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第九章【rage-激情-】

  1. 名前: 歯車の都香 2017/04/15(土) 19:37:00
    第九章【rage-激情-】

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    Very rarely, the strong emotions cause unexpected results.
    ごく稀に、強い感情は予期しない結果を招くことがある。

    Angry, sadness, scare, delight and something else are included in the emotions which cause changing everything.
    怒り、悲しみ、恐れ、喜びやそれに準じる物が全てを変える感情に含まれている。

    If you think emotions are not important thing, you should change your mind ASAP.
    だからもし、感情など取るに足らないものだと考えているのであれば、すぐにでもその考えを変えた方がいい。

    The emotions are able to beyond your forecast easily.
    感情は予測を簡単に上回ることができるのだから。

          著 カテリーナ・“C”・シャナハン【潜在的能力と感情がもたらす可能性】 P37より抜粋
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    ‥…━━ August 3rd PM13:59 ━━…‥
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    オープン・ウォーターが始まってから、一時間半以上が経過していた。
    左足を庇うように歩く一人の青年は、腕時計からニクラメンの見事な街並みにその鳶色の細い目を向け、嘆息する。
    乱反射をするコバルトブルーのビル群は、その建物の表面に敷き詰められた太陽光発電装置の色彩が作り出す一つの芸術だ。
    ニクラメンのような海上都市には多く見られる設計で、他にも、交差点の中央に聳える風力発電装置は樹木の様に堂々としている。

    その景色を見て、クルーカットの青年は薄らと笑む。
    行き交う人の中、彼の浮かべた非憎げな笑みに気付いた人間は、一人もいない。
    気付いたところで、誰も気にしない。
    彼はあまりにも上手く周囲に溶け込んでいたし、彼の周りには仲間が大勢いた。

    ここで言う仲間、とは姿格好の事を指し示す。
    若く、そして若者の間で流行している服装――半袖のパーカーにジーンズ――が、彼を自然な存在に変えていた。
    不意に、甲高いクラクションが鳴り響いた。
    視線を三百フィート先の風力発電装置の根元に向け、そこに三台の大型トラックを見出す。

    トラックは交差点の真ん中で軽度の正面衝突を起こし、それを避けようとした後続のトラックがハンドル操作を誤って歩道の街灯にぶつかったようだ。
    街の交差点で起こったこの事故は、人命救助と車両移動が行われるまで、ニクラメンの交通を鈍らせるだろう。
    ここに警察組織は介入していないので、動くのは海兵隊だ。
    多くの人間がオープン・ウォーターの警備に向かっているだろうから、到着までしばらくかかりそうだ。

    海兵隊が到着するまでの間、この場を諌めるのは雇われた外部の人間。
    さて、この不慣れな環境下で人間がどう動くのか、楽しみではある。
    運転手達は責任の押し付け合いをして、交通を完全に妨害している。
    彼等はそれを気にすることなく、口論を続ける。

    青年は現場に近づき、その口論の内容に耳を傾ける。

    「お前がよそ見してるからこうなったんだ、その平ってぇ顔なら前がよく見えるだろうが!!」

    「んだと手前、ぶっ殺されてぇか!!」

    古汚れたスポーツキャップを目深に被った男が、唾を飛ばしながら罵声を上げる。
    しかし奇妙なやり取りだ。
    言い争いはするが、互いに手出しをしない動きと立ち回りをしているのだ。
    それに、口調もどこか芝居がかっている。

    トラックを傷つけられたのなら、もっと感情的になるのが普通。
    けれども、三人の動きはその怒りの様子を周囲にアピールするかのようだ。
    形だけの怒り。
    見せ掛けだけの憤りだと、注意深く観察すればすぐに気付く。

    なるほど、指示なくして動けない三下の彼らにぴったりの役回り、演出だ。
    青年はくつくつと笑いながら、更に三人に近づく。
    さて、この三問芝居にどのように介入すべきか。
    どのように介入すれば面白く、そして劇的に己の存在を示せるか。

    彼らに用意された台本通りに進むだけでは、あまりにもつまらない。
    ここから先はアドリブで参加させてもらうとしよう。
    面倒くさいが、まぁ、いいだろう。
    これもまた一興。

    下で祭りがあるのに、ここで祭りがないのは少々寂しい。
    もうすぐ、この海上街でも祭りが始まる。
    それに乗り遅れないように、精々、気の利いた台詞と気の利いた立ち回りを考えておこう。
    青年は、事故を離れた場所から見ている野次馬の群れに紛れ、腕を組んで静観することを選んだ。

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    ‥…━━ August 3rd PM14:00 ━━…‥
    ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

    爆音と振動が同時に訪れ、悲鳴は遅れてやってきた。
    青年は騒然とする周囲とは対照的に、驚くほど冷静に、そして、恐ろしいほどに暖かな笑みを浮かべていた。
    満面の笑みだった。
    だが、高鳴る鼓動と衝動に駆られながらも、青年はまだ動かない。

    橋に背を向け、まだ、風力発電装置の根元の事故現場に注目している。
    彼だけではない。
    注意して周囲を観察すれば、他に、十人の男が同様の動きをしていることに気が付くだろう。
    そして、彼らの足がゆっくりと、山中で獣の背から近づくのと同じように、トラックに向かっていることに。

    もっとも、一般人にとって今はそれどころではない。
    自分の命が危険に晒されていると察するや否や、ニクラメンと地上とを繋ぐ橋と、船着き場に向かって一斉に走り出した。
    この段階で可能な限り早く助かるには、確かにその二つの道しかない。
    彼らの選択は間違いではないが、過ちだ。

    高鳴る気持ちを抑え、冷静に事態を見守る。
    すると海の向こうから、爆音にも似た音が近づく。
    それは徐々に大きさを増し、姿を現した。

    「ヘ、ヘリ?!」

    ニクラメンは電動ヘリコプターを所有していない。
    最寄りのクロジングも、ましてやフォレスタにもそれはない。
    人々を救助に来たヘリコプターでもない。
    あれがこの世界にとっての重役を迎えに来たどの都市にも属さないヘリコプターだと知るのは、青年を含む数名だけ。

    ヘリコプターは彼らの頭上を越え、一ブロック先の通りに降り立つ。
    一分もしない内にヘリコプターは空に浮かび、水平線にその姿を消した。
    つまり、重役はしっかりとこの街から撤退したということ。
    計画に狂いはなく、万事スムーズに事が運んでいるのだと青年は理解した。

    予定通りだ。
    時間。
    タイミング。
    そして、配置。

    全てが予定通りに進行している。
    西川・ツンディエレ・ホライゾンから受けた指令は、ニクラメンの全てを海に沈めること。
    ニクラメンは、もう、この世界の地図上に必要ないのだ。
    そして、それを実行するのは彼一人ではない。

    『夢と希望が我らの糧。我ら、正義と平和の大樹也!!』

    注意が爆音とヘリコプターに注がれていた隙にトラックのコンテナに乗り込んでいた男達が、そこに積載されていた棺桶を装着し、戦闘準備に入る。
    トラックの事故はあくまでも予定。
    海兵隊の到着を遅らせ、一人でも多くの人間をこの場に釘付けにするための作戦。
    そして作戦に基づいた行動がこれから始まる。

    〔欒゚[::|::]゚〕

    ヘルメットに描かれた黄金の大樹。
    そして、複合装甲の放つ重々しい輝き。
    これが、力無き彼らの力の化身。
    独自のカラーリングとマーキングを施したジョン・ドゥが現れ、手にした軽機関銃のコッキングレバーを引く。

    誰もが、この突拍子もない展開に目を点にしていた。
    あるいは、彼らが救いに来たのかもと淡い期待を抱いた者もいたかもしれない。
    しかし、それは違う。
    救いに来たのではない。

    終わらせに来たのだ。

    〔欒゚[::|::]゚〕『死ね、薄汚い豚どもが!!』

    爆裂と言い換えても差し支えのない銃声が、人でごったがえす交差点に響き渡った。
    悲鳴など、彼らには聞こえない。
    彼らの耳に聞こえるのは、豚の鳴き声とその行為に向けて送られる割れんばかりの拍手だ。
    いつの間にか人混みをすり抜け、牽引されてきたコンテナの中に乗り込んでいた青年は、その悲鳴を決して快く思っていなかった。

    彼にとって人は人であり、人以上でも人以下でもない。
    命が消える音は、悲しくなるものだ。
    外に比べて少しだけ静けさを保っているコンテナには多くの武器と、一つの兵器が鎮座していた。
    ジョン・ドゥとは異なる大きさと形状の、Bクラスの軍用強化外骨格。

    ハズレ呼ばわりされた太古の兵器を発掘、復元、改良、そして量産した一品。
    長きに渡る綿密な計画。
    その一つがこれだ。
    その成果がこれだ。

    大元はカリメア合衆国の作った“エアベンダー”から始まり、改良と量産化に成功したBクラスの軍用第三世代強化外骨格。
    先行量産型“ラスト・エアベンダー”。
    その棺桶を前に、青年は昨晩の出来事を思い出す。
    己の成した偉大な成果。

    あの伝説の魔女を。
    あの、イルトリア最強の狙撃手、“魔女”ペニサス・ノースフェイスを兄と協力し、殺したのだ。
    伝説を葬り去った感動を思い出すたびに、青年の手は震えた。
    震える手で棺桶を背負い、青年――オットー・スコッチグレイン――は、ライフルを手にする。

    ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
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    手に持つのは、百連装ドラムマガジンと高倍率光学照準器を装着し、強化ロングバレルに改造したM4アサルトライフル。
    機動力を補うだけの火力がなければ、装甲の薄いラスト・エアベンダーは空飛ぶ的になる。
    そこで役立つのが、この徹甲弾を撃てるライフルと云う訳だ。
    民間人を殺すだけなら、このライフルだけで十分。

    バッテリーと燃料の事を考えて、オットーは棺桶を装着しないまま、硝煙と血の匂いが漂う世界に飛び出した。
    コンテナを背にして、その場に膝立ちになる。

    (´<_` )「アニー、見ててくれ……
         俺は、一人でもできるから」

    魔女に撃たれて森に落ち、そのまま行方不明となった兄に呼びかける。
    幼少期から、互いに支え合って生きてきたただ一人の肉親。
    貧しい生活を通して深めた兄弟の絆。
    日に一つのパンを分け合い、身を寄せ合って暖を確保したあの日々。

    力のない中、力を求めて逃げ続けた。
    助け合うことこそが、彼らが持ち合わせたただ一つの力だった。
    唯一の家族である兄の悲願は、自分が叶える。
    叶えて、そして、世界を変えてみせる。

    決意を再燃させ、オットーは狩りを始めた。

    (´<_` )「……すまない」

    最初に照準器に捉えたのは、おさげ髪の子供の背中。
    四歳か、それとも、五歳だろうか。
    小さな女児の背中はあまりにも無防備。
    あまりにも儚げだ。

    (´<_` )「せめて、苦しまないように逝かせてあげるからな」

    そう。
    こうして、数キログラムの力を加えて銃爪を引くだけ終わるのだ。
    背中――心臓の真上――に醜いバラを咲かせ、倒れる女児。
    誰も、彼女を助けない。

    所詮は他人。
    今は我が身我が命が最重要なのである。
    母親でさえ、五歩進んだところでようやく気づき、踵を返すほどなのだ。
    溜息を隠せない。

    家族のつながりが希薄な時代の証拠だ。
    これを正さなければ、世界はいつまでもこのままだ。
    せめてもの情けとして、オットーは母親の額を撃ち抜いて――半ば爆ぜるような銃創となった――これ以上悲しむことのないようにした。
    倒れた母親の手は、娘の手に届くことはなかった。

    光学照準器に浮かぶ十字線に背中を重ね、次々と銃爪を引いて道路を赤黒く染める。
    銃弾を掻い潜って橋に向かう人。
    いち早く船着き場に向かう人。
    その誰もが、生き延びることは出来ない。

    ここから先は、誰一人として、このニクラメンから生かして出すわけにはいかない。
    黄金の大樹の元に名を連ねる者以外、誰一人として。
    ――遠くから響いた銃声が、友軍のジョン・ドゥの頭を吹き飛ばした。

    〔欒゚[::|::]゚〕『っ!! 狙撃だ!!』

    散開しようと振り返ったジョン・ドゥが、足を撃ち抜かれて派手に転倒する。

    〔欒゚[::|::]゚〕『ケニー!!』

    助け起こそうとしたジョン・ドゥは、最も面積の広い急所である心臓部を撃ち抜かれた。
    あれでは即死だろう。

    〔欒゚[::|::]゚〕『遮蔽ぶっ……!!』

    仲間に指示を出すために開いた口を残し、ジョン・ドゥの頭部が吹き飛んだ。
    戦場における、狙撃の常套手段。
    ニクラメンの海上街には絶えず強い潮風が吹いており、その中で狙撃を成功させ得る部隊は、ニクラメン海兵隊に二つある。
    一つは“真珠頭”パール・ヘッド・ジャック率いる海底街第七連隊。

    そしてもう一つ、海上街第三小隊。
    率いるのは、パールの同期。
    “岩頭”ドレッド・ドトール。

    ([∴-〓-]『……』

    死体が積み重なる道路の先に現れたのは、腕を組み、仁王立ちになってオットー達を見据える士官用ソルダット。
    丸みのあるヘルメットと一体になった、覆面装甲型ヘッドマウントディスプレイ。
    削り出しの金属のような、武骨な全身装甲。
    過酷な環境下での使用を前提とし、単純で量産性に富んだ設計ながらも、耐久性、性能、ともにジョン・ドゥと比較されるほどに高い。

    堂々と構えるソルダットの棺桶持ちこそが、ドレッド・ドトールに違いなかった。
    オットーは思考を切り替え、自分に有利なように状況を運ぶことにする。
    しばらくの間、この場が落ち着くまではトラックのコンテナ内に隠れることにした。
    幸い、狙撃手は彼の動きに気付いていなかった。

    〔欒゚[::|::]゚〕『……図に乗るなよ、泥人形共が!!』

    ジョン・ドゥを身に纏った男達が、雄々しく吠えながら全速力で疾駆した。

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    ‥…━━ August 3rd PM14:07 ━━…‥
    ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

    ――結論から言えば、彼らが全滅するのに十分も必要なかった。

    ([∴-〓-]『図に乗るなよ、田舎者が』

    倒れ伏したクロジングの同胞の頭を踏みながら、ドレッドは淡々と告げた。
    勝利に酔うことなく、虐殺に嘆くこともない。
    コンテナに空いた銃創からオットーが見た彼の姿は、経験を積み重ねた海兵隊らしい、威厳に満ちた姿だ。
    彼の周りには狙撃装備のジョン・ドゥが五機、標準型ジョン・ドゥが十七機いた。

    生存者を探して動く姿は津波の被害を受けた街を歩くボランティアにも似ているが、これは天災ではなく人災だった。
    だからこそ、地面に転がるオットーの同胞の死体に向けて発砲し、息の根を確実に止めているのだ。
    大型医療車両はすでに通りに停めてあり、その周囲は重軽症者の流す血と悲鳴によって、野戦病院と大差ない光景が広がっていた。
    オットーは彼ら海兵隊の手際の良さに感動を覚えるとともに、同胞として招き入れた人間の不甲斐なさに頭を痛めた。

    結局のところ、力のない人間がどう足掻こうと喚こうと、何一つ変わりはしないのだ。
    だからこそ、オットーは決意したのだ。
    この間違った時代を。
    この忌々しい理が支配し、蔓延るこの時代を終わらせるために。

    意を決し、オットーはラスト・エアベンダーの起動コードを入力した。

    (´<_` )『心こそが全ての戦いに勝つ鍵だ』

    オットーの体が、棺桶に取り込まれる。
    軍用第三世代強化外骨格の通称である棺桶を、オットーは気に入っていた。
    皮肉たっぷりの名前だし、何より、最も的確な名前だからだ。
    これに入っている限り、戦場で本物の棺桶は不要になるのだから。

    運搬用コンテナの中で、強化外骨格が己の体に合わせて装着されていく。
    初めての感触ではない。
    ジョン・ドゥも、ジェーン・ドゥも試したことがある。
    フィンガー・ファイブ社で戦う中で、十種類近くの棺桶を動かしてきた経験がある。

    だが、このラスト・エアベンダーは別物だ。
    あの“魔女”の命を奪った棺桶なのだ。
    装着を終え、オットーはコンテナの外に出る。

    <0[(:::)|(:::)]>

    群青色の装甲は、最早、装甲としての体を成していないほど薄い。
    キー・ボーイと同等か、箇所によってはそれ以下だ。
    昆虫のような、そう、トンボのような巨大な目を持った棺桶だった。
    エアベンダーから更に装甲を削って軽量化を図ったのは、量産化を容易にするため。

    そうして出来上がったのが、この先行量産型ラスト・エアベンダーである

    <0[(:::)|(:::)]>『……』

    空中戦闘に割ける時間は、僅か十分間。
    その間に敵を全滅させることなど、あまりにも簡単だ。
    背負ったジェットエンジンに火を入れ、オットーの体が一瞬で空中に浮かび上がる。
    エンジンの音に気付いた海兵隊達がラスト・エアベンダーに視線を向け、次に銃口を向けてきた。

    〔Ⅲ゚[::|::]゚〕『っ!! 残党だ!!』

    しかしそれでは遅かった。
    すでにオットーは機体を地面と水平にして高速移動を開始し、銃弾は一発も掠めない。
    ビルの壁に沿ってより上空を目指し、太陽を背にして高度を上げていく。
    ある程度の硬度を確保した段階で、オットーは上昇を止め、ライフルを構えた。

    如何に経験豊富な海兵隊と言っても、上空の敵を相手にしたことはないだろう。

    ([∴-〓-]『全員屋内に!!』

    文字通りの弾雨が降り注ぐ中、ドレッドは最も適切な指示を下した。
    全てが見下ろせる上空から攻撃を受けないためには、視認されない以外の方法はない。
    逆に反撃の点で見ても、上空の方が圧倒的に有利だ。
    物理法則に逆らって発砲された銃弾は、いずれは重力に引かれて落ちる。

    弾の威力も減退し、更には狙いも付けにくいという非優位性がある。
    対して、上空から発砲された弾丸は重力の力を借りて威力が増す利点がある。
    オットーのライフルは遠距離からの攻撃に特化して改造されているだけでなく、ラスト・エアベンダー自体が演算機能を持っているため、正確な射撃が可能だ。
    撃ち負けることはあり得なかった。

    <0[(:::)|(:::)]>『逃がすか!!』

    土煙と共に、海兵隊達が倒れる。
    部下に指示を出していたドレッドも、その銃弾を浴びて膝を突く。
    休みなど、決して与えない。
    銃爪を引き続け、オットーはドレッドの頭上に集中的に銃弾を浴びせた。

    ([∴-〓-]『ぐ、ああががっ!!』

    穴だらけになったソルダットから血が流れ、周りと同じように骸と化す。
    残存勢力は不明だが、早々に指揮官を潰せたのは幸先がいい。
    僅か二分間で、海上街第三小隊は壊滅状態となった。
    これで、オットーの任務は終わったも同然だ。

    海兵隊の兵力を減退させ、市民虐殺の邪魔をさせないことがオットーの役割だ。
    交差点を担当していた味方が全滅してしまったが、逃げ延びた市民に関しては追う必要はない。
    オットーが手を下さずとも、彼等は必ず死ぬのだ。

    <0[(:::)|(:::)]>『これで、この街も終わり、か』

    高層ビルの屋上に着陸し、見るともなく全体を見渡す。
    人の流れはやはり、船着き場に向けて動いているようだ。
    橋が落ちたのなら、ニクラメンに残された脱出路は海しかない。
    だが、海に飛び込むわけにもいかない。

    水面は、落下高度によってはコンクリート並の硬さになるため、ただの投身自殺にしかならない。
    恐怖心を拭い去って飛び込むだけの気持ちがあるのならば、冷静に考え直した方がまだ人間らしい死に方が出来る。
    安全な方法として最初に考え付くのは、船だ。
    オープン・ウォーターの開催に伴い、外地から訪れた大量の船舶がニクラメンの船着き場に停泊している。

    しかし、船着き場に通じる道へ辿り着く人間は、誰一人としていない。
    理由の第一に、その道には西川・ツンディエレ・ホライゾンの指示によって、三十名以上の棺桶持ちが待機している。
    逃げ道を一か所に絞り、そこで殲滅する算段だ。
    万が一そこを突破したとしても、問題の船着き場にある全ての船には時限式の高性能爆薬が仕掛けられており、後十分後には海の藻屑と化す。

    では、船着き場の危険に気付いて泳いで逃げようとした場合は?
    その点に関しても、抜かりはなかった。
    安全に海に飛び込める場所には大量のクレイモア地雷――無数のベアリングを発射する指向性対人地雷――が設置され、生きてそこに到達できる人間は存在しない。
    逃げ道など、残しはしない。

    ここでニクラメンは終わるのだ。
    半年以上にも渡って周到に準備されたこの計画に、抜かりはない。

    <0[(:::)|(:::)]>『……ん?』

    何かの気配を感じ、オットーは背後を見た。
    そこには屋上に通じる扉が一つあるだけで、他には何もない。
    危険が去るまでビルの中に隠れていようと思うのなら、それは意味がない。
    目標達成後、このニクラメンは海の底に沈む予定となっているのだ。

    オットーは不意に、苦痛を与えずに死を与えられるのなら今しかない、と思った。
    圧殺されるよりは射殺した方が、まだ、慈悲深いだろう。
    自分は殺人狂ではないのだから、わざわざ苦痛を伴った死を与えなくてもいい。
    せめて、優しく殺してやろう。

    ライフルを腰だめに構え、オットーはその扉に近づいていく。
    時折風に乗って聞こえてくる銃声と、風の音以外、何も聞こえてこない。
    不自然なほどに、静かな空気が漂っていた。
    おかしい。

    情況的に有利なのはこちらだ。
    どう考えても、自分が危険に晒されることはない。
    畏れる必要も、警戒する必要もないはずだ。
    そのはずなのだが、オットーはこの空気に胸騒ぎを感じてしまう。

    耐えきれずに、オットーは声を発する。

    <0[(:::)|(:::)]>『誰かいるのか?
            ちょうどいい、こっちに来てあいつらから逃げる道を探そう』

    安心させることを目的に声をかけたオットーだが、返事はない。
    気のせいならばいいのだが、扉に近づくたびにオットーは煉獄の炎に近づいているような気分になって行く。
    他の同志が、例えばクックル・タンカーブーツでも来ているのか?

    <0[(:::)|(:::)]>『なぁ――』

    鉄の扉が吹き飛び、オットーの脇に落下した。
    厚さ一インチはある扉の一か所は深く陥没し、極めて強い力が一か所に加えられたことを意味している。
    扉の向こうには、ジャケットを着たスカイブルーの瞳を持つ一人の男。
    浅黒い肌と顔に負った細かな傷、そして白髪交じりの黒髪は鬣のようだった。

    その瞳に宿る憤怒の色に気付くことなく、オットーは一際目立つ顎の傷に視線を奪われる。
    獣に食いちぎられたような痕だ。

    <0[(:::)|(:::)]>『――同志……か?』

    一応、そう尋ねはするが銃口は向けたまま。
    敵にしろ味方にしろ、この男は普通ではない。
    出来れば味方であってほしいと願うが、男は返答ではなく質問をしてきた。

    (,,゚Д゚)「お前、夢はあるか?」

    <0[(:::)|(:::)]>『……あ、あぁ』

    (,,゚ー゚)「……そうか。
        それは良かった」

    満足そうに頷き、そして、男は静かに宣言する。
    宣戦布告と、戦いの始まりを。

    (,,゚Д゚)『目には目をではない。貴様らの全てを奪い取る』

    ┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳
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    Ammo→Re!!のようです
                         ノへヘ   !     メ个、彡
                        ノイヘ. ー‐― ,イノリ
                        /ハ,i:ヽ,:,:,:,:,/ トハ
                       _,/ / i! :    .: / ヘヽ、
              _...... .-.:::::´::/:::::/  ヘ、    /  l:::::ヽ、、
           ハ´::::::::::::::::::::::::/:::::::l!   /i   /    !::::::::l::::::`::.- ... _
                                              第九章【rage-激情-】
                 ‥…━━ August 3rd PM14:15 ━━…‥
    ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
    ┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻

    咄嗟に発射した徹甲弾では、男の動きを止めることは出来なかった。
    棺桶持ちが起動コードを口にしてから戦闘行動を開始するのは、バッテリーの使用量を減らし、少しでも長く活動することを目的としている。
    いわゆる、様式美に近い慣習のようなものだ。
    従って、コードを口にする間の致命的な隙は、全ての棺桶に共通した弱点でもある。

    だから、棺桶持ちが棺桶を使う前に殺すのは当たり前のことだ。
    それが容易であれば、棺桶はその存在の重要さを欠いていただろう。
    その背負う棺桶が、使用者の命を守る楯として機能しなければ、そうなっただろう。
    男は巨大な棺桶――間違いなく、大型に分類されるCクラスのそれ――を楯に、強化外骨格を身に着けることを成功させた。

    棺桶を用いた戦闘を知っている証拠だ。
    いや、こうなることを知っているだけで、ここまで疾くは動けない。
    多くの場数を踏んできたに違いなかった。

    ム..<::_|.>ゝ『夢ごと叩き潰す』

    一目で分かった。
    これは、コンセプト・シリーズの棺桶だと。
    そして比類なき強さを持つ、強力なそれだと。

    <0[(:::)|(:::)]>『ふざけんな!!』

    オットーはブースターに点火し、屋上から飛び降りる。
    彼の細胞は、対立ではなく逃亡を命じた。
    正面からの殺り合いは分が悪い。
    自らの得意な領域、即ち空へ逃げ、そこから攻撃を仕掛けるしかない。

    もしくは、放っておくかだ。
    逃げ道が多くある空中でなら、鈍いCクラスの棺桶相手に後れは取らない。
    瞬く間にビルの屋上から三十フィート上空まで飛翔し、手を考える。
    これだけの高度を確保すれば、銃撃を回避するのは容易だ。

    銃撃を加えるのもまた、同じ。
    優位性は、今、自分にある。

    ム..<::_|.>ゝ『テルミットバリック!!』

    声に応じて左肩の六角錐が、補助装置によって左腕に接続される。
    何をしようと云うのか。
    ショットガンのような広域を標的にできる攻撃しようというのなら、愚かな話だ。
    上空目掛けて発砲したところでその威力は軽減し、攻撃としての意味をほとんど成さない。

    それに、少しでもこちらが動けばそれだけで狙いは外れる。
    六角錐の頂点がオットーに向いた瞬間、レーザー照射によってロックされたことを電子警告音が告げた。

    <0[(:::)|(:::)]>『はぁっ?!』

    レーザー照射をしたということは、銃弾ではない。
    ミサイル兵器か、それに準じる距離の測定を必要とする兵器の使用を意味する。
    あれは、明らかに危険なものだ。
    オットーは素早く状況を判断し、仰け反りながら正体不明の兵器から逃げるように急降下を行った。

    急降下中、追撃をさせないためにライフルで牽制射撃を加えるのを忘れない。
    天地が逆転した視界の中、オットーは先ほどまで自分がいた空が紅蓮の炎に包まれるのを見た。
    そして。
    エンジンから吹き出していた炎が弱まり、体制を立て直そうとしていたオットーは虚を突かれる。

    声を出そうとするが、喉が熱く、更には鼻腔の奥に焼き鏝を突っ込まれているような感覚がする。
    肌も直火で焼かれているかのような、熱さを越えた痛みがある。
    否、これは錯覚ではない。
    現実の熱、そして激痛だ。

    <0[(:::)|(:::)]>『あ……ごひゅ……?!』

    空気が燃えている。
    周囲一帯の酸素が燃え尽きるほどの高温の炎が、あの棺桶から放たれたのだ。
    ビルの窓ガラスは砕けることなく溶け、建物の表面を伝って滴り落ちる。
    コンクリートも焼け焦げる程の業火。

    もう十フィートでも近くにいたら、オットーは棺桶と共に蒸発していた事だろう。
    その代わりに右手のライフルが暴発し、右手の指が何本か吹き飛んだ。
    薄っぺらな装甲が溶け、異臭が鼻いっぱいに広がる。
    ヘルメットも焼けて溶け、顔全体が焼けただれる感覚に、声も出ない。

    強風が彼の体を弄び、体勢は不安定となり、立て直すことも出来ない。
    翼を失った鳥が落ちるように、頭から地面に向かって墜ちる。

    <0[(:::)|(:::)]>『ぐっううううおおおおおお!!』

    ここで終わるわけにはいかない。
    酸素を求めてオットーはヘルメットを剥がし――顔の皮膚が一緒に剥がれた――、再びエンジンに点火を試みた。
    すると、エンジンは彼の意志に応えるかのように息を吹き返し、彼の体勢を整えた。
    どうやらあの兵器は、爆心地から周囲百ヤードほどに効果を発揮するようで、その効果範囲を逃れればどうにか動けるらしい。

    兵器の正体は、想像を絶するほど強力な焼夷弾を射出する発射機。
    それによって酸素が焼き尽くされ、エンジンが機能を果たさなかったのである。
    一時的に酸素を失ったことによって推力を失ったが、酸素のある領域まで落下したことによって、エンジンが再起動したのだ。
    だが一度だけ落下速度を落とすことに成功したエンジンは、直後、そのまま機能を停止した。

    熱によって回路が焼かれたか、それともショートしたかは定かではないが、いずれにしてももう二度とこのエンジンが動くことはない。
    すぐさま、パラシュートを開く。
    ラスト・エアベンダーは被弾しても緊急用パラシュートが破損しないように、ジェットエンジンパックの最深部にそれを収納している。
    開花するように開いたパラシュートは、特殊繊維が焼け焦げ、所々に穴が開いていた。

    しかし、落下速度を落とすことぐらいは出来た。
    百フィートの高さから落ちたオットーの足は、その衝撃に耐えきった。
    ラスト・エアベンダーの持つ耐衝撃機構が、彼の命と足を救ったのだ。
    このままでは、彼は己の使命を全うできない。

    ここは、一時撤退が吉。
    肌に溶着した装甲を剥がすだけの力もなく、オットーはその場から逃げようと一歩を踏み出そうとした。
    安堵したのも束の間。
    不意に、足元の影が不自然にその濃さを増した。

    (´<_`;)「……は?」

    空を仰ぎ見て、オットーは絶句する。
    太陽を背に、ビルの屋上から飛び降りた歪で巨大な影。
    先ほどの棺桶持ちが、オットーを追ってきたのだ。
    この高さ、落下すれば例えコンセプト・シリーズと云えども即死は必至。

    恐怖など。
    躊躇いなど。
    それら一切を不純物と断じ、一つの目的を果たすためだけに動く鋼鉄の精神。
    オットーを殺す、ただそれだけを考えて動く殺人機械。

    男の叫び声が、オットーを心の底から怯えさせた。

    ム..<::_|.>ゝ『バンカーバスター!!』

    それは跳躍する悪夢の跫音。
    それは飛来する悪魔の羽音。
    それは落下する悪鬼の奇声。
    それは煮え滾る煉獄の王の咆哮。

    刹那の時間。
    オットーは、己の人生を断片的に見ることとなる。
    生まれてから今日この日まで過ごした、辛く、厳しく、ほんの少しの幸せが共存していた日々。
    兄と過ごした日々。

    兄と見た、大きな夢。
    世界を変えるという、御伽噺のような素晴らしい夢。
    その夢が、夢のままで終わる。
    夢のまま、成就も開花もすることなく、枯れ果てる。

    全てがここで終わりを告げる。
    圧倒的な殺意を込めて迫るその姿が物語る。
    ここで終わり。
    これで終わりだと、オットーは確信した。

    ――呆然自失のオットーを横合いから突き飛ばす存在がなければ、彼の人生は確実にここで終わっていた。

    〔欒゚[::|::]゚〕『危ない!!』

    全滅したと思っていた友軍の生き残り。
    この危機的な、絶望的な状況で動ける人間が、クロジングにいたとは。
    己の誤解を、オットーは呪った。
    己の浅墓さを、オットーは罵った。

    真に勇気ある人間は、まだ、世界には残されているのだと何故信じなかったのか。
    同志達が世界に絶望していないように、オットーもまた、人間に絶望してはいけなかったのだ。
    だが。
    それは、後悔でしかなかった。

    威力を一点に集中した爆撃は彼の肉片一つ残さず吹き飛ばし、地面に大穴を空けた。
    オットーを救った最後の友軍は、彼の目の前から消え去ってしまった。
    跡形もなく消し飛んだ勇気ある男。
    まだ、礼も言っていないどころか、彼の名前さえ知らなかったのに。

    そんな後悔は、直ぐに消え去った。
    こんな、一目で規格外の化け物だと分かる敵を前にすれば、それも当たり前だ。
    目的達成のために計算された凶行は、爆風に吹き飛んだオットーに底知れぬ恐怖を与えた。
    自分は、畏怖の化身に魅入られてしまったのだと、すくみ上がった。

    穴に落ち行く灰燼色の巨大な棺桶とすれ違う、一瞬。
    地獄の宝石じみた赤い輝きを放つ機械仕掛けの両眼が、確かにオットーを見た。
    人生で初めて、オットーは生きた心地がしないという感覚を味わい、戦慄する。
    機械越しに確かに伝えられた圧倒的な殺意は、言葉よりも雄弁だったのだ。

    ――次は、必ず、叩き潰す。

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    ‥…━━ August 3rd PM14:20 ━━…‥
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    ム..<::_|.>ゝ

    落下速度の減速は、彼――ギコ・カスケードレンジ――にとって命題だった。
    余計な茶々さえなければ済んだ復讐が妨害され、その軌道修正に彼は貴重な時間と手間を割かなければならなかった。
    一発目のバンカーバスターで落下速度は若干ではあるが落ちたが、それでも、まだ早すぎる。
    続けて二発目のバンカーバスターを発射し、爆風によって速度を落とす。

    まだ、足りない。
    ぶ厚い床を破壊して、更にマン・オン・ファイヤは下へ下へと向かう。
    三発目の攻撃は床を三枚貫くほどの効果を見せたが、速度の減退に関しては劇的な効果を見せていない。
    このまま落ちていくと、待っているのは虚無的な空間だ。

    この先に待っている地下駐車場に通じる空洞に墜ちてしまえば、落下速度を落とすための手段はなくなる。
    その前に、何としても速度を落とさなければならなかった。
    元からギコは、爆風だけで十分な減速が出来るとは考えていない。
    要塞攻略用のマン・オン・ファイヤに備わっている、高所からの降下用のワイヤーを使うことを考えていた。

    地下壕に空けた穴からその内部に降下し、特殊焼夷弾で生存者を焼き殺すためのものだ。
    言い換えればそれはマン・オン・ファイヤの体重を支えられるだけの強度を持ったワイヤーがあるということ。
    高層ビルから無策で飛び降りたのではなく、ワイヤーの長さが足りなかったから。
    更に地面を破壊しているのは、床と床との間隔が狭く、安全な着地が困難だからだ。

    比較的厚みのある地面に対して対地下壕兵器を使用して穴を空け、着地が可能な地点まで自由落下。
    その後、然るべき場所でワイヤーを使用して強制的に静動をかけ、減速を促すつもりだった。
    しかし、ワイヤーを引っ掛ける場所はまだ見つからない。
    そう思った矢先の事。

    四発目のバンカーバスターは床を貫通しきれず、大きく抉ったような跡が出来ただけだった。
    このままでは、転落死は確実だった。

    ム..<::_|.>ゝ『くっそ!!』

    マン・オン・ファイヤの両足が確かに床を踏みつけた。
    幻覚のような、刹那の衝撃。
    その衝撃に耐えきれず、床は巨大な岩の塊となって崩落した。
    これは予想外の僥倖だった。

    思わず左手の射出装置を床だった物に突き刺し、自身に引き寄せる。
    巨大な岩は、その更に下にあった床を粉砕しながら墜ちていく。
    落下しているのは建物の破片だけでなく、人間も同じだった。
    爆発によって幾つもの階層が脆くなっており、辛うじて生き残った床も、彼が乗る岩によって砕かれそこにしがみ付いていた人間諸共墜ちる。

    規則的な衝撃の中、ギコは罪悪感を抱くことなく、ワイヤーを引っ掛けるタイミングを見計らっていた。
    機会を窺っているうちに衝撃がなくなり、とうとう、空洞と成り果てた駐車場にまで到達した。
    機械仕掛けの両眼が最適な場所を計算する中、ギコは衝撃的な光景を目の当たりにした。

    (∪´ω`)

    ム..<::_|.>ゝ『な?!』

    耳付きの少年。
    デレシアと共に旅をする、奇妙な魅力を持った少年。
    ペニサスの最後の教え子、つまり、ギコの後輩にあたる存在。
    何故、ここにいるのか。

    いや、ここにいる理由は一つだ。
    デレシアが来ている。
    ペニサスの仇討のために。
    つまり、ギコと目的は同じ。

    向こうがこちらに気付く前に、ギコを乗せた岩の向きが変わり、壁のように二人を隔てた。
    少年に気を取られている間に床が迫り、直ぐに意識を切り替える。
    ワイヤーを上方に射出し、崩れた床の淵に引っ掛け、急静動をかける。
    強制的な静動によって体が跳ね、ワイヤーが掛かった床が砕ける。

    先に落下した岩が砕ける轟音が響き、ほどなくギコもその上に落ちることになった。
    速度と高さの問題を解決したことによって、ギコは難なく着地を成功させた。

    ム..<::_|.>ゝ『……ふむ』

    踏み潰している死体を見て、ギコは状況を把握した。
    逃げ道を全て封鎖、破壊し、一人残らず海底に沈める魂胆なのだろう。
    つまり、ギコは意図せずにその策略にはまってしまったということ。
    狩りをしていて崖から落ちたような物。

    一言で言い表すなら、しくじった。

    ム..<::_|.>ゝ『……』

    マン・オン・ファイヤの搭載する大容量バッテリーなら、後五時間は動き回れる。
    問題なのは、右腕の対塹壕兵器の残弾だ。
    残り一発。
    崩れ落ちたこの空間から脱するには最適な兵器だが、一発だけとなると、使いどころ塾講師なければならない。

    対して残弾が豊富なのは、左腕のテルミットバリック。
    これを使うと、他の生存者をコンクリートごと溶かして燃やし尽くしてしまう。
    これではいったい誰が大量虐殺の首謀者か分からない。
    出来るだけ装備を消費することなく、出来るだけ早くこの場から脱出しなければ。

    ワイヤーを回収し、ギコは瓦礫を蹴散らしながら前進を始めた。

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                      「 ̄ `   /  ′/ ∧.
                   |..__ , /〕、   _」.
                 / ̄ `   ̄|    ̄ ,〉
                    ∠.. _     /!-‐=ニ />..
              ∠ ̄   ̄二ニ、 厶-、 , '/ 〉
           r‐=≦ ̄ `      ∨   //`ー'´
           iL.. ____r‐=iニニ」二ニ´/'
           `  ̄ ̄ ̄ ̄ ´  ` ̄  ̄ ̄´
    ‥…━━ August 3rd PM14:30 ━━…‥
    ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

    トラギコ・マウンテンライトはワタナベ・ビルケンシュトックと別れてから、早速行き詰っていた。
    恐らくワタナベが行き掛けに築き上げた死体の山が、通路を隙間なく塞いでいたからだ。
    高周波刀“ブリッツ”を使っても、これだけの死体を切り刻んで進んだところでこま切れ肉を作るだけで、道を作るには足りない。
    この先の通路が塞がれていることや潰されていることを考えると、このまま前進するのは得策ではない。

    彼の神経を逆なでることに関して、彼女は飛び切りの人材だ。
    間違いなく、通路は使用できない状態にされている。
    次に会った時は必ずこの報復を果たすと、固く誓った。

    (#=゚д゚)「あの尼ぁ……!!」

    踵を返し、トラギコは来た道を駆け戻る。
    道は直線に続いており、死体は乱雑に道の端に積み上げられていた。
    トラギコと別れてから殺されたと思われる、虫の息の人間も多くいた。
    行き掛けの駄賃にしては、割高だ。

    だが彼は、彼等を助けることはしなかった。
    救うことも助けることも、トラギコには出来ない。
    精々彼にできたのは、愛銃のM8000で殺してやることだけ。
    狙えるのならば心臓を。

    狙えないのなら、頭を狙って即死させてやった。
    彼の跫音と銃声、そして薬莢が血の匂いの充満する空間に響き渡る。
    弾倉を二つ使い果たして、ようやく、瀕死の人間のうめき声も息遣いも聞こえなくなった。
    ねっとりとした血溜まりを踏みながら、トラギコは奥へ奥へと進む。

    途中、壁の一部が不自然に変形しているのに気付いた
    壁ごと配管を叩き切って、道を作ろうとした痕跡だ。
    柔軟性のある思考なのか、それとも乱暴者なのかは分からないが、馬鹿ではない。
    トラギコが興味を示すに値する女だ。

    ますますあの女が好きになりそうで、トラギコは自然と口元を歪ませた。
    あれだけの技量と度胸を持つ女が身近にいるのは、とてもありがたいことだ。
    しかし。
    彼が今現在最も興味を持っているのはワタナベではなく、金髪の旅人だ。

    あの旅人こそが、トラギコの人生を彩る存在だと、彼は確信している。
    彼女の正体と目的が分かるまでは、他の人間に興味関心の天秤を傾けるつもりはない。
    所帯持ちの人間が不貞を働かないのと同じ。
    その異常な執念こそが、彼の強みであり武器でもある。

    それでも気になるのが、ワタナベとトラギコの勝負に割り込んできた女だ。
    灰色髪の女。
    棺桶同士の戦闘に半ば生身で割り込んできたその胆力は、豪胆と言える。
    あれだけの状況下で汗一つ流さず、焦った様子も見せていなかったのは、トラギコ達を敵として見ていなかったからだ。

    敵として認めるに値しない。
    そう、言っていたのだ。
    完全に下に見られている。
    これが由々しき問題でなくて、何だと言うのか。

    兎にも角にも、ニクラメンから脱出しなければ話は始まらない。
    海底二千フィートの場所から地上に戻るためには、何かしらの道が残されているはずだ。
    ワタナベの道を辿れば、ギコもその先に行くことが出来る。
    彼女は狂人だが、自殺志願者ではない。

    非常に優れた殺人狂である。
    と、内心で彼女を評している時、トラギコは目的の物を見つけた。
    一か所、壁が配管ごと大きく抉れ、人と棺桶が通れるだけの大きさの穴が開いていた。
    その先は暗闇が続いているが、風が通っている。

    ワタナベが作ったと思われる通路を通り、トラギコはその奥に向かって小走りに駆けた。
    もう、あまり時間はなさそうだ。

    ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
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    ‥…━━ August 3rd PM14:33 ━━…‥
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    トラギコ・マウンテンライトが海底街に向かう一方で、ギコ・カスケードレンジは彼よりも少しだけ早く海底街に到着していた。
    都合よくというか運よくと言うべきかは分からないが、明らかに人為的に瓦礫が蹴散らされ、扉が破壊されていたのだ。
    きっと、生き残った警備員が棺桶を使ったのだろう。
    そうでなければ、厚さ三インチの壁が一撃で蹴り壊されるはずがない。

    壁に残された足跡は棺桶にしては小さかったが、小型の棺桶による一撃と考えていい。
    壊された壁の先に広がる海底街の全貌に、ギコは思わず見とれてしまった。
    これが世界に名立たる海上都市の姿。
    箱庭の街、という表現が浮かぶ。

    第一区画の住宅密集地の空き地から見下ろす風景は、これで見納めになるかもしれない。
    補修工事の途中だったのだろう、住宅の傍に停められたライトバンの周りには道具が散乱しているが、作業員の姿はない。
    両腕の兵器を解除してから、棺桶を脱ぐ。

    (,,゚Д゚)「……橋は使えねぇか」

    遠目でも分かる。
    海底街と海上とを繋ぐ巨大な円柱は、混雑と混乱を極めており、今からそこに向かっても手遅れになることぐらい。
    急いで別の道を探す必要があった。
    このままニクラメンが海の底に沈めば、当然、ギコも海の養分の一部と化す。

    マン・オン・ファイヤは確かに頑丈で強力な棺桶だが、水中での活動は一切できない。
    それは、他の棺桶でも同じことだ。
    水中専用の棺桶でなければ、重りとなって使用者を海底に引きずり込むだけ。
    専門外のことが出来ないのが、コンセプト・シリーズに限らず、棺桶全般に共通して言える事だ。

    だからギコが考えたのは、海兵隊基地に向かって、潜水用棺桶を手に入れるか、潜水艇を手に入れるという手だった。
    海底にあるのだから、それぐらいの装備は当然あるに違いない。
    日ごろニクラメンを守ってきた彼等なら、いざと云う時の備えは必ずしている。
    が、一つ問題がある。

    第一区画から基地のある第三区画までは、直線の下り坂であることを考慮しても、三十分はかかる。
    車両が必要だ。
    駐車場に足を向け、ギコは早速物色を始めた。
    Cクラスの棺桶を乗せられるだけの大きさで、かつ、乱暴な運転でも壊れにくい物がいい。

    出来れば四輪駆動の車両が望ましいが、海底街で四輪駆動を使う人間はほとんどいないのが現実だ。
    整備された道路では、四輪駆動である必要がない。
    殆どがセダンタイプの車両で、予想通り、彼の好みに合うものはなかった。
    一つを除いて。

    駐車場ではなく、住宅の傍に駐車されたライトバン。
    これなら、Cクラスの棺桶を難なく運ぶことが出来る。
    速度はさておいても、今はこれが最上の車両だった。
    運転席側から乗り込み、キーを探す。

    サンルーフやダッシュボードを探すが、鍵はなかった。
    車両を残して逃げる際には鍵を残す、という習慣を知らなかったのだろう。
    仕方なく、ダッシュボードの中にあったマイナスドライバーを手に取り、ギコは作業を始めた。

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    ‥…━━ August 3rd PM14:35 ━━…‥
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    エンジンがかかるのと同時に、第一区画の橋が爆音を伴って崩れ始めた。
    いよいよ、時間がない。
    クラッチの具合を確認し、ギコはアクセルを底まで踏んだ。
    素早くギアを変え、住宅街から商店街に向かう。

    細い道を器用に走らせ、エンストしないようギアチェンジに気を遣う。
    時折窓の外に視線を向け、街の様子――崩壊までの様子――を窺う。
    その矢先に、再び爆音と轟音が響き渡った。
    バンも若干振動で揺れたが、走行に問題はない。

    商店街にはアーケードがある。
    アーケードの下を走っている間は、天井からの落下物で車両が損傷することを避けられる。
    四方の障害物を回避したり察知したりするのは出来るが、上方、下方のそれを知るのは難しい。
    現に、細かな粒が天井から落ち始め、バンの天井を軽く叩いている。

    第一区画の橋を爆破したということは、残った二本の橋が爆破されるのも時間の問題と云う訳だ。
    あれが脅しだとするのなら、それを考えた人間はかなりの馬鹿としか言えない。
    脅しの一撃ではない。
    本命の一撃だ。

    ニクラメンを守る海兵隊達がどれだけ優秀か分かっていないのなら、それも仕方ない。
    戦闘能力は決して高くないが、任務遂行に対する責任感はイルトリアに匹敵する。
    今、このニクラメンを襲っている敵は徹頭徹尾本気でここを海の藻屑にする腹積もりと考えていい。
    海兵隊基地が瓦礫と焦土と化す前に、道具を手に入れなければ。

    商店街のアーケードを目前にした時、ライトバンの前に何かが飛び出してきた。

    (;,,゚Д゚)「うおっ?!」

    ハンドルとサイドブレーキを使い、車体をわざと回転させる。
    スピンターンと呼ばれるこの技術は、走行中の急旋回に使われる物で、緊急時にはこうして障害物を回避するためにも使える。
    ブレーキ跡を残してアーケードの手前で止まったバンから降り、ギコは飛来物の正体を見た。
    鉄製の扉だった。

    追手か、それとも偶然か。

    (#=゚д゚)「あんの腐れ尼ぁあああ!!」

    怒りの形相で店の奥から現れたのは、見たことのある顔だった。
    クロジングでギコに尋問をしてきた刑事――確か、トラギコとかいう名前――だ。
    似合わないスーツを着て、似合わないアタッシュケースを持っているのを見るに、オープン・ウォーターに参加していたようだった。
    勿論、人の趣味はそれぞれだから、彼がオープン・ウォーターを嬉々とした表情で楽しんでいたとしても、ギコは軽蔑しない。

    (#=゚д゚)「次に会ったらぜってぇに泣かせてやるラギ……!!」

    肩で息をするほど怒り猛るトラギコは、血走った目で周囲を見回す。
    手負いの獣が、縄張りに侵入した獣を探すような、執念が伝わる眼差しをしている。

    (,,゚Д゚)「……何、してんだ?」

    (#=゚д゚)「あぁ? って、ギコ・カスケードレンジか。
         なんで手前がここに来てるラギ?」

    こちらの名前をフルネームで憶えられていた。
    言動に似合わず、かなり仕事熱心な性格をしているようだ。
    この時制では珍しい。

    (,,゚Д゚)「そりゃこっちのセリフだ」

    (=゚д゚)「教える義理がねぇ、と言いたいところだが、教えてもいいラギ」

    何故か、トラギコは似合わない笑顔を浮かべて知りたくもないことを話そうとしている。
    ギコは嫌な予感がした。
    構っていては時間の無駄だ。

    (,,゚Д゚)「いや、結構だ」

    (=゚д゚)「人の好意は素直に受け取れラギ」

    (,,゚Д゚)「結構だ」

    (=゚д゚)「まぁいいじゃねぇか」

    (,,゚Д゚)「昼間のセールスマンみたいにしつこい刑事だな、あんたは」

    会話を一方的に中断し、ギコはバンに戻る。
    自然な流れで、トラギコが助手席に乗り込んできた。

    (,,゚Д゚)「……」

    (=゚д゚)「言っとくが、男とドライブを楽しむ趣味はねぇラギ」

    (,,゚Д゚)「俺のセリフだ」

    (=゚д゚)「ほら、時間がねぇラギ」

    やり取りが面倒になったギコは、仕方なく、トラギコを乗せて運転を再開した。
    商店街を走り抜ける中、一応、注意しておく。

    (,,゚Д゚)「シートベルトを」

    (=゚д゚)「あぁ」

    意外と、すんなりギコの言うことを聞いた。
    まだ更年期障害ではなさそうだ。

    (=゚д゚)「トラギコ・マウンテンライトだ」

    (,,゚Д゚)「驚きだ。
        甲斐甲斐しく自己紹介をしあう仲だったのか?
        それに、その名前ならもう知ってる」

    (=゚д゚)「お頭が蕩けてバターみたいになって、俺の名前が垂れ流しになってるんじゃねぇかと思ってな」

    トラギコは懐から拳銃――ベレッタM8000――を取出し、弾倉を交換し始めた。

    (=゚д゚)「知ってるとは思うが、昨晩フォレスタで騒ぎがあったラギ。
        飛行ユニットを持った棺桶が、俺の見た限りで二機。
        後はガーディナとトゥエンティーフォーが少しだが、問題なのは飛行型の方だ。
        この件について、何か知っていることはあるラギか?」

    バンは商店街を抜けてすぐに左折し、まっすぐ続く坂道を下り始めた。
    トップギアに切り替え、アクセルを限界まで踏みこむ。

    (,,゚Д゚)「話す義理が無い」

    (=゚д゚)「ここでその糞生意気な口に、新品の穴を空けてやってもいいラギよ」

    わざとらしく遊底を引いて、初弾を薬室に送り込む。

    (,,゚Д゚)「正気か?」

    (=゚д゚)「さぁな、人差し指が正気かなんて俺は知らねぇラギ。
        返答次第では、俺がこいつを説得する、なんてプランもあるラギよ」

    この刑事は本気だ。
    ハッタリで物を言わない。

    (,,゚Д゚)「……一機は森に落ちて、もう一機は逃げた。
        どうだ、その糞ったれの人差し指は話を理解できたか?」

    (=゚д゚)「足りねぇラギよ。
        落ちた方は俺が取っ捕まえたし、もう一機が逃げたなんてことも知ってるラギ。
        あいつらは何者か、その情報が知りたいラギ。
        それと、この事件との関連性も喋ってもらわないと、こいつが機嫌を損ねちまう」

    これ見よがしに銃に話しかけるトラギコは、隙だらけに見えて全く隙が無い。
    彼の目的は、フォレスタで起こった事件の情報。
    いや、それが本命ではない。
    あくまでも本命である事件への足掛かりとして、知りたいだけなのだ。

    本命の事件は、おそらくはオセアンで起こった一大事件だ。
    流れ者による、街の支配者の殺害。
    トラギコは彼と初めに会った時、その事件に関する情報を求めてきた。
    となれば、今彼が一番執着しているのはオセアンでの事件と考えるのが妥当だ。

    生憎だが、ギコはオセアンの事件については全く何も知らない。
    興味があるかと言われれば、確かに興味があるが、彼ほどの執着心はない。

    (=゚д゚)「流石、イルトリアの元軍人ラギね」

    こちらが手を出さずにいることに対する言葉だろう。

    (,,゚Д゚)「知らん。
        知ってるのは、昨晩暴れた連中の一味がここに来てたことぐらいだ」

    (=゚д゚)「ほぉ、やっぱりか。
        で、その残党をお前が潰して回った……ってわけじゃないけラギね」

    (,,゚Д゚)「……」

    鋭い。
    しかし、勘で言っているのならばこの自信に満ちた口調は何だ。
    何故、そこまで確信的な物言いをするのだ。

    (=゚д゚)「照れなくていいラギ。
        その残党の中に、逃げ出したもう一機がいたラギね?」

    (,,゚Д゚)「何故、そう思う」

    (=゚д゚)「お前が言ったラギ。
        残党がここに来る情報は俺も知っていたが、本当に来たかどうかは正直知らん。
        だが、お前は“来てたことを知っていた”。
        ってことは、連中と会ったってことだ。

        会ったのならば戦うなり何なりして、時間を失う上に、こんなところまで来るはずがねぇラギ。
        俺がこっちで会ったのは狂人の女が一人だけ。
        つまり残党は海上街にだけいたってことが想定できるラギ。
        それにもかかわらずお前がここにいるのには、何かしらの理由があるからラギ。

        考えられる中で最も可能性の高い理由は、重要度の高い目標を追ってきた。
        そして手元のカードで重要度の高い目標は、逃げ出した飛行型棺桶ってことラギ」

    全ての言葉は確認のための言葉。
    トラギコは、ただ、確認をするためだけに話しているのだ。

    (=゚д゚)「では、そのカードを追ってここに来たのだとしたら、だ。
        今この段階で俺を乗せて、海兵隊基地を目指すのは明らかに不自然だ。
        つまり、“標的はもうこの海底街にはいないってことが分かっている”状態にあると分かるラギ。
        混乱の中でもその標的を追うってことは、お前にとって、“その標的は殺すか捕まえるか半殺しにする価値のある奴”ってことラギね。

        ここまでが、お前の状況だろ?」

    恐るべき推理力と洞察力だと、ギコは感嘆した。
    イルトリアにも、ここまでの人間はいなかった。
    この短時間でギコの状況を把握し、知りたい情報を入手した手腕は、まさに手練のそれ。
    まるで魔法か何かのようにも思ってしまうその能力は、彼の持つ武器だ。

    (,,゚Д゚)「……」

    (=゚д゚)「だんまりラギか。
        まぁ、それでもいいラギ。
        因果関係はあまり興味ねぇ、喋りたかったら喋ればいいラギ」

    どうやら、トラギコと云う人間は悪い人間ではなさそうだ。
    イルトリア人でないことは分かるが、しかし、イルトリア人らしい人間でもある。
    この男といると、イルトリアの訓練時代を思い出す。
    正直、嫌いではなかった。

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          ,.......::::::::: : : : :/\三二ニ==‐-  __ \ヽ--‐‐…‐‐ノ 乂从厂 ̄ ̄\.
    ‥…━━ August 3rd PM14:50 ━━…‥
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    問題が発生した。
    三本目。
    つまり、最後の橋が倒壊したのは、辺りに散らばる棺桶の残骸を避け、脇道から基地内に侵入した時の事だった。
    すぐ横で倒れ始めた橋は、まさに、ギコ達のライトバン目掛けて傾いでいる。

    (;=゚д゚)「おいおいおいおいおい!!
        あれ、こっちに来てねぇラギか?!」

    (;,,゚Д゚)「やべぇやべぇやべぇ!!」

    高さ、重量、質量、共に合格点だ。
    橋の欠片の一つでも直撃すれば、バンは一撃でスクラップになる。
    スピンターンで逃げられるが、そうしたらいよいよ手がなくなる。
    橋の残骸が道を塞いでしまう。

    (;=゚д゚)「もっと飛ばせラギ!!
        ホットケーキになるのはごめんラギ!!」

    (;,,゚Д゚)「これで精いっぱいだ!!
        ゲージも見れないのか、この天然ソフトフォーカス野郎が!!」

    早速落下してきた住民――一瞬で爆ぜて肉塊となった――を回避し、ハンドルを右に左に動かす。
    巨大な影がバンを覆う。
    いよいよもって、不味い状況だ。
    このままでは、間に合わない可能性も出てきた。

    走り抜けなければ、ここで終わる。
    声がこの結果を変えるとは思わない。
    それでも、ギコは叫ばずにはいられなかった。

    (;,,゚Д゚)「うおおおおおおお!!」

    橋の表面が手の届く範囲にまで迫り、死への道が近づく。
    しかし、生き残る道も迫っていた。
    高さは残り一インチ。
    道は残り五ヤード。

    ここが、勝負だ。
    アクセルは既に限界。
    加速も出来る範囲内での限界。
    後は、ここまでやってきたこと全ての帰結を見届けるだけだ。

    遂に、橋と車が接触した。
    屋根が軋みを上げ、フロントガラスが砕けた。
    ギコとトラギコの体を潰すより先に疾く、バンはどうにか窮地を脱した。
    直ぐ後方で完全に倒壊した橋から土煙と強風が巻き上がり、高速で走行していたバンはバランスを失う。

    ハンドルを懸命に切るが車体は風と衝撃に耐えきれず、二人を乗せたバンは無残にも横転した。
    視界が五回転したところでようやく止まり、天地が逆転した状態で二人は悪態をつく。

    (,,゚Д゚)「……洗濯物の気持ちがよく分かった」

    (=゚д゚)「干す方か、それとも回される方か、それが問題ラギ」

    横転の衝撃によって天井――今は床――は変形してしまい、人ひとりが通れるだけの広さもない。
    こうして生きているだけでもかなり幸運だ。
    割れたガラス片で顔を切り、衝撃で全身に鈍痛がある以外、いたって健康である。

    (=゚д゚)「で、この先はどうするつもりラギ?」

    (,,゚Д゚)「潜水用棺桶か潜水艇をもらう」

    (=゚д゚)「逆さ吊りだから頭に血が回ってるかと思ったら、そうじゃなくてヤキが回ったみたいラギね。
        海兵隊から物をもらうなんて、カリスマホームレスでも無理ラギ」

    (,,゚Д゚)「まだ硝煙の匂いが鼻に突く。
        戦闘がついさっきまで続いていた証拠だ。
        それに見ただろ?
        海兵隊の棺桶があれだけやられて、おまけにそのやられ方が異常だ。

        ってことは、もう、海兵隊は全滅してるよ」

    一瞬見ただけだが、死体のほとんどは綺麗に分断されていた。
    ジョン・ドゥの装甲はそこまで柔らかくはない。
    しかも、近距離戦闘で負ったものでもない。
    つまり中・遠距離からの攻撃で両断されたとみられる。

    それが可能な兵器を、ギコは知っている。
    戦術光学兵器。
    イルトリアで最近実戦配備された物で、電力だけで対象を焼き切ることが出来る太古の遺産だ。
    そして、それは車両や戦艦に搭載されるものだが、例外的な存在がある。

    (,,゚Д゚)「ところでトラギコ、あんた、ここに来るまでの間に戦闘は?」

    (=゚д゚)「あったラギよ、クレイジーな女だったがな」

    (,,゚Д゚)「女か……イルトリアの人間だったか?」

    (=゚д゚)「いいや、ジャーゲンの方の人間ラギね。
        イルトリア訛りもないし、それっぽさもなかったラギ」

    (,,゚Д゚)「そうか」

    (=゚д゚)「まぁ、お前に策があるんだかないんだかはさておいて、だ。
        さっさとこんな場所から出るぞ」

    どうやって、と聞く前にトラギコは答えを口にしていた。

    (=゚д゚)『これが俺の天職だ』

    アタッシュケースが開き、そこから黒い機械籠手と山刀のようなものを取り出す。
    コンセプト・シリーズの棺桶に違いなかった。
    逆さの状態で器用に装着し、トラギコは右手に持った山刀のスイッチを入れた。
    金切声のような、甲高い独特の音は、それが高周波兵器であることを意味している。

    (=゚д゚)「良い車だが、男二人にゃ狭すぎる。
        特に解放感が足りねぇラギ」

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    __i___ ̄'i\___ |lilXil| _____| iココ iコiコ  |";:i. .: lilXil二ilXi  |
    ‥…━━ August 3rd PM15:07 ━━…‥
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    不安定な体勢と云うこともあり、思いのほか時間が掛かってしまったが、どうにか車外の空気を吸うことは出来た。
    狭い車内から解放された二人は、痛む体を動かして、改めて四肢の無事を確認した。
    折れてもいないし、捻挫もしていない。

    (=゚д゚)「……ん?」

    何かの音に反応して、トラギコは跫音を立てずに兵站庫の影に駆けより、背を付けてその端から向こう側を覗き見る。
    その後を追って、ギコも中腰の状態で覗く。
    百ヤード先。
    男女一人ずつと、その足元に蹲る黒髪の子供が一人。

    男が執拗に子供に対して攻撃を加え、子供はそれに耐えている状況だ。
    見ていて痛ましい光景だった。

    (#=゚д゚)「みぃつけたぁ」

    白いドレスの女は横顔が疑える。
    浮いた顔はしていないが、笑顔ならば美人に分類される造形をしていた。
    トラギコが言っているのは、恐らく、その人物のことだろう。
    彼女が噂の狂人、なのだろうか。

    狂人かどうかは不明だが、人殺しに加担したのは間違いなさそうだ。
    ドレスに付着した返り血は赤黒く、すでに酸化が進んでいる。
    背負った棺桶の大きさはBクラス。
    棺桶の力に頼らずとも人を殺せる人間であることが、この視覚情報から推測できる。

    対して、子供を容赦なく蹴っている男が背負うのは、Cクラス。
    その男に関しては、完全に顔が隠れているために人相が分からない。
    筋骨隆々とした姿で、その足は丸太のように太い。
    あの太さなら、大人でも蹴り殺せる。

    しかし分からないこともある。
    子供がここにいる理由。
    そして、子供をあそこまで徹底して痛めつける理由。
    男だけが攻撃し、それを見ている女のつまらなそうな表情の、その理由。

    蹴り上げるような一撃を食らった子供が、その衝撃で一瞬だけ顔を上げた。

    (∪;ω;)

    (;=゚д゚)「な?」

    (;,,゚Д゚)「に?」

    それは、黒髪垂れ目の耳付きの少年だった。
    そして、少年は蹲っていたのではないことも分かった。
    彼の胸の下には、一人の少女がいたのだ。
    彼は己の身を楯にして、一人の少女を守っていたのだ。

    涙で顔を汚し、口の端から血を流し、それでも、その瞳には輝きが残されていた。
    意地の輝き。
    決意の輝き。
    命の輝き。

    少年は、あれだけの暴行を受けていながら、何故、折れない。
    何故、挫けない。
    何故、諦めない。
    何故、逃げない。

    皆目見当もつかない。
    しかしそれが事実。
    それが現実なのだ。

    (∪;ω;)「ミセリ、こんなの……こんなの……
          こんなの……ぜんぜんいたくないから!!」

    声が、聞こえた。
    少年の心からの声が。
    少年の芯をさらけ出した声が。
    少年の本質が。

    その声は、ギコの心に深く突き刺さるように響いた。
    加えてギコを驚かせたのは、少年が口にした少女の名前。
    それは、紛れもなく――

    「ちいっ!!」

    下から掬い上げるような、えげつない蹴りが少年の腹部を捉えた。
    小さな体が僅かに宙に浮かび、少女の服を吐き出した血で汚す。
    驚くべきは、その一撃を受けても泣き声一つ上げなかったことだ。
    少年の年齢を考えれば、ありえない話だ。

    泣きわめいて、命乞いをして。
    そして、許しを請う。
    それが、あの年齢の当たり前の話だ。
    それは大人でもあり得る話なのだ。

    だが、少年はそれを自分の意志で耐えている。
    そこまでする義理があるのだとしても、その意地の根源は何だ。

    「調子に乗るな!!」

    男の口から発せられたその一言。
    ギコは、聞き覚えがあった。

    (;,,゚Д゚)「……あの野郎」

    (;=゚д゚)「駄目だ、まだ動くんじゃねぇラギ」

    標的を前にしても、トラギコは状況を冷静に捉えていた。
    ここで飛び出しても、彼らの命が危険に晒されるだけだ。
    単純な戦力で考えて、相手は棺桶を二つ所持している。
    こちらもあるにはあるが、分が悪い。

    拳銃で狙い撃つという手もあるが、銃爪を引く前に気取られればそれまでだし、何より背負った棺桶がそれを邪魔している。
    背後から撃っても、Cクラス、Bクラスの棺桶が楯としての機能を果たす。
    撃ち損じた瞬間に攻撃を加えられれば、それまで。
    今は、静観して相手の動きを見るしかない。

    拳銃にサプレッサーを装着していた女が男に話しかけ、それを手渡した。
    男はそれを受け取り、少年に銃口を向ける。
    少年の、顔に。

    (;,,゚Д゚)

    (;=゚д゚)

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                ィ:7 イ壬ソィ=-ミ、_          ヾ:.、: : .、:}、
                /i ! ゙弋辷彡ニ=ミ、`ヽ         `ヽ:、 :i:l:、
                /ο{ 、..:::ヾ.煙乂大ヾ.ヾ:.゙.          ヾ:、. ゙:.、.
           /゚    、:::、::ー-:::7´  ヾ:.ハ:.i:}          j } .}:i:!
    ‥…━━ August 3rd PM15:09 ━━…‥
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    二人の目の前で撃たれた少年は、当然のように少女の上に倒れる。
    その背中に向けて、続けて銃弾を撃ち込み、男はその背中に唾を吐いた。
    もう、限界だった。
    激情が、彼の全身を支配した。

    (,,゚Д゚)「……止めてくれるなよ」

    関わりと呼べるものも、手助けしてやる義理もない。
    だがあの少年が見せた命の輝きは、ギコが敬意を表するに値した。
    ペニサスの最後の教え子、ギコの後輩。
    断じて、後輩を侮辱した男をこのまま許すわけにはいかない。

    それは、トラギコも同じだったようだ。

    (=゚д゚)「……俺があの女を止めるラギ、お前が殺れ」

    ギコは改めて建物の影に入り、棺桶の起動コードを入力する。

    (,,゚Д゚)『目には目をではない。貴様らの全てを奪い取る』

    装着されたマン・オン・ファイヤ。
    バッテリーの残量は十分だ。
    ギコは物陰から最高速で飛び出し、最高速で男に襲い掛かる。

    ( ゚∋゚)

    音に反応して振り返った男の顔。
    やはり、ギコが思った通りだった。
    棺桶を切り裂く光学兵器を駆使する棺桶を所持し、単身でニクラメン海兵隊を相手取れる技量。
    考えられるのは、イルトリアの元軍人。

    クックル・タンカーブーツ“元”大尉。

    ( ゚∋゚)『光よりは遅いが、ナイフよりは断然疾い!!』

    棺桶を背にしてコードを入力。
    強襲に対する棺桶持ちの常識的な対処法だ。
    傍らにいた女に向けてトラギコの銃撃が浴びせられるが、女は気付いていたのか、それを難なく回避する。

    从'ー'从

    数発の援護だけで、女は驚くほどあっさりとその場から逃げ去った。
    元より、ギコの狙いは女ではなくクックルだから構わなかった。
    クックルが棺桶の装着を完了させたのと同時に、マン・オン・ファイヤの鋼鉄の拳がその頭部を捉え――

    [,.゚゚::|::゚゚.,]『ほぅ、久しいなギコ・カスケードレンジ中尉!!』

    ――巨大な三本の鉤爪を持つ左腕が、その拳を防いだ。
    障害物除去に特化したCクラスのコンセプト・シリーズ、“エクスペンダブルズ”。
    イルトリアに保管されていたそれは、クックルが軍を去るのと同時に盗まれた強力な棺桶だ。
    最大の特徴は両腕に備わった戦術光学兵器。

    近・中距離で絶大な威力を発揮し、あらゆる障害物を除去する。
    車両でも、兵器でも、兵士でさえも高熱の一閃で焼き切る。

    ム..<::_|.>ゝ『悪いが、“元”中尉だ!!』

    一度距離を開け、兵装使用コードを入力する。

    ム..<::_|.>ゝ『テルミットバリック!!』

    [,.゚゚::|::゚゚.,]『再会の挨拶もなしとは、非礼!!』

    左腕に六角錐の射出装置が装着されるよりも疾く、エクスペンダブルズの巨大な右の拳が迫る。
    予想済み。
    最高速に達する前に右腕で防ぎ、右足で腹部を思い切り蹴り飛ばす。

    ム..<::_|.>ゝ『バンカーバスター!!』

    続いて右腕に射出装置が装着され、両腕に強力な打撃武器が備わる。
    距離を開けては、エクスペンダブルズには勝てない。
    近距離戦で勝敗を決する必要がある。
    テルミットバリックとバンカーバスターを使用すれば、少年が守った少女――ミセリ――まで焼き殺してしまう。

    それだけは、何があっても出来ない。
    それを知ってか、クックルは傲慢な口調でギコの行動を嗜めた。

    [,.゚゚::|::゚゚.,]『お前らしくないな、激情的で保守的な戦い方など!!
         まさか、耳付きに情を移したのか?!』

    クックルは分かっていないのか、それとも気付いていないふりをしているのか。
    あの少年の持つ力に。

    ム..<::_|.>ゝ『情? んなもん移すかよ!!』

    [,.゚゚::|::゚゚.,]『ならば何故だ!!
         耳付き風情に加担する理由は!!』

    ム..<::_|.>ゝ『惚れたのさ!!
          人生初の一目惚れだ!!』

    再び、二機が大きく深く踏み込み、激突する。

    ム..<::_|.>ゝ『そいつを見たら、誰だって惚れもするさ!!』

    [,.゚゚::|::゚゚.,]『笑止!!
         耳付きの行いなど、万事笑止!!
         所詮は人の真似にすぎんのだ!!』

    左の射出装置で殴り掛かり、右の射出装置を突き出す。
    一方、エクスペンダブルズは両腕で挟み込むようにしてそれを迎え撃った。
    鉤爪で作られた巨大な拳は射出装置の表面を滑るように移動し、マン・オン・ファイヤの頬を掠め、射出装置はエクスペンダブルズの肩を掠めた。

    「――笑止?
    その少年の行いが、笑止?」

    突然、若い女性の声が、ギコのすぐ後ろから聞こえてきた。
    ギコとクックルは驚きに戦闘行為を止め、距離を開けた。
    女性の鉄のように冷たく静かな声は決して大きくはなかったが、明らかな怒りが込められていた。

    (゚、゚トソン「……貴方、叩き潰します」

    前触れなしに現れた黒鋼の化身は、ネクタイを緩めながらそう宣言した。

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      ヽ:::::::::::::ハ:::::::::ヽ:::::::::::::::i:::}   __  Ammo for Relieve!!編 第九章【rage-激情-】
       V::::::::::::ハ::::::::::i:::0:::::::::i:::i /7::/  To be continued...!!
        V::::::::::::ハ:::::::::i:::::::ノ::レ::レ::::::/
        V:::::::::::┴:::::: ̄::i:::::::::::::::::ノ
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