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第三章【curse -禍-】

  1. 名前: 歯車の都香 2017/04/15(土) 21:16:00
    第三章【curse -禍-】

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        【覚悟なき者は今を変えられず、力なき者は何も変えられない】

       ./ /    /:::::::'"  ノ

       ./     /::::::i´、ノ ,/ヽ

      ///  /, /::::::::`ァ‐'"  ,.ノ         ――イルトリアの諺

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    それは、筆から染み出る墨の濃淡色の空だった。

    夏だというのに冷たい風が吹きすさび、大粒の雨が真横に吹き付け、唸り声を上げる。

    北から南に吹いていた風が西に傾いたかと思えば、東に切り替わる。

    風に翻弄される雨粒が互いにぶつかり、弾け、雲の下の景色は白んで見えた。

     

    なだらかな勾配に沿って敷き詰められた石畳の溝を、泥の混じった茶色い水が流れ落ち、小さな川を思わせる。

    その水は坂を下り、街を通り、海へと流れ込んだ。

    海面は水しぶきで白く泡立ち、防波堤に打ち付けられ細かく砕けた海水が強風に煽られて街に降り注ぐ。

    嵐に耐え凌ぐ柳のようなポートエレンと比べて、船上都市オアシズは島の様にどっしりと構えて嵐を迎えた。

     

    世界最大の客船にして船上都市オアシズの船長、ラヘッジ・ストームブリンガーには、一つのジンクスがあった。

    嵐の運び手という名が示す通り、高い確率で彼の航行には嵐が付いて回ると云うものだ。

    着任当初、同僚からはその名をよくからかれたものだが、今では冗談では済まされないほどの確率で、彼と嵐は親密な関係になっていた。

    酷い時には、狂ったレーダーのせいで運悪くバミューダトライアングルの近くを通り過ぎたこともあった。

     

    バミューダトライアングルとは、プエルトリコ島、フロイデルタ島、そしてバミューダ島を結んだ三角形の海域の呼び名である。

    その周囲は常に大嵐と濃霧が停滞し、海底から生える剣山のような岩礁があらゆる船の船底を貫く危険な場所だ。

    人魚に幽霊船、ヒトガタなど船乗りに語り継がれている伝承は多くあるが、その中でもバミューダトライアングルは数少ない真実の一つだ。

    船乗りでその名を知らぬ者はおらず、畏れぬ者も、またその海域より内側を見て生き残った者は誰一人いない。

     

    今から溯ること七世紀前、その海域で五隻の漁船が船だけを残して消えた。

    この奇怪な事件が公になって以降、バミューダトライアングルの傍を通るだけでも、船乗り達は怯え竦んだ。

    その二か月後、伝説としか思えないその現象を解明しようとした二十五の調査船が、やはり、船だけを残して洋上を漂っているのを発見された。

    無線が途絶える前、船員と交わした会話に変わった様子はなかったと当時の記録にある。

     

    これがきっかけとなり、伝説は真実として世界中に広まった。

    霧の中には未発見の街があって、船員全員が拉致されたのだと大々的に発表した大学教授もいた。

    が、その説があり得ないことは誰もが分かっていた。

    現代を語る上では欠かせない太古の人間が残した膨大な情報には、そのような街は載っていないのだ。

     

    あらゆる知識も知恵も、世界で最初に発掘、復元された“ザ・ブック”と名付けられたデジタル・アーカイブ・トランスアクターが現代に与えてくれた。

    偉大な恩恵は生物の情報ではなく、発掘された太古の技術の修復方法が載っていた事だった。

    ダットのおかげで、この世界に未知があるとすれば、深海生物ぐらいとなっている。

    ところが、バミューダトライアングルについてはダットにも載っていない、全く未知の情報なのだ。

     

    記載がないこともなかったが、眉唾物な異次元説や、宇宙人説などの風説だけ。

    未知の存在というだけで脅威なのだが、バミューダトライアングルについてはそれだけでは終わらなかった。

    バミューダトライアングルの正確な位置については、実のところ、あまり分かっていないのだ。

    過去確認された現場が、プエルトリコ、フロイデルタ、バミューダ島を結んだ三角形の海域だっただけで、第一回の調査船団失踪以降、同じ現象は確認されていないのだ。

     

    二回目となる調査船団が現場に到着した時には、そこには、船の残骸しかなかった。

    岩だらけの小島への上陸が試みられるも、船は乗組員と共に海の藻屑と化したのだと、簡単に推測された。

    やはり生存者はおらず、残された船の残骸がかなり細かな破片となって海面を漂っているだけだった。

    こうして、霧の有無に関わらず、バミューダトライアングルには近づいてはならないということが船乗り共通の認識の一つとなったのである。

     

    ラヘッジは三段になっている操舵室の最上段から、強化ガラスの向こうを見た。

    黒雲から降り注ぐ雨粒は雨粒として視認できず、線としてしか確認できない。

    海面は白く泡立ち、空は今にも落ちてきそうだ。

    水平線の向こうが時折、雷光で白く輝く。

     

    間もなく、その光が音を伴ってオアシズの直上に到達するだろう。

     

    「ヨセフ、蓄電針を上げろ。 それから……」

     

    「アイ、キャプテン。 ホットウィスキーは後でディアナが持ってくるそうです」

     

    ヨセフ・ガガーリンは飲み込みが早く、勇気も持ち合わせている船員だった。

    落雷を蓄える機能を備えた避雷の役割を持つバルーンは、ラヘッジの言葉よりも早く上空に向けて射出されていた。

    直後、空が白に染まり、雷光が暗闇を全て照らし出した。

    だが。

     

    だがしかし、空の果てに一瞬だけ見えた極小のビル群に気付いた人間は、誰もいなかった。

     

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    AmmoRe!!のようです

    Ammo for Reasoning!!

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    耳付きと呼ばれて蔑まれ、痛みが日常と化していた時のことは、今でも鮮明に思い出せる。

    最初は理不尽だと思っていた時もあった。

    しかし、ほどなくしてそれが当たり前のことであると認識した時、理不尽と云う名前の感情は消えた。

    残ったのは、痛みと理由の分からない悲しみだけだった。

     

    それが当たり前でなくなったのは、四日前の七月三十一日の事。

    デレシアと出会い、そして、力が全てを変える様を目の当たりにした日の事だ。

    あの日を境に、ブーンは知ることとなる。

    世界は、力によって変えることが出来るのだと。

     

    彼女は多くの事をブーンに与え、そして教えてくれた。

    言葉、常識、知識、見識。

    これまで閉ざされていた情報が濁流となって、ブーンの乾いた知識欲を潤した。

    知識欲は満たされることなく、増加する一方だ。

     

    デレシアとヒート・オロラ・レッドウィングは、その知識欲に対して十分すぎるほど答えてくれている。

    欲望を満たしてくれることを抜きにしても、ブーンは二人の事を大いに好いていた。

    感情に名前があることを教えてくれたのも、まだ知らなかった感情を与えてくれたのも、彼女達だった。

     

    (∪´ω`)

     

    “お礼”、という言葉は知っていた。

    意味も、使い時も。

    それを教えてくれたのは、ペニサス・ノースフェイスという老婆だった。

    今はもう、ペニサスに会うことも教えを乞うことも出来ないが、彼女はブーンにとって初めての“先生”であることは不変の事実だ。

     

    “お使い”、という言葉はデレシアが教えてくれた。

    銃の使い方を教わった後、シナー・クラークスにお礼をしたいと、デレシアとヒートに言い出したのがきっかけで知った言葉だ。

    彼は特に理由もなく、ブーン達に餃子を無償で提供してくれた。

    人が無償で行動するその背景には何かしらの理由があるものだと思っているが、彼の行動からはその狙いが見えなかった。

     

    純粋に、餃子をブーン達に渡したかったかのような、そんな気さえする。

    しかし、貰うだけという関係は、どうにも心苦しかった。

    何かお礼がしたい、とブーンが思うのは自然な流れであった。

    お礼には気持ちを込めて、とはヒートの言葉だった。

     

    単純なお礼なら、何か高額な品物、もしくは同価値の品物を買えばいいだけの話だ。

    それにはデレシアも同意した。

    あれだけ美味な餃子をご馳走になったのだから、こちらも、それに答えなければならない。

    料理人が喜ぶお礼とは、金やお礼ではなく、美味い料理だとデレシアは補足した。

     

    そこで、ブーンは料理をすることになった。

    初めてでも美味しく作れる料理、そして、相手が食べる時間帯を考慮した結果、クッキーになった。

    クッキーを作るのは勿論だが、料理を作ること自体、ブーンにとっては初めての事だった。

    料理が如何なるものか、それが如何に難しく、如何に人を感動させるかは分かっている。

     

    やることを決めたブーンの行動は素早かった。

    デレシア達と共に、スーパーマーケットに出向き、必要な食材を購入。

    エプロンを付け、二人に手ほどきを受けながら、丹精込めて生地を仕込んだ。

    生地をこねる中、デレシアはブーンに重要な事――料理の秘訣――教えてくれた。

     

    料理は愛情である、と。

     

    愛情とは何か、とブーンは尋ねた。

    愛情と云う名が示す通り、そこには愛があるのだと考えたのだ。

    ペニサスから出された課題である“愛の意味を知る”ことに、一歩近づけるのではないかと。

    デレシアが返したのは、微笑だけで、言葉ではなかった。

     

    生地をオーブンに入れ、時間が来るまでの間、ブーンは銃の使い方を改めて教わった。

    銃の構造は大凡であるが理解し、使い方はよく分かった。

    壁にあった銃の名称は全て記憶し、その特徴はヒートが簡潔に説明してくれた。

    興味をそそったのは、グロック、という名の拳銃だった。

     

    撃鉄がなく、撃針がある。

    トリガーに凝らされた技巧。

    名の後ろに付く数字によって変化する特色とサイズは、拳銃の可能性を大きく広げた。

    だが、興味はあったが好きにはなれなかった。

     

    フルオートでの発砲が可能なモデルがあると言うのも聞いたし、小型のモデルもあることも聞いた。

    しかし、これは人の命を奪うための道具だ。

    その道具がこんな簡潔な形をしている点が、どうしてもブーンは好きになれなかった。

    撃鉄を起こす動作は覚悟を決めるための瞬間であり、最後の警告でもあると認識している。

     

    それが欠けた拳銃は、どうしても使いたくなかった。

    結局のところ、気に入る銃は見つからなかった。

    ワルサーという拳銃を試し終えた時に、オーブンがクッキーの仕上がりを知らせた。

    出来上がった不格好なクッキーを試食してみると、とても甘く、美味しく焼けていた。

     

    ヒートはクッキーを食べるのに苦労していたが、とても美味しそうに食べてくれた。

    ブーンはそれが嬉しかった。

    無力な自分が、初めて、ヒートを笑顔にできた。

    ただただ、それが嬉しかった。

     

    出来上がったばかりのクッキーを袋に詰めて、ブーンはシナーにそれを届けようとした時、デレシアが言ったのだ。

    “せかっくだから、一人でお使いに行ってみましょう”、と。

    斯くして、ブーンは初めてのお使いに行くこととなり、緊張と期待を入り混じらせた気持ちでシナーにクッキーを届けたのであった。

    彼の反応に満足したブーンは、エスカレーターで来た道を戻る途中だった。

     

    その人物に出会ったのは、そんな、胸が暖かな気持ちになっている時の事。

     

    ;∪´ω`)「……っ」

     

    第一印象は、冷徹な男だった。

    漂う冷ややかな雰囲気は人とは異なり、兵器のそれに近い。

    オールバックにした夜色の髪に、皺一つ見当たらない漆黒のジャケット。

    両眉から両頬付近まで伸びるのは、獣の爪でつけられたような深い切創。

     

    その下にある黄金瞳は、金貨のようなその輝きを失わず、そこにある。

    しかし、その瞳が見つめる先にあるのは百戦錬磨の剛の者ではなく、案内図の映された電子看板だった。

    腕を組みながら何度も看板の文字を、眼を細めながら睨みつけては首を傾げ、唸り声に似た小さな声を喉の奥から発している。

    ジャケットを下から押し上げる筋骨隆々とした体つきは、見かけ倒しではなく、機能的かつ実戦的な作りをしていることが一目で分かる。

     

    掌と顔に皺のように刻まれた古傷。

    特に、拳の傷は傷の上に傷を重ね、より強固な皮膚が出来上がっている。

    身の丈はデレシアよりも頭一つ分大きく、体重は倍近くありそうだった。

    歳は六十代、もしくは七十代前半だろう。

     

    ( ФωФ)「……」

     

    分かることが三つある。

    一つは、この初老の男性は只者ではない事。

    もう一つは、この男性は困っている――具体的に言えば、道に迷っている――事だ。

    そして最後に、この男性は人を殺したことがある、と言う事だ。

     

    (´ФωФ)「……むぅっ」

     

    しかし、その雰囲気から誰も声をかけようとはせず、逆に距離を置いている有様だ。

    以前までのブーンなら、恐れをなしてデレシア達の元に帰っていただろう。

    今は以前とは違う。

    声をかけてみようかと思案できるほどに、ブーンは行動的な思考が出来るように進歩していた。

     

    だが怖い物は怖い。

    出来れば、知らぬふりをして素通りしたいところだ。

    それでも、ブーンは五ヤードの距離から動かずに様子を窺っていた。

     

    ( ФωФ)「……おい、そこの小僧」

     

    視線に気づいた男が、視線を看板から外さず、ブーンに問う。

    無言で逃げる道もあった。

    適当にはぐらかす、もしくは走って逃げる手段もあった。

    男の声が雄弁に逃亡を禁じなければ、の話だが。

     

    その重低の声は嗄れ、獣の唸り声に似ていた。

    年老いた獣の王。

    そんな印象が、直ぐに頭に浮かんだ。

     

    ( ФωФ)「道案内をしてくれないか?」

     

    ;∪´ω`)「え?」

     

    ( ФωФ)「……見えんのだ。

           看板の字が」

     

    ブーンには看板の字が良く見える。

    しかし、文字を読むとなると話は別だった。

    文字列の中には読める字もあれば、読めない字もあった。

    そんな状態で道案内となると、共に迷う可能性が高い。

     

    男の声は優しげでも、恐ろしげでもない。

    一歩扱いを間違えれば無言で襲い掛かってくる獣を思わせるだけだ。

     

    ;∪´ω`)「お……おぅ……」

     

    ( ФωФ)「そのために、そこで見ていたのではないのか?

           なぁ? 仔犬の様に怯えずとも、吾輩は襲ったりはせん」

     

    意外な言葉がかけられた。

    自分で理解できていなかった部分を解説された気分だった。

    男の言う通り、逃げようと思えば逃げられた場面で、ブーンは立ち止まって見ていた。

     

    ( ФωФ)「傍観ではなく、介入の機会を窺っていたのだろう。

           で、どうするね?」

     

    傷だらけのゴツゴツとした武骨な手が、自然に差し出される。

    男はもう、何も喋ろうとはしなかった。

    無言のまま、その黄金瞳が静かにブーンを見据えるだけ。

    小走りで近づき、ブーンは、男の手を握った。

     

    その手は、力強くブーンの手を握り返した。

     

    ( ФωФ)「吾輩はロマネスク・オールデン・スモークジャンパー。

           ロマネスクと呼んでもいいが、ロマと呼べ。

           近しい者は皆そう呼ぶ」

     

    (∪´ω`)゛「ブーン、です。 ロマさん」

     

    ロマネスク・O・スモークジャンパーとの出会いは、荒れ狂う海の上、船上都市オアシズの第四ブロック十階、レヒツ・ダイナモ通り。

    八月四日の、嵐の日の事であった。

     

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                         _,,----,,∠ i!i   ii! }i!{ \ \:i!::::::i!:::::::i!ii!ii!i!::::::::::::::::::

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               _,,-'' ̄        /,! /,)       \__. \   ヽii! 丶圭圭圭:::::::i!i!i::::::::::::

                       Y }i!{_/ }i!{/ /"`ヽ _  \ \ i   |   第三章【curse --

                      _,,'''___Y.}i!{ /./i!  / \\.. \λ !  .| |:::::::i!i!!i!::圭圭:::::::::::::

               ,,,-'''       / }i!{ //}i!{ //`) \l   | `┘ |i!i! |:ii!:::::::::::::::::::::::::::::::

                    ‥…━━ August 4th PM16:09 ━━…‥

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    デレシアは久しぶりに頭を使って一つの物事を考えていた。

    テーブルを挟んで向かいに座るヒート・オロラ・レッドウィングも、同様に頭をひねっていた。

     

    ζ(゚、゚*ζ「コルトは論外。 グロックは気に入っていなかったわ」

     

    ノパ⊿゚)「ワルサーもマカロフ系も駄目だったな。

        でも、複列弾倉は必要だからなぁ」

     

    議題は、ブーンの使用する銃についてだった。

    シューティングレンジで一通り銃を使って、その感想をブーンに聞いた結果から最適な銃を割り出そうとしているのだが、これが難しかった。

    小型で弾数が多く、シンプルな構造で弾の調達が容易な9mmを使用する銃。

    選択肢が狭まる一方で、心配も増えてくる。

     

    銃を使わずに物事が解決できれば、どれだけ世の中は平和になるだろうか。

    それが実現不可能だからこそ、今、この時代になっているのだというのに。

    ブーンは人を殺したことがない。

    状況にもよるが、人を殺す時、人間は体を震わせることが多い。

     

    恐怖か、それとも無理矢理に奮い立たせた覚悟と抑え込んだ恐怖に震わせるのかは分からない。

    逆に、歓喜に打ち震えるのかもしれない。

    だが、相手を殺したと理解した瞬間、体が震えるのだ。

    その震えの原因のほとんどを占めるのは後悔の念で、殺さずに解決できたかもしれないという、無意味な思考の迷路に足を踏み入れる場合が多い。

     

    ブーンの年齢でそれを経験すると、後の人生観に大きな影響が出てきてしまう。

    その点を、二人は心配していた。

    最初の得物をライフルではなく拳銃にしたのは、殺す相手の顔を必ず確認させるためだった。

    殺すという行為から目をそらさず、正面から向き合ってほしいという願いからだ。

     

    かと言ってナイフを使うには力がいるし、格闘術を使うには知識や技術、なにより体格の問題がある。

    話し合いは平行線のまま進み、結論は出ず仕舞いだった。

    代わりに議題は、ブーンのお使いに変わった。

     

    ζ(゚ー゚*ζ「そういえば、ブーンちゃん、ちゃんとクッキー渡せたかしら?」

     

    ノパー゚)「ブーンなら大丈夫だろ」

     

    デレシアが仕込んだ“初めてのお使い”は、シナー・クラークスへのお礼だった。

    ブーン自身が言い出したことだけに、デレシアもヒートも大いに喜んだ。

    それは紛れもなく成長であり、進歩であった。

    対人恐怖症に近いものを持っていたブーンが、自ら他人に関わろうとしているのだ。

     

    これを応援しなくて、何がブーンの保護者か。

     

    ノパ⊿゚)「今更だけど、あいつはすげぇよ。

        なぁ、デレシア。 ブーンは将来どうなると思う?」

     

    その問い。

    その答え。

    それは、誰にも分からない。

    分からないが、判ることがある。

     

    ζ(゚ー゚*ζ「大物になるわ。 間違いなく。

          気付いているでしょう?

          あの子の魅力が、私達のような人種にとってどれだけ眩しい物か」

     

    ノパ⊿゚)「……あぁ」

     

    やはり、デレシアの思った通りだ。

    ヒートはブーンの魅力に気付いている一方で、もう一つ、何かに惹かれている。

    恋ではない。

    もっと、ヒートの胸を締め付けるような何かだ。

     

    ブーンの話をする時。

    ブーンの姿を見る時。

    ヒートは、ほんの一瞬だけ陰った笑顔を作るのだ。

    それは羨望にも見える、愁いを帯びた笑顔だ。

     

    その笑顔の種類を、デレシアは知っている。

    心の底から欲し、心の底から求めた、決して手の届かないものを目の当たりにしている表情だ。

    それより先に進みたい気持ちと、進むことが出来ないと理解しているのである。

    ブーンがヒートにとってのそれに当たるのならば、彼女の殺し屋としての過去と深い繋がりがあると考えられた。

     

    ノパ⊿゚)「さて、ブーンが上手いことお使いが出来たか、見に行くか?」

     

    ζ(゚ー゚*ζ「そうね。 昔なら、カメラを持って追いかける人たちがいたんだけどね」

     

    ノパ⊿゚)「なんだそりゃ? 聞いたことねぇよ」

     

    ζ(゚ー゚*ζ「昔の話よ」

     

    布同士が擦れ合う音一つさせずに、デレシアはゆっくりと席を立つ。

    ヒートも席を立ち、デレシアのローブを指さした。

     

    ノパ⊿゚)「ところで、どういう理屈で銃が検査に引っかからなかったんだ?」

     

    ローブの下には五十口径の自動拳銃デザートイーグルと、水平二連式のショットガンが二挺ずつある。

    無論、予備の弾も隠されていた。

     

    ζ(゚ー゚*ζ「ちょっとしたコツがあるのよ。

          あの手の機械は頭でっかちだからね」

     

    三重のチェックを突破するのは容易ではない。

    コツで突破できるものなら、今頃、オアシズは海賊船に変わっていることだろう。

    秘密は、特殊繊維で編まれたローブにあった。

    “アブテックス”は、ペニサス・ノースフェイスが復元した、太古の遺産だ。

     

    防刃、防弾、防寒、防熱、防水、防氷など、あの時代で実現できる全てを注ぎ込んだ繊維だ。

    勿論、あらゆる金属探知機を欺くための工夫もされている。

    生産されたアブテックスは僅かに一着のみという現実を、ペニサスは克服して見せた。

    彼女は、デレシアが見た中でも狙撃の腕と被服の腕に関して、十指に入る才能を持っていた。

     

    ノパ⊿゚)「ほぉー、つまり……ローブに秘密があるわけだな」

     

    流石。

    この言葉だけで、正答までたどり着けた。

    やはりヒートは優秀だ。

     

    ζ(゚ー゚*ζ「さっすが、察しがいいわね」

     

    素直に、だが、短く賛辞の言葉を送る。

    これだけも、賢い彼女ならばデレシアの真意は伝わることだろう。

    恥ずかしげに笑んで、ヒートはそれを受け入れた。

    ヒートはローブを脱いで、黒いシャツにジャケット、そしてスラックス姿になる。

     

    デレシアはローブを着たままで、部屋を出た。

    部屋の外は、まだ大人しさが残っている。

    嵐の日のオアシズで最も賑わうのは、一階の繁華街だ。

    オアシズの本当の顔を見るなら、そこが一番だ。

     

    今頃は、十階のダイナモ通りにいるだろうかと、デレシアはふと思った。

     

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                       ヽ-'

                     ‥…━━ August 4th PM16:15 ━━…‥

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    ブーンが人と手を繋ぐのは初めてではない。

    デレシアとも、ヒートとも、ペニサスとも、手を繋いだ。

    手を繋ぐという行為が持つ意味はよく分からないが、手を繋ぐのは好きだった。

    ロマネスクと手を繋いだ瞬間、ブーンは彼女達に似た感覚を手にすることとなる。

     

    手を通じて温もりが体に流れ込み、それまで背中に感じていた不安感が取り除かれたような気がした。

    安心感に近い物が、ロマネスクの手を通じてブーンの心に染み込んできた。

    見かけは恐ろしいが、中身はとても優しそうだ。

    デレシア達とは真逆だが、その中身はとても似ている。

     

    ロマネスクよりも半歩前を行き、障害物や人とぶつからないよう、しっかりと誘導する。

    だから、話しかける時は自然と振り返る形となっていた。

     

    (∪´ω`)「リンゴ」

     

    ( ФωФ)「ゴリラ。 動物だ。

           筋骨隆々で、意外と優しい」

     

    (∪´ω`)「ラッコ」

     

    ( ФωФ)「コアラ。 これも動物だ。

           毒のあるユーカリという木の葉を食べる、ほのぼのとした奴だ。

           子に自らの糞を食わせて、毒に対する耐性を付けさせる習性がある」

     

    (∪´ω`)「ラッパ」

     

    ( ФωФ)「パセリ。 オムライスなどの付け合せ、というか彩要素だ。

           だが、口の中をさっぱりさせる役割を持っている。

           料理に出た時には必ず食え」

     

    思わず、その名前がミセリ・エクスプローラーに似ているとブーンは思った。

    今、ミセリはどこで何をしているのだろうか。

    嵐の中でも笑顔でいる彼女の顔が、一瞬だけ脳裏をよぎった。

     

    (∪´ω`)゛「はいですお。 リンゴ」

     

    しりとりをやろうと提案したのは、ブーンだった。

    自分があまり言葉を知らないことを口にしたのは、ロマネスクが、どこかミセリに似た雰囲気をしていたからだ。

    柔軟さの中の豪健な気性。

    それは、ペニサスやギコも持ち合わせていたかなり独特の雰囲気だ。

     

    ロマネスクは快くブーンの提案を受け入れ、しりとりに付き合ってくれた。

     

    ( ФωФ)「って、ええい!

           ループしているではないか!」

     

    (∪´ω`)「お?」

     

    ( ФωФ)「しりとりでは、一度使った語は使ってはならんのだ。

           でなくては、繰り返しになってしまうだろ」

     

    ミセリとのしりとりで、極力同じ言葉を使わない、というルールがあったのを思い出した。

    その理由を、今やっと理解することが出来た。

    もしロマネスクがまた“ゴリラ”と続けると、しりとりは延々と続いてしまう。

    それを避けるためのルールだったのだ。

     

    ( ФωФ)「ゴーヤ。 苦い、が美味い。

           チャンプルーにすると食いやすいぞ」

     

    (∪´ω`)「やー」

     

    ( ФωФ)「何?」

     

    (∪´ω`)「やー」

     

    ( ФωФ)「拒否していても分からん」

     

    ;∪´ω`)「やー」

     

    ( ФωФ)「まさか、矢の事か」

     

    (∪´ω`)゛

     

    ( ФωФ)「や、か。 発音は短く、や、だ。

           野球。 ボールとバットを使ったスポーツだ」

     

    ロマネスクの泊まっている部屋までの道のりは遠く、正直な所、ブーンはよく分かっていなかった。

    彼から頼まれたのは、第一ブロックまで送り届けてほしいということだけで、部屋まではそこからどうにかするそうだ。

    看板に表示されている数字と名前を頼りに道を進み、第一ブロックを目指す。

    自分が無知故に、道のりは分からないことだらけだ。

     

    だが悪い気はしなかった。

    知らないことはその場、もしくは後で教えてもらうことが出来たからだ。

    自分の無知を知り、それを満たすことはこの上なく気分のいい体験だった。

    しりとりはそれをより簡単に実現してくれた。

     

    (∪´ω`)「うき」

     

    ( ФωФ)「キャタピラ。 無限軌道とも呼ばれるものだ。

           戦車などの脚に使われている。 履帯を壊されると動けなくなるのが弱点だ」

     

    ロマネスクは単語ごとに解説を入れてくれるが、それでも分からない言葉が時々出てくることがある。

    キャタピラだとか無限軌道だとか、戦車だとか履帯だとか言われても、さっぱりだ。

    しかし、彼との会話は楽しかった。

     

    (∪´ω`)「ライチ」

     

    ( ФωФ)「チーズ。 乳製品で、色々な種類がある。

           わざとカビを生えさせるものまであるぞ」

     

    カビの生えた食べ物を口にしたことは何度もある。

    その場合、全てではないが、高い確率で腹を下した。

    緑色だったり青色だったりしたが、白い綿埃のようなものもあった。

    体でカビが有害だと学んだブーンにとって、わざとカビを生やす人間の思惑が全く分からない。

     

    (∪´ω`)「ズッキーニ」

     

    ( ФωФ)「ニンニク。 匂いが独特で、よく料理の付け合せや香りづけに使われる。

           オリーブオイルと塩でホイル焼きにしただけでも、十分美味い」

     

    気が付くと、街灯の様に立つ縦長の看板と、その下の地面に第二ブロックと書かれた場所に着いた。

    ここが第三ブロックとの境界線であることは、一目で分かった。

    第二ブロックと書かれた地面の上を通過すると、一瞬だけ、その文字が青く発光する。

     

    (∪´ω`)「クリ」

     

    ( ФωФ)「リンゴパイ。 リンゴをスライスしたものをパイにしたものだ。

           一般的には甘酸っぱい。 紅茶と一緒に食べると、シナモンの香りと甘みがふんわりと広がって美味いぞ」

     

    *∪´ω`)、ジュルリ

     

    リンゴパイ。

    その響きは、ブーンの好奇心を刺激した。

    ただでさえ美味しいリンゴを、更にパイにする。

    シナモンが何かは分からないが、とにかく甘いのだろう。

     

    (∪´ω`)「イルトリア」

     

    どこかの街の名前である以外、詳しくは知らない。

    しかし、意味が分からなくとも言葉を口にすればいいのがしりとりだ。

    一瞬だけロマネスクは考え込み、外を指さして言った。

     

    ( ФωФ)「雨」

     

    (∪´ω`)「め」

     

    ( ФωФ)「芽」

     

    ;∪´ω`)「あれ?」

     

    同じ言葉をロマネスクが口にしたと指摘しようとしたブーンに、ロマネスクは指を二本立て、それを己の目に向けた。

     

    ( ФωФ)「残念だが、貴様が言ったのはこの目で、吾輩は植物の芽だ。

           覚えておけ、ブーン。

           一つの単語が一つの意味しか持たぬことはない。

           それは、単語に限らず、あらゆる事象に対して言えることだ」

     

    にやり、と不敵な笑みを浮かべるロマネスク。

    難しいことは分からないが、何となくだが、分かった気がする。

    銃の見方と同じだ。

    使えば武器となるが、相手が使えば凶器となる。

     

    (∪´ω`)゛「じゅうとおなじ、ですか?」

     

    ( ФωФ)「ほぅ、理解が早いな。

           そうだ。

           銃もそうだが、人間も同じなのだ。

           例えば今この場で、貴様を襲う者があれば、吾輩は貴様の味方となろう。

     

           しかしそれは、襲撃者からすれば吾輩は敵となる。

           不思議な物だろう?

           吾輩は敵でもあり味方でもあるのだ」

     

    *∪´ω`)゛

     

    しりとりを再開し、二人は第一ブロックを目指した。

    道中、しりとりを中断して寄り道をすることになった。

    アイスクリームの入ったリヤカーを引く男が二人の横を通り過ぎようとした時に、ロマネスクが立ち止まったのだ。

     

    ( ФωФ)「少し休憩だ。

           アイスを食うぞ」

     

    *∪´ω`)「お!!」

     

    ( ФωФ)「何味が好きだ?」

     

    *∪´ω`)「リンゴ!!」

     

    ( ФωФ)「いいだろう。 ただし、夕食前だから、一番小さい奴だ。

           おい、アイス屋」

     

    呼び止められたアイスクリーム屋は、二人の前に戻ってリヤカーを降ろした。

    リヤカーの上に乗ったガラス張りの冷凍ケースの中にある色とりどりのアイスを見て、ブーンは小さく歓声を上げた。

    最初はそれを微笑ましく見ていた店員だが、ロマネスクの顔を見て表情を強張らせた。

    帽子を目深に被り直して、ロマネスクと目線を合わせないようにする。

     

    ( ФωФ)「おい」

     

    ('l')「は、はい!!」

     

    ( ФωФ)「リンゴとチョコミントを一つずつ。

           ミニカップだ」

     

    何度も頷いて、店員は小さなカップにアイスを乗せた。

    ブーンの手の平に収まるほど小さなアイスが手渡され、ロマネスクが一括で支払いを済ませた。

    乳白色のアイスにはプラスチックのスプーンが刺さっているだけだ。

    しかし、アイスの表面から顔を覗かせている黄金色の角切りリンゴが魅力的だった。

     

    ( ФωФ)「代金は吾輩が払う。

           その代わり、少し吾輩と話をしないか?

           貴様は面白い」

     

    (∪´ω`)゛

     

    勿論だった。

    橋の上にあったベンチに腰掛け、早速アイスを食べ始める。

    アイスクリーム屋はリヤカーを引いて、そのまま橋を渡って別の場所に向かった。

     

    (∪´ω`)「いただきます」

     

    ( ФωФ)「その言葉、どこで学んだ?」

     

    (∪´ω`)「お? えっと……」

     

    デレシアの名を出すべきか否か迷っていると、ロマネスクが一人納得した。

     

    ( ФωФ)「恩人にでも教わったのだろうな」

     

    (∪´ω`)゛

     

    ( ФωФ)「いい人か?」

     

    (∪´ω`)゛

     

    ( ФωФ)「言葉の意味は聞いたか?」

     

    (∪´ω`)゛

     

    ( ФωФ)「いい言葉だから、忘れるでないぞ。

           ブーン、良き師を持ったな」

     

    (∪´ω`)「し?」

     

    ( ФωФ)「先生という意味だ」

     

    ブーンはロマネスクの距離の置き方が好きだった。

    深く追求されないので、気兼ねなく話すことが出来る。

    自分が耳付きだとばれれば、きっと、こうはいかないだろう。

     

    ( ФωФ)「あぁいかん、アイスが溶けるぞ」

     

    ;∪´ω`)「すこしとけちゃってるお……」

     

    ( ФωФ)「液体になる前に食え、今が一番美味いぞ」

     

    スプーン一杯にアイスを掬い、口に運ぶ。

    リンゴの香りと甘みが口の中いっぱいに広がる。

    とろりとしたアイスは舌の上で溶けた。

    果肉を舌で探り取って奥歯で噛み砕き、飲み下す。

     

    *∪´ω`)「おいしいですお」

     

    ( ФωФ)「こっちも食ってみろ」

     

    強烈なミントの香りがするアイスをロマネスクのスプーンから食べる。

    口の中がすっきりとする甘さだった。

    鼻を突き抜ける爽快な香りがいい。

     

    ( ФωФ)「ふはは、美味いだろう!!」

     

    (∪´ω`)「うまー?」

     

    ( ФωФ)「そうだ、うまうまだ」

     

    *∪´ω`)「うまうまですお」

     

    それから、二人は会話を楽しんだ。

    例えば煮込み料理の話だったり、アイスの作り方だったり。

    発電の仕組みとか、嵐の話だとか。

    ブーンの知らないことをロマネスクが教えて、ロマネスクが聞きたいことをブーンが答えるといった具合だ。

     

    話題が次第にブーンの悩み相談へと変わっても、ロマネスクは嫌な顔一つしなかった。

     

    ( ФωФ)「――ほほぅ、強くなりたいのか」

     

    (∪´ω`)゛

     

    ( ФωФ)「では根本的なことを問おう。

           強さとは何だ?」

     

    (∪´ω`)「……ぉ」

     

    強さの定義。

    ブーンの中で、それはとても移ろいやすい物だった。

    それらをまとめて言えば、己を貫き通すことこそが強さ。

    守ることも、防ぐことも、妨げることも、抗うことも。

     

    全ては、力なのだ。

    頭の良さであったり、腕力の具合だったりもする。

    デレシア、ヒート、ペニサス、ミセリ、トソン、そしてギコも強いと言える。

    それらをまとめて、ブーンは少ない語彙で言葉にしなければならない。

     

    (∪´ω`)「じぶんがじぶんでいること、ですか?」

     

    考えた末に出した言葉に対して、ロマネスクは感心した風に声を上げた。

     

    ( ФωФ)「これはまた、随分と哲学的な答えだな。

           己を通す事、それもまた強さだ。

           ではそれをするために必要な物はなんだ?」

     

    (∪´ω`)「ちから、です」

     

    ( ФωФ)「いいぞ、正解だ。

           知っての通り、今、この世界は力が全てを変える。

           ならば、己を他者に無理やり変えられないために使えるのは、力だけだ。

           では、続けて訊こう。

     

           力とは?」

     

    ;∪´ω`)「まだ、わからないですお」

     

    ( ФωФ)「それを知らねば、お前の言う強くなりたい、という願いは叶わんぞ」

     

    確かに、その通りだ。

    力の正体が分からなければ、強くなりようがない。

    強くなるということは、力があるということ。

    では、その力とは?

     

    溶けたアイスを食べながら考えたが、答えは、すぐに出そうもない。

     

    ( ФωФ)「悩め。 悩むことは抗うことだ。

           そして、抗うことは良いことだ」

     

    大きな掌がブーンの頭に乗せられた。

    思わず体が強張る。

    デレシアの編んでくれた帽子が取れでもしたら、耳付きであることが分かってしまう。

    優しい掌が拳となってブーンの横面を殴りつけることは、十分にあり得る。

     

    ロマネスクの右手が乱暴に頭を撫でる。

    荒っぽいが、とても、気持ちがよかった。

     

    ( ФωФ)「どれだけ抗っても分からない時には――」

     

    不意に、ロマネスクが言葉を途中で切った。

    頭から手を降ろし、困惑するブーンを見下ろす。

    その目つきは、とても優しげだった。

    だが、厳しい目をしていた。

     

    (∪´ω`)「お?」

     

    ( ФωФ)「――ブーンよ、案内はここまででよい。

           後はどうにかする。

             お前の師の所に行け」

     

    ;∪´ω`)「あの、ぼく……なにか……」

     

    ( ФωФ)「いいや、貴様が原因ではない。

           ブーンよ、今日はおかげで助けられた。

           この事は、生涯忘れん」

     

    気遣うような口調でそう言って、ロマネスクはブーンに目線を合わせる。

    黄金色の瞳が、ブーンの心の底まで見透かすようにじっと、静かに見つめる。

     

    ( ФωФ)「ではまた会おう。 我が友よ」

     

    ごつごつとした右手が差し伸べられ、ブーンはそれを自然に握った。

    手を繋いでいた時よりも強い力で握られ、ブーンも力強く握り返す。

     

    (∪´ω`)゛「あの……ロマさん」

     

    ( ФωФ)「なんだ?」

     

    *∪´ω`)「また、おはなし、してくれますか?」

     

    ( ФωФ)「当たり前だ」

     

    名残惜しいが、デレシア達と早く合流したい気持ちもあった。

    デレシアとロマネスク。

    この二人が出会ったら、一体、どうなるのだろうか。

    似た雰囲気同士、意気投合するかもしれない。

     

    或いは――

     

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                    ‥…━━ August 4th PM18:07 ━━…‥

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    遠ざかる小さな背中は、無防備そのものだった。

    人混みに紛れる前に、ゆっくりとベンチから立ち上がる。

    お人好しだと、よく分かった。

    これならば、労せずに殺すことが出来そうだ。

     

    しかし、油断は禁物だ。

    あの子供、ブーンの身辺にはデレシアとヒートと云う、並ならぬ存在がいる。

    あくまでも、ブーンは餌だ。

    餌としての役割を果たす前に気付かれては、元も子もない。

     

    これまでに鍛えてきた勘が、彼女達の勘の鋭さを教える。

    慎重に。

    慎重に、事を進めなければ勘付かれてしまうだろう。

    殺人は繊細な仕事なのだ。

     

    芸術的かつ伝統的に行われてこそ、仕事となる。

    自然な足取りでブーンの背中を追う。

    買い物客を装いつつ、常に視界の一端に捉えるよう心がける。

    先ほどの遭遇で彼の歩調は把握している。

     

    今はその細かな情報を手に入れ、確実に殺せる時間、場所、機会を探るのが最善。

    さしあたって、部屋の場所と行動パターンの把握だ。

    ここに来たばかりの子供がどのようなものに興味を持ち、行動するのかが分かれば、誘い出すのも殺すのも難しくはない。

    後は殺し方をいくつか考えて、準備をしておけば、ポートエレンでクリス・パープルトンのように滞りなく殺人は遂行される。

     

    縊り殺すか。

    絞め殺すか。

    殴り殺すか。

    打ち殺すか。

     

    轢き殺すか。

    撃ち殺すか。

    刺し殺すか。

    刻み殺すか。

     

    焼き殺すか。

    燻り殺すか。

    弄り殺すか。

    犯し殺すか。

     

    考えただけで、興奮が止まらない。

    嗚呼。

    勿論、殺す前にたっぷりとその体を味わう事を忘れてはならない。

    死を前にした人間の味は、この世界で最も美味な珍味なのだ。

     

    彼の涙の味はきっと美味なのだろう。

    彼の血の味はきっと美味なのだろう。

    彼の汗の味はきっと美味なのだろう。

    彼の死の味はきっと美味なのだろう。

     

    彼の恐怖の味はきっと、最高の媚薬になるだろう。

    泣き叫んでくれるか。

    命乞いをしてくれるか。

    それとも、なけなしの勇気で抵抗してくれるか。

     

    抵抗は歓迎すべき調味料だ。

    それを力で無理やりねじ伏せ、血に塗れながら犯す時は最高の気分になる。

    無力さを思い知らせ、優越感に浸れる。

    心が折れる瞬間こそ、最も愛してやまない人間の一面だ。

     

    尾行がばれないように一旦橋を渡ってリンクスシュトラーセに移り、そこから軽く駆け出した。

    彼がやってきたのが第三ブロックであることは分かっている。

    なら、宿泊先はそこにある。

    それさえ分かっていれば、追跡は簡単だ。

     

    スーツの胸ポケットから香水の小瓶を取り出して、腕時計の付いていない方の右手首に一吹きする。

    手首同士を擦り合わせて匂いを馴染ませ、それを首元にも擦る。

    身だしなみと香りは、人の第一印象を決める。

    接触の折にこちらには好印象を持ってもらわなければ。

     

    デレシア達と初めて会った時にこちら側が与えた印象は、あまりよくなかった。

    高圧的で、警戒心を与えるようなものだった。

    それを払拭しなければ、再接触の際にも警戒されてしまう。

    そうならないために、幾つか手を打たせてもらおう。

     

    まずは一手目。

     

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                  ‥…━━ August 4th PM18:13 ━━…‥

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    自分の部屋に戻る途中、ブーンは項の毛が逆立っているような気がして、落ち着かなかった。

    誰かが自分を見ている。

    そんな気がしていた。

    何百、何千人が一つの空間で過ごしているのだから、誰かが自分を見ていることは十分あるだろう。

     

    耳が疑われたのだろうか?

    いや、そんなはずはない。

    デレシアの帽子を被ってから今まで、一度も疑われていないのだ。

    では何故?

     

    急に不安になったブーンは、目の前の人混みの隙間を見て、走り抜けられる道を探した。

    夕食時が近づいているからか、人の数は多く、互いの間隔は七インチ程度。

    このままでは、走ることは出来なさそうだ。

    誰かが見ているのならば、無防備な姿を晒すことになる道の端に寄るのは間違いだ。

     

    ならばと、ブーンはジグザグに動くことにした。

    周囲の人間の間に隠れるように移動しながら、視線から逃れようとする。

    だが、視線はブーンから離れそうにない。

    間違いなく、自分は誰かに追われている。

     

    理由は分からない。

    分かるのは、今は気付かれないように逃げることが最善の手であること。

    ブーンは考えた。

    人混みの中に紛れているはずのブーンを見られるということは、自分は相手の視界にいるということ。

     

    背後にいるのか。

    これだけの人混みの中で追跡できるとなると、かなり近くにいるはずだ。

    跫音だらけで、どれがブーンを追っている人間の物なのか判別できない。

    匂いも、声も、全てがぐちゃぐちゃだ。

     

    混沌とした中からブーンに対して敵意を持つ者を特定するのは、不可能だった。

    心臓の真後ろに刃を突き立てられているような心地だ。

    どうすればいい。

    この場合、考えられる手は立ち止まらないことだ。

     

    立ち止まってしまえば、もう、逃げられない。

    呼吸が荒くなりかけた、その時だった。

     

    「おや、どうしたんだい?」

     

    左肩に手が乗せられる直前、ブーンは反射的に振り返りつつ、半歩後ずさった。

     

    £°ゞ°)「おっと、驚かせてしまったかな?」

     

    :;;∪´ω`);:「お……」

     

    香水の匂いが強くする男だった。

    見たことはない。

    髭と服装が特徴的だが、何よりも特徴的なのはその雰囲気だった。

    甘い香りをさせた毒虫。

     

    それが、その男に対するブーンの第一印象だった。

    話す必要性がないと判断できたのは、男から好意的な匂いがしなかったからだ。

    言葉は好意的だろうが、それが向けられている相手はブーンではない。

    誰か別の人間に対してのアプローチだと分かる。

     

    人を利用する人間の態度。

    ブーンは、直ぐに踵を返してその場を立ち去ることにした。

    このままでは捕まってしまうのは明らかであり、ブーンがなりふり構わず走り出すのは必然であった。

     

    £°ゞ°)「あっ、ちょっと待ちたまえ!!」

     

    男はブーンの後を追ってきた。

    木が床を叩く特徴的な跫音、呼吸音、匂い。

    全て覚えた。

    距離と速度も分かる。

     

    これだけの混雑具合なら、ブーンの方が有利だ。

    だが男は諦めずに追ってくる。

    どこかで振り切らなければ。

    誰かに助けを求めるという選択肢は、ブーンには選べない。

     

    £°ゞ°)「君、ブーン君だろう?!

          君の落し物を拾ったんだ!!

          頼むよ、止まってくれ!!」

     

    名を呼ばれた。

    目的を告げられた。

    そして、立ち止まって振り返ってしまった。

    左肩を乱暴に掴まれて、ブーンは逃げられなくなった。

     

    ;∪´ω`)「お、おとしもの?」

     

    £°ゞ°)「あぁ、これ、君のだろう」

     

    男はスーツに手を突っ込んで、そこから何かを取り出そうとする。

    一歩後ろに下がろうとするも、肩を掴んだ手が離れない。

    最悪の状況を変えたのは、ブーンの背後から現れた新たな人物の一言だった。

     

    「ロミスさん、子供相手に何をしているんですか?

    それも、こんな夕食時に」

     

    左腕に巻いた銀色の時計から顔を上げた男の顔と声に、ブーンは覚えがある。

     

    £°ゞ°)「ショボン君か」

     

    (´・ω・`)「声がしたと思えば、どうしたんです、これは?」

     

    £°ゞ°)「落し物をしたので、届けようと思ってね」

     

    特徴的な垂れ眉と攻撃性を隠した穏やかな声。

    やはり、そうだった。

    コクリコ・ホテルで出会った、ショボン・パドローネとかいう人物だ。

     

    (´・ω・`)「やぁ、ブーン君。

         早い再会で何よりだ」

     

    :;;∪´ω`);:「……」

     

    警戒を解くつもりはなかった。

    二人とも、ブーンにとっては初見に等しい。

    素性も性格も分からない。

    慎重に発言と行動を選ばなければ、危害を加えられるかもしれない。

     

    (´・ω・`)「ほら、ロミスさん。

          この子、怯えている。

          手を離してあげなさい」

     

    £°ゞ°)「あ、いや、脅かすつもりはなかったんだが……

          済まないことをしたね」

     

    言われた通り、ロミスはブーンの肩から手を離した。

    捕まれた部分が少し痛い。

     

    (´・ω・`)「で、落し物っていうのは?」

     

    £°ゞ°)「……それが、どうやらスリにあったみたいでね。

          ここにない」

     

    (´・ω・`)「物は?」

     

    £°ゞ°)「さぁ、袋に入っていたから分からないな」

     

    ロミスの手が離れ、意識が会話に向いた隙を、ブーンは逃さなかった。

    ショボンの脚を掴んでそれを軸に背中側に回り込み、ブーンは全力で走った。

     

    £°ゞ°)「あっ!!」

     

    (;´・ω・`)「むっ!?」

     

    その俊敏性は二人を欺き、ブーンは人混みに紛れ、その場を逃げ去ることが出来た。

    背後から聞こえてくる二人の声に意識を集中させた。

     

    「で、ロミスさん、本当に落し物が?」

     

    「ほ、本当だとも。

    それより、ショボン君。

    君こそどうしてこんなところに?」

     

    「私の仕事はご存知でしょう?

    なら、どこにいても不思議じゃない。

    逆に私から質問です。

    貴方こそ、どうしてここに?」

     

    「ブロックの責任者が自分のブロックを回っておかしい事があるかな?」

     

    「いいえ、別に。

    そうだ、その落し物とやら、私が探しますよ」

     

    「いや、君の手を借りなくても……」

     

    「スリってことは、この船では犯罪です。

    なら、私の管轄です。

    袋の特徴と、あの子の部屋番号を教えてください。

    後で見つかった時に届けるので」

     

    「む…… そ、そこまで言うなら。

    袋は……そう、グレーだった。

    私の拳ほどの大きさで、重さは二百グラムぐらいだ。

    部屋はロイヤルロフトスイート801

     

    「ほぅ……分かりました。

    それと、一つ質問をいいですか?」

     

    「なんだね?」

     

    「どうして、部屋番号まで記憶しているのですか?

    いくら貴方でも、全乗客の顔と部屋番号を記憶しているとは思えない」

     

    「偶然だよ。 あの子供の保護者と話す機会があってね。

    その時に聞いたんだ」

     

    「そうですか。

    なら――」

     

    会話は第二ブロックを通過するまで聞き取ることが出来たが、その先を聞くことはなかった。

     

    ζ(゚ー゚*ζ「あら、ブーンちゃん!!」

     

    ノパー゚)「おかえり、ブーン!!」

     

    *∪´ω`)「お!!」

     

    心強い二人を目の当たりにした瞬間に、ブーンの不安や恐れ、あの男二人に対する興味は消え去ったのだから。

    二人はブーンを抱き上げ、人目を憚らずに抱きしめ、頬ずりをして、頭を撫でた。

    それはとても心地よく、とても気持ち良かった。

    二人の鼓動を、温もりを、優しさを感じられたからだ。

     

    自分の顔の筋肉が緩んで、緊張が溶けて無くなっていくのがよく分かる。

     

    ζ(^^*ζ「初めてのお使い、一人でちゃんとできたのね!!」

     

    ノハ*^^)「偉いぞ、ブーン!!」

     

    でも。

    二人に褒められたことの方が、一番心が温かくなった。

    こんなにたくさん自分の事を話したいと思ったのは、久しぶりだった。

    シナーとの話や、ロマネスクとの話。

     

    勿論、先ほどの二人の話も含めて、だ。

    だけど。

    だけど、自分の話よりも先に言いたいことがあった。

    何よりも先に、二人に言いたい言葉があった。

     

    *∪^ω^)「ただいま……!!」

     

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                   ‥…━━ August 4th PM19:21 ━━…‥

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    初物には祝いがつきものだ。

    ブーンが初めてのお使いを成功させたとあって、デレシアは彼に何か祝いをしたかった。

    何か食べたい物や、欲しい物はないかと尋ねたところ、ブーンはこう答えた。

     

    *∪´ω`)「デレシアさんとヒートさんのごはんがたべたいです」

     

    ノパ⊿゚)「あたしらの料理でいいのか?

        この船なら、もっと美味い料理があるぞ」

     

    目を輝かせながら、ブーンは首を横に振った。

     

    *∪´ω`)゛「ふたりのつくったごはんがたべたいです」

     

    ζ(゚ー゚*ζ「あら、嬉しい事言ってくれるじゃない。

           どんな料理が食べたいのかしら?」

     

    *∪´ω`)「リンゴパイ!!」

     

    即答だった。

    どこかで仕入れた言葉であることは疑いようもなく、それが何であるかを理解しているのは間違いなかった。

    お使いの最中に新しい出会いがあったらしい。

     

    ζ(゚ー゚*ζ「他には何を食べたいの?」

     

    ;∪´ω`)「えっと……」

     

    ノパー゚)「ピザなんてどうだ?」

     

    (∪´ω`)「ピザ……?」

     

    ノパ⊿゚)「薄いパンみたいなのに、トマトソースとトマトを乗っけて、チーズをまぶすんだ。

         あたしは、その上にフレッシュバジルを散らすんだけど、これがけっこう美味いんだよ。

         リンゴパイと違って作りは単純だけど、あたしは好きだ」

     

    *∪´ω`)「……たべたいですお」

     

    斯くして、三人は第二ブロック一階にあるスーパーマーケットに向かうこととなった。

    手近なところにあったエレベーターで一階に下りる途中、二人はブーンが何者かに追いかけられたことを聞かされる。

    無事で何よりだったが、一連の流れを聞くと、解せないことだらけだった。

    最も不可解なのが、目的だ。

     

    誘拐目的か、それとも別の目的か。

    船内の治安は必ずしも絶対に安全だと断言はできない。

    ここは街であり、観光船ではない。

    身代金や金品を所持している観光客を狙う輩が船内にいるのは、揺るぎのない事実であった。

     

    その為に探偵と警察が雇い入れられ、街中で目を光らせているのだ。

    ロミスと接触したブーンを救ったのは、コクリコ・ホテルにいたショボンだという。

    あの男は確かに、オアシズの探偵だと言っていた。

    事前に面識があったから助けられたと考えるべきだろう。

     

    不可解なのは、ロミスの行動だ。

    ブーンの名を呼び、捕まえようとした。

    デレシアに向けて色目を使っていたのは分かるが、ブーンを利用しようとしたのなら、痛い目にあわせなければならない。

    追跡者がロミスだという確証はないと、最後にブーンは言った。

     

    その意見に、デレシアは同意した。

    その理由として挙げられるのが、わざわざ声をかけたことにある。

    本当にブーンを攫おうとしたのなら声をかけるはずがないし、人が大勢いる中で実行に移すはずがない。

    あれだけ執拗にブーンを追っていた人間の行動にしては、あまりにも辻褄が合わない。

     

    まだブーンを追っている可能性は十分に在り得た。

    三人だけのエレベーター内で、デレシアは内心で深い溜息を吐いた。

    ここに来て、またトラブルである。

    これだから旅は素晴らしいのだ。

     

    しかし、退屈しないのはいいが、ブーンが巻き込まれるのは感心しない。

    一方で、これを成長のいい機会だと考えられる。

    船内で起き始めている小さな企み。

    悦んで迎え撃つとしよう。

     

    エレベーターの扉が開いて最初に聞こえてきたのは、雑踏の中で奏でられる喧噪だった。

    オアシズの一階は、この船が街であることを再認識するのに十分な景色を見せてくれる。

    遥か頭上のガラス張りの天井から見える黒雲。

    視界の両脇に山なりになって聳え立ち、奇怪な谷の底を髣髴とさせる。

     

    そして、谷の底は明るかった。

    片側一車線の船内車両専用の道路が船首から船尾にかけて走り、その上に小さな橋が架けられている。

    床は弾力性のあるアスファルト色のタータンが敷き詰められ、歩行者の安全を考えた設計となっている。

    最上階まで聳え立つビルの根元もここにあり、人が最も多く集中する階でもある。

     

    街中は黄昏時の活気に満ち、微弱な揺れがなければここが洋上だと忘れてしまうほどだ。

    また、オアシズの住民の多くが暮らしているのが、この一階だ。

    生活に必要な品のほとんど全て、例えば食料品や衣料品、生活嗜好品がここで揃えられる。

    床に直接書かれた案内を辿れば、大型スーパーマーケットに到着するのは簡単だった。

     

    陸と比べて鮮度が悪く物価が高いのは仕方がなかったが、オアシズで栽培された野菜は鮮度と価格が標準的な物となっている。

    オアシズ産の野菜は屋内で育てられているため、虫がつかず、色と味が薄く種類が少ないのが特徴だ。

    美味いか不味いかで言えば、不味い物に分類される。

    その為、デレシアがブーンのために買ったのは、ポートエレンで入荷したばかりの青果だった。

     

    最終的に購入したのはリンゴやトマト、完熟トマトソースの缶詰にピザの生地、そして酒などだ。

    やっと固形物を食べられるとあって、ブーンは大喜びだった。

    自動扉を潜って店内から出てきたデレシアとブーンは両手に買い物袋を下げ、ヒートは大きなボストンバックを持っていた。

    袋の中には、数日分の食材と雑貨品が詰まっている。

     

    ノパ⊿゚)「結構買ったな」

     

    ζ(゚ー゚*ζ「大丈夫よ、育ちざかりがいるんだから。

          ね、ブーンちゃん」

     

    袋一杯のリンゴを手に持つブーンが、笑顔で応じた。

     

    *∪´ω`)「お!」

     

    船内車両は道路に埋められた回路を辿って、定められた道を走行するように出来ている。

    車間は一定距離を保ち、人が飛び出してもセンサーが車両を停止させる。

    使用の際にはオアシズ乗船の際に受け取ったカードをかざし、使用者をシステムに登録するだけでいい。

    荷物を運ぶにはこの上なく便利な乗り物だが、広い道路のある一階でしか使用出来ない。

     

    スーパーマーケットの目の前に停められたセダン型の車両に近づき、カードをドアに押し当てた。

    ドアに沿って付けられた青色のLEDが仄かに発光し、使用可能な状態になったことを知らせる。

     

    ζ(゚ー゚*ζ「車に乗りましょう」

     

    この荷物の量ならば使うまでもないが、追跡者を試して情報を収集することにしたのだ。

    ヒートにも知らせなかったのは、万が一にも悟られないようにするためだ。

    この行動によって一体何が動くのか。

    それを観察する必要がある。

     

    ζ(゚ー゚*ζ「折角だから、少し遠回りして帰りましょうか」

     

    全員が乗り込んだのを確認してから、デレシアはアクセルを踏み込んで第四ブロックに向けて車を走らせた。

    彼女達を付け狙う人間がいるのであれば、これに対して何かしらの対応をするはずだ。

    追うか、それとも彼女達の部屋の近くに移動するか。

    それによって、相手の狙いと技量が分かる。

     

    追ってくるのであれば急を要し、待ち伏せをされるのであれば急を要していないということだ。

    バックミラーを見て様子を窺うが、怪しげな動きを見せた者はいない。

    数は単体である可能性が高い。

    そして、相手は確実に目的を遂行するために危険を冒す真似をしない。

     

    *∪´ω`)「しずかではやいですお」

     

    ζ(゚ー゚*ζ「えぇ、動力は電池だからね」

     

    ノパ⊿゚)「電池が切れるとどうなるんだ?」

     

    ζ(゚ー゚*ζ「オートドライブに切り替わって、近くの停車所に停まるわ。

           もちろん、電池が切れる前にね」

     

    第四ブロックの半ばまで走ったが、追跡者はいなかった。

    となると、部屋の付近で待ち伏せている可能性がある。

    ならば、手を打ってみるとしよう。

    相手が賢ければ、デレシアの手に引っかかるはずだ。

     

    車から降りた三人は、店舗の間に設置されたエレベーターに乗った。

    エレベーターを使って十八階まで上がる中、デレシアは策を実行に移した。

     

    ζ(゚ー゚*ζ「ヒートちゃん、ブーンちゃんの荷物をよろしく」

     

    ノパ⊿゚)「あいよ」

     

    ζ(゚ー゚*ζ「ブーンちゃん、少しの間、大人しくしててね」

     

    (∪´ω`)゛

     

    理由を察したのか、ブーンは何も言わずに頷き、デレシアの指示通りにした。

    扉が静かに開くと、そこにはデレシアとヒートの二人しかなく、ブーンの姿は消えていた。

    部屋までの道のりは徒歩で約七分。

    その間、デレシアは周囲にさり気なく目を配って警戒を怠らなかった。

     

    ζ(゚、゚*ζ「……」

     

    視線は、複数感知することが出来た。

    興味からくるものの中に混じって、観察するそれがあった。

    数は、二つ。

    尾行者は現段階ではいない。

     

    部屋に向かう道を変え、橋を三度渡っては戻るという動きをしても、尾行はなかった。

    なるほど。

    となると、デレシアの動きを追っている訳ではなさそうだ。

    今追っているのは、ブーンの居場所だけらしい。

     

    ここから先、知られてはならないのは、ブーンの居場所だ。

    居場所を知ろうとしているとなると、後になって襲ってくる可能性が高い。

    迎撃することは容易だが、どんな手を使ってくるか。

    何せ、相手の目的はあくまでもデレシアの立てた仮説に過ぎず、真相ではないのだ。

     

    デレシアが選んだ手は、相手が賢いと仮定した際に有効な物だった。

    相手が賢ければ、勝手に裏を読み、勝手に読み違えてくれる。

    逆を言えば、相手が愚かであれば通用しない手だった。

    三十分近く店に寄ったりして時間を潰し、途中でヒートと別れ、時間をずらして帰宅することにした。

     

    これで、デレシアの手は仕上がった。

    後は相手の出方次第だ。

    先に部屋に戻ったのはデレシア。

    その後、十二分の間を開けて何食わぬ顔でヒートが部屋に戻った。

     

    ζ(゚ー゚*ζ「はい、よくできました。

          いいわよ、ブーンちゃん」

     

    (∪´ω`)「ぷはっ」

     

    ヒートのボストンバックがもぞもぞと動き、毛糸の帽子を被ったブーンの頭が現れた。

    今回利用したのは、ボストンバックだった。

    非常に単純な手だが、エレベーターから降りてきた人間の数が減っていた場合、二つの可能性を考える。

    一つは、見つからない場所に隠したか。

     

    もう一つは、安全な場所に移動させたか、だ。

    答えが単純であればあるだけ、賢い人間はその回頭に疑いを持つ。

    つまり、エレベーターのダクトを使ってブーンをどこか安全な場所に移動させた、と考えるだろう。

    そこに加えて、デレシアは相手をかく乱するような動きを取り、誘導性のある二つの可能性を与えた。

     

    じっくりと腰を据えて考えるだけの余裕は、相手にはない。

    デレシアには確信に近い物があった。

    相手は、こちらが宿泊している部屋の位置を正確には知らないのだと。

    知っていれば、ブーンを付ける必要はない。

     

    第五ブロックのこの階層にあることまでは調べたのだろうが、そこから先が曖昧なのだろう。

    相手に誤った選択をさせるための後押しとして、デレシアはヒートと別行動を取るということをした。

    こうして、相手は全くヒントのない中でデレシアかヒート、もしくはブーンを探さなければならない状況に陥ったのだ。

    デレシアとヒートが別行動を取ることで混乱を誘発し、別の場所からブーンを逃がすという算段を立てている、と錯覚するのは時間の問題だった。

     

    相手の思考を先読みした手だが、相手がデレシアの思った通りの賢さを持っていなければ、これは失敗に終わっただろう。

    部屋に入るまでに時間を空けて、それが成功したことが確認できた。

    オートロックの上にチェーンを掛け、万が一の侵入を防ぐ。

     

    *∪´ω`)「お、ヒートさんありがとうございますお」

     

    自分を運んでくれたヒートの目を見て、ブーンは礼を言った。

     

    ζ(゚ー゚*ζ「コアラみたいに運んでもよかったかもね」

     

    ノパー゚)「そりゃいいアイディアだけど、もっと安全な時にしたいもんだ」

     

    (∪´ω`)「お……たしか、ユーカリをたべるとうぶつ、ですか?」

     

    ζ(゚ー゚*ζ「あら? ブーンちゃん、コアラの事知ってるの?」

     

    これは驚きだ。

    コアラはオストレリアでしか見ることが出来ない貴重な動物だ。

    後は、一部の動物園ぐらいだろう。

     

    (∪´ω`)゛「おしえて、もらいました」

     

    どうやら、初めてのお使いは思った以上に面白い経験となったようだ。

    しかし、ブーンは思った以上に積極的な性格に成長してくれた。

    見知らぬ場所で見知らぬ人間と交流を深め、そこから知識を得たことは喜ばしいことだ。

    毛糸の帽子を頭から取ってやり、乱れた髪を手櫛で整えてやる。

     

    *∪´ω`)「お」

     

    ローブを脱ぎ、黒のポロシャツの上にエプロンを付け、髪をゴムで束ねる。

    シャツの袖を捲っていたヒートも髪を束ね、デレシアの隣に並ぶ。

    二人は石鹸で手を洗い、買ってきた食材をキッチンに並べ、調理の準備をする。

     

    ζ(゚ー゚*ζ「どんな人が教えてくれたの?」

     

    デレシアとヒートの間に立って手を洗うブーンは、デレシアの目を見て答えた。

     

    (∪´ω`)「えーと……

          こわくて、おおきくて、ごつごつしてて……

          めのうえにきずがあって、きんいろのめをした……

          ……おじい……おじさん?」

     

    ノハ;゚⊿゚)「聞く限りじゃ、優しさから程遠い外見のおっさんだな……

         よく話せたな」

     

    手渡したタオルで手を拭きながら、今度はヒートを見て、ブーンは答える。

     

    (∪´ω`)「でもでも、しりとりしてくれましたお。

          アイスもかってくれたし……」

     

    ブーンがいい人だと言うのなら、そうなのだろう。

    人に蔑まれて生きてきた彼がそう感じるのだから、まず間違いはない。

    彼は人の本質を察して接することが出来る人間だ。

     

    ζ(゚ー゚*ζ「その人にまた会えるといいわね」

     

    *∪´ω`)「はいですお!」

     

    ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

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        ハ:::::::::::::::i   o ',::::::::::::::::::::::::::i

         i:::::::::::::::::::::ヽ_ ノ:::::::::::::::::_:::::::,'

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         ゝ-:::::::::::::::::::::::::::::::::::::::i__ /

        /:::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::: /      ‥…━━ August 4th PM20:17 ━━…‥

       ./:::::::::::::::::::::::::::r ニヽ::::::::::::/

    ー、/:::::::::::::::::::::::::::::::`ヽィ′:::

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    ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

     

    ――してやられた。

    こちらの追跡に気付き、エレベーターのダクトに逃げたものだと思っていたら、そうではなかった。

    見事に部屋に逃げ込まれた。

    部屋番号は把握しているが、セキュリティは高く、侵入は容易ではない。

     

    今日中に手を出そうと思っていたのに、これでは失敗だ。

    深追いせず、ここで打ち止めにしておくべきか。

    否。

    この自分を出し抜いたのだ、必ず後で障害になる。

     

    障害は取り除かれなければならない。

    本日中の殺害は無理かもしれない。

    相手を部屋から誘い出す材料がない。

    部屋にガスを流し込むという荒業もあるが、相手の部屋にはガスがない。

     

    家電は全て電気で動くため、事故死に見せかけることが出来ない。

    それも見越して手を打たれ、翻弄されたのだ。

    嗚呼、本当にいい日だ。

    今日は最高の日だ。

     

    デレシアとの出会った記念日だ。

    好敵手と呼べる存在と、久しく出会っていなかった。

    いいだろう。

    ブーンを殺し、あの女の悲痛な叫びと愁いの表情に期待させてもらおう。

     

    この航海中、何が何でもブーンを殺してやろう。

    こちらの計画を阻害される前に、あの三人を殺せればいい。

    殺した死体は部屋に保管し、たっぷりと味わってやる。

    死を冒涜し、背徳に悦しよう。

     

    これこそが生。

    これこそが世界。

    力が全てを動かす時代にのみ許された、最高の快楽だ。

    簡易な舞台で済ませようとしたこちらの失態だ。

     

    ならば。

    盛大な舞台、深淵な陰謀、膨大な謎で歓迎しよう。

    今宵この時この瞬間、このオアシズは、豪華な舞台へとその姿を変える。

    即ち、このオアシズ全てを巻き込んだ謎解きの舞台を整えるのだ。

     

    早速、手始めに殺す相手を物色し始めるが、すぐに却下する。

    そんないい加減な人選では、デレシアを満足させられない。

    となれば、オアシズの中でも地位ある人間を殺すべきだ。

     

    ――航行中ずっと絡み付く不穏な影を演出するには、それが最善の手だ。

     

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                    |            , '',r''"´⌒`"'ヽ、

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                   同時刻 【ジュスティア-正義の都-にて】

    ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

     

    嵐の影響は、正義の都として知られるジュスティアにも及んでいた。

    特殊合金で作られた巨大な三重の壁、スリーピースによって保護された都市はごくわずかの明かりだけを残し、黒い風景に同化しつつある。

    つい三十分ほど前に発生した大停電が復旧するまでの間、緊急編成されたジュスティア軍の炊事・救助隊が灯す明かりだけが、街唯一の光でもあった。

    自家発電設備を持つ裕福な家庭を除いた全世帯が、ジュスティア軍によって辛うじて文明的な生活を保っていた。

     

    各軍事施設では人が手薄になりつつあったが、残った兵士たちは軍用強化外骨格をレインコートの上に背負って警備に当たっていた。

    鍔の上を滑るように流れ落ちる雨水は彼らの顔を濡らさなかったが、正面から吹き付ける風と雨粒がシャワーのように濡らしている。

    睫に付いた水滴を何度も拭うも、鋼鉄の柵が塞ぐブランケット支部の正面搬入口を警備するジェイソン・ブライアン二等兵は、コルトM4カービンアサルトライフルの銃把を握り直すことをしなかった。

    安全装置のセレクターには常に親指が触れている。

     

    </`l`)「……」

     

    同じく搬入口を警備する一等兵ジェームズ・ブライアンはジェイソンの兄だ。

    大型車両が車列を組んで迫ってきているのを見て、ジェームズは雨音と同等の声で尋ねた。

     

    </'l')「ジェイソン、搬入の予定はあったか?!」

     

    </`l`)「ないな!!」

     

    セレクターをフルオート射撃に切り替え、二人は身構える。

    銀色の大型トラックが巨大なコンテナを牽引して三台、いや、四台続けてやってきた。

    この時間帯に荷物の取引はないはずだ。

    ジェイソンたちの目の前で停車したトラックの運転席から、レインコートを着た男が降りる。

     

    ハイビームのせいで影だけが浮かび上がり、人相が分からない。

    左手で目を庇いながら、運転手に呼びかける。

     

    </`l`)「誰だ?!」

     

    <:: ゚ー゚::>)「ピク支部からの救援物資です!!」

     

    それは、若い女の声だった。

    スリーピースの最も外側、市街地から最も離れたピク支部には多くの資材が保管されている。

    自家発電装置は勿論、仮設住宅を設置するための機材もある。

    ブランケット支部に資材が届けば、街の主要部以外にも救援に駆けつけることが出来る。

     

    ピク支部の司令官の早急な対応には驚きを隠せない。

    しかし、機材の置場があるかどうかは兵站庫の管理をしている人間に聞くしかない。

    更に、本隊に連絡を取って今機材を必要としている地域を把握しなければならなかった。

    場所によっては、直接現場に届けた方が速い場合があるからだ。

     

    </'l')「ありがたいが、とにかくハイビームを止めてくれ!!

        今確認するから、待っててくれ!!」

     

    <:: ゚ー゚::>)「これは失礼しました!!」

     

    女が運転席に向けて手で指示を出すと、強烈な閃光を放っていたライトが消え、残光が瞼の奥に映る。

    何度か瞬きをして、焼き付いた光を消し去る。

    声が聞き取りづらいのか、女は二人に近づく。

    グレーのレインコートの胸元には、所属を示すIDカードがぶら下がっている。

     

    名は、アレックス・バーバーリ。

    階級は二等兵だった。

    ジェイソンはインカムに向かって確認の連絡を取ろうとするが、砂嵐だらけで無線が機能していない。

    嵐の影響で無線がいかれたのか。

     

    </'l')「駄目だ、通じない」

     

    </`l`)「……こっちもだ」

     

    二機同時に壊れることなど有り得るのだろうか。

    防水仕様で、海水に三時間浸しても壊れない物なのだ。

    同時に壊れることは考えにくかった。

    となれば、原因として在り得るのは電波障害か。

     

    <:: ゚ー゚::>)「どうしますか?!」

     

    指示を待たずに独断、出来るだけ救援が被らないように指示するしかない。

    ジェイソンは頭の中の地図を使い、救援が必要とされている場所を考えた。

     

    </'l')「では、ジョック通りの噴水前で本部を設置してくれ!!」

     

    全ての基地から最も離れた場所にあるジョック通りなら、指示にミスは起らないはずだ。

     

    <:: ゚ー゚::>)「いえ、こちらに置くべきです!!」

     

    </'l')「何故だ?!」

     

    <:: ゚ー゚::>)「ジョック通りにはもう二台向かっております!!」

     

    ジョック通りへ向かっているのであれば、仕方がない。

    一旦無線が回復するまで待ち、指示を仰ごう。

    ジェームズと目で見合わせ、頷き合う。

     

    </`l`)「よし、なら中に持って行ってくれ!!

         場所は分かるか?!」

     

    <:: ゚ー゚::>)「分かりますとも!!」

     

    大人の腕ほどの太さがある鋼鉄の柱で作られた柵を、手で開く。

     

    </`l`)「よし!! さぁ、行ってくれ!!」

     

    <:: ゚ー゚::>)「感謝します!! あ、一応、荷を確認してください!!」

     

    うっかりしていた。

    どのような相手であれ、荷は確認するのが規定だ。

    二人は運転手に続いて駆け足でトラックの後ろに回り込み、開かれた扉の向こうを見た。

     

    </'l')「ん?」

     

    </`l`)「あ!?」

     

    二人を待っていたのは、五つのサプレッサーと五発の銃弾だった。

    死体が仰向けに倒れるより早く二つの手が伸びてきて、二つの胸倉を掴んでコンテナの中に引きこんだ。

    トラックは何事もなかったかのように基地内に入り込み、先頭の一台から軍服の上にレインコートを着た男二人が降り、入り口に立った。

    その動作は一度も停車することなく、流れるように行われた。

     

    彼らは気付くべきだったのだ。

    停電が計画的に起こったということ。

    ピク支部が壊滅していること。

    そして、至近距離にいる二人の無線が通じなかったことが、有り得ないことであることに、もっと早くに気付くべきだったのだ。

     

    </'l')「異常なし」

     

    </`l`)「異常なし」

     

    ――流れ出た血は、雨に流されて消えて行った。

     

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    To be continued...

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