FC2ブログ

Ammo→Re!!のようです

まとめだよ

最新の記事

既刊紹介 (06/14)  第十章【Ammo for Reknit!!】 + Epilogue (12/05)  第九章【knitter-編む者-】 (10/01)  第八章【heroes-英雄-】 (07/19)  魔女の指先、硝子の銃爪 PV (06/29)  第七章【housebreaker-怪盗-】 (06/13)  第六章【bringer-運び手-】 (05/05)  第五章【lure-囮-】 (04/16)  第四章【monsters-化物-】 (04/16)  第三章【trigger-銃爪-】 (04/16)  第二章【departure-別れ-】 (04/16)  第一章【rider-騎手-】 (04/16)  序章【concentration-集結-】 (04/16)  第十章【Ammo for Tinker!!】 (04/16)  第九章【cameraman-カメラマン-】 (04/16)  第八章【brave-勇気-】 (04/16)  第七章【driver-ドライバー-】 (04/16)  第六章【reaction-反応-】 (04/16)  第五章【drive-ドライブ-】 (04/16)  第四章【preliminary-準備-】 (04/16)  第三章【preparedness-覚悟-】 (04/16)  第二章【集結- concentration -】 (04/16)  第一章【mover-発起人-】 (04/16)  序章【beater-勢子-】 (04/16)  Epilogue【Ammo for Reasoning!!】 (04/15)  第十章【Reasoning!!-推理-】 (04/15)  第九章【order-命令-】 (04/15)  第八章【intercept-迎撃-】 (04/15)  第七章【drifter -漂流者-】 (04/15)  第六章【resolution-決断-】 (04/15)  第五章【austerity-荘厳-】 (04/15)  第四章【murder -殺人-】 (04/15)  第三章【curse -禍-】 (04/15)  第二章【departure-出航-】 (04/15)  第一章【breeze-潮風-】 (04/15)  序章【fragrance-香り-】 (04/15)  Epilogue【Relieve!!-解放-】 (04/15)  第十章【answer-解答-】 (04/15)  第九章【rage-激情-】 (04/15)  第八章【mature-成長-】 (04/15)  第七章【predators-捕食者達-】 (04/15)  第六章【grope-手探り-】 (04/15)  第五章【starter-始動者-】 (04/15)  第四章【Teacher-先生-】 (04/15)  第三章【fire-炎-】 (04/15)  第二章【teacher~せんせい~】 (04/15)  第一章【strangers-余所者-】 (04/15)  Prologue-序章- 【Strategy-策-】 (04/15)  【???】 (04/14)  終章 (04/14) 

記事一覧はこちら

スポンサーサイト

  1. 名前: 歯車の都香 --/--/--(--) --:--:--
    上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
    新しい記事を書く事で広告が消せます。

    [スポンサー広告]

コメント

コメントの投稿(コメント本文以外は省略可能)





管理者にだけ表示を許可する

第六章【resolution-決断-】

  1. 名前: 歯車の都香 2017/04/15(土) 21:18:00
    第六章【resolution-決断-】

    ――音。

    蛇腹が蠢き奏でる、ピアノアコーディオンの音色だ。

    水を掻いて進む船と川波の音だ。

    子供がはしゃぎ笑う、幸せな家族の音だ。

     

    大きな川が何本も市内を走り、水と人とが共生する街。

    赤レンガ造りの建物が作り出す歴史ある雰囲気と、情緒を残す街並み。

    水の都、ヴィンスに漂う空気は柔らかく、初夏を感じさせた。

    これは記憶の中の情景だと、彼女はすぐに気付いた。

     

    これは彼女の心象風景。

    彼女自身が記憶する、六年前のヴィンスでの記憶。

    始まりの記憶。

    “レオン”になる前の記憶だ。

     

    歳の離れた幼い弟が笑う。

    父親が豪快に笑う。

    普段は滅多に笑わない母親が笑う。

    嬉しくて自分も笑う。

     

    笑顔があふれる、幸せの絶頂の光景だ。

    世界が平和だと信じていた時の光景だ。

    失ったものの光景だ。

    そして、絶望と復讐の象徴の光景だ。

     

    化粧室に席を立つ母親。

    見送る父親。

    見送る弟。

    見送る自分。

     

    ピザが冷めるのも、時間が経つのも忘れて話をした。

    酒で上機嫌になった父親と話をした。

    離乳食で汚れた弟の口元を拭った。

    そして、音――

     

    ┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳

    ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

     

    瓦礫と死体。

    それだけが事件現場に残された時。

    死者は、パズルのピースとなる。

    遺族は、ピースの欠けたパズルを眺めることとなる。

     

    パズルを完結させ得るのは、決して揺るがぬ信念の持ち主のみ。

     

                                ――A.G.クィンシー著・『怒れる男』より抜粋

     

    ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

    ┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻

     

    ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

        |      |┃○─毛 ;;r__;;;;l L ( <;;;|  / ノ ノゝ ソ ー r ─ -フ┃|      |

        |      |┃彡=二(´`ノ‐─/ヽヒ==〆::〔〕─┌ ヽ/ム√レ┃|      |

        |      |┗━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┛|      |

        |      |                                    |      |

        |      |                [ ̄ ̄ ̄]                  |      |

        |      |             |    |               |      |

    ──|___|──── / ̄ ̄ ̄ヽ───´ ̄ ̄ ̄ヽ,─────|___|──

                  / l|||||]         (('=')) ヽ,

                  | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ |

                  |                   |

                    ‥…━━ August 5th AM11:20 ━━…‥

    ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

     

    その部屋は、豪華絢爛と云う言葉が最も似合う、金のかかった部屋だった。

    壁にかけられた色彩豊かな絵画は三世紀前の作品で、五百万ドルの値が付いたもの。

    食器棚に並ぶ皿やティーカップはどれも超が付くほどの高級品。

    部屋にある机と椅子は全てマホガニー製で、一流の家具職人が手間暇かけて手作りした逸品だ。

     

    天井から釣り下がる、星屑のような煌めきを放つシャンデリア。

    鏡のように磨き上げられた床一面のフローリング。

    柔らかなソファと、踏み慣らされ落ち着いた色合いになった絨毯。

    部屋の隅々まで漂うのは、薔薇から作られた貴重な芳香剤の香り。

     

    部屋の主が腰掛ける黒い皮張りのプレジデントチェアは、どれだけ凭れかかっても軋み一つ上げない。

    金色の髪を頭の横でカールさせて束ねた独特の髪型は、世界最大の豪華客船を支配する彼のトレードマーク。

    彼の薄緑色の瞳は立ち上るフォートナム・アンド・メイソンの湯気を纏っても、瞬き一つせず、水面を静かに見つめている。

    豪華な調度品で飾った室内に、長い静寂があった。

     

    時計の秒針の音が妙に大きく聞こえる、痛い程の沈黙があった。

    沈黙を破り船上都市オアシズ市長、リッチー・マニーは英断を下した。

     

    ¥・∀・¥「……ハザードレベル5を発令。 今すぐに。 異議は一切受け付けない」

     

    生まれながらに大富豪の子息として金には一切の不自由なく育ち、大祖父から受け継いだ市長の椅子に座った彼。

    彼は、鼻持ちならない性格の持ち主だった。

    彼は、世間知らずの大富豪だった。

    だが彼は、無責任でも馬鹿でもなかった。

     

    金の力を生まれた時から目にしてきて、その偉大さと尊さを知っていた。

    金が恋人同士の絆を壊し、家族を壊し、命を奪い、夢を叶える瞬間を何度も目の当たりにした。

    そして、金で買えないものがこの世の中にはあることを知っていた。

    彼は一個人の人間としては無能かもしれないが、市長としては決して無能ではなかった。

     

    市長として彼が発令したハザードレベル5

    それは、これまでオアシズ内で一度も発令されたことのない最も高いレベルの警報。

    前代未聞の事態を前にした人間の多くは二の足を踏んで決断を誤るが、マニーはそれを恐れなかった。

    そんなことに対して恐れた経験がないのだ。

     

    故に、決断には無駄な躊躇がなかった。

    彼の下で働く人間たちは、彼の性格をよく知っていた。

    鼻持ちならない性格をした、世間知らずの男。

    しかし、大胆さが要求される状況で、決断のタイミングは誤らない男。

     

    だからこそ彼は部下に信頼され、その頼りない部分を補おうとする部下に恵まれていた。

    今回の決断も、事件発生から五分後に下されたものだった。

    市長室でその言葉を聞いたブロック長達が、前代未聞の警報発令に対し、落ち着き払った態度で、それぞれの権限において部下に命じた。

     

    ('L')「第一ブロック、作業開始!」

     

    第一ブロック長ノレベルト・シュー代行、ライトン・ブリックマン。

    優れた推理力と変装能力を持つノレベルトの代わりとして、最も信頼の置ける部下に無線で指示を出した彼は、誰よりも規律を重んじる人間だ。

    ブロック長としての仕事など、ほとんど経験はなかった。

    だが、彼は今、自分が行動するべきであることを分かっていた。

     

    £°ゞ°)「第二ブロック、作業開始!!」

     

    第二ブロック長、オットー・リロースミス。

    相手の心理を揺さぶる交渉能力と企画力を持つ彼は、唯一同等と認める友人であり部下である男に無線で指示を出し、第二ブロックの安全性の証明を急いだ。

    スーツに乱れはなく、ネクタイも、タイピンも、いつもと同じように整っていた。

    だが、その目には怒りの色が浮かんでいた。

     

    ノリパ .゚)「第三ブロック、作業開始!!!」

     

    第三ブロック長、ノリハ・サークルコンマ。

    天才的な人心掌握術とカリスマ性で信頼を獲得した彼女は、右腕とも呼べる人物に無線で指示を出し、第三ブロックの安全確保を急がせた。

    ウェーブをかけたセミロングの髪を手櫛で整えた時、彼女の黒いジャケットの下に銃把がちらついた。

    それは、彼女の覚悟の現れだった。

     

    W,,゚Д゚W「第四ブロック、作業開始!!!!」

     

    第四ブロック長、クサギコ・フォースカインド。

    人の心を動かす話術と演説能力で圧倒的な指示を得ている彼は、副ブロック長に無線で指示を出し、第四ブロックの信頼を取り戻しにかかった。

    独裁的な性格と言われることが多い彼だが、言動は常に一貫している。

    ブロックにいる全て人の平穏こそが、彼の最優先目標なのだ。

     

    マト#>Д<)メ「第五ブロック、作業開始!!!!!」

     

    第五ブロック長、マトリクス・マトリョーシカ。

    行動力に基づく人望でブロックを束ねる彼女は、無線機に向かって力強く指示し、第五ブロックの信頼に応じた。

    彼女は最も無能なブロック長だと言われることがある。

    しかし、彼女の行動力は常に部下を惹きつけ、指示は常に最速で部下の間で共有された。

     

    四人のブロック長とブロック長代行者によって命令された作業。

    それは、前例のない速度で実行された。

    各ブロックの間に設置された特殊防壁が作動し、床から分厚い扉がせり上がって天井に接続され、ブロック間を物理的に区切る。

    一階の道路も、その境界線上から防壁が浮上し、大きな吹き抜けだけを残して各ブロックは他ブロックへの移動手段を失った。

     

    第一段階はこれで終了。

    続いて、第二段階へと移行する。

    その合図を担当するのは、市長の役目。

    咳払い一つせずに、マニーはマイクに向かって声を発した。

     

    ¥・∀・¥「皆様、私、市長のリッチー・マニーと申します。

          乗客の皆様、大変ご不便をお掛けしますが、皆様の安全を確保するためにご協力願います。

          尚、この緊急時中に生じる全ての費用は私が負担します。

          どうか、ご理解願いたい」

     

    その言葉と同時に、各ブロックで第二、第三段階への移行が始まった。

    ガイ・フォークスのマスク顔を隠し、H&K MP7を肩にかけた探偵達がそれぞれの配置につき始めたのだ。

    紺色の制服とライフルを持った警官、警備員たちも同じく現れ、ブロックを封鎖した扉の前に立つ。

    物々しい雰囲気のまま、次の放送が入る。

     

    <>L<>)「乗客の皆様、及びに住人の皆様。

           私、オアシズ付き探偵の探偵長、“ホビット”と申します。

           これより十五分以内にお部屋にお戻りください。

           十五分後に室外にいる場合は、先ほど発生した容疑者として確保、拘留させていただきます」

     

    艦内放送を通じて、全ての場所に探偵長“ホビット”の声が届けられる。

    放送に従って、各従業員たちが動揺する人々を誘導し、自分の部屋へと帰す。

    危機的な状況にもかかわらず反抗する人間もいたが、銃口の前にその反抗は屁にも劣った。

    賑わっていた通りから人が消え、船内から喧騒が消えた。

     

    第二段階、乗客乗員住人の拘留による安全の確保。

    第三段階、武装制限を解除された探偵、警察、警備員による各ブロックの警備。

    全ては順序立て、かつ正確に行わなければならなかった。

    月に一度の訓練の成果が見事に実ったことを、マニーは心から感謝した。

     

    船内は刑務所さながらの光景と化すが、まだこれで終わりではない。

    警備員達が配置に付いたことを確認してから丁度十五分後、マニーは次の放送を入れた。

     

    ¥・∀・¥「ご協力感謝いたします。

          では、改めて放送を入れますので、それまでの間、皆様は自室にて待機していてください」

     

    ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

           /  /:|  |      |          ||    ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄      |ニニニニニ:::::

       ;:゙ /  / :::|  |      |          ||    ;;:':    ..,,;;;;;.    |ニニニニ::

     ゙  /  /| 、 |  |      |[]        ||  _________ |――――

     ./   /  i|丶  |  |   ζ |          ||./┏>≡≡<┓ 《 ̄ ̄》/| |二二二二

     | ̄ ̄| \ i|    |  |___|_____||| ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄|  |_|____

     |    |   、i|  /|/                  |__|| ̄ ̄||____|

                    ‥…━━ August 5th AM11:48 ━━…‥

    ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

     

    鉛弾で体重を増やして血液を失った死体が次々と運び込まれた死体安置所は、吐き気がするほどの鉄臭で満ちていた。

    常備していたスチール製のベッドは全て使われ、喫茶店から借りた木製の丸机にも遺体が乗せられていた。

    薄緑色のリノリウムの床には血溜まりが広がり、一部は乾いてひび割れていた。

    全ての遺体は、警備員詰め所から運び出されたもので、ただの一体も医務室に運ばれることはなかった。

     

    急所を失い、血を失った彼らが蘇生することは絶対に有り得ないと一目で分かる惨状だったからだ。

    中には顔を失い、身元の判別が難しい者までいた。

    遺族でさえ、その死体に残された特徴を見るまでは分からないほどだった。

    運良く身につけていた身分証明を兼ねたカードがあれば、例え顔を失っていようとも遺族がいくら否定しようともその人物の特定は可能となった。

     

    死体が放つ悪臭と陰惨な光景は、長い間苦楽を共にした同僚も見るに耐えない物だった。

    遺体を運んできた彼らは涙が乾く前に、リッチー・マニーの指示に従って行動せざるを得なかったが、それはある意味で救いだった。

    同僚の死体から逃げる自分を誰かに見せずに済んだのだから。

    だが死体を前にしても動じない人物が一人だけいた。

     

    死者の女王と呼ばれ、恐れられ、そして死の国に住まう者が切望する存在。

    “ドクター・ストレンジラブ”こと、クルウ・ストレイトアウトだ。

    彼女は死体が運び込まれてからすぐに損傷の少ない物から検査を始め、不要な解剖はせずに、身元の判明と銃弾の回収に尽くしていた。

    文句一つ、不満一つもらさずに。

     

    顔のない男の入った死体袋のジッパーをそっと閉じたショボン・パドローネは、右手を思い切り壁に叩きつけた。

    砕けた人差し指の骨が肉を割き、皮膚を突き破って甲から飛び出した。

    激痛だった。

    しかし、それ以上に心が痛かった。

     

    いくら銃弾を採取したところで、それから犯人に結びつくものは何一つとして見つからないことを知っているからだ。

    遺体の数以上に遺族がいて、理不尽な出来事に憤り、涙している事を知っているからだ。

    探偵達が総出で犯人を追っているのに一向に成果が出ないからだ。

    何より、自分の予想と異なった展開になったからだ。

     

    川 ゚ 々゚)「なぁに? 何で荒れてるの?」

     

    (´・ω・`)「……どうして」

     

    川 ゚ 々゚)「?」

     

    (´・ω・`)「どうして、探偵はこうも無力なんだ」

     

    犯人の思った通りに翻弄され、オアシズはこの有り様だ。

    最終的にはマニーにハザードレベル5を発令させてしまう事態に発展したことは、探偵と警察の無力さを物語る。

    今頃は第一ブロックで第四段階を始めるための準備が行われているだろう。

    今回、マニーが下した決断は間違いなく英断に分類されるものだ。

     

    自らオアシズが危険な状態にある事を認めることになり、信頼は前例にないほど急落しかねない。

    それを恐れずにこの決断を出来るのは、かなりの度胸が必要になる。

    彼にはそれがあった。

    彼がいなければ、犯人の思う壺だっただろう。

     

    (´・ω・`)「すまない、クルウ。

          僕はまた……」

     

    クルウは振り向かなかった。

    淡々と死体に触れてそこから幾つもの証拠を探し続けている。

     

    川 ゚ 々゚)「謝って死者が蘇るなら、誰も悲しまないんでしょうね。

          そして、誰も感謝しない世界になるんでしょうね。

          ……絶対に、犯人を捕まえなさいよ。

          偽りをどうにかしてくれるんでしょう?」

     

    ショボンは何も言わず、医務室に向かうことにした。

    自分の不注意とはいえ、利き手を負傷してしまったことは今後に関わる。

    親指以外の指の骨が折れているが、己の行動に悔いはない。

    何もしないよりかは、遥かに気分がいい。

     

    (#´・ω・`)「くそっ……!!」

     

    ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

                    ‥…━━ August 5th AM11:53 ━━…‥

    ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

     

    市長室には二人の男がいた。

    部下たちが指示に従って慌ただしく最後の準備を進める中、市長リッチー・マニーは椅子の背もたれに脱力しきった様子で寄りかかっている。

    表情こそ変わらないが、心中は穏やかではなかった。

     

    ¥・∀・¥「……なぁ、ラヘッジ」

     

    「は」

     

    マニーの隣でマニュアルの束に目を通していた船長ラヘッジ・ストームブリンガーは、目を向けもせずに答えた。

    彼が普段着用する船長の象徴とも言える装飾付きの制帽は、マニーの卓上にあった。

    二人は仕事仲間であるとともに、オアシズで生まれ育った同級生だった。

     

    ¥・∀・¥「私が市長を降りたら、次は君が――」

     

    「市長、同い年の人間として言わせていただきますが、私はあなたが大嫌いです。

    正直、第一印象は最悪。

    金持ちの息子がいきなり船の権利を全て手に入れて、欲望のままに好き勝手……してくれれば、もっと嫌いになれたのに。

    なのにあなたは、この船のためを思って好き勝手していた。

     

    金を船の改築や従業員の教育に使い、挙句は安全確保のためのコンセプト・シリーズの棺桶の購入に充てた。

    それだけの金があれば、女でも酒でも、別の町の一つでも買えたのに、そうしなかった。

    皆が本気で嫌いになれないあなたが、私は嫌いなんですよ。

    だから、皆が嫌いな傲慢な市長でいてください。

     

    悪いですが、私はそれ以外の市長の命令には従いませんよ、マニー」

     

    実に十年以上ぶりに友人として名前を呼ばれたことに、マニーは涙を抑えられなかった。

    生まれたのが大金持ちの市長の息子というだけで嫌われていれることは、幼少時代から知っていた。

    だからこの職に就くよりも前に自分なりに考えて、より市長らしくあろうと務めてきた。

    これまでの行いが間違っていなかったと認識できたその言葉は、何よりも嬉しい言葉だった。

     

    そして、自分の傍に友人と呼べる人間がいたことに感謝した。

     

    「それに、私は市長なんて柄じゃない。

    弱音を吐くなんて、一体どうしたんです?」

     

    熱くなった目頭から、熱い液体が流れ落ちる。

    忘れかけていた感覚。

    友情の尊さを思い知らされ、マニーは落涙した。

     

    ¥う∀・¥「……いや、弱音なんて吐いていないぞ。

          市長の職務を知らない人間に引き継ぎもなしで任せるはずがないだろう?

          大金を使ったこともない凡人に、何が出来る?

          何も出来ないさ。

     

          次は君が……そう、次は君が……

          次の市長に、金の使い方を教えてやってくれ」

     

    「ははっ、私が教えられるのは、美味い料理と酒を安く出す店を教えるぐらいですよ」

     

    ハンカチで涙を拭き取り、マニーは一息ついた。

    これ以上、弱気になってはいけない。

    自分の決断に自信をもつのだ。

    自分の決断は誤りではないと言い聞かせ、それを絶対のものとして意識する。

     

    賽は投げられた。

    投げたのは自分。

    故に、後悔はない。

    一つ深呼吸し、マニーは気持ちを切り替えた。

     

    ¥・∀・¥「ラヘッジ・ストームブリンガー」

     

    「はっ」

     

    今度の呼びかけに対して、ラヘッジは先ほどまでのような砕けた態度ではなく、船長としての威厳を身に纏ってまっすぐにマニーの目を見た。

    今ここにいるのは、一人の船長と市長。

    指示をする者とされる者の関係だ。

     

    ¥・∀・¥「嵐を抜けるまでにかかる最短時間は?」

     

    「後二時間もあれば抜けてみせます。

    ただし、蓄電池を半分使うので、嵐を抜け出たところでエンジンを切ります。

    航海の日数が長引きますがよろしいですか?」

     

    ¥・∀・¥「その間、乗客に払う金なら気にするな。

          ジュスティアの警察に連絡をして、事件の早期解決を図ることにした。

          海軍を投入してくれるそうだ。

          逆に、船が止まるほうが好都合なんだ」

     

    「了解しました。

    では、フルスロットルで嵐より脱し、停船します。

    ああそれと、市長」

     

    机上から制帽を取って被り、ラヘッジは意味ありげな笑みを浮かべる。

     

    ¥・∀・¥「なんだ?」

     

    「船内に音楽が足りませんな」

     

    ¥・∀・¥「君の権限で、相応しい曲を流してくれ。

          頼んだよ、ラヘッジ」

     

    ラヘッジは完璧な敬礼をして、部屋を出て行った。

    後に一人残されたマニーは、机の中から拳銃を取り出し、久しぶりの銃把の感触を味わった。

    これを使う時はそう遠くないかもしれないと思うと、指先が少し震えた。

    殺されるかもしれないと云う恐怖は、確かに彼にもあった。

     

    間もなく、スピーカーから女性の歌声が小さく聞こえてきた。

    若い頃からマニーがファンの歌手だった。

    友人の心遣いに感謝しつつ、マニーは次の放送の準備を始めた。

    マイクの前で軽く咳払いをしてから、スイッチを入れる。

     

    ¥・∀・¥「お待たせいたしました。

          これより、ハザードレベル5について説明をさせていただきます。

          これは従来、外的、もしくは内的な脅威によってシージャックが行われる、もしくは行われた際に発令されるものです。

          先ほど起こった警備員詰め所の襲撃を受けて、私は市長として、このハザードレベル5を発令いたしました」

     

    声は震えていない。

    しかし、胸が震えていた。

    緊張など、らしくない。

    自分は傲慢で自分勝手な、厭味ったらしい金持ちなのだ。

     

    それを演じることぐらい、訳無い事だ。

     

    ¥・∀・¥「皆様のいる部屋の扉は、お手元にあるカードキー以外では開けられません。

          マスターキーの権限も先ほど無効化致しました。

          皆様の安全を害する人間が外部から侵入する経路を断つことが目的です。

          しかし、皆様が外出する権限もまた、同時に無効化致しました。

     

          ブロックごとに、ドアが開閉する時間を設定し、こちらの権限でそれを実行いたします。

          他ブロックへの移動は一切、何があろうとも出来ません」

     

    素早くブロックを封鎖したのは、シージャック犯を閉じ込めることと、安全を確保する二つの目的がある。

    危険を五つに分断して対処する、それこそが各ブロック封鎖の意図だ。

    部屋の封鎖の件も同様だ。

    シージャック犯がマスターキーを手に入れた場合を考え、部屋を開けられる人間を限定するのだ。

     

    各自が独立した安全な領域にいることが、シージャックに対抗する絶対的な手段と考えた結果だった。

    そうしてから、侵入者、不審者に対処するために要所に武装した人間が配置して、驚異の除去を行うのである。

    彼らにはアサルトライフルだけでなく、この世界で最も強力な兵器である棺桶を使用させる。

    使われる棺桶は二種類。

     

    ジョン・ドゥ、そしてソルダット。

    どちらも傑作機の名に相応しい性能を有するもので、使用者を限定しないよう、音声認識システムがオフにされている。

    つまり、キーコードさえ知っていれば誰でも使用が可能なのだ。

    しかし。

     

    これだけでは、足りない。

    シージャックに対して抵抗するためには、もう一か所、武装しなければならない部分があるのだ。

     

    ¥・∀・¥「これより、第一ブロックから順に皆様からお預かりした武器、棺桶を返却いたします。

          オアシズは絶対安全とは言えぬ状況下になった為、皆様の命は皆様の手で守っていただきたく思います。

          残念ですが、武器のレンタルは行っておりません。

          また、同じタイミングで皆様に三食分の食事をお渡しさせていただきます」

     

    武器の返却。

    本来、武器を回収していたのはシージャックを避けるためだったが、起こってしまった以上、それは無効となる。

    シージャック犯にしてみれば、預かった武器類は宝の山になる。

    宝の山が犯人の手で汚れる前に、持ち主の手に返し、本来の目的を果たしてもらう方が遥かにマシだし、警備員のいない場所での迎撃も可能となる。

     

    力が世界を変える時代。

    ならば、武器が世界を変えるのも当然。

     

    ¥・∀・¥「……最後に。

          これは市長として、また、一人の男としての言葉として聞いて下さい。

          全ての責任は、この私、リッチー・マニーにあります。

          恨み、怒り、悲しみ、その矛先は全てこの私に向けてください」

     

    ┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳

    ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

     

    AmmoRe!!のようです

    Ammo for Reasoning!!

                                               _ -

                                            __ -‐ ´ ノ

                                   ,.-‐ ニ   _,. -'´

                                   /   '' 、`丶、

                                        /     ヽ` 、ノ

                              _-ォ‐ァ ア'´        , ヽノ

                  __,. -―  ´ / / /       /` _ノ第六章【resolution-決断-

     

    ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

    ┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻

     

    ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

        ./::::::::::::::::::/`ヽ:::::::::::::::::::::::::::',

        ハ:::::::::::::::i   o ',::::::::::::::::::::::::::i

         i:::::::::::::::::::::ヽ_ ノ:::::::::::::::::_:::::::,'

        ',::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::/o ',:::/

         ゝ-:::::::::::::::::::::::::::::::::::::::i__ /

        /:::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::: /

       ./:::::::::::::::::::::::::::r ニヽ::::::::::::/

    ー、/:::::::::::::::::::::::::::::::`ヽィ′:::

                    ‥…━━ August 5th PM13:50 ━━…‥

    ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

     

    リッチー・マニーと云う人物を過小評価していた。

    もう少し用心深く、もう少し繊細な人間だと思っていた。

    だが違った。

    考えていたよりも大胆な人間だったのだ。

     

    探偵を使ってちまちま探す作戦を潔く諦め、最終手段とも言えるレベル5の発令に踏み切った。

    これでは余計な警戒心を与えるだけでなく、デレシア達と接触する機会を失ってしまう。

    ブーンを始末したところまでは良かったが、ここに来て予想外の展開だ。

    次の計画までの時間がそうないことを知っている身としては、どうにかしなければならない。

     

    マスターキーが使用できないことは大きい。

    どうにかして、デレシアとヒートを始末するのだ。

    と、なると。

    最早こちらの美意識やらは置いておき、猛毒と云う原始的な方法で攻めるしかない。

     

    懐に隠し持つ毒のアンプルセットを使い、二人を毒殺する方法を考える。

    一つは全ての食事に直接混入させる方法。

    もう一つは、食器の一部に毒を塗る方法。

    最後は、傷口から毒を体内に侵入させる方法だ。

     

    どれを選んでもいいが、兎に角、近づかないことには殺しようがない。

    苛立ちばかりが蓄積される。

    計画をスムーズに進行させるのに必要な行動を考えつくために、一度、深呼吸をした。

    探偵、警察、警備員を欺いてデレシア達の部屋に接近するには、どうすればいいか。

     

    必要なのは権限だと一瞬で辿り着いた。

    権限さえあれば、二人の部屋に近づける。

    そこに運ばれる料理に毒を盛れば、直接会わずに殺害が可能だ。

    これで行動計画に目処がついた。

     

    二人がいるのは第三ブロック十八階。

    対してこちらがいるのは第二ブロック七階。

    第二ブロックで有効な権限は、向こうでは使えない。

    ならば、人目につかずに第三ブロックに侵入し、目的を果たす方法を考えればいいのだ。

     

    ――いや、違う。

     

    前例のない事態なのだから、その方法が失敗する可能性もある。

    調べる必要があるのは、食事の提供方法からだ。

    武器の返却に立ち会えないのはいいとしても、食事がどのようにして提供されるかがまだ分かっていない。

    マニュアルには船側から食事が振る舞われるとあるが、それが手作りなのか、それとも既製品なのかが定かではない。

     

    三食まとめて渡すということは、手作りの可能性は限りなく低い。

    既成品だとしたら缶詰かもしれないし、パック詰めされた弁当形式かもしれない。

    マニーは必要な場面で用心深さを発揮するに違いない。

    犯人が船にいる以上、安全が保証されている食事を出すはずだ。

     

    となると、加工のしにくい缶詰が理想的。

    船の中にあるスーパーマーケットや食料品を取り扱っている店から持ってくるかもしれないし、非常食として常備している物が出されるかもしれない。

    腹立たしいが、マニーの判断は英断と評価するに値する。

    ジュスティアの海軍が介入する前に舞台を整える必要が有るため、残された時間は十二時間ほどだろうか。

     

    チャンスは一度だけ。

    何も毒にこだわらなくても別の方法もあるが、確実性が欲しいのだ。

    探偵達よりも聡明な二人を確実に殺す、確かな方法が。

    焦らずに方法を考え、答えを出せばいい。

     

    二人を屠れる方法を模索しながら、その人物は職務にあたっていた。

     

    ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

      ___

      l |l l

      l | l

      l |l '""`

     └t'´   l l

       l    l l_..._

       r'"二ニつL /

       ', V'" ̄二つ

       ヽ/ /  ノ〉

        L / / /

                    ‥…━━ August 5th PM15:20 ━━…‥

    ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

     

    第三ブロック長ノリハ・サークルコンマは一階にあるブロック長室の書斎で、オイルライターの蓋を開いては閉じて、考え事に耽っていた。

    犯人と目される第一ブロック長、ノレベルト・シューの目的をひたすらに考えていたのだ。

    何故ハワード・ブリュッケンを惨殺し、警備員詰め所を襲い、その様子を流したのか。

    よくある復讐が理由ではないだろうと、ノリハは考える。

     

    復讐なら、事態が大きくなる前に片付けているだろう。

    わざわざ映像を流す必要はどこにもないはずだ。

    目的は映像を流し、その先にあるものだろう。

    混沌を愛する迷惑極まりない思想犯か、それとも別の目的を持った人間なのか。

     

    ノリハはノレベルトとは仲がよく、彼女がこんな下らないことに時間を割く人物だとはとても考えられなかった。

    最後に会った時、彼女はいつもと変わらない様子だったが、少しだけ浮ついていたような気もする。

    慣れない化粧までしていたから、当時の様子をよく覚えていた。

    異性に会うような、そんな感じだ。

     

    だが探偵としての生活が長すぎて、混乱と恐怖を愛する人間と化した可能性はゼロではない。

    そう考え始めると、可能性は次から次へと溢れ出た。

    可能性に思考を制限されることほど愚かなことはない。

    頭を振って、湧き上がる可能性を一度消した。

     

    ブロック長として、ノリハはこの事件解決の補助をする義務があった。

    リーダーとは、率先して困難に挑むもの。

    困難とは、考えて挑むもの。

     

    ノリパ .゚)「……むむ」

     

    とは言っても、ヒントは無いに等しい。

    限りなくゼロに近い数字から、一を出さなければならないと思うと、それは最早彼女の技量を超えていた。

    犯人の思惑よりもまず考えなければならないのは、犯人の居場所だ。

    これ以上の被害者を増やさないためにも、今も船の何処かにいる犯人を捕らえなければと云う思いが彼女を苛んだ。

     

    折角、マニーが整えてくれた舞台なのだから、それを活用しない手はない。

    第三ブロックとしての方針は決まっている。

    極力危険から遠ざかった位置で静観し、機会を伺って介入する。

    では、他のブロックはどうだろうか。

     

    犯人の特定と捕獲を急ぐブロックがあるとしたら、間違いなく第一ブロックだ。

    最重要人物として今も負われているノレベルト・シューが統治していたブロックだけに、彼女の部下たちはプレッシャーに感じているはずだ。

    襲われた“三銃士”は、犯人の顔を見て生きている数少ない人間だが、その顔が変装したものだと考えると、証言の力は弱い。

    確かにノレベルトは変装が得意だが、戦闘技術に関しては中の中、といったぐらいのはずだ。

     

    射撃と肉弾戦を駆使した戦い方は探偵試験では必要とされていないし、ノレベルトは体を使うのは苦手だとよく言っていた。

    それを考えると、らしくない襲い方だった。

    彼女が犯人ではない可能性も確かにあるが、彼女でなければ、一体、誰が犯人なのだろうか。

    そうして時間が経つのを待っていると、机上に設置された無線機から、第二ブロック長オットー・リロースミスの声が聞こえた。

     

    £°ゞ°)『お待たせしました、第二ブロック配給・返却完了しました』

     

    ノリパ .゚)「ご苦労さまです。 これより第三ブロックも作業を開始します」

     

    ジャケットを正して、席を立つ。

    今は可能な限り乗客に顔を見せて、安心させることに努めることが彼女の義務だと考えを改めたのだった。

     

    ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

            ..:.:;. '  ,.' .,.::-- 、丶:...: ´`,. - '´、ヽi::..     `丶`丶::._::.:.. .

         . ..:.::.;. '  ..:,:' ..;/:.    \丶::.::.:.'.    ヽ !::.:.. .   :,._    `丶

      . ..:.::.::::;:.'´   .:.:;' .:;:':!:        ヽ丶:._::..、     ', `丶、:..   ` ‐ :.::_::.::

    :_:;.: - ' ´    .:.:::;'.::;'.::j|:.       :/` ー-、丶::.  i.   丶、      `¨

          ..,.'.::;:':;:'::/.::;::.:.    ..:/:     \ヽ:.  !:::.:..    、. _

    ::'´ ..:.:;: '´.::;': .,' .;'::.::j::.:.:V:   ...:.::j::.       :ヽ`、 !. .::.:_::.:.:.. .. . .:::.:

    .:.:::.::; '   ,::' ,.' :/;.;.:/   .:.::,::.        : .:';. !:.   _ ¨  ‐- ::.:.:..

    ::.::;.'   ,'  , ' _,.:'´/    .::' .:j:      :j`ーゝ;:::.:.. .  `丶:.;_::.:.. . .

    ::;:'   ' ., '/ ´ . :.:.:!        .::      .;' :.:..::.::.:_::.::.::.:.::.::.:..:..:.::.::

    ;'   ,' /   . .:..:.:.!       .:/:!.     .:/   : .:.:..::.:- ::_;.::.::.::.::.:.::::

         /:. .: .:..:..:..:.:.:.:|      .:/:.:|:.:..  ,' :{       . :::.:.::.:、` ー‐--

       /      .:..:.:.:|     .:/.:.:..:.:.:.. :丶         ::.:.:.:. : : .: :

    . /       .:..:..:.:|  ‥…━━ August 5th PM16:46 ━━…‥

    ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

     

    一人の女性が、ベッドで苦しそうに寝返りを打った。

    丹念に鍛え上げられ、贅肉を削いで引き絞られた健康的な肉付きの四肢。

    古傷の上に真新しい傷を重ねた色白の肌には汗が滲み、毛並みのいい赤茶色の髪は湿って乱れていた。

    整った顔は苦痛に歪み、泣き喚くように嗚咽を上げながらうなされていた。

     

    ヒート・オロラ・レッドウィングは悪夢で目を覚ました。

    全身が汗で濡れ、顔は涙でべたついていた。

    最低の目覚めだった。

    最悪の気分だった。

     

    汗で額に張り付いた髪を後ろに流し、そのまま頭を押さえる。

    腫れぼったい目をこすり、まだ残っている涙を拭い取る。

    いつの間にか着せられていた寝間着は汗で濡れ、肌に張り付いていた。

    膝にはタオルケットが一枚だけかけられていた。

     

    ノハ;゚⊿゚)「……くそっ」

     

    救えなかった過去。

    変えられなかった現実。

    それを思い知らされる夢だった。

    ここ最近は見ることはなかったが、どうしてまた見たのか、ヒートには心当たりがあった。

     

    また救えなかったからだ。

    実行犯には逃げられ、一矢報いることも出来なかった憤り。

    しかも、今回は手が出せた状況で救えなかった。

    守ると決めたのに、それを果たせなかった。

     

    ブーンが海に投げ捨てられた直後、ヒートは海に飛び込もうとした。

    だが、デレシアがそれを止めた。

    肩に痣が残るほど強い力で。

    嵐の中でもはっきりと聞き取れる声で。

     

    ζ(゚-゚ ζ『自殺したいなら、別の機会に一人でしなさい』

     

    そしてヒートの視界はブラックアウトし、今に至るというわけだ。

    おそらく、デレシアがヒートを気絶させてここまで運んだのだろう。

    そうでなければ、ヒートは確実に海に飛び込んでいた。

    そして溺れ死んでいただろう。

     

    どのようにして気絶させられたかは分からないが、痛みは残っていなかった。

     

    ζ(゚ー゚*ζ「起きた?」

     

    傍でリンゴの皮を剥いていたデレシアが、そう声をかけてきた。

    うなされる様子を見られていたのが、少しだけ恥ずかしく感じた。

     

    ノハ;゚⊿゚)「……あぁ」

     

    ζ(゚ー゚*ζ「リンゴ、食べる?」

     

    蜜のたっぷりと入ったリンゴが皿に綺麗に盛られている。

    ブーンの好きな種類のリンゴだ。

    彼は硬く、噛み応えのある食べ物が好きだった。

     

    ノパ⊿゚)「もらうよ」

     

    一口で食べられる大きさに切られたそれを食べ、思考を冷やす。

    リンゴは甘く、よく冷えていた。

     

    ζ(゚ー゚*ζ「さて、ブーンちゃんのことだけど」

     

    ノパ⊿゚)「……おう」

     

    覚悟を決め、二人はブーンの話を始めた。

    復讐の話を。

     

    ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

       |.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.: :.:.:.:.:.:|.:.: /_..|: : : : | |.:.:.:| .:..:.:.:.:.:.:.:./ |.:.:.:.:/ ヽ.:|.:.:.:.:.:.

       |.:.:.:.:.:.:.:.:|.:.:.:.:.:.:.:.:. |.:.:/ | `丁ニー-ミ、.|_..:.:.:.:.:..: /,,|_/-‐一 ニ  ̄

       |.:.:.:.:.:.:.:.:|.:.:.:.:.:.:.:.:. |.:/ ィニマ≡==ミミl、|.:.:.:.:.:./:/ .|:.:/ , -====

       |.:.:.:.:.:.:.:.:|.:.:.:.:.::.:.:.: |/〈    {(::::::ノリ`ヽ  、:.://  |// { (_::::::ノリ

       |.:.:.:.:.:.:.:.:|.:.:.:.:.:.:.:.:. |  \ 弋辷ー_ノ ノ   V /     ヽ 弋辷ー_.

       |.:.:.:.:.:.:.:.:|.:.:.:.:.:.:. |    ` ー ─ '′             ` ー ─

                    ‥…━━ August 5th PM16:57 ━━…‥

    ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

     

    話が終わり、ヒートは改めてデレシアの恐ろしさを知った。

    用意周到さ、聡明さ、そして容赦のなさ。

    何が今の彼女を形作り、彼女を育て上げたのか。

    彼女がどのような人生を送ってきたのか、ヒートには想像も出来ない。

     

    時折見せる仕草は十代の少女のそれだし、碧眼の奥でちらつく深遠な雰囲気は老いた獣のそれに近い。

    戦闘能力は人間離れしていて、警察の執行部や凄腕の殺し屋が束になっても勝てないことを如実に語っている。

    銃の使い方はもちろんだが、肉弾戦も達人の域にある。

    二十代半ばにしか見えない彼女の容姿の中に詰まった謎は、深海よりも深淵に近い。

     

    デレシアによって犯人が明らかにされた時、ヒートはその推理力に感服した。

    そして犯人が判明したからこそ、悟られずに進める復讐の計画が必要だった。

     

    ζ(゚ー゚*ζ「今後の方針としては、さっき話した通りよ」

     

    ノパ⊿゚)「りょーかい。 で、あたしが寝てる間に何があったんだ?」

     

    ζ(゚ー゚*ζ「はい、これ」

     

    そう言って渡されたのは薄いマニュアルだった。

    きちんと付箋が張られていて、ヒートはそのページを見た。

    ハザードレベル5の項目に蛍光ペンで線が引かれている。

     

    ノパ⊿゚)「……へぇ、市長もやるねぇ」

     

    ζ(゚ー゚*ζ「そうね。 先代の市長よりも優秀よ」

     

    その時、訪問者を告げるベルが鳴った。

    ヒートは咄嗟に自分の銃を探した。

    布団の中を探すが、銃がない。

     

    ζ(゚ー゚*ζ「枕の下」

     

    ノパ⊿゚)「ありがとよ」

     

    枕の下に手をやると、触り慣れた柔らかい皮の感触。

    タオルケットを胸元まで引き寄せ、ホルスターに入った二挺の銃をその下に隠す。

    カーキ色のローブを着たデレシアが玄関に向かい、インターホンに出た。

     

    ζ(゚ー゚*ζ「オアシズの職員の方?」

     

    返ってきたのは、女性の声だった。

     

    「はい、お食事とお預かりした棺桶を返却に」

     

    デレシアは扉を開き、職員を出迎えた。

    食事の乗った網棚と青色のコンテナを牽引する電気自動車の前に、ベッドから窓に反射した姿を見る限りで三人。

    スーツとアサルトライフルの男。

    同じ装備と服装をして、仮面を被った人物。

     

    そして、第三ブロック長ノリハ・サークルコンマだった。

     

    ノリパ .゚)「このたびは本当にご迷惑をお掛けして……」

     

    多忙だろうに、客の前に出てきて謝罪をするとは何とも殊勝な心がけだ。

    流石に、ブロック長として任命されただけあって、責任感と覚悟がある人物の様だ。

     

    ζ(゚ー゚*ζ「ご苦労さまです。 お気になさらないでください、やった人間が悪いだけのことですから」

     

    ノリパ .゚)「こちら、本日の昼食、夕食、明日の朝食の合計三食分となります。

         飲み物については、冷蔵庫の中に入っている物を無料でお飲みいただけます。

         どうしても足りない場合は、大変申し訳ありませんが水道水で我慢して下さい」

     

    三人分の食事が入った大きなクーラーボックスを受取り、それを足元に置く。

    仮面の男がコンテナから、黒塗りの運搬用コンテナを運び出し、コンテナの下部に内蔵された車輪を使って部屋の前に持ってきた。

    ヒートの使用するAクラスの棺桶“レオン”だ。

     

    ノリパ .゚)「確かにお返しいたします」

     

    ζ(゚ー゚*ζ「確かに受け取ったわ」

     

    ノリパ .゚)「それと、こちら。

         第一ブロックのお客様からお預かりしてきました。

         黒髪の、若い女性の方からです。

         もし心当たりがないのでしたら、こちらで保管いたしますが」

     

    ペーパーバックサイズの封筒だ。

    中身は手紙だろうか。

     

    ζ(゚ー゚*ζ「あら、わざわざありがとう。

          受け取らせていただくわ。

          あぁ、そうだ。

          マニーさんにこう伝えておいてもらえるかしら?

     

          “マカロニ四本食いの癖はもう直ったのか?”って」

     

    ノリパ .゚)「はぁ、かしこまりました」

     

    棺桶とクーラーボックスを室内に入れたデレシアは、改めてノリハ達に一礼して、扉を閉めた。

    オートロックが作動し、デレシアがチェーンを掛ける音が聞こえた。

     

    ζ(゚ー゚*ζ「ヒートちゃん、棺桶返ってきたわよ」

     

    ノパ⊿゚)「おう。 ところで、四本食いって何の話だ?」

     

    ζ(゚ー゚*ζ「マニーは昔、マカロニが料理に出るとフォークの先っちょに、四本突き刺して食べていたの。

          だから四本食い」

     

    ノハ;゚⊿゚)「……やっぱ、あれか、知り合いなのか?」

     

    ここまで来たらもう驚かない。

    デレシアの交友関係は老若男女を問わず幅広い。

    となれば、オアシズの現市長と知り合いでもなんら疑問はないのである。

     

    ζ(゚ー゚*ζ「まぁね。 ただ、あの言葉がマニーの耳に入れば私達の計画が動かせるわ。

          いつまでもやられっぱなしじゃ、性に合わないもの」

     

    ヒートは改めて、デレシアの恐ろしさを認識したのであった。

     

    ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

               .ヘ  /       ヘ /   \

       r─--、    '!_,!    r─┐ l,:,!  r‐┐ .'!

       L..........j      |::|   └= ┘ l||  二、 . |

                  |::|   _,,,...- . ||  | :||,.-

       _,,,...--‐‐r   .|::|   |  | ||  .||,..-''" 

       | fl |ヾ、 ||    |::|   | ,.-''"

                    ‥…━━ August 5th PM21:01 ━━…‥

    ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

     

    正義の都、ジュスティアは依然として嵐の中にあったが、その勢力は弱まっていた。

    嵐が最も勢力を増した時でさえ、海軍の持つ格納庫中に収められた船を動かすことは出来なかった。

    P26と書かれた格納庫にある、最新鋭の高速戦闘艇“マリンシェパード”五隻の船の前に整列する海上用戦闘服に身を包んだ男四十二名は皆、沈黙を守っている。

    そしてそんな男達の前に立つ男、カーリー・ホプキンス少佐が彼らの指揮官だ。

     

    肩から袖に走る赤と白のラインは、指揮官用の戦闘服の証拠。

    それは敵の注意を上官に集中させるための工夫だ。

    ジュスティア軍人は死を恐れない代わりに、仲間の死を恐れる。

    戦場で最初に死ぬのは最も優しい人間である、と云う言葉を掲げる軍ならではの工夫と言える。

     

    「諸君、これより状況を開始する」

     

    上官の声に男達は敬礼で返し、無言の内に船に乗り込む。

    電気で駆動する船のエンジン音は静かで、五隻集まっても外の音よりも静かだった。

    しかし、それよりも静かに動く男達よりも、更に静かな男が一人いた。

    ホプキンスは最前の船に乗り、操舵室の下にある船室にいる先客に一言声をかけた。

     

    「刑事さん、もう引けませんよ?」

     

    船室で腕を組んで毛布に包まっていた男は顔を向け、上機嫌そうに返答する。

    この男こそ、格納庫内で最も静かな男。

    トラギコ・マウンテンライトである。

     

    (=゚д゚)「誰が気遣ってくれって言ったラギ?

        あぁそれと、キッチン借りてるラギよ」

     

    この戦闘艇の船室は思いのほか広めに作られている。

    壁と天井は防弾に優れた軽量合金製。

    床は柔らかな素材で作られ、簡易キッチンにトイレ、作り付けの二段ベッドが四つある。

    十人の使用を前提に作られただけあり、広さは申し分ない。

     

    トラギコの乗る船には彼とホプキンスを含めて九人の海兵がいた。

     

    「お好きにどうぞ。 ただ、しばらくの間は揺れますよ」

     

    (=゚д゚)「お湯がありゃあ十分ラギ」

     

    船が発進する前に、トラギコはヤカンに水を注いで電子コンロに乗せてスイッチを入れていた。

    荒波にもまれる中で沸騰させれば、船内はシュールな地獄絵図と化す。

    トラギコが船内に持ち込んだのは、五百ミリリットルの液体を入れることの出来る魔法瓶が一つ。

    銀色のアタッシュケース――携帯に特化した強化外骨格――の二つだった。

     

    後の物は身に付けており、船に置くことはしなかった。

    嵐でどこかに行っては事だからだ。

    湯を沸かすトラギコに、黒い目出し帽を被った兵士が問う。

     

    ::0::0::)「何を作るんですか?」

     

    (=゚д゚)「あ? 興味あるのか?」

     

    ::0::0::)「えぇ」

     

    (=゚д゚)「味噌汁って知ってるか?」

     

    彼の言葉に首を傾げた男は、近くにいた仲間を見る。

    しかし首を横に振るだけだ。

    同じようにして男達で奇妙なリレーが行われるも、結局、誰も首を縦に振らなかった。

    驚くべきことに、ホプキンスも知らなかった。

     

    ここにはジュスティア料理が美味いと信じている舌の狂った奴しかいないのだと考えると、頭痛がしてきた。

     

    (;=゚д゚)「……じゃあ、少しだけ分けてやるよ。

        お湯が沸くまで待つラギ」

     

    情けない話だ。

    だからジュスティアは嫌いなのだ。

    外部の事件に関わる中で一番の恩恵は、やはり食事なのだと実感させられる。

    週に一度は酢と塩味以外の料理を味わう機会を義務化すべきだと、本気で思う。

     

    船が静かに動き出した。

    前方の様子は船室からでは分からない。

    音と揺れ。

    この二つを頼りに現状を推測するしかない。

     

    先頭を行く船が大きく持ち上がり、そして下がった。

    波だ。

    となると、格納庫の扉が開いたのだろう。

    徐々に船が進む感覚を得て、トラギコは嵐の中に船が飛び出したのだと理解した。

     

    心配事は沈没よりも湯が飛び散らないか、という点にあった。

    幸い、湯気はすぐに上がってくれたので、それは杞憂に終わった。

    コンロのスイッチを切り、湯を魔法瓶に注ぐ。

    必要な分の湯しか沸かさなかったから、余って二次災害を呼ぶこともない。

     

    ヤカンを元あった場所に戻し、トラギコは魔法瓶に蓋をする。

    そして、何度が上下に振って中をよく混ぜる。

     

    ::0::0::)「何をしているんで?」

     

    (=゚д゚)「ジュスティア人には一生分からんことラギ」

     

    後は小腹が空くのを待つだけだ。

    船の揺れがひどくなる前に、トラギコは魔法瓶を抱えて毛布に包まり、ベッドの一段目に寝転んで背を向けた。

    起きていても得られる情報はたかが知れている。

    瞼を降ろし、トラギコは誰とは特定せずに質問をした。

     

    (=-д-)「おー、到着予定は?」

     

    ::0::0::)「三時間後を予定しています」

     

    (=-д-)「あいよ」

     

    ::::0::0::)「……寝るのか?」

     

    先ほどまで会話していたのとは別の人間だ。

    随分と若い声だ。

    どことなく中性的な声をしている。

    ジュスティアの人手不足もここまで深刻化したと考えるべきか、それとも、ジュスティアの若い人間もかなり優秀になったと考えるべきなのか。

     

    判断に困る。

     

    (=-д-)「なんだ? 一緒に寝るラギか?」

     

    ::::0::0::)「そうしよう。 誰も邪魔するなよ」

     

    有無を言わせず、その若者はトラギコと同じベッドに入ってきた。

    トラギコの包まっていた毛布に無理矢理手足を侵入させ、手足を密着させて来る。

     

    (;= д )  ゚「フォッ?!」

     

    驚いて変な声が出る。

    偶然乗り合わせた同性愛者が周囲に構わず襲ってくるなど、人生の可能性に入れていなかった。

    が、背中に感じた感触を認識して状況認識を改める。

    こいつは、女だ。

     

    ホプキンスの嫌がらせだろう。

    こんな手を使って意趣返しをしてくるとは、ジュスティア軍人もつまらない物になり下がったものだ。

    ここでトラギコが動揺してはじき返そうものなら、それを見て笑いの種にするつもりだろう。

    そうはいかない。

     

    こちらは伊達に幾つもの修羅場を潜ってはいない。

    追いすがる美女はいなかったし、結婚を迫る女もいなかったが、女性経験はゼロではない。

    この程度で動揺を見せては、後で恥になる。

    黙殺を決め込み、トラギコは一時間の仮眠を取ることにした。

     

    だが、決して油断だけはしないように努めた。

    例えばその手が懐の拳銃に伸びたり。

    例えばその手が魔法瓶に伸びたり。

    例えば、その手が“あの鍵”に伸びたりしない様。

     

    トラギコは瞼を降ろしてはいたが、眠りには落ちなかった。

     

    ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

           / //.:: :.}.///_゚___///,.⊥   / .l

          ./ / `゙ー‐' // |___.// {::::::.../ ./

         /.-=======================/ ./

         /: i_.,. - ___./l ,. - __./l ,. - __/ ./

        ./ /./ `゚´ | // i―イ! // {ミリソ} / ./

       / / `ー一'// `ー‐' //. ` '/ ./

                    ‥…━━ August 5th PM21:57 ━━…‥

    ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

     

    突然差し入れられた箱には、銀紙に包まれた楕円形のチョコレートと共に小さな手紙が入っていた。

    手紙には、この状況下でも落ち着いて行動していこう、と云う旨が書かれている。

    チョコレートを摂取して気を休めろ、と云うことなのだろう。

    どこの誰だか知らないが、ありがたくそれを食べることにした。

     

    ただ食べるだけでは味気がないので、紅茶を淹れる準備を始めた。

    ポットに茶葉を三杯入れ、沸騰したミネラルウォーターを注ぐ。

    直ぐに赤茶色が染み出るが、まだまだだ。

    蓋をしたポットを放置し、カップに湯を入れ、しばし待つ。

     

    後は風呂に入っている相方を待つばかり。

    何の気なしに窓の外に目をやると、穏やかな水面に浮かぶ半月が目に入った。

    船は無事に嵐を抜け出たのだ。

    これで、状況は前よりも遥かに良くなった。

     

    嵐の中では、逃げようにも逃げられない。

    事態の好転は望ましいことだった。

    風呂の扉が開いた音がした。

    どうやら、風呂から出てきたようだ。

     

    湯冷めをしない内に夜の茶会と洒落込もう。

    カップの湯を捨てて、そこに紅茶を注ぐ。

    二人分の紅茶をテーブルに乗せて、その中央にもらったチョコレートを置いた。

    見てくれは悪いが、まぁ、いいだろう。

     

    寝巻き姿の相方が向かい側に座り、船旅の安全を願って乾杯をした。

    紅茶を一口啜ると、腹の底から安堵の息が漏れる。

    続いて、銀紙を剥いてチョコレートを一口で口の中に入れる。

    ほろ苦い風味が気分を――

     

    ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

                   {三三三三三三三カ

               Y,ー=======孑ヘ、

              八_/          _j_

              /¨/三三三三三三三爿

                / ,仁三三三三三三三カ

    .           / /|三三三三三三三三{|

                    ‥…━━ August 5th PM22:15 ━━…‥

    ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

     

    乗り合わせた海兵たちの会話から有益な情報は何一つ、手に入らなかった。

    少しは話すのかと思えば、会話一つない有様だ。

    背中に張り付いた海兵を引き剥がし、トラギコ・マウンテンライトはベッドから出る。

    この一時間弱で波に揺られることに体が慣れたおかげで、船酔いにはならなそうだ。

     

    壁に背を付けて、トラギコは魔法瓶の蓋を開けた。

    温かい蒸気と共に、味噌のいい香りが立ち上る。

    その香りに気付いたのか、隣にいた男が興味深そうに中を覗き込む。

     

    (=゚д゚)「美味そうだろ?」

     

    ::0::0::)「本当に美味しそうな匂いですね。

         これは何の匂いなんですか?」

     

    (=゚д゚)「へっへー、これが味噌って調味料の匂いラギ」

     

    船室で休んでいた男達が、ぞろぞろとトラギコの周りに集まってくる。

    皆口々にこの香りを絶賛している。

    いい傾向だ。

    塩と酢以外の味が世界にあることを教えてやらなければ。

     

    (=゚д゚)「ま、飲んでみろラギ」

     

    この魔法瓶の蓋は、カップにもなる。

    そこに揺れで零れ落ちない量を注ぎ、隣の男に手渡した。

    男はマスクを鼻までめくり上げ、息で冷ましながら一口飲む。

     

    ::0::0::)「……すずっあぁぁ……ぁふぅっ……」

     

    感想を口にせずとも、何と感じたのかはその声だけで分かった。

    二口目を飲み、三口目を飲もうとする男の手から、別の男が奪って飲む。

    後ろからのそりと起き上った例の少女も同じようにして味噌汁の列に加わった。

    そして次々に味噌汁が飲まれ、トラギコが注いだ分は船室にいた人間だけで無くなった。

     

    操舵室にいるホプキンスともう一人の海兵には後で持っていくだけの余裕がなさそうだったので、トラギコはキッチンの戸棚から紙コップを拝借し、そこに注いだ。

    今回の味噌汁はインスタントの味噌汁を使ったため、非常に質素だ。

    薄く小さな豆腐が少々と平べったい万能ネギ、それとワカメ。

    しかしトラギコの一工夫によって、乾燥ワカメが増量され、厚く切った歯応えのあるネギがたっぷりと入っていた。

     

    数ある味噌汁の具の中で、トラギコはネギが好きだ。

    最も簡単で、そして最も歯応えがあって健康にいいからである。

    後は油揚げが入っていれば文句はないのだが、生憎、ジュスティアのスーパーマーケットでは品切れだった。

    インスタント味噌汁が置いてある店舗は一店だけという恐るべき状況を、トラギコは知っていた。

     

    夜の九時に嵐の中オアシズを追って出発したとして、追いつくにはどれだけ早くとも四時間は必要だ。

    そうすると、船内で小腹が空くのは予想できる。

    ジュスティア軍人がよもや夜食を用意してくれるなど期待しておらず、トラギコは自主的に用意することにしたのだった。

    水筒に袋二つ分のインスタント味噌汁を入れておき、そこに刻んだネギを入れておくだけ完成だ。

     

    (=゚д゚)っ凵「これ、上に持って行ってほしいラギ」

     

    ::0::0::)「了解」

     

    少しだけ乗車賃のつもりで具を多めに注いでやり、それを操舵室に持って行かせた。

    トラギコの元に戻ってきた蓋に味噌汁を注ぎ、早速一口飲む。

    寝起きの口、喉、胃袋にじわりと広がりながら下って行く熟成された塩味と独特の風味。

    舌の上に感じる小さなネギの存在と、鼻から抜けていく汁に染み出た具材と味噌の芳醇な香り。

     

    もう一口啜る。

    大きなネギが幾つか口の中に入った。

    甘口の味噌がネギによく合う。

    シャキシャキとした噛み応えのそれを堪能しながら汁を啜り、汁を吸ったネギの風味と辛みと若干の甘みを楽しむ。

     

    具の袋を豆腐にしたのも正解だった。

    小さいがこれも汁をよく吸い込んで良い食感になる。

    勿論、増量したワカメも忘れてはならない。

    絶妙な塩味を付け加えるだけでなく汁全体に豊かな香りを付け足す存在だ。

     

    一息つき、トラギコは水筒を回した。

    水筒の壁面に張り付いていたワカメが剥がれ、具が汁の中心に寄る。

    そこをすかさず啜る。

    大量の具が一度に口に収まり、贅沢な食べ応えに舌鼓を打つ。

     

    味噌汁のいいところは夏場で失われがちな塩分を取れる点と、疲れた体を癒す点にある。

    働く男には何ともありがたい料理なのだ。

    残った汁を飲み干そうとした時、物欲しげな目で見る海兵がいた。

    先ほどの少女だ。

     

    ::::0::0::)「なぁ」

     

    (=゚д゚)「あん?」

     

    ::::0::0::)「それ、もっとくれないか?

          実は晩飯を食べ損ねてさ」

     

    (=゚д゚)「……海兵なのに、か?」

     

    妙だ。

    海兵と云うよりも軍には食堂がある。

    オートミールなど食欲を減退させるラインナップで兵士からは不評だが、基地内で訓練後や出動前に食事が出来る場所はそこしかない。

    こいつは出動前にもかかわらず、食堂に行かなかったと言っているのだ。

     

    いつまた食べられるか分からない職をしている自覚がないのか。

    それを認識させてやるために、トラギコはわざと聞こえるように鼻で笑って味噌汁を飲むことにした。

     

    (=゚д゚)「あああ!! うめぇ」

     

    ::::0::0::)「……くっ」

     

    マスクの下から悔しそうな声が聞こえた。

    いい気味だ。

    からかい甲斐のある反応だった。

     

    (=゚д゚)「いいか若造、覚えとけ。

        俺らみたいな職業はな、いつ食えなくなるか分からねぇラギ。

        だから、食える時に食わなかった手前がいけねぇラギ」

     

    ::::0::0::)「知ってる」

     

    (=゚д゚)「なら、今がその時だってのも分かるラギか?」

     

    ::::0::0::)「分かってる。 分かった上での頼みだ。

          正直言うと、空腹なわけじゃないんだ。

          世辞抜きに、あんたの味噌汁は美味い。

          だからもっと飲みたいんだ」

     

    ジュスティア人にしては珍しく正直だ。

    総じて矜持の高い彼らは、自分達の料理以外をあまり受け入れないし認めない。

    正直は良いことだ。

    裏を読んだりする面倒を省いてくれる。

     

    (=゚д゚)「そらどうも。 だけど俺はシェフじゃないラギ。

        ……次からは手前で作れ。

        そんなに難しい料理じゃねぇラギ」

     

    ずい、と水筒を差し出す。

     

    (=゚д゚)「フォークを使って食うといいラギ。

        そうすりゃ、ネギもワカメも残さないで済む」

     

    ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

           r--- ,,__        ,r'

           |      `"''v-''"´  /

           ノ               i

          i                ノ、__

          !              r'´ヽ `':,

          /              l !__i |   ',

         ノ               i   .i, ,  ヽ

        /               ノ   i/    `',

      <,. -─‐-- ,,   ,. --- ,/    !     i

                    ‥…━━ August 6th AM00:37 ━━…‥

    ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

     

    リッチー・マニーは提出された報告書を見て、サインをするために手にした十五年間使用してきた万年筆を折ってしまった。

    愛着ある一本だったが、今はその感傷に浸るどころではない。

    新たに若い女性二人が犠牲となった。

    それも、毒殺だ。

     

    ;・∀・¥「どういう事だ、これは?」

     

    声は怒りに震えている。

    探偵は、警備員は、そこまで無能なのか。

    自分が過大評価しているだけで、その実、張子の虎以下なのだろうか。

     

    ;・∀・¥「説明してくれ、第三ブロック長ノリハ・サークルコンマ。

           君の考えが私によく伝わるようにだ」

     

    ノリハ; .゚)「はっ、そこの部屋の食事には異常ありませんでした。

         ですが、検出された毒物は我々の提供外の食事、チョコレートに含まれていました」

     

    ;・∀・¥「チョコ?」

     

    確かに、報告書にはそのように記されている。

    チョコレートの表面に塗られたヒ素が死に直結していると書かれているが、こちらではチョコレートの提供などしていない。

    提供した食事は安全性第一に考えて選ばれ、毒が混入されればすぐにでも分かる仕組みだ。

    それを逸脱した食品が提供された理由とは。

     

    ノリハ; .゚)「はい、そちらの部屋に届けてほしいと頼まれまして」

     

    #・∀・¥「この緊急事態に、よくもそんな願いを聞けたもんだ!!」

     

    流石のマニーも、その緊張感の無さに呆れかえり、そして激怒した。

    ノリハ・サークルコンマはこんな無能だったのか。

    食品以外ならまだしも、食品を渡すとは危機感がなさすぎる。

     

    ノリハ; .゚)「それが……」

     

    ¥・∀・¥「……なんだ」

     

    ノリパ .゚)「警備員に頼まれたのです、警備中の」

     

    ;・∀・¥「警備員……だと……?」

     

    客同士なら愚か極まりない判断だが、警備員が頼むとなると、話がこじれる。

    その警備員が特定の客に対して毒を持ったと云う事になる。

    ならば、計画性のある殺人だ。

    この状況で殺人をする人間となると、どう考えても、一連の事件を起こした犯人に結び付く。

     

    こちらの懐の奥深くに潜りこまれている。

    背筋に寒気が走った。

     

    ノリハ; .゚)「はい。 第二ブロック七階にいたソルフェージュ・ランブランという男が、第二ブロック長の依頼で受け取った、と言って……

         カードも所持していて、スキャンしたら実在の人物であることも分かりましたので……」

     

    マニーはすぐに視線を隣のオットー・リロースミスに向ける。

    作業中に誤って負傷したという右手には、真新しい包帯が巻かれている。

    彼は微塵の動揺も見せず、首を横に振った。

     

    £°ゞ°)「全く存じません。

          ……そもそも、そのような男、警備員の中に本当にいるのですか?

          データを改ざんしたとか」

     

    ¥・∀・¥「“ホビット”、報告しろ」

     

    仮面をつけたままの探偵長“ホビット”は、小さな体をより一層小さく萎縮させた。

    哀れだとは思わない。

    マニーはこの男にそれなりの報酬を払っているのだ。

    オアシズで起こった事件を何一つとして解決していないこの男の処遇を、今ここで決めても何ら問題ではない。

     

    <>L<>)「はっ、そのソルフェージュ・ランブランという男、確かにおります。

           ですが事件後、トイレに行くと言って姿を消しており――」

     

    ¥・∀・¥「捜索中、と」

     

    <>L<>)「情けない話ですが。

           しかし、これで犯人が第三ブロックにいることが分かりました」

     

    ¥・∀・¥「……情けないを通り越して糞くらえだ」

     

    マニーはこれ以上、ホビットの顔を見たくなかった。

    秘匿性を保つための仮面が、道化のそれにしか見えないのだ。

    この男にかかれば左耳に付けたインカムでさえ、ただのアクセサリー以下の価値しかもたない。

    書類に目を落としはするが、それを読むだけの気力が今はない。

     

    <>L<>)「……いくつか、ご報告があります」

     

    ¥・∀・¥「あ?」

     

    <>L<>)「まずはたった今入った情報です。

           消えた銃弾が発見され、線条痕の検査もできました」

     

    ¥・∀・¥「誰の銃だったんだ?」

     

    <>L<>)「第一ブロック長、ノレベルト・シューの銃から発射された物であると断定しました」

     

    やはり、としか言えない。

    それだけに、その答えが出たところでマニーは感動も関心もしなかった。

    そんなちっぽけな事を追う暇があるのだと、思わず表情に出して呆れたぐらいだ。

     

    <>L<>)「続いて、水中作業用強化外骨格が一機盗まれていることが分かりました。

           種類はBクラスの“ディープ・ブルー”。

           タイミングから考えると、犯人が逃亡用に奪取したと思われます」

     

    ¥・∀・¥「保管場所は?」

     

    <>L<>)「襲撃された詰所です。

           ロッカー室と武器庫の鍵が開錠されていました。

           残されていた入室履歴を見ると、部屋への侵入と武器庫の開錠にはサイタマ兄弟のカードが使用されています。

           ただ、奇妙な点が」

     

    苛立ちを表に出さないように努め、マニーは続きを待った。

     

    <>L<>)「一度、武器庫とロッカー室は施錠されています。 もちろん、サイタマ兄弟のカードで。

           ですがその後、もう一度開けられた履歴がありました。

           その際の開錠にはカードが使われておらず、開いた、と云う履歴だけが残されていたのです」

     

    ¥・∀・¥「つまり、要約すると?」

     

    <>L<>)「襲撃犯とは別の人間が、事件後にあの場にいた可能性が非常に高いのです。

           単独犯ではないと――」

     

    そこで、マニーの堪忍袋の緒が切れた。

    今、目の前で述べたことは推理ですらない。

    この男は報告しただけだ。

    進展も望めない情報を口にしただけ。

     

    手の中で砕けた万年筆をホビットの仮面に投げつけた。

     

    #・∀・¥「それがどうした!? だからどうした!?

           貴様は探偵だろう!!

           少しは頭を使って、この事件をどうにかしようとは思わないのか!?

           盗まれた物云々よりも、犯人の居場所と目的を考えられないのか!?

     

           警備員の中に紛れている犯人を捜そうとはしないのか!?」

     

    <>L<>)「現在、優秀な探偵が全力で捜査に当たっています。

           今しばらくお待ちください」

     

    #・∀・¥「お前が言うんだ、さぞかし優秀なんだろうな。

           期待しすぎて心臓発作を起こしそうだよまったく!!

           全員さっさと持ち場に戻れ!!」

     

    手を振って報告に集まった人間とブロック長を持ち場に帰す。

    このまま彼らといたら、冗談でなくストレスで心臓がどうにかなりそうだ。

    激昂するマニーの前に、残った者が一人いた。

    第二ブロック長のノリハだ。

     

    #・∀・¥「なんだ?」

     

    ノリパ .゚)「……お客様からご伝言です。

         “マカロニ四本食いの癖は直ったのか”、と」

     

    その言葉に、マニーは一瞬怒りを忘れた。

    ラヘッジですら知らない、マニーの過去。

    幼少期によく叱られた四本食いの癖の事を知っているのは、父と母、そしてある人物だけだ。

     

    ;・∀・¥「いいか、よく思い出して答えてくれ。

           その客は、どんな人だった?」

     

    ノリパ .゚)「とても綺麗な金髪の女性でしたが」

     

    間違いない。

    マニーの知る人物の特徴と一致している。

     

    ;・∀・¥「その人はどこにいる?」

     

    ただならぬ雰囲気に、ノリハは少し気圧されながらも答えた。

     

    ノリパ .゚)「事件のあった第三ブロック801号室の隣、802号室です」

     

    ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

      |::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::__::/

      {::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::/ ハ,'i

    `ヽ ゝ:::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::/   y::,'::/

    ::::::/:::::::::::::::::::::::::::; _______::::::::::::::::___/:::レ′

    :::::',::::::::::::::::::::::< __    _>‐´::::::::::::::::::::::::/

    :::::::i::::::::::{:::::::::::::::::::::::` ̄´:::::::::::::::::::::::::::::::::,'

                    ‥…━━ August 6th AM00:58 ━━…‥

    ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

     

    その人物は痛む右手を押さえ、部屋に向かって歩いていた。

    負傷したのが右手で幸いだった。

    周囲には事故でと説明したが、誤魔化せなくなるのも時間の問題だろう。

    現場に居合わせた者の口をいつまでも塞げるとは思えない。

     

    全ては自分の油断が招いた結果だった。

    大丈夫だろうと思い上がり、警戒をおろそかにした結果がこれだ。

    彼はどうにかして、この問題を解決しなければならなかった。

    これは自分の責任だ。

     

    ,,,_ア゚)「お疲れ様です、具合はいかがですか?」

     

    道中、知り合いが声をかけてきた。

    考え事が顔に出ないように努め、返事をする。

     

    「少し痛むが、大丈夫だ。

    利き手じゃなくてよかったよ」

     

    ,,,_ア゚)「何かお手伝いできることがあれば、何でも――」

     

    「じゃあ、今君が受けている指示を全力で果たしてくれ。

    それが、一番の手伝いだよ」

     

    それは本音だ。

    彼らが全力で職務に当たってくれれば、それだけこちらの負担が減る。

    負担が減った分、密かに動くだけの時間が得られる。

    その後、道々で警戒している部下達に軽く労いの言葉をかけつつ、部屋に戻った。

     

    部屋の扉を閉め、チェーンを掛け、飲料用冷蔵庫に足を向けた。

    飲み物が詰まった冷蔵庫からよく冷えたコーラの瓶を取出し、歯で蓋を開ける。

    刺激の強い液体を一気に飲み干し、気分をリフレッシュさせる。

    夜は明け、嵐を抜けはしたがまだ状況は悪いままだ。

     

    ここから状況を一変させるには、相手の出方と思惑を理解しておく必要がある。

    眠気を抑えきれずに、瞼を降ろす。

    人差し指と親指で鼻の付け根を押さえ、疲労が目に来ていることを自覚した。

    それを誤魔化すために、新たなコーラを取り出して一口飲む。

     

    キッチンに瓶を置き、冷凍庫から袋に入ったミートソーススパゲッティを電子レンジに入れ、温める。

    食事をする時間があれば、もっとまともな物を食べたかった。

    冷凍食品は総じて不味くもなければ美味くもないのだ。

    電子レンジが低い唸りをあげる中、スーツを脱いでハンガーにかけ、ホルスターを机の上に置く。

     

    服装には気を遣わなければならない。

    どれだけ忙しくても、スーツの皺は心の皺だと云う考えが彼の中にある以上、それを蔑ろには出来ないのだ。

    下着一枚になり、凝り固まった体を伸ばす。

    右手の傷が痛む。

     

    この傷を負わせた者に相応の報いを与えることを誓う。

     

    #°ゞ°)「……許さんぞ、絶対に!!」

     

    第三ブロック長オットー・リロースミスはそう口にして、左拳で壁を殴りつけたのだった。

     

    ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

    AmmoRe!!のようです

    Ammo for Reasoning!!編 第六章 了

    ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

    スポンサーサイト

    コメントを書き込む コメントを読む(0) [Ammo for Reasoning!!]

コメント

コメントの投稿(コメント本文以外は省略可能)





管理者にだけ表示を許可する

テンプレート: 2ちゃんねるスタイル Designed by FC2blog無料テンプレート素材 / 素材サイト: 無料テンプレート素材.com / インスパイヤ元:2ch.net

ページのおしまいだよ。。と
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。