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第五章【austerity-荘厳-】

  1. 名前: 歯車の都香 2017/04/15(土) 21:17:00
    第五章【austerity-荘厳-】

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    死と云うものは、突然として訪れる。

    The death, it comes suddenly.

     

    どれだけ幸福な人生であっても、どれだけ不幸な人生であっても。

    How delightful or hopeless life.

     

    それは必ず訪れるのだ。

    It must come.

     

    少年よ、今がその時だ。

    Now, boy, it is time to dead.

     

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    八月五日、午前十一時十九分。

    前夜から猛威を振るい始めた大型台風“ジャクリーヌ”は、今、その勢力が最高潮に達していた。

    海岸線に近い場所に自生していた木々はその風圧に耐え切れずに薙ぎ倒され、防風性に劣る建築物は屋根を失い、最悪の場合は家屋が根こそぎ吹き飛ぶ例もあった。

    海面は波飛沫で白く濁り、海水は海底の砂利が舞い上がって透明度を失っていた。

     

    空は黒雲に覆われ、夜のように暗い。

    強風で飛び散った雨が視界を薄ぼんやりとさせている。

    山のように高く突き上げられた波濤は、うねりを伴って海岸線に押し寄せる。

    だがその景色は恐ろしいものではなく、神聖さに近い雰囲気を漂わせているのは、自然が圧倒的な力で創り出したものだからだろう。

     

    何時の時代、どの場所でも圧倒的な力というものは感動的なのだ。

    例えば金属すら両断し得る刀。

    例えば高威力を誇る一挺の拳銃。

    例えば、世界終焉の歯車を回した軍用強化外骨格もまた然りである。

     

    力は美しさだ、とは強盗に銃で殺された二十一世紀の芸術家ミッシェルド・ノーストラダマスが生前に残した言葉である。

    ならば、この大自然の猛威に対して悠然と構える船もまた美しく見えるのは、当然であった。

    人類の英知を結集させた船上都市オアシズは嵐の中で唯一、波に対して屈することなくその役割を果たしている船だった。

    大波に船首を殴られても、船舷を蹴り飛ばされても、船内は快適な環境を保っている。

     

    しかし。

    船内は決して快適な空気ではなかった。

    その原因は第五ブロック一階レヒツ・ポリツァシュトラーセ、警備員詰め所から配信された映像だ。

    それは、三つの不穏を船内に残した。

     

    一つは、オアシズの警備の要を突破できる実力者がいるということ。

    もう一つ、その実力者は容赦なく人を殺すことが出来るということ。

    そして最後に、その人物は武器と兵器を使用する人物であるということ。

    この三つの不穏が合わさり、一つの答えを導き出す。

     

    即ち、己の身を武器なしで守らなければならないということ。

    他人を疑い、己を守る。

    安全は失われ、今や、船は殺人鬼の同席するパーティ会場と化した。

    次は誰だと人々が疑心暗鬼になる中、警備員詰め所で変化があった。

     

    突如として、船外につながる扉が開かれたのだ。

    扉からは雨、風、そして海水が勢い良く入り込み、部屋の中に満ちていた鉄臭と硝煙の香りを吹き飛ばす。

    そして――

     

    ――小さな影が船から放り出され、荒波の中に小さな飛沫を立てて落ちて、沈んで消えた。

     

                  ┌───────────────┐

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                これは、力が世界を変える時代の物語。

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                      └─────┘

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    二二| ̄ ̄ ̄ ̄|二二二二二| ̄ ̄ ̄ ̄|二二二|

                    ‥…━━ August 5th AM10:15 ━━…‥

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    船上都市オアシズ。

    世界最大の客船の中に一つの街を内包する、常識破りの都市である。

    全部で五つのブロックに分けて統治され、各ブロックにはブロック長と呼ばれる責任者がいる。

    彼らの選定方法は秘密とされているが、それぞれが優れた能力の持ち主であることは認知されている。

     

    一階から最上階、つまり二十階まで吹き抜けた作りは船であることを忘れさせ、現代の街並みの中でも先進的な物をしている。

    復元された太古の技術のおかげで船内はほとんど揺れないため、船酔いの心配もない。

    地上にある街よりも狭いが、嵐の中でもこの快適さを保っているため、この船を訪れる観光客の数が減らないのも納得だ。

    強化ガラス製の天窓の向こうには黒雲が蠢き、大粒の雨が降り注いでいる様子がよく見えるのだが、今はベージュ色のシャッターによって閉じられている。

     

    第二ブロック一階、大型マーケット“ニーベ”。

    八階まで突き抜けるように聳えるそのビルの中には、生活品、嗜好品、飲食店、更に一階にはスーパーマーケットまでもが入っている。

    歩道沿いに設けられたカフェのテラス席には、まばらに人が座っている。

    三人で座っている一組を除いたら、それ以外の席の人間は皆青ざめた顔をしていて、中には嘔吐して席を汚した人間もいた。

     

    その原因は、二階から吊り下げられた薄型モニターに映し出された映像だった。

    血の気のない体が血の風呂に浮かび、両手足は歪に折り曲げられ、両目は無残にも切り潰されていた。

    米神には小さな穴が開いていて、だらしなく開かれた口には舌がなく、血が溜まっている。

    阿鼻叫喚の中にあっても、映像は消えることなく映し出され続けていた。

     

    風呂場で惨殺された男の映像が流されて間もなく、カーキ色のローブに身を包み、ベージュ色のニット帽を被る黒髪の少年は首を小さく傾げた。

    今もモニターに映っている映像に関しての感想は気持ち悪い、の一言だけだが、どうしてそれをわざわざ広めるようなことをするのかが解せなかった。

    人間の手足はあそこまで動かせるものだと感心する一方で、やはり、その目的が理解できない。

    気にしても仕方のないことだとは分かるが、気になってしまう。

     

    犬の耳と尻尾、そして獣の感覚を持つ少年の名前はブーンと云う。

     

    (∪´ω`)「おー?」

     

    先ほど解いたパズルや問題よりも、正直なところ、こちらの問題の方が気になって仕方がない。

    難しい問題であればあるほど、ブーンは興味をそそられた。

    答えは予め用意されていない上に、出題者は変人と来たものだ。

    その答えが分かったところで知識の一つにでもなるかと言えば、きっと、ならないだろう。

     

    世の中には変な人間もいるという認識を改めてするぐらいだろう。

    それでも、気になる。

    何を思ってこのような事をして、何を狙ってこんな奇行を取るのか。

    それを知りたい。

     

    興味を持ったのは、どうやら自分だけではないことをブーンは理解した。

    肩まで伸びて外側に向けて跳ねた赤髪と、夜明け前の瑠璃色をした瞳を持つヒート・オロラ・レッドウィング。

    そして、豪奢な金髪と透き通ったスカイブルーの瞳を持つデレシアの顔には、明らかな興味の色が浮かんでいたのだ。

    両者ともに好奇に目を輝かせ、口元に薄らと笑みを浮かべている。

     

    二人のこの表情は、何度か見たことがある。

    戦闘の前や、不快な人物を目の当たりにした時に浮かべるものだ。

    どうしてそれが、この時に表出したのだろうか。

    そんなことを思いながら、ブーンは二人の顔を眺めていた。

     

    ζ(゚ー゚*ζ「ヒートちゃん、どう思う?」

     

    静かな声で、デレシアが隣のヒートに問う。

     

    ノパ⊿゚)「まず、恨みの犯行、ってわけじゃ無さそうだ。

        殺し方が綺麗すぎる」

     

    (∪´ω`)「きれい?」

     

    ノパ⊿゚)「あぁ、本当に恨みがあるのならあんな殺し方はしない。

        こんな度胸があって“本当に”恨みがあれば、もっと手が込んでるはずだ。

        徹底的に辱めるのが一般的だが、これの場合は見せかけだ。

        半端なんだよ」

     

    (∪´ω`)゛

     

    ノパ⊿゚)「次に、これは愉快犯じゃない。

        頭のいい奴が考えた仕事だ。

        持ち込みが不可能なはずの銃を使ってるだろう?

        ありえる可能性は二つ。

     

        内部の人間か、相当頭の切れる奴が持ち込んだか、だ」

     

    なるほど。

    ヒートの説明は分かりやすく、そして納得の行くものだった。

    しかし、自分はいきなりここまで考えが及ばなかった。

     

    ζ(゚ー゚*ζ「それと、殺しが目的かどうかも怪しいわね」

     

    (∪´ω`)「?」

     

    ζ(゚ー゚*ζ「殺すのなら、わざわざ相手に警戒させるようなことはしないわよ。

          この映像で何をしたかったのかといえば、きっと、恐怖を伝染させることでしょうね。

          恐怖が蔓延すると、人の思考の六割近くに影響が出るの。

          それが致命的な隙になって、決定的な好機につながるのよ」

     

    殺しという手段を使って隙を作り、その隙に何かをする。

    確かにそれなら、殺しが目的ではないことになる。

    二人の話を聞いて、ブーンはそれがこの上なく面白く、魅力的に感じた。

    思考して答えを導き出す過程が、数学や語学とは全く異なる。

     

    面白い、と純粋に思った。

     

    ζ(゚ー゚*ζ「ブーンちゃん、こう云う風に物を考えるの好きなの?」

     

    (∪´ω`)゛

     

    ノパー゚)「そりゃ奇遇だ。

        あたしらも、こう云うのが大好きなんだよ。

        何せ、潰し甲斐があるからな」

     

    ζ(゚ー゚*ζ「そうね。

          それじゃあせっかくだから、ブーンちゃん、考え方のお勉強をしましょうか」

     

    ペンを一本手に取り、デレシアがブーンのノートに綺麗な筆記体で文字を書き並べる。

    風呂、そして銃と云う単語だ。

     

    ζ(゚ー゚*ζ「今回はこの二つから推理してみましょう。

           ヒートちゃん、今回使用された銃の口径は分かる?」

     

    ノパ⊿゚)「九ミリ口径かそれ以下だ。

        後はそうだな……音が聞こえてればこうなる前に動きがあっただろうから、サプレッサーも使っただろうよ。

        ただ、妙なことがある。

        確かに九ミリでサプレッサーを使えば威力は落ちるが、頭をぶち抜くには十分だ。

     

        だけど何で、反対側に弾痕はおろかオミソが出てないのかが気になるな」

     

    (∪´ω`)゛

     

    ノパ⊿゚)「つまり、だ。

         犯人は銃弾が回収できる、もしくは隠せる場所でこの被害者を殺したことになる。

         それだけ用意周到な計画なんだろうな。

         じゃあ、それをした理由と場所っていうのは?

     

         ってところからスタートかな?」

     

    ζ(゚ー゚*ζ「正解。 ブーンちゃん、今の流れは分かる?」

     

    (∪´ω`)゛

     

    一見すれば、ただの射殺体だ。

    だが、奇妙に加工された死体の中には、不自然な点が隠されていた。

    ではその不自然な点が生じた理由というのは何か、というところを考える必要がある。

    それが綻びであるかどうかは、答えが分かってから、ということになる。

     

    そして答えが出たところで、それがまた次の鍵になるのだ。

    考え方としては、先ほどオットー・リロースミスが持ってきたスウドクに似ている。

     

    ζ(゚ー゚*ζ「これが銃についての考え方。

          次はお風呂ね。

          気になるところはある?」

     

    (∪´ω`)「どうして、ちでいっぱいなんですか?」

     

    ζ(゚ー゚*ζ「あれを見た限りだと、下半身の付け根に深い切創があるはずよ。

          付け根を切ると血がたくさん出るの。

          この死体の体重は多分七十キロぐらいだから、五リットルぐらいね」

     

    (∪´ω`)゛

     

    改めて死体の映像に目を向ける。

    付け根の部分は血に沈んで見えないが、腋の下や首に切創が見当たらない。

    おそらく、デレシアの推理が正しいのだろう。

    そこで続けて考えたのが、犯行の手順だ。

     

    足を切ってから撃たれたか、それとも、撃たれてから足を切られたか。

     

    (∪´ω`)「なら、あのひとはうたれるまえに、あしをきられたんですか?」

     

    ζ(゚ー゚*ζ「そう、きっとそれが正解よ。

          血風呂になる前、つまり排水口が開いている時に左半身が血に汚れるだけの出血をしている状況。

          となると、下半身からの大量出血以外には考えにくいわね。

          つまり、撃たれたのは浴室で、下半身に傷を負ってからと考えるのが自然よ。

     

          そして左半身を血に濡らしながら撃つとなると、それはもう、浴槽の床しかないのよ。

          撃たれた後でも血風呂になっているってことは、浴槽に穴がないってこと。

          なら、穴が開いても問題が起こらない場所で撃ったってことね」

     

    *∪´ω`)「はいすいこうのうえ、ですか?」

     

    ζ(^^*ζ「正解」

     

    次に考えるべきものが分かった。

    何故排水口の上で撃ったのかだ。

     

    ノパ⊿゚)「これは知識の問題になるんだが、ブーン、覚えておくといい。

        銃には二種類あって、ライフリングっていう螺旋状の溝があるものと、無い物だ。

        基本的に、現代で使われている銃にはライフリングって云うのがある。

        ライフリングが施されている銃を撃つと、銃弾に溝ができる。

     

        それが人間の指紋と同じ役割を果たすんだ」

     

    (∪´ω`)「だれがうったのかがわかるんですか?」

     

    ノパ⊿゚)「その通り。 ただ、銃の登録をしている場合に限るけどな。

        だけど、ここオアシズでは銃は乗船時に回収される。

        常時運べるのは警察、警備員、ブロック長、そして探偵だ。

        その銃は登録されているから、銃弾さえ見つかれば、誰の銃から撃たれたのかが分かるって寸法だ」

     

    犯人は特定を恐れて、銃弾を排水口の向こうに隠した。

    理に適っているが、解せないことがあった。

     

    (∪´ω`)「……どうして、わざわざうったんですか?」

     

    ζ(^^*ζ「……ブーンちゃん、その通りよ。

           失血死だけで事足りるのに、それを後回しにして身元特定につながる銃を使った。

           これは当然、不自然なことなの。 つまり、銃弾は囮。

           それを考えても、誰がやったのかは分からないでしょうね」

     

    *∪´ω`)「お」

     

    ノハ^^)「えらいぞ、ブーン」

     

    ぐしゃぐしゃと、ヒートが頭を撫でてくれる。

    こそばゆい気持ちよさに、ブーンは目を細めてそれを受け入れた。

    何より、自分の考えが肯定されたことに、ブーンは喜んでいた。

    物心ついた時から、自分の考えを口にしようものなら半殺しにされ、それを話すのが億劫になっていたのだ。

     

    しかし、デレシアとヒートは違う。

    彼女たちは決してこちらを否定することはない。

    理由は分からないままだが、二人はとてもよくしてくれる。

    ローブの下の尻尾は抑えようもなく、喜びを甘受して激しく揺れた。

     

    ζ(゚ー゚*ζ「なら、この死体から何かを考えるのが間違いだってことは分かるかしら?」

     

    頭を撫でられながら、ブーンは首肯する。

     

    ζ(゚ー゚*ζ「ここで本当に考えるべきは、あの放送の真意よ」

     

    どうしてあのような映像を流したのか。

    その意図はなにか。

    それを探れば、次に何をするかが分かる。

    次に何をするかが分かれば、誰が何をするのかが分かると云う流れだ。

     

    ζ(゚ー゚*ζ「さ、次は何をするか、考えてみましょうか」

     

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                         AmmoRe!!のようです

    ミミ:::;,!      u       `゙"~´   ヾ彡::lVvVw ,yvNヽ  ゞヾ  ,. ,. ,. 、、ヾゝヽr

    ::::;/   ゙̄`-.、     u  ;,,;   j   ヾk'! ' l / ' ^ヽヘ\   ,r゙ゞ゙-"、ノ / l! !ヽ 、、 |

    /    J   ゙`ー、   " ;, ;;; ,;; ゙  u i    ,,./ , ,、ヾヾ   | '-- ..,,ヽ  j  ! | N|

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          :    ' ・丿   ̄≠Ξイ´,-、 ヽ /イ´ r. `-' ,.-´、  i     u  ヾ``'

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       u      ̄ ̄  彡"   、ヾ ̄``::.l  u   j  i、`ー' .i / /._    `'y   /

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                        Ammo for Reasoning!!

                    ‥…━━ August 5th AM10:37 ━━…‥

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    探偵にも多くの人種がいる。

    事件を憎む者。

    事件を望む者。

    そして、事件を愛する者など、多種多様だ。

     

    オアシズに乗り合わせている四百五十人の探偵達の中でも、特に異色の探偵がいる。

    “三銃士”の名で通る三つ子の探偵、サイタマ兄弟だ。

    常に三人で行動を共にし、三人で発言し、三人で思考し、三人で事件を解決する。

    そのチームワークの良さは他に比類がなく、探偵長である“ホビット”からも一目置かれている存在だ。

     

    長男、サイタマ・アイン。

    次男、サイタマ・ツヴァイ。

    三男、サイタマ・ドライ。

    ソフトモヒカンにした黒い短髪に、ブラウンの瞳、そしてハスキーな声が彼ら共通の特徴だ。

     

    顔つきは幼く、実年齢も若い。

    だが、解決してきた事件の数と質を考えると、只者ではないことがよく分かる。

    オアシズに来る前はジュスティアでの仕事も経験しており、その実力は折り紙つきだ。

    モニターに映し出された死体の映像がまだ消えていないのを見て、三人はすぐに相談を始めた。

     

    (∩゜∀( ゜∀゜ )∀゜∩)『……ぁ……ぅ……ょ……ゅ……っ』

     

    今最も求められている行動を三人で考え導き出したのは、一分後の事だった。

    映像を流すために必要な権限。

    それを持ち得るのはブロック長、もしくは映像管理をしている部署の重役だけ。

    全ブロックでこの映像が流されているのだとしたら、かなり上位の権限を持った人間の犯行だ。

     

    そんな人間でも、映像を流すために行かなければならない場所。

    第一ブロック船倉内にある放送管理室だ。

    サイタマ兄弟は懐の拳銃の安全装置が外れていることを確認してから、走って移動した。

    幸いなことに彼らは第一ブロック三階で聞き込みを行っていたため、すぐに放送管理室に到着することができた。

     

    管理室前には警備員が一人立っていて、扉が内側から施錠されていて開けることができないと報告した。

     

    (∩゜∀( ゜∀゜ )∀゜∩)『予備の鍵は?』

     

    「マスターキーならあります」

     

    と言って、警備員は銃身の短いポンプアクション式のショットガン、レミントンM870を掲げた。

    つまり、鍵はなく、力技で開けるしかないということだ。

    白手袋をはめて、三人は扉の前で素早く位置取りをする。

    次男、三男が扉の左右。

     

    そして長男が扉の正面に立つ。

    懐のベレッタM92を手にし、アインは扉を蹴破った。

    打ち合わせも合図もなかったが、タイミングはいつも通り完璧で、動きは俊敏で正確だった。

     

    (∩゜∀( ゜∀゜ )∀゜∩)『フリーズ(動くな)!!』

     

    左右、そして正面の三方向に銃口を向け、誰もいない室内に声だけが虚しく響く。

    防音仕様の壁に囲まれた部屋には、映像管理用のダットが五台、マイクなどの放送機器が乗った机と回転椅子が二脚あるだけだ。

    ダットには例の映像が映っており、間違いなく、この部屋が使われたことが分かる。

     

    「どうですか?」

     

    (∩゜∀( ゜∀゜ )∀゜∩)『逃げられました』

     

    次男が回転椅子の上に手をやり、温もりを確かめる。

    犯人が座っていたとすれば、どれだけ前にここにいたのかがおおよそ分かる。

    温かければまだ遠くには行っておらず、冷えていれば座っていない、もしくは早い段階で逃亡したことが分かるのだ。

    次男のツヴァイは首を横に振った。

     

    (∩゜∀( ゜∀゜ )∀゜∩)『くそっ』

     

    五台のダットの電源を切り、映像を止める。

    すぐに、もともと流されていたコマーシャルが何事もなかったかのように流れ始めた。

     

    「ですが、犯人には近づけたのでしょう?」

     

    (∩゜∀( ゜∀゜ )∀゜∩)『そうですね。 ひょっとしたら、どこかに指紋があるかもしれない』

     

    応援が来るまでの間に、可能な限りの証拠を集めなければならない。

    証拠は鮮度が命だ。

    少しでも時が経過してしまうと、変化してしまう物が残されていないとは言い切れないのだ。

    ドライが手帳とペンを取り出し、ツヴァイが指紋採取用の道具を取り出す。

     

    アインは現場に変わった部分がないかどうかを探すため、ペンライトを取り出した。

    彼らにしてみればごく自然な動きだった。

    事件の度に行う、いわば染み付いた習性だった。

    それが、状況を悪化させた。

     

    警備員が後ろ手で扉を閉め、ショットガンの銃口を三人に向けているとは、直ぐに気付けなかったのだ。

    最初にそれに気付いたのは、ツヴァイだった。

    それからドライ、そしてアインへとその感覚は瞬時につながる。

    彼らの強みである連携力の賜物だ。

     

    それが発揮されたのは幸いだったが、遅すぎた。

    初弾は統率者であるアインの胸部を直撃した。

    その瞬間、彼の脳裏をかつて学生時代に経験した野良ボクシングの一戦が過る。

    一オンスのグローブで行った殴り合いの際に胸部に打ち込まれた、ヘヴィ級ボクサーの右ストレート。

     

    それよりも遥かに大きな衝撃に、アインは一瞬で気を失った。

    長兄の窮地にドライ、ツヴァイは拳銃による銃撃戦よりも肉弾戦による制圧を狙った。

    ポンプアクション式のショットガンならば、一発毎に隙ができる。

    その判断は間違っていなかった。

     

    例外として、そう判断するようにショットガンを選択した人間が相手なら、その対応は過ちだった。

    連携力こそが強みである三兄弟の内、リーダーを失った二人ではあるが、連携力が失われることはなかった。

    次男ツヴァイは道具を投げつけ、三男ドライはペンを逆手に持ち直して姿勢を低く駆け出す。

    ポンプアクションによって、半透明のプラスチック製の薬莢が排莢される。

     

    埼玉兄弟にとって、その瞬間を逃すわけには行かなかった。

    ここで装填作業を完了させてしまえば、もう一発撃つ隙を与えることになる。

    与えられた時間は一秒未満。

    一度手前に引いたチューブを元の位置に戻すまでのごく僅かな時間だ。

     

    指紋採取道具によって接近する時間を得たドライは素早く銃身の内側に入り込み、ペン先を警備員の肩に振り下ろす。

    が、ペン先が肩に刺さるより先に頭の下から銃声と共に衝撃。

    そしてドライの視界は暗転する。

    接近を予期していた相手はチューブを戻しつつ、ショットガンを胸に掲げるように構え直し、対処したのだ。

     

    脳を激しく揺さぶられたドライは力なく崩れ落ち、残されたツヴァイは懐に戻したベレッタに手を伸ばした。

    一連の流れはほんの三秒の中で行われていたにもかかわらず、彼の反応は早かった。

    互いの思考を理解できる三つ子でなければ、最初の一発で全てが終わったことだろう。

    警備員が次弾を装填するよりも、ツヴァイがベレッタを構える方が早い。

     

    しかし、警備員がショットガンを投げてくる方が早かった。

    木製の銃把が頭を掠め、軽い脳震盪を起こす。

    掠めただけでこの威力。

    何という腕力だろうか。

     

    驚きに冷や汗が吹き出た直後、ドライは顔面に硬い靴底の感触を味わい、意識を失った。

    この間、実に五秒の出来事であった。

    床に落ちたゴム弾と薬莢を拾い上げ、警備員は埼玉兄弟の懐を弄り、カードキーとベレッタを手にした。

    予め部屋に置いておいた粘着テープを使って三人を縛り上げ、口にテープを貼り付ける。

     

    銃声も、ポンプアクションの音も、室外には届いていない。

    この警備員はそれを狙って、この防音施設に誘い込んだのだから。

     

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                    ‥…━━ August 5th AM10:45 ━━…‥

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    デレシア一行は第四ブロック十八階にある自室に戻り、リビングで装備を整えていた。

    これから先、誰が何に巻き込まれるか分からない。

    そのため、何が起こってもいいように準備をする必要があった。

    懐に大口径の自動拳銃デザートイーグルを二挺忍び込ませ、腰の後ろには水平二連式ソウドオフショットガンを同じく二挺。

     

    拳銃の弾倉に込めた弾種は棺桶相手にも通用するように作られた特殊な物を用意し、ショットガンにはスラッグ弾を装填してある。

    いつ殺し合いが起きても対処できる装備。

    これが、デレシアにとっての通常装備だった。

    ただ、いつもと違うのが、装備の一つ一つをブーンに説明しながら準備をしている点だった。

     

    ヒート・オロラ・レッドウィングの装備についても同様で、デレシアのそれと比較しながら説明が行われていた。

     

    ζ(゚ー゚*ζ「これが、デザートイーグルって云う銃。

          で、こっちがベレッタM93R

          弾倉を見てみると分かるんだけど、何が違うか分かる?」

     

    (∪´ω`)゛「ヒートさんのほうは、たまがずれてはいってます」

     

    ζ(゚ー゚*ζ「正解。 これがシングルカラム、そしてダブルカラムと呼ばれる構造よ。

          こうしてずらして弾を入れると、普通よりもたくさん入るの。

          だけど逆に、銃把を見てみると分かるけど、ずれた分だけ太くなるの」

     

    二人は黒塗りの拳銃を腋の下のホルスターにしまう。

    奇しくも二挺拳銃の二人。

    ブーンは、そこに目をつけた。

     

    (∪´ω`)「どうしてにちょうなんですか?」

     

    ζ(゚ー゚*ζ「火力が二倍になるからっていうのと、二方向に同時に攻撃ができるからよ。

          ただ、欠点もあるわ」

     

    ノパ⊿゚)「装填作業が少し手間になるんだが、そこは慣れだ。

        ただ、練習と実戦は違うから、あまりオススメはしないぞ。

        まずは確実な射撃と照準だ」

     

    (∪´ω`)゛

     

    ζ(゚ー゚*ζ「で、これがショットガン。

          銃身を切り詰めた物は、ソウドオフって呼ぶわ。

          基本的にライフリングがないから色んな弾種が撃てるけど、精度はあまりよくないの。

          だけど、近距離では威力が大きくて、散弾を使えば広範囲に攻撃が出来るわ」

     

    腰のホルスターにショットガンを納め、ローブで全身を覆う。

    金属探知機と人目から銃を隠すためだ。

    ブーンの服と靴を整えてやり、ローブのシワを伸ばす。

    デレシアが編んだ毛糸の帽子を一度外して、滑らかな黒髪を撫でてやる。

     

    *∪´ω`)「おー」

     

    ζ(゚ー゚*ζ「外に出なければ、この帽子は外していていいわよ」

     

    (∪´ω`)゛

     

    帽子を大事そうに胸に抱くブーンの頬に手を添え、ピンクがかった頬に軽く口づけをする。

    それを見たヒートも、反対側の頬に軽い口づけをした。

    ヒートとデレシアの間に頬を赤く染めたブーンを座らせてから、話し合いが始まった。

     

    ζ(゚ー゚*ζ「さて、私達の船旅を台無しにしようとしている輩を探しましょう。

          乗客に恐怖を与えて、次に何を狙うか。

          それを読まないと、この馬鹿の好き放題にされるわ」

     

    ノパ⊿゚)「あの映像から考えるのは少し大変だと思うけどな」

     

    ζ(゚ー゚*ζ「効果的に恐怖を与えるのが目的であれば、十分な情報よ。

           今頃探偵も警察も動いているでしょうから、私達は彼らがしない行動をしなければならないわ」

     

    (∪´ω`)「どうしてですか?」

     

    ζ(゚ー゚*ζ「それぐらい、読まれているからよ。

          行動の一歩先ではなく、三歩先を読まないと出し抜くのは難しいわ」

     

    道具の調達。

    殺人の実行。

    いずれもオアシズ船内で簡単にできる事ではない。

    二歩先ですら読まれていると考えるべきだ。

     

    ノパ⊿゚)「となると、だ。

         特定の人物を狙っていないのなら、もっと恐怖を与える行動をするかもしれないな。

         死体一つだけじゃ、インパクトに欠ける」

     

    ζ(゚ー゚*ζ「そうね。 となると、インパクトのある殺し方。

          一度に大量の死体をこさえることでしょうね。

          だけど一般人に対しての警戒は探偵や警察も考えているでしょうから、そこの線は薄い」

     

    探偵も馬鹿ではない。

    オアシズに乗り合わせている探偵は四百五十人。

    各ブロックに九十人の計算だ。

    全二十階からなる一ブロック一フロアには、四人から五人がいることになる。

     

    仮に一般人に対する虐殺行為が行われようものなら、すぐにでも対応され、最悪の場合には計画が破綻する。

    そんな淡い計画であるはずがない。

    それを見越した上での挑戦なのだ。

     

    ノパ⊿゚)「なら、船の従業員。

        探偵、警察、警備員、店員らを殺すだろうな」

     

    ζ(゚ー゚*ζ「その中で最も効果が期待されるのは?」

     

    (∪´ω`)「けいびいん、ですか?」

     

    ζ(^^*ζ「正解。 犯人が銃を扱えるのなら、警備員を相手にすることも考えられるわ。

           更に、乗客を守る立場の人間が殺されれば、そのインパクトは計り知れない。

           まさに、相手の理想的な対象よね」

     

    ノパ⊿゚)「だけど、腕に自身があっても警備員を相手にするのは難しいだろ?」

     

    ζ(゚ー゚*ζ「おそらく、だけど犯人は棺桶持ちよ。

          死体の加工を人の力でやるなら、相当な筋肉バカになるわ。

          だけどそれは現実的ではないから、棺桶を使ったと考えるべきね」

     

    人の関節を折り曲げて結ぶとなると、体にはもっと痣ができているはずだ。

    だが、死体の映像には痣が最低限しかなかった。

     

    ノパ⊿゚)「じゃあ、犯人はこの船の関係者か?」

     

    ζ(゚ー゚*ζ「他人の部屋に入るのだって容易じゃないんだから、そう考えるのが普通よ。

           以上を踏まえて、次に事が起こる場所は警備員詰め所、ってところかしらね」

     

    そして、三人は部屋を出て第五ブロック一階レヒツ・ポリツァシュトラーセに向かった。

     

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    各ブロックに一つずつある警備員詰め所には、出入口が二箇所ある。

    しかし、船内に通じる出入口は一箇所しか設けられていない。

    出入口を最低限の数に絞ることで、警備の穴を減らすという目的だった。

    もう一箇所は船外に通じるもので、航行中はあまり使われることはない。

     

    第五ブロック、レヒツ・ポリツァシュトラーセにある小さな鉄製の扉を専用の錠で開けて階段を降りた先に、それはある。

    ライフル弾にも耐え得る強化ガラス製の自動扉で仕切られた先は蛍光灯で白く照らされ、約五十ヤード続く廊下の突き当りに一つ、その途中に左右三つずつの部屋の扉が見て取れる。

    ガラス戸の前にはカードと顔認証を行う液晶パネルが一枚と、その両隣に武装した屈強な警備員が二人。

    認証システムと警備員。

     

    この二つを越えて初めて、警備員詰め所への侵入が可能となる。

     

    (`l`) ('l')

     

    必要なのは警備員の目を欺き、権限の与えられたカード、そして所有者の顔情報を使って扉を開くことだ。

    カラシニコフで武装した男二人の検問を欺いて突破するのは、理想論過ぎる。

    また、カードの偽装をこの短時間で行うのは無理だ。

    では、どのようにして詰め所に入ればいいのだろうか。

     

    方法は二つある。

    偽るか、それとも力尽くか。

    デレシアが取ったのは、後者だった。

    彼女にとって、検問を突破することは困難ではないし、難題でもなかった。

     

    ひどく簡単で、二手で終わらせられる程度のものだ。

    まず、検問所に立っている人間を無力化することろから始まる。

    暗闇から音もなく笑顔で近づき、第一声はこうだ。

     

    ζ(゚ー゚*ζ「こんにちは」

     

    突如として現れた人物を視認する間を与えず、二人の腹部にレバーブロー。

    以上二手をもって、検問は突破となる。

    記憶すら残らない早業。

    音を立てないようにその場に倒れさせる。

     

    男の懐からカードを取り出し、それをパネルに乗せた。

    続いて顔認識を要求する画面が出るが、そこは倒れた男の襟を掴みあげて画面に認識させ、突破する。

    ガラスの扉が左右に開き、詰め所への道が開かれた。

    実に十三秒の出来事である。

     

    デレシアに手招きされ、階段に隠れていたヒートとブーンが姿を現す。

     

    ノハ;゚⊿゚)「相変わらず反則級に早えな」

     

    ζ(゚ー゚*ζ「相手が遅いだけよ」

     

    倒れた二人のカラシニコフから弾倉を取り外し、棹桿操作を行って薬室内に送り込まれていた弾丸を取り出し、弾倉を元に戻す。

    万が一意識を取り戻しても、撃たれることを防ぐための手段だ。

    三人は堂々と正面から警備員詰め所に足を踏み入れた。

    そして、最初に異変に気付いたのはブーンだった。

     

    (∪´ω`)「お……?」

     

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    AmmoRe!!のようです

    Ammo for Reasoning!!

              il  i、                   !,'丿' /| !

               !  \   マ' ¬、      U   '´! _,.

                    丶     丿        ,ィ´:ア/

                        \        , ‐'´ レ'T´

                      丶 _,.. - '´     ヒ─-

                                            第五章【austerity-荘厳-

                    ‥…━━ August 5th AM11:14 ━━…‥

    ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

     

    次にデレシア、そしてヒートもそれに気付く。

    詰め所に漂う空気。

    それは、感覚の問題だった。

     

    ζ(゚、゚*ζ「……あら」

     

    ノパ⊿゚)「……」

     

    (∪´ω`)「お」

     

    剣呑な空気。

    これから何かが起こる前兆。

    黒雲を見て嵐を想起するような感覚だ。

    人の命の奪い合いが起こる前の空気だ。

     

    鉄火場に長い間浸かっていたデレシア、そしてヒートが気付くのは当然だった。

    ブーンは人一倍感覚が鋭く、また、デレシア達と旅を続けていく中で培った感覚は彼女たちを凌ぎ、先んじて危険を察知した。

    無言で、デレシアとヒートは拳銃を取り出し、戦闘態勢に入る。

     

    ζ(゚、゚*ζ「……」

     

    武器庫、そしてロッカー室と札の下げられた扉を開けようとするも、施錠されている。

    普段は施錠しないはずなのに、何故施錠されているのか。

    普通ではない事態が起こっていると考えるべきだ。

    廊下の突き当たりにある詰め所の扉の両脇にデレシアとヒートが張り付き、ブーンはヒートの後ろに隠れた。

     

    ノパ⊿゚)「何か聞こえるか?」

     

    人間の耳には届かない音も、ブーンなら聞き取ることが出来る。

    今この詰め所で何が起きているのか、それを探るためにヒートはブーンに訊いた。

     

    (∪´ω`)「お……ざわざわしてて……おひるはコーンビーフで、ばんごはんはコーンとビーフ……

          ……そしてねがわくは、くちはてついえた、このなもなきからだが、こっかのいしずえとならんことを?」

     

    ノハ;゚⊿゚)「……ジョン・ドゥの起動コード!」

     

    ζ(゚、゚*ζ「扉から離れて!」

     

    ヒートはブーンを庇いながら、デレシアは扉の向こうを睨めつけながら、素早くその場を飛び退いた。

    直後、扉の向こうから銃声と悲鳴が溢れてくる。

     

    ζ(゚、゚*ζ「ビンゴね。 しかも、棺桶を使ってる。

          多分、無線と扉の鍵もやられているわね」

     

    用意周到な相手だ、それぐらいの根回しはしているだろう。

    武器もおそらく、ここの武器庫から調達したに違いない。

    証拠を残さず、死体を残す手口。

    油断ならない相手だ。

     

    ζ(゚、゚*ζ「ちょっと鍵を開けてくるわ。

          ヒートちゃん、その間に何か棺桶相手に使える武器か、中に入る道を探して。

          ブーンちゃんはそこで待っててね」

     

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                    ‥…━━ August 5th AM11:16 ━━…‥

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    ブーンは一人、扉の前でその向こうから聞こえてくる音に耳を傾けていた。

    今の自分にできることは殆ど無い。

    武器を探すことも、状況を一変させることも。

    扉に銃弾が当たる音が時折するが、厚みのある扉が破れそうな音はしない。

     

    鋼鉄の扉を塞いでいるのは、電子錠だった。

    何桁かのパスワードを入力することで開くもので、正しいパスワードを知らなければ開けることはできない。

    試しに適当にボタンを押してみるも、当然、扉は固く閉ざされたままだ。

    ブーンは思考した。

     

    今の自分に何が出来るのか。

    どうしたら、この中に入ることが出来るのか。

    床にも天井にも、中に通じていそうなものはない。

    とにかく、デレシアの言った通りにその場で待つことにした。

     

    少しずつ、悲鳴が減り、銃声も聞こえなくなってくる。

    中で何が起こっているのか。

    概ねの予想はついていた。

    棺桶を装着した人間が、警備員たちを殺しているのだ。

     

    棺桶の恐ろしさは知っている。

    生身の人間であれに立ち向かえるのは、デレシアとトソン・エディバウアーしか知らない。

    あのヒートでさえ、棺桶を使って初めて戦えているぐらいだ。

    自分には、どうしようもない相手なのだ。

     

    ――声が、完全に途切れた。

     

    扉の隙間から漏れ出る血と硝煙の匂いに、ブーンは何も感じなかった。

    人が撃たれて死んだ。

    それだけだ。

    この世界ではよくあること。

     

    力が全てを変える時代なのだ。

    文句があれば力で変えるしかない。

    ブーンには力がなかった。

    だから、何も変えられなかった。

     

    しかし、デレシアには力があった。

    だから、ブーンの人生そのものを変えた。

    ごく当たり前の話だ。

    そしてデレシアとヒートは、それを当たり前のようにやってのけてしまう。

     

    そんな二人が羨ましく、大好きだった。

    強く優しい二人。

    色々なことを教えてくれる二人。

    二人と過ごす時間が、これまでの人生で一番好きな時だった。

     

    (∪´ω`)「お?」

     

    思いに耽っていると、突如として目の前の扉が開いた。

    デレシアが解除したのだろう。

    扉の向こうには、血溜まりと死体、空薬莢が転がっていた。

    そして――

     

    〔Ⅲ゚[::|::]゚〕

     

    ――離れた距離から自分を見つめる、血に汚れた巨体がいた。

    それは、棺桶と呼ばれる兵器だった。

    行動の選択肢は二つあると、瞬時に気付いた。

    逃げるか、それとも命乞いをするか、だ。

     

    後者は一瞬で否定され、ブーンは逃げるという選択肢を選んだ。

    当然だ。

    武器もなければ技量もない自分が、あの棺桶と相対できるなど夢物語もいいところ。

    思考は驚くほど冷静で、体は自然に動き、すぐに入り口から遠ざかろうとする。

     

    が。

     

    〔Ⅲ゚[::|::]゚〕『やぁ』

     

    ;∪´ω`)「お?!」

     

    ライフルを投げ捨てて圧倒的な速力で接近した棺桶――ジョン・ドゥ――はブーンの襟首を掴み、左腕で羽交い締めにした。

    実際にブーンができた行動は、振り返って二歩進むだけ。

    ジョン・ドゥの腕部に付着したまだ温かい、ぬるりとした血が頬に付く感触が、気持ち悪かった。

    両足をばたつかせても、鋼鉄の装甲を蹴るだけで、大した抵抗にならない。

     

    機械で変換された気味の悪い声が、ブーンの耳元で囁く。

    甘ったるい、不快な匂いが装甲の隙間から漂う。

     

    〔Ⅲ゚[::|::]゚〕『ふふふ、捕まえた』

     

    ;∪´ω`)「は、はなしてください!!」

     

    異変を察知したヒートがすぐに現れ、両手の拳銃の銃口をジョン・ドゥに向ける。

    ジョン・ドゥは右手に持った拳銃を、ブーンの顎の下に押し当てた。

    両者の距離、約十フィート。

     

    ノハ#゚⊿゚)「手前!!」

     

    〔Ⅲ゚[::|::]゚〕『おおっと』

     

    ヒートの目には怒りの色が浮かび、銃爪にかけた指はいつそれを引いてもおかしくない状態だ。

    それは、このジョン・ドゥの下にいる人間も同じだった。

    奇しくもデレシアに説明してもらった拳銃、コルト・ガバメント。

    四十五口径の銃で、威力は非常に大きい。

     

    撃たれれば間違いなく、即死だ。

     

    〔Ⅲ゚[::|::]゚〕『……ほぉ、その銃、まさかお前が“レオン”か』

     

    ヒートの持つ二挺のM93R

    銃身下に銃剣が取り付けられた特徴的なシルエットは、彼女が凄腕の殺し屋“レオン”であることを雄弁に物語る。

     

    ノハ#゚⊿゚)「……」

     

    〔Ⅲ゚[::|::]゚〕『だが、棺桶にその銃弾は通用しない。

          こちらがブーンの頭を吹っ飛ばす前に、正確に目を撃ち抜きでもしない限りね。

          なら、こうすればどうかな?』

     

    顔を守るように持ち上げられると、ヒートが口を真一文に結んだ。

    銃を構えて動かないヒートの後ろから、感情の一切を消したデレシアが現れた。

    今、彼女が怒っているのだと一目で分かった。

    しかもその怒りようは、これまでにブーンが見たこともない程強いものだった。

     

    ζ(゚、゚*ζ「……」

     

    〔Ⅲ゚[::|::]゚〕『おめでとう。 君たちのグループが一着だ。

          嗚呼、しかし探偵達は本当に情けないな。

          この程度の謎、謎ですらないだろうに。

          君たちには簡単すぎたかな?』

     

    ζ(゚、゚*ζ「その子を離しなさい」

     

    これ以上の問答は無用とばかりに、デレシアのデザートイーグルが向けられる。

    ジョン・ドゥは慌てた様子も見せない。

    あの銃が、棺桶の装甲を容易に撃ち抜く事を知らないのだ。

    その気になれば、デレシアは今この瞬間に決着を着けることが出来る。

     

    しかし。

    他ならぬ自分のせいで、デレシアは銃爪を引けないのだ。

     

    〔Ⅲ゚[::|::]゚〕『やはり、私の思った通りだ。

          君たちは優秀だった』

     

    一歩ずつ後退するジョン・ドゥ。

    一歩ずつ接近するデレシアとヒート。

    この状況が、ブーンは悔しかった。

    また、力不足のせいで二人に迷惑をかけてしまった。

     

    強くなりたいと願ったばかりなのに。

    それなのに、今の自分はどうだ。

    こうして捕まり、二人の足枷になっている。

    情けなさで涙が込み上げてきた。

     

    ζ(゚ー゚*ζ「ブーンちゃん、泣かないの。

          男の子でしょう? こういう時は笑うのよ」

     

    (∪;ω;)「お」

     

    デレシアは笑顔を浮かべ、ブーンに優しくそう言った。

    恐怖に強ばっていた体が、一瞬で楽になった。

    心から体全体が溶けそうになるほど、その言葉は体の中心部に響いた。

     

    〔Ⅲ゚[::|::]゚〕『ははは!! いいやりとりだ。

          次は何をしてくれるんだい?』

     

    ζ(^^*ζ「絶対に大丈夫だから、ね?」

     

    (∪;ω;)゛

     

    頷く。

    諦めてはいけない。

    どんな状況であっても、諦めた途端にそこで終わりだ。

    微笑むデレシアを、怒ってくれるヒートを、これ以上悲しませてはいけない。

     

    〔Ⅲ゚[::|::]゚〕『残念だが、ここで退場の時間だ』

     

    壁際まで後退したジョン・ドゥが、後ろ足でその背後にあった扉を蹴破る。

    猛烈な風と雨、そして波が二人を容赦なく濡らす。

    背中から襲ってくる波が、今にも海中に引きずり込もうとしている。

    急いで、この棺桶持ちの行動の真意を考えた。

     

    逃走経路の確保。

    強風がもたらす銃弾への多大な影響。

     

    〔Ⅲ゚[::|::]゚〕『死と云うものは、突然として訪れる。

          どれだけ幸福な人生であっても、どれだけ不幸な人生であっても。

          それは必ず訪れるのだ。

          少年よ、今がその時だ』

     

    ブーンは思い出した。

    昨日、デレシアとヒートから教わった、銃の知識を。

    今、ジョン・ドゥの手にあるコルト・ガバメントという銃についても聞いていた。

    デレシア曰く、歴史と信頼のある自己顕示欲の塊だそうだ。

     

    四十五口径の威力は高く、それの直撃を受ければタフな人間でも倒れざるを得ない程だという。

    独自の機構を備えたコルト・ガバメント使い方、癖を丁寧に教えてもらった事を思い出す。

    反動、威力、重さ、弾の逸れ具合。

    それを体に当てられた時の痛み以外は、教わっていた。

     

    ――当然、その弱点についての説明も覚えている。

     

    自ら銃に顎を思い切り押し付ける。

    コルト・ガバメントもそうだが、多くの拳銃には弱点がある。

    銃身を押されるとそれに合わせてスライドが後退し、ハンマーがピンを叩けなくなるのだ。

    ということは、発砲ができないということ。

     

    これで、一瞬だが時間稼ぎが出来る。

    デレシアなら。

    ヒートなら。

    この時間を、最大限有効活用してくれるに違いないと信じ、ブーンは賭けに出た。

     

    #∪´ω`)「お!」

     

    ζ(゚ー゚*ζ「正解!」

     

    〔Ⅲ゚[::|::]゚〕『む?!』

     

    ブーンは賭けに勝った。

    命を使って作り出した時間。

    銃口を離して改めて銃爪を引くコンマ一秒に満たない時間さえ、デレシアは与えなかった。

    待ち構えていたデレシアの銃が火を吹き、獰猛な弾丸はブーンの顎に下にあったコルト・ガバメントの銃把を、指ごと砕く。

     

    もう一挺が放った弾は、ジョン・ドゥの左腕を食い千切ろうとしたが、風雨によって弾道が逸れ、肩の装甲を吹き飛ばしただけだった。

    物凄い重力を体に感じたかと思うと、次の瞬間、体が拘束から開放されて宙を舞っていた。

    全身を打ち付ける大粒の雨。

    頬を殴りつける強烈な風。

     

    何が起きたのか、一瞬、理解できなかった。

     

    ζ(゚-゚ ζ「ブーンちゃん!!」

     

    ノハ;゚⊿゚)「ブーン!!」

     

    耳に届いたのは、二人の悲痛な声。

    視界の端に映ったのは、走り去るジョン・ドゥの姿。

    続いて両眼は、蠢く黒雲と、時折白く発光する空を捉えた。

    遂に耳はうねる波の音と雨音だけを拾い上げ、それ以外の音は何も聞こえなくなった。

     

    海に向かって放り投げられたのだと理解した時には、もう、海中だった。

    一瞬で口と鼻から海水が入り、息苦しさに思い切り肺の中の酸素を塩辛い海水と一緒に吐き出す。

    かろうじて開かれた目にはただ、底なしの暗い海底が映る。

    夏だというのに海水温度は低く、フォレスタの湖よりも冷たかった。

     

    両手両足を動かして、海面に浮上する。

     

    ;∪´ω`)「ぷはっ!!」

     

    息を吸ったその直後、黒い波が顔面を叩き、再び海中へ引き戻される。

    浮こうとするだけでも精一杯だ。

    また海面に顔を出した時、周囲の景色に恐怖と感動を覚えた。

    それは、絶景だった。

     

    海面が下から突き上げられ、山となって谷を作り、その山が消えては生まれていく。

    空は暗く、海はもっと暗い。

    今まで見たことのある穏やかな海から一変して、荒々しく、恐ろしい怪物のように見える。

    ブーンは体が水ごと一気に持ち上げられたり下げられたりする感覚に困惑しながらも、波と一体になって見る圧倒的な景色に、魅了されていた。

     

    確かに怖かった。

    溺れ死ぬのは苦しいだろうし、サメに食われるのは痛いだろう。

    恐怖を知っても尚、感動だけは心から消せなかった。

    あれほど巨大なオアシズが、この波の中ではとても小さな存在に見えるのだ。

     

    確かに恐ろしかった。

    このまま一人で死ぬのは寂しいし、これで世界を見納めになると思うと、とても悔しい。

    悔やんでも尚、見惚れる事を止められなかった。

    それほどまでに海は大きく、厳しく、驚くほど平等なのだ。

     

    波に運ばれ、ブーンの体がオアシズから離れていく。

    自然の猛威の中、オアシズは蜘蛛の巣様な白い航跡を残して悠々と進む。

    船から漏れ出る明かりは幻想的で、とても遠い存在である事を実感させた。

    大きな波が背中側から押し寄せ、ブーンはオアシズの吃水線から船の中ほどまでの高さに持ち上げられ、船外の人影まで見る事が出来た。

     

    そして、ゆっくりと降ろされ、激しい横波がブーンの頭を殴りつけ、海中に沈める。

    息をするのが辛かった。

    目を開けるのが辛かった。

    海流に翻弄され、手足で藻掻いてもそれは抵抗と呼ぶには非力すぎた。

     

    思い出せ。

    思い出せと、ブーンは自分に言い聞かせる。

    例え非力だとしても、諦めてはいけない。

    力を込めることがいつも解決の道を開くとは限らない。

     

    ヒートと湖で泳いだ時のことを思い出す。

    力を抜いて、浮くことに専念する。

    何度も波を被りながらも、ブーンは力を抜くことに徹した。

     

    ;∪´ω`)「おっ……」

     

    荒波の上に漂うことに成功し、オアシズに目を向ける。

    船尾が遠ざかる。

    自力で泳いで到達するのは不可能だ。

    このまま浮いて生き延びるのも不可能だろう。

     

    後は、生きている間の時間をどう使うか、だ。

    急激に体が落ちる感覚があって、気がつけば、波の谷間にいた。

    見上げた空のほとんどが、四方に聳え立った波に覆われていた。

    感動のあまり、呼吸を忘れた。

     

    ――滝と化した波に飲み込まれ、ブーンは海に沈んだ。

     

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                    ‥…━━ August 5th PM12:10 ━━…‥

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    正義の都と呼ばれる都市、ジュスティア。

    世界中に点在する警察の本部がある街であり、現在進行形で騎士道が街で通じる場所だ。

    ポートエレンの隣にあるその街で起こった停電は復旧し、今、やっと落ち着きを取り戻したところだった。

    警察署の捜査担当課以外は、だが。

     

    そこには黒のスーツとグレーのワイシャツ姿の虎がいた。

    黒い瞳は硝煙で燻した重鉄を思わせ、僅かに残ったブロンド混じりの白髪には潤いはなく、短くオールバックにしてまとめている。

    年老いても尚爪牙の鋭さを失わぬ“虎”と呼ばれる刑事だ。

    懐にベレッタM8000、そして足元には銀色のアタッシュケース。

     

    警察関係者なら、その容姿を見ただけで彼がトラギコ・マウンテンライトであると気付くだろう。

    一度喰らいついたら離さない、獰猛な性格。

    彼の辞書には諦めと妥協という文字はない。

     

    (=゚д゚)「だから言ってるだろうが!! 俺も連れてくラギ!!」

     

    会議室に置かれている木製の円卓を叩き、トラギコは対面して座る年上の男にそう主張した。

    手元のコーヒーカップの中身がはねて、机にシミを付けた。

    対して男は、溜息を吐きながら、眼鏡の縁を指で持ち上げて答える。

     

    ::,J,::)「トラギコ君、何度も言うが、この事件は君の管轄外なんだ。

         それよりポートエレンの報告書、オセアンの報告書はまだかね?

         それ以前の事件についても、勝手に君が解決したものが……」

     

    (=゚д゚)「少なくとも前者二つの事件は、このオアシズの事件につながっている可能性がでかいラギ」

     

    そもそも、こうして気の進まないジュスティアの警察本部に足を運んだのは、ポートエレンの事件を話しに来たのが発端だった。

    それを話そうとした途端、この分からず屋のストーンヘッド氏に捕まり、会議室に連れ込まれたのだ。

    今朝来て早速これだ。

    不毛だった。

     

    ::,J,::)「あと、領収書の件だね」

     

    (;=゚д゚)「ぐっ……」

     

    だから本部は嫌いなのだ、とトラギコは喉まで出かかった言葉を飲み込んだ。

    ここで口論になっても時間の浪費にしかならない。

    警察本部にいるのは石頭の人間ばかりで、現場主義ではないのだ。

    何が正義の都だ、とトラギコは大勢の前で声を荒らげたことがある。

     

    十五年前、ジャーゲンでのことだ。

    それ以来風当たりは強くなり、回される仕事は片田舎の屑みたいな仕事だけ。

    オセアンではトラギコのことを支持してくれる同僚のお陰で関われたが、それがなければもっと下らない仕事を与えられていただろう。

    せっかく手に入れた歯応えのある、生涯をかけて挑める仕事なのだ、ここで手放す訳にはいかない。

     

    ::,J,::)「明らかに飲み屋の領収書がたくさんあるんだよね。

         これについては?」

     

    確かに経費は多めに使っているが、全て必要経費だ。

    張り込みや情報収集。

    待ち合わせなどに店を使うのは当たり前だ。

    大人になれば酒場に行くのもまた、当然だろうに。

     

    (;=゚д゚)「糞細けぇやつラギねぇ……」

     

    ::,J,::)「なんだって?」

     

    (=゚д゚)「経理の仕事ラギよ、それを決めるのは」

     

    ::,J,::)「……何でかね、経理の人は君の領収書を認めちゃうんだよね。

         それじゃあ組織としてはねぇ、何というか、困るんだよね」

     

    (=゚д゚)「人望の問題ラギ」

     

    経理にいる人間とはよく飲みに行った間柄だ。

    トラギコが経費を無駄遣いしていないこと、そしてそれが事件解決に繋がっていることを知っているのだ。

    机の上で書類整理の仕事をしている業種の人間には分からないだろう。

     

    ::,J,::)「それに今回の一件は、“ゲイツ”に任せることになってるんだ」

     

    (=゚д゚)「あんな戦闘集団じゃ、離婚問題だって解決できないラギ」

     

    “ゲイツ”は高速戦闘艇を乗り回し、海賊の駆逐や人質救出に駆り出される、海軍の強襲専門部隊だ。

    海軍の中でも好戦的な人間を集めた部隊で、荒事の解決にはうってつけだ。

    だが、今回の場合。

    オアシズから入った緊急連絡の内容を聞いた限りだと、相手は知能犯だ。

     

    犯人と対峙できればあるいは意味があるだろうが、彼らに犯人を探すことは絶対に無理だ。

    ゲイツは所詮戦うための部隊。

    推理、捜査をする集団ではない。

    なら、トラギコが直接乗り込んで事件を解決し、ついでにデレシア一行の動向を探った方が有意義というもの。

     

    デレシア一行の件は自分一人のものだと決めているので、他に荒らされたくはない。

    万が一ゲイツに悟られでもすれば、横取りされるかもしれない。

    そんなことになれば、背中から彼らを撃ちたくなってしまう。

    どうしても、トラギコはオアシズに行く必要があったのだ。

     

    (=゚д゚)「一人ぐらいいいだろ?」

     

    ::,J,::)「分からん男だね、君は」

     

    (=゚д゚)「どうしても駄目ラギ?」

     

    ::,J,::)「どうしても、だ」

     

    (=゚д゚)「……ふーん、分かったラギ」

     

    話していても埒が明かない。

    トラギコは諦めた風に溜息を吐いてから、アタッシュケースを手に席を立った。

     

    (=゚д゚)「俺は俺の流儀でいかせてもらうラギ」

     

    静かに扉を閉めると、警官たちが不審そうな目でトラギコを、いや、会議室を見ていた。

    部屋でのやりとりが気になっていたのだろう。

    声が筒抜けだったようだ。

     

    (=゚д゚)「手前ら、仕事しろラギ」

     

    凄んだ声でそう言うと、蜘蛛の子を散らすように持ち場に戻った。

    出てすぐのところに置かれていたコートスタンドからレインコートを乱暴にとって、警察署を後にした。

    署の前に待たせていたヒヨコ色のタクシーに乗り込み、行き先を告げる。

     

    (=゚д゚)「……キャメルストリート536

     

    嵐の中、船は出せない。

    となると、ゲイツが出航するタイミングを掴むのが難しい。

    どのタイミングで出るのかは、上官が決めることだ。

    事態の深刻さを考えれば、待機する時間は短めのはず。

     

    そのために必要なのは、情報収集だ。

    船を動かす決定権を持つ人間を見つけるところから始めなければならない。

    となると、軍人御用達の店に行く必要がある。

     

    (=゚д゚)「……運ちゃん、料金はチップ込みで警察署に請求書を送っておいてくれラギ」

     

    運転手は心得たとばかりに、アクセルを踏み込んだ。

     

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    最後の一人は、サプレッサーで減らされた銃声よりも小さな悲鳴を上げて死んだ。

    “ゲイツ”はジュスティアの海軍の中でも荒療治が得意だと聞いていただけに、がっかりだった。

    まぁ、棺桶を装備した人間に勝てるとも思えないが、歯応えは見せて欲しいところだった。

    船の格納庫に転がる死体は全部で四十二。

     

    オアシズで起こった事件解決に向けて出発準備を行っていた兵士達だ。

     

    <=ΘwΘ=>『クリア』

     

    特殊強襲部隊“テラコッタ”。

    組織にいる人間の私兵で、全員が“ハムナプトラ”と云う棺桶を使用する集団だ。

    総数は五十名だが、個々の実力は棺桶持ちが十人束になっても勝てない程だと言う。

    それが誇張表現でないことは、作戦に参加した三機の棺桶持ちが証明してくれた。

     

    ハムナプトラの優れた点は、現場での取り回しの良さだ。

    道具を使わずに各部位のパーツを換装することが可能で、組み合わせを変えることで遠近の戦闘スタイルに適応させられる。

    ジョン・ドゥなどの場合は専用の工具と知識がいるが、こちらはそれもいらない。

    代わりに、装甲が若干薄く、軽いことが特徴だ。

     

    <=ΘwΘ=>『同志キュート、殲滅致しました』

     

    櫛の通っていないボサボサの金髪に濁った碧眼を持つ女性はテラコッタの報告を聞いて、わざとらしく肩をすくめて見せた。

     

    o*゚ー゚)o「なぁんだ、呆気ないの」

     

    そう言ったのは、キュート・ウルヴァリン。

    棺桶持ちでありながら、この強襲作戦では棺桶を使わずに参加することに拘っていた。

    拳銃とナイフを使った戦闘方法は豹の様にしなやかで素早かった。

    何を考えているのか分からない人物だが、腕は確かだ。

     

    ( ゚∋゚)「ふん、つまらん」

     

    その隣で腕を組んでいる角刈りの大男はクックル・タンカーブーツ。

    彼の手には三十連マガジンを装填した、サプレッサー付きのグロック18が握られている。

    図体に恥じぬ頑丈さとパンチ力を持つ男だが、上から目線の態度が気に入らなかった。

    ワタナベ・ビルケンシュトックはショートカットの茶髪を左手で漉き上げ、一息ついた。

     

    ''从「仕方ないですよぉ、実戦経験が少ないんですからぁ。

         それに、見せ物としてはよかったですよぉ」

     

    嵐と停電に乗じてジュスティア内にテラコッタが侵入し、この格納庫を目指してトラックで移動。

    ワタナベ達は潜水艦で同じ場所を目指し、両側から一気に襲い掛かったのだ。

    ジュスティア内にこちらの人間が潜伏するための作戦。

    これが、“四歩目”。

     

    三週間と云う期限を残しつつの完遂だ。

    “五歩目”はこれに続く形で遂行され、そのまま続々と計画は連鎖してく。

    流石は組織の幹部達だ。

    元軍人のクックルはさておいて、キュートは自然体で人を殺す。

     

    そんな彼女直々のオファーだからこそ、この組織、ティンバーランドに参加したのだ。

    まぁ大義名分だとかその辺はどうでもいいのだが。

     

    o*゚ー゚)o「ねぇワタナベ、折角だからオアシズの旅に行く?」

     

    ''从「私、オアシズ乗った事ないんで、是非乗りたいです」

     

    ( ゚∋゚)「おい。 どうして私が勘定に入っていない?」

     

    ''从「あ? 手前はここにいろよ、鳥頭」

     

    (#゚∋゚)「ちょうどいい機会だ、ここで――」

     

    o*゚ー゚)o「はいはい。 同志クックル、君は私の監視役だろ?

           となると、私も君も、オアシズには乗れないわけだ」

     

    ''从「それぐらい分からないのぉ? 馬鹿ねぇ」

     

    (#゚∋゚)「っ……言わせておけば、この女郎っ……!!」

     

    何時かのタイミングで、このクックルはワタナベに銃口を向ける日が来るだろう。

    この男は驚くほど器が小さい。

    その時は喜んで殺させてもらおう。

     

    ''从「で、こいつらの上官はどこにいるんですか?」

     

    o*゚ー゚)o「キャメルストリートの536だ。

           今頃そこで、昼食の真っ最中だろうさ」

     

    ワタナベはあえてクックルを一瞥して、格納庫から嵐の中に出て行った。

     

    ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

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                    ‥…━━ August 5th PM12:20 ━━…‥

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    キャメルストリートは警察本部から西に行った、非常にみすぼらしい通りだ。

    そこにある536と云う店は、軍人たちの溜まり場として連日賑わいを見せている。

    特に最近では、この嵐の影響で起こった事故を処理するので大忙しの軍人たちが集まり、互いに励まし合い、健闘を称え合っていた。

    店の前にヒヨコ色のタクシーが停車し、中からトラギコ・マウンテンライトが姿を見せた。

     

    (=゚д゚)「請求書の件、よろしくラギ」

     

    店に向かいながら、トラギコはそんな言葉を運転手にかけたが、タクシーは彼を降ろすなり走り去っていた。

    木製の扉。

    ひび割れ、内側から照らされる薄汚れたプラスチック製の看板。

    埃を被ったショウウィンドウ内の食品サンプル。

     

    それらを見て懐かしい気持ちになりながら、トラギコは店の扉に手を伸ばした。

    ほぼ同時に横から伸びてきた色白の女の指を見て、一瞬手を止める。

     

    ''从「あらぁ? 刑事さん?」

     

    内側と外側に向けて跳ねたショートカットの茶髪と、鳶色の瞳。

    忘れるはずがない。

    それは、ニクラメンで会った女。

    快楽殺人者、ワタナベ・ビルケンシュトックに間違いなかった。

     

    (;=゚д゚)「は?!」

     

    ''从「ハロー、刑事さん」

     

    仮にもここは正義の都と呼ばれる場所。

    そこにこの快楽殺人者がいるとは、一体何事だろうか。

     

    (;=゚д゚)「な、何で手前がここにいるラギ?!」

     

    ''从「ランチタイムだもの、普通でしょ?」

     

    (;=゚д゚)「……そうラギか」

     

    いや、そうではない。

    優雅にランチを済ませたいのなら、ここではなく大通りのロイヤルフュージストリートにでも行けばいい。

    そこの方が美味い店がある。

    ここは不味い。

     

    正直に言うと、とても不味い。

    若い頃は先輩に連れて来てもらったが、ここの店は料理の味付けは塩か酢しかないのだ。

    伝統的なジュスティア料理の味だが、やはり、不味い物は不味い。

    懐かしさに浸るために来たわけではなく、単にここにいるであろう、海軍の男に用があるだけなのだ。

     

    (=゚д゚)「……」

     

    ''从「……?」

     

    この女が何を考えているのかは分からないが、野放しにしておけばそれこそ何をするか分からない。

     

    (=゚д゚)「……飯でも食うか?」

     

    ''从「喜んで」

     

    トラギコが扉を開き、店内へ。

    従業員が人数を聞きに来たのを見て、トラギコはまず言った。

     

    (=゚д゚)「タオル一人前と、一番奥の禁煙席を二人分」

     

    笑顔で席に案内される途中、他の席に目を配り、軍人を見定める。

    海軍の特徴は浅黒い肌とネイビーブルーの軍服だ。

    見る限り、五十人近くいる客の中に海軍の人間は二十人いた。

    しかもそれぞれ席が離れていると云う問題まであったが、階級章を確認すればそれは解決できそうだった。

     

    作戦の指揮を任される人間がまさか私服でここにいるはずがないし、となれば、二十分の一の確立で当てればいい。

    要求通り一番奥の席に案内され、トラギコは壁側に座った。

    直ぐに店員がタオルを店の奥から持ってきて、トラギコに渡す。

     

    (=゚д゚)「おい」

     

    ''从「ん?」

     

    ワタナベの頭にタオルを乗せ、ぐしゃぐしゃと拭き始める。

    この女に風邪を引かれでもしたら面倒だ。

    後、ほんの少しの嫌がらせでもあったのだが、予想と違ってワタナベは嫌がらなかった。

    タオルから手を離して、後は自分でやらせることにした。

     

    (=゚д゚)「ジュスティアの飯は食ったことあるラギか?」

     

    ''从「ううん」

     

    (=゚д゚)「なら勝手に頼むラギよ」

     

    ''从「どおぞぉ」

     

    (=゚д゚)「おい、マカロニグラタンとホットウィスキー二人分」

     

    この店で唯一まともな味をしているのが、マカロニグラタンだ。

    むしろ不味く作りようがない物で、酒のつまみにも最適な一品である。

    無言のまま、置かれていたおしぼりで手を拭く。

    料理が出てくるよりも先に、酒が来た。

     

    ''从「はい」

     

    ガラスコップを掲げて、ワタナベが言った。

     

    (=゚д゚)「は?」

     

    ''从「乾杯、しないの?」

     

    (=゚д゚)「あぁ、ほいよ」

     

    自分のグラスを軽くぶつけて、一口飲む。

    安い酒の味がする。

    ブレンデッドウィスキーを使ったのだろう。

    大方、シーバス・リーガル辺だろうが、トラギコはその手の混ざった味のする酒が嫌いだった。

     

    ''从「美味しいわぁ」

     

    (=゚д゚)「そうか?」

     

    ''从「刑事さんと飲むからかしらねぇ」

     

    (;=゚д゚)「もう酔ってるラギか」

     

    ''从「刑事さんの好きなお酒って何なのぉ?」

     

    (=゚д゚)「俺は、そうラギねぇ……ジェイムソンかカネマラか……あぁ、アードベッグも好きラギよ。

        シングルモルトウイスキーが一番ラギね。

        お前は普段何を飲んでるラギ?」

     

    ''从「何でも飲むわよぉ。

         でも、今日からはシングルモルトのウィスキーにするわぁ」

     

    影響されやすい年頃なのだろう。

    まだ十代のあどけなさが残る二十代前半の女性なら、当然だろうか。

     

    ''从「で、刑事さんはどうしてこんなところに?」

     

    (=゚д゚)「それは俺の台詞ラギ。

        まさか、またここで“ヤる”つもりラギか?」

     

    ''从「ううん。 私はここで“ヤる”つもりはないわよぉ」

     

    (=゚д゚)「ふーん。 観光でもないなら、何でこんなところに?」

     

    ''从「仕事。 刑事さんと同じ、仕事よぉ」

     

    (=゚д゚)「……仕事?」

     

    ''从「次は刑事さんの番」

     

    (=゚д゚)「人探しラギ」

     

    熱々のグラタンが二人の前に置かれ、会話はそこで中断された。

     

    (=゚д゚)「まぁ、食え。

        食べないと――」

     

    ''从「――食べないと強く生きられないぞ、でしょう?

         分かってるわよぉ」

     

    自分の台詞を先に言われて、トラギコは複雑な気持ちになった。

    快楽殺人者だが、この女には色々と引っかかる部分がある。

    今このタイミング、例えば彼女が食べ始めたタイミングで殺そうと思えば殺せる。

    そうすれば社会から屑が一人減る。

     

    それが警察の仕事だ。

    しかし、そうする気が全く起きなかった。

    同情しているわけでも、好意を寄せているわけでもない。

    どうしてか、この女だけはそう簡単に殺そうとは思えなかったのだ。

     

    随分昔から知っている間柄のような、そんな心境になってしまう。

     

    (=゚д゚)「けっ、小憎たらしい奴」

     

    スプーンを使ってグラタンを黙々と食べながら、トラギコは店から海軍の人間が出ないかどうかを監査する。

    音もなく、ワタナベの手がトラギコの口元に伸びた。

    気付いた時にはもう遅く、紙ナプキンがトラギコの口の端に付いたグラタンソースを拭い始める。

     

    (;=゚д゚)「何のつもりラギ?!」

     

    ''从「さっき人の頭ぐしゃぐしゃしたじゃない?

         そのお返し」

     

    (;=゚д゚)「ちっ」

     

    倍の人生を生きている自分が、こんな小娘に世話になるつもりはない。

    トラギコはその手から逃れ、掻っ込むようにグラタンを胃袋に収めた。

    トラギコがそうであるように、ワタナベもまた、トラギコを殺そうと思えば殺せる立場にあるのだった。

    ここはもう、殺す殺されるの事を考えずに、食事だけに集中すべきだ。

     

    ''从「汚ぁい」

     

    (=゚д゚)「うるせ」

     

    懐から財布を出して机の上に銀貨を一枚置いて、席を立つ。

     

    ''从「もう終わり? もう少しお話ししないのぉ?」

     

    (=゚д゚)「また後でな」

     

    店から出ようとする一人の海兵の背中を追う。

    男の肩に手を乗せ、トラギコは警察バッジを見せた。

    一瞬怪訝そうな顔をした男も、そのバッジを見てすぐに納得した顔になる。

     

    (=゚д゚)「トラギコ・マウンテンライト刑事だ。

        この中でオアシズの件を担当している人間は誰ラギ?」

     

    「そこに座っているホプキンス少佐です」

     

    指をさした方向には、モヒカン頭の中年男性がいた。

    声を聞いてか、ホプキンスはトラギコの方を見た。

     

    (=゚д゚)「どうも」

     

    そのままホプキンスに向かっていくと、彼は席から立ち上がって握手を求めた。

    トラギコはそれに応じ、軽く握手をした。

     

    「警察の方が、私に何か御用ですか?」

     

    浅黒く日焼けした肌には細かな傷や大きな傷があり、鼻は少し曲がっていた。

    年齢的にはトラギコと同じか、三歳ほど下だろう。

    身長はトラギコよりも拳一つ分高い。

     

    (=゚д゚)「オアシズの件だが、あれに俺も行く事になった。

        いつ行くラギ?」

     

    「そんな話は聞いていないですが、どなたの決定ですか?」

     

    (=゚д゚)「俺ラギ」

     

    「悪いですが、それは受け入れられません」

     

    (=゚д゚)「脳筋野郎だけじゃ、あの山は片付けられないって言ったほうがいいラギか?」

     

    「……刑事さん、口の聞き方には気をつけた方がいいですよ。

    海兵は少し血気盛んでしてね」

     

    店内の海兵たちの会話が止み、トラギコに視線が集中する。

    好意的なものは一つもなかった。

    丁寧な言葉遣いだが、要するに、これ以上口を突っ込むなと言っているのだ。

    なるほど、やはり脳筋野郎である。

     

    (=゚д゚)「なら訊くが、この件はどう説明を受けているラギ?

        制圧が目的じゃないのは分かっているラギ?」

     

    「もちろん。 乗客全員を調べれば、すぐに済みます。

    抵抗されても問題はありません」

     

    (=゚д゚)「阿呆ラギね。 それで済むなら、とっくに解決してるラギ。

        俺の力を貸してやるって言ってるんだ、大人しく受けるラギ」

     

    「……ふぅ、刑事さん、あなたも変わり者ですね。

    ですが、その気概は気に入りました。

    実に海兵らしい。

    どうですか? このジャン二等兵と少し遊んでみて、もし勝てれば参加を秘密裏に認めるというのでは」

     

    ホプキンスの隣には二十代の若者がいた。

    スキンヘッドにした頭に、海兵のタトゥー。

    首の太さ、そして発達した胸筋。

    トラギコに向けるのは、腕っぷしに自信のある若者の眼だ。

     

    (=゚д゚)「瞬殺してやるラギ」

     

    敵意に満ちた視線をくれながら、若者は立ち上がり、トラギコを見下ろした。

    頭二つ分は身長差がある。

     

    「では、ここでは何ですから店の裏で――」

     

    (=゚д゚)「――いいや、ここで終わりラギ」

     

    その瞬間に、勝負は決した。

    油断し切っていた若者の顎に、左ジャブを一発。

    脳震盪を起こしたジャン二等兵は力なく席に腰を下ろし、涎を垂らして項垂れた。

     

    (=゚д゚)「な?」

     

    「……いいでしょう、刑事さん。

    今晩九時に、格納庫P26番に来てください」

     

    こうしてトラギコは、オアシズに向かうための道を手に入れることが出来た。

    後は時間まで装備を整えれば、完璧だ。

    この時、トラギコはワタナベが自分に向けている視線に気付くことが出来なかった。

    席に戻り、ホットウィスキーの残りを飲もうとグラスを持ち上げた。

     

    (=゚д゚)「……俺の分、減ってないラギか?」

     

    ''从「天使のわけまえって知ってるぅ?」

     

    (;=゚д゚)「手前、自分の分を先に飲めラギ!」

     

    やはりこの女、酔っているのではないだろうか。

    普通、そんなことを笑顔で報告する奴はいない。

    そんなことを思いながら、トラギコは残ったウィスキーを一気に飲んだ。

    心なしか、先ほどよりも甘い香りがした。

     

    (=゚д゚)「じゃあな」

     

    ''从「じゃあまたねぇ」

     

    店を出たトラギコは、向かいにあったビジネスホテルに入って行った。

    そして。

    やはり、気付くことが出来なかった。

    自分に向けられるワタナベの視線。

     

    そして、彼女が浮かべる笑顔の真意を――

     

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        (/ .jノ⌒)::::!   ` i ∨ヽ、_ _(::::( :::(

                    ‥…━━ August 5th PM12:37 ━━…‥

    To be continued...

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ページのおしまいだよ。。と