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  1. 名前: 歯車の都香 --/--/--(--) --:--:--
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第九章【order-命令-】

  1. 名前: 歯車の都香 2017/04/15(土) 21:20:00
    第九章【order-命令-】

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    If giving is the love, killing means the love.

    与えることが愛ならば、殺すことも愛なのだろう。

     

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             マ {{ ゝ-‐゚ ´.}!!、 `¨¨´ .〃  l!'  У

                'ム、     〃.!   ー- '    ノ´

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               ‥…━━ August 6th AM11:43 In the 3rd block ━━…‥

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    海上を我が物顔で荒らし回るストローハット海賊団に所属する彼らは、嵐を愛していた。

    自らの蛮行を嵐に例える同業者がいたが、彼らは嵐ではなかった。

    人間がいくら徒党を組んで強力な装備を手に入れたところで、本物の嵐になることも、それ以上の存在になることも出来ないのだ。

    嵐を自称する海賊団と対峙した時、ストローハット海賊団は容赦なく敵船を攻撃し、海に沈めてきた。

     

    確かに、猛烈な弾幕と攻撃を嵐に例えたくなる気持ちも分からないでもないが、所詮は人間の技。

    弾雨は豪雨には敵わず、砲声は雷鳴にも劣った。

    RPG-7の一撃で喫水線に穴を空けただけで沈む船の脆さは、嵐の豪健さと比べることが無礼なほどだった。

    人間は嵐を始めとした自然現象には絶対に勝てない。

     

    勝てないが、利用することは出来る。

    人の不幸を糧に生きる人間ならば分かることだが、嵐とは、被害だけをもたらすものではない。

    要は捉え方と動き方だ。

    確かに、嵐はあらゆるものを根こそぎ吹き飛ばし、何事もなかったかのように青空と瓦礫の山をそこに残す。

     

    同時に、何の労力も割かずに人間に対して精神的、肉体的なダメージを与えるものでもある。

    嵐によって壊滅的な打撃を受けた街には崩れた家が多々見受けられるが、その下から価値のある家電を容易に掘り出すことが出来る。

    また、家族と離れ離れになって途方に暮れた子供を手に入れる絶好の機会でもある。

    言わば、無欲な暴虐者の後ろに付き従うハイエナとして、嵐を利用するのだ。

     

    海賊の中にはその行為が卑怯だと言う者もいるが、それは間違いだ。

    要は、人が手を下すかどうかの問題であり、無駄な労働をするか否かと云う違いしかないのだ。

    あくまでもこちらは自然災害の猛威によって打撃を受けた街から利益を得ているだけであり、被害者から金を巻き上げる警察と大差ない。

    どちらも人の不幸を商売にしているのであって、誰もが幸せな世界なら、どの商売も成り立たずに消え去るだろう。

     

    それが成り立つということは、これは商売として成立しているということだ。

    悔しければ真似すればいい。

    腹立つならば真似すればいい。

    咎めるなら止めて見せればいい。

     

    電池を使い果たして動きのとれない豪華客船もまた、彼らが幸せになるためには不幸になってもらう対象でしかない。

    そうなってもらう予定だった、と言うべきだろう。

    一カ月も前から計画されたオアシズ襲撃計画。

    それは、非常にシンプルかつ大胆な内容だった。

     

    孤立した船で起こる連続殺人事件とその内容のエスカレート。

    全ての注意がそこに向けられている隙に彼らが乗船し、目的を達成するという流れだ。

    それを達成するための最大の障害が、オアシズに搭載された高性能なレーダーだ。

    一般の船舶に積まれているそれとは違い、海底の形状は勿論だが、接近してくる影の速度や種類までも詳細に分かる代物だ。

     

    レーダーの無効化と云う問題の解決は、協力者が請け負った。

    事件解決を目的にジュスティアから派遣される兵に混じり、オアシズ内に潜入。

    既に船に潜伏している人間と協力し、内部からレーダーを無効化すると言うのだ。

    絵空事の様に思えた作戦は、だがしかし、現実化した。

     

    計画通りに各階に二人一組で散った海賊達の中で、第三ブロック三階の船外に設置された非常扉を開いたのは、ガイモン・グリーンヘッド、そしてパール・シールだ。

    ストローハット海賊団の戦闘員である二人は素早くクリアリングを行い、船内に通じる最後の非常扉の前で待機し、仲間に合図を送った。

    合図は無線機の通話ボタンを一定間隔で数回押すことで伝わり、声を使わないので敵に聞かれる心配がない方法を取っている。

    その合図からすぐに応答が来た。

     

    攻撃を実行せよ、とのことだ。

    水密扉のハンドルをパールが回し、ガイモンが扉の向こうに銃を向けて待機する。

    慎重に開かれた扉の向こうには、写真や噂で聞いた通りの街が広がっていた。

    これまでに多くの船を見てきた彼らにとって、それは常識を変える光景だった。

     

    世界最大の船上都市として機能しているだけはある。

    飲食店は勿論、その他娯楽施設、住居までが船に収まっている。

    ある意味で混沌としていて、またある意味では整然とした景色。

    あまりにも現実離れした光景に、一瞬言葉を失ってしまう。

     

    胸の無線機から警備員詰所を制圧したとの報告が音声で入り、あまりの呆気なさに驚きを隠せなかった。

    世界最大の船上都市の警備は、ここまで脆かったのだ。

    本当は、熾烈な戦闘を期待していたのだが、それは期待のし過ぎだったようだ。

    彼らの役目は搖動。

     

    警備員詰所が空になるまでの間、注意を惹きつける役割を担っていたのだが、その必要はなくなってしまった。

    危険を承知でそれを受けたのは、危険を楽しむためだった。

    銃撃戦の中で自分が生きているという実感と、相手の人生を終わらせることに快感を覚えたかったからだ。

    だが、素早く展開された作戦がオアシズを陥落させるのに有効だったという結果は、素直に受け入れるべきだ。

     

    例え撃ち合いが行われなくとも、仕事は果たす。

    それがプロと云うものだ。

    気を取り直して、意識を整える。

     

    「クリア。 パール、行くぞ」

     

    「あいよ、ガイモン。 目標は市長だ」

     

    ガイモンが角から足を踏み出した瞬間、視界の端に黒い何かを捉えた。

    積み重ねた経験と勘が、彼の体に対して後退を命じた。

    一瞬でもその行動が遅れていたら、彼の首に特注の空気穴が出来ていただろう。

    堰を切ったように銃声が連続して響き、目の前を銃弾が通り過ぎる。

     

    ガイモンは、この呆気のない制圧が罠であることを瞬時に理解した。

    どこかで何かがずれたのだ。

    噛み合うべき歯車が、噛み合わなかった。

     

    待ち伏せされていたということは、つまり、初動の際に綻びがあったのだ。

    協力者側の失態で、接近が知られていた可能性が非常に高い。

    今すぐに計画の変更をしなければ、多くの死人が出て作戦そのものが破綻する。

    無線機を胸から取出すが、本体に空いた銃痕を見てそれを地面に叩きつけた。

     

    パールは無線機の代わりに防弾プレートを入れる男。

    これで、本隊に連絡が取れなくなった。

     

    「ガイモン、大丈夫か?!」

     

    「大丈夫だが、やつら待ち伏せしてやがった!

    情報と違うぞ!」

     

    「本隊に連絡は?」

     

    「駄目だ、無線機が撃たれた!

    この調子だと、他の連中も危ない!」

     

    あちらこちらで響く銃声が、第三ブロック全体で同じことが起こっている事を物語る。

    接近してくる複数の跫音が耳に届き、ガイモンはパールに言葉をかけた。

     

    「ここは俺達で切り抜けて、他の連中と合流しよう!

    俺達ならやれる!」

     

    銃弾は曲がり角を削り取り、弾雨によって二人をそこに釘付けにした。

    背中には出口、正面はT字の道だ。

    あまり待ってもいられない。

    反対方面の道に陣取られて狙撃でもされたら、ひとたまりもない。

    逃げるという選択もあるが、今は進む方が賢明だ。

     

    襲い掛かった以上、後退は悪戯に被害を出しただけという結果だけを残す。

    地の利は相手にあるが、来る方向さえ分かれば対応は出来る。

    ダットサイトとレーザーサイトを装着した個人防衛火器P90を肩付けに構え、パールは壁を背に付けた。

     

    「よし、やってやろうぜ!」

     

    「おい、パール! 壁にっ……!!」

     

    屋内の銃撃戦の中で忘れてしまいがちなのが、壁に近づくという愚行だ。

    木製ならいざしらず、鉄製の床と壁が周囲にある状況では跳弾の危険性が高まる。

    特に、壁に近い位置にいると跳弾を受けやすくなる。

    その為、室内戦、特に廊下のような狭い場所での戦闘では壁から離れて真ん中に位置取る事が基本とされている。

     

    しかし、パールの性格上、それは難しい話だった。

    彼は臆病故に、防弾チョッキを重ね着するほどの慎重な性格をしている。

    そのため、一方向を安全な状態にしようと壁を利用したのだ。

    それが、失敗だった。

     

    「おぷっ!」

     

    運悪く跳弾した銃弾は、何の防御もない彼の頭を直撃してその命を奪った。

    銃弾の飛んできた先を確認し、ガイモンは姿勢を低くしてパールの死体の傍に近寄って彼の銃を手に取った。

    悲しいことだが、彼の利口さが足りなかったがために起きた事態だ。

    いちいち悲しんでなどいられない。

     

    近接戦闘が予想されるため、両手に銃を構える。

    数の不利を補うには、弾の数と命中精度が必要だ。

    呼吸を止め、跫音と銃弾の飛んでくる方向と、その逆方向に銃口を向けて敵を待つ。

    正面にはまだ敵の姿が見えないため、備えはしない。

     

    数は複数だが、十人以下だ。

    そこまで多くはない。

    殺り甲斐がある。

    一つ、簡易な罠を使うことにした。

     

    「ぐおっ、ぐっ……い、あがぁっ……!?」

     

    偽りの悲鳴。

    偽りの悶絶。

    致命傷を負っていると勘違いをして、勇み足でやってくるかもしれない。

    十回に七回は成功したこと、実績のある罠だ。

     

    そして、その時が来た。

    クリアリングのために角から僅かに覗いた銃身。

    次に出てくるのが人の顔か小型の鏡かで、対応が変わってくる。

    呼吸を止め、相手の動きを待つ。

     

    左の曲がり角から僅かに現れたのは男の顔。

    それが、発端となった。

    銃爪を引いて銃弾の雨を浴びせると、名も知らぬ男の顔が砕け散った。

    床の上でのた打ち回り悲鳴を上げる男に、右手のP90で弾を浴びせる。

     

    その時間を契機と見た新たな男が姿を見せるが、左手の銃が火を噴いてその勇気を凌辱する。

    胸に弾丸を受けた男は正面から殴られたように後ろに倒れる。

    防弾チョッキを着ていたのだろうが、こちらの銃弾はそれを貫通する。

    殺した男達の武装はいずれも拳銃だった。

     

    つまり、警備員の可能性が低い。

    正規の警備員は、アサルトライフルで武装しているはずだ。

    警備員以外で武装していてもおかしくないのは、探偵だけだ。

    敵は総出で迎え撃とうとしているのだが、妙なところで詰めが甘い。

     

    マニュアルでしか対処したことのない事態だから慣れていないのだろう。

    だが情況的に、決してこちらが有利なわけではない。

    楽観的な行動は禁物だ。

    切り札を使う時だと、ガイモンは心を決めた。

     

    『そして望むは、傷つき倒れたこの名も無き躰が、国家に繁栄をもたらさん事を』

     

    背負った軍用第三世代強化外骨格、通称“棺桶”の解除コードを静かに口にして、ガイモンは鎧を身に纏う。

    銃撃戦で命を失うのはまっぴらだ。

    生身で殺し合いをするのはガンマンのすること。

    棺桶を持っているのならば、躊躇わずに使うべきなのである。

     

    コンテナの中から姿を現したのは、Bクラスの傑作機として名高いジョン・ドゥの軽量型モデル、ジェーン・ドゥ。

    基本的な運動性能を損なうことなく、軽量化に伴う機動力を有する機体だ。

    カメラを光学モードから熱源探知モードに切り替え、曲がり角の向こうにある僅かな熱を感知し、可視化する。

    敵は三人。

     

    全員生身。

    楽勝だ。

    両手にP90を構え、ガイモンは角から姿を現した。

     

    〔Ⅱ゚[::|::]゚〕『ばぁ!』

     

    +゚べ゚+)「ひっ!?」

     

    二挺の弾倉を使い切るまで撃ち続け、三人の頭を瞬く間にミンチにする。

    カメラを光学モードに変更し、男達の姿を確認する。

    スーツを着ている男もいれば、シャツにジーンズとラフな格好をした男もいた。

    だが、得物は拳銃で統一されている。

     

    〔Ⅱ゚[::|::]゚〕『……探偵?』

     

    何故、ここに警備員を配置しなかったのだろうか。

    何故、装備を整えて配置されていないのか。

    ただの捨て駒として考え、最低限の武装だけさせたのだろうか。

    いや、有り得ない。

     

    味方を犠牲にする戦法を取るような状況ではないはずだ。

    彼らからすれば、船内のあらゆる箇所が要所。

    一か所たりとも通過させてはならない状況なのだ。

    考えられる可能性としては、要点を別の場所に定めて――

     

    『名も無き私は知っている。人類最後の日まで、銃が世界から消えない事を』

     

    背後から聞こえたのは、ジョン・ドゥと比較される傑作機、ソルダットの解除コードだった。

    棺桶同士の戦い。

    興奮に、全身に鳥肌が立つのが分かった。

    振り返ると、十三ヤードの位置に仁王立ちになる者がいた。

     

    武骨な鎧は堅牢な装甲の証。

    表面に負った浅い傷は経験値と技量の証明。

    そして漂わせる雰囲気は、棺桶持ちの実力。

     

    [--]『海賊風情が乗っていい船じゃないんだよ、オアシズは』

     

    歳を重ねた男の声。

    これは期待が出来そうだった。

     

    〔Ⅱ゚[::|::]゚〕『……楽しめそうだ』

     

    対峙する男は鋼鉄の拳を打ち合わせて、言った。

     

    [--]『来なよ、若造』

     

    駆け出したのは同時。

    速度はほぼ互角の時速五十マイル。

    銃弾よりも肉弾戦による戦闘が望ましい距離と速度だ。

    P90を手放し、両の拳を握りしめ、ガイモンは右ストレートを相手の頭部に打ち込む。

     

    相手はそれを左手で払い飛ばし、頭突きを放つ。

    狙われたのはこちらの顔。

    ジェーン・ドゥの同型機は皆、他の場所と比べて顔面前部の装甲が弱い。

    その弱点を潰しに来た一瞬の中、ガイモンは仰け反ることでそれをギリギリで回避した。

     

    両者共に速度を生かした攻撃だったが、共に外れた。

    残された結果としては、互いの胸部がぶつかり合っただけ。

    鈍い音と強い衝撃。

    一瞬だけカメラが乱れるが、問題はない。

     

    距離はゼロ。

    完全に密着した状態になり、ガイモンは戦術を一瞬で立てた。

    引き剥がしてから、再び肉弾戦に持ち込む。

    その戦術を、即行動に移す。

     

    〔Ⅱ゚[::|::]゚〕『せあっ!!』

     

    バックステップと同時に前蹴りで距離を離し、五ヤードの位置に付く。

    相手も同じようにして距離を開け、十五ヤードは離れた。

    仕切り直すなら今だ。

     

    [--]『君の役割はここまでだ』

     

    そう言うと、ソルダットは股間の前に取り付けられた鞘から大振りの高周波ナイフを右手で抜き放ち、空中で逆手に構えた。

    高周波の小さく甲高い音が、ガイモンを興奮させる。

    彼も左腰の鞘からナイフを抜いて右手で構え、切っ先を相手に向ける。

    じりじりと距離を詰めつつ、手の中でナイフを弄ぶ。

     

    高周波ナイフを使えば、棺桶の装甲を切断することが出来る。

    狙うなら関節部か急所。

    先に仕掛けたのはガイモンだった。

    突き殺すためにナイフを構えながらの突進。

     

    リーチを考えても、相手にできるのは払い除けるか横にずれてからの反撃だけだ。

    ならば、勝てる。

    肉薄するこちらの様子を見ても、相手は静かに立ったままだ。

    喉元目掛けてナイフを突き出し、必殺を狙う。

     

    [--]『甘い』

     

    逆手に構えた状態から、ソルダットはそのナイフを腰の位置から低い位置に投擲してきた。

    加速した状態と距離、そして構えから、それを回避したり弾き飛ばしたりするのはまず無理だった。

    意識の全てがナイフの飛んでいく先に向けられた一瞬。

    それが、ソルダットの狙いだった。

     

    ナイフは回転しながらガイモンの右膝に突き刺さり、バランスを崩させた。

    その一撃で精密さを要求される攻撃から集中力が削がれ、命中率は絶望的な物となった。

    回避行動一つなく攻撃は鋼鉄の仮面を僅かに掠るだけに止まり、お礼に繰り出された巨大な握り拳が左胸を直撃する。

     

    〔Ⅱ゚[::|::]゚〕『ぐおっ!?』

     

    装甲越しに浴びせられた凄まじい衝撃は、銃弾の比ではない。

    心臓が一瞬止まり、意識が飛ぶ。

    前屈みになったところに合わせた肘蹴りが顔を襲う。

    装甲越しの攻撃に、顔面の骨が砕けるのが分かった。

     

    [--]『せっかくもらったおもちゃも、使いこなせなければ意味ないのさ』

     

    後頭部を両手で掴まれ、男は肘蹴りを何度も顔に浴びせてくる。

    装甲が変形して顔に食い込み、攻撃の度に激痛が走る。

    肘蹴りの最中、頭を掴む手が徐々に時計回りに力を込めていることに気付けなかった。

     

    [--]『さよなら』

     

    首が一回転する直前に聞いたその声は、恐ろしいほどに優しげだった。

     

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    AmmoRe!!のようです

     

    Ammo for Reasoning!!

     

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               ‥…━━ August 6th AM11:47 In the 3rd block ━━…‥

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    撃ち合いは第三ブロックの各階で起こっていた。

    特に熾烈さを極めていたのは、一階だった。

    待ち伏せしていた状況にも関わらず、僅か三分で死傷者五名。

    逆に、仕留められたのは一人だけ。

     

    短時間の間に住民を室内に避難させていたからよかったものの、オアシズ側の受けた被害は大きすぎた。

    警備員の意識は高いが、戦闘経験が浅いのが問題だ。

    撃ち合いになる前に棺桶を使うべきなのだが、彼らはどうしてか棺桶を使おうとしない。

    そのせいで、棺桶持ちが銃弾に倒れるという情けない状態になっている。

     

    あれは恐らく、自分自身の生存本能とは別の意志に従っているのだろう。

    そうでなければ、ただの自殺志願者だ。

    対等な武力での応戦という戦い方には、覚えがある。

    正義の都として名を知らしめる、ジュスティアの軍人が最も好む戦法だ。

     

    生まれついての馬鹿か、馬鹿な命令に従う馬鹿なのか。

    どちらにしても、オアシズ側の受ける被害は大きなものとなるのは間違いない。

     

    (=゚д゚)「あーあ、信じらんねぇラギ」

     

    公園のベンチの下で冷めた餃子と炭酸の抜けたビールに舌鼓を打つトラギコ・マウンテンライトは、目の前で起こる殺し合いを見て嘆きの溜息を吐いた。

    野球観戦よりもつまらないし、観劇よりも退屈だ。

    どちらもトラギコには気付いていないのか無関心なのか、構ってくれない。

    構われても面倒だが、何もないのは少しつまらない。

     

    かと言って自ら進み出て参戦する気はない。

    立ち上がった瞬間に両陣営から撃たれるか、流れ弾に殺されるのがオチだ。

    脇に置いたアタッシュケースが既に三発も弾を防いでいるのがその証拠だ。

    冷めてしまった餃子を一口で頬張り、甘味と塩気が口の中に広がってきた辺りでビールを飲む。

     

    食べ辛い上に飲み辛いが、それでも摂取する。

    アルコールの魅力である酔いも全くないが、それでも胃に収める。

    それというのも、空腹では戦うに戦えないし思考が上手く回らないからだ。

    それにしても、この餃子は美味い。

     

    結局あれから、五回も餃子を買うことになり、ビールは七回も買ってしまった。

    領収書をもらうことが出来たので、後で費用として警察本部に請求できる。

     

    (=゚д゚)「……ったく」

     

    正直な所、トラギコはまだこの襲撃に対してあまり危機感を抱いていなかった。

    海賊の質は下の上。

    装備は上の上だ。

    不釣り合いな装備が意味するのは、彼らが何者かの支援を受けていると云うことだ。

     

    それは、フォレスタとオセアンで起こった事件に似ていた。

    民間人がインテリアとして家に飾っておくには高級すぎる棺桶、銃器。

    この事件も、それに限りなく近い何かが関係しているはずだ。

    ならばこのような小事が目的のはずがない。

     

    茶番だ。

    別の目的があるに違いない。

    それをどこかの段階で見極め、突き止め、叩き潰せば後手に回って悔しい思いをしないで済む。

    今は時間が経過して相手の目的が浮き上がるまで、じっとしているのが得策だ。

     

    ベンチの下で優雅なランチを満喫しているのは、部屋に閉じ込められて身動きが取れなくなるという事態を避けるため。

    そして、宿泊している部屋がないためだ。

     

    (=゚д゚)「お」

     

    新たな餃子を箸で摘まみ上げた時、目の前で戦闘を繰り広げていた海賊たちの動きに変化が現れた。

    遮蔽物として屋台に身を隠しながら銃撃していた海賊たちは、銃弾が飛んでくる方向に背中を向け始めたのである。

    棺桶の使用前によく見られる動作だ。

    注意、深く次の言葉を待つ。

     

    背負っている棺桶のサイズはBクラス。

    屋内戦で強力なそれだ。

    問題となるのはその種類だ。

    現存する棺桶は数百種類を優に超え、その性能は多種多様。

     

    全方位にベアリング弾を発射できる危険極まりない物もあれば、荷物運搬に使われる支援型の物もある。

    耳を澄ませてコードを聞き取ると、それは聞いたことのないコードだった。

     

    『夢と希望が我らの糧。我ら、正義と平和の大樹也!!』

     

    現れたのは純白の強化外骨格。

    しかし、その型をトラギコは良く知っていた。

    ジョン・ドゥだ。

    塗装と解除コードを除けば、一般的なそれと同じ。

     

    〔欒゚[::|::]゚〕『市長はどこだ!!』

     

    やっと、海賊が目的の一部を口にした。

    彼らは市長を探している。

    目的は分からないが、とにかく、彼らは市長をどうにかしたいそうだ。

     

    『今日は今までで一番長い一日になる!!』

     

    警備員側から帰ってきた言葉は、トゥエンティー・フォーの起動コードだ。

     

    ::‥:‥〕『誰が答えるか!!』

     

    六つのカメラと武骨な装甲を備えた巨人が、ジョン・ドゥに突進した。

    良い選択だ。

    トゥエンティー・フォーの装甲は堅牢で、今の海賊が持つ装備では止められない。

    独自の装備を持たない体なら、肉弾戦が最も賢い。

     

    〔欒゚[::|::]゚〕『マジかよ糞っ!!』

     

    機体の性能差による不利に気付いたのか高周波ナイフを抜き放ち、ジョン・ドゥ三機が屋台の影から散開した。

    すると、その内の一機がトラギコのすぐ目の前に着地し、銃を撃ち始めた。

    そのせいで視界のほとんどが覆われ、落ちてくる薬莢ぐらいしか見えない。

    そのことに対して、トラギコは憤りを感じはしなかった。

     

    鋼鉄の脚がトラギコの餃子を踏み潰していることについては別だ。

     

    (=゚д゚)「……!!」

     

    〔欒゚[::|::]゚〕『くそっ、クリス!!』

     

    目の前の脚が地面を踏み砕いて消えたかと思うと、今度はトゥエンティー・フォーの脚が現れ、ジョン・ドゥを追い始めた。

    開けた視界に、頭部が背中とくっついたジョン・ドゥが転がっていた。

    トゥエンティー・フォーにやられたのだろう。

    だがしかし、トラギコにとって最も衝撃的だったのは、潰された餃子だった。

     

    (=゚д゚)「俺の餃子……」

     

    大切に食べていた餃子が、これで無くなった。

    ビールは餃子の量に合わせて残していたが、餃子だけがない。

    残ったビールを一気に飲み干し、トラギコは殺意を込めて呟いた。

     

    (#=゚д゚)「……俺の餃子ぁ」

     

    アタッシュケースを左手で掴み、右手で懐からベレッタM8000を取り出す。

    安全装置を解除し、歯で遊底を引いて薬室を確認する。

    対棺桶用の徹甲弾が装填されていた。

    この公園にいる海賊の数は二人。

     

    使用している棺桶はジョン・ドゥ。

    今は公園で追いかけっこの真っ最中だ。

    トラギコは銃を懐に戻して、ベンチの下から這い出た。

    立ち上がってスーツの埃を払落すと、左側から声がした。

     

    〔欒゚[::|::]゚〕『民間人?』

     

    (=゚д゚)「あぁ?」

     

    顔を声の方に向けると、白いジョン・ドゥがいた。

    周囲の確認はしていたから、恐らくはもう一機のジョン・ドゥの援護に行こうとしてどこからか姿を現したのだろう。

     

    〔欒゚[::|::]゚〕『丁度いい、人質に――』

     

    男の敗因は三つあった。

    一つは銃口が地面を向いていた事。

    もう一つはトラギコが民間人だと勘違いした事。

    そして最後は、捕獲と殺害と云う両者の思惑の違いによる、速さの違いだ。

     

    初夜を迎える生娘を扱うような自然で滑らかな手の動きで、トラギコM8000を構えてジョン・ドゥの頭部に狙いを定めていた。

    銃爪を引くまでには躊躇いはなく、照準は精確だった。

    口を覆うマスクを貫通した銃弾は使用者の脳幹を破壊した。

     

    (=゚д゚)「何が丁度いいラギ?」

     

    いくら棺桶に身を包んでいても、心に贅肉を纏っていては意味がない。

    銃声を聞いて、ジョン・ドゥを纏った警備員の視線と銃口がトラギコに向けられる。

     

    〔欒゚[::|::]゚〕『手前よくもケディを!!』

     

    つい先ほどまでトゥエンティー・フォーを追っていたジョン・ドゥ――餃子を踏んだ男――が、途端にトラギコに標的を変えた。

    一時停止の後の方向転換。

    距離は目測で二百ヤード。

    得物は高周波ナイフだけ。

     

    こちらまでの到達予想時間は三秒。

    速度なら、こちらが勝る。

     

    (=゚д゚)『これが俺の天職なんだよ!!』

     

    アタッシュケースを放りながら口にした言葉は、彼の切り札を呼び起こすそれ。

    即ち、緊急時の近接戦闘特化型、Aクラスのコンセプト・シリーズ、“ブリッツ”の起動コードだ。

    左手に持つアタッシュケースが展開し、機械籠手と高周波刀が現れる。

    しかし、悠長に両腕に付けている時間はない。

     

    そこでトラギコは、空中で開いたアタッシュケースに収まる籠手に左手を叩きつけ、強引に装着した。

    そして高周波刀を掴むと同時にスイッチを入れ、左の下段から右上段に向けて斬り上げる。

    それは盲斬りではない。

    幾度も棺桶相手に近接戦闘を挑んできた経験が教える、正確無比な一閃だったのだ。

     

    〔欒゚[::|::]゚〕『きゅ……っ?!』

     

    左の腋から侵入した刃は左腕を切り落とし、その手が握っていたナイフごと地面に落下する。

    刃はジョン・ドゥの首元の堅牢な装甲を前にしても止まることなく、喉元を切り裂いた。

    ほぼ同時に、トラギコの右腕は万が一に備えて銃爪を引いて銃弾を放っており、男の胸部を貫いていた。

    コンマ一秒を争う殺し合いは、経験値と覚悟の差でトラギコに軍配が上がった。

     

    悲鳴すら上げられずに、トラギコの隣を通り過ぎたジョン・ドゥの使用者は噴水の淵に躓いて頭から水に突っ込んだ。

     

    (=゚д゚)「……この俺相手にどこまでやれるか、試してみるラギか?」

     

    銃口を向けてくる警備員に対して、トラギコは血に濡れた刃とM8000の銃口、そして殺意にぎらつく鋭い眼光を向けてそう言ったのであった。

     

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               ‥…━━ August 6th AM11:50 In the 3rd block ━━…‥

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    第三ブロック全体の指揮を任せられたのは、ブロック長であるノリハ・サークルコンマではなかった。

    彼女は優秀であるが故に、他のブロック長と共に別の場所に退避をしており、そこから戦況を把握して海賊たちを退けるための策を練る役に回っていた。

    では、誰が指揮を執ることになったのかと言えば、オアシズ付きの探偵の中でもずば抜けた推理力を持つ男、ショボン・パドローネその人である。

    市長であるリッチー・マニーは彼を直々に任命し、侵入を試みる海賊に対する布陣をすぐに考えさせた。

     

    最初は困惑した様子を見せた物の、ショボンはすぐに頭を働かせ、職員の配置について思考を巡らせた。

    最も激しい戦闘が予想されるのは、最も侵入が早い一階だ。

    そこでショボンは一階に対して最優先で人を割くことを決め、戦闘経験の豊富な人材を優先してそこに配置した。

    警備員のほぼ全員が、一階に集結することになったのはそのためだ。

     

    各階での迎撃には、戦闘経験が浅い探偵たちを配置。

    それは、被害を最小化して、海賊たちに打撃を与えるという戦術に乗っ取って考えられたものだった。

    強力な銃は優先して警備員に回し、探偵達には強襲を可能にするために拳銃のみの携帯を命じた。

    あえて私服姿に扮することで、海賊の眼を欺くことを狙ったのである。

     

    それが成功だったか失敗だったかは、まだ分からない。

    結果は最後まで立って武器を手にしていた人間の立場によって変わる。

    恐らくは、ショボンの側が勝つ事だろう。

    その為には、万全の態勢で海賊たちを排除し、然るべき報いを受けてもらう必要があった。

     

    [--]『各フロア、状況を知らせろ』

     

    雑魚を片付けた感慨にふけることなく、三階から無線連絡を入れて状況の確認を行う。

     

    『七階、クリア』

     

    『十一階、クリア』

     

    真っ先に連絡を寄越したのは、その二つのフロアだった。

    それ以降、順調にショボンの望む結果が返ってきて、最終的には最上階から二階までの連絡が届いた。

    しかし、一階からは連絡がなかった。

    連絡の代わりに聞こえる銃声が、その答えだ。

     

    それでいい。

    これもまた、予定の内だ。

    そう簡単に状況が好転するはずがない。

    ここからが本番だ。

     

    [--]『……各員、一階に向かうんだ。

          残党を蹴散らすぞ』

     

    合図と共に、ショボンはその場から右舷と左舷にかけて架かる橋に急行し、眼下を確認してから手摺を乗り越えて一階に飛び降りた。

    胃を持ち上げるような浮遊感の後、ショボンの鋼鉄の脚はほぼ同じ強度を持つ金属を踏み潰した。

    彼の落下を受け止めたのは、海賊が身に纏うジョン・ドゥだった。

    左足は肩に、右足はその頭上に。

     

    [--]『済まない、手加減の仕方が分からなかったんだ』

     

    〔欒゚[::|::]゚〕『ごぷっ……』

     

    〔欒゚[::|::]゚〕『何?!』

     

    如何に頑強な装甲でも、それを支えて運用するのが人間である以上、限界がある。

    頸部に対する攻撃はBクラスの棺桶相手には有効な手段であり、格闘に長けた棺桶が一撃で相手を殺す際に選ぶ部位でもある。

    踏み殺された棺桶から離れ、ショボンはセンサーを使って周囲に残る戦闘の跡を見た。

    薬莢の転がる数と死体の数とが合っていない。

     

    まだ膠着状態なのだ。

    殺したばかりの男の隣にいたジョン・ドゥが、数歩後退って怒声を浴びせた。

     

    〔欒゚[::|::]゚〕『こ、この野郎!!』

     

    [--]『来なよ、海賊』

     

    ショボンは殺し合いの途中で交わされる無駄な会話を好まない。

    最低限の発言だけをしてから、襲い掛かる。

    距離は互いの拳がぶつかるほどの近距離。

    言い換えれば、先手必勝の距離だ。

     

    先に攻撃を当てたのは、ショボンだった。

    使ったのは足。

    それにより、ジョン・ドゥの右膝関節が砕け、バランスを奪う。

    ふらついた顔面に、右アッパー。

     

    仰け反ったところで、ショボンは男の後ろに回り込み、両手を組んでハンマーの様に後頭部を振り下ろした。

    それが決定打となった。

    叩きつけられるようにして地面に倒れ、ショボンは無線に呼びかけた。

     

    [--]『残党がまだいるぞ。 分散して対処するんだ。

          市長の場所はまだ分からないのか?』

     

    ショボンの問いかけに対して、答える者はいなかった。

    誰か周囲にいないかと見渡したショボンの眼に、ある人物の姿が映った。

     

    [--]『……ブロック長?』

     

    レインコートの様な物で顔を隠した第二ブロック長、オットー・リロースミスが足早に建物の影を移動しているのを見つけた。

    そこでショボンの脳裏に、ある疑問が浮かんだ。

    この状況下で、果たして、市長は勿論だが各ブロック長はどのような動きを取っているのであろうか。

     

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               ‥…━━ August 6th AM11:58 In the 3rd block ━━…‥

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    座席数は百十三。

    最大同時収容人数、五百六十五人。

    オットー・リロースミスを除いた全ブロック長は、オアシズで最も広いレストランでコーヒーと山盛りのドーナッツを前に沈痛な表情をしていた。

    今、船で起きていることのほとんどは情報として彼らの耳に入っているが、彼らから現場に指示が飛ぶことはない。

     

    彼らが滞在している第三ブロックに店を構える “ヒュージ”では海賊襲撃前に、徹底した洗浄作業――盗聴器の発見と除去――が行われた後だった。

    更に、強力な妨害電波によってあらゆる通信機器が機能しない状況を作り出すことによって、その空間を安全な物とした。

    その指揮を執ったのは、第四ブロック長クサギコ・フォースカインドだった。

    日頃から船内のこういった店の洗浄作業を得意とする彼の部下は、何の疑問も持たずにヒュージでの作業を行った。

     

    実を言うと、それを指示したクサギコ自身もこの店がまさか、彼らブロック長の砦となるとは想像していなかった。

    第三ブロック長ノリハ・サークルコンマを通じてリッチー・マニーから受けた命令は、ただシンプルに、日頃の作業の一環としてレストランの洗浄を行え、だった。

    クサギコは多少の焦りを感じていたものの、それを表に出すほど経験は浅くない。

    逆に、経験の少ない人間に対して気を遣うぐらいの余裕はあった。

     

    白いテーブルクロスの敷かれたテーブルに置かれたドーナッツの載った皿を指さし、クサギコは対面して座る男に声をかけた。

     

    W,,゚Д゚W「なぁ、ライトン。 ここのドーナッツは美味いのか?」

     

    第一ブロック長代行、ライトン・ブリックマンは三杯目のエスプレッソを飲みながら、どうにか笑顔を浮かべた。

     

    ('l')「えぇ、まぁ。 警察の方がよく来るみたいです」

     

    W,,゚Д゚W「さっきから誰も食べないんだが、それはどういう訳だろうな」

     

    ('l')「食欲がわかないのかも」

     

    本当は、クサギコにも分かっている。

    手を付けたがらないのは毒を恐れているから。

    コーヒーを飲むのは、それに毒が盛られている可能性が低いからである。

    恐らく、この部屋に居合わせる十五人の海軍が銃を持って出入り口の前に立っているのも、食欲減退の一役を担っているだろう。

     

    マト#>Д<)メ「せっかくなのだから、食べればいいのに。

           美味しいですよ」

     

    第五ブロック長、マトリクス・マトリョーシカ。

    彼女は自ら率先して行動を起こすという信念に基づいて行動しており、ドーナッツを食べる唯一の人物だ。

    ストロベリーチョコレートのドーナッツを食べながらも、彼女は思考を巡らせているに違いなかった。

    それは、この場にいるブロック長全員に言えることだ。

     

    種類は違うがそれぞれがコーヒーを摂取してカフェインで気分を高揚させ、角砂糖で糖分を脳に送り込んでいるのだ。

    現に、ライトンの飲むエスプレッソには角砂糖が三つ入っている。

    事実上、この部屋に閉じ込められた彼らにできるのは、事態の推移に伴う最善の策を練ることだけだ。

    最善の策とは、彼らの行動によって船全体が動いて海賊を撃退できる策に他ならない。

     

    そのような策、あればとうに浮かんでいる。

    とどのつまり、彼らに策は浮かばなかった。

     

    マト#>Д<)メ「それより、ロミス……いや、リロースミスはどこに?」

     

    W,,゚Д゚W「分からない。 それに、市長もだ。

         市長がいなければ、ここの扉も開かない。

         全く分からないことだらけで、頭がどうにかなりそうだ」

     

    ::0::0::)「ブロック長」

     

    四人のブロック長が、唐突に声をかけてきた男に目を向けた。

    鋭い眼光の男は、深刻そうな口調で報告した。

     

    ::0::0::)「こちらのレストランも、敵の手に落ちました」

     

    W,,゚Д゚W「なんだと?!

         電気系統でもやられたのか? それとも、壁に穴を空けて?

         手段は何だ?」

     

    意味の分からない報告に対して、クサギコは冷静に対処した。

    良いにしろ悪いにしろ、大きな動きがあった。

    まずは情報を手に入れるところからクサギコは始めた。

     

    ::0::0::)「我々の手によってです」

     

    W,,゚Д゚W「……何?」

     

    マト#>Д<)メ「何の冗談ですか?」

     

    冗談では無い事を示す様に、銃で武装した男五人がテーブルを囲む。

     

    ::0::0::)「我々の話し合いで決まったのです。

         無線機も使えず、外にも出られない。

         ならば、各ブロックの権限を持つあなた方を我々の支配下に置き、然る後に……」

     

    W,,゚Д゚W「ジュスティア軍の決定か?」

     

    所詮は利害関係で結びついていた街同士。

    オアシズをジュスティアの一つとして奪い取ろうと思うなら、今が絶好のタイミングだ。

    ならば、海賊を寄越したのもジュスティアと云う事になる。

    初めから、全てが仕組まれていたのか。

     

    正義の都のジュスティアが、こんな汚い手を使うとは、とても考えられなかった。

     

    ::0::0::)「我々はジュスティアの所属などではありません。

         さ、マニー氏の居場所に関する情報と、あなた達の持つカードをお渡しください。

         そうすれば、直ぐに終わります」

     

    ノリハ; .゚)「例えカードがあったところで、この部屋から出ることは出来ませんよ。

         それに、私達は市長の居場所を知りません」

     

    ::0::0::)「そうですか」

     

    男はそう言って、自らの体を使って背後からノリハの体をテーブルの上に押さえつけ、右腕を掴んでドーナッツの載る皿の上に叩きつけた。

    抵抗を試みるも、男の力と体重を払い除けるには、彼女の力はか細すぎた。

    クサギコたちは咄嗟に立ち上がってそれを止めさせようとするが、周囲を取り囲む男達が銃口を向けてきたため、椅子に座り直すしかなかった。

    どう考えても、このまま見ているしかできない。

     

    ここで勇ましく抵抗しようものなら、その人間が殺されるのは明らかだ。

    例え目の前でノリハが強姦されたとしても、黙って見ている他ないのだ。

    しかし強姦が目的ではないのは分かる。

    ノリハを押さえつける男は、空いた左手で腰の軍用ナイフを抜いて、ノリハの右手に突き付けたのだ。

     

    目的は尋問。

    要求は情報。

     

    ::0::0::)「第三ブロック長、もう一度訊きます。

         市長はどこに?」

     

    ノリハ; .゚)「し、知りません!」

     

    ::0::0::)「もう少し素直になりましょう」

     

    ナイフの切っ先がノリハの白い肌に食い込み、小さな赤い点が浮かび上がる。

     

    ::0::0::)「無駄な手間と痛み、どちらがお望みですか?」

     

    ノリハ; .゚)「……」

     

    男は残念そうに溜息を吐き、ナイフを手の甲から親指の付け根に合わせた。

     

    ::0::0::)「……では、親指からにしましょうか」

     

    ――その時だった。

    巨大な銃声が響き渡り、ノリハにナイフを突きつけていた男の顔がなくなったのは。

    顔を失った男はノリハに乗りかかり、首から溢れ出る赤黒い血で白いテーブルクロスを赤く汚した。

     

    ::0::0::)「どこだ!?」

     

    マトマトの背後で狼狽を露わにした男に、新たな銃弾が撃ち込まれる。

    着弾したのは、胸だった。

    クサギコはその瞬間の事を、後にこう語る。

     

    W,,゚Д゚W『賊は確かに防弾チョッキを着ていました。 えぇ、確かです。

         でも銃声とほぼ同時に、マトリクス・マトリョーシカの背後にいた男の胸部がなくなっていたんです。

         銃弾に詳しいわけではありませんが、あれは徹甲弾の類で無い事は確かです。

         私が見た中で、最も恐ろしい銃弾でした』

     

    胸に空いた大穴を呆けたように眺める男は、続けて放たれた銃弾によって顔を失った。

    男は勢いよく後ろに吹き飛び、そこにあったテーブルの上に大の字になって落下した。

     

    ::0::0::)「誰だ!! そこにいるのは!!」

     

    銃声の方向――キッチンの奥――に、男達の視線が集中する。

    釣られて、クサギコ他全ての人間の視線もそこに向けられる。

    そこにいたのは、この血生臭い場所には似つかわしくない人物だった。

    血よりも、赤いバラが似合う人物だった。

     

    収穫前の小麦を連想させる黄金の髪は、毛先に向かうにつれて凪いだ水面の様にウェーブしていた。

    肌は透き通るように白く、完璧な彫像のように傷一つ、欠点一つ見つからない。

    髪と同じ色をした長い睫は、瞬きの度に花が咲くようなイメージを連想させた。

    優しげに垂れた目尻と、薄らと笑みを浮かべる桜の花びらのような薄い桃色の唇は瑞々しく、妖艶な印象を与えた。

     

    くっきりとした大きなスカイブルーの瞳は、あまりに美しく、宝石のように輝いている。

    カーキ色のローブで全身を包み、足元を飾る武骨なスエードのデザートブーツは、長い時間履き慣らされていることが一目で分かった。

    堂々とした足取りにも関わらず、跫音は全く聞こえない。

    両手に持つ漆黒の大型自動拳銃の銃口からは、彼女の体に纏わりつくように硝煙が漂う。

     

    キッチンの奥から歩み出たのは、二挺の拳銃を構える若い女性。

    彼女の背後にある調理台の上には、倒れて身動き一つしない人間の姿があった。

    得体の知れない恐怖が、その場にいる全員に伝染した。

    女性の姿を見ていないノリハでさえ、後に新聞社のインタビューに対してその瞬間をこう述懐している。

     

    ノリパ .゚)『何か、こう、絶対に勝てない何かがそこにいることは分かりました。

        子供の頃に親に抱く感情というのでしょうか。 とにかく、あんな感覚はこれまでに味わったことがありませんでした』

     

    賊が一斉に銃口をその女性に向ける。

    銃爪に指をかけてはいるが、引こうとはしない。

    否、引けないのだとクサギコは理解した。

    恐怖か、或いは別の目的があったのかは分からないが、兎に角、その瞬間に銃爪を引ける人間はこの世の中にいないことだけは分かった。

     

    そのことを、第五ブロック長のマトマトはこう表現した。

     

    マト#>Д<)メ『どれだけ力のある人間でも、海中で二十メートル級のホホジロザメに出会ったら、逃げるとか戦うとか以前に、呆然とするかしかないでしょう?

           それと同じで、どうしようもない、何をしても無駄だって感じでしたね』

     

    銃爪を引く代わりに、男は口を開く。

     

    ::0::0::)「誰だ、貴様!!」

     

    男は震える声で問うた。

    正体不明の敵。

    実力不詳の怨敵。

    分かっているのは、その女性が恐怖を忘れさせるほどに美しいということだけ。

     

    ζ(゚ー゚*ζ「ただの乗客で、貴方達の宿敵よ」

     

    訛りのない完璧な発音、濁りのない甘美な美声、そして、聞き間違い様のない宣戦布告の言葉。

    一対十二。

    数の差は歴然としていた。

    だがしかし、戦力の差が数の差と同じとは限らないと、その場に居合わせたブロック長達は後に知ることとなる。

     

    これが後に言う、“オアシズの厄日”の大きな転換点であった。

     

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                ///: : i: : : :i i  │∠ : イ//    ミ=彡 ;    /: : :: :

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    .        /   /: :\ \ \ : : \\     〈| .       /   / : :  / } : | 、ヽ

               / : : : : \ \ \: :从⌒            ∠/  //: / ノ.: :リ 〉:

         /   人 : : :  -=ニ二 ̄}川 >、  `''ー 一    ∠斗匕/´ ̄ ̄ ̄`Y: :{: /

         {   { 厂      . : { /⌒\          .//: : : .____   人: :/

    AmmoRe!!のようです                         Ammo for Reasoning!!

                         第九章【order-命令-

     

               ‥…━━ August 6th PM12:05 In the 3rd block ━━…‥

     

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    ここまでは、デレシアの予想通りだった。

    被害者の殺害方法とタイミングの不自然さが、この連続殺人犯の持つ疑問点だった。

    殺人犯には大なり小なり、その目的がある。

    連続殺人犯ともなれば、私怨か金か、或いは快楽と目的を狭めて犯人の正体を把握することが出来る。

     

    探偵たちが推理を進める中で、デレシアは真逆の発想をしていた。

    犯人の思惑は、その疑問点が全てを有耶無耶にしてしまうことだと考えたのだ。

    ただの私怨であれば、警備員詰所を襲撃する必要はないし、映像を流す意味もない。

    金が目的であれば、恐喝をした方がいい。

     

    快楽を求めての犯行であれば、何も船上で行う必要はないし、警備員達を敵に回す必要もない。

    つまり、見せかけだけの事件にしかデレシアは感じることが出来なかったのだ。

    彼女が考えた通り、犯人の目的が陽動だとするならば、別の方向に目を向けなければならない。

    デレシアは全員が犯人の次の目的と云う一点を見ている中、犯人の最終目的を見ていた。

     

    その結果、デレシアは外部からの攻撃があると結論付けた。

    そうした場合、真っ先に狙われるのは市長であるリッチー・マニーだ。

    彼が生きている限り、彼は鍵になる。

    この船の出入り口を全て封鎖しても、彼がいればそれを突破することが可能だ。

     

    ハザードレベル5の発令は犯人側にとっては誤算だっただろう。

    その誤算を帳消しにするためには、どうしても船の出入り口を開く必要があった。

    入り口が開かなければ、オアシズは海上の城となる。

    もしもデレシアが犯人ならば、真っ先にマニーを手に入れようと新たな事件を起こす。

     

    そこで、敵に滅茶苦茶に食い千切られるよりも先に、自ら第三ブロックだけを解放することを選んだ。

    侵入箇所を一か所に絞ることで、敵の攻撃に対して迎撃と準備が可能となるからである。

    マニーの次に狙われるのは、どう考えてもブロック長達だ。

    彼らは彼らで、様々な権限を持っているため、人質として非常に役立つ。

     

    その為に、デレシアはマニーを別の場所に移動させてブロック長らを一か所に集めることにした。

    敵が攻め入る、その最前線に。

    マニーの姿が見当たらないとなると、犯人はブロック長を狙う。

    この状況下でブロック長に対して意識を向ける人間が、犯人一味の可能性が非常に高いのだ。

     

    犯人に関わる人間を一機に炙り出す事を狙った結果、その下準備の用意周到さに呆れ返った。

    ジュスティア海軍の船と指揮官、そして軍服と装備で乗船した者達のほとんどが、ジュスティアの人間ではなかった。

    指揮官は真っ先に殺され、残った四十一名は皆、犯人の仲間だった。

    つまり、ジュスティア内部にまでその手を伸ばして工作をするだけの技術と人間を持つ組織が、犯人の背後にはある。

     

    ――まずは目の前にいる“石ころ”を払い除けるべく、デレシアは意識を戦闘に集中させることにした。

    ここまで予想通りであれば、後のことは万事上手くいく。

    今日中にこの海賊もどきたちは片付けられるだろう。

     

    ::0::0::)「宿敵? 宿敵だと? 笑わせてくれる……!!」

     

    男達が持つ武器は、コルトM4のカービンモデルだった。

    弾倉の中身は三十。

    薬室内と合わせても最大で三十一発の計算だ。

    十二人分なので、三百七十二発。

     

    何一つ、ただの一瞬たりとも、臆するに値しない戦力だ。

    背負った棺桶を使用するだけの肝っ玉があれば、それなりに楽しめそうだ。

     

    ::0::0::)「殺せ」

     

    鳴り響く銃声。

    デレシアは銃弾から逃れるために、キッチンに舞い戻った。

    鉛弾がステンレス製のシンクや食器棚を破壊し、甲高い音が響く。

    ガスの様な引火性の強い物は調理に使われていないため、引火する心配はない。

     

    ただ、軽量化を重要視した調理器具は防弾性に乏しい。

    貫通の度合いを見ると、フルメタルジャケットや対棺桶用徹甲弾ではない。

    通常のライフル弾だ。

    跳弾にだけ気を付ければいい。

     

    シンク下の収納スペースを開いて、そこから各種刃物を抜き取る。

    相手はプロだ。

    下手に近づいてくるような真似はしないだろうが、二、三人の斥候は寄越すだろう。

    判断材料は銃声の影に聞こえる跫音だ。

     

    左のデザートイーグルを腋のホルスターに戻し、果物ナイフを一本摘まむ。

    応戦の一発をシンク越しに放つと、悲鳴が聞こえた。

    ブロック長には当たったのであれば、それは彼らの危機意識が低いだけだ。

    マニーは無力な市長だが、無能ではない。

     

    その辺りの管理が出来る人間をブロック長の座に据えているはずだ。

    ここで死ぬなら自己管理不足だし、弾に当たるならその程度だ。

    仮に被弾した場合、通常の生活に復帰するのは難しい。

    現在、デザートイーグルの弾倉に入っているのは歴史上最も悪質なマンストッピングパワーを持つホローポイント弾、“INF(訳注:父の名において)”と名付けられた銃弾だ。

     

    家庭用に販売されたワンショット・ストッパーの究極系と言えるこの銃弾の弾頭は、四つに別れた鋭利な爪が蕾のように一つに集まって形成されている。

    花弁に例えられる弾頭の一つ一つには横に走る四本の切れ込み線が入れられ、先端は貫通力を高めるための加工がされた銀色をしている。

    特殊な加工技術を用いて作られた弾頭は硬質な物に対しては貫通し、人体の様な柔らかな物質になると途端に凶悪な力を発揮する。

    防弾着ですら喰い千切って開花する凶暴な弾頭は人体に入り込むと細かく散り、肉と内臓を吹き飛ばす性質を持っている。

     

    発表から三日で販売禁止、即時回収、単純所持禁止となっただけあってかなりの力を持っていた。

    相手が棺桶を使用しなければ、かなりの打撃を与えられる代物だ。

    デレシアは右手で相手の動きと位置を推測し、銃口だけを出して牽制射撃を行った。

    発砲できる弾数が七発に対し、デレシアは銃爪を六回引いた。

     

    銃を引き戻し、右手中指で空になった弾倉を排出しつつ、一瞬だけ体を出して左手でナイフを投擲した。

    左手の攻撃は右手とは異なり、計算に基づき必殺を狙った攻撃だった。

    空中で回転しながら飛んで行ったナイフは、接近していた男の首元に突き刺さり、致命傷を与えた。

    喉仏を貫いた包丁を抜き取ろうと男は反射的に手を伸ばすが、それは無駄に終わった。

     

    ゴボゴボと声にならない呻き声を漏らしながら、男はその場に倒れる。

    一瞬だけ確認した敵の配置は、見事だった。

    斥候に出したのは二人。

    その二人が排除されたことで、敵はデレシアの戦力を再計算し、テーブルを倒して楯にしながら少しずつ前進して来ている。

     

    牽制射撃を行いながらこちらの出方を見るつもりだろう。

    弾薬と兵力差で言えば、それがいい。

    しかし、見誤っている。

    デレシアの戦力は、少なくとも彼らを遥かに凌駕している。

     

    銃声の合間に聞こえた、ピンを抜く音。

    手榴弾を使われると厄介だ。

    素早く弾倉を交換し、通常の弾に切り替えた。

    電子コンロの上からフライパンを手に取り、デレシアは半身を出して銃撃した。

     

    案の定、手榴弾が放物線を描いて飛んできた。

    それに対してデレシアはフライパンを投げて対処した。

    空中でフライパンに打ち返された手榴弾は、使用者の元に帰った。

     

    ::0::0::)「にげっ!!」

     

    爆音が声をかき消した。

     

    ζ(゚ー゚*ζ「あら、けっこう上手くいったわね」

     

    両手にデザートイーグルを構え直して、デレシアはキッチンから飛び出した。

    飽きるほど聞かされた銃声から、もう相手の位置ははっきりと分かっている。

    両の弾倉が空になるまで撃ちまくり、テーブルを貫通してその向こうにいた男達を殺していく。

    これだけ場を盛り上げたのだ。

     

    そろそろ、背負っている棺桶を使う頃合いだろう。

    銃弾を躱しながら、大きなテーブルの傍に転がり込む。

    分厚い木で作られた二十人掛けのテーブルをひっくり返し、それを楯にしてデレシアは相手の出方を待った。

     

    ::0::0::)『一度は死んだが、天国がどんなだか聞きたいか?』

     

    なるほど。

    汎用型の“ハムナプトラ”だ。

    軽量化と速戦的なことに特化した棺桶だが決定打に欠ける代物だ。

    開発当初から言われてきた棺桶らしからぬ装甲の薄さは、大量生産を容易にするための苦肉の策だった。

     

    棺桶の開発ではどうしても金属などの資源が必要になる。

    戦時中では棺桶の性能よりも生産の速さが喜ばれた。

    アジアの大国がその生産力を世に知らしめ、尚且つ巨大な国土を守るために作り出した棺桶。

    棺桶と云うよりもミイラ。

     

    戦闘中に期待できるのは運動能力の強化と、大量の弾薬の携帯ぐらいだ。

    それが、ハムナプトラの特性だ。

    銃声が止み、男の声がホール全体に響き渡った。

     

    <=ΘwΘ=>『その強さと豪胆さに敬意を表して、棺桶でお相手仕ろう』

     

    堂々と物陰から姿を現した男に対し、デレシアはソウドオフショットガンを向け、銃爪を引いた。

    対棺桶用のスラッグ弾がヘルメットを貫通し、男の脳味噌を後ろに吹き飛ばした。

    例えトゥエンティー・フォーの装甲でも貫通できる代物だ。

    紙の様な装甲では、防げない。

     

    デレシアの銃の恐ろしさに気付いたのか、男達は何も言わずにその場から散った。

    弾の雨をデレシアに浴びせるが、テーブルがそれを阻む。

    デザートイーグルの弾倉を交換し、対棺桶用のものにする。

    両手に銃を構えた状態でテーブルを乗り越え、デレシアは正面から迎え撃つことにした。

     

    時折彼女のローブの裾を銃弾が捉えるが、その先に彼女の体はない。

    このローブの構造は実に理に適っている。

    余裕がある作りをしているために動きを邪魔することはなく、弾も止められる。

    通常弾であれば、それこそダメージはあるが貫通はしない。

     

    倒れたテーブルの上を跳躍し、相手を翻弄する。

    残党は七人。

    宙返りをして弾を躱しざまに発射した銃弾は、男二人の頭に命中し、息の根を止めた。

    新たなテーブルの影に姿勢を低くした状態で着地すると、一機が駆け寄ってくるのが騒々しい跫音で分かった。

     

    近接戦闘なら勝てると思ったのか。

    愚かな。

    音の方向を見もせずに銃だけを向け、銃爪を引く。

    恐らく、当たったのは胸部だ。

     

    派手な音を立てて転がり、デレシアが背にする机にぶつかって止まった。

    残りは四人。

     

    <=ΘwΘ=>『こいつ、ただの女じゃないぞ!!』

     

    ζ(゚ー゚*ζ「ただの女なんていないのよ」

     

    無礼な発言をした男の声の方向に、三発放つ。

    残り三人。

    ホールもだいぶ静かになってきた。

    弾倉を交換し、ゆっくりと立ち上がる。

     

    腹から声を出して、相手の矜持を突く言葉を発した。

     

    ζ(゚ー゚*ζ「この世界にいるのは、弱い女か、強い女だけよ」

     

    デレシアは意識を集中させた。

    次に何が起こるかを知っているからだ。

    この状況下で身を晒せば、間違いなく銃弾が飛んでくる。

    今は、そうしてもらわなければ困るのだ。

     

    膠着状態になれば、ブロック長達が人質になる可能性が出てくる。

    ブロック長は優秀な人材だ。

    今後、オアシズが復興していく上では欠かせない。

    この状況で身を晒すのは、一気に大部分を削られたことによって相手の戦意が喪失して、膠着状態になることを避けるための手だ。

     

    焦った相手はデレシアに対して攻撃を仕掛けてくることだろう。

    そうなれば、位置が分かる。

    位置が分かれば殺せる。

    そして、敵は全員デレシアに対して殺意と敵意をむき出しにして銃撃をしてきた。

     

    実に単純だ。

    冷静に銃口の向いているその先を確認して上体を逸らして弾を避け、三発撃って彼らの夢を終わらせた。

     

    ζ(゚、゚*ζ「……」

     

    殺し合いの最中、デレシアは考えていたことがあった。

    彼らはジュスティアへの潜入を成功させている。

    それは事実だ。

    では、何故ジュスティアなのだろうか。

     

    そこに意味がある。

    残った屑共の始末は、それを考えながらいいだろう。

    そして、犯人を追いつめるための手を進めておけば、ティンカーベルまでの間はのんびりと過ごせる。

    全ては有意義な旅のために。

     

    残った海賊を処分しに行くために、デレシアは店の正面玄関に足を向けた。

     

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                      `ー、 ヽ ´  ゙̄`ヽ ゙̄、

                        \ヽ\ヾ  ; !  ヽ

                         \ヽ\ `゙ ´    ゝ-

                           \ゝ`ー─────

                            `ゝニニニニニニニニ

                             '-

               ‥…━━ August 6th PM12:27 In the 1st block ━━…‥

    ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

     

    船内で小規模な戦争が起きる中、オアシズの住民達は皆、部屋でそれぞれの時間を過ごしていた。

    海賊に襲われるのではと恐慌を来して訳の分からない神に祈りだす者、酒を飲んで泥酔する者、歌い出す者までいた。

    多くの乗客がいたが、トレーニングをしている客は二人だけしかいなかった。

    一人は妙齢の女性で、もう一人は少年だ。

     

    女性はその身の細さからは想像もできない力強い蹴り技で、少年を追いつめていた。

    足が空を切る音に気圧されながらも少年は果敢に立ち向かい、その小さな拳を打ち込むタイミングを見計らっている。

    二人はロープの張られたリングの上にいた。

    双方の顔に浮かぶ表情には、険悪な色は混じっていない。

     

    これは喧嘩ではなく訓練。

    実戦に近い闘気を放ちながらも、殺意は必要のない戦いなのだ。

    とは言うものの、少年と女性の間には圧倒的な戦闘力の差がある。

    果たして戦いと呼べるものなのかは、結果を見るまでは分からない。

     

    女性が手加減をしていることは明らかだった。

    放つ雰囲気から、その気になれば一瞬で終わらせられるだけの力を持っている事が伝わる程の人物だ。

    速攻で勝負を終わらせないのは、少年の実力を測って鍛えることが目的だからだ。

    その為に、両腕を使わないというハンデと特別なルールまで与えた。

     

    勝敗を決定する条件はゴム製のナイフが少年の体に触れるか、少年が女性の足以外に触れるか、だった。

    代わりに女性は、華麗な足技の数々を披露した。

    上下左右、拳以上の攻撃範囲と攻撃力、そして速度が少年に新たな攻撃の幅を教えた。

    更に少年を驚愕させたのは、黒いゴムで作られたナイフが女性の背中から現れ、それを足の指で掴んだ瞬間だ。

     

    ナイフを足で使うなど、聞いたことも見たこともなかった。

    驚愕する暇もなく、ナイフの切っ先は疾風の様な速さで少年の心臓の上に構えられた。

    動くことすらできなかった。

    ほんの数ミリだけ離れた位置で静止するナイフに、少年は瞬きを忘れた。

     

    女性は何も言わずに両腕を小さな胸の前で組み、深紅色の瞳で眼前にいる少年をじっと見つめている。

    凛とした気高さを持つ女性だった。

    限りなく黒に近い灰色の髪を持つ女性には、獣の耳と尻尾があった。

    狼の耳と尻尾だ。

     

    右足を上げて立つロウガ・ウォルフスキンと名乗った女性は、俊敏で軽快な動きを一時間以上も続けていたが、汗一つかいていない。

    彼女は右足の指を器用に使ってゴム製のナイフを掴んでいた。

    気を取り直し、少年は後退を選んだ。

    それから、ロウガはまるで披露するかのようにナイフを縦横無尽に振るった。

     

    刃渡りの小さいナイフだったが、彼女の長い脚と合わさると槍にも薙刀にもなった。

    辛うじてそれを避けるが、とても反撃の隙を窺うどころではない。

    攻撃の軌跡を見切ることすらできない。

    それだけの攻撃にもかかわらず、ロウガは呼吸を乱す気配を見せない。

     

    対して、垂れた犬の耳と尻尾を持つ少年は肩で息をして、ナイフの届かない距離を保つだけで精一杯だった。

    顎の先から汗がリングに落ち、染みを作る。

    軽い気持ちではなかった。

    必要量の覚悟をもって挑んだとしても勝てない相手だということは、重々承知している。

     

    防戦では勝てず、捨て身の攻撃で勝てる相手ではない。

    これまで多くの争いを見てきた経験が、そう教えた。

    だから少年は、必要以上の覚悟を用意してロウガとの戦闘訓練に臨んだ。

    戦術も戦略もないが、兎に角、相手の動きについていこうと必死になった。

     

    何度も攻撃を仕掛けても、拳は掠りもしなかった。

    逆に、カウンターの回し蹴りが何度も少年の前髪を撫でた。

    どうにかその攻撃を避け、気が付けば攻撃の主導権は完全に相手の手にあった。

     

    !, __ ,/{

    i、゚ー ゚イ`!「ま、歳の割にはよくやった方だ」

     

    ロウガがそんな感想を口にする。

    まだ終わっていないと、少年は答えた。

    それを聞いたロウガは嬉しそうに口元を緩め、容赦なくナイフによる斬撃を再開した。

    少年は三十秒にも満たない休憩を終え、その場から飛び退く。

     

    横薙ぎの一撃は、少年の顎に溜まっていた汗の一滴を切り払った。

    もう一歩距離を開けようとした時、少年は気付いた。

    自らがリングの隅に追い詰められていることに。

    背中にロープの存在を感じ、後退が出来ないことを悟る。

     

    左右か正面の、三面にしか活路は見いだせない。

    足元を払うような一撃が、気休めにもならない状況把握を強制的に終わらせた。

    それを飛んで回避し、続けて反射的にしゃがんだ。

    相手は剛の者だ、攻撃の間は最小であるはずなのだ。

     

    案の定、少年の上半身がそれまであった場所をナイフが通過する。

    しゃがんだ状態を好機と捉え、少年は左手でロウガの脚を掴んで道を確保し、前に進んだ。

    片足ならば、蹴りは繰り出せない。

    ナイフは今や、少年の背後。

     

    引き戻すまでの時間とこちらの拳がロウガの腹部を捉える時間を考えれば、こちらが有利だ。

    これ以上細かな計算をしている時間はない。

    点と点を線で結ぶ最短の攻撃を足元から放った。

     

    i、゚ー ゚イ`!「良い判断だ」

     

    ロウガは片足を支えに思いきり仰け反り、ブーンの拳は空振りに終わった。

    信じがたいバランス感覚を発揮し、ロウガはそれを回避したのだ。

    否、耳付きと呼ばれる人種ならばそれは容易な芸当。

    自分にもできる技だ。

     

    拳が空を切った瞬間、少年は背後からの強い力でロウガに引き寄せられた。

    その正体はナイフを掴んでいる右足だ。

    誘い込まれたのだと分かった時には、もう遅い。

    右足のナイフはしっかりと背中に当てられており、ロウガの勝利であることを物語る。

     

    にこりと笑みを浮かべながらロウガはわざと背中から倒れ、少年を両足でしっかりと取り押さえる。

    痛くはなかった。

    ロウガの硬い腹筋が、クッションとなってくれたのだ。

    完敗だった。

     

    i、゚ー ゚イ`!「動きは悪くない。 私が言うんだ、自信をもっていいぞ。

          さ、シャワーをして汗を流そう。

          そうしたら、お昼ご飯を食べて少し外の空気を吸いに行こうか」

     

    ;∪´ω`)「はい、ししょー!」

     

    少年の名はブーン。

    まだ成長途中の、小さな旅人である。

     

    ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

     

                      これは、愛に満ちた旅の物語。

     

                          To be continued!!

    ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

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