭を持ち上げた。

    ワタナベはまだ眠っているだろうか?

     

    ''从「おはよー」

     

    (;=゚д゚)。゚ ・ ゚「ぬおっ?!」

     

    眠っていた時間は分からない。

    うたた寝とはそういうものだ。

     

    (;=゚д゚)「手前、いつから……」

     

    ''从「刑事さんが眠ってからよぉ」

     

    あり得ない。

    そんなタイミングよく事が起こるはずがない。

    となれば、考え得る限り最も高い可能性があるのは――

     

    (#=゚д゚)「寝たふりしてたラギね!!」

     

    ――この女は、演技をしていたのだ。

    睡眠薬が盛られたということを理解しており、それに備えて意識を固めていたのだ。

    薬による睡眠に対して最も有効なのは、個々人の意識だ。

    現在自分が陥っている状況が、異常か否かがすぐさま判断出来れば、目覚めるのは難しくない。

     

    そして推測ではあるが、ワタナベは睡眠薬に対して耐性がある。

    適量以上を盛ったにも拘らず自らの意志で目覚めるためには、薬に対する耐性が欠かせない。

    恐らくは常人以上の睡眠薬を飲んで訓練を積み、その体に耐性を付けたのだろう。

    数ヵ月ではなく、数年の時間をかけて、その耐性を手に入れたのだ。

     

    ''从「思いの他楽に事が進んで助かったぁ。

         おかげで、刑事さんの寝顔を見れたわぁ」

     

    (#=゚д゚)「いいか阿婆擦れ、手前の状況が分かってるラギか?」

     

    ''从「尋問しても何もしゃべらないわよぉ。

         それともぉ、私と一発犯ってみるぅ?

         そうしたらぁ、喋っちゃうかもしれないわよぉ」

     

    (#=゚д゚)「お断りラギ!!」

     

    ''从「ふーん」

     

    駄目だ。

    この調子では尋問したところで意味がない。

    かといって、この女の言った通りにしたところで話す保証はどこにもない。

     

    ''从「ねぇ、この手錠外してくれないかしらぁ?

         それとも、手錠をしたまま犯すのが好みぃ?」

     

    (=゚д゚)「ふざけるのもそこまでにするラギ、ワタナベ。

        俺は短気ラギ」

     

    ''从「知ってるわぁ」

     

    トラギコの言葉を聞いて、ワタナベは軽く笑ってからそう言った。

    人を小ばかにしたような飄々とした態度。

     

    (=゚д゚)「手前をダルマにしてやろうか?」

     

    ダルマとは、遥かな昔に山で修業をした一人の僧を意味する。

    その僧は不屈の精神をもって山籠もりをし、幾日も岩肌を前に精神統一をしたという。

    彼に因んで作られた人形は四肢がなく、何度倒しても必ず起き上がる性質を持っている。

    人形同様、四肢を失くした状態のことをダルマという。

     

    ''从「無理無理ぃ。 刑事さんはぁ、とーっても頭がいいからぁ、そんなことはしないわぁ」

     

    ワタナベの何が嫌いかと問われれば、トラギコは真っ先にその勘の良さを挙げるだろう。

    彼女の言う通り、トラギコはワタナベを殺せない。

    ましてや、四肢を切断することに対してのメリットを見出せない。

    最悪の場合は死に至る四肢切断を、ここで行えるはずがない。

     

    (=゚д゚)「……だけどな、腱を切ることぐらいは出来るラギよ」

     

    腱を切るのは得意だ。

    目隠しをしてでも、正確無比に切断出来る自信があった。

     

    ''从「あぁ、やっぱりアニーは刑事さんの仕業だったの」

     

    その言葉は、トラギコの頭の中で瞬時に別の物事と結び付けられた。

    フォレスタで発見された、青年。

    腱を切って逃げ出せないようにしておきながら、何者かに持ち去られた男。

    ここ最近で名前を知らずに腱を切ったのは、その男だけだった。

     

    (=゚д゚)「あの男と知り合いラギか?」

     

    ''从「手錠を外してくれたらぁ、そのあたりのこと教えてあ・げ・る」

     

    トラギコは何も言わずに、食べかけのパンと酒の入ったグラスをテーブルに置いた。

    そして、振り返りざまにワタナベの腹を強打した。

    予め備えていなければ、内臓を破裂させ得るほどの強打だったが、帰ってきた反応は内臓の柔らかなものではなく鉄のように固いものだった。

     

    ''从「こわーい」

     

    (=゚д゚)「そんな固い腹筋の女の両手がフリーになったら、ろくでもないことにしかならないラギ」

     

    案の定、ワタナベは腹筋に力を入れてトラギコの不意打ちに対処した。

    これぐらいは出来るだろうと思っていたのだが、正解だった。

    初めてこの女に会った時、正直トラギコはときめいた。

    久しぶりの強敵だと思ったのだ。

     

    その直感は、半分だけ当たった。

    確かに強敵ではあったが、極上の屑だった。

    極上の屑は、大嫌いだった。

     

    (=゚д゚)「意地でも吐くつもりはないラギか?」

     

    ''从「お仕事だもの、当然よぉ」

     

    (=゚д゚)「なら、手前はセカンドロックに送るラギ」

     

    世界で最も堅牢な警備態勢が敷かれた刑務所、セカンドロック。

    離島一つを刑務所として作り変えたそこは、脱出不可能と言われる施設だ。

    尋問担当の人間は生粋のサディストで、人の叫びを聞くことを生き甲斐とし、相手に苦痛を与える様々な手段を知っている。

    人から情報を聞き出すという点で言えば、トラギコよりも優れた人間が揃った場所だ。

     

    ''从「あらあら、随分と乱暴ねぇ」

     

    (=゚д゚)「俺に話すか、それとも尋問担当の糞野郎に話すのか、それだけの違いラギ」

     

    ''从「ふぅん…… ティンカーベルに着いたら、その時に答えるわぁ」

     

    狡い女だ。

    可能な限り時間を引き伸ばし、状況を打破する糸口を掴む算段なのだろう。

    少しでも可能性を手に入れておけば、それに越したことはない。

    しかし、それに頷くトラギコではない。

     

    犯罪者に余計な考えをさせる隙を与えては、この先に影響が出ることをよく知っていた。

     

    (=゚д゚)「駄目ラギ。 今日中に答えを出すラギ。

        返答によっちゃ、ジュスティアの刑務所で勘弁してやるラギ」

     

    ''从「私が唯一の証人なのにぃ、そんなに強気でいいのかしらぁ?」

     

    自分の重要性を理解しているからこそ出来る言動。

    どこまでも腹立たしい女だった。

    トラギコがワタナベを重要視し、その情報に対してかなり期待していることを見抜かれている。

    この短時間の間に、そこまで見抜かれたのは計算外だ。

     

    正直、トラギコはワタナベを殺せない。

    少なくとも、彼女が豊富な情報を持っている以上、彼女を守ることさえ有り得る。

    脅しはするが、結局のところ、それは言葉だけで終わってしまう。

    もちろん、セカンドロックの尋問担当官に引き渡すのも一つの手だが、それは避けたい。

     

    死なれては困るし、心を壊されても困る。

    出来ることなら、自分の手で情報を自分のところにだけ残しておきたい。

    警察本部には知られたくなかった。

    トラギコには彼なりの考えというものがあり、それを乱される要因は作りたくないからだ。

     

    (=゚д゚)「……じゃあ、今すぐに一つだけ教えてほしいことがあるラギ。

        どうして、俺に情報を流したラギ? それを言えば、今日は待ってやるラギ」

     

    ''从「だからぁ、お礼だってばぁ」

     

    (=゚д゚)「俺は手前に貸しを作った覚えはねぇラギ」

     

    ''从「お味噌汁美味しかったわよぉ」

     

    トラギコは一瞬、その言葉の意味が分かりかねた。

    確かに最近、味噌汁を作った。

    インスタント食品だけを使った、非常に質素な味噌汁を。

    だが、それはジュスティアからオアシズに向かった高速艇の中で振る舞ったのが最後だ。

     

    その時に振る舞ったのは海軍の強襲専門部隊、“ゲイツ”だけだった――

     

    (;=゚д゚)「……まさか」

     

    ''从「うふふ」

     

    あの時、船に乗っていたのだ。

    ワタナベはゲイツに紛れて、オアシズへの乗船を成功させた。

    ならば、必然的にもう一つの可能性が浮上する。

    カーリー・ホプキンスを除いたゲイツの全員が、入れ替わっていた可能性だ。

     

    いや、変わっていたに違いない。

    この殺人鬼が紛れ込むということは、そういうことなのだ。

     

    (;=゚д゚)「手前、“本物の”ゲイツの連中を殺したラギか!?」

     

    力量、度量、そして場数。

    トラギコには及ばないが、海軍からの選りすぐりの人間がジュスティア軍に知られることなく殺された。

    ショボンとワタナベが属する組織は、ただの狂人の集まりではない。

    実力が伴った集団だ。

     

    ''从「なーに言ってるのぉ?

         ゲイツの人たちはぁ、ここで戦ってぇ、ここで死んだのよぉ?」

     

    ワタナベたちの計画の全貌はどうあれ、ゲイツはその中身のほとんどが入れ替わった状態にあった。

    その状態にもかかわらず、ホプキンスは気付けなかった。

    ゲイツの全員が目だし帽を被っており、ほとんど言葉を発さなかったからだ。

    だが、それだけでは隠しきれない。

     

    軍人の絆は非常に硬い。

    部隊外の人間が紛れ込めば、気付くはずだ。

    それを避けるには、二つだけ方法がある。

    ホプキンスと共に乗船する予定の人間だけが事前にジュスティアに潜り込み、ゲイツとして部隊に編入されるのを待っていた可能性が一つ。

     

    もしくは、もともとゲイツだった人間が裏切ったのか。

    どちらにしても、あの時トラギコの乗った船にはトラギコとホプキンスの二人を除いて、全員が裏で手を組んでいたのは間違いない。

    それならば、気付けるはずがない。

    最低限のカードだけ本物にし、目の届かないカードを全て入れ替えれば、真実に気付く方が異常だ。

     

    ゲイツが瞬殺されたのも得心がいく。

    瞬殺されたのはホプキンスだけで、それ以外はその場で海賊へと転身したのだ。

    後は全員殺されたと偽りの報告をすれば、状況的にはゲイツは全滅したことになる。

    それは、海賊から別の存在になり替わることも可能だということを示していた。

     

    全員の死亡が確認されたゲイツだが、誰も、彼らの素顔を知らない。

    ただ、ゲイツの格好をしていたから、という理由だけで死体袋の中に収められているだけなのだ。

     

    ''从「うふふぅ」

     

    トラギコはワタナベをその場に残し、拳銃とアタッシュケースを手に部屋を飛び出した。

     

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    部屋は第五ブロックの最後尾にあり、無骨なパイプが剥き出しとなった機関室に通じる道の途中にあった。

    本来の目的としては、要隔離者を安全に隔離するためのもので、一般人はその存在に気付くこともない部屋だ。

    医務室に向おうと勇んだトラギコだったが、そこに辿り着くことは叶わなかった。

    部屋を出てすぐの場所で彼を止めたのは、意外な人物だった。

     

    £;°ゞ°)「トラギコ様、ですね」

     

    それは、五つのブロックに分けて統治されるオアシズの第二ブロック長、オットー・リロースミスだった。

    いつものように糊の効いたシャツと皺のないスーツ、そして胸ポケットにモノクルを挟んだ姿はどのような時でも絵になる。

    オアシズの厄日を解決する際に図らずも大きな影響を与えた人物だが、それを鼻にかけるような真似をしないところに、トラギコは好感を持っていた。

    呼び止められたトラギコは、彼からただならぬ空気を感じ取り、大人しくそれに従った。

     

    £;°ゞ°)「至急、お伝えしなければならないことがあります」

     

    (=゚д゚)「何ラギ?」

     

    £;°ゞ°)「実は、先ほどジュスティア海軍からオアシズ向けに無線信号が届きまして……

           そのコードが、私共の持ち合わせているどのコード表とも合わないのです。

           無論、ジュスティア軍が使用している緊急信号コードでもありませんでした。

           何かの指示だと思うのですが、妙なことに、我々には一切事前の連絡がないのです。

     

           つまり、これは船内にいる軍の方に向けて送られているものだと推測されます」

     

    (=゚д゚)「それがどうしたって言うラギ?」

     

    苛立ちが声に出てしまったことに、トラギコは気付いていた。

    だが、時は一刻を争う。

    もしも残党がオアシズ内に残っていたら、再び船を沈めるための工作をするに違いないからだ。

     

    £;°ゞ°)「おかしいとは思いませんか?

           ゲイツは全滅しているのに、どうして軍から連絡が来るのでしょうか?」

     

    (;=゚д゚)

     

    確かに、その通りだ。

    全滅したということを知っているはずなのに、連絡を入れるということは明らかに異常だ。

    死人に手紙を書くよりも無意味だ。

    今はまだ、その意味が分からない。

     

    £;°ゞ°)「何かが、おかしいのです」

     

    (;=゚д゚)「それで、俺に何を期待しているラギ?」

     

    £;°ゞ°)「暗号解読の協力をお願いしたいのです。

           恐らく、トラギコ様はこれから船内で海賊の残党を探そうとしていたのではないでしょうか?」

     

    (=゚д゚)「何でそれを?」

     

    海賊の残党が生き残っている可能性については、先ほどのワタナベの発言があったからこそ気付けた。

    会話を盗み聞きしていない限り、ロミスがそれを知れるはずがない。

     

    £;°ゞ°)「とある方が、そのはずだ、と……

           そのため、すでに信頼出来る人間が船内の調査に入っております」

     

    一瞬で思い当たる人物が浮かんだ。

    例の旅人だ。

    勘の良さはこれまでに会ってきたどの女よりも優れ、底知れぬ謎は未知のものだった。

    ここは思案のしどころだった。

     

    誰の考えに従うのか。

    自分か、それともあの旅人か。

     

    (=゚д゚)「……そいつに、分かった、と伝えてくれラギ。

        で、暗号は?」

     

    そう言って、トラギコはロミスから暗号の書かれた紙を受け取った。

    暗号は全て、数字で送られていた。

    一瞥してからそれを懐にしまい込み、踵を返した。

     

    £;°ゞ°)「よろしくお願いいたします、トラギコ様」

     

    (=゚д゚)「他の客には知られないようにしておくラギよ。

        今の空気を保ったまま、捜査を続けるラギ」

     

    £;°ゞ°)「はい、勿論でございます。

           あの方も、そう仰っていました」

     

    その言葉に、トラギコは苛立ちを覚えた。

    歯噛みし、部屋に戻った。

    乱暴に扉を閉め、懐から紙を取り出す。

    数字だけを使った暗号だった。

     

    数は多いが、法則性を見つければ解読に時間はかからない。

    しかし、一秒でも時間を節約したいトラギコとしては、それを真っ先に解読しようとは思わなかった。

    手錠でベッドに貼り付けにしたワタナベの傍に立ち、紙を見ながら質問した。

     

    (=゚д゚)「おいワタナベ。 手前、暗号は得意ラギか?」

     

    ''从「ぜぇんぜん。 ねぇ、それより喉乾いたんだけどぉ」

     

    その言葉を黙殺し、ソファに腰かけた。

    並んだ数字はある塊ごとにスペースが挟まれ、区切られていることが分かる。

    つまり、文章であることが分かる。

    数字の法則性を見ると、一から二十六までしか使われていない。

     

    これを文字に直せば、と考えるのは誰もが通る道だろう。

    実際に文字に置き換えると、意味の通らない文章になる。

    この文字を更に、別の配列表に従って変換しなければならないのだが、その表がないことには分からない。

    文章の先頭にある数字が、おそらくはその配列表の種類を指しているのだろう。

     

    ''从「おしっこもしたいなぁ」

     

    海軍の暗号表は頭の中に入っている。

    その番号に該当するものに照らし合わせて改めて文章化するが、意味が通らない。

    全く新しい暗号だ。

    普通、新たな暗号が開発されたら警察官にも知らされるはずだ。

     

    無線が使えるオアシズにそれが来ていないということは、出来たばかりの暗号表ということになる。

    しかし、それでは筋が通らない。

    オアシズに向かう直前になって発行された暗号でない限り、オアシズの警察官にそれが知らされていないはずがない。

    軍が独自で動いている可能性が、そこから浮上した。

     

    トラギコはこれまでに何度か軍上層部の人間と会ったことがある。

    融通の利かなそうな堅物ばかりという印象があったが、規則を破ることはしない性格をしていた。

    その軍がこのような行動に出るということは、何か大きな思惑が働いていると考えられる。

     

    ''从「ねぇ、刑事さぁん。 聞いてるぅ?」

     

    この非常時において、軍が動くメリットとは何であろうか。

    事実の隠蔽工作ぐらいしか、思い浮かばない。

    軍が行う隠蔽工作は存在の抹消だ。

    いや、ジュスティアに限ってそれはない。

     

    市長であるフォックス・ジャラン・スリウァヤが許すはずがない。

     

    ''从「ねぇってばぁ」

     

    (#=゚д゚)「さっきから五月蠅いラギ!!

         牛乳を拭いた雑巾でも咥えたいラギか!!」

     

    ''从「それ、ちょっと見せてくれるかしらぁ?」

     

    (#=゚д゚)「あぁん?! これはおもちゃじゃねぇラギ!!」

     

    ''从「いいから早くぅ」

     

    珍しく、ワタナベの目が笑っていなかった。

    いつもの狂ったような光はなく、それまでの全てが演技であるかのような、静かな目をしていた。

    口調こそ変わらないが、その言葉の中に含まれる彼女の本心の片鱗を垣間見たような気がして、トラギコは仕方なしにそれを見せた。

    一分ほどの沈黙を挟んで、ワタナベがトラギコを見て言った。

     

    ''从「あららぁ、刑事さん、人気ねぇ」

     

    (#=゚д゚)「どういう意味ラギ?」

     

    ''从「 “指示があるまで待機。 虎から目を離すな” だってさ」

     

    (=゚д゚)「は?」

     

    ''从「虎って刑事さんのことでしょぉ?」

     

    何故、自分が監視の対象になっているのか。

    その意味が分からない。

    そしてこれが事実だという証拠は、どこにもない。

    ワタナベが面白がっている可能性も否定出来ない。

     

    (=゚д゚)「テキトーかましてるんじゃねぇラギ」

     

    ''从「解釈はどうぞお好きにぃ」

     

    仮に、ワタナベの言が本当だとしたら、この部屋から出ない方が何かと便利だ。

    監視対象だとわかっているのなら、監視されないようにすればいい。

    この部屋には監視カメラがない。

    中の様子を知りたければ集音マイクを使うしかない。

     

    (=゚д゚)「何で手前が、この暗号を読めるラギ?」

     

    ''从「そりゃあ、知ってるからに決まってるじゃなぁい」

     

    (=゚д゚)「これは軍から送られてきた暗号ラギ。 手前が読めて、俺が読めないってのがおかしいラギ」

     

    ''从「発信元が軍ってだけでしょぉ?」

     

    先入観は真実を捻じ曲げる。

    それは、警官として初めて人を殺した時に学んだことだ。

    ワタナベが実証した通り、軍には彼女の仲間が潜伏している可能性が大いにある。

    暗号を発信することなど、難しくないはずだ。

     

    ワタナベにそれを思い出させられたと考えると、無性に腹が立つ。

     

    (=゚д゚)「一体手前らは、軍のどこまで入り込んでるラギ?」

     

    ''从「しーらない」

     

    軍部に深く入り込んでいるのならば、下手に関わらない方がいい。

    トラギコがそのことをジュスティアの上層部に話したとしても、揉み消されたりトラギコが消されたりする可能性の方が高い。

    知らないふりをしたまま、ことを進めるのが利口だ。

     

    (=゚д゚)「ちっ、まぁいいラギ。

        俺はロミスを探してくるラギ」

     

    ソファから立ち上がると、ワタナベが声をかけた。

     

    ''从「で、喉が渇いたしぃ、トイレにも行きたいんだけどぉ」

     

    (=゚д゚)「我慢しろ」

     

    とは言う物の、ベッドの上で失禁、脱糞をされれば困るのはトラギコだ。

    異臭の中で眠るのも食事を摂るのも好きではない。

     

    (=゚д゚)「ったく、面倒な奴ラギね」

     

    まず、ワタナベの足をベッドと繋いでいた手錠を外す。

    足癖の悪い人間と何度か殴り合ったことがあったので、あらかじめ警戒を怠らない。

    特に抵抗する素振りも見せず、ワタナベは両足に手錠がかけられるのを黙って見ていた。

    最後に、両手の手錠を外し、改めて後ろで手錠をかけた。

     

    (=゚д゚)「ほら、トイレに行くラギ」

     

    ''从「どうもぉ」

     

    トイレにワタナベを押し込み、扉を開けてその様子を監視する。

     

    ''从「ちょっとぉ、そういうのが好きなのぉ?」

     

    (=゚д゚)「五月蠅い黙れ」

     

    無論、異性の放尿に興奮する趣味はない。

    羞恥に頬を赤らめる様に対して性的な魅力を感じることもまた、あり得ない。

     

    ''从「見られてるとしにくいんですけどぉ」

     

    (=゚д゚)「黙れ、そしてさっさと済ませろ」

     

    先ほどからワタナベといるせいで、ペースが乱れてしまう。

    それを防ぐ最善の手段は、会話をしない、ということしか考え付かなかった。

    瞬きひとつせず、腕を組んでワタナベが用を足すのを見届けた。

    後ろで手錠をかけられている割には、器用にズボンを履き、水を流して手を洗っている。

     

    ''从「変態ぃ」

     

    (=゚д゚)「黙れ」

     

    一定の距離を空けて後ろから追い立て、ベッドにワタナベを仰向けに寝かせる。

    トラギコは両足首にそれぞれ新たに手錠をかけ、それをベッドと繋いだ。

    これで、逃げることは出来ない。

     

    (=゚д゚)「俺は出かけてくるが、知らねぇ連中が来るかも知れないラギ。

        ま、そん時はそん時ラギ」

     

    犯罪者の身の安全など、守る義務はない。

    トラギコが守るのは、情報だ。

    ワタナベの持つ情報を護るために、少しだけ手を貸すことはするつもりだった。

    そう。

     

    護るのは、情報のためなのだ。

     

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    ロミスを探す中で、トラギコは自分が複数人に尾行されていることを察知した。

    部屋から出て、第五ブロックの一階の通りを早足で歩く中で、少なくとも二人の存在を確認した。

    上手に尾行しているが、トラギコの研ぎ澄まされた感覚と積み重ねてきた経験の前には無意味だ。

    船の構造を完璧に知っているわけではないため、誘い込んで撃退することは出来ない。

     

    第二ブロックまでの道中で五回、尾行されていることが分かった。

    同一人物かどうかの判断は出来なかったが、三度同じ癖を感じることがあった。

    危害を加えられることも交戦をすることもなくロミスの部屋に来たトラギコは、改めて左右を確認してから、扉をノックした。

    ほどなくして扉が内側から開かれ、ロミスは軽い挨拶をして、トラギコを招き入れた。

     

    来客用の部屋に通されそうになったが、トラギコは手早く要件を伝えて部屋に戻りたかった。

     

    (=゚д゚)「指示があるまで待機。 虎から目を離すな、だとよ。

        どうやら連中の狙いは俺らしいラギ。

        あの女にそう伝えておけラギ」

     

    £°ゞ°)「かしこまりました。 この後の予定は?」

     

    (=゚д゚)「部屋に戻るラギ。

        俺が注目を集めていれば被害は広がらないはずラギ。

        また何か連絡があったら、俺に教えろラギ」

     

    挨拶も会話も最低限で済ませ、トラギコは部屋を足早に出て行った。

    帰り道、トラギコは尾行者が一人もいないことに気付いた。

    それがあまりにも不自然なことであると理解したのは、第四ブロックに差し掛かった時だった。

    行き先だけを確認する尾行など、聞いたことがない。

     

    尾行とはその人間の行動を監視するもので、監視対象から目を離すことがあってはならないのが鉄則だ。

    そもそも、トラギコを監視対象にした理由が分からない。

    暗号解読は得意な方ではないし、その手のことで何か功績を残したこともない。

    この事件解決にあたって活躍したのはトラギコではなく、別の旅人だ。

     

    ――それは本当に、尾行だったのだろうか。

    もしもそれが、トラギコがロミスの部屋に行くのを見届けただけだとしたら。

    その目的は、部屋への侵入と物色。

     

    (;=゚д゚)「あ、あ……」

     

    トラギコは、全力で駆けた。

    人とぶつかり、押しのけ、部屋に向かう。

    角を曲がり、部屋に通じる廊下を走りながら、ベレッタを抜く。

    部屋の前に来て、扉が少しだけ開いているのを見てトラギコは背筋が凍る思いをした。

     

    扉を蹴って開き、トラギコは叫んだ。

     

    (#=゚д゚)「ワタナベェ!!」

     

    そこに、ワタナベの姿はなかった。

     

    (#=゚д゚)「くそっ!!」

     

    まず初めに、トラギコは部屋の中に踏み込むことをしなかった。

    這いつくばるようにして絨毯の敷かれた床に目線を合わせ、足跡を探す。

    三人分の足跡が僅かだが残されていた。

    侵入者は二人、部屋を出ていったのが三人だ。

     

    毛の倒れ具合を見ると、侵入者の二人は男で、出て行った内の一人は女だ。

    証拠を残さないためか、手錠は現場に残されていない。

    争った形跡もなく、ワタナベが侵入者の力を借りてここから逃げたのだと推理できた。

    これが故意か偶然かは、正直分からない。

     

    ワタナベが解読した暗号に別の何かが記載されていた可能性も十分にあり得る。

    そして、侵入者がワタナベの脱走の手助けをするために来たのか、それとも何か物色するために来たのか、今は分からない。

    トラギコは常に道具を持ち歩く癖をつけ、メモは取らないようにしている。

    万が一の際、誰かに情報を与えないためだ。

     

    しかし、最も重要な情報源が失われてしまった。

    これは由々しき事態だったが、ここは洋上の孤島にも等しい場所だ。

    必ずどこかにいる。

    ティンカーベルに到着する前に見つけ出すことが急務だった。

     

    ――だが、二日が経ってもその姿を見つけることは出来なかった。

     

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    八月九日、午前九時十分前。

    見事なまでの青空が広がっていた。

    水平線の彼方に小さな雲が浮かび、その手前に小さな島々が見える。

    あれが、ティンカーベルだ。

     

    “鐘の音街”と呼ばれる所以は、最も大きな島に聳え立つ鐘楼にある。

    重々しくも澄み渡った鐘の音が島全体に響き渡る姿は、小さな島ながら圧巻だという。

    大きく分けて三つの島、そして複数の小さな島からなるティンカーベルは、ジュスティアと長い間協力関係にある街だ。

    世界で最も警備の厳しい、脱獄不可能と言わしめる“セカンドロック刑務所”があるのは、更に沖にあるジェイル島だ。

     

    三つ折りの観光用のパンフレットを広げ、島の名前と建物の位置を見る。

    街の中心となるのが、今目の前に見えている鐘楼を持つ“グルーバー島”。

    そこから東西に向かって伸びる二本の長い橋がある。

    西には“バンブー島”、東には“オバドラ島”。

     

    ウィスキーの製造が盛んなのがバンブー島で、オバドラ島は豊かな自然と調和した街並みが見どころだという。

    一ミクロンも観光に興味がないトラギコは、ワタナベ達を探すのであれば、グルーバー島に滞在するべきだと考えた。

    このオアシズが寄港するのは、船着き場としての役割を持つ小さな島だ。

    グルーバー島まで徒歩五分。

     

    オアシズが出航するのは、明日の午前十時ちょうどだ。

    このまま船に残れば、トラギコを監視する人間をオアシズに残すことになる。

    それならばいっそ、ティンカーベルに連れ込んだ方が何かとやりやすい。

    船首に立って潮風を顔に浴び、苛立つ頭を冷やすトラギコは、パンフレットをジャケットの懐にしまった。

     

    (=゚д゚)「ん?」

     

    背後に気配を感じ、振り返る。

    そこには、オアシズの市長であるリッチー・マニーが立っていた。

     

    (=゚д゚)「何か?」

     

    声をかけると、マニーは笑顔を浮かべながらトラギコの横に並んだ。

    まっすぐに前を向きながら、マニーは口を開いた。

     

    ¥・∀・¥「お話があります」

     

    それに倣って、トラギコも前を向く。

     

    ¥・∀・¥「警察、およびジュスティア軍にある命令が下りました。

          極秘裏にという念押しつきでしたが、トラギコ様にはお伝えしなければならないと思いまして」

     

    (=゚д゚)「もったいぶらないでいいラギ」

     

    ¥・∀・¥「まず、昨晩、セカンドロックから脱獄者が二名出ました。

          首謀者は、ショボン・パドローネ。

          警察が現在行方を追っているとのことです。

          そしてこれは現地からの情報ですが、ティンカーベルから外部に出る全ての道が封鎖されます。

     

          当船も例外ではなく、事件終息までは現地に滞在することになりそうです」

     

    動揺を隠すのは得意だったが、セカンドロックが破られたこととショボンの名前が同時に出てきたことを聞いては、それも無理だった。

    マニーは返答を待たずに、話を続ける。

     

    ¥・∀・¥「そして、警察と軍がトラギコ様をジュスティアに連れて帰るよう、命令を受けています。

          手荒な真似をしてでも、と」

     

    その内容は、ジュスティア軍から発信された未知の暗号文と似た部分があった。

    両方の目的はトラギコに向けられており、つまり、発信者が同一人物である可能性が高い。

    だがやはり、いくら考えても監視される理由が浮かばない。

     

    (=゚д゚)「理由は? 経費の使い過ぎとかラギか?」

     

    飲食代の全ては領収書を嫌がらせのように本部に送っている。

    経理の人間が激怒しているらしいが、そこまでされるものだとは思えない。

     

    ¥・∀・¥「不明です。 ですが、ティンカーベルの警察にも同様の暗号文が送られている可能性があります。

          すでに我がオアシズ内の警官たちも動いています。

          降船してからすぐに、ティンカーベル署の人間と協力して確保する作戦を立てています」

     

    嫌な話だ。

    捕まってしまえば、あの旅人を追跡することが困難になる上にワタナベへの足掛かりも失ってしまう。

    今はまだ追い続けなければならない。

    ようやく追いついた手がかりをここで失えば、これまでの時間の全てが無駄ということになる。

     

    どうあっても、捕まるわけにはいかない。

    特に、以前からトラギコに対して風当たりの強い警察上層部とは話をしたくはなかった。

     

    (=゚д゚)「あんた、市長だろ? そんなことホイホイと伝えたら不味いラギよ?」

     

    ¥・∀・¥「承知の上です。 トラギコ様は恩人です。

          我が家では、恩人に対しては最大限の感謝と恩返しをするのが流儀とされています。

          ……軍が動くなど、ただ事ではありません。

          何がご入用の品があれば、お申し付けください。 もうあと十分で、到着いたします」

     

    (=゚д゚)「気遣いありがとうよ。 なら、ちょっと頼まれてほしいことがあるラギ」

     

    それからトラギコは、小さな声で二つの要求を伝えた。

     

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    殺風景な港だった。

    船がゆっくりと停船し、接岸し、タラップが下ろされた。

    窓から外の様子をうかがいながら、トラギコは舌打ちをした。

    黒塗りのSUVの前に、観光客とは思えない風体の男が四人も立っている。

     

    懐の膨らみは、テーザー銃か拳銃のそれだ。

    目の配らせ方、足の運び方は間違いなく戦闘の訓練を積んだ人間であることを物語っている。

    恐らくは、この部屋を出た場所には警官が待っているだろう。

    力で押し通る他ない。

     

    (=゚д゚)「……さて」

     

    扉の前に来て、靴紐がしっかりと結ばれていることを確認する。

    気配がすると思った矢先、その勘が正しかったことを肯定するかのように扉が力強く三回ノックされた。

     

    「トラギコ・マウンテンライト、いるか?」

     

    (=゚д゚)「ちょっとそこで待ってるラギ」

     

    馬鹿だ。

    救いようのない馬鹿だ。

    本当に捕まえたかったなら、扉を吹き飛ばして侵入するべきだった。

    扉を開くと、そこには制服に身を包んだ警官がいた。

     

    人数は二人だった。

    足を扉の内側にさりげなく入れ込んできたあたり、話し合いということはなさそうだ。

    爪先を扉の内側にすれば、扉を閉じることは出来なくなる。

    聞き込みの時によく使う手だ。

     

    (=゚д゚)「どうしたラギ?」

     

    「少し話を――」

     

    扉を閉じさせないためのフット・イン・ザ・ドアではあるが、それ故の欠点がある。

    足を動かしてはならないという、精神的な拘束があることだ。

    つまり、攻撃をバックステップによって回避することは出来ないということ。

    ましてや、足に対しての攻撃は確実に受け入れなければならないのだ。

     

    この際、最も有効な攻撃は関節を狙った蹴りである。

    トラギコは躊躇うことなく、男の膝関節を踏みつけた。

    膝が逆向きに折れ、男は激痛と衝撃に転倒した。

     

    「ぐぅあっ!!」

     

    (=゚д゚)「おいおい、どうした?」

     

    待機していたもう一人が、腰から警棒を取り出した。

     

    「何をするかっ!!」

     

    (=゚д゚)「外出ラギ」

     

    警棒を降り被ったのが、男の敗因だ。

    トラギコはアタッシュケースを男の股間に向けて振り上げ、急所を強打した。

    多少の手加減をしたつもりだったが、声もなく気絶した男の様子を見ると、睾丸が潰れた可能性も否定出来ない。

    まずは二人を黙らせ、次にトラギコは貨物が積まれた船倉に向かった。

     

    積み荷を降ろす作業に紛れて船を降りれば、捕まらないで済む。

    三段飛ばしで階段を駆け下り、事前に用意されていた道を通って船倉に辿り着く。

    巨大な下開き扉の向こうから朝日が差し込み、船倉内のくぐもった空気は外の風が攫って行った。

    男達が大声を張り上げながらクレーンでコンテナを吊り上げ、移動させ、積んでいる。

     

    事情を知らない男たちは、トラギコを不審な目つきで見るが、積み替え作業という最も慌ただしい状況のために構うような素振りは見せなかった。

    積み上げられたコンテナの壁の間を走り、目印のつけられたコンテナの隣にやって来る。

    コンテナの扉を開き、そこに積まれていたフルカウルの電動バイクに跨り、エンジンをかける。

    アタッシュケースを後ろの席に紐で固定し、アクセルを弱めに吹かす。

     

    安全に留意しながら、ゆっくりとバイクを走らせ、ベルトコンベアに載せられて今まさに荷卸しされようとしているコンテナの隣に着いて進む。

    穏やかな坂を下り、遂に波止場に降り立つことに成功した。

    先ほど確認した警官たちは、タラップの傍から離れていない。

    気付かれないように慎重に進み、橋の前に来た時、彼は現れた。

     

    <_プー゚)フ「……」

     

    (;=゚д゚)「げぇっ!?」

     

    ――円卓十二騎士の一人、ダニー・エクストプラズマンだ。

    渾名である“番犬”は、下された命令を必ず遂行することからきている。

    言葉を滅多なことでは発しない分、彼の目と雰囲気は雄弁だ。

    一緒に来い、と言っている。

     

    <_プー゚)フ「……」

     

    (=゚д゚)

     

    橋の前に陣取り、腕を組む姿はあまりにも威圧的だ。

    だが、無言の圧に従う理由はない。

    中指を立て、トラギコはそれを返事とした。

    限界までアクセルを捻り、トラギコはバイクをエクスト目掛けて一気に走らせた。

     

    唸りを上げるバイクはまるで鉄の獣。

    その迫力は見かけ倒しではなく、実際に破壊力を持った現実的なもの。

     

    <_プー゚)フ「……」

     

    エクストは慌てることなく腰の位置で抜いたテーザー銃をその位置で構え、発射した。

    二本の針が突き刺されば、一発で感電し、動きを止められてしまう。

    咄嗟に車体を傾けてそれを回避し、エクストの脇を通り抜ける――

     

    (;=゚д゚)「ぬあっ!?」

     

    ――はずだった。

    突如としてバイクがつんのめり、トラギコの体が宙に投げ出される。

    中空で回転し、受け身もままならないまま、顔から地面に落下した。

    一瞬だけ目の前に火花が散ったが、命に係わる怪我はしなかった。

     

    悪態をつきながら上体を持ち上げ、状況の把握に努める。

     

    (;=゚д゚)「何だってんだ、糞っ」

     

    足元で無残に横転したバイクをよく見ると、フロントホイールの軸が不自然に砕けていた。

    何かが食い千切ったような痕跡を見咎め、トラギコはその正体に気付いた。

    銃弾だ。

    何者かがどこからか高速で移動するバイクの狙撃し、接合部を破壊したのだ。

     

    海風の影響を考えたとしても銃声が全く聞こえなかったことから、サプレッサーを付けた銃、もしくは遠距離からの狙撃だと考えられる。

    四方を海に囲まれ、その内一面はオアシズという巨体が遮っている。

    詳しくは分からないが、弾痕の形を見ると横から大口径の銃で撃たれたのだと分かった。

    方角はオアシズの方だった。

     

    つまり、中距離の狙撃だ。

    コンテナか、あるいは船のどこかに狙撃手が隠れているのだ。

    一歩間違えればトラギコの足が吹き飛ばされる可能性のある狙撃を、躊躇うことなく成功させた人間がいる。

    “鷹の眼”の異名を持つジュスティア屈指の狙撃手ならば、それも可能。

     

    カラマロス・ロングディスタンスならば、あるいは。

     

    <_プー゚)

     

    二十フィート離れた位置からトラギコを見るエクストはテーザー銃のカートリッジを交換し、再び狙いをトラギコにつけた。

    テーザー銃の威力はよく分かっている。

    チンピラ相手によく撃ったことから、その特性や癖を細かく体が覚えている。

    無論、訓練期間中に同僚に撃たれたり、上司に撃たれたりしたことで、その痛みも知っている。

     

    (;=゚д゚)「わかった、わーかったラギ。 とりあえず、荷物を持ってそっちに行くから撃つなよ」

     

    バイクに固定していたアタッシュケースを取り外し、両手で持って頭上にそれを掲げた。

     

    (=゚д゚)「全く、ついてねぇラギ…… なぁおいエクスト、一ついいか」

     

    <_プー゚)フ「?」

     

    (=゚д゚)『これが俺の天職なんだよ!!』

     

    <_プー゚)フ「!!」

     

    起動コードの入力と共に発射された二本の針。

    しかし、落下してきたアタッシュケースがそれを阻んだ。

    コードの入力が確認された時点で、コンテナ内の籠手はその姿勢から使用者の腕の位置を認識し、自動的に装着されるように工夫されている。

    緊急事態の近接戦闘に特化して作られただけあり、その装着速度と装着の容易さは他のそれとは一線を画すものがある。

     

    素早く空中で装着されたのは、トラギコの強化外骨格“ブリッツ”の籠手だ。

    状況を一瞬で把握したエクストは、テーザー銃を捨てて肉薄しようとする。

    それに対してトラギコは、バイクを投げ飛ばして応じた。

    急ごしらえの鎚ではあるが、威力と迫力は十分である。

     

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    獣じみた反応速度でエクストが後退し、その隙にトラギコはアタッシュケースを持って橋に駆け出していた。

    装備のおかげでエクストはどうとでも出来そうだが、厄介なのはカラマロスだ。

    動く目標に対しての狙撃技術が高く、乗り物に乗ろうものならすぐにエンジンを壊される。

    どれだけ狙撃の才能があろうとも、捕獲を義務付けられている以上は下手な狙撃は出来ないはずだ。

     

    それでも、足を撃たれる可能性は十分にある。

    狙撃から身を守るには、狙撃地点を把握し、動き続けることにある。

    出来る限り直線の動きを避け、動きを予測させないようにしなければならない。

    グルーバー島までの僅か百フィートの距離を、トラギコは全力で走った。

     

    このまま行けば直線に伸びる橋を渡ることになる。

    つまり、工夫を凝らそうとも必然的に直線に近い動きしか出来なくなってしまう。

    狙撃地点はこの船着き場の三時方向。

    予想ではあるが、カラマロスは小型船舶から狙撃してきた可能性がある。

     

    狙撃手は一度攻撃を与えたらその場から動くのが鉄則だ。

    それを簡単に行える船ならば、トラギコがどう逃げようが自分にとって有利な立ち位置を確保出来る。

    ここまでして捕えられる理由が知りたい。

    一体、ジュスティアはトラギコに何を求めているのか。

     

    ――突如、トラギコはその場に倒れた。

     

    半瞬遅れて、焼けつくような痛みが足に走る。

    この独特の痛みに、トラギコは覚えがあった。

    肉が抉られる痛みだ。

    痛む右足に目を向け、想像以上の負傷具合に冷や汗を流す。

     

    (;=゚д゚)「……ウソだろ、おい」

     

    トラギコの右足から、夥しい量の血が流れ出していた。

    銃創が太腿の裏側にあった。

    大口径の銃弾が掠めたことによって肉の一部が抉れただけで済んでいるが、当たり所によっては失血死もあり得る部位だ。

    直撃していれば、トラギコの右足は膝から先が吹き飛んでいただろう。

     

    これは警告の一撃ではなく直撃を狙った銃撃だと、トラギコは本能で理解した。

    すぐにアタッシュケースを広げ、それを楯の代わりに体の前に掲げる。

    小型ではあるが強化外骨格を運搬するためのコンテナだ。

    装甲の硬さは、下手な楯を容易く凌ぐ。

     

    狙撃手はトラギコを殺すことに対してなんら抵抗を抱いていないことを考慮すると、この状態ですら十分にまずい。

    片手で服の袖を引き千切り、止血作業を行う。

    出来るだけ早い段階で病院に行き、処置を受けなければならない。

    血が止まらない。

     

    血溜まりがみるみる大きく広がっていく。

     

    (;=゚д゚)「くっそ!!」

     

    目の前に掲げたケースを、尋常ではない衝撃が襲った。

    それを片手で抑えることは不可能であり、飛んできたケースが顔を強打する。

    その一発で軽く意識が飛びかけ、次の一撃でトラギコの意識はあと一歩で闇に落ちるところだった。

    失血による影響が思いのほか大きい。

     

    動脈を撃ち抜かれたとは考えにくいが、太い血管が数本千切れたのかもしれない。

    何度思い返しても、カラマロスに恨みを買った覚えはない。

    関わったこともないのに、瀕死の状態に追い込まれる意味が分からない。

    エクストですら、テーザー銃で対処していたのに、大口径の実弾で殺しにかかるというのは異常だ。

     

    思考が混乱していることに気付けなかったトラギコは、背後から近づいてくる車のエンジン音に気付くことが出来なかった。

    黒塗りのSUVがトラギコを銃弾から庇うように停車し、スライドドアを開いてエクストが現れた。

     

    <_プー゚)

     

    腕を掴んで引き上げられ、車に乗せられる。

    体の後ろで手錠をかけられ、顔に黒い頭巾を被せられた。

    抵抗は無駄だと分かっていたため、トラギコは状況の把握に努めることにした。

    運転手が一人、おそらく助手席にももう一人。

     

    そしてエクストともう一人が後部座席に座っている。

    自らの血の匂いに交じってするのは、新車とタバコの匂い。

     

    「トラギコ、止血作業をするから暴れるなよ」

     

    言われた通り、トラギコは足から力を抜いて止血作業を受け入れた。

    音から察する慣れた手つき。

    肌に触れる用意された道具の数々。

    一連の動きは全て、トラギコを誘い込むための罠だったのだと認識した。

     

    カラマロスは殺す覚悟でトラギコを襲い、怯んだ隙をエクストが捕獲するという流れ。

    足を撃ったのも計画に織り込み済みということだ。

    止血材を振りかけられ、痛みに耐えて歯を食いしばる。

     

    「まずい、血が止まらない…… 隊長、総合病院への搬送許可を!!」

     

    だが、カラマロスの与えた傷はこの作戦の予定にはなかったらしい。

    意識が朦朧とする中、トラギコは少しでも情報を手に入れようと五感を研ぎ澄ませる。

     

    「……ありがとうございます。 “P”、本部に連絡しろ。 “虎”は負傷したために、ティンカーベルの総合病院に搬送する」

     

    それは、ある意味で願ったり叶ったりの展開だった。

    問題なのは、入院してからだ。

    何をされるのか、あまりいい予感がしない。

    半殺しにしてでもトラギコから何かを引き出そうとする姿勢は、ジュスティアらしからぬものだ。

     

    警察と軍の合同作戦。

    円卓十二騎士、そして凄腕の狙撃手を導入しての捕獲劇。

    トラギコは無意識の内に、邪悪な笑みを浮かべていた。

    自覚はあったが、難問が次々と降りかかることを楽しむのは彼の悪い癖だった。

     

    だが楽しいものは楽しいのだから、仕方がない。

    状況が混沌とすればするだけ、トラギコがこの世に生きる意味を見出せるというものだ。

    生涯最後の事件と誓ったオセアンの事件。

    それを追う中で事件に彩を加える混沌は、大歓迎すべきことだ。

     

    恐らく、全ては繋がっているはずだ。

    オセアンの重要参考人である、金髪碧眼の若い女性の旅人。

    彼女の行く先々で起こる事件は、偶然ではない。

    つまり、この混沌とした展開も彼女がもたらした一つの影響である可能性が高い。

     

    だから、これでいい。

    この際、これでいいのだ。

    ティンカーベルに行けるのであれば、当初の予定と同じだ。

    怪我をして入院するかどうかの違いだけだ。

     

    まだ手はある。

    あの島にさえ行けるのであれば、まだチャンスは失われていない。

    チャンスを失うのは、ティンカーベルからジュスティアに移送された時か、入院している間に情報源がどこかに去る時だけだ。

    ジュスティアから糞が集まる前に病院から逃げ出して、ティンカーベルに集結した連中を探せばいい。

     

    ――腕に小さな痛みが走ったのを最後に、トラギコは意識を失った。

     

    ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

               Ammo for Tinker!!編 第二章 【集結- concentration -

                                了

                          To be continued...!!

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ページのおしまいだよ。。と