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第一章【mover-発起人-】

  1. 名前: 歯車の都香 2017/04/16(日) 13:06:00
    第一章【mover-発起人-】



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    正義を探しているのなら、ここにある。

     

    色褪せぬ正義が、ここにある。

     

     

                            ロウテック出版 【初めての“正義の都”観光ガイド】

                                               一ページ目より抜粋

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    その街には、分厚く、巨大で、重々しい三重の壁があった。

    “スリーピース”と呼ばれるその壁は過去数百世紀に渡って一つの街を守り続け、その街の象徴となった歴史的な建造物でもある。

    決して破れず、砕けぬ信念を持った守護者の具現。

    即ち、正義の守護者としての誇りが、その街――ジュスティア――にはあった。

     

    その治安の良さと徹底した治安維持の姿勢から、いつしかその街は“正義の都”と呼ばれるようになった。

    ジュスティアの街には数日前に襲った嵐の爪痕が残り、まだ完全には消え去っていない状態にあった。

    清掃業者の働きで道路は綺麗な状態を取り戻していたが、車道の脇には瓦礫と泥が積まれ、石畳の歩道はまだぬかるんでいる。

    しかし後二日もすれば、ゴミや瓦礫は集積所に運ばれて街は本来の姿を取り戻すことだろう。

     

    街で働く清掃業者は掃除に対して異常なまでのこだわりを持つ集団の集まりで、実を言えば特殊な更生施設から派遣された人間達で構成されていた。

    時には暴力を伴う、異常なまでの潔癖症。

    他の街では異常者扱いされがちな症状だが、ことジュスティアにおいては重宝される性格だ。

    常にガスマスクと防護服を着用する姿は異様ではあったが、彼らが通った後は清潔さを取り戻すことから、街の名物の一つとなっている。

     

    彼らが清掃を行うのは主に夜の九時から十二時までと、割と早い時間帯だ。

    その時間帯ならば外出している人間が少なく、清掃も行いやすいというのが大きな理由なのだが、実を言えばジュスティアの街があらゆる意味で清潔さを保つ秘訣はそこにあった。

    基本的に九時以降には夜勤の警察官が街中に散らばり、入隊間もない軍人が夜間訓練の一環として街を歩き始める。

    つまり、その時間から先は犯罪を取り締まる人間の数が圧倒的に増え、犯罪者が犯罪を行う隙間を潰しているということだ。

     

    清掃業者もまた同じ役割を持っており、彼らが主に担当するのは小さな路地などの見回りだ。

    ゴミが溜まるところには、同じような人間が存在する。

    一部の清掃員には銃器の携帯が許可されており、状況によっては射殺することも許されていた。

    また、人目の届かない場所には防犯カメラを設置し、街中の様子を逐一監視している。

     

    そのため、この街で夜間の外出をする人間は少なく、他の街と比べて犯罪に巻き込まれる確率が極めて低い。

    だがそれだけでは、この治安の良さは維持出来ない。

    治安維持のための手段こそが、ジュスティアが培ってきた世界に誇る歴史だ。

    その答えは、ジュスティアに長らく伝わる徹底した正義の信念に基づく行動力と、機関が生み出す“法治”の考えだ。

     

    治安を保つためには、三つの要素が必要になる。

    一つは、矛盾なく定められた厳格な法。

    二つ目は、法を逸した際に与えられる重罰。

    そして三つ目は、法を順守させるための圧倒的な力を持つ機関だ。

     

    細かく定められた法がなければ、人間はあらゆる暴挙に出る。

    法に罰がなければ、守る人間はいない。

    罰を定めても、それを守らせる人間がいなければ、何の意味もない。

    ジュスティアの初代市長はそれを理解しており、街を築いた時に真っ先に敷いたのが法の制定と機関の設立だった。

     

    その政策が功を奏し、街は世界随一の治安を誇るに至った。

    街の中心に位置する一際背の高い双子のビルは、闇夜に青白くライトアップされてその存在を強調していた。

    それは街の全域から目につく位置にあり、目立つように照らされていた。

    どこにでも正義の眼が行き届いていると言わんばかりに、そのビルは太陽を反射する水面のように輝いている。

     

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          |||/||=|iiii|_..||_.-=i|=|ii|i'"|||   AmmoRe!!のようです

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    地上七十階建て、高さ九八〇フィートの建物は、ジュスティアの第二の象徴“ピースメーカー”だ。

    左右対称に建てられたビルの西側は“ワンピース”、東側が“ツーピース”と呼ばれている。

    ビルの周囲を囲むようにして道路が円を描き、そこから十二本の太い道が伸びている。

    十二本の道から更に蜘蛛の巣状に広がり、街全体に繋がっていた。

     

    “正義の道はピースメーカーに通じる”、とはジュスティアでは誰もが知る諺だ。

    ピースメーカーの地下二階で、その会議は開始の時を待っていた。

    広々とした部屋には一人の市長、四人の軍人、三人の警察関係者と十二人の騎士、合わせて二十人が円卓に着いていた。

    街の治安維持に関する案件から、軍の訓練内容と遠征の結果報告、そして警察が指名手配している人間の情報共有などが主な議題となる。

     

    それぞれの前にはホチキス止めされた分厚い資料とコーヒーが置かれており、開始時間までの間に全員がそれに手を付けていた。

    予定の時間になると、ベルが一度だけ鳴った。

    会議が、静かに始まった。

    最初の議題は、軍に関係した話だった。

     

    ( ,,^Д^)「では」

     

    真っ先に回転椅子から立ち上がったのは、ジュスティア軍元帥、タカラ・クロガネ・トミー。

    それに続いて、ほぼ同時に三人の男達が音もなく、だが俊敏な動きで椅子から離れた。

    全員が完璧に軍服を身に付け、胸にはそれぞれ輝かしい功績を称える勲章が縫い付けられている。

    そして全員が、勲功章、パープルハート章(※注釈: 戦闘で負傷しながらも生還した兵士に与えられる章)と

    名誉勲章(※注釈: 戦場で任務を超越した自己犠牲を見せた兵士一人だけに与えられる章)を持っていた。

     

    (^o^)

     

    カーキ色の軍服の襟を正したのは、陸軍大将オワタ・ジョブス。

    スキンヘッドにした頭髪、異様なまでに鍛え上げた両腕の筋肉。

    笑顔の張り付いた顔は傷と火傷の痕で岩のように醜く歪み、そこに埋め込まった青い瞳だけは濁りがなかった。

    全身に刻まれた無数の傷の内、半分以上が味方を庇っての物だと言われており、自らの命を無視してでも任務を果たす男として知られている。

     

    |  ^o^ |

     

    新品同様のネイビーカラーの軍服を着こんだ男は、海軍大将のゲイツ・ブーム。

    黒曜石の色をした肌に刻まれた傷とクルーカットの白髪に走る不自然な剃り込みは、全く同じ理由からできたものだ。

    引き絞られた体に搭載した筋肉は徹底的に無駄が削がれ、芸術的なまでに実用的な作りをしていた。

    六フィート弱の長身が放つ威圧感と鮫の瞳と称される黒い瞳は、彼の無慈悲な性格をよく体現している。

     

    | ^o^ |

     

    ゲイツの隣に立つのは海兵隊大将、ハンマー・ユウタロウ。

    七フィートの身長は戦場で常に仲間の楯として使われ、司令塔として機能してきた。

    ブラウンの瞳とコーヒー色の肌、そして一ミリに刈り揃えた髪は海と陸で戦い抜いた男のそれだ。

    軍服を破らんばかりに発達した岩の様な筋肉は、彼の腕力の象徴だ。

     

    手に持ったクリップボードに挟んだレポートに目を落とし、タカラは淡々とした口調で報告を始めた。

     

    ( ,,^Д^)「まずはオアシズで起こった事件についてです。

         海軍所属の“ゲイツ”は隊長であるカーリー・ホプキンス少佐を含め二十二名が死亡、残り十九名が重傷を負っています。

         首謀者であるショボン・パドローネ以下二名はヘリコプターにて逃亡したとのことです。

         現在、行方を追っています」

     

    誰も、質問をしない。

    彼らは情報の共有を目的としており、ここで推理の真似事をすることを目的としていないからだ。

    必要な情報収集と事態の全貌解明については今頃、警察本部で話を進めているはずだ。

    主に、ジュスティア出身であるショボンが事件を起こすに至った背景を調べている事だろう。

     

    元警察官であるショボンは正義感の強い男で、妻と一人の子供に恵まれていた。

    引退後は別の土地で暮らしていたと報告書には記載されているが、そこで何があったのかについては書かれていない。

    間違いなく、彼を変える出来事が彼の身に起こったのだ。

    その詳細を調べ上げ、彼の正義を腐らせた組織を見つけ出すことが当面の目的だ。

     

    正義の都から輩出してしまった、歴史に名を残す犯罪者。

    犯行の影にあったあらゆる情報を集め、そしてパズルのピースを組み合わせて、大きな真実を導き出さなければならない。

    この場では軽く触れただけだが、実際問題、これは非常に由々しき問題でもあった。

    事件の背後に潜んでいる真実を突き止めねば、被害者の遺族たちに申し訳が立たない。

     

    彼の狂行のせいで、多くの子供たちが父親を失った。

    そして多くの妻たちが、夫を失った。

    未来ある子供たちのためにも、軍は全力を尽くすつもりだ。

    ヘリコプターで逃げたのであれば、逃げた場所の特定はそう難しくない。

     

    現代で使われているヘリコプターには、動力の都合で飛行限界距離がある。

    今回はどこからともなく現れ、どこへともなく消えていったという証言がある。

    その証言から推測すると、往復出来る距離からヘリコプターを飛ばしたことになる。

    ヘリの機種は特定されており、その最大飛行距離の範囲内にある全ての陸地と島に捜索範囲を限定し、既に部隊が派遣されている。

     

    証拠が見つかるのは、時間の問題だ。

     

    ( ,,^Д^)「オアシズ側は犯人を全員殺害した後、安置所の都合で海に投棄したと報告が入っています。

         兵たちは明日、オアシズでティンカーベルに到着し、その後にこちらに戻る予定です。

         質問は?」

     

    誰も何も行動を起こさないことを確認してから、タカラは報告を続ける。

     

    ( ,,^Д^)「最後になりますが、先日の嵐の際、ピク支部とブランケット支部の武器保管庫で爆発が起こり、大きな犠牲が出た件です。

         市内の、それも軍の施設内での事故ということもあり、これを公にするのはあまり得策とは言えません。

         軍としては遺族に対して、死亡者は“鉄鎖の街”に基地を持つテロリスト撲滅の特別作戦に出かけたと伝え、折を見て戦死したと報告する予定です。

         ……何せ、両支部で基地内の全員が武器庫内で支援物資を捜索していた時に爆発し、文字通り全員死亡。

     

         この事実を、知らせますか?

         軍の意向で事態の収束を図ることに異議はありますか?」

     

    嵐が街を襲ったその日、ジュスティア軍では最悪の事故が起こってしまった。

    二つの支部で同時に武器庫が爆発し、中にいた軍人が全員死亡した。

    桁で言えば三桁に達する大惨事だ。

    これを公表すれば、軍の権威は失墜する。

     

    若くして軍の元帥となったタカラは、決して高圧的な物言いをしない。

    淡々と事実を述べ、意見があればそれに答える。

    修正の可能な問題であれば彼はその旨を述べ、希望的観測で物を言わない。

    典型的な軍人ではあるが、それ故に彼の発言力は強い。

     

    どのような困難があったとしても、彼はそれらを踏み潰してでも前に進む。

    その行動力に見合った実力が高く評価され、そして功績を立てたことで三十二歳と云う異例の若さで元帥に昇格したのだ。

    彼が余計な発言をしないと云うことは、それ以上の情報か進展がないということを意味している。

    報告の間、彼よりも年上の軍人三人は何も言わず、ただ腰の後ろで手を組んでいるだけだ。

     

    タカラの両眼が、警察長官に向けられた。

    歴代初の女性長官、ツー・カレンスキーはブロンドの髪を後頭部で束ねた年配の女性だが、その観察眼と情け容赦のなさは同年代の男にも勝る。

    物怖じもせずに視線を受け止め、彼女は視線に込められた言葉を実行に移した。

     

    (*゚∀゚)「……警察からの報告に移ります」

     

    その言葉で、軍人四人は音もなく席に着き、警察代表者三人が立ち上がる。

    ツーの左右を固める二人もまた、女性だった。

     

    爪゚ー゚)

     

    爪゚∀゚)

     

    一人は黒の制帽を被り、肩から手首に向かって走る赤い線の入った黒い長袖の制服を着た警察副長官、ジィ・ベルハウス。

    そしてフレームレスの眼鏡を掛けたもう一人が、黒のスーツとスカートを着たツーの専属秘書、ライダル・ヅーだった。

     

    (*゚∀゚)「オセアンのログーランビルで起こった例の事件ですが、犯人に繋がる証拠品は未だ出ていません。

        目撃者も同様です。

        ただ、進展がありました。

        ビルで用心棒をしていたと思われる男が、危篤状態から意識を取り戻したと云うことです」

     

    その報告の途中、陸軍のオワタが手を挙げた。

    若干の憤りを混ぜた非難めいた口調で、彼はツーに質問を投げかけた。

     

    (^o^)/「被害者は全員死亡したと報告があったと思ったが?」

     

    一度報告された言葉は、真実として記録される。

    その重みに対する冒涜を咎めるようなオワタの言葉に対しても、ツーは涼しい顔で答えた。

     

    (*゚∀゚)「悪運の強い男で、そうはならなかったそうです。

        意識は戻りましたが、記憶に障害が出ているため、証言はあまり期待出来ません。

        これと言って新たな情報は増えていませんが、一つ問題が。

        担当者であるトラギコ・マウンテンライトはポートエレンから姿を消し、どう云う訳かオアシズに乗り込んでいました」

     

    警察関係以外のほぼ全員が、説明を求める表情を浮かべた。

    それについて答えることは、彼女達の義務だ。

    だから予め、用意はしてあった。

    ツーではなくジィが市長を見て、余計な言葉を挟む余地を与えない口調で言った。

     

    爪゚ー゚)「まだ彼とはコンタクトが取れていませんが、オアシズの件で有益な情報をもたらすものと思われます。

        クロジング、フォレスタ及びニクラメンでの一連の事件が発生した際にも彼が現場に居合わせていました。

        恐らくは、独自にオセアンの事件を追っているものと考えられます。

        フォレスタの周辺で起こった事件についての情報を所有しているため、ティンカーベルに“迎え”を出しました」

     

    ここで言うところの迎えが捕獲を意味することは、全員が分かっていた。

    トラギコという男は警察の命令違反常習者で、常に単独行動を好む四十六歳の刑事だ。

    酒に酔えば乱闘騒ぎ、口をきけば流血沙汰と、その粗暴な性格から警察のつま弾き者として見られている。

    暴れられると軍人でも捕まえるのに難儀する男であるため、捕獲するという表現が最も合っていた。

     

    それでも彼を警察に置いているのは、彼が優れた行動力と洞察力で難事件を解決してきたからだ。

    基本的に全員がトラギコの捕獲に賛成の意志を示していたが、一人だけ、補足をした人間がいた。

    その補足は、彼女たちの予定にはないものだった。

     

    爪゚∀゚)「ただ、彼の性格を考えると、ここまでする必要はないとも考えました。

        彼は人格者です。

        あくまでも、彼を安全に連れ帰って情報を手に入れる為と云うことをお忘れなきよう」

     

    それだけ言うと、ヅーは再び寡黙な秘書としての役割に戻った。

     

    (*゚∀゚)「……報告に戻ります。 フォレスタ近郊の事件についてですが、こちらもほとんど情報がありません。

        ニクラメンには現在、トレジャーハンターギルドが集結して宝探しをしています。

        現場を必要以上に荒らすだけでなく、遺体まで乱雑に扱っているとの報告もあり、特に目に余る行動をした三人を射殺したとの報告があります。

        今後も数が増えると予想されるため海軍に協力を頂いているのですが、更なる増員を求めます」

     

    |  ^o^ |「いいでしょう。 ただし 条件が あります」

     

    (*゚∀゚)「どうぞ」

     

    |  ^o^ |「オアシズで 私の “ゲイツ”が 壊滅状態に なった 理由を 必ず 究明 してください」

     

    海軍の所有する強襲専門部隊ゲイツは、ブームが大将となってから作られた部隊だ。

    その為、彼は部隊に人一倍強い愛着を持っている。

    彼の声色が普段よりも固いことに、全員が気付いていた。

    激怒しているのだ。

     

    表情には出さないが、彼の声にはその色が濃く出ている。

    彼が誇るゲイツがオアシズで壊滅した経緯が気になるのだろう。

    百戦錬磨の猛者たちで構成された部隊が、海賊相手に何をして、何をされたのか。

    自分なりに部下の死を知り、可能であれば仇を討ちたいと考えているのだ。

     

    (*゚∀゚)「勿論です。 それでは、各軍でもトラギコを発見次第、ジュスティアに連れ帰る様に通達してください。

        ここまでで、何か質問は?」

     

    手を挙げたのは、タカラだった。

    彼は穏やかな口調を変えぬまま、質問をした。

     

    ( ,,^Д^)「理解が及ばないのですが、何故、フォレスタ近郊で目撃者もいないのですか?」

     

    考えれば不自然な話だ。

    関係者がほぼ死に絶えているオセアンやニクラメンならまだしも、どうしてフォレスタやクロジングの情報が得られないのか。

    捜査をすれば、必ず何かしらの情報が得られるはずだ。

    ツーは自らの発言が効果を増すよう、声のトーンを落とし、言った。

     

    (*゚∀゚)「……それが、次の話です。

        フォレスタで起こった爆発騒ぎでは、大勢の若者の遺体が発見されました。

        棺桶や銃器で武装した、ね。

        それもトゥエンティー・フォー、そしてガーディナといった非常に希少な棺桶を所有していました。

     

        また、クロジングではジョン・ドゥとほぼ同型機の棺桶も見つかりましたが、コードが異なりました。

        そして、遺族は棺桶の事は勿論ですが、争いごとに巻き込まれるようなことをする人間ではなかったと証言しています。

        証言者はいますが、目撃者がいないのです。

        巨大な組織が関与し、情報操作と目撃者の排除を行っているとしか考えられません。

     

        こちらに関しても、トラギコが何か情報を掴んでいると考えられます」

     

    発見された死体は、どれもこれもがひどい状態だった。

    顔を吹き飛ばされていたり、胴体のほぼ全てを消失していたり。

    トゥエンティー・フォーに関しては、肉片しか見つからなかった。

    焼け焦げた人間の肉と思わしき炭化物も発見され、フォレスタは混沌とした墓場と化していた。

     

    数少ないまともな死体の顔を“修復”し、家族を調べ、話を聞いた。

    有益とは無縁の情報ばかりで、この事件の全貌を掴むことすらできなかった。

     

    *゚∀゚)「ニクラメンの事件については、別ですが」

     

    ( ,,^Д^)「……どういうことでしょうか」

     

    (*゚∀゚)「つい一時間ほど前、つまり、この会議の始まるほんの少し前に連絡があったのです。

       ニクラメンで行われていたオープン・ウォーターに参加した人間から。

       結果、その実行犯に繋がる情報が手に入りました。

       犯人はオアシズに搭乗し、明日にはティンカーベルに到着するとのことでした」

     

    | ^o^ |「その情報は 誰からの ものですか?」

     

    ニクラメンの生き残り。

    その人物から得られる情報は相当な価値がある。

    だが、問題はその人物が信用に足るかどうかだ。

    でまかせを生業にする人間がいる時代だ。

     

    その情報の発信源こそが、ある意味で最も重要だった。

    ツーは意図的に、自分の言葉に全員が耳を傾けるために、僅かではあるが無言の間を挟んだ。

     

    (*゚∀゚)「内藤財団の副社長、ツンディエレ・ホライゾンです」

     

    世界最大の企業、内藤財団。

    その起業は数百世紀にも遡り、世界で最も歴史のある企業としても有名だ。

    輸送、飲食、被服、不動産、保険などありとあらゆる業種に手を付け、日々成長を続ける大企業。

    財団の持つ理念は創業当時から一切変わらず、徹底した信念の下で企業活動が行われている。

     

    そして副社長であるツンディエレは経営の天才で、倒産しかかったいくつもの企業を買い取り、見事に復活させている。

    これまでの輝かしい経歴と実績を鑑みて、彼女が真実を語っているの間違いない。

     

    (*゚∀゚)「彼女の証言では、ニクラメンを沈めたのは地元の過激派だったそうです。

        その過激派の生き残りがオアシズに乗り込み、今回の事件を陰で操ったとのことです」

     

    ( ,,^Д^)「特徴は何かわからないのか?

         人相とか、そういう確かな情報だ」

     

    (*゚∀゚)「分かっているのは、その賊は二人。

        若い女性が二人、そして耳付きの雄が一匹。

        雄ガキはさておいて、女性の内一人は赤髪で棺桶持ちということが分かっています。

        そしてもう一人、首謀者と思わしき女性に関してですが――」

     

    得られた情報の中で最も詳細だったのが、その最後の人物だった。

    単身で海兵を大量に殺し、罪もない民間人を虐殺した張本人として挙げられた名前。

    その名前に、ツーは聞き覚えがあった。

    だが、それは――

     

    (*゚∀゚)「デレシア、と名乗る金髪の女性だそうです」

     

    ( ,,^Д^)「……偽名だな」

     

    (*゚∀゚)「おそらくは、そうでしょう」

     

    ――それは、ジュスティア史学に登場する人物の名前なのだ。

     

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               / : : : : \ \ \: :从⌒            ∠/  //: / ノ.: :リ 〉:

         /   人 : : :  -=ニ二 ̄}川 >、  `''ー 一    ∠斗匕/´ ̄ ̄ ̄`Y: :{: /

         {   { 厂      . : { /⌒\          .//: : : .____   人: :/

         ':   ∨} _: : : : 二二/ /   | \_   -=≦⌒\く_: : : : : : : : :_:: :: :

    AmmoRe!!のようです        “The AmmoRe!!”         Ammo for Tinker!!

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    定例会議の議題はツーの発言後、ジュスティア市内の治安に切り替わった。

    ここ最近、市街で起こっている事件に対する警察の対応力の低さについて、住民から不満が出ていた。

    街頭で声高らかに演説をする輩まで出てきており、中には、ジュスティアの正義が腐り始めたと口にする者までいた。

    非難の声は警察のみならず軍にまで及び、街全体で不穏な空気が流れ始めていた。

     

    その報告をしたのは警察でも、ましてや軍でもなく、市長の口だった。

    飄々とした口調と仕草にも拘わらず、市長の言葉には重みがあった。

    彼はジュスティアが掲げる正義の体現、その化身として周知されているだけでなく、その手腕の高さで市長の座に君臨している人間だ。

    言葉ではなく、そこに込められた意図を察すれば、彼が立腹していることが分かる。

     

    ジュスティア現市長、フォックス・ジャラン・スリウァヤ。

    警察学校を首席で卒業後、すぐに陸軍に入隊。

    勇猛果敢な性格、そして人を指揮するカリスマ性の高さによって、陸軍でも瞬く間に高い地位を確保。

    三度の名誉勲章を授与したことによって、歴代最年少で大将の地位についた実力のある男だ。

     

    '`)「で、だ。 我々の正義が疑われているのは由々しき問題でね。

        私としては、即解決したい悩みの一つだ。

        そこで提案がある」

     

    ブラウンと白の混じった髪は長く、オールバックにして項の所で束ねている。

    薄い青色をした瞳は優しげに垂れ、口元は笑みを絶やさない。

    葉巻とブランデーを愛する彼の発言力は、立場を抜きにしてもこの場にいる誰よりも強い。

    それは、彼の実績にあった。

     

    名誉勲章の様な日の当たる実績ではなく、影の実績。

    市内で謀をしていた組織を突き止め、潜入し、内部から壊滅させたことを知らぬ者はこの場にいない。

    また、中東のイルクから来た過激派の宗教団体と交戦した際には機転を利かせて全滅させた経歴もある。

    彼は戦闘よりも参謀の方が向いていた。

     

    味方が傷つくことなく、敵が壊滅するための方法を編み出すことに関しては天賦の才がある。

    街の政策を一人で考案するその頭脳が導き出す提案は、必ずこの状況を打破し得るものだと誰もが確信した。

    軍と警察の最高責任者二人は、特に興味深そうな反応を示した。

     

    (*゚∀゚)「どのようなことで?」

     

    フォックスの言う市内での反応の原因には、警察が大きく関係している。

    特に、オセアンでの事件が未だに解決できていないことがその要因だ。

    あれだけ大規模な事件が起きたにもかかわらず、警察は何もできていない。

    むしろ、詰んでしまっている状態だ。

     

    それがマスコミ各社によって世間に伝わっていることが、ジュスティア市民には耐え難いのだ。

    その気持ちは分かる。

    正義を謳う街が正義を遂行出来ないのは、あまりにも心苦しく、もどかしいのだ。

    同じ正義を愛する者として、正義の都という名に泥が塗られるのは、誇りが許さない。

     

    部下の前では晒さないが、ツーは捜査に進展が無い事に誰よりも苛立っていた。

    今は僅かでもいいから、解決の糸口を手に入れたかった。

     

    ( ,,^Д^)「ぜひ、お聞かせください」

     

    軍もまた、一つ後ろめたいことがあった。

    オアシズの事件だ。

    海軍から専門の部隊を派遣したにもかかわらず、ほとんど成果が挙げられていない上に、目の前で犯人に逃げられたのだ。

    このニュースが世界中に広まるのも、時間の問題だ。

     

    ジュスティア軍は常にイルトリア軍に追いつこうと、日々訓練に励んでいる。

    その成果を見せる絶好の機会で、彼らは大きな失敗を犯した。

    いつか来るその日に備えて、彼らは力をつけなければならないというのに。

    これでは、ジュスティア軍は世界の範たる存在になり得ない。

     

    '`)「うん。 警察の基準でカテゴリHの事件、つまり、強盗や立てこもりなどの事件が発生した際にはもっと私達の力を示していこうと思う。

        例えばそう、ラジオや新聞社に積極的に来てもらうのが望ましいかな。

        そうした上で事件を解決するんだ、より過激にね。

        いわば見せしめ、言い換えればアレスト・ショーだ。

     

        だけどね、ただのショーでは駄目だ。

        より派手に、より圧倒的に正義を見せつける必要がある。

        具体的に言うと、円卓十二騎士に動いてもらいたい」

     

    会議開始後、誰一人として発言も起立もしない十二人。

    全員が“騎士”の称号を与えられた、ジュスティアが誇る一騎当千の猛者達。

    ほぼ全員が軍出身者で構成された彼らは、そう滅多なことで動くことはない。

    彼らでは強すぎるのだ。

     

    逮捕であれば殺害。

    制圧であれば殲滅。

    警告であれば鎮圧してしまうほどの力。

    ジュスティアは彼らをある意味で保護してきた。

     

    絶大な力は、時には悪にも転じかねないのだ。

    そんな彼らが公に姿を現し、事件解決に動くという。

    異例だ。

    明らかに、異例だ。

     

    だが、有効なのは分かった。

    元々円卓十二騎士は、イルトリアとの均衡を保つために生まれた存在だ。

    軍事都市であるイルトリアと渡り合うためには、絶大な力があることを示さなければならない。

    騎士達はイルトリア軍との均衡を保てるだけの力があるのだ。

     

    そんな十二騎士が事件に介入するとなれば、世間の見方は変わってくる。

    ジュスティアは、事件解決に本気なのだろうと。

    たかが事件で、イルトリア軍に相当する騎士が現れると知れば、事件も減る。

    再びジュスティアは、正義の代弁者として世間が認知することは間違いない。

     

    '`)「どうだろう? 君はどう思う?

        第四騎士、ショーン・コネリ?」

     

    (´・_`)「いいんじゃないですかね?

        そうすれば、ウチの連中の仕事も減るし、世間のごみも減る。

        一石二鳥だ」

     

    ティンカーベルに属する島の一つ、ジェイル島の“セカンドロック刑務所”の所長にして、第四騎士の座に付くのは海兵隊出身のショーン・コネリだ。

    一見すると歳を取った優男だが、その実、機械のような正確さと無慈悲さで任務を果たす“執行者”の渾名で恐れられる男である。

    その意見に対して、“番犬”の異名を持つ第七騎士の男が同意を示した。

    とはいっても、彼はただ頷いただけなのだが。

     

    <_プー゚)

     

    陸軍出身、ダニー・エクストプラズマン。

    味方を手榴弾から庇った際に喉元に負った深い傷の影響で声が出せず、何か発言をする時には人口声帯を使わなければならない。

    滅多なことで声は出さないが、手はすぐに出る。

    そして、その躊躇の無さと命令に対する絶対的な服従度から、“番犬”の名で恐れられている。

     

    他の十人の騎士達はと言えば、 机の上を指で二度叩いただけだった。

    それは、同意を意味する行為だった。

     

    '`)「ありがとう。 では、今後はその方針で行こう。

        さて、次は――」

     

    非常時用の内線電話が鳴ったのは、その時だった。

    立て籠もり事件が発生したという知らせが入ったのは、午後八時十三分のことだった。

     

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                //レ|‐┼┼‐ト\\

                //レi レ|‐┼┼‐ト、ト.\\

           /,/レ' ' |‐┼┼‐ト、ト、ト \|

           i|/レi レ' ' |‐┼┼‐ト、ト、ト、ト、|

         _l|' ' ' ' |‐┼┼‐ト、ト、ト、ト、|

             第一章 【mover-発起人-

    テミ! /|| ||' ' ' ' |‐┼┼‐ト、ト、ト、ト、|

    | | || ||' ' ' ' |‐┼┼‐ト、ト、ト、ト、|

    | | || ||' ' ' ' |‐┼┼‐ト、ト、ト、ト、|

    | | || ||' ' ' ' |‐┼┼‐ト、ト、ト、ト、|

    | | || ||' ,ィ爻从、 |‐┼┼‐ト、ト、ト、ト、|

    | | || || ,爻爻爻ム ‐┼┼‐ト、ト、ト、ト、|

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    事件が起こったのは、ピースメーカーから二ブロック先にあるイセギビルだった。

    地上十三階建てのビルには十一の企業が入っており、その日はどこの階にも人がいた。

    一階は受付として使われており、常時二名の警備員と一名の受付係が待機していた。

    始まりは、事件発覚から二十八分前のこと。

     

    来訪者は二人だった。

    紺色の作業着と同じ色をしたキャップを目深に被り、分厚い手袋をはめた手でギアボックスを一つずつ持つ男たちだった。

    ビルには定期的に点検と清掃の係員がやってくるため、カウンター越しに雑談をしていた警備員と受付係はその二人を不審には思わなかった。

    一つ不審な点があったとしたら、それは来訪した時間だけだった。

     

    雑談を止めた警備員たちはカウンターの前に並んで立ち、腰の警棒に手を伸ばしながら二人の動きを見守った。

    警備員の前を通り過ぎ、二人はカウンターの前に屈んでギアボックスを床に置いた。

    次に二人が体を起こした時、事件は起こった。

    二人は、掌の中に隠し持っていたアストラ社のプレッシンで、警備員の顔を穿ったのだ。

     

    アストラ・プレッシンは護身用の小型拳銃で、握る動作で発砲する仕組みになっている。

    外見はステイプラーに似ており、とても銃とは思えない物だ。

    その大きさは掌の中に納まるほどで、来訪者たちは艶消しをしたグレーに塗装し、更に手袋をはめることでそれを完全に隠し通していたのである。

    小口径だが、装填されていた弾は人を十分に殺せる物だった。

     

    受付係は咄嗟のことにもかかわらず、非常通報ボタンに手を伸ばすことに成功した。

    だが、銃弾によって脳幹を吹き飛ばされて即死し、その指がボタンを押すことはなかった。

    男たちの呼吸は完璧だった。

    警備員に対する発砲もそうだが、受付係の顔に撃ち込んだタイミングも同時。

     

    銃声がフロア中に木霊したが、二人はそれを全く気にする様子も見せなかった。

    その場にプレッシンを投げ捨て、ギアボックスを手に取ってエレベーターに向かった。

    直後、ビルの入り口から室内用の迷彩服を着た五人の男たちが現れ、その二人の後に続いた。

    五人はそれぞれが一つのコンテナを背負って肩から短機関銃を下げており、全員が同じ表情をしていた。

     

    決意を固め、死を恐れないと己に言い聞かせた男の顔だ。

    男たちは三基あるエレベーターに分かれて乗り込み、最上階を目指した。

    彼らは最上階の企業に恨みがあるわけではなかった。

    ただ、環境が最も理想的というだけの理由だった。

     

    イセギビルの十三階に入っているのは、民間保険会社“アモインシュ”のコールセンターだ。

    犯人たちにとって、コールセンターが立て籠もりの場所は都合のいい場所でもあった。

    人質は交渉の材料であって、人質を取る際には如何にその価値の底上げが出来るかどうかにかかっている。

    役職についていない人間だとしても、見せ方によっては重役以上の価値を持つことがある。

     

    そしてコールセンターには、大量の電話がある。

    電話は実にいい道具だ。

    こちらの様子を見ることが出来ないが、音で状況や要求を伝えることが出来る。

    互いに音と声からそれぞれの状況を察するために、大きな誤解や錯覚を生むことも多々ある。

     

    暗闇の中で聞こえる音が恐怖をもたらすのと同じ効果が期待出来る。

    実際に残虐な行為をしなくとも、ふとした拍子に人質たちがパニックになれば、音を聞いた人間は本来の状況の数倍の深刻さを想像するだろう。

    何より電話は、離れた相手に音を届けるための道具だ。

    その道具が大量にあれば、大勢の人間に情報を届けることが出来る。

     

    事件が発覚すれば警察や軍が出てくることは想定しており、人質解放のために交渉をしてくるはずだ。

    しかし、閉鎖的な取引では意味がない。

    閉鎖的であれば、どのような譲渡も、どのような言葉も、当事者同士にしか分からない。

    犯人に譲歩するような内容だったとしても、最終的に解決すればどうとでも言い直しが出来る。

     

    それではいけない。

    彼らが起こす行動は、街全体、そして世界全体に知らしめなければならないのだ。

    完全に解放された状況での交渉。

    ジュスティア側は、一切の妥協も譲歩も出来ない交渉が強いられる。

     

    あり得ない話だが仮にその状態でジュスティアが譲歩をして解決したとしても、世間に広まった火種を消すには数が多すぎる。

    情報を手に入れたマスコミ各社は、こぞってこの情報を世間に向けて流したがるはずだ。

    ジュスティアが緘口令を敷いたとしても、それは気休めにもならない。

    それを止めるのは、両手で川の流れを塞き止めるのと同義だ。

     

    ジュスティアは正義の都。

    決して、その名に恥じない交渉をしてくれることだろう。

    そうでなければ困る。

    そうでなければ、困るのだ。

     

    二十四時間体制で稼働するコールセンターには、そこで働く人間のために託児所がある。

    それもまた、魅力の一つだった。

    つまり、子どもを人質に取ることが出来るのだ。

    十歳代の子供ではなく、一桁代の子供を人質にすれば、大規模な作戦は取れなくなる。

     

    これは交渉を有利に運ぶ要因であり、世間から非難を受ける要因でもある。

    世間からは鬼畜と言われるだろう。

    だが、それでいい。

    今回彼らは、畜生以下の鬼になると決めたのだ。

     

    鬼になるためには、素顔を隠さなければならない。

    そのため、エレベーター内では一人を除いて全員が目出し帽を被り、同じ服に着替るよう指示が出されていた。

    一人が顔を出すことで、発生する恨みは全て一人に集約される。

    首謀者であるセルゲイ・ブルーノフは、そのことをよく知っていた。

     

    全員が忌まれなければならない。

    全員が蔑まれなければならない。

    誰一人として、英雄になってはならない。

    そうあればこそ、この行動は意味を持つ。

     

    絶対悪の登場と、その討伐。

    絶対正義の登場と、その活躍。

    目的はただ一つ、鬼を罰する英雄の存在を証明すること。

     

    从´_ゝ从「さぁ、ここからが本番だぞ。

         人質は女子供だけ、男の処遇は分かっているな?」

     

    ::0::0::)「はい」

     

    これは、歴史に残る大きな事件となる。

    そしてジュスティアの歴史を変え、大きな変革をもたらす。

    セルゲイ達はその礎として戦うのだ。

    昇降機が十一階に来た時、彼は背負っていた軍用第三世代強化外骨格の運搬用コンテナを背負い直し、深く息を吐いた。

     

    H&K社のMP5短機関銃のレバーを引いて初弾を薬室に送り込む。

     

    从´_ゝ从「……正義と共に」

     

    ::0::0::)「正義と共に」

     

    祈るようにつぶやき、ゆっくりと開いた扉の向こうに目を向けた。

    観音開きのガラス扉に書かれたアモインシュの文字が、最初に目に入った。

    扉の向こうからは人と電話のコール音、そして光が漏れている。

    少なく見積もっても、十数人はまだ働いている。

     

    三基ともが同時に到着したようで、七人は降りてすぐに合流し、予定通りに動き始めた。

    覆面をした男が二人、扉を静かに押し開く。

    コンテナを背負っていない男二人が姿勢を低く、跫音を立てずに進入する。

    続けて残った三人が間隔を空けて進入し、最後に二人の男がシャッターを下ろし、鍵をかけた。

     

    シャッターが下りる音に気付いたオペレーターが音のほうに顔を向け、セルゲイたちがその手に持つものを見咎め、絶句した。

    入り口から三段ほど降りた場所に作られたガラス張りのフロアには、オペレーター用の席が四十五。

    働く人間にストレスがかからないように、全ての席にはモザイクガラスの仕切りがついている。

    そして、入り口から百フィートほどの場所に、上長と思わしき男が座る席が窓を背にして横並びに三席。

     

    制圧に必要なのは、まずは最初の要求を言葉よりも確実に全員に伝えることだ。

    セルゲイと最後に入ってきた二人が、短機関銃で男三人を撃った。

    狙いは胴体。

    女たちの悲鳴が、フロアを満たした。

     

    思わずセルゲイは、射精しそうなほどの高揚感に満たされ、悦に入った笑顔を浮かべてしまった。

    女の悲鳴は、何よりの媚薬だ。

    劇薬と言い換えてもいい。

    特に、命の危険に晒された時に聞くことの出来る悲鳴はたまらない。

     

    一先ずは銃声と悲鳴、そして人の死で、こちらの要求が伝わったはずだ。

     

    从´_ゝ从「全員、電話を切ってもらおうか!!」

     

    威圧するための声で怒鳴りつけると、次々と受話器が置かれていった。

    その間に、仲間たちがフロアと隣接する託児所、そして洗面所に散っていく。

    抵抗する女がいたが、髪の毛を掴んで机に顔を叩き付けられて、大人しくなった。

     

    从´_ゝ从「協力感謝する。

         全員手を挙げて、窓に向かって立ってもらおう。

         逆らったり、変な真似をしたりするつもりなら、先ほどの男たちと同じことになるぞ」

     

    女たちは言われた通りに窓に向かって並ぶ。

    全部で三十四人。

    その内、若い男が二人いた。

     

    从´_ゝ从「そこの男二人」

     

    反射的に男たちが動いた瞬間、後ろにいた仲間が二人の腹に銃弾を数発撃ち込んだ。

    再び悲鳴が上がる。

    男たちはもがき、血を吐き、臓物を溢しながらこの世のものとは思えない声を出していた。

     

    从´_ゝ从「今、その男たちは妙な動きをしたために殺した。

         いいか、英雄になろうと思うなら、死ぬよりも苦しい思いをさせてやる」

     

    一発で殺さなかったのには、意味があった。

    こうして苦痛の中で死んでいく人間を見せれば、抵抗する気力を奪うことが出来るのだ。

    だから出来るだけ派手に、痛そうに、そして無慈悲に痛めつける必要がある。

    すると、託児所から仲間たちが子供たちを連れてフロアに戻ってきた。

     

    子供は全部で五人いた。

    乳児が二人、ようやく立ち歩けるようになったのが三人。

     

    ::0::0::)「お待たせしました」

     

    从´_ゝ从「ご苦労。 さて、改めて要求を伝えよう。

         君たちには交渉の材料になってもらう。

         だから材料らしく、そこに立っていてもらう。

         その間、トイレに行くことも話すことも、子供の世話を見ることも一切認めない。

     

         おかしな真似をした場合は、ミンチにした顔を家族に送り届けてやろう」

     

    軍靴を鳴らしながら、セルゲイは段差を降りていく。

    鼻歌交じりにゆっくりとオフィスを横断し、射殺した上長の元へと向かう。

    椅子にもたれ掛かって口と鼻から血を流す男の頭を銃床で殴り、死んでいることを確認した。

    死体が椅子から転げ落ち、床に血が広がり始める。

     

    椅子を掴んで、セルゲイは巨大なガラス目掛けて、それを叩き付けた。

    蜘蛛の巣状の小さなひびが走る。

    強化ガラスを耐衝撃シートで保護してある。

    これなら、狙撃をされる心配はなさそうだ。

     

    だが、一か所は穴を空けなければならない。

    仲間の一人がセルゲイの様子を見て、予定通りに動いた。

     

    ::0::0::)『夢と希望が我らの糧。我ら、正義と平和の大樹也』

     

    棺桶の起動コードを入力し、強化外骨格を身に纏う。

     

    〔欒゚[::|::]゚〕

     

    純白のジョン・ドゥは先ほどセルゲイが傷つけたガラスの前に立ち、右の拳を振り上げ、叩き付けた。

    先ほどとは比べ物にならない大きさのひびが、窓全体に走った。

    そしてもう一度叩き付けると、衝撃に耐えかねてガラスが枠から外れ、地上に向かって落ちて行った。

    強風がそこから吹き込み、女たちが意味もなく叫ぶ。

     

    机の上にあった書類は吹き飛び、生ぬるい空気がオフィスを舐めるように通り抜けた。

    夏の空気だ。

    正面に聳え立つのは正義の象徴、ピースメーカー。

    それを睨み付けてから、セルゲイは言った。

     

    从´_ゝ从「どこかの宗教には、死んだら空の上にある天国に行けるそうだが」

     

    セルゲイは足元の死体の襟を掴んで持ち上げ、ビルの外に投げ捨てた。

     

    从´_ゝ从「こうして落ちた場合、どうなるんだろうな?

         やっぱり、地獄に行くのだろうか?

         さぁ、正義の味方を待とうじゃないか。

         ……運が良ければその間に、新しい家族が増えるかもしれないな」

     

    その言葉が意味するところは即ち――

     

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       |ミミ/:_彡ヘ: :: :: : : : -_: : : : : : :: : ヾミヘ

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       ヾミ!': : i: :/ ,,==: : : : ゙‐- =: : : : : : : : : : :(: i

       ヾミ!: :U: /  ○ ゙,:! : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : i、)ノ::

        Y : : : !   .:.!;:::::::::::: :: : : : : : : : : : :/: Y : :!

                     ‥…━━ PM 08:20 ━━…‥

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    死体が空から降ってきたと通報を受けたボブ・マーシー・Jrは、状況が最悪であることを理解した。

    空から雨や雹が降ってくるならまだ分かる。

    人間も稀に降ってくる。

    だが、死体が降ってくることはほとんどなかった。

     

    落ちてから死体になるのが普通だ。

    射殺体が降ってくるなど、聖書に書かれた死の街ぐらいしかあり得ない。

    いや、考えようによっては、よほどの酔狂な人間が自らの体に銃弾を撃ち込んだ後に、飛び降りたのかもしれない。

    警察本部の判断は、特殊作戦部隊と人質交渉のエキスパートを出動させることだった。

     

    通報から七分で対策本部が設置され、部隊を編成し、全てが揃い次第一斉に動くということが決定された。

    対策班はすぐさま、情報の収集を開始した。

    事件はイセギビルで発生し、防犯カメラの映像から、最上階が占拠されているということと、犯人が七人であることが分かっている。

    また、犯人の一部が強化外骨格を使用していることも判明した。

     

    ここまでの所要時間は、二十五分。

    対強化外骨格戦の特殊装備が積まれた中型トレーラーが五台、本部用の機器を備え付けた大型トレーラーが一台用意された。

    そしていざ出動しようとした、その時。

    午後八時二十分のことだ。

     

    この一件で、警察は武力行使をしてはならないと、長官から直々に命令が下された。

    結局、現場に向かうことになったのは交渉人と現場を封鎖するための部隊だけだった。

    腑に落ちないまま、ボブは装備を身に着けて中型トレーラーに乗り込み、現場へと急行した。

    現場に到着した時、ボブは絶句した。

     

    マスコミと野次馬で道路が塞がり、繊細さが求められる人質交渉にとっては最も悪しき状態だったのだ。

    トレーラーから降りた警察官一行は、すぐさまテープとコーンを使って野次馬を退去させ、ビルから遠ざけることになった。

    だが、マスコミだけはコーンの内側に入ったままで、出ようとはしなかった。

    規則に従い、ボブは一度だけ警告をすることにした。

     

    報道の義務がどうのとかのたまった場合、すぐにでも逮捕する用意はあった。

    そのついでにカメラを叩き壊してもいい。

     

    (ΞιΞ)「おい、早くどけ!!」

     

    写真を撮っているカメラマンの肩を掴んでボブがそう言うと、カメラマンの男は申し訳なさそうに答えた。

     

    ( 0”0)「いや、犯人からの要求でして……」

     

    (ΞιΞ)「なに?!」

     

    聞けば、マスコミ各社に犯人から電話があって、この様子を報道し続けろと要求されたというのだ。

    二人の話を聞いていた他のマスコミ関係者も口を揃えてそう言い、報道しなければ人質を殺すと言われたという。

    世間に注目されることを目的にする、愉快犯。

    ボブは怒りのあまり、吐き気がした。

     

    エゴのために人を殺す人間が、ジュスティア内にいることが許せなかった。

    だが記者は、更に続けて最悪な情報を口にした。

     

    ( 0”0)「それと、中の様子が今も電話越しに聞こえているんです。

          ラジオで流せと要求があって、それで……

          ……人質の女性が凌辱される様子も、流れていました」

     

    最悪だった。

    考えうる限り、最低の人間だった。

    犯人は、非常に狡賢い人間だ。

    初手から本気であることを見せつけ、要求を通しやすくしたことによって、警察は対等な立場での交渉が出来ない。

     

    更にその状況を世間に周知させることで、時間を引き延ばすという交渉術も出来なくなった。

    時間を稼げば稼ぐほど人質が傷つけられ、その様子が広められる。

    早急な解決のためには、犯人の要求を全面的に飲む他ない。

     

    (*゚∀゚)「現場の封鎖は完了したのか?」

     

    そう声をかけてきたのは、長官のツー・カレンスキーだ。

    唐突な登場に驚いたが、ボブはそれを表に出すことをしなかった。

    長官自らが現場に出ることなど、そう滅多にない。

    彼女は抜け目のない人物だ。

     

    おそらくは、マスコミたちに対して警察の対応をアピールするために来たのだろう。

     

    最近は街の外だけでなく、内からも警察に対する批難の声が上がっている。

    対応の悪さや、その進展の無さに失望したとの声が大多数だった。

    だが警官であるボブは知っている。

    怠慢でも対応の悪さが原因ではない。

     

    事件が解決出来ないのは、それほどの巨悪が相手ということなのだ。

     

    (ΞιΞ)「は、封鎖は後一分以内に完了します。

          現在、交渉人が犯人との接触を試みているところです」

     

    (*゚∀゚)「あぁ、ご苦労。

        犯人が分かり次第、教えてくれ」

     

    それだけ命じると、ツーは本部用の大型トレーラーに向かって大股で歩いて行った。

    初めて彼女と会話をしたが、ボブはその堂々とした立ち振る舞いに心惹かれてしまっていた。

     

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                     ‥…━━ PM 08:37 ━━…‥

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    从´_ゝ从「ふふ、いいぞ。 現場が温まってきた。

         どうだい、いい眺めだろう?」

     

    立て籠もりの主犯であるセルゲイ・ブルーノフに髪を掴んで起こされ、ガラスに顔を押し付けられた女は、何も言わずに、ただすすり泣いていた。

    女の服は引き裂かれ、足の付け根からはねっとりとした体液が垂れている。

    セルゲイによって殴られ、罵られ、同僚に見られ、男達に嗤われながら凌辱された女の目は虚ろだった。

    希望となる警察を前にしても、この反応である。

     

    この女は最初の内は抵抗していたが、顔を殴られる内にそれもなくなり、やがて抵抗する気を失った。

    その結果として、彼女は希望を失ったのだ。

    余計なことは何もせずに、ただの道具として成り下がった。

    これで下準備が整った。

     

    人質を女子供に限定したのは、支配が容易だからだ。

    支配者がどのように罰するかを見せつければ、すぐに言いなりになる。

    一度の見せしめでは足りない。

    二度の見せしめによって、女たちは抵抗する気力を失う。

     

    一つ目が抵抗に対する死。

    二つ目は、無条件の凌辱。

    男には通じず、女にだけ通じる脅迫の技だ。

     

    从´_ゝ从「人質の諸君、警察が到着したぞ。

         さて、どうしたものかな」

     

    女の髪で自らの性器を拭い、セルゲイはズボンをはいた。

    汚れていない髪を掴んで女を引きずり、ガラスのない場所に連れてきた。

     

    「や、止めて…… お願い……殺さない……で」

     

    だが、まだ死に対してだけは抵抗があるようだ。

    これだけの凌辱と暴力を受ければ流石に死を選ぶかと思ったのだが、この女にはまだ恐怖と教育が足りなかったようだ。

    これでは、他の人間に対する示しにならない。

    失敗作だ。

     

    ならば、見せつけ、教えるしかない。

    屈辱に耐えて生きるのではなく、潔く死を受け入れるべきなのだと。

     

    从´_ゝ从「聞こえるか、マスコミ!! 聞いているな、警察!! 聞け、ジュスティア!!

         こちらの要求を伝える!! 今すぐにフォックス・ジャラン・スリウァヤをここに連れてこい!!

         我々は、市長と直接話をする!! 要求に応じない場合は、十分毎に人質をこうする!!」

     

    小さな悲鳴を残して、女はジュスティアの空を舞い落ちた。

    下から野次馬の声が聞こえてきたが、何も感じない。

    窓から離れたセルゲイは、ハンズフリーモードの電話に向かって感情を殺した声で告げる。

     

    从´_ゝ从「俺の名はセルゲイ・ブルーノフ。 警察官だ」

     

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                     ‥…━━ PM 08:41 ━━…‥

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    セルゲイ・ブルーノフ。

    警察官として勤勉に働き、多くの犯罪者を刑務所に送り込んだ男だ。

    上司、同僚からも模範的な正義漢として評価が高かった。

    ――そして、ニクラメンの事件で両親と妹を失い、天涯孤独の身となっていた。

     

    トレーラーが牽引するコンテナ内に搭載されたダットシステムに表示された情報を見て、ツーは目頭を押さえた。

    これは愉快犯でも思想犯でもない。

    正義を見失ってしまった男の、精一杯の抵抗なのだ。

    見失った正義を取り戻すために、彼はこのような暴挙に出たのだ。

     

    警察が事件を解決出来ないせいで次々と事件が起こり、被害者が出て、更に彼は家族を全員失った。

    例え直接的な原因がないとしても、彼の心の内にある怒りと悲しみは行き場を失い、ジュスティアの正義そのものに矛先を変えざるを得なかったのだ。

    彼はいわば、事件の犠牲者。

    犠牲者であり犯罪者でありながら、彼がとった行動は実にジュスティア人らしかった。

     

    最後まで正義を信じたかった彼は、一世一代の賭けに出たのである。

    圧倒的な悪を演じ、それを裁く存在が現れるのを期待しているのだ。

    欲して止まなかった、彼が信じた正義の登場を。

    ならば、その求めに応じるのが正義の務めだ。

     

    小細工は一切抜きで向かい合うことがこの事件を終わらせ、彼を救う唯一の手段。

    瞼を下ろす僅かな時間で計画を練り、脳内で流れを作る。

    ツーは二名で事件を解決出来ると考え、同乗していた人物に声をかけた。

     

    (*゚∀゚)「……いいだろう。

        ショーン、相手は真っ向勝負をご所望だ。

        出来るか?」

     

    隣で腕を組んで話を聞いていた円卓十二騎士の第四騎士、ショーン・コネリは深く頷いた。

    彼なら、セルゲイが望む正義を遂行出来る。

     

    (´・_`)「あぁ、もちろん。 市長と一緒に行けばいいんだろう?」

     

    流石は円卓十二騎士、言わずともツーの考えが伝わった。

    ショーンと共に犯人のいる現場に向かうのは、市長のフォックス・ジャラン・スリウァヤだ。

    今は相手が市長を殺すか殺さないかは別として、一刻も早く人質たちに安心感を与え、交渉の場を作ることが必要だった。

    相手が所望する市長自らが出向けば、人質を解放させるための話し合いが出来るはずだ。

     

    (´・_`)「じゃあ、マスコミの方は任せるよ。

        市長の会見が終わり次第、現場に向おう」

     

    そう言い残して、ショーンは後部ドアから降りて行った。

    一人残ったツーは、無線の周波数をフォックスの個人用無線機に合わせ、通信を始めた。

     

    (*゚∀゚)「市長、聞こえますか?」

     

    『あぁ、良好だ。 それで、プランは整ったかい?』

     

    フォックスの声の後ろから、報道陣の野次が飛び交っているのが聞こえる。

    これから今まさに記者会見をしようと、記者たちを前にしていることが推測された。

    彼は冷静で非常に頭の切れる人物だ。

    こちらが計画を練るまで、会見は開かないつもりだったに違いない。

     

    一分一秒が争われる現場で、余計な修飾語は不要。

    要点をまとめて、ツーは計画を伝えた。

     

    (*゚∀゚)「はい。 犯人の要求に応じ、市長にはビルに向かっていただきます。

        ショーンを同伴させますので、人質を順に解放させて、最後の一人と交換するように交渉してください。

        あとは、ショーンが引き継ぎ、バックアップとしてカラマロス・ロングディスタンス大佐をピースメーカーに待機させてあります。

     

        万一の際には狙撃にて事態を終わらせ、殲滅後に電話回線を全て切らせることになっています」

     

    『わかった。 じゃあ、後の処理は任せるよ』

     

    逡巡することのない回答だった。

    部下を、そして仲間を信頼しているからこそ出来る返事だ。

    ジュスティアがイルトリアに勝っている点があるとしたら、まさにこれだ。

    仲間を徹底して信頼し、その判断に無条件で己の命を預ける。

     

    (*゚∀゚)「ご武運を」

     

    無線が切れてからツーに言えたのは、それだけだった。

     

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    会見、準備、そして行動。

    全ては異例の速さで進められ、異例の速さで実行に移された。

    犯人の要求に応える形となった市長の動きに、マスコミたちはどよめいた。

    テロリストには決して屈指ない、それがジュスティアの理念だったからだ。

     

    人質を助けるためとはいえ、テロリストの要求を呑むというのは前代未聞だった。

    無責任に発せられる反対意見を退け、市長であるフォックス・ジャラン・スリウァヤは単身でビルに入った。

    フォックスの姿がビルの中に消えると、マスコミ各社は訃報と吉報、両方のニュースでもすぐに発信出来る準備を整えた。

    だが、市長としてその椅子に座るフォックスは、マスコミの反応を予想していたため、それを制限させなかった。

     

    彼は、市長は、テロリストに屈した覚えはなかった。

    要は戦い方の問題だ。

    横合いから殴りつけるか、それとも正面から殴り合うかの違いでしかない。

    今回のようにテロリストと真っ向勝負という展開は、フォックスにとって理想的な展開と言えた。

     

    ジュスティアの威光を示す絶好の機会だ。

    円卓十二騎士の登場と制圧ぶりは、世界に対して再びジュスティアの力を思い出させる切っ掛けとなる。

    この事件の首謀者も、それを望んでいる。

    だからこそ、彼らは全力で正面から立ち向かわなければならない。

     

    フォックスには覚悟があった。

    撃たれる覚悟。

    刺される覚悟。

    そして死ぬ覚悟だ。

     

    だが死ぬつもりは毛頭ない。

    彼が死ぬことでジュスティアが失う物があまりにも大きすぎる。

    今はまだ死ねない。

    死んでやることは出来ない。

     

    人気のないビルは不気味だった。

    照明は全て消え、暗闇に浮かぶのは非常口を示す緑色の明かりだけ。

    そこに響くのは一人分の跫音。

    そこを進むのは二人の男たち。

     

    地下駐車場から合流した男は気配を絶ち、フォックスの三歩後ろを歩いている。

    彼の背中には背丈と同じ六フィートのコンテナがあった。

    軍用第三世代強化外骨格の運搬用コンテナだ。

     

    '`)「……」

     

    フォックスは公園を散歩するような気軽さで無人となったエントランスを進み、地面に転がる死体の傍に膝をついた。

    瞼に指を乗せて降ろしてやり、背後に立つ円卓十二騎士のショーン・コネリを見た。

    彼は無言だった。

    だがフォックスは、彼が全てを理解していることを知っていた。

     

    話さずとも、それは分かる。

    彼は円卓十二騎士。

    ジュスティアの正義を執行する、代表者なのだから。

     

    (´・_`)「……」

     

    二人は無言でエレベーターに乗り込み、最上階を目指す。

    低い唸りを上げて上昇する昇降機内で、フォックスは小さく溜息を吐いた。

     

    '`)「なぁ、ショーン。 君は彼のことを、どう思う?」

     

    (´・_`)「どうしようもない愚か者です。

        正義のために悪になっても、根本的な解決にはつながらない。

        ……だから、私が救ってやります」

     

    '`)「私も同意見だよ。

        ……彼らのこと、よろしく頼むよ」

     

    一人の男が自らの命と他人の命を利用して正義を蘇らそうとしている。

    愚かな男だ。

    だがそれを産んでしまったのは、フォックスたちでもある。

    最上階に到着し、扉が開く。

     

    待ち受けていたのは、二機の白い強化外骨格だった。

    予測はしていたが、驚いたのはその姿だった。

    明らかにジョン・ドゥなのだが、そのカラーリングは禍々しささえ感じる。

    眩いばかりの純白の外装、ヘルメットに描かれた金色の大樹のエンブレム。

     

    クロジングの強盗未遂事件の報告書にあった棺桶に相違ない。

    二人の頭に短機関銃の照準を合わせながらもすぐに発砲しないのを見るに、実戦経験を積んだことのある人間だと推測出来る。

     

    〔欒゚[::|::]゚〕『……本当に来たか』

     

    〔欒゚[::|::]゚〕『そいつは?』

     

    棺桶を背負うショーンに対して、男たちは警戒心を露わにした。

    フォックスに向けていた銃口は、今やショーン一人に向けられている。

    判断は悪くないが、経験が浅い証拠だ。

    仮にフォックスが銃と殺意を隠し持っていたら、目の前にいる二人は銃口を逸らした瞬間に死んでいる。

     

    '`)「気にする必要はない。 君たちが約束を守りさえすれば、ね」

     

    〔欒゚[::|::]゚〕『……いいだろう。 ならば市長、お前が先だ。

          そこのお前、妙な気を起こすなよ』

     

    (´・_`)「約束を守るのなら、私もそれを守ろう」

     

    フォックスは男たちの間を通って、扉を押し開いた。

    砕けた窓から吹き込む温い風が、フォックスの顔を撫でる。

    最初に目についたのは、壁際で震える女たちと泣く子供たちの姿だった。

    そして、凌辱される一人の女が目に入った。

     

    '`)「……」

     

    从´_ゝ从「おや、市長。 来てくれたのか。

         俺がセルゲイだ」

     

    ガラスに手をつかせた女を背後から犯すセルゲイは、フォックスの姿を見て少年のように目を輝かせた。

    思った通り、彼の目に狂気じみた色は覗えない。

    女を犯しながらも、彼は楽しそうな顔をしていなかった。

    ツーの予想した通り、この男は正義を待っていたのだ。

     

    '`)「あぁ、来たよ。 さぁ、人質を解放してもらおうか」

     

    从´_ゝ从「そう焦るな。 俺はあんたと話がしたいんだ」

     

    '`)「私と話がしたいのなら、なおさらだ。

        人質を解放したまえ。

        最後の一人と私を交換すればいいだろう」

     

    セルゲイは少し迷った様子を見せた後、女を突き飛ばした。

    陰茎を女の髪で拭い、ズボンにしまう。

    セルゲイは人質たちに銃を向けていた仲間に向けて、手短に命令を下した。

     

    从´_ゝ从「いいだろう。 この女以外、全員解放しろ」

     

    提案は驚くほどあっさりと受け入れられ、人質たちを向いていた銃口がフォックスとショーンに向けられる。

    自分たちを睨んでいた銃口がなくなったのを知ると、人質たちはふらつきながらも出口を目指して走り出した。

    エレベーターに駆け込む女子供を、誰一人として追いかけようとはしない。

    昇降機の扉が閉まり、フロアには崩折れすすり泣く女のか細い声だけが残された。

     

    '`)「約束だ、私がそちらに向かう。

        その代り、その女性をこちらに連れてくるんだ」

     

    从´_ゝ从「まずはそっちから来い。 両手を頭の上に乗せて、ゆっくりとだ」

     

    いつの間にかに構えた短機関銃が、フォックスの胴体を狙っていた。

     

    '`)「分かっているよ」

     

    言われた通りに両手を後頭部に当て、フォックスはセルゲイに近づく。

    階段をゆっくりと降りて、足元に散った書類を踏みながら、慎重に。

     

    从´_ゝ从「そこで止まれ。

         さて、市長。 話をしよう。

         俺はあんたに一つだけ訊きたいことがあるんだ。

         その答えだけ聞くことが出来ればいい」

     

    後十フィートという所で、セルゲイがフォックスを止めた。

    先ほどからの問答は全て、ジュスティアはもちろん、世界中にリアルタイムで配信されているものだ。

    迂闊な答えは出来ない。

    偽りのない言葉で答えるべきだ。

     

    '`)「聞こう」

     

    从´_ゝ从「あんた、正義のために死ぬことは出来るか?」

     

    愚かな質問だった。

    この事件を起こす人間に相応しい、愚かな質問だ。

    答えなど決まっている。

    そしてこの男は、こちらが答えることを期待している。

     

    選ぶべきは真実の言葉。

    フォックスは条件反射的な速度で答えた。

     

    '`)「無理だね。 正義のために死ぬ覚悟はあるが、死ぬわけにはいかない」

     

    セルゲイはその言葉を噛みしめるようにして聞き、瞼を下ろした。

    僅かな沈黙。

    そして、セルゲイの引きつった笑顔。

    次に何が起こるのか、その場の全員が理解した。

     

    从´_ゝ从「……なら、今ここで死ね!」

     

    '`)「ショーン、正義の時間だ」

     

    両者の言葉が始まりの、そして終わりの合図となった。

     

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                   ゝ| 'y,:___,,,,,__y. \ ノ  / /___,,,,,,,,,,,,,,/  |__

                  / ヘ   `゙゙゙゙''''゙゙-   ゝ /  |--''゙゙     | ヽ

                  | | |       /  / ヽ   \        | |

                  | | |          |  |           | | ||

             『我らは巌。 我らは礎。 我らは第九の誓いを守護する者也』

     

                     ‥…━━ PM 09:05 ━━…‥

     

    ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

     

    円卓十二騎士、第四騎士ショーン・コネリ。

    彼は、オフィスに足を踏み入れた瞬間から戦闘準備を整え、合図を待っていた。

    口にした起動コードは、ガーディナなどの強化外骨格で知られるジャネーゼで作られた最後のガバメント・シリーズのそれだ。

    この時代に現存する、最後の一機。

     

    その名は、“アーティクト・ナイン”。

     

    <::[-::::,|,:::]『御意』

     

    機動性を確保するために全身を特殊軽量合金で覆い、排熱効率を向上させるためにパーツの三割にハニカム状の穴をあけ、同時に軽量化も実現させた。

    特筆すべきはその機動性と反応速度、そして僅か二秒と云う装着の速さだ。

    従来の棺桶の倍近くの設定を行うことで、使用者の動きを確実に反映させる。

    両腕に装備された長さ約三〇インチの対強化外骨格用のライフル、そして背中のバッテリー横に取り付けられた高周波刀がアーティクト・ナインの主兵装だ。

     

    〔欒゚[::|::]゚〕『こ、こいつ!!』

     

    左右を挟んでいたジョン・ドゥ二機は、照準をショーンに合わせていたことが災いした。

    運搬用コンテナは非常に堅牢に作られており、よほどのことがない限り絶対に銃弾を通さない。

    彼らはショーンがそこに収められ、再び現れるまでに三発の銃弾を無駄に発砲してしまった。

    半ば条件反射的な動きだったが、それは無駄な動きだった。

     

    もしも彼らが本当に勝利を狙っていたのであれば、照準をフォックスに変更して銃爪を引き絞るべきだったのだ。

    だが、もう遅い。

    あまりにも、遅すぎた。

    強化外骨格を纏ったショーンが姿を見せた時には、二人の命は二発の銃声で終わりを告げた。

     

    両腕の大口径のライフルが放った銃弾だ。

    .700NEと云うライフル弾は、現代で棺桶を一撃で屠る際に使われる切り札的な物だ。

    使用される銃は世界で僅かに五挺のみ。

    その特殊な口径故に製造は殆どされておらず、使用出来る銃火器も殆ど残っていない。

     

    そして、アーティクト・ナインの両腕に装着されたライフルの装弾数は五発。

    大勢を一度に相手にするには頼りない弾数だが、テロリストたちを壊滅させるには十分な弾数だった。

    胸部を吹き飛ばされた二機のジョン・ドゥは反動で仰向けに吹き飛び、地面に落ちた。

    棺桶を装着していなかった残りの四人が、一斉に解除コードを叫ぶ。

     

    『夢と希望が我らの糧。我ら、正義と平和の大樹也!!

     

    だが、手遅れだった。

    ジョン・ドゥの起動には約十秒の時間が必要となる。

    彼らは知らない。

    安全なはずのその時間こそが、ショーンにとっては必殺の時間であることを。

     

    本来、運搬用のコンテナはどの棺桶も本体以上の強度を持たせて製造されている。

    使い方によっては榴弾の爆風を受けても動作を保証されており、対棺桶用の銃弾では貫通は不可能だと思われている。

    しかし。

    何事にも例外がある。

     

    鉄を溶かす炎。

    鋼を両断する刀。

    物質を瞬時に氷結させる液体。

    分厚い装甲を貫通する銃弾もまた、そういった例外の一つだ。

     

    そして、この対強化外骨格用ライフル“八千代”こそが、死角を利用した必殺の兵器である。

    棺桶持ちはほぼ全員が、背負ったコンテナの装甲が絶対の装甲であるという心理的な死角を持つ。

    一度コードを入力してしまえば、安全な場所に避難出来るという、盲信。

    その常識を打ち破るライフルの存在を、彼らは知らなかった。

     

    コンテナに空いた一つの穴。

    その穴の向こう側には、飛び散った臓物や血飛沫が伺える。

    四人のテロリストたちは、全員、そのコンテナを己の棺桶にして沈黙した。

     

    <::[-::::,|,:::]『……終わりだ、セルゲイ・ブルーノフ』

     

    硝煙と陽炎で揺らぐ銃口をセルゲイに向け、ショーンはそう言い放つ。

    圧倒的な威力の銃を目の前にしても、セルゲイは狼狽しなかった。

    指揮官としては優秀な類だ。

    終わりに際しても動揺しないと云うことは、覚悟が出来ているということだ。

     

    从´_ゝ从「ははっ…… そうか、もう終わりなのか……」

     

    セルゲイは、そう言って俯いた。

    時折聞こえる笑い声には、喜びの色が滲み出ている。

    終わりを悲しむのではなく、計画の破綻を嘆くのではなく。

    この男は、喜んでいる。

     

    ひたすらに喜んでいるのだ。

    歓喜し、感動し、安堵しているのだ。

    終わりが訪れ、切望していたものが目の前に現れたことに。

    かつて信仰したものが今も変わらずあるということを再認識し、己の愚行を呪い、正義を祝福することに喜びを感じているのだ。

     

    从´_ゝ从「あんた、名前は?」

     

    <::[-::::,|,:::]『円卓十二騎士のショーン・コネリだ』

     

    その時初めて、セルゲイの顔に驚きの感情が浮かんだ。

     

    从´_ゝ从「道理で…… なぁ、市長……

         いや、フォックス・ジャラン・スリウァヤ」

     

    '`)「何だい?」

     

    フォックスの口調は柔らかだった。

    労を褒める父親の口調だった。

     

    从´_ゝ从「正義は、本当にあるのか?」

     

    '`)「正義は、ここにある」

     

    静かな返答に、セルゲイは何かを悟ったような顔をした。

    ゆっくりと、ガラスの割れた窓辺に歩き出す。

    二人はその様子をただ見守った。

    彼はおもむろに懐に手を伸ばし、そして――

     

    从´_ゝ从「ありがとう、もう十分だ」

     

    ――その言葉の直後、セルゲイの胸に大きな穴が開いた。

    ショーンも、そしてフォックスも発砲はしていない。

    撃ったのはあらかじめ待機させておいた狙撃手、カラマロス・ロングディスタンスだ。

    セルゲイは力なく膝をついて、背中から倒れる。

     

    寄りかかる物が何もない虚空に向けて、セルゲイの体が落ちて行く。

    こうして、セルゲイ・ブルーノフの夢は終わりを告げた。

    愚直な男は自らの最期を、悪として散ることを選択した。

    その様子を見届け、フォックスは懐からシガーケースを取り出し、葉巻を一本咥えた。

     

    マッチで火を点け、深く煙を吸い込む。

    ゆっくりと吐き出した紫煙は、風にもまれてすぐに消えた。

     

    '`)y‐「久しぶりだよ、こんなに不味い葉巻は」

     

    (´・_`)「……」

     

    これで、事件は幕を下ろすこととなる。

    だが、終わりではない。

    終わりにしてはならないのだ。

     

    '`)y‐「正義のために悪に染まり、悪として死ぬ男。

         それもまた、ある種の正義だろうさ。

         だが、彼の装備は極めて異常だ。

         ……ショーン、彼は誰かに利用されたと思うかい?」

     

    (´・_`)「おそらくは、そうでしょう」

     

    その判断材料として挙げられるのが、彼らの所有していた棺桶だ。

    ジュスティア内では出回ることのない、非正規の棺桶。

    クロジングで使用された曰くつきのジョン・ドゥが、ジュスティア内に持ち込まれたのは事実として認めるしかない。

    問題なのは、誰が何のために持ち込んだのか、という点である。

     

    内部で手引きをした人間がいなければ、あのような棺桶は持ち込めないはずだ。

    考えられるのは、裏切者の存在だ。

     

    '`)y‐「私が腹を立てているのは、あぁ、聞き流してくれてもいいがね。

          純粋な気持ちを利用して、悪に手を染めさせたその行為だ。

          私の都で、私の街で、よくもまぁここまで好き放題やってくれたものだ。

          裏切者を見つけ出し、必ず裁きを受けさせてやる」

     

    葉巻を握り潰し、フォックスはそれを地面に叩き付けた。

     

    '`)「十二騎士を本格的に動かすぞ!

        我々の正義を揺るがすわけにはいかない」

     

    (´・_`)「当然です」

     

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    :::::/三三三//三三`゙ 、 || .:',::::::::::::::::|ヽ、     ィ"::::::::::::::|

                     ‥…━━ PM 09:45 ━━…‥

    ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

     

    主犯であるセルゲイの死体が落下し、事件が終息したことを関係者全員が理解した。

    いつの間にか電話も切られ、中の様子の中継も止まっている。

    全ては無事に終わった。

    多少の被害者と最小の被害で、最大の成果を上げることに成功した。

     

    無事に円卓十二騎士の存在も公にでき、後は正式に発表するだけだ。

    セルゲイの犠牲で、ジュスティア全体のみならず、世界中にジュスティアの本気を知らせることが出来る。

    彼の夢であった正義の再臨は、こうして成就する。

    長い夜はこうして無事に終わる――

     

    (*゚∀゚)「……は?」

     

    ――はずだった。

     

    (*゚∀゚)「馬鹿な……そんな、馬鹿なっ……」

     

    コンテナに積まれた無線機を通じて入ってきた新たな情報に、ツー・カレンスキーは声を震わせ、思わず結っていた髪を解いてしまった。

    全ては正義のためではなかった。

    一連のセルゲイの行動は、あくまでも囮。

    本当の狙いは、ジュスティア内に勢力を固めておくこと。

     

    セルゲイを惑わした主犯の目的は、ティンカーベルにある監獄島。

    その脱獄計画こそが、真の目的だったのだ。

    怒りに身を任せ、トレーラーの壁を力任せに殴りつける。

     

    (*゚∀゚)「セカンドロックが、破られた……!?」

     

    脱獄者二名。

    それは、ジュスティアの歴史において汚点としか言えない結果だった。

    髪ゴムを握りしめ、ツーは歯噛みする。

    してやられた。

     

    目撃者多数。

    死傷者多数。

    実行者の一人は、ショボン・パドローネであることが確定している。

     

    (*゚∀゚)「逃げた奴らはどうした?!」

     

    無線機の向こうから、泣きそうな声で兵士が答える。

     

    『ヘリで逃げられ、ティンカーベルのどこかに着陸したところまでは確認できているのですが……』

     

    状況は最悪だ。

    だが、まだ間に合う。

    後手ではあるが、手順を間違えなければ好機はある。

     

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    AmmoRe!!のようです                              Ammo for Tinker!!

     

    第一章 【mover-発起人-】 了                           To be continued...

     

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                            次回予告

     

    正義と悪。

    悪と正義。

    どちらが先に生まれたか、どちらが先に決まるのか。

    答えは誰にも分らない。

     

    鐘の音響くこの島に、二つの想いが集いだす。

    追うは信念、追われるは旅人。

    果たしてどちらの想いが叶うのか。

    答えは誰にも分らない。

     

    孤高の虎はただ、その行く末を見守るのみか。

    答えは誰にも分らない。

     

    次回 AmmoRe!!のようです Ammo for Tinker!!

     

                      第二章 【集結- concentration -

     

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