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  1. 名前: 歯車の都香 --/--/--(--) --:--:--
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第二章【departure-出航-】

  1. 名前: 歯車の都香 2017/04/15(土) 21:15:00
    第二章【departure-出航-】

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    You must keep thinking.

    考え続けなければならない。

     

    Do not believe, hope and wish.

    信じることも、望むことも願うことも許されない。

     

    Understand waiting for the miracle is the most foolish thing in this world.

    奇跡を待つ事こそが世界で最も愚かな行為だと理解しろ。

     

    The miracle is just a coincidence.

    奇跡など、単なる偶然に過ぎないのだから。

     

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                  ||    _」二二二二二二二二L    ||

                   ‥…━━ August 4th AM1140 ━━…‥

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    オアシズでは船内への銃火器の持ち込みは勿論だが、軍用強化外骨格――棺桶――の持ち込みも禁止されている。

    当然、乗船時にはあらゆる武器を個人用コンテナに預ける必要がある。

    武器の持ち込みを許可してしまえば、逃げ場のない海上で何千人規模の人質を取ったシージャックを認めることになる。

    そのため、船内では厳格な審査によってその人間性を認められた警備員だけが、銃器の携帯を許可されていて、棺桶の使用もまた同様だった。

     

    乗船の手順は、まず金属探知機のゲートを潜って体に金属が無いことを確かめてから、最後に、購入したチケットを使って船内に進む二重チェックだ。

    一人が検査を終えてオアシズへの乗船を完了するまでに要する時間は、平均で一分。

    厚く白い塗装がされた橋を使って乗船を待つ列の中に、その旅人の姿があった。

    ローブで肢体を包み、豪奢な金髪と蒼穹色の碧眼を持つデレシアは、風に靡く金髪を押さえ、空を見上げた。

     

    いい天気だ、とデレシアは胸を高鳴らせていた。

    風に吹かれて蠢くように形を変え、流れていく黒雲と、幻想的な濃淡。

    一瞬だけ夏の暑さを忘れさせる、冷たい空気を含んだ風。

    デレシアの好きな天気だった。

     

    晴天も好きだし、夏の入道雲と蒼穹の組み合わせは涙ぐむほど好きだ。

    空模様に止まらず、この世界の天候、事象、とにかくあらゆるものが好きだった。

    最近のお気に入りは、彼女の後ろに立つ赤髪と瑠璃色の瞳を持つ女性、ヒート・オロラ・レッドウィングと、彼女に肩車をされている耳付きの――獣の耳と尻尾を持つ――少年、ブーンだ。

    二人と出会ったのは湾岸都市オセアンで、共に一つの事件に関わった仲だ。

     

    ヒートは現代では珍しく、耳付きと呼ばれる人種を差別しない。

    差別は優位性に立ちたがる人間の弱さの裏返しであり、それをしない彼女は芯から強いのだとよく分かる。

    元殺し屋で、彼女ほどの性格の持ち主が不毛な殺し屋になった理由は、想像できなかった。

    ブーンを見る時の目が時々寂しげに陰る原因もまだ分からないが、旅を続けていく過程でそれらが分かるかもしれない。

     

    この時代の旅で出会った人間の中で、ブーンは最も気に入っている。

    何が、と問われて答えるのは非常に難しい。

    彼の持つ魅力、としか答えようがない。

    その魅力と云う一言の中には複数の意味が込められていて、丹念に一つ一つ答えるには最低でも一時間は必要だ。

     

    デレシアは、これまで続けてきた果てしない旅は彼に逢うためのものだったとさえ感じ始めている。

    これまでに類を見ない将来性と成長速度、そして、邪気の欠片もない無垢な瞳に見つめられる度、彼の可能性を確かめたくなる。

    悪い癖であることは理解している。

    しかし、彼にはその可能性を見せてもらわなければならないし、是非とも見せてもらいたい。

     

    この先、旅の途中で遭遇する争い事はその激しさを増す事だろう。

    ティンバーランドが動き出すということは、そういうことだ。

    ならば、多少強引なことをしてでもブーンの成長を促し、変わりゆく世界に対応出来るだけの力を付けさせなければならない。

    彼は自分自身の口で、強くなりたいと言った。

     

    その言葉が本心であることは疑いようもなく、受け入れるしかなかった。

    多くの人間を見て、多くの人間と関わり、誰よりも長く世界を見てきたデレシアは、ブーンに魅了されていた。

    彼が望んだのは平和でも普遍でもなく、力と進歩だった。

    その選択は、この時代に最もふさわしい物。

     

    彼はこの時代を生きるに相応しい人物なのだ。

     

    ;∪´ω`)

     

    ζ(゚ー゚*ζ「ブーンちゃん、大丈夫よ」

     

    これから迎える身体検査を前に緊張しているブーンを見上げ、デレシアは優しく、語りかけるように落ち着かせる。

    列が動き、階段を二段上がったところでまた止まる。

    ブーツの爪先が踏みしめるたび、滑り止め加工のされた金属製の階段からは、軽い音が鳴った。

     

    ノパ⊿゚)「にしても、こんだけでけぇ船をどうやって動かしてるんだ?」

     

    ζ(゚ー゚*ζ「太陽光と波力、後は風力発電ね。

          海水発電装置も実験的にだけど、使っているわ」

     

    太陽光を初めとする自然の力による発電は、ある時期から著しく進歩した。

    従来の発電方法の数倍の発電量が生み出せるのだが、設備費用は数十倍に跳ね上がった。

    途上国での使用が期待されたが、その価格故に一部の国で少数だけ採用され、オアシズにもその設備が導入されている。

    巨体を生かした発電設備だけで航行中の電力を全て補うことが出来るよう設計されているのだが、それでも、万が一と云う場合がある。

     

    船倉に大容量のバッテリーを備蓄していたとしても、常時七千人、最大九千人が生活をしていく中で、底を突いてしまう危険性は常にあった。

    そこで発案されたのが、海水発電装置の導入である。

    海水の塩分濃度の違いを利用した発電装置は、巨大な球体の装置がアンカーのようにして船尾から海に伸びており、停泊中は勿論だが、航行中も発電されるという優れもの。

    船体の復元よりも、この装置の復元に最も時間が費やされ、現在では世界で唯一オアシズだけがこの装置の復元に成功している。

     

    今はまだ実験的な使用で公にはされていないが、本格的に稼働するのは、後十年以内だと言われている。

    海水発電装置について熟知しているデレシアは、実用段階に至るまでは後百年以上かかると予想している。

    現代の技術は、所詮は過去の技術の復元に要する技術であり、つまるところ模倣でしかなく、進歩は望めない。

    それを我が物として進歩するには、過去に頼らずに自分達の足で進む他なかった。

     

    ノパ⊿゚)「海水から発電、ねぇ……」

     

    (∪´ω`)「はつでん、って、なんですか?」

     

    ζ(゚ー゚*ζ「電気って分かる?

          ほら、ライトとかを光らせたり、バイクを動かしたりする力の事なんだけど」

     

    小さく頷くブーンの顔からは、緊張は消えていた。

    知識に対して貪欲な年頃である彼にとって、疑問は食事と睡眠に並ぶ欲求の一つだ。

     

    ζ(゚ー゚*ζ「電気を作るための動きを、発電、っていうの」

     

    *∪´ω`)゛「おー、それって、どうやるんですか?」

     

    ここから先の説明も出来るのだが、それには時間が足りない。

    部屋に入ってからゆっくりと科学の勉強と共に、発電の仕組みについて説明した方が飲み込みやすいだろう。

     

    ζ(゚ー゚*ζ「後でお部屋に入って一緒にお勉強した時に教えてあげるわ。

           いい?」

     

    *∪´ω`)゛「はい、です!」

     

    そんなやり取りをしていると、荷物検査の順番が回ってきた。

    白く、丸みを帯びた背の高い金属探知機のゲート前には二人の黒服が立っており、手には籠、腰にはグロック19を提げてデレシアを迎えた。

    ゲートの表面は艶やかで、光沢を帯びている。

     

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    (■_>■)「済みませんが、そちらの棺桶をお預かりさせていただきます。

          航行中の使用・鑑賞・接触は一切できませんので、あらかじめご了承ください。

          金属を身に付けていれば、そちらを出してください」

     

    ζ(゚ー゚*ζ「はい、どうぞ」

     

    対強化外骨格用強化外骨格“レオン”を預け、ローブの下から懐中時計を取り出し、籠に入れる。

     

    ζ(゚、゚*ζ「ベルトはいいかしら?」

     

    カーキ色のローブをたくし上げてベルトの金具部分を見せると、黒服の男は僅かに動揺した。

    直ぐに動揺を抑え込んだ動きは、働き始めてから十二、三年といったところか。

     

    (■_>■)「……はい、これでしたら大丈夫です」

     

    ベルトの形状からそこに武器を隠せないことを確認し、男はデレシアをゲートへと案内した。

    ゲートの脇にはいつでもグロックを手に出来るよう、両腕を腰の傍に構える男が立っている。

    オアシズ内でテロ行為を行うものがあれば、即座に射殺出来るという警告の意味も込めた、実用的な看板の役割を持った男だ。

    鳥居の様に構えるゲートは三つ。

     

    それぞれ異なった方式で金属を検知し、センサーを掻い潜って武器を持ち込もうとする輩を見つけ出すための装置だ。

    こうした装備のおかげもあり、オアシズではこれまでに一度もシージャックが起こったことがない。

    起こそうと試みた人間ならいたが、契約している警備会社の人間によって、被害が出る前に射殺されている。

    外部の人間を雇うことで様々な責任と手間を省くだけでなく、機密情報を一定の水準で守ることが出来る。

     

    仮に、オアシズの警備員として十年以上勤続した人間がいたとすると、その人間が明日裏切らないとは誰にも断言できない。

    十年以上も働いていれば、オアシズの構造上のセキュリティホールを見つけたり、その他の機密情報を知ったりする機会がある。

    そうした人間から情報を買ったり、忠誠心を買ったりしようと画策する人間はいくらでもいる。

    その万が一に備えて、オアシズでは警備員を外部企業から雇い入れているのである。

     

    探偵に関しても同じで、定期的に人員を入れ替えており、人物の特定ができないようにも工夫されている。

    それだけの工夫がある中、デレシアは武器を持ち込むことに成功していた。

    両脇のデザートイーグルに、後ろ腰のソウド・オフ・ショットガンだ。

    どれだけ高性能なセンサーが相手でも、デレシアはそれを欺く術を持っていた。

     

    しかしながら、デレシアはオアシズで事を起こすつもりは一切ない。

    デレシアとヒートで出した結論としては、ブーンにはこの船旅を楽しんでもらいたいというものだった。

    ティンカーベルまでは一週間ほどの旅になる。

    その間に、彼の教育と訓練を行い、ティンカーベルで出会うであろうティンバーランドの構成員との争いに備える。

     

    涼しい顔をしたまま金属探知のゲートを悠然と通り抜け、デレシアは検査の済んだ懐中時計を受け取って、オアシズへの乗船を許可された。

     

    ;∪´ω`)「お……」

     

    続いては、ブーンの順番だった。

    耳を不自然に見せないための帽子は、検査の際に強い効果を発揮する。

    後は、不審な動きをしなければ難なく突破出来るはずだ。

    ヒートの肩から降り、デレシアと同じようにゲート前で検査を受ける。

     

    ;∪´ω`)

     

    (■_>■)「僕、何か金属の……鉄の物を持っていないかな?」

     

    ;∪´ω`)「いえ……もってません」

     

    (■_>■)「分かった。 それじゃあ、そこの道をまっすぐに進んでくれるかい」

     

    案内に従い、ブーンはゲートを潜る。

    センサーがブーンの体から金属を検知することはなく、何事もなくデレシアの元に辿り着いた。

    その顔には安堵の色が浮かんでいた。

     

    ζ(゚ー゚*ζ「ね、大丈夫だったでしょう?」

     

    (∪´ω`)゛

     

    ノパー゚)「じゃ、あたしもそっちに行かせてもらうよ」

     

    拳銃を持っているのは、ヒートも同じだった。

    ヒートの持つベレッタM93Rには、折り畳み式フォアグリップの代わりに鋭利な刃が取り付けられており、一目で殺しに特化した武器だと分かる。

    そんな代物がここで発見されれば、乗船拒否も有り得る。

    しかし、ヒートは余裕の表情を浮かべていた。

     

    (■_>■)「金属の物は?」

     

    ノパ⊿゚)「生憎、チタンよりも固い心以外は持ち合わせがないんでね」

     

    (■_>■)「ローブの下には何もありませんか?」

     

    ノパ⊿゚)「ほらよ」

     

    ローブを捲り上げ、脇の下や腰に武器が無いことを見せつける。

    それを確認すると男は、頷き、手でゲートの方へ案内した。

     

    (■_>■)「問題ありませんね」

     

    この時、男がもっと注意深くヒートの身体検査をしていれば、背中に隠された二挺の拳銃に気がついただろう。

    だが現実は、三重の探知機という精神的な死角によって見逃してしまった。

    ゲートは沈黙を守り続け、異常を知らせることはなかった。

     

    (■_>■)「次の方、どうぞ」

     

    ヒートの後ろに並んでいた人物がゲートを潜ろうとした時、服に使われていた小さな金属が探知機に反応し、止められた。

    その日、オアシズが誇る探知機を突破して武器を船内に持ち込んだのはデレシアとヒートの二人だけだった。

     

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    三三三三三三三三三三三 ..|\\蒜蒜\\.三三三三三三三三三三三三三..|\\

                   ‥…━━ August 4th AM11:45 ━━…‥

    ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

     

    正午十五分前、嵐が近づいていた。

    雲は海のうねりを思わせる黒雲になり、海風は冷えた空気を市場に運び、人々の足をその場から遠ざけた。

    今や建物の外に出ているのは、船を波止場にしっかりと固定しようとする若い一人の船主だけ。

    その船主ですら、縄を固定し終えるとすぐにバイクで走り去ってしまった。

     

    嵐の近づく中、全てが揺さぶられていた。

    ただひとつ、巨大な船舶を除いては。

    白い巨体は確かに船の形をしているが、それはあまりにも現実離れした大きさだった。

    街一つが船の中に入っていることを考えれば有り得るが、船としては遠近感を失いかねないほどの大きさと存在感を放っている。

     

    大型と言われるフェリーでさえ小舟に思え、漁船など玩具にしか見えない。

    壁を纏った船舶、あるいは、海上の壁その物。

    それは船舶にして船上都市。

    その名は、オアシズ。

     

    「それで刑事殿、何か進展は?」

     

    その喫茶店はコクリコホテルから更に坂を上った場所にあり、客は二人しかいなかった。

    割れんばかりに震える薄い窓ガラスの向こうに見える巨大な船影を見下ろしながら思案していた男は、その問いを無視した。

    近くを通り過ぎようとしていたウェイターを手で呼び止め、二杯目になるアイリッシュコーヒーを注文した。

    ウェイターはいい顔をしなかった。

     

    男は先ほどからアイリッシュコーヒーだけを注文し、更にはその席の雨戸を閉めさせなかったからだ。

    雨戸だけでなく、店も閉めたいと思っていたが、頬に二本の傷を持つ男がそれをさせなかった。

    懐でちらつくベレッタM8000は、彼よりも雄弁だったのである。

     

    (=゚д゚)「……おい、ウェイター。

       アイリッシュコーヒー大盛り」

     

    白髪の多くなったブロンドの髪は短く刈り揃えられ、剣呑な雰囲気を漂わせる黒い瞳は窓の外に向けられたまま。

    トラギコ・マウンテンライトは四十六年の人生の中で、あれほど巨大な船に乗ったことがなかった。

    この船に乗ることが出来るのは金持ちか、船の上で生まれたオアシズの住人しかいない。

    彼が追っているデレシア一行は高い確率でオアシズに乗り込むはずであり、何か尻尾を見せないかどうかを見るためにも、彼はそれを追いたかった。

     

    三十分前に警察本部に電話して金を要求したが、予想通り即却下された。

    勘で動くことを良しとせず、明確な証拠がなくてはオアシズの乗車券分の金を出すことは出来ない、と。

    第一、デレシア達――彼女の名は伏せてあった――がオセアンで起きた事件の主犯である証拠はないのだ。

    トラギコの勘を頼りに動いてくれた試しはないが、それによって彼が解決した事件の実例を前にしても彼の勘を認めた試しもない。

     

    代わりに言い渡されたのが、ポートエレンで起こった自殺者を追い込んだ人物の特定と逮捕だった。

    まさか、難事件解決に特化して設立された部署からわざわざオセアンまで出向き、その関係者を追ってここまできて、自殺の捜査をすることになるとは思いもしなかった。

    能無しが多い職場だけに、トラギコの苛立ちはより一層募った。

    特に、目の前でドリンクバーのメロンソーダを飲みながらフライドポテトを摘まむ若い検死官の無能ぶりには、頭痛さえ覚える。

     

    警察が人手不足になったと聞いたことはないのに、どうしてこんな若者を雇ったのだろうか。

    事件解決の経験がないのならば、それは、この土地がジュスティアに近いために治安が良すぎる為だろう。

    無論、事件が起きないことが一番だが、事件が起きなければこうして役立たずの警官ばかりが増えるのだ。

     

    (=゚д゚)「なーんも」

     

    ショボン・パドローネから受け取った資料は、手帳も含めて全て警察に提出済みだ。

    必要な情報は全て頭の中に入っている。

    手帳やペンが必要なのは記者であって、警察ではない。

    それが、警察で働き続けて分かったことだ。

     

    クリス・パープルトンについて分かる情報は何も見つからなかった。

    分かったことは、彼女が薬で意識を朦朧とさせながら百フィートの高さから海に飛び込み、溺死したということぐらいだ。

    遺書もある。

    残っている作業は、死因の明確化だけだ。

     

    手元に置かれたアイリッシュコーヒーを一口飲み、溜息を吐く。

     

    (=゚д゚)「で、死因は何だったんだ?

        いいか、どんな細かなことでも報告するラギよ」

     

    慌てて机の上に伏せておいていたホチキス止めの用紙を手に取り、検死官は報告した。

     

    「あ、はい。

    溺死でしたが、体内から検出された海水の量が通常よりも少なかった、ってだけです。

    海水の成分は間違いなくあの近海のものでした」

     

    あまり実りのある答えではなかったが、おかげでこの一件はだいぶ落ち着く。

    残りは本部の人間か、この若者に任せてデレシア一行を追う算段を立てなければならない。

    荷物に紛れて密航でもするか、身分を偽って侵入するか。

    どちらも現実的に可能だが、今後の刑事生活に支障が出るので最後の手段として取っておくことにしてある。

     

    (=゚д゚)「ふーん、ご苦労さん」

     

    トラギコはそれを適当に聞き流している訳ではなかったが、検死官は不満そうな表情を浮かべていた。

    今の情報で揃った断片を並べて、一つの絵を作り上げたのだが、不自然なまでに容易に完成したことに不満と不信があった。

    その理由は幾つかあったが、それを裏付けるものがなかった。

    決定的な証拠だけが欠如しているのだと、感覚で理解していた。

     

    以前にも味わったことのある感覚だ。

    となると、このまま捜査を続行しても収穫は得られそうもない。

    別の方向に意識を向け、再度捜査を行う必要がある。

    思考の迷路を探索するため、トラギコは瞼を降ろして腕を組んだ。

     

    「刑事殿、寝るなら自分はもう持ち場に戻りますからね」

     

    クリス・パープルトンが死んだのは明朝一時、発見されたのは六時半。

    その差は五時間半。

    ホテルへのチェックインは十一時三十八分。

    死亡推定時刻の一時間半前である。

     

    ただし、彼女がチェックインをした姿を誰も目撃していない。

    立ち入ったのはショボンと支配人の二人で、部屋に鍵が掛かっていた事や窓が開いていたことの証言は一致している。

    遺書は部屋に残されており、死に至った経緯が書かれていた。

    それの筆跡とチェックイン時のサインは一致しており、同一人物の物と確定された。

     

    ホテルに滞在していた七十一名の内、明朝一時半に寄港したオアシズからの客は三名。

    彼らとクリスとの接点は見つけられず、彼女の死には関与していないと判断するしかない。

    すでに彼らはオアシズに戻っていて、トラギコが手出しできない場所にいる。

    ショボンの心配は杞憂に終わったと云う訳だ。

     

    死体には暴行の跡はなく、漂う内に岩で切った細かな擦り傷から、崖の上から飛び降りたと推測される。

    大量の薬物を摂取して意識を朦朧とさせ、恐怖心を和らげてから飛び降り、そして溺死した。

    ここまでが、簡単な概要だ。

    トラギコの頭の中では、その様子がイメージとして浮かび、何度も再現される。

     

    情報を繋いで景色を作り、証拠を紡いで概要を整える。

    あまりにも綺麗すぎる。

    その光景ははっきりと思い描けるが、だからこそ不自然に思えるのだ。

    自殺の現場はいつでもあらゆる影響を受け、決して綺麗にはならない。

     

    それは数多くの現場を見てきたから分かる直感だった。

    その時、窓ガラスに大粒の雨がぶつかる音が聞こえた。

    雨は瞬く間に豪雨となり、ガラスは砂利でも当たっているかのような音を出し始める。

    雨粒が強風にあおられ、世界が白くぼやけて見える。

     

    一つの可能性が浮かんだのは、オアシズが出航を告げる汽笛を鳴らした時の事だった。

     

    (;=゚д゚)「……」

     

    可能性は次第に疑念となり、確信に近づいていく。

    そして確信が疑念を氷解させ、真相を浮かび上がらせる。

    これは自殺ではない。

    これは――

     

    (#=゚д゚)「おい若造……って、帰りやがった!!」

     

    机の上に金を叩きつけるように置くと同時に、雷が世界を真っ白に照らし、巨大な雷鳴が窓を震わせた。

     

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     ヽ 、ヾ 、ゞ ヾ丶 ゝ丶\ ゝヽ丶ヽ ゝヽ 、ゞ ヾ丶 ゝ/,,,;;;/  册册

     ヽ \ 丶\丶ヽ\ 丶  ヽ ヾ ゞ\ヽ ゝヽ丶丶 、/___/  _,. 册册

                    ‥…━━ August 4th PM 1206 ━━…‥

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    喫茶店から一歩外に出ると、雷鳴と強風、そして滝のような雨がトラギコを歓迎した。

    空は黒く濁り、青空は一片も残されていない。

    発光と金属を引き裂くような音に続く爆音、冷たい風。

    嵐がポートエレン上空を覆い、不気味な世界に染め上げていた。

     

    誰一人屋外に出ていない。

    長く続く石畳の坂の上で、トラギコは周囲を見渡した。

    駐車されていたオフロードバイクに目をつけ、それに跨る。

    キーの差込口を外し、その下から出てきた配線の一本を選んで引き千切り、配線同士を何度か合わせると、エンジンが力強く震えた。

     

    邪魔な前髪を後ろに漉き上げ、口元の水滴を払う。

    払い落とした水滴の代わりに、また新たな雨水が顔を濡らす。

     

    (;=゚д゚)「ぷはっ……!!

        くっそ、誰だか知らねぇが、やってくれるラギ!!」

     

    トラギコはアクセルを捻り、坂道を下り始める。

    眼下の荒れる海を悠然と進み始めたオアシズが完全に港を離れるまで、五分は掛かる。

    それまでに追いつき、乗り込まなければこの“事件”は解決しない。

     

    ――これは自殺ではなく、殺人なのだ。

     

    (#=゚д゚)「くっそ!! くそがぁ!!」

     

    雨で滑りやすくなっている坂道をバイクで駆け降りるトラギコは、遠ざかるオアシズに悪態を吐いた。

    住宅地を抜け、人気のなくなった市場へ侵入し、埠頭から離れたオアシズを目の当たりにした。

    バイクを乗り捨て、トラギコは己の迂闊さ、そして浅墓さを呪う。

    一体、デレシアに出会ってからどれだけ自分は浅はかな行動をしてきたのだろうか。

     

    彼女のおかげでどれだけ気付かされることが生まれたのだろうか。

    今度ばかりはあの女に頼らずとも気付けたことがある。

    これは彼の専門だ。

    自殺に見せかけた事件など、これまで何度も経験してきた。

     

    しかし、今度の事件はその中でも特上の部類。

    その巧妙さ。

    その狡猾さ。

    素人の犯行ではない。

     

    詳しいトリックはまだ分からないが、自殺に見せかけた殺人を行い、トラギコを欺いてのけた。

    目的は恐らく、時間稼ぎ。

    そう。

    オアシズ出航までの時間稼ぎが、犯人の狙いだったのだ。

     

    だとするならば、犯人はオアシズに乗船していることになる。

    被害者、クリス・パープルトンはポートエレンで殺害されたのではなく、オアシズで殺害された後に投棄されたに過ぎない。

    投棄の第一目的は捜査のかく乱。

    警察の聖地と言い換えてもいいジュスティア現地警察をオアシズに乗船させないための、巧妙な仕掛け。

     

    それすらも装っているという可能性は、ない。

    全てを語ったのは、死体だった。

    仮にあの部屋から飛び降りたのならば、必ずあるはずのものが欠けているのだ。

     

    それは――

     

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    ‥…━━ August 4th PM 1200 ━━…‥

     

    分厚い扉が鈍い音を立てて背後で閉まる。

    自動的にバルブが回転して完全に扉がロックされると、そこが全くの別世界に繋がる通路であることが分かった。

    床には灰色の絨毯が敷かれ、壁にはつなぎ目一つない。

    幅十フィート、高さ十五フィート、長さ五十ヤードの通路の天井は全体が白く発光しており、薄暗さはなかったが息苦しさはあった。

     

    通路の奥にはサングラスと黒のスーツ、そしてH&K MP5K短機関銃で武装した男が二人立っていた。

    扉の傍に腰ほどの高さがある譜面台のような物があり、細い支柱の先には青白く輝く薄い液晶画面が付いている。

    液晶画面にはカードを画面に触れさせるようにと指示文が表示されていた。

    偽装カードを使われることを防ぐための、最後の検問所だ。

     

    (■_>■)「カードをこちらに」

     

    ζ(゚ー゚*ζ「はい」

     

    画面にカードをかざすと、扉上部が緑色に光った。

    続けてブーンがかざすと黄色に、ヒートの時には青色に変わった。

    これは、予約している人間が全て揃っていることを確認するための仕掛けで、乗船券購入の際に申請した人間が揃わなければ別室に案内され、揃うまでそこで待機することになる。

    ここまでするのは、団体客に成りすまして船で悪事を働かれないようにと云う狙いがある。

     

    (■_>■)「ありがとうございます。

          ようこそ、オアシズへ」

     

    男が画面に掌を押し当ててから恭しく一礼すると、空気が漏れる音と共に扉が勢いよく沈んだ。

    その先には、世界最大の豪華客船オアシズの絢爛豪華な内装が待っていた。

     

    *∪´ω`)「おー!」

     

    ノパ⊿゚)「……おぉ!」

     

    そこは、街があった。

    大きく切り抜かれた継ぎ目のないガラスの天井の向こうには、生き物のように蠢き、水面のように揺蕩う黒雲が浮かんでいた。

    躓かないように鏡面加工された特殊素材のレンガを敷き詰めた床にはゴミ一つなく、隅々まで清掃が行き届いている。

    飲食店などが適度な間隔を空けて立ち並び、楕円形の吹き抜けの上に架かる幅広の橋には木製のベンチと、鮮やかな緑色の葉を茂らせる観葉植物が置かれていた。

     

    オアシズ内の橋にはそれぞれ名前が与えられていて、各地区の通りにも同じ名前が与えられている。

    例えば、ヴィヴィオ橋に繋がっている場所であれば、ヴィヴィオ・ブリュッケンシュトラーセ(ヴィヴィオ橋通り)、と言った具合だ。

    船首を上に船内を左右に分け、左の通路をリンクスシュトラーセ(リンクス通り)、右の通路をレヒツシュトラーセ(レヒツ通り)として、それぞれの位置を説明する際に使用する。

    機関室や保管庫のある船底は数百ものブロックで管理され、主要空間は五ブロックに分かれてブロックごとに統治されている。

     

    また、オアシズでは居住と店の区画をあえて明確に分けていない。

    ここに住む人間の多くは店を構えており、店自体が彼らの家となっている。

    極稀に、隠居した人間が部屋を買い取って別荘のように使ったりしている場合があるが、その場所もどこかに集中している訳ではない。

    密集することによって妙な疎外感を味あわせたくないという、船の経営者にして市長であるリッチー・マニーの方針だった。

     

    観光客用の部屋に関しても、少しずつ分けて建てられているため、船内の至る所には案内図がある。

    面白いことに、全ての建物は天井から離れており、それぞれが屋根を持って並んでいた。

    三角屋根から水平な屋根、果ては一階から更に上まで伸びる高層ビルまで種類は様々だ。

    圧迫感のない空間づくりを目指した設計は、客からも住民からも好評だった。

     

    そこで工夫されているのが、各階の配置だ。

    段々畑のように一階層ごとにずれることで、見上げれば必ず空が視界に入る設計をしている。

    上の階に行く毎に面積は狭まるが、店の種類を階ごとに整理することで対処している。

    最上階からの眺めは壮観で、上空から山街を見下ろしているように見え、逆に、一階からは山を見上げているような構図となる。

     

    デレシア達がいる場所はオアシズの第四ブロック十階、レヒツ通り。

    外からの入り口となる階であるために、エントランスセクション、と呼ばれている。

    その為、人の出入りが最も多く、最も賑わいを見せる場所だ。

    人が往来し、ベンチに腰かけて和む姿は地上の街と何一つ違わない。

     

    ノパ⊿゚)「すげぇな、こりゃ」

     

    ζ(゚ー゚*ζ「驚くのはまだまだこれからよ。

          とりあえず、お部屋に行きましょう」

     

    デレシア達はブーンを真ん中に横並びに歩き始める。

    幅の広い歩道ですれ違う人々は、ブーンの事を奇異の目で見ることはなかった。

    逆に、若い女性たちの口からは思わず、可愛らしい、と声が漏れるほどの評判だった。

    これまでに味わったことのない感覚に怯えるブーンだったが、その姿は彼女達にとっては一層可愛く見える演出にしかなっていなかった。

     

    ;∪´ω`)「デレシアさん、なんでぼく、あんなめでみられてるんですか?」

     

    ζ(゚ー゚*ζ「それはね、ブーンちゃんが可愛いからよ」

     

    ;∪´ω`)「お?」

     

    一行の部屋は、第四ブロック十八階のロイヤルロフトスイート802号室だった。

    最高級の部屋を取ったのには訳があった。

    ブーンに贅沢をさせるためではなく、ブーンの望みを叶えやすくするためだ。

    船内にはスポーツジムや射撃場があるが、この部屋には小さいながらもそれらが備え付けられている。

     

    特に、シューティングレンジがあるのは魅力的だ。

    実弾は撃てないが、同様の反動が生じるペイント弾を発砲出来る。

    デレシアは、ブーンに銃の扱いを教えるつもりだった。

    銃はこの世界で最も平等な力で、老若男女問わず銃爪さえ引ければ相手を殺せる武器だ。

     

    近い将来、ブーンはそれを使う必要に迫られることだろう。

    ならば早い段階でその使い方と恐ろしさ、そして手にするべき銃を知るべきだ。

    人目に付かず、尚且つ気兼ねなくレクチャーできる空間が欲しかったのである。

    エレベーターに乗り込み、部屋に向かった。

     

    (∪´ω`)「どんなおへやなんですか?」

     

    ζ(゚ー゚*ζ「そうねぇ……

          すごいお部屋だから、楽しみにしててね」

     

    *∪´ω`)「おっおっおー! たのしみですお!」

     

    十八階に着き、吹き抜けの手摺沿いに部屋のある場所まで徒歩で移動する。

    服屋や小物屋などの娯楽系の店が多く並び、店の前では客がショウウィンドウの中に置かれた商品を眺めていた。

    802の部屋――というよりも家――は、第五ブロックとの境、レヒツ通りと交差するヴィラ橋通りにあった。

    同じロイヤルロフトスイートの部屋が立ち並び、全部で十部屋が軒を連ねている。

     

    建物は周辺の建物から浮かないように地味な配色がされ、外見はお世辞にも豪華なものとは言えない。

    一見してただの二階建ての民家なのだが、これでも部屋なのである。

     

    ζ(゚ー゚*ζ「ここが、私達のお部屋よ」

     

    ノパ⊿゚)「家だろ、これ」

     

    ζ(゚ー゚*ζ「いいえ、お部屋よ」

     

    デレシアは部屋のドアノブにカードをかざしてロックを解除し、部屋の扉を開く。

    ベージュ色で統一された内装に驚くよりも先に、その広さにヒートとブーンは驚いていた。

    玄関は三人が入ってもまだ余裕があり、はいってすぐ目に入るのが、白いレースのカーテンが掛けられた海と空が一望出来る巨大な窓。

    入ってすぐ右手側には階段があり、二階があることが分かる。

     

    ノハ;゚⊿゚)σ「なぁ、これってやっぱりい……」

     

    *∪´ω`)「すごいお! ひろいお! おっきいお!」

     

    怪我のことなど忘れて、ブーンはデレシアの手を取って興奮していた。

    この反応に、デレシアは驚いていた。

    ここまで喜ばれるとは思っておらず、ここまで素直に自分の感情を表現できていることが何よりも嬉しかった。

    恥ずかしがり屋のブーンも、彼女達の前ではだいぶ素直になれるようだ。

     

    後は、人前でどれだけ堂々と出来るかだ。

    三人は靴を脱いで、部屋に上がった。

    フローリングの床はワックスで磨かれていて鏡のように輝き、ガラスのテーブルの上には果物の乗った籠が置かれている。

    その傍の臙脂色のソファーはビロード地で作られており、一目で高級品だと分かる仕上がりをしていた。

     

    シューティングレンジと運動部屋は二階にあり、寝室や台所、その他の設備は一階に揃っている。

    トイレと風呂場は独立しており、台所は全て電気で動く物を使っている。

    電子コンロに電子レンジ、冷蔵庫、冷凍庫、洗濯機、そして乾燥機。

    一般家庭の年収二年分に匹敵する電化製品が惜しげもなく置かれ、航行中は自由にこれらを使うことが出来る。

     

    ζ(゚ー゚*ζ「はい、じゃあここで注意点ね。

          このお部屋に入るには、ドアノブにこのカードをかざすだけでいいんだけど、お部屋を出る時には勝手に鍵が閉まっちゃうの。

          だから、お部屋を出る時には必ずカードを持っておいてね」

     

    人差し指と中指で挟んだカードを動かして、ブーンとヒートにこの船でのルールを説明する。

     

    *∪´ω`)゛「はいですお!」

     

    ノパ⊿゚)「りょーかい。

        で、この後どうする?」

     

    ζ(゚ー゚*ζ「まずはお昼ご飯にしましょうか。

          この船の中にある全部のお店での支払いは、このカードを出すだけでいいわ」

     

    要は、全ての面倒事はこのカード一枚で片付けられるということである。

    支払から入退室、劇場への入場もこれ一枚で可能だ。

    逆を言えば、このカードを紛失した時が最も面倒な時である。

    再発行までには様々な質問を受け、再発行費として多額の費用を請求される。

     

    盗難にあいでもすれば、不正使用される恐れがある。

    高級品の購入や、部屋への侵入もこれ一枚だ。

    オアシズもその点を考えており、各ブロックの間にカードをかざすパネルがある。

    そこで使用すれば、当然履歴が残るわけで、カードの追跡が可能となるのだ。

     

    無くさないのが一番だが、これだけ広い船内でこの薄いカード一枚を紛失するのは簡単だ。

    後でブーンに首から下げられるパスケースを買い与え、肌身離さないように指導する予定である。

     

    *∪´ω`)゛「カード、だして、つかう……」

     

    ζ(゚ー゚*ζ「そう、後は、失くさないってこと」

     

    *∪´ω`)゛「わかりましたお!」

     

    ノパー゚)「昼飯はどうする?」

     

    ζ(゚、゚*ζ「前に乗った時から大分時間が経ってるから、お店の事情はよく分からないのよねー。

          ま、ブーンちゃんのお鼻に任せましょうか」

     

    (∪´ω`)「へ?」

     

    ζ(゚ー゚*ζ「美味しそうなお店、ブーンちゃんが選んでね」

     

    ブーンの鼻先をつん、と指でつつく。

    首を傾げ、ブーンは少しの間考え、理解した。

     

    (∪´ω`)「いいんですか?」

     

    ブーンの目線に合わせて膝を屈め、デレシアは満面の笑みで言った。

     

    ζ(゚ー゚*ζ「えぇ、もちろんよ」

     

    その時、空が白に染まり、同時に爆音に近い、生木が引き裂かれるような音が空から響き渡った。

    意外なことにブーンはその音に全く怯えた様子を見せず、デレシアの目を見て笑顔を浮かべていた。

    窓を大きな雨粒が叩き、直ぐに大雨が世界を白に染める。

    嵐がポートエレンに到達し、豪雨と雷の洗礼を浴びせ始めた。

     

    上方から汽笛の重厚な音が鳴り響く。

    出航の時だ。

    鉄琴をリズムよく叩く音の後、船全体に年老いた男性の柔らかな声が響いた。

     

    『本日はオアシズにご乗船いただき、誠にありがとうございます。

    これより本船は、定刻通りティンカーベルに向かいます。

    嵐の影響で予定到着日時は不定となります。

    それでは、よき旅を』

     

    船が僅かに振動し、ポートエレンが遠ざかる。

    長い船旅が、始まった瞬間であった。

     

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    AmmoRe!!のようです

    Ammo for Reasoning!!

     

                        それでは、よき旅を。

                      第二章【departure-出航-

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                   ‥…━━ August 4th PM 1206 ━━…‥

     

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    オアシズ第四ブロック十八階、そこはファッションや装飾品の店が多く並ぶ階となっている。

    十階とは異なり、高級店ばかりが店を出しているために客があまりいないとのことだった。

    嵐によって薄暗くなった船内は日中にもかかわらず、夕暮れ時のような暗さとなっていた。

    店から漏れる明かりが空の明るさをはねのけ、雨音を跫音と喧騒が迎え撃つ。

     

    人の跫音と雨音の違いが曖昧になる中、ブーンは音でも見かけでもなく、匂いを頼りに動いていた。

    体の節々はまだ痛むが、空腹に比べれば何という事はない。

    デレシアとヒートに頼まれたのは、いい匂いのする店を探すということ。

    匂いは下から上に向けて漂ってくるので、ブーンはそれらの匂いを記憶して、これだと思うものを辿ればいいだけだった。

     

    今追っているのは、香ばしく、そして甘さの混じった匂いだった。

     

    (∪´ω`)「こっち、ですお」

     

    ノパー゚)「どんな匂いがするんだ?」

     

    (∪´ω`)「いいにおいですお」

     

    ヒートの手を引いて、ブーンは匂いの元へと急ぎ足で向かう。

    急ぎ足なのはブーンだけで、ヒートもデレシアもいつも通りの歩調で歩いていた。

    歩幅が違うことに気付かないまま、ブーンは二人を導く。

    匂いは、下からしていた。

     

    具体的な距離までは分からないが、まだ下なのは分かる。

    エレベーターではなくエスカレーターを使い、三人はどんどん下に降りて行く。

    九階に来てから、匂いが濃くなった。

    恐らく、この階層にある。

     

    人の目はもう気にならなくなっていた。

    これまで、人と会うと必ず耳を見られた。

    今は、眼を見られていることが分かっている。

    全てはデレシアからもらった帽子のおかげだった。

     

    怯えて行動する必要がないという事実は、ブーンの行動を大胆にしていた。

     

    *∪´ω`)スンスン

     

    匂いを追って進んでいくと、その正体が見えてきた。

    店と店との間の隙間に一時的に店を構えている、いわゆる出店が匂いの発生源だった。

    出店の看板には『ギョウザ』と書かれている。

    これだけいい匂いをさせていながら、客は全くいない。

     

    というか、一人もいない。

     

    ( `ハ´)「……」

     

    長い黒髪をオールバックにして、後頭部で三つ編みにした細い切れ長の目を持つ男。

    黒いエプロンの下には黒い半袖のポロシャツを着ていて、黒の似合う男だった。

    年齢は若く、三十代手前のように見える。

    屋台の店主は不機嫌極まりない顔をしながら、鉄板の上で何かを焼いていた。

     

    これがギョウザ、というものなのだろうか。

     

    (∪´ω`)

     

    ( `ハ´)

     

    面白くなさそうな顔のまま、店主はとろみの付いた水を鉄板に流し込む。

    水が一瞬で沸騰し蒸発する音に、ブーンは驚いた。

    その音と湯気に道行く人は目を向けるが、足を止めない。

    男の作業を興味深そうに見ているのは、ブーンだけだった。

     

    細い目が、ブーンに向けられた。

     

    ( `ハ´)「……何アルか?」

     

    ;∪´ω`)「お……あの、いいにおいが……したので……」

     

    ( `ハ´)「匂いがして、どうして私の事を見ているアル。

         見ていても愉快なことはしていないアルよ」

     

    ;∪´ω`)「えと……」

     

    男の言葉は威圧的だが、声には威圧感はなかった。

    只管に、無関心。

    奇妙な男だと、ブーンは思った。

    言葉だけを見ればブーンに対して好意的ではないが、声を聞く限りだと、彼はただ疑問を口にしているだけなのだ。

     

    ;∪´ω`)「つくるの、みていたかったんです……お」

     

    オセアンでは厨房の裏――正確には裏口から出たところ――から調理の様子を見ていた。

    その為、調理に関して、ブーンは少しばかり心得があった。

    あくまでも見識だけの話だが。

    それでも、調理を見るのは好きだった。

     

    ( `ハ´)「……好きにすればいいアル」

     

    男はそれだけ言って、調理を再開した。

    しかし、男の手元を見ることが出来ない。

    背伸びをしても届かず、ブーンは何度かジャンプした。

    材料の詰まったショーケースのせいで、何も見えなかった。

     

    ノパー゚)「ったく、しょうがねぇな。

        そらよっ!」

     

    *∪´ω`)「お!」

     

    ひょい、とヒートがブーンの腋に手を入れて持ち上げた。

    それまで見えなかった男の手元が、やっと見えた。

    黒い鉄板の上には、それと同じ大きさの蓋が乗っていて、その下で何かが焼かれている。

    そこから香ばしい香りが漂っていることは紛れもない事実であり、ブーンはこれから何が現れるのか、期待に胸を膨らませた。

     

    ブーンに一瞬だけ目を向けた男は、皿を片手に鉄の蓋を持ち上げ、そこにフライ返しを差し込んで何度が前後させる。

    フライ返しにちょうど乗る大きさの“何か”を長方形の紙皿に乗せ、男はそれをショーケースの上に合計三つ並べて置いた。

    そこで初めて、男の腕が筋肉質であることが分かった。

    細かな傷の上に、更に大きな傷。

     

    ただの出店の店主とは考えにくかった。

     

    ( `ハ´)「食えアル」

     

    割り箸を皿の上に乗せ、男はそれだけ言った。

    目は、ブーンをまっすぐに見ていた。

     

    ノパ⊿゚)「ありがとさん。

        お代は?」

     

    一瞬だけヒートを見た男は、感情のこもっていない声で答える。

     

    ( `ハ´)「……いらないアル。

         美味かったらまた来い。

         その時は、お代をもらうアルよ」

     

    *∪´ω`)「あ、ありがとうございますお」

     

    ( `ハ´)「気にする必要はないアル。

         とにかく、冷めない内に食うアル」

     

    店の隣にあった席に移動して、ブーンはギョーザなるものをよく観察した。

    三日月形のそれを箸で摘まむ限りだと、表面は固く、中は柔らかい。

    香りで判断するに、中には肉と野菜が詰まっているようだ。

    肉を包む黄金色の焦げ目の付いた皮にはヒダが付いており、その理由は分からない。

     

    ζ(゚ー゚*ζ「いただきます」

     

    ノパー゚)「いただきます、っと」

     

    (∪´ω`)「いただきますお」

     

    一口で食べられる大きさだが、小さく分けて食べなければ内臓への負担が掛かるので駄目だ、とデレシアに言われていた。

    箸をギョーザに突き立てると、肉汁が染み出してきた。

    立ち上る湯気からは肉の甘い匂いがする。

    二つに分け、それを口に運ぶ。

     

    最初に感じたのは香ばしく甘い匂いだった。

    舌の上に乗った熱い塊を細かく噛み砕くたび、野菜の水分と肉汁の混じった、旨味を凝縮した液体がギョーザを包む。

    皮は滑らかで、そして柔らかく弾力があり、甘い。

    サクサクとした食感の焦げ目を噛むたびに苦みを感じるが、それが豚肉と野菜が作り出す甘さを際立てる。

     

    野菜が生み出すシャキシャキとした歯応え。

    舌先に感じる独特の甘味から、キャベツは分かる。

    もう一つ、キャベツに紛れるようにして入っているのは白菜で、みじん切りにされているのはタマネギだ。

    オセアンではいずれも芯の部分をよく食べていたので、その味は――名前はペニサスに教えてもらったので――知っていた。

     

    何度も口から空気を含みいれて口内を冷まそうとするが、なかなか冷めない。

    固形だったギョーザが口の中で液体になってから、ブーンはやっと飲み込んだ。

    思わず満足した溜息が漏れる。

     

    *∪´ω`)「ほふー」

     

    ζ(゚ー゚*ζ「……あら、美味しい!」

     

    ノパー゚)「ビールが欲しくなる味だな」

     

    ( `ハ´)「ビールは一杯一ドル、餃子は一皿三ドル。

         ……次からは覚えておくアルよ」

     

    いつの間にか、ジョッキを三つ持った店主が席の横に現れていた。

    大ジョッキに並々と入れたビールをデレシアとヒートの前に置き、ブーンの前には茶色い液体が注がれたジョッキを置いた。

    嗅いだことのない匂いだったが、紅茶の匂いにどことなく似ている。

     

    ( `ハ´)「麦茶アル」

     

    (∪´ω`)「あ、ありがとうございますお。

          ぎ、ギョーザ、おいしいです」

     

    ( `ハ´)「いいから、飲むアル。

         それと、ギョーザじゃなくて餃子、アル」

     

    それだけ言い残し、店主は店に戻って餃子を焼き始めた。

    ブーンは言われた通り、ジョッキを両手で持って麦茶を飲む。

    仄かに甘い香りがするが、味は複雑な物だった。

    紅茶に近い渋みと甘み、しかしさっぱりとした後味は紅茶にはない。

     

    口内の油を洗い流すというよりも、中和する感じは餃子とよく合う。

    二口目の餃子を食べて気付いたのは、熱さも美味さの一つの要素となっている事だった。

    入っている食材で分かるのは、キャベツ、タマネギ、白菜と豚肉、そしてもう一種類。

    苦みと甘みを併せ持つ、独特の香りを持つ平たい野菜だ。

     

    飲み込んでから、ブーンはデレシアに訊くことにした。

     

    (∪´ω`)「デレシアさん、これはなんていうやさいなんですか?」

     

    ζ(゚ー゚*ζ「これはね、ニラ、っていうのよ」

     

    (∪´ω`)゛「ニラ……お」

     

    時間を掛けて五つあった餃子を平らげ、けふ、と小さくげっぷをする。

    ヒートに食事中はげっぷをしては駄目だと軽く指摘され、紙ナプキンで口元を拭ってもらった。

    満腹と言わないまでも、満足のいく食事だった。

     

    *∪´ω`)「おー……おいしかったですおー」

     

    ζ(゚ー゚*ζ「それじゃあ、お店の人にちゃんとお礼を言わないとね」

     

    *∪´ω`)「お」

     

    食べ終えた皿を一つにまとめて、ブーンは店主の元に歩いていく。

    店主は何も言わなかったが、目線をブーンに向けていた。

     

    *∪´ω`)「ごちそうさまでしたお」

     

    ( `ハ´)「……また来てもいいアルよ」

     

    店主が手渡した袋には、パック詰めされた餃子がこれでもかと入っていた。

     

    (∪´ω`)「お?」

     

    ( `ハ´)「……焼きすぎただけアル」

     

    と言っても、男の渡した餃子は先ほど焼いたばかりの物。

    男はそれ以上何も言わず、再び餃子を焼き始めた。

     

    ( `ハ´)「……」

     

    (∪´ω`)「……お。

          ぼく、ブーンっていいます」

     

    ( `ハ´)「……シナー・クラークス」

     

    デレシア達も礼を言って、店を後にした。

    シナーが餃子を焼く音が背後から聞こえてくるが、客が寄ってきている様子はなかった。

     

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    部屋に戻るまでの間に、デレシアは雑貨屋に寄りたかった。

    雑貨屋で首から下げるタイプのパスケースを買い、ブーンに与えようと考えているからだ。

     

    ζ(゚ー゚*ζ「ちょっと雑貨屋に寄りましょう」

     

    ノパ⊿゚)「だな。ブーンにパスケースを買ってやりたかったんだ」

     

    ζ(゚ー゚*ζ「私もそれを買おうとしてたのよ」

     

    大量の餃子が詰まった袋を大事そうに両手で持ちながら、ブーンはデレシアとヒートに挟まれて歩く。

    ローブの下で尻尾が嬉しそうに揺れている。

     

    *∪´ω`)「ぎょーざ、ギョウザ、餃子!」

     

    正直、出店での一件は意外だった。

    ブーンが特定の人種を魅了する力を持っているのは分かっていたが、シナーと名乗った店主が魅了されるとは思わなかった。

    腕の傷が物語るのは、彼が戦いに身を投じているということだ。

    あの無愛想な部分と人を寄せ付けない野犬のような雰囲気さえ直せれば、店は上手くいくだろう。

     

    三階上にある第二ブロック十二階、ヤザッカー橋通り。

    そこには雑貨屋が多く店を構える通りで、高級店から格安店まで種類も豊富だ。

     

    ζ(゚ー゚*ζ「私が買ってくるから、二人ともここで待ってて」

     

    橋の上のベンチに二人を座らせ、デレシアは一人雑貨屋に足を運んだ。

    選んだ店は全ての商品が一ドル均一と云う格安店で、店内には所狭しと様々な雑貨が置かれている。

    小物入れコーナーでパスケースと財布を手にし、レジで支払いを済ませた。

    店を出たデレシアの前に一人の男が現れたのは、偶然ではなかった。

     

    九階で餃子を食べている時から視線を感じていたし、ヒート達を置いて雑貨屋に来た時もその視線は背中で感じていた。

    後を付けられていることは、ヒートも分かっていただろう。

    だから、二手に分かれて対処することにしても、彼女は素直にそれを受け入れたのだ。

     

    £°ゞ°)「どうも、御嬢さん」

     

    胸ポケットにモノクルを挟んだ皺一つないスーツの下には、糊の効いたボタンダウンのワイシャツ。

    深紅色のネクタイを止めるのは、金色の薔薇をあしらった悪趣味なタイピン。

    圧倒的な存在感を出している右腕の金色の腕時計に、鏡のように磨かれたウィングチップの茶色い革靴。

    鼻の下に生える髭は綺麗に整えられ、櫛の通された黒髪は左右に流し、目尻の垂れた碧眼がデレシアをまっすぐに見据えている。

     

    身なりからして、このブロックを任されている上位の階級を持つ人間だろう。

     

    ζ(゚ー゚*ζ「こんにちは。 何か用かしら?」

     

    £°ゞ°)「失礼、あまりにもお美しかったので、つい。

          何かお困りなことはございますか?

          何分、この街は広くて複雑でしょうから、もしよろしければお手伝いしますよ」

     

    ζ(゚ー゚*ζ「そうねぇ、今はないわ」

     

    £°ゞ°)「では、何かありましたらこちらまでご連絡いただければ」

     

    懐から銀色の名刺ケースを取りだして、そこから高級用紙に印刷された名詞を差し出した。

    オアシズ第二ブロック責任者、オットー・リロースミス。

    ロミスは右手を出して、握手を求めた。

    腕時計を見せつけるための動作であることは、見え透いていた。

     

    £°ゞ°)「ロミスとお呼びください」

     

    ζ(゚ー゚*ζ「ありがとう、ロミスさん。

          私急いでるから、またいつか」

     

    握手を交わしてからロミスの横を通り過ぎ、デレシアは橋の上で待っている二人の元に急いだ。

    面倒な手合いとは、かかわった時間だけ面倒になる。

    様子を見ていたヒートが、ブーンに知られないように状況を確認してくる。

     

    ノパ⊿゚)「どうだった?」

     

    ζ(゚ー゚*ζ「えぇ、問題なく見つかったわ。

           ブーンちゃん、カードを出して」

     

    パスケースを袋から出して、ブーンの首にかける。

     

    ζ(゚ー゚*ζ「で、ここにカードを入れるの」

     

    (∪´ω`)「お……!」

     

    これで、カードを落として失くすことはないだろう。

    ハードタイプのケースなので、多少乱暴に扱っても簡単には折れない。

     

    ζ(゚ー゚*ζ「さ、戻りましょう。

          ブーンちゃん、お勉強しましょうか」

     

    *∪´ω`)゛「お! おべんきょうするお!」

     

    最寄りのエレベーターを使って十八階まで上がり、部屋に戻るまでの間、彼女達をつける者はいなかった。

     

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    部屋に戻ってから、デレシアはブーンをシューティングレンジに連れて行った。

    シューティングレンジは天井から床まで、全て剥き出しのコンクリートで作られていた。

    同時に二人が使用できるようになっており、壁のラックには十種類の拳銃がかけられている。

    全て実銃と同じ重量、材料だが、発射できるのはペイント弾だけだ。

     

    ζ(゚ー゚*ζ「ブーンちゃん、強くなりたいって言ったわよね?」

     

    (∪´ω`)「はい、ですお」

     

    ζ(゚ー゚*ζ「でもね、いきなり人は強くなれないの。

          ブーンちゃん、耳を押さえて」

     

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    ラックから艶消しのされた黒いM92Fを取って、デレシアは所定の位置に立った。

    的が出現するのとほぼ同時に、デレシアの指は銃爪を引き、銃が火を噴く。

    薬莢が床を叩くよりも早く、ペイント弾は的の真ん中に命中していた。

    レンジ内に、銃声が木霊する。

     

    ブーンが耳から手を離してから、デレシアは言った。

     

    ζ(゚ー゚*ζ「だから、力を使えるようにならないとね」

     

    ブーンが望むのは、力だ。

    それは理不尽に立ち向かう力であり、不条理を否定するための力でもある。

    銃は、彼の望みを叶えるに足る道具だ。

     

    (∪´ω`)「じゅう」

     

    ζ(゚ー゚*ζ「そうよ。 今のブーンちゃんが手に入れられる力は、これが一番早いの」

     

    (∪´ω`)「お」

     

    ノパ⊿゚)「まずは知るところから始めようか。

        そら、これを付けな」

     

    道具の入った棚を物色していたヒートが、イヤーパッドをブーンの頭から被せた。

    聴力が人以上に優れているブーンに何度も銃声を聞かせるのは、拷問にも等しい。

    音が反響しやすい施設だけに、イヤーパッドは必須だ。

     

    ζ(゚ー゚*ζ「まずは銃の説明をするわ」

     

    レンジ台の上に拳銃を置いて、デレシアは分解しながら銃の説明を始めた。

     

    ζ(゚ー゚*ζ「いい、よく見てよく覚えるのよ。

           これが撃鉄、これが銃爪。

           ここが遊底で、こっちが安全装置。

           銃把のところに付いているこのボタンを押すと、弾倉が落ちるの」

     

    (∪´ω`)゛

     

    ζ(゚ー゚*ζ「銃爪に指をかけるのは、照準が合ってから。

          それまでは駄目よ。

          銃を相手に渡す時には、必ず遊底を掴んで、安全装置をかけてから、銃口を相手に向けないようにして渡すの。

          もちろん、撃鉄が起きていないことを確認するのよ」

     

    次に弾倉から実包を取り出して、真鍮の輝きを放つそれをブーンの手に渡す。

    先端に込められているのは黄色に塗られた特殊弾頭。

    ペイント弾とは言っても、火薬を使って発射するわけだから当たれば痛みがある。

    銃に関する仕組みの説明を終え、デレシアは銃を組み立てた。

     

    ζ(゚ー゚*ζ「じゃあ、試しに撃ってみましょうか」

     

    ベレッタを握らせ、ブーンをレンジに立たせる。

    デレシアの見よう見まねで構えるブーンの後ろから手を添えて、構えを安定させる。

    両手で握らせ、銃を固定させる。

     

    ζ(゚ー゚*ζ「的の真ん中を見ないの。

           自分の指の延長線上に狙いたい物が来るようにするの」

     

    ブーンの体は、僅かなブレを完全に抑えていた。

    目的遂行のために意志を鋼にし、体を順応させている。

    ダブルカラムの弾倉を咥え込む銃把は、ブーンの小さな手には余る大きさだ。

    銃爪に辛うじて指が届いているといった状態で、本番でこの銃は使えない。

     

    となると、銃把を削ってやる必要がある。

     

    ζ(゚ー゚*ζ「ゆっくり息を吸って……倍の時間を掛けてゆっくり吐いて。

          ……そこで止めて。

          今の状態を体で覚えるの」

     

    しばしの静寂。

    銃は微動だにせず、ブーンは瞬きもしない。

    ブーンからゆっくり体を離して、枷を解く。

    補助を失っても、ブーンの体は動かない。

     

    ζ(゚ー゚*ζ「銃爪をゆっくりと、絞るように引いて」

     

    一拍。

    そして、銃声。

    五重円の内側から数えて三本目の円にペイント弾が黄色い印を付け、遊底が後退して薬室に新たな実包を送り込み、空薬莢が宙を舞う。

    薬莢が地面を転がり落ちる音、硝煙の香りがシューティングレンジに揺蕩った。

     

    ζ(゚ー゚*ζ「あら、すごいじゃない!」

     

    驚くべきは、反動を完全にコントロール下に置いた射撃にあった。

    発砲の際の力の抜き方は、理に適ったそれだ。

    彼のオリジナルではなく、模倣された型なのは明らかだった。

    その型には、覚えがあった。

     

    ――悠久の時を経て完成させた、デレシアの型だ。

     

    ノパー゚)「初めてにしてはいい腕だぞ、ブーン」

     

    (∪´ω`)゛「……お!」

     

    デレシアの補助がない中で出した成果は、想像以上だった。

    もっと小型の拳銃を使わせれば、更なる成果が得られそうだ。

    ブーンが当てた的までの距離。

    約五十ヤード。

     

    このシューティングレンジの最長の的であった。

     

    (∪´ω`)「あ」

     

    ζ(゚ー゚*ζ「どうしたの?」

     

    (∪´ω`)「あの、あとでおしえてほしいことがあるんですけど……

          ……いいですか?」

     

    それにいいえと答えられるほど、デレシアもヒートも非情ではなかった。

     

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    オットー・リロースミスは右手に残る感触に酔い痴れ、興奮していた。

    これまで、多くのパーティーに参加してきたが、あれほど美しい女性と会ったのは初めてだった。

    仕草、立ち振る舞い、何もかもが完成された美によって構成された美しさの化身だった。

    オアシズでブロック長を任されてから、女に困ったことはない。

     

    その彼が自室で一人の女性を想って性的に興奮している姿を見れば、彼を知る誰もが驚くに違いない。

    彼女に会ってから、右手は他に何も触れていない。

    つまり、右手には彼女が残っていると考えられる。

    そこまで浅ましい考えに至っていることの異常性に、ロミスは気付けなかった。

     

    指先に残る彼女の味を堪能したい衝動は、彼の理性が焼き切れていることを意味している。

    女性の体を舐めることが彼の趣味であることは、彼と性的な接触を持った人しか知り得ない秘密である。

    彼は、部屋の鍵が掛かっていることを確認してから、自らの指を舐めた。

    塩気の中に、僅かな甘味を感じる。

     

    この味の一部は、あの女性の物だ。

    そう考えた途端、彼の陰茎が大きく膨らんだ。

    直に舐めて、その体の細部に至るまでを味わいたかった。

    どんな味がするのだろうか。

     

    どんな声で喘いで、どんな声で愛を囁くのだろうか。

    最近味わった女の体の味など、もう忘れてしまった。

    行きずりの女だ。

    名前も、顔も、もう思い出せない。

     

    あの女性の前では、あらゆる女性が霞んで見える。

    今、ロミスが求めているのは黄金色の髪と蒼穹色の瞳を持つあの女性の体だけだった。

    他の女の体など、オナホールにしか思えない。

    掌が彼の唾液で隙間なく濡れた頃には、ロミスは平常心を取り戻していた。

     

    常に紳士であれ。

    それが、ロミスの信条だ。

    性欲に流されないように考えを固め、今後は己の目標のために動くことに決めた。

    そう。

     

    コクリコホテルで見かけたその瞬間から、ロミスはあの女性に一目惚れをしていたのだから。

     

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    シナー・クラークスは孤独に餃子を焼いていた。

    客はまだ来ていないので、作るだけ赤字になる。

    それでも、餃子を焼いていた。

    餃子を焼くことに使命感はなかった。

     

    ただ、手持無沙汰になるのが嫌なだけだった。

    幼少期は両親の経営する料理店で中華料理、と呼ばれる料理を学んだ。

    何故中華と云う名前なのかと訊いたことがある。

    かつてあった世界最大の人口を持つ土地から、その名を取っていると聞いた。

     

    シナーは餃子をパックに詰め、ショーケースの上に積んだ。

    もう十五個目だった。

    客は来なかった。

    売り上げがまた赤字になる。

     

    餃子の味には自信があった。

    商才には自信がなかった。

    自分が客受けしない容姿と性格であることはよく理解していた。

    自分は根っからの戦争屋で、屋台の店主には向いていないのだ。

     

    溜息を吐く代わりに、シナーは電子コンロのスイッチを切った。

    そろそろ、意地を張るのをやめて部屋に戻ろう。

    そう、決めた。

     

    「あ、あの……」

     

    ( `ハ´)「ん?」

     

    声変りをしていないその中性的な声は、ショーケースの下から聞こえてきた。

    聞いた記憶のある声だ。

     

    ( `ハ´)「ブーンアルか?」

     

    ショーケースの向こうを覗き込むと、そこには毛糸の帽子を被ったブーンがいた。

    紙袋を両手で大事そうに持つ彼は、シナーの目をまっすぐに見つめ返して頷く。

     

    (∪´ω`)゛

     

    ( `ハ´)「何の用アルか?」

     

    (∪´ω`)「あの、これ……」

     

    紙袋を差し出されたので、シナーはそれを受け取った。

    中を開けて覗き込むと、小麦色のクッキーが入っていた。

    形はかなり大きく、シナーの手の平ほどの大きさがある。

    でかい。

     

    ( `ハ´)「……でかいアルね」

     

    でかすぎだ。

    これを作った料理人の気持ちが分からない。

     

    ;∪´ω`)「……ごめんなさい、ですお」

     

    ( `ハ´)「? なんで謝るアルか?」

     

    ;∪´ω`)「あの……それ……ぼくが、つくったから」

     

    シナーは、ブーンの態度の理由を理解した。

    このクッキーは、ブーンが感謝の気持ちを表すために作ったのだ。

    ならば、でかくて結構。

     

    ( `ハ´)「……料理は初めてだったアルか?」

     

    ;∪´ω`)「はい……です」

     

    ( `ハ´)っ○「ふむ……」

     

    一枚だけ取出し、シナーは改めてクッキーを見る。

    やはりでかい。

    形はどうにか円形だが、とにかくでかい。

    匂いを嗅ぐ限り、シンプルなバタークッキーの様だ。

     

    大口を開けて、クッキーに齧りつく。

     

    ( `ハ´)「む……」

     

    硬い。

    並のクッキーの硬さではない。

    堅焼きクッキーと云うレベルではない。

    石でも食べているような硬さだ。

     

    ;∪´ω`)「お……」

     

    不安そうな目で見られ、シナーは焦った。

    不味いと思っていると思われているのだろう。

    いや、不味いのではない。

    逆に、美味い。

     

    (;`ハ´)「むぐぐ……!!」

     

    こうして齧っている間に舌で感じるクッキーの控えめな甘味とバターの風味は、売られているものと遜色ない。

    しかし硬い。

    兎に角硬い。

     

    :;#`益´);:「ふんぐぐぐっ……!!」

     

    犬歯でやっと噛み砕くことに成功し、シナーはそれをどうにか咀嚼する。

    ここまで顎が疲れる食べ物は生まれて初めてだ。

    唾液でクッキーがふやけたおかげで、奥歯で細かく噛み砕けた。

    こうなると、噛み応えがあって美味いクッキーだ。

     

    飲み下してから、シナーは感想を言った。

     

    (;`ハ´)「……美味いアル」

     

    *∪´ω`)「お……」

     

    ( `ハ´)「クッキー、ご馳走様アル」

     

    シナーは売り上げを入れる袋と紙袋を手に、そこから逃げるように立ち去った。

    これ以上その場にいると、らしくないことをしてしまうと判断したからだ。

    思わず伸ばそうとした手は、彼の頭を撫でるためのものだった。

    何故、出会って数時間しか経っていない少年の頭を撫でて褒めてやらなければならないのか。

     

    ――きっと、コクリコホテルで癒したはずの疲労が、まだ残っているに違いないのだと、シナーは己の気持ちを否定した。

     

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                   ‥…━━ August 4th PM1545 ━━…‥

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    その人物は、部屋に戻ってから、銃の手入れを始めた。

    ジュスティアの警察がオアシズに乗船していないことは確認済みだ。

    それは、計画通りに物事が進行していることを意味していた。

    全ては順調。

     

    死体は無事にその役目を果たしたというわけだ。

    刑事であるトラギコが現れた時は流石に肝を冷やしたが、彼の仕事熱心さと真面目さが仇となった。

    いや、仇ではない。

    その人物にとって、トラギコの出現は好ましいハプニングだった。

     

    ジュスティアから警官が来る代わりにトラギコで済んだのだから。

    こうして事件は事故となり、自殺へと変わった。

    一瞬だけでも十分だった。

    事件として処理されず、自殺として処理されることによって余計な駒が舞台に上がることは防がれた。

     

    舞台は常に徹底して整えられていなければならない。

    不要な役者は退場させ、不要な展開は潰すべきなのだ。

    しかし、この船に邪魔になるかもしれない一行が乗り込んでいることが分かってしまった。

    金髪碧眼の女性を筆頭とする旅の一行は、出来れば潰しておいた方がいいだろう。

     

    コクリコホテルで目にした瞬間から、胸に飛来した思いがある。

    彼女達は、危険だ、と。

    これまでに理屈に基づいて行動してきたのだが、今回ばかりは、勘を頼りに動くべきだと判断するほどだ。

    それほどまでに、彼女達からは危険な香りがした。

     

    三人で旅をしているのであれば、少しずつ削るべきだ。

    まず削るべきは、当然、最も非力な存在。

    つまり、毛糸の帽子を被った黒髪の少年から、消していかなければならない。

    残念だが、この後に控えているシナリオから即時退場させなければ。

     

    ブーンとかいう少年は、彼女達を釣る餌として今日にでも死んでもらおう。

     

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    AmmoRe!!のようです

                                    Ammo for Reasoning!! 編 第二章 了

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