Ammo→Re!!のようです

まとめだよ

最新の記事

既刊紹介 (06/14)  第十章【Ammo for Reknit!!】 + Epilogue (12/05)  第九章【knitter-編む者-】 (10/01)  第八章【heroes-英雄-】 (07/19)  魔女の指先、硝子の銃爪 PV (06/29)  第七章【housebreaker-怪盗-】 (06/13)  第六章【bringer-運び手-】 (05/05)  第五章【lure-囮-】 (04/16)  第四章【monsters-化物-】 (04/16)  第三章【trigger-銃爪-】 (04/16)  第二章【departure-別れ-】 (04/16)  第一章【rider-騎手-】 (04/16)  序章【concentration-集結-】 (04/16)  第十章【Ammo for Tinker!!】 (04/16)  第九章【cameraman-カメラマン-】 (04/16)  第八章【brave-勇気-】 (04/16)  第七章【driver-ドライバー-】 (04/16)  第六章【reaction-反応-】 (04/16)  第五章【drive-ドライブ-】 (04/16)  第四章【preliminary-準備-】 (04/16)  第三章【preparedness-覚悟-】 (04/16)  第二章【集結- concentration -】 (04/16)  第一章【mover-発起人-】 (04/16)  序章【beater-勢子-】 (04/16)  Epilogue【Ammo for Reasoning!!】 (04/15)  第十章【Reasoning!!-推理-】 (04/15)  第九章【order-命令-】 (04/15)  第八章【intercept-迎撃-】 (04/15)  第七章【drifter -漂流者-】 (04/15)  第六章【resolution-決断-】 (04/15)  第五章【austerity-荘厳-】 (04/15)  第四章【murder -殺人-】 (04/15)  第三章【curse -禍-】 (04/15)  第二章【departure-出航-】 (04/15)  第一章【breeze-潮風-】 (04/15)  序章【fragrance-香り-】 (04/15)  Epilogue【Relieve!!-解放-】 (04/15)  第十章【answer-解答-】 (04/15)  第九章【rage-激情-】 (04/15)  第八章【mature-成長-】 (04/15)  第七章【predators-捕食者達-】 (04/15)  第六章【grope-手探り-】 (04/15)  第五章【starter-始動者-】 (04/15)  第四章【Teacher-先生-】 (04/15)  第三章【fire-炎-】 (04/15)  第二章【teacher~せんせい~】 (04/15)  第一章【strangers-余所者-】 (04/15)  Prologue-序章- 【Strategy-策-】 (04/15)  【???】 (04/14)  終章 (04/14) 

記事一覧はこちら

スポンサーサイト

  1. 名前: 歯車の都香 --/--/--(--) --:--:--
    上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
    新しい記事を書く事で広告が消せます。

    [スポンサー広告]

コメント

コメントの投稿(コメント本文以外は省略可能)





管理者にだけ表示を許可する

第十章【answer-解答-】

  1. 名前: 歯車の都香 2017/04/15(土) 19:38:07
    第十章【answer-解答-】

    ┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳
    ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

    The witch was here.
    かつて魔女がいた。

    The witch who thought a lot of things for her students and pupils was wise person.
    万物を数多の子に教えた魔女は、聡明な人間だった。

    Now she is not anywhere.
    今はもういない。

    The chained child was here.
    かつて子供がいた。

    The child who had been insulted by many people was cowardly and kind person.
    多くの人間に虐げられた子供は、臆病で優しい人間だった。

    Now he is……
    今はもう……

    ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
    ┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻

    ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
    ||||||||||||||||||||||iiiiiiiiiiiii"",,,...'"ろ:::::::................                  .........................::::::::::::::
    !!||||!!!!||||||||||||||||||||||iii;iiii!!!'"........                             ..................
    ::レ∠ii||||||||||!!!!!!!!ii;;~^''"
    :: /|||||||||||!!!!,,.'''"~"''~................................                      .....................:::::::::::::::
    : |'''''''""~~''"                        r´`;
    : |::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::            `゙´       _,、‐" ̄ ̄'''‐-、、__
    : |::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::                      ,,,-'`"´ ;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;  `'ー
    24 years ago...
    ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

    日の出と共に始まったアクティビティは、満月が頭上に現れても一向に終わらなかった。
    人の手がほとんど入っていない森の中を歩き続けて、かれこれ十二時間以上が過ぎている。
    手元のコンパスを頼りに東に進み続けるも、目標物は一向に見えてこない。
    見えるのは生い茂る木々と夜空だけだ。

    夜行性の動物の鳴き声が時折山に響き渡り、不気味に反響する。
    教官の楽しげな顔と声が唐突にフラッシュバックし、短く浅い溜息を吐く。

    「いつも訓練ばかりだと飽きるだろう。
    だから今日は、楽しいアクティビティをしようと思う。
    缶蹴りだ。
    糞虫の貴様らでも、この遊びぐらいは知っているな?」

    七十キロにも及ぶ装備を身に着け、ペイント弾の装填されたM14ライフルを手にして行う缶蹴り。
    想像していたよりも遥かに過酷なこのアクティビティは、基地内の訓練兵全員――二百四十六名――が参加し、未だに誰も缶を蹴るどころか、視認すらしていない。
    無線の使用は禁止されており、日中行っていた手旗信号による通信もこの闇夜の中では出来ない。
    一時間に二回ほど銃声が聞こえるが、ゲーム終了のアナウンスはかからない。

    人里離れた山奥で今なお続く缶蹴り。
    少年は倒木を背にして座り込んだ。
    脚は疲労を感じているが、まだ歩ける。
    背負ってた背嚢を降ろして、そこから水とスプーン、缶入りの携行食料を取出し、ナイフで蓋を開ける。

    灰色の携行食料――アッシュフードと呼ばれている――を、スプーンでかっ込むようにして食べ始めた。
    塩味が強く、美味いとは言い難い。
    それでも、バランスよく栄養素が取れる上に腹持ちのいいこれに、文句は言えなかった。
    何味なのかも判断が難しい、人工的な味。

    炊事班の作る料理が恋しかった。
    豆と肉のトマトスープの、酸味と甘みの混合したあの味を思い出す。
    原価は安いが味と栄養は満点で、訓練兵たちの水曜日の楽しみだ。
    ふと、背嚢の中に潜ませていた――この訓練の噂を聞いていたので、前日に入れていた――水筒を取り出す。

    保温性に優れた水筒の中身は、前日、つまり水曜日に出されたスープの残りだ。
    正確に言えば、ギコ達訓練兵の中で公平な勝負――ジャンケン――の勝者が得たスープだ。
    蓋を開けると、まだ温かいことを示す薄い湯気が立ち上る。
    と、同時に漂うのはトマトの甘い香り。

    嗚呼、この香りがたまらない。
    トマトの甘酸っぱい香りは疲れた体によく効く。
    一口だけ啜ると、唾液が口内に溢れだす。
    程よい酸味と仄かな甘味。

    思わず溜息が漏れる。
    僅か一口で、一日で流した汗の分の塩分を補給したと実感できる。
    二年前までは、この一口で訓練への意欲を削がれていた事だろう。
    今は、いち早くこの訓練を終わらせることに意欲を注ぐ活力となった。

    乾いた喉を潤すため、別の水筒を手に取る。
    そちらに入っているのは、一つまみの塩を入れた水だ。
    唇を湿らす程度にその中身を口にした。
    時折口に含む水の量は、非常に微量だ。

    いつ水が確保できるか分からない状況で、水を無駄に飲むわけにはいかない。
    かと言って飲まないわけにもいかず、こうして少しずつ飲むしかない。
    食べ終えて残った缶を背嚢にしまい、一息つく。
    日頃行っている訓練でも大分厳しいと感じているのに、それ以上の訓練ともなると体がもたない。

    かと言って、訓練を止めるわけにもいかない。
    自らの意志で兵士になることを望んだのだ。
    その為なら、この訓練を乗り越えなければ。
    少しの間仮眠を取ろうと身を屈めた、その時だった。

    直ぐ近くで、散発した銃声が響き渡ったのだ。
    音がよく響く山中とは言っても、ここまではっきりと聞き取れるだけの距離。
    方角は不明だが、確かに、近くで聞こえてきた。
    銃の種類は、彼と同じM14。

    発砲の間隔から、焦っていることが分かる。
    それだけ至近距離に何かを見出したのならば、こちらはそれを利用させてもらう。
    赤外線暗視光学照準器をマウントレールに取り付け、四方に銃口を向ける。
    小動物の熱源から、微細な熱源までを捕らえる。

    距離にして約一マイル先にある谷間、そこに、断続的に生まれる強い熱源がいた。
    発砲している同期の訓練兵だ。
    対赤外線用の繊維で全身を固めているため、人の姿は浮かばないが、発砲炎が形となって居場所を知らせる。
    どこに向けて発砲しているかを確認するために銃を動かすも、どこにその標的がいるのか分からない。

    一マイル先の彼が何かを見つけたのだと信じ、行動を起こす。
    背嚢の中にあった固形燃料に火を点け、その上に携行食料をありったけ乗せる。
    これで、一瞬だけだが時間を稼げる。
    ライフルだけを手にして、西から標的に接近を試みる。

    同期には悪いが、囮になってもらうしかない。
    缶がどこにあるのかが分かれば、後は時間との勝負だ。
    あの同期が動かないということは、あの付近に缶はない。
    この長い缶蹴りの終わりは、後少しだ。

    傾斜に生えた木々の隙間から聞こえていた同期の銃声が途絶え、彼が脱落したことを物語る。
    谷を滑るように下り、浅い川を越え、崖を上る。
    峰に向けて、ゆっくりと匍匐前進を開始。
    悟られ、位置を変えられない内に勝負を決める。

    常に照準器を覗き込んで熱源を探るも、一向に見当たらない。
    事態の解決が単独では困難だと判断し、大木を背にしてコンパスを確認しながら、ライフルを空に向ける。
    そして、不規則に銃爪を引く。
    これで鬼がこちらの存在に気付くのと同時に、仲間がこちらの存在の意図に気付くはずだ。

    この意図に気付けなければ、この場に援軍として来られても困る。
    十分ほどその場に静止していると、人の気配が風下から迫ってきた。
    気付いた仲間がいたようだ。
    空に向けて放った銃弾がモールス信号の役割を果たし、座標と標的の発見を告げたのである。

    無言のまま、すぐ傍を五人の人影が通り過ぎ、そして一分後には全員が転がり落ちてきた。
    暗闇でも見やすいようにと作られた蛍光塗料のインクが、彼らの急所に付着していた。
    ペイント弾の付着は、訓練の脱落を意味する。
    言葉を発することも合図を送ることも許されず、その場に倒れて待機し、死体を演じることを強いられる。

    ここを少し進んだ先が、鬼の射程圏内と云う訳だ。
    ならばどうすれば進めるのか。
    対赤外線装備で身を固めた同期が一瞬で仕留められるとなると、相手は只者ではない。
    教官が付け加えるように言った一言を思い出す。

    「今回は、未熟な貴様らにはもったいないが、我々の大先輩が協力して下さることとなった。
    まぁ、精々足掻いて見せろ」

    足掻くどころではない。
    たかが缶蹴りで、同期二百四十六名が翻弄されている。
    脱落者の人数は不明だが、この状況を見るに、壊滅状態だろう。
    しかも、鬼はたった一人。

    確かに訓練兵の集まりだが、これまでに積み重ねてきた訓練の過酷さは彼らの自信に直結している。
    今、その自信が揺らぎ始めていた。
    どうすれば勝てる。
    どうすれば、正体不明、武装不明の敵の目を欺き、缶を蹴り飛ばせるのか。

    相手のいる方角は分かっている。
    北にある峠。
    そこに陣取っている。
    これまでに脱落させられた友軍の全てが、そこからの攻撃で倒れていることから、それは明らかだ。

    今、自分は相手に認知されていないはずだ。
    この機を逃しては、他に機はない。
    匍匐前進を再開し、距離を縮める。
    呼吸が乱れないように、熱源が探知されないように静かに進む。

    位置的な有利性は、向こうにある。
    一度視認されれば、こちらに機は訪れない。
    一瞬たりとも気を抜けない状況に、自然と気分は高揚していた。
    この感覚、たまらなく楽しい。

    銃声が轟く中、一時間以上時間を掛け、崖沿いに山頂を目指した。
    ここまでで鬼の気配は微塵も感じられず、音もなかった。
    ゆっくりと這い進み、ついに、缶を見つけた。
    周囲に誰もおらず、罠らしき物も見つからない。

    缶までの距離、残り、五フィート。
    近くに人の気配はしない。
    他の友軍を探しに移動したのだろうか?
    でなければ、ここまで接近することがあり得るはずがない。

    念のため、ライフルを肩付けに構えて周囲をスコープで覗きこむ。
    小動物の熱源だけだ。
    慎重に、周囲を警戒しながら缶まで距離を詰める。
    後三歩で足が届く。

    勝った、そう確信した瞬間の事だった。

    「残念ね、貴方で最後なの」

    年老いた女性の声と減音器が生むくぐもった銃声。
    そして、背中に衝撃。
    ペイント弾が当てられたことを理解し、同時に、相手の言葉を理解して後悔した。
    自分は泳がされていたのだ。

    誘蛾灯のように味方をおびき出させ、最後の一人になるまで生かされていたのだ。
    訓練兵の中には、自分よりも年上の人間が百七十人もいた。
    恐らく彼らが優先的に抹殺されたのだろう。
    指揮系統を構築される前に、その可能性がある人間が最初に屠り、最後は指揮権に服しない単独行動の人間を狩る。

    終わってから分かる、相手の策略。
    それは、自分達の考えが全て見透かされていたことを意味していた。
    正直、これまでの訓練で初めての経験だった。
    相手の行動に敬意を払い、そして、その教えを乞いたいと願ったのは。

    「……くそっ!!」

    「でも、貴方なかなか筋があるわよ。
    決断力と行動力が伴っているし、単独行動も手慣れていたわね。
    ただ、熱源の偽装はもう少し勉強しないとね。
    それと、相手の装備が分からない中で賭けに出るにはまだ若過ぎよ」

    大音量で、森全体に訓練終了を告げるサイレンが鳴り響く。
    それまで死体役に徹していた同期達が動きだし、口々に後悔の言葉を口にする。
    起き上がって振り向くと、そこにいたのは、一人の老女だった。

    ('、`*川「お疲れ様、おかげで楽しませてもらえたわ」

    (;゚Д゚)「……あ、貴女は?」

    ('、`*川「ペニサスよ。
         貴方のお名前は?」

    ( ゚Д゚)「わ、私の名前は――」

    それが、生涯の師となる“魔女”との最初の出会いだった。

    ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
                  |::|   _,,,...-┐ . ||  | :||,.-┘
       _,,,...--‐‐r   .|::|   |  | l||  .||,..-‐''"  
       | fl |ヾ、 ||    |::|   | ,」.-‐''"
       | |:|:|=《. ||    |::|_,,..-‐''"
       | |」:|__リ..|| _,,..-‐''"
       | _,j.-‐''"
    _,,..-‐''"  
    ‥…━━ August 3rd PM15:00 ━━…‥
    ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

    脱出に際して必要な物は、全て揃っていた。
    悪路を走破するための装輪装甲車。
    瓦礫を除去するための対戦車兵器――RPG-7――と、無反動砲――SPG-9――の砲弾。
    トンネルを閉ざす扉を吹き飛ばすための高性能爆薬五キロ。

    電池の切れた棺桶は充電用コードを発電機から繋ぎ、この短時間で二割まで電力を回復している。
    そして、潜水用の装備を三人分。
    兵站庫から拝借した物資を六人乗りの装甲車に積み、後は所定の場所に爆薬を設置するだけとなっていた。

    ノパ⊿゚)「――で、後はトンネルを塞いでる扉にこれを仕掛けるだけだな?」

    ヒート・オロラ・レッドウィングは高性能爆薬が詰まった木箱を持ち上げ、車両点検を行っていたデレシアにそう声をかけた。
    車載兵器である重機関銃を無反動砲と交換していたデレシアは、レンチを屋根に置いて言った。

    ζ(゚ー゚*ζ「そうよ。さっき確認した場所に仕掛けておいて」

    ノパ⊿゚)「あいよ」

    二人は十分前に海兵隊基地に到着し、海兵隊基地がたった一人の棺桶持ちに蹂躙される様子を目撃していた。
    だが、手を貸すことはせずに、人が出払った兵站庫から必要な資材を集めることに専念していた。
    時間が許すのであれば、デレシアとしてはティンバーランドについての情報を手に入れるついでに潰してやりたかったが、ここまで事態が悪化してしまった以上、手出しは無意味だった。
    ブーンの居場所が分からない以上は、いつでもすぐに脱出できるための準備を整えておくことこそが、最も有意義な行為だと判断したのだ。

    事態の悪化によって見えたのは、ティンバーランドの情報はもうしばらく泳がせてからの方がいいと言うことだ。
    ここを襲った理由は、やはり、デレシアが予想していた通りだった。
    “ニューソク”と呼ばれる機関の奪取だ。
    たった一基でニクラメン全体の電力を補うそれは、本来はニューソクと云う名前ではない。

    語源は“nuke(ニューク)”が謝った形で訳されたことにある。
    初めて原子力発電設備が発掘された時、人々はその名前を知らなかった。
    原子力と云う言葉も知らなければ、その意味も知らなかった。
    頼りになったのは、朽ち果てた本の山とダットだけ。

    最終的にその設備の事が書かれた書物が見つかり、そこの文面から設備の名前を推測することとなる。
    “ニューソーク”という大都市の名前が同じ文面に並んでいたのだが、当時の人間はそれが都市の名前だとは知らなかった。
    そこで推測されたのが、ニューソークとニュークが同じ意味で、ニュークとはニューソークの短縮した形だというものだ。
    結果、間を取って付けられたのがニューソクという名前だった。

    つまり、ニューソクとは原子力発電設備のことなのだ。
    その本質を理解している現代人はほとんどいないが、取り扱いの危険性について理解はしている。
    復元の際に都市が四つほど滅びたのは、歴史の授業で子供たちも学んでいる事実である。
    失敗の果てに得た神にも等しいエネルギーは、その街に発展を約束し、偽りの安寧を与えた。

    ここ、ニクラメンはそう云った都市と大きく異なるのは、ニューソクの重要性だ。
    他の街々にとっては便利な発電装置だが、ここでは、街の命である。
    ニューソクがあったからこそニクラメンがあるのであり、これが復元されなければニクラメンは生まれなかった。
    幸か不幸か、街を作った人間は、ニクラメンの本質に気付いていなかった。

    巨大な構造物は明らかに人工の物で、だが、その巨大さ故に目的は理解し難かった。
    だからこそ、街の真の姿を探求することを早々に放棄し、増改築による発展を図ったのだ。
    その結果が、海上都市と海底都市の二分化だ。
    これによって得た自然災害への抵抗力は凄まじい物で、だからこそ、ニクラメンはここまで発展することが出来たのである。

    被服の町であるクロジングが近くにあったこともあり、町からはクロジングの戒律に嫌気がさした腕利きの職人の卵が毎年多くニクラメンに流入した。
    クロジングからやってきた未来ある若者たちを、当時のニクラメンの市長は快く迎え入れた。
    若者たちの才能と努力の甲斐あって、ニクラメンは海上都市として名を馳せ、大規模なファッションショーを開催するに至った。
    いつしかそれが、ニクラメンによるクロジングの影の支配であると噂され、小さな嘘は真実へと昇華したのである。

    街が発展する中で、ニクラメンの歴代の市長たちは代々ある計画を受け継いでいった。
    海底に走るマリアナ・トンネルの復旧である。
    この復旧作業は、文字通りニクラメンの核であるニューソクを安全に管理すること。
    そして、より安全な交通経路を獲得することを最終目標にしていた。

    この目標が達成されることによって、ニクラメンは更なる発展を遂げるはずだった。
    今日までは。
    今日、この日までは。
    “黄金の大樹”、ティンバーランドがニューソクに目をつけるまでは。

    マリアナ・トンネルに通じる兵舎の影で作業を行っている二人は、作業中に幾つかの打ち合わせを済ませてあった。
    一つは、この先の脱出について。
    トンネルに通じる厚さ五インチの鋼鉄製の扉は音声認識システムで封鎖されており、爆薬で吹き飛ばす以外に方法はなかった。
    突入後は、デレシアが運転、ヒートが十座に付いて障害物を除去するという分担で合意し、各種点検と整備を行った。

    二つ目は、ブーンとの合流だ。
    デレシアが安全な場所に投げ飛ばした後、再び崩落が起きたことを確認している。
    それ以前に、デレシア達と別れた時からブーンの生死に関しては完全に彼自身に一任されている。
    オセアンで選んだ生きるという選択に、どれだけの覚悟があったのかは分からないが、心配はしていない。

    彼は自分のことを自分で選択できるだけの経験を積み重ね、それだけの素質を持っている。
    どこかで死ねばそれまでの人間だし、生きていればまだまだ伸びしろのある人間だということがよく分かる。
    デレシアの意見では、ブーンは間違いなく後者だ。
    出来れば彼の果てを見届けたいと云うのが、デレシアとヒートの意見が合致した点だった。

    兎に角、全てはブーン次第だという結論に至り、時間ギリギリまでは彼を待つということで合意した。
    爆薬を持って兵舎に入ったヒートを見送り、デレシアは銃声が聞こえていた方角に視線を向ける。
    侵入者の数は一人。
    海兵隊の人数の方が明らかに勝っている状況で、棺桶を使用した彼らを全滅させたと云うのは、かなり気になる展開だ。

    ティンバーランドがこれまでとは違い、計画的で用意周到な、深く太い根を張り巡らせていることが窺える。
    使用された棺桶は多数のジョン・ドゥとジェーン・ドゥを壊滅させるだけの能力を持つ、コンセプト・シリーズ。
    記憶が正しければ、障害物除去に特化した“エクスペンダブルズ”。
    確か、イルトリアに保管されていたはずの棺桶だが、どうしてそれがティンバーランドの人間の手にあるのだろう。

    イルトリアの警備を突破して奪取されたとは考えにくく、内部の人間が協力して手に入れたと考えられる。
    いや、内部の人間その物だろう。
    まさかイルトリアからそのような愚か者が出るとは意外だったが、それ以外の可能性が浮かばない。
    此度のティンバーランドがどのような喜劇を演じるのか、非常に興味深い。

    大がかりの劇でなければ、潰し甲斐がない。
    これまでティンバーランドが仕掛けてきた劇は、途中で台無しにしてやったために、それが成る瞬間を見ていない。
    まぁ、事が成る前に潰してきたのだから、それも当然だ。
    今回はどの段階で潰れるか、それもまた楽しみである。

    視線を手元に戻して、改めてレンチを使い、無反動砲を台座に固定させる。
    この装輪装甲車のタイヤは八つあり、その安定性を生かせば、確実に障害物にこの砲弾を撃ち込める。
    手負いの身であるヒートでも、これなら扱える。
    ヒート・オロラ・レッドウィングは、デレシアのお気に入りの人間だった。

    直情的でありながら、それを押し隠す精神の強さ。
    愚直とも言える行動力を支える実力。
    猪突猛進な言動が多いが、それでも、それは彼女の愛おしい部分でもある。
    時折見かける、ブーンに向けられる愁いを帯びた視線が気になるところだ。

    退屈しない人間は好感が持てる。
    静動ではなく変動している、何よりの証拠だからだ。
    彼女は必ず、ブーンの将来にいい影響を与える。
    慈悲や偽善の心でブーンに接していないのだから、それは確信できた。

    思案する内に、車両点検、装備の点検、その他一切合財全ての点検を済ませた。
    後はヒートとブーンを待つだけだ。

    ノパ⊿゚)「設置、終わったぞ」

    ζ(゚ー゚*ζ「ご苦労様。
          実はさっきそこでコーヒーセットを見つけたんだけれど、一緒にお茶しない?」

    その誘いに対してヒートは、肯定の笑顔を浮かべた。
    この素直さもまた、彼女が愛おしい存在の理由の一つなのであった。

    ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
        /      .//.   .|| |
      [/____________//[ ]    || |
    .  ||_    ___|_| ̄ ̄ ̄.|.| |___________________
    .  lO|--- |O゜.|___ |.|_|ニニニニニニl.|
      |_∈口∋ ̄_l______l⌒ l.|_____| l⌒l_||
        ̄ ̄`--' ̄ ̄ `ー' ̄ ̄`--'  `ー'
    ‥…━━ August 3rd PM15:03 ━━…‥
    ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

    車両が近づいてくる音が耳に届き、デレシアとヒートはその方向に目を向けた。
    兵舎が邪魔をしていて詳細が分からないため、見える位置まで移動する。
    無言で同じ行動を起こしていたのは、二人が同じことを考えていたからだ。
    つまり、新たな敵かそれとも避難民――ブーンを含む――が到着したか、という可能性を考えたからである。

    それぞれの得物を取出し、建物伝いに姿と跫音を消しながら音源に近づく。
    距離は約百五十ヤード、風下だ。
    到着した車両は、何と軽トラックだった。
    荷台には大きく“八百屋”の文字が書かれ、商店街からやってきたことが分かる。

    商店街から来たのなら、避難民の説が濃厚だった。
    しかし、予想に反して降りてきたのは、あらゆる意味で期待を裏切る存在だった。
    最初に運転席から降りてきた若い鳶色茶髪の女は、白いドレスに赤い返り血を浴びており、一般人や堅気の人間ではないことが一目で分かった。
    次に荷台から降りてきたのは、ブーンだった。

    从'ー'从

    (∪´ω`)

    ミセ*'ー`)リ

    正確に言えば、四肢のない少女を背負ったブーンだった。
    四肢欠損の少女を、デレシアは知っていた。
    名は、ミセリ・エクスプローラー。
    イルトリアの市長、フサ・エクスプローラーの一人娘だ。

    なるほど、つまり螺旋通路崩落の際、前方を走っていた人物は“あの女”だと推察できる。
    様子を見ていると、彼らの前に一人の偉丈夫が近づいてきた。
    隆々とした肉体と角刈りの髪型は、軍人のそれだ。
    背負ったCクラスの運搬用コンテナ――形状が明らかにコンセプト・シリーズのそれ――は、彼がイルトリアの裏切り者であることを示している。

    あのコンテナは、障害物除去に特化した“エクスペンダブルズ”専用のそれだ。

    ( ゚∋゚)

    女と少し会話を交わした後、突然、男がブーンを蹴り飛ばした。
    躾をしたり、怪我を負わせる蹴り方ではない。
    殺すための蹴り方だ。

    (∪;ω;)「けうっ……?!」

    ζ(゚-゚*ζ「……」

    ノハ#゚⊿゚)「……っ!!」

    二人とも、安易に動くことはしなかった。
    デザートイーグルとM93Rの射程圏内だが、相手がブーンに接近しすぎている。
    何もできない間にも、男は執拗にブーンを蹴りつけ、踏みつけて、弄り殺そうとしている。
    女の方はと言えば、彼が蹴られる様子を見ているだけで、加担しようとはしていない。

    奇妙だ。
    奇妙だがしかし、それ故に厄介だった。
    ああいった手合いは、何をしでかすか分からない。
    背負ったBクラスのコンテナの中身は、量産機であるために判別が出来ない。

    刺激しては、何が起きるか分からなかった。
    今はまだ打撃で済んでいるが、それが銃に変わった時が最も恐ろしい。
    手出しをすることによってブーンが早死にする可能性も考えられるため、二人は動けないでいた。
    見ていることが、ブーンを死なせないで済む確率が最も高い手段だった。

    ブーンが打撃に対する耐性をある程度持っていることを知っているが、それでも、あの攻撃は確実に命を脅かす。
    痛めつける攻撃ではなく、命の狙った攻撃が的確に人間の急所に当てられる。
    逃げることも出来るだろうが、ブーンはそれをしない。
    もっと効率よく打撃から身を守る術を知っているのにもかかわらず、その場に張り付いたように動かない。

    動けないのではなく、動かないのは何故か。

    ミセ;'-`)リ「ブーン?!」

    (∪;ω;)「お……」

    ( ゚∋゚)「人間の真似をするな、駄犬が!!」

    ――彼は、その身を楯にミセリを守っていた。
    ミセリと自分との間に空間を作り、衝撃の一切を自分の体で吸収していたのだ。
    横合いからの蹴りに対しても、上からの蹴りに対しても。
    掬い上げるような蹴りに対しても、全て耐えていた。

    涙が出るほど嬉しいことだが、今すぐこの街諸共海の藻屑にしてやりたいほどの憤りを感じた。

    ノハ#゚⊿゚)「……殺す、殺す、絶対に殺す」

    ζ(゚-゚*ζ「今は駄目よ。
          あの子の行動が、無意味になりかねないわ」

    男の標的が今のところブーンだけで済んでいるからいいが、彼がそこまでして守っているミセリにその矛先が向いたら、彼の努力の全てが無意味になる。
    それだけは、駄目だ。
    彼が自ら選び、進んだ道なのだ。
    例え死んだとしても、それは、果たされなければならず、果たさせてやらねばならぬ道なのである。

    彼の涙と血反吐は、決して、無駄にしてはいけない。
    何より、デレシアは見届けなくてはならない。
    彼の選択と覚悟。
    そして、その果てを。

    ノハ#゚⊿゚)「じゃあよ、この怒りをどうしろってんだよ、おい」

    ζ(゚-゚*ζ「溜めておきなさい」

    ヒートの握り拳からは、血が滴り落ちていた。
    ここで動いてはいけないことを、彼女は分かっているのだろう。
    分かっているからこそ、憤っているのだ。
    それはデレシアも同じだ。

    (∪;ω;)「ひぎっ、あぎっ……!!」

    ミセ;'-`)リ「ねぇ、ブーン、どうしたの?!」

    (∪;ω;)「えぅ……」

    涙を零し、息を切らせ、四肢を震わせるブーンは、もう、ぼろぼろだった。
    だが、それでも。
    それでも、彼の瞳は死んではいなかった。
    ブーンは事態を見ることの出来ないミセリに向かって、大声で言った。

    (∪;ω;)「ミセリ、こんなの……こんなの……
          こんなの……ぜんぜんいたくないから!!」

    ――この状況で、本当に、本当によくぞ言い放った。
    今すぐ抱きしめてやりたい。
    頬ずりをして、彼の行動を褒めてやりたい。
    傷が癒えるまでの間、好きな物を食べさせて、甘やかしてやりたい。

    何が彼をここまで変えたのか、デレシアには分からない。
    それでも、彼が起こした行動は年齢や性別、世代、時代や人種を越えて尊敬するに値する。
    ただ、問題がある。
    抱きしめるには、百五十ヤードの距離はあまりにも、あまりにも現実的で遠すぎる点だった。

    ( ゚∋゚)「調子に乗るな!!」

    大量の血を吐きながらも悲鳴を上げなかったブーンに対して、男は勢いをつけた蹴りを放とうとして――

    从'-'从「……ったく、何熱くなっちゃってるのぉ?」

    ――それまで静観していた女性に、それを止められた。

    ( ゚∋゚)「何故邪魔をする」

    从'-'从「邪魔するつもりはないけど、別に蹴り殺す必要はないでしょ?
         銃でいいじゃない。
         時間、ないんじゃないのぉ」

    ある意味で、それは女性の慈悲だったのかもしれない。
    蹴り殺されるよりも一発で殺す方が、同じ死でも大分楽だ。
    取り出した拳銃にサプレッサーを装着し、女性はそれを手渡した。

    ( ゚∋゚)「……それもそうだな」

    男も、自分の行動を振り返り、大人気なかったのだと反省したようだ。
    大人気ないどころではない。
    万死に値する行動だ。
    ただの死では生ぬるい。

    男は拳銃を受け取り、構えた。
    銃口はブーンの頭部に向けられ、いよいよ、手出しが出来なくなった。

    ( ゚∋゚)「今、その痛みと苦しみから解放してやる」

    (∪;ω;)

    その声に反応して、ブーンは振り返るようにそちらを向いた。
    目の前に現れた銃口に、彼は何を思ったのだろうか。

    (∪ ω )

    ブーンは、マズルフラッシュと同時にミセリの上に倒れた。
    その背中に三発の銃弾が浴びせられ、最後に唾が吐きつけられた。

    ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
                ィ:7 イ壬ソィ=-ミ、_          ヾ:.、: : .、:}、
                /i ! ゙弋辷彡ニ=ミ、`ヽ         `ヽ:、 :i:l:、
                /ο{ 、..:::ヾ.煙乂大ヾ.ヾ:.゙.          ヾ:、. ゙:.、.
           /゚    、:::、::ー-:::7´  ヾ:.ハ:.i:}          j } .}:i:!
    ‥…━━ August 3rd PM15:09 ━━…‥
    ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

    ノハ#゚⊿゚)「ぶっ殺す」

    ζ(゚ー゚*ζ「……それはまた別の機会ね」

    デレシアは、あの糞の塊以下の愚か者を許すつもりは毛頭ないが、それでも、笑顔を浮かべた。
    それは憤怒の表れでもあったが、別の意味もあった。
    嬉しかったのだ。
    単純に、悦ばしい事態に笑顔を浮かべたのだ。

    これ程嬉しいのは、久方ぶりだ。
    今度の事態は、デレシアが一切介入しない中で起こった事なのだ。
    つまり、起こるべくして起こり、成るべくして成った事態。
    眼前で起こったのは、自然の摂理の象徴だった。

    ノハ#゚⊿゚)「……んでだよ?」

    まだ気づいていないヒートに対し、デレシアは落ち着かせるために穏やかな口調で説明する。

    ζ(゚ー゚*ζ「いくつか理由があるけど、まずは、そうねぇ……
          ほら、あれ」

    突如として出現したのは、Cクラスの棺桶。
    要塞攻略用棺桶、“マン・オン・ファイヤ”だ。
    あの棺桶は、ギコ・ブローガン――いや、ギコ・カスケードレンジと言った方がいいだろうか――が使用していたコンセプト・シリーズ。
    彼も、この場に来ていたのだと、それで分かった。

    激情的な機動で接近し、電撃的な速度で強襲を仕掛ける。
    機動力こそジョン・ドゥ並だが、あの棺桶が持つ破壊力と戦闘能力はずば抜けて高い。

    ( ゚∋゚)『光よりは遅いが、ナイフよりは断然疾い』

    慌てることなく、男は即応した。
    コード入力と共に棺桶を起動させ、装着。
    ほぼ同時にギコの背後にある物陰から始まった銃撃は、傍観していた女に向けられていた。
    女はそれを察知していたのか、軽くステップを踏んで回避し、その場から迷わず逃走した。

    賢明な判断だ。
    近くにいて巻き込まれることを考えれば、身を引くのが最もいい手だ。
    武骨な大型棺桶二機が激突し、肉弾戦を開始する。
    重金属がぶつかる音は、鈍い鐘の音に似ている。

    この状況下で打撃戦を行ったギコの意図を察し、デレシアは内心で彼を称賛した。
    流石は“魔女”ペニサス・ノースフェイスの教え子だ。
    彼は、ブーンとミセリに被害が及ばないように、両腕の兵器を使用しない戦い方を選んだのだ。
    一度距離を置いた二人が、大声で会話をする。

    [,.゚゚::|::゚゚.,]『ならば何故だ!!
         耳付き風情に加担する理由は!!』

    ム..<::_|.>ゝ『惚れたのさ!!
          人生初の一目惚れだ!!』

    ペニサスの言った通りだ。
    感情を表に出さないタイプだが、優しく、そして激情的な一面を持っている。
    そして慧眼の持ち主だった。

    ム..<::_|.>ゝ『そいつを見たら、誰だって惚れもするさ!!』

    [,.゚゚::|::゚゚.,]『笑止!!
         耳付きの行いなど、万事笑止!!
         所詮は人の真似にすぎんのだ!!』

    その言葉を聞いた瞬間、周囲一帯に電気が走るように殺気が走った。
    憤怒の化身になりかけていたヒートも、一瞬で冷静さを取り戻すほどの殺気。

    ノハ;゚⊿゚)「……な」

    この感覚、随分と久しいが間違いない。
    絶対零度の大地を髣髴とさせる独特の殺気を放つ人物を、デレシアは覚えていた。

    「――笑止?
    その少年の行いが、笑止?」

    ギコの背後。
    灰色の髪、冬の空の色をした瞳。
    兵舎の影から姿を現したのは、黒鋼の女。

    (゚、゚トソン「……貴方、叩き潰します」

    彼女の名は、トソン・エディ・バウアー。
    軍事都市イルトリアが誇る“イルトリア二将軍”の一人、“左の大槌”である。

    ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
    Ammo→Re!!のようです
         /イ ::::::::::::::::::::::::::::|∨ハヘ   ∨∨__,,,Ⅵ∨::::::::/::!::::: : /:::::.:/ ⌒
     ー="´ /::::::;:イ:::::::::::::::::::::|、∨ハヘ, /,.イハ/ハ ∨:::/::/!:::::::/:::::.:/∠⌒
          |:::::/ |::::/i:::::::::|ヽ! { ∨xィイゞ゚≠‐′  |:::/ //::::::/:: /:l Ammo for Relieve!!編
          |:::;::  |::::| |:::!|:::{\, ヾ∨:::ム´       i:/ //:::::://::::.:lヾj:.ノ
          |:::!   |::::| |:::!|:::iィチ}〃´\           / //:::/l::::.:.:.:.:lγヽ
          ∨  |::::| |:::!N:}ヽイ                 //  l::::.:.:.:.:l:.ゞ.イ
                  ‥…━━ August 3rd PM15:11 ━━…‥
    ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

    宣言した直後、トソン・エディ・バウアーはネクタイを緩め、瞬き一つせずに疾駆した。
    エクスペンダブルズに対して生身で接近戦を挑むのは、どう考えても無謀だ。
    軍にいたころ、彼女の輝かしい戦歴や武勲は聞いていたが、それでも不利極まりない。
    ギコ・カスケードレンジは援護を考えたが、彼女がスーツの下から取り出した得物を見て、考えを変えた。

    彼女が持っているのは、二本の高周波ナイフ。
    ジョン・ドゥ用に用意されているタイプのもので、ここに来る途中で鹵獲したと思われる。
    彼女が普段の戦闘で使用するのはあの類の得物なので、勝算は十分にあり得た。
    Cクラスの棺桶全体が持つ欠点が、長すぎるリーチにある。

    そこを狙うのなら、トソンが一方的にやられるということはない。

    [,.゚゚::|::゚゚.,]『なんだ、貴様は!!』

    トソンはその問いに答えることなく、戦闘を開始した。
    殴り掛かろうと振り上げた右腕の付け根に、ナイフを一本投擲。
    刺さり具合は浅いが、腕は力なく垂れ下がった。
    エクスペンダブルズの装甲強度に対してナイフがどこまで有効かを試すことなく、ただの一投で回路を絶った。

    性能を熟知している人間にしか出来ない戦い方だ。

    [,.゚゚::|::゚゚.,]『生身で勝てると思うか、この女!!』

    動かない右腕は重りでしかない。
    クックル・タンカーブーツは左腕の鉤爪を展開し、光学兵器を構えた。
    その行動自体は正しい物だが、相手を理解していない時点でクックルの失敗だ。
    ニクラメンの二将軍の素顔は、そう滅多なことでは見られない。

    謁見の機会が得られるとしたら、戦場か、それとも殺される直前だけだ。
    クックルは、これまでに一度も彼女と面識がないのだろう。
    ギコは床を踏み砕く勢いで跳躍し、襲い掛かる。
    トソンの行動と戦闘方法を知っているギコが彼女に合わせて動くのは、至極当然のことだった。

    彼女はギコを信頼し、計算した上で行動しているのだ。
    それに、この至近距離にいながら動かぬ道理はない。

    ム..<::_|.>ゝ『させるか!!』

    エクスペンダブルズの左肘にバンカーバスターの先端を叩きつけ、光学兵器を地面に向けて発射させた。
    青白い光が勢いよく迸り、地面が黒く焦げて溶解し、小さな穴が開いた。

    [,.゚゚::|::゚゚.,]『ぐっ!!』

    薬莢型の使用済みバッテリーが、腕の廃莢口から飛び出す。
    その僅かな隙。
    一瞬の内にトソンはエクスペンダブルズの傍に現れ、ナイフを開いた廃莢口に突き刺した。
    火花と電流が飛び散り、左腕から黒煙が上る。

    堅牢な装甲にある、僅かな弱点。
    エクスペンダブルズの設計と性能を熟知しているトソンは、その弱点を容赦なく叩き、そして潰した。
    彼女はその場から飛び退き、新たな高周波ナイフを右手で取出し、逆手に構える。
    すかさず、ギコはエクスペンダブルズの足関節を上から踏みつけた。

    バランスを崩し、エクスペンダブルズは膝を突く。

    [,.゚゚::|::゚゚.,]『姑息な真似を……!!』

    (゚、゚トソン「棺桶の性能を過信しすぎです」

    それだけ言って、トソンは背面のバッテリーボックスをナイフの一突きで破壊し、戦闘を終了させた。
    彼女はそれ以上攻撃を加えることはせず、ただ、興味なさ気に擱座したエクスペンダブルズの横を通り過ぎた。
    性能に頼り切り、慢心した棺桶持ちなど殺す価値もないとばかりに。
    この間、僅か三十四秒。

    (゚、゚トソン「ギコ、行きますよ」

    これが、イルトリア二将軍の実力。
    これが、“左の大槌”の実力。
    これこそが、トソン・エディ・バウアーという女性の戦い方であった。

    ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
             l./    ヽ    l ヽ .l  .ヽ ..l     \ .l   人 .l\ヽ
         l  k_      ヽ   l  ヽ l  ヽ .l     \.l ,r'i´¨iヾゝ`ヽ
         l l/ `ー- 、  ヽ   l  ヽ.l   ヽ.l      ,rイ丿ノ ノ 丶ヽ
          l lー---t----≡=\l_  ヽl  ヽ `   ,r'"ー'イ_, イ    l
       ,i  l l `ヽ、 ヾーイ=',ノ`'ーヾ_ー--- ゝ   ー--―'"        l
       / l  li,i   `ー-==--―='"´                  
    ‥…━━ August 3rd PM15:11 ━━…‥
    ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

    (=゚д゚)「……待てよ、ワタナベ・ビルケンシュトック」

    兵舎の間を走り抜けていた白いドレスの女の背に、トラギコは銃口を向けながらその言葉を送った。
    逃走していたワタナベ・ビルケンシュトックは大人しく立ち止まり、優雅な仕草で振り返る。
    その顔は、何かを期待しているかのように楽しそうだった。

    从'ー'从「なぁに? 何か忘れてたのかしらぁ?」

    (=゚д゚)「いくつか訊きたいことがあるラギ」

    撃鉄は既に起きている。
    後は銃爪を引くだけで、ワタナベの頭の半分を吹き飛ばすことが出来る。
    情況を理解しているのか、彼女は抵抗する様子も仕草も見せず、だが、残念そうな口調で返事をした。

    从'ー'从「私について?」

    (=゚д゚)「……じゃあ、まずはそっちから訊くラギ。
        なんで、あのガキを助けたんだ?」

    ワタナベは、明らかに意図的に耳付きの少年を助けようとしていた。
    ただ、助け方がかなり特殊で、そこに至った理由が知りたかった。
    彼女は何故、あの少年を助けようとしたのだろうか。

    从'ー'从「……助けた? 勘違いじゃないのぉ」

    (=゚д゚)「いいや、それはねぇラギ。
        ここに来る途中、手前は散々人を殺した上に壁まで丁寧に作ってくれやがったラギ。
        だけど、あのガキどもはお前がここに連れてきただけで、殺そうとはしていなかったラギ。
        お前らしくねぇラギ」

    从'ー'从「……覗き見が趣味なのかしらぁ?」

    ワタナベは、今度は否定しなかった。
    つまりそれは、肯定を意味している。
    彼女の言葉を真実として、トラギコは話を続ける。

    (=゚д゚)「加えて奇妙だったのが、殺人狂の手前が、どうしてあのガキを殺すのに手を貸さなかったのか、ってことラギ」

    从'ー'从「……」

    (=゚д゚)「やろうと思えば、お前も殺しに加われたはずラギ。
        それに、もっといたぶって殺す事も出来たはずラギ。
        だけどそれをせずに、拳銃を渡した」

    無言。
    この無言は肯定か、それとも否定か。
    彼女の返答を待たず、トラギコは続けた。

    (=゚д゚)「そして、どうして拳銃を渡す時にサプレッサーを付けたラギ?
        これが一番不可解だったラギ。
        周囲に発砲音を聞かれても、今更何もデメリットはないのに、どうして付けたのか」

    先ほど得た、少年を殺すつもりがなかったという意志。
    にも関わらず手渡した拳銃。
    そしてサプレッサー。
    これらのつながりが導き出すのは、一つの推論。

    (=゚д゚)「……ワタナベ、お前、ガキが怖がらないように、わざわざサプレッサーを付けたんじゃないラギか?
        そして、ガキがこれ以上苦しまないために拳銃を渡して、一発で死なせようとした。
        違うラギか?」

    从'ー'从「だとしたら何?
         それがどうかしたのぉ?」

    それは肯定の答えだった。

    (=゚д゚)「理由を知りたいだけラギ」

    そう。
    この殺人狂が何故、あの少年にそこまでの慈悲と手間をかけたのか。
    それがどうしても気にかかっていた。
    道中に見た夥しい死体と、どうしてもつながらない。

    ルールがあるにしても、やはり気になるのだ。

    从'ー'从「私の主義と、あの子が気に入ったからよぉ」

    主義、と言われたらそれまでだ。
    何故なら、主義を掲げる人間は総じてその主義に明確な理由を持たず、他人に共感してもらうことをしない。
    彼らの中にある彼らのルールなど、誰に分かる物か。
    ましてや、相手は殺人によって快楽を得る狂人だ。

    分かるはずがない。

    (=゚д゚)「……シンプルラギね」

    从'ー'从「その方が分かりやすくていいでしょぅ?」

    一つ、気がかりなことが解消できた。
    しかし、もう一つある。
    こちらが本命だ。

    (=゚д゚)「それじゃあ、本題ラギ。
        ……何のために、こんなバカげた騒動を起こしたラギ?」

    从'ー'从「それを、教えると思う?」

    (=゚д゚)「あぁ、教えてくれるラギね」

    トラギコは拳銃を強調するように構え直す。
    何故か、ワタナベは笑みを浮かべた。

    从'ー'从「なんでも、ここにあるニューソクって物が目当てみたいよぉ。
         後は搬出するだけになってるしぃ。
         まぁ、私はただ雇われただけだから、どうでもいいんだけどねぇ。
         ほら、私のプレイグロードって汚染物質やらなんやらに強いからさぁ」

    (=゚д゚)「……え?」

    从'ー'从「え、って、何?
         知りたかったんでしょ、この騒動の目的と私がいる意味を」

    (=゚д゚)「あ、あぁ……そりゃあそうラギ。
        でも……」

    从'ー'从「……私の主義。
         じゃあ、またねぇ」

    そのまま立ち去るワタナベを、トラギコは撃つことが出来なかった。
    彼女が浮かべた笑顔は、どうしてか、子供のように無邪気で。
    そして。
    そして、とても儚げなものだったから。

    気持ちを切り替え、トラギコはギコの元へと向かった。

    ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
                ,゙    ー=´イ 〃 .:l :l.::/ l |.;;|:⊥|_l_リ  }:|!:::}::::|::| j:|
                 l         | /:{  .::|.:|::l /|':|::|:l:! l{:‐`マ十|::::}:/}::| j!
                |     ..::::/⌒:| .:::|::l:| / ! |:{_;!__{__ー{, ノ:从ソ ノリ
               │  .....::::::::://´r | ::::|::l:l.{   |{`''、_ノ_,~`  {((
              ,..ィイム:::::::::::::::::{〈_ ((\:::l::l:|::|   ヾ        \
    ‥…━━ August 3rd PM15:12 ━━…‥
    ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

    ノハ;゚⊿゚)「……」

    トソンが見せた手際の良さに、デレシアの隣で観戦していたヒートは絶句している。
    彼女は殺すための戦闘ではなく、動きを止めるための戦闘を行ったのだ。
    理由は分かり切っている。
    手持ちの武器では殺せないからだ。

    一度目は相手が油断しきっていたから有効だったが、二度目はないだろう。
    殺し合いとは常に起こり得る事態であり、常に己の力が試される。
    しかし、戦闘とはそういうものだ。
    その結果がこれだ。

    イルトリアの軍人でありながらこの失態劇を演じたのは、彼の実力不足のせいである。
    会話を聞く限りでは元大尉だが、実力は元中尉のギコ以下だ。
    階級に関してはかなり厳しい規則を設けているイルトリアで大尉にまで上り詰めた経緯は不明だが、所詮は肩書。
    昇格するために、ハイエナのような手段で手柄を立て続けたのだろう。

    しかし、鎮座している豚への興味はもうほとんど失っている。
    どうでもいいことだ。

    ζ(゚ー゚*ζ「手出しをしなくていい理由の二つ目」

    もう、抑えきれなかった。
    抑える必要もなかった。
    衝動に身を任せ、デレシアはヒートの手を引き、ブーンの元に駆け出した。

    ノハ;゚⊿゚)「な、なんだよ!」

    全て偶然の産物に見えるが、その実は違った。
    全てはブーンの実力。
    彼の持つ力が、全てを変えたのだ。
    最悪に思われた事態を、彼自身がここまで変えて見せたのだ。

    ζ(゚ー゚*ζ「あの子は、死んでなんかいないわ!」

    ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
    Ammo→Re!!のようです

                  ‥…━━ 第十章【answer-解答-】 ━━…‥

                                             Ammo for Relieve!!編
    ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

    ――ブーン生存は、いくつかの要因が関わって初めて成立するものだった。

    まず前提として、ブーンの体力と身体能力の高さを留意しておく必要がある。
    人生の大半を暴力と共に過ごし、痛みが日常と化していたその生活の背景。
    殴る、蹴るという攻撃に対しては並外れた耐久力が備わったのは、必然だった。
    クックルの体躯から繰り出されたあれだけの暴力にも関わらず絶命を免れたのは、奇跡ではなかったのである。

    続いて、彼の衣類――カーキ色のローブ――が、優れた防弾繊維であることも欠かせない。
    “魔女”ペニサス・ノースフェイスが彼に手渡した少し大きめのローブは、デレシアも愛用している高性能な繊維で、徹甲弾でもない限り貫通しない強度と柔軟さを持つ。
    それを身に纏ったブーンの背中に撃ち込まれた銃弾は、確かに凄まじい威力を有していただろう。
    だが、強靭な骨を持つブーンには強烈な打撲傷と軽度の骨折だけが残った。

    更に、若い女性が使用した拳銃にも要因があった。
    サプレッサーを付けることで静音効果を得た反面、その威力が減退していたのである。
    明らかに威力減退を意図したその行動は、ブーンの背中に与える衝撃を僅かだが軽減したのだ。
    これが、彼を襲った打撃と銃撃の結果である。

    外的要因に含めるとしたら、ギコとトソンのイルトリア人二人の参戦も欠かせない。
    ブーンの意志に呼応した二人がいたからこそ、クックルはブーンの生存を確認する間もなく、戦闘行動を強いられた。
    このさほど重要でもなさそうに思える時間こそが、重要だった。
    結果としてブーンは、あれ以上の攻撃を受けることなく済んだのだ。

    最後に残る疑問は、顔に撃ち込まれた銃弾。
    防御力のない顔は絶対的な急所。
    一撃で事を終わらせるなら、そこに限る。
    それが普通だし、クックルはセオリー通りにそうした。

    だが。
    ブーンは普通ではなかった。
    彼は耳付き。
    優れた身体能力と、並外れた身体機能を持つ人類なのだ。

    そして。
    状況は普通ではなかった。
    積み重ねられた幾つもの偶然。
    それらが生み出した答えは、必然だった。

    銃弾が撃ち込まれたことによって、大量のアドレナリンが分泌された状態のブーンが見た世界は速度を落としたものだっただろう。
    亜音速で飛来する弾丸を視認することぐらい、彼には造作もないことだった。
    ましてやそれを。
    それを――

    ――文字通り“弾丸を食らう”ことなど、不可能ではない話なのだ。

    歯で弾丸を噛み取ることは、普通の人間には不可能だ。
    だが、ブーンは違う。
    並外れた顎の力。
    そして、歯の硬さ。

    これらの要因が全て揃って初めて、ブーンの生存に繋がったのだ。

    ミセ;'-`)リ「ブーン、ねぇ、ブーン!!」

    今にも泣き出しそうなミセリの傍に、デレシアとヒート。
    そしてトソン、ギコとブーンの行動を見守り、そしてそれに感化された人間達が集まった。
    ブーンを抱き上げて容体を確認したのはデレシア。

    ζ(゚ー゚*ζ「大丈夫、この子は怪我をしているだけよ」

    その言葉を裏付けるように、ブーンの口から銅色の金属片が転がり落ちる。
    歯型が残るそれは、紛れもなく銃弾だった。
    人間では不可能な芸当を成し得た何よりの証拠。

    (゚、゚トソン「ミセリ、彼は気絶しているだけです」

    倒れたミセリを抱き上げたのは、トソンだった。

    ミセ;'-`)リ「トソン、それに……デレシアさん?!」

    ζ(゚ー゚*ζ「久しぶりね、ミセリちゃん。
           それにトソンちゃんも」

    (゚、゚トソン「……お久しぶりです、デレシア様」

    三人のやり取りを不思議そうな顔で見るギコ。
    棺桶をコンテナに収納し、彼もまた、ブーンの状態を知るために駆けつけたのだ。
    あれだけの大声で想いを叫べば、彼の性格がよく分かる。
    無口だが、その分目が雄弁だ。

    (,,゚Д゚)「……」

    ζ(゚ー゚*ζ「……ブーンちゃんは大丈夫。
          ただ、出来るだけ早く治療してあげないと」

    (,,゚Д゚)「そうか」

    安心したようにそう呟いたギコの後ろから、トラギコ・マウンテンライトが姿を現す。
    どこか釈然としていない、不完全燃焼といった様子だ。
    それぞれの事情はさておいて、今はこの場所から脱出することが優先であることを知っているからこそ、何も言ってこないのだろう。
    利害の一致によって、無駄なやり取りは避けられる。

    (゚、゚トソン「プランは?」

    ζ(゚ー゚*ζ「マリアナ・トンネルを使うわ」

    (゚、゚トソン「ご一緒しても?」

    ζ(゚ー゚*ζ「えぇ、もちろんよ。
           そこのダブル・ギコも乗るのなら、どうぞ」

    ――斯くして、擱座したクックルを除く全員が一台の車に乗り込むこととなったのであった。

    ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
         ,.ィニニニニニニニニィ============ヽ__
       / | i‐―il|iー‐‐i |||         ||;[j
      /__| |___|||__[]|゙-r----''------゙ー-,、..
      |jー‐、| |:____:|||:_____:||゙^i、ィー-ヘjロロl l;=t=;l lロロj
    ‥…━━ August 3rd PM15:20 ━━…‥
    ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

    ノパ⊿゚)「なぁ、ギコの名字って、確かブローガンじゃなかったか?」

    銃座の無反動砲の具合を確認しながら、ヒート・オロラ・レッドウィングは運転席のデレシアに単刀直入にそう尋ねた。
    だが、答えようとしたデレシアより先に、正答を口にする者がいた。
    刑事、トラギコ・マウンテンライトだ。

    (=゚д゚)「昔の名だと、こいつのことを毛嫌いする人間が多いラギ。
        だから退役した後の仕事が難しくなる。
        イルトリアじゃあ、退役後に名前を変えるなんてのは珍しくないことラギ」

    トラギコの言う通り、それは、イルトリア人特有の慣わしのようなものだった。
    イルトリア軍人の力は世界共通の認識で、その軍隊の中尉ともなると恨みを買うことが多い。
    直接的な恨みは少ないが、その分、名が知れ渡ることで風評が立つ事がある。
    引退したイルトリア人が外地に出向かないのは、報復など面倒なことに巻き込まれる確率が高いためだ。

    その為、イルトリア人が外地で隠居生活を送る際には、必ずと言っていいほど偽名を使う。
    ペニサス・ノースフェイスからギコの本名については訊いており、彼が名を変えていることは既に確認してあった。
    優秀な教師の優秀な教え子なら、必ずそうしていると思ったからだ。
    だが、気付きはそれ以前からあった。

    トラギコに連れて行かれた取調室で、彼が電話でギコの名を口にして確認したのを盗み聞いた時から、デレシアはペニサスとの関連に気付いていた。
    だからこそ、ペニサスの教え子がギコであることに確信をもって質問をすることが出来たのだ。
    長い隠居生活を送っていたペニサス自身、イルトリア人である以上、偽名を持っていた。
    それは――

    ――ペニサス・ブローガンという、偽名。

    狙撃手ほど戦場で忌み嫌われる存在はいないが、ペニサスほど恐れられた狙撃手はそういない。
    全ての狙撃の記録が非公式で、彼女は常に単独で行動する狙撃手だった。
    そうして残ったのは、敵が死んだという結果と“魔女”という渾名だけ。
    彼女の名を知るのは、イルトリアの人間ぐらいだ。

    その証拠に、クロジングの人間はペニサスの事を“魔女”と呼び、名を呼ぶことをしなかった。
    彼女がヒート達の前で本名を名乗ったのは、親友であるデレシアの前で偽名を使う必要がないと考えたからだ。
    何故ギコがペニサスと同じ偽名を使っていたのかは定かではないが、故意に同じ偽名を使用したのだと、デレシアは想像している。
    そう考えれば、恩師と同じ地域に暮らしていた理由にも説明がつく。

    町に下りない恩師の元に食料品を届け、いつでも窮地に駆けつけられるように。
    ギコは、ペニサスの事を心から慕っていたのだ。

    (=゚д゚)「大方、ホステージ・リベレイターで名を挙げて、自分の正体を隠そうって考えていたんだろ?
        その甲斐あって、その筋じゃ有名人だ」

    (,,゚Д゚)「……あぁ」

    二人のやり取りを見る限り、ギコ自身が己の本名を喋ったわけではなさそうだった。
    トラギコが短期間で調べ上げたに違いない。
    警察の持つ情報網を工夫すれば、あるいは可能かもしれない。
    そういった機転を利かせることが出来るのを考慮すると、トラギコは思っていたよりも優秀な刑事だ。

    (=゚д゚)「俺はトラギコだ。
        ……折角だ、あんたの名前も教えてくれラギ」

    ノパ⊿゚)「……スナオだ」

    (=゚д゚)「スナオ、ね。
        そっちのあんたは?」

    (゚、゚トソン「名乗る理由がありません」

    (=゚д゚)「ちっ、社交性に欠ける女ラギね。
        それで、金髪のあんたの名前は?」

    このトラギコの優秀さを考えるのであれば、下手に名前を名乗りたくはない。
    一度警察のリストに載ってしまえば、靴底に付いたガムのように世界中の警察官が捕獲しようと目を光らせる。
    捕獲した警察官には、特別手当――約一万ドル――が支払われることになるからだ。
    前時代と形態は変わったが、効率の面で言えば圧倒的にこちらの方がいい。

    偽名を使うのは簡単だが、彼の耳はそれを容易く聞き分けることだろう。
    トラギコが金目当てで聞いていないのは分かる。
    それに、ここで本名を名乗っておいてもいいかもしれない。
    その方が、後が楽しくなるからだ。

    ζ(゚ー゚*ζ「デレシアよ」

    (=゚д゚)「……なるほどな」

    自己紹介――名乗るだけの簡単な物――が終わった後の車内は、声一つ聞こえないほど静かだった。
    殆ど面識の無い物同士の相乗りなら、こうなるのが自然だった。
    全員に共通している話題は、助手席で気を失っているブーンだけ。
    そして今は交流会ではないので、ブーンの話題で盛り上がる必要はなかった。

    ヒートはギコが棺桶を天井に固定したのを確認してから、銃座に付いた。
    役割として、トラギコが砲弾をヒートに手渡し、トソン・エディ・バウアーが遠隔起爆装置を扱う。
    残ったギコはその棺桶をいつでも使えるように、トラギコの隣に腰掛ける。
    全員の配置が済むのと同時に、運転席でハンドルを握るデレシアはエンジンを吹かし、装甲車を発進させた。

    人工の空がひび割れ、空間全体が地鳴りによって震える。
    終わりが近い。
    海上都市ニクラメンの歴史の終わりが、もうそこに迫っている。
    崩壊を始める都市の風景は、幻想的だった。

    建物の窓ガラスが砕け散り、雨音のように鳴り響く。
    振動に耐えかねて崩壊する建造物。
    生存者の口から発せられる悲鳴。
    全てが一つとなって、終焉を告げる。

    タイヤを軋ませ、装甲車は予定していた道を走り、十分に加速する。
    速度を増した装甲車が遠隔起爆装置の有効範囲内に入った瞬間、トソンが起爆スイッチを押した。
    百フィートほど離れた場所にある、マリアナ・トンネルへの入り口を封鎖していた兵舎が爆発し、辺り一帯に爆音が轟いた。
    折れ曲がった鉄骨や粉々になった壁が舞い上がり、薄らと炎の残る兵舎だった場所に落ちる。

    荒れ果てた地面に、巨大な長方形の穴が開いていた。
    先ほどまで五インチの厚みを持つ扉が閉じていたのだが、高性能爆薬五キロには勝てなかった。
    あれこそが、マリアナ・トンネルに通じる道だ。
    ヒートはトンネルに通じる穴の大半が瓦礫で塞がれてしまっているのを見て、無反動砲の狙いを定めた。

    発射された砲弾が瓦礫を細かく吹き飛ばす。
    トラギコから砲弾を受け取り、ヒートが再装填。
    もう一発撃ち込み、車が通れるだけの幅を確保した。

    (=゚д゚)「よし、戻れ!!」

    言われるまでもなく、ヒートは車内に戻って銃座に続く天井部を閉めてから、シートベルトをした。
    一行を乗せた装甲車はトンネルに向かって、瓦礫を踏み越え進む。
    穴の先は暗闇で、何が待っているのかまるで見えない。
    しかし、車内の誰も恐れてはいなかった。

    恐れたところで、状況が何一つ変わらないことを理解しているからだ。
    生温い生き方をしてきた人間は、この車には乗り合わせていない。
    ある意味で、心強いメンバーが揃ったものだ。
    これも、旅の醍醐味の一つだ。

    トンネルに侵入した瞬間、一瞬の暗転があった。
    直ぐに、ハイビームが照らし出す景色が目に入る。
    壁と天井には大小さまざまなパイプが張り巡らされ、それらが血管のように絡み合っていた。
    まるで生き物の体内だ。

    聞こえる音は風の通り抜ける、轟音だけ。
    先ほどと比べての変化と言えば、環境が変わったことによる音の違いと、振動がより大きくなっている点だ。

    ζ(゚ー゚*ζ「……始まったわ」

    ノパ⊿゚)「え?」

    デレシアの言葉に反応したのは、ブーンとミセリ以外の全員だった。
    何の話をしているのか理解できなかったが、それがどちらに向けられた言葉なのかは理解した。
    全員が一斉に振り返り、デレシアの言葉の意味を理解した。
    入り口だった場所 が、瓦礫に埋もれて消えていた。

    ひょっとしたら、巨人の跫音とは、このような音なのかもしれない。
    ゆっくりと微震が走り、そして、固い物体が砕ける音と共に大きな振動が訪れる。
    崩壊が一歩、また一歩と迫っているのがよく分かった。
    振動がある意味で規則正しく、まるで時間を刻むように訪れていたことに、その時に全員が初めて認識した。

    ここから先は、デレシアの運転に全てが掛かっている。
    そう思うと、デレシアは胸の高鳴りを抑えきれなかった。

    (=゚д゚)「……ちょっと軽くしてやるラギ」

    アタッシュケースを膝に乗せ、トラギコはそんなことを言った。

    (=゚д゚)『これが俺の天職だ』

    その言葉と共にアタッシュケースが開き、機械籠手と山刀のような剣が現れる。
    携帯可能な対強化外骨格装備、“ブリッツ”だ。
    手際よく装着したトラギコは、銃座に続く天井部を開いた。
    金切声のような音の後、金属が転がり落ちる音が後ろから一瞬だけ聞こえた。

    バックミラーで確認すると、円筒が転がり落ちていた。
    重量を減らして、少しでも速度を上げるために迫撃砲を切り落としたのだ。

    (=゚д゚)「砲弾もいらねぇ、まとめて寄越せ」

    なかなかに大胆な思考と行動力を持っていると、デレシアは感心した。
    ヒートが砲弾の入った麻袋を手渡し、それをどうするのかと見ていると。

    (=゚д゚)「せぇい!!」

    全力で投擲した。
    なるほど、機械籠手の補助があれば、人間離れした遠投が可能だ。
    無尽蔵の食欲を持つ化け物に餌を投げ与えるが如く、砲弾を瓦礫に与える。
    瓦礫が麻袋を飲み込んだ瞬間、連続して爆発が起きたが、直ぐに別の瓦礫がそれを覆い隠した。

    車内に戻ったトラギコは、ブリッツをアタッシュケース型のコンテナにしまった。

    (=゚д゚)「ただ乗りはしねぇ主義でね。
        これでチャララギ」

    (,,゚Д゚)「そりゃ驚きだ。
        俺の時はただ乗りしたくせに」

    ギコの言葉を受けて、トラギコは鼻で笑う。

    (=゚д゚)「さっき援護してやっただろ、それでチャララギ」

    似た名前だから仲がいいのか、それとも気が合うのか。
    クロジングで初めて出会ってからこの二人に何があったのかは分からないが、大分進展しているのは確かだ。
    トラギコの軽量化のおかげか、心なしか速度が上がった気がした。
    しかし、依然として崩壊の跫音は近づきつつある。

    緩やかな上り坂に差し掛かった時、沈黙を守っていたトソンが口を開いた。

    (゚、゚トソン「……後、一分いえ、四十秒でしょうか」

    ζ(゚ー゚*ζ「そう? 私は二十秒だと思うけど」

    ノパ⊿゚)「何の話してんだ?」

    ζ(゚ー゚*ζ「トンネルの安全装置が作動するまでの時間よ。
          ほら、トンネルから浸水したらシャレにならないじゃない?
          ある一定以上の衝撃を感知したら自動的に隔壁が上がるのよ、ここ。
          それに、ブロック形式でトンネルを作っているから、隔壁が上がれば崩落も自然と止まるわ」

    車内に再び沈黙が訪れた時、それは起こった。
    ライトが照らしていた道の先に、巨大な板がせり上がってきたのだ。
    目の前で隔壁が完全に閉まり、一行を乗せた車両はその前で停車した。

    ζ(゚ー゚*ζ「ほら、二十秒だったでしょ?」

    (;=゚д゚)「ほら、じゃねぇラギ……」

    安全装置が作動したおかげで、崩壊に巻き込まれる心配はなくなったが、退路が文字通り絶たれた。

    ζ(゚ー゚*ζ「まぁ、そう焦らなくてもいいわよ。
          後五百ヤードぐらいで、地上よ」

    そこに至るまでにある隔壁の数は三枚。
    一枚が約十フィートの厚みを持っており、対戦車砲では貫通させることも難しい。
    対戦車砲の弾頭は装填されている分と合わせても六発。
    この量では、隔壁一枚に小さな穴を空けるので精いっぱいだ。

    トソンとブーン、ミセリを除いた全員が車外に出る。
    改めて見ると、その隔壁の大きさを実感する。
    これが見かけ倒しでないことは、一目で分かる。

    (=゚д゚)「ブリッツじゃ、切れねぇラギね」

    ノパ⊿゚)「どうする?」

    ζ(゚ー゚*ζ「ギコ、マン・オン・ファイヤでそこに穴を開けて頂戴」

    要塞攻略用強化外骨格の地下壕潰しの兵器なら、この扉を貫通できる。
    マン・オン・ファイヤの右腕ある発射装置には、六発のバンカーバスターが収納されている。

    (,,゚Д゚)「生憎と、残り一発なんだが。
        特殊焼夷弾ならまだまだあるんだがな」

    ζ(゚ー゚*ζ「あら、それで十分よ」

    そう言って、デレシアは簡単に作業の手順を説明し始めた。

    ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
                 弋       -‐       __,ィt‐テアミ}  | | |ミ/(:::廴____
                  ヘ   /      __,-‐ニニヘミ彡'´、 _j_j_j込、:ヽ、___二ニ
                   >x、     ,イ⊆ミj ,      ̄   Yミ/ュュュ圭込>'´
    ‥…━━ August 3rd PM15:30 ━━…‥
    ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

    強化外骨格に身を包んだギコ・カスケードレンジは、扉の前にいた。
    扉の前には、彼一人しかいなかった。
    聞こえるのは、血流の音に似た機械の駆動音。
    武骨な右腕に備わった六角錐の六連装発射装置を振り被り、使用コードを入力する。

    ム..<::_|.>ゝ『バンカーバスター!!』

    その先端を扉に叩きつけた瞬間、六角錐の先端部から、内部に装填されていたバンカーバスターが射出された。
    塹壕潰し、地下壕潰しを目的に開発されたバンカーバスターは、その設計上地上でも使用が可能である。
    小型故に威力は落ちるが、それでも、十フィートの壁ならば貫通できる。
    大爆発の後、隔壁には装甲車が通れるだけの大きな穴が開いていた。

    ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
          | |   |       /##             ・   ##\
          | |   |     /\〉##   i              ##/
          | |   |       人##   ・             ###\ ( `)⌒;;,,.⌒)
    (⌒;;;;,,.⌒):::::::::::::::::::::::::::::::::::;;;;;;;;;;;;;::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::: (;; `)⌒;;,,.⌒)
    ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

    しかし、ここで終わりではない。
    ここから先にはまだ二枚の隔壁が残っている。
    その隔壁を破壊しないことには脱出は出来ない。
    流石に、バンカーバスター一発では扉二枚を破壊するなど、そんなことは出来ない。

    この先も、ギコが一人で進んで道を開拓しなければならない。
    それまでの間、デレシア達は車内で待機することになっている。
    そうでなければ、彼等を巻き込んでしまうからだ。
    特に、後輩にあたる人間を巻き込みたくはなかった。

    彼は尊敬するに値する、立派な人間だ。

    ム..<::_|.>ゝ

    軍用第三世代強化外骨格、通称“棺桶”。
    開発者が意図した事でないにしろ、このフルフェイスのヘルメットをギコは気に入っていた。
    覆面は多くの事を隠し、心を押し殺して行動すること出来る。
    押し殺し、隠した心の中では、常に多くの事を考えていた。

    銃弾の飛び交う線上で。
    緊張感の漂う現場で。
    棺桶に包まれている間は、ギコにとって物事を落ち着いて考えられる時間であった。
    戦闘の組み立て方から、全く別の事まで。

    ――ギコは進む。

    今もまた、ギコは考えていた。
    何故、自分はあの耳付きの少年に心惹かれてしまったのだろうか、と。
    弱さ、儚さ、そして惹かれて止まない不思議な魅力。
    腕力はないが、あの少年には他者よりも秀でた魅力を持っている。

    彼の魅力は、きっと、二つの作用があるのだとギコは思う。
    一つはギコのような人間を魅了する作用。
    そしてもう一つは、人間の嗜虐心をくすぐる作用だ。
    その魅力のせいで、あの少年は虐げられ、そしてあそこまで人を惹きつけているのである。

    それはもう、十分な力だ。
    力が世界を動かす時代において、彼の魅了もまた、十分な力。
    イルトリアの軍人を三人も魅了したのだから、間違いない。
    彼は将来、間違いなく大物になる。

    ――ギコは進む。

    今もまた、ギコは考えていた。
    恩師、ペニサス・ノースフェイスを失った八月二日の夜。
    あの日以来、ギコはブローガンの偽名を捨てた。
    彼女に憧れて付けたその偽名が、あまりにも恥ずかしかったからだ。

    自分には、彼女と同じ偽名を使う資格がない。
    あまりにも弱く、あまりにも脆い自分が使っていい名前ではないのだ。
    思い上がっていた自分を、ギコは責めた。
    そして、ブローガンの名を捨て、嘗てペニサスの元で教えを受けていた当時の名前、カスケードレンジの名で生きることを誓ったのだ。

    正にそれは誓いだった。
    恩師の復讐を遂げ、そして、彼女が最後に残した物を守るまで、決して消えない誓い。
    この二本の足は、それまで決して崩れることはない。
    そんなこと、許されないのだ。

    突如として現れた飛行能力を有する棺桶。
    平穏な生活を送っていたペニサスを殺した理由。
    ニクラメンを沈め、ニューソクを手に入れるために現れたクックル・タンカーブーツ。
    全ては、線でつながっているような気がしてならなかった。

    詳しくは分からない。
    クロジングの田舎者たちを巻き込む手腕。
    厳重な警備が自慢だったニクラメンを内部から崩し、全体の崩壊に導いた手際。
    個人の動きでは到底ありえない。

    巨大な組織が背後にあることは間違いない。
    問題は、それがどこの組織か、である。
    これだけの規模、計画、資金、兵力を有する組織となると、これまでにギコが見たことのないほど大きな組織に違いない。
    ギコが手に入れた情報では、その正体を推測するには不十分だ。

    ピースが無くては、パズルは形にならない。
    パズルを始めるには、まずは十分なピースを揃える必要がある。
    なら、まだ準備は万端ではない。
    情報を手に入れ、相手の事を知らなければならない。

    ――ギコは、扉の前で立ち止まった。

    巨大な窪みの出来た二枚目の隔壁の前に着いたギコは、左腕――特殊焼夷弾、テルミットバリックの発射装置――を振り被って叩きつける。
    衝撃と同時に起こったのは、発光、としか表現できない。
    一瞬の内に周囲が炎に包まれ、堅牢さの象徴とも言えた扉は無残にも溶け落ち、直撃を受けた場所は蒸発していた。
    全てを焼き尽くす六千度の炎は、壁や天井だけでは飽き足らず、周囲の酸素を貪欲に食い散らかす。

    百ヤード圏内の物で焼けていないのは、マン・オン・ファイヤだけ。
    炎を踏み散らかし、ギコは蒸発して出来た穴を通って疾走した。
    扉を潜った先も、大分炎の影響を受けており、所々が燃えていた。
    二発目の発射用意を済ませ、ギコは視線の先に最後の隔壁を捉えた。

    レーザー照射によって狙いを定め、小型の焼夷弾を狙った場所に連続で三発発射する。
    世界がテルミットの炎で漂白されるまで、数秒の間があった。
    閃光と炎、そして強風が生まれる。
    地上から吹き込む風に炎が揺れ、新鮮な空気がトンネル内を満たす。

    炎が身の回りを焼き尽くす中、膝を突いて急速冷却を行う棺桶の中でギコは考えていた。
    自分がこの先取るべき行動は理解していた。
    何をして、何をするのか、その結果何が待っているのかも分かっている。
    考えていたのは、その時期。

    動く時期はいつでもいいが、出来るだけ速い方がいい。
    ならば、今。
    この瞬間に動き出そう。

    ム..<::_|.>ゝ『……じゃあな、後輩』

    視線の先に見える外の光に向けて、冷却を終えたギコは走り出した。
    後輩への義理は果たした。
    もう、彼らに関わることはないかもしれない。
    これから始まるのは、ブローガンの名を捨てたギコ・カスケードレンジの旅。

    或いは、それは――

    ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
    .:´    ` :::::::::::::::::::::: ヽ.           {   .....:::::::::::::::::::..    _,.-‐'.:.:.::::::::::::::..
            `;::::::::::::::::...........:`ヽ_.      >ー  ::::::::::::::::::::_rヾ⌒Y´    .:.::::::::::::::...
       .......    :::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::    ::::..   __r'  .:.::.:.:.   .:.:.::::::.... 
    ‥…━━ August 3rd PM16:00 ━━…‥
    ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

    溶けた扉が固まり、装甲車が走行可能になるまでに二十分必要だった。
    冷えた外気がトンネルに強風を生み出し、割れたガラスから車内に風が入り込んだ。
    デレシアはその風を感じ取り、ギコが作戦を成功させたのだと理解し、ローブを剥がした。
    被っていたローブの下から五人の同乗者が顔を出し、まだ熱い酸素を吸った。

    (;=゚д゚)「あっちぃ……!!」

    勢いよく飛び起きたのは、トラギコ。

    (゚、゚トソン「……ふぅ」

    ミセ;'-`)リ「あ、暑い……」

    続いて起きたのは、トソンとミセリのイルトリア人二人組。
    トソンは、苦しげな表情を浮かべるミセリの額の汗を服の袖で拭い取る。
    最後に、ブーンを胸の中で守っていたヒートがゆっくりと体を起こした。

    ノハ;゚⊿゚)「サウナ並だな、こりゃ……」

    (∪-ω-)Zzz……

    ヒートの腕の中でブーンは寝息を立てており、命に別条がないことを示している。
    人並み外れた回復力と生命力に、デレシアは安堵した。
    この少年の成長を、まだ見続けることが出来る。
    まだ、見届けることが出来るのだ。

    ζ(゚ー゚*ζ「全員無事みたいね」

    ペニサスが作った特殊な繊維のローブを被って、デレシア達は後部座席で身を寄せ合って熱風から身を守ったのである。
    ブーンとヒート、そしてデレシアのローブの三人分がなければ、全員が助からなかった。
    この作戦の危険な部分は、特殊焼夷弾の生み出す熱だけでなかった。
    酸素の急激な燃焼による低酸素状態が、最も恐ろしい問題だった。

    一時はトンネル内の酸素が失われたが、詰んでおいた潜水用の酸素ボンベを使い、それぞれが交互に酸素を補給した。
    極限とも呼べる状態で意外な行動を示したのは、トラギコだった。
    彼はミセリとブーンに優先的に酸素を与えるように指示をして、二人が酸欠にならないように配慮したのである。
    結果として、体力面で劣る子供二人はこの状況を無事に潜り抜けることが出来たのだ。

    ζ(゚ー゚*ζ「トラギコ、ありがとう。
          おかげでこの子たちが助かったわ」

    (;=゚д゚)「けっ、礼を言われるようなことはやってねぇラギ。
        本当に感謝してるんなら、さっさとここから出るラギ。
        減量中のボクサーじゃあるまいし、蒸し焼き料理になるなんてのはごめんラギ」

    一人の例外もなく大量の汗を流し、誰の汗か分からない汗で全身を濡らしていた。
    早くキンキンに冷やした水を飲んで、失われた水分を取り戻さなければ。

    ζ(゚ー゚*ζ「じゃあ、行きましょう」

    そして、タイヤの溶けた装甲車はギコが作った道を走り始めた。
    悪路に揺られる車中では、会話はなかった。
    兎に角熱く、そして苦しかったのだ。
    苦しみは肉体的な物だけでなかった。

    結局のところ、デレシア一行は生きて脱出することに成功した。
    しかしそれだけだ。
    ティンバーランドの目論見の破綻も、ペニサスの仇討も出来ていない。
    デレシア達の脱出を除いて、相手の計画通りに事が進んだ。

    それだけではない。
    ブーンは傷つけられ、危うく命が奪われるところだった。
    どこまでも腹の立つ連中だ。
    時代が変わろうとも、彼らはいつだってデレシアを苛立たせる。

    強いて。
    強いて、よかったこと探しをするならば。
    極限の状態で起こった、ブーンの選択による驚異的な成長。
    自分の意志でミセリを助け、彼女を庇った。

    デレシアが仕向けたことではない。
    誰かに強いられて行った行動でもない。
    彼が自分で考えて起こしたことだ。
    それだけが、唯一今回彼女達が得たもの。

    得た物は確かに大きかった。
    大きかったが、奪われた物も大きい。
    全くもって、不愉快な決着だ。
    このまま終わらせるわけには、当然いかない。

    力によって、彼らの夢を踏み躙ろう。
    徹底的に叩き潰し、捻り潰そう。
    木っ端すら残さず、名残すら消し飛ばそう。
    そうでなければ、この気持ちが収まる気がしない。

    丹念に、丁寧に。
    ウィスキーのように時間を掛けて注意深く熟成させたその計画。
    その計画が実る直前に、それを刈り取ろう。
    開花直前の花を握り潰し、凌辱するようにいたぶりながら台無しにしてやろう。

    ――見えてきた出口の先には、四角く縁取りされた黄昏の空に浮かぶ巨大な月が彼らを待っていた。

    ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

    :::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::
    ::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::γ'"~~"'丶::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::
    ::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::,i' ::::    ';:::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::
    :::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::! :::: :::.....   l::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::;;;,-~""";;;'''-;;;;__::::::::::::::::::::::
    :::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::ヽ、:::: ::  ,ノ:::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::(,.,;.,~-ー''''~ ̄:::::::::::::::::::::::::

    ‥…━━ August 3rd PM16:10 ━━…‥
    To be continued...
    ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
    スポンサーサイト

    コメントを書き込む コメントを読む(0) [Ammo for Relieve!!]

コメント

コメントの投稿(コメント本文以外は省略可能)





管理者にだけ表示を許可する

テンプレート: 2ちゃんねるスタイル Designed by FC2blog無料テンプレート素材 / 素材サイト: 無料テンプレート素材.com / インスパイヤ元:2ch.net

ページのおしまいだよ。。と
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。