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  1. 名前: 歯車の都香 --/--/--(--) --:--:--
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第四章【murder -殺人-】

  1. 名前: 歯車の都香 2017/04/15(土) 21:16:00
    第四章【murder -殺人-】

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    Now, it's show time.

    お楽しみの時間だ。

     

    Hey, the detectives.

    なぁ、探偵さん達よ。

     

    You have been waiting for this moment for a long time, haven't you?

    この瞬間を待っていたんだろう?

     

    The pitiful person who is killed by me will appear.

    私に殺される哀れな奴が現れるのを。

     

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    その人物は静かに、そして素早く行動を開始していた。

    不思議なことに、足元を飾るソールの厚い八インチの黒い軍靴は跫音一つ立てていない。

    全身を包むゆったりとした服の下には、一挺の拳銃と二本のナイフ、そしてサプレッサーが隠されている。

    その気になればいつでも誰かを殺せる状態にあった。

     

    だが今の目的は殺害ではなかった。

    観察、そして評定だった。

    しかしながら、屋内に入られると詳細な観察のしようがない。

    まぁ、目視しなくとも中の様子を探ることは出来るのだが。

     

    夜の街の様相を呈したオアシズの船内に点在する明かりの届かぬ暗闇。

    監視カメラの死角を滑るように移動するその姿は、狩りをする獣の様だった。

    実際、その人物が放つ気配は狩りの最中に獣が発するそれと同じで、気配すら悟らせぬ極薄の刃の様。

    自然と、気分が高揚していた。

     

    賑やかな夜だった。

    雨粒が船体を叩きつけ、波飛沫と暴風が空を舞う様子が聞き取れる。

    遠くからはヴァイオリンとバグパイプの奏でる幻想的な音が聞こえ、酒場独特の焦げたような匂いが届く。

    笑み一つ浮かべず、その人物はただ目的を果たすために歩き続けた。

     

    目指すは、第四ブロック十八階にあるスイートロフトルーム。

    部屋番号は覚えている。

    802号室だ。

    そこに、今回の対象者がいる。

     

    獣のようなその人物は、道中の喫茶店でコーヒーのラージサイズを頼み、室内の音が聞こえる物陰に身を顰め、タンブラーから一口飲んだ。

    鼻を突き抜けるコーヒーの豊かな香り。

    舌先に感じる苦みと甘い砂糖の味。

    内心でその味に満足しながらも、表情には変化を見せない。

     

    コーヒーの美味い不味いはよく分からない。

    ただ苦いだけの飲み物という認識が強いが、眠気と空腹をごまかせるのも確かだ。

    目深に被った黒い中折れ帽子の下から世界を睨みつける深紅色の鋭い眼差しは、802号室に向けられていた。

    そして、聴覚に神経を集中させ、室内の様子を窺う。

     

    人の動き、会話。

    それら全てを耳に入れ、これから彼らが夕食を食べることを理解した。

    どうやら、今晩はトマトとバジルが主役のマルゲリータピザのようだ。

    美味そうな匂いに、今夜の夕食はピザにしようと心に固く誓った。

     

    あの少年も美味そうだが、それにしても、本当に美味そうな匂いを漂わせるピザだ。

     

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                    ‥…━━ August 4th PM20:35 ━━…‥

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    少し遅めの夕食を知らせたのは、オーブンが焼き上がりを知らせる鐘の音だった。

    厚手の生地で作られた鍋つかみでオーブンの扉を開くと、黄昏色の窯の中から小麦色の生地に赤黒いトマトソースが乗ったピザが顔を出す。

    白いエプロンを身に付け、肩まで伸ばした赤髪と瑠璃色の瞳を持つ女性が作ったピザは、具材はトマトとチーズ、そしてフレッシュバジルだけと云うシンプルなもので、焼き上がりは色味に欠ける。

    しかし、取り出したばかりのピザの上にフレッシュバジルを乗せると、途端に鮮やかな物に変わった。

     

    立ち上る豊かなトマトの香りがバジルの爽やかな香りを際立たせ、こんがりと焼けた生地とチーズが食欲をそそる。

    大皿に乗せられてすぐに食卓に並んだのは二枚のピザと、モッツアレラチーズとトマトにオリーブを垂らしたサラダだ。

    それを始めて目の当たりにした垂れ目の少年は、眼を輝かせ、くるりと丸まった尻尾を千切れんばかりの勢いで左右に振った。

    それは意図してではなく、感情の高ぶりによって自然とそうなってしまうものだった。

     

    その少年は人でありながら、犬の耳と尻尾を持つ、耳付きと呼ばれる人種だった。

    サラサラとした黒髪と、深海色の瞳を持つ少年の名はブーン。

    それを見て得意げに胸を張る赤髪の料理人、ヒート・オロラ・レッドウィングは、“レオン”の名で多くの重鎮を震え上がらせた元殺し屋だった。

    今彼女が浮かべる笑みは、殺し屋だったころには想像もできないほど柔和で、蕩け落ちそうなものだった。

     

    まるで、一人の少女が恋を知った時に浮かべるような、温かな笑顔だ。

    それに続いて現れた碧眼の女性もまたヒートと同様にエプロンをして、自慢のウェーブがかった金髪を一つに縛っていた。

    デレシアというその旅人は、ブーンに名を与え、旅に同伴させた張本人だ。

    彼女なくしてブーンに自由はなく、ヒートとの出会いも、その他全ての出会いもなかった。

     

    デレシアはその手に白ワインのボトルを持って現れ、それぞれの席の前にグラスを置いた。

     

    ζ(゚ー゚*ζ「今日は特別。 ブーンちゃんにも少しだけ飲ませてあげるわ」

     

    *∪´ω`)「お……!!」

     

    ノパ⊿゚)「でもよ、この前は一杯でコテンってなっただろ?」

     

    取り皿を置きながら、ヒートがそう尋ねる。

     

    ζ(゚ー゚*ζ「大丈夫よ、薄めるから」

     

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    ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

     

    専用のローラーでピザを八等分し、ヒートは真っ先にそれをブーンの皿に乗せた。

    生地の上で溶けてトマトソースと絡み合ったチーズが伸びて千切れて、別の一片の上に落ちる。

    デレシアとヒートの間の席に座ったブーンは、そのピザを見て笑顔を浮かべる。

     

    ノパー゚)「よし、食っていいぞ!」

     

    *∪´ω`)「お? まちますお」

     

    ノパ⊿゚)「待つって、何を?」

     

    *∪´ω`)「みんなでいっしょに、たべたいんですお」

     

    ζ(゚ー゚*ζ「そうね。 食事は皆で一緒の方が美味しいものね。

          じゃあ、冷めない内に取り分けましょうか」

     

    すかさず、ヒートとデレシアはピザを皿に取り分け、ワインをグラスに注いで食事の準備を整えた。

    全員が席に着いてから、三人は声を揃えて言った。

     

    ノパー゚)*∪´ω`)ζ(゚ー゚*ζ『いただきます』

     

    大きな口を開けて、ブーンはピザを食んだ。

    途端にその眼が喜びに輝き、尻尾が左右に揺れる。

    最初に舌が感じ取ったのは、チーズに覆われた、濃密に凝縮されたトマトの酸味と甘みが作り出す風味豊かなソースの味。

    ピザの生地と合わさってもなお中和しきれぬ甘酸っぱさ。

     

    その味の秘密は、ヒートが買った完熟トマトの缶詰にある。

    味が自然に凝縮されたそのトマトを缶に詰め、長期保存を可能とした缶詰の技術のなせる業だ。

    口の中のチーズと混ざり合い、酸味を和らげる。

    厚みのある生地が熱いソースと混ざる中、瑞々しい一片のトマトが舌の上で踊る。

     

    それは新鮮なトマトをぶつ切りにしたものだ。

    新鮮さを殺さないために、ヒートは焼いている途中でトマトを乗せたのだ。

    その説明は受けていたが、トマトから溢れる甘酸っぱい液体との組み合わせはこのピザの神髄だとよく理解した。

    トマトと生地の織り成す味の調和に感動する中、フレッシュバジルがブーンの意表を突いた。

     

    苦みよりも香りの高さに驚いた。

    そのままでも十分に香りが強かったのだが、噛んでからの香りはより一生強烈だ。

    トマト一色だった口内に新鮮な緑の香りが浮かび上がる。

    よく噛んでから嚥下して、次の一口を頬張る。

     

    二口目は、一口目とは違った味わいがあった。

    複雑だった味が酸味の強い物になり、トマトの甘さはどこかへ消えた。

    しかし、味の複雑さを思い出させるのはフレッシュバジルだ。

    独特の香りと苦みによってトマトの味を甦らせ、ブーンの舌を唸らせた。

     

    一切れ食べ終えてから、ブーンはグラスに注がれていた薄めた白ワインを飲んだ。

    それはとても薄く、味は希薄だった。

    しかし、二口、三口と飲むと味と香りが濃くなり、全身がほんわりとした何かに包まれた。

    筋肉が弛緩し、気分が良くなる。

     

    続いて、モッツアレラチーズとトマトのサラダにフォークを伸ばした。

    ヒートに言われたのは、必ずチーズとトマトは一緒に一口で食べるということだった。

    フォークの先にあったトマトの硬い皮を貫いて、柔らかなチーズに先端が突き刺さる。

    チーズにオリーブオイルをからめて、ブーンはそれを口に運んだ。

     

    何とも言えぬ食感。

    オリーブの甘味にトマトの風味が移っただけに思われたが、チーズの仄かな香りと味が全ての味を一つに統合する。

    味が一つになったことにより、少し塩気があるのが分かった。

    粒々としたトマトの種がプチプチとした歯応えを生み出し、種の周りを包むジェル状の物が舌を楽しませる。

     

    そしてこれがまた、ワインによく合う。

    ワインを飲むたびにトマトの風味が鼻から抜けて、気持ちが落ち着く。

     

    *∪´ω`)「おふー」

     

    ノパー゚)「美味いか?」

     

    *∪´ω`)「はい!」

     

    ノパー゚)「次はピザとサラダを一緒に食ってみな。

        こうやって……ほれ」

     

    一口サイズに切ったピザの上にモッツアレラチーズを乗せ、その上にトマト、最後にフレッシュバジルを添えた。

     

    ノパー゚)つ△「あーん」

     

    *∪´ω`)「んぁー……む」

     

    ノパー゚)「って、おいおい、あたしの指まで食べるつもりか?」

     

    ピザごとヒートの指を口に含んでしまったブーンは、慌てて体を後ろに引いた。

    怪我をさせては事だ。

    気を取り直してヒートの手から食べさせてもらったピザを噛んだ途端、ブーンは目を大きく見開いて驚きと喜びを顔に出した。

    温かいピザと冷たいサラダ。

     

    この二つが織り成す味は、先ほどまで自分が食べていた物とはまるで違う。

    トマトから染み出す酸味のある汁がモッツアレラチーズと混ざったかと思うと、その下に隠れていた温いチーズとピザ、更にはモッツアレラチーズに潜んでいたオリーブの香り。

    あらゆる味が混然一体となり、ブーンの鼻腔を内部から優しく犯す。

    今感じ取れる香りは、新鮮なトマト――否、オリーブやバジルなどの複雑な香りだけだ。

     

    全ては一瞬の事だったが、その体験は素晴らしい物だった。

    次第に鼻がヒートとデレシアの香りを認識し、料理全体の香り、部屋の匂いを識別する。

     

    ζ(゚ー゚*ζ「お世辞抜きに美味しいわ。

           どこで習ったの?」

     

    ノパ⊿゚)「水の都の飯屋で少しだけバイトしてたんだ。

        やることやるまでに、時間があったからね」

     

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    突然ヒートは失笑し、ワインを一口飲んだ。

     

    ノパー゚)「そこの親父がよ、ピザを女に作らせたくねぇ、ってよく言ってたんだ。

        女は料理を運ぶかデザートを作ってろってね。

        その理由ってのが、女に作らせるとピザを薄く作るからだ、って。

        ピザを薄く作るには技術がいるんだが、女はあっという間にそのコツを掴んで、より上を目指したがって、極薄のピザを作っちまう。

     

        つまりそうなると、親父が好きな薄すぎず厚すぎない、丁度いい厚みのピザが作れないんだそうだ。

        話を聞くと、お上さんがそうだったらしい。

        お上さんが薄い方が美味いんだ、って言い張って極限まで薄くしたら、ある日、具の重さで生地の底が抜けちまうような物が出来上がった。

        もちろん、そんな物は売り物にならねぇ。

     

        だったら、女に果物を薄く切らせた方が店のためになる、って考えに至ったらしい」

     

    ζ(゚ー゚*ζ「道理で美味しいわけね。 そうそう、ブーンちゃん。

          ワインを飲んだ後は、鼻で息を出してみるのよ。

          そうすれば、食材とお酒の香りがよく分かるの」

     

    頷いて、ブーンは新たにピザを手に取り、一口食べ、咀嚼し、ワインを飲んだ。

    言われた通りに鼻から息を抜くと、確かに、先ほどまでとは全然違う後味になった。

    白ワインの甘い香り、若干の渋み、トマトの酸味と旨味、バジルの青々しさ。

    それらが一瞬で鼻腔を抜けて体外に出ていく感覚は、生まれて初めてのことだ。

     

    酒の力の偉大さを始めて認識することが出来た。

    以前に飲んだ時は、ただ、猛烈な睡魔に襲われてそのまま眠りに落ちてしまった。

    あの時に飲んだ酒の味などは忘れたが、今飲んだ酒の味と香りは、確かに覚えた。

     

    *∪´ω`)「うまうまですお」

     

    ノハ;゚⊿゚)「……そんな言葉、どこで覚えたんだ?」

     

    *∪´ω`)「ロマさんにおしえてもらいましたお。

           おっきくて、かたくって、こわくて、つよそうなひとですお」

     

    ノハ;゚⊿゚)「やっぱ、その話を聞く限りじゃあそのおっさんがそんな言葉を使うとは思えねぇな……」

     

    ζ(゚ー゚*ζ「でも、いい人だってブーンちゃんが言うならそうなのよ。 ね、ブーンちゃん?」

     

    顔は怖いし、声も怖いし、人を殺したことがあるだろうし、筋肉は隆々としている。

    きっと素手で人の骨を折るぐらい容易いだろう。

    でも確かに、いい人なのだ。

    誤解されそうな姿をしているが、ロマネスクは、いい人の匂いがしたのだ。

     

    *∪´ω`)「お!」

     

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                          AmmoRe!!のようです

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    白く雄々しく揺るがぬ姿はまるで、聖書に描かれる箱舟のような姿だった。

    冷たい雨風が白い巨船を殴りつけるが、フィンスタビライザーシステムと云う対波浪用のシステムが、その巨体のバランスを保っているのだ。

    木造船を粉砕し得る威力を持つ荒波に船体は傾くが、船内は傾かず、自己顕示欲の強いバーテンダーがグラスの淵一杯にまで注いだカクテルが零れ落ちもしない。

    そのカクテルをありがたそうに、満足げに飲む若い女性はグラスに付いた口紅をふき取ったが、カウンターに零したカクテルは拭き取らなかった。

     

    一方で、隣接する居酒屋では気取るようなことをせずに安酒を飲み、心行くまで酔う客達で賑わっている。

    こちらでは酒を零すことが粋なサービスとしてしっかりと機能しており、バーとの違いはそこにあった。

    朱塗りの升に置かれたグラスから溢れた酒は升に溜まり、規定の量より多く飲めるとあって客からの評判はいい。

    それで出される酒は、米から作られた甘い香りと果実のような甘味を持つもので、日本酒と呼ばれるものだった。

     

    魚料理とよく合うと評判だが、その製造工程の手間と必要な環境の問題で、二種類のグレードに別れて販売されていた。

    一つは純粋に米だけで作られた甲種、そしてもう一つが醸造アルコールを足した乙種だ。

    無論後者の方が安上がりで、前者の方が美味い。

    ――アルコールさえ摂取できれば幸せな呑兵衛達には、どちらでもいいのだが。

     

    そこから船首に向かって七件先に行くと、変わったコンセプトの店がある。

    酒と料理の提供がされる点では他の酒場と変わらない。

    しかし、店内は歌と音楽で溢れかえっていた。

    歌い手は店側が用意したものではなく、客自身だ。

     

    コーラスバー、と呼ばれる新しい種類の酒場だ。

    酒を飲んで上機嫌となった客同士で肩を組み、好き勝手に全員が合唱するスタイルだ。

    ストレス解消と見知らぬ人との出会いを求めて、今日も多くの客が足を運んでいる。

    嵐の中、それに耐え凌いで過ごす人間は、その船には一人もいなかった。

     

    明るさと喧騒を失わぬ船の名は、オアシズ。

    世界最大の客船にして世界最大の船上都市。

    最大収容人数九千人と云う現代の技術力だけでは存在し得ない巨体を動かすのは、自然エネルギーを最大限利用した発電設備。

    それは、華やかさとは無縁の場所に立ち並んでいた。

     

    船倉は薄暗く、鉄臭のする空気は淀んで生温かった。

    常客から預かった荷物を補完する大型のコンテナが第一ブロックから第三ブロックの半ばまで積まれ、残りの半分が発電設備で埋まっている。

    発電装置から発生する熱で湿った空気が漂うその一角に、装置を管理するための詰所があった。

    詰所には常時三人がおり、計器の異常や使用状況を監視している。

     

    もっぱら、彼らは船倉内の警戒を行う一方で、ポーカーかチェスで交代までの時間を潰している。

    その日、八月四日の夜もいつもと変わらぬゲームが繰り広げられていた。

    今日はビールを賭けたチェスで、当直のハワード・ブリュッケンが圧倒的優位な状況だった。

    逆転は不可能な状況。

     

    ハワードの駒にはクィーンが二つ、そしてビショップ、ルーク共に健在。

    対して本日の敗北者であるオルェイ・マッケバッカスはクィーンとルークを失い、キングとポーン、そしてナイトがあるだけ。

    勿論、奇跡など起ころうはずもなく、その状況に陥ってから三分後には決着がついてエビスビールはハワードの手に落ちた。

    オルェイがとっておきの酒を賭けて、もう一度、どうしてもと懇願するのでハワードはそれに応じた。

     

    天啓的な博打狂い。

    それが、ハワードからオルェイに対する印象だった。

     

    「とっておきの酒って、なんだ?」

     

    「ウォッカだ、それも、ラシャ産の上物」

     

    これには乗らざるを得ない。

    ハワードは賭け事も好きだが、ウォッカはもっと好きだ。

    二割ほど減ったラベルのない透明の瓶を卓上の隅に乗せ、改めてチェスを始めた。

    結果は変わらず、ハワードの圧勝だった。

     

    「悪いな、こいつはもらってくぜ」

     

    「待てよハワード、今度は俺とやろうぜ」

     

    背後から現れたのは、見たことのあるような顔の中年男性だった。

    どこで会ったのか、まるで思い出せない。

    しかし、面識があるのだろうか、やけに親しげだ。

    胸元のネームプレートには、ジャック・ヒューストンとあった。

     

    「ジャック、悪いけどもう今日は遠慮しておくよ」

     

    「そう言うなって、一勝負だけさ。

    勿論、直ぐに終わる奴だ。

    財布を出してくれないか?」

     

    言われるがままに、ハワードは皮製の長財布を取り出した。

    ジャックも同時に黒皮の長財布を取出し、机の上に置いた。

    付き合いが悪い奴とは、言われたくなかった。

     

    「互いに財布の中にはいくら入っているか、ストーカーでもない限り分からない。

    だよな?」

     

    「ああ」

     

    「俺の財布とあんたの財布、どっちの方が、物が多く入っているかどうか。

    それで勝負しよう。

    もちろん、あんたが決めていい。

    財布を持つのもありだが、中を見るのは答え合わせの時だけだ」

     

    この賭け。

    運が物を言うが、よく考えれば、洞察力が勝敗にかかわってくる。

    言うなればハワードが相手の財布の中身を当てさえすれば、絶対に負けないのだ。

    いかにしてそれをするかが、勝敗のカギだ。

     

    自分の財布の中にはカードが七枚。

    十ドル硬貨が三枚と五ドル硬貨が一枚。

    合計数は十一。

    相手の財布を持ち上げると、ちょっとした重みを感じる。

     

    恐らく、硬貨が五枚はある。

    では、カードはどうだろうか。

    あるのか、それともないのか。

    最低でも一枚はあるはずだ。

     

    そう。

    この船で使うカードキーだ。

    となると、見積もって最低でも六。

    他にカードが入っていれば、当然、十一という数を超える。

     

    考えなければならない。

    この重量に騙されずに、真実を見抜かなければならない。

    偽りの重みを見抜き、正解を導けば、この勝負に勝てる。

    ――ハワードは、一つの策を思いついた。

     

    「俺が勝ったら、幾らくれるんだ?」

     

    「五十ドルでどうだ?」

     

    「……いいぞ。 なら、俺も同じだけ賭ける」

     

    重要なキーワードを手に入れた。

    五十ドルを払うには、最低でも硬貨が五枚はいる。

    しかしこれは、十ドル硬貨五枚の重みではない。

    もう何枚か、余計な硬貨が含まれている重みだった。

     

    ここからは、直感と云う名の推理をする必要がある。

    最低で六。

    感じ取る限りでは、十はあるはずだ。

    ハワードは決断した。

     

    「俺の方が少ない」

     

    「へぇ、それじゃあ答え合わせと行こうか。

    互いに互いの財布を見よう。

    そうでなきゃ、違反があっても分からないだろ?

    品物は机の上に出して確認し合う。

     

    それでいいか?」

     

    「勿論だ」

     

    ジャックの財布の中身を空けて、ハワードは笑みを隠せなかった。

    カードが八枚。

    硬貨入れに見積もった最低数と足せば、十三となる。

    勝った。

     

    「悪いけどジャック、俺の勝ちだ」

     

    「ちっ、しかたねぇ……

    そっから五十ドルもってけよ」

     

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         / ―'´ノ , '´ /  人

       /    !/      ノ

    ―<    _ ┴' 、      イ

       レ '´      ヽ   r┘

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    小銭入れを開くと、十ドル硬貨が二枚と五ドル硬貨が八枚も入っていた。

    硬貨を必要枚数分取ってから、それをジャックに見せる。

     

    「確かに、五十ドルいただいていくぜ」

     

    「あぁ、ほらよ」

     

    机の上に出していたカードなどを全てしまってから、ジャックが悔しそうな表情で財布を返す。

    彼もまた賭け好きな人間なのだろう。

    しかし、賭け好きが賭けの天才とは限らない。

    底なしの魅力に引き込まれ、そのままゆっくりと腐って行く賭け好きもいる。

     

    そんな人間が少しでも幸せを感じるのなら、これぐらいの授業料は安いと思ってもらおう。

    博打好きは馬鹿が多い。

    それが、本日の賭けを通じてハワードが改めて認識した事だった。

     

    「お先に」

     

    「お疲れさん」

     

    少しの仮眠を取ってから、また仕事が待っている。

    ハワードは二種類の酒を手に、満足そうな足取りで自室に向かったのであった。

     

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                    ‥…━━ August 4th PM22:05 ━━…‥

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    気が狂うほど愛おしい、とヒート・オロラ・レッドウィングは純粋に思った。

    風呂から上がって体を拭いて髪を乾かし、寝間着を着て、そして同じ布団で抱き合って眠る。

    それが愛おしい存在であれば、この時間を至福と言わずにはいられない。

    性交をせずとも、こうして触れ合うだけでも心は十二分に気持ちよくなる。

     

    腕の中で安らかな寝顔を浮かべ、小さな寝息を立てる姿には何度も飽きることなく胸を締め付けられる。

    小さな手足が無意識の内に自分を頼って抱きしめてくれる。

    信頼と愛情の証。

    この瞬間を永遠の物に出来るのならば、悪魔と呼ばれる存在に成り果てても構わないと本気で思える。

     

    瞼を降ろし、ヒートはブーンの体温を感じる安らぎの中、ゆっくりと微睡む。

    これだけで、十分。

    この気持ちを与えてくれるだけで、命を懸けて守るに値する存在だと、心から言える。

    自らを修羅に貶め、他者を殺め、その命を凌辱し、多くの悲しみと怒りを目の当たりにしてきたヒートを発狂させないだけで、十分なのだ。

     

    銃弾が小さな穴を空けて食らった残骸、死体。

    喉元を切り裂いた時に銃剣が見せた一陣の赤い輝き。

    声にならない言葉で呟く死に際の本心。

    眼を見開いて涙を流す死体。

     

    家族だけはと懇願する男の目の前で妻を絞殺した時の、男が浮かべたその表情。

    あらゆる増悪を込めて吐き出された恨みの言葉。

    山積みになった死体から立ち上る悪臭。

    手に残る、人を殺した感覚。

     

    毎夜ヒートを襲っては心を蝕んでいたそれが途絶えたのは、ブーンと出会ってからだった。

    この少年が類稀なる才能を持っていることは、一目で分かった。

    彼女の様な存在を惹きつけ、癒し、時には導いてくれるカリスマ性。

    膝を突いて頭を垂れて何もかもを投げ打ってでも手に入れたいと思えるその存在感こそが、ブーンの才能そのものだ。

     

    *-ω-Zzz

     

    ノハ´ー`)

     

    微睡みの中、ヒートは自分に言い聞かせる。

    これ以上は望んではいけないのだと。

    ブーンは、ブーンなのだから。

    それ以外の存在になることは、決して、無いのだと。

     

    *-ω-)「お……」

     

    だが。

    この甘美な時間を味わうことは許される。

    長い足でブーンの下半身をそっと押さえ、背中に回した手にさり気なく力を込めた。

    嗚呼。

     

    ――本当に、愛おしい。

    護り、慈しみ、育み、見届けたいと思わせる存在などこの世にそう幾つもない。

    ヒートが見てきた世界の中で、ブーン以外にそう云った存在と出会った試しがない。

    この先、彼以外に出会えるとは到底思えなかった。

     

    丸まった尻尾。

    垂れた耳。

    櫛を嘲笑う艶やかで絹のような黒髪。

    垂れた眉毛と深海色の瞳。

     

    それら全てはヒートの中の保護欲を掻き立て、ますますブーンの魅力に引きずり込む要素だ。

    それでもいい。

    この際、ブーンの人生を最前列で見届けられるなら、それだっていい。

    ヒートに残された燃えカスのような人生がそのためにあるのだとしても、一向に構わない。

     

    炎は灰に。

    灰は塵に。

    塵は砂に。

    砂は風に。

     

    そうして消えるだけの人生だと思っていた。

    だけど。

    違ったのだ。

    変えてくれたのだ。

     

    他ならぬ、ブーンの存在が。

     

    彼自身が何かをしたわけではない。

    説得や、ありがたい言葉をくれたわけでもない。

    存在そのものが、彼女にとっての救いだったのだ。

    ブーンに関わるだけで救われる。

     

    そう、思えたのだ。

    非情、無情の殺し屋だった女が。

    たった一人の少年に、人生を救われたのだ。

    偶然の産物なのかもしれないが、確かに、絶対零度の心の芯を温め溶かしたのは、このブーンただ一人。

     

    彼を守り、彼を見守り、彼を導き。

    彼の成長を見届けれられるのであれば、死んでもいい。

    自然の摂理として、彼より先に逝くのは構わない。

    ただ、見送れるだけでいいのだ。

     

    見送ることは、全ての保護者、そして教育者の悲願だ。

    最も悲しいことはそれを奪い取られることであり、そしてその機会を失うことにある。

    ヒートは殺し屋になって以来、初めて恐れを感じていた。

    この温もりを腕の中から失い、そして遠ざかる彼の背中を見送る瞬間が幻になることが怖かった。

     

    己の命よりも大切な存在で、恩人。

    そして、最愛の弟にして我が子。

    何よりも愛しい彼の寝息を耳にしながら。

    そっと、静かに。

     

    ヒートもまた、眠りの中に――

     

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      rニニニニニヲt

     ノ         ヽ

     |    ☆     |

     |   ヱ ビ ス  |

     |           |

     |           |

      寸ニニニニニニイ

                    ‥…━━ August 4th PM22:38 ━━…‥

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    酒を飲んだ後の風呂。

    そして風呂あがりのビール。

    これがこの上なく美味い。

    体中の水分を吹き飛ばす美味さだ。

     

    エビスビールの濃厚な味と香りは、ハワード・ブリュッケンの好みの味だ。

    薄い味と香りのビールを飲むぐらいなら、大人しくミネラルウォーターか醸造アルコールでも飲んでいればいいと云うのが、ハワードの持論だ。

    ふた口に分けてビールを飲み干し、ハワードは大袈裟に感嘆の声を上げた。

    仕事で疲れ、風呂で火照った体によく冷えたビールはたまらない。

     

    この快感は性交以上の感動がある。

    炭酸が喉を落ちていく感覚もそうだし、それが腹の中から体内の五臓六腑に染み渡る感覚も好きだ。

    約五時間後に控えた仕事のことも、これを思えば苦ではない。

    缶の底に残った最後の一滴を飲んでから、ハワードはベッドに仰向けに倒れこんだ。

     

    その瞬間に、異変に気付いた。

    奇妙な感覚だった。

    意識ははっきりとしているし、思考はよく回る。

    しかし、体が全く動かない。

     

    体を動かすために必要な神経の全てがショートしているような感覚で、いつものように手足を動かそうとしても反応しなかった。

    自分の体が言うことを聞かない感覚に、ハワードは自分が何かしらの病気を発症した事よりも、毒を摂取してしまったという可能性に目を向けた。

    瞬きも、呼吸も出来る。

    だが、鼻から下の筋肉が全て麻痺しているかのように動かないのである。

     

    何者かがハワードに一服盛ったのだ。

    一体どの段階で?

    部屋に帰ってから飲んだ酒、あるいは口にした料理、空調を通じて毒を流し込まれた可能性もゼロではない。

    考えても埒が明かない。

     

    今言えることは、これは彼の生活の流れを知っている者の犯行だ。

    仕事のシフト、生活リズム。

    親しい人間にも自分の一日の行動を話したことがないにもかかわらず、見事にしてやられた。

    では理由は?

     

    神経毒を用いて、何を狙う。

    金か。

    情報か。

    それとも、嫌がらせか。

     

    何にしても、早計だったとしか思えない。

    この部屋にはオートロックとチェーンのセキュリティがある。

    部屋にさえ上げなければ、体の自由の問題はどうと云うことではない。

    連れ去るにしても、部屋を物色するにしても、まずはそのセキュリティの突破が前提となる。

     

    それに、相手が自分をすぐに殺そうと考えていないのは、毒の効果から明らかだ。

    本当に殺すつもりであれば、猛毒を盛ればいい。

    毒が効き目を失うまでどれだけ時間がかかるか分からないが、しばらくこうしていれば大丈夫。

    日頃ハワードが心がけていたのが、部屋に戻ると同時に施錠を確認し、それからチェーンロックをかけることなのだ。

     

    ――玄関から聞こえてきた跫音が、その甘い考えを打ち砕いた。

     

    素早く記憶を巡り、セキュリティカードを机の上に確実に置いたことを確認する。

    道中で取られたわけではない。

    では、どうのようにして侵入したのか。

    音もなく、存在を悟らせることなく、どうやって。

     

    ありえない。

    聞き間違いだ。

    外から聞こえてきた音に違いないと思い込もうとするも、跫音は近づいてくる。

    絨毯を踏みしめる跫音は不規則に変化し、性別、体重を悟らせない。

     

    甘い香りがエアコンの風に乗って届く。

    ついに、侵入者がその姿を表した。

    寝室の扉がそっと開かれ、そこには、黒衣のローブを頭から被り、白い仮面で顔を隠した人物がいた。

    右手には赤と黒で塗装された、折り畳み式ボルトカッターが握られている。

     

    チェーンを断ち切るには、この上なく好都合な代物だ。

    あれでチェーンを切ったのであれば、音がするはずだが、そんな音は聞こえていない。

     

    ( )

     

    白い仮面には三つの穴が穿たれていた。

    眼に当たる部分が二つと、口の部分に一つ。

    それはデザインに過ぎず、実用的なデザインではなかった。

    だが人間の恐怖を助長する点においては、実用的なデザインだった。

     

    或いは、ジュスティアの機装兵団の様に銃弾から顔を守るためのマスクなのかもしれないが、今、その仮面はハワードに恐怖しか与えなかった。

    錬磨であるハワードが怯えるのには、十分すぎる理由があった。

    答えは、ここに至るまでの周到性だ。

    毒の効果が現れる時間を見計らっての行動。

     

    音一つ立てずに侵入する経路の確立。

    今日一日のハワードの行動が、この侵入者の手のひらの上で回っていたと言っても過言ではないのだ。

    明らかに、素人ではない。

    何を狙って、こんな回りくどい真似をするのか。

     

    仮面が静かにハワードを見下ろす。

    目線は分からない。

    何を見て、何を考えているのか。

    全ては仮面の下。

     

    ( )

     

    フードの下から腕が伸び、ハワードの左手を取った。

    触られている感覚がない。

    弄ぶような動きの手には、黒い皮の手袋が嵌めてある。

    軽い動作で手首の骨が折られたのは、一瞬の事。

     

    痛みはなく、ただ、呆然とした。

    赤黒く変色した手首をそっと離し、次にその手は両足首を掴んで持ち上げた。

    そのまま折りたたむような動作で、両膝、股関節を破壊した。

    骨の折れる音が生々しく、恐怖に顔を顰めようとするが、顔の筋肉は動かず、激しく瞬きをするだけしか今の彼には出来なかった。

     

    最後に彼が見たのは、ボルトカッターの先端が両眼にゆっくりと突き立てられ、激痛の中で視界が赤から黒に変わる絶望的な光景だった。

     

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      ヘヘr‐‐''(イ{/  ヽ ‐‐ァ'//

    .   ヘヘミヽ、,,ノ、,,ィ、_, //      AmmoRe!!のようです

        ヘヘ\-=''─ゞ==''´,//

         ヽミミ`ヽrrrr  / /          Ammo

          ヽ  〈||||〉  /              for

            \ Y/ /                 Reasoning!!

              ̄

     

                    ‥…━━ August 5th AM04:35 ━━…‥

     

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    “フォアローゼス”というバーで探偵会議が開かれたのは、八月五日午前四時半を過ぎた段階だった。

    オアシズで働く探偵総勢四百五十人。

    その全員が、緊急の要請に対して即座に応じ、素顔を隠すためにガイ・フォークスの仮面を付けていた。

    店内を照らす照明は蝋燭が一本だけ。

     

    完全なる匿名による完全なる捜査。

    それが、探偵たちに念を押して守らせているオアシズの鉄則だ。

    探偵たちは互いの素性を知らない。

    知らないからこそ保たれる秘匿性。

     

    その為の仮面だ。

    探偵たる彼らは変装を得意とするため、ここで交わされる口調や声色はあてにならない。

    時には偶然にして同僚の正体を知る者もいるが、それを口外するものはいなかった。

    彼らを束ねる探偵長は“ホビット”と呼ばれる小柄な人物で、事件の概要をしわがれた声――それが作られた物か地声なのかは分からない――で説明し始めた。

     

    <>L<>)「被害者は第三ブロック在住ハワード・ブリュッケン。 船倉の総合警備担当者。

           時期主任として目されていた男。

           妻も子もなく、誰かから恨みを買うような人物でないことは裏付け済み。

           ……さて、どう思うね、諸君?」

     

    普段、探偵が召集されることはない。

    オアシズ内には警察が常駐しており、日常的な揉め事は彼らが解決してくれる。

    探偵の仕事は何かと言えば、そう言った事件が起きるのを未然に防ぎ、難解な場合には介入することだ。

    此度の事件は、警察の力だけでは解決が難しいと判断されただけでなく、探偵全体を動員するほどの事態だということを、全員が理解していた。

     

    <>L<>)「殺害方法、時刻、発見場所、発見者、発見時間の提示を希望」

     

    <>L<>)「良い指摘だ。

           射殺、午前零時あたり、被害者宅――3002号室――浴室にて、同僚バステルノア・フィリッポスが午前四時に発見、通報。

           彼が部屋を訪れたのは仕事の時間になっても被害者が応じず、その性格上不審に思ってのことだそうだ。

           部屋のキーは第三ブロック長であるノリハ・サークルコンマ氏立会いの下開錠され、近くに居合わせた探偵と室内に入った」

     

    <>L<>)「射殺?」

     

    その単語に、仮面の下から次々と驚きの声が上がる。

    無理もない。

    オアシズ内で銃を常時携帯できるのは、警備担当者、警察、もしくは探偵だけなのだ。

    それ以外は許可がない限り携帯ができず、許可されるのは一握りの人間のみ。

     

    <>L<>)「……現場の画像を見てもらおう」

     

    言葉と共に壁に映し出された一枚の画像は、数百体の死体を目の当たりにしてきた探偵たちでさえも、思わず目を逸らしてしまう、惨たらしいものだった。

    現場となった浴室のベージュ色の壁は汚れ一つカビ一つなく、よく掃除が行き届いているのが分かる。

    ただ、浴槽の中だけはそうでは無かった。

    まず目に付くのは、鮮血の赤。

     

    そして、異形。

    本来であれば湯が張られるはずの浴槽には、その代わりに赤黒い血が張られている。

    そして、己の血に汚れ、血の気を失った白い体が腰までそこに浸かっていた。

    あらぬ方向に曲げられた四肢は内出血を起こしていて、折られたのだと一目で分かる。

     

    天を仰ぐような形で硬直した頭部。

    絶望と恐怖に歪むでもなく、感情の一切が見えない不自然な表情を浮かべる顔は、その半分が赤黒い血で汚れている。

    大きく開いた口の中には舌がなく、血で満たされていた。

    目尻にある深い切傷が両目を繋ぎ、大型の刃物でそこを傷つけたのだと分かる。

     

    眼窩にあるはずの両目は見るも無残に損傷し、眼球から漏れだした液体が血と混じって涙の様に頬を伝って筋を作っていた。

    両腕は首の前で結ばれ、背中側に曲げられた両足は首の後ろを通ってその結び目の中に入っている。

    右の米神に空いた穴が一つ。

    穴の向こうには浴室の壁が覗いていた。

     

    猟奇殺人、と言う言葉が誰からともなく発せられた。

     

    <>L<>)「死因は右側頭部から侵入し、左側頭部から抜け出た銃弾による脳の著しい損傷。

           意見を」

     

    <>L<>)「この大量の血はどこから?」

     

    外傷に比べて血の量が異常だ。

    それは当然の疑問だった。

     

    <>L<>)「両足の付け根に深い切創があった。

           両眼の傷、切断された舌の切断面と幅が一致している。

           また、チェーンの切断面とも一致していることから、ボルトカッターの類が使用されたのだと思われる。

           ご丁寧に栓をしてまで、血の風呂を作りたかったようだな」

     

    <>L<>)「鍵の開錠は、どのようにして?」

     

    チェーンを切断する前提として、扉が開いている事が必要だ。

    カードによって開閉する扉を開くとなると、その方法は二つしかない。

    一つは己のカードを使うこと。

    そしてもう一つは、船内に六枚だけ存在するマスターキーを使用することだ。

     

    現場からは彼の部屋のカードが発見されており、他の人間の指紋は検出されていない。

     

    <>L<>)「……被害者発見の際に使用された以外に、もう一つのマスターキーの使用履歴が残されていた」

     

    動揺が波紋の様に探偵たちの間に広がる。

    マスターキーの所有者は六名。

    各ブロック長五名、そして市長であるリッチー・マニー。

    犯人は、彼らの中にいる。

     

    <>L<>)「次のスライドを」

     

    写真が凄惨な現場から、容疑者六名の顔写真に切り替わった。

    顔写真の隣にはそれぞれの事件発生時間の状況が記されており、一目で状況が分かるようになっている。

    事件発覚から三十分弱でここまで調べ上げたのは、彼ら探偵たちだった。

     

    ノ゚レ_*州 ノレベルト・シュー。 第一ブロック長。

    事件発生当日:昨日から行方が分からなくなっている。現在行方を追っている。

    目撃証言:なし。

    被害者との接点:ほぼなし。

     

    £°ゞ°) オットー・リロースミス。 第二ブロック長。

    事件発生当日:前日二十二時から翌日三時まで第二ブロックにある酒場にいた。

    目撃証言:有。

    被害者との接点:ほぼなし。

     

    ノリパ .゚) ノリハ・サークルコンマ。 第三ブロック長。

    事件発生当日:事件発生予想時刻二時間前には自室に戻り、睡眠を取る。

    目撃証言:なし。 部屋の入退室記録と証言は一致している。

    被害者の接点:被害者との交流がたびたび目撃されており、本人も認めている。

     

    W,,゚Д゚W クサギコ・フォースカインド。 第四ブロック長。

    事件発生当日:事件発生予想時刻三時間前後は友人とカジノにいた。

    目撃証言:なし。 友人は事件当時の記憶が不鮮明。

    被害者との接点:ギャンブルで度々金を借りていた。

     

    マト#>Д<)メ マトリクス・マトリョーシカ。 第五ブロック長。

    事件発生当日:第五ブロック責任職会議に参加。

    目撃証言:多数。

    目撃者との接点:なし。

     

    ¥・∀・¥ リッチー・マニー。 オアシズ市長。

    事件発生当日:自室にいたと証言。

    目撃証言:なし。

    目撃者との接点:なし。

     

    <>L<>)「キーの使用者情報は?」

     

    オアシズで使用される全てのカードキーには所有者情報が割り振られており、誰がどこを通ったのか、直ぐに分かるようになっている。

    つまり、最後に使用されていたマスターキーの所有者さえ分かれば事件は大きく進展する。

     

    <>L<>)「ノレベルト・シューの物だ。

           最終使用履歴は、彼女のカードだった」

     

    <>L<>)「カメラは?」

     

    <>L<>)「昨夜から被害者の部屋がある第三ブロックのカメラが全て停止していることが分かった。

           つまり、犯行時刻の映像は一つも残されていない」

     

    第三ブロックのカメラを停止させるには、それなりの立場が必要となる。

    昨晩被害者がいた詰所からもその操作は可能だが、変わった目撃証言はない。

    勿論、ノレベルトの目撃証言は昨日の朝から途絶えている。

    計画的な犯行だ。

     

    探偵たちは足跡を消されたことを悔やむより、足跡に繋がる物を探すことに気持ちを切り替える。

     

    <>L<>)「死体にヒントがあるかもしれない。

          “ドクター・ストレンジラブ”、報告を聞かせてくれ」

     

    渾名を呼ばれたのは、解剖学の世界的権威であるクルウ・ストレイトアウトという女性の医者だ。

    細身で長身の三十代半ばの女性は黒いシャツに黒いスカート、ピンストライプの黒いスラックスに、白いジャケット、そして白い赤いネクタイをだらしなく締めた格好をしていた。

    櫛の通った長い黒髪を気だるげに指先で弄びながら、浅黒い肌の女性は返答した。

     

    川 ゚ 々゚)「体からアルコールと一緒に、微量の神経毒が検出されたわ。

          天然ものじゃなくて、人工の毒ね。

          即効性じゃないから、計画的に盛られたのね。

          神経を麻痺させる一種の麻酔みたいなもので、身動きを奪うにはこの上なく好都合なやつ。

     

          ただ、残ってた眼球の乾き具合を見ると、瞬きは出来ていたみたいよ。

          そうそう、後は殺され方だけど、最初に足の付け根二カ所を切ってから頭を十インチぐらいの距離から撃たれているわ。

          銃弾は九ミリパラベラム弾。

          発砲音は確認されていないから、まぁ、サプレッサーを使用したんでしょうね。

     

          このヨガみたいなポーズは、死後に取らされているわ」

     

    人呼んで異常な愛情者、“ドクター・ストレンジラブ”。

    クルウは死体を弄ることが半ば趣味で、それを職にした人物だ。

    死体に残されたわずかな異常や変化はことごとく彼女の目に留まり、三時間もあれば詳細な解剖結果が出来上がる。

    渾名の由来は、切り刻むことなく死体から詳細な情報を手に入れるのに必要な物は、と尋ねられた際に、愛情と答えたことにある。

     

    彼女の解剖部屋からは夜な夜な嬌声が聞こえるとか、死体の陰茎を弄んでいるだとか、色々な噂が流れているが、一つ確実なことがある。

    如何に凄惨な殺され方をした死体でも、彼女がそこから情報を取り逃すということはないということだ。

     

    <>L<>)「……おいちょっと待ってくれ。

          なら、被害者は浴槽で殺されたことになるのか?」

     

    現場の写真を見ていた男が、恐る恐る尋ねた。

    その意図を全員が理解したのは、十二秒後。

     

    <>L<>)「……弾痕は、いや、銃弾はどこに?」

     

    川 ゚ 々゚)「頭の中にはなかったわよ。

          口径に対して脳味噌の減り具合が多すぎるから、多分体内で弾が広がるように工夫された物ね」

     

    <>L<>)「反対側から飛び出た脳味噌は現場に落ちてたか?」

     

    川 ゚ 々゚)「いいえ、お風呂には糞尿と血だけ。

          後は、そうねぇ……

          見ての通り、両手足がぐちゃぐちゃに折られているわね。

          手首と足首の位置に、痣が残されていたけど、手の大きさの特定はできなかったわ。

     

          三十分お話して分かったのは、こんなものよ」

     

    それからクルウによる考察を含めた死体の詳細が語られ、探偵たちは肉料理に対しての見方が変わるぐらいに情報を仕入れた。

    酒も食事もない会議は二時間にも及び、共有すべき情報は全て全員の耳に届けられた。

    話しも終わり、自然な流れて退席しようとした探偵たちを、“ホビット”が呼び止める。

     

    <>L<>)「待ってくれ、最後に一つ。

           これは全員が把握しておいてほしい。

           ……現在行方を追っているノレベルトだが、彼女は元探偵“フェイス・オフ”だ。

           なお、この事件は一切他言無用とする」

     

    店内は静まり返る。

    ホビットの一言が意味するところを、全員が理解した何よりの証だった。

    フェイス・オフの名を知らぬ探偵は、この業界にはいない。

    それが意味するのは――

     

    ――容疑者、全乗客九千人。

     

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                    ‥…━━ August 4th AM06:45 ━━…‥

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    八月四日。

    荒れ狂う海の上を悠然と進む世界最大の豪華客船にして船上都市であるオアシズは、未だ嵐を抜け出せずにいた。

    海面に最も近い一階の部屋の窓からは、飛沫を上げて荒れる海の様子がよく見える。

    カーテンの向こうは暗闇だったが、その向こうで波がガラスを叩きつけていることはよくわかった。

     

    ショボン・パドローネは自室に戻ってベッドに腰掛け、ぬるい缶コーヒーを一口飲んで、溜息を吐きたい衝動を強引に抑えた。

    なんともまぁ、面倒くさいことになったものだ。

    手の込んだ計画殺人。

    犯人は尚も逃亡中故に、総員で捜索に当たらなければならない。

     

    期日は言わずもがな、ティンカーベル到着までの間。

    それまでの間に、行方不明者にして最重要参考人、そして容疑者であるノレベルト・シューを見つけなければならない。

    恐らく見つからない可能性の方が高いだろう。

    相手は元探偵。

     

    “フェイス・オフ”という探偵は変装の天才として知られており、発見が困難を極めることは必至。

    また同時に、射撃の腕、探偵としての知識量も高く、それが元でブロック長になったと言っても過言ではない。

    つまり、当てずっぽうや勘では決して見つけ得ることは叶わない。

    彼女は、こちらの思考の三手先を読んで動く人間だ。

     

    こうして騒ぎになるということは、つまり、これもまた彼女の思考の中。

    天才的な推理力は、言い換えれば天才的な犯罪者の素質と言える。

    何が彼女を猟奇殺人鬼に変えたのか。

    それは、この事件の最後に分かることだろう。

     

    まず調べなければならないのが、彼女の動向だ。

    昨日明朝から行方を晦ましたのならば、最後に彼女がいた場所を突き止め、そこをスタート地点にしなければならない。

    新しい情報は逐一探偵たちで共有されるが、この第一歩は誰もが行き着く場所。

    ならば、ここがスタートではない。

     

    彼女の人格を思い出す。

    慎重な性格の持ち主が、どうしてこうも目立つ事件を起こしたのか。

    遊んでいるのだ。

    悪戯とジャズを愛する彼女らしいやり方だ。

     

    常々、彼女は探偵と云う職業に対して若干冷めた意見を持っていた。

    探偵とは秘密を暴き立て、そして辱める職業。

    警察のなりそこない。

    正義感の残滓、独善の結晶とまで言っていた。

     

    彼女が仕掛けた偽りを掻い潜り、真実へ辿り着かなければ、更に凄惨な事件と被害者が出る。

    ショボンは思考した。

    事件捜査の第一歩は、間違いなく、彼女の捜索ではない。

    それは他の探偵の仕事だ。

     

    彼がしなければならないのは、現場の検証。

    そして、聞き込み調査だ。

    自然を装って聞き込んでいては、埒が明かない。

    左腕に巻いた古臭く傷だらけの時計を確認して、ショボンは深く溜息を吐いてから重い腰を上げた。

     

    (´・ω・`)「……まずは朝飯、だな」

     

    クローゼットの中にあった皺のない最後のスーツを着て、皺だらけの革靴を履いて部屋を後にした。

     

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                    ‥…━━ August 4th AM07:00 ━━…‥

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    朝食を取る店はいつも同じだ。

    同じメニュー。

    同じ座席。

    同じ店員。

     

    ショボンが座席に着くと同時に、店員はいつもと同じセットをトレイに乗せて目の前に置いた。

    胡椒のかかったベーコンエッグ二枚に、ボウル一杯に盛られた胡瓜多めのサラダ、バターを乗せたトーストが三枚。

    クルトンが七つ浮かぶコンソメスープとブルーベリージャムのヨーグルト、そしてラムの香りを漂わせる紅茶。

    これが、ショボンの朝食だ。

     

    湯気の立ち上る朝食はこの上ないご馳走だ。

    ベーコンエッグの白身にフォークを突き刺し、半熟で焼き上げられ黄身にナイフを突き立て、半分に切る。

    とろり、とオレンジに近い色をした黄身が白い皿に広がる。

    白身とベーコンを一口サイズに切り分け、黄身を絡めて口に運んだ。

     

    甘い。

    不自然な甘さではない。

    そして何より美味い。

    柔らかで舌触りのいい白身と香ばしく焼かれたベーコン、そして胡椒の香りが一つになってたまらない。

     

    二口食べてから、スープをすする。

    コンソメの風味が寝起きの頭と胃袋に染み渡る。

    塩気が食道を通って胃袋に落ち、じわりと体内に吸収されるのがよく分かる。

    徹夜明けの体が内部から入れ替わるような、素晴らしい感覚だ。

     

    濃い味のスープが染みる前のこんがりとしたクルトンを二つ口にして、その独特の食感を楽しむ。

    残りは染みてからのお楽しみだ。

    バターが溶けてパンの表面に広がり始めたトーストを大きな口で食べる。

    鼻から抜けるバターの風味、そして焼きたてのパンの豊かな甘い香り。

     

    舌で若干の塩味を感じながら、パンの甘味を鼻で感じ取る。

    そしてコンソメスープを一口飲む。

    このままパンをスープに浸して食べるのもいいが、それはコックへの冒涜になる。

    それぞれの料理は完成された味をしており、味を変えるのは惜しい。

     

    一旦口の中の物を飲み下し、フォークを取ってサラダに手を付ける。

    胡瓜を多めに頼んだのは、その食感がレタスと非常に相性がいいからだ。

    ドレッシングは勿論、シソとぽん酢を合わせたノンオイルのもの。

    このドレッシングは思い入れが深い物だった。

     

    警察時代、何度か山を徒歩で越えることがあった。

    その際、生の野菜を食べる際にはこれを使ったものだ。

    さっぱりとしていて、後味が残らない。

    尚且つ、一ドル以下で買えるとあって、独身の警官の家には必ずと言っていいほどこれがあった。

     

    この味を感じるたび、ショボンは己が経験してきた数多くの事件を思い出す。

    誘拐事件や殺人事件、自殺にテロに猟奇殺人。

    解決できなかった事件はただの一つもなく、逃げ出した事件もまた、一つもない。

    それがショボンの自慢であり、誇りだった。

     

    今回の一件。

    ショボンはこれまで以上に力を注いで挑むつもりだ。

    相手の力量など知らない。

    そんなことは、どうでもいいのだ。

     

    重要なのはどれだけこちらのペースで事を進められるか、だ。

    警官から今の職になってよかったことは、これに尽きる。

    誰かの思惑で変えてきた事を、自分の意志に従って変えられる。

    だから、今の仕事は天職だと胸を張って言える。

     

    サラダを食べ終え、パン、スープを順に胃袋に収める。

    舌鼓を打ちながら、ショボンはいそいそと朝食を平らげ、独特の食感のするヨーグルトで締める。

    最後にラム入りの紅茶を啜り、微量のアルコールに気持ちを落ち着かせた。

    卓上にあった蜂蜜を一匙足して風味と味を変え、二杯目を飲む。

    元々甘い香りのするラムだが、そこに蜂蜜を足すことでより一層その甘味が強調される。

     

    豊かなサトウキビの甘味に、蜂蜜の甘味。

    それは甘露と言う他ない味わいだった。

    この後の捜査では、四六時中頭を動かさなければならない。

    睡眠不足という言い訳が通じるほど、探偵は優しい仕事ではない。

     

    面倒事をいち早く消化し、次なる舞台に進むことがショボンの切実な願いだった。

    口元を拭い、ショボンは席を立つ。

    まず調べなければならないのは、現場だ。

    死人が語る情報もあれば、現場が語る情報もある。

     

    食堂から現場までは徒歩で二十分の距離にある。

    しかし、ショボンはレンタルサイクルを利用しており、探偵割引――という名の無料レンタル――で借りたマウンテンバイクを使えば、七分で着く。

    店を出てすぐ目の前に停めていた自転車にまたがり、ショボンはゆっくりとペダルをこぎ始めた。

    人の間を潜り抜けるように進み、現場となった第三ブロックに向かう。

     

    道中、顔見知りと軽く挨拶を交わして、何事もないかのように装う。

    この狭く小さな船内で殺人、それも猟奇殺人が起こったとなればパニックは必至だ。

    慎重な言動が求められる中、ショボンは現場の保持状況が気になった。

    警官が下手に手を出せば、ろくでも無い事に成りかねない。

     

    ペダルをこぐ足に少し力を加え、若干ではあるが速度を速めた。

    この事件を解くカギを失っては事だ。

    それだけは絶対に阻止しなければならない。

    現場こそ、事件解決の鍵なのだ。

     

    特に、今回のような奇妙な事件となればなおさらだ。

    異常な時ほど、死体と現場にその痕跡が残る。

    今回で言えば、消えた弾丸がそれにあたる。

    頭を貫通したはずの銃弾はおろか、弾痕さえ発見できなかったことは奇妙以内の何物でもない。

     

    それ故に面白いのだ。

    これを解くことは、即ち、真実と呼ばれる“事実”への第一歩となる。

    さて。

    どのような展開になるのか、非常に楽しみだ。

     

    ショボンは口元に笑みを浮かべながら、現場へ急いだ。

     

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                    ‥…━━ August 4th AM09:03 ━━…‥

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    現場となった第三ブロック一階にある被害者の部屋に入ると、そこには群青色の制服を着た鑑識課の人間が三人。

    そして、クルウ・ストレイトアウトの姿があった。

    血と糞尿の混じった異臭が漂う部屋に、ショボンは眉を顰めた。

    ショボンに向けて白い使い捨てマスクを差し出しながら、クルウは愛想笑いを浮かべた。

     

    川 ゚ 々゚)「お早いご到着ね、探偵さん」

     

    (´・ω・`)「遅いよ。 現役ならここで朝食を取りながら捜査していたけど、この匂いでもう駄目だね。

         で、何か分かった?」

     

    マスクを受け取り、それを口に当てる。

     

    川 ゚ 々゚)「あれから分かったのは、被害者が殺される一時間前には食事を取っていたってこと。

          胃の中の残り物を見てね。

          どうやら毒は、お酒の中に入っていたみたいよ」

     

    (´・□・`)「ほお。 その酒は被害者が買ったのか?」

     

    フローリングの床にはエビスビールの空き缶とウォッカの空き瓶が転がっている。

     

    川 ゚ 々゚)「それを調べるのは私じゃないわよ」

     

    にんまりと、口の端を上げて浮かべる狂気じみたクルウの笑顔。

    彼女の笑顔を見るのは、死体の前以来だ。

    手帳の一ページ目に酒についての情報を殴り書き、現場の様子を窺う。

    後で指紋を採取する必要がありそうだ。

     

    (´・口・`)「本当に、どこにも弾痕がないのかい?」

     

    川 ゚ 々゚)「部屋の中をくまなく探したのよ? 彼らがね」

     

    考えられる可能性は二つある。

    一つはまだ発見されていないだけで、部屋のどこかに弾痕がある。

    弾痕の傍には必ず血があるはずだ。

    貫通した弾丸と共に噴出した脳漿が見つかれば、殺害時の状況が分かる。

     

    もう一つの可能性。

    それは、部屋の外で殺された可能性だ。

    嵐の中、部屋の窓から外に出てそこで射殺。

    そうすれば、例えサプレッサーがなくとも銃声はごまかせる。

     

    (´・口・`)「鑑識さん。 窓際を調べてくれ。

          濡れているか、湿っているか、塩分反応は?」

     

    ショボンが選択したのは、外に向けて銃を発砲した可能性だ。

    被害者が無抵抗である以上、どのような事でも可能だが、ここでの目的は可能性の一つを潰すことだ。

    銃弾が荒れ狂う海の中となっては、調べようがない。

    そうでない可能性を知りたいがゆえに、ショボンは難しい可能性の方から選んだのである。

     

    (HнH)「うーん……ないですねぇ」

     

    安心した。

    これで、余計なものが見つかりでもしたら、捜査は難航。

    この事件が迷宮入りしてしまう可能性があった。

    となると、弾痕はこの部屋のどこかにある。

     

    それを探して、この事件を進展させなければならない。

     

    (´・□・`)「ふぅむ……」

     

    川 ゚ 々゚)「何か分かった? 偽りを見破る警視さん?」

     

    偽りを見破る警視。

    偽り殺しの警視。

    偽り崩しの警視。

    現役当時は色々な渾名があったが、今ではそれは過去の物。

     

    クルウと出会ったのはそんな過去の話だ。

    今は、ただのオアシズ付きの探偵に過ぎない。

     

    (´・□・`)「今はただの探偵だよ。

         分かったのはね、クルウ。

         この事件は、まだこれから続くだろう、ってことだね」

     

    川 ゚ 々゚)「へぇ? そりゃまたどうして?」

     

    (´・□・`)「僕がそう願っているからさ。 いいかい?

          これだけ大規模な探偵を動員させる事件が、これ一つで終わるとは思えない。

          何せ相手は変装の達人、“フェイス・オフ”だ。

          こうして話している相手ですら、容易には信じられないときたもんだ。

     

          なら、まだ続くに決まっている。

          そうでなければ、僕が困る」

     

    そうとも。

    困るのだ。

    この事件が一回だけのものだと考え、油断してはならない。

    相手はフェイス・オフ。

     

    探偵の中でも伝説級の変装の達人。

    一度乗客達の中に紛れ込んだら、探すのは骨だ。

    せっかくの招待状だ。

    それを受け取る側は、礼節を持ってそれを手にする義務がある。

     

    これは探偵たちに対する招待状。

    日頃生ぬるい仕事に飽き飽きしている彼らに、その醍醐味を思い出させるための粋な計らいだ。

    それが一度だけで終わってもらっては、意味が無いのだ。

    このショボン・パドローネはまだ、満足していないのだ。

     

    ――至近距離からの発砲、更にはサプレッサーを付けた状態でとなれば、被害者の体を固定できるような場所が必要だ。

    相手は毒で体が動けないため、立て掛ける、と言った状態が理想だ。

    逆に、床に置いても成立する。

    死体は浴槽にあり、足を先に切られている事を考えると、大量の血痕が残る必要があった。

     

    それすらもない。

    それはあまりにも不自然だ。

    いや、血を隠すなら血の中。

    つまり、浴槽で射殺されたと考えれば不思議ではない。

     

    貫通する先に硬い物を用意しておけば、弾痕となって現場に残ることはない。

    そこまでして弾痕を隠す意味とは?

     

    (´・□・`)「この事件を解くカギは、銃弾にあるみたいだね」

     

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    AmmoRe!!のようです

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                                            Ammo for Reasoning!!

                    ‥…━━ August 4th AM09:07 ━━…‥

                                            第四章【murder -殺人-

     

     

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    リンゴジュース五百ミリリットル、それとリンゴを二つ、トマトがいっぱいのサラダとトースト三枚の朝食を済ませた後、ブーンはノートに単語の書き取りを行っていた。

    かれこれもう、一時間になる。

     

    (∪´ω`)φ″

     

    言葉を幾つも書き綴り、そして、それを自分の物にできる感覚が気持ちいい。

    動詞、名詞、副詞、形容詞、接続詞、それぞれの言葉に与えられた別の言葉の意味を理解してからは、新しい単語の吸収が良い。

    普段使っている言葉は形を変えて、様々な使い方をされている。

    一体どこの誰が文字を発明したのか、ブーンは気になった。

     

    (∪´ω`)「デレシアさん、だれがもじをつくったんですか?」

     

    ζ(゚ー゚*ζ「うーんと昔の人よ。

          それこそ、私が生まれるよりもずっとずっと前ね」

     

    デレシアでも知らないことなら、きっと、この世界の誰も知らないのだろう。

    ブーンは気を取り直して、文字を書き始めた。

     

    (∪´ω`)φ″コリコリ

     

    以前までは出来なかったことが出来る感覚。

    その自覚はこの上ない自信へと繋がった。

    店で働かされていた時は文字を読めなかった。

    しかし、今なら読める。

     

    先ほどからブーンがノートに写しているのは辞書の内容だった。

    これは、デレシアから教わった文字をより実用的に見るための訓練だった。

    一ページ目に書かれた単語の意味が分からなかったとしても、その意味が、別の言葉で書いてある。

    そちらの方が簡単に書かれているが、分からなかったとしても、更にまた調べればいいだけだ。

     

    ζ(゚ー゚*ζ「少し息抜きしましょうか、ブーンちゃん」

     

    (∪´ω`)「お」

     

    本当はもう少しだけやりたかったが、デレシアにそう言われれば断れない。

    代わりに、デレシアはノートの上に色とりどりの四角い物体を置いた。

     

    ζ(゚ー゚*ζ「はい、これ」

     

    ノパー゚)「へぇ、懐かしいな。

        ルービックキューブか」

     

    風呂から出て湿った髪の毛をタオルで乾かしながら、ブーンの背中側からそれを覗き込んだ。

    石鹸のいい香りがヒートの全身から漂っている。

    ブーンはヒートの風呂上がりの香りが好きだった。

     

    (∪´ω`)「お、これ、なんですか?」

     

    とりあえず、まずはそれだった。

    小さな正方形がびっしりと、一面に九つ。

    色が六種類あるそれが何であるか、全く見当がつかない。

     

    ζ(゚ー゚*ζ「これはね、こうやってくるくると回して……

          こうするものよ」

     

    約五秒。

    ばらばらだったはずの立方体の面が、全て、同じ色で統一されていた。

     

    ζ(゚ー゚*ζ「立方体パズルってものよ」

     

    ノハ;゚⊿゚)「……はえぇ」

     

    ζ(゚ー゚*ζ「偶然よ」

     

    と言いながら、デレシアは素早くパズルの面をばらばらにした。

     

    *∪´ω`)「おー!」

     

    早速、ブーンも見よう見まねで面を動かしていく。

    詳しい理屈などは分からないが、とにかく、直感に従って面を動かす事一分後。

    見事、デレシアと同じように面を揃えることが出来た。

     

    *∪´ω`)ノ■「できましたお!」

     

    ノハ*^^)「すごいぞ、ブーン!!」

     

    ζ(^^*ζ「ほんと、あっという間じゃないの!!」

     

    二人に同時に褒められながら抱きしめられ、ブーンは気恥ずかしかった。

    獣の尻尾は激しく振れ、喜びを隠せない。

    なんだかよく分からなかったが、ブーンは二人にされるがままとなった。

    それはとても、気持ちのいいことだった。

     

    ――この時。

    ブーン以外の二人は、彼の持つ別の才能の片鱗に気付いた。

    しかしそれが確信に変わったのは、もう少し後の事なのであった。

     

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               _ -=<ハ

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     ̄´   `ヽミ-   f`.i `ヽ. `ト、――ァ′

            i/  /l',` l`Y  ', !.',-'

           ノ/ " l   しKニ .l ノl

       _, ----‐イ  l   〃 八ハ

      ´       l!       /   ノ

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                    ‥…━━ August 4th AM09:46 ━━…‥

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    この短時間で、早くも捜査は暗礁に乗り上げてしまった。

    探偵たちの必死の捜査で明らかになった事件の概要を、ショボン・パドローネは手帳に纏めた。

    殺害時刻、昨夜二十三時から明朝二十四時半までの間。

    現場には被害者以外の指紋は残されておらず、これと言って犯人につながる証拠は見つからなかった。

     

    探偵が敵に回っているとなると、探偵たちの動きや弱みも必然的に分かるというもの。

    厄介な人物が敵に回っていると認識せざるを得ない。

    この事件は今後も続く。

    最も簡単なはずの一回目の惨劇で、この進捗だ。

     

    とてもではないが、これから先の事件に対応できるだけの余力は今の探偵組合にはない。

    ならば、このショボンが進めてやるしかない。

    事態進展のために全力を出す。

    悪い気はしない。

     

    警察での経験を活かすのは、いつだって快感なのだ。

     

    (´・ω・`)「……」

     

    川 ゚ 々゚)「怖い顔して、どうしたの?」

     

    (´・ω・`)「何故、犯人は銃弾を隠そうとしているのだろうか?」

     

    川 ゚ 々゚)「さぁ? 潔癖症で完璧主義のA型の人だとか?」

     

    (´・ω・`)「完璧主義なら、死体を海に投げ捨てて遺書でも残すよ。

         だけど今回は違う。

         彼女、つまり第一容疑者のフェイス・オフは完璧主義にも拘らず、死体と消えた銃弾という謎を残した。

         これは紛れも無く、彼女からの招待状だよ。

     

         招待状だよ、招待状。

         四百五十人の探偵を相手に、招待状と来たもんだ。

         なめられてるんだよ、僕たちは。

         この招待、中指を立てて受け入れようじゃないか」

     

    気が付けば、ショボンは声を荒げていた。

    まるで演説でもするかのように。

    まるで喜劇を演じる役者の様に。

    この事件に関わる一人として、絶対に、この事件を迷宮入りにするわけにはいかない。

     

    その為には、彼女、即ちクルウ・ストレイトアウトの協力が必要不可欠なのだ。

    現場になければ死体にある。

    死体は多くを語る。

    その声を聞くことが出来るのは、この船には“ドクター・ストレンジラブ”以外にいない。

     

    彼女を本気にさせれば、新たな情報が絶対に出てくるはずなのだ。

    フェイス・オフからの招待状を解き明かし、探偵たちは次のステージに進まなければならない。

    そのための一歩目は、このショボンが先導する。

     

    (´・ω・`)「クルウ君、僕に手を貸してくれないか?」

     

    川 ゚ 々゚)「……見くびらないで。 私が何年、あんたに手を貸してきたと思ってるの?

         変人奇人異人呼ばわりされたあたしにこうして天職を与えてくれたあんたの頼みを、あたしが断るとでも?」

     

    (´・ω・`)「恩に着るよ、クルウ」

     

    川 ゚ 々゚)「で、具体的に私は何を手伝えばいいの?」

     

    (´・ω・`)「通訳だ」

     

    そう。

    この世界で、彼女以上に死体と言葉を交わせる人間はいない。

     

    (´・ω・`)「銃弾の出て行った先。

         それを聞いてほしい。

         鑑識くん、風呂場は誰がなんと言おうと、現状維持だ。

         血を流すことも、物を動かすことも、だ」

     

    (HнH)「了解です」

     

    (´・ω・`)「さ、クルウ」

     

    川 ゚ 々゚)「ベッドルームで聞きましょう」

     

    これこそが、この事件の影を暴く第一歩。

    ショボンとクルウは部屋に鑑識班の人間を残して、死体が保管されている船倉に向かった。

    船倉までは、各ブロックにあるエレベーターにあるカードリーダーに、権限の与えられたカードキーをかざすことで行けるようになる。

    二人だけのエレベーターは、途中で止まることなく真っすぐに船倉へと降りていった。

     

    湿った空気の通路を進み、白い蛍光灯が照らす部屋に入る。

    エタノール臭、そして微量の鉄臭。

    白を基調とした清潔そのものの部屋には目立った調度品はなく、書類の乗った机と椅子、そしてベッドが一つだけ。

    部屋の左手には厳重なセキュリティに守られた、クルウの趣味の部屋がある。

     

    数百体の死体が眠る、死体安置所だ。

    オアシズは船だ。

    水葬にせず土葬を望む家族のために保管しているのもあれば、無縁仏故に一年間保管し、海に還すものもある。

    そして、ここはそんな死体を保管する唯一の場所なのである。

     

    全ての死体にはナンバリングがされ、いつどこでどのように死亡し、どのような処置がされたのか。

    それら全てが、このオアシズが持つダットに集約され、管理されている。

    クルウの場合、ダットを使わずとも死体の情報を記憶しているので、余計な手間が省ける。

    案内されるまま、一定の温度を保つように設計されている死体安置所に足を踏み入れた。

     

    蛍光灯が薄緑色の床と白い壁を照らし、部屋の真ん中にあるスチール製の机に乗ったそれを照らしだしている。

    その上に、黒い死体袋に収められた物が置かれていた。

    死体を挟んで向かい側に並び、クルウがチャックを下ろす。

     

    川 ゚ 々゚)「防腐加工済みだから、まだ変化はしていないはずよ」

     

    (´・ω・`)「蛆が湧いてないことを祈るばかりだよ」

     

    袋の中から出てきたのは、写真で見た通りの惨たらしい死体だった。

    早速、クルウが見せてくれたのは右の米神。

    つまり、銃弾が侵入した箇所だった。

    血で固まった髪の毛をどかしてよく観察してみると、火傷の痕が見られる。

     

    至近距離から発砲された証拠だ。

     

    (´・ω・`)「他には何かないのか?」

     

    川 ゚ 々゚)「傷口を見たけど、特には」

     

    (´・ω・`)「反対側は?」

     

    川 ゚ 々゚)「はい」

     

    被害者の頭を反対側に向けて、血に汚れた傷口を見せた。

    確かに、脳みその多くがどこかに消え、乾いた血が顔半分に付着している。

    更に、複雑に折りたたまれた四肢を見る。

    左半身が血に濡れている。

     

    不自然だ。

     

    (´・ω・`)「何かに体ごと頭を押し付けた状態で撃っているね。

         固定された何かの上。

         ……そうか、風呂場か」

     

    始まりはそこだ。

    少し推理すれば、分かることだった。

    まず、この被害者は両足の付け根を切断されてから殺害された。

    ならば、風呂場以外の何処かに大量の血がなければならない。

     

    部屋の中で唯一血が発見されたのは、浴槽だ。

    では、浴槽でどのように殺害したか。

    それも、考えれば分かることだ。

    頭部を固定しつつ、銃弾を隠せる場所は浴槽の中にある。

     

    それは、風呂の排水口だ。

    排水口に銃弾の出口を持ってくれば、脳みそと銃弾を隠すことができる。

    被害者の頭を排水口に押し付けていた証拠が、この左半身についた血だ。

    クルウが言っていた通り、足の付根を切断してから頭を撃ったのならば、必ず血溜まりの中でそれは行われる。

     

    大量の血が流れる浴槽で押し倒し、頭を撃ったのだ。

     

    (´・ω・`)「現場に戻る。

         クルウ、あの風呂場の排水口はどこにつながっている?」

     

    川 ゚ 々゚)「下水処理施設。

          残念だけど、汚水はもう処分されてるわ」

     

    (´・ω・`)「まだ消え去ったわけじゃないさ」

     

    真実は必ず残されている。

    諦めない限り、そう簡単に消えはしない。

    銃弾さえ見つかれば、必ず道は開ける意気込んで現場に戻ろうとしたショボン。

    そしてそれを見送ろうとしたクルウ。

     

    両者が立ち止まってスピーカーに目を向けたのは、同時だった。

     

    『――あーあー、テステス。

    オアシズの皆様、この館内放送は聞こえていますでしょうか?』

     

    機械音声。

    機械の力を使って変換させ、身元の特定を不可能にする装置。

    そんな物、一般人は持っていない。

    そして、館内放送をかける立場の人間が故意に使うものでもない。

     

    『ははっ、驚いてる驚いてる。

    なら、聞こえているみたいだね』

     

    このアクセント。

    この口調。

    間違いなく、フェイス・オフのそれだ。

    そしてそれを知るものは探偵だけであり、この放送が探偵全体への挑戦だと分かった。

     

    ショボンは急いで駆け出し、一階の大通りに向かった。

     

    『昨夜……あぁ、違うね。

    正確に言えば今朝かな。

    この船で、殺人事件が起こったんだ』

     

    一階が近づくごとに、ショボンの心臓は動悸した。

    これが何を引き起こすのか。

    それは、火を見るよりも明らかだ。

    船内全体を恐怖させ、探偵全体を敵にする。

     

    大混乱は、どうあっても避けられない事態だった。

    探偵たちが必死になって食い止めようとした事態を、この放送が引き起こす。

    一階に上がり、そこから交通量の多い大通りに出ると、目の前に巨大モニターがあった。

    高く聳え立つビルの壁面に設置されたそれは、普段は広告やニュースを流すものなのだが、今はガイ・フォークスの仮面が映っていた。

     

    船内放映のジャック。

    次に何が起こるのかを想像して、ショボンは思わず体を震わせた。

     

    『四肢を折られて、目を潰されて、頭を吹っ飛ばされたんだ。 こんな感じにね』

     

    次の瞬間。

    画面が切り替わり、ハワード・ブリュッケンの死体が映し出された。

    極めて解像度の高いカメラで撮影されたその画像は、当然、モザイク処理などは一切されていない。

    脳みそが飛び出て、血の風呂に浸かる奇妙な肉の塊。

     

    一瞬の出来事に、人間の死について経験と認識の浅い誰もが目を疑い、誰もが現実を直視しようとはしなかった。

    あまりにも唐突過ぎたため、脳がそれを現実として処理していいものかどうか判断を迷ったのだ。

    何の前触れもない、突然の非現実。

    次の一言が、これを現実として認識する必要性を人々に与えた。

     

    『そして、これは始まりに過ぎない。

    私はまだ君たちと同じ船の中。

    次は誰か、楽しみだね』

     

    半瞬の静寂があった。

    そして、悲鳴があちらこちらから上がった。

     

    (´・ω・`)「……やられた」

     

    ――捜査も、何もかもが振り出しに戻った瞬間だった。

     

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                    ‥…━━ August 4th AM10:13 ━━…‥

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    殺人現場の映像が流れた瞬間、視界内にいた探偵達が驚きの表情を浮かべる顔が観察できた。

    実に面白い表情をしていた。

    意気がって集まって解決できると思い上がっていた連中の思惑をくじくことほど、面白いことはない。

    所詮は素人集団。

     

    千人集まろうが関係ない。

    思考で一歩先を行く人間に、敵うはずがない。

    折角の推理ごっこのところ申し訳ないが、こうしてやったほうが、もっと有意義な時間になる。

    すなわち、乗客全員が恐怖に慄き、誰もが疑心暗鬼になる状態。

     

    この緊張感がたまらないのだ。

    大規模になればなるほど、この空気はその旨みを増す。

    一昔前はホテルなど、とても小さな領域でのみ見られたこの現象を、街一つを利用して引き起こす。

    こんな贅沢、普通は経験できない。

     

    オアシズが船だからこそ出来る演出だ。

    この演出は、世界中にいる全ての探偵達が憧れ、焦がれ、そして求めた物。

    つまり、彼らが最も力を出さざるを得ない状況なのだ。

    これは夢。

     

    そう。

    彼らにとっての、夢なのだ。

    その夢が叶ったことに気づくのに、そう時間はかからないだろう。

    勘のいい探偵はもう気づいているはずだ。

     

    自分が興奮していることに。

    これまでで最も胸を高鳴らせ、最も生き甲斐を感じていることに。

    探偵だからこそ分かる、この旨味。

    抗う術はない。

     

    彼らが探偵であれば、それは絶対だ。

    この舞台。

    容易に崩すことはできない。

    偽りを虚無に還すと言われる名探偵でさえ、例外ではない。

     

    これだけの混乱の中、デレシアは果たして冷静でいられるだろうか。

    昨夜は見事にしてやられたが、今回はそうはいかない。

    逃してなるものか。

    ブーンを恐怖の中に陥れ、そして、屠る。

     

    彼の最期の味を堪能し、それから残った二人を殺す。

    そうして、不安要素を全て排除した後に計画の核心部を実行に移すだけだ。

    つまり言い換えれば、この騒動は全てあの少年のために用意したものなのだ。

    この惨劇はまだまだ続けなければならない。

     

    あの少年を殺す、その瞬間までは。

     

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          !              ノ、_j j

                    ‥…━━ August 4th AM09:43 ━━…‥

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    大型モニターで惨状が映し出される三十分前。

    ブーン達は第二ブロックにある大型マーケット内にあるカフェで茶を飲んでいた。

    食後の散歩を兼ねた街の見学。

    街を通じて人との対話力を身につけさせるための、デレシアの図らいだった。

     

    ――と言うのは建前で、本当の目的は追跡者の目的を知ることだった。

    もちろん、対話力を養うことを蔑ろにしているわけではない。

    彼の成長には必要な工程だし、それは人間として身につけておくべきことだ。

    部屋の中に閉じこもっていても、見えるのは壁ぐらいなのだから。

     

    人間と接することが苦手なブーンを外に連れ出し、より多くの人の目に触れさせる。

    そうすることで、彼は人の目を気にすることがこれまでよりも少なくなり、より自由に世界を見ることができるようになる。

    人間的な成長を望める機会を逃す訳にはいかない。

     

    (∪´ω`)φ″「こーひー、こうちゃ、あかわいん。

             おー……すていん?

             やむちゃろーで、めっちゃうまかろーお……お?」

     

    ノートとペンさえあれば、そこがブーンの勉強の場となる。

    今彼にやらせているのは、目についたものの単語を書かせることだ。

    早速彼が書いているのは、この店のメニュー表。

    きっちりとレイアウトまで似せて書き写し、なおかつ字体まで似せている。

     

    案外細かい性格をしている。

     

    ノパ⊿゚)「そうそう。 コーヒーのスペルは間違えやすいから気をつけろよ」

     

    アイスコーヒーに浮かんでいた氷は全て溶け、味も香りも薄まっていたが、ヒート・オロラ・レッドウィングは気にも止めていなかった。

    デレシアも自分で注文した飲み物にはほとんど手を付けず、ブーンが単語を書く様子を見守りつつ、周囲の気配を探っていた。

    不穏な気配は感じ取れないが、不快な気配は感じ取れる。

    ブーンもそれに気づいたのか、顔を上げて、その方向に目を向けた。

     

    £°ゞ°)「おや、奇遇ですねお嬢さん」

     

    ベージュのジャケットに赤いネクタイ。

    金色の薔薇が付いたタイピン、そして過度なまでの香水。

    左右に分けた黒髪と、目尻の垂れた碧眼がその高慢な性格を表している。

    右腕にはめた金色の腕時計を見せつけるために、わざとらしく大げさな仕草で時間を確認する。

     

    今、このタイミングで時間を確認する必要はない。

    己の財力を見せつけるための演技でしかない。

    男の名はオットー・リロースミス。

    第二ブロックを統治するブロック長だ。

     

    三人が座るテラス席の傍に立ち、ブーンの手元を覗きこむ。

     

    £°ゞ°)「ほぉ、勉強中だったのか」

     

    (∪´ω`)゛

     

    £°ゞ°)「単語の書き取りとは、偉いじゃないか。

          しかし君は真似して書くのが上手いなぁ」

     

    感心した風な態度をしているが、その目はブーンからデレシアにチラチラと向けられている。

    ブーンに興味を示している自分に興味を示してほしいという現れに、デレシアは呆れ果てた。

    ここまで単純で猿のような人間はそう滅多に見られない。

    害悪になるには貧弱だし、そこまでの悪人ではないというのがこれまた嫌な部分だった。

     

    使いようによっては便利な人間だが、興味が一ミクロンもない以上、関わり合いになるのは時間の無駄であり、デレシアは時間を無駄にしない主義だった。

    クロスワードパズルでもやらせて、ブーンの学力向上と語彙力の向上を考える方がよっぽど有意義だ。

     

    £°ゞ°)「どれ、私の勉強にも手を貸してくれないかな?」

     

    机の上にロミスが置いたのは、スウドクと呼ばれる数字のパズルだった。

    縦横ともに九の倍数のマス目があり、そこに数字を当てはめるというシンプルなもの。

    しかし、難しいのはその数字が被さらないように空欄を埋める作業で、時間潰しと推理力を鍛えるにはいい道具だ。

     

    £°ゞ°)「このページなんだが、さっぱりでね。

          どうだろう、できるか――」

     

    縦横五十四マス。

    難易度は中級といったところか。

     

    (∪´ω`)φ″

     

    ルールは聞いていなかった。

    ページを見たのは一瞬だった。

    後はただ、数字を書くだけだった。

    ブーンが取った行動は、見て、そして書く。

     

    この二つだけだ。

     

    (∪´ω`)「これで、いいんですか?」

     

    £;°ゞ°)「な?」

     

    ロミスとしてはからかうつもりで見せた問題だったのだろう。

    軽はずみな行動だったが、しかし、それが思わぬ結果を導いた。

    ルール説明もなく、ただ見せられた数字の羅列。

    そこから法則性を見出し、そして一瞬で解いたのである。

     

    ロミスが我が目を疑うのも当然だ。

    数字を見ただけで全てを理解する子供など、そう滅多なことでは見られない。

     

    ζ(゚ー゚*ζ「すごいじゃない、ブーンちゃん!

          全問正解よ」

     

    ノハ*^^)「偉いぞ!!」

     

    *∪´ω`)「えへへ……」

     

    照れ笑いを浮かべるブーンの頭を、ヒートが撫でる。

    傍らで見守っていたデレシアは、温かさを欠いた笑顔をロミスに向け、礼を言った。

     

    ζ(゚ー゚*ζ「どうもありがとう。

          さ、ブロック長のお仕事に戻ってください」

     

    £°ゞ°)「……そうさせていただきましょう」

     

    スウドクの本を持って、引きつった笑いを浮かべながらロミスはいそいそと退場した。

    それから三十分後。

    悲鳴のした方向に目を向け、デレシア一行もその事件を知ることとなった。

    ただし、三人が全員感じたのは恐怖ではなかった。

     

    ――それは、純粋な興味だった。

     

    ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

                    ‥…━━ August 4th AM10:30 ━━…‥

    ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

     

    一日に二回も探偵会議が開かれることは、異例中の異例だった。

    探偵達が約六時間で集めた全ての情報、そして推理を共有して挑む必要があったからだ。

    これは形式的な物ではなく、突発的に行われた会議の為にほとんどの人間が仮面をつけていなかった。

    重い空気の漂うフォアローゼスの店内は緊張感に満ち、焦りのようなものもあった。

     

    最初に口火を切ったのは、ノレベルト・シューの弟子と呼ばれた長身痩躯の若い男、コーヒー色の肌が特徴的なセヤカーテ・クドゥ。

    クドゥは黒革の手帳を一瞥してから、全体に向けて声を発した。

     

    「被害者の体に残されていた手形。

    大きさは一般の成人男性よりもでかかった。

    つまり、犯人は相当な力を持つ人間、もしくは強化外骨格、即ち“棺桶”を使用した可能性が非常に高い」

     

    “ドクター・ストレンジラブ”が彼の横で頷く。

    最重要人物であるノレベルト・シュー“フェイス・オフ”、もしくは犯人が内部犯である可能性が高いことが認識された瞬間だった。

    もともと、死体がおかしな形に折り曲げられていた時点では、腕力に物を言わせた犯行だと思われていた。

    しかし、そうなれば犯人の体躯はノレベルト・シューからかけ離れ、新たな容疑者を探さなければならない。

     

    彼女の体躯問題を解決するのは、“棺桶”だった。

    そして全ての武器――“棺桶”を含む――は全て乗船時に預けられ、倉庫に格納される。

    その倉庫を開けることが出来るのは預けた本人のカードキーだけ。

    オアシズの警備を担当している人間に銃が貸与されていることは周知の事実だが、“棺桶”となると話は別だ。

     

    分厚い鋼鉄の扉と厳重な警備システムに守られた武器庫。

    そこに保管された“棺桶”を使用できるのは、権限の与えられたカードを持つ内部の人間だけなのだ。

    更に、その権限を持つのは警備担当者を含んだ、ブロックの安全を担当する者達だ。

    探偵でさえ与えられていない権限を行使して秘密裏に“棺桶”を運べるのは、内部の人間を除いて他にいない。

     

    「武器庫の使用履歴を確認したが、ハワード・ブリュッケンの物が最後に残されていた。

    犯人につながる情報はなかった」

     

    クドゥの発言に食いついたのは、ショボン・パドローネ。

     

    (´・ω・`)「目撃情報は?」

     

    「ない……と、言いたいところだが、二つあった。

    一つは大きな荷物を運ぶハワードの姿、その後に見慣れぬ清掃員が船倉に向かい、これまた大きな荷物を運ぶ姿が見られた。

    しかし、両者ともに白だ」

     

    (´・ω・`)「理由は?」

     

    「ハワードに関しては忘れ物を取りに戻った事が確認されている。

    カードの使用時間と照らし合わせても辻褄が合う。

    後者は時間だ。 清掃員は午前二時に目撃されている」

     

    なるほど、とショボンは頷く。

    完全に無関係とは言いがたいが、その清掃員の情報を記憶しておくことにした。

    手に入れた目撃情報は、犯人の特定には繋がらないだろう。

     

    (´・ω・`)「銃弾のことだが、まだ見つかっていないのかい?」

     

    警察に所属する鑑識の代表者が答える。

     

    (HнH)「はい。 ですが、微量ながら硝煙反応を浴槽で確認しました。

         おそらく、銃弾はその先にあります」

     

    「銃弾?」

     

    (´・ω・`)「死体から発見されていないんですよ。

         奇妙だと思いませんか? あれだけ凄惨な現場で、あるはずのものがない。

         もしやと思って、浴槽の排水口を調べさせたんです。

         ビンゴだった」

     

    訝しげに眉を顰めるクドゥ。

     

    「そんな不確かな物に時間を割くのか?

    なら、ノレベルト・シューを探した方が……」

     

    (´・ω・`)「おいおい、それはないだろう。

         探偵っていうのは一つの証拠から真実を引きずり出すのが仕事。

         この銃弾が彼女につながるんだよ」

     

    「……そうか、線条痕か!!」

     

    現代で使用されているほとんどの銃には、その銃身内にライフリングと呼ばれる螺旋状の溝がある。

    発砲の際に銃弾が安定して飛ぶことを目的に発明されたそれは、同時に、銃にある物を与えた。

    銃弾に刻まれる溝。

    それは、銃の指紋とも呼ばれる一丁毎に違う溝だった。

     

    オアシズが所有する全ての銃は線条痕の登録が済まされており、つまり、銃弾さえ見つかればそこから線条痕を調べて殺害に使われた銃の持ち主の特定が出来るのだ。

     

    (´・ω・`)「だから探すんだ。

          例え偽りと汚物にまみれた小さな証拠でも、そこから真実を探すのが僕らだ。

          それが探偵じゃないのか?」

     

    ショボンの一言に、その場の全員が深く同意した。

    時間的な猶予がなく、決定的な証拠もない。

    それは全員の認識だ。

     

    (´・ω・`)「……挑んでやろうじゃないか。

         この偽りに、僕達探偵のプライドを懸けて」

     

    店の扉を押し開け、ショボンが宣言する。

     

    (´・ω・`)「さぁ、真実を語る銃弾探しの始まりだ」

     

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                    ‥…━━ August 4th AM11:15 ━━…‥

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    探偵達は予定通りに動き始めた。

    驚くほど単純な集まりだ。

    こちらの意のままに動くその様子は、意思を持った操り人形そのもの。

    自らの意思で動いていると錯覚し、勘違いした哀れな道化だ。

     

    斯くして探偵達の目は一発の銃弾に向けられたわけだが、そんな物を追ったところで辿り着くのはこちらの用意した真実だ。

    そしてその真実が辿り着いた先にあるのは、更なる謎。

    もちろん、その謎もこちらが用意したものだ。

    確かにあの銃弾を追えば、こちらに辿り着くことも可能だ。

     

    しかし、その頃にはこちらの目的は達成されている。

    だが。

    もしもこの謎が解ける者があれば、ぜひともお目にかかりたい。

    複雑に張り巡らせたこの大掛かりな謎。

     

    この船にいる探偵達に果たして解けるだろうか。

    あの様子を見る限りでは、不可能だ。

    そして。

    そして何より。

     

    “武装した”人間がこうして警備兵詰め所に侵入している点で、最早止められる者はいないのだが。

     

    『そして願わくは、朽ち果て潰えたこの名も無き躰が、国家の礎とならん事を』

     

    完全に気を抜いていた警備兵達の中心で口にしたのは、軍用第三世代強化外骨格、通称“棺桶”の起動コード。

    最も現存するBクラスの傑作軍用強化外骨格、“ジョン・ドゥ”。

    その機能性、そして汎用性は傑作機の名に相応しい。

     

    ('l')「な、な?!」

     

    〔Ⅲ゚[::|::]゚〕

     

    ダットサイトとサプレッサーを取り付けたH&K HK417を肩付けに構える。

    この間、十二秒。

    装着に十秒、そして構えと照準に二秒。

    棺桶の使用期間にラグがあった為か、少しだけ腕が鈍っている。

     

    しかし、この警備体制ならば問題はない。

    銃口の先、ダットサイトの赤い点が重なる先にいる男の手には傑作突撃銃カラシニコフ。

    だが銃把を握って人差し指がトリガーガードにかけられており、安全装置も掛かっている。

    更に、十分間の観察の末、誰一人として対棺桶用の武器を持っていなかった。

     

    銃弾も通常の規格通りで、この装甲を短時間で貫通できるものではない。

    予め手は打ってある。

    後は銃爪を引いて殺すだけだ。

     

    (`l`)「こ、こいつは……?!」

     

    〔Ⅲ゚[::|::]゚〕

     

    一人目はカラシニコフの安全措置を解除する間もなく頭を吹っ飛ばされ、隣にいた二人目は肺を撃ち抜いた。

    そして、時速百マイルに達する脚力を駆使して前方へ疾駆。

    握り固めた左拳を振りかざし、その速度と硬度のみで三人目の肋骨を粉砕し、背骨を破砕する。

    その推進力を活かし、人が密集している二時の方角に一躍し、飛び蹴りで四人目の顔面を踏み潰した。

     

    着地し、薙ぎ払うように片手でライフルを撃つ。

    急所に当たらずとも、防弾チョッキを身に着けていない人間を行動不能にするには十分だ。

    血を撒き散らしながら倒れる男たちの悲鳴と真鍮製の薬莢が地面を叩く音が、一つの音楽となる。

    三十発入りの弾倉が一つ空になり、人差し指で弾倉を落とす。

     

    (●ム●) 「奴は弾切れだ!!」

     

    コルトを構えると同時に男は発泡した。

    狙いはジョン・ドゥの中で最も装甲の薄いヘルメットだ。

    自分ならそうするし、マニュアルにもそう書かれている。

    だから、左足を軸に回転しつつ体を低く屈めて弾を避け、新たな弾倉をチェストリグから取り出し、装填した。

     

    〔Ⅲ゚[::|::]゚〕『エイムサポート、オン』

     

    音声コントロールを使用し、カメラと腕部サポートを連動させる。

    あまり知られていないが、ジョン・ドゥを始めとする多くの棺桶にはカメラが捉えた動的物体に対して自動的に狙いを付ける機能が備わっている。

    個体差はあるが、ジョン・ドゥは最長で連続二時間の使用が可能だ。

    狙いが定まり次第、ただ銃爪を引くだけで弾は最適な方向に飛んで行く。

     

    これだけ人間が一箇所に集まっている時には、自ら狙うよりもよっぽど効率がいい。

    まして相手は豆鉄砲しか持っていないのだ。

     

    -゚ぺ-)「CQCQ!!」

     

    一手目。

    無線の封鎖。

     

    ::,J,::)「退避して武器庫に!!」

     

    二手目。

    各出入口の封鎖。

    もちろん、ライフルの収納されているロッカーもだ。

    これで、この詰め所は“詰み”だ。

     

    どうしようもないと理解した時、彼らの顔から滲みだす絶望の味がよく分かる。

    銃弾を涼しい顔で受けながら、カメラをライフルの銃身下部に取り付け、今の状態を船内に伝える。

    ここからが面白いのだ。

     

    〔Ⅲ゚[::|::]゚〕『お楽しみの時間だ。

          なぁ、探偵さん達よ。

          この瞬間を待っていたんだろう?

          私に殺される哀れな奴が現れるのを』

     

    たった一発の銃弾を躍起になって探す彼らに、ささやかなプレゼントだ。

    死体に残す百二十発以上の銃弾。

    それが撃ち込まれる様まで見せてやる特典付き。

    是非とも堪能してもらいたいものだ。

     

    そして、疾走した。

    拳銃で立ち向かってくる男たちをひとりずつ撃ち殺し、武器を捨てて逃げる者は追いかけて拳足で殺した。

    極力丁寧な撮影を心がけ、一発で殺す事のないように悲鳴を重要視して仕事を続行する。

    血が派手に吹き出すように、肉片が飛び散るように急所を外して撃つ。

     

    足を撃たれて転倒していた男の傍に屈んで、じっとその目を見る。

     

    ::,J,::)「や、やめ……!!」

     

    〔Ⅲ゚[::|::]゚〕『……家族は?』

     

    ::,J,::)「む、娘と妻が」

     

    〔Ⅲ゚[::|::]゚〕『そうか』

     

    下顎を掴み、握り潰す。

    その様子はばっちりとカメラが撮っている。

    血と肉を吹き出しながら、男が悲鳴を上げて悶絶する。

     

    〔Ⅲ゚[::|::]゚〕『訊いただけだ』

     

    踵で下腹部を踏み潰し、より大きな悲鳴を上げさせた。

    この様子を見て、そろそろ警備隊達が大挙して押し寄せてくることだろう。

    しかし、捕まえることはおろか、辿り着くこともできない。

    こちらが戯れに打った程度の手を読めない人間には、不可能なのだ。

     

    惜しいが時間がもうない。

    生き残った人間を追って、一撃で殺し始める。

    脳、心臓。

    まるでゲームのようで、面白みにかける殺しだ。

     

    殺しとは命を奪う行為。

    ゲームであってはならない。

    もっと高尚で、もっと素晴らしい禁忌なのだ。

     

    〔Ⅲ゚[::|::]゚〕『では、次の配信を待つといい。

          さようなら、探偵諸君』

     

    詰め所に居合わせた不運な三十二名は、こうして、たった一人の棺桶持ちによって殺されたのである。

    この場から離脱するために振り返り、視認し、硬直し、認識し、歓喜し、そして失笑した。

     

    (∪´ω`)「お?」

     

    ――ここに到達できる人間は即ち、こちらが待ち望んだ人物に他ならないのだ。

     

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    ー――――――´:::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::',:::::::::::::::::::::::::::To be continued!!

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